台本概要

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タイトル ノベルのトビラ~アリス・イン・スターダスト~
作者名 天道司
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(不問4)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 小説家のたまご、白銀ライトは、吾輩ちゃんに導かれ、不思議の国へ…。

にょすけさん企画、「ノベルのトビラシリーズ」
この台本は、にょすけさん原案の「第1話」を使用し、自由に2話目以降を自由に執筆するボイコネの企画に投稿したモノです。

にょすけさんの許可を得られたので、こちらの方にも投稿させて頂きます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
白銀ライト 不問 98 白銀ライト(しろがねらいと) 小説家のたまご
吾輩ちゃん 不問 35 吾輩ちゃん(わがはいちゃん) 白銀ライトの案内役 ※兼ね役・真夜中
三月うさぎ 不問 59 お調子者のウサギ
ハートの女王 不問 39 心優しい女王
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
白銀ライト:どわっ!いててて。 吾輩ちゃん:あーあー、だから言わんこっちゃない。 0:古びた扉から一人の少年と猫が飛び出してきた。 0:それは、そこから「出てきた」のか「戻ってきた」のか。 白銀ライト:言わんこっちゃない、だなんて言うなよな。 吾輩ちゃん:何回でも言うにゃよ。言わんこっちゃない、言わんこっちゃない、言わんこっちゃぁなぁーい。 白銀ライト:ああ、もう、うるさいな。 白銀ライト:お前は一言一言がとにかくうるさいんだよ。 白銀ライト:まだお前が物言わぬ猫だった時は、とにかく静かでそれはもう大人しかったのに。 吾輩ちゃん:ライト、静かで大人しかった、って言うのはおんなじ意味の反復だにゃ。 白銀ライト:とにかくそれくらい大人しかったって意味だよ! 吾輩ちゃん:そんなんじゃあ立派な「小説家」になんてなれにゃいわよ? 白銀ライト:いいか?吾輩ちゃん。 吾輩ちゃん:にゃによ? 白銀ライト:世の文豪のほとんど、特に芥川龍之介なんて、自分で表現したい言葉が足りないから自分で言葉を作ったほどだ。 白銀ライト:言葉に正解なんていつだって無いんだよ。 白銀ライト:言葉の正解はいつだって、その物語が作り出すんだから。 吾輩ちゃん:ふーん、ライトのくせに生意気なこと言うのにゃ。 白銀ライト:これでも「小説家」のたまごだからね。 吾輩ちゃん:ふふ、様になってきたじゃない。 0:「吾輩ちゃん」と呼ばれた白い猫は、ライトの周りをとてとてと回り、誇らしげに語る。 吾輩ちゃん:で、もー。 吾輩ちゃん:そう簡単に「小説家」になんてなれるかしらにゃー? 白銀ライト:またその話かよ。 吾輩ちゃん:何度だって言うにゃ。 吾輩ちゃん:物語の「扉」を開け、「プロット」という心に巣食う魔物と対峙してこそ 吾輩ちゃん:「小説家」は初めて「小説家」となりえるにゃ。 0:一人と一匹が飛び出してきた古ぼけた扉の隙間から煌びやかな光が漏れている。 白銀ライト:わかってるさ。 白銀ライト:何度だって僕はこの扉の先に潜り、物語の真髄を我がものにしていく! 吾輩ちゃん:でも、残念。さっき言い忘れてしまったことがあるにゃ。 白銀ライト:言い忘れたこと? 吾輩ちゃん:そうにゃ。 吾輩ちゃん:ライト、この「物語」の扉を開ける度にライトは大切な何かを引き換えに差し出すことになるにゃ。 白銀ライト:大切な何か? 吾輩ちゃん:そうにゃ。それはライトの身体の一部かもしれないし、目に見えない何かかもしれない、もしかしたら過去や未来や心のエトセトラかもしれない。 吾輩ちゃん:それでも、ライト、あなたはこの物語の扉をあけるにゃ? 白銀ライト:当たり前だよ。 白銀ライト:そこに物語がある。 白銀ライト:そこに誰かが心を求めてる。 白銀ライト:そして僕は「小説家」だ。 白銀ライト:何があったって、僕はその扉を抜けて 白銀ライト:物語を紡ぎ続ける。 吾輩ちゃん:……いい返事だにゃ!! 吾輩ちゃん:ならば少年よ、いいや!「小説家」よ! 吾輩ちゃん:こころのペンを取れ! 吾輩ちゃん:その胸を開き、すべての物語を汝の糧とするにゃ! 吾輩ちゃん:合言葉はいつだってこうにゃ! 吾輩ちゃん:「ボンボヤージュ」!よき旅を! 白銀ライト:あ、ちょ、ちょっとまってその前にちょっとメモを…… 吾輩ちゃん:もう遅いにゃ!!!!! 0:吾輩ちゃんが少年を蹴り飛ばす。 白銀ライト:わ、わ、うわああああ!! 0:よろめき、扉の奥に吸い込まれる少年。 0:物語とはいつだって唐突に始まるものだ。 0:少年が取り損ねたメモ帳には、既にいくつかの言葉が記されていた。 0:そこにはひとつ、「後悔をするな」と言う言葉が残されている。 吾輩ちゃん:さてさて、かのオスカー・ワイルドは言ったにゃ。 吾輩ちゃん:「経験とは、誰もが失敗につける名前のことである」と。 吾輩ちゃん:この旅で少年は、どんな「経験」をするのかにゃ。 吾輩ちゃん:ふふ、さあ、「物語」がはじまるにゃ! 0:光の中に白猫も溶けていく。 0:光は次第に、光であると感じさせる事のないくらい白くなり 0:「それは、目次と呼ばれた。」 0: 0:【間】 0: 吾輩ちゃん:【フフッ…。白銀ライトが、空から落ちてくるにゃ】 吾輩ちゃん:【木の枝に落下の衝撃を吸収されにゃがら、地面に激突!】 0: 白銀ライト:わあああーっ! 白銀ライト:ぐっふぁっ!…いっ、いててっ 吾輩ちゃん:ようこそ!不思議の国へ! 白銀ライト:え?不思議の国? 吾輩ちゃん:そう、ここは、不思議の国にゃ 白銀ライト:うーん…。ここは…、森の中だよな? 吾輩ちゃん:いかにも!ここは、森の中にゃ! 白銀ライト:不思議の国にある森の中ってことか? 吾輩ちゃん:さぁ、どうだろうねぇ? 白銀ライト:ん? 吾輩ちゃん:さて、君は、ここで、何をするつもりにゃのかな? 白銀ライト:何をするつもり?何だろう?どうして、こんなところにきてしまったのだろう… 吾輩ちゃん:フフッ。もしかして、何の目的もなしに、ここにきてしまったのかにゃ? 白銀ライト:あ!そうだ!吾輩ちゃんに蹴り飛ばされて… 0: 吾輩ちゃん:【吾輩ちゃんは、煙(けむり)のように姿を消したにゃ】 0: 白銀ライト:え?吾輩ちゃんが消えた? 0: 吾輩ちゃん:【森の奥から、三月うさぎが勢い良く駆けてくるにゃ】 0: 三月うさぎ:タタタタタッ!大変だ!大変だ! 白銀ライト:しゃっ、喋るウサギ? 三月うさぎ:うはっ!人間だ!人間だ!しかも、男の子だ! 三月うさぎ:もしかして、君が今度のアリスなのかい? 白銀ライト:今度のアリス? 三月うさぎ:あいおっ!君の名前は、アリスなんだろ?僕は知ってるよ!君こそが、今度のアリス! 白銀ライト:違う。僕の名前は… 白銀ライト:あれ?思い出せない 三月うさぎ:やっぱり!君はアリスなんだよ! 白銀ライト:アリス…。それが、僕の名前? 三月うさぎ:あいおっ!君はアリスなんだよ!アリス!間違いない! 白銀ライト:別の名前だった気がするけど…。クソッ。思い出せない… 三月うさぎ:ヒャヒャヒャッ!そんなことより、大変なんだ! 白銀ライト:大変? 三月うさぎ:帽子屋が眠ったまま、動かなくなってしまったんだよ 白銀ライト:帽子屋? 三月うさぎ:あいおっ!帽子屋は、僕の友達!今、ハートの女王のお城にいるんだ! 三月うさぎ:きっとアリスが帽子屋に会えば、目を覚ますはず! 白銀ライト:どうして、僕が会えば、目を覚ますと思うんだい? 三月うさぎ:そんなの決まってるじゃないか!君が、アリスだからだよ! 白銀ライト:アリスって、なんなんだ? 三月うさぎ:アリスは、アリスさ! 白銀ライト:アリスは、アリス… 三月うさぎ:とにかく!僕についてきて! 白銀ライト:えっ? 三月うさぎ:こっちこっちーっ!ビュビューン! 白銀ライト:ちょっと!待てって! 0: 0:【間】 0: 吾輩ちゃん:【白銀ライトは、三月うさぎの後を追い、森を抜け、ハートの女王のお城にたどり着いたにゃ】 0: 三月うさぎ:着いたよ!ここが、ハートの女王のお城さ! 白銀ライト:はぁ…はぁ…。うさぎ君、速いよ… 三月うさぎ:「うさぎ君」じゃなくて、「三月うさぎ」だよ! 白銀ライト:三月うさぎ? 三月うさぎ:あいおっ!僕は、三月うさぎだよ! 三月うさぎ:おーい!ハートの女王!アリスを連れてきたよ!扉を開けて、中に通してよ! 0: 吾輩ちゃん:【ゴゴゴ…いや、ガガガかにゃ?ひとりでに扉は開き、一人と一匹は、お城の中に入って行ったにゃ】 0: 0:【間】 0: ハートの女王:おかえりなさい。三月うさぎさん 三月うさぎ:たっだいまー!ハートの女王!お腹すいたよぉ!ニンジンある?ニンジンある? ハートの女王:もちろん、ニンジンの用意はしてありますよ 三月うさぎ:ヤッター!ニンジン!ニンジン!早く食べたいなぁ! ハートの女王:その前に、「今度のアリス」を見つけることはできたのですか? 三月うさぎ:あいおっ!この子が、今度のアリスさ! 白銀ライト:ど、どうも… ハートの女王:え?その子が…? ハートの女王:でも、その子、男の子よね? 三月うさぎ:あいおっ!男の子だよ!男の子のアリス! ハートの女王:あのっ。ごめんなさい。残念だけど、その子は、アリスじゃないわ 三月うさぎ:えっ!えええーっ!アリスだよ!アリスに間違いないよ! ハートの女王:三月うさぎ。アリスはね。「女の子」って決まってるのよ 三月うさぎ:そんなの誰が決めたのさ!男の子だって、アリスになれる! ハートの女王:なれません… 三月うさぎ:もーう!だったら、帽子屋のところに連れていってよ! 三月うさぎ:そしたら、この子がアリスだって、証明できるからさ! ハートの女王:… ハートの女王:わかりました。それで、三月うさぎさんの気が済むのなら… 0: 吾輩ちゃん:【ハートの女王に案内され、一人と一匹は、帽子屋の眠る部屋に入ったにゃ】 0: 0:【間】 0: ハートの女王:着きましたよ 三月うさぎ:帽子屋!帽子屋!アリスだよ!僕がアリスを連れてきたよ! 白銀ライト:… 三月うさぎ:ねぇ、アリス!帽子屋に触れてみてよ! 白銀ライト:触れる? 三月うさぎ:うーん… 三月うさぎ:手でも握ってみてよ! 白銀ライト:手を握れば、いいのか? 三月うさぎ:あいおっ!手を握れば、帽子屋は、すぐに目を覚ます! 白銀ライト:…わかった 0: 吾輩ちゃん:【白銀ライトは、帽子屋の手を握ったにゃ!】 0: 白銀ライト:… 三月うさぎ:… ハートの女王:やはり、ダメでしたね 三月うさぎ:そんなっ…そんなぁ… 白銀ライト:ごめん。力になれなくて… 白銀ライト:僕は、やっぱり、君の言う「アリス」じゃなかったんだよ 三月うさぎ:じゃあ、今度のアリスは、本物のアリスは、どこにいるんだよ? 白銀ライト:ごめん。僕には、わからない 三月うさぎ:いやだ!いやだいやだいやだーっ! ハートの女王:三月うさぎさん… 白銀ライト:この人。えっと、帽子屋は、三月うさぎにとって、とても大切な存在なんだね 三月うさぎ:あいおっ!当たり前じゃないか!帽子屋はね… 三月うさぎ:僕の友達だから! 白銀ライト:友達か… 真夜中:友達なんて、くだらない! 白銀ライト:ん?黒色の塊(かたまり)? 三月うさぎ:まっ、真夜中だ! ハートの女王:何故?どうして私のお城に真夜中が!? 白銀ライト:真夜中? ハートの女王:真夜中は、この世界を終わらせる存在です! 三月うさぎ:ヒャーッ!消されたくないよーっ! 三月うさぎ:アリス、助けてーっ! 真夜中:ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!我輩は、どこにでも現れる! 真夜中:どこにでも現れ、世界を、物語を「終わり」へと導く! 真夜中:それが、我輩に与えられた「役割」だからねぇ! 白銀ライト:役割? 真夜中:その通り!全てのキャラクターには、役割が与えられている! 真夜中:物語を動かすために!盛り上げるために!!狂わせるために!!! 真夜中:喜劇を!悲劇を!!茶番を演じることを強制される!!!決定づけられている!!!! 真夜中:それがっ!役割だ! ハートの女王:さぁ、真夜中に消される前に逃げて下さい ハートの女王:逃げるまでの時間は、私が稼(かせ)ぎます! 0: 吾輩ちゃん:【ハートの女王は剣を抜き、その切っ先を真夜中に向けたにゃ!】 0: 真夜中:おっと?ハートの女王が、我輩に剣を向けるとは!これはこれは! 真夜中:今回の君は、「我輩に無残(むざん)に消される役割」が与えられているのかな? ハートの女王:さぁ、どうでしょうね!はぁーっ! ハートの女王:ラビアンローズ!!! 真夜中:フッ。当たらないヨ 白銀ライト:ハートの女王の剣が、真夜中の体をすり抜けていった! 三月うさぎ:大変だ!大変だ!真夜中に攻撃が当たらないぞ!大変だーっ! ハートの女王:まだまだーっ! ハートの女王:ロイヤル・ブラッサッム・ハートスラッシュ! 真夜中:フフッ。無駄だヨ。無駄 三月うさぎ:大変だ!大変だ!ハートの女王の攻撃が全然当たらないぞ! 白銀ライト:真夜中には、実体がないのか? 三月うさぎ:実体?なにそれ? ハートの女王:何をモタモタしているんですか?早く逃げて下さい 真夜中:逃げる?どこに逃げるというのデスか?この世界に逃げ場なんて、どこにもないデスよ! 白銀ライト:僕は、ここから逃げるつもりはない! ハートの女王:えっ? 三月うさぎ:じゃあ、僕は逃げてもいいよね?いいよね? 白銀ライト:あぁ。怖かったら、逃げればいい 三月うさぎ:アリスは、怖くないのかい? 三月うさぎ:真夜中には、攻撃は当たらないんだよ?殺されちゃうよ? 真夜中:三月うさぎの言うとおりだヨ! 真夜中:我輩を倒す役割は、アリスだけに与えられたモノ 真夜中:パッと出のモブなんぞに、我輩の相手が務まるはずがないだろ? 白銀ライト:そんなの誰が決めたんだ? 真夜中:作者だよ!作者!作者が決めたことには、誰も逆らえない! 真夜中:我輩たちは、シナリオに書かれている内容を、ただ、ひたすらに、終わりに向かって、真っ直ぐに突き進むだけさ 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!僕たちは、作者に与えられた役割どおりにしか生きられない! 白銀ライト:そんなの、クソくらえだ! 真夜中:クソくらえ? 真夜中:あぁ… 真夜中:えっと、聞き間違いかな?今、とんでもない発言を(耳にしたような) 白銀ライト:(さえぎって)「クソくらえだ」って言ったんだよ! 白銀ライト:うおおおーっ! 0: 白銀ライト:【僕は、聖剣を手にした!】 0: 三月うさぎ:けっ、剣?どっから出したの?ねぇ、どっから出したの? ハートの女王:その剣は一体? 真夜中:なるほどなるほど… 真夜中:君もまた、「小説家」というカテゴリーに属する戦士というわけデスか? 真夜中:でも、良いのデスか? 真夜中:小説家として、物語を紡(つむ)ぐ対価は、その魂だ 真夜中:我輩と戦えば、君は、間違いなく廃人(はいじん)になってしまいます 真夜中:それでも、良いと? ハートの女王:そうですよ!やめて下さい!私たちの世界のために、魂まで捧げる必要はありません! 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!僕と一緒に逃げようよ! 白銀ライト:逃げない… ハートの女王:っ! 白銀ライト:ハートの女王も三月うさぎも戦っているのに 白銀ライト:僕一人だけ逃げるなんて、そんなダッセェ真似、できるわけないだろ? 三月うさぎ:え?僕は、戦っていないよ? 白銀ライト:戦ってるだろ? 白銀ライト:僕を置いて一人で逃げることもできるはずなのに 白銀ライト:まだ、ここにいてくれてるだろ? 三月うさぎ:そ、それは…。そこに友達の帽子屋がいるから、心配だし 三月うさぎ:アリスのことも心配だから! 白銀ライト:ありがとう。それだけで充分、勇敢(ゆうかん)だと僕は思う 三月うさぎ:勇敢?僕、勇敢なの?なんかカッコイイ響き~っ! 白銀ライト:いくぞ!真夜中ーっ! 0: 白銀ライト:はぁっ! 真夜中:フッ 白銀ライト:でやっ! 真夜中:フフッ 白銀ライト:だぁっ! 真夜中:フッ 三月うさぎ:やっぱりダメだ…。真夜中には、攻撃は当たらない ハートの女王:そうですね…。でも! 三月うさぎ:え?ハートの女王も一緒に戦うの? ハートの女王:真夜中!覚悟ーっ!はぁっ! 真夜中:おっと!二人がかりですか? 白銀ライト:まだだっ! 真夜中:フフッ。当たらないヨ ハートの女王:はぁっ! 真夜中:フッ。まだ、分からないカナ? 白銀ライト:でやぁーっ! 真夜中:フッ。無駄デスよ!無駄! ハートの女王:はぁーっ! 真夜中:フフッ。二人がかりでも、我輩に攻撃を当てられない 真夜中:実体のないモノを倒すことは、できないんですヨ! 白銀ライト:実体がないなら、お前も僕に攻撃できないんじゃないのか? 真夜中:いいえ?そんなことはありませんヨ? 真夜中:そ~れっ! 白銀ライト:ぐふぁっ! 0: 吾輩ちゃん:【にゃんてことだ!真夜中から伸びた漆黒(しっこく)の槍(やり)が、白銀ライトの胸を貫いてしまったにゃ!】 0: ハートの女王:あ、アリスさん! 三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリスが死んじゃう! 三月うさぎ:もう、おしまいだーっ! 白銀ライト:おしまいには、ならない 白銀ライト:そして、これで、二人目、かな? 真夜中:二人目? 白銀ライト:ハートの女王が、今、僕のことを「アリス」と呼んでくれた ハートの女王:はっ!? 白銀ライト:この世界では、僕のことを「アリス」と認めてくれる人が増えれば増えるほど 白銀ライト:どこまでも強くなれる気がする! 真夜中:気がする?そう、気がするだけ!それは、まさにまさにまさにーっ!気がするだけデスよ! 白銀ライト:そうかもな… 白銀ライト:でも、現(げん)に、お前に心臓を貫かれても、痛くもかゆくもない 真夜中:そんなの当たり前でしょ!すべては、現実ではない。ただの茶番なのだから! 白銀ライト:茶番だと? 真夜中:そう、茶番デスよ 真夜中:ただの茶番のために、登場人物は、無造作に、無慈悲に傷つけられ、殺される 真夜中:すべては、作者の匙加減(さじかげん)、気まぐれであり 真夜中:オーディエンスを感動させるためならば、時として何千何万もの命が、一瞬にして奪われる! 真夜中:その理不尽さ!それこそがっ!物語デス! 白銀ライト:でも、「奇跡」を見せてくれるのも物語だろ? 真夜中:奇跡? 白銀ライト:心臓を貫かれても戦える!死んだ奴が生き還る! 白銀ライト:世界の裏側にも、宇宙の果てにだって、一瞬で行ける! 白銀ライト:ドラゴンやペガサスのような幻獣(げんじゅう)と友達になって、楽しく会話する! 白銀ライト:そんな奇跡を見せてくれるのも、物語だろ? ハートの女王:えぇ!アリスさん! 三月うさぎ:だから言ったでしょ?この子が今度のアリスだって!最初から僕は分かってたもんね! 真夜中:ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるなーっ!!! 真夜中:奇跡デスって?リアリティの欠片(かけら)もない。そんな茶番、誰も望みません 真夜中:人々は、いつだって、大切な人の死が! 真夜中:世界の終わりが見たいんデス! 真夜中:現実という安全な場所から、ポテチでもツマミながら 真夜中:自分よりも不幸な人や世界を眺めていたいんデス! 真夜中:それがっ!それこそがっ!エンターテインメントゥ! 白銀ライト:それは、お前のエゴだろ!真夜中! 白銀ライト:少なくとも僕は、無意味に命が奪われるような物語に、心を動かされることはない! 白銀ライト:どんな時もハッピーエンドを望んでる! 白銀ライト:登場人物の幸せを!笑顔を望んでる! 真夜中:それこそ、あなたのエゴですよ! 白銀ライト:エゴで結構だ! 白銀ライト:バッドエンドを望む奴もいれば、ハッピーエンドを望む奴もいるってことだ! 真夜中:それは、少数派です! 真夜中:世界の大多数は、希望が奪われ、絶望から押し寄せてくる感動を求めているのです! 白銀ライト:だから、なんだってんだ! 白銀ライト:大多数を感動させることができなくても、たったひとりでも 白銀ライト:そう、たったひとりでも、僕の紡ぐ物語に触れて心が動く人がいるなら 白銀ライト:笑ってくれる人がいるなら! 白銀ライト:その時点で、僕は、勝利を噛み締めることができる! 真夜中:勝利?ただの自己満足でしょう!そんなモノに価値はない! 白銀ライト:自分の価値は、自分で決める! 白銀ライト:自分の書くモノは、自由に書く! 白銀ライト:書き続ける!魂を燃やして! 0: ハートの女王:私は、アリスさんの書く物語が読んでみたいです! 真夜中:ん? 三月うさぎ:僕も僕も!きっとアリスは、世界を今より、もっと素敵なモノに変えてくれる! 真夜中:バカなんですか?無価値のクソ文学に費やす時間が、もったいないとは思わないのですか? ハートの女王:思いません!無価値かどうかは、私自身の心が決めます! 三月うさぎ:そうだそうだ!僕の心が決める! 真夜中:黙れ… 真夜中:黙れ黙れ黙れーっ! 真夜中:物語は、より多くの人に読まれてこそ、評価されてこそ 真夜中:真に価値あるモノへと昇華(しょうか)されるモノなんデスよ! 白銀ライト:例え、どこぞの誰かに一円の価値も付けられないクソ小説だと貶(けな)され 白銀ライト:罵倒(ばとう)されようが! 白銀ライト:僕は、最期の瞬間まで僕を貫く! 白銀ライト:明日の自分に誇れる自分であり続ける! 真夜中:綺麗事(きれいごと)デスね…。そんなモノは、ただの絵空事(えそらごと)デスよ! 真夜中:この世界は、弱肉強食! 真夜中:一部の特権階級の人たちが、弱者を生かさず殺さず、家畜のように飼い慣らしている 真夜中:そんな便所のクソのような汚いところなんデスよ! 真夜中:美しく生きることなんて、できるわけがない! 白銀ライト:だとしてもだ! 白銀ライト:どんなに世界がクソッタレでも、物語の中は自由だ! 白銀ライト:自由に、自分の本当に見たい世界を、夢を、奇跡を描くことができる! 真夜中:フッ… 真夜中:まるで、アリスのような物言いデスね… 真夜中:はっ!アリス!? 白銀ライト:おっし!これで、三人目! 真夜中:ぐっ!? 三月うさぎ:真夜中がアリスをアリスと認めた!アリスと認めた! ハートの女王:そうです。あなたこそが、今度のアリス! 三月うさぎ:アリス、やっちゃえーっ! 真夜中:良いでしょう! 真夜中:あなたが本物のアリスか否(いな)か、吾輩が確かめてあげましょう! 白銀ライト:いくぞーっ!真夜中ーっ! 白銀ライト:(同時に)アリス・イン・スターダストーッ!!! 真夜中:(同時に)ダークマター・ナイトブラストーッ!!! 白銀ライト:はあああーっ!!! 0: 白銀ライト:【この技は、闇を切り裂き、未来を切り拓く光だーっ!】 0: 真夜中:そっ、そんなっ…!我輩の闇がっ…!闇が光にっ…! 真夜中:さすがっ…!さすがデスッ…!アリスーッ…… 0: 0:【間】 0: 白銀ライト:はぁ…はぁ…はぁ… 三月うさぎ:やった!真夜中を倒したぞ!僕の選んだアリスが、真夜中を倒したぞ!やったー! ハートの女王:さすがアリス… 白銀ライト:アリスじゃない ハートの女王:アリスじゃない? 白銀ライト:うん。僕は、アリスじゃないよ 三月うさぎ:そんなはずないだろ!君は、アリスなんだよ!アリスだから、真夜中を倒せた! 白銀ライト:アリスじゃなくても、真夜中を倒せるんだよ ハートの女王:どういうことですか? 白銀ライト:なぜなら、ここは… ハートの女王:不思議の国? 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!魔法のような奇跡を起こせる不思議の国! 白銀ライト:そういうこと! ハートの女王:だったら、あなたは誰なんですか? 白銀ライト:白銀ライト。それが、僕の本当の名前だ 三月うさぎ:白銀ライト?大変だ!大変だ!アリスが本当の名前を思い出しちゃった! 三月うさぎ:魔法が解けちゃうぞ!大変だーっ! ハートの女王:そうですね。本当の名前を思い出してしまったら、もう、不思議の国にいることはできません 吾輩ちゃん:そういうことにゃ! 白銀ライト:あっ!吾輩ちゃん? 吾輩ちゃん:そう!吾輩は猫である。名前は、吾輩ちゃん! 白銀ライト:今まで、どこにいたんだよ? 吾輩ちゃん:どこに? 吾輩ちゃん:フフッ。ずっといたにゃ。ライトのそばに、ずっとね 白銀ライト:ずっと? 吾輩ちゃん:さぁ、三月うさぎ!そろそろ時間だ。ライトを元の世界に戻してほしいにゃ! 三月うさぎ:あいおっ!でも、まだ帽子屋が眠ったままだよ?今のアリス…じゃなくて、白銀ライトなら… 白銀ライト:断る! 三月うさぎ:えっ? 白銀ライト:それは、きっと、「次のアリス」の役割だからさ ハートの女王:そうですね。私たちは、次のアリスとの出会いを、楽しみに待っていましょう 三月うさぎ:あっ、あいおっ! 0: 吾輩ちゃん:【三月うさぎは、胸ポケットから懐中時計をカッコ良く取り出し、青いボタンを押したにゃ】 0: ハートの女王:そして、世界は、まばゆい光に包まれた… 0: 0:―了―

白銀ライト:どわっ!いててて。 吾輩ちゃん:あーあー、だから言わんこっちゃない。 0:古びた扉から一人の少年と猫が飛び出してきた。 0:それは、そこから「出てきた」のか「戻ってきた」のか。 白銀ライト:言わんこっちゃない、だなんて言うなよな。 吾輩ちゃん:何回でも言うにゃよ。言わんこっちゃない、言わんこっちゃない、言わんこっちゃぁなぁーい。 白銀ライト:ああ、もう、うるさいな。 白銀ライト:お前は一言一言がとにかくうるさいんだよ。 白銀ライト:まだお前が物言わぬ猫だった時は、とにかく静かでそれはもう大人しかったのに。 吾輩ちゃん:ライト、静かで大人しかった、って言うのはおんなじ意味の反復だにゃ。 白銀ライト:とにかくそれくらい大人しかったって意味だよ! 吾輩ちゃん:そんなんじゃあ立派な「小説家」になんてなれにゃいわよ? 白銀ライト:いいか?吾輩ちゃん。 吾輩ちゃん:にゃによ? 白銀ライト:世の文豪のほとんど、特に芥川龍之介なんて、自分で表現したい言葉が足りないから自分で言葉を作ったほどだ。 白銀ライト:言葉に正解なんていつだって無いんだよ。 白銀ライト:言葉の正解はいつだって、その物語が作り出すんだから。 吾輩ちゃん:ふーん、ライトのくせに生意気なこと言うのにゃ。 白銀ライト:これでも「小説家」のたまごだからね。 吾輩ちゃん:ふふ、様になってきたじゃない。 0:「吾輩ちゃん」と呼ばれた白い猫は、ライトの周りをとてとてと回り、誇らしげに語る。 吾輩ちゃん:で、もー。 吾輩ちゃん:そう簡単に「小説家」になんてなれるかしらにゃー? 白銀ライト:またその話かよ。 吾輩ちゃん:何度だって言うにゃ。 吾輩ちゃん:物語の「扉」を開け、「プロット」という心に巣食う魔物と対峙してこそ 吾輩ちゃん:「小説家」は初めて「小説家」となりえるにゃ。 0:一人と一匹が飛び出してきた古ぼけた扉の隙間から煌びやかな光が漏れている。 白銀ライト:わかってるさ。 白銀ライト:何度だって僕はこの扉の先に潜り、物語の真髄を我がものにしていく! 吾輩ちゃん:でも、残念。さっき言い忘れてしまったことがあるにゃ。 白銀ライト:言い忘れたこと? 吾輩ちゃん:そうにゃ。 吾輩ちゃん:ライト、この「物語」の扉を開ける度にライトは大切な何かを引き換えに差し出すことになるにゃ。 白銀ライト:大切な何か? 吾輩ちゃん:そうにゃ。それはライトの身体の一部かもしれないし、目に見えない何かかもしれない、もしかしたら過去や未来や心のエトセトラかもしれない。 吾輩ちゃん:それでも、ライト、あなたはこの物語の扉をあけるにゃ? 白銀ライト:当たり前だよ。 白銀ライト:そこに物語がある。 白銀ライト:そこに誰かが心を求めてる。 白銀ライト:そして僕は「小説家」だ。 白銀ライト:何があったって、僕はその扉を抜けて 白銀ライト:物語を紡ぎ続ける。 吾輩ちゃん:……いい返事だにゃ!! 吾輩ちゃん:ならば少年よ、いいや!「小説家」よ! 吾輩ちゃん:こころのペンを取れ! 吾輩ちゃん:その胸を開き、すべての物語を汝の糧とするにゃ! 吾輩ちゃん:合言葉はいつだってこうにゃ! 吾輩ちゃん:「ボンボヤージュ」!よき旅を! 白銀ライト:あ、ちょ、ちょっとまってその前にちょっとメモを…… 吾輩ちゃん:もう遅いにゃ!!!!! 0:吾輩ちゃんが少年を蹴り飛ばす。 白銀ライト:わ、わ、うわああああ!! 0:よろめき、扉の奥に吸い込まれる少年。 0:物語とはいつだって唐突に始まるものだ。 0:少年が取り損ねたメモ帳には、既にいくつかの言葉が記されていた。 0:そこにはひとつ、「後悔をするな」と言う言葉が残されている。 吾輩ちゃん:さてさて、かのオスカー・ワイルドは言ったにゃ。 吾輩ちゃん:「経験とは、誰もが失敗につける名前のことである」と。 吾輩ちゃん:この旅で少年は、どんな「経験」をするのかにゃ。 吾輩ちゃん:ふふ、さあ、「物語」がはじまるにゃ! 0:光の中に白猫も溶けていく。 0:光は次第に、光であると感じさせる事のないくらい白くなり 0:「それは、目次と呼ばれた。」 0: 0:【間】 0: 吾輩ちゃん:【フフッ…。白銀ライトが、空から落ちてくるにゃ】 吾輩ちゃん:【木の枝に落下の衝撃を吸収されにゃがら、地面に激突!】 0: 白銀ライト:わあああーっ! 白銀ライト:ぐっふぁっ!…いっ、いててっ 吾輩ちゃん:ようこそ!不思議の国へ! 白銀ライト:え?不思議の国? 吾輩ちゃん:そう、ここは、不思議の国にゃ 白銀ライト:うーん…。ここは…、森の中だよな? 吾輩ちゃん:いかにも!ここは、森の中にゃ! 白銀ライト:不思議の国にある森の中ってことか? 吾輩ちゃん:さぁ、どうだろうねぇ? 白銀ライト:ん? 吾輩ちゃん:さて、君は、ここで、何をするつもりにゃのかな? 白銀ライト:何をするつもり?何だろう?どうして、こんなところにきてしまったのだろう… 吾輩ちゃん:フフッ。もしかして、何の目的もなしに、ここにきてしまったのかにゃ? 白銀ライト:あ!そうだ!吾輩ちゃんに蹴り飛ばされて… 0: 吾輩ちゃん:【吾輩ちゃんは、煙(けむり)のように姿を消したにゃ】 0: 白銀ライト:え?吾輩ちゃんが消えた? 0: 吾輩ちゃん:【森の奥から、三月うさぎが勢い良く駆けてくるにゃ】 0: 三月うさぎ:タタタタタッ!大変だ!大変だ! 白銀ライト:しゃっ、喋るウサギ? 三月うさぎ:うはっ!人間だ!人間だ!しかも、男の子だ! 三月うさぎ:もしかして、君が今度のアリスなのかい? 白銀ライト:今度のアリス? 三月うさぎ:あいおっ!君の名前は、アリスなんだろ?僕は知ってるよ!君こそが、今度のアリス! 白銀ライト:違う。僕の名前は… 白銀ライト:あれ?思い出せない 三月うさぎ:やっぱり!君はアリスなんだよ! 白銀ライト:アリス…。それが、僕の名前? 三月うさぎ:あいおっ!君はアリスなんだよ!アリス!間違いない! 白銀ライト:別の名前だった気がするけど…。クソッ。思い出せない… 三月うさぎ:ヒャヒャヒャッ!そんなことより、大変なんだ! 白銀ライト:大変? 三月うさぎ:帽子屋が眠ったまま、動かなくなってしまったんだよ 白銀ライト:帽子屋? 三月うさぎ:あいおっ!帽子屋は、僕の友達!今、ハートの女王のお城にいるんだ! 三月うさぎ:きっとアリスが帽子屋に会えば、目を覚ますはず! 白銀ライト:どうして、僕が会えば、目を覚ますと思うんだい? 三月うさぎ:そんなの決まってるじゃないか!君が、アリスだからだよ! 白銀ライト:アリスって、なんなんだ? 三月うさぎ:アリスは、アリスさ! 白銀ライト:アリスは、アリス… 三月うさぎ:とにかく!僕についてきて! 白銀ライト:えっ? 三月うさぎ:こっちこっちーっ!ビュビューン! 白銀ライト:ちょっと!待てって! 0: 0:【間】 0: 吾輩ちゃん:【白銀ライトは、三月うさぎの後を追い、森を抜け、ハートの女王のお城にたどり着いたにゃ】 0: 三月うさぎ:着いたよ!ここが、ハートの女王のお城さ! 白銀ライト:はぁ…はぁ…。うさぎ君、速いよ… 三月うさぎ:「うさぎ君」じゃなくて、「三月うさぎ」だよ! 白銀ライト:三月うさぎ? 三月うさぎ:あいおっ!僕は、三月うさぎだよ! 三月うさぎ:おーい!ハートの女王!アリスを連れてきたよ!扉を開けて、中に通してよ! 0: 吾輩ちゃん:【ゴゴゴ…いや、ガガガかにゃ?ひとりでに扉は開き、一人と一匹は、お城の中に入って行ったにゃ】 0: 0:【間】 0: ハートの女王:おかえりなさい。三月うさぎさん 三月うさぎ:たっだいまー!ハートの女王!お腹すいたよぉ!ニンジンある?ニンジンある? ハートの女王:もちろん、ニンジンの用意はしてありますよ 三月うさぎ:ヤッター!ニンジン!ニンジン!早く食べたいなぁ! ハートの女王:その前に、「今度のアリス」を見つけることはできたのですか? 三月うさぎ:あいおっ!この子が、今度のアリスさ! 白銀ライト:ど、どうも… ハートの女王:え?その子が…? ハートの女王:でも、その子、男の子よね? 三月うさぎ:あいおっ!男の子だよ!男の子のアリス! ハートの女王:あのっ。ごめんなさい。残念だけど、その子は、アリスじゃないわ 三月うさぎ:えっ!えええーっ!アリスだよ!アリスに間違いないよ! ハートの女王:三月うさぎ。アリスはね。「女の子」って決まってるのよ 三月うさぎ:そんなの誰が決めたのさ!男の子だって、アリスになれる! ハートの女王:なれません… 三月うさぎ:もーう!だったら、帽子屋のところに連れていってよ! 三月うさぎ:そしたら、この子がアリスだって、証明できるからさ! ハートの女王:… ハートの女王:わかりました。それで、三月うさぎさんの気が済むのなら… 0: 吾輩ちゃん:【ハートの女王に案内され、一人と一匹は、帽子屋の眠る部屋に入ったにゃ】 0: 0:【間】 0: ハートの女王:着きましたよ 三月うさぎ:帽子屋!帽子屋!アリスだよ!僕がアリスを連れてきたよ! 白銀ライト:… 三月うさぎ:ねぇ、アリス!帽子屋に触れてみてよ! 白銀ライト:触れる? 三月うさぎ:うーん… 三月うさぎ:手でも握ってみてよ! 白銀ライト:手を握れば、いいのか? 三月うさぎ:あいおっ!手を握れば、帽子屋は、すぐに目を覚ます! 白銀ライト:…わかった 0: 吾輩ちゃん:【白銀ライトは、帽子屋の手を握ったにゃ!】 0: 白銀ライト:… 三月うさぎ:… ハートの女王:やはり、ダメでしたね 三月うさぎ:そんなっ…そんなぁ… 白銀ライト:ごめん。力になれなくて… 白銀ライト:僕は、やっぱり、君の言う「アリス」じゃなかったんだよ 三月うさぎ:じゃあ、今度のアリスは、本物のアリスは、どこにいるんだよ? 白銀ライト:ごめん。僕には、わからない 三月うさぎ:いやだ!いやだいやだいやだーっ! ハートの女王:三月うさぎさん… 白銀ライト:この人。えっと、帽子屋は、三月うさぎにとって、とても大切な存在なんだね 三月うさぎ:あいおっ!当たり前じゃないか!帽子屋はね… 三月うさぎ:僕の友達だから! 白銀ライト:友達か… 真夜中:友達なんて、くだらない! 白銀ライト:ん?黒色の塊(かたまり)? 三月うさぎ:まっ、真夜中だ! ハートの女王:何故?どうして私のお城に真夜中が!? 白銀ライト:真夜中? ハートの女王:真夜中は、この世界を終わらせる存在です! 三月うさぎ:ヒャーッ!消されたくないよーっ! 三月うさぎ:アリス、助けてーっ! 真夜中:ヒャヒャヒャヒャヒャーッ!我輩は、どこにでも現れる! 真夜中:どこにでも現れ、世界を、物語を「終わり」へと導く! 真夜中:それが、我輩に与えられた「役割」だからねぇ! 白銀ライト:役割? 真夜中:その通り!全てのキャラクターには、役割が与えられている! 真夜中:物語を動かすために!盛り上げるために!!狂わせるために!!! 真夜中:喜劇を!悲劇を!!茶番を演じることを強制される!!!決定づけられている!!!! 真夜中:それがっ!役割だ! ハートの女王:さぁ、真夜中に消される前に逃げて下さい ハートの女王:逃げるまでの時間は、私が稼(かせ)ぎます! 0: 吾輩ちゃん:【ハートの女王は剣を抜き、その切っ先を真夜中に向けたにゃ!】 0: 真夜中:おっと?ハートの女王が、我輩に剣を向けるとは!これはこれは! 真夜中:今回の君は、「我輩に無残(むざん)に消される役割」が与えられているのかな? ハートの女王:さぁ、どうでしょうね!はぁーっ! ハートの女王:ラビアンローズ!!! 真夜中:フッ。当たらないヨ 白銀ライト:ハートの女王の剣が、真夜中の体をすり抜けていった! 三月うさぎ:大変だ!大変だ!真夜中に攻撃が当たらないぞ!大変だーっ! ハートの女王:まだまだーっ! ハートの女王:ロイヤル・ブラッサッム・ハートスラッシュ! 真夜中:フフッ。無駄だヨ。無駄 三月うさぎ:大変だ!大変だ!ハートの女王の攻撃が全然当たらないぞ! 白銀ライト:真夜中には、実体がないのか? 三月うさぎ:実体?なにそれ? ハートの女王:何をモタモタしているんですか?早く逃げて下さい 真夜中:逃げる?どこに逃げるというのデスか?この世界に逃げ場なんて、どこにもないデスよ! 白銀ライト:僕は、ここから逃げるつもりはない! ハートの女王:えっ? 三月うさぎ:じゃあ、僕は逃げてもいいよね?いいよね? 白銀ライト:あぁ。怖かったら、逃げればいい 三月うさぎ:アリスは、怖くないのかい? 三月うさぎ:真夜中には、攻撃は当たらないんだよ?殺されちゃうよ? 真夜中:三月うさぎの言うとおりだヨ! 真夜中:我輩を倒す役割は、アリスだけに与えられたモノ 真夜中:パッと出のモブなんぞに、我輩の相手が務まるはずがないだろ? 白銀ライト:そんなの誰が決めたんだ? 真夜中:作者だよ!作者!作者が決めたことには、誰も逆らえない! 真夜中:我輩たちは、シナリオに書かれている内容を、ただ、ひたすらに、終わりに向かって、真っ直ぐに突き進むだけさ 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!僕たちは、作者に与えられた役割どおりにしか生きられない! 白銀ライト:そんなの、クソくらえだ! 真夜中:クソくらえ? 真夜中:あぁ… 真夜中:えっと、聞き間違いかな?今、とんでもない発言を(耳にしたような) 白銀ライト:(さえぎって)「クソくらえだ」って言ったんだよ! 白銀ライト:うおおおーっ! 0: 白銀ライト:【僕は、聖剣を手にした!】 0: 三月うさぎ:けっ、剣?どっから出したの?ねぇ、どっから出したの? ハートの女王:その剣は一体? 真夜中:なるほどなるほど… 真夜中:君もまた、「小説家」というカテゴリーに属する戦士というわけデスか? 真夜中:でも、良いのデスか? 真夜中:小説家として、物語を紡(つむ)ぐ対価は、その魂だ 真夜中:我輩と戦えば、君は、間違いなく廃人(はいじん)になってしまいます 真夜中:それでも、良いと? ハートの女王:そうですよ!やめて下さい!私たちの世界のために、魂まで捧げる必要はありません! 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!僕と一緒に逃げようよ! 白銀ライト:逃げない… ハートの女王:っ! 白銀ライト:ハートの女王も三月うさぎも戦っているのに 白銀ライト:僕一人だけ逃げるなんて、そんなダッセェ真似、できるわけないだろ? 三月うさぎ:え?僕は、戦っていないよ? 白銀ライト:戦ってるだろ? 白銀ライト:僕を置いて一人で逃げることもできるはずなのに 白銀ライト:まだ、ここにいてくれてるだろ? 三月うさぎ:そ、それは…。そこに友達の帽子屋がいるから、心配だし 三月うさぎ:アリスのことも心配だから! 白銀ライト:ありがとう。それだけで充分、勇敢(ゆうかん)だと僕は思う 三月うさぎ:勇敢?僕、勇敢なの?なんかカッコイイ響き~っ! 白銀ライト:いくぞ!真夜中ーっ! 0: 白銀ライト:はぁっ! 真夜中:フッ 白銀ライト:でやっ! 真夜中:フフッ 白銀ライト:だぁっ! 真夜中:フッ 三月うさぎ:やっぱりダメだ…。真夜中には、攻撃は当たらない ハートの女王:そうですね…。でも! 三月うさぎ:え?ハートの女王も一緒に戦うの? ハートの女王:真夜中!覚悟ーっ!はぁっ! 真夜中:おっと!二人がかりですか? 白銀ライト:まだだっ! 真夜中:フフッ。当たらないヨ ハートの女王:はぁっ! 真夜中:フッ。まだ、分からないカナ? 白銀ライト:でやぁーっ! 真夜中:フッ。無駄デスよ!無駄! ハートの女王:はぁーっ! 真夜中:フフッ。二人がかりでも、我輩に攻撃を当てられない 真夜中:実体のないモノを倒すことは、できないんですヨ! 白銀ライト:実体がないなら、お前も僕に攻撃できないんじゃないのか? 真夜中:いいえ?そんなことはありませんヨ? 真夜中:そ~れっ! 白銀ライト:ぐふぁっ! 0: 吾輩ちゃん:【にゃんてことだ!真夜中から伸びた漆黒(しっこく)の槍(やり)が、白銀ライトの胸を貫いてしまったにゃ!】 0: ハートの女王:あ、アリスさん! 三月うさぎ:大変だ!大変だ!アリスが死んじゃう! 三月うさぎ:もう、おしまいだーっ! 白銀ライト:おしまいには、ならない 白銀ライト:そして、これで、二人目、かな? 真夜中:二人目? 白銀ライト:ハートの女王が、今、僕のことを「アリス」と呼んでくれた ハートの女王:はっ!? 白銀ライト:この世界では、僕のことを「アリス」と認めてくれる人が増えれば増えるほど 白銀ライト:どこまでも強くなれる気がする! 真夜中:気がする?そう、気がするだけ!それは、まさにまさにまさにーっ!気がするだけデスよ! 白銀ライト:そうかもな… 白銀ライト:でも、現(げん)に、お前に心臓を貫かれても、痛くもかゆくもない 真夜中:そんなの当たり前でしょ!すべては、現実ではない。ただの茶番なのだから! 白銀ライト:茶番だと? 真夜中:そう、茶番デスよ 真夜中:ただの茶番のために、登場人物は、無造作に、無慈悲に傷つけられ、殺される 真夜中:すべては、作者の匙加減(さじかげん)、気まぐれであり 真夜中:オーディエンスを感動させるためならば、時として何千何万もの命が、一瞬にして奪われる! 真夜中:その理不尽さ!それこそがっ!物語デス! 白銀ライト:でも、「奇跡」を見せてくれるのも物語だろ? 真夜中:奇跡? 白銀ライト:心臓を貫かれても戦える!死んだ奴が生き還る! 白銀ライト:世界の裏側にも、宇宙の果てにだって、一瞬で行ける! 白銀ライト:ドラゴンやペガサスのような幻獣(げんじゅう)と友達になって、楽しく会話する! 白銀ライト:そんな奇跡を見せてくれるのも、物語だろ? ハートの女王:えぇ!アリスさん! 三月うさぎ:だから言ったでしょ?この子が今度のアリスだって!最初から僕は分かってたもんね! 真夜中:ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるなーっ!!! 真夜中:奇跡デスって?リアリティの欠片(かけら)もない。そんな茶番、誰も望みません 真夜中:人々は、いつだって、大切な人の死が! 真夜中:世界の終わりが見たいんデス! 真夜中:現実という安全な場所から、ポテチでもツマミながら 真夜中:自分よりも不幸な人や世界を眺めていたいんデス! 真夜中:それがっ!それこそがっ!エンターテインメントゥ! 白銀ライト:それは、お前のエゴだろ!真夜中! 白銀ライト:少なくとも僕は、無意味に命が奪われるような物語に、心を動かされることはない! 白銀ライト:どんな時もハッピーエンドを望んでる! 白銀ライト:登場人物の幸せを!笑顔を望んでる! 真夜中:それこそ、あなたのエゴですよ! 白銀ライト:エゴで結構だ! 白銀ライト:バッドエンドを望む奴もいれば、ハッピーエンドを望む奴もいるってことだ! 真夜中:それは、少数派です! 真夜中:世界の大多数は、希望が奪われ、絶望から押し寄せてくる感動を求めているのです! 白銀ライト:だから、なんだってんだ! 白銀ライト:大多数を感動させることができなくても、たったひとりでも 白銀ライト:そう、たったひとりでも、僕の紡ぐ物語に触れて心が動く人がいるなら 白銀ライト:笑ってくれる人がいるなら! 白銀ライト:その時点で、僕は、勝利を噛み締めることができる! 真夜中:勝利?ただの自己満足でしょう!そんなモノに価値はない! 白銀ライト:自分の価値は、自分で決める! 白銀ライト:自分の書くモノは、自由に書く! 白銀ライト:書き続ける!魂を燃やして! 0: ハートの女王:私は、アリスさんの書く物語が読んでみたいです! 真夜中:ん? 三月うさぎ:僕も僕も!きっとアリスは、世界を今より、もっと素敵なモノに変えてくれる! 真夜中:バカなんですか?無価値のクソ文学に費やす時間が、もったいないとは思わないのですか? ハートの女王:思いません!無価値かどうかは、私自身の心が決めます! 三月うさぎ:そうだそうだ!僕の心が決める! 真夜中:黙れ… 真夜中:黙れ黙れ黙れーっ! 真夜中:物語は、より多くの人に読まれてこそ、評価されてこそ 真夜中:真に価値あるモノへと昇華(しょうか)されるモノなんデスよ! 白銀ライト:例え、どこぞの誰かに一円の価値も付けられないクソ小説だと貶(けな)され 白銀ライト:罵倒(ばとう)されようが! 白銀ライト:僕は、最期の瞬間まで僕を貫く! 白銀ライト:明日の自分に誇れる自分であり続ける! 真夜中:綺麗事(きれいごと)デスね…。そんなモノは、ただの絵空事(えそらごと)デスよ! 真夜中:この世界は、弱肉強食! 真夜中:一部の特権階級の人たちが、弱者を生かさず殺さず、家畜のように飼い慣らしている 真夜中:そんな便所のクソのような汚いところなんデスよ! 真夜中:美しく生きることなんて、できるわけがない! 白銀ライト:だとしてもだ! 白銀ライト:どんなに世界がクソッタレでも、物語の中は自由だ! 白銀ライト:自由に、自分の本当に見たい世界を、夢を、奇跡を描くことができる! 真夜中:フッ… 真夜中:まるで、アリスのような物言いデスね… 真夜中:はっ!アリス!? 白銀ライト:おっし!これで、三人目! 真夜中:ぐっ!? 三月うさぎ:真夜中がアリスをアリスと認めた!アリスと認めた! ハートの女王:そうです。あなたこそが、今度のアリス! 三月うさぎ:アリス、やっちゃえーっ! 真夜中:良いでしょう! 真夜中:あなたが本物のアリスか否(いな)か、吾輩が確かめてあげましょう! 白銀ライト:いくぞーっ!真夜中ーっ! 白銀ライト:(同時に)アリス・イン・スターダストーッ!!! 真夜中:(同時に)ダークマター・ナイトブラストーッ!!! 白銀ライト:はあああーっ!!! 0: 白銀ライト:【この技は、闇を切り裂き、未来を切り拓く光だーっ!】 0: 真夜中:そっ、そんなっ…!我輩の闇がっ…!闇が光にっ…! 真夜中:さすがっ…!さすがデスッ…!アリスーッ…… 0: 0:【間】 0: 白銀ライト:はぁ…はぁ…はぁ… 三月うさぎ:やった!真夜中を倒したぞ!僕の選んだアリスが、真夜中を倒したぞ!やったー! ハートの女王:さすがアリス… 白銀ライト:アリスじゃない ハートの女王:アリスじゃない? 白銀ライト:うん。僕は、アリスじゃないよ 三月うさぎ:そんなはずないだろ!君は、アリスなんだよ!アリスだから、真夜中を倒せた! 白銀ライト:アリスじゃなくても、真夜中を倒せるんだよ ハートの女王:どういうことですか? 白銀ライト:なぜなら、ここは… ハートの女王:不思議の国? 三月うさぎ:そうだよ!そうだよ!魔法のような奇跡を起こせる不思議の国! 白銀ライト:そういうこと! ハートの女王:だったら、あなたは誰なんですか? 白銀ライト:白銀ライト。それが、僕の本当の名前だ 三月うさぎ:白銀ライト?大変だ!大変だ!アリスが本当の名前を思い出しちゃった! 三月うさぎ:魔法が解けちゃうぞ!大変だーっ! ハートの女王:そうですね。本当の名前を思い出してしまったら、もう、不思議の国にいることはできません 吾輩ちゃん:そういうことにゃ! 白銀ライト:あっ!吾輩ちゃん? 吾輩ちゃん:そう!吾輩は猫である。名前は、吾輩ちゃん! 白銀ライト:今まで、どこにいたんだよ? 吾輩ちゃん:どこに? 吾輩ちゃん:フフッ。ずっといたにゃ。ライトのそばに、ずっとね 白銀ライト:ずっと? 吾輩ちゃん:さぁ、三月うさぎ!そろそろ時間だ。ライトを元の世界に戻してほしいにゃ! 三月うさぎ:あいおっ!でも、まだ帽子屋が眠ったままだよ?今のアリス…じゃなくて、白銀ライトなら… 白銀ライト:断る! 三月うさぎ:えっ? 白銀ライト:それは、きっと、「次のアリス」の役割だからさ ハートの女王:そうですね。私たちは、次のアリスとの出会いを、楽しみに待っていましょう 三月うさぎ:あっ、あいおっ! 0: 吾輩ちゃん:【三月うさぎは、胸ポケットから懐中時計をカッコ良く取り出し、青いボタンを押したにゃ】 0: ハートの女王:そして、世界は、まばゆい光に包まれた… 0: 0:―了―