台本概要

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タイトル Blue actor
作者名 彰人
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男3、女2) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 高校の演劇部。

三年生が3人と、二年生が2人。
これは、そんな演劇部が、最後のコンクール前を苦楽を共にしながら歩んでいく軌跡である。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
慎一 106 菅田 慎一(すがた しんいち) 三年生。演劇部の部長。 脚本と主演を担当している。 優しく穏やかだが、怒る時は怒る。 部長という立場を全うしようと真剣
紅音 99 水都 紅音(みなと あかね) 三年生。演劇部の副部長で、ヒロイン担当が多め クールで真面目な反面、誰よりもこの三年生演劇部に思い入れがある。
圭介 54 内津 圭介(うつつ けいすけ) 三年生。演劇部の中では誰よりも演技が上手く、エース的存在で、主人公のライバル的立ち位置でその魅力を引き出す役柄が多め。 そのプレッシャーもあってか、一度失敗すると、スランプに陥りやすい。
優輝 55 高嶋 優輝(たかしま ゆうき) 二年生。裏方担当ではあるが、本心は演技がしたいと思っている。
栞菜 64 白石 栞菜(しらいし かんな) 二年生。裏方をやることに、演劇部としての生き甲斐を感じており、演技をすること自体にはあまり関心がない。 明るく、元気なタイプで、先輩に対する期待と尊敬が凄い。
ハベル 36 西の国の王子 (慎一の兼役)
アレク 34 東の国の王子 (圭介の兼役)
ルキナ 14 西の国に遊びに来たお姫様 (紅音の兼役)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:上演終わりの舞台裏にて 栞菜:お疲れ様です! 慎一:あぁ、お疲れ様、いつも裏方ありがとうな 栞菜:いえ!私の生きがいは裏方ですから! 慎一:ふふ、そうか 0:舞台裏の奥からいざこざが聞こえる 紅音:圭介、あんたどうしたわけ? 圭介:知らねぇよ 紅音:知らねぇよって、あんなの、いつものあんたの演技じゃないじゃない! 圭介:俺だってたまにはミスくらいするよ 紅音:たまに?ミス?そんなレベルじゃないじゃない、あんたの今日の演技はやる気が少しも感じられなかった! 圭介:うるせぇな、俺だってそういう日もあるんだよ! 0:足早に圭介が去っていく 紅音:はぁ 慎一:どうした紅音 紅音:なんもない 慎一:なんもないことないだろ、圭介と言い合いしてたじゃないか 紅音:あんたは何も思わなかったの? 慎一:何がだ? 紅音:今日の圭介の演技 慎一:いや、確かに、いつもの圭介よりはお世辞にも上手いとは言えないし、やる気もあるのかって感じだったけど 紅音:そういうことよ、あんただって圭介のあんな演技、見たくないでしょ? 慎一:それはそうだが、圭介、たまにスランプに陥ることあっただろ、それじゃないのか? 紅音:このまま圭介があんな演技を続けるんだったら、圭介を舞台に立たせる訳にはいかない 慎一:まさか、あの圭介だぞ? 慎一:ちょっとスランプなだけだろ 紅音:はぁ、あんたもう少し部長としての責任感持ったらどう? 慎一:部長としての責任感はあるだろちゃんと 紅音:とにかく圭介があんな演技を続ける以上、舞台には立たせないし一緒に芝居もしたくない 0:紅音が足早に去っていく 慎一:おいちょ待てよ、紅音 栞菜:なんか大変そうだね、先輩たち 優輝:そうだな・・・ 栞菜:・・・どうかした? 優輝:いや、なんでも・・・ 栞菜:内津先輩、あのまま辞めなきゃいいけど 優輝:辞めたかったら辞めてもいいんじゃない 栞菜:え? 優輝:やる気ないなら辞めればいい、別に僕たちが介入する資格はない 栞菜:・・・まぁでも、内津先輩だもんね、きっと辞めないよね! 優輝:・・・そうだな・・・ 0:後日 慎一:うぃー、お疲れー、あれ、圭介は? 栞菜:まだ来てないみたいです 慎一:そっか、紅音は? 栞菜:水都先輩も同様です 慎一:そっか 0:部室の扉が開く 紅音:・・・ 慎一:お、紅音、遅かったじゃないか、あ、もしかしてクラス委員の仕事とか? 紅音:圭介は? 慎一:あー、まだ来てないっぽいな 紅音:そう 優輝:内津先輩なら来ないと思いますよ 慎一:おい高嶋、何を言って 優輝:内津先輩、嫌気が差したんじゃないんですか、水都先輩のせいで 慎一:おい高嶋、いい加減に 紅音:そう、ごめんなさい・・・私、帰るわね、今日はちょっと演技なんてとてもできる気分じゃない 0:紅音が出ていく 慎一:あ、ちょ、紅音! 慎一:おい高嶋、今のセリフは一体どういうつもりだ 優輝:どうもこうもないですよ、内津先輩にだって気分が乗らないことだってあります 優輝:それを水都先輩が責めるから内津先輩は演技に嫌気が差したんですよ 優輝:ま、簡単にいったら演技から逃げたんですよ、あの人は 0:慎一が優輝を殴る 慎一:お前に、お前に圭介と紅音の何がわかるというんだ 優輝:わかんないですよ 優輝:ただそうなんじゃないかなぁっていう憶測というか 慎一:・・・二度と憶測であいつらのことを語るな 0:慎一が出ていく 栞菜:優輝?どうしたの? 優輝:・・・僕だって 栞菜:ん? 優輝:僕だって舞台に立ちたいんだ!演技が好きでこの部活に入ったんだ! 優輝:なのに回ってくるのは裏方の仕事ばかり、こんなのって、あんまりじゃないか・・・ 栞菜:・・・私は演技を演じる側にあまり興味を持ったことないからわからないけどさ 栞菜:裏方だって、演劇部にとっては立派な役回りだと思うな 栞菜:裏方がいるから主役がいる、裏方がいるから役者がいる、演劇の世界ってさ、そうやって成り立ってるんじゃないかな 優輝:・・・もういいよ、お前に話した僕がバカだった 優輝:どうせお前に僕の気持ちなんて何ひとつ伝わってないんだ 0:優輝が出ていく 栞菜:・・・わかるわけないよ、私は、裏方の仕事が大好きなんだから・・・ 栞菜:別に演技がしたいわけじゃないもん・・・ 0:数日後 慎一:・・・というわけで、今度の演劇コンクールだけど、美しき姫は我が手に、に作品が決まった 慎一:主人公、ハベル役は俺がやる 慎一:そして姫、ルキナ役は紅音 慎一:そしてアレク役は・・・高嶋、できそうか? 優輝:はい、できます! 慎一:じゃあ、ということで、台本渡すから、三日後またここに集まって、じゃあ、今日は解散 紅音:慎一、ちょっと話いい? 慎一:あ、あぁ 0:間 紅音:これで本当にいいと思ってるの? 慎一:仕方ないじゃないか、もう二週間近く待ったけど、圭介は一向に現れないんだから 紅音:まだ二週間近くしか経ってないでしょ 慎一:俺はギリギリまで待った、コンクールまでの練習期間を考慮したら今日がもう限界だ 紅音:・・・あの子に演技ができるの? 紅音:今まで裏方しかやってこなかったのに、急にコンクールだなんて、不安でしかない 慎一:あいつが出来ると言うんだ、今はあいつのこと信じるしかないだろう 紅音:はぁ・・・ 慎一:わかる、わかるよ、最後のコンクールだもんな、そりゃ同学年三人で舞台立ちたいよな、俺だって本当はそうしたい、同学年三人で舞台に立つことを大事にしたい 慎一:でもそれ以上にコンクールという大舞台も大事にしたいんだ、その為にはどうしても練習期間が必要なんだ、副部長のお前ならわかってくれるだろう? 紅音:はぁ、わかったわよ、もう 慎一:すまんな、紅音 0:数日後 優輝:お、お前に姫はふさわしくない! 紅音:もっかい 優輝:お、お前に姫はふさわしくない! 紅音:もっかい 優輝:お、お前に姫はふさわしくない! 紅音:もっかい! 紅音:はぁ・・・演技ナメてんの? 優輝:え、そんなつもりは 紅音:演技ってのは台本をただ読めばいいってもんじゃない、気持ちとか感情を込める必要があるの 紅音:本来、そこには圭介が立っているの 紅音:あんたはその代役なんだから、圭介を背負ってると思ってやってくれない?わかった? 優輝:わ、わかりました・・・ 紅音:じゃ、さっきのとこもっかい 優輝:お、お前に姫はふさわしくない! 紅音:二人ともいい加減におやめください! 慎一:本当に姫にふさわしくないのは貴様の方だ! 紅音:・・・わかりました、全て私が悪いのですね 優輝:まさか!姫様は何も悪くなんか 紅音:私が原因で争いが起きるならば、私なんて死んでしまえばいい! 慎一:姫様、貴方のような美しきお方が死んでいいはずありません 紅音:うるさいわ、私の生死なんてあなたたちが決めることではない! 慎一:姫様、早まらないでください! 紅音:うっ・・・ 紅音:本番はここで、水に溶かした血糊が入った風船が破裂する、いい? 優輝:わ、わかりました 慎一:姫様ぁ! 慎一:・・・貴様のせいで、姫様は・・・姫様は! 優輝:・・・争いは悲しみしか生まないとは、本当のことのようだな・・・ 慎一:・・・ 優輝:・・・すまぬハベル、もう会うことはないだろう 慎一:また逃げるのか 優輝:っ・・・ 慎一:そうやって何もかも逃げ続けて、それでも東の国の王子なのか! 優輝:・・・お前に何がわかる 慎一:アレク、お前はもう少し王子という自覚を 優輝:うるさい! 優輝:西の国は良いよなぁ、裕福で富もあって、困ることが何もなくて! 優輝:西の国のお前が、東の国の経済状況なんて考えたことがあるか! 慎一:・・・あるわけないだろ、でも、 0:チャイムが鳴る 慎一:なんだよー、これからクライマックスってとこなのに、もう下校時刻かよ 紅音:高嶋くん、やればできるじゃん 紅音:今後も頼むよ、その感じで 優輝:は、はい!もちろんです! 紅音:じゃ、また明日 栞菜:お疲れ様でしたー! 0:紅音と圭介、喫茶店へ 圭介:待たせたな・・・ 紅音:ううん、そんなに待ってない、それにしても久しぶりね 圭介:そう、だな・・・ 圭介:は、話って 紅音:最後のコンクール、出ないつもり? 圭介:その話か・・・ 紅音:このままだと、本当に高嶋くんに舞台、取られるわよ 紅音:高嶋くん、だんだんと演技を伸ばしてきてるわ 圭介:もう遅いだろ、今更演技なんて 紅音:本気で言ってんの?それ 圭介:俺は・・・逃げたんだよ、演技から 紅音:確かにあんたは演技から逃げた、演技好きの私としては到底許せる行為ではない 紅音:でも、逃げたら戻ってきちゃダメなんて、誰が言ったの? 圭介:それは・・・ 紅音:慎一も本当は、あんたに舞台に立ってほしいって思ってる 紅音:ずっと三人で舞台に立ってきたのに、最後に一人欠けるなんてバカみたい 圭介:・・・ 紅音:・・・あんたがまた舞台に立つ姿、私ずっと待ってるから・・・ 圭介:少し、時間が欲しい 紅音:時間? 圭介:俺はまだ・・・舞台に立てる気がしない・・・ 0:紅音が圭介の頬を殴る 紅音:時間なんてないの!本番までもうすぐなんだよ? 紅音:あんたが舞台に立たないなら・・・私も、私も舞台に立たないから! 0:紅音が走り去る 0:翌日 慎一:紅音か、今日は、やけに早いじゃないか 紅音:待ってる人がいるの 慎一:圭介か 紅音:そう 慎一:もう諦めろ、現に時間がなさすぎる、高嶋でもいいじゃないか、あいつ、十分演技、上手くなってる 紅音:何それ、慎一、本気で言ってんの? 慎一:あぁ、本気だよ 紅音:意味わかんない・・・三人で舞台立ちたいって言ってた慎一はどこいったの? 慎一:もういいよ、今更・・・どうせ圭介は帰ってきやしない 紅音:ねぇ、私、この舞台、降りていい? 慎一:は?何言ってんだよ!お前が舞台降りたら、舞台が成り立たない! 紅音:私、圭介のいない舞台なんて、立つ気ないから 慎一:おい待てよ紅音! 慎一:はぁ・・・ 0:数日後 栞菜:最近、内津先輩どころか水都先輩まで来ないですね 慎一:ったく、あいつは副部長としての自覚がなさすぎるんだよ、本番はどんどん迫ってきてるっていうのに 栞菜:先輩は、部長としての自覚、凄いありますよね 慎一:当たり前だろ 栞菜:でも、三年生としての自覚が無いですよね 慎一:あ? 栞菜:だって菅田先輩、水都先輩の想いを無下にしてまで、優輝を舞台に立たせようとしてるじゃないですか 慎一:あいつは演技がしたいんだろ?演技から逃げる奴より、演技に向き合ってくれるやつの方が、いい演技ができるんだよ 栞菜:水都先輩の気持ちはどうなるんですか? 慎一:それは 栞菜:だから、舞台をより良くしようとする部長としての自覚は認めます、でも、水都先輩の気持ちを無下にするような先輩は、三年生としての自覚が 0:慎一が思いきり机を叩く 慎一:黙れよ・・・俺だって、俺だってわかってんだよ・・・ 慎一:本当にあそこにいるべきなのは高嶋じゃなくて圭介だってことくらい、俺だってわかってんだよ・・・ 慎一:でももう、時間もねぇんだよ・・・ 栞菜:菅田先輩、ギリギリまで内津先輩を信じてあげてください 慎一:・・・君もなかなか酷だと思うけどね 栞菜:私がですか? 慎一:君だって、高嶋の気持ちを無下にしようとしてるじゃないか 栞菜:優輝が物凄く演技好きなことくらいは私もわかります 栞菜:でも、でも優輝にはまだ立てる舞台はいくらでもあるんです 栞菜:菅田先輩も内津先輩も立てる舞台、最後なんですよ? 栞菜:水都先輩だって、最後の舞台なんです 栞菜:優先順位ってものがあるんです 慎一:ふふ、なんか、いつもただ裏方をこなしてるだけだと思ってたけど、結構色々考えてるんだね 栞菜:まぁ、部員、ですからね! 0:紅音と圭介、喫茶店にて 紅音:舞台、立つ気になった? 圭介:俺なんかが、舞台に・・・ 紅音:まだそんなこと言ってんの? 紅音:圭介って本当に鈍感ね 圭介:え? 紅音:私の気持ち、わかってるようで何ひとつわかってない 圭介:そんなこと 紅音:そんなことないって言いたいの?バカじゃないの? 圭介:そ、そこまで言うことないだろ 紅音:バカよ!あんたはバカ! 紅音:たった一度の過ちで、今まで積み重ねてきたもの全て無駄にして、挙句の果てには、訪れたチャンスまで捨てて、そんなの、バカの極みじゃん! 紅音:お願いだから・・・一緒に舞台、立ってよ・・・ 紅音:私、圭介のいない舞台なんて立ちたくないよ・・・ 圭介:紅音・・・わかったよ、立つ 0:演劇部の部室のドアが開く 慎一:お、なんだ?紅音か?今日は早・・・ 圭介:ひ、久しぶり、だな 慎一:圭介!どうした、また舞台に立ちたくなったか!? 圭介:まぁ、そんなとこ、だな 慎一:そうか・・・ 慎一:だがアレク役は高嶋が・・・ 紅音:コンクールまで時間に余裕は無いわ、台本渡すから、さっさと覚えてきて 圭介:あ、あぁ 慎一:紅音? 紅音:三人で立つよ、最後の舞台 慎一:高嶋には悪いが、圭介がいるのに圭介を舞台から降ろす理由もないもんな 0:演劇部の部室のドアが開く 優輝:こんちはーっす 慎一:あ、あのだな、高嶋 優輝:ん?どうしたんすか? 慎一:あの、その、言いにくいんだが・・・ 紅音:何をモジモジとしてるのよ 紅音:悪いけど高嶋くんには、アレク役を降りてもらうわ 優輝:え・・・ 優輝:ちょっと待ってください、どういうことですか!? 慎一:圭介が帰ってきたんだ 優輝:は? 0:優輝が圭介に近づき、殴る 圭介:ぶおっ! 慎一:高嶋!? 優輝:今更、何しに来たんだよ・・・ 圭介:すまん・・・ 0:優輝がもう一回、殴る 優輝:演技から逃げたくせに、演技する場所に帰ってくんじゃねぇよ! 慎一:やめろ高嶋! 優輝:俺だって!俺だって、舞台に立ちてぇんだよ! 優輝:なのに、お前がいるせいで俺はずっと裏方 優輝:やっと、やっと俺も舞台に立てるんだって思ったのに・・・ 優輝:それなのに・・・お前が帰ってきたせいでまた舞台に立つ機会、逃すなんて・・・ 優輝:ふざけんじゃねぇよ! 優輝:お前のせいで、俺の舞台は台無しだ! 紅音:っ・・・! 0:紅音が優輝を殴る 優輝:うっ! 慎一:紅音!? 紅音:お前がふざけんじゃねぇよ・・・ 紅音:お前も見てきただろ、圭介の凄い演技の数々を 慎一:落ち着け紅音 紅音:圭介の・・・圭介の演技は、凄いんだよ! 紅音:私や慎一にも、到底真似出来ないくらい、凄いんだよ・・・ 慎一:・・・そうだな 優輝:・・・こんな部活、もうやってらんねぇよ! 0:無言で優輝が走り去っていく 圭介:待ってくれ! 慎一:いいよ圭介 圭介:でも・・・可哀想だろ・・・ 紅音:可哀想・・・ね・・・ 紅音:確かにあんたが前みたいな中途半端な演技をしたら、高嶋くんは凄く可哀想だわ 紅音:でもあんたが全力でやったら高嶋くんは全然、可哀想じゃない 紅音:言ってる意味・・・わかるわね? 圭介:あぁ、もちろん 0:栞菜が部室に入ってくる 栞菜:こんにちはー、あの、優輝がさっき凄い勢いで走り去ってったんですけど何かあったんですか? 紅音:白石さんが気にすることではないわ 栞菜:そ、そうですね 慎一:あー、あれだ、俺、今日歯医者予約してるの忘れてた、俺行くわー、じゃあなー 圭介:慎一! 圭介:絶対に、コンクール、賞取ろうな 慎一:・・・当たり前だろ、今更すぎるんだよお前はいつも 圭介:わりぃ 慎一:んじゃ 0:慎一が部室を出ていく 栞菜:っていうか、内津先輩!? 栞菜:戻ってきてくれたんですね! 栞菜:私、内津先輩の演技、大好きなので嬉しいです! 圭介:・・・そっか、それは良かった 栞菜:・・・あぁ、なんとなくわかりました、優輝が走り去ってった理由 栞菜:内津先輩が戻ってきたことにより、演技が出来なくなった、ですね? 紅音:まぁ、そんなところね 栞菜:私は、裏方の仕事が大好きなので、優輝の気持ちはわからないですけど、でも、優輝は本気で演技がやりたかったんだろうなぁって 紅音:・・・ 圭介:俺、譲るよ、高嶋くんに 紅音:えっ? 圭介:やっぱり、高嶋くんに申し訳ないし 栞菜:それとこれとは別です! 圭介:え? 栞菜:むしろ先輩には、演技で優輝を感動させるっていうことをする責任があります! 圭介:演技で・・・感動させる・・・ 栞菜:先輩が本気で演技すれば、きっと感動しますよ! 栞菜:現に、私が先輩の演技に何度も感動させられましたし 紅音:圭介、これでもまだ、高嶋くんに譲る? 圭介:・・・わかった、やるよ、本気で 紅音:楽しみにしてるわ、あんたの演技 圭介:あぁ 0:数日後 栞菜:こんにちはー、今日も優輝は・・・いないですね 慎一:退部届、出したんじゃなかったか? 栞菜:優輝がそんなことするはずありません! 栞菜:優輝は演技が大好きなんです! 栞菜:いつも笑顔で私に、こういう演技がしてみたい、こういう役がやりたいっていうのを話してくれるんです 紅音:・・・そう、じゃあそれは、来年、ぜひ叶えて欲しいわね 慎一:栞菜ちゃん、裏方の仕事、一人でもやれそう? 栞菜:まぁそれは大丈夫ですけど・・・ 紅音:本番までもうあと残りわずかよ、居ない人のことなんていちいち気にしてられないわ 慎一:そうだな、圭介、いけるか? 圭介:あぁ、バッチリ 栞菜:意外と冷たいんですね、先輩たち 紅音:圭介が戻ってきてくれたの、それだけで私は満足 栞菜:私、やめてもいいんですよ?裏方やるの 慎一:何言ってんだよ、栞菜ちゃんがいなかったら、誰が裏方やるんだよ 栞菜:そうですよね、演者はいくらいい人が揃っても、裏方がいなければ舞台は成り立たない 栞菜:演技の世界の不条理ですよね 紅音:白石さん?いったいどういう意味で言ってるの? 栞菜:私は、先輩たちの舞台、絶対に成功させたいって思いでやってきました 栞菜:でも今は、ぶち壊したいって気持ちです 慎一:おいおい、冗談はその辺にして、練習しよう? 栞菜:優輝を舞台に立たせろとは言いません、でも、優輝の気持ちも少しはわかってあげてください 栞菜:あれは冗談です、裏方の仕事はちゃんとやります・・・ 紅音:・・・白石さんって、誰よりもこの部のこと、気にかけてくれてるのね 紅音:私、副部長失格だなぁ 圭介:・・・ごめん栞菜ちゃん、俺ら、ちょっと余裕なくて、自分たちのことしか考えてなかったわ 栞菜:え? 紅音:そうね・・・ 栞菜:な、なんか、空気重くしてすいません 慎一:いや、大丈夫、じゃ、練習しよっか 0:さらに数日後、最後のリハ終わり 紅音:・・・終わったわね、最後のリハ 慎一:そうだな、結局、高嶋はこの日まで一度も顔出さず・・・か 栞菜:まぁ、最悪、裏方なんて私がちょっと頑張れば一人でやれますので! 紅音:・・・圭介 圭介:ん? 紅音:頑張ろうね、明日 圭介:・・・もちろん 慎一:本当は前夜祭とかやりたいけどしっかり寝ないといい演技できないから俺は帰って寝る!また明日! 紅音:ふふ、私たちも帰りましょっか 栞菜:ですね! 栞菜:あー!明日楽しみだなぁ! 0:翌日 慎一:・・・来たな、本番当日 紅音:緊張してんの? 慎一:ば、バカ言うな!き、緊張なんて 紅音:めちゃくちゃしてるじゃん 慎一:そ、そりゃ緊張するだろ! 慎一:だって最後のコンクールだぞ! 紅音:圭介を見て 慎一:ん? 紅音:めちゃくちゃリラックスしてる 慎一:なんであんなリラックスできるんだ 紅音:スポーツだって、音楽だって、演技だってそう 紅音:練習でやってきたことを、本番で出し切ればいいだけ、そうでしょ? 慎一:・・・まぁ、そうか 栞菜:おはようございます! 慎一:おー、栞菜ちゃん、おはよう 栞菜:いよいよですね、私も頑張るので、皆さんも頑張ってください! 慎一:いやぁ裏方の仕事、本当に助かるよ 栞菜:任せてください、裏方は私の生き甲斐です! 慎一:心強い 優輝:お、おはよう・・・ございます・・・ 栞菜:優輝!? 慎一:・・・来てくれるって信じてたぞ、高嶋 優輝:俺、なんだかんだいって先輩たちの演技も、先輩たち自身のことも、好きなんで・・・ 優輝:最後は、見届けたいなって・・・ 紅音:ありがとう 圭介:・・・行こうか、そろそろ 慎一:そうだな 0:舞台裏へ 慎一:あーやべ、緊張してきた 圭介:俺も緊張してる 慎一:え、お前めちゃくちゃリラックスしてたじゃん 圭介:固まってただけだ 慎一:俺より緊張してんな 栞菜:三人ともやっぱ、衣裳めちゃくちゃ似合いますね! 紅音:ありがとう、白石さんが作ってくれた衣裳、とても素敵よ 栞菜:わー!喜んでもらえて良かったです! 優輝:内津先輩! 圭介:ん? 優輝:・・・アレク、頑張ってきてください 圭介:あぁ、頑張るよ 紅音:もう時間もないわ、そろそろ舞台上に行きましょう 慎一:いよいよ来たんだな、その時が 紅音:まだ緊張してんの? 慎一:もう解れた 紅音:そう、圭介は? 圭介:大丈夫だ、紅音こそ緊張して 紅音:バカ言わないで、最初から緊張なんかしてない 圭介:そっか 紅音:さぁ、緞帳が上がるわよ 慎一:あぁ、美しき姫は我が手に、いよいよ開演だ 0:優輝と栞菜 栞菜:優輝、大丈夫? 優輝:あぁ、色々と負担かけたね、衣装まで一人で全部、作らせちゃって 栞菜:大丈夫、私、裏方の仕事大好きだから 優輝:音楽はここで変えればいいの? 栞菜:そう、シーンに合わせて押してくれれば、流れるようになってるはずだから 優輝:わかった 栞菜:ねぇ優輝 優輝:ん? 栞菜:まだ悔しい? 優輝:まぁね、でも、先輩たちは最後なんだもん、まだ俺らにはいくつものチャンスがあるだろう? 栞菜:優輝さ、前、私にこんな演技がしたい、こんな役がやりたいっていうのを話してくれたじゃん? 優輝:あぁ、話したね 栞菜:来年、全部叶えようね 優輝:全部、叶うかな 栞菜:叶えるんだよ! 優輝:そうだね、叶えよう 栞菜:じゃあ、緞帳上げるね、先輩たちの最後の舞台、しっかりこの目で見届けないと 0:緞帳が上がる ハベル:あぁ、どうして、なぜなんだ、なぜ私の隣には美しき華がないのだ! アレク:君のような醜い男に華麗な女性な似合わないだろうに ハベル:な、なんだ貴様! アレク:ちょっと自分の国に退屈して、こっちの国に遊びに来てみたら、こちらの国の王子のとんでもない戯言が聞こえたもんだからつい ハベル:アレクか・・・ アレク:なぜ君に女性ができるとでも思っている、さすがに夢を見すぎじゃないか? ハベル:そうかそうか、だが残念だなアレク アレク:なんだ ハベル:実は今日、遠い国からそれはそれは美しいお姫様がこちらの国に遊びに来るのだ アレク:ほう ハベル:そしてそのお姫様と私はきっと結ばれることになるだろう! アレク:それは面白い話を聞いたもんだ ハベル:な、何をするというのだ アレク:せっかくこっちの国に遊びに来たのだ、何もせず帰るというのは、もったいない アレク:私もそのお姫様というものに顔合わせをしたいものだ! ハベル:いいだろう、私の良心で貴様にも姫の顔をお見せしてやろう アレク:いいのか?私を見たらお姫様はきっと私のものになるだろうが ハベル:なるほど、貴様よりも私の方が上だということを世に知らしめるいい機会になるだろう! アレク:はっ、貴様がどれだけ自惚れてるか自覚するいい機会になる、の間違いだろう ハベル:それはどうだろうな、お、姫様が到着されたようだ ルキナ:おはようございます、ルキナと申します、今日はよろしくお願いしますわ ハベル:お待ちしておりました、姫様! ハベル:この国の王子、ハベルと申します、今日はどうぞよろしくお願いします ルキナ:よろしくお願いしますわね、あら、そちらの方は? アレク:どうも、隣国の王子のアレクでございます、よろしくお願いします ルキナ:あら、隣の国の王子様でいらっしゃいますのね、よろしくお願いしますわね アレク:ええ、ところで姫様 ルキナ:あら、なんでしょうか アレク:こんな国よりも、私の国に遊びに来ませんか? アレク:ここと違ってとてもいい国ですよ! ハベル:貧しい国のくせによく言ったもんだ ルキナ:お誘いはとても嬉しいのだけれどごめんなさいね、私、今日はこちらの国に遊びに来ましたので ハベル:そら見ろ、姫は今日は私の国に遊びに来たのだ アレク:では後日、どうか私の国へおいでくださいませ ルキナ:あら、嬉しいですわ、後日、そちらの国にも遊びに行かせてもらいますわね アレク:それはありがたきお言葉です ルキナ:では私はお城の中にお邪魔させてもらいますわね ハベル:どうぞご自由におくつろぎください ハベル:では私も アレク:待てハベル ハベル:・・・姫様、先に行っててください、私もすぐそちらへ向かいます ルキナ:わかりましたわ 0:一度、暗転して明転が入る ハベル:なんの用だ アレク:勝ったなんて思うんじゃないぞ ハベル:なんの話だ アレク:絶対にあの姫は俺のものにする ハベル:まだ言ってるのかそれ ハベル:いいかアレク、きっとお前の国には姫様は遊びに行かないぞ アレク:どうしてお前にそんなことが言える ハベル:俺は姫様を城に囚うつもりだ ハベル:二度と、どこにも行かせないように アレク:そういや昔からお前は束縛癖があったな ハベル:美しき姫は我が手に アレク:本当にそう思ってるなら勘違いも甚だしいな ハベル:貴様も同じだろう、姫が自分のものになると思ってんなら アレク:・・・ ハベル:なんだ、何も言い返せなくなったか? アレク:お、お前に姫はふさわしくない! ルキナ:二人ともいい加減におやめください! ハベル:本当に姫にふさわしくないのは貴様の方だ! ルキナ:・・・わかりました、全て私が悪いのですね アレク:まさか!姫様は何も悪くなんか ルキナ:私が原因で争いが起きるならば、私なんて死んでしまえばいい! ハベル:姫様、貴方のような美しきお方が死んでいいはずありません! ルキナ:うるさいわ、私の生死なんてあなたたちが決めることではない! ハベル:姫様、早まらないでください! ルキナ:うっ・・・ 0:ルキナが大量出血する ハベル:姫様ぁ! ハベル:・・・貴様のせいで、姫様は・・・姫様は! アレク:・・・争いは悲しみしか生まないとは、本当のことのようだな・・・ ハベル:・・・ アレク:・・・すまぬハベル、もう会うことはないだろう ハベル:また逃げるのか アレク:っ・・・ ハベル:そうやって何もかも逃げ続けて、それでも東の国の王子なのか! アレク:・・・お前に何がわかる ハベル:アレク、お前はもう少し王子という自覚を アレク:うるさい! アレク:西の国は良いよなぁ、裕福で富もあって、困ることが何もなくて! アレク:西の国のお前が、東の国の経済状況なんて考えたことがあるか! ハベル:・・・あるわけないだろ、でも、 アレク:でも?でも何だ!言ってみろ! ハベル:でも!お前のことは、ただの敵ではなく、良きライバルだと思ってた・・・ ハベル:そのうち、そのうち本当の友になれるんじゃないかと思ってた ハベル:ずっと思ってた、でも無理だよな ハベル:だってお前はそれに応えてくれようとはしない! アレク:違う! アレク:違うハベル、俺もだ! ハベル:俺も? アレク:俺も、お前のことは良きライバルと思ってた、いつかは何でも打ち解け合えるような仲になりたいと思ってた! アレク:だけどお前と違って、俺は不器用なんだ アレク:不器用だからずっとお前に本当の気持ちとか伝えられずにいた アレク:今日だってそうだ、姫を口実にお前と精一杯戦って、やっぱり俺らって、なんだかんだ良いライバルで友達だよな、って言いたかった ハベル:・・・そうだったのか アレク:俺は姫なんてどうでも良かったんだ、ただお前と戦って、最後には笑い合いたかった アレク:昔と同じように ハベル:子供の頃は素直だが、大人になるとだんだんと伝えたいことも伝えられなくなるもんだな アレク:ハベル・・・今更こんなこと言うなんて俺はどうしようもないクズだけど アレク:俺と、友達になってくれないか ハベル:アレク・・・いや、こちらこそ素直になるのが遅すぎたのだ、こんな俺でよければ友達になってくれ アレク:・・・あぁ!もちろんだ! ルキナ:姫を口実にお互いに友達になりたがってたハベルとアレク、彼らはきっと、永遠の仲となるでしょう、おしまい 0:緞帳が降りる 0:舞台裏 栞菜:先輩方ー!お疲れ様でしたー! 慎一:ありがとう、お疲れ様 紅音:圭介 圭介:ん? 紅音:やっぱり、あんたの演技って最高ね 圭介:あぁ、やっぱり演技って楽しいな・・・ 慎一:だろ?演技ってやっぱ楽しいんだよ 圭介:あぁ・・・ 優輝:内津、先輩・・・ 圭介:ん? 優輝:先輩、ずるいっすよ・・・ 優輝:やっぱ先輩の演技は俺なんかじゃ到底真似できないですし、先輩の演技は最高です 圭介:次はお前の番だぞ 優輝:えっ 慎一:そうだな、言ったろ?俺たち三人は最後の演技だって 紅音:高嶋くん、白石さん、あなたたちがこれからの演劇部を引っ張ってくのよ 圭介:優輝の演技、楽しみにしてるぞ、俺は 紅音:そうね、猿芝居なんてしたら許さないから 栞菜:先輩たち・・・本当に終わりなんですね・・・これで 慎一:大丈夫だ、お前らなら俺らに負けないくらいの演技ができる 優輝:・・・俺、先輩たちに負けないくらい一生懸命に演技、頑張ります! 圭介:そうだな、そうしてくれ 紅音:当たり前でしょ?一生懸命やらなくていい演技なんてひとつもないから 慎一:さて、そろそろ賞の発表だ 紅音:あれだけやり切ったのよ、きっと大丈夫 圭介:そうだな、これで取れなかったらもうしょうがない 0:賞発表 慎一:銀賞・・・か 紅音:まぁ銀賞なら、いい方でしょ 栞菜:私の中では、先輩たちがぶっちぎりの金賞です! 優輝:俺の中でも!先輩たちがぶっちぎりの金賞です! 慎一:ありがとな、二人とも 紅音:金賞はあんたたちに任せたわよ 優輝:は、はい!絶対取ります! 紅音:言質、取ったからね 圭介:頑張れ 慎一:じゃあ、最後に打ち上げ感覚で飯でも食いに行きますか! 栞菜:わー!私、寿司がいいです! 慎一:ガッツリと焼肉行くぞ! 紅音:ダイエット中なんだけど 慎一:今日くらいチートデイだ! 紅音:・・・ふふ、そうね、行きましょ 0:しばらく開けて 優輝:やっぱり、先輩たちの演技は凄い、俺たちにとっちゃ雲の上の存在だ 優輝:でも、同時に目指すべき目標でもある 栞菜:私たちは、これからもずっと先輩たちの背中を追いながら、演技を続けていく 栞菜:いつかその背中を越えられるように 0:終わり

0:上演終わりの舞台裏にて 栞菜:お疲れ様です! 慎一:あぁ、お疲れ様、いつも裏方ありがとうな 栞菜:いえ!私の生きがいは裏方ですから! 慎一:ふふ、そうか 0:舞台裏の奥からいざこざが聞こえる 紅音:圭介、あんたどうしたわけ? 圭介:知らねぇよ 紅音:知らねぇよって、あんなの、いつものあんたの演技じゃないじゃない! 圭介:俺だってたまにはミスくらいするよ 紅音:たまに?ミス?そんなレベルじゃないじゃない、あんたの今日の演技はやる気が少しも感じられなかった! 圭介:うるせぇな、俺だってそういう日もあるんだよ! 0:足早に圭介が去っていく 紅音:はぁ 慎一:どうした紅音 紅音:なんもない 慎一:なんもないことないだろ、圭介と言い合いしてたじゃないか 紅音:あんたは何も思わなかったの? 慎一:何がだ? 紅音:今日の圭介の演技 慎一:いや、確かに、いつもの圭介よりはお世辞にも上手いとは言えないし、やる気もあるのかって感じだったけど 紅音:そういうことよ、あんただって圭介のあんな演技、見たくないでしょ? 慎一:それはそうだが、圭介、たまにスランプに陥ることあっただろ、それじゃないのか? 紅音:このまま圭介があんな演技を続けるんだったら、圭介を舞台に立たせる訳にはいかない 慎一:まさか、あの圭介だぞ? 慎一:ちょっとスランプなだけだろ 紅音:はぁ、あんたもう少し部長としての責任感持ったらどう? 慎一:部長としての責任感はあるだろちゃんと 紅音:とにかく圭介があんな演技を続ける以上、舞台には立たせないし一緒に芝居もしたくない 0:紅音が足早に去っていく 慎一:おいちょ待てよ、紅音 栞菜:なんか大変そうだね、先輩たち 優輝:そうだな・・・ 栞菜:・・・どうかした? 優輝:いや、なんでも・・・ 栞菜:内津先輩、あのまま辞めなきゃいいけど 優輝:辞めたかったら辞めてもいいんじゃない 栞菜:え? 優輝:やる気ないなら辞めればいい、別に僕たちが介入する資格はない 栞菜:・・・まぁでも、内津先輩だもんね、きっと辞めないよね! 優輝:・・・そうだな・・・ 0:後日 慎一:うぃー、お疲れー、あれ、圭介は? 栞菜:まだ来てないみたいです 慎一:そっか、紅音は? 栞菜:水都先輩も同様です 慎一:そっか 0:部室の扉が開く 紅音:・・・ 慎一:お、紅音、遅かったじゃないか、あ、もしかしてクラス委員の仕事とか? 紅音:圭介は? 慎一:あー、まだ来てないっぽいな 紅音:そう 優輝:内津先輩なら来ないと思いますよ 慎一:おい高嶋、何を言って 優輝:内津先輩、嫌気が差したんじゃないんですか、水都先輩のせいで 慎一:おい高嶋、いい加減に 紅音:そう、ごめんなさい・・・私、帰るわね、今日はちょっと演技なんてとてもできる気分じゃない 0:紅音が出ていく 慎一:あ、ちょ、紅音! 慎一:おい高嶋、今のセリフは一体どういうつもりだ 優輝:どうもこうもないですよ、内津先輩にだって気分が乗らないことだってあります 優輝:それを水都先輩が責めるから内津先輩は演技に嫌気が差したんですよ 優輝:ま、簡単にいったら演技から逃げたんですよ、あの人は 0:慎一が優輝を殴る 慎一:お前に、お前に圭介と紅音の何がわかるというんだ 優輝:わかんないですよ 優輝:ただそうなんじゃないかなぁっていう憶測というか 慎一:・・・二度と憶測であいつらのことを語るな 0:慎一が出ていく 栞菜:優輝?どうしたの? 優輝:・・・僕だって 栞菜:ん? 優輝:僕だって舞台に立ちたいんだ!演技が好きでこの部活に入ったんだ! 優輝:なのに回ってくるのは裏方の仕事ばかり、こんなのって、あんまりじゃないか・・・ 栞菜:・・・私は演技を演じる側にあまり興味を持ったことないからわからないけどさ 栞菜:裏方だって、演劇部にとっては立派な役回りだと思うな 栞菜:裏方がいるから主役がいる、裏方がいるから役者がいる、演劇の世界ってさ、そうやって成り立ってるんじゃないかな 優輝:・・・もういいよ、お前に話した僕がバカだった 優輝:どうせお前に僕の気持ちなんて何ひとつ伝わってないんだ 0:優輝が出ていく 栞菜:・・・わかるわけないよ、私は、裏方の仕事が大好きなんだから・・・ 栞菜:別に演技がしたいわけじゃないもん・・・ 0:数日後 慎一:・・・というわけで、今度の演劇コンクールだけど、美しき姫は我が手に、に作品が決まった 慎一:主人公、ハベル役は俺がやる 慎一:そして姫、ルキナ役は紅音 慎一:そしてアレク役は・・・高嶋、できそうか? 優輝:はい、できます! 慎一:じゃあ、ということで、台本渡すから、三日後またここに集まって、じゃあ、今日は解散 紅音:慎一、ちょっと話いい? 慎一:あ、あぁ 0:間 紅音:これで本当にいいと思ってるの? 慎一:仕方ないじゃないか、もう二週間近く待ったけど、圭介は一向に現れないんだから 紅音:まだ二週間近くしか経ってないでしょ 慎一:俺はギリギリまで待った、コンクールまでの練習期間を考慮したら今日がもう限界だ 紅音:・・・あの子に演技ができるの? 紅音:今まで裏方しかやってこなかったのに、急にコンクールだなんて、不安でしかない 慎一:あいつが出来ると言うんだ、今はあいつのこと信じるしかないだろう 紅音:はぁ・・・ 慎一:わかる、わかるよ、最後のコンクールだもんな、そりゃ同学年三人で舞台立ちたいよな、俺だって本当はそうしたい、同学年三人で舞台に立つことを大事にしたい 慎一:でもそれ以上にコンクールという大舞台も大事にしたいんだ、その為にはどうしても練習期間が必要なんだ、副部長のお前ならわかってくれるだろう? 紅音:はぁ、わかったわよ、もう 慎一:すまんな、紅音 0:数日後 優輝:お、お前に姫はふさわしくない! 紅音:もっかい 優輝:お、お前に姫はふさわしくない! 紅音:もっかい 優輝:お、お前に姫はふさわしくない! 紅音:もっかい! 紅音:はぁ・・・演技ナメてんの? 優輝:え、そんなつもりは 紅音:演技ってのは台本をただ読めばいいってもんじゃない、気持ちとか感情を込める必要があるの 紅音:本来、そこには圭介が立っているの 紅音:あんたはその代役なんだから、圭介を背負ってると思ってやってくれない?わかった? 優輝:わ、わかりました・・・ 紅音:じゃ、さっきのとこもっかい 優輝:お、お前に姫はふさわしくない! 紅音:二人ともいい加減におやめください! 慎一:本当に姫にふさわしくないのは貴様の方だ! 紅音:・・・わかりました、全て私が悪いのですね 優輝:まさか!姫様は何も悪くなんか 紅音:私が原因で争いが起きるならば、私なんて死んでしまえばいい! 慎一:姫様、貴方のような美しきお方が死んでいいはずありません 紅音:うるさいわ、私の生死なんてあなたたちが決めることではない! 慎一:姫様、早まらないでください! 紅音:うっ・・・ 紅音:本番はここで、水に溶かした血糊が入った風船が破裂する、いい? 優輝:わ、わかりました 慎一:姫様ぁ! 慎一:・・・貴様のせいで、姫様は・・・姫様は! 優輝:・・・争いは悲しみしか生まないとは、本当のことのようだな・・・ 慎一:・・・ 優輝:・・・すまぬハベル、もう会うことはないだろう 慎一:また逃げるのか 優輝:っ・・・ 慎一:そうやって何もかも逃げ続けて、それでも東の国の王子なのか! 優輝:・・・お前に何がわかる 慎一:アレク、お前はもう少し王子という自覚を 優輝:うるさい! 優輝:西の国は良いよなぁ、裕福で富もあって、困ることが何もなくて! 優輝:西の国のお前が、東の国の経済状況なんて考えたことがあるか! 慎一:・・・あるわけないだろ、でも、 0:チャイムが鳴る 慎一:なんだよー、これからクライマックスってとこなのに、もう下校時刻かよ 紅音:高嶋くん、やればできるじゃん 紅音:今後も頼むよ、その感じで 優輝:は、はい!もちろんです! 紅音:じゃ、また明日 栞菜:お疲れ様でしたー! 0:紅音と圭介、喫茶店へ 圭介:待たせたな・・・ 紅音:ううん、そんなに待ってない、それにしても久しぶりね 圭介:そう、だな・・・ 圭介:は、話って 紅音:最後のコンクール、出ないつもり? 圭介:その話か・・・ 紅音:このままだと、本当に高嶋くんに舞台、取られるわよ 紅音:高嶋くん、だんだんと演技を伸ばしてきてるわ 圭介:もう遅いだろ、今更演技なんて 紅音:本気で言ってんの?それ 圭介:俺は・・・逃げたんだよ、演技から 紅音:確かにあんたは演技から逃げた、演技好きの私としては到底許せる行為ではない 紅音:でも、逃げたら戻ってきちゃダメなんて、誰が言ったの? 圭介:それは・・・ 紅音:慎一も本当は、あんたに舞台に立ってほしいって思ってる 紅音:ずっと三人で舞台に立ってきたのに、最後に一人欠けるなんてバカみたい 圭介:・・・ 紅音:・・・あんたがまた舞台に立つ姿、私ずっと待ってるから・・・ 圭介:少し、時間が欲しい 紅音:時間? 圭介:俺はまだ・・・舞台に立てる気がしない・・・ 0:紅音が圭介の頬を殴る 紅音:時間なんてないの!本番までもうすぐなんだよ? 紅音:あんたが舞台に立たないなら・・・私も、私も舞台に立たないから! 0:紅音が走り去る 0:翌日 慎一:紅音か、今日は、やけに早いじゃないか 紅音:待ってる人がいるの 慎一:圭介か 紅音:そう 慎一:もう諦めろ、現に時間がなさすぎる、高嶋でもいいじゃないか、あいつ、十分演技、上手くなってる 紅音:何それ、慎一、本気で言ってんの? 慎一:あぁ、本気だよ 紅音:意味わかんない・・・三人で舞台立ちたいって言ってた慎一はどこいったの? 慎一:もういいよ、今更・・・どうせ圭介は帰ってきやしない 紅音:ねぇ、私、この舞台、降りていい? 慎一:は?何言ってんだよ!お前が舞台降りたら、舞台が成り立たない! 紅音:私、圭介のいない舞台なんて、立つ気ないから 慎一:おい待てよ紅音! 慎一:はぁ・・・ 0:数日後 栞菜:最近、内津先輩どころか水都先輩まで来ないですね 慎一:ったく、あいつは副部長としての自覚がなさすぎるんだよ、本番はどんどん迫ってきてるっていうのに 栞菜:先輩は、部長としての自覚、凄いありますよね 慎一:当たり前だろ 栞菜:でも、三年生としての自覚が無いですよね 慎一:あ? 栞菜:だって菅田先輩、水都先輩の想いを無下にしてまで、優輝を舞台に立たせようとしてるじゃないですか 慎一:あいつは演技がしたいんだろ?演技から逃げる奴より、演技に向き合ってくれるやつの方が、いい演技ができるんだよ 栞菜:水都先輩の気持ちはどうなるんですか? 慎一:それは 栞菜:だから、舞台をより良くしようとする部長としての自覚は認めます、でも、水都先輩の気持ちを無下にするような先輩は、三年生としての自覚が 0:慎一が思いきり机を叩く 慎一:黙れよ・・・俺だって、俺だってわかってんだよ・・・ 慎一:本当にあそこにいるべきなのは高嶋じゃなくて圭介だってことくらい、俺だってわかってんだよ・・・ 慎一:でももう、時間もねぇんだよ・・・ 栞菜:菅田先輩、ギリギリまで内津先輩を信じてあげてください 慎一:・・・君もなかなか酷だと思うけどね 栞菜:私がですか? 慎一:君だって、高嶋の気持ちを無下にしようとしてるじゃないか 栞菜:優輝が物凄く演技好きなことくらいは私もわかります 栞菜:でも、でも優輝にはまだ立てる舞台はいくらでもあるんです 栞菜:菅田先輩も内津先輩も立てる舞台、最後なんですよ? 栞菜:水都先輩だって、最後の舞台なんです 栞菜:優先順位ってものがあるんです 慎一:ふふ、なんか、いつもただ裏方をこなしてるだけだと思ってたけど、結構色々考えてるんだね 栞菜:まぁ、部員、ですからね! 0:紅音と圭介、喫茶店にて 紅音:舞台、立つ気になった? 圭介:俺なんかが、舞台に・・・ 紅音:まだそんなこと言ってんの? 紅音:圭介って本当に鈍感ね 圭介:え? 紅音:私の気持ち、わかってるようで何ひとつわかってない 圭介:そんなこと 紅音:そんなことないって言いたいの?バカじゃないの? 圭介:そ、そこまで言うことないだろ 紅音:バカよ!あんたはバカ! 紅音:たった一度の過ちで、今まで積み重ねてきたもの全て無駄にして、挙句の果てには、訪れたチャンスまで捨てて、そんなの、バカの極みじゃん! 紅音:お願いだから・・・一緒に舞台、立ってよ・・・ 紅音:私、圭介のいない舞台なんて立ちたくないよ・・・ 圭介:紅音・・・わかったよ、立つ 0:演劇部の部室のドアが開く 慎一:お、なんだ?紅音か?今日は早・・・ 圭介:ひ、久しぶり、だな 慎一:圭介!どうした、また舞台に立ちたくなったか!? 圭介:まぁ、そんなとこ、だな 慎一:そうか・・・ 慎一:だがアレク役は高嶋が・・・ 紅音:コンクールまで時間に余裕は無いわ、台本渡すから、さっさと覚えてきて 圭介:あ、あぁ 慎一:紅音? 紅音:三人で立つよ、最後の舞台 慎一:高嶋には悪いが、圭介がいるのに圭介を舞台から降ろす理由もないもんな 0:演劇部の部室のドアが開く 優輝:こんちはーっす 慎一:あ、あのだな、高嶋 優輝:ん?どうしたんすか? 慎一:あの、その、言いにくいんだが・・・ 紅音:何をモジモジとしてるのよ 紅音:悪いけど高嶋くんには、アレク役を降りてもらうわ 優輝:え・・・ 優輝:ちょっと待ってください、どういうことですか!? 慎一:圭介が帰ってきたんだ 優輝:は? 0:優輝が圭介に近づき、殴る 圭介:ぶおっ! 慎一:高嶋!? 優輝:今更、何しに来たんだよ・・・ 圭介:すまん・・・ 0:優輝がもう一回、殴る 優輝:演技から逃げたくせに、演技する場所に帰ってくんじゃねぇよ! 慎一:やめろ高嶋! 優輝:俺だって!俺だって、舞台に立ちてぇんだよ! 優輝:なのに、お前がいるせいで俺はずっと裏方 優輝:やっと、やっと俺も舞台に立てるんだって思ったのに・・・ 優輝:それなのに・・・お前が帰ってきたせいでまた舞台に立つ機会、逃すなんて・・・ 優輝:ふざけんじゃねぇよ! 優輝:お前のせいで、俺の舞台は台無しだ! 紅音:っ・・・! 0:紅音が優輝を殴る 優輝:うっ! 慎一:紅音!? 紅音:お前がふざけんじゃねぇよ・・・ 紅音:お前も見てきただろ、圭介の凄い演技の数々を 慎一:落ち着け紅音 紅音:圭介の・・・圭介の演技は、凄いんだよ! 紅音:私や慎一にも、到底真似出来ないくらい、凄いんだよ・・・ 慎一:・・・そうだな 優輝:・・・こんな部活、もうやってらんねぇよ! 0:無言で優輝が走り去っていく 圭介:待ってくれ! 慎一:いいよ圭介 圭介:でも・・・可哀想だろ・・・ 紅音:可哀想・・・ね・・・ 紅音:確かにあんたが前みたいな中途半端な演技をしたら、高嶋くんは凄く可哀想だわ 紅音:でもあんたが全力でやったら高嶋くんは全然、可哀想じゃない 紅音:言ってる意味・・・わかるわね? 圭介:あぁ、もちろん 0:栞菜が部室に入ってくる 栞菜:こんにちはー、あの、優輝がさっき凄い勢いで走り去ってったんですけど何かあったんですか? 紅音:白石さんが気にすることではないわ 栞菜:そ、そうですね 慎一:あー、あれだ、俺、今日歯医者予約してるの忘れてた、俺行くわー、じゃあなー 圭介:慎一! 圭介:絶対に、コンクール、賞取ろうな 慎一:・・・当たり前だろ、今更すぎるんだよお前はいつも 圭介:わりぃ 慎一:んじゃ 0:慎一が部室を出ていく 栞菜:っていうか、内津先輩!? 栞菜:戻ってきてくれたんですね! 栞菜:私、内津先輩の演技、大好きなので嬉しいです! 圭介:・・・そっか、それは良かった 栞菜:・・・あぁ、なんとなくわかりました、優輝が走り去ってった理由 栞菜:内津先輩が戻ってきたことにより、演技が出来なくなった、ですね? 紅音:まぁ、そんなところね 栞菜:私は、裏方の仕事が大好きなので、優輝の気持ちはわからないですけど、でも、優輝は本気で演技がやりたかったんだろうなぁって 紅音:・・・ 圭介:俺、譲るよ、高嶋くんに 紅音:えっ? 圭介:やっぱり、高嶋くんに申し訳ないし 栞菜:それとこれとは別です! 圭介:え? 栞菜:むしろ先輩には、演技で優輝を感動させるっていうことをする責任があります! 圭介:演技で・・・感動させる・・・ 栞菜:先輩が本気で演技すれば、きっと感動しますよ! 栞菜:現に、私が先輩の演技に何度も感動させられましたし 紅音:圭介、これでもまだ、高嶋くんに譲る? 圭介:・・・わかった、やるよ、本気で 紅音:楽しみにしてるわ、あんたの演技 圭介:あぁ 0:数日後 栞菜:こんにちはー、今日も優輝は・・・いないですね 慎一:退部届、出したんじゃなかったか? 栞菜:優輝がそんなことするはずありません! 栞菜:優輝は演技が大好きなんです! 栞菜:いつも笑顔で私に、こういう演技がしてみたい、こういう役がやりたいっていうのを話してくれるんです 紅音:・・・そう、じゃあそれは、来年、ぜひ叶えて欲しいわね 慎一:栞菜ちゃん、裏方の仕事、一人でもやれそう? 栞菜:まぁそれは大丈夫ですけど・・・ 紅音:本番までもうあと残りわずかよ、居ない人のことなんていちいち気にしてられないわ 慎一:そうだな、圭介、いけるか? 圭介:あぁ、バッチリ 栞菜:意外と冷たいんですね、先輩たち 紅音:圭介が戻ってきてくれたの、それだけで私は満足 栞菜:私、やめてもいいんですよ?裏方やるの 慎一:何言ってんだよ、栞菜ちゃんがいなかったら、誰が裏方やるんだよ 栞菜:そうですよね、演者はいくらいい人が揃っても、裏方がいなければ舞台は成り立たない 栞菜:演技の世界の不条理ですよね 紅音:白石さん?いったいどういう意味で言ってるの? 栞菜:私は、先輩たちの舞台、絶対に成功させたいって思いでやってきました 栞菜:でも今は、ぶち壊したいって気持ちです 慎一:おいおい、冗談はその辺にして、練習しよう? 栞菜:優輝を舞台に立たせろとは言いません、でも、優輝の気持ちも少しはわかってあげてください 栞菜:あれは冗談です、裏方の仕事はちゃんとやります・・・ 紅音:・・・白石さんって、誰よりもこの部のこと、気にかけてくれてるのね 紅音:私、副部長失格だなぁ 圭介:・・・ごめん栞菜ちゃん、俺ら、ちょっと余裕なくて、自分たちのことしか考えてなかったわ 栞菜:え? 紅音:そうね・・・ 栞菜:な、なんか、空気重くしてすいません 慎一:いや、大丈夫、じゃ、練習しよっか 0:さらに数日後、最後のリハ終わり 紅音:・・・終わったわね、最後のリハ 慎一:そうだな、結局、高嶋はこの日まで一度も顔出さず・・・か 栞菜:まぁ、最悪、裏方なんて私がちょっと頑張れば一人でやれますので! 紅音:・・・圭介 圭介:ん? 紅音:頑張ろうね、明日 圭介:・・・もちろん 慎一:本当は前夜祭とかやりたいけどしっかり寝ないといい演技できないから俺は帰って寝る!また明日! 紅音:ふふ、私たちも帰りましょっか 栞菜:ですね! 栞菜:あー!明日楽しみだなぁ! 0:翌日 慎一:・・・来たな、本番当日 紅音:緊張してんの? 慎一:ば、バカ言うな!き、緊張なんて 紅音:めちゃくちゃしてるじゃん 慎一:そ、そりゃ緊張するだろ! 慎一:だって最後のコンクールだぞ! 紅音:圭介を見て 慎一:ん? 紅音:めちゃくちゃリラックスしてる 慎一:なんであんなリラックスできるんだ 紅音:スポーツだって、音楽だって、演技だってそう 紅音:練習でやってきたことを、本番で出し切ればいいだけ、そうでしょ? 慎一:・・・まぁ、そうか 栞菜:おはようございます! 慎一:おー、栞菜ちゃん、おはよう 栞菜:いよいよですね、私も頑張るので、皆さんも頑張ってください! 慎一:いやぁ裏方の仕事、本当に助かるよ 栞菜:任せてください、裏方は私の生き甲斐です! 慎一:心強い 優輝:お、おはよう・・・ございます・・・ 栞菜:優輝!? 慎一:・・・来てくれるって信じてたぞ、高嶋 優輝:俺、なんだかんだいって先輩たちの演技も、先輩たち自身のことも、好きなんで・・・ 優輝:最後は、見届けたいなって・・・ 紅音:ありがとう 圭介:・・・行こうか、そろそろ 慎一:そうだな 0:舞台裏へ 慎一:あーやべ、緊張してきた 圭介:俺も緊張してる 慎一:え、お前めちゃくちゃリラックスしてたじゃん 圭介:固まってただけだ 慎一:俺より緊張してんな 栞菜:三人ともやっぱ、衣裳めちゃくちゃ似合いますね! 紅音:ありがとう、白石さんが作ってくれた衣裳、とても素敵よ 栞菜:わー!喜んでもらえて良かったです! 優輝:内津先輩! 圭介:ん? 優輝:・・・アレク、頑張ってきてください 圭介:あぁ、頑張るよ 紅音:もう時間もないわ、そろそろ舞台上に行きましょう 慎一:いよいよ来たんだな、その時が 紅音:まだ緊張してんの? 慎一:もう解れた 紅音:そう、圭介は? 圭介:大丈夫だ、紅音こそ緊張して 紅音:バカ言わないで、最初から緊張なんかしてない 圭介:そっか 紅音:さぁ、緞帳が上がるわよ 慎一:あぁ、美しき姫は我が手に、いよいよ開演だ 0:優輝と栞菜 栞菜:優輝、大丈夫? 優輝:あぁ、色々と負担かけたね、衣装まで一人で全部、作らせちゃって 栞菜:大丈夫、私、裏方の仕事大好きだから 優輝:音楽はここで変えればいいの? 栞菜:そう、シーンに合わせて押してくれれば、流れるようになってるはずだから 優輝:わかった 栞菜:ねぇ優輝 優輝:ん? 栞菜:まだ悔しい? 優輝:まぁね、でも、先輩たちは最後なんだもん、まだ俺らにはいくつものチャンスがあるだろう? 栞菜:優輝さ、前、私にこんな演技がしたい、こんな役がやりたいっていうのを話してくれたじゃん? 優輝:あぁ、話したね 栞菜:来年、全部叶えようね 優輝:全部、叶うかな 栞菜:叶えるんだよ! 優輝:そうだね、叶えよう 栞菜:じゃあ、緞帳上げるね、先輩たちの最後の舞台、しっかりこの目で見届けないと 0:緞帳が上がる ハベル:あぁ、どうして、なぜなんだ、なぜ私の隣には美しき華がないのだ! アレク:君のような醜い男に華麗な女性な似合わないだろうに ハベル:な、なんだ貴様! アレク:ちょっと自分の国に退屈して、こっちの国に遊びに来てみたら、こちらの国の王子のとんでもない戯言が聞こえたもんだからつい ハベル:アレクか・・・ アレク:なぜ君に女性ができるとでも思っている、さすがに夢を見すぎじゃないか? ハベル:そうかそうか、だが残念だなアレク アレク:なんだ ハベル:実は今日、遠い国からそれはそれは美しいお姫様がこちらの国に遊びに来るのだ アレク:ほう ハベル:そしてそのお姫様と私はきっと結ばれることになるだろう! アレク:それは面白い話を聞いたもんだ ハベル:な、何をするというのだ アレク:せっかくこっちの国に遊びに来たのだ、何もせず帰るというのは、もったいない アレク:私もそのお姫様というものに顔合わせをしたいものだ! ハベル:いいだろう、私の良心で貴様にも姫の顔をお見せしてやろう アレク:いいのか?私を見たらお姫様はきっと私のものになるだろうが ハベル:なるほど、貴様よりも私の方が上だということを世に知らしめるいい機会になるだろう! アレク:はっ、貴様がどれだけ自惚れてるか自覚するいい機会になる、の間違いだろう ハベル:それはどうだろうな、お、姫様が到着されたようだ ルキナ:おはようございます、ルキナと申します、今日はよろしくお願いしますわ ハベル:お待ちしておりました、姫様! ハベル:この国の王子、ハベルと申します、今日はどうぞよろしくお願いします ルキナ:よろしくお願いしますわね、あら、そちらの方は? アレク:どうも、隣国の王子のアレクでございます、よろしくお願いします ルキナ:あら、隣の国の王子様でいらっしゃいますのね、よろしくお願いしますわね アレク:ええ、ところで姫様 ルキナ:あら、なんでしょうか アレク:こんな国よりも、私の国に遊びに来ませんか? アレク:ここと違ってとてもいい国ですよ! ハベル:貧しい国のくせによく言ったもんだ ルキナ:お誘いはとても嬉しいのだけれどごめんなさいね、私、今日はこちらの国に遊びに来ましたので ハベル:そら見ろ、姫は今日は私の国に遊びに来たのだ アレク:では後日、どうか私の国へおいでくださいませ ルキナ:あら、嬉しいですわ、後日、そちらの国にも遊びに行かせてもらいますわね アレク:それはありがたきお言葉です ルキナ:では私はお城の中にお邪魔させてもらいますわね ハベル:どうぞご自由におくつろぎください ハベル:では私も アレク:待てハベル ハベル:・・・姫様、先に行っててください、私もすぐそちらへ向かいます ルキナ:わかりましたわ 0:一度、暗転して明転が入る ハベル:なんの用だ アレク:勝ったなんて思うんじゃないぞ ハベル:なんの話だ アレク:絶対にあの姫は俺のものにする ハベル:まだ言ってるのかそれ ハベル:いいかアレク、きっとお前の国には姫様は遊びに行かないぞ アレク:どうしてお前にそんなことが言える ハベル:俺は姫様を城に囚うつもりだ ハベル:二度と、どこにも行かせないように アレク:そういや昔からお前は束縛癖があったな ハベル:美しき姫は我が手に アレク:本当にそう思ってるなら勘違いも甚だしいな ハベル:貴様も同じだろう、姫が自分のものになると思ってんなら アレク:・・・ ハベル:なんだ、何も言い返せなくなったか? アレク:お、お前に姫はふさわしくない! ルキナ:二人ともいい加減におやめください! ハベル:本当に姫にふさわしくないのは貴様の方だ! ルキナ:・・・わかりました、全て私が悪いのですね アレク:まさか!姫様は何も悪くなんか ルキナ:私が原因で争いが起きるならば、私なんて死んでしまえばいい! ハベル:姫様、貴方のような美しきお方が死んでいいはずありません! ルキナ:うるさいわ、私の生死なんてあなたたちが決めることではない! ハベル:姫様、早まらないでください! ルキナ:うっ・・・ 0:ルキナが大量出血する ハベル:姫様ぁ! ハベル:・・・貴様のせいで、姫様は・・・姫様は! アレク:・・・争いは悲しみしか生まないとは、本当のことのようだな・・・ ハベル:・・・ アレク:・・・すまぬハベル、もう会うことはないだろう ハベル:また逃げるのか アレク:っ・・・ ハベル:そうやって何もかも逃げ続けて、それでも東の国の王子なのか! アレク:・・・お前に何がわかる ハベル:アレク、お前はもう少し王子という自覚を アレク:うるさい! アレク:西の国は良いよなぁ、裕福で富もあって、困ることが何もなくて! アレク:西の国のお前が、東の国の経済状況なんて考えたことがあるか! ハベル:・・・あるわけないだろ、でも、 アレク:でも?でも何だ!言ってみろ! ハベル:でも!お前のことは、ただの敵ではなく、良きライバルだと思ってた・・・ ハベル:そのうち、そのうち本当の友になれるんじゃないかと思ってた ハベル:ずっと思ってた、でも無理だよな ハベル:だってお前はそれに応えてくれようとはしない! アレク:違う! アレク:違うハベル、俺もだ! ハベル:俺も? アレク:俺も、お前のことは良きライバルと思ってた、いつかは何でも打ち解け合えるような仲になりたいと思ってた! アレク:だけどお前と違って、俺は不器用なんだ アレク:不器用だからずっとお前に本当の気持ちとか伝えられずにいた アレク:今日だってそうだ、姫を口実にお前と精一杯戦って、やっぱり俺らって、なんだかんだ良いライバルで友達だよな、って言いたかった ハベル:・・・そうだったのか アレク:俺は姫なんてどうでも良かったんだ、ただお前と戦って、最後には笑い合いたかった アレク:昔と同じように ハベル:子供の頃は素直だが、大人になるとだんだんと伝えたいことも伝えられなくなるもんだな アレク:ハベル・・・今更こんなこと言うなんて俺はどうしようもないクズだけど アレク:俺と、友達になってくれないか ハベル:アレク・・・いや、こちらこそ素直になるのが遅すぎたのだ、こんな俺でよければ友達になってくれ アレク:・・・あぁ!もちろんだ! ルキナ:姫を口実にお互いに友達になりたがってたハベルとアレク、彼らはきっと、永遠の仲となるでしょう、おしまい 0:緞帳が降りる 0:舞台裏 栞菜:先輩方ー!お疲れ様でしたー! 慎一:ありがとう、お疲れ様 紅音:圭介 圭介:ん? 紅音:やっぱり、あんたの演技って最高ね 圭介:あぁ、やっぱり演技って楽しいな・・・ 慎一:だろ?演技ってやっぱ楽しいんだよ 圭介:あぁ・・・ 優輝:内津、先輩・・・ 圭介:ん? 優輝:先輩、ずるいっすよ・・・ 優輝:やっぱ先輩の演技は俺なんかじゃ到底真似できないですし、先輩の演技は最高です 圭介:次はお前の番だぞ 優輝:えっ 慎一:そうだな、言ったろ?俺たち三人は最後の演技だって 紅音:高嶋くん、白石さん、あなたたちがこれからの演劇部を引っ張ってくのよ 圭介:優輝の演技、楽しみにしてるぞ、俺は 紅音:そうね、猿芝居なんてしたら許さないから 栞菜:先輩たち・・・本当に終わりなんですね・・・これで 慎一:大丈夫だ、お前らなら俺らに負けないくらいの演技ができる 優輝:・・・俺、先輩たちに負けないくらい一生懸命に演技、頑張ります! 圭介:そうだな、そうしてくれ 紅音:当たり前でしょ?一生懸命やらなくていい演技なんてひとつもないから 慎一:さて、そろそろ賞の発表だ 紅音:あれだけやり切ったのよ、きっと大丈夫 圭介:そうだな、これで取れなかったらもうしょうがない 0:賞発表 慎一:銀賞・・・か 紅音:まぁ銀賞なら、いい方でしょ 栞菜:私の中では、先輩たちがぶっちぎりの金賞です! 優輝:俺の中でも!先輩たちがぶっちぎりの金賞です! 慎一:ありがとな、二人とも 紅音:金賞はあんたたちに任せたわよ 優輝:は、はい!絶対取ります! 紅音:言質、取ったからね 圭介:頑張れ 慎一:じゃあ、最後に打ち上げ感覚で飯でも食いに行きますか! 栞菜:わー!私、寿司がいいです! 慎一:ガッツリと焼肉行くぞ! 紅音:ダイエット中なんだけど 慎一:今日くらいチートデイだ! 紅音:・・・ふふ、そうね、行きましょ 0:しばらく開けて 優輝:やっぱり、先輩たちの演技は凄い、俺たちにとっちゃ雲の上の存在だ 優輝:でも、同時に目指すべき目標でもある 栞菜:私たちは、これからもずっと先輩たちの背中を追いながら、演技を続けていく 栞菜:いつかその背中を越えられるように 0:終わり