台本概要

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タイトル 灰になった偶像〜教団腐敗事件〜
作者名 大輝宇宙@ひろきうちゅう  (@hiro55308671)
ジャンル ミステリー
演者人数 5人用台本(男2、女3)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 新興宗教団体の「修行」の最中に女性信者が死亡した。
警視庁犯罪対策課の黒岩と高守は、
教団ぐるみの殺人であることを立証できるか捜査を開始する。
表面上は穏やかな怪しい教祖、それを補佐する女性秘書・・
調べていくうちに腐った教団の内部が見えてくる。

事件シリーズとして数本書いています。この作品だけでも楽しんでいただけるよう作っているはずですので
どうぞご利用下さい。
シリーズに興味を持たれた方がいましたらリリース順は異なりますが、現段階の時系列は下記です。
時系列が前後することでキャラクターの年齢が怪しくなってきました・・。

1黒いインク〜連続親殺し事件〜
2幸せの青いバラ〜連続薬物事件〜
3朱色の盃〜跡取り誘拐事件〜
4ダークレッドの婚姻〜許嫁ひき逃げ事件〜
5灰になった偶像〜教団腐敗事件〜
6透明連鎖〜闇自殺サイト事件〜



ご利用の際、報告は不要ですが、作者名、作品タイトルは枠タイトルなどに明記してください。
作者…大輝宇宙

その他ご利用に関する詳細は、Xの固定コメントを必ずご確認ください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
黒岩 74 黒岩仁(くろいわじん) 警視庁犯罪対策課課長。年齢は50代前半を想定 高守より年上であればOKです。刑事の勘が鋭い。 人情、冷静、よく食べる。愛妻家。クライムラボに勤める雪乃が妻。
高守 70 高守美紀(たかもりみき) 警視庁犯罪対策課刑事。30代前半を想定。 交通課勤務を経て刑事デビューして日が浅い女性刑事。 まっすぐ、元気、正義感
宇留野 38 宇留野聖源(うるのせいげん) 新興宗教団体「富国の泉」教祖。 20代後半〜想定。 温厚そうだがその実態は自信家で私欲にまみれている。 温厚、狡猾、崩壊本性
三上 40 三上佐保子(みかみさほこ) 新興宗教団体「富国の泉」広報担当兼教祖の秘書 宇留野のことを盲信している。 情念、執念、忠実
雪乃 32 黒岩雪乃(くろいわゆきの) 警視庁にも協力する科学捜査機関クライムラボに勤める、法医学者。 黒岩の妻 冷静、おちゃめ、いい匂い、余裕
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:警視庁 犯罪対策課。一組の老夫婦が会議室から黒岩、高守と共に出てくる。夫婦は深々と黒岩たちに頭を下げ、去っていく。その後ろ姿を黒岩たちは見送る。 黒岩:・・・(ため息) 高守:おつらいでしょうね、あのご夫婦。 黒岩:そうだな・・。 高守:久米島(くめじま)みゆきさんは、一人娘なんですね。 黒岩:ああ、そう言ってたな。 高守:教祖を殺人罪で立件・・できるでしょうか。 黒岩:どうだかな・・。 高守:ちょっ・・!黒岩さんがそんな弱気でどうするんですか! 黒岩:おめぇだって、半信半疑だったじゃねぇか。 高守:それはそうですけど・・・。 黒岩:ま、どこまで出来るかは分からねぇが。教団ごとぶっ潰してぇって目論見(もくろみ)が「オカミ」にゃあるんだろう。だから俺たち犯罪対策課にお鉢が回ってきたっつーこった。 高守:あのご夫婦の無念を晴らすためにも、頑張らないといけませんね! 黒岩:とりあえず、ガイシャ・・久米島みゆきを解剖した医師に話をきくか・・。 0: 0:クライムラボ。職員室 雪乃:ご遺体に変わった点? 高守:はい。2ヶ月前の事件なのですが、なにかないかと。 雪乃:どういうことなの?犯人は捕まったって話だったでしょう? 黒岩:あくまでも、その場にいた奴はな。 雪乃:他に関わってる犯人がいるってこと?まぁ・・複数犯の可能性は否めないご遺体ではあったけど・・。 高守:被害者の久米島みゆきさんは、宗教団体「富国の泉(フコクのいずみ)」の信者だったんですよね。死因は、溺死・・・ 雪乃:そうよ、水行(すいぎょう)とかいう修行中の、事故死。でも、修行の内容から事故が起こってもおかしくない状況であることは予測の範疇。だから業務上過失致死ってことになったと聞いてるわ。 黒岩:そうだ。その水行を執り仕切っていた前田という男が逮捕されている。 高守:前田は教団内では「アップトレーナー」という役職だったようですね。会社でいうところの課長クラスらしいです。 雪乃:ふーん。 黒岩:雪乃、死体の様子を教えてもらえるか。 雪乃:いいわ。ご遺体は、手首表層に内出血がみられたのと、司法解剖の結果、肺に結構な量の水が入り込んでいたことが分かった。水質は、水行を行ったプールの水と一致。直接の死因は溺死だけど、何者かに体の自由を奪われ、水を飲まされた他殺の可能性が高い。検案書にはこう書かせてもらってる。 黒岩:実際の、教団の修行内容はどうだ、高守。 高守:はい!その場にいた関係者の話から、水行は手足をロープなどで拘束し、顔をプールにつけ耐えられる限界まで耐えさせて、また水の上に上げるという方法だったようです。その際に、アップトレーナーである前田が頭を押さえつけていたみたいですね。 雪乃:苦しくても自分では上がってこられないってこと?それって殺人なんじゃ・・。 高守:捜査一課も殺人で立件したいみたいなんですけど、殺意の証明ができなくて業務上過失致死で一回逮捕してから、証拠を固めて殺人罪での立件を狙っていたんです。 雪乃:なるほどね。 黒岩:そんで今回、安藤警視正からの指示で捜査権がうちに移った。 雪乃:犯罪対策課に? 高守:そうなんです!黒岩さんの刑事の勘をバッチバチに発揮してほしいってことなんですよ! 黒岩:うるせぇ。お前が頑張れ。 高守:もちろん頑張りますよ!黒岩さんとのコンビもだいぶ板についてきたんじゃないかって言われ始めてるんですよ? 黒岩:知らねぇな。 高守:そんなぁ! 雪乃:ふふふ。でも、犯罪対策課に事件が回ってくるってことは、その前田って人の殺人の証明だけじゃないんでしょう? 黒岩:ああ、教団が組織ぐるみで久米島みゆきを殺そうとしたんじゃないかっつー話でな。 雪乃:そういうこと・・・。 黒岩:なんでも久米島みゆきは、教団を脱退しようとしていたらしいんだ。 高守:今日、本庁に久米島さんのご両親が来て、そう仰ってました。 雪乃:裏切り者として殺されたってこと? 黒岩:殺意の証明だって難しいっつーのに。 高守:でもでも!教団には沢山の人がいますからね!殺人指示を聞いた人がいるかもしれませんよ!聞き込み100回の心意気で頑張りましょうっ! 黒岩:そう上手くいかねぇのが、宗教ってやつだよ、高守。 雪乃:そうねぇ・・。 高守:? 0:不思議そうな顔をする高守 0: 0:富国の泉。教団本部 宇留野:今回前田が引き起こした事故・・いえ、事件を、私も代表として重く受け止めております。 高守:代表?宇留野(うるの)さんは、教祖ですよね? 宇留野:教祖は、教えの祖(そ)と書きますが、私はそのように崇高な立場ではありません。あくまで皆と思想を共有しようという集団の代表にすぎませんので。 三上:代表は、謙虚でいらっしゃいますので。 高守:あなたは・・? 宇留野:私の秘書で、当団体で広報を担当している三上です。 三上:三上です。よろしくお願い致します。 黒岩:私は宗教というものとは、縁がないもんで・・具体的にこちらはどのような教団なんでしょう。 宇留野:私ども富国の泉(ふこくのいずみ)は、古き良き日本の心を大切にしようという、大変ざっくりと申し上げますと、そのような思想の集団です。 黒岩:ほぅ。古き良き日本の心と、言うと? 宇留野:そうですねぇ・・集団行動であったり、耐え忍ぶ我慢強さであったり、義理と人情であったり、そういう感じです。 三上:最近の若い方にはなかなか受け継がれていない考え方ですが、私たちのセミナーへの参加などをキッカケに、この素晴らしい考えに共感してくれる方も多いんです。 黒岩:どのくらいの人が入信してるんですか? 宇留野:国外の支部も合わせますと、大体3万人くらいでしょうか。 高守:さんまん!? 三上:おほほ、元気な方ですわね 高守:失礼しました・・。 黒岩:(小声で)バカヤロウ 高守:でも、そんなに信者の方が多いと、ひとりひとり把握するのは難しいですね。 三上:そうですね。いくつかに支部を分け、そこのリーダーが月に一度代表に謁見することになっています。そこで各支部の活動の様子を発表してもらっているんです。 宇留野:月に一度の謁見だけでなく、オンラインでも各支部の相談には毎日乗ってやり、指示をだしたり、教えを説いたりしております。 高守:なるほど。 黒岩:今回亡くなった、久米島みゆきさんとは直接の面識は? 三上:ございませんでした。 黒岩:彼女が脱退したがっているという話は聞いていらっしゃいましたか? 三上:いえ、存じませんでした。 宇留野:(制するように)佐保子。・・失礼しました。秘書は覚えていなかったようですが、アップトレーナーの前田から報告は受けていました。会ったことは・・どうだったろう。 三上:ございません。 宇留野:報道で写真を見た時に、ああ、この人が・・と思ったんです。だから、会ったことはないと思いますね。 高守:そうですか。今回逮捕されたアップトレーナーの前田氏は、かなり激しい水行の末、久米島みゆきさんを殺してしまったわけですが、修行はどれもそんなに厳しいものなんですか? 宇留野:いえ、私どもには年配の信者も多くおりますので、それほど激しいものはありません。 三上:今回のことは、前田の一存で行われました。正直、代表は困っております。 宇留野:私のことはいいから。 三上:ですが、はっきりさせておきませんと・・! 宇留野:ありがとう、大丈夫だから。 三上:・・はい。 高守:今回の水行は、どんな目的があって行われたんですか? 宇留野:水行は、己の限界に挑戦し忍耐力を養う修行です。もちろんすぐに水から顔を上げては意味がありませんが、今回前田がやったように手足を拘束して・・というのは、私の修行方針とは違いますね。 三上:よろしければ、修行風景をご覧になって行かれますか? 高守:あ、はい。 黒岩:すみません、それはまた後日改めてお願いにあがります。宇留野代表、最後にもう一つだけ。 黒岩:久米島さんが脱退する事をあなたはどう思いましたか? 宇留野:なるほど・・。私は、富国の泉から出てゆくことはいい事だと思いません。しかし、信じるものを違えることもある。それを逆恨みして彼女を苦しめるよう指示したりしませんよ? 高守:そんなことは一言も・・ 宇留野:お聞きになりたいのはそういうことでしょう?刑事さん。私にやましい事はありませんから、どうぞ好きなだけお調べになってください。 黒岩:そいつぁ・・ありがとうございます。今日はこれで一旦帰らせてもらいますが、またちょくちょくお話伺いに来ますので。見学もその時に。 宇留野:ええ、どうぞ。お待ちしております。私が祈祷などで手が離せない時も、三上がおりますから。三上、刑事さんたちを門までお送りしなさい。 三上:かしこまりました。 0: 0:本庁へ戻る車の中。運転は高守。黒岩は助手席に座っている。 高守:なかなか感じのいい人でしたね、教祖の宇留野さん。 黒岩:そうかぁ? 高守:富国の泉の考え方も、テロとか企てるカルト教団と違って、日本の義理人情を大事に!っていうのは共感できます。 黒岩:どーだかなぁ。 高守:逮捕された前田も、教祖からはそんな指示はされていない、自分が勝手にやったことだって供述してるんですよね。 黒岩:ああ。・・高守、おめぇ雪乃んとこで、聴き込み100ぺんとか言って張り切ってたが、俺たちの協力者なんて一人もいないと思えよ。 高守:ええっ? 黒岩:信仰つーのは、かたいもんなんだ。自分達の信じるものが、集団が、潰されかねないと思ったら、皆口を噤ん(つぐん)じまう。 高守:そういうもんなんですね。あ、そういえば、富国の泉(フコクのいずみ)の信者の数は三万って言ってましたけど、信者の層はどんな感じなんですかね? 黒岩:層? 高守:はい。男が多いとか、若い人が多いとか。 黒岩:年配が多いって宇留野が言ってただろう? 高守:うーん。でも、本部にいた人を見て、黒岩さん気づきませんでしたか? 黒岩:何を。 高守:教団本部で働いてる人、みーんな綺麗な若めの女性でしたよ。三上さんも、お綺麗な方でしたし。 黒岩:あぁん?そうか? 高守:もー!黒岩さん普段は勘が冴えてるのに!あ、分かった!毎日綺麗な雪乃さん見てるから、彼女達の美しさに気づかなかったんですよきっと! 黒岩:あぁ?バカ言ってねぇで、黙って運転しろ! 高守:(焦って)はぁいっ。 0: 0:数日後、富国の泉本部。三上の案内のもと、水行の見学を終えた黒岩と高守。 三上:本日は、代表が手を離せませんので、私がご案内致しましたが、他に見学なさりたいことはございますか? 高守:ありがとうございました。やっぱりアップトレーナーの前田氏が、修行をかなり過酷なものにしていた感じでしたね。 三上:ええ。私も驚きました。ご覧いただいた通り、信者はみな真面目にやっていますが、子供の息止め競走のようなものです。まさかあんな水行中に人が亡くなるだなんて・・。 黒岩:本当に、宇留野代表からは指示していないんですか? 三上:はい。しておりません。 高守:すごい。 三上:何か? 高守:ああ、いえ・・。こないだお会いした時にも思ったんです。三上さんって、宇留野さんのこと全部把握してるんだなーって。今も間髪入れずに答えたので・・。 三上:当たり前ですわ。代表は、私のマスターです。私の全てはあの方のもの。あの方の一挙手一投足、一言一句、全て大切に保管しております。 高守:心に、ですか・・。 三上:ええ。そんなところですわ。 黒岩:宇留野代表は、亡くなった久米島みゆきさんと面識がないと言っていましたが、あなたはどうでしたか? 三上:私も、セミナーなどで一緒になったことはあるかもしれませんが、名前と顔が一致するような面識はございませんでした。 黒岩:なるほど。久米島さんがこちらに入信されたのは、比較的最近だと伺いましたが。 三上:はい。彼女の過去の修行歴を調べたものです。(書類を渡す)彼女は一年半前に、前田のおりました東京西支部から入信したようです。 黒岩:(資料に目を通しながら唸るような相槌)入信して半年は西支部での修行を行ってますが、半年~先々月まで修行の記録がありませんね。 三上:ええ。 高守:何故ですか? 三上:詳しいことは分かりかねますが、休んでいたようですわ。 黒岩:休んでいた・・。脱退を考えていたんだから、先々月から修行に戻るというのも妙な話だ。 高守:怪我や病気ってわけじゃないんですか? 三上:分かりませんわ。ただ、修行をしていなかったとしか・・。 黒岩:この間(かん)の久米島さんのことは、こちらでも調べてみます。今日はありがとうございました。 0:クライムラボ モニタールーム 黒岩:俺が刑事(でか)になりたての頃は、防犯カメラのビデオテープ見ながら必死にホシを探したもんだが・・。 雪乃:(パソコンを叩きながら)今では特徴を覚えたAI(エーアイ)が、一発で複数人の中から見つけ出せる時代よっ。 黒岩:恐れ入るぜ。 雪乃:出たわ! 黒岩:おっ! 雪乃:この画像解析、この間あなたが紹介してくれたアイミーテックのお嬢さんが導入してくれたの。もう便利すぎるわ! 黒岩:ほぉん、あいつがやったんなら間違いねぇな。 雪乃:教団本部がある四ツ谷駅の16の防犯カメラを半年前から久米島さんが亡くなるまでの期間調べられた。 黒岩:たったこれだけの時間でか!? 雪乃:そうなのよ、超すぐれものよね。うちの所長も泣いて喜んでるわ。 黒岩:はぁ〜ついていけん。 雪乃:しっかりしてちょうだいよ?あなた(笑う) 雪乃:久米島さんは四ツ谷駅をかなりの頻度で訪れてるわ。週に2回は利用してるわね。 黒岩:ほぉ。行き先は教団本部か? 雪乃:うーん・・最寄りの西口を出たところまでは分かるけど、この先は駅の防犯カメラじゃ追えないわ。 黒岩:たしかにな。もう少し周辺の店やビルに協力を頼むか・・。 雪乃:やっぱり西支部で修行を再開した頃からは四ツ谷駅への出入りはなくなってるわね。 黒岩:空白の期間は、久米島みゆきは本部通いしてたってことか・・。しかし何故それを三上は隠すんだ? 0:高守が勢いよく入ってくる。 高守:黒岩さん!信者の証言が取れました! 黒岩:何ぃ? 雪乃:よく証言してくれる人がいたわね! 高守:あぁ、正確には、元信者の方です。 黒岩:ほぉ、なるほどな。んで、何か分かったのか。 高守:はい!えっと、話してくれた方は、ちょうど半年ほど前に教団を脱退しています。それ自体、辞める際にはかなり支部のアップトレーナーからの説得もあり、大変だったみたいです。 黒岩:(促す相槌) 高守:証言してくれた方も、それはそれはお綺麗な方なんですが、やっぱり代表の宇留野は本部に綺麗な女性を集めていました。 雪乃:あら、ハーレムでも作ってたの?(冗談めかして) 高守:そうなんです! 黒岩:(気に入らない鼻息) 高守:宇留野は、全国の支部から綺麗な人を集めて本部で働かせ、自らと関係を持たせていたそうです。 黒岩:宗教の教祖と女とカネは切っても切れねぇってか。 雪乃:信仰心を利用して、自分の私欲を満たす・・下衆野郎ね。 高守:その動画だとか写真なんかも辞める際には引き合いに出されてしまい、辞められないようになっているそうです・・。証言をくれた元信者の方も、職場に写真を流されたって言ってました。 黒岩:なんつーことしやがんだ。 雪乃:酷すぎるわ・・。 高守:その方は、教団を法的に訴える準備をしてるって仰ってました。 黒岩:(唸るような相槌) 高守:それで、辞める一週間ほど前に本部で久米島みゆきさんと会ったそうです。彼女もまた、宇留野のハーレムとして西支部から呼ばれていたんですよ! 黒岩:空白が繋がったな。 高守:宇留野は、ハーレムだったみゆきさんが辞めることを許せず、前田に指示を出して殺害した・・。 黒岩:それを証明するには足りねぇな。殺害指示をした証拠が、無ぇ(ねぇ)。 高守:教団内を家宅捜索して、ハーレムの女性達の写真を押収・・証言してくれた方への脅迫罪で一度ひっぱる・・くらいでしょうか・・。そんなぁ・・ 黒岩:家宅捜索か・・一か八か賭けてみるか。 0:富国の泉本部。代表の執務室に宇留野と三上がいる。 三上:先日のお話ですが・・。 宇留野:ああ。前田の穴を埋めてもらいたいというやつかな? 三上:はい・・。ですが、私は今までずっと代表の身の回りのお世話を 宇留野:(遮って)君には、西支部のアップトレーナーとして皆を導いてほしい。 三上:代表・・! 宇留野:三上、君はとても有能な信者だ。だからこれからも私の思想を広めてほしい。 三上:信者・・。 宇留野:私の思想の一番の理解者は君だと思っているよ。 三上:ええ、ええそうです!あなたの気持ちはわたしが!わたくしが!一番よく分かっていますわ。だからこそ私はこれからもずっとお傍で・・ 0:ビーっと来客を知らせるブザーが鳴る 宇留野:来客のようだ。三上、お出迎えしろ。 三上:・・かしこまりました。 0:黒岩と高守が、三上に連れられ執務室へ入ってくる。 宇留野:ご無沙汰しております、刑事さん。 高守:こんにちは。先日は、水行の見学をありがとうございました。 宇留野:いえいえ。祈祷で手が離せず、申し訳ございませんでした。それで?本日はどのようなご用件ですか? 黒岩:家宅捜索のお知らせに参りました。 三上:令状はあるんですか? 高守:もちろんです。裁判所から許可がおりました。 宇留野:いったい何をお探しになりたいんですか? 高守:宇留野さん、あなた、信者の女性に個人的な関係を求めて、それを脅しの材料に使いましたよね? 宇留野:何のことでしょうか。 黒岩:しらばっくれるか。脱退しないよう脅された挙句、職場にあんたに撮られた写真を流されたって証言がとれてるんだぞ。 宇留野:・・私を欲の権化のように見ていらっしゃるようだ。たしかに、信者は皆わたしにあやかりたいようで、私との個人的な関係を望むものも多いです。しかし、そこでわたしが誰とどうなろうとそれは私個人の問題でしょう? 高守:それは、そうですけど・・でも!脅されて辛い思いをした人がいるんです! 宇留野:どこからそういった写真が流出したのか、全く見当もつかないですね。私は脅していません。この日ノ本(ひのもと)の神に誓ってもいい。 高守:その証拠を私たちは探してるんですよ 宇留野:あっはははは!まだ見つかってもいないのに、よくそんなふうに私を犯人扱いできますね。どうぞどうぞ、この本部でも、この上の自宅でも好きなだけ調べてください。でも、何も見つからなかったその時は・・お分かりですよね? 黒岩:その時のことは、その時考えますよ。 宇留野:随分自信がおありのようだ。ですが、あなた達は大事なことを忘れている。 黒岩:何だ。 宇留野:あなた達が本当に調べたいことですよ。あなた達は、わたしが教祖という立場を使って、私欲を満たしていることで、私を裁きたいんですか?違いますよね、あなた達は、久米島みゆき殺しを私が指示したという証拠を探しているのでしょう? 高守:そうです。 宇留野:そんなものは、なーーーい!!あっはははは!どこにもない!そんなものは!馬鹿どもめ!好きなだけ調べればいいさ!無駄だがな! 高守:いえ。もう家宅捜索は始まっています。 宇留野:?どういうことだ。まさか礼状を見せずに勝手に始めた?そういうことか? 高守:いいえ。我々が捜索しているのは、ここでも、貴方のご自宅でもありません。 宇留野:なんだと? 0:黒岩のスマホが鳴る 黒岩:(電話をとる)おう。おう・・そうか、間違いねぇな。よし、科捜研が手一杯だってんなら、クライムラボに回しとけ。頼んだぞ。(電話を切る) 黒岩:宇留野、証拠はあがった。 宇留野:は? 黒岩:お前が「水行に見せかけて殺してしまえ。やれるな?」と言っている音声が入ったICレコーダーが押収されたんだよ。これから音声の解析に入る。 宇留野:何言ってる・・。どこを・・どういうことだ。 黒岩:我々がICレコーダーを押収したのは、そこにいる、秘書の三上の自宅だ。 宇留野:!? 黒岩:三上、母親の許可を取って部屋を調べさせてもらった。さすが代表の一挙手一投足、一言一句すべて大切に保管していると言うだけあって、宝の山だったようだ。ICレコーダーの他に、隠し撮りされた女性たちと宇留野の写真も押収できたそうだ。 宇留野:・・なぜ・・なぜそんなものに録音した!佐保子!! 三上:私は、あなたのすべてを大切にしたかった・・ただそれだけです。 高守:宇留野代表、いえ、宇留野聖源(せいげん)、三上佐保子、署までご同行下さい。 宇留野:(三上に向かって)こんなことをして、ただで済むと思うなよ!お前を一生許さないからな!恩を仇で返すなんて・・ふざけた真似を・・! 0:宇留野刑事二人に連れていかれる。 三上:・・・。 0: 0: 三上:・・。 高守:あなたは、宇留野の指示によって、殺人が行われることを知っていた。それでもそれを見過ごした。そして、久米島みゆきさんが亡くなったあとも、その計画を隠した。犯人隠匿罪(いんとくざい)に問われる可能性もあります。 三上:それだけのことをしたんです。構いません。 黒岩:やりきったような顔だな。どこか清々しいというか。 三上:そんなわけございませんわ。 高守:どうして・・どうしてあの時、「保管してる」なんて言ったんですか? 三上:え? 高守:それがなければ、私たちはあなたの家を探す賭けには出られなかったかもしれない。 三上:私、そんなこと申しましたかしら?・・覚えておりませんわ。 黒岩:おめぇは、家宅捜索に入られるように仕向けたんじゃないか?なのに、ICレコーダーも、お前と宇留野の写真もそのままだった・・。お前もやはりハーレムの一人だったんだな。 三上:ねぇ、刑事さん達。・・愛してるの反対の感情はなんだと思います? 高守:えっ・・愛してるの反対・・。大嫌い? 三上:ふふふ。・・無関心ですわ。 三上:私は、ただあの方のことを愛していたんです。深く、深く。 0: 0: 0:クライムラボ。音声解析の結果を取りに黒岩、高守が来ている。 雪乃:なるほどねぇ 黒岩:何がだ。 雪乃:あなたも高守さんも、鈍すぎるわよ! 高守:ええ? 雪乃:恐らく、その三上って秘書は、ハーレムから外されそうになってたのよ。それを逆恨みしての逆襲だったんでしょうね。 黒岩:さっぱり分からん。 雪乃:無関心になって捨てられるより、一生許さないという強い感情を抱いて欲しかったってことじゃない? 高守:それがたとえ嫌いって感情でも、その方がマシ・・ってことですか。 雪乃:多分ね。自分との写真を残してたのも、愛された証を、特別だった証を残したかったってとこかしらね・・。 黒岩:はぁ〜・・恐ろしいことを考えるもんだな、女ってやつぁ。 雪乃:あなた? 黒岩:うっ・・!あぁ、いけね。安本のとこに音声の解析結果届けてやらねぇとな。じゃあな、雪乃!しばらく帰りは遅くなるからな。 雪乃:はいはい、頑張ってね。 高守:えっ!黒岩さん!?置いて行かないでくださいよぉっ! 0: 0: 0:おわり

0:警視庁 犯罪対策課。一組の老夫婦が会議室から黒岩、高守と共に出てくる。夫婦は深々と黒岩たちに頭を下げ、去っていく。その後ろ姿を黒岩たちは見送る。 黒岩:・・・(ため息) 高守:おつらいでしょうね、あのご夫婦。 黒岩:そうだな・・。 高守:久米島(くめじま)みゆきさんは、一人娘なんですね。 黒岩:ああ、そう言ってたな。 高守:教祖を殺人罪で立件・・できるでしょうか。 黒岩:どうだかな・・。 高守:ちょっ・・!黒岩さんがそんな弱気でどうするんですか! 黒岩:おめぇだって、半信半疑だったじゃねぇか。 高守:それはそうですけど・・・。 黒岩:ま、どこまで出来るかは分からねぇが。教団ごとぶっ潰してぇって目論見(もくろみ)が「オカミ」にゃあるんだろう。だから俺たち犯罪対策課にお鉢が回ってきたっつーこった。 高守:あのご夫婦の無念を晴らすためにも、頑張らないといけませんね! 黒岩:とりあえず、ガイシャ・・久米島みゆきを解剖した医師に話をきくか・・。 0: 0:クライムラボ。職員室 雪乃:ご遺体に変わった点? 高守:はい。2ヶ月前の事件なのですが、なにかないかと。 雪乃:どういうことなの?犯人は捕まったって話だったでしょう? 黒岩:あくまでも、その場にいた奴はな。 雪乃:他に関わってる犯人がいるってこと?まぁ・・複数犯の可能性は否めないご遺体ではあったけど・・。 高守:被害者の久米島みゆきさんは、宗教団体「富国の泉(フコクのいずみ)」の信者だったんですよね。死因は、溺死・・・ 雪乃:そうよ、水行(すいぎょう)とかいう修行中の、事故死。でも、修行の内容から事故が起こってもおかしくない状況であることは予測の範疇。だから業務上過失致死ってことになったと聞いてるわ。 黒岩:そうだ。その水行を執り仕切っていた前田という男が逮捕されている。 高守:前田は教団内では「アップトレーナー」という役職だったようですね。会社でいうところの課長クラスらしいです。 雪乃:ふーん。 黒岩:雪乃、死体の様子を教えてもらえるか。 雪乃:いいわ。ご遺体は、手首表層に内出血がみられたのと、司法解剖の結果、肺に結構な量の水が入り込んでいたことが分かった。水質は、水行を行ったプールの水と一致。直接の死因は溺死だけど、何者かに体の自由を奪われ、水を飲まされた他殺の可能性が高い。検案書にはこう書かせてもらってる。 黒岩:実際の、教団の修行内容はどうだ、高守。 高守:はい!その場にいた関係者の話から、水行は手足をロープなどで拘束し、顔をプールにつけ耐えられる限界まで耐えさせて、また水の上に上げるという方法だったようです。その際に、アップトレーナーである前田が頭を押さえつけていたみたいですね。 雪乃:苦しくても自分では上がってこられないってこと?それって殺人なんじゃ・・。 高守:捜査一課も殺人で立件したいみたいなんですけど、殺意の証明ができなくて業務上過失致死で一回逮捕してから、証拠を固めて殺人罪での立件を狙っていたんです。 雪乃:なるほどね。 黒岩:そんで今回、安藤警視正からの指示で捜査権がうちに移った。 雪乃:犯罪対策課に? 高守:そうなんです!黒岩さんの刑事の勘をバッチバチに発揮してほしいってことなんですよ! 黒岩:うるせぇ。お前が頑張れ。 高守:もちろん頑張りますよ!黒岩さんとのコンビもだいぶ板についてきたんじゃないかって言われ始めてるんですよ? 黒岩:知らねぇな。 高守:そんなぁ! 雪乃:ふふふ。でも、犯罪対策課に事件が回ってくるってことは、その前田って人の殺人の証明だけじゃないんでしょう? 黒岩:ああ、教団が組織ぐるみで久米島みゆきを殺そうとしたんじゃないかっつー話でな。 雪乃:そういうこと・・・。 黒岩:なんでも久米島みゆきは、教団を脱退しようとしていたらしいんだ。 高守:今日、本庁に久米島さんのご両親が来て、そう仰ってました。 雪乃:裏切り者として殺されたってこと? 黒岩:殺意の証明だって難しいっつーのに。 高守:でもでも!教団には沢山の人がいますからね!殺人指示を聞いた人がいるかもしれませんよ!聞き込み100回の心意気で頑張りましょうっ! 黒岩:そう上手くいかねぇのが、宗教ってやつだよ、高守。 雪乃:そうねぇ・・。 高守:? 0:不思議そうな顔をする高守 0: 0:富国の泉。教団本部 宇留野:今回前田が引き起こした事故・・いえ、事件を、私も代表として重く受け止めております。 高守:代表?宇留野(うるの)さんは、教祖ですよね? 宇留野:教祖は、教えの祖(そ)と書きますが、私はそのように崇高な立場ではありません。あくまで皆と思想を共有しようという集団の代表にすぎませんので。 三上:代表は、謙虚でいらっしゃいますので。 高守:あなたは・・? 宇留野:私の秘書で、当団体で広報を担当している三上です。 三上:三上です。よろしくお願い致します。 黒岩:私は宗教というものとは、縁がないもんで・・具体的にこちらはどのような教団なんでしょう。 宇留野:私ども富国の泉(ふこくのいずみ)は、古き良き日本の心を大切にしようという、大変ざっくりと申し上げますと、そのような思想の集団です。 黒岩:ほぅ。古き良き日本の心と、言うと? 宇留野:そうですねぇ・・集団行動であったり、耐え忍ぶ我慢強さであったり、義理と人情であったり、そういう感じです。 三上:最近の若い方にはなかなか受け継がれていない考え方ですが、私たちのセミナーへの参加などをキッカケに、この素晴らしい考えに共感してくれる方も多いんです。 黒岩:どのくらいの人が入信してるんですか? 宇留野:国外の支部も合わせますと、大体3万人くらいでしょうか。 高守:さんまん!? 三上:おほほ、元気な方ですわね 高守:失礼しました・・。 黒岩:(小声で)バカヤロウ 高守:でも、そんなに信者の方が多いと、ひとりひとり把握するのは難しいですね。 三上:そうですね。いくつかに支部を分け、そこのリーダーが月に一度代表に謁見することになっています。そこで各支部の活動の様子を発表してもらっているんです。 宇留野:月に一度の謁見だけでなく、オンラインでも各支部の相談には毎日乗ってやり、指示をだしたり、教えを説いたりしております。 高守:なるほど。 黒岩:今回亡くなった、久米島みゆきさんとは直接の面識は? 三上:ございませんでした。 黒岩:彼女が脱退したがっているという話は聞いていらっしゃいましたか? 三上:いえ、存じませんでした。 宇留野:(制するように)佐保子。・・失礼しました。秘書は覚えていなかったようですが、アップトレーナーの前田から報告は受けていました。会ったことは・・どうだったろう。 三上:ございません。 宇留野:報道で写真を見た時に、ああ、この人が・・と思ったんです。だから、会ったことはないと思いますね。 高守:そうですか。今回逮捕されたアップトレーナーの前田氏は、かなり激しい水行の末、久米島みゆきさんを殺してしまったわけですが、修行はどれもそんなに厳しいものなんですか? 宇留野:いえ、私どもには年配の信者も多くおりますので、それほど激しいものはありません。 三上:今回のことは、前田の一存で行われました。正直、代表は困っております。 宇留野:私のことはいいから。 三上:ですが、はっきりさせておきませんと・・! 宇留野:ありがとう、大丈夫だから。 三上:・・はい。 高守:今回の水行は、どんな目的があって行われたんですか? 宇留野:水行は、己の限界に挑戦し忍耐力を養う修行です。もちろんすぐに水から顔を上げては意味がありませんが、今回前田がやったように手足を拘束して・・というのは、私の修行方針とは違いますね。 三上:よろしければ、修行風景をご覧になって行かれますか? 高守:あ、はい。 黒岩:すみません、それはまた後日改めてお願いにあがります。宇留野代表、最後にもう一つだけ。 黒岩:久米島さんが脱退する事をあなたはどう思いましたか? 宇留野:なるほど・・。私は、富国の泉から出てゆくことはいい事だと思いません。しかし、信じるものを違えることもある。それを逆恨みして彼女を苦しめるよう指示したりしませんよ? 高守:そんなことは一言も・・ 宇留野:お聞きになりたいのはそういうことでしょう?刑事さん。私にやましい事はありませんから、どうぞ好きなだけお調べになってください。 黒岩:そいつぁ・・ありがとうございます。今日はこれで一旦帰らせてもらいますが、またちょくちょくお話伺いに来ますので。見学もその時に。 宇留野:ええ、どうぞ。お待ちしております。私が祈祷などで手が離せない時も、三上がおりますから。三上、刑事さんたちを門までお送りしなさい。 三上:かしこまりました。 0: 0:本庁へ戻る車の中。運転は高守。黒岩は助手席に座っている。 高守:なかなか感じのいい人でしたね、教祖の宇留野さん。 黒岩:そうかぁ? 高守:富国の泉の考え方も、テロとか企てるカルト教団と違って、日本の義理人情を大事に!っていうのは共感できます。 黒岩:どーだかなぁ。 高守:逮捕された前田も、教祖からはそんな指示はされていない、自分が勝手にやったことだって供述してるんですよね。 黒岩:ああ。・・高守、おめぇ雪乃んとこで、聴き込み100ぺんとか言って張り切ってたが、俺たちの協力者なんて一人もいないと思えよ。 高守:ええっ? 黒岩:信仰つーのは、かたいもんなんだ。自分達の信じるものが、集団が、潰されかねないと思ったら、皆口を噤ん(つぐん)じまう。 高守:そういうもんなんですね。あ、そういえば、富国の泉(フコクのいずみ)の信者の数は三万って言ってましたけど、信者の層はどんな感じなんですかね? 黒岩:層? 高守:はい。男が多いとか、若い人が多いとか。 黒岩:年配が多いって宇留野が言ってただろう? 高守:うーん。でも、本部にいた人を見て、黒岩さん気づきませんでしたか? 黒岩:何を。 高守:教団本部で働いてる人、みーんな綺麗な若めの女性でしたよ。三上さんも、お綺麗な方でしたし。 黒岩:あぁん?そうか? 高守:もー!黒岩さん普段は勘が冴えてるのに!あ、分かった!毎日綺麗な雪乃さん見てるから、彼女達の美しさに気づかなかったんですよきっと! 黒岩:あぁ?バカ言ってねぇで、黙って運転しろ! 高守:(焦って)はぁいっ。 0: 0:数日後、富国の泉本部。三上の案内のもと、水行の見学を終えた黒岩と高守。 三上:本日は、代表が手を離せませんので、私がご案内致しましたが、他に見学なさりたいことはございますか? 高守:ありがとうございました。やっぱりアップトレーナーの前田氏が、修行をかなり過酷なものにしていた感じでしたね。 三上:ええ。私も驚きました。ご覧いただいた通り、信者はみな真面目にやっていますが、子供の息止め競走のようなものです。まさかあんな水行中に人が亡くなるだなんて・・。 黒岩:本当に、宇留野代表からは指示していないんですか? 三上:はい。しておりません。 高守:すごい。 三上:何か? 高守:ああ、いえ・・。こないだお会いした時にも思ったんです。三上さんって、宇留野さんのこと全部把握してるんだなーって。今も間髪入れずに答えたので・・。 三上:当たり前ですわ。代表は、私のマスターです。私の全てはあの方のもの。あの方の一挙手一投足、一言一句、全て大切に保管しております。 高守:心に、ですか・・。 三上:ええ。そんなところですわ。 黒岩:宇留野代表は、亡くなった久米島みゆきさんと面識がないと言っていましたが、あなたはどうでしたか? 三上:私も、セミナーなどで一緒になったことはあるかもしれませんが、名前と顔が一致するような面識はございませんでした。 黒岩:なるほど。久米島さんがこちらに入信されたのは、比較的最近だと伺いましたが。 三上:はい。彼女の過去の修行歴を調べたものです。(書類を渡す)彼女は一年半前に、前田のおりました東京西支部から入信したようです。 黒岩:(資料に目を通しながら唸るような相槌)入信して半年は西支部での修行を行ってますが、半年~先々月まで修行の記録がありませんね。 三上:ええ。 高守:何故ですか? 三上:詳しいことは分かりかねますが、休んでいたようですわ。 黒岩:休んでいた・・。脱退を考えていたんだから、先々月から修行に戻るというのも妙な話だ。 高守:怪我や病気ってわけじゃないんですか? 三上:分かりませんわ。ただ、修行をしていなかったとしか・・。 黒岩:この間(かん)の久米島さんのことは、こちらでも調べてみます。今日はありがとうございました。 0:クライムラボ モニタールーム 黒岩:俺が刑事(でか)になりたての頃は、防犯カメラのビデオテープ見ながら必死にホシを探したもんだが・・。 雪乃:(パソコンを叩きながら)今では特徴を覚えたAI(エーアイ)が、一発で複数人の中から見つけ出せる時代よっ。 黒岩:恐れ入るぜ。 雪乃:出たわ! 黒岩:おっ! 雪乃:この画像解析、この間あなたが紹介してくれたアイミーテックのお嬢さんが導入してくれたの。もう便利すぎるわ! 黒岩:ほぉん、あいつがやったんなら間違いねぇな。 雪乃:教団本部がある四ツ谷駅の16の防犯カメラを半年前から久米島さんが亡くなるまでの期間調べられた。 黒岩:たったこれだけの時間でか!? 雪乃:そうなのよ、超すぐれものよね。うちの所長も泣いて喜んでるわ。 黒岩:はぁ〜ついていけん。 雪乃:しっかりしてちょうだいよ?あなた(笑う) 雪乃:久米島さんは四ツ谷駅をかなりの頻度で訪れてるわ。週に2回は利用してるわね。 黒岩:ほぉ。行き先は教団本部か? 雪乃:うーん・・最寄りの西口を出たところまでは分かるけど、この先は駅の防犯カメラじゃ追えないわ。 黒岩:たしかにな。もう少し周辺の店やビルに協力を頼むか・・。 雪乃:やっぱり西支部で修行を再開した頃からは四ツ谷駅への出入りはなくなってるわね。 黒岩:空白の期間は、久米島みゆきは本部通いしてたってことか・・。しかし何故それを三上は隠すんだ? 0:高守が勢いよく入ってくる。 高守:黒岩さん!信者の証言が取れました! 黒岩:何ぃ? 雪乃:よく証言してくれる人がいたわね! 高守:あぁ、正確には、元信者の方です。 黒岩:ほぉ、なるほどな。んで、何か分かったのか。 高守:はい!えっと、話してくれた方は、ちょうど半年ほど前に教団を脱退しています。それ自体、辞める際にはかなり支部のアップトレーナーからの説得もあり、大変だったみたいです。 黒岩:(促す相槌) 高守:証言してくれた方も、それはそれはお綺麗な方なんですが、やっぱり代表の宇留野は本部に綺麗な女性を集めていました。 雪乃:あら、ハーレムでも作ってたの?(冗談めかして) 高守:そうなんです! 黒岩:(気に入らない鼻息) 高守:宇留野は、全国の支部から綺麗な人を集めて本部で働かせ、自らと関係を持たせていたそうです。 黒岩:宗教の教祖と女とカネは切っても切れねぇってか。 雪乃:信仰心を利用して、自分の私欲を満たす・・下衆野郎ね。 高守:その動画だとか写真なんかも辞める際には引き合いに出されてしまい、辞められないようになっているそうです・・。証言をくれた元信者の方も、職場に写真を流されたって言ってました。 黒岩:なんつーことしやがんだ。 雪乃:酷すぎるわ・・。 高守:その方は、教団を法的に訴える準備をしてるって仰ってました。 黒岩:(唸るような相槌) 高守:それで、辞める一週間ほど前に本部で久米島みゆきさんと会ったそうです。彼女もまた、宇留野のハーレムとして西支部から呼ばれていたんですよ! 黒岩:空白が繋がったな。 高守:宇留野は、ハーレムだったみゆきさんが辞めることを許せず、前田に指示を出して殺害した・・。 黒岩:それを証明するには足りねぇな。殺害指示をした証拠が、無ぇ(ねぇ)。 高守:教団内を家宅捜索して、ハーレムの女性達の写真を押収・・証言してくれた方への脅迫罪で一度ひっぱる・・くらいでしょうか・・。そんなぁ・・ 黒岩:家宅捜索か・・一か八か賭けてみるか。 0:富国の泉本部。代表の執務室に宇留野と三上がいる。 三上:先日のお話ですが・・。 宇留野:ああ。前田の穴を埋めてもらいたいというやつかな? 三上:はい・・。ですが、私は今までずっと代表の身の回りのお世話を 宇留野:(遮って)君には、西支部のアップトレーナーとして皆を導いてほしい。 三上:代表・・! 宇留野:三上、君はとても有能な信者だ。だからこれからも私の思想を広めてほしい。 三上:信者・・。 宇留野:私の思想の一番の理解者は君だと思っているよ。 三上:ええ、ええそうです!あなたの気持ちはわたしが!わたくしが!一番よく分かっていますわ。だからこそ私はこれからもずっとお傍で・・ 0:ビーっと来客を知らせるブザーが鳴る 宇留野:来客のようだ。三上、お出迎えしろ。 三上:・・かしこまりました。 0:黒岩と高守が、三上に連れられ執務室へ入ってくる。 宇留野:ご無沙汰しております、刑事さん。 高守:こんにちは。先日は、水行の見学をありがとうございました。 宇留野:いえいえ。祈祷で手が離せず、申し訳ございませんでした。それで?本日はどのようなご用件ですか? 黒岩:家宅捜索のお知らせに参りました。 三上:令状はあるんですか? 高守:もちろんです。裁判所から許可がおりました。 宇留野:いったい何をお探しになりたいんですか? 高守:宇留野さん、あなた、信者の女性に個人的な関係を求めて、それを脅しの材料に使いましたよね? 宇留野:何のことでしょうか。 黒岩:しらばっくれるか。脱退しないよう脅された挙句、職場にあんたに撮られた写真を流されたって証言がとれてるんだぞ。 宇留野:・・私を欲の権化のように見ていらっしゃるようだ。たしかに、信者は皆わたしにあやかりたいようで、私との個人的な関係を望むものも多いです。しかし、そこでわたしが誰とどうなろうとそれは私個人の問題でしょう? 高守:それは、そうですけど・・でも!脅されて辛い思いをした人がいるんです! 宇留野:どこからそういった写真が流出したのか、全く見当もつかないですね。私は脅していません。この日ノ本(ひのもと)の神に誓ってもいい。 高守:その証拠を私たちは探してるんですよ 宇留野:あっはははは!まだ見つかってもいないのに、よくそんなふうに私を犯人扱いできますね。どうぞどうぞ、この本部でも、この上の自宅でも好きなだけ調べてください。でも、何も見つからなかったその時は・・お分かりですよね? 黒岩:その時のことは、その時考えますよ。 宇留野:随分自信がおありのようだ。ですが、あなた達は大事なことを忘れている。 黒岩:何だ。 宇留野:あなた達が本当に調べたいことですよ。あなた達は、わたしが教祖という立場を使って、私欲を満たしていることで、私を裁きたいんですか?違いますよね、あなた達は、久米島みゆき殺しを私が指示したという証拠を探しているのでしょう? 高守:そうです。 宇留野:そんなものは、なーーーい!!あっはははは!どこにもない!そんなものは!馬鹿どもめ!好きなだけ調べればいいさ!無駄だがな! 高守:いえ。もう家宅捜索は始まっています。 宇留野:?どういうことだ。まさか礼状を見せずに勝手に始めた?そういうことか? 高守:いいえ。我々が捜索しているのは、ここでも、貴方のご自宅でもありません。 宇留野:なんだと? 0:黒岩のスマホが鳴る 黒岩:(電話をとる)おう。おう・・そうか、間違いねぇな。よし、科捜研が手一杯だってんなら、クライムラボに回しとけ。頼んだぞ。(電話を切る) 黒岩:宇留野、証拠はあがった。 宇留野:は? 黒岩:お前が「水行に見せかけて殺してしまえ。やれるな?」と言っている音声が入ったICレコーダーが押収されたんだよ。これから音声の解析に入る。 宇留野:何言ってる・・。どこを・・どういうことだ。 黒岩:我々がICレコーダーを押収したのは、そこにいる、秘書の三上の自宅だ。 宇留野:!? 黒岩:三上、母親の許可を取って部屋を調べさせてもらった。さすが代表の一挙手一投足、一言一句すべて大切に保管していると言うだけあって、宝の山だったようだ。ICレコーダーの他に、隠し撮りされた女性たちと宇留野の写真も押収できたそうだ。 宇留野:・・なぜ・・なぜそんなものに録音した!佐保子!! 三上:私は、あなたのすべてを大切にしたかった・・ただそれだけです。 高守:宇留野代表、いえ、宇留野聖源(せいげん)、三上佐保子、署までご同行下さい。 宇留野:(三上に向かって)こんなことをして、ただで済むと思うなよ!お前を一生許さないからな!恩を仇で返すなんて・・ふざけた真似を・・! 0:宇留野刑事二人に連れていかれる。 三上:・・・。 0: 0: 三上:・・。 高守:あなたは、宇留野の指示によって、殺人が行われることを知っていた。それでもそれを見過ごした。そして、久米島みゆきさんが亡くなったあとも、その計画を隠した。犯人隠匿罪(いんとくざい)に問われる可能性もあります。 三上:それだけのことをしたんです。構いません。 黒岩:やりきったような顔だな。どこか清々しいというか。 三上:そんなわけございませんわ。 高守:どうして・・どうしてあの時、「保管してる」なんて言ったんですか? 三上:え? 高守:それがなければ、私たちはあなたの家を探す賭けには出られなかったかもしれない。 三上:私、そんなこと申しましたかしら?・・覚えておりませんわ。 黒岩:おめぇは、家宅捜索に入られるように仕向けたんじゃないか?なのに、ICレコーダーも、お前と宇留野の写真もそのままだった・・。お前もやはりハーレムの一人だったんだな。 三上:ねぇ、刑事さん達。・・愛してるの反対の感情はなんだと思います? 高守:えっ・・愛してるの反対・・。大嫌い? 三上:ふふふ。・・無関心ですわ。 三上:私は、ただあの方のことを愛していたんです。深く、深く。 0: 0: 0:クライムラボ。音声解析の結果を取りに黒岩、高守が来ている。 雪乃:なるほどねぇ 黒岩:何がだ。 雪乃:あなたも高守さんも、鈍すぎるわよ! 高守:ええ? 雪乃:恐らく、その三上って秘書は、ハーレムから外されそうになってたのよ。それを逆恨みしての逆襲だったんでしょうね。 黒岩:さっぱり分からん。 雪乃:無関心になって捨てられるより、一生許さないという強い感情を抱いて欲しかったってことじゃない? 高守:それがたとえ嫌いって感情でも、その方がマシ・・ってことですか。 雪乃:多分ね。自分との写真を残してたのも、愛された証を、特別だった証を残したかったってとこかしらね・・。 黒岩:はぁ〜・・恐ろしいことを考えるもんだな、女ってやつぁ。 雪乃:あなた? 黒岩:うっ・・!あぁ、いけね。安本のとこに音声の解析結果届けてやらねぇとな。じゃあな、雪乃!しばらく帰りは遅くなるからな。 雪乃:はいはい、頑張ってね。 高守:えっ!黒岩さん!?置いて行かないでくださいよぉっ! 0: 0: 0:おわり