台本概要

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タイトル 私の中の怪物の色は
作者名 桜蛇あねり(おうじゃあねり)  (@aneri_writer)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 そいつはいつしか私の視界にいた。私の感情で色が変わるそいつは、形すらも変わっていった。

※二人用としていますが、一人二役でも。
世界観を壊さない程度のアドリブや改変、一人称や語尾の改変はOKです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
不問 42 イラスト作品を創作しているイラストレーター。
怪物 不問 31 私にだけ見える、小さな怪物。その時の私の感情によって色が変わる。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:私の中の怪物の色は 私:(M)いつからそいつがそこにいたのか、覚えていない。だけど、そいつは確かに私の目の前にいて、常に私に付きまとっていた。 怪物:さぁ、次を創ろう!君の作品はみんなが求めてる!さぁ、筆をとって! : 私:『私の中の怪物の色は』 : 私:(M)私は今、SNS界隈でイラストレーター、サブカルチャー的な言い方をすると、絵師、というのをやっている。趣味で始めたイラスト。SNSで投稿していると、嬉しいことにたくさんのファンがつき、今ではそこそこ名の知れた絵師となった。 私:私は色彩の使い方を考えるのが好きで、感情を表すような色使いで色を乗せていく。それがとても素敵だ、と評価されたのだ。優しい色使いや燃え上がるような色使い、そんな明るい色で表現しているうちに、私は「暖色使いの絵師」と呼ばれるようになった。 私:たくさんの人から評価され、イラストを描くことがなによりも楽しいと感じていたとき、そいつはいつからか、私の視界にいた。 怪物:見て見て!さっき描いたイラスト、もうこんなに良い評価貰えてるよ!すごい! 私:(M)ふわふわと私の周りをとんでいるそいつ。手のひらサイズで、見た目はケサランパサランのような丸い綿毛の形をしている。色は赤色。 怪物:ねぇねぇ、次はさ、赤とオレンジを使った、かっこいい剣士のイラストなんてどうかな?ピンクと黄色をつかった、幸せなカップルイラストもいいかもね! 私:あー、剣士のイラストいいな。よし、それにしよう。 怪物:炎と夕焼けと組み合わせて、とても情熱的な作品にしよう!オレンジ色も優しく入れたら、親しみやすさが出て、燃えるような情熱の中に暖かい優しさが表現できると思うんだ! 私:うん、いいぞ、浮かんできた!すぐ描いちゃおう!楽しい! 怪物:さすがっ!次もきっと、いろんな人が喜んでくれるよ! 私:(M)赤色のそいつは、私にモチベーションとアイデアをたくさんくれた。イラストを描く時間に追いつかないくらいのアイデアを出してくれる。そいつのおかげで、私はたくさんの作品を創っていけた。 : 怪物:ねぇねぇ、またファンが増えたね。嬉しい感想がいっぱいだ。君の作品がいろんな人の目にとまりつつあるね。ほら、君の作品の単推しだって人も増えてきたよ!嬉しいね! 私:(M)ある日。そいつはオレンジ色になっていた。赤色の時ほどアイデアは出してくれなかったが、モチベーションに繋がる言葉を私になげかけた。 怪物:見て見て!君と仲良しな絵師さんが、コラボイラストを描こうって言ってくれてるよ!その絵師さんのファンの方も、注目してくれてるね! 私:(M)また別の日には、そいつは黄色になっていた。黄色になったそいつは、私を取り巻く恵まれた人間関係について語っていた。そいつの言葉に、当たり前と思って接していたSNS上の仲間やファンの人達はとても優しくて素敵な人ばかりなのだと、私はなんて幸せなのだと、改めて気付かされた。 : 私:(M)そのように、そいつの色は様々な条件下で変わっていくようだった。しばらく観察してわかったのだが、どうやら私の心情とそいつの色が繋がっているらしい。私の今の心情やモチベーションに合わせた色に染まるのだ。例えば、私がこれから先もっと有名になって、大人気絵師になったとしたら、と都合のいい妄想ばかりしているときは、そいつは夢見がちの色であるピンク色に染まる。 怪物:大人気絵師になったら、有名な歌い手さんのイラストを手がけたいよね。カラオケとかで自分の描いたイラストのPVが流れたら最高だろうなぁ。有名な小説家さんやラノベ作家さんのイラストをてがけるのも楽しそう!ゆくゆくは、絵師を本業にしていきたいよね。 私:(M)ふと、描き始めのころの自分のイラストを見て、初心に帰ろうと冷静になった時は、そいつは青色に染まる。 怪物:最初の頃は、もっと色を大事にしていたと思うんだ。ほら、ここで水色を使ってたのはすごくよかったでしょ?あの頃を思い出して、静かな湖をテーマに、癒されるような神秘的なイラスト描いてみようよ。 私:(M)そして、たくさんイラストを手がけて疲れてしまった時。そいつは真っ白になった。 怪物:最近、ずっとイラストのことを考えてて思考がお疲れだよ!今日くらいはイラストもSNSも忘れて、自分の好きなことしよう! 私:(M)そいつのおかげで、私は自分の感情とモチベーションを上手くコントロールする事ができた。自分のキャパを越えないように、モチベーションを高くしていられる。アイデアも次々に投げてくれる。鮮明で綺麗な、様々な色に移り変わるそいつを、私は大切にしていた。 : 私:(M)しかし、ある日、そいつは急に私に牙を剥いた。 : 私:(M)ある日の夜のことだ。その日、なかなかアイデアも降りてこなくて、ファンの数も伸び悩んできている頃で、少し気分が落ち込んでいた。あまりやる気が起きなかったので、寝る時間には早かったが、もう寝ることにした。布団に入り、眠ろうとした時だ。 怪物:何をしているの? 私:っ!? : 私:(M)そいつの声が聞こえて目を開ける。そこには、巨大化した真っ黒い異形の怪物がいた。手のひらサイズだったはずのそいつは、今は私よりも大きくなり、ずしっとのしかかって来ている。いつの間に生えたのだろうか、鋭い牙がそこにはあった。 怪物:どうして休んでいるの。 私:今日はもう、やる気がないから。 怪物:そんな理由で休んじゃうんだ。そんなんじゃ、周りに置いていかれるよ。 私:うるさい.....。 怪物:周りは君よりもすごいイラストを描く人がたくさんいる。君より若くして評価されている人もいる。君と同じ時期にはじめたのに、もう自分よりもずっと先へ行っている人もいる。 私:うるさいっ!黙れ!そんなの、わかってるっ! 怪物:じゃあなんで休んでいるの?そんなんじゃ、いつまでたっても君はこのままだ。 私:彼らは彼ら。私は私。私のペースでいいの。自分のペースで、自分のやりたいようにやっていけば、いつかはちゃんと評価してくれる人が増えていくからっ! 怪物:何を言ってるの?そんなの、ただの逃げ、だよ。自分の評価が伸びない、言い訳だ。 私:違う、やめて。 怪物:君はただ、自分の上を見たくないだけ。醜い嫉妬心や焦燥にかられたくないから。それでいて、自分より下にいる人たちとは簡単に比べて、自分が優れていると悦(えつ)に浸っているよね。都合がいいと思わない? 私:やめろ!気づきたくない!言わないで! 怪物:結局君は、何の変哲もない、平凡な人間なんだよ。 私:やめ.....ろ......。 怪物:自覚があるなら、早く描かなきゃ。たくさん、たくさん、描いて追いつかなきゃ。期待してくれている人たちを裏切らないように。上にいる人たちに追いつけるように、がむしゃらに。 私:(M)怪物は容赦なく、私に牙を突き立てる。私が見ようとしてこなかった現実を突きつける。重い。こいつの重さに押しつぶされそうだ。 私:ふと、視界に入った怪物の色に気づく。真っ黒だったそいつは、いつの間にか紫色になっていた。紫......。 怪物:描かなきゃ、描かなきゃ、描かなきゃ。 私:紫......。混沌(こんとん)の色。情熱と沈着の正反対な色が混ざった、混沌。......はっ!これだ! : 私:(M)私は、怪物を押しのけ、作業部屋へと戻る。すぐにペンを取り、描き始める。 怪物:赤と青は対照の色。その2つが混ざる紫は、混沌、混乱を表す色だ。今の君にピッタリの色。 私:(M)私は無我夢中で描いた。赤と青を使い、混ぜて、紫にして。最後は黒のトーンで仕上げていく。そして。 : 私:できた。 : 私:(M)そこには、今までの私が描いてきたイラストとは全然違うものができていた。今私を苦しめている混沌をそこに表しているかのような、そんなイラスト。今まで描いてきた明るく暖かなイラストとは正反対の、暗く冷たい、そんなイラスト。 怪物:よくがんばったね。これも1つの君の作品だ。さぁ、みんなに見てもらおう。 私:(M)そのイラストは、私のファンを驚かせた。もちろん、批判的な意見もあったが、それ以上に賞賛の声が大きかったのだ。 怪物:たくさんの意見があるね。”闇が深くていい”、”色使いがとてもリアル”だって。すごいね。 私:(M)それからは、ほとんどの作品が黒色に近い色を使った、ダークなものとなった。自分の中にある苦しみの感情をすべて色に乗せて描きなぐった。 怪物:自分の苦しさを作品として創造する。それは闇が深ければ深いほどリアリティが増して、いい作品になっていくんだ。さぁ、もっと。もっと苦しんで、病んで。孤独と嫉妬、焦燥と恐怖、全ての苦しさを創作にぶつけるんだ。 私:(M)いつしか怪物は真っ黒に染まっていた。他の色にはもう変わらない。さらに、手のひらサイズだったはずのそいつは、今や私の倍くらいの大きさになって、常に後ろにどっしりと構えていた。丸くてふわふわだった見た目も、今はどろどろのヘドロのようで、大きな牙とギョロりとした目、そして私に絡みついて離さない無数の触手。異形の怪物が、そこにはいた。 怪物:今の君の作品がどうしてこんなにも評価されているか、わかるかい? 私:わからないよ。こんなに苦しみでドロドロになった作品。どうして皆、素晴らしいと評価するんだ。 怪物:簡単な事さ。誰しも、心の中に闇を抱えているからさ。 私:みんな、も? 怪物:そう。孤独、焦燥、人間不信、嫉妬、悲哀、無力感、憎悪。いろんな闇を、色んな形で抱えてる。だけど、それを表に出すことは許されない。ストレート表に出せば、誰かに傷つけられるから。それはとても怖いことだ。 私:そうだね、怖い。わかるよ。 怪物:それを心の底に押し込めて、見て見ないふりをする。でもね、どこかでそれに気づいて欲しいって思うんだ。自分のことなんて自分にしか分からないのに。 私:うん。 怪物:だから、自分の心の闇を具現化した作品に惹かれるのさ。それがリアルであればあるほど、闇が深ければ深いほど、自分に重ね合わせて、愛すんだ。 私:そうか。だから、明るい色の作品よりも苦しみの作品の方がリアリティがあって、評価されたのか。 怪物:確かに、明るい色の作品も求められていた。それは、癒しになるから。闇と相反するが故に、自分にない癒しを求めているのもある。だけどね、やっぱり自分が1番好きで、大切で愛したいと思うから、自分の心に1番近い作品に惹かれるんだと思うよ。 私:なるほど。それなら、私がやることはただ一つ。もっともっと病んで、苦しんで、それを作品に残すしかない。もっと、もっと、深く、闇を。 : 私:(M)それから私は、ただひたすらに作品を創り続けた。本業の仕事をやめ、ひたすら作品を描き続けた。かつて「暖色の絵師」と呼ばれていた私の面影はなく、いつしか私は「混沌の色使い」と呼ばれるようになっていった。そして誰もが聞いたことのある絵師としてSNS界に名をとどろかせた時。私の心はもう、そこにはなかった。 : 私:苦しみ....闇......悲しさ....絶望......不信......狂気....孤独......(ブツブツとひたすら呟いている) 怪物:あーあ、心が壊れちゃった、ね。もう耐えられなくなっちゃったんだね。 怪物:僕は、君の感情の1部。心が壊れちゃった今、僕も時期に消えてしまうだろう。 怪物:君が壊れてしまった原因は、君が強すぎてしまったこと。僕のことを1人で飼い慣らそうと、誰にも見せずに閉じ込めてしまったこと。かつて仲間はたくさんいたはずなのに、高すぎるプライドのせいで、誰にも弱音を吐かず、弱さを見せず、自分の力だけで何とかしようとした。もっと、器用に生きれれば、こうはなってなかったのかもね。 怪物:ばいばい。次はもっと、弱く生きれるといいね。 私:(M)怪物は、私の心ともに、静かに消えていった。 0:【完】

0:私の中の怪物の色は 私:(M)いつからそいつがそこにいたのか、覚えていない。だけど、そいつは確かに私の目の前にいて、常に私に付きまとっていた。 怪物:さぁ、次を創ろう!君の作品はみんなが求めてる!さぁ、筆をとって! : 私:『私の中の怪物の色は』 : 私:(M)私は今、SNS界隈でイラストレーター、サブカルチャー的な言い方をすると、絵師、というのをやっている。趣味で始めたイラスト。SNSで投稿していると、嬉しいことにたくさんのファンがつき、今ではそこそこ名の知れた絵師となった。 私:私は色彩の使い方を考えるのが好きで、感情を表すような色使いで色を乗せていく。それがとても素敵だ、と評価されたのだ。優しい色使いや燃え上がるような色使い、そんな明るい色で表現しているうちに、私は「暖色使いの絵師」と呼ばれるようになった。 私:たくさんの人から評価され、イラストを描くことがなによりも楽しいと感じていたとき、そいつはいつからか、私の視界にいた。 怪物:見て見て!さっき描いたイラスト、もうこんなに良い評価貰えてるよ!すごい! 私:(M)ふわふわと私の周りをとんでいるそいつ。手のひらサイズで、見た目はケサランパサランのような丸い綿毛の形をしている。色は赤色。 怪物:ねぇねぇ、次はさ、赤とオレンジを使った、かっこいい剣士のイラストなんてどうかな?ピンクと黄色をつかった、幸せなカップルイラストもいいかもね! 私:あー、剣士のイラストいいな。よし、それにしよう。 怪物:炎と夕焼けと組み合わせて、とても情熱的な作品にしよう!オレンジ色も優しく入れたら、親しみやすさが出て、燃えるような情熱の中に暖かい優しさが表現できると思うんだ! 私:うん、いいぞ、浮かんできた!すぐ描いちゃおう!楽しい! 怪物:さすがっ!次もきっと、いろんな人が喜んでくれるよ! 私:(M)赤色のそいつは、私にモチベーションとアイデアをたくさんくれた。イラストを描く時間に追いつかないくらいのアイデアを出してくれる。そいつのおかげで、私はたくさんの作品を創っていけた。 : 怪物:ねぇねぇ、またファンが増えたね。嬉しい感想がいっぱいだ。君の作品がいろんな人の目にとまりつつあるね。ほら、君の作品の単推しだって人も増えてきたよ!嬉しいね! 私:(M)ある日。そいつはオレンジ色になっていた。赤色の時ほどアイデアは出してくれなかったが、モチベーションに繋がる言葉を私になげかけた。 怪物:見て見て!君と仲良しな絵師さんが、コラボイラストを描こうって言ってくれてるよ!その絵師さんのファンの方も、注目してくれてるね! 私:(M)また別の日には、そいつは黄色になっていた。黄色になったそいつは、私を取り巻く恵まれた人間関係について語っていた。そいつの言葉に、当たり前と思って接していたSNS上の仲間やファンの人達はとても優しくて素敵な人ばかりなのだと、私はなんて幸せなのだと、改めて気付かされた。 : 私:(M)そのように、そいつの色は様々な条件下で変わっていくようだった。しばらく観察してわかったのだが、どうやら私の心情とそいつの色が繋がっているらしい。私の今の心情やモチベーションに合わせた色に染まるのだ。例えば、私がこれから先もっと有名になって、大人気絵師になったとしたら、と都合のいい妄想ばかりしているときは、そいつは夢見がちの色であるピンク色に染まる。 怪物:大人気絵師になったら、有名な歌い手さんのイラストを手がけたいよね。カラオケとかで自分の描いたイラストのPVが流れたら最高だろうなぁ。有名な小説家さんやラノベ作家さんのイラストをてがけるのも楽しそう!ゆくゆくは、絵師を本業にしていきたいよね。 私:(M)ふと、描き始めのころの自分のイラストを見て、初心に帰ろうと冷静になった時は、そいつは青色に染まる。 怪物:最初の頃は、もっと色を大事にしていたと思うんだ。ほら、ここで水色を使ってたのはすごくよかったでしょ?あの頃を思い出して、静かな湖をテーマに、癒されるような神秘的なイラスト描いてみようよ。 私:(M)そして、たくさんイラストを手がけて疲れてしまった時。そいつは真っ白になった。 怪物:最近、ずっとイラストのことを考えてて思考がお疲れだよ!今日くらいはイラストもSNSも忘れて、自分の好きなことしよう! 私:(M)そいつのおかげで、私は自分の感情とモチベーションを上手くコントロールする事ができた。自分のキャパを越えないように、モチベーションを高くしていられる。アイデアも次々に投げてくれる。鮮明で綺麗な、様々な色に移り変わるそいつを、私は大切にしていた。 : 私:(M)しかし、ある日、そいつは急に私に牙を剥いた。 : 私:(M)ある日の夜のことだ。その日、なかなかアイデアも降りてこなくて、ファンの数も伸び悩んできている頃で、少し気分が落ち込んでいた。あまりやる気が起きなかったので、寝る時間には早かったが、もう寝ることにした。布団に入り、眠ろうとした時だ。 怪物:何をしているの? 私:っ!? : 私:(M)そいつの声が聞こえて目を開ける。そこには、巨大化した真っ黒い異形の怪物がいた。手のひらサイズだったはずのそいつは、今は私よりも大きくなり、ずしっとのしかかって来ている。いつの間に生えたのだろうか、鋭い牙がそこにはあった。 怪物:どうして休んでいるの。 私:今日はもう、やる気がないから。 怪物:そんな理由で休んじゃうんだ。そんなんじゃ、周りに置いていかれるよ。 私:うるさい.....。 怪物:周りは君よりもすごいイラストを描く人がたくさんいる。君より若くして評価されている人もいる。君と同じ時期にはじめたのに、もう自分よりもずっと先へ行っている人もいる。 私:うるさいっ!黙れ!そんなの、わかってるっ! 怪物:じゃあなんで休んでいるの?そんなんじゃ、いつまでたっても君はこのままだ。 私:彼らは彼ら。私は私。私のペースでいいの。自分のペースで、自分のやりたいようにやっていけば、いつかはちゃんと評価してくれる人が増えていくからっ! 怪物:何を言ってるの?そんなの、ただの逃げ、だよ。自分の評価が伸びない、言い訳だ。 私:違う、やめて。 怪物:君はただ、自分の上を見たくないだけ。醜い嫉妬心や焦燥にかられたくないから。それでいて、自分より下にいる人たちとは簡単に比べて、自分が優れていると悦(えつ)に浸っているよね。都合がいいと思わない? 私:やめろ!気づきたくない!言わないで! 怪物:結局君は、何の変哲もない、平凡な人間なんだよ。 私:やめ.....ろ......。 怪物:自覚があるなら、早く描かなきゃ。たくさん、たくさん、描いて追いつかなきゃ。期待してくれている人たちを裏切らないように。上にいる人たちに追いつけるように、がむしゃらに。 私:(M)怪物は容赦なく、私に牙を突き立てる。私が見ようとしてこなかった現実を突きつける。重い。こいつの重さに押しつぶされそうだ。 私:ふと、視界に入った怪物の色に気づく。真っ黒だったそいつは、いつの間にか紫色になっていた。紫......。 怪物:描かなきゃ、描かなきゃ、描かなきゃ。 私:紫......。混沌(こんとん)の色。情熱と沈着の正反対な色が混ざった、混沌。......はっ!これだ! : 私:(M)私は、怪物を押しのけ、作業部屋へと戻る。すぐにペンを取り、描き始める。 怪物:赤と青は対照の色。その2つが混ざる紫は、混沌、混乱を表す色だ。今の君にピッタリの色。 私:(M)私は無我夢中で描いた。赤と青を使い、混ぜて、紫にして。最後は黒のトーンで仕上げていく。そして。 : 私:できた。 : 私:(M)そこには、今までの私が描いてきたイラストとは全然違うものができていた。今私を苦しめている混沌をそこに表しているかのような、そんなイラスト。今まで描いてきた明るく暖かなイラストとは正反対の、暗く冷たい、そんなイラスト。 怪物:よくがんばったね。これも1つの君の作品だ。さぁ、みんなに見てもらおう。 私:(M)そのイラストは、私のファンを驚かせた。もちろん、批判的な意見もあったが、それ以上に賞賛の声が大きかったのだ。 怪物:たくさんの意見があるね。”闇が深くていい”、”色使いがとてもリアル”だって。すごいね。 私:(M)それからは、ほとんどの作品が黒色に近い色を使った、ダークなものとなった。自分の中にある苦しみの感情をすべて色に乗せて描きなぐった。 怪物:自分の苦しさを作品として創造する。それは闇が深ければ深いほどリアリティが増して、いい作品になっていくんだ。さぁ、もっと。もっと苦しんで、病んで。孤独と嫉妬、焦燥と恐怖、全ての苦しさを創作にぶつけるんだ。 私:(M)いつしか怪物は真っ黒に染まっていた。他の色にはもう変わらない。さらに、手のひらサイズだったはずのそいつは、今や私の倍くらいの大きさになって、常に後ろにどっしりと構えていた。丸くてふわふわだった見た目も、今はどろどろのヘドロのようで、大きな牙とギョロりとした目、そして私に絡みついて離さない無数の触手。異形の怪物が、そこにはいた。 怪物:今の君の作品がどうしてこんなにも評価されているか、わかるかい? 私:わからないよ。こんなに苦しみでドロドロになった作品。どうして皆、素晴らしいと評価するんだ。 怪物:簡単な事さ。誰しも、心の中に闇を抱えているからさ。 私:みんな、も? 怪物:そう。孤独、焦燥、人間不信、嫉妬、悲哀、無力感、憎悪。いろんな闇を、色んな形で抱えてる。だけど、それを表に出すことは許されない。ストレート表に出せば、誰かに傷つけられるから。それはとても怖いことだ。 私:そうだね、怖い。わかるよ。 怪物:それを心の底に押し込めて、見て見ないふりをする。でもね、どこかでそれに気づいて欲しいって思うんだ。自分のことなんて自分にしか分からないのに。 私:うん。 怪物:だから、自分の心の闇を具現化した作品に惹かれるのさ。それがリアルであればあるほど、闇が深ければ深いほど、自分に重ね合わせて、愛すんだ。 私:そうか。だから、明るい色の作品よりも苦しみの作品の方がリアリティがあって、評価されたのか。 怪物:確かに、明るい色の作品も求められていた。それは、癒しになるから。闇と相反するが故に、自分にない癒しを求めているのもある。だけどね、やっぱり自分が1番好きで、大切で愛したいと思うから、自分の心に1番近い作品に惹かれるんだと思うよ。 私:なるほど。それなら、私がやることはただ一つ。もっともっと病んで、苦しんで、それを作品に残すしかない。もっと、もっと、深く、闇を。 : 私:(M)それから私は、ただひたすらに作品を創り続けた。本業の仕事をやめ、ひたすら作品を描き続けた。かつて「暖色の絵師」と呼ばれていた私の面影はなく、いつしか私は「混沌の色使い」と呼ばれるようになっていった。そして誰もが聞いたことのある絵師としてSNS界に名をとどろかせた時。私の心はもう、そこにはなかった。 : 私:苦しみ....闇......悲しさ....絶望......不信......狂気....孤独......(ブツブツとひたすら呟いている) 怪物:あーあ、心が壊れちゃった、ね。もう耐えられなくなっちゃったんだね。 怪物:僕は、君の感情の1部。心が壊れちゃった今、僕も時期に消えてしまうだろう。 怪物:君が壊れてしまった原因は、君が強すぎてしまったこと。僕のことを1人で飼い慣らそうと、誰にも見せずに閉じ込めてしまったこと。かつて仲間はたくさんいたはずなのに、高すぎるプライドのせいで、誰にも弱音を吐かず、弱さを見せず、自分の力だけで何とかしようとした。もっと、器用に生きれれば、こうはなってなかったのかもね。 怪物:ばいばい。次はもっと、弱く生きれるといいね。 私:(M)怪物は、私の心ともに、静かに消えていった。 0:【完】