台本概要
440 views
タイトル | 酒好きと煙草屋と |
---|---|
作者名 | お洒落なやかん (@yakann_special) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 3人用台本(男3) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
捕虜として強制収容所に収監されているジュードは、いつの間にか人生を諦め適当に毎日を過ごしていた。 そんな彼にはリックという友人がおり、リックは明るく振る舞うもいつ自分が殺されるのか分からない恐怖に一人震えていた。 そんな時、新しく捕虜としてやってきたケイシーにジュードは振り回されながらも生きる希望を見出すのであった。 440 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ジュード | 男 | 101 | 真面目な性格だが、口も印象も悪いため一匹狼的存在。酒が好きでカクテルを嗜むのが趣味 |
ケイシー | 男 | 101 | 煙草屋を営み、持ち前の天然キャラと前向きな性格で自分を見失わない。童顔で弱く見られるのが悩み |
リック | 男 | 70 | ジュードの友人で、誰かの前では明るく振る舞うが夜になると自分の置かれている状況に恐怖し震えている 仲裁役に回るため、誰の味方にもならない |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
強制収容所
ケイシーがジュードにそっと近づく
ケイシー:・・・は、はじめまして
ジュード:・・・
ケイシー:僕はケイシーです。あ、あの、あなたの名前は・・・?
ジュード:・・・
ケイシー:あの・・・
ジュード:チッうるせぇ。・・・おーい、こんなとこに新しい餌がいるぜー?
ケイシー:え、えさ・・・?
ジュード:お前新入りだろ?新入りはくせぇから近寄んな
ジュード:せめて地面に体をこすり付けてから来るんだな
ケイシー:は、はい・・・わかりました。
覚悟を決めたように寝転がり体をこすり付けるケイシー
ジュード:・・・っ!・・・お、おい
ジュード:おいって!
体をこすり続けるケイシーを止めるジュード
ジュード:お前、なにやってんだ
ケイシー:なにって、におい消しを
ジュード:本当にやるやつがあるかよ
ケイシー:でもここでのルールかなにかなんですよね?
ジュード:はぁ?
ケイシー:僕が最近来たばかりだから、くさいってあなたが言ったんじゃないですか
ジュード:言っ・・・たけど
ケイシー:あ、もしかしてやり方が違いましたか?すみません、何も知らなくて・・・
ジュード:こいつ・・・!
リックがジュードに肩を組みながら呟く
リック:ありゃあ早死にするなぁ~。きっといいとこの坊ちゃんだぜ
ケイシーの方に向き直ってあやすように言う
リック:ううん、いいのいいの。君は何も知らない方がいいよ
ケイシー:へ?
リック:ジュードもあんまりおいたが過ぎると評価下がるぜ?いいのかよそれでも
ジュード:いい、別に。どうせもうじき死ぬんだ。関係ねぇだろ
ケイシー:ど、どこか悪いんですか!?
ジュードに詰め寄るケイシー
ジュード:ち、ちかい
ケイシー:それともあなた、自殺願望者かなにかですか!?僕でよければ話聞きます!
ジュード:お前、よくアホだとかバカだとか言われるだろ
ケイシー:話を逸らさないでください
ジュード:・・・うるせぇな!新入りのくせにズカズカ入り込んでんじゃねぇッ!
ケイシーの頭を叩くジュード
ケイシー:痛ッ!な、なにするんですかぁ・・・
リック:あははっ!すっげぇ無様!
ジュード:いい気味だ
腹を抱えて笑いながら話すリック
リック:おいジュード、ちょっとばかし強く叩きすぎたんじゃねぇか?涙目だぞこいつ
ジュード:あ?知らね
ケイシー:お二人とも酷いです・・・。僕は真剣なのに
ジュード:てかくせぇ、近寄んな
ケイシー:まだにおいが残ってますか?もっとこすってきます!
リック:違う違う、新入りのにおいとかじゃなくて本当にくさいの、きみ
ジュード:俺が言ったこと真に受けすぎなんだよ
リック:もう、ジュードが変なこと言うからだろ?おい、こっち来て
ケイシー:へ?え、えっと・・・
リック:、汗と砂が混じって変なにおいがするよ、君はまず体を洗った方がいい。砂でじゃなくて水で
ケイシー:は、はい・・・?
リック:ジュードはそこで大人しくしてろよ!
ジュード:チッ
リックに連れられ水場にやってきたケイシー
ケイシー:あ、あの
リック:ほら服貸して、洗うから
ケイシー:でも
リック:ジュードの言ったことは気にしなくていいから。
ケイシー:あれって通過儀礼みたいなものなんですか?
ケイシーの服を脱がせながら
リック:ん~まあそんな感じ?いい年してあんなこと、ほんとガキだよね
リック:・・・わお、裕福な暮らししてきた世間知らずの坊ちゃんかと思ったら意外とガリガリなんだな
ケイシー:ここに来てからあまり食べれてなくて・・・情けないんであまり見ないでください
リック:飯はちゃんと出されてるでしょ?一日二食の激マズ飯だけど。それでもちゃんと食べないと
ケイシー:食欲が無いんです。好き嫌いがあるわけではないし、うちは貧乏だから激マズ飯とかも慣れているはずなんですけどね
リック:君の方こそどこか病気なんじゃないのか?
ケイシー:そんなことないですよ。僕は元気だけが取り柄ですから!
リック:なんとかは風邪ひかないって言うしね
ケイシー:なんのことですか?
リック:そういうとこだよ・・・
体を洗い終わり綺麗になったケイシー
もう一度ジュードに話しかけようと先ほどの場所にリックと共に戻る
ケイシー:あれ・・・?いない
リック:・・・ケイシー、ジュードなら多分あっちにいる
リック:でも今は行かない方がいいよ
ケイシー:どういうことですか?やっぱりどこか悪いんじゃ・・・倒れていたりしたら大変です!
そのままジュードの元へ走っていくケイシー
リック:ケイシー!
血だらけで倒れているジュードを見つけ駆け寄るケイシー
ケイシー:ッ!?大丈夫ですか!?
ジュード:ぅう・・・うるせぇほっとけよ
ケイシー:で、でもこんなに血が・・・起き上がってください、こんなところで寝ていたら傷口からばい菌が入って・・・
ジュード:黙れ
ケイシー:今衛生兵を呼んできます
ジュード:余計な事するな
ケイシー:さぁ僕に掴まって
ジュード:俺に触んなッ!・・・ぅ痛ぇ・・・
ケイシー:で、でも!
リック:ケイシー、そっとしておこう
ケイシー:リック・・・。僕にはそんなこと出来ません。このまま死んでしまってもいいんですか!?
ジュード:くっそ・・・お前らいつの間にそんな仲良くなったんだよ。キンキンうるせぇ
リック:ジュードがボコボコにされている間に仲を深めたんだよ、いいでしょ
ジュード:はは・・・この新入りと?バカがうつるからやめとけ
リック:それは言えてるかもね。でもケイシーはジュードが思ってる以上にいいやつでバカだったよ
ジュード:あぁ・・・そうだな。むかつくぐらい俺に構ってきやがって
リック:初めてでしょこんなに優しくされるの。たまには甘えてみたら?
ジュード:誰がそんなことするか・・・そんなことしたら楽に死ねねぇだろ・・・
リック:もう休みなよ。疲れたでしょ?・・・おやすみ
ゆっくりと目を閉じるジュードを優しく見つめるリック
二人の様子を見てケイシーはやっと状況を理解したのだった
ケイシー:どうして、普通にしていられるんですか?
リック:普通じゃないよ。ほら見て、俺の手震えてる
ケイシー:いつもそう・・・なんですか?
リック:そうだよ。ジュードはわざと騒いだり生意気な態度取ったりしてるんだ。どうしてか坊ちゃんには分かるかな
ケイシー:分かりません、僕は・・・バカなので。分かりたくもありませんが
リック:あはは、俺も分かりたくなかったよ。いつまでもこんなことしたくない
ケイシー:ならどうして何もしないんですか。励ますとかもっと色々・・・
リック:俺にはそんな余裕ない。ケイシーもそのうちそんなこと言えなくなる
ケイシー:いえ、そんなことありません。言ったでしょ?僕は元気だけが取り柄なんです
リック:体は情けないのにな
ケイシー:そ、それは言わないでください!
リック:はぁ・・・もうすぐ夜が来ちゃうよ。嫌だなぁ
次の日
ジュード:ん・・・朝・・・?・・・生きてる
ケイシー:あっ、起きましたか?おはようございます!
ジュード:お、お前なにしてんだよ!
ケイシー:手当てです。ジュードとせっかく仲良くなれるチャンスなのにこのまま死なれたら困りますからね
ジュード:仲良くって・・・この毛も生えてないようなクソガキが!何を聞いたのかしらねぇがな、ほっとけって言っただろ!
ケイシー:なっ!今僕が気にしてる童顔を馬鹿にしましたね!?いいんですか?傷口つねりますよ!
ジュード:なんだこのガキ!本当のこと言って何が悪いんだよ、やんのかこの野郎!
ケイシー:そっちがその気ならいいですよ!童顔を馬鹿にした罪はかなり重いですからね
ジュード:童顔童顔うるせぇ!ガキはこの舎じゃないだろ!大人しく向こう行ってろよ
ケイシー:そっちこそガキガキってうるさいですね!僕はちゃんと成人しているしここに連れて来た兵士の方がジュードより見る目があるんじゃないんですか?
ジュード:・・・え、まじ?
ケイシー:なんですか?
ジュード:お前今成人してるって言ったか?
ケイシー:そうですけど、なにか?
ジュード:ま、まじで?
ケイシー:なにか文句でもあります?
ジュード:あ、ありえねぇ・・・
リック:おいおい、どっちがガキだよ
ジュード:お、おい!リックは知ってたのか!?こ、こいつが成人してるって!
リック:あぁ、うん。昨日ね。ジュードがツンツンしてる時に聞いた
ジュード:嫌な言い方すんな、お前もグルかよ
ケイシー:ということなので分かったら大人しく手当てされてください
ジュード:いいって、誰も頼んでねぇだろ
リック:ジュードも往生際が悪いぞ。そろそろ大人しくしないと兵士に見つかる・・・
ジュード:・・・いいぜ?俺はそれでも
ジュード:次こそは死ねるだろうしよ
ケイシー:またそんなこと。さっき目が覚めて安心していたくせに・・・
ジュード:あ?なんか言ったか今
リック:おいいい加減に・・・
ケイシー:死にたくないくせに、なんでそんなに強がってるんですか
ジュード:分かったような口聞くな
ケイシー:分かりやすいんですよ。昨日だって震えていたの気づいていないとでも思っているんですか?
ジュード:てめぇさっきからむかつくんだよ。だったら俺をこっから出して救ってみろよ。出来んのかよてめぇに!
ケイシー:そ、それは・・・。でも!いつかは出られる日が来ます!諦めるにはまだ早いです
ジュード:綺麗事並べてそんなに楽しいか?馬鹿にすんのも大概にしろよ
リック:・・・ケイシー、昨日は何も知らない方がいいなんて言ったけど現実をちゃんと見た方がいい
ケイシー:リックまで・・・どうしてそんなこと言うんですか
ジュード:世間知らずの坊ちゃんだから教えてやる。ここは強制労働だけじゃねぇ、拷問もされる。体を清めるどころか体中痛くて服も脱げない。夜には女が連れられて兵士の性処理に使われるんだ、それを俺たちは女たちの悲鳴に近い喘ぎ声を聞いて眠るんだぞ。それが毎日、お前には耐えられんのか?
ケイシー:・・・ッ
ジュード:てめぇには無理だろうな。こんなのが毎日続いてりゃ死にたいときが来るんだよ。次に励ますような事言ってみろ、お前を兵士の前に突き出して一緒に拷問してやる
リック:ジュード、言いすぎだ。酒が飲めないからってあんまり興奮するなよ
リック:ケイシーも、これが分かったら言葉には気を付けた方がいい、ここにはジュードみたいなやつばっかりいるからな
ケイシー:は、はい。すみません・・・気を付けます
ケイシー:で、でも!諦めないことは悪い事ではないですよね・・・?
ジュード:お前、まだそんなこと言ってんのか
リック:もちろんさ、ケイシー。俺はケイシーの前向きさに元気づけてもらってるぜ?たまにはこういうやつがいないとな!な?ジュード
ジュード:お前、フラフラとしやがって、どっちの味方だよ
リック:どっちも味方だ、当たり前だろ!
リックがケイシーとジュードの肩を掴み、笑ったことによってこの場は収まったのだった
ケイシー:そういえば、お二人はとても仲が良いですが、いつからここに?
リック:ジュードは三年前から、俺も三年前に来たけどジュードよりも後に来たんだ
ケイシー:そうなんですね。三年も・・・
ジュード:リック、俺は三年と八か月前にここに来たんだ。間違えるな
リック:死にたがってるやつが細かい事気にしてんじゃねぇよ
ケイシー:あはは、本当に仲がいいんですね
リック:三年もここに居ればな・・・こうなるのも仕方ないっていうか
ケイシー:素敵だと思います。こんな場所ではありますが、ここでなければ無かった出会いかもしれませんからね
ジュード:くせぇくせぇ、お前はいちいちセリフがくせぇんだよ
リック:いいじゃないか、こういうの俺好きだぜ?
ジュード:こんなとこに居ちゃあ言うだけ無駄だな
ケイシー:まぁまぁそんなこと言わないで、こんな時こそ好きな事を考えるんですよ
ジュード:ガキかよ
ケイシー:ここではこのぐらいしか出来ないんですから、しょうがないじゃないですか
リック:確かに言えてるな
リック:・・・えぇーっと、ジュードは酒が大好きなんだっけ?
ジュード:おい、なんで俺なんだ。余計なことを言うなよ
ケイシー:お酒好きなんですね!
リック:こいつは酒が無いと生きていけない性分でな、俺がここに来たときは「酒・・・酒・・・」って口癖のように呟いていたな
ジュード:こ、こいつ、いらんことまで言いやがって!そんなことどうでもいいだろ!
ケイシー:そんなに好きなんですね、どういうお酒を飲むんですか?やっぱりテキーラのショットとか・・・?
リック:テキーラ・・・!確かにジュードなら飲みそうだな
ジュード:・・・そんな下品な飲み方はしない
ジュードを馬鹿にするようにリックは揶揄うように言う
リック:とか言って、口が半開きになってるぞ。飲みたいんだろ?今にもよだれが垂れそうだ
ジュード:そ、そんなことねぇよ
ケイシー:飲めないってなると大変そうですね
リック:ケイシーは酒は飲むのか?
ジュード:こ、こいつは飲めねぇだろ、まだツルツルのガキだし
ケイシー:酷いなぁ。嗜む程度ですが飲むには飲みますよ。果実酒とか好きです
ジュード:やっぱガキじゃねぇか
リック:おしゃれなの飲むんだな、ケイシーらしい。・・・あんまり馬鹿にするようなこと言うとジュードが酒好きのおっさんと思われるのも時間の問題だな
ジュード:なんだと?
リック:本当の事だろ?もう三十手前なんだし
ジュード:それはお前も言えた事だろうが
リック:俺は自覚してるからいいんですぅー
ジュード:こいつッ!
ケイシー:それで、ジュードはどんなお酒を飲むんですか?
ジュード:・・・どうでもいいだろ
リック:どうでも良くないだろ!俺だって三年も一緒にいるのに知らないぜ?
ケイシー:飲みやすいお酒とかあったら教えてほしいんですけど・・・
ジュード:・・・も、もう酒の話はやめろ。せっかくここまで我慢してたのに飲みたくなるだろ
リック:あぁー、それもそうだな。早いとここの話を切り上げないと酒を飲んで酔っ払うジュードの妄想が始まってしまう
ケイシー:ジュードがそんなことを・・・!?
ジュード:するかボケ!なに適当なこと言ってんだ、そこまで落ちぶれてねぇよ!
ケイシー:妄想かぁ・・・
リック:なに?ケイシーも妄想とかするんだ
ケイシー:妄想というか、うーん、目標というか、夢、というか
リック:夢?
ケイシー:はい!僕実は父を継いで煙草屋を営んでいるんですけど、父がやっていた時より繁盛していなくて・・・
ケイシー:父にも負けないぐらい、世界中からわざわざ買いに来てくれるぐらい有名になりたいんです!
リック:へぇー、いいじゃないか。何をやるにしても夢がなきゃ続かないもんな!
ジュード:お前に煙草なんか売れると思わねぇけどな
リック:お前はまたそういうことを
ケイシー:あはは、いいんですよ、「ガキが煙草を売ってる」ってよく言われますから
ケイシー:僕もジュードやリックのようにたくましくなれたらいいんですけどね
リック:たくましく・・・って俺はともかくジュードがたくましいっていうのは譲れないな
ジュード:なんだと?どういう意味だ
リック:そのままの意味だよ。そんな背が高いだけの性格ひん曲がったようなジュードがケイシーの見本になられちゃ困るだろ?
ジュード:ケッ、腹立つことばっか言いやがって
ジュード:・・・まぁ確かに俺はただの飲んだくれか・・・
ケイシー:そんな自分を卑下するものじゃないですよ
ジュード:なんだよ、俺を元気づけようって?
ケイシー:そうですね、そのひん曲がった性格をまっすぐに出来る自信はありますよ?
ジュード:あぁうるせぇ、うぜぇ。俺はそういう前向きな奴が嫌いなんだよ
ジュード:こんなとこに閉じ込められてお先真っ暗だっていうのに
リック:ケイシーがポジティブなのもそうだけど、それはジュードがネガティブなだけだろ?
ジュード:違うな、俺は現実主義なだけだ
リック:たまには現実逃避をしたっていいと思わないか?
ケイシー:そうですよ・・・!ここから出たら何したいとか、まず最初に何を食べるとか
リック:そうだぜ?考えることといったらこれぐらいしかないしな
ジュード:なんだよ、二人して。そんな風に考えたところで、それが叶う時が一度でもあったか?三年間酒が飲みてぇと思っても今まで一度も口にしてない。飲んだのは虫の入った濁り水だけだ。想像しても酒になる訳じゃねぇんだよ
ケイシー:それは・・・そうですけど・・・
ジュード:考えるだけ後が辛くなるだけだ。やめとけ
リック:ジュードの気持ちは分からなくもない、けどな、このくらいいいじゃんか。罰を受けるわけでもない・・・
リックが俯きながら言っていると突然ノックの音が響いた。
三人は慌てて口を閉ざし息を潜め、ドアから目を逸らす。
ノックをしたのは兵士で、一瞬目が合ってしまったリックに兵士はゆっくりと近づいて行った。
リック:(恐怖で息を切らす)・・・
兵士がリックの腕を掴み部屋から出そうとしていた。
その様子を見てケイシーは兵士を止めようとするも、ジュードに裾を掴まれ止めることは出来なかった。
リックは体を震わせつつ強がるように言った。
リック:はぁ・・・ついに俺の番か・・・い、い、いつか、来ると思っていたんだ
リックは無理やり連れて行こうとする兵士に向かって叫んだ。
リック:クソッ、三十手前のおっさんが、怖がって悪いかよ!情けねぇって言いたいんだろ!
ケイシー:・・・リック!大丈夫ですよ・・・、絶対にここから出られますから、そしたら僕の店に煙草を買いに来てください!絶対に!
リック:・・・うん。絶対に行くさ、俺、言ってなかったけど酒も煙草も好きなんだぜ。み、みんなで・・・酒飲んで煙草吸おうな・・・?
リック:約束・・・だ
リックは涙をポロリと地面に落とし、ドアの向こうへと消えていった。
ジュード:おい、勝手に俺を混ぜるな。俺は煙草は吸わねぇんだ
ケイシー:リック、もう行ってしまいましたよ
ジュード:あぁ、情けねぇな。全く俺はよぉ・・・!!
ケイシー:ジュード・・・
ジュード:俺はとっとと死にてぇはずなのに、なんでこんな時に限ってアイツらに反抗できないんだよ
ジュード:何を怖がってんだよ、ふざけんな、このクソ野郎ッ!
ケイシー:諦めるのにはまだ早いです。リックは戻ってきますよ、それかここから解放されて今頃・・・
ジュード:戻ってこねぇよ。死ぬんだよ、殺されるんだよあいつは
ケイシー:なんでそんなこと言うんですか!
ジュード:今までだってそうだった、兵士は定期的にここへやってきて目が合ったやつを狙うんだ
ジュード:それで連れていかれたやつが帰ってきたことはねぇよ
ケイシー:じゃ、じゃあ家に帰ったんです。拘束を解かれたんです
ジュード:お前、いい加減にしろよ。俺に希望を持たせるな
ケイシー:僕は信じませんよ、リックがこれから死ぬなんて。リックの亡骸を見るまで信じませんから
ジュード:勝手にしろ。それで現実を知って絶望でもなんでもしろよ
ケイシー:僕はあなたと違って絶望なんかしません。
ジュード:俺の事舐めてんだろ。・・・あぁークソッ、俺は三年もここに居たんだ、三年もだぞ?こんなことどうってことねぇんだよ!
ケイシー:じゃあどうしてそんなに悲しそうなんですか
ジュード:うるせぇな
ケイシー:お酒が飲めないからですか?
ジュード:・・・あぁ、そうかもな
ケイシー:じゃあ飲みに行きますか
ジュード:何を急に言い出してんだ、ついに狂ったのか?
ケイシー:・・・ここから逃げましょう
ジュード:は?
ケイシー:逃げるんです。リックを連れて
ジュード:いや待てよ、話についていけない。何言ってんだ?
ケイシー:お酒、飲みたいんでしょう?僕だって煙草を吸わないとやっていられません
ジュード:そりゃあ飲みてぇけど、飲まずに死ぬのがオチだ
ケイシー:だから逃げるんです。ここでお酒を飲まずに死ぬか、逃げてお酒を浴びるほど飲むか、どちらがいいですか?
ジュード:そりゃあ飲みたいに決まってる。でも逃げるのが無理だって言ってんだよ、そこら中に兵士がいるんだぞ
ケイシー:その割にはノリ気じゃないですか。さっきまであんな反抗的だったのに
ジュード:さ、酒に目がくらんだんだよ、悪いかよ
ケイシー:いいえ、嬉しいです!
ジュード:・・・どうやって逃げ出そうっていうんだよ
ケイシー:いえ、まだ考えていません
ジュード:はぁ!?
ケイシー:何かいい考えありませんか?
ジュード:あるわけねぇだろ・・・逃げようなんて思ったこともなかったのに
ケイシー:ですよね・・・えへへ、脱獄みたいで面白いですね
ジュード:遊びで言ってるなら協力しねぇぞ
ケイシー:すみません・・・僕が言い出したことなので責任は最後まで取ります
ジュード:当たり前だ。リックとお前・・・ケイシーと酒を飲むためだ
ケイシー:はいっ!あ、煙草も忘れないでくださいね
ジュード:俺は煙草は吸わねぇ
強制収容所
ケイシーがジュードにそっと近づく
ケイシー:・・・は、はじめまして
ジュード:・・・
ケイシー:僕はケイシーです。あ、あの、あなたの名前は・・・?
ジュード:・・・
ケイシー:あの・・・
ジュード:チッうるせぇ。・・・おーい、こんなとこに新しい餌がいるぜー?
ケイシー:え、えさ・・・?
ジュード:お前新入りだろ?新入りはくせぇから近寄んな
ジュード:せめて地面に体をこすり付けてから来るんだな
ケイシー:は、はい・・・わかりました。
覚悟を決めたように寝転がり体をこすり付けるケイシー
ジュード:・・・っ!・・・お、おい
ジュード:おいって!
体をこすり続けるケイシーを止めるジュード
ジュード:お前、なにやってんだ
ケイシー:なにって、におい消しを
ジュード:本当にやるやつがあるかよ
ケイシー:でもここでのルールかなにかなんですよね?
ジュード:はぁ?
ケイシー:僕が最近来たばかりだから、くさいってあなたが言ったんじゃないですか
ジュード:言っ・・・たけど
ケイシー:あ、もしかしてやり方が違いましたか?すみません、何も知らなくて・・・
ジュード:こいつ・・・!
リックがジュードに肩を組みながら呟く
リック:ありゃあ早死にするなぁ~。きっといいとこの坊ちゃんだぜ
ケイシーの方に向き直ってあやすように言う
リック:ううん、いいのいいの。君は何も知らない方がいいよ
ケイシー:へ?
リック:ジュードもあんまりおいたが過ぎると評価下がるぜ?いいのかよそれでも
ジュード:いい、別に。どうせもうじき死ぬんだ。関係ねぇだろ
ケイシー:ど、どこか悪いんですか!?
ジュードに詰め寄るケイシー
ジュード:ち、ちかい
ケイシー:それともあなた、自殺願望者かなにかですか!?僕でよければ話聞きます!
ジュード:お前、よくアホだとかバカだとか言われるだろ
ケイシー:話を逸らさないでください
ジュード:・・・うるせぇな!新入りのくせにズカズカ入り込んでんじゃねぇッ!
ケイシーの頭を叩くジュード
ケイシー:痛ッ!な、なにするんですかぁ・・・
リック:あははっ!すっげぇ無様!
ジュード:いい気味だ
腹を抱えて笑いながら話すリック
リック:おいジュード、ちょっとばかし強く叩きすぎたんじゃねぇか?涙目だぞこいつ
ジュード:あ?知らね
ケイシー:お二人とも酷いです・・・。僕は真剣なのに
ジュード:てかくせぇ、近寄んな
ケイシー:まだにおいが残ってますか?もっとこすってきます!
リック:違う違う、新入りのにおいとかじゃなくて本当にくさいの、きみ
ジュード:俺が言ったこと真に受けすぎなんだよ
リック:もう、ジュードが変なこと言うからだろ?おい、こっち来て
ケイシー:へ?え、えっと・・・
リック:、汗と砂が混じって変なにおいがするよ、君はまず体を洗った方がいい。砂でじゃなくて水で
ケイシー:は、はい・・・?
リック:ジュードはそこで大人しくしてろよ!
ジュード:チッ
リックに連れられ水場にやってきたケイシー
ケイシー:あ、あの
リック:ほら服貸して、洗うから
ケイシー:でも
リック:ジュードの言ったことは気にしなくていいから。
ケイシー:あれって通過儀礼みたいなものなんですか?
ケイシーの服を脱がせながら
リック:ん~まあそんな感じ?いい年してあんなこと、ほんとガキだよね
リック:・・・わお、裕福な暮らししてきた世間知らずの坊ちゃんかと思ったら意外とガリガリなんだな
ケイシー:ここに来てからあまり食べれてなくて・・・情けないんであまり見ないでください
リック:飯はちゃんと出されてるでしょ?一日二食の激マズ飯だけど。それでもちゃんと食べないと
ケイシー:食欲が無いんです。好き嫌いがあるわけではないし、うちは貧乏だから激マズ飯とかも慣れているはずなんですけどね
リック:君の方こそどこか病気なんじゃないのか?
ケイシー:そんなことないですよ。僕は元気だけが取り柄ですから!
リック:なんとかは風邪ひかないって言うしね
ケイシー:なんのことですか?
リック:そういうとこだよ・・・
体を洗い終わり綺麗になったケイシー
もう一度ジュードに話しかけようと先ほどの場所にリックと共に戻る
ケイシー:あれ・・・?いない
リック:・・・ケイシー、ジュードなら多分あっちにいる
リック:でも今は行かない方がいいよ
ケイシー:どういうことですか?やっぱりどこか悪いんじゃ・・・倒れていたりしたら大変です!
そのままジュードの元へ走っていくケイシー
リック:ケイシー!
血だらけで倒れているジュードを見つけ駆け寄るケイシー
ケイシー:ッ!?大丈夫ですか!?
ジュード:ぅう・・・うるせぇほっとけよ
ケイシー:で、でもこんなに血が・・・起き上がってください、こんなところで寝ていたら傷口からばい菌が入って・・・
ジュード:黙れ
ケイシー:今衛生兵を呼んできます
ジュード:余計な事するな
ケイシー:さぁ僕に掴まって
ジュード:俺に触んなッ!・・・ぅ痛ぇ・・・
ケイシー:で、でも!
リック:ケイシー、そっとしておこう
ケイシー:リック・・・。僕にはそんなこと出来ません。このまま死んでしまってもいいんですか!?
ジュード:くっそ・・・お前らいつの間にそんな仲良くなったんだよ。キンキンうるせぇ
リック:ジュードがボコボコにされている間に仲を深めたんだよ、いいでしょ
ジュード:はは・・・この新入りと?バカがうつるからやめとけ
リック:それは言えてるかもね。でもケイシーはジュードが思ってる以上にいいやつでバカだったよ
ジュード:あぁ・・・そうだな。むかつくぐらい俺に構ってきやがって
リック:初めてでしょこんなに優しくされるの。たまには甘えてみたら?
ジュード:誰がそんなことするか・・・そんなことしたら楽に死ねねぇだろ・・・
リック:もう休みなよ。疲れたでしょ?・・・おやすみ
ゆっくりと目を閉じるジュードを優しく見つめるリック
二人の様子を見てケイシーはやっと状況を理解したのだった
ケイシー:どうして、普通にしていられるんですか?
リック:普通じゃないよ。ほら見て、俺の手震えてる
ケイシー:いつもそう・・・なんですか?
リック:そうだよ。ジュードはわざと騒いだり生意気な態度取ったりしてるんだ。どうしてか坊ちゃんには分かるかな
ケイシー:分かりません、僕は・・・バカなので。分かりたくもありませんが
リック:あはは、俺も分かりたくなかったよ。いつまでもこんなことしたくない
ケイシー:ならどうして何もしないんですか。励ますとかもっと色々・・・
リック:俺にはそんな余裕ない。ケイシーもそのうちそんなこと言えなくなる
ケイシー:いえ、そんなことありません。言ったでしょ?僕は元気だけが取り柄なんです
リック:体は情けないのにな
ケイシー:そ、それは言わないでください!
リック:はぁ・・・もうすぐ夜が来ちゃうよ。嫌だなぁ
次の日
ジュード:ん・・・朝・・・?・・・生きてる
ケイシー:あっ、起きましたか?おはようございます!
ジュード:お、お前なにしてんだよ!
ケイシー:手当てです。ジュードとせっかく仲良くなれるチャンスなのにこのまま死なれたら困りますからね
ジュード:仲良くって・・・この毛も生えてないようなクソガキが!何を聞いたのかしらねぇがな、ほっとけって言っただろ!
ケイシー:なっ!今僕が気にしてる童顔を馬鹿にしましたね!?いいんですか?傷口つねりますよ!
ジュード:なんだこのガキ!本当のこと言って何が悪いんだよ、やんのかこの野郎!
ケイシー:そっちがその気ならいいですよ!童顔を馬鹿にした罪はかなり重いですからね
ジュード:童顔童顔うるせぇ!ガキはこの舎じゃないだろ!大人しく向こう行ってろよ
ケイシー:そっちこそガキガキってうるさいですね!僕はちゃんと成人しているしここに連れて来た兵士の方がジュードより見る目があるんじゃないんですか?
ジュード:・・・え、まじ?
ケイシー:なんですか?
ジュード:お前今成人してるって言ったか?
ケイシー:そうですけど、なにか?
ジュード:ま、まじで?
ケイシー:なにか文句でもあります?
ジュード:あ、ありえねぇ・・・
リック:おいおい、どっちがガキだよ
ジュード:お、おい!リックは知ってたのか!?こ、こいつが成人してるって!
リック:あぁ、うん。昨日ね。ジュードがツンツンしてる時に聞いた
ジュード:嫌な言い方すんな、お前もグルかよ
ケイシー:ということなので分かったら大人しく手当てされてください
ジュード:いいって、誰も頼んでねぇだろ
リック:ジュードも往生際が悪いぞ。そろそろ大人しくしないと兵士に見つかる・・・
ジュード:・・・いいぜ?俺はそれでも
ジュード:次こそは死ねるだろうしよ
ケイシー:またそんなこと。さっき目が覚めて安心していたくせに・・・
ジュード:あ?なんか言ったか今
リック:おいいい加減に・・・
ケイシー:死にたくないくせに、なんでそんなに強がってるんですか
ジュード:分かったような口聞くな
ケイシー:分かりやすいんですよ。昨日だって震えていたの気づいていないとでも思っているんですか?
ジュード:てめぇさっきからむかつくんだよ。だったら俺をこっから出して救ってみろよ。出来んのかよてめぇに!
ケイシー:そ、それは・・・。でも!いつかは出られる日が来ます!諦めるにはまだ早いです
ジュード:綺麗事並べてそんなに楽しいか?馬鹿にすんのも大概にしろよ
リック:・・・ケイシー、昨日は何も知らない方がいいなんて言ったけど現実をちゃんと見た方がいい
ケイシー:リックまで・・・どうしてそんなこと言うんですか
ジュード:世間知らずの坊ちゃんだから教えてやる。ここは強制労働だけじゃねぇ、拷問もされる。体を清めるどころか体中痛くて服も脱げない。夜には女が連れられて兵士の性処理に使われるんだ、それを俺たちは女たちの悲鳴に近い喘ぎ声を聞いて眠るんだぞ。それが毎日、お前には耐えられんのか?
ケイシー:・・・ッ
ジュード:てめぇには無理だろうな。こんなのが毎日続いてりゃ死にたいときが来るんだよ。次に励ますような事言ってみろ、お前を兵士の前に突き出して一緒に拷問してやる
リック:ジュード、言いすぎだ。酒が飲めないからってあんまり興奮するなよ
リック:ケイシーも、これが分かったら言葉には気を付けた方がいい、ここにはジュードみたいなやつばっかりいるからな
ケイシー:は、はい。すみません・・・気を付けます
ケイシー:で、でも!諦めないことは悪い事ではないですよね・・・?
ジュード:お前、まだそんなこと言ってんのか
リック:もちろんさ、ケイシー。俺はケイシーの前向きさに元気づけてもらってるぜ?たまにはこういうやつがいないとな!な?ジュード
ジュード:お前、フラフラとしやがって、どっちの味方だよ
リック:どっちも味方だ、当たり前だろ!
リックがケイシーとジュードの肩を掴み、笑ったことによってこの場は収まったのだった
ケイシー:そういえば、お二人はとても仲が良いですが、いつからここに?
リック:ジュードは三年前から、俺も三年前に来たけどジュードよりも後に来たんだ
ケイシー:そうなんですね。三年も・・・
ジュード:リック、俺は三年と八か月前にここに来たんだ。間違えるな
リック:死にたがってるやつが細かい事気にしてんじゃねぇよ
ケイシー:あはは、本当に仲がいいんですね
リック:三年もここに居ればな・・・こうなるのも仕方ないっていうか
ケイシー:素敵だと思います。こんな場所ではありますが、ここでなければ無かった出会いかもしれませんからね
ジュード:くせぇくせぇ、お前はいちいちセリフがくせぇんだよ
リック:いいじゃないか、こういうの俺好きだぜ?
ジュード:こんなとこに居ちゃあ言うだけ無駄だな
ケイシー:まぁまぁそんなこと言わないで、こんな時こそ好きな事を考えるんですよ
ジュード:ガキかよ
ケイシー:ここではこのぐらいしか出来ないんですから、しょうがないじゃないですか
リック:確かに言えてるな
リック:・・・えぇーっと、ジュードは酒が大好きなんだっけ?
ジュード:おい、なんで俺なんだ。余計なことを言うなよ
ケイシー:お酒好きなんですね!
リック:こいつは酒が無いと生きていけない性分でな、俺がここに来たときは「酒・・・酒・・・」って口癖のように呟いていたな
ジュード:こ、こいつ、いらんことまで言いやがって!そんなことどうでもいいだろ!
ケイシー:そんなに好きなんですね、どういうお酒を飲むんですか?やっぱりテキーラのショットとか・・・?
リック:テキーラ・・・!確かにジュードなら飲みそうだな
ジュード:・・・そんな下品な飲み方はしない
ジュードを馬鹿にするようにリックは揶揄うように言う
リック:とか言って、口が半開きになってるぞ。飲みたいんだろ?今にもよだれが垂れそうだ
ジュード:そ、そんなことねぇよ
ケイシー:飲めないってなると大変そうですね
リック:ケイシーは酒は飲むのか?
ジュード:こ、こいつは飲めねぇだろ、まだツルツルのガキだし
ケイシー:酷いなぁ。嗜む程度ですが飲むには飲みますよ。果実酒とか好きです
ジュード:やっぱガキじゃねぇか
リック:おしゃれなの飲むんだな、ケイシーらしい。・・・あんまり馬鹿にするようなこと言うとジュードが酒好きのおっさんと思われるのも時間の問題だな
ジュード:なんだと?
リック:本当の事だろ?もう三十手前なんだし
ジュード:それはお前も言えた事だろうが
リック:俺は自覚してるからいいんですぅー
ジュード:こいつッ!
ケイシー:それで、ジュードはどんなお酒を飲むんですか?
ジュード:・・・どうでもいいだろ
リック:どうでも良くないだろ!俺だって三年も一緒にいるのに知らないぜ?
ケイシー:飲みやすいお酒とかあったら教えてほしいんですけど・・・
ジュード:・・・も、もう酒の話はやめろ。せっかくここまで我慢してたのに飲みたくなるだろ
リック:あぁー、それもそうだな。早いとここの話を切り上げないと酒を飲んで酔っ払うジュードの妄想が始まってしまう
ケイシー:ジュードがそんなことを・・・!?
ジュード:するかボケ!なに適当なこと言ってんだ、そこまで落ちぶれてねぇよ!
ケイシー:妄想かぁ・・・
リック:なに?ケイシーも妄想とかするんだ
ケイシー:妄想というか、うーん、目標というか、夢、というか
リック:夢?
ケイシー:はい!僕実は父を継いで煙草屋を営んでいるんですけど、父がやっていた時より繁盛していなくて・・・
ケイシー:父にも負けないぐらい、世界中からわざわざ買いに来てくれるぐらい有名になりたいんです!
リック:へぇー、いいじゃないか。何をやるにしても夢がなきゃ続かないもんな!
ジュード:お前に煙草なんか売れると思わねぇけどな
リック:お前はまたそういうことを
ケイシー:あはは、いいんですよ、「ガキが煙草を売ってる」ってよく言われますから
ケイシー:僕もジュードやリックのようにたくましくなれたらいいんですけどね
リック:たくましく・・・って俺はともかくジュードがたくましいっていうのは譲れないな
ジュード:なんだと?どういう意味だ
リック:そのままの意味だよ。そんな背が高いだけの性格ひん曲がったようなジュードがケイシーの見本になられちゃ困るだろ?
ジュード:ケッ、腹立つことばっか言いやがって
ジュード:・・・まぁ確かに俺はただの飲んだくれか・・・
ケイシー:そんな自分を卑下するものじゃないですよ
ジュード:なんだよ、俺を元気づけようって?
ケイシー:そうですね、そのひん曲がった性格をまっすぐに出来る自信はありますよ?
ジュード:あぁうるせぇ、うぜぇ。俺はそういう前向きな奴が嫌いなんだよ
ジュード:こんなとこに閉じ込められてお先真っ暗だっていうのに
リック:ケイシーがポジティブなのもそうだけど、それはジュードがネガティブなだけだろ?
ジュード:違うな、俺は現実主義なだけだ
リック:たまには現実逃避をしたっていいと思わないか?
ケイシー:そうですよ・・・!ここから出たら何したいとか、まず最初に何を食べるとか
リック:そうだぜ?考えることといったらこれぐらいしかないしな
ジュード:なんだよ、二人して。そんな風に考えたところで、それが叶う時が一度でもあったか?三年間酒が飲みてぇと思っても今まで一度も口にしてない。飲んだのは虫の入った濁り水だけだ。想像しても酒になる訳じゃねぇんだよ
ケイシー:それは・・・そうですけど・・・
ジュード:考えるだけ後が辛くなるだけだ。やめとけ
リック:ジュードの気持ちは分からなくもない、けどな、このくらいいいじゃんか。罰を受けるわけでもない・・・
リックが俯きながら言っていると突然ノックの音が響いた。
三人は慌てて口を閉ざし息を潜め、ドアから目を逸らす。
ノックをしたのは兵士で、一瞬目が合ってしまったリックに兵士はゆっくりと近づいて行った。
リック:(恐怖で息を切らす)・・・
兵士がリックの腕を掴み部屋から出そうとしていた。
その様子を見てケイシーは兵士を止めようとするも、ジュードに裾を掴まれ止めることは出来なかった。
リックは体を震わせつつ強がるように言った。
リック:はぁ・・・ついに俺の番か・・・い、い、いつか、来ると思っていたんだ
リックは無理やり連れて行こうとする兵士に向かって叫んだ。
リック:クソッ、三十手前のおっさんが、怖がって悪いかよ!情けねぇって言いたいんだろ!
ケイシー:・・・リック!大丈夫ですよ・・・、絶対にここから出られますから、そしたら僕の店に煙草を買いに来てください!絶対に!
リック:・・・うん。絶対に行くさ、俺、言ってなかったけど酒も煙草も好きなんだぜ。み、みんなで・・・酒飲んで煙草吸おうな・・・?
リック:約束・・・だ
リックは涙をポロリと地面に落とし、ドアの向こうへと消えていった。
ジュード:おい、勝手に俺を混ぜるな。俺は煙草は吸わねぇんだ
ケイシー:リック、もう行ってしまいましたよ
ジュード:あぁ、情けねぇな。全く俺はよぉ・・・!!
ケイシー:ジュード・・・
ジュード:俺はとっとと死にてぇはずなのに、なんでこんな時に限ってアイツらに反抗できないんだよ
ジュード:何を怖がってんだよ、ふざけんな、このクソ野郎ッ!
ケイシー:諦めるのにはまだ早いです。リックは戻ってきますよ、それかここから解放されて今頃・・・
ジュード:戻ってこねぇよ。死ぬんだよ、殺されるんだよあいつは
ケイシー:なんでそんなこと言うんですか!
ジュード:今までだってそうだった、兵士は定期的にここへやってきて目が合ったやつを狙うんだ
ジュード:それで連れていかれたやつが帰ってきたことはねぇよ
ケイシー:じゃ、じゃあ家に帰ったんです。拘束を解かれたんです
ジュード:お前、いい加減にしろよ。俺に希望を持たせるな
ケイシー:僕は信じませんよ、リックがこれから死ぬなんて。リックの亡骸を見るまで信じませんから
ジュード:勝手にしろ。それで現実を知って絶望でもなんでもしろよ
ケイシー:僕はあなたと違って絶望なんかしません。
ジュード:俺の事舐めてんだろ。・・・あぁークソッ、俺は三年もここに居たんだ、三年もだぞ?こんなことどうってことねぇんだよ!
ケイシー:じゃあどうしてそんなに悲しそうなんですか
ジュード:うるせぇな
ケイシー:お酒が飲めないからですか?
ジュード:・・・あぁ、そうかもな
ケイシー:じゃあ飲みに行きますか
ジュード:何を急に言い出してんだ、ついに狂ったのか?
ケイシー:・・・ここから逃げましょう
ジュード:は?
ケイシー:逃げるんです。リックを連れて
ジュード:いや待てよ、話についていけない。何言ってんだ?
ケイシー:お酒、飲みたいんでしょう?僕だって煙草を吸わないとやっていられません
ジュード:そりゃあ飲みてぇけど、飲まずに死ぬのがオチだ
ケイシー:だから逃げるんです。ここでお酒を飲まずに死ぬか、逃げてお酒を浴びるほど飲むか、どちらがいいですか?
ジュード:そりゃあ飲みたいに決まってる。でも逃げるのが無理だって言ってんだよ、そこら中に兵士がいるんだぞ
ケイシー:その割にはノリ気じゃないですか。さっきまであんな反抗的だったのに
ジュード:さ、酒に目がくらんだんだよ、悪いかよ
ケイシー:いいえ、嬉しいです!
ジュード:・・・どうやって逃げ出そうっていうんだよ
ケイシー:いえ、まだ考えていません
ジュード:はぁ!?
ケイシー:何かいい考えありませんか?
ジュード:あるわけねぇだろ・・・逃げようなんて思ったこともなかったのに
ケイシー:ですよね・・・えへへ、脱獄みたいで面白いですね
ジュード:遊びで言ってるなら協力しねぇぞ
ケイシー:すみません・・・僕が言い出したことなので責任は最後まで取ります
ジュード:当たり前だ。リックとお前・・・ケイシーと酒を飲むためだ
ケイシー:はいっ!あ、煙草も忘れないでくださいね
ジュード:俺は煙草は吸わねぇ