台本概要

 697 views 

タイトル 旅人と宿屋
作者名 あまくケイ  (@amak0331)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 旅の者、道行く途中に、奇妙な宿屋の声をきく

性別不問
5~10分
雰囲気を崩すアドリブは無

 697 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
旅人 不問 35 道中を旅している者。年齢不詳、性別不問
宿屋 不問 35 小さな宿屋の前で座る者。年齢不詳、性別不問
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
宿屋:ほれ、そこの旅人 旅人:ふむふむ。商売上手が、ほれと声などかけぬ 旅人:ここでひょっこり鍛えてきた、シカト芝居を見せてみるかの 宿屋:何をぶつぶつ言うとるか 旅人:冗談、冗談。しかし、小さな宿屋よのう 宿屋:大きければ、安らぎを得られるなんざ、勘の違いもいいところ 旅人:なにゆえ宿屋は、声をかける? 宿屋:言葉を紡がずとも、お主がひょっと見た時に、抱き申した感想が答えだ 旅人:はて。私の心中が見えると申すか 宿屋:宿屋のする事といえば、道行く銭を招き入れ、顔を覚えるのみ。顔の中には、常に心が宿っておる 旅人:殿方に捧げるような敬いが、この商売に、必要と聞き入れたことがあるぞ? 宿屋:なに、それは儲けの下手な者共のやることゆえ 宿屋:顔は覚えるが、銭と思い込まねば、やってはいけぬよ、この商売 旅人:学びになる心得とな、肝に銘じておこう 宿屋:果てさて、そうとなれば泊まって行け 旅人:このような寝床に泊まって行けと? 誠にお主は宿屋か? 「行け」というのは、明日の朝日ではなく、冥界の入口ということなれば、分からぬこともない 宿屋:旅人。その口が、万物の創り神の口となれば、誠に疑う思い込み。現(うつつ)の実皮(みがわ)を開けてみれば、ここは寸分違わぬ宿屋で、私が主(あるじ)たるものよ。思い込みが過ぎるのは、お主のほうではないか? 旅人:単に違うと申すわけか。しかし、宿屋よ。泊めるにしちゃぁ、あまりに汚くはないかの? 宿屋:ううむ。桜の舞う日も、汗の入り乱れる日も、紅い葉っぱが、水の滴りに乗じて流れる日も、白い寒さに溺れてしまうような日も、このご立派な造りが、崩れたことはあるまいが? 旅人:危うさの話であるまいことを分かっておるか? はっとこの目に見えるは、埃(ほこり)だ。手入れのしない箒ではいたような……いいや、はくことを忘れたような、じめじめとした埃(ほこり)。またこの……染み込まれた雨水が未だに息をひそめる湿った感触が、なんともいえぬ 宿屋:それが、この宿屋。幾年も続く理由よ 旅人:生まれてこの方、歩いてこの方、私はすれ違うどの者にも、頷く部分があったというのに。宿屋よ、お主からは一向に感じ取れん 宿屋:先に、銭の話で頷いてはおらんかったか? 旅人:頷きを見たとあれば、一度、天の恵みが流れる川で、顔のばい菌を洗い流し、私の目をじっと見つめるといい。山がひっくり返るほどの大嘘だとよーく分かる 宿屋:それは誠に残念よのう。お主には、新しい夢の先が見れるかもしれぬのに 旅人:仮に、お主の宿屋で一夜を過ごしたとしよう。きっと明日には、手が物の怪のように腫れ、獣と肩を並べるほどの牙と、体格を手にするだろう 宿屋:寝床には、物の怪はおらぬよ 旅人:いいや、おるね 宿屋:……ほう 旅人:私はいくつもの地を渡り歩いておる。歩いていけば、自然と目にするものや、耳にするものを覚えてしまうのだ。 旅人:旅人には「やる事」が無い。ひたすらに、歩くことのみ 宿屋:お主は、どこまで歩くつもりだい? 旅人:さて、な 宿屋:歯切れの悪い返事をしよる 旅人:歩いてこの方、そのような問いは、一度も耳にしたことがないものでのう 宿屋:それは誠か? 旅人:旅に嘘はいらぬ。嘘を持ち歩いてしまっては、死にゆく時に、己を悔やむ 宿屋:何故、悔やむか? 旅人:己として生きていくには、誠を心の内に、持ちゆる必要がある 旅人:それがなければ、旅などできぬ 旅人:嘘の旅など、夢の中でしてしまえ 宿屋:寝床につけば、嘘も誠になるかもしれぬぞ 旅人:その誠は、宿屋よ。お主が身勝手に与えているものであろう 旅人:誠とは、己の内にしかないものぞ 宿屋:何を言うか。これが誠だ、と言ってしまえば、嘘も誠に成り代わる。私の前を通った客人は、みな、口をそろえて言うておった 旅人:それは、お主の銭稼ぎ。もしやすれば、嘘は銭で、誠に変えられるかもしれぬが。銭で出来た誠でしかない。それは、誠ではない。同じことを言うてしまうが、誠とは、己の内からでるものなり 宿屋:説法を解く旅人など、死ぬまでにいくつ会えるか 旅人:長生きをする物の怪なら、いくつでもあえるだろうて 宿屋:おやおや……何を申すやら 旅人:言い忘れておった。旅でもしていれば、目と、耳と……そして鼻も、まるで神のように冴えてしまう 旅人:最近、物の怪を嗅ぎ分けられるようになってのう。一芸を披露できるかもしれぬ 宿屋:なれば大道芸人になればよいだろう 旅人:残念。私は、旅が好きでの 宿屋:……ふん。お主からはお代はいらぬ。はよう消えい 旅人:はっはっは。本質とは、見抜かれた時に現れるもの 宿屋:てまえのような輩など、金輪際、会いたくないものだのう 旅人:まぁそうかっかするでない 旅人:……ただ、今は桜の舞う日。人襲いを忘れ、桜をたしなむことを覚えてみてはどうだ? 宿屋:もう散る頃合いだろうに、何を言うとるか 旅人:あぁ……はは。今一度、身に感じねばいかぬなぁ。旅も続けば、細かい季節の成り行きを、つい忘れてしまう 旅人:……なれば宿屋。緑の葉っぱが生い茂る、この常(つね)を感じればよい 宿屋:物の怪に感じられるとよいがな 旅人:それに、この寝床のありよう、とても人襲いに向いているとは思えぬ。もしや、飽きているのではないかえ? 宿屋:ほう、私の心中が見えると申すか 旅人:勿論。お主からは、物の怪とは思えぬ……人襲いの心意気がのう、どうにも感じぬのだ 宿屋:腹をくくらねばならぬ時がある。臆病者と呼ばれる生き様を、終わらせなくてはならん 旅人:物の怪同士の見栄など、悠久の時と比べてしまえば、遥かに小さい石っころのようなもの 宿屋:……それは 旅人:そもそも、人は来ておるのか? 宿屋:いいや。旅人……お主が久しぶりの客人だ。次こそはと思い、人に語り掛けておる 旅人:それなら、丁度が良いもの。ここで出会ったが運のさが 旅人:もしお主が、次に私と会いまみえる時。互いの手をあつく握られるほどの良き友となっていたのなら、今度の桜は共に眺める事ができよう。その時は、この湿った寝床も借りてみようではないか 宿屋:…… 旅人:はは、まるで人間のような、うなり方をするのう 宿屋:……お主、名は? 旅人:次に会う頃、教えてしんぜよう。気まぐれだがの 宿屋:その言葉、忘れるでないぞ 旅人:では、さらばだ 0: 宿屋:久しく胃が、かっかする人間と出会ったものだ 宿屋:悔しくて藁(わら)に飛び込む思いであるが、旅人の申した通り、この商売にも飽きが生まれた頃合い 宿屋:お主が再び参る頃には、この緑の囁き……私の余興にしてみせよう 0: 旅人:誠があれば、嘘もある 旅人:明があれば、暗もある 旅人:しかし、歩き続ければ、太陽と夜は、友のようなもの 旅人:さくらが散ろうと、暑い日が過ぎようと、紅い葉っぱが枯れようと、気づけば雪が溶けようと 旅人:己の誠を持ちながら、歩いていきたいものだのう

宿屋:ほれ、そこの旅人 旅人:ふむふむ。商売上手が、ほれと声などかけぬ 旅人:ここでひょっこり鍛えてきた、シカト芝居を見せてみるかの 宿屋:何をぶつぶつ言うとるか 旅人:冗談、冗談。しかし、小さな宿屋よのう 宿屋:大きければ、安らぎを得られるなんざ、勘の違いもいいところ 旅人:なにゆえ宿屋は、声をかける? 宿屋:言葉を紡がずとも、お主がひょっと見た時に、抱き申した感想が答えだ 旅人:はて。私の心中が見えると申すか 宿屋:宿屋のする事といえば、道行く銭を招き入れ、顔を覚えるのみ。顔の中には、常に心が宿っておる 旅人:殿方に捧げるような敬いが、この商売に、必要と聞き入れたことがあるぞ? 宿屋:なに、それは儲けの下手な者共のやることゆえ 宿屋:顔は覚えるが、銭と思い込まねば、やってはいけぬよ、この商売 旅人:学びになる心得とな、肝に銘じておこう 宿屋:果てさて、そうとなれば泊まって行け 旅人:このような寝床に泊まって行けと? 誠にお主は宿屋か? 「行け」というのは、明日の朝日ではなく、冥界の入口ということなれば、分からぬこともない 宿屋:旅人。その口が、万物の創り神の口となれば、誠に疑う思い込み。現(うつつ)の実皮(みがわ)を開けてみれば、ここは寸分違わぬ宿屋で、私が主(あるじ)たるものよ。思い込みが過ぎるのは、お主のほうではないか? 旅人:単に違うと申すわけか。しかし、宿屋よ。泊めるにしちゃぁ、あまりに汚くはないかの? 宿屋:ううむ。桜の舞う日も、汗の入り乱れる日も、紅い葉っぱが、水の滴りに乗じて流れる日も、白い寒さに溺れてしまうような日も、このご立派な造りが、崩れたことはあるまいが? 旅人:危うさの話であるまいことを分かっておるか? はっとこの目に見えるは、埃(ほこり)だ。手入れのしない箒ではいたような……いいや、はくことを忘れたような、じめじめとした埃(ほこり)。またこの……染み込まれた雨水が未だに息をひそめる湿った感触が、なんともいえぬ 宿屋:それが、この宿屋。幾年も続く理由よ 旅人:生まれてこの方、歩いてこの方、私はすれ違うどの者にも、頷く部分があったというのに。宿屋よ、お主からは一向に感じ取れん 宿屋:先に、銭の話で頷いてはおらんかったか? 旅人:頷きを見たとあれば、一度、天の恵みが流れる川で、顔のばい菌を洗い流し、私の目をじっと見つめるといい。山がひっくり返るほどの大嘘だとよーく分かる 宿屋:それは誠に残念よのう。お主には、新しい夢の先が見れるかもしれぬのに 旅人:仮に、お主の宿屋で一夜を過ごしたとしよう。きっと明日には、手が物の怪のように腫れ、獣と肩を並べるほどの牙と、体格を手にするだろう 宿屋:寝床には、物の怪はおらぬよ 旅人:いいや、おるね 宿屋:……ほう 旅人:私はいくつもの地を渡り歩いておる。歩いていけば、自然と目にするものや、耳にするものを覚えてしまうのだ。 旅人:旅人には「やる事」が無い。ひたすらに、歩くことのみ 宿屋:お主は、どこまで歩くつもりだい? 旅人:さて、な 宿屋:歯切れの悪い返事をしよる 旅人:歩いてこの方、そのような問いは、一度も耳にしたことがないものでのう 宿屋:それは誠か? 旅人:旅に嘘はいらぬ。嘘を持ち歩いてしまっては、死にゆく時に、己を悔やむ 宿屋:何故、悔やむか? 旅人:己として生きていくには、誠を心の内に、持ちゆる必要がある 旅人:それがなければ、旅などできぬ 旅人:嘘の旅など、夢の中でしてしまえ 宿屋:寝床につけば、嘘も誠になるかもしれぬぞ 旅人:その誠は、宿屋よ。お主が身勝手に与えているものであろう 旅人:誠とは、己の内にしかないものぞ 宿屋:何を言うか。これが誠だ、と言ってしまえば、嘘も誠に成り代わる。私の前を通った客人は、みな、口をそろえて言うておった 旅人:それは、お主の銭稼ぎ。もしやすれば、嘘は銭で、誠に変えられるかもしれぬが。銭で出来た誠でしかない。それは、誠ではない。同じことを言うてしまうが、誠とは、己の内からでるものなり 宿屋:説法を解く旅人など、死ぬまでにいくつ会えるか 旅人:長生きをする物の怪なら、いくつでもあえるだろうて 宿屋:おやおや……何を申すやら 旅人:言い忘れておった。旅でもしていれば、目と、耳と……そして鼻も、まるで神のように冴えてしまう 旅人:最近、物の怪を嗅ぎ分けられるようになってのう。一芸を披露できるかもしれぬ 宿屋:なれば大道芸人になればよいだろう 旅人:残念。私は、旅が好きでの 宿屋:……ふん。お主からはお代はいらぬ。はよう消えい 旅人:はっはっは。本質とは、見抜かれた時に現れるもの 宿屋:てまえのような輩など、金輪際、会いたくないものだのう 旅人:まぁそうかっかするでない 旅人:……ただ、今は桜の舞う日。人襲いを忘れ、桜をたしなむことを覚えてみてはどうだ? 宿屋:もう散る頃合いだろうに、何を言うとるか 旅人:あぁ……はは。今一度、身に感じねばいかぬなぁ。旅も続けば、細かい季節の成り行きを、つい忘れてしまう 旅人:……なれば宿屋。緑の葉っぱが生い茂る、この常(つね)を感じればよい 宿屋:物の怪に感じられるとよいがな 旅人:それに、この寝床のありよう、とても人襲いに向いているとは思えぬ。もしや、飽きているのではないかえ? 宿屋:ほう、私の心中が見えると申すか 旅人:勿論。お主からは、物の怪とは思えぬ……人襲いの心意気がのう、どうにも感じぬのだ 宿屋:腹をくくらねばならぬ時がある。臆病者と呼ばれる生き様を、終わらせなくてはならん 旅人:物の怪同士の見栄など、悠久の時と比べてしまえば、遥かに小さい石っころのようなもの 宿屋:……それは 旅人:そもそも、人は来ておるのか? 宿屋:いいや。旅人……お主が久しぶりの客人だ。次こそはと思い、人に語り掛けておる 旅人:それなら、丁度が良いもの。ここで出会ったが運のさが 旅人:もしお主が、次に私と会いまみえる時。互いの手をあつく握られるほどの良き友となっていたのなら、今度の桜は共に眺める事ができよう。その時は、この湿った寝床も借りてみようではないか 宿屋:…… 旅人:はは、まるで人間のような、うなり方をするのう 宿屋:……お主、名は? 旅人:次に会う頃、教えてしんぜよう。気まぐれだがの 宿屋:その言葉、忘れるでないぞ 旅人:では、さらばだ 0: 宿屋:久しく胃が、かっかする人間と出会ったものだ 宿屋:悔しくて藁(わら)に飛び込む思いであるが、旅人の申した通り、この商売にも飽きが生まれた頃合い 宿屋:お主が再び参る頃には、この緑の囁き……私の余興にしてみせよう 0: 旅人:誠があれば、嘘もある 旅人:明があれば、暗もある 旅人:しかし、歩き続ければ、太陽と夜は、友のようなもの 旅人:さくらが散ろうと、暑い日が過ぎようと、紅い葉っぱが枯れようと、気づけば雪が溶けようと 旅人:己の誠を持ちながら、歩いていきたいものだのう