台本概要

 730 views 

タイトル 雪の降る日に君を待つ
作者名 桜蛇あねり(おうじゃあねり)  (@aneri_writer)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 不思議な女の子と、不思議な、それでいて心地の良い日常。
僕たちの日常が変わるときは、いつだって雪が降っていた。

※世界観を壊さないアドリブ等はOKです。

 730 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
冬輝 100 ふゆき。
舞白 75 ましろ。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:雪が降る日に君を待つ : 冬輝:(M)彼女との出会いは雪の降る夜だった。 冬輝:バイト帰りにいつも通る公園で、ベンチに座ってぼーっとしている女の子を見つけた。見たところ、高校生、くらいだろうか? 冬輝:こんなに寒い夜なのに、彼女は白いキャミソールのワンピースでそこに座っていた。 : 冬輝:ちょっと君、そんな格好でどうしたの!?風邪ひくよ!? : 冬輝:(M)僕はすぐに着ていたコートを脱ぎ、彼女の身体を包む。彼女は、無表情でこちらを一瞥(いちべつ)した。 舞白:なに? 冬輝:いやなにって....。こんなとこでどうしたの?その格好、寒いでしょ?時間も遅いし....早く家に帰りなって。 舞白:家、ないからここにいる。 冬輝:え?家がないって....? 舞白:追い出されちゃった。だから帰る家がないの。 冬輝:家族に?喧嘩でもしたの? 舞白:ううん。家族もいない。人の家にいさせてもらったんだけど、いらないって追い出されちゃったの。 冬輝:ううん?えーと、なかなかに複雑な状況ってこと、かな? 舞白:ねぇ、あなたの家に居させてもらうこと、できない? 冬輝:........え? 舞白:迷惑はかけないようにがんばるから。ちゃんとバイトもするし、家のお手伝いもする。だから、お願い。 冬輝:えぇー......。いやでも、君、未成年、だよね? 舞白:18。 冬輝:うーん、だよねぇ。そんな子を家に連れて帰りなんてしたら、僕、通報されちゃうよ....。 舞白:そう、だよね。ごめんなさい。これ、返すね。 冬輝:いやいや!いいから!着てて!....あーもう!わかった、いいよ!僕の家においで! 舞白:ありがとう。 : 0:冬輝の家 : 冬輝:大学生の一人暮らしだから、狭くて散らかってるけど....。 舞白:邪魔にならないようにするから。 冬輝:とりあえず何か食べよっか。作るからちょっとまってて。 舞白:私が作るよ。 冬輝:え?いやいや、いいよ、ゆっくりしてなって。 舞白:いやだ。私が作るから。食材、なにがある? 冬輝:ええー。わかったわかった。えぇっと...何があったかな..。 : 0:間 : 舞白:オムライス。できた。 冬輝:おぉ..クオリティ高..。いただきます。....うお、おいし! 舞白:よかった。いただきます。 冬輝:料理得意なんだね。 舞白:こういう事くらいしかできないから。 冬輝:ねぇ、君、名前は? 舞白:舞白(ましろ)。あなたは? 冬輝:僕は冬輝(ふゆき)。舞白かぁ、いい名前だね。 舞白:冬輝。ありがとう。ここにいる間、家のことは私がやるから。バイトも探して、自分のものは自分で買うし、少ないかもしれないけど、生活費も出すから。だから、私をここに置いて欲しい。 冬輝:うぅん...。まぁ、他に行く宛てもないんだもんね。いいよ。でも、生活費とか家事とか、できる範囲でいいからね。無理はしないで。 舞白:....うん。冬輝は優しいね。ありがとう、これからよろしくね。 冬輝:(M)こうして、僕らの不思議な同居生活が始まった。 冬輝:さすがに同じ布団で寝るのはなぁと思い、次の日布団を買ってきて僕の布団の隣に並べた。他にも、舞白用に、食器や歯ブラシ等を買って置いておいた。どうやら、僕は、自分が思う以上に舞白との同居を楽しく思っているらしい。 冬輝:舞白は、すぐにバイトを見つけ、週3,4で働いてくれている。学業とバイトを両立している僕よりも稼ぐようになってしまった。舞白が毎月、生活費と言って渡してくれるそのお金は、自分の口座には入れず、そのまま閉まっておいた。 : 冬輝:(M)2人でそんな生活を送っているのだが、舞白は僕に対して必要以上に干渉してこない。会話もあるし、コミュニケーションは取れているのだが、舞白の方から話しかけてくることはほとんどない。同じ空間にいるけれど、お互いすきに過ごしている。そんな日常だった。 : 冬輝:(M)ある日のことだ。その日はとても寒く、大ぶりの雪が降っていた。 : 冬輝:ただいま。あー寒......。雪やべぇ....。......あれ?舞白? : 冬輝:(M)いつもキッチンでご飯を作りながら待ってくれているはずなんだが、部屋に彼女の姿はない。電気はついているから、どこかに居るとは思うのだが、トイレにも風呂場にも姿はない。ふと、視線をあげると、ベランダの外に舞白がいるのが見えた。小さなベランダに出て、彼女は降り積もる雪を眺めている。そんな寒いところで、とベランダに近づいてみると、舞白はこの季節なのに白いキャミソールのワンピース姿だった。 : 冬輝:ちょっと!こんな寒いのになんでそんな格好なの!? 舞白:あ、冬輝。おかえりなさい。 冬輝:ほら!早く部屋入って!身体冷えちゃうでしょ!だめだよ、こんな寒いのにそんな格好で! 舞白:もうちょっとだけ。 冬輝:え? 舞白:もうちょっとだけ、雪を見てたいの。 冬輝:はぁ.....。わかったわかった。じゃあちょっとまってて。せめてコートくらいは羽織って。見てるこっちが寒いよ。 舞白:大丈夫。寒くないから。 冬輝:(M)舞白はそう言って、視線を空へと移した。夜の黒と、雪とワンピースの白がとても綺麗に映える。その中でどこか遠くを見つめるような舞白は、とても儚く、とても綺麗で、とても愛おしいと思った。 : 冬輝:(舞白に後ろからそっと抱きつく) 舞白:冬輝? 冬輝:(M)気づいたら、舞白を後ろから抱きしめていた。 舞白:ねぇ、冬輝。どうしたの? 冬輝:好きだ。 舞白:え? 冬輝:舞白のこと、好きだ、僕。 舞白:......好き? 冬輝:うん。好き。 舞白:そっかぁ。 冬輝:そっか、って....。 舞白:こういう時ね、どうすればいいのかわからないの。私には感情がないから。 冬輝:え、感情がない? 舞白:そういうね、好きとか幸せとかの感情がね。私にはないの。だからね、冬輝が私を好きっていう気持ちとか、よく分かんない。 冬輝:......これは、フられた、のかな。 舞白:どうなんだろうね? 冬輝:君が聞き返さないでよ(笑) 舞白:よくわかんないけど、今私は、冬輝と一緒に過ごしていたいとは思うよ。 冬輝:そっか。それなら、いいや。......ねぇ、舞白。僕、就職決まったんだ。だから、もう少し広い家に引っ越そう。 舞白:引っ越すの? 冬輝:うん。舞白からもらってきたお金、全部貯めてあるんだ。舞白さえよければ、そのお金で引っ越そうかなって。 舞白:あのお金は冬輝にあげたもの。冬輝が好きに使って。 冬輝:わかった。じゃあ、引っ越そうか。......の前に、部屋入ろうか。寒い。 舞白:私は寒くないけど。 冬輝:すごいなぁ。それでもずっとここにいるのはよくないよ。ほら、中入ってご飯食べよう。 舞白:うん。 : 冬輝:(M)それから大学を卒業した僕は、舞白と一緒に就職先の近くに引っ越した。1LDKのアパート。そこで僕らは新しい生活を始めた。 冬輝:とは言っても、環境はかわりこそすれ、僕たちの関係は変わらなかった。相変わらず舞白は僕に干渉しないし、僕も舞白のことが好きと気づいたものの、接し方は今までと変わらない。 冬輝:だけどそれが、僕たちらしさだと最近は思うようになった。僕は別に、舞白から告白の返事がもらえなくても、僕に対して恋愛感情を抱いてなくても、そばに居てくれるだけで良かった。ただただ、彼女と過ごす日常は居心地が良かった。 : 冬輝:(M)だけど。1年がたった頃。僕の居心地の良い日常はあっさりと終わりを告げた。 : 冬輝:ただいま。......あれ、舞白?.......ベランダ、かな? : 冬輝:(M)ある日の夜、帰ってきたら、舞白はベランダにいた。僕が想いを告げた、あの日のように。白いキャミソールのワンピースで遠くを見つめるような眼差しで、雪を見ていた。 : 冬輝:舞白。またそんな格好で。 舞白:冬輝。おかえり。 冬輝:雪、だいぶ強くなってきたね。明日には積もってるかな。 舞白:うん。 冬輝:さ、冷えるから。中入ってご飯食べよう。 舞白:........。 冬輝:舞白? 舞白:冬輝、私、明日出ていくね。 冬輝:え? 舞白:今までありがとう。 冬輝:どう、して.....? 舞白:遠くに行ってみたくなったの。 冬輝:......ここの生活が嫌になった? 舞白:ううん。違うよ。ただ、遠くに行ってみたいだけ。 冬輝:......そう。....わかった。 : 冬輝:(M)僕は止めなかった。止めたところで無駄だとわかっていたから。舞白は僕に執着してなかったし、僕らは別に恋人でもない。僕はこの生活が心地よくてずっと続けたいと思っていたけど、舞白は違ったのだろう。僕の独りよがりな理由だけで、舞白を止めようとは思えなかった。 : 冬輝:(M)そして翌日。舞白は出ていった。必要最低限の荷物だけ持って。彼女から毎月貰って貯金していた生活費を返そうとしたが、彼女は受け取らなかった。 冬輝:舞白が出ていって、不思議と怒りと言った感情はなかった。好き勝手しやがって、とか都合のいいように居候して、とか他の人は思うのかもしれないが、僕にはそういう感情は全くなくて、代わりに凄まじい寂しさだけがそこにはあった。 冬輝1人で過ごす日常が耐えられなかった。 : 0:間 : 冬輝:(M)しばらくして、僕には恋人ができた。寂しさに耐えられなくて、夜な夜なBARに通い、そこで出会った女性だ。 冬輝:お互い寂しがり屋ということもあって、付き合ってすぐに同棲することになった。僕と舞白がいた部屋で、その恋人と過ごす日常が始まった。..........始まったのだが。 冬輝:その恋人と過ごす日常は息苦しさしかなかった。仕事以外の時間は常に一緒にいたがり、どこか出かけようとするとどこに行くのかと聞かれ、自分も行くからとついてくる。家で一人で読書していると、暇だから構えと本を取り上げられた。1人の時間が全くできないその生活に耐えられず......1年後、僕は恋人と別れた。 : 冬輝:(M)また、1人の日常が戻ってきた。あんなにひとりの時間が欲しいと思っていたのに、いざひとりぼっちになると、やはり寂しいものがある。僕ってワガママだなぁ、と今日も1人夜を過ごしていた時、インターフォンが鳴った。 : 冬輝:ん?もう夜の11時だぞ?なんだよ、こんな時間に......。はーい........。(ドアを開ける) 舞白:冬輝。ただいま。 冬輝:ま、しろ......? : 冬輝:(M)そこには、白いキャミソールのワンピースを着た、舞白が立っていた。 舞白:入っていい? 冬輝:え、あぁ、うん。 : 冬輝:(M)突然のことに頭が追いついていない僕の横を舞白は通り過ぎ、そのまま布団へ横になった。 舞白:冬輝。こっち。 冬輝:え、舞白? 舞白:寒いから暖めて。1人じゃ暖められないから。 冬輝:え?あ、う、うん。 : 冬輝:(M)当たり前のようにそこにいる舞白を、僕はそっと、抱きしめる。 舞白:あったかい。 冬輝:どうして戻ってきたの。 舞白:遠くに行ってみたけど、上手くいかなくて。いつの間にかここに来てた。 冬輝:そう、なんだ。......ねぇ、寒いのは平気なんじゃなかったの? 舞白:平気。だと思ってたけど、今日はなんだか寒いの。 冬輝:そっか。 舞白:冬輝、元気にしてた? 冬輝:えへへ、どうだろ。僕もなんか上手くいかなくてね。 舞白:お互い、上手くいかなかったんだね。またここに居てもいい?また、遠くに行きたくなるまで。 冬輝:いいよ。舞白が遠くに行きたくなるまで。 舞白:うん。 冬輝:(M)また僕の居心地のいい日常が始まった。 0:間 冬輝:(M)その日常が半年ほど続いたある日、また舞白はベランダに出て遠くを見つめていた。相変わらず、白いキャミソールのワンピース。 : 冬輝:出ていく? 舞白:うん。また遠くに行ってみる。 冬輝:わかった。いってらっしゃい。 舞白:明日。出ていくね。 冬輝:(M)再び出ていった舞白を、僕は何も言わずに見送った。僕は、舞白のものを片付けず、恋人も作らず、ひとりを過ごしていた。不思議と心は穏やかだった。 0:間 冬輝:(M)また雪が降る季節になった。僕は相変わらず、1人で過ごしている。ふと、思い立った僕は、舞白の真似をして、ベランダで雪を眺めてみた。白い息に白い雪。肌をさす冬の風に、澄んだ空気。あぁ、これはなにか考え事をするのにいいな、と思った。そのまましばらく雪を眺めていると、インターフォンがなった。 舞白:ただいま。 冬輝:おかえり、舞白。 舞白:誰かいる? 冬輝:大丈夫。僕だけだよ。 舞白:ありがとう。またここにいるね。 冬輝:うん。待ってたよ。 0:間 舞白:やっぱりね、どこに行っても、ここに戻ってきちゃうの。 冬輝:そっか。 舞白:私はね、いろんなところに行って、いろんなこと見て、いろんなものに触れてみたいの。 冬輝:うん。 舞白:だから、遠くに行きたくなる。いろんな場所でいろんなことを感じたいって思う。 冬輝:うん。 舞白:いろんなことをね、感じてきたの。いろんな場所に行って、いろんな人と関わって。 冬輝:うん。 舞白:ここがね、1番あたたかいの。 冬輝:うん。 舞白:でも。まだ私の探したいものは見つかってない気がするから。また私は遠くに行くと思う。 冬輝:いいよ。舞白の好きに生きればいい。 舞白:冬輝、ありがとう。 冬輝:ねぇ、舞白。次に君が帰ってきたら、渡そうと思ってるものがあったんだ。 舞白:渡すもの? 冬輝:うん。..........はい。これ。 舞白:指輪.....? 冬輝:うん。僕の一方的な気持ちだよ。 舞白:一方的な、気持ち......? 冬輝:はじめに舞白が出ていった時ね。もう戻ってこないんだと思って、僕は寂しさのあまり他の人と一緒にいようとして失敗した。そして舞白が帰ってきて、また出ていった時。僕は舞白のことだけを想って1人で過ごしていた。寂しさがなかったわけじゃないけど、舞白のことを想いながら過ごす日常も悪くなかった。 舞白:うん。 冬輝:だからね、舞白がこの先、また遠くへ行ったとしても、僕はひたすら舞白を待ち続けるよ。舞白がいつでも帰って来れるように。僕はここで待ってる。その決意がその指輪。つけなくてもいいから。持っていて欲しい。 舞白:うん。......冬輝、着けて。 冬輝:いいよ。……左手の薬指、でいいかな? 舞白:うん。 冬輝:よかった、ピッタリだ。 舞白:綺麗だね。 冬輝:あくまでこれは僕の一方的な気持ちだから。舞白は今まで通り、好きなように生きて。 舞白:うん。わかった。 冬輝:さぁ、ご飯、食べよっか。 舞白:うん。 0:間 冬輝:(M)それから1年がたった。舞白は未だにここにいる。だけど、今夜はベランダに出て、雪を眺めていた。ついにこの日が来たかと思った。白い息を吐きながら、白い雪を見つめる舞白。今日はキャミソールのワンピースだけではなかった。その上から、暖かそうなボア生地のパーカーを羽織っている。僕は舞白の隣に立ち、一緒に雪を眺めた。 : 冬輝:明日、出ていく? 舞白:そのつもりだったんだけどね。 冬輝:(M)舞白はそっと首を振りながらそうつぶやき、僕の方へ身体ごと向き直った。そして、 舞白:行けなくなっちゃった。 冬輝:(M)そう僕に告げた。否定的な言葉を発しているはずなのに、彼女の表情に悲しさや苦しさは全くなかった。 冬輝:舞白はとても幸せそうに、ただただ幸せそうに、満面の笑みを浮かべていた。 0:【完】

0:雪が降る日に君を待つ : 冬輝:(M)彼女との出会いは雪の降る夜だった。 冬輝:バイト帰りにいつも通る公園で、ベンチに座ってぼーっとしている女の子を見つけた。見たところ、高校生、くらいだろうか? 冬輝:こんなに寒い夜なのに、彼女は白いキャミソールのワンピースでそこに座っていた。 : 冬輝:ちょっと君、そんな格好でどうしたの!?風邪ひくよ!? : 冬輝:(M)僕はすぐに着ていたコートを脱ぎ、彼女の身体を包む。彼女は、無表情でこちらを一瞥(いちべつ)した。 舞白:なに? 冬輝:いやなにって....。こんなとこでどうしたの?その格好、寒いでしょ?時間も遅いし....早く家に帰りなって。 舞白:家、ないからここにいる。 冬輝:え?家がないって....? 舞白:追い出されちゃった。だから帰る家がないの。 冬輝:家族に?喧嘩でもしたの? 舞白:ううん。家族もいない。人の家にいさせてもらったんだけど、いらないって追い出されちゃったの。 冬輝:ううん?えーと、なかなかに複雑な状況ってこと、かな? 舞白:ねぇ、あなたの家に居させてもらうこと、できない? 冬輝:........え? 舞白:迷惑はかけないようにがんばるから。ちゃんとバイトもするし、家のお手伝いもする。だから、お願い。 冬輝:えぇー......。いやでも、君、未成年、だよね? 舞白:18。 冬輝:うーん、だよねぇ。そんな子を家に連れて帰りなんてしたら、僕、通報されちゃうよ....。 舞白:そう、だよね。ごめんなさい。これ、返すね。 冬輝:いやいや!いいから!着てて!....あーもう!わかった、いいよ!僕の家においで! 舞白:ありがとう。 : 0:冬輝の家 : 冬輝:大学生の一人暮らしだから、狭くて散らかってるけど....。 舞白:邪魔にならないようにするから。 冬輝:とりあえず何か食べよっか。作るからちょっとまってて。 舞白:私が作るよ。 冬輝:え?いやいや、いいよ、ゆっくりしてなって。 舞白:いやだ。私が作るから。食材、なにがある? 冬輝:ええー。わかったわかった。えぇっと...何があったかな..。 : 0:間 : 舞白:オムライス。できた。 冬輝:おぉ..クオリティ高..。いただきます。....うお、おいし! 舞白:よかった。いただきます。 冬輝:料理得意なんだね。 舞白:こういう事くらいしかできないから。 冬輝:ねぇ、君、名前は? 舞白:舞白(ましろ)。あなたは? 冬輝:僕は冬輝(ふゆき)。舞白かぁ、いい名前だね。 舞白:冬輝。ありがとう。ここにいる間、家のことは私がやるから。バイトも探して、自分のものは自分で買うし、少ないかもしれないけど、生活費も出すから。だから、私をここに置いて欲しい。 冬輝:うぅん...。まぁ、他に行く宛てもないんだもんね。いいよ。でも、生活費とか家事とか、できる範囲でいいからね。無理はしないで。 舞白:....うん。冬輝は優しいね。ありがとう、これからよろしくね。 冬輝:(M)こうして、僕らの不思議な同居生活が始まった。 冬輝:さすがに同じ布団で寝るのはなぁと思い、次の日布団を買ってきて僕の布団の隣に並べた。他にも、舞白用に、食器や歯ブラシ等を買って置いておいた。どうやら、僕は、自分が思う以上に舞白との同居を楽しく思っているらしい。 冬輝:舞白は、すぐにバイトを見つけ、週3,4で働いてくれている。学業とバイトを両立している僕よりも稼ぐようになってしまった。舞白が毎月、生活費と言って渡してくれるそのお金は、自分の口座には入れず、そのまま閉まっておいた。 : 冬輝:(M)2人でそんな生活を送っているのだが、舞白は僕に対して必要以上に干渉してこない。会話もあるし、コミュニケーションは取れているのだが、舞白の方から話しかけてくることはほとんどない。同じ空間にいるけれど、お互いすきに過ごしている。そんな日常だった。 : 冬輝:(M)ある日のことだ。その日はとても寒く、大ぶりの雪が降っていた。 : 冬輝:ただいま。あー寒......。雪やべぇ....。......あれ?舞白? : 冬輝:(M)いつもキッチンでご飯を作りながら待ってくれているはずなんだが、部屋に彼女の姿はない。電気はついているから、どこかに居るとは思うのだが、トイレにも風呂場にも姿はない。ふと、視線をあげると、ベランダの外に舞白がいるのが見えた。小さなベランダに出て、彼女は降り積もる雪を眺めている。そんな寒いところで、とベランダに近づいてみると、舞白はこの季節なのに白いキャミソールのワンピース姿だった。 : 冬輝:ちょっと!こんな寒いのになんでそんな格好なの!? 舞白:あ、冬輝。おかえりなさい。 冬輝:ほら!早く部屋入って!身体冷えちゃうでしょ!だめだよ、こんな寒いのにそんな格好で! 舞白:もうちょっとだけ。 冬輝:え? 舞白:もうちょっとだけ、雪を見てたいの。 冬輝:はぁ.....。わかったわかった。じゃあちょっとまってて。せめてコートくらいは羽織って。見てるこっちが寒いよ。 舞白:大丈夫。寒くないから。 冬輝:(M)舞白はそう言って、視線を空へと移した。夜の黒と、雪とワンピースの白がとても綺麗に映える。その中でどこか遠くを見つめるような舞白は、とても儚く、とても綺麗で、とても愛おしいと思った。 : 冬輝:(舞白に後ろからそっと抱きつく) 舞白:冬輝? 冬輝:(M)気づいたら、舞白を後ろから抱きしめていた。 舞白:ねぇ、冬輝。どうしたの? 冬輝:好きだ。 舞白:え? 冬輝:舞白のこと、好きだ、僕。 舞白:......好き? 冬輝:うん。好き。 舞白:そっかぁ。 冬輝:そっか、って....。 舞白:こういう時ね、どうすればいいのかわからないの。私には感情がないから。 冬輝:え、感情がない? 舞白:そういうね、好きとか幸せとかの感情がね。私にはないの。だからね、冬輝が私を好きっていう気持ちとか、よく分かんない。 冬輝:......これは、フられた、のかな。 舞白:どうなんだろうね? 冬輝:君が聞き返さないでよ(笑) 舞白:よくわかんないけど、今私は、冬輝と一緒に過ごしていたいとは思うよ。 冬輝:そっか。それなら、いいや。......ねぇ、舞白。僕、就職決まったんだ。だから、もう少し広い家に引っ越そう。 舞白:引っ越すの? 冬輝:うん。舞白からもらってきたお金、全部貯めてあるんだ。舞白さえよければ、そのお金で引っ越そうかなって。 舞白:あのお金は冬輝にあげたもの。冬輝が好きに使って。 冬輝:わかった。じゃあ、引っ越そうか。......の前に、部屋入ろうか。寒い。 舞白:私は寒くないけど。 冬輝:すごいなぁ。それでもずっとここにいるのはよくないよ。ほら、中入ってご飯食べよう。 舞白:うん。 : 冬輝:(M)それから大学を卒業した僕は、舞白と一緒に就職先の近くに引っ越した。1LDKのアパート。そこで僕らは新しい生活を始めた。 冬輝:とは言っても、環境はかわりこそすれ、僕たちの関係は変わらなかった。相変わらず舞白は僕に干渉しないし、僕も舞白のことが好きと気づいたものの、接し方は今までと変わらない。 冬輝:だけどそれが、僕たちらしさだと最近は思うようになった。僕は別に、舞白から告白の返事がもらえなくても、僕に対して恋愛感情を抱いてなくても、そばに居てくれるだけで良かった。ただただ、彼女と過ごす日常は居心地が良かった。 : 冬輝:(M)だけど。1年がたった頃。僕の居心地の良い日常はあっさりと終わりを告げた。 : 冬輝:ただいま。......あれ、舞白?.......ベランダ、かな? : 冬輝:(M)ある日の夜、帰ってきたら、舞白はベランダにいた。僕が想いを告げた、あの日のように。白いキャミソールのワンピースで遠くを見つめるような眼差しで、雪を見ていた。 : 冬輝:舞白。またそんな格好で。 舞白:冬輝。おかえり。 冬輝:雪、だいぶ強くなってきたね。明日には積もってるかな。 舞白:うん。 冬輝:さ、冷えるから。中入ってご飯食べよう。 舞白:........。 冬輝:舞白? 舞白:冬輝、私、明日出ていくね。 冬輝:え? 舞白:今までありがとう。 冬輝:どう、して.....? 舞白:遠くに行ってみたくなったの。 冬輝:......ここの生活が嫌になった? 舞白:ううん。違うよ。ただ、遠くに行ってみたいだけ。 冬輝:......そう。....わかった。 : 冬輝:(M)僕は止めなかった。止めたところで無駄だとわかっていたから。舞白は僕に執着してなかったし、僕らは別に恋人でもない。僕はこの生活が心地よくてずっと続けたいと思っていたけど、舞白は違ったのだろう。僕の独りよがりな理由だけで、舞白を止めようとは思えなかった。 : 冬輝:(M)そして翌日。舞白は出ていった。必要最低限の荷物だけ持って。彼女から毎月貰って貯金していた生活費を返そうとしたが、彼女は受け取らなかった。 冬輝:舞白が出ていって、不思議と怒りと言った感情はなかった。好き勝手しやがって、とか都合のいいように居候して、とか他の人は思うのかもしれないが、僕にはそういう感情は全くなくて、代わりに凄まじい寂しさだけがそこにはあった。 冬輝1人で過ごす日常が耐えられなかった。 : 0:間 : 冬輝:(M)しばらくして、僕には恋人ができた。寂しさに耐えられなくて、夜な夜なBARに通い、そこで出会った女性だ。 冬輝:お互い寂しがり屋ということもあって、付き合ってすぐに同棲することになった。僕と舞白がいた部屋で、その恋人と過ごす日常が始まった。..........始まったのだが。 冬輝:その恋人と過ごす日常は息苦しさしかなかった。仕事以外の時間は常に一緒にいたがり、どこか出かけようとするとどこに行くのかと聞かれ、自分も行くからとついてくる。家で一人で読書していると、暇だから構えと本を取り上げられた。1人の時間が全くできないその生活に耐えられず......1年後、僕は恋人と別れた。 : 冬輝:(M)また、1人の日常が戻ってきた。あんなにひとりの時間が欲しいと思っていたのに、いざひとりぼっちになると、やはり寂しいものがある。僕ってワガママだなぁ、と今日も1人夜を過ごしていた時、インターフォンが鳴った。 : 冬輝:ん?もう夜の11時だぞ?なんだよ、こんな時間に......。はーい........。(ドアを開ける) 舞白:冬輝。ただいま。 冬輝:ま、しろ......? : 冬輝:(M)そこには、白いキャミソールのワンピースを着た、舞白が立っていた。 舞白:入っていい? 冬輝:え、あぁ、うん。 : 冬輝:(M)突然のことに頭が追いついていない僕の横を舞白は通り過ぎ、そのまま布団へ横になった。 舞白:冬輝。こっち。 冬輝:え、舞白? 舞白:寒いから暖めて。1人じゃ暖められないから。 冬輝:え?あ、う、うん。 : 冬輝:(M)当たり前のようにそこにいる舞白を、僕はそっと、抱きしめる。 舞白:あったかい。 冬輝:どうして戻ってきたの。 舞白:遠くに行ってみたけど、上手くいかなくて。いつの間にかここに来てた。 冬輝:そう、なんだ。......ねぇ、寒いのは平気なんじゃなかったの? 舞白:平気。だと思ってたけど、今日はなんだか寒いの。 冬輝:そっか。 舞白:冬輝、元気にしてた? 冬輝:えへへ、どうだろ。僕もなんか上手くいかなくてね。 舞白:お互い、上手くいかなかったんだね。またここに居てもいい?また、遠くに行きたくなるまで。 冬輝:いいよ。舞白が遠くに行きたくなるまで。 舞白:うん。 冬輝:(M)また僕の居心地のいい日常が始まった。 0:間 冬輝:(M)その日常が半年ほど続いたある日、また舞白はベランダに出て遠くを見つめていた。相変わらず、白いキャミソールのワンピース。 : 冬輝:出ていく? 舞白:うん。また遠くに行ってみる。 冬輝:わかった。いってらっしゃい。 舞白:明日。出ていくね。 冬輝:(M)再び出ていった舞白を、僕は何も言わずに見送った。僕は、舞白のものを片付けず、恋人も作らず、ひとりを過ごしていた。不思議と心は穏やかだった。 0:間 冬輝:(M)また雪が降る季節になった。僕は相変わらず、1人で過ごしている。ふと、思い立った僕は、舞白の真似をして、ベランダで雪を眺めてみた。白い息に白い雪。肌をさす冬の風に、澄んだ空気。あぁ、これはなにか考え事をするのにいいな、と思った。そのまましばらく雪を眺めていると、インターフォンがなった。 舞白:ただいま。 冬輝:おかえり、舞白。 舞白:誰かいる? 冬輝:大丈夫。僕だけだよ。 舞白:ありがとう。またここにいるね。 冬輝:うん。待ってたよ。 0:間 舞白:やっぱりね、どこに行っても、ここに戻ってきちゃうの。 冬輝:そっか。 舞白:私はね、いろんなところに行って、いろんなこと見て、いろんなものに触れてみたいの。 冬輝:うん。 舞白:だから、遠くに行きたくなる。いろんな場所でいろんなことを感じたいって思う。 冬輝:うん。 舞白:いろんなことをね、感じてきたの。いろんな場所に行って、いろんな人と関わって。 冬輝:うん。 舞白:ここがね、1番あたたかいの。 冬輝:うん。 舞白:でも。まだ私の探したいものは見つかってない気がするから。また私は遠くに行くと思う。 冬輝:いいよ。舞白の好きに生きればいい。 舞白:冬輝、ありがとう。 冬輝:ねぇ、舞白。次に君が帰ってきたら、渡そうと思ってるものがあったんだ。 舞白:渡すもの? 冬輝:うん。..........はい。これ。 舞白:指輪.....? 冬輝:うん。僕の一方的な気持ちだよ。 舞白:一方的な、気持ち......? 冬輝:はじめに舞白が出ていった時ね。もう戻ってこないんだと思って、僕は寂しさのあまり他の人と一緒にいようとして失敗した。そして舞白が帰ってきて、また出ていった時。僕は舞白のことだけを想って1人で過ごしていた。寂しさがなかったわけじゃないけど、舞白のことを想いながら過ごす日常も悪くなかった。 舞白:うん。 冬輝:だからね、舞白がこの先、また遠くへ行ったとしても、僕はひたすら舞白を待ち続けるよ。舞白がいつでも帰って来れるように。僕はここで待ってる。その決意がその指輪。つけなくてもいいから。持っていて欲しい。 舞白:うん。......冬輝、着けて。 冬輝:いいよ。……左手の薬指、でいいかな? 舞白:うん。 冬輝:よかった、ピッタリだ。 舞白:綺麗だね。 冬輝:あくまでこれは僕の一方的な気持ちだから。舞白は今まで通り、好きなように生きて。 舞白:うん。わかった。 冬輝:さぁ、ご飯、食べよっか。 舞白:うん。 0:間 冬輝:(M)それから1年がたった。舞白は未だにここにいる。だけど、今夜はベランダに出て、雪を眺めていた。ついにこの日が来たかと思った。白い息を吐きながら、白い雪を見つめる舞白。今日はキャミソールのワンピースだけではなかった。その上から、暖かそうなボア生地のパーカーを羽織っている。僕は舞白の隣に立ち、一緒に雪を眺めた。 : 冬輝:明日、出ていく? 舞白:そのつもりだったんだけどね。 冬輝:(M)舞白はそっと首を振りながらそうつぶやき、僕の方へ身体ごと向き直った。そして、 舞白:行けなくなっちゃった。 冬輝:(M)そう僕に告げた。否定的な言葉を発しているはずなのに、彼女の表情に悲しさや苦しさは全くなかった。 冬輝:舞白はとても幸せそうに、ただただ幸せそうに、満面の笑みを浮かべていた。 0:【完】