台本概要
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タイトル | 死神の鎮魂歌~requiem of grim reaper~第四番 信愛 |
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作者名 | 神風雷神 (@populight) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男3、女1、不問1) |
時間 | 70 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。 しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。 死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。 さて、今日はいつもと違う場所から、死神の一日が始まる。 ※誤字脱字、報告あれば修正します。よろしければお手に取って、読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。 750 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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冥助 | 男 | 151 | 天川冥助(アマカワ メイスケ)。とある町にある「天川死神事務所」の死神。この話の主人公。見た目は軽い感じで死神の仕事をめんどくさがる一方で、困っている人を放っておけない性格の男。普段は事務所兼空き地でのんびりしているが、人の悲しみや憎しみに反応し、面倒くさがるものの、願いを聴き届けて大鎌を振るう。 |
矢吹 | 男 | 110 | 矢吹迅(ヤブキ ジン)。事件や事故の情報をすぐに収集する情報屋。どこからともなく現れたり、人間技とは思えない速さで仕事をこなし、幽霊や死神が見えるが、間違いなく人間。天川がこの町に来た時からの知り合いで、何故かいつも天川に協力する人物。町にいる幽霊を天川のところに案内している。 |
明星 | 女 | 130 | 工藤明星(クドウ アカリ)。金沢大暉との結婚を控えていたが、殺されてしまう。すれ違う人が振り返るほどの美女であるが、思ったことはどんどん口に出してしまうタイプ。何に対しても積極果敢だが、ふと我に返って落ち込んでしまうことも。 |
大暉 | 男 | 73 | 金沢大暉(カナザワ ダイキ)。工藤明星の婚約者。明星のことが好きで、彼女のことを第一に考えるあまり、自分から考えを伝えることが少ない。それが原因で明星とよく喧嘩になる。突然いなくなった明星を探してさまよい歩いている。 |
世那 | 不問 | 89 | 荒川世那(アラカワ セナ)。今回の犯人役。美しいものは残すべきだという価値観が歪み、美容研究者になりすまして、美しいと思った人間を次々と手にかける。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
大暉:明星・・・どこにいるんだ・・?本当に君は・・・俺と結婚したくなかったのか・・?応えてくれ・・明星・・・
明星:どうして・・・どうして応えてくれないの・・・?こんなにも、傍にいるのに・・・こんなに、伝えているのに・・・!
世那:ああああああ!!!醜い!!どいつもこいつも!時が経てば醜くなる!だったらぁ!・・・この私が、綺麗なままでいさせてあげる。そう、永遠に・・・クハハハハ!
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矢吹:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
矢吹:今日も今日とて、死神の一日が始まる。
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冥助:ふぅ・・・よし!今日は仕事が出来る!響子は多分この前の始末書でしばらく来ねぇだろうし、静かだから仕事も捗る・・・はずなのに。
矢吹:こらこら。君は沢山仕事を抱えているじゃないか。その書類、今日中に片付けないと、上司に怒られるんじゃないのか?
冥助:何でこう邪魔が入るんだよ!いつもいつも!響子の次は矢吹かよ!仕事はどうしたんだよ!
矢吹:もちろん仕事はきちんとしているさ。情報屋としての仕事をね。冥助だけじゃなく、探偵業務としてはこんなにあるよ?
冥助:・・・何だその紙束。どっからその情報仕入れてくるんだよ、まったくよぉ・・・。で?またこの前みたいに、何か事件の前触れか?
矢吹:御明察。さすがは何でも相談所の死神様。こっちが言う前に全てを分かっていて感服するよ。
冥助:何も嬉しくねぇんだよ!・・・で?何だ?
矢吹:・・・最近、こんなチラシが、ところどころで貼られている。
矢吹が冥助の隣にチラシを置く。紙すら触れない冥助は、チラシを上から覗き込んだ。
冥助:・・・ん?ただの美容整形のチラシじゃねぇか。これがどうしたんだよ?この間みたいな詐欺か何かか?
矢吹:いや、詐欺ならまだいい方さ。
冥助:ん?どういうことだ?
矢吹:ここ数ヶ月で四人の女性が事故死、もしくは行方不明になっている。
冥助:おいおい、人が死んでんのか。穏やかじゃねぇな。
矢吹:ああ、そして、そういう事件がある度に、その美容クリニックは移転している。
冥助:移転、って、まさか。
矢吹:そのまさかさ。そして、この地区に移転してきている。
冥助:うーーーわ、マジかよ・・・。絶対何か起こるフラグでしかねぇよ。
矢吹:そういうことだ。頼んだよ。
冥助:おいおい、待て待て!ただ店がこっちに来て、何も事を起こさなかったら俺の出る幕は無いぞ?
矢吹:・・・・・ハァァ・・。本当に何も起こらず、平穏無事にいられると思うのかい?
冥助:思いたい。思わせてほしい。いや、切なる願いだ。
矢吹:ふふっ・・・まあ、無理だろうね。
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0:女性が怪訝な顔で冥助の事務所に出向いた。
明星:あ、あの!すみません!
矢吹:ん?お。冥助、お客さんだよ。
冥助:言ってるそばからかよ・・・はいはーいっと・・・、
0:そこには、誰もが振り向くであろう程の美人が立っていた。
冥助:おっとぉ!いらっしゃいお嬢さん!天川死神何でも相談事務所へようこそ!用件は何だい?
明星:あ、ここが・・・じゃあ、貴方が、死神の天川さん?
冥助:おう!そうとも!・・・ん?何で知ってんだ?
明星:えっと・・・ちょっと離れたところで女性に聴いたの。私が死んだことと、ここで大体のことは聴いてもらえるって。
冥助:死んだことが分かっているということは、死神か。女性?・・・響子か?チッ・・・あいつ・・・まあいいや。依頼人が超絶美人だし〜・・・。で?用件はなんだ?
0:冥助が言い終わる前に、女性は一歩前に踏み込む。
明星:ねぇ。何でも相談って、言ってたよね?
冥助:え?あ、ああ。あの世に逝く間際なんだ。とりあえず何でも聴くぜ?ま、無理なもんは無理だけどな。
明星:・・・・・2つ、お願いがあるの。
冥助:ふたつ?
明星:そう。1つは、私が死んだ事を、彼に伝えてほしい。もう一つは・・・・・私を、探してほしいの。
冥助:お嬢さんを、探す?
明星:私は、ここから少し離れたところから記憶がないの。でも、気がついたら何もない部屋にいて、こんな風に宙に浮いてて。
矢吹:気がついたら、何も無かった。本来ならあり得ない。人は死んだ後、その場所で目が醒める。
冥助:それでも無かったってことは・・・死体が移動した、ってことか?
矢吹:・・・お嬢さん。もしかして、美容クリニックに通っていなかったかな?
明星:え?何で、分かるの?
冥助:・・・!矢吹。お前まさか・・・!
矢吹:冥助。どうやら今回も、ビンゴみたいだね。
明星:え?何?どういうこと?
矢吹:まあ、それは後で説明するよ。それより、冥助。
冥助:ああ。お嬢さん。死体探しは分かったけど、もう一つの願いは聴けねぇんだ。
明星:え?どうして?
矢吹:死神は、生きている人間に死んだ人間の言葉を伝えてはならないんだ。基本は、知られてはいけない存在だからね。
冥助:彼氏に伝えるなら、嬢ちゃんが生き返るか、彼氏が死ぬしかねぇってことだ。
明星:そ、そんな・・・。
0:その場でへたり込む女性。その目には涙が溜まっていく。
明星:私のせいで・・・彼を・・・大暉を、死なせたくないの・・・。
冥助:死なせたくない?どういうことだ?
明星:・・・私は、大暉と、結婚する直前だったの。
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明星:ねえねえ!私のドレス、Aラインかマーメイドライン、どっちがいいと思う?
大暉:ん~・・・。どっちでもいいよ。明星のお気に入りが、俺にとって最高のプレゼントだよ。
明星:もう!そんなこと言って!そう言いながらこの前も、料理の中身も私が全部決めちゃったじゃない!
大暉:あれ?そうだっけ?デザートはお願いしたよ?
明星:デザートだけでしょ?!本当に・・・もう少ししっかりしてよ・・・。
大暉:いやぁ、ごめんごめん。ははは・・・。
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世那:やぁやぁ、そこのカップルの方々!ちょっと足を止めていただけませんか?
明星:え、な、何?
世那:顔を見た途端、ビビビッ!ときたんです!美男美女カップル!是非、うちの美容研究所でメイクさせてもらえませんか?せめて!お話だけでも!
大暉:な、何だ、この人・・・!
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明星:普通なら、足早に立ち去るところなんだけど、その時は圧がすごかったのもあって、断るに断れなかったの。美容研究所は、すぐ側のビルだったし、ほんの少しだけってことで、入ったの。
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世那:さあさあどうぞ!早速メイクさせてくださいね!
明星:・・・いろんなメイク道具とかはたくさんあるけど・・・。
大暉:・・・他の仕事をしてる人はどこに?
世那:今は営業や勧誘に出掛けています。もう少しで戻ってくると思うので、それまでにメイクを完成させましょうね。
明星:えっと・・・私達、もうすぐ結婚するので、全然お金が無いんですけど・・・。
世那:あらま!おめでとうございます!それなら尚更、特別サービス!我々のことを口コミサイトに書いてもらうだけで無料にさせてもらいます!
明星:む、無料?!
世那:はい!お二人の新たな門出の記念として!我々が奥様のお顔をより美しくさせていただきます!
明星:お、奥様なんて・・・って、どうしたの?大暉?
大暉:・・・いや、何でもないよ。明星が良いと思ったんなら、いいんじゃないか?
明星:もう!いっつもそうなんだから!
大暉:仕方ねぇだろ?俺には関係ない話だしさ。
明星:はぁ?!もういいわ!美容師さん、お願いします!
世那:ありがとうございます!それではこちらへ!
大暉:お、おい、俺は・・・。
明星:大暉は帰ってて!
大暉:は、はぁ・・・?
明星:終わったらすぐ帰るから!先に帰ってて!
大暉:っ・・・何だよ・・・まったく・・・。
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明星:今思えば、何であそこで帰らせちゃったんだろうって思うわ。
0:
明星:じゃあ、よろしくお願いします。
世那:はーい!この荒川世那が、世界で一番の美女にしてあげますからね!
明星:ふふっ、楽しみ。
世那:じゃあ、始める前に、これを。
明星:え?これ?
世那:あー、別に怖いものじゃないですよ!髪の毛を整えやすくするようにするためのヘッドギアです!
明星:あ、なるほど・・・。
世那:では、装着してくださいね。
明星:はーい。よっと・・・。
世那:それでは、きれいに仕上げていきますね〜・・・。
明星:・・・あれ?何だろう・・・力が、抜け、て・・・。
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明星:で、気がついたら、部屋はもぬけの殻だし、何か宙に浮いてるし、慌てて飛び出そうとしたら全部すり抜けるし。誰に話しかけても見向きもしない。もうだめだって諦めかけた時に、女の人が声をかけてきてくれて・・・。
冥助:なるほどな。それでうちに来たと・・・。
明星:ねぇ。本当に私、死んじゃったの?
冥助:ん?ああ。そうだな。
明星:・・・・・。
冥助:・・・何だよ?
明星:もうちょっと無いの?言いにくいけど〜、とか。残念ですが〜、とか。
矢吹:そうだぞ冥助。少しは気遣いを覚えるべきだ。
冥助:そういうまどろっこしいのは、き・ら・い・な・ん・だ・よ!あと矢吹!何でそっちの肩持ってんだ?!
矢吹:依頼人の気持ちを考えるのが、冥助の仕事だろ?
冥助:ぬ・・・ぐぐぐ・・・。
明星:ほ~ら!
冥助:・・・あ?
明星:ほら!もう一回!
冥助:何で言い直さなきゃいけねぇんだよ!
明星:いいじゃん!ほら、早く!
冥助:・・・ザンネンデスガ、アナタサマハオナクナリニナッテオリマス。
明星:不自然。
冥助:うるせぇ!
矢吹:まあまあまあ。
明星:・・・プッ・・アハハハハ!あー・・・この体になって、初めて笑ったわ。
冥助:・・・。
明星:で、さっきの話だと、私の彼氏には伝えられないってわけ?
冥助:まあ、そういうことだ。
明星:そっか・・・分かったわ。
冥助:ほう?随分あっさりだな?
明星:でも!それなら、大暉を探してほしいの!金沢大暉!もし大暉に何かあったらーーー!
冥助:分かった分かった!落ち着け!大丈夫だ。矢吹、頼めるか?
矢吹:もちろんさ。それに・・・もう一つの方も、解決しないといけないからね。
明星:もう一つ・・・?
冥助:お前が言ったんだろ?自分を探してほしいってさ。
明星:・・・探してくれるの?
冥助:あぁ。ただし、俺は今、何もできねぇ。だから、人探し体探しは矢吹の仕事になる。
矢吹:できる限りの事はしよう。
明星:お願い。もし大暉にまで何かーーー。
冥助:分かったって!・・・大丈夫だ!
明星:・・・分かった。矢吹さん、お願い。
矢吹:分かったよ。
冥助:じゃあ、この事務所で大人しく待っててくれよ。この敷地内から出たら、どうなっても知らねぇぜ?
明星:わ、分かった・・・。
冥助:・・・矢吹。
矢吹:あぁ。
0:
冥助:今回は特に矢吹の力が必要だ。
矢吹:僕の力が必要って、嬉しいことを言ってくれるね、冥助。
冥助:茶化すなよ。で?何時間だ?
矢吹:・・・金沢大暉を見つけることは、おそらくすぐにできるだろう。だが、明星さんの身体は、すぐは難しい。3時間はかかるな。
冥助:十分早いじゃねぇか。後で落ち合おう。
矢吹:分かった。
0:
大暉:明星・・・どこにいるんだ・・?この間の店は無くなってるし、どうなってるんだ。明星・・・。
0:誰かとすれ違い、肩がぶつかる。
世那:あ、すみません。
大暉:あ、いえ、こちらこ・・・っ!お前は!
世那:え?っとと!
0:大暉が世那の肩を押さえるように掴みかかる。
大暉:おい!明星を!明星をどこへやった!!!
世那:な、なな、何ですか、いきなり!
大暉:とぼけるな!この間、隣町で突然声をかけてメイクさせてくれって頼んできただろう!!
世那:・・・・・あぁ。貴方ですか。どうもお久しぶりです。それで、式までは順調ですか?
大暉:ふざけるな!あの後、明星は行方不明なんだよ!
世那:そ、そうなんですか!?それは、心配ですね・・・。
大暉:心配だと?!お前が何かしたんだろう!明星をどこへやったーーー!
世那:ーーー証拠は?
大暉:・・・何?
世那:証拠は、あるんですか?
大暉:そ、それは・・・。
世那:その手、離してください。
大暉:・・・・・・。
世那:離せ。
大暉:っ?!
0:世那の冷たい声に、大暉はそっと手を離した。
世那:まったく・・・こんな町中でいきなり肩を押さえつけて、どういうことですか?普通なら警察沙汰ですよ?周りの目もありますし。
大暉:くっ・・・!
世那:それに、この間も喧嘩されていたではないですか。そんなことだから、明星さんもどこかに行ってしまわれたんじゃないですか?
大暉:こ、この・・・!
世那:ああ、そうそう!明星さん、メイクが終わった後にこんなことを仰ってましたよ!
大暉:な、何?
世那:こんなにキレイになれるんだったら、もう少し自由になりたいな!ってね。
大暉:・・・・・。
世那:では、工藤明星さん・・・見つかるといいですね〜〜〜〜〜。
0:卑しい笑顔で大暉を見つめてそう言うが、大暉の血の気は引いていた。
大暉:そんな・・・明星・・・。
世那:それでは、またご贔屓に。
大暉:・・・明星・・・どこにいるんだ・・?本当に君は・・・俺と結婚したくなかったのか・・?応えてくれ・・明星・・・。
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矢吹:見つけたよ。下道さん。
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明星:・・・・・ねぇ、死神。遅いんだけど。
冥助:いやいや、仕方ねぇだろ。生身の人間が街中探し回ってるんだぞ?2、3時間はかかるって言ったじゃねぇか。
明星:何でも相談事務所なんでしょ?!もっと早く解決してよ!
冥助:ああもう!うるせぇよ!こっちも全力でやってんだから待ってろよ!・・・まったく、本当にわがままな奴だぜ・・・。
明星:え・・・ぁ・・・ご、ごめん・・・。
冥助:あ?何だ?急にしおらしくなったな。
明星:だって・・・私、こう思い通りにならなかったり、焦ったりしたらさ。自分勝手に好き放題言っちゃうの。昔から変わらない癖、なんだ。
冥助:・・・・・。
明星:あの時もそう。私が勝手にイラッとして、大暉に先に帰ってって言っちゃって・・・。
冥助:・・・・・。
明星:こ、こんな女、嫌だよね?もしかしたら、今回のことで大暉も愛想尽かして、私のことなんか、探してもないかもなぁって・・・痛っ!
0:明星が言い終わらないうちに、冥助がデコピンを打った。
冥助:バーーーーーカ。
明星:デ、デコピンって・・何すんのよ!
冥助:バーカ。馬鹿も馬鹿、大馬鹿だぜ。
明星:馬鹿馬鹿言わないでよ!何なのよーーー!
冥助:ーーーお前、金沢大暉のどこが好きなんだ?
明星:・・・え?も、勿論、色々あるけど・・・。
冥助:で、それをその彼氏は知ってんのか?
明星:し、知らないわよ、そんなこと。
冥助:だろ?きっと相手もおんなじだ。じゃあ、何でわざわざ言わねぇのか。・・・・・相手のこと、信じてるからじゃねぇのか?
明星:・・・ぁ・・・。
冥助:金沢大暉がどんなふうにお前のことを考えてるかは知らねぇ。でも、結婚間近まで一緒にいたんだろ?だったら、パートナーになるはずだったお前が、彼氏を信じなくてどうするんだよ。
明星:・・・死神・・・。
冥助:好きなんだろ?
明星:・・・えぇ。好きよ。大好きよ。だから、私はここに来たのよ。
冥助:そうだろ?だったら!・・・最後まで信じろ。皆を。
明星:・・・・・・。
冥助:・・・何だよ?ちょっとは俺のこと、見直したか?
明星:・・・そうね。ものすごくカッコつけてて、良いと思うわ。
冥助:かっこつ・・・!お、お前なぁ・・・!
明星:ありがとう、死神。私・・・信じるわ、大暉のこと。
冥助:・・・それでいい。きっと・・・それがいい。
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矢吹:お取り込み中だったかな?
冥助:お、矢吹。早かったな。
明星:どう!?何かわかったの?!
矢吹:焦らなくていい。まあ、ちょっと急ぎではあるかもしれないけど。
冥助:見つけたのか、金沢大暉を。
明星:え?
矢吹:ご明察。彼はずっと、明星さんを探している。そして、幸か不幸か、もう一人もいたよ。
明星:・・・・・っ!!!
冥助:荒川世那か。
矢吹:そう。しかも奴は、金沢大暉と接触した。
明星:ど、どうして?!
矢吹:それについては、事故に近い。それよりも、荒川世那は妙なことを言っていた。
冥助:妙なこと?
矢吹:・・・明星さん。君が最後に、荒川世那と喋ったことが何だったか、覚えているかい?
明星:・・・覚えてないわ。これと言って喋ってないもの。
矢吹:やっぱりね。思ったとおりだ。
明星:どういうこと?
矢吹:荒川世那は、明星さんがこう言ってたってさ。「こんなにキレイになれるんだったら、もう少し自由になりたいな!」ってね。
明星:い、言ってないわよ!私、そんなことーーー!
矢吹:分かってるさ。でも、一応確認は必要だからね。
冥助:・・・自分を守るためのでっち上げか。
矢吹:ま、そういうことだね。それから・・・・ここからは冥助との話だ。
冥助:だってさ。お嬢さんはここで大人しくしててくれ。な?
明星:・・・分かったわ。
矢吹:冥助。
冥助:おう。
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矢吹:・・・ここまで来ればいいかな?
冥助:大丈夫だろ。要らねぇことを聴いて、余計な怨嗟を生んだら死神違反だしな。
矢吹:・・・荒川世那についてだよ。
冥助:待ってました。で、どんなやつだ?
矢吹:・・・これだよ。
0:冥助の前に資料を並べる
冥助:・・・・・なるほどね。見事なまでの大ホラ吹きってことか。それにしても、よくこんなに用意できたなぁ。普通なら破産するんじゃねぇの?
矢吹:そこも調べた。そしたら、一年ほど前に亡くなった政治家と血脈関係にあったようだ。
冥助:政治家、ねぇ。その遺産でどうこうしてるってわけか。
矢吹:そういうことだ。とりあえず、今のところはこれぐらいだ。あとは、今のヤツのアジトを見つけたよ。
冥助:お、どこだ・・・・・!
0:直後、脳内に声がする。
世那:この女は今が一番の美貌だった。この私が!その美を保存してあげたんだ!フフハハハハ!・・・でも、物足りない・・。やはりこの人には、パートナーがあって初めて完璧になる。そのためにはやはり・・・フフフ。さあ、見つけに行こうか。
冥助:コイツ・・・まさか、恋人もやる気か?!
矢吹:・・・聴こえたか、冥助。
冥助:あぁ。間違いねぇ。おそらく対象も・・・金沢大暉だ。早く見つけ出さねぇとーーー。
矢吹:ーーー冥助。
冥助:・・・何だよ。
矢吹:頼みがあるーーー。
冥助:嫌だね。
矢吹:・・・やれやれ。まだ何も言ってないじゃないか。
冥助:死神様なめんなよ?お前が何を言いたいかはすぐ分かる。でも、あまりにも一か八か過ぎる。
矢吹:それでも・・・やるしかない。そうしないと、また一人、無意味に犠牲者が出る。それに、僕は金沢大暉の居場所がすぐに分かる。
冥助:・・・言っておくが、上手くいかなかったらお前も死ぬんだからな。俺も、何も出来ないんだからな!
矢吹:分かっている・・・大丈夫。上手くやるさ。
冥助:・・・ハァ。分かったよ。
矢吹:ありがとう、冥助。・・・・・ここが、ヤツのアジトだ。明星さんの遺体も、おそらくここにあるだろう。
冥助:オーケー。じゃあ俺は、工藤明星に説明してくるよ。後で落ち合おう。・・・死ぬなよ、矢吹。
矢吹:大丈夫。僕には死神様がついてるんだからね。
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大暉:明星・・・どこにいるんだ・・?本当に君は・・・俺と結婚したくなかったのか・・?応えてくれ・・明星・・・
矢吹が大暉の財布を摺る。
矢吹:・・・・・おっと。
大暉:あ、すみません。
矢吹:いえ、こちらこそ。・・・あ、財布、落としましたよ。
大暉:あ、ありがとう、ございます。
矢吹:お、とっと・・・!す、すみません。
0:財布を渡しそこね、小銭が散乱してしまう。
大暉:あー、いえ、大丈夫ですよ。
0:
世那:見〜〜〜つけたぁぁぁ。あと・・・・・隣の彼もイケメンですねぇ。どうせなら二人まとめて・・・フフフフフ。
0:
0:冥助、明星に事情を説明する
明星:ーーーやっぱり、私の身体は、あの研究所にまだ残ってるのね。
冥助:確証はねぇよ。だが、ほぼ確定だろうな。
明星:やっぱり・・・あの人が・・・っ!
冥助:工藤明星。お前は、どうなることを望む?
明星:・・・望み?・・・そんなの、決まってるじゃない!アイツを!私の未来を壊したアイツを!私は!絶対に許さない!!!
冥助:・・・分かった。思いはたしかに受け取った。お嬢さんはここに残っていい。今からしに行くことは、あんたにとってきっと苦痛だ。
明星:どういうこと?そんなの構わない!私を連れていって!
冥助:いいのか?あんたの婚約者が、痛めつけられる姿を目の当たりにする可能性が高いんだぞ?
明星:・・・・・え?
冥助:このままだと、お嬢さんの声はどれだけ出しても婚約者に届かない。そのために・・・一か八かの賭けをする。あんたがわざわざ見なくていいもんだ。
明星:・・・・・。大暉が、少しでも私に気づいてくれる可能性は、あるの?
冥助:・・・無いことは無い。ただ、限りなく0に近い。
明星:それでも!あるなら!・・・私は、その望みに賭ける・・・!・・・馬鹿な女かしら?
冥助:・・・ハァ・・・いいや。婚約者からしたら、最高の女なんじゃないか?
明星:あら?女性を喜ばせる言葉、知ってるんじゃない?
冥助:うるせぇ・・・・っ!!!
0:
世那:やはり・・・そう、やはりこうでなくてはね!あの女は、この男が隣にいてこそ!完全な美へと進化する!それに、上玉も一人手に入ったし・・・さあ・・・あと一歩。あと一歩だぁ・・・!!!
0:
冥助:上玉も一人・・・?くそっ!まずい!
明星:な、何?どうしたの?
冥助:おい!行くぞ!
0:冥助は明星の手を引っ張り、宙へと浮かび上がる。
明星:え?!な、何?!何なの?!
冥助:喋ってる暇はねぇ!決心ついたんなら、とにかく翔べ!
明星:!!・・・分かった!
冥助:よぉし!しっかり掴まってろよ!
0:
0:
矢吹:・・・こ、ここは・・・。そうだ。財布を落とした後、荒川世那と接触して、話があるとここまで来て・・・。
世那:おやおや、目が覚めましたか?
矢吹:・・・!これは、話が違うのでは?たしか話を聴ぐふっ!(顔面を殴られる)
世那:質問に答えなさい!・・・目が覚めましたか?
矢吹:・・・えぇ、おかげさまで。
世那:よろしい。そうそう。私は貴方達に話があって呼んだんです。ですが・・・お隣の方はまだ睡眠中なので、もう少し様子を見ます。
矢吹:・・・!荒川世那・・・お前の狙いは・・・この人か。
世那:そうですね。金沢大暉。最愛の彼女を探し求める姿はまるでシンデレラを捜し求める王子様のよう!だからこそ!・・・彼はこの作品の一部になるべきなのですよ。
矢吹:作品?作品ってどうゴホッ!!(腹を殴られる)
世那:一度だけは見逃してあげたのに、何故私が貴方に質問されなければならないのですか?私は貴方に許可なんてしていません。
矢吹:・・・っ。
世那:・・・そう、それで良いんです。貴方も、私の傑作になるのですから。フフフ・・・フフフフフ・・・。
0:冥助と明星が壁をすり抜けて現れる。
冥助:っ!矢吹!大丈夫か?!
矢吹:・・・もう少し、遅くなるかと思ったよ。
世那:・・・あ?
明星:だ、大暉!しっかりし・・・ぁ・・すり抜けちゃう・・大暉に・・触れない・・・。
冥助:今のままじゃ、どうすることもできねぇ・・・!
明星:どうして・・・どうして応えてくれないの・・・?こんなにも、傍にいるのに・・・こんなに、伝えているのに・・・!ねぇ!気づいてよ!目を覚まして!大暉!
冥助:くそっ・・!矢吹!まだなのか?!
矢吹:あと・・少しだ・・・。もう少・・ぐっ!
世那:何さっきから独り言喋ってるの?喋っていいって言った?ねぇ・・?!
矢吹:ぐ・・ぁ・・っ!
世那:もうお前から先に・・・いや、それよりもこっちが先か・・・。
矢吹:っ・・ゲホッ!ゲホッ!ハァ・・ハァ・・(咳き込み、呼吸が荒くなる)
明星:死神!どうにかならないの?!
冥助:・・・今のままじゃ、どうしようもねぇ。でも・・・。
明星:でも?
冥助:・・・起死回生のチャンスが、必ずある。
0:世那が大暉の首筋にナイフを当てる
世那:君には、最高の絶望を味わってもらうよぉ?その絶望に満ちた顔で、最期を迎えるまでは絶対に殺さなぁい。だから・・・早く起きないかなぁ?
矢吹:・・・お前の・・・狙いは、何なんだ?
世那:あーーーもう。だーかーらぁ???喋っていいって言ってないんだけどぉ?でも・・・まぁいいや。冥土の土産に教えてあげる。
矢吹:・・・・・。
世那:君達はラッキーなんだ!この天才美容師の荒川世那によって!永遠の美を手に入れることが出来るんだ!
矢吹:永遠の・・・美・・・?
世那:そう!人間は老ける!シミ、シワ、たるみ!誰も老化に抗うことは出来ない!でも!私の技術によって、今の美しい姿のまま、永遠に保存し続けるんだ!
矢吹:・・・命と引き換えに、か?
世那:永遠の美を手に入れることが出来るんだよ?!それぐらい安いものじゃないか!
矢吹:・・・この先も生きたいと、願っていてもか?
世那:私に選ばれたことを光栄に思ってほしいくらいだね!そんなちっぽけな今の願いより、永遠に残ることを何故選ばない?!
矢吹:・・・お前はーーー
大暉:ーーー狂ってる。
世那:・・・は?
大暉:俺達の人生をめちゃくちゃにしておいて・・・どういうつもりだ・・・!
明星:大暉・・・!
世那:おおおおお!!目覚めましたね、新郎様!では!御披露目といきましょうか!
大暉:御披露目・・・?
世那:こちらでーーーす!!!
0:大暉と矢吹の後ろの扉が開くと、そこには、透明な液体の中でドレスを身に纏った、明星の姿が。
明星:・・あ・・あれが・・・私・・・?
冥助:なるほど。そんなところに隠してやがったのか。
大暉:・・・・・え?あ、明星・・・?そんな・・・明星・・・明星ぃぃ!!!
世那:どうですか?!私の中でも最高傑作ですよ!このマーメイドドレスを着て!花嫁になる直前の!美を追求した姿の最終段階!そんな状態で永遠に残り続ける!・・・最高じゃないですか。
大暉:貴様ぁ・・・貴様ぁぁぁぁ!!!!!
世那:そう!そうそうそう!!!それだよ、それ!その顔!私はその顔が見たかった!探し求めていた愛する人が、やっと見つかった時のその絶望!アッハハハハハ!!最高ですよ!!
大暉:ぐぅぅぅぅぅ!!!
明星:・・・大暉・・・。
冥助:工藤明星。お前が望むことは、何か変わったか?
明星:・・・いいえ。お願い。助けて。大暉を助けて!アイツを・・・殺して!!
冥助:---分かった。後は任せな。・・・矢吹。頼んだ。
矢吹:・・・・・金沢大暉さん、だったね?
大暉:・・・なんだよ・・・?
矢吹:君は・・・あの男が、憎いかい?
大暉:・・・憎い?ははは・・・憎い、か。憎い・・・そんな言葉でまとめられるか!!!俺がっ!!心から愛した人を!!こんな形で・・・!!許せるわけないだろ!!!アイツを!殺したい!!!
世那:アッハハハハハ!!!そんな状態で何ができるって言うんだい?!ただの負け犬の遠吠えにしか聞こえないですね!!やれるものならやってみなさいよ!!!今からあなたも!彼女と同じところへ送ってあげますからぁ!!!(高笑い)
矢吹:・・・ということだ。後は任せたぞ。冥助。
0:
0:
冥助:おーい。そこの天才を気取ってるやつ。お前、自分が何してるのか分かってんのかぁ?
世那:?!だ、誰?!ここには、他に誰も入れないはず!
冥助:残念だったな。ずーーーっと観てたぜ。お前の薄汚〜い犯行の一部始終をよぉ。
大暉:だ、誰だ?誰の声だ?
矢吹:・・・あんたと、彼女の思いを受け取った、この世の終わりの案内人さ。
世那:な、何が犯行ですか!私は素晴らしい芸術品を造り出したまで!そのためには、犠牲は付き物ーーー!
冥助:ーーーそんな犠牲、必要ねぇだろ?それは、ただのお前の私利私欲じゃねぇか。
世那:・・・・・っ!
冥助:一つ聴く。お前は、死神か?
世那:は?死神?何だそれーーー?
冥助:答えろ。お前は死神か?
世那:わ、私は天才芸術家です!死神なんてそんな稚拙な・・・いや!そうだ!このカップルの作品を『死神』にしよう!この二人を造り上げた死神としてーーー!
冥助:ーーーおい。
世那:・・・ん?
冥助:ーーーてめぇが、死神を語るな。(何も無かったはずの空間から、ふわりと浮かび上がって現れる)
世那:・・・・へ?
冥助:死神っていうのは、簡単に命を弄んだりしねぇ。ましてや、自分の芸術だとか才能だとかで命を奪うなんて、あり得ねぇ話だ。お前にそんな権限なんて存在しねぇんだよ。
0:
大暉:な、ななな、何なんだ、あいつは・・・?!
矢吹:さっきもいった通り、この世の終わりの案内人。君が願って、彼女が願った。死者と生者の魂が、同じ思いを伝えた。
大暉:死者と・・・ってことは、明星も・・・?!
矢吹:ああ。彼女は、この場にいるよ。
0:
冥助:・・・荒川世那。職業は・・・お前、研究者じゃねぇんだな。芸術家。元々は絵画や彫刻がメインで仕事をしていたが、なかなか芽が出ず。生活もままならない状況だった。
世那:な、何で・・・。
冥助:ある時、世界的に有名なミイラを見て、いつまでも変わらない容姿に美の絶頂を覚える・・・。そこから、自分の美しいと感じるものをそのままにして留めておきたいと、あの手この手で気に入った女性を殺害。
世那:何で!何でわかるんですか?!私の考えまで、どうしてーーー!
冥助:ーーー黙ってろ。
世那:ヒッ・・・。
冥助:・・・そのまま様々な保存方法で、女性の姿をそのままに留めようとする、ね。・・・お前、こんな残虐に何人も手に掛けておいて、何とも思わないのかよ?
世那:う、うるさい!私の考えなんて、貴方方には到底思いつきもしないでしょう!
明星:こいつ・・・!
冥助:思いつくわけねえな。こんな最低で、自分の私利私欲でしかない考え、到底出てこねえよ。
世那:クソっ・・・!だったら!
0:世那は近くにあったボウガンを構える。
大暉:危ない!
冥助:へぇぇ!ボウガン!初めて見たぜ!何か、弓矢の強化版だろ?・・・で?それで怒り任せに、俺を殺すってか?
世那:・・・いいえ。確かに貴方でもいいですが・・・!
:世那はボウガンの発射口を、大暉と矢吹に向けた。
大暉:な・・っ!
矢吹:・・・・・。
明星:大暉!
冥助:お、おい、てめえ!お前の怒りの矛先は俺だろ?!
世那:ええ、そうですとも。ですが、それでも美の追究は!止まらないのです!私は、彼等を美の真骨頂として!世界に風穴を開けるんです!
明星:やめて!これ以上!大暉を苦しませないで!
大暉:クソっ・・・!明星の仇が、眼の前にいるっていうのに・・・!俺は・・・何も出来ないのか・・・!このまま・・・何もできず・・・。ごめん・・・明星・・・。
世那:アハハハハハ!!!いい!その泣き顔、グッドですよ!口元を笑顔にして、まるでやっとの思いで再会できたカップルにしてあげましょう!・・・あ、そういえば、カップルでしたね〜。
冥助:おい!やめろ!まずは俺からだろ?!これ以上生きている人間を粗末にすんじゃねぇ!
矢吹:・・・!
世那:うるさい!お前は後でいくらでもやってやる!だから今はーーー!
矢吹:だから今は、こっちの美を追究する、か。
世那:何?
明星:矢吹、さん・・・?
矢吹:たしかに、芸術は追究するもの。並大抵の努力程度で芽が出るほど、この世の中は甘くない。そのためにある分野一点に絞り、そこの高みへ追究する。
世那:そ、そうです!だから私はその高みへーーー!
矢吹:高みを目指す塔は、土台無くして造れず。君には芸術家としての土台がない。色、形、全てが、君が創ったものじゃない。
世那:だ、黙れ・・・!
大暉:あんた、それ以上は・・・。
矢吹:君が創ったというものは、人生をかけて創ってきた人の命を奪い、その身体までも奪った盗作に過ぎない!
世那:うるさいうるさいうるさぁぁぁい!!!
0:世那の絶叫と共に、ボウガンが矢吹に向けられる。
明星:いやあぁぁぁぁ!!!!
0:その矢は、金属特有の甲高い音と共に、矢吹の頭上に当たった。
大暉:・・・え?(同時に)
明星:・・・え?(同時に)
冥助:・・・おい。死神の目の前で、人殺しが出来るわけねぇんだよ・・・!
0:発射直前、冥助は大鎌で世那の右手首を斬り落としていた。
世那:ぁ・・ああああああああああああ!!!私の!!!私の手が!!!創るための手がぁ!!!
冥助:そんな手で、一体何を創るんだよ。お前の創った芸術なんかより、これから何十年もかけて創られていく命のほうが、何万倍も良いもんだ!命と、比べてんじゃねぇよ!!!
世那:ぁぁ・・あぁぁ・・・。くっつけ・・・くっついてよ・・・ねぇ・・・!
斬り落とされた手首をくっつけようとするが、つくはずもない。
大暉:・・・あんた、こうなることを分かって・・・?
矢吹:・・・人間は、死神の前では無力。死神は、死を司る神様だからね。
冥助:・・・てめぇが、すげぇ数の人間から恨まれた人間だってのが、よ〜〜〜く分かったよ。
世那:痛い・・・痛い・・・血が、止まらないよぉ・・・。
明星:・・・・・。
冥助:・・・さぁて、そろそろ仕上げの時間だ。覚悟は良いか?
世那:ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!
冥助の大鎌に、世那は左手で後ずさる。
冥助:・・・あ、そうそう。いい忘れてたけど、お前への依頼人が許してくれたら、これは無かったことになる。お前の誠心誠意の謝罪が、もしかしたら届くかもしれねぇけど、どうする?
世那:え・・ぁ・・・!
世那は深々と土下座し、叫び出す。
世那:この度は!本当に申し訳ありませんでしたぁ!全ての罪を認めて!警察にも行きます!だから!だから殺さないでくださいぃぃぃ!!!
大暉:・・・・ふざけんなよ・・・・ふざけんなよ!!!好き勝手やっておいて!ここにきて命乞いかよ!!!明星は!!!どんな思いで死んでいったと思ってるんだ!!!お前なんか・・・許せるわけないだろぉ!!!
世那:・・・っ!
明星:・・・・・。
0:明星は自分の遺体を見下ろしながら、怒りで沸騰しそうになりながらも、何もできない自分に、ただ握り拳を作ることしかできなかった。
冥助:さあ、今のを聴いてどう思う?
明星:・・・眼の前に私の身体があって・・・殺したいほど憎い相手もいて・・・何もできない・・・・・。惨めね、私・・・・・悔しい。悔しいよぉ、死神ぃ・・・。
冥助:・・・お嬢さん。
明星:え・・・?
冥助:・・・その覚悟に免じて、力を貸してやる。言っておくが、俺は後で始末書三昧になるんだからな!・・・3分だけだ。お前の思い、ぶつけてこいよ。
明星:!!・・・ええ・・・!!
0:冥助が触れると、明星の身体がぼんやりと光り、実体が現れる。
大暉:・・・え・・あ、明星・・?
世那:え?・・・ぁ、あぁぁ、明星さーーー。
明星:はあぁぁぁっ!!!
世那:んげぅっ!!!
0:渾身のストレートが、世那の左頬を貫く。右手を失っているので支えもなく、横に転がった。
矢吹:おお〜、これはこれは。
大暉:あ、明星・・・。
明星:私だけじゃなく、あんたは私の愛した人まで殺そうとした!自分の身勝手で!私はあんたを・・・絶対に許さない!!!
世那:ぁ・・あああああああああ!!!
0:右手を持って指紋認証で扉を開けると、世那はその場から飛び出していった。
冥助:・・・はぁ〜〜〜。汚ぇやつほどよく逃げやがる。
0:
0:
明星:・・大暉!
大暉:明星!
明星:・・・あ。
明星が拘束具を外そうとするが、手がすり抜ける。
矢吹:冥助の力だと、君は人にしか触れることができない。
明星:・・・大暉。
大暉:やっと、会えた・・・。本当に、会いたかった・・・。
明星:・・・私も。
大暉:本当にごめん!俺が、俺があの時ーーー!
明星:待って。大暉。私に残った時間は、あと少しなの。だから・・・私に話させて?
大暉:ぁ・・・。
明星:私は、大暉が大好き。男らしいところも、ちょっとかっこつけなところも、ぶっきらぼうなところも、迫られたら逃げちゃうところも、全部好き。
大暉:悪いところばっかりじゃないか。
明星:でも・・・一つだけ、変わってほしいところがあるの。
大暉:な、何だよ。
明星:・・・私への、思い。
大暉:・・・!
明星:私は、死んじゃったの。もう・・・会えないの・・だから・・・。
大暉:嫌だ・・・そんなの!俺は、明星だけをーーー!
明星:ーーーそれだと!!!・・・大暉は前に進めない。大暉には、まだ、これからがあるの・・・。
大暉:明星・・・くっ!
明星:・・・本当に、しょうがない人・・・ンッ。
大暉:ンッ・・・!
明星がそっと大暉に口づけする。
明星:このキスが私から、最後のプレゼント。大暉からのプレゼントは、私との約束を守ること。
大暉:約束・・・。
明星:・・・前に、進んで。
大暉:・・・・・分かった。明星の分も、頑張るから!必死に生きていくから!
明星:・・・今の言葉、ずっと覚えてるからね。・・・またね。大暉。
大暉:明星・・・明星ぃ!
ぼんやりとあった明星の姿は、光の粒となって見えなくなった。ほぼ同じく、大暉は緊張から糸が切れたように、意識を失った。
0:
矢吹:・・・さて、と。本当に大盤振る舞いだね、何でも相談屋さん?
冥助:うるせぇ、ほっとけ。それより、その拘束具どうすんだ?
矢吹:ああ、これなら・・・よっと。
0:まるで手品のように、手の拘束具を外した。
冥助:何だよ。はずせるのかよ。心配して損したぜ。
矢吹:ボウガン向けさせといてよく言うよ。・・・まあ、こっちの片付けはやっておく。明星さんは・・・。
0:気を失った大暉の下で、しゃがみこんでいる明星を見る。
冥助:そっとしておいてやれよ。そいつも・・・決心したんだからさ。じゃあ、行ってくる。
矢吹:あぁ。
0:
0:
0:
世那:ハァ・・・ハァ・・・何で?ねえ!何でなの!何で降りても降りても階段が続くの?!ハァ・・・ハァ・・・もう、無理・・・。
冥助:どこに行こうってんだ?
世那:ひ!ヒイィィィ!!!
冥助:なぁ、お前って、未来を生きる人間は、価値が無いと思ってるのか?
世那:・・・え?
冥助:正直に答えろよ?・・・どうなんだ?
世那:そ、そそ、そんなこおはございません!未来に生きる人ほど!素晴らしいものはありません!
冥助:・・・まーーーた嘘を重ねんだな。
世那:・・・え?
冥助:・・・ああああああ!!!醜い!!どいつもこいつも!時が経てば醜くなる!だったらぁ!・・・この私が、綺麗なままでいさせてあげる。そう、永遠に・・・クハハハハ!
世那:・・・あ、あぁぁ・・・。
冥助:・・・吐いた唾は呑めぬ、って言葉、知ってるか?覚悟しな。
冥助が鎌を振り上げる。
世那:いやだ・・・いやだぁぁぁぁ!!!
冥助:てめえの価値観を押し付けて、罪もない人の命を使って我欲を満たす獣がよぉ!あの世でしっかり反省してこい!
0:
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冥助:・・・・・や〜ぶ〜き〜〜〜〜〜。
矢吹:自分でしたことは、自分で解決しないとね?
冥助:流石に今回はヤバいって・・・。知らなかったぜ。力を貸すだけでこの量の始末書かよ。辞書でもできるんじゃねぇか?
矢吹:人には規定違反とか言っておきながら、人のために平気で規定違反を犯す。それが天川冥助、だね。
冥助:ちっともかっこよくねぇし、嬉しくもねぇよ。
矢吹:今回も、大きく出たね。『雑居ビルで不審な死体。右腕を切断されて発見。他殺か。』毎度毎度派手にやるね。おまけに死神の力を一般人に貸すなんて、前代未聞のことだからね。
冥助:あ〜〜〜死ぬ。書くこと多すぎて死ぬ。
明星:頑張りなさいよ、死神。
冥助:お前のせいなんだよ!少しは責任持ちやがれ!
明星:嫌よ!だって、私は頼んでないし?死神が勝手にしてくれたんだし?関係ないし?
矢吹:そうだぞ、冥助。それはお門違いだ。
冥助:こんのぉ〜・・・世の中、情ってもんはねぇのか!こっちは人のために身を削って頑張ったのに!報われねぇじゃねぇか!
明星:感謝はしてるわよ?でも、その仕事は私じゃない。私は、他の仕事ができたから。
冥助:あ?何だよ、他の仕事って。黄泉の国へ早々に行くってか?
明星:もっと大事なこと。これよ。
冥助:お、お前、その封筒どこで・・・?!
明星:さっき近くでもらったの。貴女には素質がある、ですって。だから、私もなるのよ。し・に・が・み。
冥助:・・・・・はぁぁぁ〜〜・・・。
矢吹:どうしたんだ?ため息ついて。そんなに彼女が死神になるのが嫌か?
冥助:ちげぇよ。あの封筒があるってことは、アイツがこっちに来てんだろ?絶対に俺にも用があるはずだ。下手すりゃ殺される。
矢吹:大袈裟な。いい人じゃないか。
明星:そうよ。とっても優しそうな人だったわよ?
冥助:何もねぇヤツからしたらそうだろうよ。こちとら3回やらかしてんだ。ったく、踏んだり蹴ったりだ。
明星:・・・まあでも・・・ありがとう、死神。大暉も助かったし、私もスカッとしたし!・・・これで、心残りは無いわ。
冥助:・・・そうか。
明星:・・・じゃあ、そろそろ行くね。案外そんなに遠くないから、また会いに来るかもね。じゃあね、天川先輩!
冥助:お、おい!先輩なんてやめろ!
明星:あはは!
矢吹:・・・・・・・・行ったか。なかなか台風のような人だったね。・・・どうしたんだい?顔がにやけてるぞ?
冥助:いやぁ〜先輩なんて呼ばれたの、死神になってから初めてだったからよぉ〜。何か、照れるじゃん?
矢吹:そういうのは噂になって、隣町まですぐに届くから、やめたほうがいいぞ?
冥助:や、やめろよ?!変な噂立てんなよ?!
矢吹:さあて、どうしようかな?僕は、情報屋、だからね。じゃあ、仕事に行ってくるよ。またね。
冥助:こら!待ちやがれ!絶対言いふらすだろ!やめろ、おい!
0:
0:
矢吹:・・・ふぅ。さて、と。
大暉:おい、あんた。
矢吹:ん?ああ。この間の。
大暉:明星は・・・逝ったのか?
矢吹:そうだね。晴れ晴れとした顔で、行ったよ。
大暉:・・・そうか。ありがとう。
矢吹:僕は何もしていない。礼なら、向こうの空き地にするといいよ。この町を守る、死神様がいるからね。
大暉:なぁ、そのことなんだが・・・。
矢吹:・・・どうしたんだい?
大暉:あの死神って・・・この町にいたやつじゃないか?
矢吹:・・・・・・どうして、そう思うんだい?
大暉:似ていたんだ。3年前に事故でなくなった、俺の友だちに。名前はーーーーー矢吹迅斗(やぶきはやと)
矢吹:・・・・・さあ、知らないな。他人の空似じゃないか?
大暉:・・・・・そう、だよな。悪かった。
矢吹:君は、明星さんとの約束を守って、これからの人生を、懸命に生きるんだ。
大暉:ああ。それが、明星との約束だから。
矢吹:ふふっ・・・。それじゃあ、元気で。金大(きんだい)。
大暉:お、おう、また・・・って、え?あ、あれ?いない・・・。今の人、何で、俺の昔のあだ名を・・・?
0:
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矢吹:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。死神事務所。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
矢吹:貴方は、死神に伝えたい本当の思い、ありますか?あるのならば、近くの寂れた空き地を探してみてください。もしかすると死神が、貴方のために力を貸してくれるかもしれませんよ。
大暉:明星・・・どこにいるんだ・・?本当に君は・・・俺と結婚したくなかったのか・・?応えてくれ・・明星・・・
明星:どうして・・・どうして応えてくれないの・・・?こんなにも、傍にいるのに・・・こんなに、伝えているのに・・・!
世那:ああああああ!!!醜い!!どいつもこいつも!時が経てば醜くなる!だったらぁ!・・・この私が、綺麗なままでいさせてあげる。そう、永遠に・・・クハハハハ!
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矢吹:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
矢吹:今日も今日とて、死神の一日が始まる。
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冥助:ふぅ・・・よし!今日は仕事が出来る!響子は多分この前の始末書でしばらく来ねぇだろうし、静かだから仕事も捗る・・・はずなのに。
矢吹:こらこら。君は沢山仕事を抱えているじゃないか。その書類、今日中に片付けないと、上司に怒られるんじゃないのか?
冥助:何でこう邪魔が入るんだよ!いつもいつも!響子の次は矢吹かよ!仕事はどうしたんだよ!
矢吹:もちろん仕事はきちんとしているさ。情報屋としての仕事をね。冥助だけじゃなく、探偵業務としてはこんなにあるよ?
冥助:・・・何だその紙束。どっからその情報仕入れてくるんだよ、まったくよぉ・・・。で?またこの前みたいに、何か事件の前触れか?
矢吹:御明察。さすがは何でも相談所の死神様。こっちが言う前に全てを分かっていて感服するよ。
冥助:何も嬉しくねぇんだよ!・・・で?何だ?
矢吹:・・・最近、こんなチラシが、ところどころで貼られている。
矢吹が冥助の隣にチラシを置く。紙すら触れない冥助は、チラシを上から覗き込んだ。
冥助:・・・ん?ただの美容整形のチラシじゃねぇか。これがどうしたんだよ?この間みたいな詐欺か何かか?
矢吹:いや、詐欺ならまだいい方さ。
冥助:ん?どういうことだ?
矢吹:ここ数ヶ月で四人の女性が事故死、もしくは行方不明になっている。
冥助:おいおい、人が死んでんのか。穏やかじゃねぇな。
矢吹:ああ、そして、そういう事件がある度に、その美容クリニックは移転している。
冥助:移転、って、まさか。
矢吹:そのまさかさ。そして、この地区に移転してきている。
冥助:うーーーわ、マジかよ・・・。絶対何か起こるフラグでしかねぇよ。
矢吹:そういうことだ。頼んだよ。
冥助:おいおい、待て待て!ただ店がこっちに来て、何も事を起こさなかったら俺の出る幕は無いぞ?
矢吹:・・・・・ハァァ・・。本当に何も起こらず、平穏無事にいられると思うのかい?
冥助:思いたい。思わせてほしい。いや、切なる願いだ。
矢吹:ふふっ・・・まあ、無理だろうね。
0:
0:女性が怪訝な顔で冥助の事務所に出向いた。
明星:あ、あの!すみません!
矢吹:ん?お。冥助、お客さんだよ。
冥助:言ってるそばからかよ・・・はいはーいっと・・・、
0:そこには、誰もが振り向くであろう程の美人が立っていた。
冥助:おっとぉ!いらっしゃいお嬢さん!天川死神何でも相談事務所へようこそ!用件は何だい?
明星:あ、ここが・・・じゃあ、貴方が、死神の天川さん?
冥助:おう!そうとも!・・・ん?何で知ってんだ?
明星:えっと・・・ちょっと離れたところで女性に聴いたの。私が死んだことと、ここで大体のことは聴いてもらえるって。
冥助:死んだことが分かっているということは、死神か。女性?・・・響子か?チッ・・・あいつ・・・まあいいや。依頼人が超絶美人だし〜・・・。で?用件はなんだ?
0:冥助が言い終わる前に、女性は一歩前に踏み込む。
明星:ねぇ。何でも相談って、言ってたよね?
冥助:え?あ、ああ。あの世に逝く間際なんだ。とりあえず何でも聴くぜ?ま、無理なもんは無理だけどな。
明星:・・・・・2つ、お願いがあるの。
冥助:ふたつ?
明星:そう。1つは、私が死んだ事を、彼に伝えてほしい。もう一つは・・・・・私を、探してほしいの。
冥助:お嬢さんを、探す?
明星:私は、ここから少し離れたところから記憶がないの。でも、気がついたら何もない部屋にいて、こんな風に宙に浮いてて。
矢吹:気がついたら、何も無かった。本来ならあり得ない。人は死んだ後、その場所で目が醒める。
冥助:それでも無かったってことは・・・死体が移動した、ってことか?
矢吹:・・・お嬢さん。もしかして、美容クリニックに通っていなかったかな?
明星:え?何で、分かるの?
冥助:・・・!矢吹。お前まさか・・・!
矢吹:冥助。どうやら今回も、ビンゴみたいだね。
明星:え?何?どういうこと?
矢吹:まあ、それは後で説明するよ。それより、冥助。
冥助:ああ。お嬢さん。死体探しは分かったけど、もう一つの願いは聴けねぇんだ。
明星:え?どうして?
矢吹:死神は、生きている人間に死んだ人間の言葉を伝えてはならないんだ。基本は、知られてはいけない存在だからね。
冥助:彼氏に伝えるなら、嬢ちゃんが生き返るか、彼氏が死ぬしかねぇってことだ。
明星:そ、そんな・・・。
0:その場でへたり込む女性。その目には涙が溜まっていく。
明星:私のせいで・・・彼を・・・大暉を、死なせたくないの・・・。
冥助:死なせたくない?どういうことだ?
明星:・・・私は、大暉と、結婚する直前だったの。
0:
明星:ねえねえ!私のドレス、Aラインかマーメイドライン、どっちがいいと思う?
大暉:ん~・・・。どっちでもいいよ。明星のお気に入りが、俺にとって最高のプレゼントだよ。
明星:もう!そんなこと言って!そう言いながらこの前も、料理の中身も私が全部決めちゃったじゃない!
大暉:あれ?そうだっけ?デザートはお願いしたよ?
明星:デザートだけでしょ?!本当に・・・もう少ししっかりしてよ・・・。
大暉:いやぁ、ごめんごめん。ははは・・・。
0:
世那:やぁやぁ、そこのカップルの方々!ちょっと足を止めていただけませんか?
明星:え、な、何?
世那:顔を見た途端、ビビビッ!ときたんです!美男美女カップル!是非、うちの美容研究所でメイクさせてもらえませんか?せめて!お話だけでも!
大暉:な、何だ、この人・・・!
0:
明星:普通なら、足早に立ち去るところなんだけど、その時は圧がすごかったのもあって、断るに断れなかったの。美容研究所は、すぐ側のビルだったし、ほんの少しだけってことで、入ったの。
0:
世那:さあさあどうぞ!早速メイクさせてくださいね!
明星:・・・いろんなメイク道具とかはたくさんあるけど・・・。
大暉:・・・他の仕事をしてる人はどこに?
世那:今は営業や勧誘に出掛けています。もう少しで戻ってくると思うので、それまでにメイクを完成させましょうね。
明星:えっと・・・私達、もうすぐ結婚するので、全然お金が無いんですけど・・・。
世那:あらま!おめでとうございます!それなら尚更、特別サービス!我々のことを口コミサイトに書いてもらうだけで無料にさせてもらいます!
明星:む、無料?!
世那:はい!お二人の新たな門出の記念として!我々が奥様のお顔をより美しくさせていただきます!
明星:お、奥様なんて・・・って、どうしたの?大暉?
大暉:・・・いや、何でもないよ。明星が良いと思ったんなら、いいんじゃないか?
明星:もう!いっつもそうなんだから!
大暉:仕方ねぇだろ?俺には関係ない話だしさ。
明星:はぁ?!もういいわ!美容師さん、お願いします!
世那:ありがとうございます!それではこちらへ!
大暉:お、おい、俺は・・・。
明星:大暉は帰ってて!
大暉:は、はぁ・・・?
明星:終わったらすぐ帰るから!先に帰ってて!
大暉:っ・・・何だよ・・・まったく・・・。
0:
明星:今思えば、何であそこで帰らせちゃったんだろうって思うわ。
0:
明星:じゃあ、よろしくお願いします。
世那:はーい!この荒川世那が、世界で一番の美女にしてあげますからね!
明星:ふふっ、楽しみ。
世那:じゃあ、始める前に、これを。
明星:え?これ?
世那:あー、別に怖いものじゃないですよ!髪の毛を整えやすくするようにするためのヘッドギアです!
明星:あ、なるほど・・・。
世那:では、装着してくださいね。
明星:はーい。よっと・・・。
世那:それでは、きれいに仕上げていきますね〜・・・。
明星:・・・あれ?何だろう・・・力が、抜け、て・・・。
0:
明星:で、気がついたら、部屋はもぬけの殻だし、何か宙に浮いてるし、慌てて飛び出そうとしたら全部すり抜けるし。誰に話しかけても見向きもしない。もうだめだって諦めかけた時に、女の人が声をかけてきてくれて・・・。
冥助:なるほどな。それでうちに来たと・・・。
明星:ねぇ。本当に私、死んじゃったの?
冥助:ん?ああ。そうだな。
明星:・・・・・。
冥助:・・・何だよ?
明星:もうちょっと無いの?言いにくいけど〜、とか。残念ですが〜、とか。
矢吹:そうだぞ冥助。少しは気遣いを覚えるべきだ。
冥助:そういうまどろっこしいのは、き・ら・い・な・ん・だ・よ!あと矢吹!何でそっちの肩持ってんだ?!
矢吹:依頼人の気持ちを考えるのが、冥助の仕事だろ?
冥助:ぬ・・・ぐぐぐ・・・。
明星:ほ~ら!
冥助:・・・あ?
明星:ほら!もう一回!
冥助:何で言い直さなきゃいけねぇんだよ!
明星:いいじゃん!ほら、早く!
冥助:・・・ザンネンデスガ、アナタサマハオナクナリニナッテオリマス。
明星:不自然。
冥助:うるせぇ!
矢吹:まあまあまあ。
明星:・・・プッ・・アハハハハ!あー・・・この体になって、初めて笑ったわ。
冥助:・・・。
明星:で、さっきの話だと、私の彼氏には伝えられないってわけ?
冥助:まあ、そういうことだ。
明星:そっか・・・分かったわ。
冥助:ほう?随分あっさりだな?
明星:でも!それなら、大暉を探してほしいの!金沢大暉!もし大暉に何かあったらーーー!
冥助:分かった分かった!落ち着け!大丈夫だ。矢吹、頼めるか?
矢吹:もちろんさ。それに・・・もう一つの方も、解決しないといけないからね。
明星:もう一つ・・・?
冥助:お前が言ったんだろ?自分を探してほしいってさ。
明星:・・・探してくれるの?
冥助:あぁ。ただし、俺は今、何もできねぇ。だから、人探し体探しは矢吹の仕事になる。
矢吹:できる限りの事はしよう。
明星:お願い。もし大暉にまで何かーーー。
冥助:分かったって!・・・大丈夫だ!
明星:・・・分かった。矢吹さん、お願い。
矢吹:分かったよ。
冥助:じゃあ、この事務所で大人しく待っててくれよ。この敷地内から出たら、どうなっても知らねぇぜ?
明星:わ、分かった・・・。
冥助:・・・矢吹。
矢吹:あぁ。
0:
冥助:今回は特に矢吹の力が必要だ。
矢吹:僕の力が必要って、嬉しいことを言ってくれるね、冥助。
冥助:茶化すなよ。で?何時間だ?
矢吹:・・・金沢大暉を見つけることは、おそらくすぐにできるだろう。だが、明星さんの身体は、すぐは難しい。3時間はかかるな。
冥助:十分早いじゃねぇか。後で落ち合おう。
矢吹:分かった。
0:
大暉:明星・・・どこにいるんだ・・?この間の店は無くなってるし、どうなってるんだ。明星・・・。
0:誰かとすれ違い、肩がぶつかる。
世那:あ、すみません。
大暉:あ、いえ、こちらこ・・・っ!お前は!
世那:え?っとと!
0:大暉が世那の肩を押さえるように掴みかかる。
大暉:おい!明星を!明星をどこへやった!!!
世那:な、なな、何ですか、いきなり!
大暉:とぼけるな!この間、隣町で突然声をかけてメイクさせてくれって頼んできただろう!!
世那:・・・・・あぁ。貴方ですか。どうもお久しぶりです。それで、式までは順調ですか?
大暉:ふざけるな!あの後、明星は行方不明なんだよ!
世那:そ、そうなんですか!?それは、心配ですね・・・。
大暉:心配だと?!お前が何かしたんだろう!明星をどこへやったーーー!
世那:ーーー証拠は?
大暉:・・・何?
世那:証拠は、あるんですか?
大暉:そ、それは・・・。
世那:その手、離してください。
大暉:・・・・・・。
世那:離せ。
大暉:っ?!
0:世那の冷たい声に、大暉はそっと手を離した。
世那:まったく・・・こんな町中でいきなり肩を押さえつけて、どういうことですか?普通なら警察沙汰ですよ?周りの目もありますし。
大暉:くっ・・・!
世那:それに、この間も喧嘩されていたではないですか。そんなことだから、明星さんもどこかに行ってしまわれたんじゃないですか?
大暉:こ、この・・・!
世那:ああ、そうそう!明星さん、メイクが終わった後にこんなことを仰ってましたよ!
大暉:な、何?
世那:こんなにキレイになれるんだったら、もう少し自由になりたいな!ってね。
大暉:・・・・・。
世那:では、工藤明星さん・・・見つかるといいですね〜〜〜〜〜。
0:卑しい笑顔で大暉を見つめてそう言うが、大暉の血の気は引いていた。
大暉:そんな・・・明星・・・。
世那:それでは、またご贔屓に。
大暉:・・・明星・・・どこにいるんだ・・?本当に君は・・・俺と結婚したくなかったのか・・?応えてくれ・・明星・・・。
0:
矢吹:見つけたよ。下道さん。
0:
0:
0:
明星:・・・・・ねぇ、死神。遅いんだけど。
冥助:いやいや、仕方ねぇだろ。生身の人間が街中探し回ってるんだぞ?2、3時間はかかるって言ったじゃねぇか。
明星:何でも相談事務所なんでしょ?!もっと早く解決してよ!
冥助:ああもう!うるせぇよ!こっちも全力でやってんだから待ってろよ!・・・まったく、本当にわがままな奴だぜ・・・。
明星:え・・・ぁ・・・ご、ごめん・・・。
冥助:あ?何だ?急にしおらしくなったな。
明星:だって・・・私、こう思い通りにならなかったり、焦ったりしたらさ。自分勝手に好き放題言っちゃうの。昔から変わらない癖、なんだ。
冥助:・・・・・。
明星:あの時もそう。私が勝手にイラッとして、大暉に先に帰ってって言っちゃって・・・。
冥助:・・・・・。
明星:こ、こんな女、嫌だよね?もしかしたら、今回のことで大暉も愛想尽かして、私のことなんか、探してもないかもなぁって・・・痛っ!
0:明星が言い終わらないうちに、冥助がデコピンを打った。
冥助:バーーーーーカ。
明星:デ、デコピンって・・何すんのよ!
冥助:バーカ。馬鹿も馬鹿、大馬鹿だぜ。
明星:馬鹿馬鹿言わないでよ!何なのよーーー!
冥助:ーーーお前、金沢大暉のどこが好きなんだ?
明星:・・・え?も、勿論、色々あるけど・・・。
冥助:で、それをその彼氏は知ってんのか?
明星:し、知らないわよ、そんなこと。
冥助:だろ?きっと相手もおんなじだ。じゃあ、何でわざわざ言わねぇのか。・・・・・相手のこと、信じてるからじゃねぇのか?
明星:・・・ぁ・・・。
冥助:金沢大暉がどんなふうにお前のことを考えてるかは知らねぇ。でも、結婚間近まで一緒にいたんだろ?だったら、パートナーになるはずだったお前が、彼氏を信じなくてどうするんだよ。
明星:・・・死神・・・。
冥助:好きなんだろ?
明星:・・・えぇ。好きよ。大好きよ。だから、私はここに来たのよ。
冥助:そうだろ?だったら!・・・最後まで信じろ。皆を。
明星:・・・・・・。
冥助:・・・何だよ?ちょっとは俺のこと、見直したか?
明星:・・・そうね。ものすごくカッコつけてて、良いと思うわ。
冥助:かっこつ・・・!お、お前なぁ・・・!
明星:ありがとう、死神。私・・・信じるわ、大暉のこと。
冥助:・・・それでいい。きっと・・・それがいい。
0:
0:
矢吹:お取り込み中だったかな?
冥助:お、矢吹。早かったな。
明星:どう!?何かわかったの?!
矢吹:焦らなくていい。まあ、ちょっと急ぎではあるかもしれないけど。
冥助:見つけたのか、金沢大暉を。
明星:え?
矢吹:ご明察。彼はずっと、明星さんを探している。そして、幸か不幸か、もう一人もいたよ。
明星:・・・・・っ!!!
冥助:荒川世那か。
矢吹:そう。しかも奴は、金沢大暉と接触した。
明星:ど、どうして?!
矢吹:それについては、事故に近い。それよりも、荒川世那は妙なことを言っていた。
冥助:妙なこと?
矢吹:・・・明星さん。君が最後に、荒川世那と喋ったことが何だったか、覚えているかい?
明星:・・・覚えてないわ。これと言って喋ってないもの。
矢吹:やっぱりね。思ったとおりだ。
明星:どういうこと?
矢吹:荒川世那は、明星さんがこう言ってたってさ。「こんなにキレイになれるんだったら、もう少し自由になりたいな!」ってね。
明星:い、言ってないわよ!私、そんなことーーー!
矢吹:分かってるさ。でも、一応確認は必要だからね。
冥助:・・・自分を守るためのでっち上げか。
矢吹:ま、そういうことだね。それから・・・・ここからは冥助との話だ。
冥助:だってさ。お嬢さんはここで大人しくしててくれ。な?
明星:・・・分かったわ。
矢吹:冥助。
冥助:おう。
0:
0:
0:
矢吹:・・・ここまで来ればいいかな?
冥助:大丈夫だろ。要らねぇことを聴いて、余計な怨嗟を生んだら死神違反だしな。
矢吹:・・・荒川世那についてだよ。
冥助:待ってました。で、どんなやつだ?
矢吹:・・・これだよ。
0:冥助の前に資料を並べる
冥助:・・・・・なるほどね。見事なまでの大ホラ吹きってことか。それにしても、よくこんなに用意できたなぁ。普通なら破産するんじゃねぇの?
矢吹:そこも調べた。そしたら、一年ほど前に亡くなった政治家と血脈関係にあったようだ。
冥助:政治家、ねぇ。その遺産でどうこうしてるってわけか。
矢吹:そういうことだ。とりあえず、今のところはこれぐらいだ。あとは、今のヤツのアジトを見つけたよ。
冥助:お、どこだ・・・・・!
0:直後、脳内に声がする。
世那:この女は今が一番の美貌だった。この私が!その美を保存してあげたんだ!フフハハハハ!・・・でも、物足りない・・。やはりこの人には、パートナーがあって初めて完璧になる。そのためにはやはり・・・フフフ。さあ、見つけに行こうか。
冥助:コイツ・・・まさか、恋人もやる気か?!
矢吹:・・・聴こえたか、冥助。
冥助:あぁ。間違いねぇ。おそらく対象も・・・金沢大暉だ。早く見つけ出さねぇとーーー。
矢吹:ーーー冥助。
冥助:・・・何だよ。
矢吹:頼みがあるーーー。
冥助:嫌だね。
矢吹:・・・やれやれ。まだ何も言ってないじゃないか。
冥助:死神様なめんなよ?お前が何を言いたいかはすぐ分かる。でも、あまりにも一か八か過ぎる。
矢吹:それでも・・・やるしかない。そうしないと、また一人、無意味に犠牲者が出る。それに、僕は金沢大暉の居場所がすぐに分かる。
冥助:・・・言っておくが、上手くいかなかったらお前も死ぬんだからな。俺も、何も出来ないんだからな!
矢吹:分かっている・・・大丈夫。上手くやるさ。
冥助:・・・ハァ。分かったよ。
矢吹:ありがとう、冥助。・・・・・ここが、ヤツのアジトだ。明星さんの遺体も、おそらくここにあるだろう。
冥助:オーケー。じゃあ俺は、工藤明星に説明してくるよ。後で落ち合おう。・・・死ぬなよ、矢吹。
矢吹:大丈夫。僕には死神様がついてるんだからね。
0:
0:
0:
大暉:明星・・・どこにいるんだ・・?本当に君は・・・俺と結婚したくなかったのか・・?応えてくれ・・明星・・・
矢吹が大暉の財布を摺る。
矢吹:・・・・・おっと。
大暉:あ、すみません。
矢吹:いえ、こちらこそ。・・・あ、財布、落としましたよ。
大暉:あ、ありがとう、ございます。
矢吹:お、とっと・・・!す、すみません。
0:財布を渡しそこね、小銭が散乱してしまう。
大暉:あー、いえ、大丈夫ですよ。
0:
世那:見〜〜〜つけたぁぁぁ。あと・・・・・隣の彼もイケメンですねぇ。どうせなら二人まとめて・・・フフフフフ。
0:
0:冥助、明星に事情を説明する
明星:ーーーやっぱり、私の身体は、あの研究所にまだ残ってるのね。
冥助:確証はねぇよ。だが、ほぼ確定だろうな。
明星:やっぱり・・・あの人が・・・っ!
冥助:工藤明星。お前は、どうなることを望む?
明星:・・・望み?・・・そんなの、決まってるじゃない!アイツを!私の未来を壊したアイツを!私は!絶対に許さない!!!
冥助:・・・分かった。思いはたしかに受け取った。お嬢さんはここに残っていい。今からしに行くことは、あんたにとってきっと苦痛だ。
明星:どういうこと?そんなの構わない!私を連れていって!
冥助:いいのか?あんたの婚約者が、痛めつけられる姿を目の当たりにする可能性が高いんだぞ?
明星:・・・・・え?
冥助:このままだと、お嬢さんの声はどれだけ出しても婚約者に届かない。そのために・・・一か八かの賭けをする。あんたがわざわざ見なくていいもんだ。
明星:・・・・・。大暉が、少しでも私に気づいてくれる可能性は、あるの?
冥助:・・・無いことは無い。ただ、限りなく0に近い。
明星:それでも!あるなら!・・・私は、その望みに賭ける・・・!・・・馬鹿な女かしら?
冥助:・・・ハァ・・・いいや。婚約者からしたら、最高の女なんじゃないか?
明星:あら?女性を喜ばせる言葉、知ってるんじゃない?
冥助:うるせぇ・・・・っ!!!
0:
世那:やはり・・・そう、やはりこうでなくてはね!あの女は、この男が隣にいてこそ!完全な美へと進化する!それに、上玉も一人手に入ったし・・・さあ・・・あと一歩。あと一歩だぁ・・・!!!
0:
冥助:上玉も一人・・・?くそっ!まずい!
明星:な、何?どうしたの?
冥助:おい!行くぞ!
0:冥助は明星の手を引っ張り、宙へと浮かび上がる。
明星:え?!な、何?!何なの?!
冥助:喋ってる暇はねぇ!決心ついたんなら、とにかく翔べ!
明星:!!・・・分かった!
冥助:よぉし!しっかり掴まってろよ!
0:
0:
矢吹:・・・こ、ここは・・・。そうだ。財布を落とした後、荒川世那と接触して、話があるとここまで来て・・・。
世那:おやおや、目が覚めましたか?
矢吹:・・・!これは、話が違うのでは?たしか話を聴ぐふっ!(顔面を殴られる)
世那:質問に答えなさい!・・・目が覚めましたか?
矢吹:・・・えぇ、おかげさまで。
世那:よろしい。そうそう。私は貴方達に話があって呼んだんです。ですが・・・お隣の方はまだ睡眠中なので、もう少し様子を見ます。
矢吹:・・・!荒川世那・・・お前の狙いは・・・この人か。
世那:そうですね。金沢大暉。最愛の彼女を探し求める姿はまるでシンデレラを捜し求める王子様のよう!だからこそ!・・・彼はこの作品の一部になるべきなのですよ。
矢吹:作品?作品ってどうゴホッ!!(腹を殴られる)
世那:一度だけは見逃してあげたのに、何故私が貴方に質問されなければならないのですか?私は貴方に許可なんてしていません。
矢吹:・・・っ。
世那:・・・そう、それで良いんです。貴方も、私の傑作になるのですから。フフフ・・・フフフフフ・・・。
0:冥助と明星が壁をすり抜けて現れる。
冥助:っ!矢吹!大丈夫か?!
矢吹:・・・もう少し、遅くなるかと思ったよ。
世那:・・・あ?
明星:だ、大暉!しっかりし・・・ぁ・・すり抜けちゃう・・大暉に・・触れない・・・。
冥助:今のままじゃ、どうすることもできねぇ・・・!
明星:どうして・・・どうして応えてくれないの・・・?こんなにも、傍にいるのに・・・こんなに、伝えているのに・・・!ねぇ!気づいてよ!目を覚まして!大暉!
冥助:くそっ・・!矢吹!まだなのか?!
矢吹:あと・・少しだ・・・。もう少・・ぐっ!
世那:何さっきから独り言喋ってるの?喋っていいって言った?ねぇ・・?!
矢吹:ぐ・・ぁ・・っ!
世那:もうお前から先に・・・いや、それよりもこっちが先か・・・。
矢吹:っ・・ゲホッ!ゲホッ!ハァ・・ハァ・・(咳き込み、呼吸が荒くなる)
明星:死神!どうにかならないの?!
冥助:・・・今のままじゃ、どうしようもねぇ。でも・・・。
明星:でも?
冥助:・・・起死回生のチャンスが、必ずある。
0:世那が大暉の首筋にナイフを当てる
世那:君には、最高の絶望を味わってもらうよぉ?その絶望に満ちた顔で、最期を迎えるまでは絶対に殺さなぁい。だから・・・早く起きないかなぁ?
矢吹:・・・お前の・・・狙いは、何なんだ?
世那:あーーーもう。だーかーらぁ???喋っていいって言ってないんだけどぉ?でも・・・まぁいいや。冥土の土産に教えてあげる。
矢吹:・・・・・。
世那:君達はラッキーなんだ!この天才美容師の荒川世那によって!永遠の美を手に入れることが出来るんだ!
矢吹:永遠の・・・美・・・?
世那:そう!人間は老ける!シミ、シワ、たるみ!誰も老化に抗うことは出来ない!でも!私の技術によって、今の美しい姿のまま、永遠に保存し続けるんだ!
矢吹:・・・命と引き換えに、か?
世那:永遠の美を手に入れることが出来るんだよ?!それぐらい安いものじゃないか!
矢吹:・・・この先も生きたいと、願っていてもか?
世那:私に選ばれたことを光栄に思ってほしいくらいだね!そんなちっぽけな今の願いより、永遠に残ることを何故選ばない?!
矢吹:・・・お前はーーー
大暉:ーーー狂ってる。
世那:・・・は?
大暉:俺達の人生をめちゃくちゃにしておいて・・・どういうつもりだ・・・!
明星:大暉・・・!
世那:おおおおお!!目覚めましたね、新郎様!では!御披露目といきましょうか!
大暉:御披露目・・・?
世那:こちらでーーーす!!!
0:大暉と矢吹の後ろの扉が開くと、そこには、透明な液体の中でドレスを身に纏った、明星の姿が。
明星:・・あ・・あれが・・・私・・・?
冥助:なるほど。そんなところに隠してやがったのか。
大暉:・・・・・え?あ、明星・・・?そんな・・・明星・・・明星ぃぃ!!!
世那:どうですか?!私の中でも最高傑作ですよ!このマーメイドドレスを着て!花嫁になる直前の!美を追求した姿の最終段階!そんな状態で永遠に残り続ける!・・・最高じゃないですか。
大暉:貴様ぁ・・・貴様ぁぁぁぁ!!!!!
世那:そう!そうそうそう!!!それだよ、それ!その顔!私はその顔が見たかった!探し求めていた愛する人が、やっと見つかった時のその絶望!アッハハハハハ!!最高ですよ!!
大暉:ぐぅぅぅぅぅ!!!
明星:・・・大暉・・・。
冥助:工藤明星。お前が望むことは、何か変わったか?
明星:・・・いいえ。お願い。助けて。大暉を助けて!アイツを・・・殺して!!
冥助:---分かった。後は任せな。・・・矢吹。頼んだ。
矢吹:・・・・・金沢大暉さん、だったね?
大暉:・・・なんだよ・・・?
矢吹:君は・・・あの男が、憎いかい?
大暉:・・・憎い?ははは・・・憎い、か。憎い・・・そんな言葉でまとめられるか!!!俺がっ!!心から愛した人を!!こんな形で・・・!!許せるわけないだろ!!!アイツを!殺したい!!!
世那:アッハハハハハ!!!そんな状態で何ができるって言うんだい?!ただの負け犬の遠吠えにしか聞こえないですね!!やれるものならやってみなさいよ!!!今からあなたも!彼女と同じところへ送ってあげますからぁ!!!(高笑い)
矢吹:・・・ということだ。後は任せたぞ。冥助。
0:
0:
冥助:おーい。そこの天才を気取ってるやつ。お前、自分が何してるのか分かってんのかぁ?
世那:?!だ、誰?!ここには、他に誰も入れないはず!
冥助:残念だったな。ずーーーっと観てたぜ。お前の薄汚〜い犯行の一部始終をよぉ。
大暉:だ、誰だ?誰の声だ?
矢吹:・・・あんたと、彼女の思いを受け取った、この世の終わりの案内人さ。
世那:な、何が犯行ですか!私は素晴らしい芸術品を造り出したまで!そのためには、犠牲は付き物ーーー!
冥助:ーーーそんな犠牲、必要ねぇだろ?それは、ただのお前の私利私欲じゃねぇか。
世那:・・・・・っ!
冥助:一つ聴く。お前は、死神か?
世那:は?死神?何だそれーーー?
冥助:答えろ。お前は死神か?
世那:わ、私は天才芸術家です!死神なんてそんな稚拙な・・・いや!そうだ!このカップルの作品を『死神』にしよう!この二人を造り上げた死神としてーーー!
冥助:ーーーおい。
世那:・・・ん?
冥助:ーーーてめぇが、死神を語るな。(何も無かったはずの空間から、ふわりと浮かび上がって現れる)
世那:・・・・へ?
冥助:死神っていうのは、簡単に命を弄んだりしねぇ。ましてや、自分の芸術だとか才能だとかで命を奪うなんて、あり得ねぇ話だ。お前にそんな権限なんて存在しねぇんだよ。
0:
大暉:な、ななな、何なんだ、あいつは・・・?!
矢吹:さっきもいった通り、この世の終わりの案内人。君が願って、彼女が願った。死者と生者の魂が、同じ思いを伝えた。
大暉:死者と・・・ってことは、明星も・・・?!
矢吹:ああ。彼女は、この場にいるよ。
0:
冥助:・・・荒川世那。職業は・・・お前、研究者じゃねぇんだな。芸術家。元々は絵画や彫刻がメインで仕事をしていたが、なかなか芽が出ず。生活もままならない状況だった。
世那:な、何で・・・。
冥助:ある時、世界的に有名なミイラを見て、いつまでも変わらない容姿に美の絶頂を覚える・・・。そこから、自分の美しいと感じるものをそのままにして留めておきたいと、あの手この手で気に入った女性を殺害。
世那:何で!何でわかるんですか?!私の考えまで、どうしてーーー!
冥助:ーーー黙ってろ。
世那:ヒッ・・・。
冥助:・・・そのまま様々な保存方法で、女性の姿をそのままに留めようとする、ね。・・・お前、こんな残虐に何人も手に掛けておいて、何とも思わないのかよ?
世那:う、うるさい!私の考えなんて、貴方方には到底思いつきもしないでしょう!
明星:こいつ・・・!
冥助:思いつくわけねえな。こんな最低で、自分の私利私欲でしかない考え、到底出てこねえよ。
世那:クソっ・・・!だったら!
0:世那は近くにあったボウガンを構える。
大暉:危ない!
冥助:へぇぇ!ボウガン!初めて見たぜ!何か、弓矢の強化版だろ?・・・で?それで怒り任せに、俺を殺すってか?
世那:・・・いいえ。確かに貴方でもいいですが・・・!
:世那はボウガンの発射口を、大暉と矢吹に向けた。
大暉:な・・っ!
矢吹:・・・・・。
明星:大暉!
冥助:お、おい、てめえ!お前の怒りの矛先は俺だろ?!
世那:ええ、そうですとも。ですが、それでも美の追究は!止まらないのです!私は、彼等を美の真骨頂として!世界に風穴を開けるんです!
明星:やめて!これ以上!大暉を苦しませないで!
大暉:クソっ・・・!明星の仇が、眼の前にいるっていうのに・・・!俺は・・・何も出来ないのか・・・!このまま・・・何もできず・・・。ごめん・・・明星・・・。
世那:アハハハハハ!!!いい!その泣き顔、グッドですよ!口元を笑顔にして、まるでやっとの思いで再会できたカップルにしてあげましょう!・・・あ、そういえば、カップルでしたね〜。
冥助:おい!やめろ!まずは俺からだろ?!これ以上生きている人間を粗末にすんじゃねぇ!
矢吹:・・・!
世那:うるさい!お前は後でいくらでもやってやる!だから今はーーー!
矢吹:だから今は、こっちの美を追究する、か。
世那:何?
明星:矢吹、さん・・・?
矢吹:たしかに、芸術は追究するもの。並大抵の努力程度で芽が出るほど、この世の中は甘くない。そのためにある分野一点に絞り、そこの高みへ追究する。
世那:そ、そうです!だから私はその高みへーーー!
矢吹:高みを目指す塔は、土台無くして造れず。君には芸術家としての土台がない。色、形、全てが、君が創ったものじゃない。
世那:だ、黙れ・・・!
大暉:あんた、それ以上は・・・。
矢吹:君が創ったというものは、人生をかけて創ってきた人の命を奪い、その身体までも奪った盗作に過ぎない!
世那:うるさいうるさいうるさぁぁぁい!!!
0:世那の絶叫と共に、ボウガンが矢吹に向けられる。
明星:いやあぁぁぁぁ!!!!
0:その矢は、金属特有の甲高い音と共に、矢吹の頭上に当たった。
大暉:・・・え?(同時に)
明星:・・・え?(同時に)
冥助:・・・おい。死神の目の前で、人殺しが出来るわけねぇんだよ・・・!
0:発射直前、冥助は大鎌で世那の右手首を斬り落としていた。
世那:ぁ・・ああああああああああああ!!!私の!!!私の手が!!!創るための手がぁ!!!
冥助:そんな手で、一体何を創るんだよ。お前の創った芸術なんかより、これから何十年もかけて創られていく命のほうが、何万倍も良いもんだ!命と、比べてんじゃねぇよ!!!
世那:ぁぁ・・あぁぁ・・・。くっつけ・・・くっついてよ・・・ねぇ・・・!
斬り落とされた手首をくっつけようとするが、つくはずもない。
大暉:・・・あんた、こうなることを分かって・・・?
矢吹:・・・人間は、死神の前では無力。死神は、死を司る神様だからね。
冥助:・・・てめぇが、すげぇ数の人間から恨まれた人間だってのが、よ〜〜〜く分かったよ。
世那:痛い・・・痛い・・・血が、止まらないよぉ・・・。
明星:・・・・・。
冥助:・・・さぁて、そろそろ仕上げの時間だ。覚悟は良いか?
世那:ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!
冥助の大鎌に、世那は左手で後ずさる。
冥助:・・・あ、そうそう。いい忘れてたけど、お前への依頼人が許してくれたら、これは無かったことになる。お前の誠心誠意の謝罪が、もしかしたら届くかもしれねぇけど、どうする?
世那:え・・ぁ・・・!
世那は深々と土下座し、叫び出す。
世那:この度は!本当に申し訳ありませんでしたぁ!全ての罪を認めて!警察にも行きます!だから!だから殺さないでくださいぃぃぃ!!!
大暉:・・・・ふざけんなよ・・・・ふざけんなよ!!!好き勝手やっておいて!ここにきて命乞いかよ!!!明星は!!!どんな思いで死んでいったと思ってるんだ!!!お前なんか・・・許せるわけないだろぉ!!!
世那:・・・っ!
明星:・・・・・。
0:明星は自分の遺体を見下ろしながら、怒りで沸騰しそうになりながらも、何もできない自分に、ただ握り拳を作ることしかできなかった。
冥助:さあ、今のを聴いてどう思う?
明星:・・・眼の前に私の身体があって・・・殺したいほど憎い相手もいて・・・何もできない・・・・・。惨めね、私・・・・・悔しい。悔しいよぉ、死神ぃ・・・。
冥助:・・・お嬢さん。
明星:え・・・?
冥助:・・・その覚悟に免じて、力を貸してやる。言っておくが、俺は後で始末書三昧になるんだからな!・・・3分だけだ。お前の思い、ぶつけてこいよ。
明星:!!・・・ええ・・・!!
0:冥助が触れると、明星の身体がぼんやりと光り、実体が現れる。
大暉:・・・え・・あ、明星・・?
世那:え?・・・ぁ、あぁぁ、明星さーーー。
明星:はあぁぁぁっ!!!
世那:んげぅっ!!!
0:渾身のストレートが、世那の左頬を貫く。右手を失っているので支えもなく、横に転がった。
矢吹:おお〜、これはこれは。
大暉:あ、明星・・・。
明星:私だけじゃなく、あんたは私の愛した人まで殺そうとした!自分の身勝手で!私はあんたを・・・絶対に許さない!!!
世那:ぁ・・あああああああああ!!!
0:右手を持って指紋認証で扉を開けると、世那はその場から飛び出していった。
冥助:・・・はぁ〜〜〜。汚ぇやつほどよく逃げやがる。
0:
0:
明星:・・大暉!
大暉:明星!
明星:・・・あ。
明星が拘束具を外そうとするが、手がすり抜ける。
矢吹:冥助の力だと、君は人にしか触れることができない。
明星:・・・大暉。
大暉:やっと、会えた・・・。本当に、会いたかった・・・。
明星:・・・私も。
大暉:本当にごめん!俺が、俺があの時ーーー!
明星:待って。大暉。私に残った時間は、あと少しなの。だから・・・私に話させて?
大暉:ぁ・・・。
明星:私は、大暉が大好き。男らしいところも、ちょっとかっこつけなところも、ぶっきらぼうなところも、迫られたら逃げちゃうところも、全部好き。
大暉:悪いところばっかりじゃないか。
明星:でも・・・一つだけ、変わってほしいところがあるの。
大暉:な、何だよ。
明星:・・・私への、思い。
大暉:・・・!
明星:私は、死んじゃったの。もう・・・会えないの・・だから・・・。
大暉:嫌だ・・・そんなの!俺は、明星だけをーーー!
明星:ーーーそれだと!!!・・・大暉は前に進めない。大暉には、まだ、これからがあるの・・・。
大暉:明星・・・くっ!
明星:・・・本当に、しょうがない人・・・ンッ。
大暉:ンッ・・・!
明星がそっと大暉に口づけする。
明星:このキスが私から、最後のプレゼント。大暉からのプレゼントは、私との約束を守ること。
大暉:約束・・・。
明星:・・・前に、進んで。
大暉:・・・・・分かった。明星の分も、頑張るから!必死に生きていくから!
明星:・・・今の言葉、ずっと覚えてるからね。・・・またね。大暉。
大暉:明星・・・明星ぃ!
ぼんやりとあった明星の姿は、光の粒となって見えなくなった。ほぼ同じく、大暉は緊張から糸が切れたように、意識を失った。
0:
矢吹:・・・さて、と。本当に大盤振る舞いだね、何でも相談屋さん?
冥助:うるせぇ、ほっとけ。それより、その拘束具どうすんだ?
矢吹:ああ、これなら・・・よっと。
0:まるで手品のように、手の拘束具を外した。
冥助:何だよ。はずせるのかよ。心配して損したぜ。
矢吹:ボウガン向けさせといてよく言うよ。・・・まあ、こっちの片付けはやっておく。明星さんは・・・。
0:気を失った大暉の下で、しゃがみこんでいる明星を見る。
冥助:そっとしておいてやれよ。そいつも・・・決心したんだからさ。じゃあ、行ってくる。
矢吹:あぁ。
0:
0:
0:
世那:ハァ・・・ハァ・・・何で?ねえ!何でなの!何で降りても降りても階段が続くの?!ハァ・・・ハァ・・・もう、無理・・・。
冥助:どこに行こうってんだ?
世那:ひ!ヒイィィィ!!!
冥助:なぁ、お前って、未来を生きる人間は、価値が無いと思ってるのか?
世那:・・・え?
冥助:正直に答えろよ?・・・どうなんだ?
世那:そ、そそ、そんなこおはございません!未来に生きる人ほど!素晴らしいものはありません!
冥助:・・・まーーーた嘘を重ねんだな。
世那:・・・え?
冥助:・・・ああああああ!!!醜い!!どいつもこいつも!時が経てば醜くなる!だったらぁ!・・・この私が、綺麗なままでいさせてあげる。そう、永遠に・・・クハハハハ!
世那:・・・あ、あぁぁ・・・。
冥助:・・・吐いた唾は呑めぬ、って言葉、知ってるか?覚悟しな。
冥助が鎌を振り上げる。
世那:いやだ・・・いやだぁぁぁぁ!!!
冥助:てめえの価値観を押し付けて、罪もない人の命を使って我欲を満たす獣がよぉ!あの世でしっかり反省してこい!
0:
0:
0:
冥助:・・・・・や〜ぶ〜き〜〜〜〜〜。
矢吹:自分でしたことは、自分で解決しないとね?
冥助:流石に今回はヤバいって・・・。知らなかったぜ。力を貸すだけでこの量の始末書かよ。辞書でもできるんじゃねぇか?
矢吹:人には規定違反とか言っておきながら、人のために平気で規定違反を犯す。それが天川冥助、だね。
冥助:ちっともかっこよくねぇし、嬉しくもねぇよ。
矢吹:今回も、大きく出たね。『雑居ビルで不審な死体。右腕を切断されて発見。他殺か。』毎度毎度派手にやるね。おまけに死神の力を一般人に貸すなんて、前代未聞のことだからね。
冥助:あ〜〜〜死ぬ。書くこと多すぎて死ぬ。
明星:頑張りなさいよ、死神。
冥助:お前のせいなんだよ!少しは責任持ちやがれ!
明星:嫌よ!だって、私は頼んでないし?死神が勝手にしてくれたんだし?関係ないし?
矢吹:そうだぞ、冥助。それはお門違いだ。
冥助:こんのぉ〜・・・世の中、情ってもんはねぇのか!こっちは人のために身を削って頑張ったのに!報われねぇじゃねぇか!
明星:感謝はしてるわよ?でも、その仕事は私じゃない。私は、他の仕事ができたから。
冥助:あ?何だよ、他の仕事って。黄泉の国へ早々に行くってか?
明星:もっと大事なこと。これよ。
冥助:お、お前、その封筒どこで・・・?!
明星:さっき近くでもらったの。貴女には素質がある、ですって。だから、私もなるのよ。し・に・が・み。
冥助:・・・・・はぁぁぁ〜〜・・・。
矢吹:どうしたんだ?ため息ついて。そんなに彼女が死神になるのが嫌か?
冥助:ちげぇよ。あの封筒があるってことは、アイツがこっちに来てんだろ?絶対に俺にも用があるはずだ。下手すりゃ殺される。
矢吹:大袈裟な。いい人じゃないか。
明星:そうよ。とっても優しそうな人だったわよ?
冥助:何もねぇヤツからしたらそうだろうよ。こちとら3回やらかしてんだ。ったく、踏んだり蹴ったりだ。
明星:・・・まあでも・・・ありがとう、死神。大暉も助かったし、私もスカッとしたし!・・・これで、心残りは無いわ。
冥助:・・・そうか。
明星:・・・じゃあ、そろそろ行くね。案外そんなに遠くないから、また会いに来るかもね。じゃあね、天川先輩!
冥助:お、おい!先輩なんてやめろ!
明星:あはは!
矢吹:・・・・・・・・行ったか。なかなか台風のような人だったね。・・・どうしたんだい?顔がにやけてるぞ?
冥助:いやぁ〜先輩なんて呼ばれたの、死神になってから初めてだったからよぉ〜。何か、照れるじゃん?
矢吹:そういうのは噂になって、隣町まですぐに届くから、やめたほうがいいぞ?
冥助:や、やめろよ?!変な噂立てんなよ?!
矢吹:さあて、どうしようかな?僕は、情報屋、だからね。じゃあ、仕事に行ってくるよ。またね。
冥助:こら!待ちやがれ!絶対言いふらすだろ!やめろ、おい!
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矢吹:・・・ふぅ。さて、と。
大暉:おい、あんた。
矢吹:ん?ああ。この間の。
大暉:明星は・・・逝ったのか?
矢吹:そうだね。晴れ晴れとした顔で、行ったよ。
大暉:・・・そうか。ありがとう。
矢吹:僕は何もしていない。礼なら、向こうの空き地にするといいよ。この町を守る、死神様がいるからね。
大暉:なぁ、そのことなんだが・・・。
矢吹:・・・どうしたんだい?
大暉:あの死神って・・・この町にいたやつじゃないか?
矢吹:・・・・・・どうして、そう思うんだい?
大暉:似ていたんだ。3年前に事故でなくなった、俺の友だちに。名前はーーーーー矢吹迅斗(やぶきはやと)
矢吹:・・・・・さあ、知らないな。他人の空似じゃないか?
大暉:・・・・・そう、だよな。悪かった。
矢吹:君は、明星さんとの約束を守って、これからの人生を、懸命に生きるんだ。
大暉:ああ。それが、明星との約束だから。
矢吹:ふふっ・・・。それじゃあ、元気で。金大(きんだい)。
大暉:お、おう、また・・・って、え?あ、あれ?いない・・・。今の人、何で、俺の昔のあだ名を・・・?
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矢吹:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。死神事務所。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
矢吹:貴方は、死神に伝えたい本当の思い、ありますか?あるのならば、近くの寂れた空き地を探してみてください。もしかすると死神が、貴方のために力を貸してくれるかもしれませんよ。