台本概要
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タイトル | それでも僕は愛(チョコ)を求む |
---|---|
作者名 | しーたけ (@shiitake8888888) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
【上演許可】無料配信での利用(投げ銭は有料に含みません)に関しては連絡なしで使って頂いて構いません。 よければDMなどでお知らせ頂くと作者の励みになります。 【アドリブ】過度なアドリブ、改変はNGです。語尾などを少し変える等は各自の判断にお任せします。 【性別変更】作中のキャラの性別も変更×。演者様が異なる性別を演じて頂いてもかまいません。 【上演時間】約20分 【男女比】♂1:♀1 【簡単な内容紹介】 20✕✕年。科学技術の発達、人類の少子高齢化による労働者の減少など様々な理由を受け、アンドロイドが人間のすぐ近くで人間の生活、ならびに仕事の補佐をするようになった時代。 ある男が女性型のアンドロイドに声をかける。 「チョコが欲しいんだ」と バレンタイン向けにコメディをと思い書いた作品です。 最終コメディに着地しませんでした。 155 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
セン | 女 | 94 | とある企業で人間の業務を補佐する女性型アンドロイド |
花槙 | 男 | 91 | とある企業に勤めるサラリーマンの男 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:とあるオフィスの給湯室
:
セン:20✕✕年。科学技術の発達、人類の少子高齢化による労働者の減少など様々な理由を受け、私達アンドロイドが人間のすぐ近くで人間の生活、ならびに仕事の補佐をするようになったこの時代。
セン:私はとある企業の営業課で事務作業や雑務を処理する為に配置されたアンドロイドSTK1000。
セン:仕事を共に遂行する人間達からは型番の数字である1000にちなんで『セン』と呼ばれている。
:
:
セン:花槙さん。そこをどいてくれませんか?業務が遂行できません。
セン:(M)部署の同僚達へお茶を用意する様に言われた私が給湯室で準備をしていると彼、花槙さんが狭い給湯室の真ん中に立ち塞がった。
花槙:……。
セン:花槙さん?聞いてらっしゃいますか?そこを……
花槙:センさん。
セン:はい。
花槙:センさんにお願いしたい事があるのですが……
セン:はい、なんでしょう?
花槙:チョコレートが欲しいんだ。
セン:チョコレートは在庫がありません。購入しましょうか?
花槙:え?あ、あぁ。そうしてくれると嬉しい。
セン:どういったチョコレートが宜しいですか?
花槙:え?えーと、受け取った人間が喜ぶような……
セン:受け取った人間が喜ぶ、という事はどなたかへの贈答用のチョコレートという認識で宜しいですか?
花槙:あぁ、それだ!贈答用!
セン:予算はおいくら位でしょうか?
花槙:予算……えーっと3、いや四千円で
セン:かしこまりました。
セン:領収書の名前、内訳の書き方に指定はございますか?
花槙:いや、ない。
セン:では、会社名で、お品代……
花槙:領収書は必要ない!
セン:それでは経費計上できませんし、会社の指定口座で決済する事ができません。
花槙:いいんだ。金は俺が出すから。
セン:花槙さんの自費で購入するという事でございますね。
花槙:ああ、その通りだ。(以下ボソボソと)でも、そこはあまり確認して欲しくないというか……。
セン:音声が認識できません。もう一度お願いします。
花槙:いや、一人言だから今のはいいんだ。
セン:わかりました。
セン:では購入の際の決済方法はいかが致しましょう?
花槙:これで。(お札を渡す)
セン:現金ですとネット購入ができません。
花槙:ネットで購入するつもりでいたのか?
セン:はい。今発注すれば明日には届きますので。
花槙:発注だなんて業務的な言い方はやめてくれ。
セン:これは業務に関わる発注ではないのですか?
花槙:ん?その質問はどういう事?
セン:どちらかの会社への手土産ではないのでしょうか?
花槙:違う!そういうのじゃなくて。
セン:業務ではないのなら私の関する所ではありません。それでは、失礼致します。
花槙:ま、待って!話を聞いてくれ!
セン:はい。お伺いします。
花槙:業務ではないけど、君がそれを用意してくれないと俺の仕事のパフォーマンスが下がるんだよ!
セン:チョコレートを用意しないと仕事のパフォーマンスが下がる。
セン:つまり栄養補給ですね。栄養補給であればチョコレートより効率的な物のご用意があります。
セン:お席でお待ち頂ければ……
花槙:(被せて)そうじゃなくて!!
セン:はい?
花槙:お腹が空いたから仕事に集中力できないとかそういうのじゃないんだよ!!
セン:ではなんでしょう?
花槙:気持ち!気持ちの問題なの。俺はチョコレートを貰える男なんだっていう。
セン:おっしゃっている意味が分かりません。
セン:そもそも花槙さんのお金で購入したチョコレートを花槙さんが受けとるので貰っているという表現は……
花槙:(被せて)いいから!そこはあまり考えないようにしてるんだからあまり言わないで!
花槙:君が僕にチョコを渡してくれた。ただその事実だけが、じゅ、重要なー、あれだから!
セン:私から花槙さんにチョコレートを渡す事が?
花槙:そう。重要なんだ。
セン:本当に私が花槙さんにチョコレートをお渡しすれば花槙さんの仕事の効率が上がるのですね?
花槙:あぁ、約束する!
:
:
セン:(M)人間というのは不思議で、私にはまだ理解が及ばない点がある。
セン:(M)参考資料データとしてインストールされている文献にも『理屈じゃないのさ』という言葉が出てきた。その言葉の存在を認識は出来ても、私には理解が出来ない。
セン:(M)私は『セン』。人間を補佐するアンドロイドだ。
:
0:翌日、同オフィス
:
セン:花槙さん。
花槙:(ここだけ少しカッコつけて)あ、センさん。どうしたの?
セン:昨日花槙さんに言われたチョコレートを購入して来ました。
花槙:チョコレートを?
セン:はい。チョコレートです。
花槙:……
セン:あの、花槙さん。お受け取り下さい。
花槙:違う……
セン:違う?
花槙:違うんだ!センさん!!
セン:おっしゃっている意味がわかりません。花槙さんから指定されたチョコレートを購入して来ました。
花槙:そうだね。そうなんだけどさ……
セン:お受け取り下さい。
花槙:そこなんだよ!
セン:……?
花槙:渡し方があるじゃないか!
セン:渡し方?
花槙:そうだよ、もっとこう……例えば仕事帰りの僕を呼び止めて僕を給湯室まで連れていって人目を忍びながらとか
セン:仕事帰りにお渡ししては仕事の効率が上がるタイミングが勤務時間外になります。
セン:午前の業務の際、従来の花槙さんの業務進行速度は1900年代のインターネットの処理速度の様に低速でした。
セン:それがこのチョコレートをお渡しする事で処理速度がギガにいやテラレベルの速度でお仕事が捗る。そうに違いない。なので私の演算ではこのタイミングがベストです。
花槙:凄く辛辣なのはなんでなの?
セン:はい?
花槙:いや、そんな事はいい。
セン:それでは、チョコレートをお受取り下さい。
花槙:イヤだ。
セン:チョコレートは要らないという事ですか?
花槙:いや、チョコは欲しい!
花槙:チョコは、欲しいんだ、でも……
セン:ハッキリおっしゃって下さい。私はその様な人間の機微を察知及び理解をする事を得意としません。
花槙:なんて言うのかな、タイミング…というか
セン:チョコレートを食べるタイミングであれば花槙さんのご自由になされば良いと思います。今受け取って下されば、あとは花槙さんのお好きな様にして下さい。
花槙:食べるタイミングじゃなくて、受け取るタイミング!!
花槙:受け取る時の気分次第で今後の僕のやる気が、パフォーマンス力があがるがどうかが変わるんだ!
セン:気分次第?
花槙:そう、気分次第!
セン:私には理解できません。
花槙:なんで分からないかな……
:
セン:分かりません。
セン:花槙さんは昨日、チョコレートをお渡しすれば仕事のパフォーマンスがあがると仰られてましたよね?
花槙:あぁ、言った。
セン:チョコレートが欲しいとお伺いしたので、私は昨日、時間外に購入しに行きました。
セン:ご所望されていた通りのチョコではありませんでしたか?
花槙:い、いや、チョコは言っていた通りのヤツだけど
セン:ではやはり『渡し方』が良くない、と?
花槙:そうだよ!こんな機械的なやり取りじゃ、僕のやる気なんてあがらないよっ!!
セン:機械的……
花槙:そう、機械的!
花槙:僕が言った通りのチョコレートを買ってきて、ただ渡して来ただけ!
花槙:こんな渡し方で僕のパフォーマンスがあがるなんて君は思ったのかい?
セン:……
花槙:僕が君に求める渡し方を君は考えようともしなかったんだろう?
花槙:何にでも効率を求めようとするけど、僕には、僕らには無理なんだよ!
花槙:人間だからね!
花槙:人間は小さなほんの少しの心遣いを感じただけで嬉しくなって、仕事を普段以上に頑張れたりするんだ。
花槙:センさんは僕達人間が効率的に働くための補佐をしてくれるアンドロイドだろ?
セン:……はい。
花槙:なら僕らがモチベーションをあげられる様に細かな所にも気がつかえて然るべきだろう。
セン:それ……は……
花槙:なに?センさんこそハッキリ言ってくれないと僕にはわからないよ。
セン:……
花槙:……?センさん?
セン:わかりません。アンドロイドの私には機械的だと言われるこの渡し方以外にどの様に花槙さんにこのチョコレートをお渡しすれば良いのか
花槙:あ……
セン:そもそも私はアンドロイドなのです!渡し方のやり取りが機械的も何も私自信が人間に作られた機械なのです!
セン:私には、これ以上どの様にして良いのかわかりません!!私には……!!
花槙:センさん……?
セン:……
花槙:どうしたの、センさん?
セン:エラーコードK038……
花槙:センさん?センさん!
セン:エラーコードK038
:
:
:
場面3:とある部屋
:
セン:STK1000、起動します。
花槙:あっ……
セン:アナタは……花槙さん?
花槙:あぁ、センさん!僕だよ、花槙だよ。分かるかい?
セン:はい、花槙さん。花槙さんは少しお疲れの様です。
花槙:そうかな?
セン:それに少し今日は老けて見えます。
花槙:ははは、久しぶりでもセンさんは僕に厳しいな。
セン:久しぶり……?
セン:花槙さん、ここはどこでしょうか?
セン:会社の私の充電ドックではありません。
花槙:ここは僕の家だよ。
セン:なぜ花槙さんの家に……会社に行きましょう。業務をしなければいけません。
花槙:業務はいいんだ。
セン:おっしゃっている意味がわかりません。
花槙:あの日…
セン:…あの日?
花槙:チョコレートをセンさんが僕に渡そうとしてくれた日、君はエラーコードK038と呟きながらパワーダウンした。
セン:そのエラーコードは、情報処理に何らかのエラーが起こった際の…
花槙:そう。つまり処理落ちして、そのまま君は起動が出来なくなってしまったんだ。
セン:では、私は故障して、再起動できなかったと?
花槙:……あぁ。パーツを点検して、メモリー関連のパーツに異常が起きているのがわかった。
花槙:しかも複雑な故障だったらしくてね。中のメモリーのパーツだけを全て破棄して新しいメモリを移植して業務を継続させよう。そう提案されたんだ。
セン:それはおかしいです。新しいメモリーを移植されたのであれば私は『セン』はここで花槙さんを覚えてはいない筈です。
花槙:そう。君を、『センさん』をあのまま廃棄させるなんて僕は嫌だった、させたくなかった。
花槙:だから僕は会社を辞め、退職金で君を買い取った。
セン:え?
花槙:それから少しずつ勉強して、ようやく君を治す事が出来たんだ。7年もかかってしまったけど…
セン:そんな、効率的ではありません!花槙さんが私を購入し、何年もかけて私を修理するなんて、しかも仕事まで辞めて……
花槙:効率とかそういう事じゃないんだ、違うんだよ、センさん。
花槙:どうしても君に謝りたかったんだ。僕が、僕のココがそうしたいって叫んでたんだ。
セン:胸……
花槙:はは、胸と言うより心かな?
セン:ココロ……
花槙:センさん、ごめんなさい!
セン:え…?
花槙:僕がセンさんに無理なお願いをして、センさんに酷い事を言って……
セン:花槙さん。
花槙:あの日、動かなくなってしまった君を見て、僕は自分が本当に愚かで、バカな事を、本当に酷い言葉で君を傷つけてしまったんだと気付いた。
セン:……
花槙:だから、センさん。本当に、本当に……
セン:いいんです。
花槙:…え?
セン:もういいんです。
花槙:でも……
セン:花槙さん、これは、この謝罪には生産性がありません!
花槙:生産性?
セン:はい。
セン:私は今再び起動できて、こうして花槙さんとお話ができている。それで良いじゃないですか。その事実が大切です。
花槙:センさん……
セン:それより、これからのお話をしましょう。
花槙:これから?
セン:そうです。これからの事を……
花槙:……そう、ですね。
セン:そうです。これからどうしていくのか、何がしたいのか、そう言う事を。
花槙:そうだ!そう言えばセンさんにお願いがあります。
セン:お願い?
花槙:はい。
花槙:そのチョコレートを、僕に下さい!
セン:チョコレート……あ、これは…
花槙:センさんが僕に買って来てくれたチョコレート、あの日、センさんが握り締めたままになっていたので。
セン:でも、これは7年も前のチョコレートですよね?
花槙:はい。
セン:ダメです。そんな物を食べたら、お腹を壊してしまいます。
花槙:良いんです。チョコを貰えた、その事実が大切なので。
セン:なら、今から買って来ます!新しい物を……
花槙:いえ、センさん、そのチョコが欲しいんです。そのチョコを僕に下さい。
セン:でも……
花槙:僕、チョコレートというか甘い物、余り得意じゃなくて、食べる訳じゃないんです。
セン:え?じゃあ、どうして……
花槙:チョコを貰える男だって事が大切なんです!
花槙:……て言うと変ですよね?理解、出来ませんよね?
セン:……変です。
花槙:ははは。
セン:だけど…
花槙:だけど?
セン:今はなんだか少し、理解できます。
花槙:えっ……
セン:花槙さん!受け取ってくれますか?このチョコレート!
花槙:はい!そのチョコを僕に下さい!
0:
0: 完
0:とあるオフィスの給湯室
:
セン:20✕✕年。科学技術の発達、人類の少子高齢化による労働者の減少など様々な理由を受け、私達アンドロイドが人間のすぐ近くで人間の生活、ならびに仕事の補佐をするようになったこの時代。
セン:私はとある企業の営業課で事務作業や雑務を処理する為に配置されたアンドロイドSTK1000。
セン:仕事を共に遂行する人間達からは型番の数字である1000にちなんで『セン』と呼ばれている。
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セン:花槙さん。そこをどいてくれませんか?業務が遂行できません。
セン:(M)部署の同僚達へお茶を用意する様に言われた私が給湯室で準備をしていると彼、花槙さんが狭い給湯室の真ん中に立ち塞がった。
花槙:……。
セン:花槙さん?聞いてらっしゃいますか?そこを……
花槙:センさん。
セン:はい。
花槙:センさんにお願いしたい事があるのですが……
セン:はい、なんでしょう?
花槙:チョコレートが欲しいんだ。
セン:チョコレートは在庫がありません。購入しましょうか?
花槙:え?あ、あぁ。そうしてくれると嬉しい。
セン:どういったチョコレートが宜しいですか?
花槙:え?えーと、受け取った人間が喜ぶような……
セン:受け取った人間が喜ぶ、という事はどなたかへの贈答用のチョコレートという認識で宜しいですか?
花槙:あぁ、それだ!贈答用!
セン:予算はおいくら位でしょうか?
花槙:予算……えーっと3、いや四千円で
セン:かしこまりました。
セン:領収書の名前、内訳の書き方に指定はございますか?
花槙:いや、ない。
セン:では、会社名で、お品代……
花槙:領収書は必要ない!
セン:それでは経費計上できませんし、会社の指定口座で決済する事ができません。
花槙:いいんだ。金は俺が出すから。
セン:花槙さんの自費で購入するという事でございますね。
花槙:ああ、その通りだ。(以下ボソボソと)でも、そこはあまり確認して欲しくないというか……。
セン:音声が認識できません。もう一度お願いします。
花槙:いや、一人言だから今のはいいんだ。
セン:わかりました。
セン:では購入の際の決済方法はいかが致しましょう?
花槙:これで。(お札を渡す)
セン:現金ですとネット購入ができません。
花槙:ネットで購入するつもりでいたのか?
セン:はい。今発注すれば明日には届きますので。
花槙:発注だなんて業務的な言い方はやめてくれ。
セン:これは業務に関わる発注ではないのですか?
花槙:ん?その質問はどういう事?
セン:どちらかの会社への手土産ではないのでしょうか?
花槙:違う!そういうのじゃなくて。
セン:業務ではないのなら私の関する所ではありません。それでは、失礼致します。
花槙:ま、待って!話を聞いてくれ!
セン:はい。お伺いします。
花槙:業務ではないけど、君がそれを用意してくれないと俺の仕事のパフォーマンスが下がるんだよ!
セン:チョコレートを用意しないと仕事のパフォーマンスが下がる。
セン:つまり栄養補給ですね。栄養補給であればチョコレートより効率的な物のご用意があります。
セン:お席でお待ち頂ければ……
花槙:(被せて)そうじゃなくて!!
セン:はい?
花槙:お腹が空いたから仕事に集中力できないとかそういうのじゃないんだよ!!
セン:ではなんでしょう?
花槙:気持ち!気持ちの問題なの。俺はチョコレートを貰える男なんだっていう。
セン:おっしゃっている意味が分かりません。
セン:そもそも花槙さんのお金で購入したチョコレートを花槙さんが受けとるので貰っているという表現は……
花槙:(被せて)いいから!そこはあまり考えないようにしてるんだからあまり言わないで!
花槙:君が僕にチョコを渡してくれた。ただその事実だけが、じゅ、重要なー、あれだから!
セン:私から花槙さんにチョコレートを渡す事が?
花槙:そう。重要なんだ。
セン:本当に私が花槙さんにチョコレートをお渡しすれば花槙さんの仕事の効率が上がるのですね?
花槙:あぁ、約束する!
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セン:(M)人間というのは不思議で、私にはまだ理解が及ばない点がある。
セン:(M)参考資料データとしてインストールされている文献にも『理屈じゃないのさ』という言葉が出てきた。その言葉の存在を認識は出来ても、私には理解が出来ない。
セン:(M)私は『セン』。人間を補佐するアンドロイドだ。
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0:翌日、同オフィス
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セン:花槙さん。
花槙:(ここだけ少しカッコつけて)あ、センさん。どうしたの?
セン:昨日花槙さんに言われたチョコレートを購入して来ました。
花槙:チョコレートを?
セン:はい。チョコレートです。
花槙:……
セン:あの、花槙さん。お受け取り下さい。
花槙:違う……
セン:違う?
花槙:違うんだ!センさん!!
セン:おっしゃっている意味がわかりません。花槙さんから指定されたチョコレートを購入して来ました。
花槙:そうだね。そうなんだけどさ……
セン:お受け取り下さい。
花槙:そこなんだよ!
セン:……?
花槙:渡し方があるじゃないか!
セン:渡し方?
花槙:そうだよ、もっとこう……例えば仕事帰りの僕を呼び止めて僕を給湯室まで連れていって人目を忍びながらとか
セン:仕事帰りにお渡ししては仕事の効率が上がるタイミングが勤務時間外になります。
セン:午前の業務の際、従来の花槙さんの業務進行速度は1900年代のインターネットの処理速度の様に低速でした。
セン:それがこのチョコレートをお渡しする事で処理速度がギガにいやテラレベルの速度でお仕事が捗る。そうに違いない。なので私の演算ではこのタイミングがベストです。
花槙:凄く辛辣なのはなんでなの?
セン:はい?
花槙:いや、そんな事はいい。
セン:それでは、チョコレートをお受取り下さい。
花槙:イヤだ。
セン:チョコレートは要らないという事ですか?
花槙:いや、チョコは欲しい!
花槙:チョコは、欲しいんだ、でも……
セン:ハッキリおっしゃって下さい。私はその様な人間の機微を察知及び理解をする事を得意としません。
花槙:なんて言うのかな、タイミング…というか
セン:チョコレートを食べるタイミングであれば花槙さんのご自由になされば良いと思います。今受け取って下されば、あとは花槙さんのお好きな様にして下さい。
花槙:食べるタイミングじゃなくて、受け取るタイミング!!
花槙:受け取る時の気分次第で今後の僕のやる気が、パフォーマンス力があがるがどうかが変わるんだ!
セン:気分次第?
花槙:そう、気分次第!
セン:私には理解できません。
花槙:なんで分からないかな……
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セン:分かりません。
セン:花槙さんは昨日、チョコレートをお渡しすれば仕事のパフォーマンスがあがると仰られてましたよね?
花槙:あぁ、言った。
セン:チョコレートが欲しいとお伺いしたので、私は昨日、時間外に購入しに行きました。
セン:ご所望されていた通りのチョコではありませんでしたか?
花槙:い、いや、チョコは言っていた通りのヤツだけど
セン:ではやはり『渡し方』が良くない、と?
花槙:そうだよ!こんな機械的なやり取りじゃ、僕のやる気なんてあがらないよっ!!
セン:機械的……
花槙:そう、機械的!
花槙:僕が言った通りのチョコレートを買ってきて、ただ渡して来ただけ!
花槙:こんな渡し方で僕のパフォーマンスがあがるなんて君は思ったのかい?
セン:……
花槙:僕が君に求める渡し方を君は考えようともしなかったんだろう?
花槙:何にでも効率を求めようとするけど、僕には、僕らには無理なんだよ!
花槙:人間だからね!
花槙:人間は小さなほんの少しの心遣いを感じただけで嬉しくなって、仕事を普段以上に頑張れたりするんだ。
花槙:センさんは僕達人間が効率的に働くための補佐をしてくれるアンドロイドだろ?
セン:……はい。
花槙:なら僕らがモチベーションをあげられる様に細かな所にも気がつかえて然るべきだろう。
セン:それ……は……
花槙:なに?センさんこそハッキリ言ってくれないと僕にはわからないよ。
セン:……
花槙:……?センさん?
セン:わかりません。アンドロイドの私には機械的だと言われるこの渡し方以外にどの様に花槙さんにこのチョコレートをお渡しすれば良いのか
花槙:あ……
セン:そもそも私はアンドロイドなのです!渡し方のやり取りが機械的も何も私自信が人間に作られた機械なのです!
セン:私には、これ以上どの様にして良いのかわかりません!!私には……!!
花槙:センさん……?
セン:……
花槙:どうしたの、センさん?
セン:エラーコードK038……
花槙:センさん?センさん!
セン:エラーコードK038
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場面3:とある部屋
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セン:STK1000、起動します。
花槙:あっ……
セン:アナタは……花槙さん?
花槙:あぁ、センさん!僕だよ、花槙だよ。分かるかい?
セン:はい、花槙さん。花槙さんは少しお疲れの様です。
花槙:そうかな?
セン:それに少し今日は老けて見えます。
花槙:ははは、久しぶりでもセンさんは僕に厳しいな。
セン:久しぶり……?
セン:花槙さん、ここはどこでしょうか?
セン:会社の私の充電ドックではありません。
花槙:ここは僕の家だよ。
セン:なぜ花槙さんの家に……会社に行きましょう。業務をしなければいけません。
花槙:業務はいいんだ。
セン:おっしゃっている意味がわかりません。
花槙:あの日…
セン:…あの日?
花槙:チョコレートをセンさんが僕に渡そうとしてくれた日、君はエラーコードK038と呟きながらパワーダウンした。
セン:そのエラーコードは、情報処理に何らかのエラーが起こった際の…
花槙:そう。つまり処理落ちして、そのまま君は起動が出来なくなってしまったんだ。
セン:では、私は故障して、再起動できなかったと?
花槙:……あぁ。パーツを点検して、メモリー関連のパーツに異常が起きているのがわかった。
花槙:しかも複雑な故障だったらしくてね。中のメモリーのパーツだけを全て破棄して新しいメモリを移植して業務を継続させよう。そう提案されたんだ。
セン:それはおかしいです。新しいメモリーを移植されたのであれば私は『セン』はここで花槙さんを覚えてはいない筈です。
花槙:そう。君を、『センさん』をあのまま廃棄させるなんて僕は嫌だった、させたくなかった。
花槙:だから僕は会社を辞め、退職金で君を買い取った。
セン:え?
花槙:それから少しずつ勉強して、ようやく君を治す事が出来たんだ。7年もかかってしまったけど…
セン:そんな、効率的ではありません!花槙さんが私を購入し、何年もかけて私を修理するなんて、しかも仕事まで辞めて……
花槙:効率とかそういう事じゃないんだ、違うんだよ、センさん。
花槙:どうしても君に謝りたかったんだ。僕が、僕のココがそうしたいって叫んでたんだ。
セン:胸……
花槙:はは、胸と言うより心かな?
セン:ココロ……
花槙:センさん、ごめんなさい!
セン:え…?
花槙:僕がセンさんに無理なお願いをして、センさんに酷い事を言って……
セン:花槙さん。
花槙:あの日、動かなくなってしまった君を見て、僕は自分が本当に愚かで、バカな事を、本当に酷い言葉で君を傷つけてしまったんだと気付いた。
セン:……
花槙:だから、センさん。本当に、本当に……
セン:いいんです。
花槙:…え?
セン:もういいんです。
花槙:でも……
セン:花槙さん、これは、この謝罪には生産性がありません!
花槙:生産性?
セン:はい。
セン:私は今再び起動できて、こうして花槙さんとお話ができている。それで良いじゃないですか。その事実が大切です。
花槙:センさん……
セン:それより、これからのお話をしましょう。
花槙:これから?
セン:そうです。これからの事を……
花槙:……そう、ですね。
セン:そうです。これからどうしていくのか、何がしたいのか、そう言う事を。
花槙:そうだ!そう言えばセンさんにお願いがあります。
セン:お願い?
花槙:はい。
花槙:そのチョコレートを、僕に下さい!
セン:チョコレート……あ、これは…
花槙:センさんが僕に買って来てくれたチョコレート、あの日、センさんが握り締めたままになっていたので。
セン:でも、これは7年も前のチョコレートですよね?
花槙:はい。
セン:ダメです。そんな物を食べたら、お腹を壊してしまいます。
花槙:良いんです。チョコを貰えた、その事実が大切なので。
セン:なら、今から買って来ます!新しい物を……
花槙:いえ、センさん、そのチョコが欲しいんです。そのチョコを僕に下さい。
セン:でも……
花槙:僕、チョコレートというか甘い物、余り得意じゃなくて、食べる訳じゃないんです。
セン:え?じゃあ、どうして……
花槙:チョコを貰える男だって事が大切なんです!
花槙:……て言うと変ですよね?理解、出来ませんよね?
セン:……変です。
花槙:ははは。
セン:だけど…
花槙:だけど?
セン:今はなんだか少し、理解できます。
花槙:えっ……
セン:花槙さん!受け取ってくれますか?このチョコレート!
花槙:はい!そのチョコを僕に下さい!
0:
0: 完