台本概要
547 views
タイトル | なぜ科 |
---|---|
作者名 | マト (@matoboikone) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 4人用台本(不問4) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
お腹が痛い中尾が入った病院は、内科ではなく「なぜ科」だった。免許がない?ワンドリンク制?赤ちゃんはどこからやってくるの?!具体的な説明も特にされないまま、何故か勝手に診察が進んでいく…! ※役の性別設定は中尾(男)医者(男)ナース(女)小継(男)として作りましたが、表示の通り不問です。一人称等もご自由に変更してください。 547 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
中尾 | 不問 | 93 | (ナカオ)患者っぽい人。お腹が痛いらしい。 |
医者 | 不問 | 65 | 医者っぽい人。賢そう。 |
ナース | 不問 | 33 | ナースっぽい人。雑マニュアルアルバイター。 |
小継 | 不問 | 45 | (オツギ)お次の患者様。物腰柔らかだが不思議な圧がある。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:病院らしき待合室。お腹を抱えた中尾が長椅子に座っている。
中尾:あー…いてぇ…。
ナース:1名でお待ちの中尾さん、診察室へお入りください。
中尾:……はーい。
0:お腹を抱えたまま診察室に入る。
医者:こんにちは、中尾さん。
中尾:ちは…っす、よろしくお願いします。
ナース:荷物はこちらのカゴに入れてください。
中尾:…ありがとうございます。
医者:さ、こちらにかけて。
医者:今日はどうされました?
中尾:えーっと、昨日の夜、くらいからかな……ずっとお腹が痛くて。
0:間。
医者:お腹が、痛いんですか?
中尾:?……はい、えっと、左側の下の方……なんですけど。
医者:(ナースに)中尾さんはお腹が痛いんですか。
ナース:はい、受付でもそうおっしゃられてまして。
医者:ダメじゃない、ちゃんと言ってあげないと。
ナース:はぁ、でも私受け付けるのが仕事なので。
医者:受付は受け付けるだけが仕事じゃないって何回も言ってるでしょ。
ナース:はぁ、でもマニュアルに書いてませんし。
医者:書いてあるでしょ、お腹が痛いという方には向かいの内科をご案内してって。
ナース:それ、ひょっとして12巻以降に書いてるやつですか?
医者:そうだよ。書いてあっただろう。
ナース:はぁ、すみません。まだ読めてないです。
0:(以下、医者、中尾に遮られるまで続ける。中尾、医者のセリフを途中で止める。ナース、適当に相槌をうつ。)
医者:しっかりしてくれよ。もう、だいたい君はね、新人だからって甘えすぎなんだよ。僕がどんな気持ちで君のためだけに全36巻のマニュアルを書き上げたと思ってるんだい。君がことあるごとに『この業務にマニュアルはないんですかぁ?』って聞くから、ドアの開け方から電気の付け方から水の出し方まで懇切丁寧に、しかも写真付きでマニュアルを書いたんじゃないか。はぁ……僕だってね、別に100%でやってくれって言ってるわけじゃないんだよ。50%でいいんだよ?中の中くらいでいいんだから。ホントの病院じゃああるまいし。さらーっと、ぱらぱらーっと、36巻読んで、こんな感じだった気がするなぁ、くらいでいいんだよ。まだ12巻って。マニュアルは全部読む、っているマニュアルを付け足さないとだめかい?え?そんなことしてたらマニュアルのサグラダファミリアになっちゃうよ。知ってるかい?サグラダファミリア……、
中尾:(言いきらないうちに遮る)あの!ちょっといいですか!
医者:はい?
中尾:ここ内科じゃないんですか?
医者:違いますよ。
中尾:(ナースに)なんで言ってくれなかったんですか?
ナース:ゴメンネ。
中尾:ゴメンネ?!
医者:まぁまぁ、うちもラッパのマークのやつくらい出せますから。
中尾:うちの実家でも出せますよ……。
医者:(ナースに)ほら早く。
ナース:あ、はい、ただいまお持ちいたします。
医者:いやーすいませんね、よく間違えられるんですよ。内科、向かいにあるもんで。
ナース:薬と水、お持ちしました。
中尾:ええ?はい…(とりあえず受けとって)今飲むんですか?
医者:お腹痛いんですよね?
中尾:そうですけど……。
0:怪しんで一応匂いを嗅ぐ中尾。紛れもなくラッパのマークのやつの匂いがするのでとりあえず飲む。
医者:ま、すぐに効くでしょ。
0:中尾、そそくさとイスから腰を上げつつ。
中尾:…えっと、それでは、失礼します……。
医者:えっ?!待って待って、まだこれからだよ!
中尾:何がですか?
医者:そう急ぐな若者よ。
医者:ワンドリンク15分制なんだからもったいないだろう。
中尾:(水の入っていたコップを見て)ワンドリンク??
医者:そうワンドリンク!
ナース:薬はサービスになります。
中尾:薬がサービス…??
中尾:…ここ何科なんですか?
医者:ナニ科じゃないですよ。やだな。
中尾:いや、えっと、そうじゃなくて、
医者:ああ失敬。ここはなぜ科です。
中尾:ナゼカ?
医者:なぜ科。えぬ、えー、ぜっと、いー。科!
中尾:ええ…?め、免許とかあるんですか?
医者:もちろんない。
中尾:もちろんないんですか。
医者:それは何故か?
中尾:いや知りませんよ…。
医者:違う違う、そうやって聞くんだよ。ここでは。
医者:ほら聞いてみて。
医者:「それは何故か?」って。
中尾:え、ええ…。
0:中尾、やたらと進みが遅く感じる時計をちらっと見てから。
中尾:(ため息)…なぜ科の医者には、免許がない…それは何故か?
ナース:それは、そもそも医者ではないからです。
中尾:えっ。
医者:いいねえその調子!
中尾:じゃあ何で白衣着てるんですか?
医者:違う違う。何回も言わせないでよ。な、ぜ、か。
中尾:う、…貴方が、白衣を着ているのは、何故か?
医者:それは、趣味だからです。
中尾:(ナースっぽい人に向けて)貴方がナースっぽい服を着ているのは何故か。
ナース:雇い主の、趣味だからです。
中尾:ああなるほど…、帰ります。
医者:まぁまぁ待ちなさいって。
0:医者、立ち上がりかけた中尾の肩を押えて座らせる。
中尾:いや…内科に行かせてくださいよ…。
医者:あれ?まだお腹痛いかな?
中尾:そんなにすぐ効くわけ…、
0:そう言われると痛くないが、それはそれで複雑な心境の中尾。
中尾:効いてるなぁ……。
医者:いいじゃない、どうせ暇でしょ。あと10分くらいだって。
中尾:いやもう、クソつまんない会話するんでしょ10分。病院っぽい雰囲気の何でもない部屋で10分。趣味でコスプレしてる怪しい男女と10分?もっと有意義な使い方があるんですよ俺の10分!5分返せ!
医者:いや5分に関してはすまない。しかし君の質問も悪いと思わないかね?
中尾:はあ?
医者:質問にも、いい質問とわるい質問があるだろう。
医者:ここへ来る人たちは、いい質問を用意してやってくるんだよ。
医者:(ナースに)それは何故か?
ナース:それは、皆さんがここでの会話を楽しみにされているからです。
中尾:はあ…。
医者:中尾さんも幼いころに経験したことがあるはずだよ。
医者:自分の知らないことが世界にはたくさん満ち溢れている。そのことに気が付きはじめる頃の経験だ。身近な大人に、「なぜ?どうして?」と延々と聞いたことがあるだろう。
ナース:「空はなぜ青いの?」
ナース:「鳥はなぜ飛ぶの?」
ナース:「風はなぜふくの?」
医者:…思っているよりも大人は答えを知らなくて、がっかりしてしまったりね。
ナース:「赤ちゃんは、どこからやってくるの?」
医者:「コウノトリさんが運んでくるんだよ」…なんて、あいまいな意味のわからない答えで丸め込まれたりもする。
医者:ここは、あの頃のそうした探求心を、大人になった今の自分でまた経験したいという人がやってくるところなんだよ。
中尾:…わかるような、わかりたくないような…。すっっっごい少ない需要がありそうなのは理解できました…。
医者:理解してもらえてよかった。
0:受付の方から呼び鈴が聴こえてくる。
医者:おや、誰か来たんじゃないか。
ナース:受け付けてきます。
0:ナース、受付へ向かう。
中尾:じゃあ俺もう帰りますよ。次の人が来たんですよね。
ナース:小継(おつぎ)様、診察室にお入りでーす。
中尾:えっ。
小継:どうもぉ。
中尾:なんで診察室に2人通すの?!
医者:まあここ病院じゃないんで。
中尾:あぁそうだった!
0:慣れているように隣の椅子へ腰かける小継。
小継:どーもどーも。
医者:どうもどうも。
中尾:ど、どうも…。
小継:(中尾を見て)今日はクロスパですか?
医者:それがいいですね!クロスパにしましょう!
医者:小継さん、こちらの中尾さんは初めてなのでよろしくお願いしますね。
小継:ああ、任せてください。
医者:それではごゆっくり。
0:ささっと奥の部屋へ姿を消す医者。
中尾:どこ行くんですか?!!
小継:落ち着きなって。クロスパだよ。
中尾:クロスパって何ですか!
小継:なぜか?
中尾:はあ?!
小継:な・ぜ・か?
0:ほらどうぞ、と手でジェスチャーする小継。
中尾:…うわ出た、…めんどくさ…。
0:パンパン、と手を叩いて促す小継。
中尾:(渋々)……、突然医者がいなくなったのは何故か?
小継:それは、クロスパを行う上で外野は邪魔だからです。
中尾:クロスパとは、何か?
小継:あー…、クロススパーリング。患者同士でお互いを探求しあうことをいうの。君、本当に初心者なんだね。
中尾:すみません…。
小継:謝らなくていいよ。それじゃあ僕からはじめるね。……あなたは何も知らないのにここへやってきた。何故か?
中尾:…それは、内科と勘違いしてここへ来たからです。
小継:ふむ、内科と勘違いしたのは、何故か?
中尾:お腹が痛くてふらついていたんで…看板をきちんと見てなかったんだと思います…。
小継:思います?
中尾:あ、え、…み、見てなかったからです!
小継:なるほど。
中尾:(ひとり言)なんだこの圧迫感。
小継:部屋着のような恰好をしてますね。それは何故か。
中尾:ああ、そういえば。部屋着のまま出てきたからです。
小継:髪型も整っていない。何故か。
中尾:それくらいお腹が痛かったんです。早く病院に来たくて。
小継:そのわりに、今はお腹平気そうですね。何故か?
中尾:さっき薬をいただいたので、…よく効いてます。
小継:目の下にクマができていますね。何故か?
中尾:しばらく…眠れない日が続いているからだとおも、……からです。
小継:しばらく眠れていないのは、何故か?
中尾:最近悩み事が多くて。
小継:最近あなたに悩み事が多いのは、何故か。
中尾:え……っと、………。
小継:あ、ごめんね。今のはイエローかな。
中尾:イエロー?
小継:イエロー、相手が困るほど踏み込んだ質問をすることね。
中尾:そういうとこは配慮されてるんですね。
小継:ちなみに単純に答えが思い浮かばなかった場合はレッド、即刻退場。
中尾:厳しいところは厳しいんですね?
小継:ルールらしいルールはそれくらいだからさ。じゃあ次は君の番。
中尾:えっと、もうそろそろ俺、時間終わりじゃないかな~なんて…。
ナース:あと5分です。
中尾:いたんかい。
ナース:はい、制限時間が経過するまでは絶対に患者を逃がすなとマニュアルに書いてあるので。
中尾:なんか怖いこと言ってる。
中尾:ねえ、外野はいちゃいけないんじゃないの?
ナース:クロスパ中は、気配を完全に消す特殊訓練を受けているので、お気になさらず。
中尾:暗殺でもするの?
小継:ナースちゃんはそういうもんなの。
中尾:そういうもんかぁ…。
小継:ちょっと、集中しなよ。ナースちゃんに話しかけたい気持ちはわかるけどさあ。
中尾:いやそういうんじゃないって、
ナース:一応、精神安定剤も打てますけど…。
中尾:こわ、素人の注射こっわ。
ナース:たしか、こっちのポケットに……。
0:ナース、服のポケットから注射器の入った袋をちらつかせる。
中尾:ああもうわかりました、やりますやります。え…っと。あなたがここに来るのは、何故か?
小継:普段あまり人と話さないので、会話を楽しみに来ています。
中尾:ああ…。あなたはリュックを背負ったままですね。それは何故か。
小継:それは、中身を人に見られたくないからです。
中尾:…中身を見られたくない?何故か。
小継:イエロー。
中尾:あ、すみません。じゃあ……あなたは、全身暗い色の服を着ていますね。何故か。
小継:目立たないようにするために、そういう色の服をあえて着ています。
中尾:あなたは目立たない色の服をあえて着ている。何故か。
小継:人に姿を覚えられると、仕事に支障がでるからです。
中尾:?…姿を覚えられると、仕事に支障がでるのは何故か?
小継:足がつくと、困る仕事をしているからです。
中尾:え、…それって…。(ナースに目配せ)
ナース:(時計をじっと見つめたまま気配を消している。)
小継:続けてください?
中尾:…、そんなことを俺に話すのは、何故か。
小継:それは、あなたに話しても支障がないからです。
中尾:…俺に話をしても、支障がないのは、何故か。
小継:それは…あなたは今、ここで死ぬからです。
0:間。
中尾:は、はは、冗談でしょ?
小継:はは、よく言うじゃないですか。好奇心は猫をも殺すって。ナースちゃん押えといて。
ナース:はーい。
0:ナース、後ろから中尾を羽交い絞めにする。信じられないほど力強く振りほどけない。小継がリュックを下すととても重そうな音がする。
中尾:っ、やめろ!何するんだよ!
小継:違うでしょ。な・ぜ・か。
ナース:な・ぜ・か。
中尾:あ…えっと、俺が死ぬのは(なぜか?)…って、ふざけんな!なんだよこれ!
小継:可哀そうに!間違えてこんなところに来るなんてね。中尾さんだっけ。呪うなら、自分の不運を呪うといいよ。
0:小継、リュックの中を吟味し始める。
小継:せめて楽に死なせてあげるには…と。
0:いつのまにか医者、小継の後ろでにこにことしている。
医者:あれ、小継さん。もう言っちゃったの?
中尾:お前らグルか!?ふざけやがって!!
医者:わぁ怖い怖い。それを押えてる君も怖い。
ナース:光栄です。
中尾:くそっ、変だと思ってたんだこんなの!!
小継:ああ、あったあった。これにしよう。なんだと思う?
0:後ろ手に何かをもって近づいてくる小継。
中尾:知るかよ!なんで俺なんだよ!!!
小継:知らない?こういうのはね、誰でもいいんだよ。
中尾:いやだ……来るな…っ、うわああああ!!!
0:ポン、とクラッカーの破裂音。少し煙の臭いもする。目の前にいる小継の手元の筒から、色とりどりの細長い紙たばがあふれている。
小継:はーい、ドッキリでしたー!
医者:大成功!
中尾:へ、…ふぇ……?
0:腰が抜けて座り込む中尾。
小継:あはは、ごめんごめん。やりすぎたね。
医者:小継さんはうまいからねぇ、こういうの。
小継:いやいや、ナースちゃんの雰囲気づくりもいいんですよ。注射器なんかちらつかせちゃって。
ナース:いえいえそれほどでも。
医者:どうだった?中尾さん。なぜ科初診スペシャルサービスドッキリ!
中尾:は、…はは……あはははは…。
医者:楽しんでもらえたかな?ん?大抵は途中でばれちゃってうまくいかないんだけどねぇ。中尾さんもいい顔してたよ。動画に撮っとけばよかった。
ナース:私、アフターのワンドリンク持ってきますね。
医者:うん、お願いね。
医者:いやでも、たまたま間違えて入ったところで、しかも初対面の人に、訳も分からないまま殺されそうになるなんて、たまったもんじゃないよねぇ!
中尾:…ほんと、そうですよ……。はは、ほんと、そうですよね………!
医者:立てるかい?ほら、ナースがドリンクを持ってきてくれるから。椅子に座って。
中尾:ああ…すいません、俺もう帰ります。もうやめやめ、やーめた…くだらない…。
医者:?…あ、大丈夫だよ。ワンドリンクでもうあと15分!なんて言わないからさ。一息くらいつきなよ。
中尾:そうじゃないんです。もう、よくなったんです。
医者:ん?…んん、よくなったのなら、よかったけど…?
中尾:はい…、ありがとうございました。
0:出口から出ていこうとする中尾。
医者:待って待って中尾さん、荷物!
中尾:ああ、…あげます。それ、もらってください。
中尾、そのまま帰ってしまう。
医者:もらってくださいって…。
小継:何でしょうね。普通のナップサックですけど。
医者:中身、は…。
小継:あ……。
0:カバンの口を広げてのぞき込む。2人、固まる。ナースがドリンクを持ってやってきて、一緒にのぞき込む。
ナース:お待たせしました、……どうしたんですか?
ナース:……あら、包丁。
終わり。
0:病院らしき待合室。お腹を抱えた中尾が長椅子に座っている。
中尾:あー…いてぇ…。
ナース:1名でお待ちの中尾さん、診察室へお入りください。
中尾:……はーい。
0:お腹を抱えたまま診察室に入る。
医者:こんにちは、中尾さん。
中尾:ちは…っす、よろしくお願いします。
ナース:荷物はこちらのカゴに入れてください。
中尾:…ありがとうございます。
医者:さ、こちらにかけて。
医者:今日はどうされました?
中尾:えーっと、昨日の夜、くらいからかな……ずっとお腹が痛くて。
0:間。
医者:お腹が、痛いんですか?
中尾:?……はい、えっと、左側の下の方……なんですけど。
医者:(ナースに)中尾さんはお腹が痛いんですか。
ナース:はい、受付でもそうおっしゃられてまして。
医者:ダメじゃない、ちゃんと言ってあげないと。
ナース:はぁ、でも私受け付けるのが仕事なので。
医者:受付は受け付けるだけが仕事じゃないって何回も言ってるでしょ。
ナース:はぁ、でもマニュアルに書いてませんし。
医者:書いてあるでしょ、お腹が痛いという方には向かいの内科をご案内してって。
ナース:それ、ひょっとして12巻以降に書いてるやつですか?
医者:そうだよ。書いてあっただろう。
ナース:はぁ、すみません。まだ読めてないです。
0:(以下、医者、中尾に遮られるまで続ける。中尾、医者のセリフを途中で止める。ナース、適当に相槌をうつ。)
医者:しっかりしてくれよ。もう、だいたい君はね、新人だからって甘えすぎなんだよ。僕がどんな気持ちで君のためだけに全36巻のマニュアルを書き上げたと思ってるんだい。君がことあるごとに『この業務にマニュアルはないんですかぁ?』って聞くから、ドアの開け方から電気の付け方から水の出し方まで懇切丁寧に、しかも写真付きでマニュアルを書いたんじゃないか。はぁ……僕だってね、別に100%でやってくれって言ってるわけじゃないんだよ。50%でいいんだよ?中の中くらいでいいんだから。ホントの病院じゃああるまいし。さらーっと、ぱらぱらーっと、36巻読んで、こんな感じだった気がするなぁ、くらいでいいんだよ。まだ12巻って。マニュアルは全部読む、っているマニュアルを付け足さないとだめかい?え?そんなことしてたらマニュアルのサグラダファミリアになっちゃうよ。知ってるかい?サグラダファミリア……、
中尾:(言いきらないうちに遮る)あの!ちょっといいですか!
医者:はい?
中尾:ここ内科じゃないんですか?
医者:違いますよ。
中尾:(ナースに)なんで言ってくれなかったんですか?
ナース:ゴメンネ。
中尾:ゴメンネ?!
医者:まぁまぁ、うちもラッパのマークのやつくらい出せますから。
中尾:うちの実家でも出せますよ……。
医者:(ナースに)ほら早く。
ナース:あ、はい、ただいまお持ちいたします。
医者:いやーすいませんね、よく間違えられるんですよ。内科、向かいにあるもんで。
ナース:薬と水、お持ちしました。
中尾:ええ?はい…(とりあえず受けとって)今飲むんですか?
医者:お腹痛いんですよね?
中尾:そうですけど……。
0:怪しんで一応匂いを嗅ぐ中尾。紛れもなくラッパのマークのやつの匂いがするのでとりあえず飲む。
医者:ま、すぐに効くでしょ。
0:中尾、そそくさとイスから腰を上げつつ。
中尾:…えっと、それでは、失礼します……。
医者:えっ?!待って待って、まだこれからだよ!
中尾:何がですか?
医者:そう急ぐな若者よ。
医者:ワンドリンク15分制なんだからもったいないだろう。
中尾:(水の入っていたコップを見て)ワンドリンク??
医者:そうワンドリンク!
ナース:薬はサービスになります。
中尾:薬がサービス…??
中尾:…ここ何科なんですか?
医者:ナニ科じゃないですよ。やだな。
中尾:いや、えっと、そうじゃなくて、
医者:ああ失敬。ここはなぜ科です。
中尾:ナゼカ?
医者:なぜ科。えぬ、えー、ぜっと、いー。科!
中尾:ええ…?め、免許とかあるんですか?
医者:もちろんない。
中尾:もちろんないんですか。
医者:それは何故か?
中尾:いや知りませんよ…。
医者:違う違う、そうやって聞くんだよ。ここでは。
医者:ほら聞いてみて。
医者:「それは何故か?」って。
中尾:え、ええ…。
0:中尾、やたらと進みが遅く感じる時計をちらっと見てから。
中尾:(ため息)…なぜ科の医者には、免許がない…それは何故か?
ナース:それは、そもそも医者ではないからです。
中尾:えっ。
医者:いいねえその調子!
中尾:じゃあ何で白衣着てるんですか?
医者:違う違う。何回も言わせないでよ。な、ぜ、か。
中尾:う、…貴方が、白衣を着ているのは、何故か?
医者:それは、趣味だからです。
中尾:(ナースっぽい人に向けて)貴方がナースっぽい服を着ているのは何故か。
ナース:雇い主の、趣味だからです。
中尾:ああなるほど…、帰ります。
医者:まぁまぁ待ちなさいって。
0:医者、立ち上がりかけた中尾の肩を押えて座らせる。
中尾:いや…内科に行かせてくださいよ…。
医者:あれ?まだお腹痛いかな?
中尾:そんなにすぐ効くわけ…、
0:そう言われると痛くないが、それはそれで複雑な心境の中尾。
中尾:効いてるなぁ……。
医者:いいじゃない、どうせ暇でしょ。あと10分くらいだって。
中尾:いやもう、クソつまんない会話するんでしょ10分。病院っぽい雰囲気の何でもない部屋で10分。趣味でコスプレしてる怪しい男女と10分?もっと有意義な使い方があるんですよ俺の10分!5分返せ!
医者:いや5分に関してはすまない。しかし君の質問も悪いと思わないかね?
中尾:はあ?
医者:質問にも、いい質問とわるい質問があるだろう。
医者:ここへ来る人たちは、いい質問を用意してやってくるんだよ。
医者:(ナースに)それは何故か?
ナース:それは、皆さんがここでの会話を楽しみにされているからです。
中尾:はあ…。
医者:中尾さんも幼いころに経験したことがあるはずだよ。
医者:自分の知らないことが世界にはたくさん満ち溢れている。そのことに気が付きはじめる頃の経験だ。身近な大人に、「なぜ?どうして?」と延々と聞いたことがあるだろう。
ナース:「空はなぜ青いの?」
ナース:「鳥はなぜ飛ぶの?」
ナース:「風はなぜふくの?」
医者:…思っているよりも大人は答えを知らなくて、がっかりしてしまったりね。
ナース:「赤ちゃんは、どこからやってくるの?」
医者:「コウノトリさんが運んでくるんだよ」…なんて、あいまいな意味のわからない答えで丸め込まれたりもする。
医者:ここは、あの頃のそうした探求心を、大人になった今の自分でまた経験したいという人がやってくるところなんだよ。
中尾:…わかるような、わかりたくないような…。すっっっごい少ない需要がありそうなのは理解できました…。
医者:理解してもらえてよかった。
0:受付の方から呼び鈴が聴こえてくる。
医者:おや、誰か来たんじゃないか。
ナース:受け付けてきます。
0:ナース、受付へ向かう。
中尾:じゃあ俺もう帰りますよ。次の人が来たんですよね。
ナース:小継(おつぎ)様、診察室にお入りでーす。
中尾:えっ。
小継:どうもぉ。
中尾:なんで診察室に2人通すの?!
医者:まあここ病院じゃないんで。
中尾:あぁそうだった!
0:慣れているように隣の椅子へ腰かける小継。
小継:どーもどーも。
医者:どうもどうも。
中尾:ど、どうも…。
小継:(中尾を見て)今日はクロスパですか?
医者:それがいいですね!クロスパにしましょう!
医者:小継さん、こちらの中尾さんは初めてなのでよろしくお願いしますね。
小継:ああ、任せてください。
医者:それではごゆっくり。
0:ささっと奥の部屋へ姿を消す医者。
中尾:どこ行くんですか?!!
小継:落ち着きなって。クロスパだよ。
中尾:クロスパって何ですか!
小継:なぜか?
中尾:はあ?!
小継:な・ぜ・か?
0:ほらどうぞ、と手でジェスチャーする小継。
中尾:…うわ出た、…めんどくさ…。
0:パンパン、と手を叩いて促す小継。
中尾:(渋々)……、突然医者がいなくなったのは何故か?
小継:それは、クロスパを行う上で外野は邪魔だからです。
中尾:クロスパとは、何か?
小継:あー…、クロススパーリング。患者同士でお互いを探求しあうことをいうの。君、本当に初心者なんだね。
中尾:すみません…。
小継:謝らなくていいよ。それじゃあ僕からはじめるね。……あなたは何も知らないのにここへやってきた。何故か?
中尾:…それは、内科と勘違いしてここへ来たからです。
小継:ふむ、内科と勘違いしたのは、何故か?
中尾:お腹が痛くてふらついていたんで…看板をきちんと見てなかったんだと思います…。
小継:思います?
中尾:あ、え、…み、見てなかったからです!
小継:なるほど。
中尾:(ひとり言)なんだこの圧迫感。
小継:部屋着のような恰好をしてますね。それは何故か。
中尾:ああ、そういえば。部屋着のまま出てきたからです。
小継:髪型も整っていない。何故か。
中尾:それくらいお腹が痛かったんです。早く病院に来たくて。
小継:そのわりに、今はお腹平気そうですね。何故か?
中尾:さっき薬をいただいたので、…よく効いてます。
小継:目の下にクマができていますね。何故か?
中尾:しばらく…眠れない日が続いているからだとおも、……からです。
小継:しばらく眠れていないのは、何故か?
中尾:最近悩み事が多くて。
小継:最近あなたに悩み事が多いのは、何故か。
中尾:え……っと、………。
小継:あ、ごめんね。今のはイエローかな。
中尾:イエロー?
小継:イエロー、相手が困るほど踏み込んだ質問をすることね。
中尾:そういうとこは配慮されてるんですね。
小継:ちなみに単純に答えが思い浮かばなかった場合はレッド、即刻退場。
中尾:厳しいところは厳しいんですね?
小継:ルールらしいルールはそれくらいだからさ。じゃあ次は君の番。
中尾:えっと、もうそろそろ俺、時間終わりじゃないかな~なんて…。
ナース:あと5分です。
中尾:いたんかい。
ナース:はい、制限時間が経過するまでは絶対に患者を逃がすなとマニュアルに書いてあるので。
中尾:なんか怖いこと言ってる。
中尾:ねえ、外野はいちゃいけないんじゃないの?
ナース:クロスパ中は、気配を完全に消す特殊訓練を受けているので、お気になさらず。
中尾:暗殺でもするの?
小継:ナースちゃんはそういうもんなの。
中尾:そういうもんかぁ…。
小継:ちょっと、集中しなよ。ナースちゃんに話しかけたい気持ちはわかるけどさあ。
中尾:いやそういうんじゃないって、
ナース:一応、精神安定剤も打てますけど…。
中尾:こわ、素人の注射こっわ。
ナース:たしか、こっちのポケットに……。
0:ナース、服のポケットから注射器の入った袋をちらつかせる。
中尾:ああもうわかりました、やりますやります。え…っと。あなたがここに来るのは、何故か?
小継:普段あまり人と話さないので、会話を楽しみに来ています。
中尾:ああ…。あなたはリュックを背負ったままですね。それは何故か。
小継:それは、中身を人に見られたくないからです。
中尾:…中身を見られたくない?何故か。
小継:イエロー。
中尾:あ、すみません。じゃあ……あなたは、全身暗い色の服を着ていますね。何故か。
小継:目立たないようにするために、そういう色の服をあえて着ています。
中尾:あなたは目立たない色の服をあえて着ている。何故か。
小継:人に姿を覚えられると、仕事に支障がでるからです。
中尾:?…姿を覚えられると、仕事に支障がでるのは何故か?
小継:足がつくと、困る仕事をしているからです。
中尾:え、…それって…。(ナースに目配せ)
ナース:(時計をじっと見つめたまま気配を消している。)
小継:続けてください?
中尾:…、そんなことを俺に話すのは、何故か。
小継:それは、あなたに話しても支障がないからです。
中尾:…俺に話をしても、支障がないのは、何故か。
小継:それは…あなたは今、ここで死ぬからです。
0:間。
中尾:は、はは、冗談でしょ?
小継:はは、よく言うじゃないですか。好奇心は猫をも殺すって。ナースちゃん押えといて。
ナース:はーい。
0:ナース、後ろから中尾を羽交い絞めにする。信じられないほど力強く振りほどけない。小継がリュックを下すととても重そうな音がする。
中尾:っ、やめろ!何するんだよ!
小継:違うでしょ。な・ぜ・か。
ナース:な・ぜ・か。
中尾:あ…えっと、俺が死ぬのは(なぜか?)…って、ふざけんな!なんだよこれ!
小継:可哀そうに!間違えてこんなところに来るなんてね。中尾さんだっけ。呪うなら、自分の不運を呪うといいよ。
0:小継、リュックの中を吟味し始める。
小継:せめて楽に死なせてあげるには…と。
0:いつのまにか医者、小継の後ろでにこにことしている。
医者:あれ、小継さん。もう言っちゃったの?
中尾:お前らグルか!?ふざけやがって!!
医者:わぁ怖い怖い。それを押えてる君も怖い。
ナース:光栄です。
中尾:くそっ、変だと思ってたんだこんなの!!
小継:ああ、あったあった。これにしよう。なんだと思う?
0:後ろ手に何かをもって近づいてくる小継。
中尾:知るかよ!なんで俺なんだよ!!!
小継:知らない?こういうのはね、誰でもいいんだよ。
中尾:いやだ……来るな…っ、うわああああ!!!
0:ポン、とクラッカーの破裂音。少し煙の臭いもする。目の前にいる小継の手元の筒から、色とりどりの細長い紙たばがあふれている。
小継:はーい、ドッキリでしたー!
医者:大成功!
中尾:へ、…ふぇ……?
0:腰が抜けて座り込む中尾。
小継:あはは、ごめんごめん。やりすぎたね。
医者:小継さんはうまいからねぇ、こういうの。
小継:いやいや、ナースちゃんの雰囲気づくりもいいんですよ。注射器なんかちらつかせちゃって。
ナース:いえいえそれほどでも。
医者:どうだった?中尾さん。なぜ科初診スペシャルサービスドッキリ!
中尾:は、…はは……あはははは…。
医者:楽しんでもらえたかな?ん?大抵は途中でばれちゃってうまくいかないんだけどねぇ。中尾さんもいい顔してたよ。動画に撮っとけばよかった。
ナース:私、アフターのワンドリンク持ってきますね。
医者:うん、お願いね。
医者:いやでも、たまたま間違えて入ったところで、しかも初対面の人に、訳も分からないまま殺されそうになるなんて、たまったもんじゃないよねぇ!
中尾:…ほんと、そうですよ……。はは、ほんと、そうですよね………!
医者:立てるかい?ほら、ナースがドリンクを持ってきてくれるから。椅子に座って。
中尾:ああ…すいません、俺もう帰ります。もうやめやめ、やーめた…くだらない…。
医者:?…あ、大丈夫だよ。ワンドリンクでもうあと15分!なんて言わないからさ。一息くらいつきなよ。
中尾:そうじゃないんです。もう、よくなったんです。
医者:ん?…んん、よくなったのなら、よかったけど…?
中尾:はい…、ありがとうございました。
0:出口から出ていこうとする中尾。
医者:待って待って中尾さん、荷物!
中尾:ああ、…あげます。それ、もらってください。
中尾、そのまま帰ってしまう。
医者:もらってくださいって…。
小継:何でしょうね。普通のナップサックですけど。
医者:中身、は…。
小継:あ……。
0:カバンの口を広げてのぞき込む。2人、固まる。ナースがドリンクを持ってやってきて、一緒にのぞき込む。
ナース:お待たせしました、……どうしたんですか?
ナース:……あら、包丁。
終わり。