台本概要

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タイトル Melty letter
作者名 かふぇ。  (@Cafe_0018)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 社会人生活にも慣れた朝日の家に届いた真っ白な手紙
時間が経つに連れて、その手紙には少しづつ文字が浮かび上がってくる
まるで、手紙の上に積もった雪が、溶けていくように。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
朝日 206 朝日透(あさひとおる) 25歳 その辺にいるサラリーマン
197 柊雪(ひいらぎゆき)朝日の部下
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
Melty letter 朝日透 柊雪 朝日:透き通った空、頬に刺さる冷たい空気。何かが始まりそうな予感がする。 朝日:  朝日:冬の晴れた朝は好きだ。気持ちまで晴れ晴れとする。 朝日:きっと今日はいい日になる。 0: 朝日:……と思っていた。 朝日:  朝日:そんな唐突にいいことなど起こるはずもなく、いつものように仕事して、いつもの帰り道を辿る。帰ってもどうせ独りで飯食って風呂はいって寝るだけ 朝日:  朝日:これだから社会人生活は嫌だ 朝日:友達と遊ぶ時間も、恋人をつくる暇もないし、なんのイベントもない。あるとしても辛いことばっかりだ 朝日:  朝日:会議とか?すんげえ気使う接待とか?得意先でやらかして謝罪に行くとか? 朝日:  朝日:学生のがよかったなぁ…… 柊:体育祭とか文化祭とか 朝日:そうそう 柊:友達とわいわいするあの時間はたまりませんよね! 朝日:そうそう 柊:なにより、クリスマスに、年末年始と冬休みのイベント盛りだくさん! 朝日:そうそう……っていつからいたんだ!柊! 柊:え!気づかなかったんですか...先輩! 朝日:うん。全く 柊:ひどい!一緒に帰ろうって約束したじゃないですかぁ! 朝日:……そんなこと言われたか? 柊:先輩……ついに耳おかしくなりました?大丈夫ですか? 朝日:正常だわ 柊:それにだいぶ一人でブツブツ言ってましたけど、頭大丈夫ですか? 朝日:……ほんとに心配してる? 柊:なんで!こんなに!心配してるじゃないですか! 朝日:あっそ……。というか、こんな俺と歩いてないで柊もさっさと帰れよ 柊:帰ってますよ? 朝日:何言ってんだ。さっきから俺の横歩いてる癖に 柊:え?知らないんですか? 朝日:なにが 柊:私、先輩の家のお隣ですけど 朝日:は? 柊:うん 朝日:ガチか? 柊:ええ 朝日:……いつから 柊:昨日から! 朝日:そりゃ気づかねぇわ 柊:えーひどぉい 朝日:だって挨拶しに来たか? 柊:いいえ? 朝日:よりわかんねぇだろ…… 柊:じゃ今しときますね!柊雪。24歳です! 朝日:知ってる。今年の春に俺の部署に転勤してきた部下 柊:やだ。認知されてた! 朝日:まぁ、同じ職場だからな 柊:それでも。私の事を覚えてくれてるってのは嬉しいです 朝日:……なんだそれ 柊:嬉しいじゃないですか。自分を知っていてくれてるって言うのは 朝日:そうか 柊:はい! 0:間 朝日:じゃまた明日な 柊:え?!早くないですか?! 朝日:お前の目は節穴か? 柊:え? 朝日:ここだろ?家 柊:あ 朝日:なんだよ。部屋の前まで一緒に行きたいのか? 柊:それはいいですぅ 朝日:あっそ 柊:じゃ!また明日! 0:柊が先にマンションのロビーへ入っていく 朝日:はぁ……なんか、不思議なやつだな 朝日:前からあんなやつだったっけな...? 0:透が郵便受けを覗く 朝日:げぇ……広告だらけじゃねぇか…… 朝日:……ん? 0:見慣れない封筒を見つける 朝日:手紙……? 0:手紙を開く 朝日:『拝啓、朝日透様』 朝日:  朝日:……は? 朝日:  朝日:手紙の中身はそれだけだった。便箋の真ん中に一文。 朝日:  朝日:気色悪…… 朝日:  朝日:その時は、そうとしか思わなかった 朝日:  朝日:何となく捨てなかったのは、何か、大事なものだと思ったからだ 柊:ふんふん。それで? 朝日:だとしても気色悪いよなこの手紙……差出人も書いてなくてさ……ってええ?!!! 柊:どうも!先輩! 朝日:なんでいるんだよ! 柊:なんでって……先輩が入れてくれたんじゃないですか 朝日:は? 柊:覚えてないんですか?階段でぼーっとしてたこと 朝日:……考え事はしてた 柊:それですよ。ぼーっとしてた先輩に話しかけたのに無視して行っちゃうから 朝日:勝手についてきただけじゃねぇか 柊:やだ人聞きの悪い。ちゃんとついてっていいですか?って聞きましたよ 朝日:そしたら? 柊:多分頷きました 朝日:多分じゃねぇか 柊:でも、ドア開いてましたし 朝日:え 柊:これは入ってもいいってことだろうと 朝日:ガチか? 0:透が扉を急いで確認に行く 柊:私が閉めましたけど 朝日:早く言ってくれ 柊:で、何をそんなにぼーっとしていたんです? 朝日:だから手紙のことだよ……ってなんだこれ 柊:もう。なんですか? 朝日:『拝啓、朝日透様。冷気が一段と深まり、冬の訪れを感じる今日この頃、おさわりなくお過ごしでしょうか。』 柊:……堅苦しいですけど、挨拶の定型文ですね 朝日:そこじゃない 柊:あぁ字がとっても可愛いですね 朝日:そこでもない 柊:? 朝日:……こんな文字、さっきはなかったんだ 柊:そんなこと……見間違えじゃないですか? 朝日:見間違えるもんか 朝日:そうだ。見間違えるわけない。そこには確かに、一文しかなかったんだ。 柊:……先輩独り言多いですね 朝日:え?声に出てた? 柊:そりゃバッチリと 朝日:…… 柊:? 朝日:はよ帰れ 柊:えぇ〜だって外寒いですよぅ 朝日:そんなことない。気のせいだ 柊:でも見て外 朝日:なんだよ……って 柊:さっむいけど、なんかわくわくしますねこの光景 朝日:雪…… 柊:はぁい? 朝日:お前のことじゃない 柊:えぇ〜 朝日:外のだよ外の 柊:分かってますよぅ 朝日:はぁ……にしても早くね?雪降るの 柊:そうですか?今朝寒かったので可能性あるなぁって思ってました 朝日:だとしても……まだ12月上旬だぞ 柊:降らないんですか? 朝日:東京だと滅多に降らねぇよ 柊:へぇ〜 朝日:……お前出身どこ? 柊:内緒です 朝日:はぁ…… 柊:それにしても寒いですね!ココアでもいれますか? 朝日:いれんでいい。帰れ。 柊:えぇ〜さみしぃ 朝日:ほら、さっさとしろ 柊:やん 0:透が柊の首根っこを掴み外へ放り出す 柊:酷い先輩 朝日:不法侵入したのはお前だ 柊:ぷぅ〜 朝日:可愛くないぞ 柊:ひど! 朝日:おやすみ 柊:はぁい……おやすみなさい先輩 0:柊が不貞腐れながら自分の部屋へ帰っていく 朝日:はぁ……なんだったんだアイツ…… 0:透が湯を沸かし始める 朝日:それにしても……雪か…… 0:透が珈琲をいれ、飲む 朝日:ふぅ…… 朝日:明日休みでよかった 柊:ほんとですね! 朝日:うわっ!! 柊:こんばんわ! 朝日:おまっ……どこから入ってきた! 柊:ベランダです。戸締りはしっかりしなきゃ先輩? 朝日:……忍者なの? 柊:かっこいいですね!それも! 朝日:……はぁ。なに、なんなのお前 柊:柊雪です! 朝日:そういうことじゃないの! 柊:いやぁ、寒い日に一人でいるの無理じゃないですか 朝日:無理じゃないぞ 柊:先輩……あとね 朝日:なんだよ 柊:今お湯でなくて、うち 朝日:はぁ…… 柊:お風呂貸してください! 朝日:…… 柊:おねがい! 朝日:…… 柊:さすが先輩! 朝日:何も言ってない!!! 柊:でも見てください。お風呂セット持ってきました 朝日:はぁ……もう好きにしろ 柊:やったぁ! 朝日:今日は振り回されっぱなしだな…… 柊:なんか、イベントみたいですか? 朝日:おう 柊:楽しいですか?! 朝日:いやまったく 柊:ひど! 朝日:でもまぁ、このバタバタした感じは嫌いじゃないよ 柊:でしょ? 朝日:でしょって……俺の事知らないでしょ 柊:知ってます 朝日:は? 柊:へへ。じゃお風呂行ってきまーす! 朝日:なんだアイツ…… 柊:柊雪です! 朝日:早く入ってこい! 柊:きゃあ!覗かないでくださいよぅ 朝日:覗かねぇよ!ばか! 0:柊がお風呂へ行く 朝日:はぁ……もう 0:透の目の前に手紙が舞う 朝日:あ、これ…… 0:さっきの挨拶から文字は増えていない 朝日:……気味悪ぃけどしまっとくか 0:手紙をファイルにしまう 柊:~♪(鼻歌) 朝日:ご機嫌だな……他人の家勝手に入ったくせに 朝日:……まぁ、こんな寒い日にひとりでいたら、たしかに寂しいかもしれないな 朝日:ココア……か 0:透がキッチンへ向かう 柊:へぇ先輩やっさしー 朝日:うわっ!!! 柊:どうも! 朝日:早くね?!てか服は?! 柊:先輩の優しさ察知して出てきちゃいました! 朝日:だからってバスタオル一枚で出てくんな!ちゃんと温まってこい!寒いだろ!! 柊:10数えて? 朝日:そう!ちゃんとな! 柊:先輩お母さんみたい 朝日:もう早く戻れよ…… 柊:えー……一緒に入りましょ?先輩? 朝日:嫌だ 柊:えー!こぉんな美女とお風呂入れることないですよ! 朝日:そういう問題じゃない!それに、さっき覗くなとか言ってたじゃねぇか 柊:あれは言ってみたかっただけですぅ 朝日:もうさっさと戻れ……風邪ひくぞ 柊:はぁい 朝日:あ、そうだ。ココア飲む? 柊:はい!ココア大好きです! 朝日:そうか。作っとくから、ちゃんとあったまってこい 柊:はぁい! 0:柊がお風呂へ戻っていく 朝日:はぁ…… 0:お風呂場でシャワーの音や、物音が響いている 朝日:……賑やかだな 朝日:  朝日:思えば、三年前に引っ越してきたきり、俺は一人だった 朝日:同僚を呼ぶなら店に行くし、学生時代の友達とは疎遠になってしまった。彼女なんて、大学の時にいたきりだ。 朝日:  朝日:俺以外がこの部屋にいるだなんて……なんか夢みたいだな 0:お湯が湧く 朝日:えっと……ココアココア…… 0:透がココアの粉をカップへ入れる 柊:いい匂いする! 朝日:まだ粉入れただけだぞ 柊:でもココアの気配がする! 朝日:馬鹿なこと言ってないで、髪乾かしてこい 柊:えー…… 朝日:えーじゃない 柊:はぁい 0:間 朝日:……なぁ 柊:んー? 朝日:乾かしてやろうか 柊:えっ!いいの! 朝日:まぁ、髪短いからすぐ終わりそうだし 柊:そう言って、じつは触りたいだけなんでしょ〜 朝日:やめるか 柊:嘘!嘘です!お願いします! 朝日:おいで 0:透が部屋に手招きする 柊:はぁい! 0:ドライヤーの音が部屋に響く 柊:……あの 朝日:なに? 柊:……(ドライヤーの音にかき消される) 朝日:え?ごめん聞こえない 柊:ありがとう 朝日:まぁ、こんくらいな 柊:へへ 朝日:なんだよ気持ち悪いな 柊:なんか、幸せ 朝日:そうか? 柊:うん! 朝日:なぁ 柊:なに? 朝日:なんでウチきたの? 柊:お隣さんだから 朝日:……そうか 柊:? 朝日:なんでもない 0:しばらくの間ドライヤーの音だけが響いている 朝日:ほら、おわり 柊:わぁ!ありがとう! 朝日:ん 柊:ねぇ!ココア! 朝日:入れる入れる 柊:まってまーす! 0:ココアを注ぎに透が離れる 朝日:甘い香りが立ち上る 朝日:そういえば、なんで俺の家にココアがあるんだろう 朝日:別に俺は甘党でもなんでもないし…… 柊:ねー!先輩!! 朝日:びっくりした……なんだいきなり 柊:手紙、あの後文増えてました? 朝日:いや、さっき見た時は増えてなかった 柊:そっかぁ……なんなんですかね? 朝日:さぁ…… 柊:せっかくなら、もう一回見てみませんか? 朝日:いや、気味悪いからやめようぜ 柊:えっとぉ……確かこの辺に 朝日:おい!やめろ!ってかなんでわかるんだ! 柊:あ 朝日:え? 柊:……増えてます 朝日:は? 柊:文字が 朝日:っ! 0:透が手紙をひったくる 朝日:『拝啓、朝日透様。冷気が一段と深まり、冬の訪れを感じる今日この頃、おさわりなくお過ごしでしょうか。』 柊:『私は、窓の外にちらちらと降る雪を眺めがら貴方を思っています……』ラブレターじゃないですか? 朝日:俺に?誰が…… 柊:心当たりないんですか? 朝日:あるわけないだろ…… 柊:ホットチョコレートを飲みながら、いつの日か貴方がくれたココアを思い出し、筆を取った次第です。 朝日:あ、ココア忘れてた 0:透がココアを取りに戻る 柊:『あの日も寒く、外には雪がちらついていましたね。母と喧嘩して、意地を張っていた私に貴方は温かいココアを差し入れてくれた。少し苦いチョコレートも。今も鮮明に思い出せます』 柊:……なに、これ 朝日:どうした? 柊:な、なんでもない!ちょっと外行ってきます! 朝日:あ!おい!冷めるぞ!ってか寒いぞ?! 0:透の制止を無視して柊は外に出る 柊:『この手紙は、愛しのあなたに届いているでしょうか。それとも、届かず、願ってもいない他人に読まれているでしょうか』 柊:  柊:『どちらでも構いません。朝日透様ではない方が読んでいるのでしたら、代わりにお伝えください』 柊:  柊:私は……貴方を愛しています……。 柊:その熱量は……あなたを溶かしてしまうくらい…… 柊:なに……なにこれ……っ 朝日:柊? 柊:お返事……お待ちしております……敬具…… 0:柊は寒さか恐怖かで震えている 朝日:おい、震えてるぞ。中入れ 柊:ねぇ……先輩 朝日:どうした 柊:先輩のこと大好きって……書いてありますよこの手紙 柊:やっぱり……ラブレターですよこの手紙…… 朝日:……だとしたらなんだよ 柊:でもおかしいです。おかしいですよ 朝日:そりゃ、文字が勝手に浮き出てくるなんておかしい手紙だろ。最初から分かってんじゃねぇか 朝日:それより早く中入れ。風邪ひくぞ。 柊:……っ 朝日:ココアいれなおすから 柊:……はい 0:間 柊:ふぅ 朝日:落ち着いたか? 柊:……はい。美味しいです。ココア 朝日:よかった 柊:……この手紙の差出人、本当にわからないんですか? 朝日:わかんねぇな……封筒にも名前ないし、仕事以外の人付き合いもう全くないから 柊:この人、相当先輩のこと好きですよ。やばいですよね 朝日:ちょっとひどくない? 柊:気味……悪いですよね 朝日:にしても、俺も気になるわ。そんなに俺の事好きな人いるか?ラブレター送ってくるくらいに 柊:居ないです 朝日:酷くね? 柊:ここにしか、いないです 朝日:……は? 柊:私しか、いないです 朝日:なに、言ってんだ 柊:というかこれは、私の字です 朝日:……ほんとに何言ってんだ? 柊:聞いてください 朝日:ん 柊:これは、恐らく昔私が書いた手紙です 朝日:……は? 柊:同じ内容のものを、書いたことがあります。先輩に思い当たる人がいないのであれば、私のもので間違いないです。 朝日:話についていけないんだけど 柊:昔、先輩と会ったことがあるんですよ私。あぁ、覚えてなくてもいいんです。なにせ、10年以上前の話ですから 朝日:それは…… 柊:先輩は一つ学年が上でしたので、接点はあまりありませんでした。覚えてなくて、当たり前なんです 朝日:なんか、すまん 柊:いいんですよ。でも、私は先輩に一目惚れしていたんです 柊:その日は、今日みたいに雪が降っていたんです。私は、親と喧嘩したかなんかで、公園で泣きじゃくっていました 0:過去回想 柊:うぇぇん…… 朝日:……どうしたの? 柊:ふぇ……? 朝日:こんなとこ居たら風邪ひいちゃうよ 柊:……嫌だ。おうち帰んないの 朝日:そっか…… 柊:お母さんなんか大嫌い 朝日:ねぇ。ちょっとまってて 柊:え? 0:間 朝日:お待たせ 柊:お兄さん…… 朝日:ココア、好き? 柊:うんっ 朝日:あげる 0:透が自動販売機で買ったココアを柊に手渡す 柊:わぁ……ココア!あったかい…… 朝日:風邪ひいちゃうから 柊:ありがとう、お兄さん! 朝日:飲んだら帰りなよ? 柊:……うん 朝日:やなの? 柊:……うん 朝日:そっか 柊:お母さんがね。ずっと悪い子悪い子って言うの 朝日:そうなの? 柊:私はしたいことしてるだけなのに…… 朝日:そっか、何してるの? 柊:アイスとかプリンいっぱい食べたり、嫌いな豆腐残したり…… 朝日:ぷっ 柊:なに! 朝日:いや、食べ物ばっかりだなぁって思って 柊:……食べるの好きなんだもん 朝日:じゃ、これあげるよ 柊:へ……?チョコ……? 朝日:うん。俺の好きなチョコ 柊:くれるの? 朝日:あげる。だからお母さんの分まで食べちゃダメだよ 柊:ぷぅ 朝日:怒んないの。またチョコあげるから 柊:ほんと? 朝日:また会えたらね 柊:うん! 朝日:じゃ行くね俺 柊:ねぇ! 朝日:なに? 柊:お兄さん……名前は? 朝日:……朝日透 柊:朝日……透 0:回想終了 柊:その後、先輩に会うことは叶いませんでした 朝日:もう高校決まってたからな…… 柊:どの高校に行ったかも分からず、絶望したのを覚えています 柊:その時に書いたんです。この手紙は 朝日:そうか……あの時の 柊:届かないと分かって、それでも、あの想いをしまっておけなくて 朝日:全然……気づかなかった 柊:そりゃそうです。私は名乗らなかったし、あの時は髪も長かったですもん 0:透が柊の髪に触れる 朝日:こっちも似合う 柊:ふふっどうせ覚えてないくせに 朝日:バレた? 柊:バレます 朝日:……よく俺の職場がわかったな 柊:この辺に住んでいる友達が教えてくれたんです。転職するのに、ちょっと手間取りましたが 朝日:そうか 柊:あの後、先輩のおかげで、ちゃんと帰ってお母さんと仲直り出来ました 朝日:そっか 柊:でも中学生なのにハイカカオチョコはセンスないなって思いました 朝日:いいだろ。好きなんだから 柊:そんなとこも、好きになっちゃったんです 朝日:…… 柊:正直、この気持ちを伝えることは諦めてました。先輩、絶対覚えてないだろうし 柊:だから、私。恋して貰おうと思ったんです。先輩に 朝日:ねぇ、手紙見せてよ 柊:え、ダメです 朝日:え 柊:絶対ダメです 朝日:俺宛なのに? 柊:この手紙がどこから出てきたのか、なぜ今あるか分かりませんが、過去は過去ですし 朝日:そっか 柊:単純に恥ずかしいです 朝日:そっちが本心だろ 柊:とりあえず、この手紙は燃やします 朝日:なんでだ 柊:こんなんで返事もらっても味気ないからです 朝日:はぁ? 柊:……私が何年片思いしてきたと思ってるんですか 柊:ちゃんと、落とします。先輩を 朝日:いや、あの 柊:こんなどっから出てきたかもわからない気味悪い手紙には頼りません 0:柊が手紙をビリビリに破く 柊:いいですか!先輩! 朝日:えっ 柊:宣戦布告します。私は、絶対に!先輩を落とす! 朝日:あの 柊:腹を括って待っていてくださいね!!!では!!! 0:柊が扉から勢いよく出ていく 朝日:……帰った 0:柊が落として言ったビリビリの紙切れを拾い上げる 朝日:そんなに俺の事想ってくれてるやつに、好意抱かないわけないだろ…… 朝日:  朝日:この一瞬で好きになったとか言ったら……さすがに軽すぎるか? 朝日:  朝日:長く一人でいたからだろうか。人からの愛という熱に弱くなっているような気がした 朝日:  朝日:体の奥で何かが溶けるような感覚を久しぶりに覚えながら、飲みかけのココアを目にして気づく 朝日:……そんなにココアが好きでもない俺の家にこれがあるのは、昔のお前が気になっていたから……かもしれないな 朝日:そんな都合のいい解釈をしながら、夜も更けた外を見つめる。 朝日:もうとっくに……落ちたよ。雪

Melty letter 朝日透 柊雪 朝日:透き通った空、頬に刺さる冷たい空気。何かが始まりそうな予感がする。 朝日:  朝日:冬の晴れた朝は好きだ。気持ちまで晴れ晴れとする。 朝日:きっと今日はいい日になる。 0: 朝日:……と思っていた。 朝日:  朝日:そんな唐突にいいことなど起こるはずもなく、いつものように仕事して、いつもの帰り道を辿る。帰ってもどうせ独りで飯食って風呂はいって寝るだけ 朝日:  朝日:これだから社会人生活は嫌だ 朝日:友達と遊ぶ時間も、恋人をつくる暇もないし、なんのイベントもない。あるとしても辛いことばっかりだ 朝日:  朝日:会議とか?すんげえ気使う接待とか?得意先でやらかして謝罪に行くとか? 朝日:  朝日:学生のがよかったなぁ…… 柊:体育祭とか文化祭とか 朝日:そうそう 柊:友達とわいわいするあの時間はたまりませんよね! 朝日:そうそう 柊:なにより、クリスマスに、年末年始と冬休みのイベント盛りだくさん! 朝日:そうそう……っていつからいたんだ!柊! 柊:え!気づかなかったんですか...先輩! 朝日:うん。全く 柊:ひどい!一緒に帰ろうって約束したじゃないですかぁ! 朝日:……そんなこと言われたか? 柊:先輩……ついに耳おかしくなりました?大丈夫ですか? 朝日:正常だわ 柊:それにだいぶ一人でブツブツ言ってましたけど、頭大丈夫ですか? 朝日:……ほんとに心配してる? 柊:なんで!こんなに!心配してるじゃないですか! 朝日:あっそ……。というか、こんな俺と歩いてないで柊もさっさと帰れよ 柊:帰ってますよ? 朝日:何言ってんだ。さっきから俺の横歩いてる癖に 柊:え?知らないんですか? 朝日:なにが 柊:私、先輩の家のお隣ですけど 朝日:は? 柊:うん 朝日:ガチか? 柊:ええ 朝日:……いつから 柊:昨日から! 朝日:そりゃ気づかねぇわ 柊:えーひどぉい 朝日:だって挨拶しに来たか? 柊:いいえ? 朝日:よりわかんねぇだろ…… 柊:じゃ今しときますね!柊雪。24歳です! 朝日:知ってる。今年の春に俺の部署に転勤してきた部下 柊:やだ。認知されてた! 朝日:まぁ、同じ職場だからな 柊:それでも。私の事を覚えてくれてるってのは嬉しいです 朝日:……なんだそれ 柊:嬉しいじゃないですか。自分を知っていてくれてるって言うのは 朝日:そうか 柊:はい! 0:間 朝日:じゃまた明日な 柊:え?!早くないですか?! 朝日:お前の目は節穴か? 柊:え? 朝日:ここだろ?家 柊:あ 朝日:なんだよ。部屋の前まで一緒に行きたいのか? 柊:それはいいですぅ 朝日:あっそ 柊:じゃ!また明日! 0:柊が先にマンションのロビーへ入っていく 朝日:はぁ……なんか、不思議なやつだな 朝日:前からあんなやつだったっけな...? 0:透が郵便受けを覗く 朝日:げぇ……広告だらけじゃねぇか…… 朝日:……ん? 0:見慣れない封筒を見つける 朝日:手紙……? 0:手紙を開く 朝日:『拝啓、朝日透様』 朝日:  朝日:……は? 朝日:  朝日:手紙の中身はそれだけだった。便箋の真ん中に一文。 朝日:  朝日:気色悪…… 朝日:  朝日:その時は、そうとしか思わなかった 朝日:  朝日:何となく捨てなかったのは、何か、大事なものだと思ったからだ 柊:ふんふん。それで? 朝日:だとしても気色悪いよなこの手紙……差出人も書いてなくてさ……ってええ?!!! 柊:どうも!先輩! 朝日:なんでいるんだよ! 柊:なんでって……先輩が入れてくれたんじゃないですか 朝日:は? 柊:覚えてないんですか?階段でぼーっとしてたこと 朝日:……考え事はしてた 柊:それですよ。ぼーっとしてた先輩に話しかけたのに無視して行っちゃうから 朝日:勝手についてきただけじゃねぇか 柊:やだ人聞きの悪い。ちゃんとついてっていいですか?って聞きましたよ 朝日:そしたら? 柊:多分頷きました 朝日:多分じゃねぇか 柊:でも、ドア開いてましたし 朝日:え 柊:これは入ってもいいってことだろうと 朝日:ガチか? 0:透が扉を急いで確認に行く 柊:私が閉めましたけど 朝日:早く言ってくれ 柊:で、何をそんなにぼーっとしていたんです? 朝日:だから手紙のことだよ……ってなんだこれ 柊:もう。なんですか? 朝日:『拝啓、朝日透様。冷気が一段と深まり、冬の訪れを感じる今日この頃、おさわりなくお過ごしでしょうか。』 柊:……堅苦しいですけど、挨拶の定型文ですね 朝日:そこじゃない 柊:あぁ字がとっても可愛いですね 朝日:そこでもない 柊:? 朝日:……こんな文字、さっきはなかったんだ 柊:そんなこと……見間違えじゃないですか? 朝日:見間違えるもんか 朝日:そうだ。見間違えるわけない。そこには確かに、一文しかなかったんだ。 柊:……先輩独り言多いですね 朝日:え?声に出てた? 柊:そりゃバッチリと 朝日:…… 柊:? 朝日:はよ帰れ 柊:えぇ〜だって外寒いですよぅ 朝日:そんなことない。気のせいだ 柊:でも見て外 朝日:なんだよ……って 柊:さっむいけど、なんかわくわくしますねこの光景 朝日:雪…… 柊:はぁい? 朝日:お前のことじゃない 柊:えぇ〜 朝日:外のだよ外の 柊:分かってますよぅ 朝日:はぁ……にしても早くね?雪降るの 柊:そうですか?今朝寒かったので可能性あるなぁって思ってました 朝日:だとしても……まだ12月上旬だぞ 柊:降らないんですか? 朝日:東京だと滅多に降らねぇよ 柊:へぇ〜 朝日:……お前出身どこ? 柊:内緒です 朝日:はぁ…… 柊:それにしても寒いですね!ココアでもいれますか? 朝日:いれんでいい。帰れ。 柊:えぇ〜さみしぃ 朝日:ほら、さっさとしろ 柊:やん 0:透が柊の首根っこを掴み外へ放り出す 柊:酷い先輩 朝日:不法侵入したのはお前だ 柊:ぷぅ〜 朝日:可愛くないぞ 柊:ひど! 朝日:おやすみ 柊:はぁい……おやすみなさい先輩 0:柊が不貞腐れながら自分の部屋へ帰っていく 朝日:はぁ……なんだったんだアイツ…… 0:透が湯を沸かし始める 朝日:それにしても……雪か…… 0:透が珈琲をいれ、飲む 朝日:ふぅ…… 朝日:明日休みでよかった 柊:ほんとですね! 朝日:うわっ!! 柊:こんばんわ! 朝日:おまっ……どこから入ってきた! 柊:ベランダです。戸締りはしっかりしなきゃ先輩? 朝日:……忍者なの? 柊:かっこいいですね!それも! 朝日:……はぁ。なに、なんなのお前 柊:柊雪です! 朝日:そういうことじゃないの! 柊:いやぁ、寒い日に一人でいるの無理じゃないですか 朝日:無理じゃないぞ 柊:先輩……あとね 朝日:なんだよ 柊:今お湯でなくて、うち 朝日:はぁ…… 柊:お風呂貸してください! 朝日:…… 柊:おねがい! 朝日:…… 柊:さすが先輩! 朝日:何も言ってない!!! 柊:でも見てください。お風呂セット持ってきました 朝日:はぁ……もう好きにしろ 柊:やったぁ! 朝日:今日は振り回されっぱなしだな…… 柊:なんか、イベントみたいですか? 朝日:おう 柊:楽しいですか?! 朝日:いやまったく 柊:ひど! 朝日:でもまぁ、このバタバタした感じは嫌いじゃないよ 柊:でしょ? 朝日:でしょって……俺の事知らないでしょ 柊:知ってます 朝日:は? 柊:へへ。じゃお風呂行ってきまーす! 朝日:なんだアイツ…… 柊:柊雪です! 朝日:早く入ってこい! 柊:きゃあ!覗かないでくださいよぅ 朝日:覗かねぇよ!ばか! 0:柊がお風呂へ行く 朝日:はぁ……もう 0:透の目の前に手紙が舞う 朝日:あ、これ…… 0:さっきの挨拶から文字は増えていない 朝日:……気味悪ぃけどしまっとくか 0:手紙をファイルにしまう 柊:~♪(鼻歌) 朝日:ご機嫌だな……他人の家勝手に入ったくせに 朝日:……まぁ、こんな寒い日にひとりでいたら、たしかに寂しいかもしれないな 朝日:ココア……か 0:透がキッチンへ向かう 柊:へぇ先輩やっさしー 朝日:うわっ!!! 柊:どうも! 朝日:早くね?!てか服は?! 柊:先輩の優しさ察知して出てきちゃいました! 朝日:だからってバスタオル一枚で出てくんな!ちゃんと温まってこい!寒いだろ!! 柊:10数えて? 朝日:そう!ちゃんとな! 柊:先輩お母さんみたい 朝日:もう早く戻れよ…… 柊:えー……一緒に入りましょ?先輩? 朝日:嫌だ 柊:えー!こぉんな美女とお風呂入れることないですよ! 朝日:そういう問題じゃない!それに、さっき覗くなとか言ってたじゃねぇか 柊:あれは言ってみたかっただけですぅ 朝日:もうさっさと戻れ……風邪ひくぞ 柊:はぁい 朝日:あ、そうだ。ココア飲む? 柊:はい!ココア大好きです! 朝日:そうか。作っとくから、ちゃんとあったまってこい 柊:はぁい! 0:柊がお風呂へ戻っていく 朝日:はぁ…… 0:お風呂場でシャワーの音や、物音が響いている 朝日:……賑やかだな 朝日:  朝日:思えば、三年前に引っ越してきたきり、俺は一人だった 朝日:同僚を呼ぶなら店に行くし、学生時代の友達とは疎遠になってしまった。彼女なんて、大学の時にいたきりだ。 朝日:  朝日:俺以外がこの部屋にいるだなんて……なんか夢みたいだな 0:お湯が湧く 朝日:えっと……ココアココア…… 0:透がココアの粉をカップへ入れる 柊:いい匂いする! 朝日:まだ粉入れただけだぞ 柊:でもココアの気配がする! 朝日:馬鹿なこと言ってないで、髪乾かしてこい 柊:えー…… 朝日:えーじゃない 柊:はぁい 0:間 朝日:……なぁ 柊:んー? 朝日:乾かしてやろうか 柊:えっ!いいの! 朝日:まぁ、髪短いからすぐ終わりそうだし 柊:そう言って、じつは触りたいだけなんでしょ〜 朝日:やめるか 柊:嘘!嘘です!お願いします! 朝日:おいで 0:透が部屋に手招きする 柊:はぁい! 0:ドライヤーの音が部屋に響く 柊:……あの 朝日:なに? 柊:……(ドライヤーの音にかき消される) 朝日:え?ごめん聞こえない 柊:ありがとう 朝日:まぁ、こんくらいな 柊:へへ 朝日:なんだよ気持ち悪いな 柊:なんか、幸せ 朝日:そうか? 柊:うん! 朝日:なぁ 柊:なに? 朝日:なんでウチきたの? 柊:お隣さんだから 朝日:……そうか 柊:? 朝日:なんでもない 0:しばらくの間ドライヤーの音だけが響いている 朝日:ほら、おわり 柊:わぁ!ありがとう! 朝日:ん 柊:ねぇ!ココア! 朝日:入れる入れる 柊:まってまーす! 0:ココアを注ぎに透が離れる 朝日:甘い香りが立ち上る 朝日:そういえば、なんで俺の家にココアがあるんだろう 朝日:別に俺は甘党でもなんでもないし…… 柊:ねー!先輩!! 朝日:びっくりした……なんだいきなり 柊:手紙、あの後文増えてました? 朝日:いや、さっき見た時は増えてなかった 柊:そっかぁ……なんなんですかね? 朝日:さぁ…… 柊:せっかくなら、もう一回見てみませんか? 朝日:いや、気味悪いからやめようぜ 柊:えっとぉ……確かこの辺に 朝日:おい!やめろ!ってかなんでわかるんだ! 柊:あ 朝日:え? 柊:……増えてます 朝日:は? 柊:文字が 朝日:っ! 0:透が手紙をひったくる 朝日:『拝啓、朝日透様。冷気が一段と深まり、冬の訪れを感じる今日この頃、おさわりなくお過ごしでしょうか。』 柊:『私は、窓の外にちらちらと降る雪を眺めがら貴方を思っています……』ラブレターじゃないですか? 朝日:俺に?誰が…… 柊:心当たりないんですか? 朝日:あるわけないだろ…… 柊:ホットチョコレートを飲みながら、いつの日か貴方がくれたココアを思い出し、筆を取った次第です。 朝日:あ、ココア忘れてた 0:透がココアを取りに戻る 柊:『あの日も寒く、外には雪がちらついていましたね。母と喧嘩して、意地を張っていた私に貴方は温かいココアを差し入れてくれた。少し苦いチョコレートも。今も鮮明に思い出せます』 柊:……なに、これ 朝日:どうした? 柊:な、なんでもない!ちょっと外行ってきます! 朝日:あ!おい!冷めるぞ!ってか寒いぞ?! 0:透の制止を無視して柊は外に出る 柊:『この手紙は、愛しのあなたに届いているでしょうか。それとも、届かず、願ってもいない他人に読まれているでしょうか』 柊:  柊:『どちらでも構いません。朝日透様ではない方が読んでいるのでしたら、代わりにお伝えください』 柊:  柊:私は……貴方を愛しています……。 柊:その熱量は……あなたを溶かしてしまうくらい…… 柊:なに……なにこれ……っ 朝日:柊? 柊:お返事……お待ちしております……敬具…… 0:柊は寒さか恐怖かで震えている 朝日:おい、震えてるぞ。中入れ 柊:ねぇ……先輩 朝日:どうした 柊:先輩のこと大好きって……書いてありますよこの手紙 柊:やっぱり……ラブレターですよこの手紙…… 朝日:……だとしたらなんだよ 柊:でもおかしいです。おかしいですよ 朝日:そりゃ、文字が勝手に浮き出てくるなんておかしい手紙だろ。最初から分かってんじゃねぇか 朝日:それより早く中入れ。風邪ひくぞ。 柊:……っ 朝日:ココアいれなおすから 柊:……はい 0:間 柊:ふぅ 朝日:落ち着いたか? 柊:……はい。美味しいです。ココア 朝日:よかった 柊:……この手紙の差出人、本当にわからないんですか? 朝日:わかんねぇな……封筒にも名前ないし、仕事以外の人付き合いもう全くないから 柊:この人、相当先輩のこと好きですよ。やばいですよね 朝日:ちょっとひどくない? 柊:気味……悪いですよね 朝日:にしても、俺も気になるわ。そんなに俺の事好きな人いるか?ラブレター送ってくるくらいに 柊:居ないです 朝日:酷くね? 柊:ここにしか、いないです 朝日:……は? 柊:私しか、いないです 朝日:なに、言ってんだ 柊:というかこれは、私の字です 朝日:……ほんとに何言ってんだ? 柊:聞いてください 朝日:ん 柊:これは、恐らく昔私が書いた手紙です 朝日:……は? 柊:同じ内容のものを、書いたことがあります。先輩に思い当たる人がいないのであれば、私のもので間違いないです。 朝日:話についていけないんだけど 柊:昔、先輩と会ったことがあるんですよ私。あぁ、覚えてなくてもいいんです。なにせ、10年以上前の話ですから 朝日:それは…… 柊:先輩は一つ学年が上でしたので、接点はあまりありませんでした。覚えてなくて、当たり前なんです 朝日:なんか、すまん 柊:いいんですよ。でも、私は先輩に一目惚れしていたんです 柊:その日は、今日みたいに雪が降っていたんです。私は、親と喧嘩したかなんかで、公園で泣きじゃくっていました 0:過去回想 柊:うぇぇん…… 朝日:……どうしたの? 柊:ふぇ……? 朝日:こんなとこ居たら風邪ひいちゃうよ 柊:……嫌だ。おうち帰んないの 朝日:そっか…… 柊:お母さんなんか大嫌い 朝日:ねぇ。ちょっとまってて 柊:え? 0:間 朝日:お待たせ 柊:お兄さん…… 朝日:ココア、好き? 柊:うんっ 朝日:あげる 0:透が自動販売機で買ったココアを柊に手渡す 柊:わぁ……ココア!あったかい…… 朝日:風邪ひいちゃうから 柊:ありがとう、お兄さん! 朝日:飲んだら帰りなよ? 柊:……うん 朝日:やなの? 柊:……うん 朝日:そっか 柊:お母さんがね。ずっと悪い子悪い子って言うの 朝日:そうなの? 柊:私はしたいことしてるだけなのに…… 朝日:そっか、何してるの? 柊:アイスとかプリンいっぱい食べたり、嫌いな豆腐残したり…… 朝日:ぷっ 柊:なに! 朝日:いや、食べ物ばっかりだなぁって思って 柊:……食べるの好きなんだもん 朝日:じゃ、これあげるよ 柊:へ……?チョコ……? 朝日:うん。俺の好きなチョコ 柊:くれるの? 朝日:あげる。だからお母さんの分まで食べちゃダメだよ 柊:ぷぅ 朝日:怒んないの。またチョコあげるから 柊:ほんと? 朝日:また会えたらね 柊:うん! 朝日:じゃ行くね俺 柊:ねぇ! 朝日:なに? 柊:お兄さん……名前は? 朝日:……朝日透 柊:朝日……透 0:回想終了 柊:その後、先輩に会うことは叶いませんでした 朝日:もう高校決まってたからな…… 柊:どの高校に行ったかも分からず、絶望したのを覚えています 柊:その時に書いたんです。この手紙は 朝日:そうか……あの時の 柊:届かないと分かって、それでも、あの想いをしまっておけなくて 朝日:全然……気づかなかった 柊:そりゃそうです。私は名乗らなかったし、あの時は髪も長かったですもん 0:透が柊の髪に触れる 朝日:こっちも似合う 柊:ふふっどうせ覚えてないくせに 朝日:バレた? 柊:バレます 朝日:……よく俺の職場がわかったな 柊:この辺に住んでいる友達が教えてくれたんです。転職するのに、ちょっと手間取りましたが 朝日:そうか 柊:あの後、先輩のおかげで、ちゃんと帰ってお母さんと仲直り出来ました 朝日:そっか 柊:でも中学生なのにハイカカオチョコはセンスないなって思いました 朝日:いいだろ。好きなんだから 柊:そんなとこも、好きになっちゃったんです 朝日:…… 柊:正直、この気持ちを伝えることは諦めてました。先輩、絶対覚えてないだろうし 柊:だから、私。恋して貰おうと思ったんです。先輩に 朝日:ねぇ、手紙見せてよ 柊:え、ダメです 朝日:え 柊:絶対ダメです 朝日:俺宛なのに? 柊:この手紙がどこから出てきたのか、なぜ今あるか分かりませんが、過去は過去ですし 朝日:そっか 柊:単純に恥ずかしいです 朝日:そっちが本心だろ 柊:とりあえず、この手紙は燃やします 朝日:なんでだ 柊:こんなんで返事もらっても味気ないからです 朝日:はぁ? 柊:……私が何年片思いしてきたと思ってるんですか 柊:ちゃんと、落とします。先輩を 朝日:いや、あの 柊:こんなどっから出てきたかもわからない気味悪い手紙には頼りません 0:柊が手紙をビリビリに破く 柊:いいですか!先輩! 朝日:えっ 柊:宣戦布告します。私は、絶対に!先輩を落とす! 朝日:あの 柊:腹を括って待っていてくださいね!!!では!!! 0:柊が扉から勢いよく出ていく 朝日:……帰った 0:柊が落として言ったビリビリの紙切れを拾い上げる 朝日:そんなに俺の事想ってくれてるやつに、好意抱かないわけないだろ…… 朝日:  朝日:この一瞬で好きになったとか言ったら……さすがに軽すぎるか? 朝日:  朝日:長く一人でいたからだろうか。人からの愛という熱に弱くなっているような気がした 朝日:  朝日:体の奥で何かが溶けるような感覚を久しぶりに覚えながら、飲みかけのココアを目にして気づく 朝日:……そんなにココアが好きでもない俺の家にこれがあるのは、昔のお前が気になっていたから……かもしれないな 朝日:そんな都合のいい解釈をしながら、夜も更けた外を見つめる。 朝日:もうとっくに……落ちたよ。雪