台本概要
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タイトル | Scrap witch !? 第3話 ポンコツ魔女と迷子の骨 |
---|---|
作者名 | 狗山犬壱(イヌヤマ ケンイチ) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
マギサからの課題により、自由都市カナードへと向かうことになったピリアとカルシゥム。しかし道中ではピリアの不運に磨きがかかっているようで…
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ピリア | 女 | 87 | 主人公…?。少し歩いただけで不運と踊ってしまう系の少女。初めての冒険で心身ともに限界レベルに至るへなちょこ。泣き声が豊富 |
カルシゥム | 男 | 104 | ピリアの相棒兼保護者。ここまで弱点らしいものが見当たらなかったが、実は…。生前は腕利きの冒険者だったようで結構強い。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:ガタゴトと音を鳴らし、馬車が動く
0:それに合わせて馬車は軽く上下に揺れる
ピリア:「か、カルさぁん…」
カルシゥム:「ん?どうしたお嬢」
ピリアが涙目でカルシゥムを見る
ピリア:「お、お尻が…い、痛いですぅ…!」
カルシゥム:「そういえばお嬢、馬車は初めてだったな」
ピリア:「た、旅人のみなさんは、いつもこんなにお尻を痛めて」
ピリア:「旅を続けているんですか?」
0:ピリアの言葉を受けたカルシゥムは楽しげにカタカタと顎を鳴らす
カルシゥム:「そういう奴がいない訳じゃないけど」
カルシゥム:「大体の奴が…ほら。あんな感じで対応しているよ」
0:カルシゥムが目を顔を向けた方向に目を向けると
0:そこには布で作られたであろうクッションに座り
0:談笑している一団の姿があった
カルシゥム:「馬車での移動は長期間に渡ることの方が多い。」
カルシゥム:「国にもよるが、大抵の街道は大きな街の近くでもない限り」
カルシゥム:「舗装(ほそう)整備されていないのさ」
ピリア:「だ、だから、こんなに揺れると…イタタ」
カルシゥム:「そうだ。まぁ、大抵の奴等はああして自前でクッションを作ったり」
カルシゥム:「服のズボンや下着を厚手の物に替えたりして対応しているって訳だ」
ピリア:「な、納得です…で、でも私はど、どうすれば…」
カルシゥム:「そうだな…今は野営用に持ってきた」
カルシゥム:「着替えと毛布を丸めて尻の下に敷いてみな」
カルシゥム:「多少は違うはずだ」
ピリア:「や、やってみます…よい…しょっと…」
ピリア:「…うーん」
カルシゥム:「どうだ?」
ピリア:「さ、さっきよりは…少し痛くなくなったかも…です」
カルシゥム:「まぁ、応急的な対応だからな。」
カルシゥム:「カナードに着く前のタイミングで野営をするだろうから」
カルシゥム:「そこら辺に住み着いてる野生のスライムを使って」
カルシゥム:「スライムクッションを作ろう。作り方、教えてやるよ」
ピリア:「え、えぇ!す、スライムでクッション作るんですかぁ!?」
カルシゥム:「はは、驚くよな。俺も初めてこれを知ったときはビックリしたもんだよ」
ピリア:「で、でも、スライムって倒すとすぐにドロドロに溶けて消えちゃいますよね?」
カルシゥム:「狩り方次第で、あの弾性を失わせないように出来るのさ」
ピリア:「そ、そんな狩り方があるんですねぇ…」
カルシゥム:「おまけにスライムは基本的に腐らないからな」
カルシゥム:「定期的に水に1時間~2時間の間、浸けておくだけで」
カルシゥム:「匂いも汚れも取れちまう優れものさ」
ピリア:「か、カルさんって、物知りですよねぇ…すごいなぁ」
0:照れくさそうにカルシゥムはカタカタと顎を揺らす
カルシゥム:「まぁ、これでも生前は冒険者だったからな」
カルシゥム:「生きている間は色々と学んだもんさ」
ピリア:「え、えと…か、カルさんの生きている時って…」
0:周囲が少し騒がしくなってきた。馬車に同乗していた旅人達が
0:馬車の後方へ目を向けている。
ピリア:「な、何かあったでしょうか…?」
カルシゥム:「…お嬢、武装術式の準備しときな」
ピリア:「か、カルさん…?」
カルシゥム:「後方からそれなりのデカさの魔力反応が3つ」
カルシゥム:「かなりの早さでこっちに向かってきている」
ピリア:「え、えぇ!?そ、それって…!」
カルシゥム:「魔物に狙われたみたいだな」
ピリア:「ど、どど、どうしましょうカルさぁん…!」
0:不意に、馬の走る速度が上がる
0:他の乗客の話を受け、御者が速度を上げたようだ
0:小柄なピリアは馬車の後方へと体がゆっくりと向かっていく
ピリア:「あ、あばばば…!」
カルシゥム:「お嬢!何かに掴(つか)まれるか!?」
ピリア:「つ、つかまる!?ええと、ええと!」
0:ピリアはカルシゥムの付いた触媒の杖を強く抱き締める
カルシゥム:「いや俺じゃなくて!ああ、もう!」
カルシゥム:「お嬢!武装術式!詠唱は短縮で!」
ピリア:「は、はい!」
ピリア:「け、顕現(けんげん)せよ!カルシゥム!」
0:ピリアが詠唱を終えると普段よりも少し小柄なスケルトンが現れる。
0:同乗していた旅人達はパニックになり騒ぎ出す
ピリア:「ひ、ひぃぃ!ほ、他の旅人さん達が武器を構えてますよぉぉ!?」
カルシゥム:「時間がねぇ!お嬢!こっちだ」
0:カルシゥムはピリアを小脇に抱え、荷物を背負う
ピリア:「か、かか、カルさん!?な、何を…!」
カルシゥム:「お嬢!口をしっかり閉じとけ!」
ピリア:「ま、まま、まさかぁぁ!?」
カルシゥム:「行くぞ!」
0:カルシゥムは馬車の後方からその身を投げ出した
ピリア:「ぴぎゃあぁぁぁー!?し、しし死ぬぅぅぅー!」
0:あまりの恐怖にピリアはカルシゥムの腕の中で身を激しく捩る
カルシゥム:「お嬢!危ないから動くな!」
ピリア:「む、むむむ、無理ですぅぅー!」
0:カルシゥムは無事、地面へと着地した
0:それと同時にピリアが小脇からすっぽぬけてしまい
カルシゥム:「あ」
ピリア:「へぶぅぅぅー!?」
0:ヘッドスライディングの状態で顔から地面へと落ちた
カルシゥム:「お、お嬢!すまねぇ!だ、大丈夫か?」
ピリア:「あぶぶぶ…にゃ、にゃんとかぁ…」
0:カルシゥムはピリアの顔の状態を確認した。
0:鼻を打ったのか鼻血が流れ
0:顔には軽い切り傷といくつかの擦り傷が確認できた
カルシゥム:「すまねぇお嬢。まさか腕の力が緩むとは…」
ピリア:「だ、大丈夫でふ…なんとか生きてまふ…あぶぶ」
カルシゥム:「治療するから少し待っててくれ。」
0:カルシゥムは周囲を即座に確認した
0:先程まで馬車を追っていた魔物達はそのまま
0:馬車を追っていったようだ
カルシゥム:「…行ったみたいだな。お嬢、今のうちに治療するぞ」
ピリア:「あ、あい。」
0:カルシゥムは荷物の中からピリアが作成した治療用のポーションを取り出し
0:ピリアの治療を開始した。
ピリア:「か、カルさん、さっきの魔物はいったい…」
カルシゥム:「あれはレーシングウルフ。」
カルシゥム:「基本的には縄張りに入らなければ無害なもんだが」
カルシゥム:「今回は運が悪かったみたいだ。」
ピリア:「運が…?」
カルシゥム:「今の季節、あいつらは発情期だ。」
ピリア:「え、えぇ…発情期、です?」
カルシゥム:「そうだ。奴等の求愛の儀式に巻き込まれたんだよ、俺たちは」
ピリア:「求愛の…儀式…?走ることが…?」
0:ピリアの治療しながら、カルシゥムは話を続ける
カルシゥム:「レーシングウルフはその名の通り求愛の儀式の際に」
カルシゥム:「複数のオスがメスをめぐってレースをするのさ」
ピリア:「レース」
カルシゥム:「メスは最も早かったオスのみと交尾するっていうのが奴等の習性なんだよ」
カルシゥム:「負けたオスは他のメスのもとに行き、さらにレースを行う」
ピリア:「は、早さが全て…なんでしょうか…?」
カルシゥム:「さぁな。だが、噂じゃあまりの早さに風の女神が祝福を与えたとかなんとか」
ピリア:「か、変わった習性を持つ魔物なんですね」
カルシゥム:「なんにしても、はた迷惑な習性だよ…っと」
カルシゥム:「ほれ治療完了だ」
ピリア:「あ、ありがとうございます、カルさん」
0:ポーションの効果が高かったのかピリアの顔の傷は
0:ほとんどなくなり、鼻血も止まっていた。
ピリア:「そ、それでカルさん」
カルシゥム:「ん?なんだお嬢」
ピリア:「あ、アタシ達はこれからどうすれば…」
カルシゥム:「あー…ここからだと次の乗り合い馬車の停留所まで結構あるな」
ピリア:「って言うことは…」
カルシゥム:「ここから歩きだな」
ピリア:「そ、そんなぁ…」
カルシゥム:「何事も経験だ!お嬢。」
カルシゥム:「何、バテたら途中で運んでやるからがんばれ!」
ピリア:「うぅ…だからお外は嫌いなんですよぉ…!」
0:二人は街道を歩き、次の停留所に向かった。
0:数時間後、二人は森の中で野営をしていた。
ピリア:「ってあれ?あ、アタシ達何で森のなかに!?」
カルシゥム:「流石はお嬢。不運(ハードラック)に磨きがかかっているな」
ピリア:「え、え?」
0:カルシゥムはテントを張りながら、ピリアへと向き直る。
カルシゥム:「俺たちはあれから次の停留所目指して移動を始めたんだが」
カルシゥム:「その途中で運悪く、タイラントバニーと遭遇しちまったんだよ」
ピリア:「な、なんだか凄そうな名前です…」
カルシゥム:「実際すごいからなぁ」
カルシゥム:「体長およそ2メルテ(2メートル)、体重は100キルタ(100キロ)の大型草食獣さ」
ピリア:「アタシ達、そんな化け物と遭遇してたんですかぁ!?」
カルシゥム:「お嬢はそこで気を失って、俺がここまで背負ってきた」
ピリア:「アタシ達、よく無事でしたね!?」
カルシゥム:「あいつらは相手の実力を見るからな」
カルシゥム:「お嬢を見た後、すぐにこっちに背を向けてどっか行っちまった」
ピリア:「え、それって…」
カルシゥム:「拳を振るうに値しないと見られたらしい」
ピリア:「はは、ですよねぇ…」
カルシゥム:「あいつら強敵と戦うことが何より好きだからなぁ」
ピリア:「ぶ、物騒なウサギさんです…」
ピリア:「でもあれ?それならどうして森の方に?」
カルシゥム:「ああ、それはな」
0:カルシゥムはテントを張り終え、ピリアの隣に腰を下ろす
カルシゥム:「実は俺、方向音痴なんだよ」
ピリア:「え、えぇぇ!?だ、だってカルさん、冒険者だったって…」
カルシゥム:「昔はパーティー組んでいたからな!」
カルシゥム:「俺は主に戦闘役を担っていたから」
カルシゥム:「そういう細々したのは仲間に全部任せてたんだよ」
0:衝撃の事実を知り、顔を青く染めるピリア
ピリア:「ど、どどど、どうするんですかぁ!?」
ピリア:「あ、アタシ達、このままじゃ遭難…!」
カルシゥム:「ま、何はともあれ、まずは飯の支度をしよう」
ピリア:「で、でもぉ!」
0:カルシゥムは荷物から料調理道具を取り出す
カルシゥム:「本当、このアイテムボックスは重宝するな。」
カルシゥム:「鞄くらいの大きさなのに結構な容量があるから、長旅には便利だよ本当」
ピリア:「か、カルさぁん!聞いてくださいよぉ!」
ピリア:「もしかしたら、この森から出られないかもしれないのにぃ…!」
0:調理道具を取り出し終えたカルシゥムは、ピリアの方へと顔を向ける
カルシゥム:「慌てて考えたことってのは、大抵は良い結果に繋がらんよ」
カルシゥム:「日が上るまでの間は体を休めて、じっくりと対策を考えようぜお嬢」
ピリア:「うぅ…そ、そんなぁ…」
カルシゥム:「それに今回はお嬢にとって初めての冒険だ」
カルシゥム:「緊張の連続や体の酷使で、心身ともに疲れきっているはず。違うか?」
0:カルシゥムの言葉を受け、ピリアは思い出したかのように動きを止める
ピリア:「あ、うぅ…そ、そういえば、身体中が何だか…イタタ!」
カルシゥム:「ほれほれ、ここに横になって待ってな」
カルシゥム:「今、飯を作ってやるからよ」
ピリア:「あうぅ…しゅ、しゅみません…」
カルシゥム:「それはこっちの台詞だ」
カルシゥム:「さっきまで俺自身、方向音痴だったことなんてすっかり忘れてたからなぁ…」
カルシゥム:「俺がもっとしっかりしてりゃ、こんなことにはならんかった」
カルシゥム:「改めて、お嬢。済まなかった」
0:カルシゥムは料理の手を止め、ピリアに頭を下げる。
ピリア:「あ、え、ちょっ…!」
ピリア:「や、やめてくださいよぉ!」
ピリア:「い、一番悪いのは、へ、へなちょこなアタシなんですからぁ!」
カルシゥム:「はは、かもな」
ピリア:「ひぐぅ…」
カルシゥム:「うそうそ!冗談だって!」
カルシゥム:「どっちが悪いか論争は、これでおしまい。」
カルシゥム:「な?」
ピリア:「は、はぃ…あの、カルさん」
カルシゥム:「なんだ、お嬢」
ピリア:「ありがとう…ございます」
ピリア:「カルさんがいてくれて…良かったです」
0:カルシゥムは照れくさそうに肩をすくめる
カルシゥム:「それこそお互い様だ。」
カルシゥム:「お嬢がいなきゃ俺は今頃、ただの化け物だ」
カルシゥム:「だから…ありがとな、お嬢」
ピリア:「え、えへへ…」
0:二人が笑いあった、その時
0:森の中から何かが近づいて来る音が二人の耳に届く
ピリア:「ひっ…か、カルさん!」
カルシゥム:「お嬢、杖持って俺の後ろに」
カルシゥム:「戦闘の手順は分かるな?」
ピリア:「は、はい!だ、大丈夫です!」
カルシゥム:「よし。相手が何者か分からない状況だ。」
カルシゥム:「魔力探査を行いつつ、相手の動向を確かめる。」
カルシゥム:「お嬢、魔力探査は任せる。」
カルシゥム:「俺は奴(やっこ)さんの出方を伺い、必要に応じて迎撃する」
ピリア:「わ、分かりました!」
0:更に音が二人の元へと近づいて来る
0:二人に緊張が走る、その時
カルシゥム:「…ん?これは」
ピリア:「ひぃぃ!な、なんですかあれぇ!?」
0:森の中から出てきたのは人の形をとった泥のかたまりだった
0:泥のかたまりはそのまま焚き火の近くにいたピリアに向かって
0:ずるりずるりと近づいていく
カルシゥム:「あ、お嬢そいつは…」
ピリア:「ぴぃぎぃぃい!?な、なな、何でアタシの方にぃぃ!?」
ピリア:「か、かかか、カルさぁん!?た、助けてぇぇ!」
0:やがて泥のかたまりは両手を広げ、ピリアに向かって抱きついた。
ピリア:「いやぁぁぁー!?た、たべ、たべないでぇぇ!」
カルシゥム:「お嬢、お嬢!」
ピリア:「あぁ…か、カルさん…し、死んだら一緒のお墓にぃぃ…」
カルシゥム:「そいつをよく見ろって」
ピリア:「へ?あれぇ…?アタシ…生きてる…」
0:ピリアへと抱きついた泥のかたまりの正体は
ピリア:「お、女の子…?」
0:冒険者の装備を見に纏った赤髪の少女だった
ピリア:「って…あ、あ、た、倒れ」
0:赤髪の少女はピリアに抱きついたまま
ピリア:「や、やめ、やめてぇ!これアタシの一張羅(いっちょうら)…!」
0:二人折り重なって地面へと倒れこんだ。
0:少女にまとわりついていた泥のかたまりごと
ピリア:「へぶぅぅぅ!?あばば!」
ピリア:「口と鼻に…!ど、どろがぁおぼぼぼぼ!」
カルシゥム:「あー…河で水組んでくるわ」
ピリア:「ま、まってぇ…!せ、せめて、起こしてから行ってぇ!」
ピリア:「何でいつもアタシばっかりこんな目にぃぃっ!?」
0:冒険初日の迷子の二人
0:森の中から現れた冒険者風の赤髪の少女
0:二人は無事に森を抜けて自由都市カナードへたどり着けるのだろうか?
ピリア:「誰かぁ!誰かたずけでくださぁぁぁーい!」
0:次回に続け…るよう頑張るます
0:ガタゴトと音を鳴らし、馬車が動く
0:それに合わせて馬車は軽く上下に揺れる
ピリア:「か、カルさぁん…」
カルシゥム:「ん?どうしたお嬢」
ピリアが涙目でカルシゥムを見る
ピリア:「お、お尻が…い、痛いですぅ…!」
カルシゥム:「そういえばお嬢、馬車は初めてだったな」
ピリア:「た、旅人のみなさんは、いつもこんなにお尻を痛めて」
ピリア:「旅を続けているんですか?」
0:ピリアの言葉を受けたカルシゥムは楽しげにカタカタと顎を鳴らす
カルシゥム:「そういう奴がいない訳じゃないけど」
カルシゥム:「大体の奴が…ほら。あんな感じで対応しているよ」
0:カルシゥムが目を顔を向けた方向に目を向けると
0:そこには布で作られたであろうクッションに座り
0:談笑している一団の姿があった
カルシゥム:「馬車での移動は長期間に渡ることの方が多い。」
カルシゥム:「国にもよるが、大抵の街道は大きな街の近くでもない限り」
カルシゥム:「舗装(ほそう)整備されていないのさ」
ピリア:「だ、だから、こんなに揺れると…イタタ」
カルシゥム:「そうだ。まぁ、大抵の奴等はああして自前でクッションを作ったり」
カルシゥム:「服のズボンや下着を厚手の物に替えたりして対応しているって訳だ」
ピリア:「な、納得です…で、でも私はど、どうすれば…」
カルシゥム:「そうだな…今は野営用に持ってきた」
カルシゥム:「着替えと毛布を丸めて尻の下に敷いてみな」
カルシゥム:「多少は違うはずだ」
ピリア:「や、やってみます…よい…しょっと…」
ピリア:「…うーん」
カルシゥム:「どうだ?」
ピリア:「さ、さっきよりは…少し痛くなくなったかも…です」
カルシゥム:「まぁ、応急的な対応だからな。」
カルシゥム:「カナードに着く前のタイミングで野営をするだろうから」
カルシゥム:「そこら辺に住み着いてる野生のスライムを使って」
カルシゥム:「スライムクッションを作ろう。作り方、教えてやるよ」
ピリア:「え、えぇ!す、スライムでクッション作るんですかぁ!?」
カルシゥム:「はは、驚くよな。俺も初めてこれを知ったときはビックリしたもんだよ」
ピリア:「で、でも、スライムって倒すとすぐにドロドロに溶けて消えちゃいますよね?」
カルシゥム:「狩り方次第で、あの弾性を失わせないように出来るのさ」
ピリア:「そ、そんな狩り方があるんですねぇ…」
カルシゥム:「おまけにスライムは基本的に腐らないからな」
カルシゥム:「定期的に水に1時間~2時間の間、浸けておくだけで」
カルシゥム:「匂いも汚れも取れちまう優れものさ」
ピリア:「か、カルさんって、物知りですよねぇ…すごいなぁ」
0:照れくさそうにカルシゥムはカタカタと顎を揺らす
カルシゥム:「まぁ、これでも生前は冒険者だったからな」
カルシゥム:「生きている間は色々と学んだもんさ」
ピリア:「え、えと…か、カルさんの生きている時って…」
0:周囲が少し騒がしくなってきた。馬車に同乗していた旅人達が
0:馬車の後方へ目を向けている。
ピリア:「な、何かあったでしょうか…?」
カルシゥム:「…お嬢、武装術式の準備しときな」
ピリア:「か、カルさん…?」
カルシゥム:「後方からそれなりのデカさの魔力反応が3つ」
カルシゥム:「かなりの早さでこっちに向かってきている」
ピリア:「え、えぇ!?そ、それって…!」
カルシゥム:「魔物に狙われたみたいだな」
ピリア:「ど、どど、どうしましょうカルさぁん…!」
0:不意に、馬の走る速度が上がる
0:他の乗客の話を受け、御者が速度を上げたようだ
0:小柄なピリアは馬車の後方へと体がゆっくりと向かっていく
ピリア:「あ、あばばば…!」
カルシゥム:「お嬢!何かに掴(つか)まれるか!?」
ピリア:「つ、つかまる!?ええと、ええと!」
0:ピリアはカルシゥムの付いた触媒の杖を強く抱き締める
カルシゥム:「いや俺じゃなくて!ああ、もう!」
カルシゥム:「お嬢!武装術式!詠唱は短縮で!」
ピリア:「は、はい!」
ピリア:「け、顕現(けんげん)せよ!カルシゥム!」
0:ピリアが詠唱を終えると普段よりも少し小柄なスケルトンが現れる。
0:同乗していた旅人達はパニックになり騒ぎ出す
ピリア:「ひ、ひぃぃ!ほ、他の旅人さん達が武器を構えてますよぉぉ!?」
カルシゥム:「時間がねぇ!お嬢!こっちだ」
0:カルシゥムはピリアを小脇に抱え、荷物を背負う
ピリア:「か、かか、カルさん!?な、何を…!」
カルシゥム:「お嬢!口をしっかり閉じとけ!」
ピリア:「ま、まま、まさかぁぁ!?」
カルシゥム:「行くぞ!」
0:カルシゥムは馬車の後方からその身を投げ出した
ピリア:「ぴぎゃあぁぁぁー!?し、しし死ぬぅぅぅー!」
0:あまりの恐怖にピリアはカルシゥムの腕の中で身を激しく捩る
カルシゥム:「お嬢!危ないから動くな!」
ピリア:「む、むむむ、無理ですぅぅー!」
0:カルシゥムは無事、地面へと着地した
0:それと同時にピリアが小脇からすっぽぬけてしまい
カルシゥム:「あ」
ピリア:「へぶぅぅぅー!?」
0:ヘッドスライディングの状態で顔から地面へと落ちた
カルシゥム:「お、お嬢!すまねぇ!だ、大丈夫か?」
ピリア:「あぶぶぶ…にゃ、にゃんとかぁ…」
0:カルシゥムはピリアの顔の状態を確認した。
0:鼻を打ったのか鼻血が流れ
0:顔には軽い切り傷といくつかの擦り傷が確認できた
カルシゥム:「すまねぇお嬢。まさか腕の力が緩むとは…」
ピリア:「だ、大丈夫でふ…なんとか生きてまふ…あぶぶ」
カルシゥム:「治療するから少し待っててくれ。」
0:カルシゥムは周囲を即座に確認した
0:先程まで馬車を追っていた魔物達はそのまま
0:馬車を追っていったようだ
カルシゥム:「…行ったみたいだな。お嬢、今のうちに治療するぞ」
ピリア:「あ、あい。」
0:カルシゥムは荷物の中からピリアが作成した治療用のポーションを取り出し
0:ピリアの治療を開始した。
ピリア:「か、カルさん、さっきの魔物はいったい…」
カルシゥム:「あれはレーシングウルフ。」
カルシゥム:「基本的には縄張りに入らなければ無害なもんだが」
カルシゥム:「今回は運が悪かったみたいだ。」
ピリア:「運が…?」
カルシゥム:「今の季節、あいつらは発情期だ。」
ピリア:「え、えぇ…発情期、です?」
カルシゥム:「そうだ。奴等の求愛の儀式に巻き込まれたんだよ、俺たちは」
ピリア:「求愛の…儀式…?走ることが…?」
0:ピリアの治療しながら、カルシゥムは話を続ける
カルシゥム:「レーシングウルフはその名の通り求愛の儀式の際に」
カルシゥム:「複数のオスがメスをめぐってレースをするのさ」
ピリア:「レース」
カルシゥム:「メスは最も早かったオスのみと交尾するっていうのが奴等の習性なんだよ」
カルシゥム:「負けたオスは他のメスのもとに行き、さらにレースを行う」
ピリア:「は、早さが全て…なんでしょうか…?」
カルシゥム:「さぁな。だが、噂じゃあまりの早さに風の女神が祝福を与えたとかなんとか」
ピリア:「か、変わった習性を持つ魔物なんですね」
カルシゥム:「なんにしても、はた迷惑な習性だよ…っと」
カルシゥム:「ほれ治療完了だ」
ピリア:「あ、ありがとうございます、カルさん」
0:ポーションの効果が高かったのかピリアの顔の傷は
0:ほとんどなくなり、鼻血も止まっていた。
ピリア:「そ、それでカルさん」
カルシゥム:「ん?なんだお嬢」
ピリア:「あ、アタシ達はこれからどうすれば…」
カルシゥム:「あー…ここからだと次の乗り合い馬車の停留所まで結構あるな」
ピリア:「って言うことは…」
カルシゥム:「ここから歩きだな」
ピリア:「そ、そんなぁ…」
カルシゥム:「何事も経験だ!お嬢。」
カルシゥム:「何、バテたら途中で運んでやるからがんばれ!」
ピリア:「うぅ…だからお外は嫌いなんですよぉ…!」
0:二人は街道を歩き、次の停留所に向かった。
0:数時間後、二人は森の中で野営をしていた。
ピリア:「ってあれ?あ、アタシ達何で森のなかに!?」
カルシゥム:「流石はお嬢。不運(ハードラック)に磨きがかかっているな」
ピリア:「え、え?」
0:カルシゥムはテントを張りながら、ピリアへと向き直る。
カルシゥム:「俺たちはあれから次の停留所目指して移動を始めたんだが」
カルシゥム:「その途中で運悪く、タイラントバニーと遭遇しちまったんだよ」
ピリア:「な、なんだか凄そうな名前です…」
カルシゥム:「実際すごいからなぁ」
カルシゥム:「体長およそ2メルテ(2メートル)、体重は100キルタ(100キロ)の大型草食獣さ」
ピリア:「アタシ達、そんな化け物と遭遇してたんですかぁ!?」
カルシゥム:「お嬢はそこで気を失って、俺がここまで背負ってきた」
ピリア:「アタシ達、よく無事でしたね!?」
カルシゥム:「あいつらは相手の実力を見るからな」
カルシゥム:「お嬢を見た後、すぐにこっちに背を向けてどっか行っちまった」
ピリア:「え、それって…」
カルシゥム:「拳を振るうに値しないと見られたらしい」
ピリア:「はは、ですよねぇ…」
カルシゥム:「あいつら強敵と戦うことが何より好きだからなぁ」
ピリア:「ぶ、物騒なウサギさんです…」
ピリア:「でもあれ?それならどうして森の方に?」
カルシゥム:「ああ、それはな」
0:カルシゥムはテントを張り終え、ピリアの隣に腰を下ろす
カルシゥム:「実は俺、方向音痴なんだよ」
ピリア:「え、えぇぇ!?だ、だってカルさん、冒険者だったって…」
カルシゥム:「昔はパーティー組んでいたからな!」
カルシゥム:「俺は主に戦闘役を担っていたから」
カルシゥム:「そういう細々したのは仲間に全部任せてたんだよ」
0:衝撃の事実を知り、顔を青く染めるピリア
ピリア:「ど、どどど、どうするんですかぁ!?」
ピリア:「あ、アタシ達、このままじゃ遭難…!」
カルシゥム:「ま、何はともあれ、まずは飯の支度をしよう」
ピリア:「で、でもぉ!」
0:カルシゥムは荷物から料調理道具を取り出す
カルシゥム:「本当、このアイテムボックスは重宝するな。」
カルシゥム:「鞄くらいの大きさなのに結構な容量があるから、長旅には便利だよ本当」
ピリア:「か、カルさぁん!聞いてくださいよぉ!」
ピリア:「もしかしたら、この森から出られないかもしれないのにぃ…!」
0:調理道具を取り出し終えたカルシゥムは、ピリアの方へと顔を向ける
カルシゥム:「慌てて考えたことってのは、大抵は良い結果に繋がらんよ」
カルシゥム:「日が上るまでの間は体を休めて、じっくりと対策を考えようぜお嬢」
ピリア:「うぅ…そ、そんなぁ…」
カルシゥム:「それに今回はお嬢にとって初めての冒険だ」
カルシゥム:「緊張の連続や体の酷使で、心身ともに疲れきっているはず。違うか?」
0:カルシゥムの言葉を受け、ピリアは思い出したかのように動きを止める
ピリア:「あ、うぅ…そ、そういえば、身体中が何だか…イタタ!」
カルシゥム:「ほれほれ、ここに横になって待ってな」
カルシゥム:「今、飯を作ってやるからよ」
ピリア:「あうぅ…しゅ、しゅみません…」
カルシゥム:「それはこっちの台詞だ」
カルシゥム:「さっきまで俺自身、方向音痴だったことなんてすっかり忘れてたからなぁ…」
カルシゥム:「俺がもっとしっかりしてりゃ、こんなことにはならんかった」
カルシゥム:「改めて、お嬢。済まなかった」
0:カルシゥムは料理の手を止め、ピリアに頭を下げる。
ピリア:「あ、え、ちょっ…!」
ピリア:「や、やめてくださいよぉ!」
ピリア:「い、一番悪いのは、へ、へなちょこなアタシなんですからぁ!」
カルシゥム:「はは、かもな」
ピリア:「ひぐぅ…」
カルシゥム:「うそうそ!冗談だって!」
カルシゥム:「どっちが悪いか論争は、これでおしまい。」
カルシゥム:「な?」
ピリア:「は、はぃ…あの、カルさん」
カルシゥム:「なんだ、お嬢」
ピリア:「ありがとう…ございます」
ピリア:「カルさんがいてくれて…良かったです」
0:カルシゥムは照れくさそうに肩をすくめる
カルシゥム:「それこそお互い様だ。」
カルシゥム:「お嬢がいなきゃ俺は今頃、ただの化け物だ」
カルシゥム:「だから…ありがとな、お嬢」
ピリア:「え、えへへ…」
0:二人が笑いあった、その時
0:森の中から何かが近づいて来る音が二人の耳に届く
ピリア:「ひっ…か、カルさん!」
カルシゥム:「お嬢、杖持って俺の後ろに」
カルシゥム:「戦闘の手順は分かるな?」
ピリア:「は、はい!だ、大丈夫です!」
カルシゥム:「よし。相手が何者か分からない状況だ。」
カルシゥム:「魔力探査を行いつつ、相手の動向を確かめる。」
カルシゥム:「お嬢、魔力探査は任せる。」
カルシゥム:「俺は奴(やっこ)さんの出方を伺い、必要に応じて迎撃する」
ピリア:「わ、分かりました!」
0:更に音が二人の元へと近づいて来る
0:二人に緊張が走る、その時
カルシゥム:「…ん?これは」
ピリア:「ひぃぃ!な、なんですかあれぇ!?」
0:森の中から出てきたのは人の形をとった泥のかたまりだった
0:泥のかたまりはそのまま焚き火の近くにいたピリアに向かって
0:ずるりずるりと近づいていく
カルシゥム:「あ、お嬢そいつは…」
ピリア:「ぴぃぎぃぃい!?な、なな、何でアタシの方にぃぃ!?」
ピリア:「か、かかか、カルさぁん!?た、助けてぇぇ!」
0:やがて泥のかたまりは両手を広げ、ピリアに向かって抱きついた。
ピリア:「いやぁぁぁー!?た、たべ、たべないでぇぇ!」
カルシゥム:「お嬢、お嬢!」
ピリア:「あぁ…か、カルさん…し、死んだら一緒のお墓にぃぃ…」
カルシゥム:「そいつをよく見ろって」
ピリア:「へ?あれぇ…?アタシ…生きてる…」
0:ピリアへと抱きついた泥のかたまりの正体は
ピリア:「お、女の子…?」
0:冒険者の装備を見に纏った赤髪の少女だった
ピリア:「って…あ、あ、た、倒れ」
0:赤髪の少女はピリアに抱きついたまま
ピリア:「や、やめ、やめてぇ!これアタシの一張羅(いっちょうら)…!」
0:二人折り重なって地面へと倒れこんだ。
0:少女にまとわりついていた泥のかたまりごと
ピリア:「へぶぅぅぅ!?あばば!」
ピリア:「口と鼻に…!ど、どろがぁおぼぼぼぼ!」
カルシゥム:「あー…河で水組んでくるわ」
ピリア:「ま、まってぇ…!せ、せめて、起こしてから行ってぇ!」
ピリア:「何でいつもアタシばっかりこんな目にぃぃっ!?」
0:冒険初日の迷子の二人
0:森の中から現れた冒険者風の赤髪の少女
0:二人は無事に森を抜けて自由都市カナードへたどり着けるのだろうか?
ピリア:「誰かぁ!誰かたずけでくださぁぁぁーい!」
0:次回に続け…るよう頑張るます