台本概要
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タイトル | バベルの断絶 |
---|---|
作者名 | Kei (@kei20_) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(不問2) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
「高度四〇〇キロメートル。秒速七.六二キロメートルで周回中。今日もまた事もなし」 二人きりの宇宙ステーション。世界各国から集まった宇宙飛行士の会話。 最新版・利用についてはこちら:https://note.com/kei20_ 243 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
A | 不問 | 27 | AとBの声だけが、無音の船内に響く。バックアップ。 |
B | 不問 | 27 | AとBの声だけが、無音の船内に響く。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:バベルの塔。
0:ノアの子孫達、人類が天に達するほどの塔を建てようとしたことに神が怒り、それまで一つであった言語を不統一にして混乱させ、人々は散り散りになり、建築を中止させたという。
A:高度四〇〇キロメートル。秒速七.六二キロメートルで周回中。今日もまた事もなし。
B:まだまだ現役だと思っていたんだが、この国際宇宙ステーションも型遅れか。
A:時間にゃ何物も勝てない。仕方ないさ。つぎはぎだが、アップデートされているんだけどな。
B:ついでに予算には誰も勝てないってね。今度の荷物を投下したらポイント・ネモに目掛けて落下。人工衛星の墓場にある三〇〇機の仲間入りか。
A:寂しいものだな。この四二〇トンの体躯も断熱圧縮で融解、破片しか残らなくなるのか。
B:各国が協力して建造した技術の結晶も十年たてば鉄屑同然だ。
A:ここに来る時はフラグシップに囲まれて過ごしているはずなのに、帰った時には俺たちはレトロになっちまう。
B:レトロにはレトロの良さがあるさ。マモルモーリ宇宙飛行士は、国境線は見えなかったって言ってたそうじゃないか。
A:もっとレトロになると青さを語らないといけないぜ。
B:「空は非常に暗くて、地球は青みがかっている。」だったかな。ガガーリンインタビューだっけか。二〇二一年に公開されたテープでは「無重力状態は面白い。すべてが浮かんでいる。」だそうだ。宇宙ではみんな無邪気になっちまうのかねえ。
A:俺たち無邪気なアストロノーツってな。お互い様だろ。ここに来てからは同じ地球人だよ。……それに、ほら、見えちまうんだよ。国境線の警備灯だ。
B:マザーアースにひでぇ落書きだな。無邪気な俺たちには少しばかり灯りが強過ぎる。
A:トーマス・アルバ・エジソンも宇宙から見える闇を作り出すとは思ってなかったろうさ。世界から夜は消えなかった。
B:夜は悪いものじゃないさ。暗がりの中じゃ誰もがモノクロの世界に生きてる。
A:俺たちのようにな。
B:いいねえ、俺は好きだぜ、そういうの。
A:マイケルジャクソンのブラックオアホワイトでも流すか。
B:いいな。でも踊るなよ。酸素がなくなっちまうからな。
A:最期くらい踊れるか試してみたかったんだがな。
B:存分に踊ったろ。他のクルーはどうした。
A:浮かんでるよ。無重力を存分に楽しんでるころさ。
B:結局俺とお前だけしか残ってないんだな。
A:みんな笑ってたよ。最期の通信で決まっていたのがお前、バックアップが指定されていなかったんだから仕方ない。ここじゃジェンガもアームレスリングもできないからな。できるのはロックペーパーシザーズくらいだよ。ポーカーみたいにインチキもない。
B:もっとこう、血みどろの争いみたいなのが起きるかと思ってたぜ。
A:俺たちは世界各国から集まった無邪気なアストロノーツ様だ。俺たちに国なんてない。そうだろ。俺たちの命は平等だ。『俺たちは、願ってる事も信じてることも、祈っている事も、今の今まで大して変わりゃしなかった。』
B:こんな居心地のいいところは初めてだったよ。
A:もう少しこうしていたかったんだがなあ。
B:俺もだよ、兄弟。
A:まだ地上には俺たちが吸っても大丈夫な空気が残ってるのかね。
B:さあな、美味しくはなってるかもしれないな。
A:もう何日になるかね。俺たちがここに来てから。
B:最期のドッキングから一年だ。喜べよ、ギネス大幅更新だぜ。
A:二度と自分の足で地面を踏み締めて歩けなくなったって事だけどな。筋力測定したらもう四〇パーセント近く落ちてる。
B:もう歩く機会はないだろ。
A:違いない。
B:ここまで来て祈るのもなんだが、どうだい。少しは天に近いから祈りも届きやすいかもしれないぞ。
B:地球は地獄ってことか。
A:今の地球は地獄だろ。少なくとも人類にとってはな。
B:通信断絶。電磁波観測。各都市部、各軍事基地で起きたマグネシウムを爆発させたような光と火災に煤煙(ばいえん)。
A:観測の結果。核の撃ち合いが起きましたとさ。
B:最期の荷物は核弾頭。
A:生き残った主要都市に自動照準されたミサイルをばら撒きながら周回を繰り返した後、何もない海に落下。
B:プランの変更は無し。
A:命令出した大馬鹿野郎が生きているかどうかもわからないけどな。
B:なあ。
A:なんだ?
B:俺たちがやることに意味があるのかなあ。
A:少なくとも残った人類には意味があるさ。
B:誰にも勝ち逃げ、見なかったふりは許されない、か。
A:『「平和」は消え去った。』
B:『人類に「平等」を。』
A:狂ってやがる。
B:俺たちもな。
A:さて、時間だ。明かりを消しに行こうか。Start our mission.
B:おねんねの時間、了解。Ignition.
0:バベルの塔。
0:ノアの子孫達、人類が天に達するほどの塔を建てようとしたことに神が怒り、それまで一つであった言語を不統一にして混乱させ、人々は散り散りになり、建築を中止させたという。
A:高度四〇〇キロメートル。秒速七.六二キロメートルで周回中。今日もまた事もなし。
B:まだまだ現役だと思っていたんだが、この国際宇宙ステーションも型遅れか。
A:時間にゃ何物も勝てない。仕方ないさ。つぎはぎだが、アップデートされているんだけどな。
B:ついでに予算には誰も勝てないってね。今度の荷物を投下したらポイント・ネモに目掛けて落下。人工衛星の墓場にある三〇〇機の仲間入りか。
A:寂しいものだな。この四二〇トンの体躯も断熱圧縮で融解、破片しか残らなくなるのか。
B:各国が協力して建造した技術の結晶も十年たてば鉄屑同然だ。
A:ここに来る時はフラグシップに囲まれて過ごしているはずなのに、帰った時には俺たちはレトロになっちまう。
B:レトロにはレトロの良さがあるさ。マモルモーリ宇宙飛行士は、国境線は見えなかったって言ってたそうじゃないか。
A:もっとレトロになると青さを語らないといけないぜ。
B:「空は非常に暗くて、地球は青みがかっている。」だったかな。ガガーリンインタビューだっけか。二〇二一年に公開されたテープでは「無重力状態は面白い。すべてが浮かんでいる。」だそうだ。宇宙ではみんな無邪気になっちまうのかねえ。
A:俺たち無邪気なアストロノーツってな。お互い様だろ。ここに来てからは同じ地球人だよ。……それに、ほら、見えちまうんだよ。国境線の警備灯だ。
B:マザーアースにひでぇ落書きだな。無邪気な俺たちには少しばかり灯りが強過ぎる。
A:トーマス・アルバ・エジソンも宇宙から見える闇を作り出すとは思ってなかったろうさ。世界から夜は消えなかった。
B:夜は悪いものじゃないさ。暗がりの中じゃ誰もがモノクロの世界に生きてる。
A:俺たちのようにな。
B:いいねえ、俺は好きだぜ、そういうの。
A:マイケルジャクソンのブラックオアホワイトでも流すか。
B:いいな。でも踊るなよ。酸素がなくなっちまうからな。
A:最期くらい踊れるか試してみたかったんだがな。
B:存分に踊ったろ。他のクルーはどうした。
A:浮かんでるよ。無重力を存分に楽しんでるころさ。
B:結局俺とお前だけしか残ってないんだな。
A:みんな笑ってたよ。最期の通信で決まっていたのがお前、バックアップが指定されていなかったんだから仕方ない。ここじゃジェンガもアームレスリングもできないからな。できるのはロックペーパーシザーズくらいだよ。ポーカーみたいにインチキもない。
B:もっとこう、血みどろの争いみたいなのが起きるかと思ってたぜ。
A:俺たちは世界各国から集まった無邪気なアストロノーツ様だ。俺たちに国なんてない。そうだろ。俺たちの命は平等だ。『俺たちは、願ってる事も信じてることも、祈っている事も、今の今まで大して変わりゃしなかった。』
B:こんな居心地のいいところは初めてだったよ。
A:もう少しこうしていたかったんだがなあ。
B:俺もだよ、兄弟。
A:まだ地上には俺たちが吸っても大丈夫な空気が残ってるのかね。
B:さあな、美味しくはなってるかもしれないな。
A:もう何日になるかね。俺たちがここに来てから。
B:最期のドッキングから一年だ。喜べよ、ギネス大幅更新だぜ。
A:二度と自分の足で地面を踏み締めて歩けなくなったって事だけどな。筋力測定したらもう四〇パーセント近く落ちてる。
B:もう歩く機会はないだろ。
A:違いない。
B:ここまで来て祈るのもなんだが、どうだい。少しは天に近いから祈りも届きやすいかもしれないぞ。
B:地球は地獄ってことか。
A:今の地球は地獄だろ。少なくとも人類にとってはな。
B:通信断絶。電磁波観測。各都市部、各軍事基地で起きたマグネシウムを爆発させたような光と火災に煤煙(ばいえん)。
A:観測の結果。核の撃ち合いが起きましたとさ。
B:最期の荷物は核弾頭。
A:生き残った主要都市に自動照準されたミサイルをばら撒きながら周回を繰り返した後、何もない海に落下。
B:プランの変更は無し。
A:命令出した大馬鹿野郎が生きているかどうかもわからないけどな。
B:なあ。
A:なんだ?
B:俺たちがやることに意味があるのかなあ。
A:少なくとも残った人類には意味があるさ。
B:誰にも勝ち逃げ、見なかったふりは許されない、か。
A:『「平和」は消え去った。』
B:『人類に「平等」を。』
A:狂ってやがる。
B:俺たちもな。
A:さて、時間だ。明かりを消しに行こうか。Start our mission.
B:おねんねの時間、了解。Ignition.