台本概要

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タイトル 帝都退魔機関 大和撫子!
作者名 暁寺 郁  (@him_like_me)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男2、女1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 王制の道を歩んできた日の国。
帝都東京を舞台に、魔獣と戦う退魔官の活躍の物語。

軽めの戦闘シーンがあります。
朱雀以外の男女比変更は不可ですが、演者様の性別は不問です。
軽微なアドリブ可。
※SE指定がありますが、無視しても大丈夫です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
92 リュウ。帝都で魔獣を討つ退魔官の青年。お堅く真面目なイメージだが、時折過激派。
椎名 89 シイナ。琉と同じチームで魔獣と戦う。人当たりがよく若干のんびり屋。
梨音 42 リオン。琉、椎名とともに魔獣を狩る「撫子」と呼ばれる特別階級。退魔の力はないが、退魔官にとって喉から手が出るほど欲しい存在。明るく優しく食いしん坊。
朱雀 不問 26 スザク。退魔機関壊滅を企てる。謎の悪役のち小物。不憫。冒頭のナレーションも担当。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
朱雀:(※ナレーター兼任) 朱雀:列島 日の国(ひのくに)、帝都、東京。 朱雀:王の居城(きょじょう)を有する東京は、もっとも人口の多い都市のひとつであり、華やかに発展し続けてきた。 朱雀:全世界の、主に大国で出現が確認されている、人類の天敵たる魔獣に対抗する組織である退魔機関も、この帝都に、日の国の総本部を置く。 朱雀:それは、帝都退魔機関(ていと たいまきかん)と呼ばれた。 朱雀:機関に所属する退魔官は、生まれながらに退魔の力を有する者であり、その頭数(あたまかず)の少なさから、魔獣専用の軍人として優遇されている。 朱雀:これは、そんな退魔官たちの活躍と日常の物語である。 0:間をおいて 椎名:はー、今日も帝都は平和だねえ。 琉:おい。 椎名:天気もいいし。 琉:椎名(しいな)、気を抜くなよ。 琉:魔獣はいつ湧(わ)いて出るかわからないんだからな。 椎名:でも、ここのところ奴ら大人しいし、まったりできる時には、しときたいじゃない。 琉:俺の統計上、お前がそうやってだらけてる時には、奴らが襲って来やすい。 椎名:ええー。 琉:……ほら。 椎名:え? 琉:出てきた。 椎名:マジ? 琉:やっぱりお前がだらけてるからだな。 椎名:琉(りゅう)、ひどくない!? 椎名:それならきっときみの言霊(ことだま)のせいだよ! 琉:俺が言ったからって、いちいちその現象が起こるか。 椎名:それなら俺がだらけてるのだって、そんなことで…… 琉:堂々と認めるな。 琉:とにかく、やるぞ。梨音(りおん)は…… 椎名:おだんご買いに行ってもらっちゃったね。 琉:まあいい、このくらいの小物なら、梨音がいなくても大丈夫だ。 琉:行くぞ。 琉:  椎名:(※周囲に向かって) 椎名:皆さん、魔獣です。下がってください! 琉:帝都退魔機関、大和(やまと)です。 琉:下がって! 琉:椎名、手を出せ。 椎名:はいよ。 0:SE パン、と手を合わせる音。 琉:捕縛結界(ほばくけっかい)発動! 椎名:絡め取れ! 大気の絹糸、大地の鎖! 琉:結界、展開完了。 琉:本当に小物だな。椎名、ぶち込め。 椎名:はーい。 椎名:魔弾装填(まだんそうてん)、悪いけど、至近距離から食らっちゃってね。 椎名:退魔小銃いくよ、ほいっと! 0:SE パン、という軽い銃声と、魔獣の咆哮 琉:よし、急所、入ったな。 椎名:いいよ、琉、退魔刀で一刀両断しちゃって! 琉:ふん。悪く思うなよ。消えろ。 琉:せい! 0:ザシュ、と刀で魔獣を切り伏せる 0:SEなければ少々の間。 椎名:よおし! 討伐完了! 琉:結界解除。椎名、報告。 椎名:してまーす。はい、本部送信っと。 椎名:みなさん、もう大丈夫ですよー。 0:遠くから梨音、登場 梨音:あぁー! 椎名:あ、梨音。 梨音:(※駆け寄りながら) 梨音:魔獣が出現していたのですね、どうして呼んで下さらなかったんですか! 琉:両手いっぱい串団子握りしめながら言うセリフか。 椎名:わー、1、2……8本は多くない? 梨音:(※息を切らせながら) 梨音:ハア、ハア、 梨音:だって、琉さんも椎名さんも沢山召し上がると思って……。 琉:わかったわかった、少し息を整えろ。 椎名:大丈夫だよ、梨音。 椎名:すごく小さな魔獣だったんだ。 椎名:きみの力を借りるまでもないくらいね。 梨音:それなら良かったですけど……あ、はい、おだんごです。 梨音:私はみたらしとつぶあんをいただきます。 梨音:あとはお二人で分けてくださいね! 椎名:あー、じゃあまあ、そこの長椅子に、とりあえず座ろうか。 椎名:おじさーん、お茶みっつ、いただけますかー! 0:少々の間 梨音:それにしても、こんなに人で賑わっているところに魔獣が出るなんて珍しいですね。 琉:そうだな。だが最近はよく報告が上がってきている。 琉:全体的に取るに足らないレベルだが。 梨音:うーん、何か、外的要因(がいてきよういん)があるかもしれないとか言ってましたっけ? 椎名:まだ断定はできないけどね。 椎名:魔獣は自然発生するもののはずなんだけど、そこに別の何かの力が加えられている可能性があるとか……。 琉:そんなことをわざわざやるにしては、お粗末な結果になっているがな。 椎名:そうだねえ……。 梨音:ですねえ……、あ、もうこんな時間! 梨音:すみません、私、約束があるんでした! 梨音:ちょっと出向いてきますね。 梨音:緊急の際はすぐに連絡ください! 琉:ああ、わかった。 梨音:では、行ってきます! 0:梨音、立ち上がって走り去る 椎名:せわしない子だなあ……。 琉:最近、単独行動が多いな? 椎名:梨音? うん、そうだね。 椎名:別にチームが強制で始終べったり一緒にいなきゃいけない訳じゃないけど、今までは割と常に一緒にいたもんね。 琉:……。 椎名:もしかして、いい人でも出来ちゃってたりして♪ 琉:……。 椎名:琉、顔、顔! すっごい顔になってるよ(笑)! 椎名:いけ好かない男のもとに、娘を嫁に出す顔だよそれ! 椎名:そんなの、きみのファンの前で見せたらだめだからね! 琉:ファンなんざいない。 椎名:退魔官は帝都の花形だよー? 椎名:そうでなくとも、昔からきみはモテるんだから。 椎名:無自覚って怖いな~。 琉:……。 椎名:睨まない、睨まない。 椎名:……まあでも、真面目な話、本当に梨音に、もしも好きな人が出来て、お嫁に行きたいって言ったら、どうする? 琉:別に。梨音が好きになるなら、相応の人間だろう。 琉:だが、俺の屍(しかばね)は越えてもらう。 椎名:無理だよ!(笑) 椎名:退魔官に、普通の人間は勝てないんだけど! 琉:冗談はともかくだ。 琉:いくら俺たちが退魔官だと言っても、個人の身の振り方までは強制されない。 琉:梨音が嫁に行くというなら、俺たちは「撫子(なでしこ)」を失うことになるかもしれないが、それも仕方ないだろう。 椎名:そうだねえ。 椎名:俺たちの撫子が梨音だったってだけで、この上ない幸運だったもんね。 琉:そうだな。 琉:俺たち帝都の退魔官は任意の数でチームを組んで「大和」という称号を名乗るが、すべてのチームに撫子が存在するわけじゃない。 琉:撫子の力を持つ者は、退魔の力を持つ者よりも希少(きしょう)な上、お互いの意志で契約を結べるわけでもない。 椎名:まったくの相性の問題だもんね。 椎名:子供の頃、魔獣に親を殺されてから、ずっと幼なじみ三人で身を寄せ合って暮らしてきたからさ、俺と琉、二人共に退魔の力が備わってたってだけでも驚いたのに、まさか梨音が、俺たちの撫子になるなんて、夢にも思わなかったよ。 琉:そのおかげで、俺たちは特務階級だからな。 椎名:撫子は戦闘力こそないけど、バフの名手だからね。ていうかそのために存在するようなものだもんね。 琉:撫子を加えた大和の総合力は、格段に上がる。 琉:これまで、倒せなかった魔獣はいない。 椎名:そうだね。それほどまでに強大な力を持つチームの称号が「大和撫子」だ。 琉:だがそれでもだ。 琉:梨音が自分の幸せを願ったとして、お前は反対するか? 椎名:しないね。血こそつながってなくても大切な兄妹、家族だもん。 椎名:それで俺たちとの仕事が出来なくなったとして、戦闘力が落ちたとしてもね。 琉:……椎名、お前もだ。 椎名:え? 琉:もしも、誰かを好いたとして、あるいはそうでなくともだ。 琉:お前も、個人の幸せを望む権利はあるんだからな。 椎名:ん……。 琉:もしもそういう時が来たら、ちゃんと言え。 椎名:うん。言うよ。 椎名:今のところ、そういう予定はまったくないんだけどね。 椎名:  椎名:もちろん、琉、きみもだよ。 椎名:きみにも、等しく自由はある。 琉:ああ。もしもそうなったとしたら、上は渋るかもしれないがな。 椎名:そうだね。 椎名:でもまあ、俺は、なんだかんだで、動けなくなるまで、きみ達とこの仕事をやっていきたいなーって思ってるんだけどね。 琉:……まあ、俺もだな。 椎名:けど、王制であり、すべての最終的決定権は王にあるとはいえ、議会もあり、人々の人権はきちんと守られている。 椎名:この国は、いい国だよね。 琉:ああ、そうだな。 椎名:それにしても、梨音は本当に彼氏でもできたかな? 琉:そうとも限らんが、今度それとなく聞いておくか。 椎名:本当に男の影が見えても、怒らないでよ? お父さん。 琉:馬鹿か(椎名にゲンコツ) 椎名:いったーい。グーで殴るなよー 0:間をおいて 0:深い地下へと続く階段を下りる二つの足音。 朱雀:それでは梨音さん、よろしいかな。こちらへ。 梨音:はい……。 朱雀:あまり大きく動かれないよう。 朱雀:刺激すると危険ですから。 梨音:わかりました。 朱雀:あれだ。あそこにうごめく、あの肉塊(にくかい)と同じように、あなたの兄上は……。 梨音:……はい。 朱雀:目には目を。 朱雀:あなたの兄上は、あなたの所属する、退魔機関に殺された。 朱雀:偽物の正義の使者、憎き退魔機関に。 梨音:……はい。 朱雀:二度とあのような悲劇が繰り返されぬよう……復讐を。 梨音:復讐を。 朱雀:ククク……(忍び笑いでフェードアウト) 0:数日経過程度の間 琉:座標KBY(ケービーワイ)、ゼロイチのサンロクにて大型魔獣確認! 梨音、梨音! 椎名:梨音、応答しないの? 琉:ああ、返事がない。 椎名:うーん……。 琉:他のチームも向かっている。 琉:多分問題はないだろうが……応答がないのは何故だ。 椎名:これまで、こんな事なかったもんね……。 琉:とにかく、俺たちも向かうぞ。 椎名:了解。 0:間をおいて 琉:なんだ、この魔獣は……。 椎名:なんか、変な気配がするね? 琉:気持ちが悪いな。 椎名:琉、結界張るよ! 琉:了解。 0:SE パン、と手を合わせる音 椎名:結界固定、各チームに伝達。 椎名:速攻動ける人から足止めの術式、もしくは攻撃お願いします。 椎名:いつもと様子が違うので気を付けて。 椎名:って、うわ! 琉:椎名! ……なんだこの圧力……瘴気(しょうき)? 椎名:結界は無事だね! なんだこれ!? 琉:まともに食らうな、椎名、これは…… 椎名:こんなの初めてだ、うわ、みんなバタバタ倒れてるよ、どうすんの! 琉:結界は生きてる、倒れている者を除き、総員退避、まずは自らの身を守るため距離を取ってくれ! 朱雀:クックック……。 琉:誰だ!? 椎名:琉、あそこ、魔獣の背後の建物の上! え!? 琉:あれは……梨音!? 朱雀:中将(ちゅうじょう)殿たちは、私の顔などご存じないかな? 朱雀:上沼朱雀(かみぬま すざく)、一介(いっかい)の退魔官にございます。 朱雀:そして、この魔獣を作り上げた者。 琉:作り上げた、だと? 朱雀:死にゆく人間の肉体と、その思念を使って。 椎名:なん、だって……? 朱雀:そしてこちらは、その見届け人。 朱雀:撫子、円梨音(まどか りおん)殿。 琉:梨音! 椎名:なんで! 朱雀:まだ梨音さんのご両親が存命中、彼女の兄上が獄中死されたのはご存じで? 琉:……知っている。 椎名:それと、何の関係がある! 朱雀:私の父もですよ……。 朱雀:彼らは、獄中で自殺を図ったと報じられた。 朱雀:けれど真実は違う! 朱雀:彼らは、帝都退魔機関の一派によって暗殺された! 朱雀:このように、魔獣を人工的に作り出すために! 琉:……! 椎名:この魔獣も……人工的に作られたっていうのか……。 梨音:そうです。 琉:梨音! 梨音:この魔獣のもとは、あるひとりの受刑者。 梨音:甲斐なく死にゆく人の肉体とその無念を練り上げ、魔獣を錬成(れんせい)する。 梨音:退魔機関の地下組織で昔から研究され続けてきた、禁忌(きんき)の研究です。 椎名:なぜそんな事を! 梨音、なんでそこにいるんだ! 朱雀:復讐ですよ。 朱雀:こんな研究を野放しにしたまま、何食わぬ顔で魔獣狩りを続け、正義を気取る退魔機関……。 朱雀:ならば、お前らも、その研究の末の狂った魔獣の餌食になってみればいい! 梨音:私の兄は、暴漢から私を助けるために、誤って相手を殺してしまいました。 梨音:必死に突き倒した相手の、打ちどころが悪かったのです。 梨音:まだ五歳の私。そして十五歳の兄。 梨音:それは、過失致死であるはずでした。 梨音:けれど、裁判で、兄は反省の文言(もんごん)を一言も口にしなかったと聞きます。 朱雀:そうですね。 朱雀:彼は言った。 朱雀:自分のしたことが、少しでも罪になるというのなら、裁くといい。 朱雀:私欲のために自分を、妹を殺そうとしたあの男を許さない。 朱雀:何度同じことが起ころうと、自分も同じことを繰り返す……と。 梨音:そのため、兄は危険人物とみなされ、監獄に入れられました。 梨音:そして、そこで自殺を、と。 朱雀:けれどそれは真っ赤なウソ! 朱雀:彼は、利用され、殺されたのですよ! 私の父も同じ! 朱雀:しかし、当時の研究は失敗に終わった。 朱雀:退魔機関に籍を置くことが出来た私は、その研究機関のひとつを突き止め、何食わぬ顔で潜り込んだ。 朱雀:そしてようやく、成果が日の目を見たのですよ。 朱雀:ごらんなさい、この魔獣を! 椎名:なんで復讐のために、そんな、父親を殺されたのと、同じ手段で! 朱雀:こんな薄汚い機関は打ち壊したうえで、私がてっぺんに君臨してしまえばいいと思いまして。 椎名:そんな……。 琉:そんなことで、それが可能だとでも? 朱雀:日の国の王などお飾り。 朱雀:そして現在の帝都の撫子は、この梨音さんのみ。 朱雀:残りの撫子は、現在帝都の外に行っておりますからね。 朱雀:この日を待っていたのですよ。 朱雀:現在、唯一帝都にいる梨音さんを擁(よう)してしまえば、大和だけではこの魔獣は倒せない。 朱雀:そして機関を壊滅させ、彼女とともに、帝都を、日の国を掌握(しょうあく)する! 椎名:いや、そんなの無茶だろ……。 椎名:いくら強くたって、魔獣一体暴れさせて退魔機関本体をどうこうできるわけない。 琉:そうだな、それに国盗りなんてのは、ヤツが思うほど単純な話じゃない。 琉:だが、放っておくわけにもいかないな。 椎名:そうだね……。 琉:話はわかった……。 琉:梨音! 梨音:……。 琉:いい加減、そこから降りてこい。 椎名:おいで、梨音。 梨音:……。 琉:今すぐに降りてこないなら、もう二度と、飯を作ってやらないからな。 椎名:おやつも買ってあげないよ! 梨音:え、それはいやです! 朱雀:え!? 梨音:飛び降ります! ……えい! 椎名:うわっと!(受け止める) 朱雀:は? はあ!? 椎名:ちょっと、梨音、大丈夫? 琉:記録装置は? 梨音:良好です。証拠は確保しました。 朱雀:な、なんだと……? 琉:なるほど応答がないわけだ。 梨音:ごめんなさい。連絡はすると言ったものの、うまくやれる隙がなくて。 椎名:そうじゃないかなって思ったから大丈夫だよ。 椎名:まさか、こんな魔獣と一緒に出て来るとは思わなかったけど。 朱雀:梨音さん、あなた……! 梨音:朱雀さん、ごめんなさい。 梨音:けれど、私が琉さんと椎名さんを裏切ることなんて、絶対にありません。 朱雀:私の勧誘に、乗ったフリをして調査をしていたと!? 琉:お前も、機関に対して似たようなことをしていたんだろう? 朱雀:けれど梨音さん! あなたは兄上を殺されて、悔しくないんですか! 梨音:……悔しいです。 梨音:だからこそ、あなたに協力するフリまでしました。 梨音:こんなこと、許されちゃいけないと思ったから。 梨音:私がしなければいけないのは、復讐ではなく、告発です! 梨音:機関の一部が腐っているというのなら、それを正すべきであって、他人に憎しみを向けるのではだめです! 梨音:少なくとも、私はそう思っています。 琉:悪いな。梨音からすでに話は聞いていた。 椎名:上層部と、国王にまで話は行ってるはずだよ。 朱雀:そんな、ばかな! 琉:各チーム総員、上沼朱雀(かみぬま すざく)の確保にまわってくれ! 朱雀:くそ、おのれぇ……ッ!! 朱雀:私をとらえても、終わらんぞ! 朱雀:この研究は、いつでも、どこででも行われているんだからな……! 朱雀:は、はなせええ……!(確保、連行される) 椎名:さて、俺たちは……この魔獣だね。 琉:結界があるから動きは止められているが、どうやら大和だけではトドメが刺せないらしい。 梨音:では、今回は私も行きますね! 琉:行くぞ! 琉:帝都退魔機関、緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)! 椎名:大和! 梨音:撫子! 琉:参る! 椎名:梨音、俺も退魔刀で行く! 梨音:はい! 椎名さんと琉さんの退魔刀に加護を! 梨音:そして破魔(はま)の光、暖流(だんりゅう)の霧! 梨音:縁切り(えんぎり)、結界強化します! 椎名:さっすが梨音、身体能力の増幅、ハンパないなあ。 琉:ヤツの動きもさらに鈍った、椎名、叩くぞ! 椎名:人間からできてるんだってね……ごめん。せめて安らかにと祈りながら、葬るよ! 琉:せい! 椎名:そら!! 琉:瘴気はうまく抑え込めてるな、フンッ、椎名! 椎名:はいよ! さすがに、硬いねぇ。 琉:多段でいく。セイッ、ハッ! 椎名:ドリャ! よし、ここに……! 梨音:霧散(むさん)の風、送ります! 琉:トドメだ! 椎名:たああ! 0:退魔刀で切りふせ、琉と椎名が掌底をたたき込み、退魔の力を送り込むことで魔獣は霧となって消える。 0:少々の間 椎名:……ふう。 琉:完了、だな。 梨音:お疲れさまでした! 琉:これは、あらためて報告書が必要だな。 椎名:そうだね、魔獣の力が桁違いに強かった以外は、特に変わったところはなかったけど。 琉:だいぶ、嫌な感じはしただろう? 椎名:うん……けど、感覚的なところはなあ……一応伝えとく? 琉:一応な……さて、梨音。 梨音:ぎく。 琉:お前はこれから、説教が待ってるからな。 梨音:えええ~……。 琉:そういう約束だったろう? 梨音:うう……。 椎名:そうだね。俺たちが探りを入れなかったら、どこまで単独行動するつもりだったのかな? 梨音:そ、それは! 折を見ていずれ、と……。 琉:何にせよ危険だったんだ。 椎名:危うく犯罪者の仲間入りだしね? 琉:事前の手回し。 琉:上への報告やら書類やらも、それはそれは大変だった。 梨音:そこは、私も、頑張りましたよ~……? 琉:つべこべ言うな。さあ、来い。 梨音:うううわぁ~ん…… 0:日付変更程度の間。 椎名:結局のところ、なんで魔獣を人工的に作ろうとなんてしてるんだろうねえ。 琉:魔獣が最初に確認されたのは百年ほど前だと聞く。 梨音:そして、人工造成の影が見え隠れし始めたのは、五十年ほど前だそうです。 椎名:テロ目的なのかなあ。 琉:魔獣は、神が遣(つか)わした獣である、とする向きもあるよな。 椎名:そうだねえ。 梨音:人間の天敵を作ることで、戦争が激減しているとかいう……? 琉:そうだな。かなり人類に偏った視点だ。 梨音:なら、確信犯なのかもしれませんね。 梨音:今回の朱雀さんも、その説は知っていて、利用する計画も立ててましたし。 琉:魔獣を立てて、世界平和を謳(うた)う? 椎名:なんだかなあ……。 椎名:まあ、俺たちが直接どうこうできる問題でもないしね。 琉:今回の朱雀の研究組織は摘発された。 椎名:朱雀は、いろいろ精神的に膠着(こうちゃく)状態にあったらしいね。 椎名:だから、あんな、できもしない野望を抱き続けて、 琉:自分の手でそれが成せると思い込んでしまった。 椎名:結局、あの人自身が色々詰んでる状態だったから、簡単に解決することができたけど……。 琉:まあ、とりあえずのところはそれで良しとしよう。 梨音:そうですね。ではお茶にしましょう! 梨音:今日は私がこしらえた白玉(しらたま)があるんですよ! 0:SE 通信機器から発信音 琉:まて。ん……本部から連絡か。 琉:残念ながら、仕事だ。 椎名:わあお。 梨音:ええ~~せっかくお湯が沸いたところなのに……。 琉:ひと仕事の後のお楽しみだ。白玉もな。行くぞ! 椎名:はあい。 梨音:ううう、待ってくださあーい! 0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)

朱雀:(※ナレーター兼任) 朱雀:列島 日の国(ひのくに)、帝都、東京。 朱雀:王の居城(きょじょう)を有する東京は、もっとも人口の多い都市のひとつであり、華やかに発展し続けてきた。 朱雀:全世界の、主に大国で出現が確認されている、人類の天敵たる魔獣に対抗する組織である退魔機関も、この帝都に、日の国の総本部を置く。 朱雀:それは、帝都退魔機関(ていと たいまきかん)と呼ばれた。 朱雀:機関に所属する退魔官は、生まれながらに退魔の力を有する者であり、その頭数(あたまかず)の少なさから、魔獣専用の軍人として優遇されている。 朱雀:これは、そんな退魔官たちの活躍と日常の物語である。 0:間をおいて 椎名:はー、今日も帝都は平和だねえ。 琉:おい。 椎名:天気もいいし。 琉:椎名(しいな)、気を抜くなよ。 琉:魔獣はいつ湧(わ)いて出るかわからないんだからな。 椎名:でも、ここのところ奴ら大人しいし、まったりできる時には、しときたいじゃない。 琉:俺の統計上、お前がそうやってだらけてる時には、奴らが襲って来やすい。 椎名:ええー。 琉:……ほら。 椎名:え? 琉:出てきた。 椎名:マジ? 琉:やっぱりお前がだらけてるからだな。 椎名:琉(りゅう)、ひどくない!? 椎名:それならきっときみの言霊(ことだま)のせいだよ! 琉:俺が言ったからって、いちいちその現象が起こるか。 椎名:それなら俺がだらけてるのだって、そんなことで…… 琉:堂々と認めるな。 琉:とにかく、やるぞ。梨音(りおん)は…… 椎名:おだんご買いに行ってもらっちゃったね。 琉:まあいい、このくらいの小物なら、梨音がいなくても大丈夫だ。 琉:行くぞ。 琉:  椎名:(※周囲に向かって) 椎名:皆さん、魔獣です。下がってください! 琉:帝都退魔機関、大和(やまと)です。 琉:下がって! 琉:椎名、手を出せ。 椎名:はいよ。 0:SE パン、と手を合わせる音。 琉:捕縛結界(ほばくけっかい)発動! 椎名:絡め取れ! 大気の絹糸、大地の鎖! 琉:結界、展開完了。 琉:本当に小物だな。椎名、ぶち込め。 椎名:はーい。 椎名:魔弾装填(まだんそうてん)、悪いけど、至近距離から食らっちゃってね。 椎名:退魔小銃いくよ、ほいっと! 0:SE パン、という軽い銃声と、魔獣の咆哮 琉:よし、急所、入ったな。 椎名:いいよ、琉、退魔刀で一刀両断しちゃって! 琉:ふん。悪く思うなよ。消えろ。 琉:せい! 0:ザシュ、と刀で魔獣を切り伏せる 0:SEなければ少々の間。 椎名:よおし! 討伐完了! 琉:結界解除。椎名、報告。 椎名:してまーす。はい、本部送信っと。 椎名:みなさん、もう大丈夫ですよー。 0:遠くから梨音、登場 梨音:あぁー! 椎名:あ、梨音。 梨音:(※駆け寄りながら) 梨音:魔獣が出現していたのですね、どうして呼んで下さらなかったんですか! 琉:両手いっぱい串団子握りしめながら言うセリフか。 椎名:わー、1、2……8本は多くない? 梨音:(※息を切らせながら) 梨音:ハア、ハア、 梨音:だって、琉さんも椎名さんも沢山召し上がると思って……。 琉:わかったわかった、少し息を整えろ。 椎名:大丈夫だよ、梨音。 椎名:すごく小さな魔獣だったんだ。 椎名:きみの力を借りるまでもないくらいね。 梨音:それなら良かったですけど……あ、はい、おだんごです。 梨音:私はみたらしとつぶあんをいただきます。 梨音:あとはお二人で分けてくださいね! 椎名:あー、じゃあまあ、そこの長椅子に、とりあえず座ろうか。 椎名:おじさーん、お茶みっつ、いただけますかー! 0:少々の間 梨音:それにしても、こんなに人で賑わっているところに魔獣が出るなんて珍しいですね。 琉:そうだな。だが最近はよく報告が上がってきている。 琉:全体的に取るに足らないレベルだが。 梨音:うーん、何か、外的要因(がいてきよういん)があるかもしれないとか言ってましたっけ? 椎名:まだ断定はできないけどね。 椎名:魔獣は自然発生するもののはずなんだけど、そこに別の何かの力が加えられている可能性があるとか……。 琉:そんなことをわざわざやるにしては、お粗末な結果になっているがな。 椎名:そうだねえ……。 梨音:ですねえ……、あ、もうこんな時間! 梨音:すみません、私、約束があるんでした! 梨音:ちょっと出向いてきますね。 梨音:緊急の際はすぐに連絡ください! 琉:ああ、わかった。 梨音:では、行ってきます! 0:梨音、立ち上がって走り去る 椎名:せわしない子だなあ……。 琉:最近、単独行動が多いな? 椎名:梨音? うん、そうだね。 椎名:別にチームが強制で始終べったり一緒にいなきゃいけない訳じゃないけど、今までは割と常に一緒にいたもんね。 琉:……。 椎名:もしかして、いい人でも出来ちゃってたりして♪ 琉:……。 椎名:琉、顔、顔! すっごい顔になってるよ(笑)! 椎名:いけ好かない男のもとに、娘を嫁に出す顔だよそれ! 椎名:そんなの、きみのファンの前で見せたらだめだからね! 琉:ファンなんざいない。 椎名:退魔官は帝都の花形だよー? 椎名:そうでなくとも、昔からきみはモテるんだから。 椎名:無自覚って怖いな~。 琉:……。 椎名:睨まない、睨まない。 椎名:……まあでも、真面目な話、本当に梨音に、もしも好きな人が出来て、お嫁に行きたいって言ったら、どうする? 琉:別に。梨音が好きになるなら、相応の人間だろう。 琉:だが、俺の屍(しかばね)は越えてもらう。 椎名:無理だよ!(笑) 椎名:退魔官に、普通の人間は勝てないんだけど! 琉:冗談はともかくだ。 琉:いくら俺たちが退魔官だと言っても、個人の身の振り方までは強制されない。 琉:梨音が嫁に行くというなら、俺たちは「撫子(なでしこ)」を失うことになるかもしれないが、それも仕方ないだろう。 椎名:そうだねえ。 椎名:俺たちの撫子が梨音だったってだけで、この上ない幸運だったもんね。 琉:そうだな。 琉:俺たち帝都の退魔官は任意の数でチームを組んで「大和」という称号を名乗るが、すべてのチームに撫子が存在するわけじゃない。 琉:撫子の力を持つ者は、退魔の力を持つ者よりも希少(きしょう)な上、お互いの意志で契約を結べるわけでもない。 椎名:まったくの相性の問題だもんね。 椎名:子供の頃、魔獣に親を殺されてから、ずっと幼なじみ三人で身を寄せ合って暮らしてきたからさ、俺と琉、二人共に退魔の力が備わってたってだけでも驚いたのに、まさか梨音が、俺たちの撫子になるなんて、夢にも思わなかったよ。 琉:そのおかげで、俺たちは特務階級だからな。 椎名:撫子は戦闘力こそないけど、バフの名手だからね。ていうかそのために存在するようなものだもんね。 琉:撫子を加えた大和の総合力は、格段に上がる。 琉:これまで、倒せなかった魔獣はいない。 椎名:そうだね。それほどまでに強大な力を持つチームの称号が「大和撫子」だ。 琉:だがそれでもだ。 琉:梨音が自分の幸せを願ったとして、お前は反対するか? 椎名:しないね。血こそつながってなくても大切な兄妹、家族だもん。 椎名:それで俺たちとの仕事が出来なくなったとして、戦闘力が落ちたとしてもね。 琉:……椎名、お前もだ。 椎名:え? 琉:もしも、誰かを好いたとして、あるいはそうでなくともだ。 琉:お前も、個人の幸せを望む権利はあるんだからな。 椎名:ん……。 琉:もしもそういう時が来たら、ちゃんと言え。 椎名:うん。言うよ。 椎名:今のところ、そういう予定はまったくないんだけどね。 椎名:  椎名:もちろん、琉、きみもだよ。 椎名:きみにも、等しく自由はある。 琉:ああ。もしもそうなったとしたら、上は渋るかもしれないがな。 椎名:そうだね。 椎名:でもまあ、俺は、なんだかんだで、動けなくなるまで、きみ達とこの仕事をやっていきたいなーって思ってるんだけどね。 琉:……まあ、俺もだな。 椎名:けど、王制であり、すべての最終的決定権は王にあるとはいえ、議会もあり、人々の人権はきちんと守られている。 椎名:この国は、いい国だよね。 琉:ああ、そうだな。 椎名:それにしても、梨音は本当に彼氏でもできたかな? 琉:そうとも限らんが、今度それとなく聞いておくか。 椎名:本当に男の影が見えても、怒らないでよ? お父さん。 琉:馬鹿か(椎名にゲンコツ) 椎名:いったーい。グーで殴るなよー 0:間をおいて 0:深い地下へと続く階段を下りる二つの足音。 朱雀:それでは梨音さん、よろしいかな。こちらへ。 梨音:はい……。 朱雀:あまり大きく動かれないよう。 朱雀:刺激すると危険ですから。 梨音:わかりました。 朱雀:あれだ。あそこにうごめく、あの肉塊(にくかい)と同じように、あなたの兄上は……。 梨音:……はい。 朱雀:目には目を。 朱雀:あなたの兄上は、あなたの所属する、退魔機関に殺された。 朱雀:偽物の正義の使者、憎き退魔機関に。 梨音:……はい。 朱雀:二度とあのような悲劇が繰り返されぬよう……復讐を。 梨音:復讐を。 朱雀:ククク……(忍び笑いでフェードアウト) 0:数日経過程度の間 琉:座標KBY(ケービーワイ)、ゼロイチのサンロクにて大型魔獣確認! 梨音、梨音! 椎名:梨音、応答しないの? 琉:ああ、返事がない。 椎名:うーん……。 琉:他のチームも向かっている。 琉:多分問題はないだろうが……応答がないのは何故だ。 椎名:これまで、こんな事なかったもんね……。 琉:とにかく、俺たちも向かうぞ。 椎名:了解。 0:間をおいて 琉:なんだ、この魔獣は……。 椎名:なんか、変な気配がするね? 琉:気持ちが悪いな。 椎名:琉、結界張るよ! 琉:了解。 0:SE パン、と手を合わせる音 椎名:結界固定、各チームに伝達。 椎名:速攻動ける人から足止めの術式、もしくは攻撃お願いします。 椎名:いつもと様子が違うので気を付けて。 椎名:って、うわ! 琉:椎名! ……なんだこの圧力……瘴気(しょうき)? 椎名:結界は無事だね! なんだこれ!? 琉:まともに食らうな、椎名、これは…… 椎名:こんなの初めてだ、うわ、みんなバタバタ倒れてるよ、どうすんの! 琉:結界は生きてる、倒れている者を除き、総員退避、まずは自らの身を守るため距離を取ってくれ! 朱雀:クックック……。 琉:誰だ!? 椎名:琉、あそこ、魔獣の背後の建物の上! え!? 琉:あれは……梨音!? 朱雀:中将(ちゅうじょう)殿たちは、私の顔などご存じないかな? 朱雀:上沼朱雀(かみぬま すざく)、一介(いっかい)の退魔官にございます。 朱雀:そして、この魔獣を作り上げた者。 琉:作り上げた、だと? 朱雀:死にゆく人間の肉体と、その思念を使って。 椎名:なん、だって……? 朱雀:そしてこちらは、その見届け人。 朱雀:撫子、円梨音(まどか りおん)殿。 琉:梨音! 椎名:なんで! 朱雀:まだ梨音さんのご両親が存命中、彼女の兄上が獄中死されたのはご存じで? 琉:……知っている。 椎名:それと、何の関係がある! 朱雀:私の父もですよ……。 朱雀:彼らは、獄中で自殺を図ったと報じられた。 朱雀:けれど真実は違う! 朱雀:彼らは、帝都退魔機関の一派によって暗殺された! 朱雀:このように、魔獣を人工的に作り出すために! 琉:……! 椎名:この魔獣も……人工的に作られたっていうのか……。 梨音:そうです。 琉:梨音! 梨音:この魔獣のもとは、あるひとりの受刑者。 梨音:甲斐なく死にゆく人の肉体とその無念を練り上げ、魔獣を錬成(れんせい)する。 梨音:退魔機関の地下組織で昔から研究され続けてきた、禁忌(きんき)の研究です。 椎名:なぜそんな事を! 梨音、なんでそこにいるんだ! 朱雀:復讐ですよ。 朱雀:こんな研究を野放しにしたまま、何食わぬ顔で魔獣狩りを続け、正義を気取る退魔機関……。 朱雀:ならば、お前らも、その研究の末の狂った魔獣の餌食になってみればいい! 梨音:私の兄は、暴漢から私を助けるために、誤って相手を殺してしまいました。 梨音:必死に突き倒した相手の、打ちどころが悪かったのです。 梨音:まだ五歳の私。そして十五歳の兄。 梨音:それは、過失致死であるはずでした。 梨音:けれど、裁判で、兄は反省の文言(もんごん)を一言も口にしなかったと聞きます。 朱雀:そうですね。 朱雀:彼は言った。 朱雀:自分のしたことが、少しでも罪になるというのなら、裁くといい。 朱雀:私欲のために自分を、妹を殺そうとしたあの男を許さない。 朱雀:何度同じことが起ころうと、自分も同じことを繰り返す……と。 梨音:そのため、兄は危険人物とみなされ、監獄に入れられました。 梨音:そして、そこで自殺を、と。 朱雀:けれどそれは真っ赤なウソ! 朱雀:彼は、利用され、殺されたのですよ! 私の父も同じ! 朱雀:しかし、当時の研究は失敗に終わった。 朱雀:退魔機関に籍を置くことが出来た私は、その研究機関のひとつを突き止め、何食わぬ顔で潜り込んだ。 朱雀:そしてようやく、成果が日の目を見たのですよ。 朱雀:ごらんなさい、この魔獣を! 椎名:なんで復讐のために、そんな、父親を殺されたのと、同じ手段で! 朱雀:こんな薄汚い機関は打ち壊したうえで、私がてっぺんに君臨してしまえばいいと思いまして。 椎名:そんな……。 琉:そんなことで、それが可能だとでも? 朱雀:日の国の王などお飾り。 朱雀:そして現在の帝都の撫子は、この梨音さんのみ。 朱雀:残りの撫子は、現在帝都の外に行っておりますからね。 朱雀:この日を待っていたのですよ。 朱雀:現在、唯一帝都にいる梨音さんを擁(よう)してしまえば、大和だけではこの魔獣は倒せない。 朱雀:そして機関を壊滅させ、彼女とともに、帝都を、日の国を掌握(しょうあく)する! 椎名:いや、そんなの無茶だろ……。 椎名:いくら強くたって、魔獣一体暴れさせて退魔機関本体をどうこうできるわけない。 琉:そうだな、それに国盗りなんてのは、ヤツが思うほど単純な話じゃない。 琉:だが、放っておくわけにもいかないな。 椎名:そうだね……。 琉:話はわかった……。 琉:梨音! 梨音:……。 琉:いい加減、そこから降りてこい。 椎名:おいで、梨音。 梨音:……。 琉:今すぐに降りてこないなら、もう二度と、飯を作ってやらないからな。 椎名:おやつも買ってあげないよ! 梨音:え、それはいやです! 朱雀:え!? 梨音:飛び降ります! ……えい! 椎名:うわっと!(受け止める) 朱雀:は? はあ!? 椎名:ちょっと、梨音、大丈夫? 琉:記録装置は? 梨音:良好です。証拠は確保しました。 朱雀:な、なんだと……? 琉:なるほど応答がないわけだ。 梨音:ごめんなさい。連絡はすると言ったものの、うまくやれる隙がなくて。 椎名:そうじゃないかなって思ったから大丈夫だよ。 椎名:まさか、こんな魔獣と一緒に出て来るとは思わなかったけど。 朱雀:梨音さん、あなた……! 梨音:朱雀さん、ごめんなさい。 梨音:けれど、私が琉さんと椎名さんを裏切ることなんて、絶対にありません。 朱雀:私の勧誘に、乗ったフリをして調査をしていたと!? 琉:お前も、機関に対して似たようなことをしていたんだろう? 朱雀:けれど梨音さん! あなたは兄上を殺されて、悔しくないんですか! 梨音:……悔しいです。 梨音:だからこそ、あなたに協力するフリまでしました。 梨音:こんなこと、許されちゃいけないと思ったから。 梨音:私がしなければいけないのは、復讐ではなく、告発です! 梨音:機関の一部が腐っているというのなら、それを正すべきであって、他人に憎しみを向けるのではだめです! 梨音:少なくとも、私はそう思っています。 琉:悪いな。梨音からすでに話は聞いていた。 椎名:上層部と、国王にまで話は行ってるはずだよ。 朱雀:そんな、ばかな! 琉:各チーム総員、上沼朱雀(かみぬま すざく)の確保にまわってくれ! 朱雀:くそ、おのれぇ……ッ!! 朱雀:私をとらえても、終わらんぞ! 朱雀:この研究は、いつでも、どこででも行われているんだからな……! 朱雀:は、はなせええ……!(確保、連行される) 椎名:さて、俺たちは……この魔獣だね。 琉:結界があるから動きは止められているが、どうやら大和だけではトドメが刺せないらしい。 梨音:では、今回は私も行きますね! 琉:行くぞ! 琉:帝都退魔機関、緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)! 椎名:大和! 梨音:撫子! 琉:参る! 椎名:梨音、俺も退魔刀で行く! 梨音:はい! 椎名さんと琉さんの退魔刀に加護を! 梨音:そして破魔(はま)の光、暖流(だんりゅう)の霧! 梨音:縁切り(えんぎり)、結界強化します! 椎名:さっすが梨音、身体能力の増幅、ハンパないなあ。 琉:ヤツの動きもさらに鈍った、椎名、叩くぞ! 椎名:人間からできてるんだってね……ごめん。せめて安らかにと祈りながら、葬るよ! 琉:せい! 椎名:そら!! 琉:瘴気はうまく抑え込めてるな、フンッ、椎名! 椎名:はいよ! さすがに、硬いねぇ。 琉:多段でいく。セイッ、ハッ! 椎名:ドリャ! よし、ここに……! 梨音:霧散(むさん)の風、送ります! 琉:トドメだ! 椎名:たああ! 0:退魔刀で切りふせ、琉と椎名が掌底をたたき込み、退魔の力を送り込むことで魔獣は霧となって消える。 0:少々の間 椎名:……ふう。 琉:完了、だな。 梨音:お疲れさまでした! 琉:これは、あらためて報告書が必要だな。 椎名:そうだね、魔獣の力が桁違いに強かった以外は、特に変わったところはなかったけど。 琉:だいぶ、嫌な感じはしただろう? 椎名:うん……けど、感覚的なところはなあ……一応伝えとく? 琉:一応な……さて、梨音。 梨音:ぎく。 琉:お前はこれから、説教が待ってるからな。 梨音:えええ~……。 琉:そういう約束だったろう? 梨音:うう……。 椎名:そうだね。俺たちが探りを入れなかったら、どこまで単独行動するつもりだったのかな? 梨音:そ、それは! 折を見ていずれ、と……。 琉:何にせよ危険だったんだ。 椎名:危うく犯罪者の仲間入りだしね? 琉:事前の手回し。 琉:上への報告やら書類やらも、それはそれは大変だった。 梨音:そこは、私も、頑張りましたよ~……? 琉:つべこべ言うな。さあ、来い。 梨音:うううわぁ~ん…… 0:日付変更程度の間。 椎名:結局のところ、なんで魔獣を人工的に作ろうとなんてしてるんだろうねえ。 琉:魔獣が最初に確認されたのは百年ほど前だと聞く。 梨音:そして、人工造成の影が見え隠れし始めたのは、五十年ほど前だそうです。 椎名:テロ目的なのかなあ。 琉:魔獣は、神が遣(つか)わした獣である、とする向きもあるよな。 椎名:そうだねえ。 梨音:人間の天敵を作ることで、戦争が激減しているとかいう……? 琉:そうだな。かなり人類に偏った視点だ。 梨音:なら、確信犯なのかもしれませんね。 梨音:今回の朱雀さんも、その説は知っていて、利用する計画も立ててましたし。 琉:魔獣を立てて、世界平和を謳(うた)う? 椎名:なんだかなあ……。 椎名:まあ、俺たちが直接どうこうできる問題でもないしね。 琉:今回の朱雀の研究組織は摘発された。 椎名:朱雀は、いろいろ精神的に膠着(こうちゃく)状態にあったらしいね。 椎名:だから、あんな、できもしない野望を抱き続けて、 琉:自分の手でそれが成せると思い込んでしまった。 椎名:結局、あの人自身が色々詰んでる状態だったから、簡単に解決することができたけど……。 琉:まあ、とりあえずのところはそれで良しとしよう。 梨音:そうですね。ではお茶にしましょう! 梨音:今日は私がこしらえた白玉(しらたま)があるんですよ! 0:SE 通信機器から発信音 琉:まて。ん……本部から連絡か。 琉:残念ながら、仕事だ。 椎名:わあお。 梨音:ええ~~せっかくお湯が沸いたところなのに……。 琉:ひと仕事の後のお楽しみだ。白玉もな。行くぞ! 椎名:はあい。 梨音:ううう、待ってくださあーい! 0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)