台本概要
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タイトル | 帝都退魔機関 大和撫子! ~祝祭日~ |
---|---|
作者名 | 暁寺 郁 (@him_like_me) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男3、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
帝都東京を舞台に活躍する退魔官たちの物語、第二話。 一応単独で完結していますが、よろしければ第一話からどうぞ。 軽めの戦闘シーンがあります。 男女比の変更は不可ですが、演者様の性別は不問です。 軽微なアドリブ可。 ちょこっとだけあるSE指示は、無視しても大丈夫です。 300 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
琉 | 男 | 73 | 帝都の優秀な退魔官の青年。クールで真面目な印象だが、若干振り回されキャラかもしれない。 |
椎名 | 男 | 67 | 琉と一緒に退魔官をやっている青年。まったりのんびりな印象。 |
梨音 | 女 | 60 | 琉、椎名のチームの「撫子」。バフ・デバフの名手である。食いしん坊にみがきがかかっている疑惑。 |
アキラ | 男 | 51 | 明るく飄々とした青年。後半は真面目な喋りも出てきます。冒頭のナレーションも担当。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
アキラ:(※ナレーター兼任)
アキラ:列島 日の国(ひのくに)、帝都、東京。
アキラ:王の居城(きょじょう)を有する東京は、もっとも人口の多い都市のひとつであり、華やかに発展し続けてきた。
アキラ:全世界の、主に大国で出現が確認されている、人類の天敵たる魔獣に対抗する組織である退魔機関も、この帝都に、日の国の総本部を置く。
アキラ:それは、帝都退魔機関(ていと たいまきかん)と呼ばれた。
アキラ:機関に所属する退魔官は、生まれながらに退魔の力を有する者であり、その頭数(あたまかず)の少なさから、魔獣専用の軍人として優遇されている。
アキラ:これは、そんな退魔官たちの活躍と日常の物語である。
アキラ:このお話は第二話、はっじまっるよ~。
0:間をおいて
梨音:わー、今日もすごい賑わいですねー。
琉:祝祭日が近いからな。
梨音:あ、おまんじゅう蒸(ふ)かしてますよ。美味しそう。
琉:見回りの仕事が終わったらな。
琉:椎名はどこにいる?
梨音:えーっと、数十メートル後方をちゃんと付いてきてます……あ、いえ立ち止まってます。
梨音:何を見てるんでしょうね。
琉:まったく、あいつは……。
琉:(※遠くから呼びかける)
琉:おい、椎名!
椎名:ねえ、琉~! ちょっとちょっと、おいでー。
琉:なんで俺が呼ばれなきゃならないんだ……椎名、何やってる!
椎名:拾った。
琉:何を、……はぁ!?
アキラ:はぁい、拾われましたぁ。
琉:は……、あ、アキラ!
アキラ:やあやあ、帝都の精鋭退魔官、緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)のみんな、はっけーん♪
椎名:ね、びっくりしたでしょ。
琉:こんなところで何をやってるんだ、お前は。
アキラ:ただの散歩だよ。
アキラ:でもせっかく会えたんだから、ついて行こうかな~。
アキラ:見回り中なんでしょ?
琉:冗談じゃない!
アキラ:ええ~。
梨音:まあまあ、琉さん、そんなに怒らなくても……。
梨音:こんにちは、アキラさんっておっしゃるんですね!
アキラ:やあこんにちは!
アキラ:梨音ちゃん、お噂はかねがね。
アキラ:その、うるわしき姿も、何度かお見かけしているよ。
梨音:え、そうなんですか? えへ♪
椎名:ともあれ、本当についてくるの?
アキラ:うん。だって、みんな退魔官なんだから、もし魔獣に出くわしても安心じゃないか。
琉:そうだ、退魔官だ。
琉:だから、魔獣が出現したら、戦うことになる。
琉:そんな見回りに、のこのこ付いてこようとするな、一般人。
アキラ:一般人はひどいなあ~、これでも僕は、退魔の力だって持ってるんだからね?
椎名:でもなあ、退魔の力があっても、退魔官でないと、魔獣の討伐(とうばつ)には参加できないよねえ。
琉:よほどの特例ケースでもない限り、きつく罰せられる。
琉:この場合、主に俺らがな。
梨音:あー、そうですよねぇ……。
琉:大体、お前はいつも散歩と称して街をほっつき歩いては、俺たちの邪魔をしに来るがな、こちらは仕事中なんだ、自重しろ。
アキラ:えー、たまになら、良くない?
琉:たまにでもダメだ。
アキラ:ぶーぶー。
椎名:かわいいのか、かわいくないのか微妙なラインだね。
アキラ:椎名がわりとひどい。
椎名:そうかな!?
梨音:アキラさん、かわいいです!
アキラ:ね、かわいいよね! 梨音ちゃんは優しいね~!
梨音:えっへへ~!
梨音:それに、そんなに頻繁(ひんぱん)にでもないですよね?
梨音:私がお会いしたのは初めてですし。
琉:たまたま、お前は今日が初めてだがな。
琉:たしかに「たまに」ではあるが、それでも困るんだ。壮絶(そうぜつ)に困る。
梨音:えぇ、そんなに……?
椎名:で、こういう時に限って、魔獣が出たーなんてことになったりしてさー。
琉:椎名、言うな。
椎名:え?
琉:そういうフラグを立てると、
梨音:あ、通信ですね。
琉:ほら……。
椎名:地点は……うわ、ちっか! ていうか見えた! でっかい!
梨音:大型ですね、こんなところに!
琉:(※通信機に向かう口ぶりで)
琉:浅草付近にいる退魔官に要請(ようせい)、一般人の避難誘導を頼む!
琉:緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)が、広場の池付近に魔獣を誘導、そこで討伐(とうばつ)にあたる!
琉:今回は範囲結界(はんいけっかい)を張っての戦闘となる。
琉:各チーム、一般人の避難が済み次第、念のため、結界の外側に待機を!
椎名:んじゃ、梨音、魔獣の誘導をお願いできるかな。
梨音:了解しました!
梨音:魔獣さーーーん! こちらへどうぞーーー!
梨音:蜘蛛(くも)の糸! 誘(いざな)い!
梨音:みなさん、付いてきてくださいね!
椎名:琉、アキラは?
琉:……仕方がない。ここに捨てても混乱に巻き込まれる。
琉:俺たちについてこい!
アキラ:はあい♪
アキラ:わー、君たちの戦いっぷり、楽しみだなー。
琉:そんなことを言ってる場合か!
椎名:のんきだなー。
アキラ:あんまり、椎名に言われたくないな~。
椎名:ええー?
琉:お前ら!
椎名:はいはい、さあ、行くよー!
アキラ:アイサー!
0:間をおいて
琉:よし、上手く誘導されてきたな、椎名、範囲結界!
椎名:はいよ!
椎名:アキラは……結界の中へ?
琉:そうだ。外側のほうが安全だが、戦闘中、目を離すのは危険だからな。
椎名:わかった。アキラ、梨音、君らは結界の内側へ!
アキラ:えっと、ここに立てばいいのかな?
梨音:はい、ちょっと狭いですけど、すぐに広がりますから我慢してくださいね!
琉:結界、広げるぞ! 魔獣にかぶせろ!
椎名:はあい。
椎名:誰もいないはずだけど、念のため!
椎名:もし誰か残っていたら、退避してくださいねー!
椎名:範囲結界を張りますから、留(とど)まろうとすると、押し出されてケガしますよー!
琉:よし、範囲結界、固定!
琉:椎名、魔獣に捕縛結界(ほばくけっかい)いくぞ!
椎名:了解!
梨音:では、アキラさんはこちらへ!
アキラ:へえ、二重に結界を張れるんだね。
梨音:結界と呼んでますけど、それぞれ質のちがうものですからね。
琉:よし……これで、結界の外には音も漏れないな。
椎名:そうだね。
琉:これより、魔獣の討伐を開始する!
琉:帝都退魔機関(ていとたいまきかん)、緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)!
椎名:大和!
梨音:撫子!
琉:参る!
椎名:梨音は結界の範囲ぎりぎりまで下がって!
梨音:はい! アキラさんもこちらへ!
アキラ:は~い!
琉:目標は魔獣! ただし最大の厳命(げんめい)事項は、この場におわす、主君(しゅくん)。
琉:日御門 晴明(ひのみかど はれあきら)国王陛下の、御身(おんみ)の守護だ!
琉:我らの命に代えても、傷ひとつ負わせるな!
椎名:了解!
梨音:りょうか……ええーーー!?
椎名:え、なに?
梨音:あ、アキラさん!? アキラさん!?
梨音:こ、こここ、国王陛下!?
椎名:え、梨音、ええーーー!?
アキラ:わあ、ホントに気づいてなかったの?
アキラ:演技上手いなーと思ってた!
琉:そんな事だろうとは思ったが。
椎名:顔、変わってないのに!
アキラ:ね、ね、髪と目の色変えて、髪形もちょちょっといじっただけで、案外気付かれないもんでしょ?
琉:梨音だからだ!
椎名:梨音だからだね!
梨音:えええーーー!?
琉:とにかく! 行くぞ!
梨音:は、はい、結界強化、縁切り(えんぎり)!
琉:今回は飛び道具は無しだ!
椎名:おっけー、退魔刀(たいまとう)で行くよ!
梨音:琉さんと椎名さんの退魔刀に加護、破魔(はま)の光、暖流(だんりゅう)の霧!
梨音:アキ……いえ国王陛下に守護結界、温水(ぬくみず)の泡(あわ)!
梨音:後方支援の私が、お守りします!
アキラ:だーいじょうぶ、なんなら私がきみを守るよ♪
梨音:おおお、おそれ多いです!
琉:第一刀(だいいっとう)、椎名、上から!
椎名:はいよ、はっ!(※椎名、ジャンプ)
椎名:加護付きの刀、脳天で食らっちゃって! やあ!
琉:第二刀(だいにとう)、足! そら!!
椎名:このデカブツに両足いくかあ。
椎名:おっと、体勢くずしてくれたね、お次は首!
梨音:雷光招来(らいこうしょうらい)、魔獣の喉元(のどもと)へ!
アキラ:うわ、まっぶしい!
梨音:あ、すみません、あまり直視しないでください!
アキラ:だーいじょうぶ♪
椎名:おおっと、暴れるねえ!
琉:椎名、数歩退避!
椎名:はいよっと!
梨音:捕縛結界、強化! 雷光、溜(た)めます!
椎名:よし、琉、えーっと、待機カウント……5!
琉:4、3、2、1……
琉:魔獣、麻痺、凝固(ぎょうこ)!
琉:相変わらず正確なカウントだな。
椎名:まあね~。
琉:よし、刀をかざせ、椎名!
椎名:はいよ、きみもね、琉!
0:キン、と、二人の刀の刃を合わせる(SEなければ気分で)
琉:梨音!
梨音:はい! 重ねたお二人の刃(やいば)に、雨!
椎名:我らがふたえの刀身をめぐる、恵みの雨に、退魔の力をそそぎ、
琉:魔獣の体内に拡散(かくさん)、仕留めるぞ!
梨音:霧散(むさん)の風(かぜ)、送ります!
琉:せい!
椎名:はあぁぁぁーー!!
0:魔獣、ふたりの攻撃に咆哮を放ち、消滅する
アキラ:わ、やったあ!
梨音:完了です!
琉:(※完了のため息)はぁ……、椎名、報告。
椎名:はいよ。……えっと、彼のことは
琉:隠し立ては意味がない。正確に報告しろ。
椎名:だよね~、今回は特に、ここまでしなくていいってくらい、じっくり安全に討伐したしね。
梨音:範囲結界、解かないんですか?
琉:ああ、そのままで。
椎名:はい、説教タイム~!
琉:……陛下。
アキラ:はい。
琉:毎度毎度、毎度、毎度! あなたは!
梨音:え、そんなに!?
椎名:割とね~。俺は三度目、琉は結構な頻度で付きまとわれてる。
アキラ:そんな、ストーカーみたいに。
梨音:私の知らない間に、そんな面白いことに……。
琉:梨音。
梨音:はい、ごめんなさい!
琉:今までは運よく魔獣に出くわさなかったが、今回のようなこともある。
琉:それに、危険は魔獣だけという訳でもない。
琉:いいですか、陛下。
琉:私は大将から、もしも、そこいらであなたに出会ったなら、即刻(そっこく)! 城へ連れ帰れと厳命されているんです。
椎名:それができなければ減俸(げんぽう)だー、とか言われてたよね。
アキラ:わーお。でもそこはほら、私から口をきいておくからさ。
アキラ:特別ボーナスも支給させるし。
琉:当然です。
椎名:国王陛下の警護だもんね……。
梨音:でも私、全然気づきませんでした……。
琉:お前だって、陛下には退魔官として何度か謁見(えっけん)しているし、新聞や映像でもよく見ているだろう。
梨音:そうなんですけどぉ~!
椎名:思いもよらないと、案外、気付かないのかもね。
アキラ:そうそう!
アキラ:実は梨音ちゃんにも声をかけたことがあるんだけど、「こんにちは!」って元気に返されたんだよね。
梨音:はぅあああぁぁ……。
琉:陛下! 本当に、これっきりにしていただきたい!
アキラ:そういう訳にもいかないなぁ。
琉:陛下!
アキラ:だってこれは、必要なことだろう?
アキラ:私が国のことを知らなくてどうするんだい。
琉:公式で視察など、いくらでもしているでしょう。
アキラ:視察じゃ、わからないことなんて、いくらでもあるんだよ。
アキラ:たとえば、これとか。
椎名:ん、本? えっと「日の国(ひのくに)の現状」……うわあ。
アキラ:まあだいぶ、ある事ない事、書かれてる本だけど、興味深いね。
アキラ:もっとも、私が「おかざりの王」なんて言われてるのは、公然の事実だしねぇ?
琉:あなたは、おかざりなどではありません。
梨音:はい、そうです! 多くの国民は、国のために尽力(じんりょく)してくださる陛下をうやまい、感謝していますよ!
アキラ:ふふ、ありがとう。
椎名:おかざり、と言われているのは、民主政治のせいもあるでしょう?
アキラ:そうだね。議会がある。民の意見も聞く。
アキラ:だからこそ、半端に民主主義のまねごとをするくらいなら、王制など撤廃(てっぱい)してしまった方がいいのではないかという意見は、父王(ちちおう)の頃からあったね。
琉:歴代続いた王に失脚しろとは、難しいことを、お手軽に言う。
アキラ:それはそれで、悪くない意見だと思っているよ。
アキラ:しかし、実際はそう簡単な話でもない。
椎名:そのようですね。
アキラ:私個人としては、少なくとも私の代で王をやめることは、したくない。
アキラ:政治の形を変えていくには、まだ時間が足りていないからね。
梨音:そう、なんですか?
アキラ:民主主義ってのもまあ、難しいんだ。
アキラ:特に、遥かな昔と違って、魔獣という脅威があるこの時代ではね。
アキラ:平時でもそうでなくとも、何を決めるにも、多数決にも、色々な形があるだろう?
琉:順風満帆(じゅんぷうまんぱん)なうちはいい。
琉:だが、どんな形であろうが、もしもその政策が失敗したとき、人は誰かに責任を押し付けたがる。
椎名:みんなで決めたはずのことだけど、結局自分以外の誰かに、実際には意味のない、謝罪と罰を要求する。
梨音:そっか……それに、何においても対立って生まれますもんね。
アキラ:だから、私がいるのさ。
アキラ:議会はある。民の意見はそこでまとめる。
アキラ:だが、最後に決定するのは、この私だ。
アキラ:どれだけ最大多数の結果であろうと。
アキラ:最終的な責任は、すべて、私にある。
梨音:……そう、ですよね。
梨音:特に疑問もなく、今までそう過ごしてきました。
梨音:でもあらためて、そういう風に聞いてしまうと……、え、それで、いいんでしょうか?
アキラ:今はそれでいいのさ。
アキラ:我ら王族はね、この国の礎(いしずえ)であるとともに、この国の犠牲者であれと、教育されて育つ。
梨音:そんな……。
椎名:だからね、少しずつ、それを変えていこうって動きもあるんだよ。
椎名:近年の議会も、その一環(いっかん)だ。
梨音:そうなんですね。
琉:だが、急いでコトを進めても、上手くはいかない。
琉:だからゆっくり、より良い国づくりというものを模索(もさく)しているんだ。
アキラ:ありがたい話だね。
アキラ:王族であっても、人として生きて行けるようにとの配慮だ。
アキラ:だが、私の代では無理だろう。
アキラ:私は王で、い続ける。
アキラ:ゆっくりと変えるべきところを変え、あるべきものはそのままに。
アキラ:その後のことは、その後の王と政治に託す。
梨音:はあ……私、全然知りませんでした。
琉:梨音、お前は学校で何を習ってきたんだ。
琉:高等学舎の政治の授業で、多少はその辺、さわるぞ。
梨音:あ、はい。大体寝てるかご飯食べてました。
椎名:教科書立てて、お箸でカツカツお弁当をかき込む女学生って、なかなかいなかったよね。
琉:お前……友達と分けると言って、俺に倍の量作らせた弁当を……
梨音:ひとりで食べてました。あぁっ、痛い、痛いです!
アキラ:まあまあ、政治の話なんて、学生時代に無理に知らなくても、大した問題ではないさ!
アキラ:どうせ時が経てば、色々と移り行くものだからね。
椎名:まあ、それはそうなのですが、ね。
アキラ:ともあれだ。
アキラ:斎賀 琉(さいが りゅう)。
アキラ:言問 椎名(こととい しいな)。
アキラ:円 梨音(まどか りおん)。
アキラ:このたびは、大義であった。
アキラ:住民を守る緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)の活躍、ならびに日の国(ひのくに)、国王である、この晴明(はれあきら)の護衛、見事。
アキラ:褒美の品と金一封(きんいっぷう)、のちほど上官より受け取るがいい。
琉:御意(ぎょい)。
椎名:いぇーす、Your Majesty(ユア、マジェスティ)♪
梨音:ありがとうございます!
琉:お前ら、もう少し……。
椎名:ああ、ついつい。
アキラ:よいよい!
アキラ:この次の祝祭日にも、城まで遊びに来るがいい!
アキラ:私も久々に民衆の前に顔を出すからな!
琉:その日は城の敷地内の、警護ですがね。
アキラ:ああ、それもそうか。
梨音:陛下のご尊顔(そんがん)、拝見(はいけん)させていただきますね!
アキラ:私は動物園のサルか(笑)
梨音:え、そんなあ!
椎名:あはははは!
アキラ:ああ、ついでに、先日の特殊魔獣の件も、子細(しさい)をまとめさせるからな、今後の参考にするといい。
琉:こんなところで、その話ですか。
アキラ:だから、ついでだ、ついで!
琉:わかりました。では、城までお送りします。
琉:椎名、結界解除。
椎名:りょうかーい
アキラ:ええー、もう少し街を、
琉:嫌とは、おっしゃりませんよね?
アキラ:はい。
梨音:あはは! じゃあ、行きましょうか!
椎名:そうだね。参りましょう、陛下。
アキラ:はいはい、では、城までよろしく頼むよ、みんな。
0:数日程度経過の間
0:祝祭日当日
椎名:琉、警備体制は?
琉:城の国王演説舞台はあそこだ。
琉:舞台下広場、ハスの池の淵(ふち)、上手(かみて)は俺たち、下手(しもて)は大和撫子、千手ノ隊(せんじゅのたい)。
琉:ともに異常なしだ。
椎名:城内は王家直属部隊、あっちも異常なしだね。
梨音:ほか、各退魔機関、警官隊も異常ないそうです。
琉:今回も、このままお祭りムードで終わればいいな。
椎名:そうだね
梨音:あ、国王陛下ですよ! 陛下ーー!!
琉:梨音! 仕事中だぞ。
梨音:ええー、だって、みんな手を振ってるしー。
椎名:あはは、まあ、梨音は集中は切らさないからね。
梨音:はい!
琉:まったく……。
椎名:あ、でも静まってきた。
琉:国王陛下の言祝ぎ(ことほぎ)だ。
0:
アキラ:日の国(ひのくに)国王、日御門 晴明(ひのみかど はれあきら)である。
アキラ:わが、国民諸君。
アキラ:この晴れやかな祝祭日、建国(けんこく)記念の日に、よくぞ集まってくれた。
アキラ:心よりの、感謝と喜びをささげよう。
アキラ:
アキラ:先(さき)の王の崩御(ほうぎょ)から三年、私は、いまだ未熟である。
アキラ:王でありながら、若く、未熟である。
アキラ:ではあるが、この日の国(ひのくに)は、国民すべてで守り、営(いとな)んでゆく、国である。
アキラ:すべての国民よ。
アキラ:この国王、晴明(はれあきら)に、力強き助力を乞(こ)いたい。
アキラ:いまだ止(や)まぬ、魔獣の脅威。
アキラ:諸外国との対話。
アキラ:すこやかなる国の発展。
アキラ:すべてにおいて、民の力が必要である。
アキラ:王であるが。王であるからこそ。
アキラ:壇上からではあるが、私は、首(こうべ)を垂れる。
アキラ:全国民に、感謝を。
アキラ:日の国(ひのくに)に、心からの、祝いを。
アキラ:我らの記念の日に、最大の、慶(よろこ)びを。
アキラ:この礼(れい)にて、あらわすものとする!
0:
梨音:陛下ぁ~……! 私も、私も感謝を……!
椎名:えぇー、梨音、泣いてるの?
梨音:だって、だって思い出しちゃって……。
梨音:この前の、ご褒美の……
椎名:ああ、ボーナスと、
梨音:あの、和菓子……。
琉:……お前な……。
梨音:あんな、あんなに綺麗で美味しいお菓子、私、食べたことありません……!
梨音:おいしかった……!
梨音:ありがとうございます……!!
椎名:まあたしかに、とんでもない高級品だったし、美味しかったんだけど。
琉:まさか、菓子にここまで感謝されてるとは、思いもよらないだろうな。
梨音:……また、お話しできたらいいですね!
椎名:今度は、梨音の大好きな、山姥屋(やまんばや)のお菓子でも食べながら?
梨音:はい、山姥屋(やまんばや)さんの、いちごあんモナカ、最高ですね!
琉:冗談じゃない、もうゴメンだ。
椎名:それは陛下のお心次第だからなぁ~。
梨音:ですねー!
琉:お前ら……かんべんしてくれ……。
椎名:あっはははは!
0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)
アキラ:(※ナレーター兼任)
アキラ:列島 日の国(ひのくに)、帝都、東京。
アキラ:王の居城(きょじょう)を有する東京は、もっとも人口の多い都市のひとつであり、華やかに発展し続けてきた。
アキラ:全世界の、主に大国で出現が確認されている、人類の天敵たる魔獣に対抗する組織である退魔機関も、この帝都に、日の国の総本部を置く。
アキラ:それは、帝都退魔機関(ていと たいまきかん)と呼ばれた。
アキラ:機関に所属する退魔官は、生まれながらに退魔の力を有する者であり、その頭数(あたまかず)の少なさから、魔獣専用の軍人として優遇されている。
アキラ:これは、そんな退魔官たちの活躍と日常の物語である。
アキラ:このお話は第二話、はっじまっるよ~。
0:間をおいて
梨音:わー、今日もすごい賑わいですねー。
琉:祝祭日が近いからな。
梨音:あ、おまんじゅう蒸(ふ)かしてますよ。美味しそう。
琉:見回りの仕事が終わったらな。
琉:椎名はどこにいる?
梨音:えーっと、数十メートル後方をちゃんと付いてきてます……あ、いえ立ち止まってます。
梨音:何を見てるんでしょうね。
琉:まったく、あいつは……。
琉:(※遠くから呼びかける)
琉:おい、椎名!
椎名:ねえ、琉~! ちょっとちょっと、おいでー。
琉:なんで俺が呼ばれなきゃならないんだ……椎名、何やってる!
椎名:拾った。
琉:何を、……はぁ!?
アキラ:はぁい、拾われましたぁ。
琉:は……、あ、アキラ!
アキラ:やあやあ、帝都の精鋭退魔官、緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)のみんな、はっけーん♪
椎名:ね、びっくりしたでしょ。
琉:こんなところで何をやってるんだ、お前は。
アキラ:ただの散歩だよ。
アキラ:でもせっかく会えたんだから、ついて行こうかな~。
アキラ:見回り中なんでしょ?
琉:冗談じゃない!
アキラ:ええ~。
梨音:まあまあ、琉さん、そんなに怒らなくても……。
梨音:こんにちは、アキラさんっておっしゃるんですね!
アキラ:やあこんにちは!
アキラ:梨音ちゃん、お噂はかねがね。
アキラ:その、うるわしき姿も、何度かお見かけしているよ。
梨音:え、そうなんですか? えへ♪
椎名:ともあれ、本当についてくるの?
アキラ:うん。だって、みんな退魔官なんだから、もし魔獣に出くわしても安心じゃないか。
琉:そうだ、退魔官だ。
琉:だから、魔獣が出現したら、戦うことになる。
琉:そんな見回りに、のこのこ付いてこようとするな、一般人。
アキラ:一般人はひどいなあ~、これでも僕は、退魔の力だって持ってるんだからね?
椎名:でもなあ、退魔の力があっても、退魔官でないと、魔獣の討伐(とうばつ)には参加できないよねえ。
琉:よほどの特例ケースでもない限り、きつく罰せられる。
琉:この場合、主に俺らがな。
梨音:あー、そうですよねぇ……。
琉:大体、お前はいつも散歩と称して街をほっつき歩いては、俺たちの邪魔をしに来るがな、こちらは仕事中なんだ、自重しろ。
アキラ:えー、たまになら、良くない?
琉:たまにでもダメだ。
アキラ:ぶーぶー。
椎名:かわいいのか、かわいくないのか微妙なラインだね。
アキラ:椎名がわりとひどい。
椎名:そうかな!?
梨音:アキラさん、かわいいです!
アキラ:ね、かわいいよね! 梨音ちゃんは優しいね~!
梨音:えっへへ~!
梨音:それに、そんなに頻繁(ひんぱん)にでもないですよね?
梨音:私がお会いしたのは初めてですし。
琉:たまたま、お前は今日が初めてだがな。
琉:たしかに「たまに」ではあるが、それでも困るんだ。壮絶(そうぜつ)に困る。
梨音:えぇ、そんなに……?
椎名:で、こういう時に限って、魔獣が出たーなんてことになったりしてさー。
琉:椎名、言うな。
椎名:え?
琉:そういうフラグを立てると、
梨音:あ、通信ですね。
琉:ほら……。
椎名:地点は……うわ、ちっか! ていうか見えた! でっかい!
梨音:大型ですね、こんなところに!
琉:(※通信機に向かう口ぶりで)
琉:浅草付近にいる退魔官に要請(ようせい)、一般人の避難誘導を頼む!
琉:緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)が、広場の池付近に魔獣を誘導、そこで討伐(とうばつ)にあたる!
琉:今回は範囲結界(はんいけっかい)を張っての戦闘となる。
琉:各チーム、一般人の避難が済み次第、念のため、結界の外側に待機を!
椎名:んじゃ、梨音、魔獣の誘導をお願いできるかな。
梨音:了解しました!
梨音:魔獣さーーーん! こちらへどうぞーーー!
梨音:蜘蛛(くも)の糸! 誘(いざな)い!
梨音:みなさん、付いてきてくださいね!
椎名:琉、アキラは?
琉:……仕方がない。ここに捨てても混乱に巻き込まれる。
琉:俺たちについてこい!
アキラ:はあい♪
アキラ:わー、君たちの戦いっぷり、楽しみだなー。
琉:そんなことを言ってる場合か!
椎名:のんきだなー。
アキラ:あんまり、椎名に言われたくないな~。
椎名:ええー?
琉:お前ら!
椎名:はいはい、さあ、行くよー!
アキラ:アイサー!
0:間をおいて
琉:よし、上手く誘導されてきたな、椎名、範囲結界!
椎名:はいよ!
椎名:アキラは……結界の中へ?
琉:そうだ。外側のほうが安全だが、戦闘中、目を離すのは危険だからな。
椎名:わかった。アキラ、梨音、君らは結界の内側へ!
アキラ:えっと、ここに立てばいいのかな?
梨音:はい、ちょっと狭いですけど、すぐに広がりますから我慢してくださいね!
琉:結界、広げるぞ! 魔獣にかぶせろ!
椎名:はあい。
椎名:誰もいないはずだけど、念のため!
椎名:もし誰か残っていたら、退避してくださいねー!
椎名:範囲結界を張りますから、留(とど)まろうとすると、押し出されてケガしますよー!
琉:よし、範囲結界、固定!
琉:椎名、魔獣に捕縛結界(ほばくけっかい)いくぞ!
椎名:了解!
梨音:では、アキラさんはこちらへ!
アキラ:へえ、二重に結界を張れるんだね。
梨音:結界と呼んでますけど、それぞれ質のちがうものですからね。
琉:よし……これで、結界の外には音も漏れないな。
椎名:そうだね。
琉:これより、魔獣の討伐を開始する!
琉:帝都退魔機関(ていとたいまきかん)、緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)!
椎名:大和!
梨音:撫子!
琉:参る!
椎名:梨音は結界の範囲ぎりぎりまで下がって!
梨音:はい! アキラさんもこちらへ!
アキラ:は~い!
琉:目標は魔獣! ただし最大の厳命(げんめい)事項は、この場におわす、主君(しゅくん)。
琉:日御門 晴明(ひのみかど はれあきら)国王陛下の、御身(おんみ)の守護だ!
琉:我らの命に代えても、傷ひとつ負わせるな!
椎名:了解!
梨音:りょうか……ええーーー!?
椎名:え、なに?
梨音:あ、アキラさん!? アキラさん!?
梨音:こ、こここ、国王陛下!?
椎名:え、梨音、ええーーー!?
アキラ:わあ、ホントに気づいてなかったの?
アキラ:演技上手いなーと思ってた!
琉:そんな事だろうとは思ったが。
椎名:顔、変わってないのに!
アキラ:ね、ね、髪と目の色変えて、髪形もちょちょっといじっただけで、案外気付かれないもんでしょ?
琉:梨音だからだ!
椎名:梨音だからだね!
梨音:えええーーー!?
琉:とにかく! 行くぞ!
梨音:は、はい、結界強化、縁切り(えんぎり)!
琉:今回は飛び道具は無しだ!
椎名:おっけー、退魔刀(たいまとう)で行くよ!
梨音:琉さんと椎名さんの退魔刀に加護、破魔(はま)の光、暖流(だんりゅう)の霧!
梨音:アキ……いえ国王陛下に守護結界、温水(ぬくみず)の泡(あわ)!
梨音:後方支援の私が、お守りします!
アキラ:だーいじょうぶ、なんなら私がきみを守るよ♪
梨音:おおお、おそれ多いです!
琉:第一刀(だいいっとう)、椎名、上から!
椎名:はいよ、はっ!(※椎名、ジャンプ)
椎名:加護付きの刀、脳天で食らっちゃって! やあ!
琉:第二刀(だいにとう)、足! そら!!
椎名:このデカブツに両足いくかあ。
椎名:おっと、体勢くずしてくれたね、お次は首!
梨音:雷光招来(らいこうしょうらい)、魔獣の喉元(のどもと)へ!
アキラ:うわ、まっぶしい!
梨音:あ、すみません、あまり直視しないでください!
アキラ:だーいじょうぶ♪
椎名:おおっと、暴れるねえ!
琉:椎名、数歩退避!
椎名:はいよっと!
梨音:捕縛結界、強化! 雷光、溜(た)めます!
椎名:よし、琉、えーっと、待機カウント……5!
琉:4、3、2、1……
琉:魔獣、麻痺、凝固(ぎょうこ)!
琉:相変わらず正確なカウントだな。
椎名:まあね~。
琉:よし、刀をかざせ、椎名!
椎名:はいよ、きみもね、琉!
0:キン、と、二人の刀の刃を合わせる(SEなければ気分で)
琉:梨音!
梨音:はい! 重ねたお二人の刃(やいば)に、雨!
椎名:我らがふたえの刀身をめぐる、恵みの雨に、退魔の力をそそぎ、
琉:魔獣の体内に拡散(かくさん)、仕留めるぞ!
梨音:霧散(むさん)の風(かぜ)、送ります!
琉:せい!
椎名:はあぁぁぁーー!!
0:魔獣、ふたりの攻撃に咆哮を放ち、消滅する
アキラ:わ、やったあ!
梨音:完了です!
琉:(※完了のため息)はぁ……、椎名、報告。
椎名:はいよ。……えっと、彼のことは
琉:隠し立ては意味がない。正確に報告しろ。
椎名:だよね~、今回は特に、ここまでしなくていいってくらい、じっくり安全に討伐したしね。
梨音:範囲結界、解かないんですか?
琉:ああ、そのままで。
椎名:はい、説教タイム~!
琉:……陛下。
アキラ:はい。
琉:毎度毎度、毎度、毎度! あなたは!
梨音:え、そんなに!?
椎名:割とね~。俺は三度目、琉は結構な頻度で付きまとわれてる。
アキラ:そんな、ストーカーみたいに。
梨音:私の知らない間に、そんな面白いことに……。
琉:梨音。
梨音:はい、ごめんなさい!
琉:今までは運よく魔獣に出くわさなかったが、今回のようなこともある。
琉:それに、危険は魔獣だけという訳でもない。
琉:いいですか、陛下。
琉:私は大将から、もしも、そこいらであなたに出会ったなら、即刻(そっこく)! 城へ連れ帰れと厳命されているんです。
椎名:それができなければ減俸(げんぽう)だー、とか言われてたよね。
アキラ:わーお。でもそこはほら、私から口をきいておくからさ。
アキラ:特別ボーナスも支給させるし。
琉:当然です。
椎名:国王陛下の警護だもんね……。
梨音:でも私、全然気づきませんでした……。
琉:お前だって、陛下には退魔官として何度か謁見(えっけん)しているし、新聞や映像でもよく見ているだろう。
梨音:そうなんですけどぉ~!
椎名:思いもよらないと、案外、気付かないのかもね。
アキラ:そうそう!
アキラ:実は梨音ちゃんにも声をかけたことがあるんだけど、「こんにちは!」って元気に返されたんだよね。
梨音:はぅあああぁぁ……。
琉:陛下! 本当に、これっきりにしていただきたい!
アキラ:そういう訳にもいかないなぁ。
琉:陛下!
アキラ:だってこれは、必要なことだろう?
アキラ:私が国のことを知らなくてどうするんだい。
琉:公式で視察など、いくらでもしているでしょう。
アキラ:視察じゃ、わからないことなんて、いくらでもあるんだよ。
アキラ:たとえば、これとか。
椎名:ん、本? えっと「日の国(ひのくに)の現状」……うわあ。
アキラ:まあだいぶ、ある事ない事、書かれてる本だけど、興味深いね。
アキラ:もっとも、私が「おかざりの王」なんて言われてるのは、公然の事実だしねぇ?
琉:あなたは、おかざりなどではありません。
梨音:はい、そうです! 多くの国民は、国のために尽力(じんりょく)してくださる陛下をうやまい、感謝していますよ!
アキラ:ふふ、ありがとう。
椎名:おかざり、と言われているのは、民主政治のせいもあるでしょう?
アキラ:そうだね。議会がある。民の意見も聞く。
アキラ:だからこそ、半端に民主主義のまねごとをするくらいなら、王制など撤廃(てっぱい)してしまった方がいいのではないかという意見は、父王(ちちおう)の頃からあったね。
琉:歴代続いた王に失脚しろとは、難しいことを、お手軽に言う。
アキラ:それはそれで、悪くない意見だと思っているよ。
アキラ:しかし、実際はそう簡単な話でもない。
椎名:そのようですね。
アキラ:私個人としては、少なくとも私の代で王をやめることは、したくない。
アキラ:政治の形を変えていくには、まだ時間が足りていないからね。
梨音:そう、なんですか?
アキラ:民主主義ってのもまあ、難しいんだ。
アキラ:特に、遥かな昔と違って、魔獣という脅威があるこの時代ではね。
アキラ:平時でもそうでなくとも、何を決めるにも、多数決にも、色々な形があるだろう?
琉:順風満帆(じゅんぷうまんぱん)なうちはいい。
琉:だが、どんな形であろうが、もしもその政策が失敗したとき、人は誰かに責任を押し付けたがる。
椎名:みんなで決めたはずのことだけど、結局自分以外の誰かに、実際には意味のない、謝罪と罰を要求する。
梨音:そっか……それに、何においても対立って生まれますもんね。
アキラ:だから、私がいるのさ。
アキラ:議会はある。民の意見はそこでまとめる。
アキラ:だが、最後に決定するのは、この私だ。
アキラ:どれだけ最大多数の結果であろうと。
アキラ:最終的な責任は、すべて、私にある。
梨音:……そう、ですよね。
梨音:特に疑問もなく、今までそう過ごしてきました。
梨音:でもあらためて、そういう風に聞いてしまうと……、え、それで、いいんでしょうか?
アキラ:今はそれでいいのさ。
アキラ:我ら王族はね、この国の礎(いしずえ)であるとともに、この国の犠牲者であれと、教育されて育つ。
梨音:そんな……。
椎名:だからね、少しずつ、それを変えていこうって動きもあるんだよ。
椎名:近年の議会も、その一環(いっかん)だ。
梨音:そうなんですね。
琉:だが、急いでコトを進めても、上手くはいかない。
琉:だからゆっくり、より良い国づくりというものを模索(もさく)しているんだ。
アキラ:ありがたい話だね。
アキラ:王族であっても、人として生きて行けるようにとの配慮だ。
アキラ:だが、私の代では無理だろう。
アキラ:私は王で、い続ける。
アキラ:ゆっくりと変えるべきところを変え、あるべきものはそのままに。
アキラ:その後のことは、その後の王と政治に託す。
梨音:はあ……私、全然知りませんでした。
琉:梨音、お前は学校で何を習ってきたんだ。
琉:高等学舎の政治の授業で、多少はその辺、さわるぞ。
梨音:あ、はい。大体寝てるかご飯食べてました。
椎名:教科書立てて、お箸でカツカツお弁当をかき込む女学生って、なかなかいなかったよね。
琉:お前……友達と分けると言って、俺に倍の量作らせた弁当を……
梨音:ひとりで食べてました。あぁっ、痛い、痛いです!
アキラ:まあまあ、政治の話なんて、学生時代に無理に知らなくても、大した問題ではないさ!
アキラ:どうせ時が経てば、色々と移り行くものだからね。
椎名:まあ、それはそうなのですが、ね。
アキラ:ともあれだ。
アキラ:斎賀 琉(さいが りゅう)。
アキラ:言問 椎名(こととい しいな)。
アキラ:円 梨音(まどか りおん)。
アキラ:このたびは、大義であった。
アキラ:住民を守る緑蓬ノ隊(りょくほうのたい)の活躍、ならびに日の国(ひのくに)、国王である、この晴明(はれあきら)の護衛、見事。
アキラ:褒美の品と金一封(きんいっぷう)、のちほど上官より受け取るがいい。
琉:御意(ぎょい)。
椎名:いぇーす、Your Majesty(ユア、マジェスティ)♪
梨音:ありがとうございます!
琉:お前ら、もう少し……。
椎名:ああ、ついつい。
アキラ:よいよい!
アキラ:この次の祝祭日にも、城まで遊びに来るがいい!
アキラ:私も久々に民衆の前に顔を出すからな!
琉:その日は城の敷地内の、警護ですがね。
アキラ:ああ、それもそうか。
梨音:陛下のご尊顔(そんがん)、拝見(はいけん)させていただきますね!
アキラ:私は動物園のサルか(笑)
梨音:え、そんなあ!
椎名:あはははは!
アキラ:ああ、ついでに、先日の特殊魔獣の件も、子細(しさい)をまとめさせるからな、今後の参考にするといい。
琉:こんなところで、その話ですか。
アキラ:だから、ついでだ、ついで!
琉:わかりました。では、城までお送りします。
琉:椎名、結界解除。
椎名:りょうかーい
アキラ:ええー、もう少し街を、
琉:嫌とは、おっしゃりませんよね?
アキラ:はい。
梨音:あはは! じゃあ、行きましょうか!
椎名:そうだね。参りましょう、陛下。
アキラ:はいはい、では、城までよろしく頼むよ、みんな。
0:数日程度経過の間
0:祝祭日当日
椎名:琉、警備体制は?
琉:城の国王演説舞台はあそこだ。
琉:舞台下広場、ハスの池の淵(ふち)、上手(かみて)は俺たち、下手(しもて)は大和撫子、千手ノ隊(せんじゅのたい)。
琉:ともに異常なしだ。
椎名:城内は王家直属部隊、あっちも異常なしだね。
梨音:ほか、各退魔機関、警官隊も異常ないそうです。
琉:今回も、このままお祭りムードで終わればいいな。
椎名:そうだね
梨音:あ、国王陛下ですよ! 陛下ーー!!
琉:梨音! 仕事中だぞ。
梨音:ええー、だって、みんな手を振ってるしー。
椎名:あはは、まあ、梨音は集中は切らさないからね。
梨音:はい!
琉:まったく……。
椎名:あ、でも静まってきた。
琉:国王陛下の言祝ぎ(ことほぎ)だ。
0:
アキラ:日の国(ひのくに)国王、日御門 晴明(ひのみかど はれあきら)である。
アキラ:わが、国民諸君。
アキラ:この晴れやかな祝祭日、建国(けんこく)記念の日に、よくぞ集まってくれた。
アキラ:心よりの、感謝と喜びをささげよう。
アキラ:
アキラ:先(さき)の王の崩御(ほうぎょ)から三年、私は、いまだ未熟である。
アキラ:王でありながら、若く、未熟である。
アキラ:ではあるが、この日の国(ひのくに)は、国民すべてで守り、営(いとな)んでゆく、国である。
アキラ:すべての国民よ。
アキラ:この国王、晴明(はれあきら)に、力強き助力を乞(こ)いたい。
アキラ:いまだ止(や)まぬ、魔獣の脅威。
アキラ:諸外国との対話。
アキラ:すこやかなる国の発展。
アキラ:すべてにおいて、民の力が必要である。
アキラ:王であるが。王であるからこそ。
アキラ:壇上からではあるが、私は、首(こうべ)を垂れる。
アキラ:全国民に、感謝を。
アキラ:日の国(ひのくに)に、心からの、祝いを。
アキラ:我らの記念の日に、最大の、慶(よろこ)びを。
アキラ:この礼(れい)にて、あらわすものとする!
0:
梨音:陛下ぁ~……! 私も、私も感謝を……!
椎名:えぇー、梨音、泣いてるの?
梨音:だって、だって思い出しちゃって……。
梨音:この前の、ご褒美の……
椎名:ああ、ボーナスと、
梨音:あの、和菓子……。
琉:……お前な……。
梨音:あんな、あんなに綺麗で美味しいお菓子、私、食べたことありません……!
梨音:おいしかった……!
梨音:ありがとうございます……!!
椎名:まあたしかに、とんでもない高級品だったし、美味しかったんだけど。
琉:まさか、菓子にここまで感謝されてるとは、思いもよらないだろうな。
梨音:……また、お話しできたらいいですね!
椎名:今度は、梨音の大好きな、山姥屋(やまんばや)のお菓子でも食べながら?
梨音:はい、山姥屋(やまんばや)さんの、いちごあんモナカ、最高ですね!
琉:冗談じゃない、もうゴメンだ。
椎名:それは陛下のお心次第だからなぁ~。
梨音:ですねー!
琉:お前ら……かんべんしてくれ……。
椎名:あっはははは!
0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)