台本概要

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タイトル 泡と人魚と風呂場とワイン
作者名 真野ショウタ  (@eda2812)
ジャンル ホラー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 10 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 ◆馬鹿:クズについていった馬鹿な女
◆クズ:何も覚えていないクズな男

「よく、目を閉じられるね」

【利用規約】(こまかいところ)
https://note.com/otetsudai_s/n/nd62bdc5b1067

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
馬鹿 53 クズについていった馬鹿な女
クズ 53 何も覚えていないクズな男
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:飽和した水蒸気の中でも息はできる。 0:頭を断続的に打ちつけるシャワーは俺を伝って床に届き、熱を失う。 0:何かが失われていく感覚は、寂しさを想起して止まない。 0:形を失ってぼやけた感情に包まれ、俺は目を閉じた。 馬鹿:「よく、目を閉じられるね」 0:その問いの意味を少し探し、そして捨てた。 0:『泡と人魚と風呂場とワイン』 クズ:「起きたの?」 馬鹿:「私のことを寝坊助みたいに言わないで」 クズ:「起きたんだな」 馬鹿:「起こしたのはあなただよ」 0:ちゃぷ……。 クズ:「悪いことした?」 馬鹿:「別に。あなたが起こさないなら、私はずっと眠っているし」 クズ:「ずっとって、いつまで?」 馬鹿:「いつまでも」 クズ:「死んじゃうじゃん」 馬鹿:「変わらないよ」 クズ:「……」 馬鹿:「ちょっと時間の差があるだけだよ。いつかは死ぬでしょ」 クズ:「思春期みたいなことを言うじゃん」 馬鹿:「思春期を覚えているからかな。あなたは忘れた?」 クズ:「思い出したよ」 馬鹿:「私がいない記憶はどう?」 クズ:「開放的なくらい寂しい」 馬鹿:「息苦しくないの?」 クズ:「今じゃない記憶は苦しくない」 馬鹿:「本当に?」 クズ:「後悔は、時々ある」 馬鹿:「私の記憶は、どう?」 クズ:「不思議だ。息苦しい」 馬鹿:「うれしい」 クズ:「寄せよ、照れる」 馬鹿:「馬鹿」 0:ちゃぷ……。 クズ:「……なあ。金がない」 馬鹿:「また?」 クズ:「くれよ」 馬鹿:「だめよ」 クズ:「どうして?」 馬鹿:「胸に手を当ててごらん?」 クズ:「わからない」 馬鹿:「手を当ててないからよ。泡、流してあげようか?」 クズ:「いいよ。自分でできる」 馬鹿:「そんなことより、喉乾かない?」 クズ:「乾くの?」 馬鹿:「バスタブの水を飲むと思ってる?」 クズ:「死ぬくらいならな」 馬鹿:「飲まないよ」 クズ:「死んでも?」 馬鹿:「そろそろ胸に手を当てたら?」 クズ:「なんで?」 馬鹿:「忘れたの? ならいいけど」 クズ:「忘れっぽくなったのは知ってる。お前っていつからそこにいたっけ?」 馬鹿:「答えてほしいなら。飲み物頂戴。ワインでいい」 クズ:「ないよ」 馬鹿:「あるよ。キッチンに」 クズ:「わかった」 0:ちゃぷ……。 0:クズ、ワインをコップに入れてバスタブの淵に置く。 クズ:「はい」 馬鹿:「これだけ? ボトルも置いてくれたらいいのに」 クズ:「俺が飲めない。次からは炭酸はいってないのを買えよ」 馬鹿:「……そういうの得意よね」 クズ:「そういうの?」 馬鹿:「私から奪うこと」 クズ:「お前が寄こすからだろ」 馬鹿:「そうね。おかげで痩せた」 クズ:「どういたしまして」 馬鹿:「私が痩せたらうれしい?」 クズ:「別に」 馬鹿:「太ったら?」 クズ:「ムカツク」 馬鹿:「消えたら?」 クズ:「消えるってなんだよ」 馬鹿:「消えるの。泡になって」 クズ:「へえ。面白そうじゃん」 馬鹿:「骨は残しておくから」 クズ:「なんでだよ」 馬鹿:「じゃま?」 クズ:「ジャマ」 馬鹿:「じゃあ、なんで私をここにおいてるの?」 0:ちゃぷ……。 クズ:「出ていかないからだろ」 馬鹿:「……忘れてる」 クズ:「何を?」 馬鹿:「連れてきたのはあなたでしょ」 クズ:「どうしてついてきたの?」 馬鹿:「優しかったから」 クズ:「本当に?」 馬鹿:「嘘をつかれたのかも」 クズ:「俺に?」 馬鹿:「他にいる?」 クズ:「お前」 馬鹿:「そうかもね、ふふ」 クズ:「馬鹿が」 馬鹿:「私の骨はどうしたい?」 クズ:「どうもしない」 馬鹿:「お風呂、入りたくないの?」 クズ:「入りたければ入る」 馬鹿:「今から一緒に入らない?」 クズ:「嫌だ」 馬鹿:「どうして?」 クズ:「お前の匂いは嫌いだ」 馬鹿:「息苦しい?」 クズ:「わかってるなら、答えろよ。お前っていつからそこにいる?」 馬鹿:「思い出してくれたら、いいものあげる。骨にもならない」 クズ:「いつだ?」 馬鹿:「昨日」 0:ちゃぷ……。 クズ:「あ?」 馬鹿:「昨日も、お金をせびってきたから言い合ったでしょ。その時私をここに連れてきたんじゃない?」 クズ:「昨日……」 馬鹿:「酔っぱらってたのか、キメてたのか知らないけど、私の声全部を無視して怒鳴ってきた。怖かったけど、ちょっと大きいペットと思えば全然かわいく思えた」 クズ:「なあ、昨日っていつだ?」 馬鹿:「かわいいって罪ね。いくらでも許せちゃう」 クズ:「いつだよ!」 0:バスタブの中にグラスが落ちた。 0:既に赤黒く飽和した液体の中に、安物の赤が泡を立てながら潰れる。 0:両足を揃えた馬鹿の体は湿っているが、固い。 0:べったりと髪の張りついた顔の一部が鱗のように剝がれている。包丁が刺さっている。 0:ぱちぱちと力なく弾ける気泡の音。見開かれたままの目で彼女は答えた。 馬鹿:「薬なら洗面台の引き出しだよ」 0:ぴちょん――。

0:飽和した水蒸気の中でも息はできる。 0:頭を断続的に打ちつけるシャワーは俺を伝って床に届き、熱を失う。 0:何かが失われていく感覚は、寂しさを想起して止まない。 0:形を失ってぼやけた感情に包まれ、俺は目を閉じた。 馬鹿:「よく、目を閉じられるね」 0:その問いの意味を少し探し、そして捨てた。 0:『泡と人魚と風呂場とワイン』 クズ:「起きたの?」 馬鹿:「私のことを寝坊助みたいに言わないで」 クズ:「起きたんだな」 馬鹿:「起こしたのはあなただよ」 0:ちゃぷ……。 クズ:「悪いことした?」 馬鹿:「別に。あなたが起こさないなら、私はずっと眠っているし」 クズ:「ずっとって、いつまで?」 馬鹿:「いつまでも」 クズ:「死んじゃうじゃん」 馬鹿:「変わらないよ」 クズ:「……」 馬鹿:「ちょっと時間の差があるだけだよ。いつかは死ぬでしょ」 クズ:「思春期みたいなことを言うじゃん」 馬鹿:「思春期を覚えているからかな。あなたは忘れた?」 クズ:「思い出したよ」 馬鹿:「私がいない記憶はどう?」 クズ:「開放的なくらい寂しい」 馬鹿:「息苦しくないの?」 クズ:「今じゃない記憶は苦しくない」 馬鹿:「本当に?」 クズ:「後悔は、時々ある」 馬鹿:「私の記憶は、どう?」 クズ:「不思議だ。息苦しい」 馬鹿:「うれしい」 クズ:「寄せよ、照れる」 馬鹿:「馬鹿」 0:ちゃぷ……。 クズ:「……なあ。金がない」 馬鹿:「また?」 クズ:「くれよ」 馬鹿:「だめよ」 クズ:「どうして?」 馬鹿:「胸に手を当ててごらん?」 クズ:「わからない」 馬鹿:「手を当ててないからよ。泡、流してあげようか?」 クズ:「いいよ。自分でできる」 馬鹿:「そんなことより、喉乾かない?」 クズ:「乾くの?」 馬鹿:「バスタブの水を飲むと思ってる?」 クズ:「死ぬくらいならな」 馬鹿:「飲まないよ」 クズ:「死んでも?」 馬鹿:「そろそろ胸に手を当てたら?」 クズ:「なんで?」 馬鹿:「忘れたの? ならいいけど」 クズ:「忘れっぽくなったのは知ってる。お前っていつからそこにいたっけ?」 馬鹿:「答えてほしいなら。飲み物頂戴。ワインでいい」 クズ:「ないよ」 馬鹿:「あるよ。キッチンに」 クズ:「わかった」 0:ちゃぷ……。 0:クズ、ワインをコップに入れてバスタブの淵に置く。 クズ:「はい」 馬鹿:「これだけ? ボトルも置いてくれたらいいのに」 クズ:「俺が飲めない。次からは炭酸はいってないのを買えよ」 馬鹿:「……そういうの得意よね」 クズ:「そういうの?」 馬鹿:「私から奪うこと」 クズ:「お前が寄こすからだろ」 馬鹿:「そうね。おかげで痩せた」 クズ:「どういたしまして」 馬鹿:「私が痩せたらうれしい?」 クズ:「別に」 馬鹿:「太ったら?」 クズ:「ムカツク」 馬鹿:「消えたら?」 クズ:「消えるってなんだよ」 馬鹿:「消えるの。泡になって」 クズ:「へえ。面白そうじゃん」 馬鹿:「骨は残しておくから」 クズ:「なんでだよ」 馬鹿:「じゃま?」 クズ:「ジャマ」 馬鹿:「じゃあ、なんで私をここにおいてるの?」 0:ちゃぷ……。 クズ:「出ていかないからだろ」 馬鹿:「……忘れてる」 クズ:「何を?」 馬鹿:「連れてきたのはあなたでしょ」 クズ:「どうしてついてきたの?」 馬鹿:「優しかったから」 クズ:「本当に?」 馬鹿:「嘘をつかれたのかも」 クズ:「俺に?」 馬鹿:「他にいる?」 クズ:「お前」 馬鹿:「そうかもね、ふふ」 クズ:「馬鹿が」 馬鹿:「私の骨はどうしたい?」 クズ:「どうもしない」 馬鹿:「お風呂、入りたくないの?」 クズ:「入りたければ入る」 馬鹿:「今から一緒に入らない?」 クズ:「嫌だ」 馬鹿:「どうして?」 クズ:「お前の匂いは嫌いだ」 馬鹿:「息苦しい?」 クズ:「わかってるなら、答えろよ。お前っていつからそこにいる?」 馬鹿:「思い出してくれたら、いいものあげる。骨にもならない」 クズ:「いつだ?」 馬鹿:「昨日」 0:ちゃぷ……。 クズ:「あ?」 馬鹿:「昨日も、お金をせびってきたから言い合ったでしょ。その時私をここに連れてきたんじゃない?」 クズ:「昨日……」 馬鹿:「酔っぱらってたのか、キメてたのか知らないけど、私の声全部を無視して怒鳴ってきた。怖かったけど、ちょっと大きいペットと思えば全然かわいく思えた」 クズ:「なあ、昨日っていつだ?」 馬鹿:「かわいいって罪ね。いくらでも許せちゃう」 クズ:「いつだよ!」 0:バスタブの中にグラスが落ちた。 0:既に赤黒く飽和した液体の中に、安物の赤が泡を立てながら潰れる。 0:両足を揃えた馬鹿の体は湿っているが、固い。 0:べったりと髪の張りついた顔の一部が鱗のように剝がれている。包丁が刺さっている。 0:ぱちぱちと力なく弾ける気泡の音。見開かれたままの目で彼女は答えた。 馬鹿:「薬なら洗面台の引き出しだよ」 0:ぴちょん――。