台本概要
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タイトル | 名探偵の低迷譚〜空白の30分〜 |
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作者名 | よぉげるとサマー (@gerutohoukai) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 5人用台本(不問5) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
名探偵の低迷譚(ていめいたん)〜空白の30分〜 コメディ色の強いシリアス成分も配合されているミステリーです。 名探偵の低迷譚シリーズ1作目です。 1話完結なので、シリーズどこからやっても基本問題無いです。 3カウントと書いてる区切りは、3秒くらい待ってからやればちょうどいいんじゃない? って意味です。 不問5人台本です。 役としての性別イメージ的には、女2 男3 です。 が、あまり気にせず。ご自由に。 劇の音声が残るようにしてくれる場合は、 「よぉげるとサマー」と作者名を、ポストとか配信名に記載してくれると嬉しいです。 是非、聴きたいです。 あと、感想もくれると喜びます。 720 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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金田 | 不問 | 149 | 金田 一(かなだ はじめ)。名探偵? 伸ばし棒がすごい主人公。 役の性別イメージは、どちらかと言うと女。 |
明知 | 不問 | 127 | 明知 悟狼(めいち さとる)。名探偵? クールなツッコミ主人公。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。 |
伊良 | 不問 | 55 | 伊良 (いら)。ペンションの管理人。名探偵のミーハー。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。 |
平原 | 不問 | 61 | 平原 (ひらはら)。ペンションの宿泊客。Jupiterは歌わない。 役の性別イメージは、女。 |
水野 | 不問 | 83 | 水野 (みずの)。ペンションの宿泊客。几帳面で明るめ。 役の性別イメージは、どちらかと言うと男。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:プロローグ―――
伊良:うあぁぁぁあ!
平原:は、袴田(はかまだ)っ!
水野:し……し、し、死んでるっ!
金田:あー……いったーい、だーれがー、こーんなことー。
明知:はぁ……どうして君と居ると、こうもベタな展開に巻き込まれてしまうんだ……。
金田:はあー? 私のせいだってのー?
明知:そうとしか思えん。
伊良:……あ?
平原:えっと……ん?
水野:どちら様……ですか?
金田:……。
明知:……。
水野:……あのぉ?
金田:はぁー……。
明知:ふぅ……。
平原:ため息でか……。
金田:べっつにぃー……。
明知:名乗る程の者じゃないさ。
伊良:はっ! ま、まさか、あなた方は! 本日宿泊予定の!
金田:あー、違うぞ、これ。
明知:あぁ、絶対違う。
伊良:金田一(きんだいち)先生と明智 小五郎(あけち こごろう)先生!
金田:ちっがぁぁぁぁう!
明知:1ミリもあっとらんわ、ボケェ!
平原:金田一(きんだいち)……明智(あけち)……聞いたことがあるっ。
水野:あ、あの数々の難事件を解き明かしたという……名探偵のっ!
金田:だから違ぁぁぁう!
明知:私たちの名前は!
金田:金田 一(かなだ はじめ)と!
明知:明知 悟狼(めいち さとる)だ!
0:本編―――
金田:……たまにはさー。私も一年頑張って生きていることだしー。羽を伸ばーす、とまでは、いかずともー、ちょいと足を伸ばして、ウィンタースポーツに興じるー、すてーきなー、冬休みを満喫しても良いでしょー、何か文句が?
明知:いいや。何ひとつとして、文句などあるものか。私も、日々の労務を思えば、と、ほんのささやかながら、骨休めでもしてこい、と与えられた休みの日に。随分と遠ざかっていた、冬の趣味に興じてみようか、などと……思ったのが、今日の不幸に繋がった、というわけで。
金田:はー? 私の方が最悪だからなー?
明知:くだらない背比べは、やめよう。お互いにお互いの顔を見るだけで、気が滅入るというのに。
金田:おめーは、毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回、いちいち一々いちいち一々いちいち一々いちいち一々いちいちぃー! 嫌味言わねーと息も吸えねーのかってーのー!
明知:うるさい。どうして行く先々で、私の平穏をことごとく邪魔するんだ? 君……さてはストーカーだろ?
金田:あー? 馬鹿も休み休み言えってーのー! なーんで、金も貰えないってのに、おめーと一緒に不幸にならんといけねーんだよー!
明知:確かに。君にしては理知的な意見だ。
金田:うるせー! てか……おい、おめー……どこまで着いてくるんだ?
明知:……ちょうど同じことを考えていた。あえて、問い返そう。君……どこまで着いてくる気だ?
金田:……おい。
明知:……まさか。
金田:……ここにー!
明知:泊まるのか!?
金田:…………。
明知:…………。
金田:安い……もんな、ここ。
明知:あぁ……風呂は個室にシャワー室しか無いが、綺麗で雰囲気も良く、料理も美味い……らしい。
金田:時間を忘れてー、静かな自然を楽しめる……憩いの場。
明知:ペンション。
金田:時知らずー。
明知:……はぁ、もうこんな時間だぞ。チェックインの時間を、とっくに過ぎている。
金田:はぁ……オーケー、入るか。もう暗いし。それに、部屋は違ぇーんだしー。
明知:うむ、諦めも肝心だな。
伊良:うあぁぁぁあ!
金田:…………。
明知:…………。
金田:展開が、はえーよ……。
明知:何も……良いことなんて無かったな。
0:3カウント―――
明知:……さて、状況を整理しよう。
金田:やーめろー。ほんとーに、名探偵様っぽくなんだろーがよー。
伊良:……やっぱり、名探偵なんですってぇ!
平原:今言ったもんな。
水野:すごいっ、僕初めて見るよっ!
金田:ほーらー、勘違いしたがるんだよー、庶民はー。
明知:君も庶民だろうが……。確かに、この反応は煩わ(わずらわ)しいが……こうなった以上は、さっさと終わらせるしかないだろ。
金田:いつもどーりに、ってかー?
明知:あ、馬鹿っ。
伊良:……ほらっ、いつも事件を解決してるんですよぉ! やっぱりあの有名なぁ!
平原:マジか……こんなことってあるんだな。
水野:め、め、名探偵の推理が、こんな間近で見れて良いのかなぁっ!
金田:くっそー……ミスったか。
明知:餌を与え無いようにしてくれ。
金田:わーってるよー。とりあえず、私らが来るまでに、どーしてこーなったのか、説明してくれ。あと、自己紹介もー。
伊良:は、はい。私はこのペンションの管理人で、伊良(いら)と言います。52歳です。趣味はクロスワードパズルとピクロス。好きな食べ物は、ちくわぶ。
明知:馬鹿か貴方は。そこまでの自己紹介なんて不要だ。名前だけでいい。
金田:知らねーよピクロスとか、若者はー。
伊良:す、すみません。
平原:自分は、平原(ひらはら)です。ここへは友達と一緒に、スキー旅行で泊まってました。……殺された袴田(はかまだ)も、友達です。
金田:そうそーう、こんなので良いんだよ、わかったかー?
伊良:勉強になります……。
明知:もういいだろ。貴方は?
水野:み、水野(みずの)ですっ! 平原と一緒に旅行で泊まってました……袴田さんも……うぅっ、どうしてこんなことに……。
明知:おツラいでしょうが、気をしっかりと持ってくださいね。
水野:ありがとうございます……でも、有名な探偵さんと会えて、とても嬉しいので、大丈夫ですっ!
金田:大丈夫じゃねーよっ。名探偵じゃねーってのー。
明知:はぁ……どうして毎度、訂正してもろくに聞いて貰えないんだ。
金田:んでー、その袴田って奴はー、どーして死んで見つかったんだー? 発見するまでの流れを教えてくれー。
平原:……私たちがここに来たのは、今日の朝で、昼頃まで荷物を置いた後に、周辺の観光をしていました。
水野:僕たち3人で、ペンション周りの自然を楽しんでたんです。管理人の伊良さんがソリを貸してくれたりして……子供の頃に戻ったみたいに、雪遊びばかりしてました。
金田:おいー、いいなー……私もそんな感じで、楽しい休暇になるはずだったのにー……。
明知:結果こんなことになってるのは、お互い様だ。あまり無神経なことを言うなよ。
金田:へーい。うるせー、バーカ。
明知:馬鹿は君だ、馬鹿。
金田:あー? バカっつった方がバカだろうがよー。
明知:じゃあ、やはり、君がそれだ。
金田:それってなーんでーすかー? 語彙力終わってるー!
明知:煽り方が小学生以下だな、棚田(たなだ)。
金田:金田(かなだ)だ! 人の名前で遊ぶなー!
伊良:あ、あのぉ……落ち着いてください。
明知:うるさい。
金田:だまれ。
伊良:え、えぇ……。
平原:あの、話を進めたいんですけど。
水野:そ、そうですよ、ケンカなんてしていたら、事件は解決できませんよっ!
金田:むー……腑に落ちないがー。
明知:仕方ない。気は進まんが、この事件を解決しないと、休日が無駄になる。
金田:それなー。よぅし、話を戻したまえー。
平原:はぁ……昼ご飯を食べた後、疲れて夜まで自由時間にしたんです。
水野:袴田さん、疲れたみたいで、自分の部屋へ寝に行ったんですよ。
平原:だから私たちも、自分の部屋に行って、各々過ごしてたんです。
水野:それからちょっと経った後、僕が平原を誘って、ロビーでコーヒーを飲んでましたけどね。
明知:だいたい何時頃ですか?
平原:えっと……14時くらいだった?
水野:うん、14時半とか、そんなだったよ。
金田:……袴田は、誘わなかったのかー?
水野:あ、いや、誘ったんですけど……ノックしても反応が無かったので。
平原:寝てるのに起こすのも悪いし。
水野:うん。そういうことになったんです。
明知:……なるほど。それから?
平原:夕飯の時間が近づいて来たのと、18時には起こしてって、袴田から言われてたから、水野が部屋まで起こしに行ったんですけど……やっぱり反応が無くて。
水野:わりと大きい音とか、声とか出してもダメで……管理人さんにお願いして、鍵を開けて貰ったんです。
金田:鍵が、かかっていたのかー。
伊良:はい、オートロックなんですよ全室。内側からは大丈夫なんですけど、外からは鍵を使わないと開かないんです。
明知:……と、なると。これは、いわゆる。
金田:密室……殺人。ってことにー、なるか。
伊良:……っ。(えぇっ! みたいな感じで)
平原:……っ。(密室っ! みたいな感じで)
水野:……っ。(殺人っ! みたいな感じで)
金田:……なんなんだ、そのミステリードラマの演出みたいな、連続のリアクションは。
明知:いつものことだろ。
金田:だとしてもだー。
明知:はいはい……。
伊良:そ、それでですね……鍵を開けてみたら……。
水野:袴田さんの……死体が。
明知:ちなみに、どうして死んでいると分かったんですか?
平原:いや、あんなの見ればわかるでしょ……。
明知:言語化してください、すみません。
平原:……なんで?
金田:気にせずー、はやく説明してくれーい、アヤカ。
平原:アヤカって名前じゃないから。
水野:は、袴田さんは……ベッドの上で、胸にナイフが……刺さって、て……うぅっ。
平原:水野、無理しないで……。もう、そんな状態だったんだから、どう見たって死んでるでしょ!
金田:ありがとう、アヤカ。
平原:ちげえって。
明知:それを見て、伊良さんが大声をだした所で、私たちがペンションに到着した、と。
伊良:いや、ははは……聞こえちゃいました? えー……ははは、お恥ずかしい。
金田:照れんな。お前状況わかってんのかよー。
明知:最後に、袴田さんの姿を見たのは、何時くらいでした?
平原:たぶん……13時くらい?
水野:いや、12時20分過ぎくらいかな。昼ご飯食べたのが、ちょっと早くて、11時半くらいだったから。
平原:あー……そうね。
金田:ということはー。犯行時刻は、12時20分から18時の間……うーん、もう少し絞りてーなー。
明知:その時間帯の、皆さんのアリバイを聞かせてください。何をしてましたか?
伊良:お、あぁ…‥アリバイっ。
水野:すごい……探偵だぁ!
平原:いいから……私は、昼ご飯の後、部屋で軽く寝てて、水野の扉をノックする音で起きました。
明知:いいですね、平原さん。私たちを名探偵扱いして崇めないなんて、とてもレアですよ。
金田:さすがアヤカ。
平原:ちげえって……それで、それから袴田の死体を見つけるまで、ずっと水野とロビーで一緒に居ました。
水野:僕も、似た感じです。ご飯食べ終わった後、皆自分の部屋に行っちゃったけど、自分はロビーで管理人さんと話したり、雑誌を読んだりしてたんです。管理人さんがコーヒーをいれてくれるって言うので、平原と袴田さんにも声をかけに行ったのが……えと、14時くらいですね。そこから、さっき言った通り、平原と一緒に居ました。
金田:なるほど。伊良さんはー?
伊良:私は、皆さんの昼食を用意した後、エントランスの雪かきを少しして、その後、食器の片付けだとか、細かい仕事をしてましたね……それで水野さんたちにコーヒーをいれてあげることになって、平原さんが下りて来て、そこからは、少しお話ししたり、ロビー周りの仕事をしてました。
金田:なんか、暇そうだったんだなー。
伊良:まぁ、今日はチェックインのお客様が、先生方お二人だけで、ここにいる方以外は宿泊してる方は居ないので、わりとゆっくりしていられましたから。
明知:先生では無い。けれど……宿泊客は、死者を除いて、ここにいる4名のみ。
金田:てことはー……。
明知:この中に……犯人がいる。
伊良:……っ!(そんなっ! みたいな感じで)
平原:……っ!(うそでしょっ! みたいな感じで)
水野:……っ!(まさかっ! みたいな感じで)
金田:ええて……もう。ミステリードラマ的演出。
明知:いつものことだ。
金田:だとしてもだー。
明知:なんにせよ……アリバイについては、皆似たような物だな。
金田:昼食後からコーヒーいれてもらう、13時から14時の間が、微妙だなー、軒並み。
明知:客室はすべて2階にあり、ロビー前の階段を上らないと行けない。ということは、ずっとロビーにいた水野さん。伊良さんが2階に行ったとか、平原さんが少し下りて来たとか、そういうのを見たなど、情報は無いですか?
水野:え、ええと……管理人さんは2階に行って無いと思います。それで、平原も僕が呼びに行くまでは、下りて来てません。
金田:てーこたー……アヤカが犯人候補としては一番手、か。
平原:だから、違うってば! そんで、犯人候補って……私が袴田を……友達を殺したって言うの!?
金田:まーまー、あくまで、状況だけ見ると、ってことだよ。誰にも目撃されてない時間に、殺害現場の一番近くに居る奴なんてさー……疑うだろー?
平原:で、でも……私はやってない! それに……。
明知:それに?
平原:……っ、旅行に行くような仲の友達を、殺す訳無いでしょ!
金田:……まー、そーかもな。
水野:ぼ、僕も、平原がそんなことするなんて、思えません!
伊良:……あ、もしかして、これ、否定しないと私が犯人になるやつでは? あ、あ、あの、私は犯人では無いので、この二人がヤバいって、思います!
金田:なーんで、お前だけ人狼ゲームみたいな認識なーんだよー! 人死んでんのみてんだろーが! 何考えてんだよ!
明知:メタ読みとか、したく無いので、黙ってて欲しいな。
金田:できそうでも、そんなことすんなー! 人死んでんだぞ!
明知:君は、変なとこで律儀だよな……。
平原:とにかく、私はやってません!
伊良:わ、私だって!
水野:え、じゃあ僕も!
金田:だぁぁあ! わかったってのー! 白アピールするなー!
明知:君だって、人狼ゲーム脳じゃないか……。ともあれ、皆さんの主張と、アリバイはわかりました。
金田:じゃー、次は現場検証かー。
明知:そうだな……よし、殺害現場を調べよう。
伊良:わ、わわ、名探偵だ……!
金田:もーいいって。
0:3カウント―――
明知:一見(いっけん)、争ったような形跡は無いな。
金田:やーっと、オーディエンスから解放されたぜー。
伊良:あ、あの、私近くに居ますからね! 何かあったら言ってくださいね! 私、居ますから!
明知:わかりましたって。……まだ割と近いぞ。
金田:多少はー、目をつぶる。
明知:はぁ……遺体は、心臓にナイフがひと刺し。眠るように目を閉じていて、状態は綺麗。
金田:部屋も荷物もー、荒らされているよーには見えない。金銭目当てには思えねーなー。
明知:……失礼。
金田:うわっ、死体触って良いのかよー!
明知:手袋してるから、大丈夫だろ。
金田:トイレ掃除用の使い捨てだけどなー。
明知:有事の際には仕方ない……なるほど、死んでるな。
金田:はー? そらそーだろバーカ。
明知:うるさいボケ。一応、確認しないといけないだろう。他人の言葉を、信じ過ぎてはいけない。
金田:ほーん。じゃー、私もー。
明知:どうして、君もやる必要があるんだ。
金田:おめーが言ったんだろー。他人の言葉を、信じるな、ってー。
明知:はっ……次の被害者が、君であることを願うばかりだ。
金田:そっくりそのまま、お返ししてやんよー……あれ?
明知:どうした?
金田:……手首にー、なんかの跡がついてる。
明知:跡? 見せろ……これは、時計か?
金田:腕に巻くもんつーと……定番はそれだな。
明知:……どこかに外して置いてあるとか?
金田:まだ、跡が残ってんのにー?
明知:……奴らの荷物検査でもするか?
金田:微妙だなー……なんとでも言い訳できるし、それに出て来る保証は無い。
明知:……なぜ、時計だけ持ち去ったんだ?
金田:んー……超高くて、すっげーレアなヤツだったとかー……決定的なー、証拠に繋がるからー……とか。
明知:時計が、この事件の鍵……というわけか。
金田:……なぁー。
明知:なんだ?
金田:いま、なーん時だ?
明知:……あぁ、そう言えば君、いぼ痔だったっけ?
金田:なったことねーよ!
0:3カウント―――
伊良:あ、先生方! どうでした? 何かわかりましたか?
金田:せーんせーじゃ、ねーってよー……。
明知:言わせておけ、無駄な問答だ。
金田:だーとしてもだー!
伊良:あ、そうだ、先生方、大変なんです!
明知:何かまたあったんですか?
伊良:それが……。
平原:警察が来れないって、どう言うことなの!?
金田:わぁー、おっ決まりー……。
水野:しょうがないよ……この吹雪で、今日は難しいって話で。
明知:……確かに吹雪いてるな。
金田:きゃー、クローズドサークルってヤツだー。クソがー。
明知:もう慣れたよ、私は。
金田:慣れるな、バカ。
伊良:ということで……私たちは、朝までここで……。
平原:殺人犯と一緒に居なきゃいけないなんてっ!
水野:平原、落ち着いてっ!
明知:なるほど……電話をしたのは、どなたですか?
水野:あ、僕です! 伊良さんは、探偵さんについてて、平原は……ちょっと気落ちしてたので、僕が電話を借りて、かけました。
明知:それは、いつ頃?
水野:えっと、ついさっき……20時10分くらいです。
金田:おー、細かく覚えててえらーい。
水野:え、あ、ありがとうございますっ。
金田:どれ……じゃ、私もー、お電話お借りするよー。
伊良:え、あぁ、良いですけど……。
水野:金田一(きんだいち)さんっ、警察は来れないって……。
金田:金田(かなだ)だっ! わーってるよー! なーんで、もう一回かける必要あんのさー。別の電話だよー。
水野:す、すみません。
明知:どこにかける気だ?
金田:ちょっとねー。………………ふーん。
平原:……何遊んでんの? ここに袴田を殺した殺人犯が居るのに! なんでそんなヘラヘラしてられんのよ!
水野:平原っ! 落ち着いて! 袴田さんが死んで、ツラいのはわかるけど……。
平原:だって、コイツら、自分たちは関係ないみたいな……!
明知:で? 珈琲店。
金田:ん? ……あっ、金田(かなだ)だっ! おーいっ、そのボケは、わかりにくいだろがー!
明知:金田珈琲店(かなだコーヒーてん)……わかりにくいか?
金田:わかったかー?
伊良:……っ。(言いにくそう)
平原:……っ。(言いにくそう)
水野:……っ。(言いにくそう)
明知:やめろ! わざわざ連続カットインで、言いにくそうにするな!
金田:気をつけろ次からー。
明知:くっ……それより! ……いまは、何時何分だ?
水野:え? えぇと……20時25分です。
金田:アヤカー。
平原:何回言えばいいんだ! ちげえって!
金田:ほれ。代わってだって。
平原:えっ……誰が?
金田:いーから、べつに何も喋んなくていーから。ほれ、受話器。
平原:なんなの……もしもし? ……は?
水野:平原、だ、大丈夫?
金田:だーいじょーぶ。順番に代わってやるってー。んじゃ、次、伊良ー。
伊良:えぇ? じゃ、じゃあ……。
平原:……ちょっと、これって……どういう?
明知:議論は、いったん、全員聞いてからにしよう。
平原:……はい。
伊良:ありがとうございます……もしも……し? ……あ、えっ……ええっ?
水野:え、なに……大丈夫ですか、怖い電話なんですか……?
平原:……水野、あんた。
水野:えっ、なに?
伊良:……どうして、そんな……え、まさかそういう……?
水野:え、なになになに……怖いですって、皆。
金田:怖くないってー……あー、そうそう、ひとつー……聞いておきたいことがあるんだけど。水野。
水野:は、はい。なんですか?
金田:袴田の部屋を調べてたらさー、時計があった跡が残ってたんだけどー……どこいったか知らない?
水野:え、っと、袴田さんは、腕時計……してたっけか?
平原:……してたよ……私が、誕生日にあげたやつを。
水野:……そ、そうだっけ。そうだったような……で、でも、一体どうしてそんなこと……あ、腕時計が消えてたからか……ははっ。
金田:そうそう、腕時計が無くてさー、どこいったんだーって……。で……水野。時計としか言ってないけどー……どうして腕時計だってわかったのかな?
水野:え、や、それは、時計って言ったら大抵は……。
明知:そうかもしれないが、袴田さんが腕時計をしていたかどうか、定かでは無かったのに……よく一番に腕時計と言えましたね。
水野:そ、そんなの……べつに……あっ、そう……そうだよ、だって、このペンションには……。
明知:えぇ……時計は有りません。
金田:なんせここはー……時間を忘れて楽しめる。ペンション、時知らず。だもんなー。
伊良:え、えぇ……そう言うコンセプトですから……時計は、据え置きしていなくて……。
平原:……水野、あんたどうして……なんで……。
水野:え、な、なんだよ……どうしたんですか皆。僕が何か……したって……?
金田:午後21時を、お知らせします。
水野:……っ!
金田:あれー? 水野。お前の腕時計さー……時間が狂ってるみたいだぞー?
水野:それ、時報……ですか。
明知:心底、必要性がわからないサービスだが……こういう時間を正確に測れない場所では……役に立つみたいだな。
金田:このペンションで。水野。お前だけが、時間を気にしてたよなー。
明知:節目(ふしめ)の時間を、正確に周知したり。袴田さんを起こす、タイムキーパーとなったり。
金田:その几帳面なとこはさー……実は、ただのトリックだったってー、わけだ。
水野:……何を言ってるんですか? 僕がそんな……袴田さんを殺すなんて……。
平原:……そうだ。水野がそんなことする理由が無い。
伊良:……めっちゃ、ミステリードラマの終盤だよぉ……うわぁ、すげぇ……。(小声)
金田:まだ時間気にし過ぎー、としか言ってねーんだけどー……まー、いいか。動機はいったん置いといてー。
平原:置いといてって……真面目にやってよ!
明知:大真面目だよ。順番が大事なんだ、物事は。
金田:それが推理ともなればー、殊更(ことさら)、ね。
伊良:かっけぇ……。それが推理ともなれば……殊更ね。(小声、イケボ)
明知:30分ほど早い時間を、周囲に伝え続け、本当の時間感覚を捻じ曲げた貴方は、自分ひとりだけになる空白の時間を、捻出(ねんしゅつ)した。……30分ほどのね。
伊良:空白の……30分。サブタイトルっぽいぃ。(小声)
金田:手際よーくやりゃー……人殺すには充分な時間だろー。
水野:そ、そうかも知れないですけど……たまたま僕の時計が狂っていた、だけですよ……。それに、ずっとロビーに居ましたって……管理人さんも一緒に……!
伊良:あー……た、たしかに、ずっと居たわぁ……。(小声)
金田:だからさー。伊良が雪かきしてー、ロビーに戻るまでの30分だろ。お前が、袴田を殺す為に作った時間は。
伊良:た、たしかにそれだと……!
平原:私も袴田も……部屋で寝てるから……。
明知:水野さん……貴方のアリバイは、消滅する。
水野:……っ、だけど! いくら寝てても、ナイフで刺したら、抵抗されるだろうしっ! それに……部屋には鍵がかかっていて、入れないはずだっ!
金田:あぁ、そうだなー。
明知:だから、ここからは、仮説だ。
水野:仮説……?
金田:まずー。袴田を殺す為、お前は昼食の時、睡眠薬をー、盛った。
明知:眠気を訴えた袴田さんは、睡眠をとりに自室へ向かう。その時……寝てて気づかないと起こせないから、とでも言い、袴田さんの部屋の鍵を、君は預かった。
平原:……そう言えば、あんた……袴田と一緒に、一度2階に行ってた……。
水野:そ、それは少し部屋に戻っただけで……鍵なんて受け取ってない!
金田:そうかもしれない。でもー、そうじゃないかもしれない。受け取ってないこと、証明できるかー?
水野:そ、それは……。
伊良:悪魔の証明だぁ……うわぁ……。(小声)
明知:そうして。平原さんが部屋に戻ったタイミングで。袴田さんの部屋へ侵入し……殺した。
水野:……そんなの、でたらめだ!
金田:だいたい合ってると思うけどなー、勘だけど。
明知:推測の域は出ない。だが、きちんと調べれば、その程度のことは、簡単にわかる。
金田:そーそー……てかさー。私らがチンタラ推理してやってんのは、単なるエンタメに過ぎねーからさー。こんなん、警察にかかりゃ、司法解剖と最新の科学捜査キットで、サクッと犯人逮捕だからなー?
水野:…………だけど、警察は。
明知:あぁ、来れないんだったか? まあ、状況が変わったかもしれないし? もう一度、電話してみようか。ただし……水野さん、貴方以外がね。
水野:……くっ。
伊良:くっ……って言っちゃったよ、この人……。(小声)
金田:バレバレだってーのー。この程度の吹雪でー、現代車両が、雪山登って来れねー訳、ないんだよ。電話したフリしてー、テキトー言ってたんだろ。
水野:……そんな、こと。
平原:確かに……全部……水野が言ってた、だけだ……。
伊良:犯行までの時間……そして、警察への電話……すべて、水野さんの自作自演……ってことですか?
水野:だけど……殺す理由が、無いでしょ。
金田:…………。
明知:…………。
水野:僕が。袴田さんを殺す理由なんて無い。警察に電話したフリをしたのは、探偵さん達の手で犯人を捕まえるところを見たかったから……少し調子に乗っただけで……それは、すみません。あと、腕時計の件は、本当に時間が狂っていただけですよ。ずっと使ってるヤツだから、きっと電池が切れかけてたり……。
金田:あー、あー、あー……見苦しい奴だよ、まったくー。
明知:何度も言ってるが、私たちは探偵なんかじゃ無い。
金田:だからさー、動機なんて必要無いんだよ。なんでお前がそうした、なんてー……知ったこっちゃあ無いね。
水野:そ、それはどういう……?
明知:証拠さえ揃っていれば良い。……容疑者全員の持ち物、被害者の死因。それだけを、詳しく調べるだけで、こんなお粗末な事件は、解決できる。
金田:私らが、ここでなにをどーしよーと。大した意味はねーよ。さっさと警察に来てもらって、情報を引き継ぐだけで良い。そんなの、誰にでもわかる。もちろん……水野。お前にも、な。
水野:……。
明知:だからこそ。警察の到着を、わざわざリスクのあるやり方で遅らせたのには、理由がある。警察から今日は来れない、と言われたと聞けば、待つしか無いと思わざるを得ない。逆に、待っていれば来るのだから、そこまで焦る必要は無い。……まあ、殺人犯と一緒に過ごすリスクはあるけどな。
伊良:……たしかに、私は……明日は晴れると天気予報でやっていたから、明日には来てくれると思ってました……。
金田:電話線が切られたー、麓(ふもと)への唯一の橋が落ちたー……とか。そんなのよりは、心理的に余裕があるよなー。警察も、事件について把握していることになるし。
明知:実際、そんな事は無いのだがな。
平原:ちょっと待ってよ。確かにそうだけど、でも結局、明日また、水野以外が警察へ連絡するかもしれないじゃないっ。
伊良:そ、そうですね……そのやり方は、時間は少し引き伸ばせるけれど、状況はまったく変わらないし……こんなふうに、いずれバレた時のリスクが高くないですか? 自分が犯人だって……思われてもおかしくないですよ。
明知:そう。お二人の言う通り。このやり方では、警察の到着は、伸ばせたとして、おそらく明日の午後までくらい。
金田:だーけーどー……それで充分だったんだよなぁ?
平原:充分って……。
伊良:どういう……?
明知:水野さん。貴方は、ここにいる全員を、殺すつもりだった……違いますか?
平原:えっ……!
伊良:そんなっ……!
水野:…………ははっ、違いますよ。
平原:だ、だよね……水野が、そんなこと……。
水野:まだ、全員殺すつもりだから。
平原:なっ……。
金田:ヒューッ、クールだねぇ。
伊良:豹変(ひょうへん)するタイプの犯人だった…‥良いっ!(小声)
水野:せっかく、こんな良いところで、邪魔をしに、やってきてくれたんだ。探偵さんたちも、道連れにしてあげますよ。
明知:私たちは探偵では無い。だから道連れには、ならない。
金田:うわー、揚げ足取りー。
伊良:み、水野さん……あんた、勘弁した方が良いんじゃないですか? 罪を重ねようとしても、良いことは……。
水野:あぁ。そういうのいいんで。別に僕、罪に問われるつもり、無いんで。
平原:あんた……なんでそんな……というか、どうして袴田を殺したのよ!
水野:平原……ごめん。
平原:なに……いまさら謝られても……。
水野:べっつに、理由なぁんか、無いんだよぉ。
平原:……は?
伊良:更に豹変……だとっ?(小声)
水野:僕ら3人の仲良しグループで、平原と袴田さんが恋仲だとか、僕が平原のことちょっと良いかもとか、そんなのがあったりして、少し嫉妬とかなんやかんや、あったのかもしんないけどさぁ……なぁんにも関係ない。単純にさぁ……思いついちゃって……こういう、ことをさっ。
平原:……思い、ついた、って。
金田:なーるほどー。考えたことを、形にしたくなったってか。
水野:そうそう、そうなんですよぉ。結構うまく行ってましたよねぇ……探偵さんらが来なきゃあ、最後までプラン通りだったのに。
明知:それは残念だったな。私たちもべつに、事前に、こんなことやるって聞いていたら、来なかったよ。
金田:ぜひ、タイムマシンでも持ってたらー、数日前にお手紙出してくれよー。
水野:えぇ、考えておきますよ。さてと……。
伊良:あ、そ、それは……!
水野:お借りしますよ。薪割り用のオノ。
平原:あ、あんた……本気なの?
水野:うーん……だって、見逃してくれないだろうし、結局、警察に連絡するでしょ? じゃあ……仕方ないよ。
伊良:わ、私は……許してもらえたり……。あ、なんでも無いです。
金田:……水野ー。アヤカ抜いても……1人対3人、って状況はー、わかってんのかー?
水野:金田一(きんだいち)さん、平原は、アヤカじゃないですよ。
金田:金田(かなだ)だ。殺人犯。
水野:ははっ……まあ、なんとか上手くやりますよ、僕1人で。
金田:はっはぁー、良いねぇー……どーして気骨(きこつ)ある奴は皆、ヴィランなんだかー。
明知:気骨しか無いから、だろう。
金田:おー、言うねー。
伊良:なんか、盛り上がりすぎて……良いなぁ。(小声)
水野:じゃあ……まず、女からっ!
平原:……っ!
金田:おっとぉー! ……ふぅ、セーフ。
水野:ぐっ……そんなの、どこからっ……!
金田:えー? なんだよ……警察が警棒持っててー、何がおかしいんだ?
平原:あ、あんた…‥警察なの?
明知:まあ、遺憾(いかん)ながら、なっ!
水野:うぐぁっ!
金田:何が遺憾なんだ、このやろー! ……ってかさー、アヤカ。最初から言ってんだろー? 私らは名探偵じゃ無い、ってさ。
明知:オノを、捨てて投降(とうこう)しろ。格闘技能所有者2人がいるんじゃ、オノを持っていても、分(ぶ)が悪いだろう?
水野:うぅっ……はぁ、ダメだな。次から次へと……イレギュラーを出されちゃ、かないませんよ。
金田:そうだなぁ、つまらん展開にしちまって申し訳ないが……まっ、ドンマーイ。
明知:水野さん、貴方を殺人事件の容疑者として……逮捕しま……ん?
伊良:こ、この音……なんの?
金田:……車……いや、このエンジン音……まさかっ。
水野:……っ!
平原:あっ、水野!
伊良:ぐぁっ! いだっ!
明知:しまった!
金田:外に出やがった! あの野郎!
明知:待て……水野!
水野:はぁ……ふぅ、残念ですよ! こんな形で下山する予定は無かったんですけどねぇ……まあ、今回は名探偵さんたちの勝ち、ということで!
明知:共犯者が……居たのか。
金田:スノーモービル、たぁ……用意が良いこってー……。
水野:どこにコストをかけるか、ということですよ! では、皆さん、またどこかで……お会いしたくありませんね!
明知:あぁ……運転をミスって、死ね。
金田:食中毒でもいいぞー。
水野:ははっ、それでは! さよーならー……!
明知:……。
金田:……。
伊良:……い、行ってしまいました、ね。
平原:……もう、なんなの……。
金田:あーもー! ……拳銃もってりゃなぁ。
明知:馬鹿か、発砲許可なんて下りるか。
金田:だとしてもだー!
明知:それは本当にダメだからな。
0:3カウント―――
0:エピローグ―――
金田:散々な目、つーのは。まさに、今回みてーなことを指すんだろーなー。ほんと……散々な目にあった。
明知:休日も潰れ、探偵ごっこに付き合わされ。結局、事後処理として……本業をさせられている、と。
金田:……クソだー。
明知:あぁ、クソだな。
金田:……つーか、本当の名探偵様は何してんだってーのー。
明知:金田一 定(きんだいち さだめ)の話か?
金田:明智 光四郎(あけち こうしろう)の話でもある。
明知:はぁ……知らんっ。
金田:だろーよー。
明知:……まったく、もっと働いて欲しい物だ。私たちが、名探偵と間違えられないくらいに、な。
金田:ほーんとに……奴らの活躍が低迷すりゃーするほど……なーんで、間違えられた、私らが割を食うんだよー。
明知:名前くらいきちんと覚えてもらえよ、とは思うな。奴らには。
金田:あーあー……水野の逮捕は、名探偵様がたに、ぜーひお願いしたいねー。
明知:そうだな……よし、依頼状でも申請するか。
金田:おー、ノリがいーじゃーん。
明知:君にしては良い提案だったからな、アメリカ。
金田:金田(カナダ)だー!
0:終―――
0:プロローグ―――
伊良:うあぁぁぁあ!
平原:は、袴田(はかまだ)っ!
水野:し……し、し、死んでるっ!
金田:あー……いったーい、だーれがー、こーんなことー。
明知:はぁ……どうして君と居ると、こうもベタな展開に巻き込まれてしまうんだ……。
金田:はあー? 私のせいだってのー?
明知:そうとしか思えん。
伊良:……あ?
平原:えっと……ん?
水野:どちら様……ですか?
金田:……。
明知:……。
水野:……あのぉ?
金田:はぁー……。
明知:ふぅ……。
平原:ため息でか……。
金田:べっつにぃー……。
明知:名乗る程の者じゃないさ。
伊良:はっ! ま、まさか、あなた方は! 本日宿泊予定の!
金田:あー、違うぞ、これ。
明知:あぁ、絶対違う。
伊良:金田一(きんだいち)先生と明智 小五郎(あけち こごろう)先生!
金田:ちっがぁぁぁぁう!
明知:1ミリもあっとらんわ、ボケェ!
平原:金田一(きんだいち)……明智(あけち)……聞いたことがあるっ。
水野:あ、あの数々の難事件を解き明かしたという……名探偵のっ!
金田:だから違ぁぁぁう!
明知:私たちの名前は!
金田:金田 一(かなだ はじめ)と!
明知:明知 悟狼(めいち さとる)だ!
0:本編―――
金田:……たまにはさー。私も一年頑張って生きていることだしー。羽を伸ばーす、とまでは、いかずともー、ちょいと足を伸ばして、ウィンタースポーツに興じるー、すてーきなー、冬休みを満喫しても良いでしょー、何か文句が?
明知:いいや。何ひとつとして、文句などあるものか。私も、日々の労務を思えば、と、ほんのささやかながら、骨休めでもしてこい、と与えられた休みの日に。随分と遠ざかっていた、冬の趣味に興じてみようか、などと……思ったのが、今日の不幸に繋がった、というわけで。
金田:はー? 私の方が最悪だからなー?
明知:くだらない背比べは、やめよう。お互いにお互いの顔を見るだけで、気が滅入るというのに。
金田:おめーは、毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回、いちいち一々いちいち一々いちいち一々いちいち一々いちいちぃー! 嫌味言わねーと息も吸えねーのかってーのー!
明知:うるさい。どうして行く先々で、私の平穏をことごとく邪魔するんだ? 君……さてはストーカーだろ?
金田:あー? 馬鹿も休み休み言えってーのー! なーんで、金も貰えないってのに、おめーと一緒に不幸にならんといけねーんだよー!
明知:確かに。君にしては理知的な意見だ。
金田:うるせー! てか……おい、おめー……どこまで着いてくるんだ?
明知:……ちょうど同じことを考えていた。あえて、問い返そう。君……どこまで着いてくる気だ?
金田:……おい。
明知:……まさか。
金田:……ここにー!
明知:泊まるのか!?
金田:…………。
明知:…………。
金田:安い……もんな、ここ。
明知:あぁ……風呂は個室にシャワー室しか無いが、綺麗で雰囲気も良く、料理も美味い……らしい。
金田:時間を忘れてー、静かな自然を楽しめる……憩いの場。
明知:ペンション。
金田:時知らずー。
明知:……はぁ、もうこんな時間だぞ。チェックインの時間を、とっくに過ぎている。
金田:はぁ……オーケー、入るか。もう暗いし。それに、部屋は違ぇーんだしー。
明知:うむ、諦めも肝心だな。
伊良:うあぁぁぁあ!
金田:…………。
明知:…………。
金田:展開が、はえーよ……。
明知:何も……良いことなんて無かったな。
0:3カウント―――
明知:……さて、状況を整理しよう。
金田:やーめろー。ほんとーに、名探偵様っぽくなんだろーがよー。
伊良:……やっぱり、名探偵なんですってぇ!
平原:今言ったもんな。
水野:すごいっ、僕初めて見るよっ!
金田:ほーらー、勘違いしたがるんだよー、庶民はー。
明知:君も庶民だろうが……。確かに、この反応は煩わ(わずらわ)しいが……こうなった以上は、さっさと終わらせるしかないだろ。
金田:いつもどーりに、ってかー?
明知:あ、馬鹿っ。
伊良:……ほらっ、いつも事件を解決してるんですよぉ! やっぱりあの有名なぁ!
平原:マジか……こんなことってあるんだな。
水野:め、め、名探偵の推理が、こんな間近で見れて良いのかなぁっ!
金田:くっそー……ミスったか。
明知:餌を与え無いようにしてくれ。
金田:わーってるよー。とりあえず、私らが来るまでに、どーしてこーなったのか、説明してくれ。あと、自己紹介もー。
伊良:は、はい。私はこのペンションの管理人で、伊良(いら)と言います。52歳です。趣味はクロスワードパズルとピクロス。好きな食べ物は、ちくわぶ。
明知:馬鹿か貴方は。そこまでの自己紹介なんて不要だ。名前だけでいい。
金田:知らねーよピクロスとか、若者はー。
伊良:す、すみません。
平原:自分は、平原(ひらはら)です。ここへは友達と一緒に、スキー旅行で泊まってました。……殺された袴田(はかまだ)も、友達です。
金田:そうそーう、こんなので良いんだよ、わかったかー?
伊良:勉強になります……。
明知:もういいだろ。貴方は?
水野:み、水野(みずの)ですっ! 平原と一緒に旅行で泊まってました……袴田さんも……うぅっ、どうしてこんなことに……。
明知:おツラいでしょうが、気をしっかりと持ってくださいね。
水野:ありがとうございます……でも、有名な探偵さんと会えて、とても嬉しいので、大丈夫ですっ!
金田:大丈夫じゃねーよっ。名探偵じゃねーってのー。
明知:はぁ……どうして毎度、訂正してもろくに聞いて貰えないんだ。
金田:んでー、その袴田って奴はー、どーして死んで見つかったんだー? 発見するまでの流れを教えてくれー。
平原:……私たちがここに来たのは、今日の朝で、昼頃まで荷物を置いた後に、周辺の観光をしていました。
水野:僕たち3人で、ペンション周りの自然を楽しんでたんです。管理人の伊良さんがソリを貸してくれたりして……子供の頃に戻ったみたいに、雪遊びばかりしてました。
金田:おいー、いいなー……私もそんな感じで、楽しい休暇になるはずだったのにー……。
明知:結果こんなことになってるのは、お互い様だ。あまり無神経なことを言うなよ。
金田:へーい。うるせー、バーカ。
明知:馬鹿は君だ、馬鹿。
金田:あー? バカっつった方がバカだろうがよー。
明知:じゃあ、やはり、君がそれだ。
金田:それってなーんでーすかー? 語彙力終わってるー!
明知:煽り方が小学生以下だな、棚田(たなだ)。
金田:金田(かなだ)だ! 人の名前で遊ぶなー!
伊良:あ、あのぉ……落ち着いてください。
明知:うるさい。
金田:だまれ。
伊良:え、えぇ……。
平原:あの、話を進めたいんですけど。
水野:そ、そうですよ、ケンカなんてしていたら、事件は解決できませんよっ!
金田:むー……腑に落ちないがー。
明知:仕方ない。気は進まんが、この事件を解決しないと、休日が無駄になる。
金田:それなー。よぅし、話を戻したまえー。
平原:はぁ……昼ご飯を食べた後、疲れて夜まで自由時間にしたんです。
水野:袴田さん、疲れたみたいで、自分の部屋へ寝に行ったんですよ。
平原:だから私たちも、自分の部屋に行って、各々過ごしてたんです。
水野:それからちょっと経った後、僕が平原を誘って、ロビーでコーヒーを飲んでましたけどね。
明知:だいたい何時頃ですか?
平原:えっと……14時くらいだった?
水野:うん、14時半とか、そんなだったよ。
金田:……袴田は、誘わなかったのかー?
水野:あ、いや、誘ったんですけど……ノックしても反応が無かったので。
平原:寝てるのに起こすのも悪いし。
水野:うん。そういうことになったんです。
明知:……なるほど。それから?
平原:夕飯の時間が近づいて来たのと、18時には起こしてって、袴田から言われてたから、水野が部屋まで起こしに行ったんですけど……やっぱり反応が無くて。
水野:わりと大きい音とか、声とか出してもダメで……管理人さんにお願いして、鍵を開けて貰ったんです。
金田:鍵が、かかっていたのかー。
伊良:はい、オートロックなんですよ全室。内側からは大丈夫なんですけど、外からは鍵を使わないと開かないんです。
明知:……と、なると。これは、いわゆる。
金田:密室……殺人。ってことにー、なるか。
伊良:……っ。(えぇっ! みたいな感じで)
平原:……っ。(密室っ! みたいな感じで)
水野:……っ。(殺人っ! みたいな感じで)
金田:……なんなんだ、そのミステリードラマの演出みたいな、連続のリアクションは。
明知:いつものことだろ。
金田:だとしてもだー。
明知:はいはい……。
伊良:そ、それでですね……鍵を開けてみたら……。
水野:袴田さんの……死体が。
明知:ちなみに、どうして死んでいると分かったんですか?
平原:いや、あんなの見ればわかるでしょ……。
明知:言語化してください、すみません。
平原:……なんで?
金田:気にせずー、はやく説明してくれーい、アヤカ。
平原:アヤカって名前じゃないから。
水野:は、袴田さんは……ベッドの上で、胸にナイフが……刺さって、て……うぅっ。
平原:水野、無理しないで……。もう、そんな状態だったんだから、どう見たって死んでるでしょ!
金田:ありがとう、アヤカ。
平原:ちげえって。
明知:それを見て、伊良さんが大声をだした所で、私たちがペンションに到着した、と。
伊良:いや、ははは……聞こえちゃいました? えー……ははは、お恥ずかしい。
金田:照れんな。お前状況わかってんのかよー。
明知:最後に、袴田さんの姿を見たのは、何時くらいでした?
平原:たぶん……13時くらい?
水野:いや、12時20分過ぎくらいかな。昼ご飯食べたのが、ちょっと早くて、11時半くらいだったから。
平原:あー……そうね。
金田:ということはー。犯行時刻は、12時20分から18時の間……うーん、もう少し絞りてーなー。
明知:その時間帯の、皆さんのアリバイを聞かせてください。何をしてましたか?
伊良:お、あぁ…‥アリバイっ。
水野:すごい……探偵だぁ!
平原:いいから……私は、昼ご飯の後、部屋で軽く寝てて、水野の扉をノックする音で起きました。
明知:いいですね、平原さん。私たちを名探偵扱いして崇めないなんて、とてもレアですよ。
金田:さすがアヤカ。
平原:ちげえって……それで、それから袴田の死体を見つけるまで、ずっと水野とロビーで一緒に居ました。
水野:僕も、似た感じです。ご飯食べ終わった後、皆自分の部屋に行っちゃったけど、自分はロビーで管理人さんと話したり、雑誌を読んだりしてたんです。管理人さんがコーヒーをいれてくれるって言うので、平原と袴田さんにも声をかけに行ったのが……えと、14時くらいですね。そこから、さっき言った通り、平原と一緒に居ました。
金田:なるほど。伊良さんはー?
伊良:私は、皆さんの昼食を用意した後、エントランスの雪かきを少しして、その後、食器の片付けだとか、細かい仕事をしてましたね……それで水野さんたちにコーヒーをいれてあげることになって、平原さんが下りて来て、そこからは、少しお話ししたり、ロビー周りの仕事をしてました。
金田:なんか、暇そうだったんだなー。
伊良:まぁ、今日はチェックインのお客様が、先生方お二人だけで、ここにいる方以外は宿泊してる方は居ないので、わりとゆっくりしていられましたから。
明知:先生では無い。けれど……宿泊客は、死者を除いて、ここにいる4名のみ。
金田:てことはー……。
明知:この中に……犯人がいる。
伊良:……っ!(そんなっ! みたいな感じで)
平原:……っ!(うそでしょっ! みたいな感じで)
水野:……っ!(まさかっ! みたいな感じで)
金田:ええて……もう。ミステリードラマ的演出。
明知:いつものことだ。
金田:だとしてもだー。
明知:なんにせよ……アリバイについては、皆似たような物だな。
金田:昼食後からコーヒーいれてもらう、13時から14時の間が、微妙だなー、軒並み。
明知:客室はすべて2階にあり、ロビー前の階段を上らないと行けない。ということは、ずっとロビーにいた水野さん。伊良さんが2階に行ったとか、平原さんが少し下りて来たとか、そういうのを見たなど、情報は無いですか?
水野:え、ええと……管理人さんは2階に行って無いと思います。それで、平原も僕が呼びに行くまでは、下りて来てません。
金田:てーこたー……アヤカが犯人候補としては一番手、か。
平原:だから、違うってば! そんで、犯人候補って……私が袴田を……友達を殺したって言うの!?
金田:まーまー、あくまで、状況だけ見ると、ってことだよ。誰にも目撃されてない時間に、殺害現場の一番近くに居る奴なんてさー……疑うだろー?
平原:で、でも……私はやってない! それに……。
明知:それに?
平原:……っ、旅行に行くような仲の友達を、殺す訳無いでしょ!
金田:……まー、そーかもな。
水野:ぼ、僕も、平原がそんなことするなんて、思えません!
伊良:……あ、もしかして、これ、否定しないと私が犯人になるやつでは? あ、あ、あの、私は犯人では無いので、この二人がヤバいって、思います!
金田:なーんで、お前だけ人狼ゲームみたいな認識なーんだよー! 人死んでんのみてんだろーが! 何考えてんだよ!
明知:メタ読みとか、したく無いので、黙ってて欲しいな。
金田:できそうでも、そんなことすんなー! 人死んでんだぞ!
明知:君は、変なとこで律儀だよな……。
平原:とにかく、私はやってません!
伊良:わ、私だって!
水野:え、じゃあ僕も!
金田:だぁぁあ! わかったってのー! 白アピールするなー!
明知:君だって、人狼ゲーム脳じゃないか……。ともあれ、皆さんの主張と、アリバイはわかりました。
金田:じゃー、次は現場検証かー。
明知:そうだな……よし、殺害現場を調べよう。
伊良:わ、わわ、名探偵だ……!
金田:もーいいって。
0:3カウント―――
明知:一見(いっけん)、争ったような形跡は無いな。
金田:やーっと、オーディエンスから解放されたぜー。
伊良:あ、あの、私近くに居ますからね! 何かあったら言ってくださいね! 私、居ますから!
明知:わかりましたって。……まだ割と近いぞ。
金田:多少はー、目をつぶる。
明知:はぁ……遺体は、心臓にナイフがひと刺し。眠るように目を閉じていて、状態は綺麗。
金田:部屋も荷物もー、荒らされているよーには見えない。金銭目当てには思えねーなー。
明知:……失礼。
金田:うわっ、死体触って良いのかよー!
明知:手袋してるから、大丈夫だろ。
金田:トイレ掃除用の使い捨てだけどなー。
明知:有事の際には仕方ない……なるほど、死んでるな。
金田:はー? そらそーだろバーカ。
明知:うるさいボケ。一応、確認しないといけないだろう。他人の言葉を、信じ過ぎてはいけない。
金田:ほーん。じゃー、私もー。
明知:どうして、君もやる必要があるんだ。
金田:おめーが言ったんだろー。他人の言葉を、信じるな、ってー。
明知:はっ……次の被害者が、君であることを願うばかりだ。
金田:そっくりそのまま、お返ししてやんよー……あれ?
明知:どうした?
金田:……手首にー、なんかの跡がついてる。
明知:跡? 見せろ……これは、時計か?
金田:腕に巻くもんつーと……定番はそれだな。
明知:……どこかに外して置いてあるとか?
金田:まだ、跡が残ってんのにー?
明知:……奴らの荷物検査でもするか?
金田:微妙だなー……なんとでも言い訳できるし、それに出て来る保証は無い。
明知:……なぜ、時計だけ持ち去ったんだ?
金田:んー……超高くて、すっげーレアなヤツだったとかー……決定的なー、証拠に繋がるからー……とか。
明知:時計が、この事件の鍵……というわけか。
金田:……なぁー。
明知:なんだ?
金田:いま、なーん時だ?
明知:……あぁ、そう言えば君、いぼ痔だったっけ?
金田:なったことねーよ!
0:3カウント―――
伊良:あ、先生方! どうでした? 何かわかりましたか?
金田:せーんせーじゃ、ねーってよー……。
明知:言わせておけ、無駄な問答だ。
金田:だーとしてもだー!
伊良:あ、そうだ、先生方、大変なんです!
明知:何かまたあったんですか?
伊良:それが……。
平原:警察が来れないって、どう言うことなの!?
金田:わぁー、おっ決まりー……。
水野:しょうがないよ……この吹雪で、今日は難しいって話で。
明知:……確かに吹雪いてるな。
金田:きゃー、クローズドサークルってヤツだー。クソがー。
明知:もう慣れたよ、私は。
金田:慣れるな、バカ。
伊良:ということで……私たちは、朝までここで……。
平原:殺人犯と一緒に居なきゃいけないなんてっ!
水野:平原、落ち着いてっ!
明知:なるほど……電話をしたのは、どなたですか?
水野:あ、僕です! 伊良さんは、探偵さんについてて、平原は……ちょっと気落ちしてたので、僕が電話を借りて、かけました。
明知:それは、いつ頃?
水野:えっと、ついさっき……20時10分くらいです。
金田:おー、細かく覚えててえらーい。
水野:え、あ、ありがとうございますっ。
金田:どれ……じゃ、私もー、お電話お借りするよー。
伊良:え、あぁ、良いですけど……。
水野:金田一(きんだいち)さんっ、警察は来れないって……。
金田:金田(かなだ)だっ! わーってるよー! なーんで、もう一回かける必要あんのさー。別の電話だよー。
水野:す、すみません。
明知:どこにかける気だ?
金田:ちょっとねー。………………ふーん。
平原:……何遊んでんの? ここに袴田を殺した殺人犯が居るのに! なんでそんなヘラヘラしてられんのよ!
水野:平原っ! 落ち着いて! 袴田さんが死んで、ツラいのはわかるけど……。
平原:だって、コイツら、自分たちは関係ないみたいな……!
明知:で? 珈琲店。
金田:ん? ……あっ、金田(かなだ)だっ! おーいっ、そのボケは、わかりにくいだろがー!
明知:金田珈琲店(かなだコーヒーてん)……わかりにくいか?
金田:わかったかー?
伊良:……っ。(言いにくそう)
平原:……っ。(言いにくそう)
水野:……っ。(言いにくそう)
明知:やめろ! わざわざ連続カットインで、言いにくそうにするな!
金田:気をつけろ次からー。
明知:くっ……それより! ……いまは、何時何分だ?
水野:え? えぇと……20時25分です。
金田:アヤカー。
平原:何回言えばいいんだ! ちげえって!
金田:ほれ。代わってだって。
平原:えっ……誰が?
金田:いーから、べつに何も喋んなくていーから。ほれ、受話器。
平原:なんなの……もしもし? ……は?
水野:平原、だ、大丈夫?
金田:だーいじょーぶ。順番に代わってやるってー。んじゃ、次、伊良ー。
伊良:えぇ? じゃ、じゃあ……。
平原:……ちょっと、これって……どういう?
明知:議論は、いったん、全員聞いてからにしよう。
平原:……はい。
伊良:ありがとうございます……もしも……し? ……あ、えっ……ええっ?
水野:え、なに……大丈夫ですか、怖い電話なんですか……?
平原:……水野、あんた。
水野:えっ、なに?
伊良:……どうして、そんな……え、まさかそういう……?
水野:え、なになになに……怖いですって、皆。
金田:怖くないってー……あー、そうそう、ひとつー……聞いておきたいことがあるんだけど。水野。
水野:は、はい。なんですか?
金田:袴田の部屋を調べてたらさー、時計があった跡が残ってたんだけどー……どこいったか知らない?
水野:え、っと、袴田さんは、腕時計……してたっけか?
平原:……してたよ……私が、誕生日にあげたやつを。
水野:……そ、そうだっけ。そうだったような……で、でも、一体どうしてそんなこと……あ、腕時計が消えてたからか……ははっ。
金田:そうそう、腕時計が無くてさー、どこいったんだーって……。で……水野。時計としか言ってないけどー……どうして腕時計だってわかったのかな?
水野:え、や、それは、時計って言ったら大抵は……。
明知:そうかもしれないが、袴田さんが腕時計をしていたかどうか、定かでは無かったのに……よく一番に腕時計と言えましたね。
水野:そ、そんなの……べつに……あっ、そう……そうだよ、だって、このペンションには……。
明知:えぇ……時計は有りません。
金田:なんせここはー……時間を忘れて楽しめる。ペンション、時知らず。だもんなー。
伊良:え、えぇ……そう言うコンセプトですから……時計は、据え置きしていなくて……。
平原:……水野、あんたどうして……なんで……。
水野:え、な、なんだよ……どうしたんですか皆。僕が何か……したって……?
金田:午後21時を、お知らせします。
水野:……っ!
金田:あれー? 水野。お前の腕時計さー……時間が狂ってるみたいだぞー?
水野:それ、時報……ですか。
明知:心底、必要性がわからないサービスだが……こういう時間を正確に測れない場所では……役に立つみたいだな。
金田:このペンションで。水野。お前だけが、時間を気にしてたよなー。
明知:節目(ふしめ)の時間を、正確に周知したり。袴田さんを起こす、タイムキーパーとなったり。
金田:その几帳面なとこはさー……実は、ただのトリックだったってー、わけだ。
水野:……何を言ってるんですか? 僕がそんな……袴田さんを殺すなんて……。
平原:……そうだ。水野がそんなことする理由が無い。
伊良:……めっちゃ、ミステリードラマの終盤だよぉ……うわぁ、すげぇ……。(小声)
金田:まだ時間気にし過ぎー、としか言ってねーんだけどー……まー、いいか。動機はいったん置いといてー。
平原:置いといてって……真面目にやってよ!
明知:大真面目だよ。順番が大事なんだ、物事は。
金田:それが推理ともなればー、殊更(ことさら)、ね。
伊良:かっけぇ……。それが推理ともなれば……殊更ね。(小声、イケボ)
明知:30分ほど早い時間を、周囲に伝え続け、本当の時間感覚を捻じ曲げた貴方は、自分ひとりだけになる空白の時間を、捻出(ねんしゅつ)した。……30分ほどのね。
伊良:空白の……30分。サブタイトルっぽいぃ。(小声)
金田:手際よーくやりゃー……人殺すには充分な時間だろー。
水野:そ、そうかも知れないですけど……たまたま僕の時計が狂っていた、だけですよ……。それに、ずっとロビーに居ましたって……管理人さんも一緒に……!
伊良:あー……た、たしかに、ずっと居たわぁ……。(小声)
金田:だからさー。伊良が雪かきしてー、ロビーに戻るまでの30分だろ。お前が、袴田を殺す為に作った時間は。
伊良:た、たしかにそれだと……!
平原:私も袴田も……部屋で寝てるから……。
明知:水野さん……貴方のアリバイは、消滅する。
水野:……っ、だけど! いくら寝てても、ナイフで刺したら、抵抗されるだろうしっ! それに……部屋には鍵がかかっていて、入れないはずだっ!
金田:あぁ、そうだなー。
明知:だから、ここからは、仮説だ。
水野:仮説……?
金田:まずー。袴田を殺す為、お前は昼食の時、睡眠薬をー、盛った。
明知:眠気を訴えた袴田さんは、睡眠をとりに自室へ向かう。その時……寝てて気づかないと起こせないから、とでも言い、袴田さんの部屋の鍵を、君は預かった。
平原:……そう言えば、あんた……袴田と一緒に、一度2階に行ってた……。
水野:そ、それは少し部屋に戻っただけで……鍵なんて受け取ってない!
金田:そうかもしれない。でもー、そうじゃないかもしれない。受け取ってないこと、証明できるかー?
水野:そ、それは……。
伊良:悪魔の証明だぁ……うわぁ……。(小声)
明知:そうして。平原さんが部屋に戻ったタイミングで。袴田さんの部屋へ侵入し……殺した。
水野:……そんなの、でたらめだ!
金田:だいたい合ってると思うけどなー、勘だけど。
明知:推測の域は出ない。だが、きちんと調べれば、その程度のことは、簡単にわかる。
金田:そーそー……てかさー。私らがチンタラ推理してやってんのは、単なるエンタメに過ぎねーからさー。こんなん、警察にかかりゃ、司法解剖と最新の科学捜査キットで、サクッと犯人逮捕だからなー?
水野:…………だけど、警察は。
明知:あぁ、来れないんだったか? まあ、状況が変わったかもしれないし? もう一度、電話してみようか。ただし……水野さん、貴方以外がね。
水野:……くっ。
伊良:くっ……って言っちゃったよ、この人……。(小声)
金田:バレバレだってーのー。この程度の吹雪でー、現代車両が、雪山登って来れねー訳、ないんだよ。電話したフリしてー、テキトー言ってたんだろ。
水野:……そんな、こと。
平原:確かに……全部……水野が言ってた、だけだ……。
伊良:犯行までの時間……そして、警察への電話……すべて、水野さんの自作自演……ってことですか?
水野:だけど……殺す理由が、無いでしょ。
金田:…………。
明知:…………。
水野:僕が。袴田さんを殺す理由なんて無い。警察に電話したフリをしたのは、探偵さん達の手で犯人を捕まえるところを見たかったから……少し調子に乗っただけで……それは、すみません。あと、腕時計の件は、本当に時間が狂っていただけですよ。ずっと使ってるヤツだから、きっと電池が切れかけてたり……。
金田:あー、あー、あー……見苦しい奴だよ、まったくー。
明知:何度も言ってるが、私たちは探偵なんかじゃ無い。
金田:だからさー、動機なんて必要無いんだよ。なんでお前がそうした、なんてー……知ったこっちゃあ無いね。
水野:そ、それはどういう……?
明知:証拠さえ揃っていれば良い。……容疑者全員の持ち物、被害者の死因。それだけを、詳しく調べるだけで、こんなお粗末な事件は、解決できる。
金田:私らが、ここでなにをどーしよーと。大した意味はねーよ。さっさと警察に来てもらって、情報を引き継ぐだけで良い。そんなの、誰にでもわかる。もちろん……水野。お前にも、な。
水野:……。
明知:だからこそ。警察の到着を、わざわざリスクのあるやり方で遅らせたのには、理由がある。警察から今日は来れない、と言われたと聞けば、待つしか無いと思わざるを得ない。逆に、待っていれば来るのだから、そこまで焦る必要は無い。……まあ、殺人犯と一緒に過ごすリスクはあるけどな。
伊良:……たしかに、私は……明日は晴れると天気予報でやっていたから、明日には来てくれると思ってました……。
金田:電話線が切られたー、麓(ふもと)への唯一の橋が落ちたー……とか。そんなのよりは、心理的に余裕があるよなー。警察も、事件について把握していることになるし。
明知:実際、そんな事は無いのだがな。
平原:ちょっと待ってよ。確かにそうだけど、でも結局、明日また、水野以外が警察へ連絡するかもしれないじゃないっ。
伊良:そ、そうですね……そのやり方は、時間は少し引き伸ばせるけれど、状況はまったく変わらないし……こんなふうに、いずれバレた時のリスクが高くないですか? 自分が犯人だって……思われてもおかしくないですよ。
明知:そう。お二人の言う通り。このやり方では、警察の到着は、伸ばせたとして、おそらく明日の午後までくらい。
金田:だーけーどー……それで充分だったんだよなぁ?
平原:充分って……。
伊良:どういう……?
明知:水野さん。貴方は、ここにいる全員を、殺すつもりだった……違いますか?
平原:えっ……!
伊良:そんなっ……!
水野:…………ははっ、違いますよ。
平原:だ、だよね……水野が、そんなこと……。
水野:まだ、全員殺すつもりだから。
平原:なっ……。
金田:ヒューッ、クールだねぇ。
伊良:豹変(ひょうへん)するタイプの犯人だった…‥良いっ!(小声)
水野:せっかく、こんな良いところで、邪魔をしに、やってきてくれたんだ。探偵さんたちも、道連れにしてあげますよ。
明知:私たちは探偵では無い。だから道連れには、ならない。
金田:うわー、揚げ足取りー。
伊良:み、水野さん……あんた、勘弁した方が良いんじゃないですか? 罪を重ねようとしても、良いことは……。
水野:あぁ。そういうのいいんで。別に僕、罪に問われるつもり、無いんで。
平原:あんた……なんでそんな……というか、どうして袴田を殺したのよ!
水野:平原……ごめん。
平原:なに……いまさら謝られても……。
水野:べっつに、理由なぁんか、無いんだよぉ。
平原:……は?
伊良:更に豹変……だとっ?(小声)
水野:僕ら3人の仲良しグループで、平原と袴田さんが恋仲だとか、僕が平原のことちょっと良いかもとか、そんなのがあったりして、少し嫉妬とかなんやかんや、あったのかもしんないけどさぁ……なぁんにも関係ない。単純にさぁ……思いついちゃって……こういう、ことをさっ。
平原:……思い、ついた、って。
金田:なーるほどー。考えたことを、形にしたくなったってか。
水野:そうそう、そうなんですよぉ。結構うまく行ってましたよねぇ……探偵さんらが来なきゃあ、最後までプラン通りだったのに。
明知:それは残念だったな。私たちもべつに、事前に、こんなことやるって聞いていたら、来なかったよ。
金田:ぜひ、タイムマシンでも持ってたらー、数日前にお手紙出してくれよー。
水野:えぇ、考えておきますよ。さてと……。
伊良:あ、そ、それは……!
水野:お借りしますよ。薪割り用のオノ。
平原:あ、あんた……本気なの?
水野:うーん……だって、見逃してくれないだろうし、結局、警察に連絡するでしょ? じゃあ……仕方ないよ。
伊良:わ、私は……許してもらえたり……。あ、なんでも無いです。
金田:……水野ー。アヤカ抜いても……1人対3人、って状況はー、わかってんのかー?
水野:金田一(きんだいち)さん、平原は、アヤカじゃないですよ。
金田:金田(かなだ)だ。殺人犯。
水野:ははっ……まあ、なんとか上手くやりますよ、僕1人で。
金田:はっはぁー、良いねぇー……どーして気骨(きこつ)ある奴は皆、ヴィランなんだかー。
明知:気骨しか無いから、だろう。
金田:おー、言うねー。
伊良:なんか、盛り上がりすぎて……良いなぁ。(小声)
水野:じゃあ……まず、女からっ!
平原:……っ!
金田:おっとぉー! ……ふぅ、セーフ。
水野:ぐっ……そんなの、どこからっ……!
金田:えー? なんだよ……警察が警棒持っててー、何がおかしいんだ?
平原:あ、あんた…‥警察なの?
明知:まあ、遺憾(いかん)ながら、なっ!
水野:うぐぁっ!
金田:何が遺憾なんだ、このやろー! ……ってかさー、アヤカ。最初から言ってんだろー? 私らは名探偵じゃ無い、ってさ。
明知:オノを、捨てて投降(とうこう)しろ。格闘技能所有者2人がいるんじゃ、オノを持っていても、分(ぶ)が悪いだろう?
水野:うぅっ……はぁ、ダメだな。次から次へと……イレギュラーを出されちゃ、かないませんよ。
金田:そうだなぁ、つまらん展開にしちまって申し訳ないが……まっ、ドンマーイ。
明知:水野さん、貴方を殺人事件の容疑者として……逮捕しま……ん?
伊良:こ、この音……なんの?
金田:……車……いや、このエンジン音……まさかっ。
水野:……っ!
平原:あっ、水野!
伊良:ぐぁっ! いだっ!
明知:しまった!
金田:外に出やがった! あの野郎!
明知:待て……水野!
水野:はぁ……ふぅ、残念ですよ! こんな形で下山する予定は無かったんですけどねぇ……まあ、今回は名探偵さんたちの勝ち、ということで!
明知:共犯者が……居たのか。
金田:スノーモービル、たぁ……用意が良いこってー……。
水野:どこにコストをかけるか、ということですよ! では、皆さん、またどこかで……お会いしたくありませんね!
明知:あぁ……運転をミスって、死ね。
金田:食中毒でもいいぞー。
水野:ははっ、それでは! さよーならー……!
明知:……。
金田:……。
伊良:……い、行ってしまいました、ね。
平原:……もう、なんなの……。
金田:あーもー! ……拳銃もってりゃなぁ。
明知:馬鹿か、発砲許可なんて下りるか。
金田:だとしてもだー!
明知:それは本当にダメだからな。
0:3カウント―――
0:エピローグ―――
金田:散々な目、つーのは。まさに、今回みてーなことを指すんだろーなー。ほんと……散々な目にあった。
明知:休日も潰れ、探偵ごっこに付き合わされ。結局、事後処理として……本業をさせられている、と。
金田:……クソだー。
明知:あぁ、クソだな。
金田:……つーか、本当の名探偵様は何してんだってーのー。
明知:金田一 定(きんだいち さだめ)の話か?
金田:明智 光四郎(あけち こうしろう)の話でもある。
明知:はぁ……知らんっ。
金田:だろーよー。
明知:……まったく、もっと働いて欲しい物だ。私たちが、名探偵と間違えられないくらいに、な。
金田:ほーんとに……奴らの活躍が低迷すりゃーするほど……なーんで、間違えられた、私らが割を食うんだよー。
明知:名前くらいきちんと覚えてもらえよ、とは思うな。奴らには。
金田:あーあー……水野の逮捕は、名探偵様がたに、ぜーひお願いしたいねー。
明知:そうだな……よし、依頼状でも申請するか。
金田:おー、ノリがいーじゃーん。
明知:君にしては良い提案だったからな、アメリカ。
金田:金田(カナダ)だー!
0:終―――