台本概要

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タイトル 二階堂三空のシチュー
作者名 シンタマ  (@UdonguRataN)
ジャンル コメディ
演者人数 3人用台本(男2、女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 性別変更可

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
二階堂三空 - にかいどうみそら
後藤 68 ごとう
相川 55 あいかわ
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
?:いざ問題です。 ?:『とある街にあるシチュー専門店「二階堂三空のシチュー屋さん」。 ?:美味しいと評判の人気店ですが、食べたお客さんの感想の多くが「シチューを食べた気がしない。」 ?:というものでした。さて、それは一体なぜでしょう?』 0:店内 相川:【N】最近の曲はサビからはじまることが多いという。 相川:様々な音楽が溢れ、それを場所も時間も問わず耳にすることが出来る現代では 相川:曲の出だしで心を掴まないとすぐにリスナーが離れてしまう、というのがその理由らしい。 相川:出し惜しみなどせず、今の自分を、最も伝えたいことを最初に。 相川:きっとそれは正解なのだろう。 相川:そして僕もその音楽シーンの流れにノって、突如人生のサビを迎えることとなった。 後藤:いいか!そのまま大人しくしてろ!そうしてれば痛い目にあうことはない。 相川:【N】ここは今話題のシチュー屋さん「二階堂三空のシチュー屋さん」の店内。 相川:先程触れた曲構成のこともそうだが、この店名も実にいい。 相川:店名を聞くだけで、恐らくであるがオーナーの名前、ウリとしている商品という必要最低限かつ最も使えたい情報が詰まっている。 相川:まさかこの店でカレーやラーメンが出てくると思って来店する客はいないだろう。シチュー専門店なのだ。 相川:シンプル故に実に気になる。実際この店は口コミから一気に広がり人気店となった。 相川:そしてまたその感想が「今までにないシチュー」「間違いなく美味しい、もはやシチューの範疇を超えている」といったものが占め、 相川:シチューの範疇という表現は流石にお前それ言いたかっただけだろうと思いはしたが。 相川:ともかくそんな感想を目にした以上、どうしても行きたくなった僕は平日の閉店間際という 相川:行く側としてもなかなかに気を使う時間に勇気を出して入店し、店内の客がゼロなことに更に心にダメージを負ったが、 相川:一人だけいたスタッフさん、恐らくは二階堂さんであろう方に笑顔で迎えられたのだ。 後藤:クソッ・・・、やるしかねぇ・・・大丈夫、今更日和れっかよ・・・。・・・おいお前。 相川:その優しさに救われた僕はこのままシチューも掬っちゃうぞとばかりに注文をした。 相川:驚くことにメニューは一つしかなく、「本日のシチュー」だけだった。 後藤:おい、聞いてんのか。 相川:後はそれを食べて帰るだけだったのに突然 後藤:おい!! 相川:そこを動くな!動いたら殺す!と叫んで刃物を持った強盗がくるなんて!!!! 後藤:・・・おい。 相川:そこのお前、こっちに来い。 後藤:なあ。 相川:こ、殺さないでください・・・ひ・・・ひぃ・・・。 後藤:二役やんのかよ。 相川:ああ、なんでこんなことに・・・。ここで終わりなの?僕の人生・・・。 後藤:ちっ、いいから大人しく 相川:してましたよ大人しく!ずっーと僕は!・・・目立たず騒がず真面目に生きてきました。 相川:それでも地道に努力してなんとか就職して少しずつ出世もして人生これからのはずだったのに・・・。 後藤:お、おう。 相川:まだ人生のイントロ、せめてAメロくらいだと思ってたのに!ここから盛り上がるはずだったのに!それが急にこんなサビ! 後藤:何言ってんだ。 相川:こんなことならもっと大胆に生きればよかった。もっとはっちゃければよかった・・・。 相川:スタンドォォォ!アッリィィィナァァァ!!僕デェェェス! 後藤:こーわっ! 相川:え?ひぃぃっ!?や、やめてください。ささささ刺さないでください・・・。 後藤:お前もなんだか大変なんだな。大丈夫かよお前・・・。 相川:は、刃物持って押し入って来た人に言われたくないです。 後藤:あん? 相川:ひぃっ。・・・なんでもありません。 相川:【N】とその時、こんな危機的状況なのに今まで一言も声を出さなかった、 相川:恐らく、いやこのたたずまい、間違いなく彼女がこの店のオーナー、二階堂三空さんだろう、が初めて口を開いた。 二階堂:ごめんなさいね。お客様。 相川:・・・はぁ。 二階堂:ろくにお構いも出来ずお待たせしてしまって。もう少々お待ち下さいね。 相川:いやその・・・。 後藤:・・・あんたこの状況分かってんのか? 二階堂:なんのことでしょう? 後藤:なんのことって・・・これだよこれ!分かるだろ! 相川:ちょちょちょっと顔の横で急に振り上げないで下さいよ!あ、いたっ!なんかきれた気がする!血ぃ出てます絶対! 後藤:きれてねえし出てねえよ! 二階堂:はぁ・・・包丁ですね。 後藤:そうだよ。だから分かんだろ? 二階堂:急に言われましても。・・・あ。 後藤:そう、俺は強盗で今から金を 二階堂:従業員希望の方ですか? 後藤:違うだろどうみても!どこの世界に包丁片手に面接にくるバカがいるんだよ! 相川:包丁片手に強盗しにくるのも十分バカだと思いますけど。 後藤:それは確かにそう・・・ってうるせぇ! 相川:ごめんなさい! 後藤:ともかく!分かったら大人しくさっさと金を出せ!勿論余計な真似すんじゃねぇぞ。 後藤:この店が繁盛してるのは知ってんだ。半端な額じゃ誤魔化されねえぞ。 二階堂:一ついいですか。 後藤:なんだ。 二階堂:普通にこの店にはお金、現金がないんです。 後藤:・・・はぁ?ない?!全然?! 二階堂:残念ながら。一円も。 後藤:う、嘘だろ・・・。 二階堂:余計な手間を省く為に電子マネーとカードのみでお会計を頂いているんですよね。 二階堂:なにぶん一人でやっているものでして。もしよかったらレジ確認されます? 後藤:・・・そんな・・・。 二階堂:ご理解頂けたようでなによりです。 後藤:・・・。 相川:えーと・・・。つ、次は上手くいきますよ。 後藤:ねーよ!次なんて!・・・ああ・・・終わった、完全に終わった俺・・・。 相川:とりあえずそろそろ離して頂いてもいいですか? 後藤:ああ、もう好きにしてくれ。迷惑かけて悪かったな・・・。 相川:強盗さん・・・。 後藤:せめて強盗未遂さんにしてくれ・・・。 相川:分かりました。強盗傷害未遂さん。 後藤:ごめんて!ほんと少しだけ優しく供述して!お願いだから! 相川:・・・ええ、はい。 二階堂:無駄話はそのくらいにしてそろそろお二人とも席に着いて下さい。 後藤:無駄話って!俺の人生って・・・。 相川:何をするんですか? 二階堂:何をって。もうすぐ出来ますよ、シチュー。 後藤:え。 相川:・・・あ。 二階堂:はい。 後藤:・・・俺のも、あるのか? 二階堂:【鼻歌で】究極美味しい~味の秘訣は~先祖代々~一子相伝の~インスピレーショーン~ 後藤:無視しないで! 相川:伝統の味なのかその場のノリなのかどっちなんですか。 二階堂:十分煮込まれてますね。よしよし。 後藤:確かに・・・凄くいい匂いがする。腹も、減ってる。 相川:はい。そうだった、そもそも僕はシチューを食べに来たんだった。強盗さんの 後藤:み・す・い 相川:・・・さんのせいで忘れてました。 後藤:だから悪かったよ。・・・はぁ、これが最後の晩餐か・・・。 相川:未遂さん・・・。 後藤:・・・もうそれでいいよ。・・・ふっ、でも悪くないかもな。誰かと一緒に美味いもの食うのも久しぶりだ。 後藤:最後の思い出には丁度いい。 相川:みすい・・・。 後藤:急にぐっと仲良くなってくれるじゃん。 後藤:あーあ、もっと前から知り合っておけば俺も道を外さずにもう少し真面目に頑張ってやれたのかな。 二階堂:いい加減、仕上げに入ってもいいですか?だらだらだらだらお話のところ申し訳ないですが。 後藤:やっぱり怒ってますよね!本当にごめんなさい!こんなことは二度としません! 二階堂:煮込み過ぎてもダメなんですからね。分かればいいです。さぁ早くお座り下さい。 後藤:・・・はい。ありがとうございます。 二階堂:さぁて、最後の仕上げといきましょう! 相川:【N】そう言って二階堂さんは「何か」を入れ手早く混ぜ、満足したように軽く頷き、器に盛ってそれを僕らに出した。 後藤:こ・・・・これ・・・。 相川:これは・・・・。 相川:【N】そう、今僕らの目の前にあるのは 相川:カレーだ。 後藤:カレーだ。 相川:【N】しかも 二階堂:シチューにカツってね。 相川:カツカレーだ。 後藤:カツカレーだ。 相川:二階堂さん!これはあの・・・。 二階堂:誤解しないで欲しいんですけどこれは断じてカレーではなくれっきとしたシチューです。 後藤:でもこれどう見てもカレー 二階堂:ロクデナシが何生意気言ってんですか。 後藤:いやほんと返す言葉もございません。 二階堂:なぜか皆さんこれをカレーと言うんですよね。仕上げにカレールーを入れただけなのに。 後藤:ほらいまカレーって! 二階堂:はぁ? 後藤:聞き間違いです。 二階堂:くだらないことをいつまでも考えてないで、冷める前に早く召し上がって下さい。ほら。 相川:・・・そうですね。えー、いただきます。 後藤:いただきます。 二階堂:十分に味わって下さいね。 相川:【N】そして僕らは促されるままに二階堂さん作「本日のシチュー、カツカレーエディション」を口にした。 相川:その瞬間 後藤:う・・・っまぁっ!なんだこれ! 相川:はいっ・・・。美味過ぎる・・・。こんなカッ、・・・シチュー食べたの初めてです! 二階堂:いぇい。 相川:【N】二階堂さんが笑顔で返す。 相川:美味しい、以外の言葉が思いつかなかった。食レポは僕には無理だろう。 相川:むしろ会話することで口の中から味が香りが、幸せが逃げてしまうような気すらした。 相川:だけど。 相川:同じタイミングでみすいと目があった。きっと同じ思いなんだ。僕らは微笑み合い、再び声を揃えてこう言った。 相川:ライス下さい。 後藤:ライス下さい。 二階堂:・・・200円です。 相川:【N】二階堂さんはほんの少しだけ不満そうだった。 0:食後 後藤:ふぅー、いやぁ美味かった。 相川:気付いたらなくなってましたよ。 後藤:俺も。 二階堂:皆さんほんとライス頼むんですよね。なぜでしょうか。 後藤:そりゃやっぱりカレーと言ったら 二階堂:シチュー、な。 後藤:シチューといったらライスです。大好物です。 二階堂:いつからか常備するようになっちゃいましたよ。お陰様で。 相川:あはは。でも本当に美味しかったです。ごちそうさまでした。 後藤:ごちそうさまでした。 相川:また 相川:【N】来ます、と言いかけて言葉が詰まった。 二階堂:む。どうしました? 相川:いえ・・・。 相川:【N】シチューを食べに来たことを忘れ、シチューを食べて忘れていた。・・・みすいは・・・。 後藤:・・・また来ます。必ず。何年かかっても。 相川:え。 後藤:その時はまた一緒に食べてくれよな。 相川:みすい・・・。勿論! 二階堂:なんで? 後藤:なんでって!? 相川:二階堂さん、流石にそれは酷いんじゃないかと思いますよ! 後藤:やっぱり出禁か・・・。 相川:ほらほらー、ちょっと泣いちゃったじゃないですか。 二階堂:やだ、なんでまた来るの?じゃなくて、なんで次来るのがそんな先になるの?のなんで、よ。 後藤:・・・え? 二階堂:急にそんなこと言いだすんだもん。聞きたくなるでしょ? 相川:でも、みすいはその 二階堂:遠かったりするの? 後藤:いえ、そうでも。 二階堂:いいわね。ならまたすぐ来れるじゃない。 後藤:・・・ほんとに、いいんですか?俺、とんでもないことしたのに。 相川:二階堂さん・・・。 二階堂:逃がしはしないわよ。 相川:二階堂さん!? 後藤:やっぱり・・・。 二階堂:さんざん通ってもらわないと。その為にはしっかり働かないとね。あー大変。 後藤:・・・はい! 相川:よかったですね。 後藤:ああ、ほんとありがとう。ありがとう。俺、もう一度頑張ってみる。 相川:はい。 二階堂:シチューも中に何を入れようが、どんな過程工程を踏もうが、極端な話、最後に美味しくなればいいんです。 二階堂:仮に焦って失敗しても諦めさえしなければ必ず最後には美味しいものが出来るはず。それとも・・・。 後藤:それとも・・・? 二階堂:獄中にカツを差し入れする方がいい? 後藤:・・・絶っ対に諦めません! 二階堂:無理はしないでね。 相川:あはは。 相川:【N】そうして僕は新たな友人と連絡先を交換し店を出た。 相川:「二階堂三空のシチュー屋さん」。この電子マネーオンリーのシチュー専門店から出されるのは確かに 相川:『今までになく、シチューを食べた気がしない、シチューの範疇を超えたシチュー』だった。 相川:常識も遠慮もそこにはなく、ただ美味しいシチューだけがある。 相川:流行りの音楽のように自分を、伝えたいことだけをしっかりと。 相川:・・・。 相川:【N】程よい満腹感と中に入っていたであろうスパイスの影響か少し火照った体を外気で冷ましつつ帰路に着く。 相川:そして、みすいの本名を聞くのを忘れていたことを今更思い出したのだった。

?:いざ問題です。 ?:『とある街にあるシチュー専門店「二階堂三空のシチュー屋さん」。 ?:美味しいと評判の人気店ですが、食べたお客さんの感想の多くが「シチューを食べた気がしない。」 ?:というものでした。さて、それは一体なぜでしょう?』 0:店内 相川:【N】最近の曲はサビからはじまることが多いという。 相川:様々な音楽が溢れ、それを場所も時間も問わず耳にすることが出来る現代では 相川:曲の出だしで心を掴まないとすぐにリスナーが離れてしまう、というのがその理由らしい。 相川:出し惜しみなどせず、今の自分を、最も伝えたいことを最初に。 相川:きっとそれは正解なのだろう。 相川:そして僕もその音楽シーンの流れにノって、突如人生のサビを迎えることとなった。 後藤:いいか!そのまま大人しくしてろ!そうしてれば痛い目にあうことはない。 相川:【N】ここは今話題のシチュー屋さん「二階堂三空のシチュー屋さん」の店内。 相川:先程触れた曲構成のこともそうだが、この店名も実にいい。 相川:店名を聞くだけで、恐らくであるがオーナーの名前、ウリとしている商品という必要最低限かつ最も使えたい情報が詰まっている。 相川:まさかこの店でカレーやラーメンが出てくると思って来店する客はいないだろう。シチュー専門店なのだ。 相川:シンプル故に実に気になる。実際この店は口コミから一気に広がり人気店となった。 相川:そしてまたその感想が「今までにないシチュー」「間違いなく美味しい、もはやシチューの範疇を超えている」といったものが占め、 相川:シチューの範疇という表現は流石にお前それ言いたかっただけだろうと思いはしたが。 相川:ともかくそんな感想を目にした以上、どうしても行きたくなった僕は平日の閉店間際という 相川:行く側としてもなかなかに気を使う時間に勇気を出して入店し、店内の客がゼロなことに更に心にダメージを負ったが、 相川:一人だけいたスタッフさん、恐らくは二階堂さんであろう方に笑顔で迎えられたのだ。 後藤:クソッ・・・、やるしかねぇ・・・大丈夫、今更日和れっかよ・・・。・・・おいお前。 相川:その優しさに救われた僕はこのままシチューも掬っちゃうぞとばかりに注文をした。 相川:驚くことにメニューは一つしかなく、「本日のシチュー」だけだった。 後藤:おい、聞いてんのか。 相川:後はそれを食べて帰るだけだったのに突然 後藤:おい!! 相川:そこを動くな!動いたら殺す!と叫んで刃物を持った強盗がくるなんて!!!! 後藤:・・・おい。 相川:そこのお前、こっちに来い。 後藤:なあ。 相川:こ、殺さないでください・・・ひ・・・ひぃ・・・。 後藤:二役やんのかよ。 相川:ああ、なんでこんなことに・・・。ここで終わりなの?僕の人生・・・。 後藤:ちっ、いいから大人しく 相川:してましたよ大人しく!ずっーと僕は!・・・目立たず騒がず真面目に生きてきました。 相川:それでも地道に努力してなんとか就職して少しずつ出世もして人生これからのはずだったのに・・・。 後藤:お、おう。 相川:まだ人生のイントロ、せめてAメロくらいだと思ってたのに!ここから盛り上がるはずだったのに!それが急にこんなサビ! 後藤:何言ってんだ。 相川:こんなことならもっと大胆に生きればよかった。もっとはっちゃければよかった・・・。 相川:スタンドォォォ!アッリィィィナァァァ!!僕デェェェス! 後藤:こーわっ! 相川:え?ひぃぃっ!?や、やめてください。ささささ刺さないでください・・・。 後藤:お前もなんだか大変なんだな。大丈夫かよお前・・・。 相川:は、刃物持って押し入って来た人に言われたくないです。 後藤:あん? 相川:ひぃっ。・・・なんでもありません。 相川:【N】とその時、こんな危機的状況なのに今まで一言も声を出さなかった、 相川:恐らく、いやこのたたずまい、間違いなく彼女がこの店のオーナー、二階堂三空さんだろう、が初めて口を開いた。 二階堂:ごめんなさいね。お客様。 相川:・・・はぁ。 二階堂:ろくにお構いも出来ずお待たせしてしまって。もう少々お待ち下さいね。 相川:いやその・・・。 後藤:・・・あんたこの状況分かってんのか? 二階堂:なんのことでしょう? 後藤:なんのことって・・・これだよこれ!分かるだろ! 相川:ちょちょちょっと顔の横で急に振り上げないで下さいよ!あ、いたっ!なんかきれた気がする!血ぃ出てます絶対! 後藤:きれてねえし出てねえよ! 二階堂:はぁ・・・包丁ですね。 後藤:そうだよ。だから分かんだろ? 二階堂:急に言われましても。・・・あ。 後藤:そう、俺は強盗で今から金を 二階堂:従業員希望の方ですか? 後藤:違うだろどうみても!どこの世界に包丁片手に面接にくるバカがいるんだよ! 相川:包丁片手に強盗しにくるのも十分バカだと思いますけど。 後藤:それは確かにそう・・・ってうるせぇ! 相川:ごめんなさい! 後藤:ともかく!分かったら大人しくさっさと金を出せ!勿論余計な真似すんじゃねぇぞ。 後藤:この店が繁盛してるのは知ってんだ。半端な額じゃ誤魔化されねえぞ。 二階堂:一ついいですか。 後藤:なんだ。 二階堂:普通にこの店にはお金、現金がないんです。 後藤:・・・はぁ?ない?!全然?! 二階堂:残念ながら。一円も。 後藤:う、嘘だろ・・・。 二階堂:余計な手間を省く為に電子マネーとカードのみでお会計を頂いているんですよね。 二階堂:なにぶん一人でやっているものでして。もしよかったらレジ確認されます? 後藤:・・・そんな・・・。 二階堂:ご理解頂けたようでなによりです。 後藤:・・・。 相川:えーと・・・。つ、次は上手くいきますよ。 後藤:ねーよ!次なんて!・・・ああ・・・終わった、完全に終わった俺・・・。 相川:とりあえずそろそろ離して頂いてもいいですか? 後藤:ああ、もう好きにしてくれ。迷惑かけて悪かったな・・・。 相川:強盗さん・・・。 後藤:せめて強盗未遂さんにしてくれ・・・。 相川:分かりました。強盗傷害未遂さん。 後藤:ごめんて!ほんと少しだけ優しく供述して!お願いだから! 相川:・・・ええ、はい。 二階堂:無駄話はそのくらいにしてそろそろお二人とも席に着いて下さい。 後藤:無駄話って!俺の人生って・・・。 相川:何をするんですか? 二階堂:何をって。もうすぐ出来ますよ、シチュー。 後藤:え。 相川:・・・あ。 二階堂:はい。 後藤:・・・俺のも、あるのか? 二階堂:【鼻歌で】究極美味しい~味の秘訣は~先祖代々~一子相伝の~インスピレーショーン~ 後藤:無視しないで! 相川:伝統の味なのかその場のノリなのかどっちなんですか。 二階堂:十分煮込まれてますね。よしよし。 後藤:確かに・・・凄くいい匂いがする。腹も、減ってる。 相川:はい。そうだった、そもそも僕はシチューを食べに来たんだった。強盗さんの 後藤:み・す・い 相川:・・・さんのせいで忘れてました。 後藤:だから悪かったよ。・・・はぁ、これが最後の晩餐か・・・。 相川:未遂さん・・・。 後藤:・・・もうそれでいいよ。・・・ふっ、でも悪くないかもな。誰かと一緒に美味いもの食うのも久しぶりだ。 後藤:最後の思い出には丁度いい。 相川:みすい・・・。 後藤:急にぐっと仲良くなってくれるじゃん。 後藤:あーあ、もっと前から知り合っておけば俺も道を外さずにもう少し真面目に頑張ってやれたのかな。 二階堂:いい加減、仕上げに入ってもいいですか?だらだらだらだらお話のところ申し訳ないですが。 後藤:やっぱり怒ってますよね!本当にごめんなさい!こんなことは二度としません! 二階堂:煮込み過ぎてもダメなんですからね。分かればいいです。さぁ早くお座り下さい。 後藤:・・・はい。ありがとうございます。 二階堂:さぁて、最後の仕上げといきましょう! 相川:【N】そう言って二階堂さんは「何か」を入れ手早く混ぜ、満足したように軽く頷き、器に盛ってそれを僕らに出した。 後藤:こ・・・・これ・・・。 相川:これは・・・・。 相川:【N】そう、今僕らの目の前にあるのは 相川:カレーだ。 後藤:カレーだ。 相川:【N】しかも 二階堂:シチューにカツってね。 相川:カツカレーだ。 後藤:カツカレーだ。 相川:二階堂さん!これはあの・・・。 二階堂:誤解しないで欲しいんですけどこれは断じてカレーではなくれっきとしたシチューです。 後藤:でもこれどう見てもカレー 二階堂:ロクデナシが何生意気言ってんですか。 後藤:いやほんと返す言葉もございません。 二階堂:なぜか皆さんこれをカレーと言うんですよね。仕上げにカレールーを入れただけなのに。 後藤:ほらいまカレーって! 二階堂:はぁ? 後藤:聞き間違いです。 二階堂:くだらないことをいつまでも考えてないで、冷める前に早く召し上がって下さい。ほら。 相川:・・・そうですね。えー、いただきます。 後藤:いただきます。 二階堂:十分に味わって下さいね。 相川:【N】そして僕らは促されるままに二階堂さん作「本日のシチュー、カツカレーエディション」を口にした。 相川:その瞬間 後藤:う・・・っまぁっ!なんだこれ! 相川:はいっ・・・。美味過ぎる・・・。こんなカッ、・・・シチュー食べたの初めてです! 二階堂:いぇい。 相川:【N】二階堂さんが笑顔で返す。 相川:美味しい、以外の言葉が思いつかなかった。食レポは僕には無理だろう。 相川:むしろ会話することで口の中から味が香りが、幸せが逃げてしまうような気すらした。 相川:だけど。 相川:同じタイミングでみすいと目があった。きっと同じ思いなんだ。僕らは微笑み合い、再び声を揃えてこう言った。 相川:ライス下さい。 後藤:ライス下さい。 二階堂:・・・200円です。 相川:【N】二階堂さんはほんの少しだけ不満そうだった。 0:食後 後藤:ふぅー、いやぁ美味かった。 相川:気付いたらなくなってましたよ。 後藤:俺も。 二階堂:皆さんほんとライス頼むんですよね。なぜでしょうか。 後藤:そりゃやっぱりカレーと言ったら 二階堂:シチュー、な。 後藤:シチューといったらライスです。大好物です。 二階堂:いつからか常備するようになっちゃいましたよ。お陰様で。 相川:あはは。でも本当に美味しかったです。ごちそうさまでした。 後藤:ごちそうさまでした。 相川:また 相川:【N】来ます、と言いかけて言葉が詰まった。 二階堂:む。どうしました? 相川:いえ・・・。 相川:【N】シチューを食べに来たことを忘れ、シチューを食べて忘れていた。・・・みすいは・・・。 後藤:・・・また来ます。必ず。何年かかっても。 相川:え。 後藤:その時はまた一緒に食べてくれよな。 相川:みすい・・・。勿論! 二階堂:なんで? 後藤:なんでって!? 相川:二階堂さん、流石にそれは酷いんじゃないかと思いますよ! 後藤:やっぱり出禁か・・・。 相川:ほらほらー、ちょっと泣いちゃったじゃないですか。 二階堂:やだ、なんでまた来るの?じゃなくて、なんで次来るのがそんな先になるの?のなんで、よ。 後藤:・・・え? 二階堂:急にそんなこと言いだすんだもん。聞きたくなるでしょ? 相川:でも、みすいはその 二階堂:遠かったりするの? 後藤:いえ、そうでも。 二階堂:いいわね。ならまたすぐ来れるじゃない。 後藤:・・・ほんとに、いいんですか?俺、とんでもないことしたのに。 相川:二階堂さん・・・。 二階堂:逃がしはしないわよ。 相川:二階堂さん!? 後藤:やっぱり・・・。 二階堂:さんざん通ってもらわないと。その為にはしっかり働かないとね。あー大変。 後藤:・・・はい! 相川:よかったですね。 後藤:ああ、ほんとありがとう。ありがとう。俺、もう一度頑張ってみる。 相川:はい。 二階堂:シチューも中に何を入れようが、どんな過程工程を踏もうが、極端な話、最後に美味しくなればいいんです。 二階堂:仮に焦って失敗しても諦めさえしなければ必ず最後には美味しいものが出来るはず。それとも・・・。 後藤:それとも・・・? 二階堂:獄中にカツを差し入れする方がいい? 後藤:・・・絶っ対に諦めません! 二階堂:無理はしないでね。 相川:あはは。 相川:【N】そうして僕は新たな友人と連絡先を交換し店を出た。 相川:「二階堂三空のシチュー屋さん」。この電子マネーオンリーのシチュー専門店から出されるのは確かに 相川:『今までになく、シチューを食べた気がしない、シチューの範疇を超えたシチュー』だった。 相川:常識も遠慮もそこにはなく、ただ美味しいシチューだけがある。 相川:流行りの音楽のように自分を、伝えたいことだけをしっかりと。 相川:・・・。 相川:【N】程よい満腹感と中に入っていたであろうスパイスの影響か少し火照った体を外気で冷ましつつ帰路に着く。 相川:そして、みすいの本名を聞くのを忘れていたことを今更思い出したのだった。