台本概要

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タイトル ヤンデレ妹とメンヘラ妹に囲まれる生活は正直に言って辛い
作者名 妹のヒモ  (@GuDarigesu_dayo)
ジャンル その他
演者人数 3人用台本(男1、女2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 優には双子の妹がいた。ヤンデレ妹の蓉と、メンヘラ妹の咲。兄である優のことが大好きな二人は徐々に兄への依存を深めていき、ついに自分以外の異性の存在を許せなくなってしまう――。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
97 妹二人と三人暮らし。フリーター。コンビニでバイトをしている。
86 ヤンデレ妹。高校生。兄のことが好きすぎて依存している。
77 メンヘラ妹。高校生。兄のことが好きすぎて依存している。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:◆第1話 0:  0:  優:(M)蓉と咲が泣いてる――。 優:え……? 優:俺の腹の上で……? 優:やばいな。身体が熱いな……。 優:血も出てきた。 優:あれ? 優:俺、死ぬな。 優:まぁ、いいか……。 優:やっと楽になれるんだ。 優:やっと解放されるんだ。 優:おやすみ――。 0:半年前 蓉:「お兄ちゃん」 優:「あ、蓉。おはよう」 蓉:「お兄ちゃん」 優:「はいはい、何だよ」 蓉:「お兄ちゃんお兄ちゃん!」 優:「だから何だよ朝っぱらから(お茶を飲む)」 蓉:「梨沙って誰?」 優:「(飲んでいたお茶を吹きだす)ブッー!!」 蓉:「で、誰なの?」 優:「バイト先の先輩だよ……」 蓉:「先輩ね? ほんとに?」 優:「本当だぞ?」 蓉:「――6時から5時」 優:「何の時間だ」 蓉:「アラーム。何でいつもの時間より早めに行くの?」 優:「下準備とか色々あるんだよ」 蓉:「コンビニでしょ?」 優:「……」 蓉:「梨沙って女と一緒に行きたいから。わざと時間早めに出て一緒の電車に乗るっていう魂胆でしょ?」 優:「……」 蓉:「ねぇ、どうして黙ってるの? 答えてよ。そうなんでしょ? 違うの? ねぇ? ねぇ! ねぇってば!!」 優:「あーそうだよ!!」 蓉:「そっか……。お兄ちゃんそこどいて」 優:「ん? どく??」 蓉:「そいつ殺せない」 優:「某ネット掲示板のネタ使うな」 0:リビングの扉が開き、咲が入って来る。 咲:「ふぁ……。あ……おはよ」 優:「咲、いま何時だと思ってんだ?」 咲:「わかんない。もう少し寝たい。zzz」 優:「俺のヒザの上で寝ようとするな!」 蓉:「咲ずるい!! そこどいて」 咲:「やーだよ♪ せっかくお兄ちゃんのぬくもりを感じる場所なのに」 蓉:「咲!」 優:「お前ら俺の膝の上で暴れんな!」 咲:「うるさいよ~蓉ちゃ~ん。お兄ちゃんのひざまくらは私のものなんだから~」 蓉:「じゃあもういいよ。咲はそこで寝てなさい。んっ(優にキスする)」 優:「んっ!? な、何やってんだ……!」 蓉:「キス。このまま舌も入れちゃお」 優:「冗談やめろ……。俺たち兄妹だろ」 咲:「蓉ちゃんずるい! 私もする」 優:「咲やめろっ――」 咲:「んっ」 優:「んん……」 優:(M)俺の双子の妹、蓉と咲はいつもこんな感じ。 優:急にキスしてきたりとか、俺が寝てる布団に忍びこんでくるとか……。毎日がこの繰り返し。 優:俺に対しての執着がひどい。それはもう異常と言ってもいいくらいに。 蓉:「お兄ちゃんに勝手にキスしないでよ」 咲:「蓉ちゃんこそ勝手にしないでよ」 優:(M)蓉と咲は不登校だ。通っていた高校で先生や同級生につまはじきにされ、毎日毎日、死にたいと言っていた。 優:俺はそんな二人の辛そうな表情を見ていたくなかった。 優:それで俺は二人に「もう無理して行かなくてもいいんだ」と伝えた。 優:それから―― 優:二人の様子が、徐々に俺への依存という形に変わった。 蓉:(M)私はお兄ちゃんに言われた通り、学校を登校拒否した。 蓉:お兄ちゃんが涙を流して「行かないでくれ」と言ったから、死ぬくらいならって。 蓉:それで私は知ったんだ。お兄ちゃんはちゃんと私を見てくれてるんだって。 咲:(M)ボロボロになったこの腕を見ても、お兄ちゃんは全然引かずに私を抱きしめてくれた。 咲:毎日毎日、ただリスカを繰り返す私を――。 咲:お兄ちゃんは涙を流して「もう行かなくてもいいんだ」って言ってくれた。 咲:だから、私は今もこうして生きてる。 0:◆第2話 0:兄の寝室 優:「もうこんな時間か。眠いな……。そろそろ寝るか」 0:扉が開く音 優:「咲?」 咲:「眠れないの」 優:「だから言ったろ? 寝る前に怖い映像は見るなって」 咲:「だって~、蓉ちゃんが!」 優:「……で? どうしたんだ?」 咲:「……一緒に寝たい」 優:「はぁ……」 咲:「ダメ?」 優:「いいよ。ただし、明日俺バイトだから。ちゃんと寝かせてくれよ」 咲:「うん」 0:間(約3秒) 優:「zzz」 咲:「お兄ちゃん?」 優:「zzz」 咲:「寝ちゃったのか……」 咲:(M)お兄ちゃん、最近なんかおかしい。 咲:そうだ。お兄ちゃんのスマホに何か無いかな? 咲:何か……何か……。 咲:(優のスマホを探る) 咲:……だれ、この梨沙って? 咲:何でこんなに、こんなに! こんなに!! イチャイチャしてるの!? 咲:誰? 誰なの……。 咲:そうだ、ツバッターにもアカウントがあるはず。本名とか……。 咲:学校とか、友人関係とか。お兄ちゃんの全てを知るんだ。 咲:梨沙だけだと検索結果が多過ぎる……地域検索とかしてみるか。 咲:あとは――あっ、これ! 咲:この女がつけてるバッジ、確か閼伽井翔也(あかい・しょうや)のファンクラブの! 咲:あ……あった! 0:間(約3秒) 蓉:「咲、何してんの?」 咲:「蓉ちゃん……」 蓉:「もしかして、梨沙って人のこと? なにか情報ある?」 咲:「うん、わかったよ。通ってる学校と住んでる地域と友人関係も全部♪」 蓉:「咲、スマホ貸して」 咲:「いいよ。消すんでしょ?」 蓉:「当たり前じゃん!! お兄ちゃんにとっての異性は私たち以外にいらないでしょ?」 咲:「そうだね……」 0:間(約3秒) 優:「ん? なんか唇が重い……肩も重いよ?」 咲:「スヤスヤ……」 蓉:「スヤスヤ」 優:「咲の奴、キスしながら寝やがったのか……ってか、どんな寝方だよ! 甘々な妹系アニメでもこんな寝方しないぞ!! 優:いつつ、首が痛い……俺の顔を無理矢理自分の方に向けたのか……寝違えたみたいに痛い」 咲:「スヤスヤ」 蓉:「スヤスヤ……」 優:「蓉は相変わらず肩に手を回してくるし……肩も痛いな……。いいかげん普通に眠りたい――ってかもう朝の五時か。アラームより先に起きちまった……ふぁ~ 優:朝ごはん食べよう。作るの面倒臭いからコンフレークでいいか」 0:間(約3秒) 咲:「蓉ちゃん……ふぁ~。あ、起きて。もうお昼だよ」 蓉:「もう少し寝かせて」 咲:「梨・沙!」 蓉:「忘れてたよ~ふぁ~あ。あ、あくび移った!」 咲:「ウケる」 蓉:「お兄ちゃんがサンドイッチ作ってくれてるよ……」 咲:「本当だ。あっ、しまった! お兄ちゃんのスマホが無い……」 蓉:「私がちゃんと裏垢でフォローしてあるから、安心して」 咲:「さすが蓉ちゃん!!」 蓉:「いまどきオープン垢なんて流行らないよ、プライバシー保護の時代にね。さてさて……学校までは、電車で3駅ぐらいか」 咲:「さぁ、行こう!!」 0:着替え、外に出る。 咲:「暑い……」 蓉:「夏だもんね」 咲:「家でクーラーばっかり浴びてたから身体がだるい~」 蓉:「私も~」 咲:「ねぇ蓉ちゃん、やっぱり明日にし」 蓉:「(咲のセリフに被せて)梨沙って女にお兄ちゃんを奪われてもいいの?」 咲:「それは……嫌……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 私たちのお兄ちゃんがよく分からない女に奪われるなんて」 蓉:「でしょ? お兄ちゃんは私たちだけを見てればいいの……」 咲:「そうだよね」 0:間 咲:「ここが梨沙の学校……」 蓉:「(苦しそうに)……ハァ……ハァ」 咲:「蓉ちゃんどうしたの?」 蓉:「学校を見ると、何か、怖くて」 咲:「蓉ちゃんがそんなこと言ったら私も怖くなってきたよ……足も震えてきたし……。ダメ……動けない、もう――」 0:間(約3秒) 0:優のスマホが鳴る。 優:「ん? 何だこの番号。もしもし、あ、はい……え!? 蓉と咲が病院に運ばれた!? はい、はい……。わかりました。今から行きます。はい、はい……。 優: 店長、あの、妹が今病院に運ばれたらしくて、その……大変申し訳ないのですが、早退させてください!!」 0:間(約3秒) 優:(M)バイト先の店長の許可をもらった俺は、すぐに病院へと向かった。 優:偶然にも、二人の運ばれた病院は自分のバイト先から走って一〇分くらいの所にあった。 優:咲と蓉が倒れた。何があったんだ――。 優:冷静に考えようとしたけど結局答えの出ないまま、俺は病院へとたどり着いた。 0:◆第3話 咲:「お兄ちゃん……!」 優:「咲……蓉……」 蓉:「お兄ちゃん、来てくれたんだ!」 優:「どうしたんだよ」 咲:「それがね、その……」 蓉:「熱中症かな……? たぶん」 優:「……」 優:(M)熱中症と二人は嘘をついた。俺に心配をかけたくないからなのか。 優:でも俺は医者からもう話を聞いている。パニック障害の一種だと。 優:そして俺は聞いた。二人が倒れた場所が学校で、しかも梨沙さんの通っている学校だと――。 咲:「お兄ちゃん、本当に大丈夫だよ?」 蓉:「そんなに怖い目をしないで」 優:「……」 咲:「怒ってる? もしかして」 優:(M)怒ってるよ。そう言いたかったけれど、口に出せなかった。 優:自分のことが歯がゆかった。毎日一緒に暮らしている家族のことを何にもわからない自分が。 優:こんなにも近い距離にいるのにな。案外何にも見えてないんだな。 蓉:「お兄ちゃん、どうしたの?」 咲:「お兄ちゃん……泣いてる……?」 優:「ウッ……ウッ……。俺が少しでもお前たちに歩み寄っていれば、こんなひどいことにはならなかったのかな……」 咲:「お兄ちゃん……。ごめんね、ごめんね……」 優:「咲……蓉……」 蓉:「ごめんなさい……ごめんなさい……。だから、私たちを、私を捨てないで」 咲:「捨てないで……」 優:「捨てるわけ無いだろ! 俺たち家族だろ! 血がつながってんだろうが!!」 咲:「うん……」 蓉:「何で」 優:「――蓉?」 蓉:「なら何で! 何で……何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!」 優:「蓉! 落ち着け!」 蓉:「梨沙って何?」 優:「だからバイト先の先輩だって言って――」 蓉:「(優のセリフに被せて)嘘を付かないでよ! 嘘だよ! 嘘!! 全部嘘……。肝心な事は何一つ言ってくれない」 蓉:「ねぇ、お兄ちゃんはきっとその梨沙って女にダマされてるんだよ! ねぇ? そうだよね? そうだって言ってよ」 優:「何を言ってんだよ……」 蓉:「中学、高校とマトモに恋愛をしたことのないお兄ちゃんだから。童貞ってやっぱダマされやすいんだね。でもねお兄ちゃん。私は『どんなお兄ちゃんでも愛せる』よ?」 蓉:「例えば……そうだな、寝たきりになっても排泄物垂れ流しの状態でもね! でもその梨沙って女はそこまでの覚悟あるのかな?」 咲:「……蓉ちゃん」 蓉:「ねぇ、お兄ちゃんはその梨沙って人とHしたいの? 私ならいくらでも相手」 0:優、蓉にビンタ。 優:「何言ってんだよお前! 自分が何言ってんのか分かってんのか! 俺たち兄妹だろ! 世界でたった一人の兄妹なんだぞ!!」 蓉:「なら、そんな世界で一人の妹を捨てるんだ?」 優:「そんなこと言って――」 蓉:「梨沙って女と一緒になったら? なったら……私たちはどうせ用済みになる!! 用済みに……重荷になったの? 私が! 私たちが!!」 優:「蓉、少しは俺を信じてくれよ」 蓉:「なら信じさせてよ!! 梨沙って女と関わらないでよ!! 苦しいんだよ? 胸が痛い、呼吸が上手くできないの!! ――そっか」 優:「……蓉?」 蓉:「洗脳されてるんだよね? なら私が解いてあげる!! 梨沙って女、私が殺してあげるよ、お兄ちゃん?」 優:「殺す? 何だよそれ……。――わかった。梨沙さんとは関わらないよ。それでいいだろ? だから梨沙さんには手を出すな」 蓉:「本当に?」 優:「本当だ」 蓉:「もうどこにも行かないでね」 優:(M)蓉と話せば話すほど、妹に対する感情が分からなくなってきた。 優:心のどこかで、面倒くささに似た気持ちも芽生えてきた。 優:俺はいったいどうしたらいいんだろう――。 蓉:「お兄ちゃん、好き」 優:「あぁ……」 0:◆第4話 0:次の日。自宅にて。 優:「ただいま……」 咲:「(蓉と同時に)ただいま」 蓉:「(咲と同時に)ただいま」 0:リビング。ソファーに寝転がる。 優:「ふう……」 咲:「お兄ちゃん」 優:「なに?」 咲:「怒ってる?」 優:「どうだろうな」 咲:「嫌いになった?」 優:「嫌いになんか――」 0:咲は優を抱き締める。 優:「……ッ」 咲:「離れたくない……」 蓉:「咲……」 咲:「ねぇお兄ちゃん。痛いよ、私……」 優:「痛い?どう言う事だ?」 咲:「見てよ、この腕」 優:「リスカ――?」 咲:「切るところが無いくらいにボロボロだけど、また切ったよ」 優:「は? いつ?」 咲:「お兄ちゃんが帰ってくる前」 優:「何でそんなことするんだ」 咲:「辛いから……忘れたいから……。血を見るとね、安心するの……。生きてるなって」 優:「お前はちゃんと生きてるよ!」 咲:「……うん」 咲:(M)私はリスカ依存症だ。何か嫌なことがあればすぐにカッターで腕を傷付けてしまう。 咲:もう腕はカッターで傷付いた線でいっぱいだ。 咲:血を見て、血が通ってるって分かるとね、すごく嬉しんだ。生きてて偉いってなるんだ。 咲:お兄ちゃんに抱き締められるのと同じくらいに好きだし、やめられないな……。 優:「咲……お前自身が傷付いてまで生きたいって思うこの世界は何なんだ?」 咲:「世界っていうとおおげさだけど、でも……お兄ちゃんにもし嫌われたら、その時は死ぬかな」 優:「嫌いになんかならない」 優:(M)だけど、心のどこかで俺は限界だと、もうこれ以上は歩けないと、この先の未来ですら想像も何もできないと思い始めている……。 優:どうしちまったんだろうな。どこで壊れたんだろうな。 優:なぁ、神様。もしいるなら、この絶望だらけの何の成果も出せない日々に終わりを下さい。お願いします。 優:光もいらない。もし、欲しいものがあるとすれば 優:水を、ください。 蓉:(M)疑う事で毎日を生きている。お兄ちゃんがあの梨沙って女と縁を切ると言った。 蓉:だけど、それは本当なの? またこっそりといつもみたいに連絡先を交換しているんじゃないかと……思う。 蓉:だって、お兄ちゃんは変なところであきらめが悪いから……。 蓉:でも、もし交換しているなら、お兄ちゃんを助けてあげないとね。 0:間(約3秒) 優:(M)バイトを休むわけにはいかない。 優:蓉と咲には行かないと言っていたが、行かなかったら行かなかったで生活が困窮してしまう。 優:せっかく安定してきたのにそれを壊してしまったら、二人に辛い思いをさせてしまうから。 優:だから俺は、心を鬼にしてでも決意しないといけない。 咲:「……」 蓉:「助けなきゃ……助けなきゃ……」 優:「……守らないとな」 優:(M)俺は家を出た。二人が寝ている隙に。 優:そして、俺は梨沙さんに告白をした。中途半端な関係がいけないと思ったから。 優:「好きです。付き合って下さい」――。 優:俺にできることは、梨沙さんとの関係をハッキリさせることだ。 優:蓉と咲が疑う余地のないように。 優:梨沙さんから返ってきた言葉は「はい」の二文字だった。 優:まだどこか薄暗い朝に、俺は歓喜の声を上げた。 優:あまりのうれしさに人生で一番の声を上げた俺は、うるさいと街行く人に言われ、そして謝った。 優:楽しい毎日がこれから始まるのかと、運命に期待した。 優:このことを伝えれば、きっと蓉も咲も、俺から自立してくれるだろう。 0:間(約5秒) 0:自宅 咲:「……スヤスヤ」 蓉:「お兄ちゃん、やっぱり行ったんだ……。本格的に助けてあげないといけないね♪ 最悪の場合は殺さないとね……お兄ちゃんの未来が危うい」 蓉:「私の大好きなお兄ちゃんが泣く前に私が助けてあげないと。殺してあげなきゃ。そうじゃないと、私の大好きなお兄ちゃんが消えちゃう……」 蓉:「あの女があの女があの女があの女が……あのクソ女が! 私の大好きなお兄ちゃんを返してもらわないと……返して返して返して返して返して返して返して!!」 咲:「……ふぁ~あ」 蓉:「返してよ……返してよ、ウウ……」 咲:「蓉ちゃん……泣いて……る?」 蓉:「ねぇ、咲も思うでしょ?『お兄ちゃんは私のもの』だって」 咲:「……何言ってるの、蓉ちゃん?」 蓉:「ん? 何が?」 咲:「何て言ったの?」 蓉:「ふふっ……」 咲:「あっ――蓉ちゃん出ていっちゃった……。蓉ちゃん……。 咲:(M)思うよ、もちろん。 咲:『お兄ちゃんは私のもの』――。 咲:お兄ちゃんは蓉ちゃんのものじゃなくて、私のものだって。 咲:そうだ。中途半端な関係がいけないんだ。 咲:私か蓉ちゃんかハッキリさせれば、お兄ちゃんはもう悩まなくてすむ。 咲:そうだ。そうだそうだそうだ……。 咲:どっちかが消えればいいんだ。 0:◆第5話 優:(M)俺は梨沙さんとバイトを終えて、一緒に帰っていた。 優:手を繋ぎながら。幸せだなと幸運をかみ締めながら。 優:ふと前を向くと、蓉が立っていた。俺は驚いた。 優:何かブツブツと言っている。俺はいつのまにか、梨沙さんの手を離していた。 蓉:「助けなきゃ……助けなきゃ……」 優:「蓉……。こんなところで何してんだ」 蓉:「やっぱり洗脳されてるんだね……。なら、解いてあげないとね♪ お兄ちゃん助けてあげる。だからどいてよ……」 優:「お前、なんかおかしいぞ」 蓉:「……どいて……どいて……どいてよ!! じゃないと私頭がおかしくなっちゃうんだよ!!! お兄ちゃんならわかってくれるよね? 私の『愛』! 愛!! 愛!! 愛!! 愛!!」 蓉:「ねぇ、ねぇ!! 大好き大好き大好き大好き大好き!! だからねぇどいてよ……お兄ちゃん……?」 優:「いい加減にしろよ!!」 蓉:「え?」 優:「どんだけ邪魔したら気が済むんだよお前は!! 何だ? 俺は好きな人と一緒にいることも許されないのか!? 俺は、俺は……じゃあ、何のために生まれてきたんだ? 俺に自由は無いのか……!! 俺はどうしたら」 蓉:「好きな人? 私でしょ?」 優:「お前は! 妹だろ!!」 蓉:「で?」 優:「で? って何だよ! 妹だから付き合えないし、結婚だってできない!! そうだろ? 兄妹で恋愛なんてそんなこと、できるはずがないだろ!」 優:「蓉……お前狂ってるよ……おかしいよ! なぁ、正気になれって! お前だってわかってるはずだ!!」 蓉:「へぇ~」 優:「何だよその目は……」 蓉:「やっぱり殺さなきゃダメか……。その女、私のお兄ちゃんに何を言った? 何を吹き込んだ? 何を何を何を何を何を!!」 優:「蓉……。(疲れた声で)わかったよ……もうやめてくれ……。もう別れるから……」 優:「梨沙さんごめんなさい。やっぱり付き合うのやめましょう。もうバイト先にも顔を出しません、店長には明日辞めると伝えるので……」 優:「梨沙さん、いままで本当にありがとう。こんな俺を好きになってくれて……」 優:(M)なにが起きているのか分からないといった表情の梨沙さんは、身を固くしたまましばらく黙っていると、俺たちの前から走り去っていった。 0:間(約3秒) 蓉:「お兄ちゃんやっと解放されたんだね」 優:「あぁ……」 蓉:「一緒に帰ろ?」 優:「うん……」 0:間(約5秒) 蓉:「ただいま」 優:「ただいま……」 咲:「おかえりなさい、お兄ちゃん。蓉ちゃん、どうだった?」 蓉:「うん! お兄ちゃん、梨沙と別れさせた。私の目の前で。これでもうお兄ちゃんが惑わされる心配はないよ♪」 優:「ああ……」 咲:「足りない」 蓉:「えっ?」 咲:「足りないよ、蓉ちゃん。お兄ちゃん、まだ惑わされてるでしょ」 蓉:「咲、どういうこと?」 咲:「『お兄ちゃんは私のもの』。家を出る前に蓉ちゃんはそう言ったよね。私『たち』のもの、じゃなくて、私『の』ものって。 咲:それってお兄ちゃんのこと、自分だけのものだと思ってるってことだよね。私をのけ者にしたってことだよね?」 蓉:「それは――」 咲:「だいじょうぶ。私も思ってたよ♪ ずっとずっと前から、お兄ちゃんは私だけものだって。だから、もうハッキリさせよ? じゃないとお兄ちゃんがかわいそう」 蓉:「――! 何その包丁……?」 優:「包丁……?」 咲:「もっと早くこうしていればよかったね。フフッ。ごめんね蓉ちゃん。消えて」 蓉:「咲、ちょっと、冗談よね……? やめて……? 包丁なんてしまって……?」 優:「(うわごとのように)包丁……。包丁か……」 咲:「お兄ちゃんは私のもの……。お前には渡さない。渡さない渡さない渡さない……」 蓉:「まって咲やめて!」 咲:「あああああああああああああ!!」 優:「咲――」 0:蓉を刺そうとした咲の前に優が割って入る。 優:「うっ――」 蓉:「えっ……。お、お兄ちゃん……?」 咲:「あっ――うそ……。そ、そんな……。私、お兄ちゃんを刺すつもりじゃ……」 蓉:「お兄ちゃん! だいじょうぶ、お兄ちゃん!?」 咲:「ごめんなさいお兄ちゃん! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」 優:(M)蓉と咲が泣いてる――。 優:え……? 優:俺の腹の上で……? 優:やばいな。身体が熱いな……。 優:血も出てきた。 優:あれ? 優:俺、死ぬな。 優:まぁ、いいか……。 優:やっと楽になれるんだ。 優:やっと解放されるんだ。 優:おやすみ――。 0:間(約10秒) 優:「う……。――ハッ!?」 優:(M)目を覚ますとそこは病室のベッドだった。 優:そしてボヤける視界の中、二人の影が見え、俺は絶望した。 蓉:「(咲と同時に)お兄ちゃんおかえり!」 咲:「(蓉と同時に)お兄ちゃんおかえり!」 0:間3秒 優:「あぁ……戻って来ちゃったか……」

0:◆第1話 0:  0:  優:(M)蓉と咲が泣いてる――。 優:え……? 優:俺の腹の上で……? 優:やばいな。身体が熱いな……。 優:血も出てきた。 優:あれ? 優:俺、死ぬな。 優:まぁ、いいか……。 優:やっと楽になれるんだ。 優:やっと解放されるんだ。 優:おやすみ――。 0:半年前 蓉:「お兄ちゃん」 優:「あ、蓉。おはよう」 蓉:「お兄ちゃん」 優:「はいはい、何だよ」 蓉:「お兄ちゃんお兄ちゃん!」 優:「だから何だよ朝っぱらから(お茶を飲む)」 蓉:「梨沙って誰?」 優:「(飲んでいたお茶を吹きだす)ブッー!!」 蓉:「で、誰なの?」 優:「バイト先の先輩だよ……」 蓉:「先輩ね? ほんとに?」 優:「本当だぞ?」 蓉:「――6時から5時」 優:「何の時間だ」 蓉:「アラーム。何でいつもの時間より早めに行くの?」 優:「下準備とか色々あるんだよ」 蓉:「コンビニでしょ?」 優:「……」 蓉:「梨沙って女と一緒に行きたいから。わざと時間早めに出て一緒の電車に乗るっていう魂胆でしょ?」 優:「……」 蓉:「ねぇ、どうして黙ってるの? 答えてよ。そうなんでしょ? 違うの? ねぇ? ねぇ! ねぇってば!!」 優:「あーそうだよ!!」 蓉:「そっか……。お兄ちゃんそこどいて」 優:「ん? どく??」 蓉:「そいつ殺せない」 優:「某ネット掲示板のネタ使うな」 0:リビングの扉が開き、咲が入って来る。 咲:「ふぁ……。あ……おはよ」 優:「咲、いま何時だと思ってんだ?」 咲:「わかんない。もう少し寝たい。zzz」 優:「俺のヒザの上で寝ようとするな!」 蓉:「咲ずるい!! そこどいて」 咲:「やーだよ♪ せっかくお兄ちゃんのぬくもりを感じる場所なのに」 蓉:「咲!」 優:「お前ら俺の膝の上で暴れんな!」 咲:「うるさいよ~蓉ちゃ~ん。お兄ちゃんのひざまくらは私のものなんだから~」 蓉:「じゃあもういいよ。咲はそこで寝てなさい。んっ(優にキスする)」 優:「んっ!? な、何やってんだ……!」 蓉:「キス。このまま舌も入れちゃお」 優:「冗談やめろ……。俺たち兄妹だろ」 咲:「蓉ちゃんずるい! 私もする」 優:「咲やめろっ――」 咲:「んっ」 優:「んん……」 優:(M)俺の双子の妹、蓉と咲はいつもこんな感じ。 優:急にキスしてきたりとか、俺が寝てる布団に忍びこんでくるとか……。毎日がこの繰り返し。 優:俺に対しての執着がひどい。それはもう異常と言ってもいいくらいに。 蓉:「お兄ちゃんに勝手にキスしないでよ」 咲:「蓉ちゃんこそ勝手にしないでよ」 優:(M)蓉と咲は不登校だ。通っていた高校で先生や同級生につまはじきにされ、毎日毎日、死にたいと言っていた。 優:俺はそんな二人の辛そうな表情を見ていたくなかった。 優:それで俺は二人に「もう無理して行かなくてもいいんだ」と伝えた。 優:それから―― 優:二人の様子が、徐々に俺への依存という形に変わった。 蓉:(M)私はお兄ちゃんに言われた通り、学校を登校拒否した。 蓉:お兄ちゃんが涙を流して「行かないでくれ」と言ったから、死ぬくらいならって。 蓉:それで私は知ったんだ。お兄ちゃんはちゃんと私を見てくれてるんだって。 咲:(M)ボロボロになったこの腕を見ても、お兄ちゃんは全然引かずに私を抱きしめてくれた。 咲:毎日毎日、ただリスカを繰り返す私を――。 咲:お兄ちゃんは涙を流して「もう行かなくてもいいんだ」って言ってくれた。 咲:だから、私は今もこうして生きてる。 0:◆第2話 0:兄の寝室 優:「もうこんな時間か。眠いな……。そろそろ寝るか」 0:扉が開く音 優:「咲?」 咲:「眠れないの」 優:「だから言ったろ? 寝る前に怖い映像は見るなって」 咲:「だって~、蓉ちゃんが!」 優:「……で? どうしたんだ?」 咲:「……一緒に寝たい」 優:「はぁ……」 咲:「ダメ?」 優:「いいよ。ただし、明日俺バイトだから。ちゃんと寝かせてくれよ」 咲:「うん」 0:間(約3秒) 優:「zzz」 咲:「お兄ちゃん?」 優:「zzz」 咲:「寝ちゃったのか……」 咲:(M)お兄ちゃん、最近なんかおかしい。 咲:そうだ。お兄ちゃんのスマホに何か無いかな? 咲:何か……何か……。 咲:(優のスマホを探る) 咲:……だれ、この梨沙って? 咲:何でこんなに、こんなに! こんなに!! イチャイチャしてるの!? 咲:誰? 誰なの……。 咲:そうだ、ツバッターにもアカウントがあるはず。本名とか……。 咲:学校とか、友人関係とか。お兄ちゃんの全てを知るんだ。 咲:梨沙だけだと検索結果が多過ぎる……地域検索とかしてみるか。 咲:あとは――あっ、これ! 咲:この女がつけてるバッジ、確か閼伽井翔也(あかい・しょうや)のファンクラブの! 咲:あ……あった! 0:間(約3秒) 蓉:「咲、何してんの?」 咲:「蓉ちゃん……」 蓉:「もしかして、梨沙って人のこと? なにか情報ある?」 咲:「うん、わかったよ。通ってる学校と住んでる地域と友人関係も全部♪」 蓉:「咲、スマホ貸して」 咲:「いいよ。消すんでしょ?」 蓉:「当たり前じゃん!! お兄ちゃんにとっての異性は私たち以外にいらないでしょ?」 咲:「そうだね……」 0:間(約3秒) 優:「ん? なんか唇が重い……肩も重いよ?」 咲:「スヤスヤ……」 蓉:「スヤスヤ」 優:「咲の奴、キスしながら寝やがったのか……ってか、どんな寝方だよ! 甘々な妹系アニメでもこんな寝方しないぞ!! 優:いつつ、首が痛い……俺の顔を無理矢理自分の方に向けたのか……寝違えたみたいに痛い」 咲:「スヤスヤ」 蓉:「スヤスヤ……」 優:「蓉は相変わらず肩に手を回してくるし……肩も痛いな……。いいかげん普通に眠りたい――ってかもう朝の五時か。アラームより先に起きちまった……ふぁ~ 優:朝ごはん食べよう。作るの面倒臭いからコンフレークでいいか」 0:間(約3秒) 咲:「蓉ちゃん……ふぁ~。あ、起きて。もうお昼だよ」 蓉:「もう少し寝かせて」 咲:「梨・沙!」 蓉:「忘れてたよ~ふぁ~あ。あ、あくび移った!」 咲:「ウケる」 蓉:「お兄ちゃんがサンドイッチ作ってくれてるよ……」 咲:「本当だ。あっ、しまった! お兄ちゃんのスマホが無い……」 蓉:「私がちゃんと裏垢でフォローしてあるから、安心して」 咲:「さすが蓉ちゃん!!」 蓉:「いまどきオープン垢なんて流行らないよ、プライバシー保護の時代にね。さてさて……学校までは、電車で3駅ぐらいか」 咲:「さぁ、行こう!!」 0:着替え、外に出る。 咲:「暑い……」 蓉:「夏だもんね」 咲:「家でクーラーばっかり浴びてたから身体がだるい~」 蓉:「私も~」 咲:「ねぇ蓉ちゃん、やっぱり明日にし」 蓉:「(咲のセリフに被せて)梨沙って女にお兄ちゃんを奪われてもいいの?」 咲:「それは……嫌……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 私たちのお兄ちゃんがよく分からない女に奪われるなんて」 蓉:「でしょ? お兄ちゃんは私たちだけを見てればいいの……」 咲:「そうだよね」 0:間 咲:「ここが梨沙の学校……」 蓉:「(苦しそうに)……ハァ……ハァ」 咲:「蓉ちゃんどうしたの?」 蓉:「学校を見ると、何か、怖くて」 咲:「蓉ちゃんがそんなこと言ったら私も怖くなってきたよ……足も震えてきたし……。ダメ……動けない、もう――」 0:間(約3秒) 0:優のスマホが鳴る。 優:「ん? 何だこの番号。もしもし、あ、はい……え!? 蓉と咲が病院に運ばれた!? はい、はい……。わかりました。今から行きます。はい、はい……。 優: 店長、あの、妹が今病院に運ばれたらしくて、その……大変申し訳ないのですが、早退させてください!!」 0:間(約3秒) 優:(M)バイト先の店長の許可をもらった俺は、すぐに病院へと向かった。 優:偶然にも、二人の運ばれた病院は自分のバイト先から走って一〇分くらいの所にあった。 優:咲と蓉が倒れた。何があったんだ――。 優:冷静に考えようとしたけど結局答えの出ないまま、俺は病院へとたどり着いた。 0:◆第3話 咲:「お兄ちゃん……!」 優:「咲……蓉……」 蓉:「お兄ちゃん、来てくれたんだ!」 優:「どうしたんだよ」 咲:「それがね、その……」 蓉:「熱中症かな……? たぶん」 優:「……」 優:(M)熱中症と二人は嘘をついた。俺に心配をかけたくないからなのか。 優:でも俺は医者からもう話を聞いている。パニック障害の一種だと。 優:そして俺は聞いた。二人が倒れた場所が学校で、しかも梨沙さんの通っている学校だと――。 咲:「お兄ちゃん、本当に大丈夫だよ?」 蓉:「そんなに怖い目をしないで」 優:「……」 咲:「怒ってる? もしかして」 優:(M)怒ってるよ。そう言いたかったけれど、口に出せなかった。 優:自分のことが歯がゆかった。毎日一緒に暮らしている家族のことを何にもわからない自分が。 優:こんなにも近い距離にいるのにな。案外何にも見えてないんだな。 蓉:「お兄ちゃん、どうしたの?」 咲:「お兄ちゃん……泣いてる……?」 優:「ウッ……ウッ……。俺が少しでもお前たちに歩み寄っていれば、こんなひどいことにはならなかったのかな……」 咲:「お兄ちゃん……。ごめんね、ごめんね……」 優:「咲……蓉……」 蓉:「ごめんなさい……ごめんなさい……。だから、私たちを、私を捨てないで」 咲:「捨てないで……」 優:「捨てるわけ無いだろ! 俺たち家族だろ! 血がつながってんだろうが!!」 咲:「うん……」 蓉:「何で」 優:「――蓉?」 蓉:「なら何で! 何で……何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!」 優:「蓉! 落ち着け!」 蓉:「梨沙って何?」 優:「だからバイト先の先輩だって言って――」 蓉:「(優のセリフに被せて)嘘を付かないでよ! 嘘だよ! 嘘!! 全部嘘……。肝心な事は何一つ言ってくれない」 蓉:「ねぇ、お兄ちゃんはきっとその梨沙って女にダマされてるんだよ! ねぇ? そうだよね? そうだって言ってよ」 優:「何を言ってんだよ……」 蓉:「中学、高校とマトモに恋愛をしたことのないお兄ちゃんだから。童貞ってやっぱダマされやすいんだね。でもねお兄ちゃん。私は『どんなお兄ちゃんでも愛せる』よ?」 蓉:「例えば……そうだな、寝たきりになっても排泄物垂れ流しの状態でもね! でもその梨沙って女はそこまでの覚悟あるのかな?」 咲:「……蓉ちゃん」 蓉:「ねぇ、お兄ちゃんはその梨沙って人とHしたいの? 私ならいくらでも相手」 0:優、蓉にビンタ。 優:「何言ってんだよお前! 自分が何言ってんのか分かってんのか! 俺たち兄妹だろ! 世界でたった一人の兄妹なんだぞ!!」 蓉:「なら、そんな世界で一人の妹を捨てるんだ?」 優:「そんなこと言って――」 蓉:「梨沙って女と一緒になったら? なったら……私たちはどうせ用済みになる!! 用済みに……重荷になったの? 私が! 私たちが!!」 優:「蓉、少しは俺を信じてくれよ」 蓉:「なら信じさせてよ!! 梨沙って女と関わらないでよ!! 苦しいんだよ? 胸が痛い、呼吸が上手くできないの!! ――そっか」 優:「……蓉?」 蓉:「洗脳されてるんだよね? なら私が解いてあげる!! 梨沙って女、私が殺してあげるよ、お兄ちゃん?」 優:「殺す? 何だよそれ……。――わかった。梨沙さんとは関わらないよ。それでいいだろ? だから梨沙さんには手を出すな」 蓉:「本当に?」 優:「本当だ」 蓉:「もうどこにも行かないでね」 優:(M)蓉と話せば話すほど、妹に対する感情が分からなくなってきた。 優:心のどこかで、面倒くささに似た気持ちも芽生えてきた。 優:俺はいったいどうしたらいいんだろう――。 蓉:「お兄ちゃん、好き」 優:「あぁ……」 0:◆第4話 0:次の日。自宅にて。 優:「ただいま……」 咲:「(蓉と同時に)ただいま」 蓉:「(咲と同時に)ただいま」 0:リビング。ソファーに寝転がる。 優:「ふう……」 咲:「お兄ちゃん」 優:「なに?」 咲:「怒ってる?」 優:「どうだろうな」 咲:「嫌いになった?」 優:「嫌いになんか――」 0:咲は優を抱き締める。 優:「……ッ」 咲:「離れたくない……」 蓉:「咲……」 咲:「ねぇお兄ちゃん。痛いよ、私……」 優:「痛い?どう言う事だ?」 咲:「見てよ、この腕」 優:「リスカ――?」 咲:「切るところが無いくらいにボロボロだけど、また切ったよ」 優:「は? いつ?」 咲:「お兄ちゃんが帰ってくる前」 優:「何でそんなことするんだ」 咲:「辛いから……忘れたいから……。血を見るとね、安心するの……。生きてるなって」 優:「お前はちゃんと生きてるよ!」 咲:「……うん」 咲:(M)私はリスカ依存症だ。何か嫌なことがあればすぐにカッターで腕を傷付けてしまう。 咲:もう腕はカッターで傷付いた線でいっぱいだ。 咲:血を見て、血が通ってるって分かるとね、すごく嬉しんだ。生きてて偉いってなるんだ。 咲:お兄ちゃんに抱き締められるのと同じくらいに好きだし、やめられないな……。 優:「咲……お前自身が傷付いてまで生きたいって思うこの世界は何なんだ?」 咲:「世界っていうとおおげさだけど、でも……お兄ちゃんにもし嫌われたら、その時は死ぬかな」 優:「嫌いになんかならない」 優:(M)だけど、心のどこかで俺は限界だと、もうこれ以上は歩けないと、この先の未来ですら想像も何もできないと思い始めている……。 優:どうしちまったんだろうな。どこで壊れたんだろうな。 優:なぁ、神様。もしいるなら、この絶望だらけの何の成果も出せない日々に終わりを下さい。お願いします。 優:光もいらない。もし、欲しいものがあるとすれば 優:水を、ください。 蓉:(M)疑う事で毎日を生きている。お兄ちゃんがあの梨沙って女と縁を切ると言った。 蓉:だけど、それは本当なの? またこっそりといつもみたいに連絡先を交換しているんじゃないかと……思う。 蓉:だって、お兄ちゃんは変なところであきらめが悪いから……。 蓉:でも、もし交換しているなら、お兄ちゃんを助けてあげないとね。 0:間(約3秒) 優:(M)バイトを休むわけにはいかない。 優:蓉と咲には行かないと言っていたが、行かなかったら行かなかったで生活が困窮してしまう。 優:せっかく安定してきたのにそれを壊してしまったら、二人に辛い思いをさせてしまうから。 優:だから俺は、心を鬼にしてでも決意しないといけない。 咲:「……」 蓉:「助けなきゃ……助けなきゃ……」 優:「……守らないとな」 優:(M)俺は家を出た。二人が寝ている隙に。 優:そして、俺は梨沙さんに告白をした。中途半端な関係がいけないと思ったから。 優:「好きです。付き合って下さい」――。 優:俺にできることは、梨沙さんとの関係をハッキリさせることだ。 優:蓉と咲が疑う余地のないように。 優:梨沙さんから返ってきた言葉は「はい」の二文字だった。 優:まだどこか薄暗い朝に、俺は歓喜の声を上げた。 優:あまりのうれしさに人生で一番の声を上げた俺は、うるさいと街行く人に言われ、そして謝った。 優:楽しい毎日がこれから始まるのかと、運命に期待した。 優:このことを伝えれば、きっと蓉も咲も、俺から自立してくれるだろう。 0:間(約5秒) 0:自宅 咲:「……スヤスヤ」 蓉:「お兄ちゃん、やっぱり行ったんだ……。本格的に助けてあげないといけないね♪ 最悪の場合は殺さないとね……お兄ちゃんの未来が危うい」 蓉:「私の大好きなお兄ちゃんが泣く前に私が助けてあげないと。殺してあげなきゃ。そうじゃないと、私の大好きなお兄ちゃんが消えちゃう……」 蓉:「あの女があの女があの女があの女が……あのクソ女が! 私の大好きなお兄ちゃんを返してもらわないと……返して返して返して返して返して返して返して!!」 咲:「……ふぁ~あ」 蓉:「返してよ……返してよ、ウウ……」 咲:「蓉ちゃん……泣いて……る?」 蓉:「ねぇ、咲も思うでしょ?『お兄ちゃんは私のもの』だって」 咲:「……何言ってるの、蓉ちゃん?」 蓉:「ん? 何が?」 咲:「何て言ったの?」 蓉:「ふふっ……」 咲:「あっ――蓉ちゃん出ていっちゃった……。蓉ちゃん……。 咲:(M)思うよ、もちろん。 咲:『お兄ちゃんは私のもの』――。 咲:お兄ちゃんは蓉ちゃんのものじゃなくて、私のものだって。 咲:そうだ。中途半端な関係がいけないんだ。 咲:私か蓉ちゃんかハッキリさせれば、お兄ちゃんはもう悩まなくてすむ。 咲:そうだ。そうだそうだそうだ……。 咲:どっちかが消えればいいんだ。 0:◆第5話 優:(M)俺は梨沙さんとバイトを終えて、一緒に帰っていた。 優:手を繋ぎながら。幸せだなと幸運をかみ締めながら。 優:ふと前を向くと、蓉が立っていた。俺は驚いた。 優:何かブツブツと言っている。俺はいつのまにか、梨沙さんの手を離していた。 蓉:「助けなきゃ……助けなきゃ……」 優:「蓉……。こんなところで何してんだ」 蓉:「やっぱり洗脳されてるんだね……。なら、解いてあげないとね♪ お兄ちゃん助けてあげる。だからどいてよ……」 優:「お前、なんかおかしいぞ」 蓉:「……どいて……どいて……どいてよ!! じゃないと私頭がおかしくなっちゃうんだよ!!! お兄ちゃんならわかってくれるよね? 私の『愛』! 愛!! 愛!! 愛!! 愛!!」 蓉:「ねぇ、ねぇ!! 大好き大好き大好き大好き大好き!! だからねぇどいてよ……お兄ちゃん……?」 優:「いい加減にしろよ!!」 蓉:「え?」 優:「どんだけ邪魔したら気が済むんだよお前は!! 何だ? 俺は好きな人と一緒にいることも許されないのか!? 俺は、俺は……じゃあ、何のために生まれてきたんだ? 俺に自由は無いのか……!! 俺はどうしたら」 蓉:「好きな人? 私でしょ?」 優:「お前は! 妹だろ!!」 蓉:「で?」 優:「で? って何だよ! 妹だから付き合えないし、結婚だってできない!! そうだろ? 兄妹で恋愛なんてそんなこと、できるはずがないだろ!」 優:「蓉……お前狂ってるよ……おかしいよ! なぁ、正気になれって! お前だってわかってるはずだ!!」 蓉:「へぇ~」 優:「何だよその目は……」 蓉:「やっぱり殺さなきゃダメか……。その女、私のお兄ちゃんに何を言った? 何を吹き込んだ? 何を何を何を何を何を!!」 優:「蓉……。(疲れた声で)わかったよ……もうやめてくれ……。もう別れるから……」 優:「梨沙さんごめんなさい。やっぱり付き合うのやめましょう。もうバイト先にも顔を出しません、店長には明日辞めると伝えるので……」 優:「梨沙さん、いままで本当にありがとう。こんな俺を好きになってくれて……」 優:(M)なにが起きているのか分からないといった表情の梨沙さんは、身を固くしたまましばらく黙っていると、俺たちの前から走り去っていった。 0:間(約3秒) 蓉:「お兄ちゃんやっと解放されたんだね」 優:「あぁ……」 蓉:「一緒に帰ろ?」 優:「うん……」 0:間(約5秒) 蓉:「ただいま」 優:「ただいま……」 咲:「おかえりなさい、お兄ちゃん。蓉ちゃん、どうだった?」 蓉:「うん! お兄ちゃん、梨沙と別れさせた。私の目の前で。これでもうお兄ちゃんが惑わされる心配はないよ♪」 優:「ああ……」 咲:「足りない」 蓉:「えっ?」 咲:「足りないよ、蓉ちゃん。お兄ちゃん、まだ惑わされてるでしょ」 蓉:「咲、どういうこと?」 咲:「『お兄ちゃんは私のもの』。家を出る前に蓉ちゃんはそう言ったよね。私『たち』のもの、じゃなくて、私『の』ものって。 咲:それってお兄ちゃんのこと、自分だけのものだと思ってるってことだよね。私をのけ者にしたってことだよね?」 蓉:「それは――」 咲:「だいじょうぶ。私も思ってたよ♪ ずっとずっと前から、お兄ちゃんは私だけものだって。だから、もうハッキリさせよ? じゃないとお兄ちゃんがかわいそう」 蓉:「――! 何その包丁……?」 優:「包丁……?」 咲:「もっと早くこうしていればよかったね。フフッ。ごめんね蓉ちゃん。消えて」 蓉:「咲、ちょっと、冗談よね……? やめて……? 包丁なんてしまって……?」 優:「(うわごとのように)包丁……。包丁か……」 咲:「お兄ちゃんは私のもの……。お前には渡さない。渡さない渡さない渡さない……」 蓉:「まって咲やめて!」 咲:「あああああああああああああ!!」 優:「咲――」 0:蓉を刺そうとした咲の前に優が割って入る。 優:「うっ――」 蓉:「えっ……。お、お兄ちゃん……?」 咲:「あっ――うそ……。そ、そんな……。私、お兄ちゃんを刺すつもりじゃ……」 蓉:「お兄ちゃん! だいじょうぶ、お兄ちゃん!?」 咲:「ごめんなさいお兄ちゃん! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」 優:(M)蓉と咲が泣いてる――。 優:え……? 優:俺の腹の上で……? 優:やばいな。身体が熱いな……。 優:血も出てきた。 優:あれ? 優:俺、死ぬな。 優:まぁ、いいか……。 優:やっと楽になれるんだ。 優:やっと解放されるんだ。 優:おやすみ――。 0:間(約10秒) 優:「う……。――ハッ!?」 優:(M)目を覚ますとそこは病室のベッドだった。 優:そしてボヤける視界の中、二人の影が見え、俺は絶望した。 蓉:「(咲と同時に)お兄ちゃんおかえり!」 咲:「(蓉と同時に)お兄ちゃんおかえり!」 0:間3秒 優:「あぁ……戻って来ちゃったか……」