台本概要
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タイトル | 目が醒めて、夢から覚めて |
---|---|
作者名 | おちり補佐官 (@called_makki) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
※交通事故の表現があります。 男性モノローグ多めです。 SEでトラックのブレーキ音と、ぶつかる衝撃音を多用します。もしあれば、色んな人に呼ばれるSEを用意できればよりよくなります。なければ飛ばしてください。 ~以下あらすじ~ 別れ話の後、トラックに跳ねられた壮太。 走馬灯のなかで、昔の自分から想いの伝え方を思い出す。美玖に好きだとしっかり伝えたい。 走馬灯から醒める瞬間、轢かれたときに美玖が助けに入ったことを知る。 倒れている二人は起き上がり、お互いの気持ちを伝える。しかし、これは夢である。 壮太は病院で目を覚ます。体に痛みはない。睡眠障害を持ちつつ、美玖のお見舞いにいく日々を送る。 眠るたびに見る夢は事故の様子で、起き上がったのち、美玖が去っていく。 お見舞いにいき、寝落ち、また夢を見る。そのなかで、美玖を呼び止める。 目が覚め、病室で二人話している。 しかし、美玖は先にこの病室の異常に気がつく。この病室すらまだ夢の中なのである。 意を決して、現実に戻る二人。 美玖は倒れたままで、壮太はひとり、助かる運命を引き寄せるため、できる限りの行動をとる。 253 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
壮太 | 男 | 123 | 高校生の頃から美玖と付き合っている。卒業してからというもの、想いを伝えることが恥ずかしくなり、冷たい態度をとるようになってしまう。 |
美玖 | 女 | 104 | 最初はそうでもなかったが、壮太の勢いに負けて好きになった。それからずっと好きなのだが、そっけない態度をとられていることがツラく、別れ話を持ち出した。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:夜の公園、壮太と美玖が別れ話をしている。
SE:ビンタ音
壮太:痛っ。
美玖:痛みだけは分かるんだね。
壮太:いや、わかってるよ。
美玖:なにを? 私さ、私......! 嫌いって言って、それって、別れようって言ってんだよ? それなのになにその態度。
壮太:いや、別に。
美玖:別にって。
壮太:......。
美玖:もういい。またね。荷物とかは追々取りに行くから。
壮太:(M)今日は人生で最悪な日だ。美玖は去っていく。俺達の部屋だったところに、独りぼっち、歩き始める。美玖とは高校生の頃からの付き合いで、五年になる。好きなのに。彼女は去っていく。
SE:車のブレーキ音と、つづく衝撃音。
壮太:(M)トラックが! と思ったも束の間。最悪な運命。俺はおそらくハネ飛ばされた。意識が遠退いていく気がする。色々な声が聞こえてくる。
SE:そうちゃん、ごはん(母親の呼び声)そうた、なんだこの点数(父親の呼び声)そうた(友達の呼び声)そうた(その他の呼び声)
壮太:(M)色んな声が頭に響く。お母さん。お父さん。親友、クラスの知り合い。色んな人がいた。
壮太:(M)何かがぼんやりと見える。走馬灯だろうか。美玖が見える。俺もいる。
美玖:ふふっ、消しゴムくらい、いいよ。使って。
壮太:(M)最初はこんなだったっけ。なんで好きになったんだっけ。
:
壮太:なあ美玖、運命って信じるか?
美玖:運命?
壮太:そうだよ。運命。
美玖:ちょっと信じてる、かな。
壮太:さて、トランプを見てくれ。好きなところでストップって言ってくれよ!
美玖:うん(と微笑む)
壮太:(M)あ、このときは確か。放課後の教室でわざわざ二人きりにして......。
美玖:わ。当たってる。
壮太:運命はあるんだよ。
美玖:ね、どうやったの?
壮太:どうって、そういう運命だったんだよ。これをイカサマと呼ぶかトリックと呼ぶかは好きにしていいさ。
美玖:うん。
壮太:でも、俺が努力してこの結果が生まれたっていうのは、十分な運命だろ。テスト勉強を頑張って、満点を目指す、みたいな。これも満点へのその運命の確率をあげる行為なわけで。
美玖:うん。
壮太:あのさ。
美玖:うん。なあに。
壮太:ははっ......。
美玖:言いたいことあるんじゃないの? 見せたいものがある、なんて言って。まさかマジックだけじゃないでしょ。
壮太:うん。......なぁ。世界には色んな運命があって、こうして放課後に二人になることもそうだし。俺はそんな時間をもっと作っていきたいんだよ。
美玖:うん。
壮太:......好きだから。一緒にいてほしい。付き合ってください。大人になったらさ。もっと色んなこと、きっと何でも出来るようになるからさ。そばにいてほしい。
美玖:ふふっ、そうかぁ。
壮太:(M)だっさいなぁ。高校の俺。絶対好きってバレてたし、言い出し方が臭すぎるし......。運命って......な。
美玖:んー、いいよ。私も好きだもん。
壮太:(M)......。あっ。もう景色が違ってる。次はどこだろう。......遊園地、か。初めて手を繋いだ場所だ。
:
壮太:美玖、どんな光より綺麗だね。好きだよ。......ココア、あったかいな。ね。手......繋ぐ?
美玖:壮太ってば、変なの。脈絡がおかしいー。でもいいよ。繋ごっ。
壮太:(M)懐かしい、昔の俺たち。今思えばかなりダサいな。客観視したらかなりツラい......。でも......あの頃の方が今より良かったのかもな。もちろん今だって好きだ。でも、もうどれくらい伝えなくなったろう。「好き」だってこと。お互い環境も変わって、職場で揉まれて......。
美玖:ねぇ、壮太の部屋でさ。誕生日のお祝いしよーよ。
壮太:え。いいよ。別に。
美玖:いいじゃん~。
壮太:(M)でも、環境は変わっても、美玖は美玖で居てくれている。引き換えて、俺は......。あ。今度は......俺の部屋か。それも、つい一ヶ月前。
美玖:壮太、ごはんつくったよ。
壮太:ん。ありがとう。あとで食べるから。
美玖:そう。......ねぇ、明日なにする?
壮太:あぁ。休みか。ゆっくりするよ。来なくていいよ。
美玖:えっ......うん。そっか。
壮太:なに?
美玖:ううん。私、もう帰るね。
壮太:(M)美玖......こんな顔してたんだ。見えていたはずなのに。あっ。次は......。
美玖:急に呼び出してごめんね。
壮太:ううん。休みだったし。で、話って?
美玖:あのさ。壮太って、私のことどう思ってるの?
壮太:今更なに。
美玖:えっ。
壮太:そんなの電話でいいじゃん。
美玖:だめだよ。
壮太:......。
壮太:(M)本当は好きなんだから好きって言えばいいだけなのに。俺、何て言ったっけ。
美玖:なに、その態度。
壮太:は? なにが? 俺のこと嫌いなわけ?
美玖:そんな嫌い、なわけ......。
壮太:じゃあなに。
美玖:嫌いな......、ううん。嫌い。
壮太:(M)いつからこうなったんだろう。社会に出てからか。自分の気持ちを前に出すことが、急に恥ずかしいと感じるようになったのは。......臭いセリフを卒業するにせよ、想いを伝えることを辞める必要はどこにもないっていうのに。だからフラれたんだ。今なら分かる。嫌いって言われて俺が返した言葉は......。
:
壮太:ふぅん。俺は嫌いじゃないけど。
SE:ビンタ音。
壮太:(M)当たり前だ。振られて当然だ。でも、もしやりなおせたら。
:
壮太:痛っ。
美玖:痛みだけは分かるんだね。
壮太:いや、わかってるよ。
美玖:なにを? 私さ、私......! 嫌いって言って、それって、別れようって言ってんだよ? それなのになにその態度。
壮太:いや、別に。
美玖:別にって。
壮太:......。
美玖:もういい。またね。荷物とかは追々取りに行くから。
壮太:(M)もし、やり直すことが出来るなら、俺は絶対に追いかけて言いたい。けど、俺はトラックに跳ねられる。時は遅い。全部俺のせいだ。せめて一言、面と向かって言えたなら。あぁ、また声が聞こえる。走馬灯もこれで終わりなのだろうか。
SE:そうちゃん、ごはん(母親の呼び声)そうた、なんだこの点数(父親の呼び声)そうた(友達の呼び声)そうた(その他の呼び声)
壮太:(M)色んな声が頭に響く。お母さん。お父さん。親友、クラスの知り合い。色んな人がいた。そして、そして。
美玖:そうたぁっ!!
SE:車のブレーキ音と、つづく衝撃音。
0:倒れている美玖と壮太。先に壮太が起き上がる。
壮太:(M)君がいた! 目が覚める。美玖のおかげだろうか。身体はどこも痛くない。
:
壮太:あ。ぁあ。みく......、美玖!! 大丈夫か。なあ!
美玖:うん......。うん。平気。よかったぁ。間に合って。
壮太:うん。本当に良かった。ごめん、俺のせいで。
美玖:でも、もういいよ。(と立ち上がる)
壮太:え?
美玖:壮太......壮太にとっては、私なんか居たって邪魔だもんね。さようなら。
0:美玖は足早に去っていく。
壮太:いや。そんなこと......。そんなこと! ない! だから待ってくれ!!
美玖:どうしたの。急に。ずっと何も言ってくれなかったじゃない。
壮太:本当にごめん!
美玖:なにが。今更。
壮太:俺は美玖のことが好きなんだ。ただ。
美玖:ただ?
壮太:情けないけど、こっぱずかしくて。高校卒業してから就職して、一人暮らしも初めてさ。時々、時間をつくって会いに来てくれる。俺は、俺は、そんな美玖に甘えてしまっていたんだ。
美玖:壮太......。
壮太:今、助けてもらって咄嗟に言っているわけでも、別れたくないからゴネようとしているわけでもなくて! 俺、ずっと分かってなかったんだ。高校のとき出来ていたことが、出来なくなってて。
美玖:もっとさ、言いたいこと、あるんじゃないの? ね。伝えるってそんなにダサくないと思うよ。
壮太:あぁ。
美玖:私は好きだよ。壮太のこと。
壮太:......お、俺も! 好きだ好きだ! 大好きだ!
美玖:よかった。嬉しい。......じゃあね。
壮太:じゃ、じゃあねって?
美玖:トラックに跳ねられてさ。まるっきり無事なんてこと、あるわけないじゃん。自分の願ってる運命を引き寄せるって難しいね。ありがと、壮太。
壮太:......は? いや、そんなわけ。だって、目の前にいるじゃんか!
0:間。
壮太:(M)そう、叫んだはずだった。けれど、気がつくと俺は病院にいた。何日寝ていたのかも分からない。からだに痛みはない。しかし、突然睡魔に襲われてしまう。俺の体のことなんて、もはやどうでもよかった。彼女、美玖は未だに目覚めていない。お見舞いに行って、眠って、夢を見て、その繰り返しの生活だ。寝たくもないのに眠りに落ちてしまう。そして、見るのはいつも......。
美玖:そうたぁ!!!!
SE:車のブレーキ音と衝撃音。
壮太:(M)事故の前後ばかり。夢の中ではいつも、はねられてから少し話をする。けれど、最初に見た夢では伝えられていた想いは、その後、一度も伝えられていない。去ろうとする美玖を呼び止めようとしても、振り向かずに行ってしまう。そして気がつくと、またベッドに横たわっている。その繰り返し。
:
壮太:あ。ぁあ。みく......、美玖!! 大丈夫か。なあ!
美玖:うん......。うん。平気。よかったぁ。間に合って。
壮太:うん。本当に良かった。ごめん、俺のせいで。
美玖:でも、もういいよ。(と立ち上がる)
壮太:え?
美玖:壮太......壮太にとっては、私なんか居たって邪魔だもんね。さようなら。
0:美玖は足早に去っていく。
壮太:いや。そんなこと......。そんなこと! ない! だから待ってくれ!!
:
壮太:(M)繰り返し。
美玖:でも、もういいよ。
壮太:(M)繰り返し。
美玖:さようなら。
壮太:(M)ずっとその繰り返し。美玖は打ち所が悪かった。事故の際、気道が塞がったのも悪かった。俺のスマートフォンも、美玖のも、壊れた。だから救急車も遅れた。事故のことは思い出したくなくとも、夢で見る。ぶつかった位置も少しずつ、明るくなっていく。思えば、走馬灯を過ぎてから、最初は聞こえていなかった、いや、聴こえないふりをしていた美玖の声が聞こえるようになっている。
美玖:そうたぁ!!!!
SE:車のブレーキ音と衝撃音。
美玖:(M)夢。ずっと夢。きりのない夢。たった一度だけ、夢の中で壮太の呼び止める声が聞こえた。嬉しかった。私の好きな壮太がこうだったらいいのにって、ずっと思ってた。けれどそれ以来、何回見ても同じ夢のはずなのに、壮太の声は聞こえない。もう私のことなんてどうでもいいんじゃないか。鬱陶しいだけだったんじゃないか。夜ご飯つくって彼女面して、迷惑だったんじゃないか。でも、私は事故の夢を見るたび、轢かれそうだった壮太を突き飛ばして良かったと思う。結局、二人とも重症だったんだろうと思うけど、少しでも壮太が無事なら、私はそれで構わないから。わがままを言えるのなら、夢の中でいいから、もう一度、壮太に呼び止められたい。そしたら夢から覚められる気がする。
壮太:美玖......。おはよう。今日も天気はくもり。ずっとくもりだな。なぁ。ごめんな。ありがとうな。俺さ......美玖と話したい。......面と向かって好きだって言いたい。だから、目を覚ましてくれよ。俺さ......あ。恥ずかしい話なんだけどさ。夢の中で何回も、何回も何回も美玖のこと呼び続けているんだ。でも、振り向いてくれたのは最初の一回きりだった。内心、俺に愛想を尽かしてるんだろうなって、そう思ってしまって。でも、それでも、遅すぎなのは百も承知で、俺は美玖に想いを伝えたい。こんな運命、最悪じゃないか。最悪。あぁ。情けなくってごめんな。自己満足って言われたっていい。夢の中だけでもいいから振り向いてほしい。
壮太:(M)ああ。また眠くなってきた。沈んで、沈んで、俺はまた夢を見る。始まる。
美玖:そうたぁ!!!!
SE:車のブレーキ音と衝撃音。
壮太:美玖! 大丈夫か。
美玖:うん......平気。
壮太:助けてくれてありがとう。
美玖:ううん。じゃ。私いくね。
壮太:それと! ごめん! 俺!
美玖:またね。
0:間。
壮太:待ってくれ! 美玖! 好きだ! 本当は大好きなんだ! もうまどろっこしいことは言わない。君と一緒にいたい。大好きなんだ!
美玖:え?
壮太:今更遅すぎるってキレられたっていい。俺は美玖がいないとダメなんだ! だから! こんな夢、おわりにしよう。
美玖:そう......た?
壮太:俺のことをもっと殴ってくれたっていい。それで気が済むのなら。
美玖:......。
壮太:み、みく?
美玖:......ははっ。おかしい。こんなこと、いまの壮太なら絶対言わないんだろうなあ。
壮太:い、今の俺だよ! これが!
美玖:ううん。壮太くんは、高校を卒業してからしばらくして、段々なにも言ってくれなくなったんだよ。会いたいとか、私からばっかりで。
壮太:それは! ......。本当にごめん。
美玖:ううん。いいんだよ。ずっと好き好き言い合う方がおかしいんだよ、きっと。じゃあね。......嬉しかった。
壮太:美玖! 待ってくれ!
0:間。
壮太:(M)俺は自分の叫び声で目が覚めた。美玖のいる病室で、椅子で寝てしまっていたらしい。
美玖:そう......た?
壮太:美玖?
美玖:みくだよー。ふふっ。
壮太:好きだ! ごめん、ありがとう。好きだ!
美玖:変なの。これも夢かな。夢の中でね、壮太、必死に私のこと......。
壮太:大好きだ。
美玖:ふふっ、ははは。夢ね。きっと。
壮太:ゆ、夢なんかじゃないさ。
美玖:ほんとに?
壮太:え。だって俺は毎日ここへ来て、寝落ちて、またベッドからここへ来て。ずっと曇り空で。もう何日か分からないけど、ずっとずっとそうしてきたんだよ。
美玖:そっか。嬉しいけど。さ。
壮太:どうしたんだよ。
美玖:......。
壮太:え?
美玖:怖いけどさ。聞くよ? 私、本当の壮太に好きって言われたいの。
壮太:本当って、俺が偽物なわけないだろ。
美玖:じゃあ......今日は何日? 何曜日?
壮太:し、しらない。
美玖:ここはどこの病院? 他に誰か会った?
壮太:それは......。
美玖:ね?
壮太:け、けど!
美玖:私たちの心が見せている夢なのかもね。
壮太:はあ、そんなこと。
美玖:じゃあさっきのこと答えられる?
壮太:......。
美玖:ね。壮太。夢だけど、言わせてね。
壮太:......なに。
美玖:わたしも、だいすき。
壮太:......そっか。そうか。よかった。
美玖:うん。
壮太:もし、いや、もし、なんかじゃないか。確かに夢か。ここは。だとしたらさ、どうすりゃいいんだ。
美玖:さぁ。どうにかして起きなきゃね。
壮太:起きたら、俺たちどうなってるんだろうな。
美玖:さぁ。わかんない。でも。
壮太:でも?
美玖:私は絶対、壮太に好きってちゃんと伝えるよ。
壮太:お、俺も! めちゃくちゃ伝える。俺さ! 初めて美玖に好きだって言ったときのこと思い出したんだよ。運命がどうのこうのって。
美玖:なつかしいね。
壮太:うん。だからさ、絶対に助かるから。どうにかして運命を引き寄せるから。
美玖:うん。
壮太:それでさ。またちゃんと話せるようにするから!
美玖:うん。うん。ありがとう、壮太。
壮太:だから、絶対、この夢からさめて、きちんと目を覚まそうな。
美玖:うん!
壮太:(M)なにかまだ言い足りなそうな美玖をそのままに、俺の意識はまた遠のいていく。
美玖:そうたぁ!!!!
SE:車のブレーキ音と衝撃音。
壮太:あ゛っ......、痛。くっそ......!
:
壮太:(M)全身が耐え難く痛む。痛みだけがわかる。隣で美玖も倒れている。
:
壮太:みくっ! 美玖! おい! だめか......。なあ!
:
壮太:(M)夢とは違って、辺りはいやに生暖かい。美玖の気道をいち早く確保する。道には赤黒く光る血が見える。俺はどれくらい気を失っていたのか。分からない。ただ、救急車、救急車を呼ばなくちゃならない。最速で呼ぶには......。
:
壮太:くそっ......開け。この......っ。
:
壮太:(M)俺はトラックのドアを引っ張る。運転手も意識を失っているようだ。そして、ぶつかった衝撃でドアは歪み、固くなっている。
:
壮太:っらぁ! ......スマホ。どこだ。あ。頭がいたい。ぬぁあ! かかれ。かかれよ! ......交通事故なんだ! 場所は!
:
壮太:(M)睡魔が襲ってくる。このタイミングで。俺は正確に言えただろうか。わからない。なにもわからない。ただ、意識が混濁していく。もう走馬灯も夢もなさそうで。ただひたすらに暗く沈んでいく。
0:現実の病院。美玖の声を聞きつつ、意識がハッキリとしてくる壮太。
美玖:......うた。そうた。今日は晴れてるよ。あたしね。大好きなんだよ。壮太のこと。
壮太:......俺もだよ。大好きに決まってるだろ。
美玖:......!
壮太:ははっ。頭がいたいな。いや、頭だけじゃない、か......。美玖は? 平気か? ごめんなあ。かわいい顔に擦り傷がついてるじゃないか。
美玖:......こんな、こんなくらい。全然!
壮太:可愛いな。大好きだ。......なあ。
美玖:なに?
壮太:君は、俺の運命の人だと思うよ。
美玖:夢の中の壮太みたい。
壮太:現実だよ。それとも、言われるのは、もういい大人だから恥ずかしいか?
美玖:ううん、ぜーんぜん。私も好き。
壮太:よかった......。よかったよ。
美玖:うん。
壮太:で、どんなゆめみたの?
美玖:えとね。事故にあったときのこと。
壮太:最悪じゃん。
美玖:うん。最悪な夢だった。
壮太:なんでそんな嬉しそうなんだよ。
美玖:んー? なんでも。あ。
壮太:なに?
美玖:あとね、壮太がお見舞いに来てくれる夢も見たよ。
壮太:えっ。
美玖:どうしたの?
壮太:ううん。なんでもないよ。
美玖:あーあ、夢の中の壮太は思ってることなんでも言うって感じだったのになあー!
壮太:ははっ。たぶん......一緒の夢。
美玖:そんなまさか......ね
壮太:おはよ。美玖。
美玖:おはよう。壮太。
0:夜の公園、壮太と美玖が別れ話をしている。
SE:ビンタ音
壮太:痛っ。
美玖:痛みだけは分かるんだね。
壮太:いや、わかってるよ。
美玖:なにを? 私さ、私......! 嫌いって言って、それって、別れようって言ってんだよ? それなのになにその態度。
壮太:いや、別に。
美玖:別にって。
壮太:......。
美玖:もういい。またね。荷物とかは追々取りに行くから。
壮太:(M)今日は人生で最悪な日だ。美玖は去っていく。俺達の部屋だったところに、独りぼっち、歩き始める。美玖とは高校生の頃からの付き合いで、五年になる。好きなのに。彼女は去っていく。
SE:車のブレーキ音と、つづく衝撃音。
壮太:(M)トラックが! と思ったも束の間。最悪な運命。俺はおそらくハネ飛ばされた。意識が遠退いていく気がする。色々な声が聞こえてくる。
SE:そうちゃん、ごはん(母親の呼び声)そうた、なんだこの点数(父親の呼び声)そうた(友達の呼び声)そうた(その他の呼び声)
壮太:(M)色んな声が頭に響く。お母さん。お父さん。親友、クラスの知り合い。色んな人がいた。
壮太:(M)何かがぼんやりと見える。走馬灯だろうか。美玖が見える。俺もいる。
美玖:ふふっ、消しゴムくらい、いいよ。使って。
壮太:(M)最初はこんなだったっけ。なんで好きになったんだっけ。
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壮太:なあ美玖、運命って信じるか?
美玖:運命?
壮太:そうだよ。運命。
美玖:ちょっと信じてる、かな。
壮太:さて、トランプを見てくれ。好きなところでストップって言ってくれよ!
美玖:うん(と微笑む)
壮太:(M)あ、このときは確か。放課後の教室でわざわざ二人きりにして......。
美玖:わ。当たってる。
壮太:運命はあるんだよ。
美玖:ね、どうやったの?
壮太:どうって、そういう運命だったんだよ。これをイカサマと呼ぶかトリックと呼ぶかは好きにしていいさ。
美玖:うん。
壮太:でも、俺が努力してこの結果が生まれたっていうのは、十分な運命だろ。テスト勉強を頑張って、満点を目指す、みたいな。これも満点へのその運命の確率をあげる行為なわけで。
美玖:うん。
壮太:あのさ。
美玖:うん。なあに。
壮太:ははっ......。
美玖:言いたいことあるんじゃないの? 見せたいものがある、なんて言って。まさかマジックだけじゃないでしょ。
壮太:うん。......なぁ。世界には色んな運命があって、こうして放課後に二人になることもそうだし。俺はそんな時間をもっと作っていきたいんだよ。
美玖:うん。
壮太:......好きだから。一緒にいてほしい。付き合ってください。大人になったらさ。もっと色んなこと、きっと何でも出来るようになるからさ。そばにいてほしい。
美玖:ふふっ、そうかぁ。
壮太:(M)だっさいなぁ。高校の俺。絶対好きってバレてたし、言い出し方が臭すぎるし......。運命って......な。
美玖:んー、いいよ。私も好きだもん。
壮太:(M)......。あっ。もう景色が違ってる。次はどこだろう。......遊園地、か。初めて手を繋いだ場所だ。
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壮太:美玖、どんな光より綺麗だね。好きだよ。......ココア、あったかいな。ね。手......繋ぐ?
美玖:壮太ってば、変なの。脈絡がおかしいー。でもいいよ。繋ごっ。
壮太:(M)懐かしい、昔の俺たち。今思えばかなりダサいな。客観視したらかなりツラい......。でも......あの頃の方が今より良かったのかもな。もちろん今だって好きだ。でも、もうどれくらい伝えなくなったろう。「好き」だってこと。お互い環境も変わって、職場で揉まれて......。
美玖:ねぇ、壮太の部屋でさ。誕生日のお祝いしよーよ。
壮太:え。いいよ。別に。
美玖:いいじゃん~。
壮太:(M)でも、環境は変わっても、美玖は美玖で居てくれている。引き換えて、俺は......。あ。今度は......俺の部屋か。それも、つい一ヶ月前。
美玖:壮太、ごはんつくったよ。
壮太:ん。ありがとう。あとで食べるから。
美玖:そう。......ねぇ、明日なにする?
壮太:あぁ。休みか。ゆっくりするよ。来なくていいよ。
美玖:えっ......うん。そっか。
壮太:なに?
美玖:ううん。私、もう帰るね。
壮太:(M)美玖......こんな顔してたんだ。見えていたはずなのに。あっ。次は......。
美玖:急に呼び出してごめんね。
壮太:ううん。休みだったし。で、話って?
美玖:あのさ。壮太って、私のことどう思ってるの?
壮太:今更なに。
美玖:えっ。
壮太:そんなの電話でいいじゃん。
美玖:だめだよ。
壮太:......。
壮太:(M)本当は好きなんだから好きって言えばいいだけなのに。俺、何て言ったっけ。
美玖:なに、その態度。
壮太:は? なにが? 俺のこと嫌いなわけ?
美玖:そんな嫌い、なわけ......。
壮太:じゃあなに。
美玖:嫌いな......、ううん。嫌い。
壮太:(M)いつからこうなったんだろう。社会に出てからか。自分の気持ちを前に出すことが、急に恥ずかしいと感じるようになったのは。......臭いセリフを卒業するにせよ、想いを伝えることを辞める必要はどこにもないっていうのに。だからフラれたんだ。今なら分かる。嫌いって言われて俺が返した言葉は......。
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壮太:ふぅん。俺は嫌いじゃないけど。
SE:ビンタ音。
壮太:(M)当たり前だ。振られて当然だ。でも、もしやりなおせたら。
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壮太:痛っ。
美玖:痛みだけは分かるんだね。
壮太:いや、わかってるよ。
美玖:なにを? 私さ、私......! 嫌いって言って、それって、別れようって言ってんだよ? それなのになにその態度。
壮太:いや、別に。
美玖:別にって。
壮太:......。
美玖:もういい。またね。荷物とかは追々取りに行くから。
壮太:(M)もし、やり直すことが出来るなら、俺は絶対に追いかけて言いたい。けど、俺はトラックに跳ねられる。時は遅い。全部俺のせいだ。せめて一言、面と向かって言えたなら。あぁ、また声が聞こえる。走馬灯もこれで終わりなのだろうか。
SE:そうちゃん、ごはん(母親の呼び声)そうた、なんだこの点数(父親の呼び声)そうた(友達の呼び声)そうた(その他の呼び声)
壮太:(M)色んな声が頭に響く。お母さん。お父さん。親友、クラスの知り合い。色んな人がいた。そして、そして。
美玖:そうたぁっ!!
SE:車のブレーキ音と、つづく衝撃音。
0:倒れている美玖と壮太。先に壮太が起き上がる。
壮太:(M)君がいた! 目が覚める。美玖のおかげだろうか。身体はどこも痛くない。
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壮太:あ。ぁあ。みく......、美玖!! 大丈夫か。なあ!
美玖:うん......。うん。平気。よかったぁ。間に合って。
壮太:うん。本当に良かった。ごめん、俺のせいで。
美玖:でも、もういいよ。(と立ち上がる)
壮太:え?
美玖:壮太......壮太にとっては、私なんか居たって邪魔だもんね。さようなら。
0:美玖は足早に去っていく。
壮太:いや。そんなこと......。そんなこと! ない! だから待ってくれ!!
美玖:どうしたの。急に。ずっと何も言ってくれなかったじゃない。
壮太:本当にごめん!
美玖:なにが。今更。
壮太:俺は美玖のことが好きなんだ。ただ。
美玖:ただ?
壮太:情けないけど、こっぱずかしくて。高校卒業してから就職して、一人暮らしも初めてさ。時々、時間をつくって会いに来てくれる。俺は、俺は、そんな美玖に甘えてしまっていたんだ。
美玖:壮太......。
壮太:今、助けてもらって咄嗟に言っているわけでも、別れたくないからゴネようとしているわけでもなくて! 俺、ずっと分かってなかったんだ。高校のとき出来ていたことが、出来なくなってて。
美玖:もっとさ、言いたいこと、あるんじゃないの? ね。伝えるってそんなにダサくないと思うよ。
壮太:あぁ。
美玖:私は好きだよ。壮太のこと。
壮太:......お、俺も! 好きだ好きだ! 大好きだ!
美玖:よかった。嬉しい。......じゃあね。
壮太:じゃ、じゃあねって?
美玖:トラックに跳ねられてさ。まるっきり無事なんてこと、あるわけないじゃん。自分の願ってる運命を引き寄せるって難しいね。ありがと、壮太。
壮太:......は? いや、そんなわけ。だって、目の前にいるじゃんか!
0:間。
壮太:(M)そう、叫んだはずだった。けれど、気がつくと俺は病院にいた。何日寝ていたのかも分からない。からだに痛みはない。しかし、突然睡魔に襲われてしまう。俺の体のことなんて、もはやどうでもよかった。彼女、美玖は未だに目覚めていない。お見舞いに行って、眠って、夢を見て、その繰り返しの生活だ。寝たくもないのに眠りに落ちてしまう。そして、見るのはいつも......。
美玖:そうたぁ!!!!
SE:車のブレーキ音と衝撃音。
壮太:(M)事故の前後ばかり。夢の中ではいつも、はねられてから少し話をする。けれど、最初に見た夢では伝えられていた想いは、その後、一度も伝えられていない。去ろうとする美玖を呼び止めようとしても、振り向かずに行ってしまう。そして気がつくと、またベッドに横たわっている。その繰り返し。
:
壮太:あ。ぁあ。みく......、美玖!! 大丈夫か。なあ!
美玖:うん......。うん。平気。よかったぁ。間に合って。
壮太:うん。本当に良かった。ごめん、俺のせいで。
美玖:でも、もういいよ。(と立ち上がる)
壮太:え?
美玖:壮太......壮太にとっては、私なんか居たって邪魔だもんね。さようなら。
0:美玖は足早に去っていく。
壮太:いや。そんなこと......。そんなこと! ない! だから待ってくれ!!
:
壮太:(M)繰り返し。
美玖:でも、もういいよ。
壮太:(M)繰り返し。
美玖:さようなら。
壮太:(M)ずっとその繰り返し。美玖は打ち所が悪かった。事故の際、気道が塞がったのも悪かった。俺のスマートフォンも、美玖のも、壊れた。だから救急車も遅れた。事故のことは思い出したくなくとも、夢で見る。ぶつかった位置も少しずつ、明るくなっていく。思えば、走馬灯を過ぎてから、最初は聞こえていなかった、いや、聴こえないふりをしていた美玖の声が聞こえるようになっている。
美玖:そうたぁ!!!!
SE:車のブレーキ音と衝撃音。
美玖:(M)夢。ずっと夢。きりのない夢。たった一度だけ、夢の中で壮太の呼び止める声が聞こえた。嬉しかった。私の好きな壮太がこうだったらいいのにって、ずっと思ってた。けれどそれ以来、何回見ても同じ夢のはずなのに、壮太の声は聞こえない。もう私のことなんてどうでもいいんじゃないか。鬱陶しいだけだったんじゃないか。夜ご飯つくって彼女面して、迷惑だったんじゃないか。でも、私は事故の夢を見るたび、轢かれそうだった壮太を突き飛ばして良かったと思う。結局、二人とも重症だったんだろうと思うけど、少しでも壮太が無事なら、私はそれで構わないから。わがままを言えるのなら、夢の中でいいから、もう一度、壮太に呼び止められたい。そしたら夢から覚められる気がする。
壮太:美玖......。おはよう。今日も天気はくもり。ずっとくもりだな。なぁ。ごめんな。ありがとうな。俺さ......美玖と話したい。......面と向かって好きだって言いたい。だから、目を覚ましてくれよ。俺さ......あ。恥ずかしい話なんだけどさ。夢の中で何回も、何回も何回も美玖のこと呼び続けているんだ。でも、振り向いてくれたのは最初の一回きりだった。内心、俺に愛想を尽かしてるんだろうなって、そう思ってしまって。でも、それでも、遅すぎなのは百も承知で、俺は美玖に想いを伝えたい。こんな運命、最悪じゃないか。最悪。あぁ。情けなくってごめんな。自己満足って言われたっていい。夢の中だけでもいいから振り向いてほしい。
壮太:(M)ああ。また眠くなってきた。沈んで、沈んで、俺はまた夢を見る。始まる。
美玖:そうたぁ!!!!
SE:車のブレーキ音と衝撃音。
壮太:美玖! 大丈夫か。
美玖:うん......平気。
壮太:助けてくれてありがとう。
美玖:ううん。じゃ。私いくね。
壮太:それと! ごめん! 俺!
美玖:またね。
0:間。
壮太:待ってくれ! 美玖! 好きだ! 本当は大好きなんだ! もうまどろっこしいことは言わない。君と一緒にいたい。大好きなんだ!
美玖:え?
壮太:今更遅すぎるってキレられたっていい。俺は美玖がいないとダメなんだ! だから! こんな夢、おわりにしよう。
美玖:そう......た?
壮太:俺のことをもっと殴ってくれたっていい。それで気が済むのなら。
美玖:......。
壮太:み、みく?
美玖:......ははっ。おかしい。こんなこと、いまの壮太なら絶対言わないんだろうなあ。
壮太:い、今の俺だよ! これが!
美玖:ううん。壮太くんは、高校を卒業してからしばらくして、段々なにも言ってくれなくなったんだよ。会いたいとか、私からばっかりで。
壮太:それは! ......。本当にごめん。
美玖:ううん。いいんだよ。ずっと好き好き言い合う方がおかしいんだよ、きっと。じゃあね。......嬉しかった。
壮太:美玖! 待ってくれ!
0:間。
壮太:(M)俺は自分の叫び声で目が覚めた。美玖のいる病室で、椅子で寝てしまっていたらしい。
美玖:そう......た?
壮太:美玖?
美玖:みくだよー。ふふっ。
壮太:好きだ! ごめん、ありがとう。好きだ!
美玖:変なの。これも夢かな。夢の中でね、壮太、必死に私のこと......。
壮太:大好きだ。
美玖:ふふっ、ははは。夢ね。きっと。
壮太:ゆ、夢なんかじゃないさ。
美玖:ほんとに?
壮太:え。だって俺は毎日ここへ来て、寝落ちて、またベッドからここへ来て。ずっと曇り空で。もう何日か分からないけど、ずっとずっとそうしてきたんだよ。
美玖:そっか。嬉しいけど。さ。
壮太:どうしたんだよ。
美玖:......。
壮太:え?
美玖:怖いけどさ。聞くよ? 私、本当の壮太に好きって言われたいの。
壮太:本当って、俺が偽物なわけないだろ。
美玖:じゃあ......今日は何日? 何曜日?
壮太:し、しらない。
美玖:ここはどこの病院? 他に誰か会った?
壮太:それは......。
美玖:ね?
壮太:け、けど!
美玖:私たちの心が見せている夢なのかもね。
壮太:はあ、そんなこと。
美玖:じゃあさっきのこと答えられる?
壮太:......。
美玖:ね。壮太。夢だけど、言わせてね。
壮太:......なに。
美玖:わたしも、だいすき。
壮太:......そっか。そうか。よかった。
美玖:うん。
壮太:もし、いや、もし、なんかじゃないか。確かに夢か。ここは。だとしたらさ、どうすりゃいいんだ。
美玖:さぁ。どうにかして起きなきゃね。
壮太:起きたら、俺たちどうなってるんだろうな。
美玖:さぁ。わかんない。でも。
壮太:でも?
美玖:私は絶対、壮太に好きってちゃんと伝えるよ。
壮太:お、俺も! めちゃくちゃ伝える。俺さ! 初めて美玖に好きだって言ったときのこと思い出したんだよ。運命がどうのこうのって。
美玖:なつかしいね。
壮太:うん。だからさ、絶対に助かるから。どうにかして運命を引き寄せるから。
美玖:うん。
壮太:それでさ。またちゃんと話せるようにするから!
美玖:うん。うん。ありがとう、壮太。
壮太:だから、絶対、この夢からさめて、きちんと目を覚まそうな。
美玖:うん!
壮太:(M)なにかまだ言い足りなそうな美玖をそのままに、俺の意識はまた遠のいていく。
美玖:そうたぁ!!!!
SE:車のブレーキ音と衝撃音。
壮太:あ゛っ......、痛。くっそ......!
:
壮太:(M)全身が耐え難く痛む。痛みだけがわかる。隣で美玖も倒れている。
:
壮太:みくっ! 美玖! おい! だめか......。なあ!
:
壮太:(M)夢とは違って、辺りはいやに生暖かい。美玖の気道をいち早く確保する。道には赤黒く光る血が見える。俺はどれくらい気を失っていたのか。分からない。ただ、救急車、救急車を呼ばなくちゃならない。最速で呼ぶには......。
:
壮太:くそっ......開け。この......っ。
:
壮太:(M)俺はトラックのドアを引っ張る。運転手も意識を失っているようだ。そして、ぶつかった衝撃でドアは歪み、固くなっている。
:
壮太:っらぁ! ......スマホ。どこだ。あ。頭がいたい。ぬぁあ! かかれ。かかれよ! ......交通事故なんだ! 場所は!
:
壮太:(M)睡魔が襲ってくる。このタイミングで。俺は正確に言えただろうか。わからない。なにもわからない。ただ、意識が混濁していく。もう走馬灯も夢もなさそうで。ただひたすらに暗く沈んでいく。
0:現実の病院。美玖の声を聞きつつ、意識がハッキリとしてくる壮太。
美玖:......うた。そうた。今日は晴れてるよ。あたしね。大好きなんだよ。壮太のこと。
壮太:......俺もだよ。大好きに決まってるだろ。
美玖:......!
壮太:ははっ。頭がいたいな。いや、頭だけじゃない、か......。美玖は? 平気か? ごめんなあ。かわいい顔に擦り傷がついてるじゃないか。
美玖:......こんな、こんなくらい。全然!
壮太:可愛いな。大好きだ。......なあ。
美玖:なに?
壮太:君は、俺の運命の人だと思うよ。
美玖:夢の中の壮太みたい。
壮太:現実だよ。それとも、言われるのは、もういい大人だから恥ずかしいか?
美玖:ううん、ぜーんぜん。私も好き。
壮太:よかった......。よかったよ。
美玖:うん。
壮太:で、どんなゆめみたの?
美玖:えとね。事故にあったときのこと。
壮太:最悪じゃん。
美玖:うん。最悪な夢だった。
壮太:なんでそんな嬉しそうなんだよ。
美玖:んー? なんでも。あ。
壮太:なに?
美玖:あとね、壮太がお見舞いに来てくれる夢も見たよ。
壮太:えっ。
美玖:どうしたの?
壮太:ううん。なんでもないよ。
美玖:あーあ、夢の中の壮太は思ってることなんでも言うって感じだったのになあー!
壮太:ははっ。たぶん......一緒の夢。
美玖:そんなまさか......ね
壮太:おはよ。美玖。
美玖:おはよう。壮太。