台本概要

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タイトル とある甘味処シリーズ
作者名 Alice  (@Alice15827178)
ジャンル コメディ
演者人数 5人用台本(男2、女3)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 とある城下町を舞台にした和風コメディです
甘味処をメインに、温泉やお祭りに行きます

『とある甘味処の賑やかな1日』
『とある国のお姫様は温泉に行きたい!』
『とある星降る夜の恋物語』

の3話構成
1話完結なので、通しでやっても構いませんし、どれか1話だけでも構いません
全ての話数に5人全員出てきます

※和風のお話ですが、時代背景などそこまでこだわっているわけではありません
そのためカタカナ用語が度々出てきますが、ご容赦ください

(M)はモノローグ
演者様の性別不問
物語の内容が変わらない範囲のアドリブ可
基本、自由に遊んでください

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ダンナ 99 城下町の甘味屋の主人。 気さくな性格。 懐が大きい
千代 126 ちよ。 甘味屋の看板娘。 明るく天真爛漫。 しっかり者
夕霧 131 ゆうぎり。 遊郭の花魁。 スタイル抜群。 姐さん(ねえさん)や姉御と呼ばれている
輝夜 116 かぐや。 この国のお姫様。 凛としているが、お転婆で無邪気な一面も。 お忍びでよく城下町へ来ている
椿 118 つばき。 輝夜の護衛。 真面目で心配性、ちょっと天然。 輝夜に振り回されっぱなしだが、大切に思っている
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
甘味処シリーズ 千代:第一話 千代:『とある甘味処の賑やかな1日』 0:  0:  ダンナ:おーい店開けるぞ〜 千代:はーい! 0:  0:  千代:(M)ここは城下町にある甘味処 千代:切盛りしているのは、この甘味処の主人のダンナと、看板娘の私 千代:毎日たくさんのお客さんが来る 千代:私はそんなお客さんに甘味を振る舞いながら、色んなお話を聞かせてもらうの 千代:それが毎日とても楽しみ 千代:今日はどんなお客さんがくるかな…? 0:  0:  夕霧:邪魔するよ 千代:あっ、夕霧姐さん!いらっしゃいませ! 夕霧:相変わらず元気だねぇ 千代:えへへ、それだけが取り柄ですから! 夕霧:ここにくると元気が出るよ 夕霧:団子ひとつ貰おうかねぇ 千代:毎度! 千代:ダンナ〜、夕霧姐さんが来てくれましたよ〜 ダンナ:おや姐御、ご無沙汰してます!相変わらずお綺麗で! 夕霧:あぁ、ダンナ久しぶりだねぇ 夕霧:最近、とんと顔見せないじゃないか 夕霧:また遊郭にも遊びに気とくれよ?待ってるからさ ダンナ:ここんとこ店が忙しくって、なかなか顔出しにいけなくて、すいやせん 夕霧:商売繁盛してんなら何よりさね ダンナ:いや、おかげさまで! 千代:夕霧姐さん、お待たせしました! 夕霧:ありがとう、いただくよ 夕霧:ここの団子は絶品だからねぇ 夕霧:ん?こっちのはなんだい? 千代:それ、ダンナの新作なんです 千代:夕霧姐さんに食べてもらいたくって! 夕霧:おや、いいのかい? ダンナ:千代のアイディアから作ってみたやつでして、姐御に食べてもらいたいって毎日うるさいんで、食べてやってくだせぇ 千代:ダンナ!うるさいってなんですか! 千代:ダンナが遊郭の姐さま方に差し入れしたいから、って私に相談してきたんじゃないですか! ダンナ:あっおい!それ内緒って言っただろ…! 千代:知りませーん 夕霧:ふふふ、相変わらず仲良いねぇ 夕霧:そういうことなら遠慮なくいただくよ 夕霧:はむ…うまいじゃないかこれ 夕霧:見た目も透明でキラキラしてるし、なんて甘味だい? 千代:わらび餅って言うんです 千代:今のはきな粉を軽く振ってたんですが、他にも黒蜜、抹茶でも風味が変わって美味しいんですよ 夕霧:へぇ…面白いねぇ、万人受けしそうな甘味じゃないか 夕霧:これを千代が考えたのかい? 千代:はい! 千代:好みの味を選んでもらえる甘味があったら楽しいなって思って! 夕霧:千代らしいアイディアだねぇ 夕霧:ダンナ、これみんなへの土産用にいくつか包んでもらえるかい? 夕霧:遊女のみんなで食べ比べしてみるとするよ ダンナ:ありがとうごぜぇやす!感想お待ちしてます! 0:  0:  0:傘を目深に被った少女が、甘味処の店先に来る 0:  0:  輝夜:こんにちは 千代:あっ…いらっしゃいませ! 千代:夕霧姐さんゆっくりして行ってくださいね 千代:お待たせしました! 千代:ご注文は… 輝夜:お団子ちょうだい 千代:かしこまりまし… 千代:ん?…姫…さま…? 輝夜:…バレちゃった(傘をとる) 千代:姫さま!またきたんですか? 輝夜:姫呼びはやめてよ、お忍びなんだから 輝夜:それに、今月はまだ2回しか来てないわ 千代:充分多いですよ 輝夜:目標は週一よ 千代:もう…また椿さまを振り切ってきたんですか? 輝夜:そっ!椿の目を盗むのなんて朝飯前よ 千代:まったくもう… 千代:椿さまが心配しますよ? 千代:相変わらずお転婆なんですから 輝夜:ここの団子が美味しいのがいけないのよ 千代:ご一報いただければ、城までお届けに行くのに 輝夜:ここで食べたいんだもの ダンナ:おっ、そいつは嬉しいですね〜 ダンナ:姫さまのこと、あっしはいつでもお待ちしてますよ! 千代:もう…!ダンナがいつもそうやって甘やかすから… 千代:今度、椿さまに言いつけますよ? 千代:ダンナが姫さま唆して(そそのかして)ます〜って ダンナ:唆してるはひどくねぇか!? 夕霧:いいねぇ、ひとつ加勢しようか 夕霧:色男の椿が怒るところ、見てみたいねぇ ダンナ:姐御まで!? 夕霧:あぁ…でもそうすると、姫さんがここに来づらくなっちまうかな? 輝夜:平気よ、椿なんていつでも出し抜けるもの 夕霧:おやおや、そいつぁ頼もしいね 0:  0:  0:椿が輝夜を探しながらやってくる 0:  0:  椿:姫さま!やっと見つけました 椿:やはりここでしたか 輝夜:げっ、椿 輝夜:来るの早すぎよ 椿:げっ椿、じゃないですよ 椿:まったく、いつもいつも城を抜け出してはここへ来てるんですから 輝夜:だって、ここの甘味が食べたいんだもの 輝夜:しょうがないじゃない 椿:言っていただければ、使いの者を出して、城までお持ちしますよ 輝夜:椿、その会話はもうさっき千代としたわ 椿:は? 輝夜:とにかく、嫌よ、城で一人で食べるなんて 輝夜:つまらないわ 椿:一人ではありません。椿がおります 輝夜:椿の仏頂面見ながらお団子食べるなんて余計嫌よ 椿:ひ…姫さま… 輝夜:何よ、文句があるならその仏頂面、なんとかしなさいよ ダンナ:まぁまぁお二方!その辺で! ダンナ:姫さま、道中お疲れでしょう? ダンナ:千代がお席ご用意してますので、そちらへ ダンナ:椿さまも、どうぞお掛けになってください 夕霧:椿、久しぶりじゃないか 夕霧:こっち来て座りんさい 椿:夕霧!こんな時間にお前を見かけるのは珍しいな 夕霧:今日は非番さね 夕霧:そんなピリピリしとったら、いい男が台無しじゃないか 夕霧:私の団子ひとつあげるから少し落ち着きんさいな 0:  0:  0:椿、夕霧の隣に座る 0:  0:  椿:そうは言ってもだな、こう頻繁に姫さまが城を抜け出されては… 夕霧:一国の姫にだって息抜きは必要だろう? 夕霧:それに気丈に振る舞っていても姫さんはまだ幼い 夕霧:同じ年の子と遊びたい頃さね 夕霧:その中で学ぶこともある 椿:遊ぶなとは言っていない 椿:ただ、黙って抜け出されると、万一何かあったときに… 夕霧:お前さんに声をかけたらついて来るだろう? 椿:当然だ、姫さまをお守りするのが私の役目だ 夕霧:はぁ…常に眉間に皺を寄せた男が一緒に歩いていたら、息が詰まるってもんさ 椿:う… 夕霧:ほら、姫さんと千代を見てみな 夕霧:  千代:姫さま、お団子お待たせしました! 輝夜:わぁ…相変わらず美味しそう… 輝夜:いただきます!(口いっぱいに団子を頬張る) 千代:姫さま! 千代:そんな急いで食べなくてもお団子は逃げたりしないですよ? 輝夜:むぐむぐ…んっ!? 輝夜:けほっけほっ(お団子を喉に詰まらせる) 千代:あぁもう…だから言ったのに 千代:はい、お茶ですよ、ゆっくり飲んでください 輝夜:んぐんぐんぐっ… 輝夜:はぁ〜苦しかった… 千代:大丈夫ですか?姫さま? 輝夜:うん平気 輝夜:それより、千代!また姫呼び!いつも輝夜って呼んでって言ってるのに… 千代:あぁ〜、そうですね〜 千代:喉にお団子詰まらせてた姿は、姫っぽくないですものね? 輝夜:ぐぬぬぬ… 千代:口いっぱいにお団子頬張ってるお姿は、リスのようでしたよ? 輝夜:もうっ…、千代!? 千代:あははっ、ごめんなさい、からかいすぎました 千代:輝夜さまが可愛くて、つい 輝夜:む〜…千代って時々意地悪ね 0:  0:  0:甘味処のダンナが、夕霧と椿のところにお茶と団子を持ってくる 0:  0:  0:  ダンナ:いやぁ〜、ああいう和気藹々(わきあいあい)とした光景は和みますね ダンナ:花があるってんですかね 夕霧:ダンナが言うとロリコンっぽく聞こえるねぇ ダンナ:姐御…!?そりゃねぇですよ 夕霧:ふふっ、まぁそれは冗談としても、 夕霧:難しい顔の男と一緒じゃあ、あの空気は出せないだろう? 椿:… ダンナ:椿さまは真面目で、剣の腕もたしかで、お強い ダンナ:ただ、オンとオフのスイッチの切り替えが不器用な方だとあっしは思ってます ダンナ:常に気ぃ張ってたら、疲れちまいますよ 椿:オンとオフ… ダンナ:失礼を承知で言わせてもらえば、そう言うお方に限って、いざという時に本領が発揮できない、なんてのはよく聞く話です 椿:そうだろうか…? ダンナ:というわけで、椿さまもウチの甘味食べてってください 椿:は? ダンナ:ウチの甘味にはスイッチをオフにする力があるんでさぁ ダンナ:ささっ!騙されたと思って 椿:いや、私は…まだ職務中で… 夕霧:堅物すぎるのが椿の悪いとこさね 夕霧:つべこべ言わず一口食べてみんしゃい 0:  0:  0:椿、団子を食べる 0:  0:  椿:うまい…! ダンナ:でしょう? ダンナ:身体の内側から緊張が解ける(ほどける)ような絶妙な甘さってやつでさぁ ダンナ:(椿に耳打ちするように)甘味の話で盛り上がれば、 ダンナ:姫さまもここに来る時、 ダンナ:椿さまに声かけてくるようになるかもしれやせんね 椿:本当か!? ダンナ:共通の話題ってのは大事ですぜ! 夕霧:さすがダンナ、商売上手だねぇ 夕霧:  千代:あ〜!ダンナが姫さまに続いて椿さままで唆してる!天然たらし〜 ダンナ:天然たらし!?お前に言われたくねぇな ダンナ:男性客の8割が、お前目当てでここにくるじゃねぇか ダンナ:あざといやり口で男どもたらし込みやがって 千代:あ…あざとい!?天真爛漫って言ってください! ダンナ:そういうのは自分では言わねぇもんなんだよ! 千代:いいじゃないですか!そのおかげで商売繁盛してるんだから! 千代:看板娘の名は伊達じゃないですよ?感謝してください! 夕霧:そうだねぇ 夕霧:それに、千代目当てでくるのは男だけじゃないからね 千代:へ? 輝夜:そうよ、私はここの団子も好きだけど、千代のことも好き 輝夜:千代に会いにきてるわ 夕霧:もちろん私もね 千代:ちょっ…輝夜さま、夕霧姐さん、急にどうしたんですか!? 千代:そんなこと言われたら照れるじゃないですか… ダンナ:くくく…百銭錬磨の看板娘が、お姫さまと遊女に言い寄られて、動揺してんじゃねぇか 千代:ダンナ…!うるさいですよ…! 椿:千代殿、どうしたら姫さまに嫌がられずにお供できるようになるだろうか? 椿:その百戦錬磨の手腕、伝授願いたい…! 千代:えぇ…!?椿さままで… 夕霧:椿の場合、まずは笑顔の練習からかねぇ 輝夜:椿には無理よ!そもそも纏ってる空気が千代とは違うもの 椿:その空気というのはどうすれば手に入るのだろうか? 椿:千代殿、よければ稽古を… 千代:そ…そう言われましても… 千代:  ダンナ:(M)皆の笑い声が響く ダンナ:身分も歳も、就いてる職も違うあっしらですが、 ダンナ:この甘味処はそんなの関係なく、 ダンナ:甘い菓子食って、みんなが素の自分に戻れる、そんな場所だ ダンナ:これからも、そんな居心地良い場所であり続けねぇとな 0:  0:  0:  0:  輝夜:第二話 輝夜:『とある国のお姫様は温泉に行きたい!』 0:  0:  0:ー輝夜の住む城ー 0:  輝夜:ねぇ椿 椿:なんでしょう?姫さま 輝夜:温泉って行ったことある? 椿:…ないですね 輝夜:私、温泉に行きたいわ 椿:は? 輝夜:だから、温泉に行きたいわ 椿:…また、なぜ唐突に…? 輝夜:行ったことないし 椿:そうですね 輝夜:最近寒いんだもの 椿:寒いですね 輝夜:寒い冬はやっぱり温泉!って、この前、千代が言っていたの 椿:…言っていましたね 輝夜:だから温泉に行きたいわ 椿:ダメです 輝夜:なんで!? 椿:危険だからです 輝夜:椿もついて来ていいわよ 椿:それでもダメです 輝夜:…なんでよ? 椿:はぁ…、いいですか? 椿:温泉と言ったら、当然男女別 椿:姫さまがお一人の時にお守りできません 輝夜:うぅ〜…、過保護! 椿:仕事です 輝夜:(ボソッと)また城抜け出して、城下町に遊びに行ってやる 椿:う… 輝夜:椿の目を盗むのなんて簡単なんだから…! 0:  0:  0:ー城下町の甘味処ー 0:  0:  椿:…というわけなんだが、どうしたらいいだろうか? 夕霧:あははっ、 夕霧:姫さん、以前にも増して椿の扱いがうまくなってきたじゃないか 椿:夕霧!笑い事じゃない! ダンナ:いや〜、椿さまも苦労が絶えませんねぇ… ダンナ:最近、姫さまがお忍びで来ること少なくなってたんで、 ダンナ:『共通の話題で仲良くなろう作戦』上手くいってるかと思ってたんですが… 千代:ダンナ…なんですかそのセンスの無い作戦名は… ダンナ:なかなか辛辣だな…おい… 夕霧:千代のツッコミのキレも増してきてるねぇ ダンナ:姐御…あっしのフォローは無しですかい… 夕霧:私は基本的にかわいい子の味方だからねぇ 千代:夕霧姐さん…!大好き! ダンナ:はぁ… 0:  0:-間- 0:  千代:それで、椿さまは温泉の件、本当はどう思ってるんですか? 椿:え? 千代:相談に来られたってことは、本当は姫さまの願い聞いてあげたいのかなって 椿:…千代殿は本当に鋭い 椿:姫という肩書きゆえ、輝夜さまには普段窮屈な思いをさせていることは承知している 椿:私に出来ることなら可能な限り叶えて差し上げたいが 椿:こればかりは… 夕霧:だったら話は簡単さね 椿:何がだ、夕霧? 夕霧:私達が一緒に行けばいい 椿:は? 夕霧:結局のところ、椿の悩みは女湯で姫さんが一人になることだろう? 椿:そうだが… 千代:私と夕霧姐さんが一緒なら、少しは安心できません? 夕霧:万一何かあっても、すぐに椿を呼べる 椿:だが… ダンナ:椿さま、あっし良い場所知ってますぜ ダンナ:天然温泉で、男湯、女湯を仕切るような仕切りはありますが、 ダンナ:何かあればすぐに駆けつけられるようなところでさぁ ダンナ:しかも秘湯中の秘湯ですから、知ってる者もほとんどいない 千代:ダンナってそう言う「知る人ぞ知る」って場所に詳しいですよね 夕霧:なんだい?好みの女子(おなご)とでも一緒に行くのかい? ダンナ:じょ…冗談は止してくだせぇ姐御… 千代:ダンナ〜、声うわずってますよ〜 ダンナ:千代! 夕霧:私は誘われたことないねぇ… 夕霧:はぁ…、範疇外だったかい… ダンナ:姐御…!あんまりからかわねぇでくだせぇ… 夕霧:あははっ 千代:ふふふっ 千代:それで、どうですか?椿さま 千代:なかなかな優良案件だと思いますよ? 椿:…世話になっていいのだろうか? 千代:もちろんです! 千代:あっ、その代わり、今後ともこの甘味処をご贔屓に! ダンナ:ちゃっかりしてやがる 千代:そりゃあ、商売上手な看板娘ですから 0:  0:  0:後日 0:  0:ー山中の天然温泉にてー 0:  0:  ダンナ:さっ、着きやしたぜ 千代:わぁ〜!ここですか!湯気で真っ白…! 輝夜:これが温泉…? 輝夜:うっ…なんだかすごい匂い…! 輝夜:ゆで卵が腐ったみたいな…? 夕霧:これは温泉に含まれてる硫黄って成分からの匂いだよ 夕霧:有害なものじゃないから、心配しなくていい 夕霧:温泉独特のものさね 輝夜:へぇ〜… 千代:さすが夕霧姐さん、物知りですね! 輝夜:(温泉に手を入れて)わっ…あったかい…! 輝夜:千代!夕霧!早く入りましょう! 千代:そんなにはしゃぐと滑って転びますよ、姫さま? 輝夜:だって!千代たちと温泉に来れるなんて、本当に嬉しいんだもの! ダンナ:(コソッと)椿さま、よかったですね 椿:あぁ、あんなにはしゃいでいる姫さまを見るのは久しぶりだ 輝夜:あっそれから、千代!夕霧! 輝夜:今日は絶対に姫って呼ばないで! 輝夜:今日の私はお忍び中のお忍びなんだから 千代:はいはい、わかりました、輝夜さま 夕霧:私はなんて呼ぼうかねぇ 夕霧:うーん…、じゃあ輝夜嬢にでもしようか ダンナ:おっ、姫さまの呼び名ですかい ダンナ:なら、あっしはお嬢って呼びましょうかね 輝夜:うふふ、みんな姫呼び以外で呼んでくれて嬉しいわ 輝夜:椿も、今日はお嬢さまって呼んでちょうだい! 椿:わかりました、か…輝夜…お嬢…さま 輝夜:はぁ…、椿が一番ぎこちないわ 0:  0:  0:ー着物を脱ぎ、一同温泉に浸かっているー 0:  0:  椿:(仕切り越しに声をかける)輝夜お嬢さま!何もお変わりないですか? 椿:ご気分が優れなくなったら、すぐに夕霧か千夜殿に言ってくださいね!? 輝夜:…椿!今入ったばかりなんだから何もあるわけないでしょう! 輝夜:心配性にも程があるわよ!? 椿:そう言われましても… 夕霧:椿、あんたは相変わらず気ぃ張りすぎさね 夕霧:輝夜嬢のことは私と千代に任せて、ダンナに肩の力の抜き方でも教えてもらいんさい 千代:あははっ、ダンナは手を抜くこと関しては一流ですからね〜 ダンナ:おい千代!それ語弊があるだろ! ダンナ:息抜きがうまいって言え! 千代:あ〜すみませんダンナ、声が遠くてよく聞こえませーん ダンナ:ったく… 椿:ダンナ殿は千代殿と本当に仲が良いですね 椿:お二人はいつも楽しそうだ ダンナ:まぁ、千代とはなんだかんだ長い付き合いですからね 椿:私も輝夜お嬢様を笑顔にして差し上げたいのだが… 椿:いつも怒らせてばかりでして… 椿:どうしたらいいだろうか… 0:  0:-間- 0:  夕霧:ちーよ 夕霧:あんた、意外とあるんだねぇ 千代:ん?何がですか…? 夕霧:何って‥、胸に決まってるじゃないか 千代:ちょっ夕霧姐さん!?どこ見てるんですか! 夕霧:女同士なんだから照れることないだろう? 千代:そんなにマジマジと見られたら照れますよ…! 夕霧:そんな初々しいところも可愛いねぇ 夕霧:ダンナに愛想尽かしたら私のところにおいで? 夕霧:千代ならいつでも大歓迎だよ 千代:…っ!私に夕霧姐さんみたいな色気は出せませんってば…! 夕霧:あはははっ!冗談だよ 千代:もうっ…、からかわないでください…! 輝夜:ねぇ夕霧? 夕霧:なんだい?輝夜嬢? 輝夜:夕霧は千代よりもっと大きいのね 夕霧:そりゃあ、ねぇ…? 輝夜:私も千代や夕霧みたいに大きくなるかしら? 千代:か…輝夜さま…⁉︎ 夕霧:おや、輝夜嬢も大きくしたいのかい? 輝夜:うん、どうしたら大きくなるの? 夕霧:大人になったら大きくなるもんさ 輝夜:本当に?何か特別な訓練とかしなくていいの? 夕霧:訓練ねぇ… 千代:ス…ストップ!ストップ! 千代:輝夜さま?今日はこの辺にしておきましょう? 輝夜:どうして?もっと聞きたいわ 千代:こ…このお話はまだ輝夜さまには早いです! 千代:ね!?夕霧姐さん! 夕霧:そうさねぇ、この続きは輝夜嬢がもう少し大きくなってからだね 輝夜:むぅ…、なんだかずるいわ 千代:輝夜さまは、今のままで十分可愛いからいいんですよ 輝夜:えー… 千代:ほらっ…!せっかく温泉にきたんですから、 千代:あっちの景色が綺麗に見える方、一緒にいきましょう! 夕霧:二人とも、湯に足を取られて転ぶんじゃないよ? 0:  0:  椿:… ダンナ:… 椿:な…なんというか聞いてはいけない会話を聞いてしまった気が… ダンナ:ほう…あのちんちくりんだった千代が… ダンナ:いつのまに成長してたんだ… 椿:ダ…ダンナ殿!?な…何を言って…!? ダンナ:クックックッ、女子(おなご)同士の会話ってのはやっぱりいいもんですね 椿:いや…しかし… ダンナ:椿さま、あっしは焦らなくていいと思います 椿:え? ダンナ:お嬢はまだまだ幼い ダンナ:これから色んな人と出会って色んな経験をする ダンナ:その中で、辛いことに出くわすこともあるでしょう ダンナ:そんな時、お嬢の一番近くで、支えてあげられるのは、椿さまだけでさぁ ダンナ:そういう積み重ねで、信頼ってのは生まれて、 ダンナ:より強くなっていくもんだと思ってます ダンナ:そうすりゃあ、お嬢が椿さまに笑顔を向けてくれる回数も、自然と増えてくるんじゃねぇですかい? 椿:…そうですね 椿:ダンナ殿は相変わらず良い事を言う ダンナ:いやいや、甘味処には色んな人が来ますからねぇ ダンナ:そん中で、小耳に挟んだ受け売りですよ 椿:いや、その姿勢見習わせてもらいたい 0:  千代:ダンナー!そろそろ上がりますよー! ダンナ:おー! ダンナ:さて、あっし達も行きますか 椿:えぇ、そうですね 0:  0:ー温泉から上がり、帰り支度をする一同ー 0:  輝夜:はぁ〜、気持ちよかったぁ 輝夜:身体がぽかぽかするわ ダンナ:お嬢に喜んでもらえたなら何よりです 千代:景色もすごく綺麗でしたし、ダンナさまさまですね! 夕霧:肌もすべすべだねぇ 夕霧:これは、明日からの仕事にも精が出るね 夕霧:ダンナ、今日のお礼に今度遊廓に来た時はサービスするよ ダンナ:ありがとうごぜぇやす! ダンナ:自慢の甘味を手土産に、遊びに行かせていただきやす 輝夜:… 千代:…?輝夜さま?どうされたんですか? 輝夜:椿…! 椿:なんでしょう、輝夜お嬢さま 輝夜:えっと… 輝夜:(満面の笑みで)今日は温泉に連れて来てくれてありがとう! 輝夜:とても楽しかったわ! 椿:…っ! 0:  0:  椿:(M)姫さまの満面の笑顔をみて、心が温かくなるのを感じた 椿:たくさんの出会いと経験が姫さまを成長させてくれる…か 椿:(M)姫さまのために、私がすべきことが少しわかった気がした 0:  0:  0:  0:  夕霧:第三話 夕霧:『とある星降る夜の恋物語』 0:  0:  輝夜:千代…!千代…! 千代:ん? 輝夜:こっちよ千代! 千代:!?姫さま!? 千代:どうしたんですか?こんな裏口から 千代:いつもはお忍びでも店先からいらっしゃるのに… 輝夜:千代、しーっ 輝夜:今日はダンナにも会いたくなかったのよ… 千代:えっ…、姫さまついにダンナの顔見たくないほど嫌いに…? 輝夜:違うわよ…! 千代:あはは、冗談ですよ 輝夜:もう…! 輝夜:今日は、女同士でしかできない話をしにきたのよ…! 千代:どうしたんです?そんな改まって… 輝夜:千代…、私気づいたの…! 千代:何にですか? 輝夜:夕霧は恋をしているわ! 千代:… 千代:はぁ…? ダンナ:なんだ面白そうな話してるじゃねぇか 輝夜:わゎっ…ダンナ! 千代:もう、どこから聞いてたんですか? 千代:ほんと、地獄耳なんですから… ダンナ:なんだって?千代 千代:なんでもありませーん ダンナ:ったく… ダンナ:姫さま、水臭いじゃないですか ダンナ:大人の恋愛には、大人の意見が一番なんですぜ? 輝夜:そ…そうなの? 輝夜:こう言う話は殿方とはしないって聞いてたから… ダンナ:安心してくだせぇ ダンナ:あっし、心は乙女なんで ダンナ:(咳払いをして、オネェ口調で)んん…!恋愛相談なら百戦錬磨よん♡ 輝夜:へ?ダンナ女の人だったの? 千代:違います、違います…!たとえ話ですよ 千代:ダンナ…! 千代:姫さまは純粋無垢なんですからそういうのやめてください! ダンナ:はいはい 千代:もうっ… 千代:それにしても、夕霧姐さんが恋… 千代:誰にですか? 輝夜:椿 千代:椿さまぁ!? ダンナ:あの二人は幼馴染なんで、ガキの頃からの付き合いみたいですが… ダンナ:何かあったんですかい? 輝夜:この前この甘味処で、みんなでお団子食べてる時にね… 0:  0:輝夜の回想 0:  椿:夕霧、最近仕事はどうだ? 夕霧:星海の宴(ほしみのうたげ)が近いからね 夕霧:その準備も兼ねてそれなりに忙しいねぇ 椿:あぁ、遊女全員で上客をもてなす宴だったか 椿:…無理、しすぎるなよ 夕霧:ん? 椿:目の下、白粉(おしろい)で隠してるようだが、クマができているだろう 夕霧:…!よく見てるね… 椿:何年の付き合いだと思ってるんだ 夕霧:大丈夫さ、これくらい 夕霧:毎年のことだし、星海の宴が終われば一息つけるからね 夕霧:宴の後の、星祭り(ほしまつり)が楽しみだよ 夕霧:今年も姫さんと一緒にくるんだろう? 椿:あぁ、毎日はしゃいでらっしゃる 夕霧:夜に出歩けることも少ないから、嬉しんだろうさ 椿:そのお陰で、今は城をお忍びで抜け出されることが少なくて助かっている 夕霧:それは何よりだ 夕霧:星祭りは私と千代が姫さんと周るから、椿はダンナとゆっくり見て周りんさい 椿:そういうところだ 夕霧:え? 椿:お前は世話焼きな上にすぐ無理する 椿:ちゃんと休め 椿:身体が資本だろう、お前の仕事は 夕霧:(小声で)ふふっ…、椿の方がよほど世話焼きじゃないか 椿:ん?何か言ったか? 夕霧:いいや、なんでもないよ 夕霧:椿、ありがとね 0:  0:回想終了 0:  輝夜:ってことがあったの 輝夜:あの時の、夕霧の椿を見る目は恋していたわ! 千代:はぁ… 輝夜:それに、きっと椿も夕霧を好きなのよ! 輝夜:あの時の椿の声、気持ち悪いくらい優しかった! 千代:気持ち悪いって…なかなか辛辣ですね… ダンナ:ほう… ダンナ:それは…恋で間違いないですね! 輝夜:でしょう! ダンナ:えぇ! ダンナ:幼い頃から近くにいすぎて、お互い言い出せずにいるという、もどかしくも甘酸っぱい展開です! 千代:ちょ…ちょっと… 輝夜:夕霧と椿をくっつけたいの 輝夜:どうしたらいいかしら? ダンナ:姫さま、そういうことならあっしも千代も一肌脱ぎますぜ 千代:え!?私も!? 輝夜:千代は手伝ってくれないの…? 千代:あ…いや…そういうわけじゃ… ダンナ:千代、他ならぬこの国の姫さまの頼みだぞ 千代:ダンナは面白がってるだけでしょうが…! 輝夜:千代、ダメ? 千代:う…、はぁ… 千代:わかりました、お手伝いします 輝夜:やった! ダンナ:そうこなくっちゃな! 千代:なんでダンナまでノリノリなんですか…全く… 千代:まぁでも、やるからには本気出しちゃいますよ ダンナ:奥手で堅物な椿さまと、遊女の姐御 ダンナ:正反対の二人をどうくっつけるか… 千代:一番の問題は、お互い好きって言い出しづらい関係になっちゃってる、ってとこですよね 輝夜:暗くて人気(ひとけ)のないとこに、2人っきりにするのはダメ? 千代:姫さま…?そんなのどこで聞いたんですか…? 輝夜:城の女中(じょちゅう)が言ってたの 輝夜:男と女が親密になるには「暗い」「二人っきり」が大事だって 千代:(咳払い)ま…まぁ…、普通の男女ならそう言う雰囲気になるかもしれませんが、 千代:あのお二人は何かきっかけがないと難しいかもしれませんね… 輝夜:きっかけ… ダンナ:お!なら、あっしにいい考えが! 0:  0:  0:数日後 0:城下町にて 0:  ダンナ:椿さま 椿:ダンナ殿、こんな所で会うのは珍しいですね ダンナ:買い出しからの帰りでして 椿:それでその大荷物ですか ダンナ:えぇ ダンナ:椿さまは城下の見回りですか? 椿:はい 椿:星祭りが近いので、いつもより念入りにと思いまして ダンナ:相変わらず仕事熱心ですね 椿:星祭りは姫さまも楽しみにしていますから 椿:万が一があってはならないので 椿:それに… ダンナ:それに? 椿:あぁいえ、 椿:夕霧も星海の宴の支度を頑張っているようなので… ダンナ:そういえば、最近姉御に会いましたか? 椿:いえ… 椿:夕霧が何か? ダンナ:先日店にいらっしゃった時に、何か悩んでるようでしたので… 椿:悩み? ダンナ:言葉を濁されてましたが、なかなか椿さまに伝えられないことがあるとか、なんとか… 椿:夕霧とは今更そんな遠慮し合うような間柄でもないですが… ダンナ:(咳払い)椿さま? ダンナ:親しい女子(おなご)が言い出しづらいことなんて言ったら、一つしかありません 椿:は? ダンナ:そう言う時は黙って空気を読んで殿方から言ってあげるもんです 椿:ダンナ殿? ダンナ:ちょうどいい具合にもうじき星祭りがありやす ダンナ:椿さまもご存知でしょう? 椿:いや、だからこうして城下の見回りを、とさっき話をしたかと… ダンナ:(とぼけたように)あぁ、そうでしたそうでした ダンナ:まぁそんな細かいこと気になさらず 椿:細かい…のか? ダンナ:星祭り当日は、姫さまはあっしと千代に任せて、姐御の悩み、解消してやってくだせぇ 椿:え?いや…え?(困惑) ダンナ:『男』の見せ所ですぜ(ドヤ顔) 0:  0:  0:同日 0:千代と輝夜が、夕霧に会いに城下を歩いている 0:  千代:本当にお任せしていいんですか?姫さま 輝夜:もちろんよ! 輝夜:椿が夕霧に言いたいことがあるみたい、ってそれとなく伝えて、 輝夜:星祭りで二人っきりになれるようにすればいいのよね 千代:まぁ、そうなんですが… 輝夜:まかせて! 千代:ダンナが考えたこの作戦、本当にうまくいくのかな… 輝夜:ふふっ 千代:どうしたんですか? 輝夜:ううん、なんでもないわ 0:  0:夕霧が他の遊女と一緒に歩いてくる 0:  夕霧:(他の遊女に向かって)あぁ、お疲れだったね 夕霧:宴までもう一踏ん張りだ 夕霧:気ぃつけて帰りんさい 0:  0:遊女と別れる 0:  夕霧:ふぅ…、ん? 夕霧:千代、それに姫さんも 千代:あっ、夕霧姐さーん 夕霧:どうしたんだい、こんな所に2人で 夕霧:姫さんはまた城抜け出してきたのかい? 輝夜:むぅ…、今日は違うわ! 輝夜:千代と遊んでくるってちゃんと書き置きしてきたもの! 夕霧:書き置き… 千代:姫さま… 輝夜:え?ダメ? 夕霧:ふふふっ、私は姫さんのそういう所好きだよ 輝夜:私も夕霧のこと好きよ 夕霧:ありがとね 輝夜:ねぇ夕霧、今嬉しかった? 夕霧:え? 輝夜:私から「好き」って言われて嬉しかった? 夕霧:もちろんだよ 輝夜:やっぱり親しい人から好きって言われるのは嬉しい? 夕霧:急にどうしたんだい? 夕霧:姫さま、好きな人でもできたのかい? 輝夜:ううん、私じゃなくて…(椿が夕霧を…) 千代:(被せて)わーわーわー! 千代:姫さま…!しーっ 輝夜:あっそっか… 輝夜:えっと…えっと…千代に好きな殿方ができたんだって! 千代:私!? 夕霧:千代が? 千代:(小声で)ちょっ…姫さま!? 輝夜:(小声で)だっ…だってこれしか思いつかなかったんだもん! 夕霧:千代も大人になったんだねぇ 千代:え…!?ぅあえあ…う…うん!(裏返ったような動揺した声) 千代:ちょっ…ちょーっとだけいい…かもなぁって思ってる人がいたり?いなかったり…?(ごにょごにょ…) 夕霧:へぇ、誰だい? 千代:へ!? 夕霧:その男だよ 千代:え…あ…えーっと… 夕霧:もしかしてダンナかい? 千代:はぁ!?な…なんで!? 夕霧:いや、仲良いし長い付き合いだろう? 千代:あれは…!腐れ縁というか! 千代:そ…そもそも!私は甘味処の看板娘なだけで…! 輝夜:千代、顔真っ赤 千代:はぇ…!? 夕霧:ふふっ、ほんの冗談のつもりだったんだが、図星かい? 千代:ちっちっち…違いますぅぅぅぅ! 0:  0:千代、顔を真っ赤にして走っていく 0:  輝夜:あっ、行っちゃった 夕霧:本当からかい甲斐があるねぇ 輝夜:千代可愛かった 夕霧:ねぇ? 0:  0:  0:千代、意図せず甘味処に戻ってくる 0:  千代:はぁはぁはぁ… 千代:な…なんでこんなことに… 千代:やっぱり、姫さまにお任せしたのが間違いだった…かな ダンナ:おっ、千代!どうだった? ダンナ:姐御にはうまく伝えられたか? ダンナ:こっちはバッチ(…リ…) 千代:(被せて)ひゃあっ! ダンナ:うぉっ、なんだ!? 千代:な…なんでこんなとこにダンナがいるんですか! ダンナ:え…いやなんでって、ここ俺の店だし… 千代:え!?あれ!? ダンナ:おい、お前顔なんか赤くないか? 千代:ちょっ…ダンナそんな近寄らないでください…! ダンナ:は?急にどうした?何動揺してんだ? ダンナ:姐御と何かあったのか? 千代:へ!?夕霧姐さん!?何も!ないですよ!? 千代:なんで今、夕霧姐さんの名前を!? ダンナ:さっき姐御に会ってきたんだろ? 千代:あ…会いましたが…!それだけっ…ですよ? 千代:別に、何もなかったですからね!? ダンナ:星祭りの件はどうなったんだ? 千代:星…祭り… 千代:あっ…ぅあ…えっと…(恥ずかしさに耐えられなくなってどもる) 千代:ダ…ダンナのばかー! 千代:こんなとこに店構えないでくださいぃぃぃ! 0:  0:千代、顔を覆って走り出す 0:  ダンナ:はぁぁぁ!?なんだそれ!理不尽すぎるだろうが! ダンナ:っておい!どこ行く!? ダンナ:はぁ…、なんなんだ千代のやつ… ダンナ:姐御にはちゃんと伝えれたのか? 0:  0:夕霧と輝夜が甘味処に入ってくる 0:  夕霧:あははっ 輝夜:千代、面白い ダンナ:おっと…姐御、姫さま ダンナ:千代のやつどうしたんで? 夕霧:いや何、少しからかっただけなんだが 夕霧:千代はウブだな ダンナ:(小声)あぁ…姐御にやり込められて、返り討ちにあったか 夕霧:ん?何か言ったかい? ダンナ:あぁ、いえこっちの話で… 輝夜:…(夕霧をじっと見つめている)ねぇ、夕霧 夕霧:なんだい、姫さん 輝夜:あのね、思っていることがあるなら素直に伝えなくちゃダメよ? 夕霧:え? 輝夜:夕霧は大人で優しいから、 輝夜:いつもみんなに気を遣って、言いたいこと我慢してる気がするの 輝夜:でも、言わなくちゃ伝わらないよ? 夕霧:… 夕霧:ふふ…、姫さんが言うと説得力あるね 夕霧:それじゃあ、一つ姫さんに倣おう(ならおう)か 夕霧:なぁダンナ、千代も言ってたしこれを機に今の甘味処畳んで、遊郭の隣に新しく店出さないかい? 夕霧:遊女みんなで今まで以上に贔屓(ひいき)にするよ ダンナ:いやーそれもありですねぇ ダンナ:遊郭の姐さまがたがお得意様になってくれりゃあ、あっしも鼻が高いですし 夕霧:だろう? 夕霧:そのうち千代が遊廓に来た立派な殿方に見染めれたりしてね? ダンナ:そうそう千代が…ん?千代が…!? 夕霧:あれだけ可愛くて、愛想のいい看板娘、地位のある殿方の目に止まったら、そういう話の一つや二つ上がるだろうさ ダンナ:いや…それは… ダンナ:千代のやつがいないと…こう…店も立ち行かなくなるというか… 夕霧:ぷっ…あははっ、冗談さ 夕霧:ダンナがそんな焦ってるところ初めてみたよ ダンナ:姐御ぉ…大の大人をあんまりからかわねぇでください 夕霧:クスクスっ、悪かったよ 夕霧:つい…ね 0:  0:  0:星祭り当日 0:  千代:あっ、姫さまー!こっちです! 輝夜:ちーよー! 椿:姫さま走ったら危ないですよ…! 千代:わぁっ!浴衣かわいいです! 輝夜:えへへー、女中と一緒に選んだのよ! 輝夜:千代のお花の髪飾りもかわいい! 千代:これ、夕霧姐さんからもらったんです 輝夜:あれ?夕霧は?まだ来てないの? 夕霧:呼んだかい?姫さま 輝夜:夕霧! 椿:宴は無事終わったのか? 夕霧:あぁ、お陰様でね 夕霧:やっと肩の荷が降りたよ ダンナ:姐御お勤めご苦労様でした 夕霧:ありがとね 夕霧:これで心置きなく星祭りを楽しめるってもんさ 椿:…夕霧 夕霧:ん? 椿:星祭り、俺と2人で見てまわらないか? 夕霧:えっ、急にどうしたんだい? 椿:その…大役(たいやく)を無事終えたお前を労おう(ねぎらおう)かとな… 夕霧:いや、その気持ちは嬉しいけど… 夕霧:姫さんはどうする(…んだい) 千代:(遮るように)姫さまなら、私とダンナが一緒にいるんで大丈夫ですよ ダンナ:安心してくだせぇ、姐御 輝夜:そうよ夕霧行ってきて! 夕霧:いやでも… 輝夜:椿、しっかりエスコートするのよ! ダンナ:さっ、千代、姫さま行きましょうか! 輝夜:ダンナ、私りんご飴が食べたいわ 千代:わぁっ、いいですね! 千代:あっ、打ち上げ花火も上がるみたいですよ ダンナ:いやー楽しみですねぇー 0:  0:  0:数刻後 0:夕霧と椿二人きりで星祭りを回っている 0:  夕霧:なぁ椿 椿:(M)どうしたものか… 夕霧:千代達の様子少し変じゃなかったかい? 椿:(M)ダンナ殿に言われたように、夕霧を誘ってはみたが 夕霧:何かあるのかねぇ 椿:(M)宴の労いで、祭りのエスコートもちゃんとしろと姫さまにも言われた 夕霧:まぁ、考えても仕方ないか 椿:(M)夕霧が私のことで悩んでいるなら解決してやりたい…が 夕霧:椿? 椿:(M)そもそもエスコートって何をすればいいんだ…? 夕霧:ちょっと椿!話聞いてるかい? 椿:ん?あぁすまん、少々考え事をしていた 夕霧:まったく、祭りの時くらい気ぃ抜きなんし 夕霧:お前は昔っから真面目すぎるきらいがある 夕霧:早死にするよ 椿:そう言われても、こればかりは性分(しょうぶん)だからな 夕霧:はぁ…仕方ないね、行くよ椿(椿の手を握る) 椿:おい、手… 夕霧:こう人がいちゃ、はぐれちまうだろう? 夕霧:せっかくの祭りなんだ、楽しまないとな? 椿:あ…あぁ 0:  0:物陰から、こっそり夕霧と椿を覗いている3人 0:  千代:ねぇ、なんか立場逆転してないですか? 輝夜:椿のバカ!何をぼーっとしているの! 輝夜:ちゃんと夕霧をエスコートしなくちゃダメじゃない! ダンナ:姐御…男前だな… ダンナ:惚れるぜ… 千代:ダンナが惚れてどうするんですか…! 輝夜:もう…!椿に一言言ってくる! 千代:わゎっ…、姫さま出て行ったらダメですって ダンナ:椿さまは相変わらず堅物ですねぇ 千代:あぁぁぁ…、先が思いやられる… 0:  0:再び、夕霧と椿が回っている星祭り 0:  夕霧:椿、椿 夕霧:見てみんさい 椿:珍しい、金魚売りか 椿:そういえば夕霧は子供の頃から金魚が好きだったな 夕霧:よく覚えてるね 椿:金魚売りが城下に来るたびに、連れて行かれたからな 夕霧:金魚玉(きんぎょだま)に入ってる金魚のヒレがひらひらと揺らめく姿を見るのが好きでねぇ 夕霧:ずっと見ていられたもんさ 椿:ふっ… 椿:ご主人、この金魚玉ひとつもらえるか 夕霧:姫さんにかい?喜びそうだね 椿:お前にだ夕霧、ほら 夕霧:え? 椿:星海の宴、ご苦労だったな 椿:色々考えていたんだが、私にはエスコートとやらは難しいから、 椿:これで勘弁してくれ 夕霧:…ぷっ、あははは…! 椿:なっ…なんだ 夕霧:さっきから眉間に皺寄せて難しい顔してるから、何事かと思ったらそんなことかい 夕霧:くっくっく…あーおっかしい 夕霧:久しぶりにこんなお腹抱えて笑ったよ 椿:そんな笑うことだったか? 夕霧:いや、ごめんごめん 夕霧:ありがとう、嬉しいよ 椿:なら良かった 椿:それでな、夕霧、話したいことがあるんだ 椿:ちょっといいか? 夕霧:ん? 0:  0:間(物陰から覗いている3人) 0:  千代:夕霧姐さんと椿さま、いい感じじゃないですか? 輝夜:なんだか二人とも楽しそう ダンナ:どうみても姐御が引っ張ってるがな 輝夜:椿ってなんであんなにヘタレなのかしら ダンナ:まぁある意味いい相性なのかもしれやせんがね 千代:あっ二人が森に入って行きますよ 輝夜:ついに告白かしら!なんだかドキドキしてきたわ 0:  0:人気(ひとけ)のない祭り会場の外れ 0:  夕霧:話ってなんだい?椿 椿:夕霧、何か私に伝えたいことがあるのか? 夕霧:は? 椿:先日、ダンナ殿から聞いた 夕霧:…?そんなことダンナに言った覚えないが… 椿:そうなのか? 夕霧:うーん… 夕霧:そういえば、この前姫さんも似たようなこと言ってたねぇ 椿:姫さまが? 夕霧:思っていることは言わなくちゃ伝わらない…って 椿:私に対してか?何かあるのか?あるなら言ってくれ 夕霧:うーん…、堅物で真面目すぎる 夕霧:もう少し柔軟になれ…とか? 椿:それは常日頃から言われている気がするな… 夕霧:だねぇ 夕霧:そういう椿は、私に何か言いたいことないのかい? 椿:そうだな… 椿:…少し、言いづらいことなんだが… 夕霧:私と椿の仲だろう?遠慮することないよ 椿:…姫さま、最近太り気味ではないだろうか? 夕霧:は? 椿:よく城を抜け出してダンナどのの所で甘味を食べているせいか、 椿:最近少々ふくよかになられたような… 夕霧:はぁ… 夕霧:椿、女子(おなご)に太ったなんて言ったら、背中から刺されても文句は言えないよ? 椿:そうは言ってもな、最近女中から私に小言が飛んできてな… 0:  0:輝夜が抑えきれず飛び出す 0:  輝夜:椿!さっきから黙って聞いていれば失礼よ! 0:(2人同時に) 椿:姫さま! 夕霧:姫さん! 千代:(輝夜を追って出てきながら)姫さま…!だから出て行ったらダメですって 夕霧:千代まで、どうしてここに? 夕霧:ダンナと3人で、祭り回ってたんじゃなかったのかい? 千代:へ?あっ…えっと…えーっと… 千代:ダ…ダンナがこの辺に花火の穴場があるって言ってて 千代:ね!?ダンナ! ダンナ:「ね!?ダンナ!」じゃねぇよ ダンナ:都合のいい時ばっかり俺の名前使いやがって 千代:いいじゃないですか! 千代:普段、私の看板娘の名前で商売繁盛してるんですから! 輝夜:椿!仕事ばかりしてないで、もっと女心を勉強しなさい! 椿:も…申し訳ありません 夕霧:姫さまが正論だねぇ 椿:夕霧… 0:  0:花火が上がる 0:5人が空を見上げる 0:  千代:わっ!姫さま見てください!花火です! 輝夜:わぁ…すごい…!星が降ってくるみたい… ダンナ:こりゃすげぇ… 夕霧:綺麗だねぇ 夕霧:…そうだ、椿 夕霧:言いたいこと、あったよ 椿:なんだ? 夕霧:私はさ、今この時間が好きだよ 夕霧:千代と姫さんが無邪気に戯れ(じゃれ)あってて、 夕霧:そこにいつも眉間に皺寄せた椿と、あったかく見守ってるダンナがいる今がさ 夕霧:ずっと、続けばいいって思ってる 夕霧:椿、あんたもだろ? 椿:あぁ…そうだな 椿:やっぱりお前はよくわかってるな 夕霧:ふっ…、何年の付き合いだと思ってるんだ? 夕霧:当たり前だろう?

甘味処シリーズ 千代:第一話 千代:『とある甘味処の賑やかな1日』 0:  0:  ダンナ:おーい店開けるぞ〜 千代:はーい! 0:  0:  千代:(M)ここは城下町にある甘味処 千代:切盛りしているのは、この甘味処の主人のダンナと、看板娘の私 千代:毎日たくさんのお客さんが来る 千代:私はそんなお客さんに甘味を振る舞いながら、色んなお話を聞かせてもらうの 千代:それが毎日とても楽しみ 千代:今日はどんなお客さんがくるかな…? 0:  0:  夕霧:邪魔するよ 千代:あっ、夕霧姐さん!いらっしゃいませ! 夕霧:相変わらず元気だねぇ 千代:えへへ、それだけが取り柄ですから! 夕霧:ここにくると元気が出るよ 夕霧:団子ひとつ貰おうかねぇ 千代:毎度! 千代:ダンナ〜、夕霧姐さんが来てくれましたよ〜 ダンナ:おや姐御、ご無沙汰してます!相変わらずお綺麗で! 夕霧:あぁ、ダンナ久しぶりだねぇ 夕霧:最近、とんと顔見せないじゃないか 夕霧:また遊郭にも遊びに気とくれよ?待ってるからさ ダンナ:ここんとこ店が忙しくって、なかなか顔出しにいけなくて、すいやせん 夕霧:商売繁盛してんなら何よりさね ダンナ:いや、おかげさまで! 千代:夕霧姐さん、お待たせしました! 夕霧:ありがとう、いただくよ 夕霧:ここの団子は絶品だからねぇ 夕霧:ん?こっちのはなんだい? 千代:それ、ダンナの新作なんです 千代:夕霧姐さんに食べてもらいたくって! 夕霧:おや、いいのかい? ダンナ:千代のアイディアから作ってみたやつでして、姐御に食べてもらいたいって毎日うるさいんで、食べてやってくだせぇ 千代:ダンナ!うるさいってなんですか! 千代:ダンナが遊郭の姐さま方に差し入れしたいから、って私に相談してきたんじゃないですか! ダンナ:あっおい!それ内緒って言っただろ…! 千代:知りませーん 夕霧:ふふふ、相変わらず仲良いねぇ 夕霧:そういうことなら遠慮なくいただくよ 夕霧:はむ…うまいじゃないかこれ 夕霧:見た目も透明でキラキラしてるし、なんて甘味だい? 千代:わらび餅って言うんです 千代:今のはきな粉を軽く振ってたんですが、他にも黒蜜、抹茶でも風味が変わって美味しいんですよ 夕霧:へぇ…面白いねぇ、万人受けしそうな甘味じゃないか 夕霧:これを千代が考えたのかい? 千代:はい! 千代:好みの味を選んでもらえる甘味があったら楽しいなって思って! 夕霧:千代らしいアイディアだねぇ 夕霧:ダンナ、これみんなへの土産用にいくつか包んでもらえるかい? 夕霧:遊女のみんなで食べ比べしてみるとするよ ダンナ:ありがとうごぜぇやす!感想お待ちしてます! 0:  0:  0:傘を目深に被った少女が、甘味処の店先に来る 0:  0:  輝夜:こんにちは 千代:あっ…いらっしゃいませ! 千代:夕霧姐さんゆっくりして行ってくださいね 千代:お待たせしました! 千代:ご注文は… 輝夜:お団子ちょうだい 千代:かしこまりまし… 千代:ん?…姫…さま…? 輝夜:…バレちゃった(傘をとる) 千代:姫さま!またきたんですか? 輝夜:姫呼びはやめてよ、お忍びなんだから 輝夜:それに、今月はまだ2回しか来てないわ 千代:充分多いですよ 輝夜:目標は週一よ 千代:もう…また椿さまを振り切ってきたんですか? 輝夜:そっ!椿の目を盗むのなんて朝飯前よ 千代:まったくもう… 千代:椿さまが心配しますよ? 千代:相変わらずお転婆なんですから 輝夜:ここの団子が美味しいのがいけないのよ 千代:ご一報いただければ、城までお届けに行くのに 輝夜:ここで食べたいんだもの ダンナ:おっ、そいつは嬉しいですね〜 ダンナ:姫さまのこと、あっしはいつでもお待ちしてますよ! 千代:もう…!ダンナがいつもそうやって甘やかすから… 千代:今度、椿さまに言いつけますよ? 千代:ダンナが姫さま唆して(そそのかして)ます〜って ダンナ:唆してるはひどくねぇか!? 夕霧:いいねぇ、ひとつ加勢しようか 夕霧:色男の椿が怒るところ、見てみたいねぇ ダンナ:姐御まで!? 夕霧:あぁ…でもそうすると、姫さんがここに来づらくなっちまうかな? 輝夜:平気よ、椿なんていつでも出し抜けるもの 夕霧:おやおや、そいつぁ頼もしいね 0:  0:  0:椿が輝夜を探しながらやってくる 0:  0:  椿:姫さま!やっと見つけました 椿:やはりここでしたか 輝夜:げっ、椿 輝夜:来るの早すぎよ 椿:げっ椿、じゃないですよ 椿:まったく、いつもいつも城を抜け出してはここへ来てるんですから 輝夜:だって、ここの甘味が食べたいんだもの 輝夜:しょうがないじゃない 椿:言っていただければ、使いの者を出して、城までお持ちしますよ 輝夜:椿、その会話はもうさっき千代としたわ 椿:は? 輝夜:とにかく、嫌よ、城で一人で食べるなんて 輝夜:つまらないわ 椿:一人ではありません。椿がおります 輝夜:椿の仏頂面見ながらお団子食べるなんて余計嫌よ 椿:ひ…姫さま… 輝夜:何よ、文句があるならその仏頂面、なんとかしなさいよ ダンナ:まぁまぁお二方!その辺で! ダンナ:姫さま、道中お疲れでしょう? ダンナ:千代がお席ご用意してますので、そちらへ ダンナ:椿さまも、どうぞお掛けになってください 夕霧:椿、久しぶりじゃないか 夕霧:こっち来て座りんさい 椿:夕霧!こんな時間にお前を見かけるのは珍しいな 夕霧:今日は非番さね 夕霧:そんなピリピリしとったら、いい男が台無しじゃないか 夕霧:私の団子ひとつあげるから少し落ち着きんさいな 0:  0:  0:椿、夕霧の隣に座る 0:  0:  椿:そうは言ってもだな、こう頻繁に姫さまが城を抜け出されては… 夕霧:一国の姫にだって息抜きは必要だろう? 夕霧:それに気丈に振る舞っていても姫さんはまだ幼い 夕霧:同じ年の子と遊びたい頃さね 夕霧:その中で学ぶこともある 椿:遊ぶなとは言っていない 椿:ただ、黙って抜け出されると、万一何かあったときに… 夕霧:お前さんに声をかけたらついて来るだろう? 椿:当然だ、姫さまをお守りするのが私の役目だ 夕霧:はぁ…常に眉間に皺を寄せた男が一緒に歩いていたら、息が詰まるってもんさ 椿:う… 夕霧:ほら、姫さんと千代を見てみな 夕霧:  千代:姫さま、お団子お待たせしました! 輝夜:わぁ…相変わらず美味しそう… 輝夜:いただきます!(口いっぱいに団子を頬張る) 千代:姫さま! 千代:そんな急いで食べなくてもお団子は逃げたりしないですよ? 輝夜:むぐむぐ…んっ!? 輝夜:けほっけほっ(お団子を喉に詰まらせる) 千代:あぁもう…だから言ったのに 千代:はい、お茶ですよ、ゆっくり飲んでください 輝夜:んぐんぐんぐっ… 輝夜:はぁ〜苦しかった… 千代:大丈夫ですか?姫さま? 輝夜:うん平気 輝夜:それより、千代!また姫呼び!いつも輝夜って呼んでって言ってるのに… 千代:あぁ〜、そうですね〜 千代:喉にお団子詰まらせてた姿は、姫っぽくないですものね? 輝夜:ぐぬぬぬ… 千代:口いっぱいにお団子頬張ってるお姿は、リスのようでしたよ? 輝夜:もうっ…、千代!? 千代:あははっ、ごめんなさい、からかいすぎました 千代:輝夜さまが可愛くて、つい 輝夜:む〜…千代って時々意地悪ね 0:  0:  0:甘味処のダンナが、夕霧と椿のところにお茶と団子を持ってくる 0:  0:  0:  ダンナ:いやぁ〜、ああいう和気藹々(わきあいあい)とした光景は和みますね ダンナ:花があるってんですかね 夕霧:ダンナが言うとロリコンっぽく聞こえるねぇ ダンナ:姐御…!?そりゃねぇですよ 夕霧:ふふっ、まぁそれは冗談としても、 夕霧:難しい顔の男と一緒じゃあ、あの空気は出せないだろう? 椿:… ダンナ:椿さまは真面目で、剣の腕もたしかで、お強い ダンナ:ただ、オンとオフのスイッチの切り替えが不器用な方だとあっしは思ってます ダンナ:常に気ぃ張ってたら、疲れちまいますよ 椿:オンとオフ… ダンナ:失礼を承知で言わせてもらえば、そう言うお方に限って、いざという時に本領が発揮できない、なんてのはよく聞く話です 椿:そうだろうか…? ダンナ:というわけで、椿さまもウチの甘味食べてってください 椿:は? ダンナ:ウチの甘味にはスイッチをオフにする力があるんでさぁ ダンナ:ささっ!騙されたと思って 椿:いや、私は…まだ職務中で… 夕霧:堅物すぎるのが椿の悪いとこさね 夕霧:つべこべ言わず一口食べてみんしゃい 0:  0:  0:椿、団子を食べる 0:  0:  椿:うまい…! ダンナ:でしょう? ダンナ:身体の内側から緊張が解ける(ほどける)ような絶妙な甘さってやつでさぁ ダンナ:(椿に耳打ちするように)甘味の話で盛り上がれば、 ダンナ:姫さまもここに来る時、 ダンナ:椿さまに声かけてくるようになるかもしれやせんね 椿:本当か!? ダンナ:共通の話題ってのは大事ですぜ! 夕霧:さすがダンナ、商売上手だねぇ 夕霧:  千代:あ〜!ダンナが姫さまに続いて椿さままで唆してる!天然たらし〜 ダンナ:天然たらし!?お前に言われたくねぇな ダンナ:男性客の8割が、お前目当てでここにくるじゃねぇか ダンナ:あざといやり口で男どもたらし込みやがって 千代:あ…あざとい!?天真爛漫って言ってください! ダンナ:そういうのは自分では言わねぇもんなんだよ! 千代:いいじゃないですか!そのおかげで商売繁盛してるんだから! 千代:看板娘の名は伊達じゃないですよ?感謝してください! 夕霧:そうだねぇ 夕霧:それに、千代目当てでくるのは男だけじゃないからね 千代:へ? 輝夜:そうよ、私はここの団子も好きだけど、千代のことも好き 輝夜:千代に会いにきてるわ 夕霧:もちろん私もね 千代:ちょっ…輝夜さま、夕霧姐さん、急にどうしたんですか!? 千代:そんなこと言われたら照れるじゃないですか… ダンナ:くくく…百銭錬磨の看板娘が、お姫さまと遊女に言い寄られて、動揺してんじゃねぇか 千代:ダンナ…!うるさいですよ…! 椿:千代殿、どうしたら姫さまに嫌がられずにお供できるようになるだろうか? 椿:その百戦錬磨の手腕、伝授願いたい…! 千代:えぇ…!?椿さままで… 夕霧:椿の場合、まずは笑顔の練習からかねぇ 輝夜:椿には無理よ!そもそも纏ってる空気が千代とは違うもの 椿:その空気というのはどうすれば手に入るのだろうか? 椿:千代殿、よければ稽古を… 千代:そ…そう言われましても… 千代:  ダンナ:(M)皆の笑い声が響く ダンナ:身分も歳も、就いてる職も違うあっしらですが、 ダンナ:この甘味処はそんなの関係なく、 ダンナ:甘い菓子食って、みんなが素の自分に戻れる、そんな場所だ ダンナ:これからも、そんな居心地良い場所であり続けねぇとな 0:  0:  0:  0:  輝夜:第二話 輝夜:『とある国のお姫様は温泉に行きたい!』 0:  0:  0:ー輝夜の住む城ー 0:  輝夜:ねぇ椿 椿:なんでしょう?姫さま 輝夜:温泉って行ったことある? 椿:…ないですね 輝夜:私、温泉に行きたいわ 椿:は? 輝夜:だから、温泉に行きたいわ 椿:…また、なぜ唐突に…? 輝夜:行ったことないし 椿:そうですね 輝夜:最近寒いんだもの 椿:寒いですね 輝夜:寒い冬はやっぱり温泉!って、この前、千代が言っていたの 椿:…言っていましたね 輝夜:だから温泉に行きたいわ 椿:ダメです 輝夜:なんで!? 椿:危険だからです 輝夜:椿もついて来ていいわよ 椿:それでもダメです 輝夜:…なんでよ? 椿:はぁ…、いいですか? 椿:温泉と言ったら、当然男女別 椿:姫さまがお一人の時にお守りできません 輝夜:うぅ〜…、過保護! 椿:仕事です 輝夜:(ボソッと)また城抜け出して、城下町に遊びに行ってやる 椿:う… 輝夜:椿の目を盗むのなんて簡単なんだから…! 0:  0:  0:ー城下町の甘味処ー 0:  0:  椿:…というわけなんだが、どうしたらいいだろうか? 夕霧:あははっ、 夕霧:姫さん、以前にも増して椿の扱いがうまくなってきたじゃないか 椿:夕霧!笑い事じゃない! ダンナ:いや〜、椿さまも苦労が絶えませんねぇ… ダンナ:最近、姫さまがお忍びで来ること少なくなってたんで、 ダンナ:『共通の話題で仲良くなろう作戦』上手くいってるかと思ってたんですが… 千代:ダンナ…なんですかそのセンスの無い作戦名は… ダンナ:なかなか辛辣だな…おい… 夕霧:千代のツッコミのキレも増してきてるねぇ ダンナ:姐御…あっしのフォローは無しですかい… 夕霧:私は基本的にかわいい子の味方だからねぇ 千代:夕霧姐さん…!大好き! ダンナ:はぁ… 0:  0:-間- 0:  千代:それで、椿さまは温泉の件、本当はどう思ってるんですか? 椿:え? 千代:相談に来られたってことは、本当は姫さまの願い聞いてあげたいのかなって 椿:…千代殿は本当に鋭い 椿:姫という肩書きゆえ、輝夜さまには普段窮屈な思いをさせていることは承知している 椿:私に出来ることなら可能な限り叶えて差し上げたいが 椿:こればかりは… 夕霧:だったら話は簡単さね 椿:何がだ、夕霧? 夕霧:私達が一緒に行けばいい 椿:は? 夕霧:結局のところ、椿の悩みは女湯で姫さんが一人になることだろう? 椿:そうだが… 千代:私と夕霧姐さんが一緒なら、少しは安心できません? 夕霧:万一何かあっても、すぐに椿を呼べる 椿:だが… ダンナ:椿さま、あっし良い場所知ってますぜ ダンナ:天然温泉で、男湯、女湯を仕切るような仕切りはありますが、 ダンナ:何かあればすぐに駆けつけられるようなところでさぁ ダンナ:しかも秘湯中の秘湯ですから、知ってる者もほとんどいない 千代:ダンナってそう言う「知る人ぞ知る」って場所に詳しいですよね 夕霧:なんだい?好みの女子(おなご)とでも一緒に行くのかい? ダンナ:じょ…冗談は止してくだせぇ姐御… 千代:ダンナ〜、声うわずってますよ〜 ダンナ:千代! 夕霧:私は誘われたことないねぇ… 夕霧:はぁ…、範疇外だったかい… ダンナ:姐御…!あんまりからかわねぇでくだせぇ… 夕霧:あははっ 千代:ふふふっ 千代:それで、どうですか?椿さま 千代:なかなかな優良案件だと思いますよ? 椿:…世話になっていいのだろうか? 千代:もちろんです! 千代:あっ、その代わり、今後ともこの甘味処をご贔屓に! ダンナ:ちゃっかりしてやがる 千代:そりゃあ、商売上手な看板娘ですから 0:  0:  0:後日 0:  0:ー山中の天然温泉にてー 0:  0:  ダンナ:さっ、着きやしたぜ 千代:わぁ〜!ここですか!湯気で真っ白…! 輝夜:これが温泉…? 輝夜:うっ…なんだかすごい匂い…! 輝夜:ゆで卵が腐ったみたいな…? 夕霧:これは温泉に含まれてる硫黄って成分からの匂いだよ 夕霧:有害なものじゃないから、心配しなくていい 夕霧:温泉独特のものさね 輝夜:へぇ〜… 千代:さすが夕霧姐さん、物知りですね! 輝夜:(温泉に手を入れて)わっ…あったかい…! 輝夜:千代!夕霧!早く入りましょう! 千代:そんなにはしゃぐと滑って転びますよ、姫さま? 輝夜:だって!千代たちと温泉に来れるなんて、本当に嬉しいんだもの! ダンナ:(コソッと)椿さま、よかったですね 椿:あぁ、あんなにはしゃいでいる姫さまを見るのは久しぶりだ 輝夜:あっそれから、千代!夕霧! 輝夜:今日は絶対に姫って呼ばないで! 輝夜:今日の私はお忍び中のお忍びなんだから 千代:はいはい、わかりました、輝夜さま 夕霧:私はなんて呼ぼうかねぇ 夕霧:うーん…、じゃあ輝夜嬢にでもしようか ダンナ:おっ、姫さまの呼び名ですかい ダンナ:なら、あっしはお嬢って呼びましょうかね 輝夜:うふふ、みんな姫呼び以外で呼んでくれて嬉しいわ 輝夜:椿も、今日はお嬢さまって呼んでちょうだい! 椿:わかりました、か…輝夜…お嬢…さま 輝夜:はぁ…、椿が一番ぎこちないわ 0:  0:  0:ー着物を脱ぎ、一同温泉に浸かっているー 0:  0:  椿:(仕切り越しに声をかける)輝夜お嬢さま!何もお変わりないですか? 椿:ご気分が優れなくなったら、すぐに夕霧か千夜殿に言ってくださいね!? 輝夜:…椿!今入ったばかりなんだから何もあるわけないでしょう! 輝夜:心配性にも程があるわよ!? 椿:そう言われましても… 夕霧:椿、あんたは相変わらず気ぃ張りすぎさね 夕霧:輝夜嬢のことは私と千代に任せて、ダンナに肩の力の抜き方でも教えてもらいんさい 千代:あははっ、ダンナは手を抜くこと関しては一流ですからね〜 ダンナ:おい千代!それ語弊があるだろ! ダンナ:息抜きがうまいって言え! 千代:あ〜すみませんダンナ、声が遠くてよく聞こえませーん ダンナ:ったく… 椿:ダンナ殿は千代殿と本当に仲が良いですね 椿:お二人はいつも楽しそうだ ダンナ:まぁ、千代とはなんだかんだ長い付き合いですからね 椿:私も輝夜お嬢様を笑顔にして差し上げたいのだが… 椿:いつも怒らせてばかりでして… 椿:どうしたらいいだろうか… 0:  0:-間- 0:  夕霧:ちーよ 夕霧:あんた、意外とあるんだねぇ 千代:ん?何がですか…? 夕霧:何って‥、胸に決まってるじゃないか 千代:ちょっ夕霧姐さん!?どこ見てるんですか! 夕霧:女同士なんだから照れることないだろう? 千代:そんなにマジマジと見られたら照れますよ…! 夕霧:そんな初々しいところも可愛いねぇ 夕霧:ダンナに愛想尽かしたら私のところにおいで? 夕霧:千代ならいつでも大歓迎だよ 千代:…っ!私に夕霧姐さんみたいな色気は出せませんってば…! 夕霧:あはははっ!冗談だよ 千代:もうっ…、からかわないでください…! 輝夜:ねぇ夕霧? 夕霧:なんだい?輝夜嬢? 輝夜:夕霧は千代よりもっと大きいのね 夕霧:そりゃあ、ねぇ…? 輝夜:私も千代や夕霧みたいに大きくなるかしら? 千代:か…輝夜さま…⁉︎ 夕霧:おや、輝夜嬢も大きくしたいのかい? 輝夜:うん、どうしたら大きくなるの? 夕霧:大人になったら大きくなるもんさ 輝夜:本当に?何か特別な訓練とかしなくていいの? 夕霧:訓練ねぇ… 千代:ス…ストップ!ストップ! 千代:輝夜さま?今日はこの辺にしておきましょう? 輝夜:どうして?もっと聞きたいわ 千代:こ…このお話はまだ輝夜さまには早いです! 千代:ね!?夕霧姐さん! 夕霧:そうさねぇ、この続きは輝夜嬢がもう少し大きくなってからだね 輝夜:むぅ…、なんだかずるいわ 千代:輝夜さまは、今のままで十分可愛いからいいんですよ 輝夜:えー… 千代:ほらっ…!せっかく温泉にきたんですから、 千代:あっちの景色が綺麗に見える方、一緒にいきましょう! 夕霧:二人とも、湯に足を取られて転ぶんじゃないよ? 0:  0:  椿:… ダンナ:… 椿:な…なんというか聞いてはいけない会話を聞いてしまった気が… ダンナ:ほう…あのちんちくりんだった千代が… ダンナ:いつのまに成長してたんだ… 椿:ダ…ダンナ殿!?な…何を言って…!? ダンナ:クックックッ、女子(おなご)同士の会話ってのはやっぱりいいもんですね 椿:いや…しかし… ダンナ:椿さま、あっしは焦らなくていいと思います 椿:え? ダンナ:お嬢はまだまだ幼い ダンナ:これから色んな人と出会って色んな経験をする ダンナ:その中で、辛いことに出くわすこともあるでしょう ダンナ:そんな時、お嬢の一番近くで、支えてあげられるのは、椿さまだけでさぁ ダンナ:そういう積み重ねで、信頼ってのは生まれて、 ダンナ:より強くなっていくもんだと思ってます ダンナ:そうすりゃあ、お嬢が椿さまに笑顔を向けてくれる回数も、自然と増えてくるんじゃねぇですかい? 椿:…そうですね 椿:ダンナ殿は相変わらず良い事を言う ダンナ:いやいや、甘味処には色んな人が来ますからねぇ ダンナ:そん中で、小耳に挟んだ受け売りですよ 椿:いや、その姿勢見習わせてもらいたい 0:  千代:ダンナー!そろそろ上がりますよー! ダンナ:おー! ダンナ:さて、あっし達も行きますか 椿:えぇ、そうですね 0:  0:ー温泉から上がり、帰り支度をする一同ー 0:  輝夜:はぁ〜、気持ちよかったぁ 輝夜:身体がぽかぽかするわ ダンナ:お嬢に喜んでもらえたなら何よりです 千代:景色もすごく綺麗でしたし、ダンナさまさまですね! 夕霧:肌もすべすべだねぇ 夕霧:これは、明日からの仕事にも精が出るね 夕霧:ダンナ、今日のお礼に今度遊廓に来た時はサービスするよ ダンナ:ありがとうごぜぇやす! ダンナ:自慢の甘味を手土産に、遊びに行かせていただきやす 輝夜:… 千代:…?輝夜さま?どうされたんですか? 輝夜:椿…! 椿:なんでしょう、輝夜お嬢さま 輝夜:えっと… 輝夜:(満面の笑みで)今日は温泉に連れて来てくれてありがとう! 輝夜:とても楽しかったわ! 椿:…っ! 0:  0:  椿:(M)姫さまの満面の笑顔をみて、心が温かくなるのを感じた 椿:たくさんの出会いと経験が姫さまを成長させてくれる…か 椿:(M)姫さまのために、私がすべきことが少しわかった気がした 0:  0:  0:  0:  夕霧:第三話 夕霧:『とある星降る夜の恋物語』 0:  0:  輝夜:千代…!千代…! 千代:ん? 輝夜:こっちよ千代! 千代:!?姫さま!? 千代:どうしたんですか?こんな裏口から 千代:いつもはお忍びでも店先からいらっしゃるのに… 輝夜:千代、しーっ 輝夜:今日はダンナにも会いたくなかったのよ… 千代:えっ…、姫さまついにダンナの顔見たくないほど嫌いに…? 輝夜:違うわよ…! 千代:あはは、冗談ですよ 輝夜:もう…! 輝夜:今日は、女同士でしかできない話をしにきたのよ…! 千代:どうしたんです?そんな改まって… 輝夜:千代…、私気づいたの…! 千代:何にですか? 輝夜:夕霧は恋をしているわ! 千代:… 千代:はぁ…? ダンナ:なんだ面白そうな話してるじゃねぇか 輝夜:わゎっ…ダンナ! 千代:もう、どこから聞いてたんですか? 千代:ほんと、地獄耳なんですから… ダンナ:なんだって?千代 千代:なんでもありませーん ダンナ:ったく… ダンナ:姫さま、水臭いじゃないですか ダンナ:大人の恋愛には、大人の意見が一番なんですぜ? 輝夜:そ…そうなの? 輝夜:こう言う話は殿方とはしないって聞いてたから… ダンナ:安心してくだせぇ ダンナ:あっし、心は乙女なんで ダンナ:(咳払いをして、オネェ口調で)んん…!恋愛相談なら百戦錬磨よん♡ 輝夜:へ?ダンナ女の人だったの? 千代:違います、違います…!たとえ話ですよ 千代:ダンナ…! 千代:姫さまは純粋無垢なんですからそういうのやめてください! ダンナ:はいはい 千代:もうっ… 千代:それにしても、夕霧姐さんが恋… 千代:誰にですか? 輝夜:椿 千代:椿さまぁ!? ダンナ:あの二人は幼馴染なんで、ガキの頃からの付き合いみたいですが… ダンナ:何かあったんですかい? 輝夜:この前この甘味処で、みんなでお団子食べてる時にね… 0:  0:輝夜の回想 0:  椿:夕霧、最近仕事はどうだ? 夕霧:星海の宴(ほしみのうたげ)が近いからね 夕霧:その準備も兼ねてそれなりに忙しいねぇ 椿:あぁ、遊女全員で上客をもてなす宴だったか 椿:…無理、しすぎるなよ 夕霧:ん? 椿:目の下、白粉(おしろい)で隠してるようだが、クマができているだろう 夕霧:…!よく見てるね… 椿:何年の付き合いだと思ってるんだ 夕霧:大丈夫さ、これくらい 夕霧:毎年のことだし、星海の宴が終われば一息つけるからね 夕霧:宴の後の、星祭り(ほしまつり)が楽しみだよ 夕霧:今年も姫さんと一緒にくるんだろう? 椿:あぁ、毎日はしゃいでらっしゃる 夕霧:夜に出歩けることも少ないから、嬉しんだろうさ 椿:そのお陰で、今は城をお忍びで抜け出されることが少なくて助かっている 夕霧:それは何よりだ 夕霧:星祭りは私と千代が姫さんと周るから、椿はダンナとゆっくり見て周りんさい 椿:そういうところだ 夕霧:え? 椿:お前は世話焼きな上にすぐ無理する 椿:ちゃんと休め 椿:身体が資本だろう、お前の仕事は 夕霧:(小声で)ふふっ…、椿の方がよほど世話焼きじゃないか 椿:ん?何か言ったか? 夕霧:いいや、なんでもないよ 夕霧:椿、ありがとね 0:  0:回想終了 0:  輝夜:ってことがあったの 輝夜:あの時の、夕霧の椿を見る目は恋していたわ! 千代:はぁ… 輝夜:それに、きっと椿も夕霧を好きなのよ! 輝夜:あの時の椿の声、気持ち悪いくらい優しかった! 千代:気持ち悪いって…なかなか辛辣ですね… ダンナ:ほう… ダンナ:それは…恋で間違いないですね! 輝夜:でしょう! ダンナ:えぇ! ダンナ:幼い頃から近くにいすぎて、お互い言い出せずにいるという、もどかしくも甘酸っぱい展開です! 千代:ちょ…ちょっと… 輝夜:夕霧と椿をくっつけたいの 輝夜:どうしたらいいかしら? ダンナ:姫さま、そういうことならあっしも千代も一肌脱ぎますぜ 千代:え!?私も!? 輝夜:千代は手伝ってくれないの…? 千代:あ…いや…そういうわけじゃ… ダンナ:千代、他ならぬこの国の姫さまの頼みだぞ 千代:ダンナは面白がってるだけでしょうが…! 輝夜:千代、ダメ? 千代:う…、はぁ… 千代:わかりました、お手伝いします 輝夜:やった! ダンナ:そうこなくっちゃな! 千代:なんでダンナまでノリノリなんですか…全く… 千代:まぁでも、やるからには本気出しちゃいますよ ダンナ:奥手で堅物な椿さまと、遊女の姐御 ダンナ:正反対の二人をどうくっつけるか… 千代:一番の問題は、お互い好きって言い出しづらい関係になっちゃってる、ってとこですよね 輝夜:暗くて人気(ひとけ)のないとこに、2人っきりにするのはダメ? 千代:姫さま…?そんなのどこで聞いたんですか…? 輝夜:城の女中(じょちゅう)が言ってたの 輝夜:男と女が親密になるには「暗い」「二人っきり」が大事だって 千代:(咳払い)ま…まぁ…、普通の男女ならそう言う雰囲気になるかもしれませんが、 千代:あのお二人は何かきっかけがないと難しいかもしれませんね… 輝夜:きっかけ… ダンナ:お!なら、あっしにいい考えが! 0:  0:  0:数日後 0:城下町にて 0:  ダンナ:椿さま 椿:ダンナ殿、こんな所で会うのは珍しいですね ダンナ:買い出しからの帰りでして 椿:それでその大荷物ですか ダンナ:えぇ ダンナ:椿さまは城下の見回りですか? 椿:はい 椿:星祭りが近いので、いつもより念入りにと思いまして ダンナ:相変わらず仕事熱心ですね 椿:星祭りは姫さまも楽しみにしていますから 椿:万が一があってはならないので 椿:それに… ダンナ:それに? 椿:あぁいえ、 椿:夕霧も星海の宴の支度を頑張っているようなので… ダンナ:そういえば、最近姉御に会いましたか? 椿:いえ… 椿:夕霧が何か? ダンナ:先日店にいらっしゃった時に、何か悩んでるようでしたので… 椿:悩み? ダンナ:言葉を濁されてましたが、なかなか椿さまに伝えられないことがあるとか、なんとか… 椿:夕霧とは今更そんな遠慮し合うような間柄でもないですが… ダンナ:(咳払い)椿さま? ダンナ:親しい女子(おなご)が言い出しづらいことなんて言ったら、一つしかありません 椿:は? ダンナ:そう言う時は黙って空気を読んで殿方から言ってあげるもんです 椿:ダンナ殿? ダンナ:ちょうどいい具合にもうじき星祭りがありやす ダンナ:椿さまもご存知でしょう? 椿:いや、だからこうして城下の見回りを、とさっき話をしたかと… ダンナ:(とぼけたように)あぁ、そうでしたそうでした ダンナ:まぁそんな細かいこと気になさらず 椿:細かい…のか? ダンナ:星祭り当日は、姫さまはあっしと千代に任せて、姐御の悩み、解消してやってくだせぇ 椿:え?いや…え?(困惑) ダンナ:『男』の見せ所ですぜ(ドヤ顔) 0:  0:  0:同日 0:千代と輝夜が、夕霧に会いに城下を歩いている 0:  千代:本当にお任せしていいんですか?姫さま 輝夜:もちろんよ! 輝夜:椿が夕霧に言いたいことがあるみたい、ってそれとなく伝えて、 輝夜:星祭りで二人っきりになれるようにすればいいのよね 千代:まぁ、そうなんですが… 輝夜:まかせて! 千代:ダンナが考えたこの作戦、本当にうまくいくのかな… 輝夜:ふふっ 千代:どうしたんですか? 輝夜:ううん、なんでもないわ 0:  0:夕霧が他の遊女と一緒に歩いてくる 0:  夕霧:(他の遊女に向かって)あぁ、お疲れだったね 夕霧:宴までもう一踏ん張りだ 夕霧:気ぃつけて帰りんさい 0:  0:遊女と別れる 0:  夕霧:ふぅ…、ん? 夕霧:千代、それに姫さんも 千代:あっ、夕霧姐さーん 夕霧:どうしたんだい、こんな所に2人で 夕霧:姫さんはまた城抜け出してきたのかい? 輝夜:むぅ…、今日は違うわ! 輝夜:千代と遊んでくるってちゃんと書き置きしてきたもの! 夕霧:書き置き… 千代:姫さま… 輝夜:え?ダメ? 夕霧:ふふふっ、私は姫さんのそういう所好きだよ 輝夜:私も夕霧のこと好きよ 夕霧:ありがとね 輝夜:ねぇ夕霧、今嬉しかった? 夕霧:え? 輝夜:私から「好き」って言われて嬉しかった? 夕霧:もちろんだよ 輝夜:やっぱり親しい人から好きって言われるのは嬉しい? 夕霧:急にどうしたんだい? 夕霧:姫さま、好きな人でもできたのかい? 輝夜:ううん、私じゃなくて…(椿が夕霧を…) 千代:(被せて)わーわーわー! 千代:姫さま…!しーっ 輝夜:あっそっか… 輝夜:えっと…えっと…千代に好きな殿方ができたんだって! 千代:私!? 夕霧:千代が? 千代:(小声で)ちょっ…姫さま!? 輝夜:(小声で)だっ…だってこれしか思いつかなかったんだもん! 夕霧:千代も大人になったんだねぇ 千代:え…!?ぅあえあ…う…うん!(裏返ったような動揺した声) 千代:ちょっ…ちょーっとだけいい…かもなぁって思ってる人がいたり?いなかったり…?(ごにょごにょ…) 夕霧:へぇ、誰だい? 千代:へ!? 夕霧:その男だよ 千代:え…あ…えーっと… 夕霧:もしかしてダンナかい? 千代:はぁ!?な…なんで!? 夕霧:いや、仲良いし長い付き合いだろう? 千代:あれは…!腐れ縁というか! 千代:そ…そもそも!私は甘味処の看板娘なだけで…! 輝夜:千代、顔真っ赤 千代:はぇ…!? 夕霧:ふふっ、ほんの冗談のつもりだったんだが、図星かい? 千代:ちっちっち…違いますぅぅぅぅ! 0:  0:千代、顔を真っ赤にして走っていく 0:  輝夜:あっ、行っちゃった 夕霧:本当からかい甲斐があるねぇ 輝夜:千代可愛かった 夕霧:ねぇ? 0:  0:  0:千代、意図せず甘味処に戻ってくる 0:  千代:はぁはぁはぁ… 千代:な…なんでこんなことに… 千代:やっぱり、姫さまにお任せしたのが間違いだった…かな ダンナ:おっ、千代!どうだった? ダンナ:姐御にはうまく伝えられたか? ダンナ:こっちはバッチ(…リ…) 千代:(被せて)ひゃあっ! ダンナ:うぉっ、なんだ!? 千代:な…なんでこんなとこにダンナがいるんですか! ダンナ:え…いやなんでって、ここ俺の店だし… 千代:え!?あれ!? ダンナ:おい、お前顔なんか赤くないか? 千代:ちょっ…ダンナそんな近寄らないでください…! ダンナ:は?急にどうした?何動揺してんだ? ダンナ:姐御と何かあったのか? 千代:へ!?夕霧姐さん!?何も!ないですよ!? 千代:なんで今、夕霧姐さんの名前を!? ダンナ:さっき姐御に会ってきたんだろ? 千代:あ…会いましたが…!それだけっ…ですよ? 千代:別に、何もなかったですからね!? ダンナ:星祭りの件はどうなったんだ? 千代:星…祭り… 千代:あっ…ぅあ…えっと…(恥ずかしさに耐えられなくなってどもる) 千代:ダ…ダンナのばかー! 千代:こんなとこに店構えないでくださいぃぃぃ! 0:  0:千代、顔を覆って走り出す 0:  ダンナ:はぁぁぁ!?なんだそれ!理不尽すぎるだろうが! ダンナ:っておい!どこ行く!? ダンナ:はぁ…、なんなんだ千代のやつ… ダンナ:姐御にはちゃんと伝えれたのか? 0:  0:夕霧と輝夜が甘味処に入ってくる 0:  夕霧:あははっ 輝夜:千代、面白い ダンナ:おっと…姐御、姫さま ダンナ:千代のやつどうしたんで? 夕霧:いや何、少しからかっただけなんだが 夕霧:千代はウブだな ダンナ:(小声)あぁ…姐御にやり込められて、返り討ちにあったか 夕霧:ん?何か言ったかい? ダンナ:あぁ、いえこっちの話で… 輝夜:…(夕霧をじっと見つめている)ねぇ、夕霧 夕霧:なんだい、姫さん 輝夜:あのね、思っていることがあるなら素直に伝えなくちゃダメよ? 夕霧:え? 輝夜:夕霧は大人で優しいから、 輝夜:いつもみんなに気を遣って、言いたいこと我慢してる気がするの 輝夜:でも、言わなくちゃ伝わらないよ? 夕霧:… 夕霧:ふふ…、姫さんが言うと説得力あるね 夕霧:それじゃあ、一つ姫さんに倣おう(ならおう)か 夕霧:なぁダンナ、千代も言ってたしこれを機に今の甘味処畳んで、遊郭の隣に新しく店出さないかい? 夕霧:遊女みんなで今まで以上に贔屓(ひいき)にするよ ダンナ:いやーそれもありですねぇ ダンナ:遊郭の姐さまがたがお得意様になってくれりゃあ、あっしも鼻が高いですし 夕霧:だろう? 夕霧:そのうち千代が遊廓に来た立派な殿方に見染めれたりしてね? ダンナ:そうそう千代が…ん?千代が…!? 夕霧:あれだけ可愛くて、愛想のいい看板娘、地位のある殿方の目に止まったら、そういう話の一つや二つ上がるだろうさ ダンナ:いや…それは… ダンナ:千代のやつがいないと…こう…店も立ち行かなくなるというか… 夕霧:ぷっ…あははっ、冗談さ 夕霧:ダンナがそんな焦ってるところ初めてみたよ ダンナ:姐御ぉ…大の大人をあんまりからかわねぇでください 夕霧:クスクスっ、悪かったよ 夕霧:つい…ね 0:  0:  0:星祭り当日 0:  千代:あっ、姫さまー!こっちです! 輝夜:ちーよー! 椿:姫さま走ったら危ないですよ…! 千代:わぁっ!浴衣かわいいです! 輝夜:えへへー、女中と一緒に選んだのよ! 輝夜:千代のお花の髪飾りもかわいい! 千代:これ、夕霧姐さんからもらったんです 輝夜:あれ?夕霧は?まだ来てないの? 夕霧:呼んだかい?姫さま 輝夜:夕霧! 椿:宴は無事終わったのか? 夕霧:あぁ、お陰様でね 夕霧:やっと肩の荷が降りたよ ダンナ:姐御お勤めご苦労様でした 夕霧:ありがとね 夕霧:これで心置きなく星祭りを楽しめるってもんさ 椿:…夕霧 夕霧:ん? 椿:星祭り、俺と2人で見てまわらないか? 夕霧:えっ、急にどうしたんだい? 椿:その…大役(たいやく)を無事終えたお前を労おう(ねぎらおう)かとな… 夕霧:いや、その気持ちは嬉しいけど… 夕霧:姫さんはどうする(…んだい) 千代:(遮るように)姫さまなら、私とダンナが一緒にいるんで大丈夫ですよ ダンナ:安心してくだせぇ、姐御 輝夜:そうよ夕霧行ってきて! 夕霧:いやでも… 輝夜:椿、しっかりエスコートするのよ! ダンナ:さっ、千代、姫さま行きましょうか! 輝夜:ダンナ、私りんご飴が食べたいわ 千代:わぁっ、いいですね! 千代:あっ、打ち上げ花火も上がるみたいですよ ダンナ:いやー楽しみですねぇー 0:  0:  0:数刻後 0:夕霧と椿二人きりで星祭りを回っている 0:  夕霧:なぁ椿 椿:(M)どうしたものか… 夕霧:千代達の様子少し変じゃなかったかい? 椿:(M)ダンナ殿に言われたように、夕霧を誘ってはみたが 夕霧:何かあるのかねぇ 椿:(M)宴の労いで、祭りのエスコートもちゃんとしろと姫さまにも言われた 夕霧:まぁ、考えても仕方ないか 椿:(M)夕霧が私のことで悩んでいるなら解決してやりたい…が 夕霧:椿? 椿:(M)そもそもエスコートって何をすればいいんだ…? 夕霧:ちょっと椿!話聞いてるかい? 椿:ん?あぁすまん、少々考え事をしていた 夕霧:まったく、祭りの時くらい気ぃ抜きなんし 夕霧:お前は昔っから真面目すぎるきらいがある 夕霧:早死にするよ 椿:そう言われても、こればかりは性分(しょうぶん)だからな 夕霧:はぁ…仕方ないね、行くよ椿(椿の手を握る) 椿:おい、手… 夕霧:こう人がいちゃ、はぐれちまうだろう? 夕霧:せっかくの祭りなんだ、楽しまないとな? 椿:あ…あぁ 0:  0:物陰から、こっそり夕霧と椿を覗いている3人 0:  千代:ねぇ、なんか立場逆転してないですか? 輝夜:椿のバカ!何をぼーっとしているの! 輝夜:ちゃんと夕霧をエスコートしなくちゃダメじゃない! ダンナ:姐御…男前だな… ダンナ:惚れるぜ… 千代:ダンナが惚れてどうするんですか…! 輝夜:もう…!椿に一言言ってくる! 千代:わゎっ…、姫さま出て行ったらダメですって ダンナ:椿さまは相変わらず堅物ですねぇ 千代:あぁぁぁ…、先が思いやられる… 0:  0:再び、夕霧と椿が回っている星祭り 0:  夕霧:椿、椿 夕霧:見てみんさい 椿:珍しい、金魚売りか 椿:そういえば夕霧は子供の頃から金魚が好きだったな 夕霧:よく覚えてるね 椿:金魚売りが城下に来るたびに、連れて行かれたからな 夕霧:金魚玉(きんぎょだま)に入ってる金魚のヒレがひらひらと揺らめく姿を見るのが好きでねぇ 夕霧:ずっと見ていられたもんさ 椿:ふっ… 椿:ご主人、この金魚玉ひとつもらえるか 夕霧:姫さんにかい?喜びそうだね 椿:お前にだ夕霧、ほら 夕霧:え? 椿:星海の宴、ご苦労だったな 椿:色々考えていたんだが、私にはエスコートとやらは難しいから、 椿:これで勘弁してくれ 夕霧:…ぷっ、あははは…! 椿:なっ…なんだ 夕霧:さっきから眉間に皺寄せて難しい顔してるから、何事かと思ったらそんなことかい 夕霧:くっくっく…あーおっかしい 夕霧:久しぶりにこんなお腹抱えて笑ったよ 椿:そんな笑うことだったか? 夕霧:いや、ごめんごめん 夕霧:ありがとう、嬉しいよ 椿:なら良かった 椿:それでな、夕霧、話したいことがあるんだ 椿:ちょっといいか? 夕霧:ん? 0:  0:間(物陰から覗いている3人) 0:  千代:夕霧姐さんと椿さま、いい感じじゃないですか? 輝夜:なんだか二人とも楽しそう ダンナ:どうみても姐御が引っ張ってるがな 輝夜:椿ってなんであんなにヘタレなのかしら ダンナ:まぁある意味いい相性なのかもしれやせんがね 千代:あっ二人が森に入って行きますよ 輝夜:ついに告白かしら!なんだかドキドキしてきたわ 0:  0:人気(ひとけ)のない祭り会場の外れ 0:  夕霧:話ってなんだい?椿 椿:夕霧、何か私に伝えたいことがあるのか? 夕霧:は? 椿:先日、ダンナ殿から聞いた 夕霧:…?そんなことダンナに言った覚えないが… 椿:そうなのか? 夕霧:うーん… 夕霧:そういえば、この前姫さんも似たようなこと言ってたねぇ 椿:姫さまが? 夕霧:思っていることは言わなくちゃ伝わらない…って 椿:私に対してか?何かあるのか?あるなら言ってくれ 夕霧:うーん…、堅物で真面目すぎる 夕霧:もう少し柔軟になれ…とか? 椿:それは常日頃から言われている気がするな… 夕霧:だねぇ 夕霧:そういう椿は、私に何か言いたいことないのかい? 椿:そうだな… 椿:…少し、言いづらいことなんだが… 夕霧:私と椿の仲だろう?遠慮することないよ 椿:…姫さま、最近太り気味ではないだろうか? 夕霧:は? 椿:よく城を抜け出してダンナどのの所で甘味を食べているせいか、 椿:最近少々ふくよかになられたような… 夕霧:はぁ… 夕霧:椿、女子(おなご)に太ったなんて言ったら、背中から刺されても文句は言えないよ? 椿:そうは言ってもな、最近女中から私に小言が飛んできてな… 0:  0:輝夜が抑えきれず飛び出す 0:  輝夜:椿!さっきから黙って聞いていれば失礼よ! 0:(2人同時に) 椿:姫さま! 夕霧:姫さん! 千代:(輝夜を追って出てきながら)姫さま…!だから出て行ったらダメですって 夕霧:千代まで、どうしてここに? 夕霧:ダンナと3人で、祭り回ってたんじゃなかったのかい? 千代:へ?あっ…えっと…えーっと… 千代:ダ…ダンナがこの辺に花火の穴場があるって言ってて 千代:ね!?ダンナ! ダンナ:「ね!?ダンナ!」じゃねぇよ ダンナ:都合のいい時ばっかり俺の名前使いやがって 千代:いいじゃないですか! 千代:普段、私の看板娘の名前で商売繁盛してるんですから! 輝夜:椿!仕事ばかりしてないで、もっと女心を勉強しなさい! 椿:も…申し訳ありません 夕霧:姫さまが正論だねぇ 椿:夕霧… 0:  0:花火が上がる 0:5人が空を見上げる 0:  千代:わっ!姫さま見てください!花火です! 輝夜:わぁ…すごい…!星が降ってくるみたい… ダンナ:こりゃすげぇ… 夕霧:綺麗だねぇ 夕霧:…そうだ、椿 夕霧:言いたいこと、あったよ 椿:なんだ? 夕霧:私はさ、今この時間が好きだよ 夕霧:千代と姫さんが無邪気に戯れ(じゃれ)あってて、 夕霧:そこにいつも眉間に皺寄せた椿と、あったかく見守ってるダンナがいる今がさ 夕霧:ずっと、続けばいいって思ってる 夕霧:椿、あんたもだろ? 椿:あぁ…そうだな 椿:やっぱりお前はよくわかってるな 夕霧:ふっ…、何年の付き合いだと思ってるんだ? 夕霧:当たり前だろう?