台本概要

 79 views 

タイトル 誰が為に恋は鳴る
作者名 マリー  (@Cobalt_Blue0327)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 5人用台本(男1、女4)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ◆あらすじ
出会えばすぐ告白!
猪突猛進で恋愛バカの拓馬は、本当の恋を見つけられるのか?
恋が鳴り止まないボーイミーツガール!

◆所要時間
25分〜30分

◆台本使用について
使用連絡は必須ではありませんが、教えていただけると聞きに行けるのでとても嬉しいです。

 79 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
拓馬 127 一目惚れしがちな恋愛バーサーカー
愛梨 71 拓馬の幼なじみ。
佐藤 13 拓馬が中学生の時のクラスメイト。
田中 9 拓馬が高校生の時の先輩。
由佳 49 成人女性。メンヘラ。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:誰が為に恋は鳴る 0:登場人物 0:拓馬 男 0:愛梨 女 0:佐藤 女 0:田中 女 0:由佳 女 拓馬:その出会いは突然やってきた! 拓馬:中学1年、2年を漫画とアニメに費やし、青春とは程遠い日々を送ったまま3年へと進級した。 拓馬:新しい教室やクラスメイトに特に胸を躍らせることもなく、無感動で教室の扉を開けたその時! 佐藤:おはよう、みんな! 0:銃声 拓馬:衝撃だった。初めての感覚だった!まるでこの身の中心を、 拓馬:そう、心臓を撃ち抜かれたような、美しい暴力だった! 拓馬:そして次の瞬間、俺は口走っていた。 拓馬:俺と付き合ってください! 佐藤:え。 拓馬:教室は静まり返っていた。突如目の前で繰り広げられたロマンティックな光景に、 拓馬:クラスの連中はまるでハトが豆鉄砲を食らったような間抜けな面をしていた。 拓馬:指を咥えて見ておけハトども。ラブストーリーの全容を!さあお嬢さん、お返事を! 佐藤:ごめんなさい。 拓馬:なんてこった!俺のラブストーリーは波乱の幕開けだった! 拓馬:豆鉄砲とは比べ物にならない衝撃!しかし今は起承転結で言うところの起!俺の戦いはこれからだ! 拓馬:それから俺は1年間、彼女を、クラスのマドンナ佐藤さんを追いかけ回した。 拓馬:佐藤さん、俺と付き合ってください! 佐藤:ごめんなさい。 拓馬:佐藤さん、俺と結婚を前提に付き合ってください! 佐藤:ごめんなさい。 拓馬:佐藤さん、誕生日プレゼントに俺の名字を受け取ってください! 田中:ごめんなさい。 拓馬:彼女は頑なだった。拒まれ続ける俺を学校の連中は冷ややかな目で見ていた。 拓馬:気持ち悪いと笑う者もいた!しかし貴様らは所詮、俺のラブストーリーに名前すら出ない有象無象。 拓馬:モブキャラクター!好きに笑え、好きに言え。 拓馬:貴様らの攻撃など、彼女から受けた銃撃に比べれば蚊の針にも至らない! 愛梨:拓馬! 拓馬:おっと、ここで新しいキャストの登場だ。こいつは愛梨。家が隣同士で幼い頃からの腐れ縁。 拓馬:誕生日がただの2日俺より早いというだけで姉貴面して世話を焼いてくる、所謂幼馴染だ。 拓馬:仕方ない、幼馴染に免じて、ラブストーリーへの登場を許してやろう。 拓馬:なんだよ、愛梨。 愛梨:拓馬、最近変だよ。佐藤さんを追いかけ回して。もうフラれてるんだから、諦めなよ。 拓馬:わかってないな。宝くじは買わない者には当たらない、勝利は戦わない者に訪れない! 拓馬:俺が諦めない限り、この恋も終わらないんだ! 愛梨:佐藤さん優しいからさ。はっきり言わないと思うけど。ちょっと気持ち悪いよ、拓馬。 愛梨:引き際も肝心だよ。 拓馬:気持ち悪いなんて佐藤さんが言うわけがないだろう。あの佐藤さんだぞ。 拓馬:あ!佐藤さん!俺と付き合って下さい! 佐藤:気持ち悪いっ! 拓馬:なんてこった! 佐藤:もう我慢の限界……断っても断ってもしつこく告白してきて……。 佐藤:そういうの、告ハラって言うんだよ!もう二度と話しかけてこないでっ! 愛梨:……あーあ。 拓馬:……。 愛梨:まあ、佐藤さんの言ってたことが正しいよ。普通は、一度フラれたのに何度も告白しないって。 拓馬:コクハラ、コクハラ……(スマホで調べている) 愛梨:知らないの? 拓馬:好意のない異性から受けた無謀かつ一方的な告白のこと……!?俺じゃないか! 愛梨:今更? 拓馬:俺……佐藤さんを初めて見た時から、胸に大きな銃撃を受けたみたいに苦しくて。 拓馬:佐藤さんに気持ちをぶつけたら、その苦しみも少しは和らいでいたんだ。 愛梨:苦しんでるのは拓馬のいわば自業自得でしょ? 拓馬:自業自得? 愛梨:勝手に好きになって、勝手に苦しくなって、勝手に気持ちをぶつけて、結果があれでしょ。 愛梨:佐藤さんは悪くないし、拓馬は1人で盛り上がってただけ。 拓馬:ならどうしたら良かったんだ。 愛梨:そりゃ、あれだよ。少しずつお互いのことを知って、距離を縮めていって……。 拓馬:そんなまどろっこしいこと、していられるか! 愛梨:そういうもんなの! 拓馬:ははーん。佐藤さんともう一度仲良くなればいい、と。 愛梨:メンタルどうなってんの?無理無理!あそこまで嫌われたらやり直せないでしょ。 拓馬:だけど……。 愛梨:はあ……。もうすぐ高校生でしょ。次に誰かを好きになった時に、頑張ればいいんじゃない。 拓馬:でも俺、この先佐藤さん以上に好きになれる人なんて……。 愛梨:あのね、みんなそう言うの。 拓馬:決めた! 愛梨:は? 拓馬:俺、高校生になったら部活に精を出す!もう恋愛なんてこりごりだ! 拓馬:心の中に佐藤さんとの思い出があれば、それで充分さ……。 愛梨:……きもちわる……。 拓馬:そんなこんなで俺は高校生になった!暗黒の中学時代は佐藤さんとの思い出のみ残し、 拓馬:あとはきれいさっぱり忘れて、新しい人生を歩むことにした! 拓馬:そうさ、人生はラブストーリーだけじゃない。ここから始まるのは、努力・友情・勝利のスポ根青春ストーリー! 拓馬:俺はバスケ部の門を叩いた。ここで俺はひたむきにボールと向き合い、仲間と協力し時にはぶつかり合い、 拓馬:同じ壁を乗り越え青春の美しい汗を、 田中:1年生のみんな、こんにちは!マネージャーの3年田中です!よろしくね。 0:何かが落ちる音。 拓馬:その瞬間、まるで俺は深い深い穴の底に突き落とされたかのようだった。 拓馬:困ったもんだ、出会いというのはいつも唐突にやってくる。 拓馬:田中先輩!俺と付き合って、 愛梨:待てーい!! 拓馬:俺は前作の登場人物がメインとして再登場する話が好きではない。 拓馬:だが幼馴染に免じて登場を許可してやろう。 拓馬:なんだ愛梨。なぜ俺と同じ学校にいる?不法侵入か? 愛梨:入学式一緒に来たでしょ! 拓馬:ん?あぁそうだった。すまんな、脇役の設定などすぐ忘れてしまうもので。 愛梨:何わけわかんないこと言ってんの。それよりあんた、何も学んでなかったのね。 拓馬:何を。 愛梨:佐藤さんの時みたいに!またすぐ告白しようとしたでしょ! 拓馬:佐藤?はて誰だったかな。 愛梨:どの口が……。 拓馬:脇役に構っている暇はないんだ。俺は忙しいからこの辺で。 拓馬:田中せんぱーーい! 愛梨:だから待てーい! 拓馬:なんなんだよ。 愛梨:二の舞になるってわからない??田中先輩と本当に付き合いたいなら、 愛梨:告白は待った方がいいんじゃない。また告ハラって言われるよ。 拓馬:グゥ!なぜだかその言葉を聞くと腹の底が痛む! 愛梨:あの時と同じ思いをしたくないなら、やり方を変えることね。 愛梨:折角同じ部活なら、試合頑張ってかっこいいところ見せたら? 拓馬:盲点だ! 愛梨:そうかなあ……。 拓馬:それから俺はバスケの練習に精を出した!全てはこの恋の成就の為に! 拓馬:このラブストーリーをハッピーエンドに導く為に! 拓馬:せんぱーい!俺があなたを甲子園に連れていきますからー! 愛梨:それ野球ね。 拓馬:朝早くから夜遅くまで俺はボールを投げ続けた!雨が降ろうと風が吹こうと、 拓馬:俺の心に吹き荒れる恋の嵐に比べたらなんのその! 拓馬:ああ、深く落ちた穴の底から空を見上げれば、見える、見えるぞ先輩の笑顔が! 拓馬:そして迎えた夏の大会! 田中:……以上が今回のレギュラーメンバーです! 拓馬:俺はベンチにすら入れなかった。びっくりする程バスケの、運動の才能がなかった。 拓馬:そりゃそうだ、中学時代は所謂インドア、運動とは無縁の冴えない日々だったからだ。 田中:(誰かに告白されている)えっ……あのね、私もずっとあなたのことが好きでした。 拓馬:そして先輩はあっさり同級生のバスケ部レギュラーの彼氏ができた。 拓馬:うわあああ!(土を集める) 愛梨:ちょっとちょっと、何やってんの。 拓馬:先輩との思い出に、土を持って帰ろうと……。 愛梨:だからそれは野球ね。 拓馬:ああ。あの穴の底から見えた先輩の笑顔は幻と消えたのか……。 拓馬:そうだ、この想いだけでも手紙にしたためて渡そう。(紙の束を出す) 愛梨:何それ。 拓馬:ラブレター。 愛梨:全部!? 拓馬:当たり前だ。俺の先輩への想いは、A4の紙ペラ一枚には到底収まりきらない。 愛梨:やめなって!先輩、彼氏できたんでしょ?もう卒業だし、諦めたら? 拓馬:だけど俺はまだこの気持ちを伝えてない。 愛梨:伝えりゃいいってもんじゃないでしょ! 拓馬:じゃあ俺のこの気持ちはどうしたらいいんだ! 拓馬:あれだけバスケ頑張ったのに……先輩もどうして気付いてくれないんだ! 拓馬:俺は必死にこの気持ちを抑えて、練習を頑張ったというのに!時間の無駄だった! 拓馬:あの人、男を見る目がないんじゃないか!? 愛梨:あのね、仮にも好きだった相手を、振り向いてくれないからって悪く言うの、 愛梨:すっごくカッコ悪いよ。恋愛って基本的に好きになった方の負けなんだから。 拓馬:なんだと! 愛梨:特に拓馬みたいに、暴走しちゃうような奴。恋に恋しちゃってるような奴! 愛梨:もう恋愛とか向いてないんじゃない。 拓馬:ははっ、偉そうなことを言いやがって。お前も彼氏なんて出来たことないだろう。 拓馬:そんな奴が偉そうに説教垂れるなんて、へそで茶が沸かせるぜ。 愛梨:(スマホが鳴る)あ、浩二だ。 拓馬:浩二? 愛梨:もしもし?うん、忘れてないよぉ。今週末は一緒に映画デートだもんね。 拓馬:で、でえと? 愛梨:ちゃんと空けてるから。うん、うん。え?これから?仕方ないなあ、じゃあ校門で待ち合わせね。 拓馬:愛梨? 愛梨:あれ、拓馬、まだいたの。私これから浩二とデートだから、先帰るね。ばいばーい。 拓馬:……なんてことだ。あいつは俺より遥か先を歩いていやがった。 拓馬:俺なんかより、よっぽど恋が何たるかをわかっている何よりの証明。 拓馬:俺は、恋に恋したただの凡人。ラブストーリーなんて存在しない。 拓馬:起承転結の起ですらない。ああ、落ちた穴から這い上がれない。 拓馬:どこまで行っても真っ暗……。もう、恋愛なんてまっぴらごめんだ。 0:拓馬はける。由佳が現れる。 由佳:あ、幸太郎くん?最近ずっと連絡くれないから、心配で来ちゃった。 由佳:……その子誰?どこ行くの、幸太郎くん!ねえ、私達付き合ってるんだよね? 由佳:私に悪いところあったら直すから!教えて、何がダメ?髪?服? 由佳:どうしたら好きになってくれる?ねえ!(突き飛ばされる) 由佳:幸太郎くん、どうして……どうしてぇ。どうして誰も私を選んでくれないの? 由佳:誰でもいい……誰か私を好きになってよ……。 0:雨。 0:拓馬、傘を持って現れる。 拓馬:……だ、大丈夫ですか? 由佳:えっ。 拓馬:良かったら、傘どうぞ。 由佳:……好き。 拓馬:えっ。 0:鐘の音。拓馬・由佳はける。 0:大学生の愛梨が現れる。 愛梨:おっそいなぁ拓馬。一緒にこの講義取ろうって言ったの、あいつなのになぁ。 0:拓馬と由佳が手を繋いで現れる。 拓馬:じゃあ由香ちゃん!俺はこの教室だから。 由佳:わかった!じゃあ頑張ってね!私待ってるから! 拓馬:うん!先に帰ったら泣いちゃうぞっ。 由佳:もー!そんなことするわけないでしょぉ〜。じゃ、連絡してね! 拓馬:はあい。 由佳:拓馬くん。 拓馬:ん? 由佳:すーきっ。きゃーっ!(はける) 拓馬:……んも〜っ!由佳—っ!俺も愛してるぞーっ! 拓馬:お、愛梨。おはよう。 愛梨:何今の!? 拓馬:あぁ、見られちまった、か。 愛梨:どう見てもこれ見よがしだったよ。え?誰? 拓馬:由佳ちゃん。 愛梨:ユカチャン? 拓馬:昨日帰り道に初めて会って、 愛梨:昨日? 拓馬:付き合うことになったんだ! 愛梨:はああ!? 拓馬:そんな嫉妬するなよ。 愛梨:いや、意味わかんないよ。昨日初めて会って、なんで付き合うことになったの? 拓馬:運命、かな。 愛梨:どうしよう、怖い! 拓馬:わはは。愛の力って偉大だなあ。 愛梨:ダメだ、会話できない……!もう恋愛は懲りたんじゃないの? 愛梨:最近ずっとおとなしかったのに……。 拓馬:むしろ10代の頃の俺がどうかしていたな。選挙権も持たないような相手に恋をしていたなんて。 愛梨:そこに魅力感じないと思うんだけど……。 拓馬:そろそろ講義が終わるな。 愛梨:やばい、全然頭に入ってこなかった。 0:由佳が現れる。 由佳:たーくーまーくんっ! 拓馬:由佳ちゃん! 由佳:待ちきれなくて迎えに来ちゃった!ね、お昼食べに行こうよ!ここの学食、おいしい? 拓馬:君と食べれば何でもおいしいさ。 愛梨:え?あなた、この大学の人じゃないんですか? 拓馬:由佳ちゃんは30歳だぞ。大人のお姉さんだ。 愛梨:エッ……! 由佳:ねえ拓馬くん、この人誰? 拓馬:脇役の、ああいや、幼馴染の愛梨だよ。 愛梨:ど、どうも……。 由佳:……私、拓馬くんが私以外の女の子と話すのやだなぁ。 拓馬:愛梨、君とはここまでだ。 愛梨:は? 拓馬:じゃあ由佳ちゃん!学食に行こっか! 由佳:はあい! 0:拓馬と由佳はける。 愛梨:……はあ。頭痛い……。 0:愛梨はけ、拓馬と由佳現れる。 由佳:学食のオムライス美味しかったー! 拓馬:じゃあ午後の講義があるから、 由佳:えーっ!私また待つの?ねえ、サボっちゃいなよお。 拓馬:……まったくぅ!由佳ちゃんは寂しがりだなあ!じゃあ遊びに行こうか! 由佳:うちおいでよぉ。 拓馬:えっ!? 由佳:一人暮らしだから気にしなくていいよぉ。 拓馬:…………ゴクリ。 由佳:そうだ!折角なら泊まっていきなよ!私、昨日の内に拓馬くんの分の 由佳:着替えとハブラシと食器も買っておいたの!朝ごはんはパン?お米? 由佳:拓馬くんの好きなもの作るよ! 拓馬:クゥ!これが愛って奴か! 由佳:ほら、早く行こう!置いてっちゃうぞ〜。 拓馬:ははは、待て〜由佳ちゃ〜ん。 0:拓馬と由佳はける。スマホで話しながら愛梨が現れる。 愛梨:うん。そうだね、もう……。うん。うん。今までありがとう。 愛梨:楽しかったよ。……じゃあね。ばいばい。(通話を切る)……はあああ。 0:落ち込む愛梨。拓馬が現れる。 0:愛梨に気付きスルーしようとするが、周りを確認した後、愛梨に話しかける。 拓馬:……おい、何を見るからに落ち込んでるんだよ、愛梨。 愛梨:……ずいぶん久しぶりだね、拓馬。最近全然講義に来ないじゃん。 愛梨:おばさんも言ってたけど、家にも帰ってないんだって? 拓馬:あぁ!実は今由佳ちゃんちでお世話になってて! 拓馬:一人暮らしだったんだけど、もうほぼ同棲状態ってやつ? 愛梨:相変わらずだね。 拓馬:毎日食卓には俺の好物が並ぶし、俺が必要としてるものを先回りして買ってくれたりさ! 拓馬:いやー愛されるってこんな幸せなんだなあ!わっはっは! 愛梨:私別れたの。 拓馬:はっ? 愛梨:高校から付き合ってた浩二と。だから今そういう話はやめて。 拓馬:あっ、ふぅーん、そ、そうか。どうせ上から目線の説教して嫌われたんだろ〜? 愛梨:……。浩二、海外ボランティアに参加するんだって。 拓馬:ボランティア!素晴らしいことじゃないか。己が身を達せんと欲せば、まず他人を達せしめよ! 拓馬:まさにそれを体現している。立派な男じゃないか、愛梨には勿体ないな。 愛梨:私は行ってほしくなかった。まだ学生なのに、他人の為に自分を犠牲にするなんて。 愛梨:私は、自分で精いっぱいだったから。 拓馬:何、世の大半は取るに足らない凡人だ。凡人というものは大概自分のことしか考えられないものさ。 愛梨:……合わなかったんだ、私達。付き合ったばかりの頃は、こんなに自分と合う人はいないって思ってたのに。 愛梨:私は、恋って、人と愛し合うって、パズルのピースみたいに、お互いに無い部分が合わさって成り立つものだと思う。 愛梨:でも、いつの間にか形が変わっちゃったみたい。 拓馬:愛梨にしては詩的な表現をするじゃないか。ま、人生何が起きるかわからないからな! 拓馬:出会いがあって別れがある、その逆もまた然り。 拓馬:愛梨が諦めない限り、新しい恋がやってくるぞ! 愛梨:……その台詞臭い喋り方、久しぶりに聞いたよ。 愛梨:はあ。拓馬に慰められるなんて。なんか甘いものでも食べに行こうかな。 愛梨:拓馬も一緒に……は、由佳さんに怒られちゃうね。じゃあ、また。 愛梨:たまには家に帰りなよ。おばさん、心配してるから。 0:愛梨はける。 0:由佳が現れる。 由佳:拓馬くん。 拓馬:アッ……。 由佳:今女の子と話してたでしょ。 拓馬:え?いやアリと話してましたけど? 由佳:どうして!?私いつも言ってるよね!他の女の子と話しちゃいやだって! 由佳:私がどれだけ不安になるかわからないの!? 拓馬:ご、ごめん!もうしないから! 由佳:ねえ、私のこと好き? 拓馬:もちろん! 由佳:……えへへっ!私も拓馬くんが大好き!あー、良かったー。安心したよぉ。 由佳:ほら帰ろ?今日の晩御飯は、拓馬くんの好きなスコッチエッグだよ。 拓馬:わーい!楽しみだなー!あ、でも、たまには実家に帰ろうかなー? 由佳:なんで!?私のこと嫌いなの!? 拓馬:そ、そんなことありえないよ! 由佳:だよねっ。ほら、早く帰ろっ! 0:由佳はける。 拓馬:……おわかりいただけただろうか。否、察しの良い奴なら気付いている筈だ。 拓馬:重い!愛が重すぎる!両手両足に一体何キロの重しをつけられているんだ? 拓馬:ドラゴンボールか?この愛から解放されたら超人的なスピードが身に着くのか? 拓馬:……だがしかし!だが、しかし!これが彼女の愛ならば、俺が受け止めないで 拓馬:誰が受け止める?そう、甘んじて受け入れようじゃないか! 0:佐藤が現れる。 佐藤:本当にそれでいいの〜? 拓馬:お、お前は! 0:田中も現れる。 田中:君は誰のために人を好きになるの〜? 拓馬:お前まで! 佐藤:ねえ、恋って楽しい? 田中:ねえ、愛ってなあに? 佐藤:ねえ、どうして人を好きになるの? 田中:ねえ、あなたはだあれ? 拓馬:ええい黙れ過去の幻影ども!忌々しい!貴様らのくだらない質問に答えてやろう。 拓馬:恋は楽しいんだ!愛さえあれば全て正しいんだ!俺は今正しく幸せなんだ! 0:愛梨が現れる。 愛梨:私は、恋って、人と愛し合うって、パズルのピースみたいに、 愛梨:お互いに無い部分が合わさって成り立つものだと思う。 拓馬:そうだ、その通りだ愛梨!脇役のくせに良いことを言うじゃないか。 佐藤:君は何を埋めてもらってるの? 拓馬:俺は、 田中:うわあ、酷くぐちゃぐちゃなパスル。 佐藤:本当。まるで無理やり捻じ曲げられてるみたい。 拓馬:うるさい! 田中:あはははははっ! 佐藤:あはははははっ! 0:愛梨・田中・佐藤はける。 拓馬:……かの有名な詩人、中原中也がこんな言葉を残している。 拓馬:その夢はすなわち唯一の愛であって、それが人を向上させる。 拓馬:この愛を持って俺は、俺たちはどこへ向かうのか?それは花の道か茨の道か。 拓馬:いや、言い訳はやめよう。理由を探すのをやめよう。俺は俺の愛を持って、 拓馬:答えを出さなければならないのだから。 0:由佳が現れる。 由佳:あ、拓馬くん!スマホ見た?連絡したんだよ?なのに返信ないから、ここまで迎えに来ちゃった。 由佳:ほら、帰ろ!ご飯の用意できてるよ! 由佳:今日は拓馬くんの好きなアクアパッツァだよ! 拓馬:由佳ちゃん。 由佳:なあに?険しい顔して。 拓馬:酷く惨たらしい夢を見たんだ。 由佳:え〜?講義中に寝てたの?もー夜更かしばっかりするからだよぉ。 拓馬:人が夢を、とりわけ悪夢を見る時は、脳が興奮しているそうじゃないか。 拓馬:俺も例外ではない、確かに俺の脳は興奮していた。その興奮を収める方法を一つだけ知っている。 由佳:……拓馬くん?なんか、変だよ。なあに、その話し方。 拓馬:由佳ちゃん。 由佳:なに? 拓馬:別れよう。 由佳:は? 拓馬:いつも俺の好きな食事を用意してくれてありがとう。俺の好きな服を揃えて、 拓馬:俺の好きな音楽をかけてくれて、俺の好きな漫画を買いそろえてくれて、 拓馬:本当にありがとう。今すぐにでもそれらにかかった諸費用を耳を揃えて返したいが、 拓馬:生憎いち大学生の俺はそんな大金をすぐに用意できない。 拓馬:時間はかかるかもしれないが、これから少しずつ返して…… 由佳:あ!そういえば、この後雨降るかもしれないんだって!ね、早く帰ろ! 拓馬:由佳ちゃん。 由佳:私たちが出会ったのも、雨の日だったね!傘を差しだしてくれた拓馬くんを見てね、 由佳:私聞こえたんだ。頭の中で。りんごん、りんごーんって、鐘の音。 由佳:運命の出会いだったよね! 拓馬:俺は何も聞こえなかった。 由佳:いいから、ほら、帰ろ? 拓馬:別れよう。 由佳:……なんで?どうして急にそんなこと言うの?私、何かしちゃった? 由佳:前髪切りすぎた?服装、好みじゃなかった?悪いところがあったら教えて? 由佳:全部直すから。拓馬くんに好きになってもらえるなら、何だってするから! 拓馬:ここから先は人として未熟であった愚か者の戯言として静聴願いたい。 拓馬:怖いんだ。疲れたんだ。この愛の行く末に不安で胸が潰されそうなんだ。 拓馬:俺は由佳ちゃんを愛し続けられる自信がなくなった。いや、綺麗ごとはやめよう。 拓馬:俺はもう由佳ちゃんを愛せない。 由佳:だ、だけど、私は拓馬くんのこと愛してるよ!だから、大丈夫だよ、ねえ! 拓馬:由佳ちゃんは、他に好きなことはあるかい? 由佳:あ、あるよ!私はね、拓馬くんの好きな食べ物が好き!拓馬くんの好きな音楽が好きで、 由佳:拓馬くんの好きな漫画が好きで、拓馬くんが好きな私が大好きなの! 由佳:ね!?だから、 拓馬:俺は君が誰だかわからない。俺と同じものを好きという君が、一体誰なのか 拓馬:さっぱりわからないんだ。それに、もう俺の好きな由佳ちゃんはいない。 由佳:……やだ、やだ! 拓馬:別れてください。 由佳:やだ! 拓馬:別れてください。 由佳:やだ! 拓馬:別れないでください。 由佳:やだってば! 拓馬:では、そういうことで。 由佳:あ!ずるい! 拓馬:そうさ!俺はずるくて愚かで無様な人間なんだ! 拓馬:君と出会うまで気付かなかった。この心臓を撃ち抜かれても! 拓馬:深い穴の底に蹴落とされても気付けなかった事実だ! 拓馬:愛とは一方的に与えるものではない。 拓馬:愛し合うということは、お互いだけを見つめることではない! 拓馬:俺も、君も、正しく愛を理解していなかったんだ! 由佳:何、正しい愛って……。正しいも、間違ってるも、そんなのないよ。 由佳:私の愛が間違ってるって言いたいの!? 拓馬:俺は、愛とは……自分と違う相手と、その違う部分をさらけ出して、 拓馬:言葉を交わし、補い合っていくことだと、そう思う。パズルのように。 由佳:……ねえ、その話し方、やめてよ……。 拓馬:……今まで、本当にありがとう。 由佳:……ねえ、その「自分と違う相手」って、誰のこと? 拓馬:……さあ。 由佳:もう、本当にダメなの? 拓馬:ごめん。 由佳:謝るくらいなら、別れないでよ……。 拓馬:……。 由佳:じゃあ、私の最後の気持ちだけ、受け取って。 0:由佳、拓馬の頬を叩く。 由佳:このクソ男!二度と顔見せるな、ばーか! 0:由佳はける。雨が降り始める。拓馬は客席に背を向け、佇んでいる。 0:傘を差した愛梨が現れる。 愛梨:……何、見るからに落ち込んでるの。 拓馬:……愛梨。今俺は、どんな顔をしている? 愛梨:……さあね。そんなことより、そのままじゃ風邪引くよ。バカは風邪引かないって言うけど。 拓馬:くだらないな。バカは風邪を引かないのではなく、風邪を引いたことに気付かないというだけのこと。 拓馬:そもそも俺はバカじゃない。 愛梨:バカだよ。恋愛バカ。これに懲りたら、もう少し慎重になることね。ほら、帰ろう。 0:愛梨、拓馬に傘を差しだす。 0:カチ、と何かかはまる音。 愛梨:……拓馬?何ぼーっとしてんの?帰らないなら置いていくよ。 拓馬:ま、待て愛梨。 愛梨:何。 拓馬:その、あれだ…… 愛梨:何!早く帰りたいんだけど! 拓馬:愛梨、す、す……スイーツでも、食べに行くか。 愛梨:は?

0:誰が為に恋は鳴る 0:登場人物 0:拓馬 男 0:愛梨 女 0:佐藤 女 0:田中 女 0:由佳 女 拓馬:その出会いは突然やってきた! 拓馬:中学1年、2年を漫画とアニメに費やし、青春とは程遠い日々を送ったまま3年へと進級した。 拓馬:新しい教室やクラスメイトに特に胸を躍らせることもなく、無感動で教室の扉を開けたその時! 佐藤:おはよう、みんな! 0:銃声 拓馬:衝撃だった。初めての感覚だった!まるでこの身の中心を、 拓馬:そう、心臓を撃ち抜かれたような、美しい暴力だった! 拓馬:そして次の瞬間、俺は口走っていた。 拓馬:俺と付き合ってください! 佐藤:え。 拓馬:教室は静まり返っていた。突如目の前で繰り広げられたロマンティックな光景に、 拓馬:クラスの連中はまるでハトが豆鉄砲を食らったような間抜けな面をしていた。 拓馬:指を咥えて見ておけハトども。ラブストーリーの全容を!さあお嬢さん、お返事を! 佐藤:ごめんなさい。 拓馬:なんてこった!俺のラブストーリーは波乱の幕開けだった! 拓馬:豆鉄砲とは比べ物にならない衝撃!しかし今は起承転結で言うところの起!俺の戦いはこれからだ! 拓馬:それから俺は1年間、彼女を、クラスのマドンナ佐藤さんを追いかけ回した。 拓馬:佐藤さん、俺と付き合ってください! 佐藤:ごめんなさい。 拓馬:佐藤さん、俺と結婚を前提に付き合ってください! 佐藤:ごめんなさい。 拓馬:佐藤さん、誕生日プレゼントに俺の名字を受け取ってください! 田中:ごめんなさい。 拓馬:彼女は頑なだった。拒まれ続ける俺を学校の連中は冷ややかな目で見ていた。 拓馬:気持ち悪いと笑う者もいた!しかし貴様らは所詮、俺のラブストーリーに名前すら出ない有象無象。 拓馬:モブキャラクター!好きに笑え、好きに言え。 拓馬:貴様らの攻撃など、彼女から受けた銃撃に比べれば蚊の針にも至らない! 愛梨:拓馬! 拓馬:おっと、ここで新しいキャストの登場だ。こいつは愛梨。家が隣同士で幼い頃からの腐れ縁。 拓馬:誕生日がただの2日俺より早いというだけで姉貴面して世話を焼いてくる、所謂幼馴染だ。 拓馬:仕方ない、幼馴染に免じて、ラブストーリーへの登場を許してやろう。 拓馬:なんだよ、愛梨。 愛梨:拓馬、最近変だよ。佐藤さんを追いかけ回して。もうフラれてるんだから、諦めなよ。 拓馬:わかってないな。宝くじは買わない者には当たらない、勝利は戦わない者に訪れない! 拓馬:俺が諦めない限り、この恋も終わらないんだ! 愛梨:佐藤さん優しいからさ。はっきり言わないと思うけど。ちょっと気持ち悪いよ、拓馬。 愛梨:引き際も肝心だよ。 拓馬:気持ち悪いなんて佐藤さんが言うわけがないだろう。あの佐藤さんだぞ。 拓馬:あ!佐藤さん!俺と付き合って下さい! 佐藤:気持ち悪いっ! 拓馬:なんてこった! 佐藤:もう我慢の限界……断っても断ってもしつこく告白してきて……。 佐藤:そういうの、告ハラって言うんだよ!もう二度と話しかけてこないでっ! 愛梨:……あーあ。 拓馬:……。 愛梨:まあ、佐藤さんの言ってたことが正しいよ。普通は、一度フラれたのに何度も告白しないって。 拓馬:コクハラ、コクハラ……(スマホで調べている) 愛梨:知らないの? 拓馬:好意のない異性から受けた無謀かつ一方的な告白のこと……!?俺じゃないか! 愛梨:今更? 拓馬:俺……佐藤さんを初めて見た時から、胸に大きな銃撃を受けたみたいに苦しくて。 拓馬:佐藤さんに気持ちをぶつけたら、その苦しみも少しは和らいでいたんだ。 愛梨:苦しんでるのは拓馬のいわば自業自得でしょ? 拓馬:自業自得? 愛梨:勝手に好きになって、勝手に苦しくなって、勝手に気持ちをぶつけて、結果があれでしょ。 愛梨:佐藤さんは悪くないし、拓馬は1人で盛り上がってただけ。 拓馬:ならどうしたら良かったんだ。 愛梨:そりゃ、あれだよ。少しずつお互いのことを知って、距離を縮めていって……。 拓馬:そんなまどろっこしいこと、していられるか! 愛梨:そういうもんなの! 拓馬:ははーん。佐藤さんともう一度仲良くなればいい、と。 愛梨:メンタルどうなってんの?無理無理!あそこまで嫌われたらやり直せないでしょ。 拓馬:だけど……。 愛梨:はあ……。もうすぐ高校生でしょ。次に誰かを好きになった時に、頑張ればいいんじゃない。 拓馬:でも俺、この先佐藤さん以上に好きになれる人なんて……。 愛梨:あのね、みんなそう言うの。 拓馬:決めた! 愛梨:は? 拓馬:俺、高校生になったら部活に精を出す!もう恋愛なんてこりごりだ! 拓馬:心の中に佐藤さんとの思い出があれば、それで充分さ……。 愛梨:……きもちわる……。 拓馬:そんなこんなで俺は高校生になった!暗黒の中学時代は佐藤さんとの思い出のみ残し、 拓馬:あとはきれいさっぱり忘れて、新しい人生を歩むことにした! 拓馬:そうさ、人生はラブストーリーだけじゃない。ここから始まるのは、努力・友情・勝利のスポ根青春ストーリー! 拓馬:俺はバスケ部の門を叩いた。ここで俺はひたむきにボールと向き合い、仲間と協力し時にはぶつかり合い、 拓馬:同じ壁を乗り越え青春の美しい汗を、 田中:1年生のみんな、こんにちは!マネージャーの3年田中です!よろしくね。 0:何かが落ちる音。 拓馬:その瞬間、まるで俺は深い深い穴の底に突き落とされたかのようだった。 拓馬:困ったもんだ、出会いというのはいつも唐突にやってくる。 拓馬:田中先輩!俺と付き合って、 愛梨:待てーい!! 拓馬:俺は前作の登場人物がメインとして再登場する話が好きではない。 拓馬:だが幼馴染に免じて登場を許可してやろう。 拓馬:なんだ愛梨。なぜ俺と同じ学校にいる?不法侵入か? 愛梨:入学式一緒に来たでしょ! 拓馬:ん?あぁそうだった。すまんな、脇役の設定などすぐ忘れてしまうもので。 愛梨:何わけわかんないこと言ってんの。それよりあんた、何も学んでなかったのね。 拓馬:何を。 愛梨:佐藤さんの時みたいに!またすぐ告白しようとしたでしょ! 拓馬:佐藤?はて誰だったかな。 愛梨:どの口が……。 拓馬:脇役に構っている暇はないんだ。俺は忙しいからこの辺で。 拓馬:田中せんぱーーい! 愛梨:だから待てーい! 拓馬:なんなんだよ。 愛梨:二の舞になるってわからない??田中先輩と本当に付き合いたいなら、 愛梨:告白は待った方がいいんじゃない。また告ハラって言われるよ。 拓馬:グゥ!なぜだかその言葉を聞くと腹の底が痛む! 愛梨:あの時と同じ思いをしたくないなら、やり方を変えることね。 愛梨:折角同じ部活なら、試合頑張ってかっこいいところ見せたら? 拓馬:盲点だ! 愛梨:そうかなあ……。 拓馬:それから俺はバスケの練習に精を出した!全てはこの恋の成就の為に! 拓馬:このラブストーリーをハッピーエンドに導く為に! 拓馬:せんぱーい!俺があなたを甲子園に連れていきますからー! 愛梨:それ野球ね。 拓馬:朝早くから夜遅くまで俺はボールを投げ続けた!雨が降ろうと風が吹こうと、 拓馬:俺の心に吹き荒れる恋の嵐に比べたらなんのその! 拓馬:ああ、深く落ちた穴の底から空を見上げれば、見える、見えるぞ先輩の笑顔が! 拓馬:そして迎えた夏の大会! 田中:……以上が今回のレギュラーメンバーです! 拓馬:俺はベンチにすら入れなかった。びっくりする程バスケの、運動の才能がなかった。 拓馬:そりゃそうだ、中学時代は所謂インドア、運動とは無縁の冴えない日々だったからだ。 田中:(誰かに告白されている)えっ……あのね、私もずっとあなたのことが好きでした。 拓馬:そして先輩はあっさり同級生のバスケ部レギュラーの彼氏ができた。 拓馬:うわあああ!(土を集める) 愛梨:ちょっとちょっと、何やってんの。 拓馬:先輩との思い出に、土を持って帰ろうと……。 愛梨:だからそれは野球ね。 拓馬:ああ。あの穴の底から見えた先輩の笑顔は幻と消えたのか……。 拓馬:そうだ、この想いだけでも手紙にしたためて渡そう。(紙の束を出す) 愛梨:何それ。 拓馬:ラブレター。 愛梨:全部!? 拓馬:当たり前だ。俺の先輩への想いは、A4の紙ペラ一枚には到底収まりきらない。 愛梨:やめなって!先輩、彼氏できたんでしょ?もう卒業だし、諦めたら? 拓馬:だけど俺はまだこの気持ちを伝えてない。 愛梨:伝えりゃいいってもんじゃないでしょ! 拓馬:じゃあ俺のこの気持ちはどうしたらいいんだ! 拓馬:あれだけバスケ頑張ったのに……先輩もどうして気付いてくれないんだ! 拓馬:俺は必死にこの気持ちを抑えて、練習を頑張ったというのに!時間の無駄だった! 拓馬:あの人、男を見る目がないんじゃないか!? 愛梨:あのね、仮にも好きだった相手を、振り向いてくれないからって悪く言うの、 愛梨:すっごくカッコ悪いよ。恋愛って基本的に好きになった方の負けなんだから。 拓馬:なんだと! 愛梨:特に拓馬みたいに、暴走しちゃうような奴。恋に恋しちゃってるような奴! 愛梨:もう恋愛とか向いてないんじゃない。 拓馬:ははっ、偉そうなことを言いやがって。お前も彼氏なんて出来たことないだろう。 拓馬:そんな奴が偉そうに説教垂れるなんて、へそで茶が沸かせるぜ。 愛梨:(スマホが鳴る)あ、浩二だ。 拓馬:浩二? 愛梨:もしもし?うん、忘れてないよぉ。今週末は一緒に映画デートだもんね。 拓馬:で、でえと? 愛梨:ちゃんと空けてるから。うん、うん。え?これから?仕方ないなあ、じゃあ校門で待ち合わせね。 拓馬:愛梨? 愛梨:あれ、拓馬、まだいたの。私これから浩二とデートだから、先帰るね。ばいばーい。 拓馬:……なんてことだ。あいつは俺より遥か先を歩いていやがった。 拓馬:俺なんかより、よっぽど恋が何たるかをわかっている何よりの証明。 拓馬:俺は、恋に恋したただの凡人。ラブストーリーなんて存在しない。 拓馬:起承転結の起ですらない。ああ、落ちた穴から這い上がれない。 拓馬:どこまで行っても真っ暗……。もう、恋愛なんてまっぴらごめんだ。 0:拓馬はける。由佳が現れる。 由佳:あ、幸太郎くん?最近ずっと連絡くれないから、心配で来ちゃった。 由佳:……その子誰?どこ行くの、幸太郎くん!ねえ、私達付き合ってるんだよね? 由佳:私に悪いところあったら直すから!教えて、何がダメ?髪?服? 由佳:どうしたら好きになってくれる?ねえ!(突き飛ばされる) 由佳:幸太郎くん、どうして……どうしてぇ。どうして誰も私を選んでくれないの? 由佳:誰でもいい……誰か私を好きになってよ……。 0:雨。 0:拓馬、傘を持って現れる。 拓馬:……だ、大丈夫ですか? 由佳:えっ。 拓馬:良かったら、傘どうぞ。 由佳:……好き。 拓馬:えっ。 0:鐘の音。拓馬・由佳はける。 0:大学生の愛梨が現れる。 愛梨:おっそいなぁ拓馬。一緒にこの講義取ろうって言ったの、あいつなのになぁ。 0:拓馬と由佳が手を繋いで現れる。 拓馬:じゃあ由香ちゃん!俺はこの教室だから。 由佳:わかった!じゃあ頑張ってね!私待ってるから! 拓馬:うん!先に帰ったら泣いちゃうぞっ。 由佳:もー!そんなことするわけないでしょぉ〜。じゃ、連絡してね! 拓馬:はあい。 由佳:拓馬くん。 拓馬:ん? 由佳:すーきっ。きゃーっ!(はける) 拓馬:……んも〜っ!由佳—っ!俺も愛してるぞーっ! 拓馬:お、愛梨。おはよう。 愛梨:何今の!? 拓馬:あぁ、見られちまった、か。 愛梨:どう見てもこれ見よがしだったよ。え?誰? 拓馬:由佳ちゃん。 愛梨:ユカチャン? 拓馬:昨日帰り道に初めて会って、 愛梨:昨日? 拓馬:付き合うことになったんだ! 愛梨:はああ!? 拓馬:そんな嫉妬するなよ。 愛梨:いや、意味わかんないよ。昨日初めて会って、なんで付き合うことになったの? 拓馬:運命、かな。 愛梨:どうしよう、怖い! 拓馬:わはは。愛の力って偉大だなあ。 愛梨:ダメだ、会話できない……!もう恋愛は懲りたんじゃないの? 愛梨:最近ずっとおとなしかったのに……。 拓馬:むしろ10代の頃の俺がどうかしていたな。選挙権も持たないような相手に恋をしていたなんて。 愛梨:そこに魅力感じないと思うんだけど……。 拓馬:そろそろ講義が終わるな。 愛梨:やばい、全然頭に入ってこなかった。 0:由佳が現れる。 由佳:たーくーまーくんっ! 拓馬:由佳ちゃん! 由佳:待ちきれなくて迎えに来ちゃった!ね、お昼食べに行こうよ!ここの学食、おいしい? 拓馬:君と食べれば何でもおいしいさ。 愛梨:え?あなた、この大学の人じゃないんですか? 拓馬:由佳ちゃんは30歳だぞ。大人のお姉さんだ。 愛梨:エッ……! 由佳:ねえ拓馬くん、この人誰? 拓馬:脇役の、ああいや、幼馴染の愛梨だよ。 愛梨:ど、どうも……。 由佳:……私、拓馬くんが私以外の女の子と話すのやだなぁ。 拓馬:愛梨、君とはここまでだ。 愛梨:は? 拓馬:じゃあ由佳ちゃん!学食に行こっか! 由佳:はあい! 0:拓馬と由佳はける。 愛梨:……はあ。頭痛い……。 0:愛梨はけ、拓馬と由佳現れる。 由佳:学食のオムライス美味しかったー! 拓馬:じゃあ午後の講義があるから、 由佳:えーっ!私また待つの?ねえ、サボっちゃいなよお。 拓馬:……まったくぅ!由佳ちゃんは寂しがりだなあ!じゃあ遊びに行こうか! 由佳:うちおいでよぉ。 拓馬:えっ!? 由佳:一人暮らしだから気にしなくていいよぉ。 拓馬:…………ゴクリ。 由佳:そうだ!折角なら泊まっていきなよ!私、昨日の内に拓馬くんの分の 由佳:着替えとハブラシと食器も買っておいたの!朝ごはんはパン?お米? 由佳:拓馬くんの好きなもの作るよ! 拓馬:クゥ!これが愛って奴か! 由佳:ほら、早く行こう!置いてっちゃうぞ〜。 拓馬:ははは、待て〜由佳ちゃ〜ん。 0:拓馬と由佳はける。スマホで話しながら愛梨が現れる。 愛梨:うん。そうだね、もう……。うん。うん。今までありがとう。 愛梨:楽しかったよ。……じゃあね。ばいばい。(通話を切る)……はあああ。 0:落ち込む愛梨。拓馬が現れる。 0:愛梨に気付きスルーしようとするが、周りを確認した後、愛梨に話しかける。 拓馬:……おい、何を見るからに落ち込んでるんだよ、愛梨。 愛梨:……ずいぶん久しぶりだね、拓馬。最近全然講義に来ないじゃん。 愛梨:おばさんも言ってたけど、家にも帰ってないんだって? 拓馬:あぁ!実は今由佳ちゃんちでお世話になってて! 拓馬:一人暮らしだったんだけど、もうほぼ同棲状態ってやつ? 愛梨:相変わらずだね。 拓馬:毎日食卓には俺の好物が並ぶし、俺が必要としてるものを先回りして買ってくれたりさ! 拓馬:いやー愛されるってこんな幸せなんだなあ!わっはっは! 愛梨:私別れたの。 拓馬:はっ? 愛梨:高校から付き合ってた浩二と。だから今そういう話はやめて。 拓馬:あっ、ふぅーん、そ、そうか。どうせ上から目線の説教して嫌われたんだろ〜? 愛梨:……。浩二、海外ボランティアに参加するんだって。 拓馬:ボランティア!素晴らしいことじゃないか。己が身を達せんと欲せば、まず他人を達せしめよ! 拓馬:まさにそれを体現している。立派な男じゃないか、愛梨には勿体ないな。 愛梨:私は行ってほしくなかった。まだ学生なのに、他人の為に自分を犠牲にするなんて。 愛梨:私は、自分で精いっぱいだったから。 拓馬:何、世の大半は取るに足らない凡人だ。凡人というものは大概自分のことしか考えられないものさ。 愛梨:……合わなかったんだ、私達。付き合ったばかりの頃は、こんなに自分と合う人はいないって思ってたのに。 愛梨:私は、恋って、人と愛し合うって、パズルのピースみたいに、お互いに無い部分が合わさって成り立つものだと思う。 愛梨:でも、いつの間にか形が変わっちゃったみたい。 拓馬:愛梨にしては詩的な表現をするじゃないか。ま、人生何が起きるかわからないからな! 拓馬:出会いがあって別れがある、その逆もまた然り。 拓馬:愛梨が諦めない限り、新しい恋がやってくるぞ! 愛梨:……その台詞臭い喋り方、久しぶりに聞いたよ。 愛梨:はあ。拓馬に慰められるなんて。なんか甘いものでも食べに行こうかな。 愛梨:拓馬も一緒に……は、由佳さんに怒られちゃうね。じゃあ、また。 愛梨:たまには家に帰りなよ。おばさん、心配してるから。 0:愛梨はける。 0:由佳が現れる。 由佳:拓馬くん。 拓馬:アッ……。 由佳:今女の子と話してたでしょ。 拓馬:え?いやアリと話してましたけど? 由佳:どうして!?私いつも言ってるよね!他の女の子と話しちゃいやだって! 由佳:私がどれだけ不安になるかわからないの!? 拓馬:ご、ごめん!もうしないから! 由佳:ねえ、私のこと好き? 拓馬:もちろん! 由佳:……えへへっ!私も拓馬くんが大好き!あー、良かったー。安心したよぉ。 由佳:ほら帰ろ?今日の晩御飯は、拓馬くんの好きなスコッチエッグだよ。 拓馬:わーい!楽しみだなー!あ、でも、たまには実家に帰ろうかなー? 由佳:なんで!?私のこと嫌いなの!? 拓馬:そ、そんなことありえないよ! 由佳:だよねっ。ほら、早く帰ろっ! 0:由佳はける。 拓馬:……おわかりいただけただろうか。否、察しの良い奴なら気付いている筈だ。 拓馬:重い!愛が重すぎる!両手両足に一体何キロの重しをつけられているんだ? 拓馬:ドラゴンボールか?この愛から解放されたら超人的なスピードが身に着くのか? 拓馬:……だがしかし!だが、しかし!これが彼女の愛ならば、俺が受け止めないで 拓馬:誰が受け止める?そう、甘んじて受け入れようじゃないか! 0:佐藤が現れる。 佐藤:本当にそれでいいの〜? 拓馬:お、お前は! 0:田中も現れる。 田中:君は誰のために人を好きになるの〜? 拓馬:お前まで! 佐藤:ねえ、恋って楽しい? 田中:ねえ、愛ってなあに? 佐藤:ねえ、どうして人を好きになるの? 田中:ねえ、あなたはだあれ? 拓馬:ええい黙れ過去の幻影ども!忌々しい!貴様らのくだらない質問に答えてやろう。 拓馬:恋は楽しいんだ!愛さえあれば全て正しいんだ!俺は今正しく幸せなんだ! 0:愛梨が現れる。 愛梨:私は、恋って、人と愛し合うって、パズルのピースみたいに、 愛梨:お互いに無い部分が合わさって成り立つものだと思う。 拓馬:そうだ、その通りだ愛梨!脇役のくせに良いことを言うじゃないか。 佐藤:君は何を埋めてもらってるの? 拓馬:俺は、 田中:うわあ、酷くぐちゃぐちゃなパスル。 佐藤:本当。まるで無理やり捻じ曲げられてるみたい。 拓馬:うるさい! 田中:あはははははっ! 佐藤:あはははははっ! 0:愛梨・田中・佐藤はける。 拓馬:……かの有名な詩人、中原中也がこんな言葉を残している。 拓馬:その夢はすなわち唯一の愛であって、それが人を向上させる。 拓馬:この愛を持って俺は、俺たちはどこへ向かうのか?それは花の道か茨の道か。 拓馬:いや、言い訳はやめよう。理由を探すのをやめよう。俺は俺の愛を持って、 拓馬:答えを出さなければならないのだから。 0:由佳が現れる。 由佳:あ、拓馬くん!スマホ見た?連絡したんだよ?なのに返信ないから、ここまで迎えに来ちゃった。 由佳:ほら、帰ろ!ご飯の用意できてるよ! 由佳:今日は拓馬くんの好きなアクアパッツァだよ! 拓馬:由佳ちゃん。 由佳:なあに?険しい顔して。 拓馬:酷く惨たらしい夢を見たんだ。 由佳:え〜?講義中に寝てたの?もー夜更かしばっかりするからだよぉ。 拓馬:人が夢を、とりわけ悪夢を見る時は、脳が興奮しているそうじゃないか。 拓馬:俺も例外ではない、確かに俺の脳は興奮していた。その興奮を収める方法を一つだけ知っている。 由佳:……拓馬くん?なんか、変だよ。なあに、その話し方。 拓馬:由佳ちゃん。 由佳:なに? 拓馬:別れよう。 由佳:は? 拓馬:いつも俺の好きな食事を用意してくれてありがとう。俺の好きな服を揃えて、 拓馬:俺の好きな音楽をかけてくれて、俺の好きな漫画を買いそろえてくれて、 拓馬:本当にありがとう。今すぐにでもそれらにかかった諸費用を耳を揃えて返したいが、 拓馬:生憎いち大学生の俺はそんな大金をすぐに用意できない。 拓馬:時間はかかるかもしれないが、これから少しずつ返して…… 由佳:あ!そういえば、この後雨降るかもしれないんだって!ね、早く帰ろ! 拓馬:由佳ちゃん。 由佳:私たちが出会ったのも、雨の日だったね!傘を差しだしてくれた拓馬くんを見てね、 由佳:私聞こえたんだ。頭の中で。りんごん、りんごーんって、鐘の音。 由佳:運命の出会いだったよね! 拓馬:俺は何も聞こえなかった。 由佳:いいから、ほら、帰ろ? 拓馬:別れよう。 由佳:……なんで?どうして急にそんなこと言うの?私、何かしちゃった? 由佳:前髪切りすぎた?服装、好みじゃなかった?悪いところがあったら教えて? 由佳:全部直すから。拓馬くんに好きになってもらえるなら、何だってするから! 拓馬:ここから先は人として未熟であった愚か者の戯言として静聴願いたい。 拓馬:怖いんだ。疲れたんだ。この愛の行く末に不安で胸が潰されそうなんだ。 拓馬:俺は由佳ちゃんを愛し続けられる自信がなくなった。いや、綺麗ごとはやめよう。 拓馬:俺はもう由佳ちゃんを愛せない。 由佳:だ、だけど、私は拓馬くんのこと愛してるよ!だから、大丈夫だよ、ねえ! 拓馬:由佳ちゃんは、他に好きなことはあるかい? 由佳:あ、あるよ!私はね、拓馬くんの好きな食べ物が好き!拓馬くんの好きな音楽が好きで、 由佳:拓馬くんの好きな漫画が好きで、拓馬くんが好きな私が大好きなの! 由佳:ね!?だから、 拓馬:俺は君が誰だかわからない。俺と同じものを好きという君が、一体誰なのか 拓馬:さっぱりわからないんだ。それに、もう俺の好きな由佳ちゃんはいない。 由佳:……やだ、やだ! 拓馬:別れてください。 由佳:やだ! 拓馬:別れてください。 由佳:やだ! 拓馬:別れないでください。 由佳:やだってば! 拓馬:では、そういうことで。 由佳:あ!ずるい! 拓馬:そうさ!俺はずるくて愚かで無様な人間なんだ! 拓馬:君と出会うまで気付かなかった。この心臓を撃ち抜かれても! 拓馬:深い穴の底に蹴落とされても気付けなかった事実だ! 拓馬:愛とは一方的に与えるものではない。 拓馬:愛し合うということは、お互いだけを見つめることではない! 拓馬:俺も、君も、正しく愛を理解していなかったんだ! 由佳:何、正しい愛って……。正しいも、間違ってるも、そんなのないよ。 由佳:私の愛が間違ってるって言いたいの!? 拓馬:俺は、愛とは……自分と違う相手と、その違う部分をさらけ出して、 拓馬:言葉を交わし、補い合っていくことだと、そう思う。パズルのように。 由佳:……ねえ、その話し方、やめてよ……。 拓馬:……今まで、本当にありがとう。 由佳:……ねえ、その「自分と違う相手」って、誰のこと? 拓馬:……さあ。 由佳:もう、本当にダメなの? 拓馬:ごめん。 由佳:謝るくらいなら、別れないでよ……。 拓馬:……。 由佳:じゃあ、私の最後の気持ちだけ、受け取って。 0:由佳、拓馬の頬を叩く。 由佳:このクソ男!二度と顔見せるな、ばーか! 0:由佳はける。雨が降り始める。拓馬は客席に背を向け、佇んでいる。 0:傘を差した愛梨が現れる。 愛梨:……何、見るからに落ち込んでるの。 拓馬:……愛梨。今俺は、どんな顔をしている? 愛梨:……さあね。そんなことより、そのままじゃ風邪引くよ。バカは風邪引かないって言うけど。 拓馬:くだらないな。バカは風邪を引かないのではなく、風邪を引いたことに気付かないというだけのこと。 拓馬:そもそも俺はバカじゃない。 愛梨:バカだよ。恋愛バカ。これに懲りたら、もう少し慎重になることね。ほら、帰ろう。 0:愛梨、拓馬に傘を差しだす。 0:カチ、と何かかはまる音。 愛梨:……拓馬?何ぼーっとしてんの?帰らないなら置いていくよ。 拓馬:ま、待て愛梨。 愛梨:何。 拓馬:その、あれだ…… 愛梨:何!早く帰りたいんだけど! 拓馬:愛梨、す、す……スイーツでも、食べに行くか。 愛梨:は?