台本概要

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タイトル 【妖怪先生と僕】
作者名 ハルヒコ  (@kyotaro0625)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 商用、非商用問わず作者へ連絡要
説明 【あらすじ】
「この姿は私の罪なのです」
ある日、幹一の前に現れた僧侶。
彼は訳ありの『妖怪先生』であった。
これはそんな妖怪先生と少年との、大切な日々の物語。

約20分のシナリオです。

【台本利用規約】
基本的に盗作や自作発言など著作権を侵害されるような事がなければ、どの媒体で使っていただいても構いません。
アイテム等が投げられる場でもOKです。
男女逆転、アドリブ等も周りの迷惑にならない範疇では可とします。
セリフの一部抜粋、サンプルボイスに使用等も可能です。
ボイドラや舞台などで使われる際は、ご一報くださると嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
幹一 不問 50 かんいち。15歳。素直で純粋な性格。
慈海 35 じかい。35~45歳。異形の姿をしている。今は仏門に帰している。穏やかな性格。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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慈海:この姿は私の罪なのです。 幹一:(N)初めて会った時この人は、僕の先生になるこの人は、虚しさに打ちひしがれたようにそう言った。 0: 幹一:先生!スイカ!大きなスイカが採れたんでばっちゃがくれました! 幹一:一緒に食べましょ!! 慈海:まあ、大きなスイカですねえ……。 慈海:そんな量二人だけじゃ食べきれませんよ。 慈海:半分に切って残りはご近所の方々にお分けしなさい。 幹一:わかりました! 幹一:でも二つに均等に切らなきゃだから……うーん、僕できるかなあ……。 慈海:まったく、いつまでたっても台所に立てませんね君は、じゃあ貸してみなさい、私が切ってきます。 幹一:えへへ、すみません……。 : 幹一:(N)初めて先生にあったのは、去年の今日のような暑い日で、網代笠(あじろがさ)を目深(まぶか)にかぶった坊様がウチを訪ねてきた。 0:  :(呼び鈴の音) 幹一:はーい! 慈海:ああ、ごめんください。 幹一:ん?お坊さん?どうかしたの? 慈海:すみません、この暑さの中で托鉢(たくはつ)をしていたもので気分を悪くしまして…… 慈海:図々しいですが、水を一杯いただけないでしょうか? 幹一:水?ああ、いいよ!それよりお坊さん、体調が悪いならウチで少し休んでいったら? 慈海:いやいやそこまでは……本当にお水さえいただければ結構なので……。 幹一:いやいやいやいや、こんな暑さじゃそりゃ参っちゃうよ!中、入って入って! 慈海:いや、あの……。 幹一:さあさあ《慈海の腕を引く》 慈海:《入口の敷居につまづき倒れる》うっ!? : 幹一:(N)その日はばっちゃもいなく暇で、なんだか寂しい気もしていたので、ついおせっかいが過ぎてしまった。 : 幹一:わぁ!ごめんなさ……え!? : 幹一:(N)弾みで網代笠が外れて現れた容姿に言葉を失った。 幹一:なにせ長く、それでいて潰れた豚のような鼻に、頭には二本の角が突き出ていたのだ。 : 慈海:!……どうか驚いたでしょうが、騒ぎ立てないでください! 慈海:このことを、どうか内密にしていただけませんか? 慈海:皆様のことを害することはないのです。 慈海:ほうっておいて頂ければ、いずれこの村からも消えます。 幹一:《生唾を飲みこみ》……お、お坊さんは妖怪……なの? 慈海:いいえ、私は人間です。元々はね。 慈海:この姿は私の罪なのです。  :  幹一:(M)あ、とても哀しい瞳だ……。  :  幹一:罪……? 慈海:ええ罪です、こんな姿にされるほどの消しきれない罪を、私は犯したのです。 慈海:《網代笠を拾ってまたかぶり直し》せめてもの贖罪(しょくざい)になるかと仏道に入り、幾らか徳を積んだつもりですが……どうやら何の罪滅ぼしにもならないようです。 幹一:……。 慈海:驚かせるつもりはなかったのですが……本当に申し訳ないことをした、それでは《家を出ようとする》。 幹一:あ! 慈海:? 幹一:お水……まだだったよね? 慈海:え? 幹一:え?なにかおかしなこと言った? 慈海:……ふっ、あっはははは! 幹一:え、ええ!?何!? 慈海:ははは……はぁ、こりゃまた奇特な……いいえ、親切な方もいたものですね。 幹一:ええ?なにが? 慈海:私のこの姿を見て、まだ親切に扱ってくれた方は、貴方が初めてですよ。 幹一:はーぁ……なるほど……え?そうなの? 慈海:ふっふふふ、ははははは。 慈海:本当に……貴方は『善い人(いいひと)』なのですね。 慈海:これ以上なく無垢な少年だ。 慈海:余程ご両親は良い育て方をされたのでしょう。 幹一:いや、僕には親はいなくて……ばっちゃが僕を育ててくれたんだ。 慈海:そうですか、いいおばあ様なのですね……。 慈海:……それでは、お水を一杯、いただけますか? : 幹一:(N)そう言った、先生の顔はにこやかで、瞳の哀しみも消えていた。 0: 幹一:(N)僕が先生の元に頻繁に通うようになったのは、去年の秋の暮れ、 幹一:小学校までしか行っていない僕に、先生が勉学を教えてくれるということになったからだ。 : 幹一:せんせぇーい、休憩しませんか? 慈海:さっき休んだばかりじゃないですか。 慈海:もう少し、頑張りなさい。 幹一:小学校までは平仮名ばっかりで済んだのに、なんで中学に上がった途端、こんなに漢字だらけの読みづらい問題文になるんですかねえ。 慈海:常ですよ幹一。 慈海:上に行けば行くほど偉ぶりたくなるんです。 慈海:人も問題もね。 幹一:確かに偉そうだ。 幹一:うん、いかにも気取ってる。 慈海:さあ、それがわかったなら続きを解いてみなさい。 幹一:うへえ……。 : 幹一:(N)勉学についてはかなり手厳しい指導だったが、不意に皮肉やユーモアがとび出す先生の授業が僕は大好きだった。 幹一:そしてたまに先生は、勉強よりも覚えておかなければならないことを教えてくれた。 : 慈海:幹一。幹一にはおばあ様以外に大事な人はいますか? 慈海:いないならおばあ様に、できるだけ親切になさい。 慈海:してやれることは目一杯して、とにかく話しをしなさい。 慈海:人はいつかどこかで死んでしまうのだから。 幹一:?どうしたんですか急に。 慈海:よく聞きなさい、私も貴方が大切だからこうして尽くしているのです。 慈海:死ぬ方でも見送る方でも、悔いが残らぬよう私は生きたいのです。 慈海:そして貴方にもそうであってほしい。 幹一:……わかりました!じゃあ僕も先生が大切だから、もっと先生に親切にします! 幹一:あ!もちろんばっちゃにも。 慈海:!……ふふふ、器量の大きい大人になりますよ君は。 慈海:いやそうでなければ、私は人間不信になりそうです。 0: 幹一:(N)盆が過ぎ、暑さも幾分冷めた頃、先生のいる家を僕が訪ねると、荷物がまとめられていて家の中がすっからかんになっていた。 幹一:慌てて家に上がり先生を探すと、先生は奥の間で何かを書いていた。 : 幹一:先生!どうしたんです?引越しでもなさるんですか? 慈海:ああ、君か。 慈海:ちょうど良かった……そこに掛けなさい。 幹一:え?はい……。 慈海:《文章を書きながら》村の方に私の素顔を見られてしまいました。 慈海:幸いまだ優しいかたで、すぐこの村を去れば騒ぎにはしないと言ってくれました。 幹一:え……。 慈海:私も、同い年の子供達に追いつくまでは君に勉学を教えたかったのですが、どうやら無理なようです。 慈海:ごめんなさいね、何もかも中途半端な先生で。 幹一:そ、そんな……嫌ですよ! 幹一:どこに行くんですか?僕そこまで通いますから! 慈海:やめておきなさい、少なくともここまで噂の届くような範囲にはいられません。 幹一:じゃ、じゃあ手紙は!? 幹一:そうだ、文通しましょ!住所…… 慈海:《被せ気味に》手紙ですか、ちょうど良かった。 慈海:幹一、これをあなたに預けておきます。《封筒に入れて、手紙を渡す》 幹一:え!これは!? 慈海:私がいなくなってから開けてください、どうか今は開けずに持っていてください。 幹一:……どうして。 慈海:それを見てしまったら、きっと私はあなたの先生ではいられなくなる。 慈海:あなたの『先生』でいられる内に、私はこの地を去りたい。 幹一:!!《感情に身を任せるように、勢いよく家を出ていく》 慈海:幹一!? : 幹一:(N)僕は現実が受け止めきれなくて、走った。 幹一:走って、大きな樫(かし)の木の木陰で、封筒をビリビリにして先生から預けられた手紙を開けた。 0: 幹一:《手紙を読み》拝啓幹一様。 幹一:この手紙を読んでいる頃、私は君のもとを去っているはずですね。 幹一:どうしても言いたくて、しかし貴方に伝えられなかったことがあります。 幹一:初めに会った時一度ちらりと話しましたが私は大罪人です。 幹一:貴方には伝えねばならないことがたくさんあったのですが、 あなたから慕われること、尊敬されること、あなたの『先生』であることが心地よくて仕方がなくて、それに甘え、貴方に罪の告白をできずにいました。 幹一:ですが、それでは私の心がそれを許せません。 幹一:なので、貴方の元を去った今、一人の罪人として私の罪をここにしたためます……。 慈海:(手紙)私は、以前とある村で自警団として働いていました。 慈海:ある日、賊が村に入り女性を何人も攫っていくという事件が起きました。 慈海:その中には、私の愛する女性もいました。 慈海:私は感情のまま突っ走り、単独で攫われた女性たちと賊を追いました。 慈海:しかし、これが間違っていたのです。 慈海:私が攫われた女性達を見つけた時……彼女達は全員惨(むご)たらしい姿で山中に散らばっていました。 慈海:暴行と陵辱(りょうじょく)の跡があり、私は怒りに震え上がりました。 慈海:すぐに村に戻り……いや戻ろうとしました。 慈海:しかし、村は再び現れた賊によって燃やされ、逃げようとしたであろう村人たちは、みな切り捨てられて地に伏していました。 慈海:炎に消えていく村と、腕に抱いた冷たい恋人の顔を交互に見つめた時、私の中でぷっつりと何かが切れた音がしました。 慈海:その当時、賊達がたむろしていたのは、村の山の裏側で、そこを突き止めた私は……ここからは記憶があまりありません。 慈海:覚えがあるのは顔面の熱さと血しぶきの生ぬるい感覚だけで、次に気がついた時には私は異形(いぎょう)に姿を変え、屍の山の中で泣き叫んでいました。 慈海:愛する人一人守れず、それどころか村を守る身分の私が判断を誤ったせいで村を焼かれ、多くの人間をこの手で殺めた。 慈海:この様な醜い姿になるのには相応しい罪です。 慈海:これを見て、貴方は私を軽蔑したでしょう。 慈海:これでもう、私は貴方の『先生』ではなくなった。 慈海:どうか私の事など忘れ、おばあ様やこれからできる大切な人々と、一瞬を大事に、長く元気に生きてください。 慈海:ありがとう、さようなら。 : 幹一:(N)読んでいくうちにポツリポツリと涙がこぼれて、手紙の文字が滲んだ。 幹一:先生がどんな罪を犯したかなんて正直どうでもよかった。 幹一:ただ先生はどんな思いを抱いて、今を生きているんだろう。 幹一:辛い、苦しい……哀しいなんて思っているんじゃないかと思うと、いてもたってもいられなくなって、来た道を全力で駆け戻った。 0: 幹一:《走って息が切れ》はぁはぁはぁ……先生!先生!どこですか先生! : 幹一:(N)戻ってみると、先生の姿がどこにも見当たらない。 幹一:荷物はそのままだったので、どこかにはいるだろうと家中探し回ったが、ついに先生は見つからなかった。 幹一:ただ奥の間の机の上に、一枚の便箋が残されていて、そこにはこう綴られていた。 : 慈海:(手紙)ありがとう、貴方の『先生』にしてくれて。 慈海:私にはもうなんの悔いもありません。 0: 幹一:(N)先生と別れてから3年が経った、僕は相変わらず馬鹿で元気だけが取り柄で……。 幹一:結局あの後、先生が戻ることはなかった。 幹一:どこへ行ったのか、生きてるのか死んでるかも定かではないけれど、先生の言葉だけは僕の心に深く残っている。 幹一:いつ死んでも、見送っても悔いがないように、僕は……。 : 幹一:ばっちゃ!寝てなよ、腰痛いんだろ?僕がやってくるから待っててな! : 幹一:(N)一瞬を大切に生きてるよ、先生。 :Fin.

慈海:この姿は私の罪なのです。 幹一:(N)初めて会った時この人は、僕の先生になるこの人は、虚しさに打ちひしがれたようにそう言った。 0: 幹一:先生!スイカ!大きなスイカが採れたんでばっちゃがくれました! 幹一:一緒に食べましょ!! 慈海:まあ、大きなスイカですねえ……。 慈海:そんな量二人だけじゃ食べきれませんよ。 慈海:半分に切って残りはご近所の方々にお分けしなさい。 幹一:わかりました! 幹一:でも二つに均等に切らなきゃだから……うーん、僕できるかなあ……。 慈海:まったく、いつまでたっても台所に立てませんね君は、じゃあ貸してみなさい、私が切ってきます。 幹一:えへへ、すみません……。 : 幹一:(N)初めて先生にあったのは、去年の今日のような暑い日で、網代笠(あじろがさ)を目深(まぶか)にかぶった坊様がウチを訪ねてきた。 0:  :(呼び鈴の音) 幹一:はーい! 慈海:ああ、ごめんください。 幹一:ん?お坊さん?どうかしたの? 慈海:すみません、この暑さの中で托鉢(たくはつ)をしていたもので気分を悪くしまして…… 慈海:図々しいですが、水を一杯いただけないでしょうか? 幹一:水?ああ、いいよ!それよりお坊さん、体調が悪いならウチで少し休んでいったら? 慈海:いやいやそこまでは……本当にお水さえいただければ結構なので……。 幹一:いやいやいやいや、こんな暑さじゃそりゃ参っちゃうよ!中、入って入って! 慈海:いや、あの……。 幹一:さあさあ《慈海の腕を引く》 慈海:《入口の敷居につまづき倒れる》うっ!? : 幹一:(N)その日はばっちゃもいなく暇で、なんだか寂しい気もしていたので、ついおせっかいが過ぎてしまった。 : 幹一:わぁ!ごめんなさ……え!? : 幹一:(N)弾みで網代笠が外れて現れた容姿に言葉を失った。 幹一:なにせ長く、それでいて潰れた豚のような鼻に、頭には二本の角が突き出ていたのだ。 : 慈海:!……どうか驚いたでしょうが、騒ぎ立てないでください! 慈海:このことを、どうか内密にしていただけませんか? 慈海:皆様のことを害することはないのです。 慈海:ほうっておいて頂ければ、いずれこの村からも消えます。 幹一:《生唾を飲みこみ》……お、お坊さんは妖怪……なの? 慈海:いいえ、私は人間です。元々はね。 慈海:この姿は私の罪なのです。  :  幹一:(M)あ、とても哀しい瞳だ……。  :  幹一:罪……? 慈海:ええ罪です、こんな姿にされるほどの消しきれない罪を、私は犯したのです。 慈海:《網代笠を拾ってまたかぶり直し》せめてもの贖罪(しょくざい)になるかと仏道に入り、幾らか徳を積んだつもりですが……どうやら何の罪滅ぼしにもならないようです。 幹一:……。 慈海:驚かせるつもりはなかったのですが……本当に申し訳ないことをした、それでは《家を出ようとする》。 幹一:あ! 慈海:? 幹一:お水……まだだったよね? 慈海:え? 幹一:え?なにかおかしなこと言った? 慈海:……ふっ、あっはははは! 幹一:え、ええ!?何!? 慈海:ははは……はぁ、こりゃまた奇特な……いいえ、親切な方もいたものですね。 幹一:ええ?なにが? 慈海:私のこの姿を見て、まだ親切に扱ってくれた方は、貴方が初めてですよ。 幹一:はーぁ……なるほど……え?そうなの? 慈海:ふっふふふ、ははははは。 慈海:本当に……貴方は『善い人(いいひと)』なのですね。 慈海:これ以上なく無垢な少年だ。 慈海:余程ご両親は良い育て方をされたのでしょう。 幹一:いや、僕には親はいなくて……ばっちゃが僕を育ててくれたんだ。 慈海:そうですか、いいおばあ様なのですね……。 慈海:……それでは、お水を一杯、いただけますか? : 幹一:(N)そう言った、先生の顔はにこやかで、瞳の哀しみも消えていた。 0: 幹一:(N)僕が先生の元に頻繁に通うようになったのは、去年の秋の暮れ、 幹一:小学校までしか行っていない僕に、先生が勉学を教えてくれるということになったからだ。 : 幹一:せんせぇーい、休憩しませんか? 慈海:さっき休んだばかりじゃないですか。 慈海:もう少し、頑張りなさい。 幹一:小学校までは平仮名ばっかりで済んだのに、なんで中学に上がった途端、こんなに漢字だらけの読みづらい問題文になるんですかねえ。 慈海:常ですよ幹一。 慈海:上に行けば行くほど偉ぶりたくなるんです。 慈海:人も問題もね。 幹一:確かに偉そうだ。 幹一:うん、いかにも気取ってる。 慈海:さあ、それがわかったなら続きを解いてみなさい。 幹一:うへえ……。 : 幹一:(N)勉学についてはかなり手厳しい指導だったが、不意に皮肉やユーモアがとび出す先生の授業が僕は大好きだった。 幹一:そしてたまに先生は、勉強よりも覚えておかなければならないことを教えてくれた。 : 慈海:幹一。幹一にはおばあ様以外に大事な人はいますか? 慈海:いないならおばあ様に、できるだけ親切になさい。 慈海:してやれることは目一杯して、とにかく話しをしなさい。 慈海:人はいつかどこかで死んでしまうのだから。 幹一:?どうしたんですか急に。 慈海:よく聞きなさい、私も貴方が大切だからこうして尽くしているのです。 慈海:死ぬ方でも見送る方でも、悔いが残らぬよう私は生きたいのです。 慈海:そして貴方にもそうであってほしい。 幹一:……わかりました!じゃあ僕も先生が大切だから、もっと先生に親切にします! 幹一:あ!もちろんばっちゃにも。 慈海:!……ふふふ、器量の大きい大人になりますよ君は。 慈海:いやそうでなければ、私は人間不信になりそうです。 0: 幹一:(N)盆が過ぎ、暑さも幾分冷めた頃、先生のいる家を僕が訪ねると、荷物がまとめられていて家の中がすっからかんになっていた。 幹一:慌てて家に上がり先生を探すと、先生は奥の間で何かを書いていた。 : 幹一:先生!どうしたんです?引越しでもなさるんですか? 慈海:ああ、君か。 慈海:ちょうど良かった……そこに掛けなさい。 幹一:え?はい……。 慈海:《文章を書きながら》村の方に私の素顔を見られてしまいました。 慈海:幸いまだ優しいかたで、すぐこの村を去れば騒ぎにはしないと言ってくれました。 幹一:え……。 慈海:私も、同い年の子供達に追いつくまでは君に勉学を教えたかったのですが、どうやら無理なようです。 慈海:ごめんなさいね、何もかも中途半端な先生で。 幹一:そ、そんな……嫌ですよ! 幹一:どこに行くんですか?僕そこまで通いますから! 慈海:やめておきなさい、少なくともここまで噂の届くような範囲にはいられません。 幹一:じゃ、じゃあ手紙は!? 幹一:そうだ、文通しましょ!住所…… 慈海:《被せ気味に》手紙ですか、ちょうど良かった。 慈海:幹一、これをあなたに預けておきます。《封筒に入れて、手紙を渡す》 幹一:え!これは!? 慈海:私がいなくなってから開けてください、どうか今は開けずに持っていてください。 幹一:……どうして。 慈海:それを見てしまったら、きっと私はあなたの先生ではいられなくなる。 慈海:あなたの『先生』でいられる内に、私はこの地を去りたい。 幹一:!!《感情に身を任せるように、勢いよく家を出ていく》 慈海:幹一!? : 幹一:(N)僕は現実が受け止めきれなくて、走った。 幹一:走って、大きな樫(かし)の木の木陰で、封筒をビリビリにして先生から預けられた手紙を開けた。 0: 幹一:《手紙を読み》拝啓幹一様。 幹一:この手紙を読んでいる頃、私は君のもとを去っているはずですね。 幹一:どうしても言いたくて、しかし貴方に伝えられなかったことがあります。 幹一:初めに会った時一度ちらりと話しましたが私は大罪人です。 幹一:貴方には伝えねばならないことがたくさんあったのですが、 あなたから慕われること、尊敬されること、あなたの『先生』であることが心地よくて仕方がなくて、それに甘え、貴方に罪の告白をできずにいました。 幹一:ですが、それでは私の心がそれを許せません。 幹一:なので、貴方の元を去った今、一人の罪人として私の罪をここにしたためます……。 慈海:(手紙)私は、以前とある村で自警団として働いていました。 慈海:ある日、賊が村に入り女性を何人も攫っていくという事件が起きました。 慈海:その中には、私の愛する女性もいました。 慈海:私は感情のまま突っ走り、単独で攫われた女性たちと賊を追いました。 慈海:しかし、これが間違っていたのです。 慈海:私が攫われた女性達を見つけた時……彼女達は全員惨(むご)たらしい姿で山中に散らばっていました。 慈海:暴行と陵辱(りょうじょく)の跡があり、私は怒りに震え上がりました。 慈海:すぐに村に戻り……いや戻ろうとしました。 慈海:しかし、村は再び現れた賊によって燃やされ、逃げようとしたであろう村人たちは、みな切り捨てられて地に伏していました。 慈海:炎に消えていく村と、腕に抱いた冷たい恋人の顔を交互に見つめた時、私の中でぷっつりと何かが切れた音がしました。 慈海:その当時、賊達がたむろしていたのは、村の山の裏側で、そこを突き止めた私は……ここからは記憶があまりありません。 慈海:覚えがあるのは顔面の熱さと血しぶきの生ぬるい感覚だけで、次に気がついた時には私は異形(いぎょう)に姿を変え、屍の山の中で泣き叫んでいました。 慈海:愛する人一人守れず、それどころか村を守る身分の私が判断を誤ったせいで村を焼かれ、多くの人間をこの手で殺めた。 慈海:この様な醜い姿になるのには相応しい罪です。 慈海:これを見て、貴方は私を軽蔑したでしょう。 慈海:これでもう、私は貴方の『先生』ではなくなった。 慈海:どうか私の事など忘れ、おばあ様やこれからできる大切な人々と、一瞬を大事に、長く元気に生きてください。 慈海:ありがとう、さようなら。 : 幹一:(N)読んでいくうちにポツリポツリと涙がこぼれて、手紙の文字が滲んだ。 幹一:先生がどんな罪を犯したかなんて正直どうでもよかった。 幹一:ただ先生はどんな思いを抱いて、今を生きているんだろう。 幹一:辛い、苦しい……哀しいなんて思っているんじゃないかと思うと、いてもたってもいられなくなって、来た道を全力で駆け戻った。 0: 幹一:《走って息が切れ》はぁはぁはぁ……先生!先生!どこですか先生! : 幹一:(N)戻ってみると、先生の姿がどこにも見当たらない。 幹一:荷物はそのままだったので、どこかにはいるだろうと家中探し回ったが、ついに先生は見つからなかった。 幹一:ただ奥の間の机の上に、一枚の便箋が残されていて、そこにはこう綴られていた。 : 慈海:(手紙)ありがとう、貴方の『先生』にしてくれて。 慈海:私にはもうなんの悔いもありません。 0: 幹一:(N)先生と別れてから3年が経った、僕は相変わらず馬鹿で元気だけが取り柄で……。 幹一:結局あの後、先生が戻ることはなかった。 幹一:どこへ行ったのか、生きてるのか死んでるかも定かではないけれど、先生の言葉だけは僕の心に深く残っている。 幹一:いつ死んでも、見送っても悔いがないように、僕は……。 : 幹一:ばっちゃ!寝てなよ、腰痛いんだろ?僕がやってくるから待っててな! : 幹一:(N)一瞬を大切に生きてるよ、先生。 :Fin.