台本概要

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タイトル 正義-必要悪シリーズ第1話-
作者名 雲依浮鳴  (@KATANATO13692 )
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 犯罪者の語る正義。己の正義を貫くも腐った現実に拒まれ葛藤を抱く警察官。裁けない悪党を裁こうとするのが間違いなのか、それともこの街のシステムが間違っているのか。答えは行動した後でしか得られない。この現状を飲み込むか、否定し抗うか。アングラ系の作品の一話目です。
タイトル「正義」は正義を成す為に悪になるとう皮肉とタロットの正義の逆位置の暗示としてつけている。
次話→「魔術師」(https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/2458)
――――――
一人称や語尾の改変等の文章の意味が変わらない程度であれば改変可。
非商用利用であれば連絡不要、連絡いただければ喜び可能なら聴きに行きます。
(作者名:ゆくえふめい)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
警察官 不問 66 己の正義に疑問を抱き葛藤する者。男性想定だが、女性が演じてもよい
犯罪者 不問 65 自身の正義に陶酔し、機を待つ者。年齢性別共に不詳。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
警察官:起きろ、話がある。 犯罪者: ・・・んん、あぁ、もうこんな時間かい 警察官:昼間まで寝坊とはいいご身分だな、犯罪者。 犯罪者:あぁ、全くだよ。君も羨ましいならこちら側に来るといい。 警察官:馬鹿を言うな。俺はぶち込む側だ。お前らの様な異常者をな。 犯罪者:ははは、そうイライラするものじゃない。今日は月に一回の荷物の搬送があってね、看守達も人手が足りてないようだよ。少し、待たされた位で腹を立てるんじゃないよ。 警察官:(舌打ち)、そもそもお前らの様な存在が居なければ、俺もこんな思いをしなくて済む。 犯罪者:だから、私が手伝っているじゃないか。私のおかげでどれだけの悪党を捕まえる事が出来た? 警察官:・・・お前もその一人だがな。 犯罪者:ははは、私が?君はまったく。君は前任者より見る目がないな 警察官:は? 犯罪者:奴はいい目を持っていたなぁ。あの鋭い眼光は多くの悪党を震えさせた。うーん、本当に惜しい奴を亡くした。 警察官:・・・あぁ、そうだな。 犯罪者:それで何の用だ。君の前任者の仇である警官殺しは、君自身がその手で捕まえただろう。 警察官:・・・どうせ全部お見通しなんだろ?天才殺人鬼。 犯罪者:ははは、殺人鬼か。いいや違う、私は鬼では無い。鬼とはそれこそ、警官殺しや君らが捕まえて来た奴らの事だろう? 警察官:そいつらとお前は違うと言いたいのか? 犯罪者:あぁ、全くもって違う。水と油のようにそもそもの性質が違う。私は私なりの正義に、奴らは奴らなりの欲望に従って動いている。まさにヒーローと悪党の構図だ。 警察官:・・・32人殺しが何を言う。同じだろ。 犯罪者:私はね、自ら自首したんだ。そして、残りの寿命を悪党共の逮捕の為に、こうやって君たちに協力している。ただ捕まって刑の執行を待つゴミ共とはわけが違う。いいか坊や、そこは間違えてはいけない。君の尊敬する前任者は、そこの分別が出来る賢い人間だった。だから、私とも仲良くなれた。坊やは賢い人間かな? 警察官:・・・どう理屈をこねようと、どう考えを並べようと、結果は他と変わらねぇ。お前は人を殺した。それも多すぎる数をだ。他のゴミ共と変わらない。天才だがなんだか言われて気取ってんじゃねぇぞ犯罪者!自首だ?捕まるのが怖くなっただけだろ? 犯罪者:馬鹿ほど吠えると言うが、君はその典型だなぁ。前任者が可哀想だ。無能な部下のせいで亡くなったとは・・・ 警察官:あ?てめぇ今なんつった?ゴラァ! 犯罪者:そのままの意味だよ、坊や。感情的になると言うことは、君自身がそう感じている節があるようだ。だが、ここで吠えるだけ無駄だ。私は君に恐怖を感じないし、ましてや怒鳴られようと怯えもしない。つまり、君が叫ぶだけ時間と体力の浪費だ。 警察官:(舌打ち)今日は腹立ってんだ、言葉には気をつけろよ。 犯罪者:苛立つ気持ちは分かる。ぶつけどころがないのだろ? 警察官:分かったような口を聞くな!お前らみたいなゴミに何がわかる!お前らのようなもゴミがいなければ先輩は!! 犯罪者:ジョン・アーフラー。酷い死に方だった。彼の望み通り、墓は家の裏に立ててあげたのか? 警察官:は?なんでそれを 犯罪者:彼は私の数少ない友人だった。 警察官:先輩が、お前と友人?ふざけたことを抜かすな!! 犯罪者:言っただろ?前任の彼は分別が付けられる賢い人間だったと。 警察官:だからといってお前のような殺人鬼と・・・ 犯罪者:彼と私は似た者同士というやつだ。同じ思考や、思想を持っていた。何故、この世には法律で裁けない悪がいるのか。この点で私たちは一致していたのさ。 警察官:裁けない悪・・・? 犯罪者:・・・そうさ、君がここに来たのもそれに纏わる話だろ?察するに警官殺しの釈放についてだろ。 警察官:(舌打ち)、やっぱ分かってんじゃねえか気持ちわりぃ。 犯罪者:ははは、君はわかりやすいからねぇ。釈放されるのは3日後だ。 警察官:あ?冗談抜かすな。釈放は7日後だ。 犯罪者:君こそ冗談はよしてくれ、あと7日も持つと思うのか? 警察官:・・・何の話だ? 犯罪者:んん、少しは冷静になってきたかな?冷静な方が顔も幾分かはマシだなぁ。 警察官:・・・ 犯罪者:褒めてやったというのにそう睨むな。君は思わないか?ここら一体を仕切っていたギャングのボスを、私たちの同胞であるジョンを殺した憎むべき悪党を君は捕まえた。これは賞賛されるべき事実だ。だが何故君は、昇進はおろか現場に立たせて貰えず、雑用ばかりの部署に押しやられた? 警察官:・・・命令違反。俺が待機命令を無視して1人で乗り込んだからだ。 犯罪者:そうだとも、組織としてみれば重大な違反だ。君を真似て純粋無垢なヒヨコ達が殉職してしまうかもしれない。だが、それはそれだ。君が捜査資料を見せて貰えないのは別の理由だ。 警察官:わかったように言いやがって腹が立つ。なんだよ、その理由ってのは 犯罪者:少しは自分で考えろ。そうやって答えを他人に求めていてはジョンが可哀想だ。 警察官:あ?先輩は関係ねぇだろ!! 犯罪者:関係あるさ、私は忠告した。今回限りは有能な部下を連れていけと、だが彼は私の忠告を無視し君を連れて行った。結果は言うまでもない。 警察官:・・・黙れよ。黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!!お前が信用されてなかったとは考えられねぇのかよ!!お前みたいな異常者に!何が!わかる!!! 犯罪者:やれやれ・・・。私は信用されていた。そして君もだ坊や。少しはその信用に応えてやってくれ、でなければジョンが可哀想だ。 警察官:クッ!!ああああ!!! 犯罪者:くくく、どれだけ叩いてもこのガラスは壊れんよ。 警察官:はぁ、はぁ、はぁ、 犯罪者:時間は有限だ。そろそろ答えを聞こう。 警察官:・・・マルロ・セブンス。奴は武闘派で気に入らない組織を次から次に潰して取り込んで大きくなった。そして頭もキレるやつでもあった。ある程度大きくなるとドラックに手を出して各所とのパイプを作った。 犯罪者:ふん?続けたまえ 警察官:奴の恐ろしい所はビジネス面だ。表で会社を立ち上げ資金源を別途で確保しつつ、武力とドラックでこの地域一帯を統べる男になった。そして、そのパイプには警察関係者も繋がっていた。 犯罪者:残念な事だ。 警察官:その警察関係者の中に官僚が含まれていた。つまり・・・ 犯罪者:つまり?なんだね 警察官:捕まえてはいけないやつを捕まえた。 犯罪者:んー、実に面白い表現だ。だが、君の本心とは違うな。 警察官:・・・ 犯罪者:気にしなくていい、ここは録音もされていない。ジョンもよく愚痴をこぼしていたよ。 警察官:・・・捕まえなきゃならない、捕まえるべき悪党。 犯罪者:くくく、そうだな、奴は裁かれるべき悪党だ。そんな奴を捕まえた君が、何故こうして愚痴をこぼしているんだ? 警察官:捕まえた事で恨みを買った。奴を捕まえた事で汚職連中らは心底冷や汗をかいたはずだ。 犯罪者:あぁ小悪党共にとっては突然の雷雨だったろうね。ここも慌ただしかったよ。だが、それだけならやつが釈放される理由には不十分だ。 警察官:不十分?何故だ? 犯罪者:君はジョンから何を学んだんだ?ジョンなら満点とはいかなくても、80点の回答をしてくれていたよ。 警察官:・・・ 犯罪者:遅い、思考に時間をかけすぎだ。 警察官:治安・・・か?街の治安。ここら一体を統べたいた奴が突然逮捕されたとあったら、これを機にと動く奴らも出てくるはずだ。後釜を狙う奴らの抗争が起きる。汚職連中は保身のために抗争への対応が遅れる。だから、奴を戻す。それが汚職連中の保身にもつながり、抗争も抑えられる。そうだろ? 犯罪者:くくく、できるじゃないか。荒いが概ねその通りだ。あんな悪党でも立ち回り次第では必要悪だ。 警察官:待て、釈放される理由はわかった。何故期間が早まる?1週間あれば汚職連中や他の何かしらの情報を吐かせられる。 犯罪者:自分で答えを言っている事に気づいてないのかい?何かしらの情報を吐く危険性があるからだ。本来捕まるはずのない男が、まさかの薬物密売の現行犯で捕まった。これ程のチャンスは無い。警察という組織内だけでも、様々な信念を持つもの達が動いているはずだ。先程も言ったが、汚職連中は気が気でなかっただろうねぇ。だから奴がボロを出す前に追い出したいのさ。それに、もう既に裏世界は今の警察では止められない程にざわついている。もたないのさ、誰かのせいでな。 警察官:俺は間違った事はしていない 犯罪者:あぁ、そうだとも。何も間違っちゃいない。間違っているのは悪党を裁けないこの街のシステムだ。 警察官:捕まえたくても捕まえられない…。裁くべき相手を裁けない。警察という組織は腐ってやがるな。 犯罪者:あぁ、だから私のような人間が必要なのだよ。少しは理解したか?私が殺した32人は全員、法では裁けない悪党だ。故に私は目の敵にされた。それでも君たちは私を捕まえるには至らなかったがね。 警察官:あぁ、見え方が変わったよ。お前は突出した異常者だよ。 犯罪者:ははは、私の事はアンリと呼んでくれ。 警察官:あ?アンリ? 犯罪者:いずれ意味が分かる時が来るさ。 警察官:・・・どうでもいい。 犯罪者:名前は重要だ。自分を見失った時に、それを定義するのは名前だ。君も自分が何者か考えた事くらいはあるだろう? 警察官:そのくらい誰でもあるだろ。今がそうだってか?馬鹿言え、思春期の子供じゃあるまいしな。 犯罪者:・・・君は、何者だ? 警察官:哲学的な問答をする気は無い。仲良くなった気でいるなら間違いだ。お前は一生檻の中で俺は自由だ。 犯罪者:私には不自由に見えるがね。 警察官:俺が?お前の目は節穴か?檻の中で妄想をし過ぎて現実が見えなくなったんじゃないか?俺のどこが不自由なんだ! 犯罪者:君が私の所に尋ねて来たのはなんでだったかな?訂正しておくが、妄想ではなく推察だ。私はね、君が無駄な言葉を羅列している間にも、数年先の未来を予測しているんだ。 警察官:俺がここに来たのは迷える子羊のように、教えを乞いに来たとでも思っているか?違うな、お前の様な異常者を見て、信念を、熱意を、思い出す為だ。数年先の未来?自分が預言者だと言いたいのか?どうやら末期みたいだな。かわいそうに。お前の為に誰が十字を切ってくれるんだろうな。 犯罪者:私に対して十字を切る事に意味はない。私が導く側だからだ。 警察官:本当に気をやっちまってんだな。お前はただの悪党だよ。 犯罪者:くっははは、わからない奴だな坊やは。そんな迷える子羊に1つ預言を与えてやろう。 警察官:は?そんなもの・・・ 犯罪者:今夜、この町で一番大きな川の三番目の橋。その下で待て。 警察官:何の話だ? 犯罪者:目の前に停まった黒の車に乗れ、運転手には何も話かけるな。 警察官:妄想の話に付き合う暇はない。 犯罪者:少し先のバーガーショップで運転手が降りる。そしたら、一番近い港へ迎え。十三番目の建物の前に車を止めろ、エンジンもだ。目印の建物には十字架が記されている。不安なら確認するといい。 警察官:・・・ 犯罪者:チャンスは一度だ。この先はもうない。これは天からのいや、私からの褒美だ。自分で捕まえた獲物は自分の手で裁け。 警察官:・・・釈放は、3日後と言っていたが? 犯罪者:くくく、そうだとも。だが、私は今日に荷物の搬送があるといったがね 警察官:腐ってやがる 犯罪者:ほら、もう要件は済んだはずだ。あとは君次第。私の予測では・・・おや聞いていかないのかい? 警察官:これ以上、異常者の戯言を耳に入れてたら脳が腐っちまう。どうせ、当たってんだ。聴くまでもないだろう。 犯罪者:ははは、残念だ。 0:間 0:場面転換。夜の港、十三番倉庫前。車内 警察官:その日の夜。気づいたら、俺は港に居た。十字架の印のある建物の前に車を停めて。短い時間だった。俺が覚悟を決めるより先に、奴は後部座席に乗ってきた。いや、覚悟は決まっていた。足りなかったのは、引き金を引く勇気だけだった。奴は、乗ってくるなり醜い口を開き、この世の者とは思えない吐き気のするような声で、ヘドロのような言葉を喋った。内容は聞くに堪えず、記憶するのを拒む程だ。あぁ、これが悪魔なのだと、本当の邪悪なのだと思った。この悪を裁かなければ、そう思った時には、奴の右足には2つの風穴が空いていた。そのあとは、再現だった。奴が先輩にしたように殴り、削り、剥いだ。俺の中に感情は無かった。ただ、あぁ、これでゴミが一つ減ったのだと、そう感じただけだった。 0:場面転換、刑務所内の礼拝室。 犯罪者:初めまして、私はアンリと申します。貴方はここで自身の犯した罪を告白する事が出来ます。ここで話した内容は裁判での証言にされる事はありません。私もまた、貴方の発言を他言しない事を主に誓います。 警察官:アンリ・・・はは、なんで檻の外に出てんだ? 犯罪者:はて、なんの事でしょう。 警察官:あぁあぁ、そういう。ははは。よく出来てるよ、この街の仕組みはよ・・・ははは。それで、俺はどうだったんだ? 犯罪者:うーん、まだ混乱しているようですね。主はまだ貴方を見捨ててはいません。これからの行動次第です。貴方が悔い改め、今までの行動を反省し善行を積むのであれば、主はまた、貴方を導く事でしょう。 警察官:それは残念だ。悪いが神父さん。俺は神を信じてない。 犯罪者:信仰は貴方の自由です。 警察官:俺は俺の見たものを信じるよ。 犯罪者:では、貴方が見たものは 警察官:俺は、金髪、青い瞳、長身で細身、高めの声の奴に逮捕された。感謝している。俺の悪行を止めてくれた。名前は・・・ 犯罪者:素晴らしい。主が貴方に変わりその者を祝福する事でしょう。他にありますか? 警察官:いいや、感謝を伝えたいだけだ。 犯罪者:結構、では今日はここまでにしましょう。次は、7月の2日、19日、28日に行きます。その時にまたお会いしましょう。 警察官:ん?神父さん7月はもう・・・あぁ、そうか。わかった、また会おう。 犯罪者:それでは、またお会いしましょう。 犯罪者:(小声で)貴方はまだ繭です。これからだ。相談は早めに。 警察官:主の導きのままに。 0:犯罪者退出 警察官:721928・・・6桁?あぁ、そういう考えね。21928番は汚職発覚で捕まった政治家か、確か幼児愛好家って噂もあったな。7日の猶予か、早めに処理しないとな。アンリに繭か、あぁ、そういうこと。ふん、くだらない中二病だ。だが、俺は俺を信じる。残念だが、今はあいつが正しい。さてと、どう処理するか・・・。 犯罪者:くくく、ジョンは良いものを置いていった。あれは稀にみる才をもった男だ。これからどう羽化するか楽しみだ。私と並ぶ程はいかなくても、足元程度には並ぶ素質はある。この刑務所でまずは下積みだ。あぁ、ついにこの街の清掃活動が始められる。ははは、ジョン、君の死は最大限に生きた。私たちの夢はそう遠くないぞ。

警察官:起きろ、話がある。 犯罪者: ・・・んん、あぁ、もうこんな時間かい 警察官:昼間まで寝坊とはいいご身分だな、犯罪者。 犯罪者:あぁ、全くだよ。君も羨ましいならこちら側に来るといい。 警察官:馬鹿を言うな。俺はぶち込む側だ。お前らの様な異常者をな。 犯罪者:ははは、そうイライラするものじゃない。今日は月に一回の荷物の搬送があってね、看守達も人手が足りてないようだよ。少し、待たされた位で腹を立てるんじゃないよ。 警察官:(舌打ち)、そもそもお前らの様な存在が居なければ、俺もこんな思いをしなくて済む。 犯罪者:だから、私が手伝っているじゃないか。私のおかげでどれだけの悪党を捕まえる事が出来た? 警察官:・・・お前もその一人だがな。 犯罪者:ははは、私が?君はまったく。君は前任者より見る目がないな 警察官:は? 犯罪者:奴はいい目を持っていたなぁ。あの鋭い眼光は多くの悪党を震えさせた。うーん、本当に惜しい奴を亡くした。 警察官:・・・あぁ、そうだな。 犯罪者:それで何の用だ。君の前任者の仇である警官殺しは、君自身がその手で捕まえただろう。 警察官:・・・どうせ全部お見通しなんだろ?天才殺人鬼。 犯罪者:ははは、殺人鬼か。いいや違う、私は鬼では無い。鬼とはそれこそ、警官殺しや君らが捕まえて来た奴らの事だろう? 警察官:そいつらとお前は違うと言いたいのか? 犯罪者:あぁ、全くもって違う。水と油のようにそもそもの性質が違う。私は私なりの正義に、奴らは奴らなりの欲望に従って動いている。まさにヒーローと悪党の構図だ。 警察官:・・・32人殺しが何を言う。同じだろ。 犯罪者:私はね、自ら自首したんだ。そして、残りの寿命を悪党共の逮捕の為に、こうやって君たちに協力している。ただ捕まって刑の執行を待つゴミ共とはわけが違う。いいか坊や、そこは間違えてはいけない。君の尊敬する前任者は、そこの分別が出来る賢い人間だった。だから、私とも仲良くなれた。坊やは賢い人間かな? 警察官:・・・どう理屈をこねようと、どう考えを並べようと、結果は他と変わらねぇ。お前は人を殺した。それも多すぎる数をだ。他のゴミ共と変わらない。天才だがなんだか言われて気取ってんじゃねぇぞ犯罪者!自首だ?捕まるのが怖くなっただけだろ? 犯罪者:馬鹿ほど吠えると言うが、君はその典型だなぁ。前任者が可哀想だ。無能な部下のせいで亡くなったとは・・・ 警察官:あ?てめぇ今なんつった?ゴラァ! 犯罪者:そのままの意味だよ、坊や。感情的になると言うことは、君自身がそう感じている節があるようだ。だが、ここで吠えるだけ無駄だ。私は君に恐怖を感じないし、ましてや怒鳴られようと怯えもしない。つまり、君が叫ぶだけ時間と体力の浪費だ。 警察官:(舌打ち)今日は腹立ってんだ、言葉には気をつけろよ。 犯罪者:苛立つ気持ちは分かる。ぶつけどころがないのだろ? 警察官:分かったような口を聞くな!お前らみたいなゴミに何がわかる!お前らのようなもゴミがいなければ先輩は!! 犯罪者:ジョン・アーフラー。酷い死に方だった。彼の望み通り、墓は家の裏に立ててあげたのか? 警察官:は?なんでそれを 犯罪者:彼は私の数少ない友人だった。 警察官:先輩が、お前と友人?ふざけたことを抜かすな!! 犯罪者:言っただろ?前任の彼は分別が付けられる賢い人間だったと。 警察官:だからといってお前のような殺人鬼と・・・ 犯罪者:彼と私は似た者同士というやつだ。同じ思考や、思想を持っていた。何故、この世には法律で裁けない悪がいるのか。この点で私たちは一致していたのさ。 警察官:裁けない悪・・・? 犯罪者:・・・そうさ、君がここに来たのもそれに纏わる話だろ?察するに警官殺しの釈放についてだろ。 警察官:(舌打ち)、やっぱ分かってんじゃねえか気持ちわりぃ。 犯罪者:ははは、君はわかりやすいからねぇ。釈放されるのは3日後だ。 警察官:あ?冗談抜かすな。釈放は7日後だ。 犯罪者:君こそ冗談はよしてくれ、あと7日も持つと思うのか? 警察官:・・・何の話だ? 犯罪者:んん、少しは冷静になってきたかな?冷静な方が顔も幾分かはマシだなぁ。 警察官:・・・ 犯罪者:褒めてやったというのにそう睨むな。君は思わないか?ここら一体を仕切っていたギャングのボスを、私たちの同胞であるジョンを殺した憎むべき悪党を君は捕まえた。これは賞賛されるべき事実だ。だが何故君は、昇進はおろか現場に立たせて貰えず、雑用ばかりの部署に押しやられた? 警察官:・・・命令違反。俺が待機命令を無視して1人で乗り込んだからだ。 犯罪者:そうだとも、組織としてみれば重大な違反だ。君を真似て純粋無垢なヒヨコ達が殉職してしまうかもしれない。だが、それはそれだ。君が捜査資料を見せて貰えないのは別の理由だ。 警察官:わかったように言いやがって腹が立つ。なんだよ、その理由ってのは 犯罪者:少しは自分で考えろ。そうやって答えを他人に求めていてはジョンが可哀想だ。 警察官:あ?先輩は関係ねぇだろ!! 犯罪者:関係あるさ、私は忠告した。今回限りは有能な部下を連れていけと、だが彼は私の忠告を無視し君を連れて行った。結果は言うまでもない。 警察官:・・・黙れよ。黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!!お前が信用されてなかったとは考えられねぇのかよ!!お前みたいな異常者に!何が!わかる!!! 犯罪者:やれやれ・・・。私は信用されていた。そして君もだ坊や。少しはその信用に応えてやってくれ、でなければジョンが可哀想だ。 警察官:クッ!!ああああ!!! 犯罪者:くくく、どれだけ叩いてもこのガラスは壊れんよ。 警察官:はぁ、はぁ、はぁ、 犯罪者:時間は有限だ。そろそろ答えを聞こう。 警察官:・・・マルロ・セブンス。奴は武闘派で気に入らない組織を次から次に潰して取り込んで大きくなった。そして頭もキレるやつでもあった。ある程度大きくなるとドラックに手を出して各所とのパイプを作った。 犯罪者:ふん?続けたまえ 警察官:奴の恐ろしい所はビジネス面だ。表で会社を立ち上げ資金源を別途で確保しつつ、武力とドラックでこの地域一帯を統べる男になった。そして、そのパイプには警察関係者も繋がっていた。 犯罪者:残念な事だ。 警察官:その警察関係者の中に官僚が含まれていた。つまり・・・ 犯罪者:つまり?なんだね 警察官:捕まえてはいけないやつを捕まえた。 犯罪者:んー、実に面白い表現だ。だが、君の本心とは違うな。 警察官:・・・ 犯罪者:気にしなくていい、ここは録音もされていない。ジョンもよく愚痴をこぼしていたよ。 警察官:・・・捕まえなきゃならない、捕まえるべき悪党。 犯罪者:くくく、そうだな、奴は裁かれるべき悪党だ。そんな奴を捕まえた君が、何故こうして愚痴をこぼしているんだ? 警察官:捕まえた事で恨みを買った。奴を捕まえた事で汚職連中らは心底冷や汗をかいたはずだ。 犯罪者:あぁ小悪党共にとっては突然の雷雨だったろうね。ここも慌ただしかったよ。だが、それだけならやつが釈放される理由には不十分だ。 警察官:不十分?何故だ? 犯罪者:君はジョンから何を学んだんだ?ジョンなら満点とはいかなくても、80点の回答をしてくれていたよ。 警察官:・・・ 犯罪者:遅い、思考に時間をかけすぎだ。 警察官:治安・・・か?街の治安。ここら一体を統べたいた奴が突然逮捕されたとあったら、これを機にと動く奴らも出てくるはずだ。後釜を狙う奴らの抗争が起きる。汚職連中は保身のために抗争への対応が遅れる。だから、奴を戻す。それが汚職連中の保身にもつながり、抗争も抑えられる。そうだろ? 犯罪者:くくく、できるじゃないか。荒いが概ねその通りだ。あんな悪党でも立ち回り次第では必要悪だ。 警察官:待て、釈放される理由はわかった。何故期間が早まる?1週間あれば汚職連中や他の何かしらの情報を吐かせられる。 犯罪者:自分で答えを言っている事に気づいてないのかい?何かしらの情報を吐く危険性があるからだ。本来捕まるはずのない男が、まさかの薬物密売の現行犯で捕まった。これ程のチャンスは無い。警察という組織内だけでも、様々な信念を持つもの達が動いているはずだ。先程も言ったが、汚職連中は気が気でなかっただろうねぇ。だから奴がボロを出す前に追い出したいのさ。それに、もう既に裏世界は今の警察では止められない程にざわついている。もたないのさ、誰かのせいでな。 警察官:俺は間違った事はしていない 犯罪者:あぁ、そうだとも。何も間違っちゃいない。間違っているのは悪党を裁けないこの街のシステムだ。 警察官:捕まえたくても捕まえられない…。裁くべき相手を裁けない。警察という組織は腐ってやがるな。 犯罪者:あぁ、だから私のような人間が必要なのだよ。少しは理解したか?私が殺した32人は全員、法では裁けない悪党だ。故に私は目の敵にされた。それでも君たちは私を捕まえるには至らなかったがね。 警察官:あぁ、見え方が変わったよ。お前は突出した異常者だよ。 犯罪者:ははは、私の事はアンリと呼んでくれ。 警察官:あ?アンリ? 犯罪者:いずれ意味が分かる時が来るさ。 警察官:・・・どうでもいい。 犯罪者:名前は重要だ。自分を見失った時に、それを定義するのは名前だ。君も自分が何者か考えた事くらいはあるだろう? 警察官:そのくらい誰でもあるだろ。今がそうだってか?馬鹿言え、思春期の子供じゃあるまいしな。 犯罪者:・・・君は、何者だ? 警察官:哲学的な問答をする気は無い。仲良くなった気でいるなら間違いだ。お前は一生檻の中で俺は自由だ。 犯罪者:私には不自由に見えるがね。 警察官:俺が?お前の目は節穴か?檻の中で妄想をし過ぎて現実が見えなくなったんじゃないか?俺のどこが不自由なんだ! 犯罪者:君が私の所に尋ねて来たのはなんでだったかな?訂正しておくが、妄想ではなく推察だ。私はね、君が無駄な言葉を羅列している間にも、数年先の未来を予測しているんだ。 警察官:俺がここに来たのは迷える子羊のように、教えを乞いに来たとでも思っているか?違うな、お前の様な異常者を見て、信念を、熱意を、思い出す為だ。数年先の未来?自分が預言者だと言いたいのか?どうやら末期みたいだな。かわいそうに。お前の為に誰が十字を切ってくれるんだろうな。 犯罪者:私に対して十字を切る事に意味はない。私が導く側だからだ。 警察官:本当に気をやっちまってんだな。お前はただの悪党だよ。 犯罪者:くっははは、わからない奴だな坊やは。そんな迷える子羊に1つ預言を与えてやろう。 警察官:は?そんなもの・・・ 犯罪者:今夜、この町で一番大きな川の三番目の橋。その下で待て。 警察官:何の話だ? 犯罪者:目の前に停まった黒の車に乗れ、運転手には何も話かけるな。 警察官:妄想の話に付き合う暇はない。 犯罪者:少し先のバーガーショップで運転手が降りる。そしたら、一番近い港へ迎え。十三番目の建物の前に車を止めろ、エンジンもだ。目印の建物には十字架が記されている。不安なら確認するといい。 警察官:・・・ 犯罪者:チャンスは一度だ。この先はもうない。これは天からのいや、私からの褒美だ。自分で捕まえた獲物は自分の手で裁け。 警察官:・・・釈放は、3日後と言っていたが? 犯罪者:くくく、そうだとも。だが、私は今日に荷物の搬送があるといったがね 警察官:腐ってやがる 犯罪者:ほら、もう要件は済んだはずだ。あとは君次第。私の予測では・・・おや聞いていかないのかい? 警察官:これ以上、異常者の戯言を耳に入れてたら脳が腐っちまう。どうせ、当たってんだ。聴くまでもないだろう。 犯罪者:ははは、残念だ。 0:間 0:場面転換。夜の港、十三番倉庫前。車内 警察官:その日の夜。気づいたら、俺は港に居た。十字架の印のある建物の前に車を停めて。短い時間だった。俺が覚悟を決めるより先に、奴は後部座席に乗ってきた。いや、覚悟は決まっていた。足りなかったのは、引き金を引く勇気だけだった。奴は、乗ってくるなり醜い口を開き、この世の者とは思えない吐き気のするような声で、ヘドロのような言葉を喋った。内容は聞くに堪えず、記憶するのを拒む程だ。あぁ、これが悪魔なのだと、本当の邪悪なのだと思った。この悪を裁かなければ、そう思った時には、奴の右足には2つの風穴が空いていた。そのあとは、再現だった。奴が先輩にしたように殴り、削り、剥いだ。俺の中に感情は無かった。ただ、あぁ、これでゴミが一つ減ったのだと、そう感じただけだった。 0:場面転換、刑務所内の礼拝室。 犯罪者:初めまして、私はアンリと申します。貴方はここで自身の犯した罪を告白する事が出来ます。ここで話した内容は裁判での証言にされる事はありません。私もまた、貴方の発言を他言しない事を主に誓います。 警察官:アンリ・・・はは、なんで檻の外に出てんだ? 犯罪者:はて、なんの事でしょう。 警察官:あぁあぁ、そういう。ははは。よく出来てるよ、この街の仕組みはよ・・・ははは。それで、俺はどうだったんだ? 犯罪者:うーん、まだ混乱しているようですね。主はまだ貴方を見捨ててはいません。これからの行動次第です。貴方が悔い改め、今までの行動を反省し善行を積むのであれば、主はまた、貴方を導く事でしょう。 警察官:それは残念だ。悪いが神父さん。俺は神を信じてない。 犯罪者:信仰は貴方の自由です。 警察官:俺は俺の見たものを信じるよ。 犯罪者:では、貴方が見たものは 警察官:俺は、金髪、青い瞳、長身で細身、高めの声の奴に逮捕された。感謝している。俺の悪行を止めてくれた。名前は・・・ 犯罪者:素晴らしい。主が貴方に変わりその者を祝福する事でしょう。他にありますか? 警察官:いいや、感謝を伝えたいだけだ。 犯罪者:結構、では今日はここまでにしましょう。次は、7月の2日、19日、28日に行きます。その時にまたお会いしましょう。 警察官:ん?神父さん7月はもう・・・あぁ、そうか。わかった、また会おう。 犯罪者:それでは、またお会いしましょう。 犯罪者:(小声で)貴方はまだ繭です。これからだ。相談は早めに。 警察官:主の導きのままに。 0:犯罪者退出 警察官:721928・・・6桁?あぁ、そういう考えね。21928番は汚職発覚で捕まった政治家か、確か幼児愛好家って噂もあったな。7日の猶予か、早めに処理しないとな。アンリに繭か、あぁ、そういうこと。ふん、くだらない中二病だ。だが、俺は俺を信じる。残念だが、今はあいつが正しい。さてと、どう処理するか・・・。 犯罪者:くくく、ジョンは良いものを置いていった。あれは稀にみる才をもった男だ。これからどう羽化するか楽しみだ。私と並ぶ程はいかなくても、足元程度には並ぶ素質はある。この刑務所でまずは下積みだ。あぁ、ついにこの街の清掃活動が始められる。ははは、ジョン、君の死は最大限に生きた。私たちの夢はそう遠くないぞ。