台本概要

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タイトル 魔術師-必要悪シリーズ第2話-
作者名 雲依浮鳴  (@KATANATO13692 )
ジャンル その他
演者人数 3人用台本(不問3)
時間 50 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 必要悪シリーズ2話目→1話目は「正義」(https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/2435)

「正義」で利害の一致から手を組んだ元警察官のコクーンとアンリが本格的に動きだす前の話。出所したてのコクーンの前に現れるガラム。自称コクーンの先輩というガラムとコクーンの最初の出会いの話。
本作はタイトルをタロットの意味から取っている。今回は正位置として、自由に行動し確かな手応えを得られそうという暗示。逆位置として、周囲に流されるうちに、一日が終わるだろうという暗示で解釈している。
――――――
一人称や語尾の改変等の文章の意味が変わらない程度であれば改変可。
非商用利用であれば連絡不要、連絡いただければ喜び可能なら聴きに行きます。
(作者名:ゆくえふめい)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アンリ 不問 72 年齢性別ともに不詳。会う時々で役職、名前、見た目や声が違う。コクーンの前では連続殺人鬼のアンリとして一貫した振る舞いをしている。
コクーン 不問 140 愚直な性格。鋭い観察力を持ち推察する力も持ち合わせているが、まだ思考が固い。演者の性別は不問(男性イメージだが女性が演じてもよい)。
ガラム 不問 83 軽いノリとセンスで生きている。才能に恵まれた人物。名前の由来はオーニソガラムから来ている。花言葉は才能。演者の性別は不問(女性イメージだが男性が演じてもよい)。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:車内、運転席にアンリ、出所したてのコクーンが助手席に座る。 コクーン:迎えが早いな アンリ:君の出所が早まったからね。 コクーン:あぁ、そういう事。お前が早めたんだろ。力を知らしめる為か? アンリ:くくく、好きに受け取るといい。君には久しぶりの外だ、少し車を走らせ街の様子を見せてやろう。 0:アンリが車を走らせる コクーン:あぁそうかい、否定はなしか。犯罪者の癖にその態度、2年前と変わらねぇな、実に腹立たしい。 アンリ:おいおい、同じ犯罪者同士じゃないか。そう角を立てるな。 コクーン:同じね・・・。首輪付きの元警察官と野放しの連続殺人鬼。大した差があると思うがな。 アンリ:くくく、面白いジョークだ。警察官は全員、もとから首輪がついているだろ。首が締まる程に。 コクーン:笑えないジョークだ。皮肉はよしてくれ。こころが痛む。 アンリ:ははは!君こそ、これ以上の冗談はよしてくれ。君に痛むこころがあるというのかね? コクーン:あー、そうだな3人目まではあったな アンリ:つまらん嘘をいうな、1人目の時にはもう失っていただろう。でなければ、あのような猟奇的なやり方はできない。あの時にこころを持っていたというのなら、それこそ突出した異常者だ。 コクーン:・・・まるで見ていたかのような言い方だな。 アンリ:あぁ、見ていたとも。あのガラス張りの部屋からね。 コクーン:見ていたか、妄想していたの間違いだろ アンリ:妄想ではない、推察だ。 コクーン:はぁ・・・。それで、どこに向かってるんだ?目的もなく走らせているわけじゃないだろ? アンリ:この街をどう思う? コクーン:かわらねぇな。警察も悪党もだ。善行な者は搾取され、悪に手を染めた者は徳をしている。正直者が馬鹿を見る腐った街だよ。この様子だと2年前の事件なんかもう忘れられてそうだな。 アンリ:そう拗ねるな。善行な市民は凄惨な事件を忘れ過ごし、悪党どもはその事件が落とした影に怯えている。君が死ぬまで忘れられる訳がないだろう、裏の界隈では君はちょっとした有名人だ。コクーン。 コクーン:コクーン?何だそのダサいのは。まさか・・・ アンリ:くくく、そのまさかだ。君の通り名だ。ここ2年でよく耳にするようになった。 コクーン:(舌打ち)お前が広めたのか?あぁ? アンリ:なぜ?私が?広めるメリットがどこにある。 コクーン:脅し・・・いや、ないな。デメリットのほうが多い。 アンリ:そうだろう。弱いものは物事に対して名称を付けたがる。そうする事でそれを知識として処理しようとする。それだけでは何の意味もないがね。 コクーン:はいはい、どうせならもっとかっこいい名前が良かったね。 アンリ:私はちょうどいいと思うがね。君はまだ坊やだ。 コクーン:良かったな、今日が出所日で。機嫌がいいからお前を殺さないでいてやるよ。 アンリ:それはそれは感謝しなければね。感謝の印とお祝いもかねて私からのプレゼントだ。ここが目的地だよ。 0:駐車場に停車。到着したのはケーキ屋。 コクーン:はは、出所したての奴にケーキ(刑期)をプレゼントね。皮肉がきいてやがる。なめやがって。 アンリ:くくく、ホールケーキを買ってやろう。 0:場面転換。店内。向かい合って座る2人。 コクーン:それで、なんでケーキなんだ?しかもホールケーキ。2人で全部食えるのか? アンリ:食えるとも。君の意味の無い疑問よりも。私は君が珈琲を頼んだことに疑問を感じているよ。 コクーン:普通だろ。甘いものに苦いものを合わせる。セオリーだ。お前のその、何だ?水なのかシロップなのかわからんその飲み物の方が疑問だ。 アンリ:ふむ、0点だ。頭を全く使っていない。 コクーン:あぁ? アンリ:頭を使わないから珈琲なんぞが飲めるんだ。糖分を使わない人間は怖いねぇ。 コクーン:ははーん。さてはお前、苦い物が苦手だな? アンリ:つまらないことを言うな。カフェインを取ると思考が鈍る。それだけの理由だ。 コクーン:プライドの高いお前のために、そういうことにしといてやるよ。 アンリ:わかった気になって無駄口を叩く前に、この問いに答えて見せろ。どうせ君には無理だろうがね。このホールケーキを五分五分に分けてくれ。 コクーン:五分五分?そんなの問題でも何でも無いだろ。ほら半分だ。これで満足か?あまちゃん坊や。 アンリ:0点どころかマイナス点だ馬鹿者が。今日は歩いて帰れ。 コクーン:はぁ?何でだよ。 アンリ:私は問に答えろといったはずだ。 コクーン:・・・ アンリ:ダメだな。時間切れだ。 コクーン:・・・ アンリ:ぬるま湯につかり過ぎて思考が鈍ったな。無理して大人ぶったところで坊やは坊やか。あまちゃん坊や。 コクーン:(舌打ち)坊やって言うのやめろ。で?お前の意図は何だったんだ。教えろよ。 アンリ:君の出所祝いだからな。機嫌を直して説明してやろう。私は五分五分に分けてくれと言った。そして君はそうした。言われた通りに、それも綺麗に半分に切り分けた。これは正直者がやる事だ。この街は正直者が馬鹿を見る腐った世界だったな? コクーン:あー、そういう・・・ アンリ:浮かれ気分から目が覚めたか?そんな事をしていたら君が食べられるケーキはこの位だ。 コクーン:2割くらいか。少ないな。 アンリ:少ない?むしろ多いくらいだ。相手を喰らう気で行かねばこちらが食われる。五分の契約と言う裏で、どちらが主導権を握り大きく利を得るかの攻防が行われるのが常だ。仲良く半分だなんて事は、あまっちょろい鼻垂れたガキの妄言だ。 コクーン:・・・言葉の裏を読め。相手の言葉を信用するな。相手から奪え。あぁ、固まった思考を解せってことが言いたいのか? アンリ:ふむ、ご明察の通りだ。元警察官だからというのもあって仕方がない部分もあるのだろうが、コクーン。君はこころを解放したが、思考は未だに常識に囚われている。 コクーン:・・・ アンリ:計画的な殺しではまだ幾分かマシだが、咄嗟の問答や行動には、君の愚直な部分が出ている。頭のネジを外せ。思考を柔らかくし発想を広げるんだ。そうする事で視野も広くなる。 コクーン:わかったよ。 コクーン:(店員に)オーダーだ!このホールケーキをもうひとつ! アンリ:おや、君と言うやつは。 コクーン:これで五分五分だな? アンリ:発想は柔らかくなったが・・・まぁいい。プライドの高い坊やの為に、それで良しとしよう。ところで、君はワンホール食べれるのかい? コクーン:え? アンリ:くくく、馬鹿者が 0:場面転換。某建物の地下。 ガラム:コクーンって知っているだろ?そいつを探しに来たんだ。君たち、コクーンの事を嗅ぎ回ってたでしょ?居場所とか知らないかい?そうか、知らないか。ならキミは要らないね。 0:ガラム発砲、1人撃ち抜かれ死ぬ。 ガラム:君、聞こえてたよね?居場所わかる?分からないなら・・・え?だって君ら、コクーンを尾行してたでしょ?え、なんで尾行していたのを知ってるかだって?うんうん、正解。君は聡いね。殺すには惜しいけど残念。君たちはレオの構成員みたいだし、尚更始末しなきゃいけない。 0:ガラム発砲、2人目が撃ち抜かれ倒れる。 ガラム:うん、まぁそういうことだから。ごめんね。この質問に意味は無いけど、形式上聞くね。コクーンの居場所はどこ?知ってるから答えなくていいけどね。 0:ガラム発砲、3人目が撃ち抜かれ倒れる。 ガラム:最後に君だ。あぁーん?君は・・・まだ殺しをしたことなさそうだね。うーん。こうしよう。はい、これ。見た事ある?リボルバー。銃は触った事ある?・・・違うね、こう持ってこうやって撃つ。いい子だ。今から命を懸けてルーレットを行おう。今、この弾倉に3発の弾が入ってる。空の弾倉は3つ。つまり生きるも死ぬも五分五分ってこと。自分に向かって引き金を引きな。その後で君の頭に穴が空いていなければ、そのまま見逃してやるよ。さぁ、弾倉を回して。うん、よく回ったね。いいよ、後は君のタイミングで引き金を引いて。 0:数秒後、発砲音。4人目が自分を撃ち倒れる。 ガラム:馬鹿なヤツ。僕に向かって引き金を引けば、僕も死んで君は生き残ったのに。言われた通りにするなんて馬鹿な正直者だな。嫌いじゃないけど。それじゃ生きていけないのがこの世界の嫌な所だよねぇ。さてと、掃除も終わったし、可愛い後輩でも見に行くかな。 0:場面転換、ケーキ屋店内。向き合って座る2人。 コクーン:ううううう、舐めていた。こんなにきつい物なのか。 アンリ:くくく、2年ぶりに食べる人間の飯は美味いだろ? コクーン:ああ、豚の餌みてぇな残飯の塊よりかはマシだがよ。甘い、甘すぎる。 アンリ:だから私が親切心で切り分けてやったというのに、傲慢で強欲な君への罰だな。 コクーン:あの二割にはそんな意味が・・・クソが、お前の事だ。俺が追加で頼むように仕向けたんだろ! アンリ:いや、知らないねぇ。責任転嫁は良くない。 コクーン:(舌打ち)なんでお前は難なく食べきってんだ? アンリ:頭を使うからだよ。君と違ってね。さて、食べながらでいい。聞け。 コクーン:あ? アンリ:君には名前がついた。良くも悪くもだ。だが今は悪い意味合いが強い。 コクーン:街に入ってから監視されてんのはそれが理由ね。 アンリ:・・・理由までわかって察せるなら及第点だが。君はまだ赤点だな。 コクーン:・・・二年前の事件だろ。 アンリ:わからないなら口を閉じていろ。君は口を閉ざしていても馬鹿だとわかるがな。 コクーン:・・・ アンリ:二年前の君が行った事は本来ならあり得ない。奇跡といっても過言ではない出来事だ。表も裏も等しく世間が騒いだ。芋虫がゾウを殺したんだからな。 コクーン:そんなに差があるのか?ボスと言ってもただの一人の人間だ。 アンリ:あぁ、君が想像するよりもただの人間ひとりに天と地ほどの差がある。だが、君はその垣根を超えて、あっさりとやってのけた。殺しの一件については私の手引きがあったとはいえ、一度は自力で逮捕している。この事実が、悪い方向に働いている。 コクーン:あー、そういう・・・。後釜争いで決着が付かず、睨み合ってる状態ってこったろ?いわば冷戦状態。そこに戦火を起こした火つけ役本人が戻ってきたとなったら、そりゃ穏やかではないわな。 アンリ:言いたいことはわかるな?君は真っ先につぶされる。弱いからだ。 コクーン:おいおい、その時はお前も道ずれだろ? アンリ:くくく、馬鹿も休み休みにしてくれ。仲良くなった気でいるなら大間違いだ。 コクーン:は、強がるなよ。お前は2年前とさほど地位も名誉も変わっていないと見た。未来を予言するお前が二年も無駄にする訳がない。つまり、動きたくても動けなかった。お前の言う推察が外れたんだろう。裏世界を牛耳っていたボスを殺したのに、思いのほか事の運びが悪かった。違うか?そして、動けない理由もあった。それも差し迫った理由。それが出所が早まった理由でもある。 アンリ:ふむ、なんだね?その理由は。 コクーン:身の危険。ヘマをしたのか知らないが、裏世界に回状が回ったんだろ。お前の名前を記してな。 アンリ:いいだろう。及第点だ。素晴らしい、これぞ糖分の力だ。馬鹿が少しは治った。 コクーン:あぁ?なら残りも全部食うか? アンリ:いいや、遠慮しよう。私はもう十分過ぎる程に賢いからね。君にはもうワンホール食べてほしいくらいだ。 コクーン:遠慮する。今にも口から出てきそうなんだ。それで、ボディーガードを頼みに来たんだろ?素直にそういえばいい。 アンリ:くくく、命を狙われている奴にボディーガードを頼む馬鹿がこの世にいるのか?回状に記された名前はコクーン。 コクーン:は? アンリ:君の名前はなんだったかな? コクーン:あ、あぁ、アンリ? アンリ:違うだろ!それは私の名前だ!渡す気はないぞ!! コクーン:いらねーよ。名前に拘りすぎだろ異常者。てか、有名ってそういう。 アンリ:あぁ、そうだとも。何人かの悪党が自ら壁を越えて君に挨拶に行ったはずだ。 コクーン:あぁ、そういうこと。変な奴らがいるとは思ったよ。 アンリ:君が死ぬ前に、せめて外の空気を吸わせてやろうと思ったんだ。君が綺麗にしようとした街は、君のせいでさらに腐ってしまった。 コクーン:あぁ、主とやらは何をしていたのかね。 アンリ:その話は今ではない。山にある教会で話そう。私は先に戻る。 コクーン:置いていくのか? アンリ:歩いて帰れといっただろ。それに街を直で感じてくるといい。学べるものもあるかもしれないからな。念の為これらを渡しておく。誕生日おめでとう。 コクーン:お祝いするには二年遅いだろうよ。名刺に携帯あとは・・・はぁ、はいはい、生きてたらまた。 0:アンリ退出 コクーン:ふぅ、のんびり食べますか。 0:数十分後。ケーキ屋店内に、ガラム入店。 ガラム:んー?あ!いた。普通にいるじゃん。 コクーン:・・・ ガラム:こんにちは、そこの人。 コクーン:・・・話かけるな ガラム:あらら、怖いなぁ。挨拶くらいは返してよ。 コクーン:それ以上話すな。 ガラム:うーん、困ったね。僕何かした? コクーン:・・・でそうなんだ。う、うう。 ガラム:出そうって何が? コクーン:(嘔吐) ガラム:あぁ、何が出そうなのか聞いたけど、出してほしかった訳じゃないんだ。何かごめんね。 0:場面転換。車内。運転するガラム。助手席に乗るコクーン。 ガラム:気分はどうだい? コクーン:あぁ、だいぶマシになった。迷惑かけたな。 ガラム:まぁ、気にするな。なんかつらい事でもあったのかい? コクーン:あぁ、長年夢みてたものの現実を知って落ち込んでたんだ。 ガラム:それでホールケーキをやけ食い?半分も食べれてなかったけどね。 コクーン:昔みたいには食べれなかっただけだよ。 ガラム:ふーん。 コクーン:てか、上着。汚して悪かったよ。 ガラム:あー、気にしなくていいよ。 コクーン:すまん。てか、なんで上着を脱がないんだ? ガラム:寒がりでね。クリーニング代のかわりと言ったらなんだけど、少し付き合ってほしい。 コクーン:いいよ。そういや、教会を探してたんだっけ? ガラム:そう、旅をしていてね。今日この街にたどり着いたばかりでさ。ここまで無事にたどり着けた事への感謝と報告の為に祈りにね。 コクーン:ふーん、熱心なことだ。 ガラム:そういう君は、信仰していないのかい? コクーン:そうだな、昔は祈っていたよ。そこを右、あとは道なりだ。 ガラム:そういえば、名前を聞いていなかったね。僕はガラム。君は? コクーン:あー、コクーン。 0:車が停まる ガラム:・・・ コクーン:・・・ ガラム:君ねぇ・・・賞金がかかってる自覚ある? コクーン:今日釈放されてさっき知ったんだ。自覚もクソもあるかよ。 ガラム:死ぬよ? コクーン:ガラム、お前が車を停めたおかげで俺が死ぬ確率は0に近くなったよ。いい腕のスナイパーが居れば話は別だが。そんな奴がいるならお前が接触する理由がない。それにケーキ屋でやってるはずだ。 ガラム:今ここで、僕に撃ち殺されるとは考えなかったかい? コクーン:撃てるなら撃ってみろ。左手で右わきの銃を抜けるならな。 ガラム:はは、は、だから助手席に座ったんだね。僕が左利きだと見抜いてたわけだ。 コクーン:わざとやってんのかって思うくらいには、重心が傾いてたぞ。右側に重たい何かを吊るしてるのが丸わかりだ。血の匂いも隠せてない。上着を脱げないのも脇のホルスタ-を隠す為だろ?バレバレだ。 ガラム:流石、元警察官。いい観察力だ。けど、銃を構えられないのは君も同じだよ?このまま殴り合うかい? コクーン:それでも構わないが、お前のその華奢な体で勝てるのか?まぁ、お前が何もしないなら俺は手を出すつもりはない。 ガラム:あら、そう。ならなんで名乗ったんだい?これじゃ事態は膠着だ。殺しが初めてってわけじゃないだろ?僕の正体に気づいたなら、後部座席に座り適当な所で車を停めさせて撃てばいい。 コクーン:冗談よせ、後部座席に座らせる気なんかなかったくせによ。それに狙いは膠着だ。お互いに探り合ってたんじゃ話が進まない。遠回しに話すのが嫌いなんだ。要件があるならストレートに言ってくれ。殺しが目的じゃないんだろ? ガラム:それはどうかな。目の前で吐かれて気が削がれただけかもよ。 コクーン:つまらない冗談はいい。 ガラム:そっか。僕はコクーンという人物が気になって会いにきたのさ。 コクーン:答えになってない。SNSで知り合った友達じゃないんだ。わざわざ顔を晒してまで接触してきた理由はなんだ? ガラム:うーん、君はなんというか。良くも悪くも元警官だね。どんなに怖い顔をしても、僕ら相手には効かないよ?僕らに効くのは、こういう質量のある脅しだ。 0:ガラム。右手で銃を構えている。 コクーン:・・・おい、腕が三本あるなんて聞いてないぞ。どうしてハンドルを両手で握ってるのに、右わきからもう一本の右手が出てきた? ガラム:はは、やっと焦った表情だね。良かったねコクーン。僕が殺す気なら君はもう死んでたよ。 コクーン:はぁ、なら腕が三つある理由を説明してくれるか? ガラム:種明かしは普段はしないけどね。特別だよ? コクーン:種明かしはしない?種明かししようにも観客全員に鉛玉プレゼントしたせいで聞いてくれる客がいないだけだろ。 ガラム:ご名答。そんな君に鉛玉をプレゼントだ。バン! 0:銃声 コクーン:・・・空砲か、あぁ、そういう。あんたアンリの仲間だろ。 ガラム:ビックリした?はは、え、アンリ?誰それ。 コクーン:あ? ガラム:誰と勘違いしてるか、しらないけど、僕は僕の意思できた。 コクーン:そうか。んで、そのハンドル握ってる方の右腕は作りものか? ガラム:そうだよ。特注品。君が見抜けなかった上着を脱がなかった理由はこっち。重心をわざと傾けていたのは、銃を隠し持っているだろうって思わせるための誘導。わかった気になって気付かなかったよね?膠着状態が狙いだーとかなんとか言ってたし。安心したのか余裕があったからか、僕から注意がそれて、僕の動きを見逃した。 コクーン:(舌打ち)それで、何がしたいんだお前。 ガラム:そう怒るなよ。言ったろ少し付き合ってくれって。 0:場面転換。古びた工場での戦闘。アンリはナレーションの役割。 アンリ:そろそろか、私の推察ではコクーンの初戦が始まる頃だ・・・相手はマジシャンの異名を持つ奴だろうな。奴は芸を見せたがる。一番いい相手に出会ったな。最初に撃つのはコクーンからだろう。奴は道中に恥を掻いたはずだ。不意打ちの一発を打ち込む。 ガラム:ここだ。 コクーン:教会じゃなかったのか?どう見ても放棄された工場だな。 ガラム:あぁ、そうさ。ここなら誰もこない。思う存分に撃ちあえる。君はアンイーターを殺したんだろ? コクーン:あんいーたー?マルロ・セブンスの事か? ガラム:あぁ、そうさ。女をアリクイのように舐め回すことからアンイーターと呼ばれるようになった下衆だよ。 コクーン:ふーん。お前、お喋りだな。コメディアンに向いているよ。全くもって話がつまらない点を除いてな。 ガラム:冗談はよせ。これでも僕はマジシャンって呼ばれてるんだ。コメディに向いているだろ? コクーン:下らねぇな。小細工が多彩なだけだろ。どいつもこいつも名前を大それたものの様に言いやがる。 ガラム:名前は大事だよ。名は体を表すって言葉もあるからね。ちなみに君がコクーンと呼ばれる理由は知ってる? コクーン:どうでもいい ガラム:その様子なら知らなそうだね。アンイーターの死因は多量出血によるものだ。あれだけの拷問を受けながら、痛みで死ねなかった。いや、最後の一滴を流すまで死なせて貰えなかった。プロも引くような殺し方をした君は、初めての殺しだったという。才能というものは恐ろしいね。嫉妬しちゃうよ。 コクーン:まだ続くか?その話。 ガラム:君は聞いたことはあるかい?アイゼルネ・ユングフラウ、またの名をアイアン・メイデン。実在したかは定かではないけど、人の血液を絞り出す為の拷問器具だと言われている。車内という箱の中で血を絞り取る。そういう所から拷問器具を連想させ、その形から転じてコクーンという名前が付いた。奴に捕えられれば、血を全て抜かれるぞと。 コクーン:はぁ、ならアイゼルとかでもよかっただろ。聞いてもいない話を長々とありがとう。お前やっぱコメディアンに向いてるよ。全くもって面白くない。 ガラム:ありがとう。有名人に言われると嬉しいものだね コクーン:名刺でも渡そうか?記念にサインまで書いてやるよ。書く場所はお前の墓でいいか? ガラム:はは、いいねそれ。僕も君の墓にサインしてあげるよ。遠慮はいらないよ。僕も有名人だからね。って何やってるの?名刺を地面に散らして。名刺バトルでもするつもりかい? コクーン:何だ名刺バトルって流行ってんのか。手が滑って落しただけだ。馬鹿言う前に拾うの手伝え。 ガラム:ははは、本当に名刺なんて用意していたんだね!君は面白い奴だ!僕と友達にっておっと!? 0:コクーンが名刺を拾うように見せかけ銃弾を放つ。 アンリ:馬鹿な奴だからな。名刺を使っての不意打ちだろう。当たるはずもない。無駄な弾を撃つ。これはあとで説教だな。二発もコクーンだ。これは銃の癖を知る為の意味のある一発。当然、当たらないがね。 0:コクーン、ガラム共に遮蔽を確保しつつ言葉を飛ばす。 コクーン:流石に当たんねぇか・・・。 ガラム:ちょちょもう撃ち合うの!?待ってよ!! コクーン:早打ちガンマンンじゃねぇんだ。よーいドンで撃ち合う馬鹿がいるかよ。 ガラム:さっきの事を怒ってるだろ君! コクーン:うるさいな。黙ってろ。 0:二発目の発砲。 コクーン:大体わかった。次で仕留める。 アンリ:なんて事を思っているのだろうな。甘い甘い。なぜ相手が工場を選んだのか。その答えに辿り付かなければ。くくく、痛い目をみるぞ。チャンスは二発までだ。奴は公平な戦いを望む。コクーンが弾を外した分、奴も弾を外してヒントをくれるだろう。 ガラム:なー、僕がマジシャンって呼ばれる所以。話してなかったね。 コクーン:あー、興味がある。そこの物陰からじゃなくて、出てきて話をしてくれないか? ガラム:冗談よせよ。 0:三発目の発砲音。同時に短い鉄の反射音 アンリ:三発目はコクーンの足元に着弾するだろう。あえてわかりやすく。印象をつける為の一発。あぁ、あれを使うだろうな、そのままになっていたはずだ。マジシャンも不意をつかれ驚かされた分、相手を驚かしたいはずだ。 コクーン:ッ!?どういう事だ。足元に銃弾が飛んできた?!射線は通っていない。どうやって? ガラム:ふふーん、驚いたかい?僕は自由に弾丸を飛ばす事が出来る。自慢じゃないが魔法だ。 コクーン:馬鹿いえ、ハッタリだ。魔法なんてものは・・・ 0:四発目の発砲音 アンリ:そして四発目。弾は三発目と違い空を舞ってコクーンの左肩をかすめる。マジシャンは当然わざと外している。そして得意げにこう言う。 ガラム:大体わかった。次で仕留める。 アンリ:痛みと焦り、コクーンは軽いパニックになるだろう。射線を切っているのに、弾が確実に自分を目掛けて飛んでくる。焦るのも無理はない。だが、如何なる時にも必要なのは冷静さだ。コクーン、この次が分岐点だ。繭のまま終わるのかどうか。五発目はそうだな・・・コクーンが撃つだろう。 コクーン:はぁはぁはぁ、どうなってやがる。なんで左肩をかすめた?考えろ考えろ。顔を出した瞬間だった。だが、肩までは出していないのになんで!!落ち着け、くそ、痛みが邪魔だ! ガラム:ははは、魔法だって言ってるでしょ?それに思考が声に漏れてるよ。焦り過ぎだって。はは、何とかしないと次で死んじゃうぞー? コクーン:わからない。だが、ここに居続けるのはまずい! 0:響く足音、金具を蹴る音 ガラム:いいね。もっと早く動いていれば傷を負わずに済んだのにね。 コクーン:うるさい奴だ。 ガラム:けど無駄だよ。足元が疎かだ。音が響いて丸わかりだよ。 コクーン:(舌打ち)おい!種明かしはしてくれないのか!?魔法とやらにも種があるんだろ? ガラム:おや、かくれんぼはもういいかい?本当に殺すよ? コクーン:はぁ、はぁ、はぁ、教えてはくれないよな。くそ、血の気が引いてきやがった。どうなってんだ、本当に弾を魔法で曲げてんのか?常識に囚われるな。視野を広く、あ?・・・あぁ、そういうことね。 ガラム:もういいかい?もっと楽しい時間になるかとおもったけど、世間の過大評価だったね。さようなら、コクーン。 0:五発目の発砲音 アンリ:醜く逃げ惑った後に気付くだろう。奴は馬鹿だが察しはいい。そして点と点が線として繋がるまでの思考の速度もまぁまぁだ。調子に乗っているマジシャン相手なら、くく、いい練習台だ。 ガラム:は!?馬鹿な!?この弾の跳び方は・・・ コクーン:当たりはしないが、初の試みでなかなか思い通りに言ったんだ。褒めてくれよマジシャン。 ガラム:はは、君という言うやつは、本当に才能のあるやつだな。嫉妬で狂いそう。なぜ種がわかった? コクーン:はは、やっと焦った表情だ。良かったなマジシャン。俺が殺す気ならお前はもう死んでたよ。 ガラム:癪な奴だな。答え合わせをしてやるから、話せよコクーン。 コクーン:一つ目の魔法の正体は跳弾だろ?ついさっき天井にある一つだけ黒い鉄板に気付いたよ。その下に弾が反射するように調整されているんだろ?後はお前のように弾を撃つだけだ。魔法ならぬ模倣だな。 ガラム:ご名答。あぁ、やられたよ。ここはさっきまで君がいた場所か。 コクーン:ここ、お前の狩場だな?この街に初めて来たってのは嘘だ。あらかじめ種を仕込んでおいて、そこに誘導し、跳弾でビビらせる。相手に当たれば得だ。後は魔法だなんだといって焦らせ追い詰める。そういう手口だろ。 ガラム:所々違う。手口は合ってるけど、ここは僕の狩場じゃない。この街に来たのは二度目だよ。一度目は7年前だ。その時にここでそのトリックを見破れず恐れをなして街から逃げ出したんだよ。 コクーン:まて、だとしたら、この仕組みを仕込んだのはお前じゃないのか? ガラム:違うよ。僕はそのままにされた仕掛けを使っただけさ。僕がされた事を再現するようにね。 コクーン:ってことは、魔法って信じたのか? ガラム:嫌なところを突くね。そうだよ。まだ幼かったんだよ。 コクーン:調子にのってこっ酷く怒られたって所か?相手は誰だ? ガラム:知らないよ。それにずいぶん優しい表現だね。まぁその通りさ。本物との差を見せつけられたんだよ。五体満足で街を出られたのは運が良かった。なぁ、出て来きなよ。最初にいったけど、僕は君を殺すつもりはないんだって。この仕掛けを見せたかっただけだよ。 コクーン:おいおい、友達にでもなったつもりか? ガラム:え?友達でしょ? コクーン:・・・はぁ。わかったよ。 ガラム:ふふ、君ってやっぱり馬鹿だよね。 コクーン:ッ! 0:六発目の発砲音 アンリ:最後はマジシャンの大振りの一発。腕を大きく振りながら引き金を引く。普通は当たらない。それどころか反動で銃を落とす可能性すらある。だが奴も稀な才能の持ち主だ。それで狙った獲物に当てられる。曲線という魔法のような弾道を描いて。くくく、やはり逃がして正解だったな。幾分かマシになっている。 コクーン:あ、あぁ ガラム:驚いて声も出ない? コクーン:この野郎・・・! ガラム:あ、怒った? 0:七発目の発砲音 アンリ:だから捨てるには惜しい。コクーンの事だ、奴は感情的になって殺そうとするだろうな。ふむ、実弾を三発しか入れなかったのは正解だった。 ガラム:あ、え、えっとその・・・驚いたな コクーン:(舌打ち)してやられた。殺すなってことか? ガラム:してやられたのは僕の方なんだけど。やっぱり君、空砲の件で怒ってたでしょ。 コクーン:黙れピエロ。さっきのは何だ。あれこそ魔法だろ。弾が、曲がった?のか。俺を避けて飛んで行ったように見えた。 ガラム:そうだけど、ピエロ?変な名前付けないでくれるかい? コクーン:弾が曲がったんだぞ。曲芸だろ。 ガラム:それ褒めてる?まぁ、僕がマジシャンと呼ばれる本当の所以は、これだね。僕は銃弾を曲げられる。 コクーン:すごい技だってのはわかった。だがなんで、俺に見せたんだ? ガラム:え、ただの自慢。それに名前の由来だから知られてるよ。知られても尚、当てられるから大丈夫。 コクーン:なんだこいつ・・・どういう種だ?教えてくれるんだろ? ガラム:しらない。気付いたらできた。 コクーン:は?気持ちわる。 ガラム:え、ひどいな。見せてあげたのに。 コクーン:お前が勝手に披露しただけだろ。 ガラム:それもそうかー。 コクーン:で、どうすんだ。殺すのか? ガラム:いや、言ったじゃん殺すつもりはないって。僕は最近トレンドにあがってる君に会って話したかっただけだよ。友達にもなれたし満足。 コクーン:友達じゃねーだろ。 ガラム:いいや、友達さ。連絡先交換しよー! コクーン:馬鹿か、するわけないだろ ガラム:はは、脅されたいのかな?弾切れの君に選択肢はないよ。 コクーン:(舌打ち)わかったよ。ほら。 ガラム:ありがとう。連絡するね。コクーンも困った時は先輩を頼るように。教会は近いから、歩いていきなよ。じゃね、後輩。 コクーン:あー、腹立たしい。掌の上ってか。 0:場面転換。教会 アンリ:遅かったな。どうだ、何か学べたか? コクーン:あぁ、いい勉強になったよ。てか知ってたな?いや、お前が仕組んだな? アンリ:何の話だ? コクーン:マジシャン、空砲、曲がる銃弾。お前が用意しただろ。なんだ?あれぐらいなきゃ生き残れねっていう忠告か? アンリ:何だいコメディアンにでもなるつもりか? コクーン:あぁ?やっぱりか。今は冗談に付き合う程、冷静じゃない。 アンリ:ははは、これはこれは思っていたよりお疲れのようだ。それで、実際どう感じた?それが大事だ。 コクーン:遊ばれていた。小細工抜きに真正面から撃ち合っても負けていた。警官時代にもあんな奴はみなかった。 アンリ:ふむ、そうだとも。表には出てこない連中の一人だ。君を狙う連中は奴のように優しくない。いい眠気覚ましになっただろ。長生きしたいのなら鍛錬を怠らぬことだな。 コクーン:なぁ、アイツも人殺しだろ?なぜ生かす。 アンリ:君も人殺しだ。 コクーン:そうじゃない。それに俺の信念は2年前と変わっていない。変わったのは手段だけだ。殺すのは悪党だけだ。 アンリ:そのとおりだ。だが、何にをするにも段取りというものがある。今は奴に死なれるのは面倒だ。掃除するのは最大限に利用してからでも遅くはない。それに奴は君の先輩にあたる存在だ。今のうちに見習える所は見習うといい。 コクーン:あー、その先輩っていうのは何なんだ? アンリ:おや、てっきり気付いているものかと思ったが。そうか、うん、あえてこちらから言うものでもないだろう。馬鹿な君でもいつか気付くだろうね。 コクーン:あぁ? アンリ:くくく、気になるなら君の新しい先輩に直接聞くといい。連絡先を知っているのだろ? コクーン:お前、あぁ、腹立たしい。 0:夜の街。酒屋 ガラム:ふふ、魔法じゃなく模倣か、面白いこというやつだ。無自覚なのがまた可愛らしい。あぁ、どこまで真似してくれるのかな。狙撃も体術も剣術も術という全てを見せてあげたい。コクーン。どう成長するのか楽しみだぁ。一緒に悪を捕らえる日々が待ち遠しい。それまで食べられないでいてくれよ。

0:車内、運転席にアンリ、出所したてのコクーンが助手席に座る。 コクーン:迎えが早いな アンリ:君の出所が早まったからね。 コクーン:あぁ、そういう事。お前が早めたんだろ。力を知らしめる為か? アンリ:くくく、好きに受け取るといい。君には久しぶりの外だ、少し車を走らせ街の様子を見せてやろう。 0:アンリが車を走らせる コクーン:あぁそうかい、否定はなしか。犯罪者の癖にその態度、2年前と変わらねぇな、実に腹立たしい。 アンリ:おいおい、同じ犯罪者同士じゃないか。そう角を立てるな。 コクーン:同じね・・・。首輪付きの元警察官と野放しの連続殺人鬼。大した差があると思うがな。 アンリ:くくく、面白いジョークだ。警察官は全員、もとから首輪がついているだろ。首が締まる程に。 コクーン:笑えないジョークだ。皮肉はよしてくれ。こころが痛む。 アンリ:ははは!君こそ、これ以上の冗談はよしてくれ。君に痛むこころがあるというのかね? コクーン:あー、そうだな3人目まではあったな アンリ:つまらん嘘をいうな、1人目の時にはもう失っていただろう。でなければ、あのような猟奇的なやり方はできない。あの時にこころを持っていたというのなら、それこそ突出した異常者だ。 コクーン:・・・まるで見ていたかのような言い方だな。 アンリ:あぁ、見ていたとも。あのガラス張りの部屋からね。 コクーン:見ていたか、妄想していたの間違いだろ アンリ:妄想ではない、推察だ。 コクーン:はぁ・・・。それで、どこに向かってるんだ?目的もなく走らせているわけじゃないだろ? アンリ:この街をどう思う? コクーン:かわらねぇな。警察も悪党もだ。善行な者は搾取され、悪に手を染めた者は徳をしている。正直者が馬鹿を見る腐った街だよ。この様子だと2年前の事件なんかもう忘れられてそうだな。 アンリ:そう拗ねるな。善行な市民は凄惨な事件を忘れ過ごし、悪党どもはその事件が落とした影に怯えている。君が死ぬまで忘れられる訳がないだろう、裏の界隈では君はちょっとした有名人だ。コクーン。 コクーン:コクーン?何だそのダサいのは。まさか・・・ アンリ:くくく、そのまさかだ。君の通り名だ。ここ2年でよく耳にするようになった。 コクーン:(舌打ち)お前が広めたのか?あぁ? アンリ:なぜ?私が?広めるメリットがどこにある。 コクーン:脅し・・・いや、ないな。デメリットのほうが多い。 アンリ:そうだろう。弱いものは物事に対して名称を付けたがる。そうする事でそれを知識として処理しようとする。それだけでは何の意味もないがね。 コクーン:はいはい、どうせならもっとかっこいい名前が良かったね。 アンリ:私はちょうどいいと思うがね。君はまだ坊やだ。 コクーン:良かったな、今日が出所日で。機嫌がいいからお前を殺さないでいてやるよ。 アンリ:それはそれは感謝しなければね。感謝の印とお祝いもかねて私からのプレゼントだ。ここが目的地だよ。 0:駐車場に停車。到着したのはケーキ屋。 コクーン:はは、出所したての奴にケーキ(刑期)をプレゼントね。皮肉がきいてやがる。なめやがって。 アンリ:くくく、ホールケーキを買ってやろう。 0:場面転換。店内。向かい合って座る2人。 コクーン:それで、なんでケーキなんだ?しかもホールケーキ。2人で全部食えるのか? アンリ:食えるとも。君の意味の無い疑問よりも。私は君が珈琲を頼んだことに疑問を感じているよ。 コクーン:普通だろ。甘いものに苦いものを合わせる。セオリーだ。お前のその、何だ?水なのかシロップなのかわからんその飲み物の方が疑問だ。 アンリ:ふむ、0点だ。頭を全く使っていない。 コクーン:あぁ? アンリ:頭を使わないから珈琲なんぞが飲めるんだ。糖分を使わない人間は怖いねぇ。 コクーン:ははーん。さてはお前、苦い物が苦手だな? アンリ:つまらないことを言うな。カフェインを取ると思考が鈍る。それだけの理由だ。 コクーン:プライドの高いお前のために、そういうことにしといてやるよ。 アンリ:わかった気になって無駄口を叩く前に、この問いに答えて見せろ。どうせ君には無理だろうがね。このホールケーキを五分五分に分けてくれ。 コクーン:五分五分?そんなの問題でも何でも無いだろ。ほら半分だ。これで満足か?あまちゃん坊や。 アンリ:0点どころかマイナス点だ馬鹿者が。今日は歩いて帰れ。 コクーン:はぁ?何でだよ。 アンリ:私は問に答えろといったはずだ。 コクーン:・・・ アンリ:ダメだな。時間切れだ。 コクーン:・・・ アンリ:ぬるま湯につかり過ぎて思考が鈍ったな。無理して大人ぶったところで坊やは坊やか。あまちゃん坊や。 コクーン:(舌打ち)坊やって言うのやめろ。で?お前の意図は何だったんだ。教えろよ。 アンリ:君の出所祝いだからな。機嫌を直して説明してやろう。私は五分五分に分けてくれと言った。そして君はそうした。言われた通りに、それも綺麗に半分に切り分けた。これは正直者がやる事だ。この街は正直者が馬鹿を見る腐った世界だったな? コクーン:あー、そういう・・・ アンリ:浮かれ気分から目が覚めたか?そんな事をしていたら君が食べられるケーキはこの位だ。 コクーン:2割くらいか。少ないな。 アンリ:少ない?むしろ多いくらいだ。相手を喰らう気で行かねばこちらが食われる。五分の契約と言う裏で、どちらが主導権を握り大きく利を得るかの攻防が行われるのが常だ。仲良く半分だなんて事は、あまっちょろい鼻垂れたガキの妄言だ。 コクーン:・・・言葉の裏を読め。相手の言葉を信用するな。相手から奪え。あぁ、固まった思考を解せってことが言いたいのか? アンリ:ふむ、ご明察の通りだ。元警察官だからというのもあって仕方がない部分もあるのだろうが、コクーン。君はこころを解放したが、思考は未だに常識に囚われている。 コクーン:・・・ アンリ:計画的な殺しではまだ幾分かマシだが、咄嗟の問答や行動には、君の愚直な部分が出ている。頭のネジを外せ。思考を柔らかくし発想を広げるんだ。そうする事で視野も広くなる。 コクーン:わかったよ。 コクーン:(店員に)オーダーだ!このホールケーキをもうひとつ! アンリ:おや、君と言うやつは。 コクーン:これで五分五分だな? アンリ:発想は柔らかくなったが・・・まぁいい。プライドの高い坊やの為に、それで良しとしよう。ところで、君はワンホール食べれるのかい? コクーン:え? アンリ:くくく、馬鹿者が 0:場面転換。某建物の地下。 ガラム:コクーンって知っているだろ?そいつを探しに来たんだ。君たち、コクーンの事を嗅ぎ回ってたでしょ?居場所とか知らないかい?そうか、知らないか。ならキミは要らないね。 0:ガラム発砲、1人撃ち抜かれ死ぬ。 ガラム:君、聞こえてたよね?居場所わかる?分からないなら・・・え?だって君ら、コクーンを尾行してたでしょ?え、なんで尾行していたのを知ってるかだって?うんうん、正解。君は聡いね。殺すには惜しいけど残念。君たちはレオの構成員みたいだし、尚更始末しなきゃいけない。 0:ガラム発砲、2人目が撃ち抜かれ倒れる。 ガラム:うん、まぁそういうことだから。ごめんね。この質問に意味は無いけど、形式上聞くね。コクーンの居場所はどこ?知ってるから答えなくていいけどね。 0:ガラム発砲、3人目が撃ち抜かれ倒れる。 ガラム:最後に君だ。あぁーん?君は・・・まだ殺しをしたことなさそうだね。うーん。こうしよう。はい、これ。見た事ある?リボルバー。銃は触った事ある?・・・違うね、こう持ってこうやって撃つ。いい子だ。今から命を懸けてルーレットを行おう。今、この弾倉に3発の弾が入ってる。空の弾倉は3つ。つまり生きるも死ぬも五分五分ってこと。自分に向かって引き金を引きな。その後で君の頭に穴が空いていなければ、そのまま見逃してやるよ。さぁ、弾倉を回して。うん、よく回ったね。いいよ、後は君のタイミングで引き金を引いて。 0:数秒後、発砲音。4人目が自分を撃ち倒れる。 ガラム:馬鹿なヤツ。僕に向かって引き金を引けば、僕も死んで君は生き残ったのに。言われた通りにするなんて馬鹿な正直者だな。嫌いじゃないけど。それじゃ生きていけないのがこの世界の嫌な所だよねぇ。さてと、掃除も終わったし、可愛い後輩でも見に行くかな。 0:場面転換、ケーキ屋店内。向き合って座る2人。 コクーン:ううううう、舐めていた。こんなにきつい物なのか。 アンリ:くくく、2年ぶりに食べる人間の飯は美味いだろ? コクーン:ああ、豚の餌みてぇな残飯の塊よりかはマシだがよ。甘い、甘すぎる。 アンリ:だから私が親切心で切り分けてやったというのに、傲慢で強欲な君への罰だな。 コクーン:あの二割にはそんな意味が・・・クソが、お前の事だ。俺が追加で頼むように仕向けたんだろ! アンリ:いや、知らないねぇ。責任転嫁は良くない。 コクーン:(舌打ち)なんでお前は難なく食べきってんだ? アンリ:頭を使うからだよ。君と違ってね。さて、食べながらでいい。聞け。 コクーン:あ? アンリ:君には名前がついた。良くも悪くもだ。だが今は悪い意味合いが強い。 コクーン:街に入ってから監視されてんのはそれが理由ね。 アンリ:・・・理由までわかって察せるなら及第点だが。君はまだ赤点だな。 コクーン:・・・二年前の事件だろ。 アンリ:わからないなら口を閉じていろ。君は口を閉ざしていても馬鹿だとわかるがな。 コクーン:・・・ アンリ:二年前の君が行った事は本来ならあり得ない。奇跡といっても過言ではない出来事だ。表も裏も等しく世間が騒いだ。芋虫がゾウを殺したんだからな。 コクーン:そんなに差があるのか?ボスと言ってもただの一人の人間だ。 アンリ:あぁ、君が想像するよりもただの人間ひとりに天と地ほどの差がある。だが、君はその垣根を超えて、あっさりとやってのけた。殺しの一件については私の手引きがあったとはいえ、一度は自力で逮捕している。この事実が、悪い方向に働いている。 コクーン:あー、そういう・・・。後釜争いで決着が付かず、睨み合ってる状態ってこったろ?いわば冷戦状態。そこに戦火を起こした火つけ役本人が戻ってきたとなったら、そりゃ穏やかではないわな。 アンリ:言いたいことはわかるな?君は真っ先につぶされる。弱いからだ。 コクーン:おいおい、その時はお前も道ずれだろ? アンリ:くくく、馬鹿も休み休みにしてくれ。仲良くなった気でいるなら大間違いだ。 コクーン:は、強がるなよ。お前は2年前とさほど地位も名誉も変わっていないと見た。未来を予言するお前が二年も無駄にする訳がない。つまり、動きたくても動けなかった。お前の言う推察が外れたんだろう。裏世界を牛耳っていたボスを殺したのに、思いのほか事の運びが悪かった。違うか?そして、動けない理由もあった。それも差し迫った理由。それが出所が早まった理由でもある。 アンリ:ふむ、なんだね?その理由は。 コクーン:身の危険。ヘマをしたのか知らないが、裏世界に回状が回ったんだろ。お前の名前を記してな。 アンリ:いいだろう。及第点だ。素晴らしい、これぞ糖分の力だ。馬鹿が少しは治った。 コクーン:あぁ?なら残りも全部食うか? アンリ:いいや、遠慮しよう。私はもう十分過ぎる程に賢いからね。君にはもうワンホール食べてほしいくらいだ。 コクーン:遠慮する。今にも口から出てきそうなんだ。それで、ボディーガードを頼みに来たんだろ?素直にそういえばいい。 アンリ:くくく、命を狙われている奴にボディーガードを頼む馬鹿がこの世にいるのか?回状に記された名前はコクーン。 コクーン:は? アンリ:君の名前はなんだったかな? コクーン:あ、あぁ、アンリ? アンリ:違うだろ!それは私の名前だ!渡す気はないぞ!! コクーン:いらねーよ。名前に拘りすぎだろ異常者。てか、有名ってそういう。 アンリ:あぁ、そうだとも。何人かの悪党が自ら壁を越えて君に挨拶に行ったはずだ。 コクーン:あぁ、そういうこと。変な奴らがいるとは思ったよ。 アンリ:君が死ぬ前に、せめて外の空気を吸わせてやろうと思ったんだ。君が綺麗にしようとした街は、君のせいでさらに腐ってしまった。 コクーン:あぁ、主とやらは何をしていたのかね。 アンリ:その話は今ではない。山にある教会で話そう。私は先に戻る。 コクーン:置いていくのか? アンリ:歩いて帰れといっただろ。それに街を直で感じてくるといい。学べるものもあるかもしれないからな。念の為これらを渡しておく。誕生日おめでとう。 コクーン:お祝いするには二年遅いだろうよ。名刺に携帯あとは・・・はぁ、はいはい、生きてたらまた。 0:アンリ退出 コクーン:ふぅ、のんびり食べますか。 0:数十分後。ケーキ屋店内に、ガラム入店。 ガラム:んー?あ!いた。普通にいるじゃん。 コクーン:・・・ ガラム:こんにちは、そこの人。 コクーン:・・・話かけるな ガラム:あらら、怖いなぁ。挨拶くらいは返してよ。 コクーン:それ以上話すな。 ガラム:うーん、困ったね。僕何かした? コクーン:・・・でそうなんだ。う、うう。 ガラム:出そうって何が? コクーン:(嘔吐) ガラム:あぁ、何が出そうなのか聞いたけど、出してほしかった訳じゃないんだ。何かごめんね。 0:場面転換。車内。運転するガラム。助手席に乗るコクーン。 ガラム:気分はどうだい? コクーン:あぁ、だいぶマシになった。迷惑かけたな。 ガラム:まぁ、気にするな。なんかつらい事でもあったのかい? コクーン:あぁ、長年夢みてたものの現実を知って落ち込んでたんだ。 ガラム:それでホールケーキをやけ食い?半分も食べれてなかったけどね。 コクーン:昔みたいには食べれなかっただけだよ。 ガラム:ふーん。 コクーン:てか、上着。汚して悪かったよ。 ガラム:あー、気にしなくていいよ。 コクーン:すまん。てか、なんで上着を脱がないんだ? ガラム:寒がりでね。クリーニング代のかわりと言ったらなんだけど、少し付き合ってほしい。 コクーン:いいよ。そういや、教会を探してたんだっけ? ガラム:そう、旅をしていてね。今日この街にたどり着いたばかりでさ。ここまで無事にたどり着けた事への感謝と報告の為に祈りにね。 コクーン:ふーん、熱心なことだ。 ガラム:そういう君は、信仰していないのかい? コクーン:そうだな、昔は祈っていたよ。そこを右、あとは道なりだ。 ガラム:そういえば、名前を聞いていなかったね。僕はガラム。君は? コクーン:あー、コクーン。 0:車が停まる ガラム:・・・ コクーン:・・・ ガラム:君ねぇ・・・賞金がかかってる自覚ある? コクーン:今日釈放されてさっき知ったんだ。自覚もクソもあるかよ。 ガラム:死ぬよ? コクーン:ガラム、お前が車を停めたおかげで俺が死ぬ確率は0に近くなったよ。いい腕のスナイパーが居れば話は別だが。そんな奴がいるならお前が接触する理由がない。それにケーキ屋でやってるはずだ。 ガラム:今ここで、僕に撃ち殺されるとは考えなかったかい? コクーン:撃てるなら撃ってみろ。左手で右わきの銃を抜けるならな。 ガラム:はは、は、だから助手席に座ったんだね。僕が左利きだと見抜いてたわけだ。 コクーン:わざとやってんのかって思うくらいには、重心が傾いてたぞ。右側に重たい何かを吊るしてるのが丸わかりだ。血の匂いも隠せてない。上着を脱げないのも脇のホルスタ-を隠す為だろ?バレバレだ。 ガラム:流石、元警察官。いい観察力だ。けど、銃を構えられないのは君も同じだよ?このまま殴り合うかい? コクーン:それでも構わないが、お前のその華奢な体で勝てるのか?まぁ、お前が何もしないなら俺は手を出すつもりはない。 ガラム:あら、そう。ならなんで名乗ったんだい?これじゃ事態は膠着だ。殺しが初めてってわけじゃないだろ?僕の正体に気づいたなら、後部座席に座り適当な所で車を停めさせて撃てばいい。 コクーン:冗談よせ、後部座席に座らせる気なんかなかったくせによ。それに狙いは膠着だ。お互いに探り合ってたんじゃ話が進まない。遠回しに話すのが嫌いなんだ。要件があるならストレートに言ってくれ。殺しが目的じゃないんだろ? ガラム:それはどうかな。目の前で吐かれて気が削がれただけかもよ。 コクーン:つまらない冗談はいい。 ガラム:そっか。僕はコクーンという人物が気になって会いにきたのさ。 コクーン:答えになってない。SNSで知り合った友達じゃないんだ。わざわざ顔を晒してまで接触してきた理由はなんだ? ガラム:うーん、君はなんというか。良くも悪くも元警官だね。どんなに怖い顔をしても、僕ら相手には効かないよ?僕らに効くのは、こういう質量のある脅しだ。 0:ガラム。右手で銃を構えている。 コクーン:・・・おい、腕が三本あるなんて聞いてないぞ。どうしてハンドルを両手で握ってるのに、右わきからもう一本の右手が出てきた? ガラム:はは、やっと焦った表情だね。良かったねコクーン。僕が殺す気なら君はもう死んでたよ。 コクーン:はぁ、なら腕が三つある理由を説明してくれるか? ガラム:種明かしは普段はしないけどね。特別だよ? コクーン:種明かしはしない?種明かししようにも観客全員に鉛玉プレゼントしたせいで聞いてくれる客がいないだけだろ。 ガラム:ご名答。そんな君に鉛玉をプレゼントだ。バン! 0:銃声 コクーン:・・・空砲か、あぁ、そういう。あんたアンリの仲間だろ。 ガラム:ビックリした?はは、え、アンリ?誰それ。 コクーン:あ? ガラム:誰と勘違いしてるか、しらないけど、僕は僕の意思できた。 コクーン:そうか。んで、そのハンドル握ってる方の右腕は作りものか? ガラム:そうだよ。特注品。君が見抜けなかった上着を脱がなかった理由はこっち。重心をわざと傾けていたのは、銃を隠し持っているだろうって思わせるための誘導。わかった気になって気付かなかったよね?膠着状態が狙いだーとかなんとか言ってたし。安心したのか余裕があったからか、僕から注意がそれて、僕の動きを見逃した。 コクーン:(舌打ち)それで、何がしたいんだお前。 ガラム:そう怒るなよ。言ったろ少し付き合ってくれって。 0:場面転換。古びた工場での戦闘。アンリはナレーションの役割。 アンリ:そろそろか、私の推察ではコクーンの初戦が始まる頃だ・・・相手はマジシャンの異名を持つ奴だろうな。奴は芸を見せたがる。一番いい相手に出会ったな。最初に撃つのはコクーンからだろう。奴は道中に恥を掻いたはずだ。不意打ちの一発を打ち込む。 ガラム:ここだ。 コクーン:教会じゃなかったのか?どう見ても放棄された工場だな。 ガラム:あぁ、そうさ。ここなら誰もこない。思う存分に撃ちあえる。君はアンイーターを殺したんだろ? コクーン:あんいーたー?マルロ・セブンスの事か? ガラム:あぁ、そうさ。女をアリクイのように舐め回すことからアンイーターと呼ばれるようになった下衆だよ。 コクーン:ふーん。お前、お喋りだな。コメディアンに向いているよ。全くもって話がつまらない点を除いてな。 ガラム:冗談はよせ。これでも僕はマジシャンって呼ばれてるんだ。コメディに向いているだろ? コクーン:下らねぇな。小細工が多彩なだけだろ。どいつもこいつも名前を大それたものの様に言いやがる。 ガラム:名前は大事だよ。名は体を表すって言葉もあるからね。ちなみに君がコクーンと呼ばれる理由は知ってる? コクーン:どうでもいい ガラム:その様子なら知らなそうだね。アンイーターの死因は多量出血によるものだ。あれだけの拷問を受けながら、痛みで死ねなかった。いや、最後の一滴を流すまで死なせて貰えなかった。プロも引くような殺し方をした君は、初めての殺しだったという。才能というものは恐ろしいね。嫉妬しちゃうよ。 コクーン:まだ続くか?その話。 ガラム:君は聞いたことはあるかい?アイゼルネ・ユングフラウ、またの名をアイアン・メイデン。実在したかは定かではないけど、人の血液を絞り出す為の拷問器具だと言われている。車内という箱の中で血を絞り取る。そういう所から拷問器具を連想させ、その形から転じてコクーンという名前が付いた。奴に捕えられれば、血を全て抜かれるぞと。 コクーン:はぁ、ならアイゼルとかでもよかっただろ。聞いてもいない話を長々とありがとう。お前やっぱコメディアンに向いてるよ。全くもって面白くない。 ガラム:ありがとう。有名人に言われると嬉しいものだね コクーン:名刺でも渡そうか?記念にサインまで書いてやるよ。書く場所はお前の墓でいいか? ガラム:はは、いいねそれ。僕も君の墓にサインしてあげるよ。遠慮はいらないよ。僕も有名人だからね。って何やってるの?名刺を地面に散らして。名刺バトルでもするつもりかい? コクーン:何だ名刺バトルって流行ってんのか。手が滑って落しただけだ。馬鹿言う前に拾うの手伝え。 ガラム:ははは、本当に名刺なんて用意していたんだね!君は面白い奴だ!僕と友達にっておっと!? 0:コクーンが名刺を拾うように見せかけ銃弾を放つ。 アンリ:馬鹿な奴だからな。名刺を使っての不意打ちだろう。当たるはずもない。無駄な弾を撃つ。これはあとで説教だな。二発もコクーンだ。これは銃の癖を知る為の意味のある一発。当然、当たらないがね。 0:コクーン、ガラム共に遮蔽を確保しつつ言葉を飛ばす。 コクーン:流石に当たんねぇか・・・。 ガラム:ちょちょもう撃ち合うの!?待ってよ!! コクーン:早打ちガンマンンじゃねぇんだ。よーいドンで撃ち合う馬鹿がいるかよ。 ガラム:さっきの事を怒ってるだろ君! コクーン:うるさいな。黙ってろ。 0:二発目の発砲。 コクーン:大体わかった。次で仕留める。 アンリ:なんて事を思っているのだろうな。甘い甘い。なぜ相手が工場を選んだのか。その答えに辿り付かなければ。くくく、痛い目をみるぞ。チャンスは二発までだ。奴は公平な戦いを望む。コクーンが弾を外した分、奴も弾を外してヒントをくれるだろう。 ガラム:なー、僕がマジシャンって呼ばれる所以。話してなかったね。 コクーン:あー、興味がある。そこの物陰からじゃなくて、出てきて話をしてくれないか? ガラム:冗談よせよ。 0:三発目の発砲音。同時に短い鉄の反射音 アンリ:三発目はコクーンの足元に着弾するだろう。あえてわかりやすく。印象をつける為の一発。あぁ、あれを使うだろうな、そのままになっていたはずだ。マジシャンも不意をつかれ驚かされた分、相手を驚かしたいはずだ。 コクーン:ッ!?どういう事だ。足元に銃弾が飛んできた?!射線は通っていない。どうやって? ガラム:ふふーん、驚いたかい?僕は自由に弾丸を飛ばす事が出来る。自慢じゃないが魔法だ。 コクーン:馬鹿いえ、ハッタリだ。魔法なんてものは・・・ 0:四発目の発砲音 アンリ:そして四発目。弾は三発目と違い空を舞ってコクーンの左肩をかすめる。マジシャンは当然わざと外している。そして得意げにこう言う。 ガラム:大体わかった。次で仕留める。 アンリ:痛みと焦り、コクーンは軽いパニックになるだろう。射線を切っているのに、弾が確実に自分を目掛けて飛んでくる。焦るのも無理はない。だが、如何なる時にも必要なのは冷静さだ。コクーン、この次が分岐点だ。繭のまま終わるのかどうか。五発目はそうだな・・・コクーンが撃つだろう。 コクーン:はぁはぁはぁ、どうなってやがる。なんで左肩をかすめた?考えろ考えろ。顔を出した瞬間だった。だが、肩までは出していないのになんで!!落ち着け、くそ、痛みが邪魔だ! ガラム:ははは、魔法だって言ってるでしょ?それに思考が声に漏れてるよ。焦り過ぎだって。はは、何とかしないと次で死んじゃうぞー? コクーン:わからない。だが、ここに居続けるのはまずい! 0:響く足音、金具を蹴る音 ガラム:いいね。もっと早く動いていれば傷を負わずに済んだのにね。 コクーン:うるさい奴だ。 ガラム:けど無駄だよ。足元が疎かだ。音が響いて丸わかりだよ。 コクーン:(舌打ち)おい!種明かしはしてくれないのか!?魔法とやらにも種があるんだろ? ガラム:おや、かくれんぼはもういいかい?本当に殺すよ? コクーン:はぁ、はぁ、はぁ、教えてはくれないよな。くそ、血の気が引いてきやがった。どうなってんだ、本当に弾を魔法で曲げてんのか?常識に囚われるな。視野を広く、あ?・・・あぁ、そういうことね。 ガラム:もういいかい?もっと楽しい時間になるかとおもったけど、世間の過大評価だったね。さようなら、コクーン。 0:五発目の発砲音 アンリ:醜く逃げ惑った後に気付くだろう。奴は馬鹿だが察しはいい。そして点と点が線として繋がるまでの思考の速度もまぁまぁだ。調子に乗っているマジシャン相手なら、くく、いい練習台だ。 ガラム:は!?馬鹿な!?この弾の跳び方は・・・ コクーン:当たりはしないが、初の試みでなかなか思い通りに言ったんだ。褒めてくれよマジシャン。 ガラム:はは、君という言うやつは、本当に才能のあるやつだな。嫉妬で狂いそう。なぜ種がわかった? コクーン:はは、やっと焦った表情だ。良かったなマジシャン。俺が殺す気ならお前はもう死んでたよ。 ガラム:癪な奴だな。答え合わせをしてやるから、話せよコクーン。 コクーン:一つ目の魔法の正体は跳弾だろ?ついさっき天井にある一つだけ黒い鉄板に気付いたよ。その下に弾が反射するように調整されているんだろ?後はお前のように弾を撃つだけだ。魔法ならぬ模倣だな。 ガラム:ご名答。あぁ、やられたよ。ここはさっきまで君がいた場所か。 コクーン:ここ、お前の狩場だな?この街に初めて来たってのは嘘だ。あらかじめ種を仕込んでおいて、そこに誘導し、跳弾でビビらせる。相手に当たれば得だ。後は魔法だなんだといって焦らせ追い詰める。そういう手口だろ。 ガラム:所々違う。手口は合ってるけど、ここは僕の狩場じゃない。この街に来たのは二度目だよ。一度目は7年前だ。その時にここでそのトリックを見破れず恐れをなして街から逃げ出したんだよ。 コクーン:まて、だとしたら、この仕組みを仕込んだのはお前じゃないのか? ガラム:違うよ。僕はそのままにされた仕掛けを使っただけさ。僕がされた事を再現するようにね。 コクーン:ってことは、魔法って信じたのか? ガラム:嫌なところを突くね。そうだよ。まだ幼かったんだよ。 コクーン:調子にのってこっ酷く怒られたって所か?相手は誰だ? ガラム:知らないよ。それにずいぶん優しい表現だね。まぁその通りさ。本物との差を見せつけられたんだよ。五体満足で街を出られたのは運が良かった。なぁ、出て来きなよ。最初にいったけど、僕は君を殺すつもりはないんだって。この仕掛けを見せたかっただけだよ。 コクーン:おいおい、友達にでもなったつもりか? ガラム:え?友達でしょ? コクーン:・・・はぁ。わかったよ。 ガラム:ふふ、君ってやっぱり馬鹿だよね。 コクーン:ッ! 0:六発目の発砲音 アンリ:最後はマジシャンの大振りの一発。腕を大きく振りながら引き金を引く。普通は当たらない。それどころか反動で銃を落とす可能性すらある。だが奴も稀な才能の持ち主だ。それで狙った獲物に当てられる。曲線という魔法のような弾道を描いて。くくく、やはり逃がして正解だったな。幾分かマシになっている。 コクーン:あ、あぁ ガラム:驚いて声も出ない? コクーン:この野郎・・・! ガラム:あ、怒った? 0:七発目の発砲音 アンリ:だから捨てるには惜しい。コクーンの事だ、奴は感情的になって殺そうとするだろうな。ふむ、実弾を三発しか入れなかったのは正解だった。 ガラム:あ、え、えっとその・・・驚いたな コクーン:(舌打ち)してやられた。殺すなってことか? ガラム:してやられたのは僕の方なんだけど。やっぱり君、空砲の件で怒ってたでしょ。 コクーン:黙れピエロ。さっきのは何だ。あれこそ魔法だろ。弾が、曲がった?のか。俺を避けて飛んで行ったように見えた。 ガラム:そうだけど、ピエロ?変な名前付けないでくれるかい? コクーン:弾が曲がったんだぞ。曲芸だろ。 ガラム:それ褒めてる?まぁ、僕がマジシャンと呼ばれる本当の所以は、これだね。僕は銃弾を曲げられる。 コクーン:すごい技だってのはわかった。だがなんで、俺に見せたんだ? ガラム:え、ただの自慢。それに名前の由来だから知られてるよ。知られても尚、当てられるから大丈夫。 コクーン:なんだこいつ・・・どういう種だ?教えてくれるんだろ? ガラム:しらない。気付いたらできた。 コクーン:は?気持ちわる。 ガラム:え、ひどいな。見せてあげたのに。 コクーン:お前が勝手に披露しただけだろ。 ガラム:それもそうかー。 コクーン:で、どうすんだ。殺すのか? ガラム:いや、言ったじゃん殺すつもりはないって。僕は最近トレンドにあがってる君に会って話したかっただけだよ。友達にもなれたし満足。 コクーン:友達じゃねーだろ。 ガラム:いいや、友達さ。連絡先交換しよー! コクーン:馬鹿か、するわけないだろ ガラム:はは、脅されたいのかな?弾切れの君に選択肢はないよ。 コクーン:(舌打ち)わかったよ。ほら。 ガラム:ありがとう。連絡するね。コクーンも困った時は先輩を頼るように。教会は近いから、歩いていきなよ。じゃね、後輩。 コクーン:あー、腹立たしい。掌の上ってか。 0:場面転換。教会 アンリ:遅かったな。どうだ、何か学べたか? コクーン:あぁ、いい勉強になったよ。てか知ってたな?いや、お前が仕組んだな? アンリ:何の話だ? コクーン:マジシャン、空砲、曲がる銃弾。お前が用意しただろ。なんだ?あれぐらいなきゃ生き残れねっていう忠告か? アンリ:何だいコメディアンにでもなるつもりか? コクーン:あぁ?やっぱりか。今は冗談に付き合う程、冷静じゃない。 アンリ:ははは、これはこれは思っていたよりお疲れのようだ。それで、実際どう感じた?それが大事だ。 コクーン:遊ばれていた。小細工抜きに真正面から撃ち合っても負けていた。警官時代にもあんな奴はみなかった。 アンリ:ふむ、そうだとも。表には出てこない連中の一人だ。君を狙う連中は奴のように優しくない。いい眠気覚ましになっただろ。長生きしたいのなら鍛錬を怠らぬことだな。 コクーン:なぁ、アイツも人殺しだろ?なぜ生かす。 アンリ:君も人殺しだ。 コクーン:そうじゃない。それに俺の信念は2年前と変わっていない。変わったのは手段だけだ。殺すのは悪党だけだ。 アンリ:そのとおりだ。だが、何にをするにも段取りというものがある。今は奴に死なれるのは面倒だ。掃除するのは最大限に利用してからでも遅くはない。それに奴は君の先輩にあたる存在だ。今のうちに見習える所は見習うといい。 コクーン:あー、その先輩っていうのは何なんだ? アンリ:おや、てっきり気付いているものかと思ったが。そうか、うん、あえてこちらから言うものでもないだろう。馬鹿な君でもいつか気付くだろうね。 コクーン:あぁ? アンリ:くくく、気になるなら君の新しい先輩に直接聞くといい。連絡先を知っているのだろ? コクーン:お前、あぁ、腹立たしい。 0:夜の街。酒屋 ガラム:ふふ、魔法じゃなく模倣か、面白いこというやつだ。無自覚なのがまた可愛らしい。あぁ、どこまで真似してくれるのかな。狙撃も体術も剣術も術という全てを見せてあげたい。コクーン。どう成長するのか楽しみだぁ。一緒に悪を捕らえる日々が待ち遠しい。それまで食べられないでいてくれよ。