台本概要

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タイトル 【ガラクタの国のアリス ep.幸せな冬】
作者名 ハルヒコ  (@kyotaro0625)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男2、女1、不問2) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 【あらすじ】
「Welcome to the world. ようこそ僕らの夢の世界へ」
主人公のアリスは気がつくと、摩訶不思議な『ガラクタの国』にいた。
そこで開かれるクリスマスパーティーに参加することになったアリス。
華やかなパーティーと温かく楽しい思い出。
しかし何かが腑に落ちない。
そんなアリスのたどり着く先には……。

【台本利用規約】
基本的に盗作や自作発言など著作権を侵害されるような事がなければ、どの媒体で使っていただいても構いません。
アイテム等が投げられる場でもOKです。
男女逆転、アドリブ等も周りの迷惑にならない範疇では可とします。
セリフの一部抜粋、サンプルボイスに使用等も可能です。
ボイドラや舞台などで使われる際は、ご一報くださると嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アリス 90 ガラクタの世界に迷い込んだ少女。
ガラクタ 不問 33 道化師のような格好をしている。ガラクタの世界のオーナー。多弁で説教くさい。
女王 36 ガラクタの国の女王。女王と名乗っているが男性。
チェッシャー 不問 25 猫のような見た目で耳やしっぽが生えている。イタズラ好き。
帽子屋 20 シルクハットをかぶった男。紳士だが、キザったらしい。 黒ウサギとトランプ兵を兼任。
黒ウサギ 10 黒いウサギ耳の付いた青年。 ガラクタの国の案内人。無口。
トランプ兵 2 ガラクタの女王の家来。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
アリス:ぁ、火が…  :  アリス:(M)景色はどこまでも白く…白く…。 アリス:脚は凍り、手もかじかみ。 アリス:…あぁ、曇りガラスに、閉じ込められていく…。  :  アリス:お願い…。 アリス:見捨てないで、ガラクタだけど…。   :  ガラクタ:さあ、おいで。可愛いガラクタ達よ。 夢の国の使者にさそわれて。ゴミ箱に身を投げる前に。 ガラクタ:さあ、おいで。愛しいガラクタ達よ。 僕らは価値なき物であって、廃棄物(ゴミ)じゃない。   ガラクタ:さあ、おいで。哀れなガラクタ達よ。 ここは、僕らだけの。僕らのための国。 ガラクタ:Welcome to the world.  ようこそ、僕らの夢の世界へ。 0: アリス:《はっと我に返る》…! 黒ウサギ:《アリスをじっと見つめる》 アリス:わ!…あ、私寝ちゃってた…。  :(アリスが目を覚ますと、青い目の青年──黒ウサギがそこにいる)  :  アリス:(N)この人は黒ウサギくん、この世界への案内人でガラクタの女王の王宮で働いているの。  :   :(黒ウサギ、アリスを見つめたまま動かない) アリス:ええと、なぁに黒ウサギくん? アリス:…マッチがご入用(いりよう)? 黒ウサギ:…。《頷く》 アリス:そう、ありがとう。 アリス:今日はおつかいですか? 黒ウサギ:《頷く》 アリス:へぇ、女王様の? 黒ウサギ:《頷く》 アリス:そう。お部屋の暖炉に使うのかしら…お代はオマケして瓶の王冠二つとナット三つで結構ですよ。  :(黒ウサギ、瓶の王冠やナットなどの“コイン”を支払う) アリス:《マッチを手渡し》はい。最近は冬の日続きで寒いし、体には気をつけてね。   :(黒ウサギ、頷くと胸元から封筒を取り出しアリスに手渡す) アリス:ん?なぁに…?《封筒から紙を取り出す》これは、招待状? 黒ウサギ:《頷く》 アリス:女王様から…。 アリス:(招待状)次に雪が降った日の晩、テメーを我が城へ招待する… 女王:(招待状)そこでクリスマスパーティーを執り行う。 女王:理由は、クリスマスならホワイトクリスマスの方がいいに決まってるからだ、異論は認めん。 女王:必ず出席するように。 アリス:クリスマスパーティー…素敵ね!ありがとう黒ウサギくん。 黒ウサギ:《礼をし、去る》 アリス:《微笑みながら見送る》  :(突如風が吹き、木枯らしが通り過ぎる) アリス:っ!寒い…はぁ。どうやら明日も冬みたい…。  :  アリス:(M)次に雪が降った日の晩…雪、かぁ……ん、なんだろう?なんだか心がザワザワする…。 0:  :(ガラクタの女王の城・広間) チェッシャー:おーい!アリスぅ! アリス:《振り向く》チェシャ猫くん、こんばん…あら?  :(チェッシャーの姿が見えない)  :(すると当然天井のシャンデリアが大きく揺れ、空中ブランコのようにして、チェシャ猫がアリスの背後に逆さ吊りで現れる) チェッシャー:ニャッホ~、オイラはここなんだナ~! アリス:キャア!…も~、そんなとこに登って…。 アリス:ガラクタに見つかったらまた長~い小言を言われるでしょう。 アリス:それに女王に見られたらもっとひどい目に合わされます! チェッシャー:見つかったらトンズラするだけニァ~  :  アリス:(N)このエキセントリックな彼は、チェッシャー。 アリス:私はチェシャ猫くんって呼んでるんだけど…。 アリス:彼のことは…謎。神出鬼没で急に現れては私やみんなを驚かせるの。  :   :(突如、どこからか鎖が伸びチェシャ猫の首に首輪がハマる) アリス:! ガラクタ:チェッシャー! チェッシャー:ウナッ!?  :(ピエロの様な奇抜な格好の人物がこちらへ歩み寄る) ガラクタ:またレディに失礼なことをして、むやみにからかってはいけないと教えただろう? ガラクタ:それだけではない、僕の前で悪事を働いておきながらお得意のトンズラなぞさせるはずがないだろう。 ガラクタ:これは大変極めて許しがたい侮辱だ。 ガラクタ:それからチェッシャー。 ガラクタ:女王の関係の物事その他もろもろ全てにちょっかいを出すのはやめてくれと言ったはずだ。 ガラクタ:彼女の機嫌を損ねると、いや常に最悪ではあるんだが、そこにさらに追い討ちをかけてしまうとこの上なく面倒だ。 ガラクタ:ああ、すごく面倒だ。この世の何より面倒だ。 ガラクタ:しかもとばっちりを喰らうのは紛れもなく、何故か必然的に、理も非もなくこの僕なのだからね。 ガラクタ:まったく僕の身にも少しはなって考えて欲しいよ。 ガラクタ:まったく君という君は、はなはだいかにも思いやりがない。 ガラクタ:あくまで自分本位で楽天的すぎる。 ガラクタ:ああこうして言葉に並べて分析してみると、君は実にお気楽だね。 ガラクタ:まったくもって羨ましいね。 ガラクタ:だがね、君自身は心の底から楽しんで楽しめてそれで万歳めでたし世界は薔薇色で良いのだろうけど。 ガラクタ:君が楽しいと思ってやっていることの約十割が他人には迷惑なんだ。 ガラクタ:そこをしっかりと自覚するべきだ。 ガラクタ:それからそれからチェッシャー。 アリス:ガラクタ!もういいです。猫の耳に念仏よ。 ガラクタ:…!やあ、アリス。 ガラクタ:そうだねまったく君の言う通りだ。 ガラクタ:だから、それゆえ、どうやら僕は彼の体の方に教え込んでやらなくちゃいけないみたいだ。 ガラクタ:…さあチェッシャー、お勉強の時間だ。 ガラクタ:僕はジョーカー、即ちピエロ。サーカスの花形には獣を躾けることも造作もないこと。  :(動物調教用のムチをどこからか取り出し、ビシっと左右に引っ張るガラクタ) チェッシャー:ひぃ! チェッシャー:ナ…ナ…うナああああああ! アリス:ガラクタ、動物虐待には愛護団体がうるさいわ。ほどほどにしてね  :  アリス:(N)今の多弁な彼はガラクタ、彼の存在は、ちょっと説明が難しいんだけど…。 アリス: この世界のオーナー…らしい。 アリス:それ以上のことはあまり教えてくれないんだけど…。 アリス:とにかくこの世界を統括する存在らしい。  :   :(突如ブラスバンドによるファンファーレが鳴り響く) アリス:! トランプ兵:ガラクタの女王様のおなーりー。  :(白い豪奢なドレスに身を包んだハートの女王が現れる)  :(ドカドカと玉座に歩み寄るとその一歩手前で立ち止まり振り向く) 女王:テメーら、よくゾロゾロと集まってくれた。 女王:今日という日を独断でクリスマスということにする。 女王:記念すべきホワイトクリスマスを心から祝い、大いに盛り上がれ。以上!散れ!  :(開始の音頭と共にクリスマスの音楽が盛大に鳴り始める) 女王:あ?テメーも来やがったか。 アリス:ご招待ありがとうございます。 女王:ああ、跪いてむせび泣いてもいいぞ。 アリス:ええ、嬉しいわ。 アリス:それにしても女王様、今日は一段と豪華な白のドレスですね。 女王:だろ。この城は見ての通り、赤ばかりだ。 女王:で、クリスマスの飾り付けにも赤がふんだんに使われてやがる。 女王:もはやこれでは、外の雪だけではホワイトクリスマスのホワイト足り得ないと思ってな。 女王:このオレ様が直々に補完してやることにした。 アリス:そう、素敵なお考えですね。 アリス:…あなたの思惑通り、この場で一番貴方が目立っているわ。 女王:ぐ…何故それを。 アリス:貴方が目立ちたがり屋なことは百も承知です。  :  アリス:(N)この方はガラクタの女王。 アリス:文字通りガラクタの国で一番偉い人。 アリス:女王っていうけれど…どう見ても男の人…。 アリス:だけどなんだかそこは突っ込んじゃいけない気がして…。  :  ガラクタ:やあアリス、それにクイーン。 ガラクタ:こんなに楽しい催しは三十九日前のイースター以来だね。 ガラクタ:それにしてもメンツが少し少ないようだが…帽子屋や三月ウサギ達は招待しなかったのかい? 女王:あ?博愛主義のオレ様がそんな差別するわけないだろ。 女王:生きとし生けるもの、すべからく全員に招待状は出したぞ。 女王:それにしてもおせえな…。 女王:来なかった奴は打ち首にするって念押ししなきゃ来れねえのか?とんだマヌケだな。 アリス:はは…。そういえばガラクタ、チェシャ猫くんは? ガラクタ:ああ、せっかく更生するチャンスを与えたつもりなのに、途中で消えてしまってね。 ガラクタ:僕としたことが、ああなんて不手際だ。 ガラクタ:ごめんよアリス、君や他のみんなにとって少しでも有益な存在になれるよう僕が、彼をどうにかしなくてはならないのに…。 ガラクタ:彼の逃げ足だけは一級品でね、ホントに手を焼いているんだ。前なんて… アリス:《遮って》あ、ガラクタ!あっちに美味しそうな料理があったわ。 アリス:面倒事を片付けるのも仕事かもしれないけど、せっかくのクリスマスパーティーだし少し楽しんできたら? ガラクタ:ん?ああ。まあ、そうだね。たまには息抜きも必要か。 ガラクタ:ありがとうアリス。 ガラクタ:クイーン、それでは失礼! アリス:…ふう、行ってくれた。 女王:…おまえ、よそ者の割に、大概慣れてきたよな。 アリス:ふふ、そうですか?  :  アリス:(N)女王様が言ってる『よそ者』っていうのは、私は元々この世界の住人じゃなかったってこと。 アリス:少し、長話をするわね…。 アリス:私、元々は別の世界で。 アリス:動物人間も、派手で奇抜でおかしな人々もどこにもいない、そんなつまらない世界で生きていたの。 アリス:覚えているのは冬の晩、私は夢中で『何か』をしていた…一体何をしていたか、よく思い出せない…。 アリス:気がついたら、私は、ポカポカ温かい陽だまりの草原にいて、そして目の前に青い瞳の黒ウサギがいたの。 アリス:そのウサギがね、あまりにも愛らしかったから、その子を撫でようと手を触れた瞬間、 アリス:世界が浮き上がって…いいえ、私が突然足元に空いた穴に吸い込まれるみたいに落ちていった。 アリス:それで行き着いた先がこの『ガラクタの国』。 アリス:黒ウサギは人間になってるし、ガラクタや女王様みたいなキテレツな人達がいっぱい出てきて、最初はもう大混乱だった、だけどね…。 アリス:人間ってなんでも慣れるのね、それが今じゃ普通になった。 アリス:何があってもおかしくないし驚かない。 アリス:摩訶不思議で夢みたいにフワフワした世界…。 アリス:だけども、なんとなく、なんとなくそう思うんだけど…この世界は、元の世界よりずっと素敵で暖かい場所…。 アリス:そんなふうに思えるの。  :  チェッシャー:ニャッ! アリス:キャッ! チェッシャー:シーッ!…ニャッハハ! アリス:《小声で》チェシャ猫くん、性懲りもなく…ガラクタに見つかったらまた厄介よ。 チェッシャー:大丈夫大丈夫、オイラこんな芸当もできるんだナ~。《すぅっと消える》 アリス:!?消えた? トランプ兵:わぁ!オードブルが、浮いてる!? アリス:…なるほどステルスね…。 女王:ま、なんやかんや楽しんでやがるみてえだから心配ねえな。 女王:おまえもせいぜい楽しめよ。 アリス:あら女王様、どちらに? 女王:ドレスが重てえ、いつものに着替えてくる。 アリス:…本末転倒ね…。  :(高い帽子を被った男がやって来る) 帽子屋:やぁ遅れてしまった。おや、アリスじゃないか! 帽子屋:なんでもない日じゃない日、クリスマスに祝福を。《跪いてアリスの手の甲にキスをする》 帽子屋:ところでクイーンは?姿が見えない様だが…。 アリス:ああ、ははは…帽子屋さん。 アリス:女王様は今しがたお着替えに行かれたわ。 帽子屋:そうか、タイミングが悪かった。 帽子屋:いや良かったかな。こうして君と二人きりで話ができたからね。 アリス:はは…そう、嬉しいです…。  :  アリス:(N)この紳士は帽子屋さん、ちょっぴりキザで未だにどう対応していいかわからない人。  :  アリス:あれ?そういえば、三月ウサギさん達は? 帽子屋:ああ、彼らはクリスマスパーティーより、なんでもない日のお茶会を楽しみたい様でね。 帽子屋:それで僕だけ馳せ参じた次第だよ。 帽子屋:でも困ったな、クイーンに挨拶もなしにパーティーに飛び入り参加なんていいのかな? アリス:今はいないんだから仕方がないわ。  :(帽子屋の被っていた帽子が突如フワフワと宙に浮く) アリス:! 帽子屋:《アリスと同時に》! チェッシャー:ニャ!帽子屋!久しぶりだナ! 帽子屋:チェッシャーか、ああ元気にしてたかい。 帽子屋:まあ聞くまでもなさそうだが。 チェッシャー:ニャハハ! アリス:しーっ!チェシャ猫くん、姿を現したらまたガラクタが…。 チェッシャー:大丈夫だにゃ!ガラクタは今ここにいないニャ~。 アリス:あらホントね、どこに行ったのかしら…。 0: 女王:…なんだガラクタ、わざわざ部屋まで呼び出して。 ガラクタ:…なんだ、だって?わかっているんじゃないかい? 女王:…まったくもってわからねえな。 ガラクタ:しらばっくれないでおくれよ、どうしてこんなパーティーなんて開いたか。 ガラクタ:その真意を聞かせてもらおうか? 女王:別にどうだっていいだろ、オレ様がやりたくなった、それ以外に理由なんてあるかよ。 ガラクタ:どうして?急に? ガラクタ:長らくずうっと巡ってきた永遠に近い時の中で、君は一度たりともそんなマネをしたことはなかったじゃないか。 女王:…たまたま思いついた、ただそれだけだ。 ガラクタ:本当かな?アリスがここに来たことと何か関係があるんじゃないか? 女王:しつけえぞガラクタ…そんなもん関係ねえよ。 ガラクタ:…そう。わかったよ。 ガラクタ:ただし一つ忠告だ。『あまり夢を見させすぎるな』 ガラクタ:もしも覚めてしまうのならば…それはかえって残酷だと、僕は思うがね? ガラクタ:君はとても高貴で美しく、そして聡明だ。 ガラクタ:何がアリスのためになるか、今一度よく考えてみてくれたまえよ。 ガラクタ:それでは。   :(ガラクタ部屋を去っていく) 女王:…夢を見させすぎるな、だって? 女王:だってあんまりじゃねえかよ…楽しい冬を知らないなんて。 女王:せめて夢くらい思いきり幸せにさせてやれよ…。 0: 帽子屋:さあアリス、そのバケツをここに被せてご覧。 アリス:はい。 チェッシャー:ニャッハハ!いいナいいナ!帽子屋のスノーマンにゃ! アリス:ふふっ、ホントだかわいい。 帽子屋:ハハハ…おやアリス、手が冷え切っているじゃないか。 帽子屋:それじゃいけない。 帽子屋:丁度いいあそこに紅茶がある、おいでアリス。 アリス:ええ。 帽子屋:ミルクは…うん、これか。 帽子屋:さてさてアリス、君は魔法を信じるかい? アリス:え?…まあ、信じるわ。 アリス:でもどうして? 帽子屋:それは良かった!今から魔法のミルクティーを入れてあげようと思ってね。 アリス:魔法のミルクティー? 帽子屋:そう、まずはミルク《紅茶にミルクを注ぎ入れる》。 帽子屋:砂糖をひとさじ…これで準備完了。 アリス:え?これだけ?これじゃただの…。 帽子屋:そうこれはただのミルクティー。 帽子屋:ここに魔法の粉を入れる。 帽子屋:ハハハ、不安そうな顔をしないで、全部自然由来の健康的な原料さ。  :(帽子屋、サラサラと何かの粉をミルクティーに入れる) 帽子屋:ひと混ぜ、これで完成。 帽子屋:さぁ、飲んでごらん。 アリス:え、ええ…。《恐る恐る飲む》 アリス:…!おいしい!この香り知ってる、シナモンとジンジャーと…。 帽子屋:君の世界ではそう呼ぶんだね、まいったな魔法の正体がバレてしまった。 アリス:ん、でも不思議…体がポカポカしてきたわ。 アリス:ふふふ、元気の魔法が入った紅茶だったのね。 帽子屋:ふふ、君は実に素晴らしいね。 帽子屋:素直で、愛らしく、柔軟だ。 アリス:やめてよ!…別の意味でほてっちゃうわ。 チェッシャー:《茶化して》ナーナナナーナー♪アリス~帽子屋にほ~だされるぅ~。 アリス:な!もうっ、違うわ! 帽子屋:えぇ、それは残念だな。 帽子屋:でも僕は君ならば百年でも待てるよ。 アリス:はぁ…また、そういうことばかり言って…。 帽子屋:君もまたお茶会においでよ!百年なんてあっという間さ! アリス:ありがとう、でも私マッチ売りの仕事を休めないの。 アリス:アレ?なんでマッチを売ってるんだっけ…。 帽子屋:必要だからさ!僕も誰かが帽子を必要としているから帽子屋なんだ。 アリス:…。《考え込む》 帽子屋:アリス? アリス:あ!いえ、なんでもないわ!ええ、きっとそうね! チェッシャー:アリス変~。 チェッシャー:やっぱりほだされてんのニャァ~。 アリス:違うってば! 0:   :(料理も少なくなり宴も終盤という頃、女王が普段着のドレス姿で戻って来る) チェッシャー:ニャ!女王にゃ! 帽子屋:やあクイーン、申し訳ないが楽しませてもらっていたよ。 帽子屋:それにしてもお祭り好きの貴方がずいぶん長らく席を開けていたね。 女王:おお、ま、ちょっとな。 アリス:あ!女王様!ちょっと前にガラクタが戻ってきてサーカスの芸を見せてくれているんです。 女王:ああ…。 女王:なあ、アリス。 アリス:はい? 女王:楽しいか? アリス:?ええ、とても。 女王:そうか…あのな ガラクタ:《遮るように》クイーン!遅いじゃないか! ガラクタ:場つなぎするのにひどく労力を奪われたよ。 ガラクタ:主催者なんだからしっかりしておくれよ。 ガラクタ:遅すぎてナイフ投げで君の部下を全員失禁させるところだったよ。 女王:……。 ガラクタ:そういえば、一番のビックイベントはまだかい? ガラクタ:僕はもう待ちくたびれて十歳老けてしまいそうさ。 女王:…あー、そうだったな アリス:ビッグイベント? 女王:クリスマスといえばプレゼントだろ。 女王:オレ様からてめえらにクリスマスプレゼントを用意してやった。 チェッシャー:プレゼント!?太っ腹! ガラクタ:ハハハ、そこにいたのかチェッシャー。 チェッシャー:《消えながら》うナぁ~…。 女王:騒がしい連中だな。 女王:さあ、フィナーレだ。《手を叩く》  :(雪がプレゼントに変わり、プレゼントの箱がゆっくりと落ちてくる) アリス:わぁ…!プレゼントが降ってくる! ガラクタ:ははっ、これはすごい! 帽子屋:美しい…素晴らしい趣向だね。 女王:あたりめえだろ、オレ様を誰だと思ってる。 女王:ありきたりなパーティーなんざガラクタの説教より退屈だぜ。 女王:さあ、なにしてんだ?とっとと、そしてありがたく開けやがれ!  :(各々ワイワイとさわぎながら開封する) 女王:アリス。 アリス:? 女王:開けるなよ。 アリス:え?どうして? 女王:開けなきゃ…《うつむいてボソッと》おまえの楽しいクリスマスはずっと終わらねえだろ…。 アリス:え…? 女王:《アリスからプレゼントを取り上げる》 アリス:あ!? 女王:よそ者にやるプレゼントは用意してねえんだよ。 アリス:そんな! 女王:この城のクイーンは誰だ?ここじゃオレ様の言うことが絶対だ。 アリス:《涙ぐみながら》…わかりました。 女王:ふん。 女王:《パンッと手を叩き》 女王:よし、これにてクリスマスパーティーは終了だ。 女王:とっとと帰れ、じゃあな!  :(女王、乱暴に扉を開け、城の中に去る) 0:  :(泣きながらトボトボと帰路につくアリス) アリス:うっ…ぐす…ぐすん…。 ガラクタ:やぁ、アリス!そんなに泣いてどうしたんだい? ガラクタ:今日は楽しいクリスマスパーティーだっただろう? アリス:ぐす…なんでもないわ…。 ガラクタ:おおかたチェッシャーに意地悪でもされたんだろう。 ガラクタ:それとも帽子屋が一線を超えて…!? ガラクタ:それはいけない!まさか、まさかじゃないだろうね!? アリス:あ、違うわ!大丈夫、大丈夫よ…。 ガラクタ:それなら良かった。 ガラクタ:…ねぇアリス、君は僕達にとって特別な存在さ。 ガラクタ:だから君にはいつも満たされた気持ちでいてほしいんだよ。 ガラクタ:さあアリス望みを言ってごらん、君の望みならなんだって叶えてあげよう。 アリス:望み…?望みはお婆ちゃんと……あれ?私今何を考えて…? ガラクタ:…泣きすぎて混乱しているんだね、可哀想に。 ガラクタ:さあ、家に着いた。 ガラクタ:今日はよく休むんだよ。 ガラクタ:じゃあね、アリス。 0:  :(チェッシャーが何もない空間から現れる) チェッシャー:ガラクタ。 ガラクタ:チェッシャー。 チェッシャー:アリス、『廃棄』されるのか? ガラクタ:そうだね。 チェッシャー:何でだ。 ガラクタ:彼女がそれを望んでいるから。 ガラクタ:彼女自身が夢から覚めようとしているんだ。 チェッシャー:何故だ、彼女にとっては幸せな夢だろう? ガラクタ:さて、わからないね。 ガラクタ:人間の心なんて僕には度し難い。 チェッシャー:止めることはできないのか? ガラクタ:それをしたら、チェッシャー、君も『廃棄処分』しなきゃならなくなる。 ガラクタ:彼女の望み通りにしてやるのが、この世界のルールだろう? チェッシャー:だが…。 ガラクタ:チェッシャー、彼女が自らガラクタからゴミになることを望んだんだ。 ガラクタ:それをどうやって止める? ガラクタ:女王のようにまやかしの幸せを享受させるのか? ガラクタ:僕には無駄だったように見えたがね。 チェッシャー:……。 ガラクタ:君はいつからそんな同情心の強い奴になったんだい? ガラクタ:望むならいつまでも、しかしこの世界を望まなくなったのなら彼女は元の世界に帰る。 ガラクタ:まったく女王も酷い奴だよ。 ガラクタ:夢は幸せなら幸せなほど、覚めたときに悲しくなるんだ。 チェッシャー:…アリス…。 0:  :(翌日の朝、アリスが目覚める) アリス:ふぁあ…。 アリス:《寒さでブルっと震え》寒っ、今日も冬?連日冬の日続きじゃない、嫌ね。 黒ウサギ:《コンコンと窓を叩く》 アリス:あら?《窓を開けて》黒ウサギくん、早いわね、またおつかい? 黒ウサギ:《頷く》 アリス:そうなの、えっと。 黒ウサギ:《火のついたマッチを渡す》 アリス:なに?これ…マッチ? 黒ウサギ:《手を振る》 アリス:え?  :(マッチの火が消える)  :(瞬間、世界が一転し吹雪の中で、倒れているアリス) アリス:あ…。夢? アリス:…アハ、アハハ…全部、全部夢だったんだ…。 アリス:そっか、私…マッチが売れなくて、家(うち)に帰れなくて…寒くて、動けなくなって…。  :(吹雪が一層強くなる) アリス:そうだ、私死ぬんだ…そっか…そうなのね…いいの、これで、いいのよ…。 アリス:…はは、おかしい、夢だったな。 アリス:あんなあたたかいミルクティー、ホントに…飲んで、みたかったな……。 アリス:あれ?  :(空からプレゼントの箱がゆっくりと落ちてくる)  :(倒れるアリスのすぐ手元に落ちる) アリス:え?プレゼント…これ…夢で、見た…?  :(アリス、箱を開ける) アリス:これ、マッチ…?メッセージカード…「メリークリスマス」…? アリス:マッチ…つけてみよう…。《アリスマッチを擦り火をつける》  :(瞬間、また世界が一転する)  :(暖炉を焚いた暖かい部屋の中にアリスの祖母がいる) アリス:ッ!…お、婆ちゃん…お婆ちゃん…!やっと会えた…! アリス:《祖母に抱きつく》お婆ちゃん!  :(マッチの火と共にアリスの命も消えゆく) アリス:お婆ちゃん、暖かい…お婆ちゃん…お婆ちゃん…。 0:  :(ハートの女王の城) ガラクタ:幸せな死がプレゼントか、お優しいんだねえ君は。 女王:うるせえな、そんなんじゃねえよ。 女王:パーティーで渡しそびれたから、くれてやっただけだ。 ガラクタ:ふうん、まあいいさ。 ガラクタ:アリスにとって良い結果になった様だし、これに免じて今回のことには目をつぶっておいてあげるよ。 女王:あ?何をだよ。何もしてねえぞ。 ガラクタ:あれだけ盛大にやっといてよく言えるよ。 ガラクタ:ああ、その傲慢さ僕にも分けて欲しいぐらいさ。 女王:うるっせえな、嫌味だけ言いに来たならもう出てけよ。 ガラクタ:そんなわけないだろう、警告だよ。 ガラクタ:次にまたアリスに過干渉するようなことがあれば、君を『廃棄処分』する。 ガラクタ:わかったかな、いいね? 女王:…ちっ、わかったよ。 女王:ハッ、クソッタレだよな! 女王:クイーンでさえ、ジョーカーには逆らえないんだからよ! ガラクタ:あはは!…おっと!黒ウサギがまた誰か連れてきたみたいだ。 ガラクタ:さて次はどんな子かな?  :  ガラクタ:ここは僕たちが作った僕たちの世界、今日もガラクタ達が落ちてくる。 ガラクタ:Welcome to the world. 果てにあるのは、永遠の夢かゴミ箱か。  :   :   :   :    :Fin.

アリス:ぁ、火が…  :  アリス:(M)景色はどこまでも白く…白く…。 アリス:脚は凍り、手もかじかみ。 アリス:…あぁ、曇りガラスに、閉じ込められていく…。  :  アリス:お願い…。 アリス:見捨てないで、ガラクタだけど…。   :  ガラクタ:さあ、おいで。可愛いガラクタ達よ。 夢の国の使者にさそわれて。ゴミ箱に身を投げる前に。 ガラクタ:さあ、おいで。愛しいガラクタ達よ。 僕らは価値なき物であって、廃棄物(ゴミ)じゃない。   ガラクタ:さあ、おいで。哀れなガラクタ達よ。 ここは、僕らだけの。僕らのための国。 ガラクタ:Welcome to the world.  ようこそ、僕らの夢の世界へ。 0: アリス:《はっと我に返る》…! 黒ウサギ:《アリスをじっと見つめる》 アリス:わ!…あ、私寝ちゃってた…。  :(アリスが目を覚ますと、青い目の青年──黒ウサギがそこにいる)  :  アリス:(N)この人は黒ウサギくん、この世界への案内人でガラクタの女王の王宮で働いているの。  :   :(黒ウサギ、アリスを見つめたまま動かない) アリス:ええと、なぁに黒ウサギくん? アリス:…マッチがご入用(いりよう)? 黒ウサギ:…。《頷く》 アリス:そう、ありがとう。 アリス:今日はおつかいですか? 黒ウサギ:《頷く》 アリス:へぇ、女王様の? 黒ウサギ:《頷く》 アリス:そう。お部屋の暖炉に使うのかしら…お代はオマケして瓶の王冠二つとナット三つで結構ですよ。  :(黒ウサギ、瓶の王冠やナットなどの“コイン”を支払う) アリス:《マッチを手渡し》はい。最近は冬の日続きで寒いし、体には気をつけてね。   :(黒ウサギ、頷くと胸元から封筒を取り出しアリスに手渡す) アリス:ん?なぁに…?《封筒から紙を取り出す》これは、招待状? 黒ウサギ:《頷く》 アリス:女王様から…。 アリス:(招待状)次に雪が降った日の晩、テメーを我が城へ招待する… 女王:(招待状)そこでクリスマスパーティーを執り行う。 女王:理由は、クリスマスならホワイトクリスマスの方がいいに決まってるからだ、異論は認めん。 女王:必ず出席するように。 アリス:クリスマスパーティー…素敵ね!ありがとう黒ウサギくん。 黒ウサギ:《礼をし、去る》 アリス:《微笑みながら見送る》  :(突如風が吹き、木枯らしが通り過ぎる) アリス:っ!寒い…はぁ。どうやら明日も冬みたい…。  :  アリス:(M)次に雪が降った日の晩…雪、かぁ……ん、なんだろう?なんだか心がザワザワする…。 0:  :(ガラクタの女王の城・広間) チェッシャー:おーい!アリスぅ! アリス:《振り向く》チェシャ猫くん、こんばん…あら?  :(チェッシャーの姿が見えない)  :(すると当然天井のシャンデリアが大きく揺れ、空中ブランコのようにして、チェシャ猫がアリスの背後に逆さ吊りで現れる) チェッシャー:ニャッホ~、オイラはここなんだナ~! アリス:キャア!…も~、そんなとこに登って…。 アリス:ガラクタに見つかったらまた長~い小言を言われるでしょう。 アリス:それに女王に見られたらもっとひどい目に合わされます! チェッシャー:見つかったらトンズラするだけニァ~  :  アリス:(N)このエキセントリックな彼は、チェッシャー。 アリス:私はチェシャ猫くんって呼んでるんだけど…。 アリス:彼のことは…謎。神出鬼没で急に現れては私やみんなを驚かせるの。  :   :(突如、どこからか鎖が伸びチェシャ猫の首に首輪がハマる) アリス:! ガラクタ:チェッシャー! チェッシャー:ウナッ!?  :(ピエロの様な奇抜な格好の人物がこちらへ歩み寄る) ガラクタ:またレディに失礼なことをして、むやみにからかってはいけないと教えただろう? ガラクタ:それだけではない、僕の前で悪事を働いておきながらお得意のトンズラなぞさせるはずがないだろう。 ガラクタ:これは大変極めて許しがたい侮辱だ。 ガラクタ:それからチェッシャー。 ガラクタ:女王の関係の物事その他もろもろ全てにちょっかいを出すのはやめてくれと言ったはずだ。 ガラクタ:彼女の機嫌を損ねると、いや常に最悪ではあるんだが、そこにさらに追い討ちをかけてしまうとこの上なく面倒だ。 ガラクタ:ああ、すごく面倒だ。この世の何より面倒だ。 ガラクタ:しかもとばっちりを喰らうのは紛れもなく、何故か必然的に、理も非もなくこの僕なのだからね。 ガラクタ:まったく僕の身にも少しはなって考えて欲しいよ。 ガラクタ:まったく君という君は、はなはだいかにも思いやりがない。 ガラクタ:あくまで自分本位で楽天的すぎる。 ガラクタ:ああこうして言葉に並べて分析してみると、君は実にお気楽だね。 ガラクタ:まったくもって羨ましいね。 ガラクタ:だがね、君自身は心の底から楽しんで楽しめてそれで万歳めでたし世界は薔薇色で良いのだろうけど。 ガラクタ:君が楽しいと思ってやっていることの約十割が他人には迷惑なんだ。 ガラクタ:そこをしっかりと自覚するべきだ。 ガラクタ:それからそれからチェッシャー。 アリス:ガラクタ!もういいです。猫の耳に念仏よ。 ガラクタ:…!やあ、アリス。 ガラクタ:そうだねまったく君の言う通りだ。 ガラクタ:だから、それゆえ、どうやら僕は彼の体の方に教え込んでやらなくちゃいけないみたいだ。 ガラクタ:…さあチェッシャー、お勉強の時間だ。 ガラクタ:僕はジョーカー、即ちピエロ。サーカスの花形には獣を躾けることも造作もないこと。  :(動物調教用のムチをどこからか取り出し、ビシっと左右に引っ張るガラクタ) チェッシャー:ひぃ! チェッシャー:ナ…ナ…うナああああああ! アリス:ガラクタ、動物虐待には愛護団体がうるさいわ。ほどほどにしてね  :  アリス:(N)今の多弁な彼はガラクタ、彼の存在は、ちょっと説明が難しいんだけど…。 アリス: この世界のオーナー…らしい。 アリス:それ以上のことはあまり教えてくれないんだけど…。 アリス:とにかくこの世界を統括する存在らしい。  :   :(突如ブラスバンドによるファンファーレが鳴り響く) アリス:! トランプ兵:ガラクタの女王様のおなーりー。  :(白い豪奢なドレスに身を包んだハートの女王が現れる)  :(ドカドカと玉座に歩み寄るとその一歩手前で立ち止まり振り向く) 女王:テメーら、よくゾロゾロと集まってくれた。 女王:今日という日を独断でクリスマスということにする。 女王:記念すべきホワイトクリスマスを心から祝い、大いに盛り上がれ。以上!散れ!  :(開始の音頭と共にクリスマスの音楽が盛大に鳴り始める) 女王:あ?テメーも来やがったか。 アリス:ご招待ありがとうございます。 女王:ああ、跪いてむせび泣いてもいいぞ。 アリス:ええ、嬉しいわ。 アリス:それにしても女王様、今日は一段と豪華な白のドレスですね。 女王:だろ。この城は見ての通り、赤ばかりだ。 女王:で、クリスマスの飾り付けにも赤がふんだんに使われてやがる。 女王:もはやこれでは、外の雪だけではホワイトクリスマスのホワイト足り得ないと思ってな。 女王:このオレ様が直々に補完してやることにした。 アリス:そう、素敵なお考えですね。 アリス:…あなたの思惑通り、この場で一番貴方が目立っているわ。 女王:ぐ…何故それを。 アリス:貴方が目立ちたがり屋なことは百も承知です。  :  アリス:(N)この方はガラクタの女王。 アリス:文字通りガラクタの国で一番偉い人。 アリス:女王っていうけれど…どう見ても男の人…。 アリス:だけどなんだかそこは突っ込んじゃいけない気がして…。  :  ガラクタ:やあアリス、それにクイーン。 ガラクタ:こんなに楽しい催しは三十九日前のイースター以来だね。 ガラクタ:それにしてもメンツが少し少ないようだが…帽子屋や三月ウサギ達は招待しなかったのかい? 女王:あ?博愛主義のオレ様がそんな差別するわけないだろ。 女王:生きとし生けるもの、すべからく全員に招待状は出したぞ。 女王:それにしてもおせえな…。 女王:来なかった奴は打ち首にするって念押ししなきゃ来れねえのか?とんだマヌケだな。 アリス:はは…。そういえばガラクタ、チェシャ猫くんは? ガラクタ:ああ、せっかく更生するチャンスを与えたつもりなのに、途中で消えてしまってね。 ガラクタ:僕としたことが、ああなんて不手際だ。 ガラクタ:ごめんよアリス、君や他のみんなにとって少しでも有益な存在になれるよう僕が、彼をどうにかしなくてはならないのに…。 ガラクタ:彼の逃げ足だけは一級品でね、ホントに手を焼いているんだ。前なんて… アリス:《遮って》あ、ガラクタ!あっちに美味しそうな料理があったわ。 アリス:面倒事を片付けるのも仕事かもしれないけど、せっかくのクリスマスパーティーだし少し楽しんできたら? ガラクタ:ん?ああ。まあ、そうだね。たまには息抜きも必要か。 ガラクタ:ありがとうアリス。 ガラクタ:クイーン、それでは失礼! アリス:…ふう、行ってくれた。 女王:…おまえ、よそ者の割に、大概慣れてきたよな。 アリス:ふふ、そうですか?  :  アリス:(N)女王様が言ってる『よそ者』っていうのは、私は元々この世界の住人じゃなかったってこと。 アリス:少し、長話をするわね…。 アリス:私、元々は別の世界で。 アリス:動物人間も、派手で奇抜でおかしな人々もどこにもいない、そんなつまらない世界で生きていたの。 アリス:覚えているのは冬の晩、私は夢中で『何か』をしていた…一体何をしていたか、よく思い出せない…。 アリス:気がついたら、私は、ポカポカ温かい陽だまりの草原にいて、そして目の前に青い瞳の黒ウサギがいたの。 アリス:そのウサギがね、あまりにも愛らしかったから、その子を撫でようと手を触れた瞬間、 アリス:世界が浮き上がって…いいえ、私が突然足元に空いた穴に吸い込まれるみたいに落ちていった。 アリス:それで行き着いた先がこの『ガラクタの国』。 アリス:黒ウサギは人間になってるし、ガラクタや女王様みたいなキテレツな人達がいっぱい出てきて、最初はもう大混乱だった、だけどね…。 アリス:人間ってなんでも慣れるのね、それが今じゃ普通になった。 アリス:何があってもおかしくないし驚かない。 アリス:摩訶不思議で夢みたいにフワフワした世界…。 アリス:だけども、なんとなく、なんとなくそう思うんだけど…この世界は、元の世界よりずっと素敵で暖かい場所…。 アリス:そんなふうに思えるの。  :  チェッシャー:ニャッ! アリス:キャッ! チェッシャー:シーッ!…ニャッハハ! アリス:《小声で》チェシャ猫くん、性懲りもなく…ガラクタに見つかったらまた厄介よ。 チェッシャー:大丈夫大丈夫、オイラこんな芸当もできるんだナ~。《すぅっと消える》 アリス:!?消えた? トランプ兵:わぁ!オードブルが、浮いてる!? アリス:…なるほどステルスね…。 女王:ま、なんやかんや楽しんでやがるみてえだから心配ねえな。 女王:おまえもせいぜい楽しめよ。 アリス:あら女王様、どちらに? 女王:ドレスが重てえ、いつものに着替えてくる。 アリス:…本末転倒ね…。  :(高い帽子を被った男がやって来る) 帽子屋:やぁ遅れてしまった。おや、アリスじゃないか! 帽子屋:なんでもない日じゃない日、クリスマスに祝福を。《跪いてアリスの手の甲にキスをする》 帽子屋:ところでクイーンは?姿が見えない様だが…。 アリス:ああ、ははは…帽子屋さん。 アリス:女王様は今しがたお着替えに行かれたわ。 帽子屋:そうか、タイミングが悪かった。 帽子屋:いや良かったかな。こうして君と二人きりで話ができたからね。 アリス:はは…そう、嬉しいです…。  :  アリス:(N)この紳士は帽子屋さん、ちょっぴりキザで未だにどう対応していいかわからない人。  :  アリス:あれ?そういえば、三月ウサギさん達は? 帽子屋:ああ、彼らはクリスマスパーティーより、なんでもない日のお茶会を楽しみたい様でね。 帽子屋:それで僕だけ馳せ参じた次第だよ。 帽子屋:でも困ったな、クイーンに挨拶もなしにパーティーに飛び入り参加なんていいのかな? アリス:今はいないんだから仕方がないわ。  :(帽子屋の被っていた帽子が突如フワフワと宙に浮く) アリス:! 帽子屋:《アリスと同時に》! チェッシャー:ニャ!帽子屋!久しぶりだナ! 帽子屋:チェッシャーか、ああ元気にしてたかい。 帽子屋:まあ聞くまでもなさそうだが。 チェッシャー:ニャハハ! アリス:しーっ!チェシャ猫くん、姿を現したらまたガラクタが…。 チェッシャー:大丈夫だにゃ!ガラクタは今ここにいないニャ~。 アリス:あらホントね、どこに行ったのかしら…。 0: 女王:…なんだガラクタ、わざわざ部屋まで呼び出して。 ガラクタ:…なんだ、だって?わかっているんじゃないかい? 女王:…まったくもってわからねえな。 ガラクタ:しらばっくれないでおくれよ、どうしてこんなパーティーなんて開いたか。 ガラクタ:その真意を聞かせてもらおうか? 女王:別にどうだっていいだろ、オレ様がやりたくなった、それ以外に理由なんてあるかよ。 ガラクタ:どうして?急に? ガラクタ:長らくずうっと巡ってきた永遠に近い時の中で、君は一度たりともそんなマネをしたことはなかったじゃないか。 女王:…たまたま思いついた、ただそれだけだ。 ガラクタ:本当かな?アリスがここに来たことと何か関係があるんじゃないか? 女王:しつけえぞガラクタ…そんなもん関係ねえよ。 ガラクタ:…そう。わかったよ。 ガラクタ:ただし一つ忠告だ。『あまり夢を見させすぎるな』 ガラクタ:もしも覚めてしまうのならば…それはかえって残酷だと、僕は思うがね? ガラクタ:君はとても高貴で美しく、そして聡明だ。 ガラクタ:何がアリスのためになるか、今一度よく考えてみてくれたまえよ。 ガラクタ:それでは。   :(ガラクタ部屋を去っていく) 女王:…夢を見させすぎるな、だって? 女王:だってあんまりじゃねえかよ…楽しい冬を知らないなんて。 女王:せめて夢くらい思いきり幸せにさせてやれよ…。 0: 帽子屋:さあアリス、そのバケツをここに被せてご覧。 アリス:はい。 チェッシャー:ニャッハハ!いいナいいナ!帽子屋のスノーマンにゃ! アリス:ふふっ、ホントだかわいい。 帽子屋:ハハハ…おやアリス、手が冷え切っているじゃないか。 帽子屋:それじゃいけない。 帽子屋:丁度いいあそこに紅茶がある、おいでアリス。 アリス:ええ。 帽子屋:ミルクは…うん、これか。 帽子屋:さてさてアリス、君は魔法を信じるかい? アリス:え?…まあ、信じるわ。 アリス:でもどうして? 帽子屋:それは良かった!今から魔法のミルクティーを入れてあげようと思ってね。 アリス:魔法のミルクティー? 帽子屋:そう、まずはミルク《紅茶にミルクを注ぎ入れる》。 帽子屋:砂糖をひとさじ…これで準備完了。 アリス:え?これだけ?これじゃただの…。 帽子屋:そうこれはただのミルクティー。 帽子屋:ここに魔法の粉を入れる。 帽子屋:ハハハ、不安そうな顔をしないで、全部自然由来の健康的な原料さ。  :(帽子屋、サラサラと何かの粉をミルクティーに入れる) 帽子屋:ひと混ぜ、これで完成。 帽子屋:さぁ、飲んでごらん。 アリス:え、ええ…。《恐る恐る飲む》 アリス:…!おいしい!この香り知ってる、シナモンとジンジャーと…。 帽子屋:君の世界ではそう呼ぶんだね、まいったな魔法の正体がバレてしまった。 アリス:ん、でも不思議…体がポカポカしてきたわ。 アリス:ふふふ、元気の魔法が入った紅茶だったのね。 帽子屋:ふふ、君は実に素晴らしいね。 帽子屋:素直で、愛らしく、柔軟だ。 アリス:やめてよ!…別の意味でほてっちゃうわ。 チェッシャー:《茶化して》ナーナナナーナー♪アリス~帽子屋にほ~だされるぅ~。 アリス:な!もうっ、違うわ! 帽子屋:えぇ、それは残念だな。 帽子屋:でも僕は君ならば百年でも待てるよ。 アリス:はぁ…また、そういうことばかり言って…。 帽子屋:君もまたお茶会においでよ!百年なんてあっという間さ! アリス:ありがとう、でも私マッチ売りの仕事を休めないの。 アリス:アレ?なんでマッチを売ってるんだっけ…。 帽子屋:必要だからさ!僕も誰かが帽子を必要としているから帽子屋なんだ。 アリス:…。《考え込む》 帽子屋:アリス? アリス:あ!いえ、なんでもないわ!ええ、きっとそうね! チェッシャー:アリス変~。 チェッシャー:やっぱりほだされてんのニャァ~。 アリス:違うってば! 0:   :(料理も少なくなり宴も終盤という頃、女王が普段着のドレス姿で戻って来る) チェッシャー:ニャ!女王にゃ! 帽子屋:やあクイーン、申し訳ないが楽しませてもらっていたよ。 帽子屋:それにしてもお祭り好きの貴方がずいぶん長らく席を開けていたね。 女王:おお、ま、ちょっとな。 アリス:あ!女王様!ちょっと前にガラクタが戻ってきてサーカスの芸を見せてくれているんです。 女王:ああ…。 女王:なあ、アリス。 アリス:はい? 女王:楽しいか? アリス:?ええ、とても。 女王:そうか…あのな ガラクタ:《遮るように》クイーン!遅いじゃないか! ガラクタ:場つなぎするのにひどく労力を奪われたよ。 ガラクタ:主催者なんだからしっかりしておくれよ。 ガラクタ:遅すぎてナイフ投げで君の部下を全員失禁させるところだったよ。 女王:……。 ガラクタ:そういえば、一番のビックイベントはまだかい? ガラクタ:僕はもう待ちくたびれて十歳老けてしまいそうさ。 女王:…あー、そうだったな アリス:ビッグイベント? 女王:クリスマスといえばプレゼントだろ。 女王:オレ様からてめえらにクリスマスプレゼントを用意してやった。 チェッシャー:プレゼント!?太っ腹! ガラクタ:ハハハ、そこにいたのかチェッシャー。 チェッシャー:《消えながら》うナぁ~…。 女王:騒がしい連中だな。 女王:さあ、フィナーレだ。《手を叩く》  :(雪がプレゼントに変わり、プレゼントの箱がゆっくりと落ちてくる) アリス:わぁ…!プレゼントが降ってくる! ガラクタ:ははっ、これはすごい! 帽子屋:美しい…素晴らしい趣向だね。 女王:あたりめえだろ、オレ様を誰だと思ってる。 女王:ありきたりなパーティーなんざガラクタの説教より退屈だぜ。 女王:さあ、なにしてんだ?とっとと、そしてありがたく開けやがれ!  :(各々ワイワイとさわぎながら開封する) 女王:アリス。 アリス:? 女王:開けるなよ。 アリス:え?どうして? 女王:開けなきゃ…《うつむいてボソッと》おまえの楽しいクリスマスはずっと終わらねえだろ…。 アリス:え…? 女王:《アリスからプレゼントを取り上げる》 アリス:あ!? 女王:よそ者にやるプレゼントは用意してねえんだよ。 アリス:そんな! 女王:この城のクイーンは誰だ?ここじゃオレ様の言うことが絶対だ。 アリス:《涙ぐみながら》…わかりました。 女王:ふん。 女王:《パンッと手を叩き》 女王:よし、これにてクリスマスパーティーは終了だ。 女王:とっとと帰れ、じゃあな!  :(女王、乱暴に扉を開け、城の中に去る) 0:  :(泣きながらトボトボと帰路につくアリス) アリス:うっ…ぐす…ぐすん…。 ガラクタ:やぁ、アリス!そんなに泣いてどうしたんだい? ガラクタ:今日は楽しいクリスマスパーティーだっただろう? アリス:ぐす…なんでもないわ…。 ガラクタ:おおかたチェッシャーに意地悪でもされたんだろう。 ガラクタ:それとも帽子屋が一線を超えて…!? ガラクタ:それはいけない!まさか、まさかじゃないだろうね!? アリス:あ、違うわ!大丈夫、大丈夫よ…。 ガラクタ:それなら良かった。 ガラクタ:…ねぇアリス、君は僕達にとって特別な存在さ。 ガラクタ:だから君にはいつも満たされた気持ちでいてほしいんだよ。 ガラクタ:さあアリス望みを言ってごらん、君の望みならなんだって叶えてあげよう。 アリス:望み…?望みはお婆ちゃんと……あれ?私今何を考えて…? ガラクタ:…泣きすぎて混乱しているんだね、可哀想に。 ガラクタ:さあ、家に着いた。 ガラクタ:今日はよく休むんだよ。 ガラクタ:じゃあね、アリス。 0:  :(チェッシャーが何もない空間から現れる) チェッシャー:ガラクタ。 ガラクタ:チェッシャー。 チェッシャー:アリス、『廃棄』されるのか? ガラクタ:そうだね。 チェッシャー:何でだ。 ガラクタ:彼女がそれを望んでいるから。 ガラクタ:彼女自身が夢から覚めようとしているんだ。 チェッシャー:何故だ、彼女にとっては幸せな夢だろう? ガラクタ:さて、わからないね。 ガラクタ:人間の心なんて僕には度し難い。 チェッシャー:止めることはできないのか? ガラクタ:それをしたら、チェッシャー、君も『廃棄処分』しなきゃならなくなる。 ガラクタ:彼女の望み通りにしてやるのが、この世界のルールだろう? チェッシャー:だが…。 ガラクタ:チェッシャー、彼女が自らガラクタからゴミになることを望んだんだ。 ガラクタ:それをどうやって止める? ガラクタ:女王のようにまやかしの幸せを享受させるのか? ガラクタ:僕には無駄だったように見えたがね。 チェッシャー:……。 ガラクタ:君はいつからそんな同情心の強い奴になったんだい? ガラクタ:望むならいつまでも、しかしこの世界を望まなくなったのなら彼女は元の世界に帰る。 ガラクタ:まったく女王も酷い奴だよ。 ガラクタ:夢は幸せなら幸せなほど、覚めたときに悲しくなるんだ。 チェッシャー:…アリス…。 0:  :(翌日の朝、アリスが目覚める) アリス:ふぁあ…。 アリス:《寒さでブルっと震え》寒っ、今日も冬?連日冬の日続きじゃない、嫌ね。 黒ウサギ:《コンコンと窓を叩く》 アリス:あら?《窓を開けて》黒ウサギくん、早いわね、またおつかい? 黒ウサギ:《頷く》 アリス:そうなの、えっと。 黒ウサギ:《火のついたマッチを渡す》 アリス:なに?これ…マッチ? 黒ウサギ:《手を振る》 アリス:え?  :(マッチの火が消える)  :(瞬間、世界が一転し吹雪の中で、倒れているアリス) アリス:あ…。夢? アリス:…アハ、アハハ…全部、全部夢だったんだ…。 アリス:そっか、私…マッチが売れなくて、家(うち)に帰れなくて…寒くて、動けなくなって…。  :(吹雪が一層強くなる) アリス:そうだ、私死ぬんだ…そっか…そうなのね…いいの、これで、いいのよ…。 アリス:…はは、おかしい、夢だったな。 アリス:あんなあたたかいミルクティー、ホントに…飲んで、みたかったな……。 アリス:あれ?  :(空からプレゼントの箱がゆっくりと落ちてくる)  :(倒れるアリスのすぐ手元に落ちる) アリス:え?プレゼント…これ…夢で、見た…?  :(アリス、箱を開ける) アリス:これ、マッチ…?メッセージカード…「メリークリスマス」…? アリス:マッチ…つけてみよう…。《アリスマッチを擦り火をつける》  :(瞬間、また世界が一転する)  :(暖炉を焚いた暖かい部屋の中にアリスの祖母がいる) アリス:ッ!…お、婆ちゃん…お婆ちゃん…!やっと会えた…! アリス:《祖母に抱きつく》お婆ちゃん!  :(マッチの火と共にアリスの命も消えゆく) アリス:お婆ちゃん、暖かい…お婆ちゃん…お婆ちゃん…。 0:  :(ハートの女王の城) ガラクタ:幸せな死がプレゼントか、お優しいんだねえ君は。 女王:うるせえな、そんなんじゃねえよ。 女王:パーティーで渡しそびれたから、くれてやっただけだ。 ガラクタ:ふうん、まあいいさ。 ガラクタ:アリスにとって良い結果になった様だし、これに免じて今回のことには目をつぶっておいてあげるよ。 女王:あ?何をだよ。何もしてねえぞ。 ガラクタ:あれだけ盛大にやっといてよく言えるよ。 ガラクタ:ああ、その傲慢さ僕にも分けて欲しいぐらいさ。 女王:うるっせえな、嫌味だけ言いに来たならもう出てけよ。 ガラクタ:そんなわけないだろう、警告だよ。 ガラクタ:次にまたアリスに過干渉するようなことがあれば、君を『廃棄処分』する。 ガラクタ:わかったかな、いいね? 女王:…ちっ、わかったよ。 女王:ハッ、クソッタレだよな! 女王:クイーンでさえ、ジョーカーには逆らえないんだからよ! ガラクタ:あはは!…おっと!黒ウサギがまた誰か連れてきたみたいだ。 ガラクタ:さて次はどんな子かな?  :  ガラクタ:ここは僕たちが作った僕たちの世界、今日もガラクタ達が落ちてくる。 ガラクタ:Welcome to the world. 果てにあるのは、永遠の夢かゴミ箱か。  :   :   :   :    :Fin.