台本概要

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タイトル 死が二人を繋ぐまで
作者名 匿名0
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 20 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 とある人が綴る人生の日記。
途中の年齢表記は変えても大丈夫です。

約20分の朗読台本です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ある人 不問 14 とある人。 日記をつけている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ある人:《おずおずと》あ、あー。 ある人:入ってるかな……。 ある人:ええと……本当にこんなことをするのは初めてなので、何を言ったらいいのか……。 ある人:あ、そうですね。 ある人:ええと……今日は11月4日。 ある人:医師に勧められて、声の日記を、始めました。 ある人:日記、といっても、今日は何も無い一日でした……ああ、でも今日の日付けは覚えやすいかな。 ある人:今日は私のパートナーが死んでから10日後です。 ある人:私とパートナーとの記念日は先月の25日だったから……《次第に涙が溢れ》すみません、今日はもうこれくらいにさせてください。 ある人:日記を、終わります。 0: ある人:あーあー。 ある人:今日は11月の11日。 ある人:えーと今日は、勧められた映画を、鑑賞しました。 ある人:……あんまり面白いとは感じなかった、かな。 ある人:よく聞くタイトルだったので期待していたけど……。 ある人:あーなんというか、王道というか定番と言ったら聞こえはいいんでしょうが……。 ある人:ラストシーンで死んだ想い人と再会したり、悲しいシーンで切なげな曲が流れて雨が降ったりとか……。 ある人:そういうのがとてもチープに思えて。 ある人:私は映画には、これでも造詣(ぞうけい)が深いと自負しているもので。 ある人:……ああ、違う。 ある人:私の中で一人で見るものじゃないのかもしれない、映画は。 ある人:彼(彼女)と一緒に見たら、少しは違う感想だったかも……いいや、きっともっと酷い評価を言い合っていたでしょう。 ある人:すみません、また涙が出てきた……。 ある人:今日の日記を終わります。 0: ある人:あ、あ、あ。 ある人:日記をつけます。 ある人: 12月9日(ここのか)。 ある人:初雪です、さすがに積もりはしなかったけど。 ある人:彼(彼女)だったら喜んでいたかも。 ある人:そういえば、私は昔から雪が嫌いで……。 ある人:というのも、雪が積もると、世界が白に閉じ込められてしまうような気になるんです。 ある人:寒くて、空は暗澹(あんたん)としていて……。 ある人:いや、そっか。 ある人:昔、父親に無理やりスキーを習わされていて、単にそれで嫌いなのかも。 ある人:今はスキーをすごくしたい、けれど、やっぱり雪は嫌いかな。 ある人:ふふ、雪もとばっちり。 ある人:……雪かきも、もうしなくていいんだなあ。 ある人:ああ、すいません。 ある人:もう話すことがないので終わりにします。 0: ある人:あ、あー。 ある人:今日はぜひ聞いて欲しいことがあって日記を……あ、今日は12月の20(はつか)。 ある人:それで、話したいことというのは、私の書いたシナリオが、クリスマスに演じてもらえることになったんです! ある人:私はそれが人生で一番のプレゼントのように嬉しくて……。 ある人:楽しんで貰えるといいなあ……ホントに細々とだけど、書いていてよかった。 ある人:そういえばあのシナリオは、世には出さないつもりだったんですよ、なんだかサムい気がして嫌いで……でも彼(彼女)が気に入ってくれて。 ある人:信じて出してみたらこんな奇跡が起きた。 ある人:シナリオ……これからもちょっとずつ綴ってみようかな? ある人:はー、今から待ち遠しいな。 ある人:それでは、日記を終わります。 0: ある人:あーあー。 ある人: 12月25日。 ある人:クリスマスの日記ですね。 ある人:今夜は最高でした。 ある人:私のシナリオが上演されて、嬉しいことに、たくさんの方々にお褒めの言葉をいただきました。 ある人:これがライター冥利に尽きるということなのかと、素人ながらに思いました。 ある人:願わくば……あーすいません、こんなにおめでたい日に、無粋なセリフは辞めておきます。 ある人:改めて、今回の企画に携わって下さった全ての皆さんに感謝します。 ある人:本当にありがとうございました。 ある人:メリークリスマス。 ある人:日記を終わります。 0: ある人:あ、あ。 ある人: 12月31日、今日から一時帰宅です。 ある人:あー今日から本当、何して過ごそう。 ある人:内緒でお酒飲んじゃおうかな。 ある人:そういえば、昔新年は祖母の家で過ごすのが通例だったんです。 ある人:酒屋の祖母の家では必ずお酒が隣にありました、つまらないテレビ番組と一緒にね。 ある人:今はもうあの家もすっからかんで、新年を別の場所で過ごすようになってからは、たまに物寂しい思いにかられることがあります。 ある人:そういえば、祖母はどうしているのかな……。 ある人:私の持病を心配して手紙をくれた優しい祖母。 ある人:あの手紙のことを思い出すと……ああほらまた涙が出てきた。 ある人:知っていたけど、私ってものすごく泣き上戸なんですよね。 ある人:日記は、ここで終わりにしておきます。 0: ある人:あ、あー。 ある人:メモがてら日記を。 ある人:インコが変な言葉を覚えてくるコメディ。 ある人:今週末までに。 ある人:よし、終わります。 0: ある人:あ〜あ〜。 ある人:また新しいシナリオのアイデアがまとまったので、日記に。 ある人:親の遺産で金持ちになった物書きの男、女と出会い、女は男に惹かれる。 ある人:しかし友人の借金の保証人になってしまい、その友人に裏切られ貧窮(ひんきゅう)する。 ある人:それがショックで男は文が書けなくなる。 ある人:財産だけが自分の取り柄だと思っていた男は自暴自棄に陥る。 ある人:それでも女は男と添い遂げようとし、本物の愛を捧げ続ける。 ある人:こんな、感じかな? ある人:出だしは、こう。 ある人:「今にも死んでしまいそうな様子で俯いて、酷い言葉を吐くのです。 その言葉は、熱湯となって私の喉をキュウと焼きました」 ある人:改めて読み返すといい感じだな……。 ある人:実は私自身、役者の真似事をしていたこともあるんです。 ある人:そう何もかも中途半端なんですよね、私って。 ある人:……また書けたら、日記にするかもしれません。 ある人:それでは、終わります。 0: ある人:あ〜。 ある人: 2月13日。 ある人:誕生日おめでとう、兄さん。 ある人:あ、関係ないけどジョークを考えました。 ある人:「ヒュー危なかった!さあここでいいニュースと悪いニュースがある」 ある人:「というと?」 ある人:「ああ、どうやら俺たちまだ生きてるみたいだぜ!」 ある人:「まじかよ?で、いい方のニュースは?」 ある人:……あはは。 ある人:題して「死にたがり」。 ある人:つまらない、かもなあ。 ある人:そういえば私のパートナーは笑いに厳しい人だったから……。 ある人:私は頑張って笑ってもらえるように、こうやってジョークを作ってはよく見せたものです。 ある人:彼(彼女)はセンスのある人だったから……彼(彼女)のユーモアが私はとても好きでした。 ある人:はは、兄さん。 ある人:誕生日にかこつけてノロケ話になってごめん。 ある人:日記はここで終わります。 0: ある人:……6月20日。 ある人:久しぶりの日記です。 ある人:とてもとても久しぶり……になってしまいました。 ある人:今まで何をしてたかと言えば……あー、そうだな……。 ある人:毎日、頭の中で警鐘が鳴るんです、アレをやらないとコレをやらないと、と。 ある人:でも、そうなると決まって動悸や息切れが起きて……結局何も、できない。 ある人:そんな毎日で……本当に無駄な年月を過ごしてしまった。 ある人:そろそろ私にも『締め切り』を作らなければならないなと覚悟をして、一旦の仕切りとして今日やっと日記をつけることができた、そんな感じです。 ある人:もう1週間もしないうちに私は誕生日を迎えます、歳をまたとってしまわない内に、この日記の続きをとります。 ある人:それから親友へ、ひと足早いけど誕生日おめでとう。 ある人:そしてありがとう。 ある人:……日記を、終わります。 0: ある人:《深呼吸して》スゥ……はぁ。 ある人:あーあーあー。 ある人: 6月24日。 ある人:今日は、特別な日記になると思います。 ある人:なぜなら……アレ?どうしたんだろう、言葉が浮かばない……整理して考えてきたはずなのに。 ある人:なんでかもう、涙が込み上げてきて……。 ある人:ごめんなさい。 ある人:ただ今日は歳をとる前に、27歳の私のうちに、今の私の心境や現状をできるだけ事細かにお伝えしたいと思います。 ある人:まずは私のこと。 ある人:声だけの日記ということで察しのいい方はお気づきかもしれませんが、私は全身不随で声を発することしかできません。 ある人:元々ではないです。 ある人:私が体の自由を失ったのは去年の10月25日、私のパートナーとの記念日での出来事で……そう、私のパートナー、彼(彼女)が亡くなった日のことでもあります。 ある人:ここまで話せば、辻褄が合いやすいかと思いますが……私たちはその日、大好きなテーマパークに行こうとしていて、その道中で事故に会いました。 ある人:そして私だけが生き残り、現在まで……こうして日記をつけ続けています。 ある人:私には両親がいます、父も母も一癖や二癖あるけれど、今はとてもいい両親です。 ある人:今私は、そんな両親と会えないけれど私を思ってくれている祖母たち、そして病院の親切な方々に支えられて生きています。 ある人:幸せ、なのかもしれない。 ある人:自由をなくしたとて、最愛の人を亡くしたとて、こんなにたくさんの温かい人々に囲まれて生きていく、ということは。 ある人:でも、私は悲しい。 ある人:そしてとても苦しい。 ある人:この数ヶ月、不幸と幸福をずっと天秤にかけ続けてきました。 ある人:そしてそれはいつも同じ方に傾くんです。 ある人:すみません、これじゃあ支離滅裂ですね……。 ある人:以前お話しましたが、私は自分に『締め切り』を作ることを決めました。 ある人:それから目標も。 ある人:そうしないとダラダラと彼(彼女)のいない、なんの意味もない人生を生き続けなければならない。 ある人:そんなことは辛すぎます。 ある人:甘えるな、おまえはまだ恵まれている、生きたかった人に失礼だ。 ある人:そんな風に思われるかもしれない。 ある人:思われてもいい。 ある人:もう全部、いい。 ある人:ヤケではありません。 ある人:これは私から私自身へと送る『誠実な優しさ』なんです。 ある人:……長くなりましたが、私はこれから『締め切り』までにできるだけ沢山のシナリオを書きます。 ある人:そして、それらを全てインターネットの海へと撒きます。 ある人:私という存在を世に刻み込むため……。 ある人:言ってしまえばエゴです。 ある人:少しでも他人の心に残りたい。 ある人:これぐらいの人間らしいワガママを抱えていても地獄には行かないでしょう。 ある人:話は変わりますが、これから私は念願の常夏の島へと旅立ちます。 ある人:彼(彼女)がいない、旅にどれだけの価値があるかは果たしてわかりませんが……あくまで消化すべき目標の1つとして行ってきます。 ある人:あともうちょっとで迎えが来ますね……。 ある人:それでは、いってきます。 ある人:日記を終わります。 0: ある人:あ、あー。 ある人:今2回目のバリにいます。 ある人:今日は9月29日、お父さん、おばあちゃん、誕生日おめでとう。 ある人:お母さんの誕生日は、祝えそうにないなあ……。 ある人:泣かないでよ。 ある人:生きてたら、そりゃまだまだいっぱいいいことは起きるかもしれない。 ある人:でもそれはね、あの人も一緒じゃなきゃ意味が無いんだよ……もうわかってくれるよね? ある人:……ありがとう。 ある人:あ、そうだそうだ。 ある人:これだけは言いたかったんです。 ある人:人生で一番たくさん言わなきゃいけない言葉って、なんだと思います? ある人:私は『ありがとう』だと思います。 ある人:生きている内にできるだけ親切にして、感謝を伝える。 ある人:人はいつかいなくなってしまうんだから……。 ある人:悔いが残らないように『締め切り』までありがとうを伝え続けたいと思います。 ある人:さ、ほら泣かないでお母さん。 ある人:では、日記を終わります。 0: ある人:あ、あーあー。 ある人:今日は10月25日。 ある人: 8回目の記念日です。 ある人:旅も予定通り最終目的地まで来ました。 ある人:グアム、ハワイ、沖縄、バリ、セーシェル、ニューカレドニア。 ある人:南国ばかり回ってクッキリとシャツの日焼け痕ができています。 ある人:最終地点は打って変わってオランダ、ここは風が冷たい、温度差で心臓麻痺を起こしそうです。 ある人:さて、ここまでつけてきた声日記。 ある人:それもここで最後です。 ある人:長い長い旅を経て、私は本当に永久(とこしえ)の旅に出る。 ある人:最後に、これは私のただの心変わりですがこの日記を公開しようと思います。 ある人:それこそ私の生きた証として、できるだけ長く誰かが覚えていてくれるように。 ある人:私のエゴに付き合わされたあなた、本当にすみません。 ある人:さて、私はそろそろいきます。 ある人:お父さん、お母さん、兄さん、おばあちゃん達。 ある人:本当にありがとう、不出来な人間でごめんなさい。 ある人:あなた達のくれるこの先の幸福を享受できなくて、ごめんなさい。 ある人:そして……最愛なるあなたへ、待たせてごめんね。 ある人:今、行くよ。 ある人:宇宙で一番愛してる。 : ある人 :『死が二人を繋ぐまで』 : : : :Fin.

ある人:《おずおずと》あ、あー。 ある人:入ってるかな……。 ある人:ええと……本当にこんなことをするのは初めてなので、何を言ったらいいのか……。 ある人:あ、そうですね。 ある人:ええと……今日は11月4日。 ある人:医師に勧められて、声の日記を、始めました。 ある人:日記、といっても、今日は何も無い一日でした……ああ、でも今日の日付けは覚えやすいかな。 ある人:今日は私のパートナーが死んでから10日後です。 ある人:私とパートナーとの記念日は先月の25日だったから……《次第に涙が溢れ》すみません、今日はもうこれくらいにさせてください。 ある人:日記を、終わります。 0: ある人:あーあー。 ある人:今日は11月の11日。 ある人:えーと今日は、勧められた映画を、鑑賞しました。 ある人:……あんまり面白いとは感じなかった、かな。 ある人:よく聞くタイトルだったので期待していたけど……。 ある人:あーなんというか、王道というか定番と言ったら聞こえはいいんでしょうが……。 ある人:ラストシーンで死んだ想い人と再会したり、悲しいシーンで切なげな曲が流れて雨が降ったりとか……。 ある人:そういうのがとてもチープに思えて。 ある人:私は映画には、これでも造詣(ぞうけい)が深いと自負しているもので。 ある人:……ああ、違う。 ある人:私の中で一人で見るものじゃないのかもしれない、映画は。 ある人:彼(彼女)と一緒に見たら、少しは違う感想だったかも……いいや、きっともっと酷い評価を言い合っていたでしょう。 ある人:すみません、また涙が出てきた……。 ある人:今日の日記を終わります。 0: ある人:あ、あ、あ。 ある人:日記をつけます。 ある人: 12月9日(ここのか)。 ある人:初雪です、さすがに積もりはしなかったけど。 ある人:彼(彼女)だったら喜んでいたかも。 ある人:そういえば、私は昔から雪が嫌いで……。 ある人:というのも、雪が積もると、世界が白に閉じ込められてしまうような気になるんです。 ある人:寒くて、空は暗澹(あんたん)としていて……。 ある人:いや、そっか。 ある人:昔、父親に無理やりスキーを習わされていて、単にそれで嫌いなのかも。 ある人:今はスキーをすごくしたい、けれど、やっぱり雪は嫌いかな。 ある人:ふふ、雪もとばっちり。 ある人:……雪かきも、もうしなくていいんだなあ。 ある人:ああ、すいません。 ある人:もう話すことがないので終わりにします。 0: ある人:あ、あー。 ある人:今日はぜひ聞いて欲しいことがあって日記を……あ、今日は12月の20(はつか)。 ある人:それで、話したいことというのは、私の書いたシナリオが、クリスマスに演じてもらえることになったんです! ある人:私はそれが人生で一番のプレゼントのように嬉しくて……。 ある人:楽しんで貰えるといいなあ……ホントに細々とだけど、書いていてよかった。 ある人:そういえばあのシナリオは、世には出さないつもりだったんですよ、なんだかサムい気がして嫌いで……でも彼(彼女)が気に入ってくれて。 ある人:信じて出してみたらこんな奇跡が起きた。 ある人:シナリオ……これからもちょっとずつ綴ってみようかな? ある人:はー、今から待ち遠しいな。 ある人:それでは、日記を終わります。 0: ある人:あーあー。 ある人: 12月25日。 ある人:クリスマスの日記ですね。 ある人:今夜は最高でした。 ある人:私のシナリオが上演されて、嬉しいことに、たくさんの方々にお褒めの言葉をいただきました。 ある人:これがライター冥利に尽きるということなのかと、素人ながらに思いました。 ある人:願わくば……あーすいません、こんなにおめでたい日に、無粋なセリフは辞めておきます。 ある人:改めて、今回の企画に携わって下さった全ての皆さんに感謝します。 ある人:本当にありがとうございました。 ある人:メリークリスマス。 ある人:日記を終わります。 0: ある人:あ、あ。 ある人: 12月31日、今日から一時帰宅です。 ある人:あー今日から本当、何して過ごそう。 ある人:内緒でお酒飲んじゃおうかな。 ある人:そういえば、昔新年は祖母の家で過ごすのが通例だったんです。 ある人:酒屋の祖母の家では必ずお酒が隣にありました、つまらないテレビ番組と一緒にね。 ある人:今はもうあの家もすっからかんで、新年を別の場所で過ごすようになってからは、たまに物寂しい思いにかられることがあります。 ある人:そういえば、祖母はどうしているのかな……。 ある人:私の持病を心配して手紙をくれた優しい祖母。 ある人:あの手紙のことを思い出すと……ああほらまた涙が出てきた。 ある人:知っていたけど、私ってものすごく泣き上戸なんですよね。 ある人:日記は、ここで終わりにしておきます。 0: ある人:あ、あー。 ある人:メモがてら日記を。 ある人:インコが変な言葉を覚えてくるコメディ。 ある人:今週末までに。 ある人:よし、終わります。 0: ある人:あ〜あ〜。 ある人:また新しいシナリオのアイデアがまとまったので、日記に。 ある人:親の遺産で金持ちになった物書きの男、女と出会い、女は男に惹かれる。 ある人:しかし友人の借金の保証人になってしまい、その友人に裏切られ貧窮(ひんきゅう)する。 ある人:それがショックで男は文が書けなくなる。 ある人:財産だけが自分の取り柄だと思っていた男は自暴自棄に陥る。 ある人:それでも女は男と添い遂げようとし、本物の愛を捧げ続ける。 ある人:こんな、感じかな? ある人:出だしは、こう。 ある人:「今にも死んでしまいそうな様子で俯いて、酷い言葉を吐くのです。 その言葉は、熱湯となって私の喉をキュウと焼きました」 ある人:改めて読み返すといい感じだな……。 ある人:実は私自身、役者の真似事をしていたこともあるんです。 ある人:そう何もかも中途半端なんですよね、私って。 ある人:……また書けたら、日記にするかもしれません。 ある人:それでは、終わります。 0: ある人:あ〜。 ある人: 2月13日。 ある人:誕生日おめでとう、兄さん。 ある人:あ、関係ないけどジョークを考えました。 ある人:「ヒュー危なかった!さあここでいいニュースと悪いニュースがある」 ある人:「というと?」 ある人:「ああ、どうやら俺たちまだ生きてるみたいだぜ!」 ある人:「まじかよ?で、いい方のニュースは?」 ある人:……あはは。 ある人:題して「死にたがり」。 ある人:つまらない、かもなあ。 ある人:そういえば私のパートナーは笑いに厳しい人だったから……。 ある人:私は頑張って笑ってもらえるように、こうやってジョークを作ってはよく見せたものです。 ある人:彼(彼女)はセンスのある人だったから……彼(彼女)のユーモアが私はとても好きでした。 ある人:はは、兄さん。 ある人:誕生日にかこつけてノロケ話になってごめん。 ある人:日記はここで終わります。 0: ある人:……6月20日。 ある人:久しぶりの日記です。 ある人:とてもとても久しぶり……になってしまいました。 ある人:今まで何をしてたかと言えば……あー、そうだな……。 ある人:毎日、頭の中で警鐘が鳴るんです、アレをやらないとコレをやらないと、と。 ある人:でも、そうなると決まって動悸や息切れが起きて……結局何も、できない。 ある人:そんな毎日で……本当に無駄な年月を過ごしてしまった。 ある人:そろそろ私にも『締め切り』を作らなければならないなと覚悟をして、一旦の仕切りとして今日やっと日記をつけることができた、そんな感じです。 ある人:もう1週間もしないうちに私は誕生日を迎えます、歳をまたとってしまわない内に、この日記の続きをとります。 ある人:それから親友へ、ひと足早いけど誕生日おめでとう。 ある人:そしてありがとう。 ある人:……日記を、終わります。 0: ある人:《深呼吸して》スゥ……はぁ。 ある人:あーあーあー。 ある人: 6月24日。 ある人:今日は、特別な日記になると思います。 ある人:なぜなら……アレ?どうしたんだろう、言葉が浮かばない……整理して考えてきたはずなのに。 ある人:なんでかもう、涙が込み上げてきて……。 ある人:ごめんなさい。 ある人:ただ今日は歳をとる前に、27歳の私のうちに、今の私の心境や現状をできるだけ事細かにお伝えしたいと思います。 ある人:まずは私のこと。 ある人:声だけの日記ということで察しのいい方はお気づきかもしれませんが、私は全身不随で声を発することしかできません。 ある人:元々ではないです。 ある人:私が体の自由を失ったのは去年の10月25日、私のパートナーとの記念日での出来事で……そう、私のパートナー、彼(彼女)が亡くなった日のことでもあります。 ある人:ここまで話せば、辻褄が合いやすいかと思いますが……私たちはその日、大好きなテーマパークに行こうとしていて、その道中で事故に会いました。 ある人:そして私だけが生き残り、現在まで……こうして日記をつけ続けています。 ある人:私には両親がいます、父も母も一癖や二癖あるけれど、今はとてもいい両親です。 ある人:今私は、そんな両親と会えないけれど私を思ってくれている祖母たち、そして病院の親切な方々に支えられて生きています。 ある人:幸せ、なのかもしれない。 ある人:自由をなくしたとて、最愛の人を亡くしたとて、こんなにたくさんの温かい人々に囲まれて生きていく、ということは。 ある人:でも、私は悲しい。 ある人:そしてとても苦しい。 ある人:この数ヶ月、不幸と幸福をずっと天秤にかけ続けてきました。 ある人:そしてそれはいつも同じ方に傾くんです。 ある人:すみません、これじゃあ支離滅裂ですね……。 ある人:以前お話しましたが、私は自分に『締め切り』を作ることを決めました。 ある人:それから目標も。 ある人:そうしないとダラダラと彼(彼女)のいない、なんの意味もない人生を生き続けなければならない。 ある人:そんなことは辛すぎます。 ある人:甘えるな、おまえはまだ恵まれている、生きたかった人に失礼だ。 ある人:そんな風に思われるかもしれない。 ある人:思われてもいい。 ある人:もう全部、いい。 ある人:ヤケではありません。 ある人:これは私から私自身へと送る『誠実な優しさ』なんです。 ある人:……長くなりましたが、私はこれから『締め切り』までにできるだけ沢山のシナリオを書きます。 ある人:そして、それらを全てインターネットの海へと撒きます。 ある人:私という存在を世に刻み込むため……。 ある人:言ってしまえばエゴです。 ある人:少しでも他人の心に残りたい。 ある人:これぐらいの人間らしいワガママを抱えていても地獄には行かないでしょう。 ある人:話は変わりますが、これから私は念願の常夏の島へと旅立ちます。 ある人:彼(彼女)がいない、旅にどれだけの価値があるかは果たしてわかりませんが……あくまで消化すべき目標の1つとして行ってきます。 ある人:あともうちょっとで迎えが来ますね……。 ある人:それでは、いってきます。 ある人:日記を終わります。 0: ある人:あ、あー。 ある人:今2回目のバリにいます。 ある人:今日は9月29日、お父さん、おばあちゃん、誕生日おめでとう。 ある人:お母さんの誕生日は、祝えそうにないなあ……。 ある人:泣かないでよ。 ある人:生きてたら、そりゃまだまだいっぱいいいことは起きるかもしれない。 ある人:でもそれはね、あの人も一緒じゃなきゃ意味が無いんだよ……もうわかってくれるよね? ある人:……ありがとう。 ある人:あ、そうだそうだ。 ある人:これだけは言いたかったんです。 ある人:人生で一番たくさん言わなきゃいけない言葉って、なんだと思います? ある人:私は『ありがとう』だと思います。 ある人:生きている内にできるだけ親切にして、感謝を伝える。 ある人:人はいつかいなくなってしまうんだから……。 ある人:悔いが残らないように『締め切り』までありがとうを伝え続けたいと思います。 ある人:さ、ほら泣かないでお母さん。 ある人:では、日記を終わります。 0: ある人:あ、あーあー。 ある人:今日は10月25日。 ある人: 8回目の記念日です。 ある人:旅も予定通り最終目的地まで来ました。 ある人:グアム、ハワイ、沖縄、バリ、セーシェル、ニューカレドニア。 ある人:南国ばかり回ってクッキリとシャツの日焼け痕ができています。 ある人:最終地点は打って変わってオランダ、ここは風が冷たい、温度差で心臓麻痺を起こしそうです。 ある人:さて、ここまでつけてきた声日記。 ある人:それもここで最後です。 ある人:長い長い旅を経て、私は本当に永久(とこしえ)の旅に出る。 ある人:最後に、これは私のただの心変わりですがこの日記を公開しようと思います。 ある人:それこそ私の生きた証として、できるだけ長く誰かが覚えていてくれるように。 ある人:私のエゴに付き合わされたあなた、本当にすみません。 ある人:さて、私はそろそろいきます。 ある人:お父さん、お母さん、兄さん、おばあちゃん達。 ある人:本当にありがとう、不出来な人間でごめんなさい。 ある人:あなた達のくれるこの先の幸福を享受できなくて、ごめんなさい。 ある人:そして……最愛なるあなたへ、待たせてごめんね。 ある人:今、行くよ。 ある人:宇宙で一番愛してる。 : ある人 :『死が二人を繋ぐまで』 : : : :Fin.