台本概要
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タイトル | 終幕の残り香 |
---|---|
作者名 | 不尽子(つきぬこ) (@tsukinuko) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(女1、不問1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
本作は「狂人達の円舞曲」の後日談になります。前作を読まなくてもお楽しみいただけます。 ご使用の際は聞きに行きたいのでご連絡いただけると幸いです。(強制ではありません) 407 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
看守 | 不問 | 72 | 殺人を憎む刑務所の看守だが、一時的に少女の保護観察を任せられた。 |
少女 | 女 | 70 | 大量殺人の罪で逮捕されたが、未成年である事と虐待の影響でIQが低かったため無罪となった。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
看守:(N)法改正により、精神疾患を持っていようが、未成年であろうが、一定数の殺人を犯した者は、例外無く死刑となった。
少女:あ、おまわりさん!おかえりなさーい!
看守:…私はお巡りさんじゃない。看守だ。百回はこの話をしたぞ。
少女:ひゃっかいってなんかい?
看守:十回を十回数えると、百回になる。
少女:わー、いっぱい!
看守:(溜息)
少女:ねー、カンシュってなぁに?
看守:お巡りさんが捕まえた悪い奴を、逃がさないようにするのが看守だ。
少女:わー!カッコいい!
看守:…まぁ、そんな話はいいだろう。ほら、ご飯にするぞ。
少女:ほっけとーき?
看守:ほっけ…?
少女:ほっけとーきたべたい!
看守:…ホットケーキの事を言ってるのか?それはご飯じゃなくておやつだ。
少女:ほっとけーき!たべたーい!
看守:…分かった。休みの日になれば連れて行ってやる。
少女:つくって!
看守:…料理ならともかく、私はお菓子作りは苦手なんだ…。
少女:どーちがうの?
看守:(溜息)…少し静かにしてくれ。
少女:…うん。
看守:……。
看守:
看守:(N)この頭の弱い若干十歳の少女も、本来ならば絞首刑に処されるはずだった殺人鬼だ。
看守:(N)だが親から受けた虐待により知能指数が著(いちじる)しく低下し、血液と花の区別もつかなくなった彼女の身の上に同情した者達が、署名を募って少女の釈放を希望した。
看守:(N)政府はそれに応え、少女の死刑を取りやめとする代わりに、看守の内一人に彼女の保護観察をするように命じた。
少女:(ご飯を食べている)
看守:味はどうだ?
少女:(ニコニコしている)
看守:…静かにしてくれとは言ったが、私がきいた事には答えてくれないか?
少女:はーい!おいしいよ!
看守:こら、食べかすを飛ばすな!
少女:こたえてってカンシュさんがいったのに!
看守:口を大きく開けなくていい!
少女:あ、そっか!
看守:(長い溜息)
看守:
看守:(N)未だに自分でも分からない。何故この少女の保護観察を、私は自ら志願してしまったのか。
看守:(N)この娘は殺人鬼で、それもその頭の弱さから無罪となった、私が一番憎むべき罪人だと言うのに。
少女:ごちそーさまでした!あ!カンシュさんカンシュさん!
看守:…何だ、うるさいぞ。
少女:クロくておっきームシみつけた!カッコいい!
看守:!?ゴ、ゴキブリ!?
少女:ねー、これかっていい?
看守:ダメに決まってる!汚いから触るな!捨てろ!
少女:キタナイとダメなの?
看守:ダメだ!いいから窓に捨てなさい!
少女:はーい。
看守:窓に置いてどうする!外へ捨てろと言ったんだ!!
少女:おそとにつれてくの?わかったー!
看守:あーこら!汚いから掴むなと言っただろ!待ちなさい!!
少女:あ。
看守:うっ…。
少女:つぶれちゃった……。
看守:……。
少女:オテテがベトベトするぅ~…。
看守:タオルで拭くのはやめろ。ほら、このティッシュを使え。
少女:カンシュさん、ありがとー!
看守:(長い溜息)
少女:ねー、ほっけとーきたべたい!
看守:…だから、ホットケーキだと言ってるだろ。
少女:ジャムいっぱいつけるの!オハナバタケにするの!
看守:分かった。分かったから大人しくしてくれ。
少女:はーい!
0:数日が経ち
看守:…おい、いいかげん出てきてくれないか。
少女:……。
看守:(溜息)参ったな……。
看守:
看守:(N)少し目を離している隙に、彼女が包丁を手に取っていた。
看守:(N)慌てて取り上げたが、どうやら私を刺すつもりではなかったらしい。
看守:(N)彼女は料理をしようとしていたのだ。いつも疲れた顔で帰って来る私のために。
看守:(N)だがそれに気付いた時には、既に彼女はトイレに鍵をかけて引き籠ってしまっていた。
少女:……。
看守:…ホットケーキを焼いてやるから、機嫌を直してくれないか?
少女:!…ほっとけーき……。
看守:ジャムも新しい味のを買ってやる。違うお花を咲かせられるぞ。
少女:…かない?
看守:?
少女:カンシュさん、たたかない?
看守:…叩く訳、無いだろう…。
少女:……。(ドアを開ける)
看守:ただし、これからは包丁を持つ時は、先に私に言ってくれ。
少女:…ごめんなさい。
看守:!
少女:?
看守:……いや、ちゃんと謝れて偉いな。
少女:えへへー!
看守:さぁ、ホットケーキの準備をしよう。
少女:はーい!
0:
看守:…こら、まだひっくり返すには早いぞ。
少女:んー、まだやけないー?
看守:まだだ。
少女:むー…。
看守:…お前を見ると、何故か娘を思い出すよ。
少女:んー?
看守:お前は娘を、殺した側なのにな。
少女:コロシタガワ?どこのカワ?
看守:…ああ、そいつもお前みたいに頭のおかしい奴だった。責任能力が無いものとして、当時そいつは無罪にされた。
少女:んー…よくわかんない。
看守:その後であの法改正だ、納得できるか?ついこの前まで未来があったはずの子供の無念よりも、治るかも不明瞭な頭をした犯罪者の命を選んだくせに!
少女:カンシュさん?なんでおこってるの?
看守:おまけに法の不遡及(ふそきゅう)ときた。改正の施行日以前にキチガイ無罪になった奴等は裁けないとさ!ふざけるな!!
少女:わっ…。
看守:お前も、お前もそいつと同じなんだ…。人の命を奪う事の意味を、何も分かっていない…。そんな奴は生かしたところで、また人を殺すに決まっているのに…!
少女:カンシュさん…?
看守:何もかもが違うはずなんだ…お前と娘じゃ…何もかも…。なのに、何故私はっ……!!
少女:……。
看守:……。
少女:カンシュさん。
看守:…何だ。
少女:いたいのいたいの、とんでいけー。
看守:…?
少女:いたいのいたいの、とんでいけー!
看守:っ……。
少女:カンシュさん、なかないで。まだいたい?
看守:……。
少女:ほっとけーき、こげちゃうよ?
看守:…!今、ホットケーキって……。
少女:?ほっとけーきでしょ?
看守:……。
少女:あれ?ほっけとーき?どっち?
看守:…いや、ホットケーキであってる。ひっくり返そうか。
少女:わーい!
看守:ほらっ
少女:わー!できた!
看守:まだ半分焼けてないだろう。
少女:ねーねー、なんでキイロがチャイロになるの?
看守:焼けると茶色になるんだ。千回はこの説明したぞ。
少女:せんかいってなんかい?
看守:あー、百回を十回…十回を百回…いや、百回が分からないか…。
少女:わかるよ!いっぱい!
看守:!…そうだな、いっぱいだ。
少女:えへへー、はやくたべたーい!
看守:もう少しだけ、待ってなさい。
少女:はーい!
看守:……。
看守:
看守:(N)ある医師がこう言っていた。この子にはもう、何かを憶えられる程の知力は無いと。
看守:(N)なのに今は、こうして少しずつ何かを憶え始めている。いや、そもそも牢に居た時には、一言もホットケーキなんて言っていなかったはずだ。
看守:(N)変わってきているのだ、この少女も。少しずつだが、確実に。
看守:(N)なら、変わっていないのは…いつまでも止まったまま、前に進めていないのは……。
0:また数日が経ち
看守:朗報だ。お迎えが来たぞ。
少女:ろーほー?
看守:良いお知らせって意味だ。お前の大好きな「おねーちゃん」が来たぞ。
少女:おねーちゃん!?
看守:ほら、おいで。
少女:……。
看守:ん?どうした?
少女:カンシュさん。
看守:何だ、会いたかったんだろう?
少女:またあえる?
看守:……。
少女:またあそぼ!やくそく!
看守:…分かった、約束だ。
少女:うん!じゃーねー!
看守:ああ。
看守:……悟られた、訳が無いか。
看守:
看守:(N)鍵をかけていた部屋を開けて、予め天井に吊るしていた縄を手に取る。
看守:(N)罪人の言葉など聞く必要は無い。あんな事を言っていたが、どうせすぐに私の事など忘れるに決まっている。
看守:(N)台に乗り、縄を首にかける。あとどれだけ居るのかも分からない罪人を憎み続けるのは、もう疲れた。
看守:(N)どうせ何も変われはしない。何もかもを失った人間が、前に進むなんて出来はしない。
看守:(N)ならばもう、いっそ終わらせてしまおう。娘に会いに行こう。私は目を閉じて、踏み台を蹴り飛ばした。
少女:(回想)またあそぼ!やくそく!
看守:っ…!!
看守:
看守:(N)気が付けば、床に転がっていた。どうやらさっきの勢いに耐え切れず、縄が千切れてしまったらしい。
看守:
看守:…はは、ははははっ……!
看守:
看守:(N)馬鹿馬鹿しくなって、つい笑ってしまった。私は一体、何をやっているんだろう。
看守:(N)ひとしきり笑った後で、踏み台と縄を片付けた。娘に会いたい気持ちはまだあるが、もう少しだけ生きていられそうな気がした。
看守:(N)誰も居なくなったダイニングに戻り、冷蔵庫に入れていたホットケーキの残りを取り出して、電子レンジに入れる。
看守:(N)その間に淹れたコーヒーと、温まったホットケーキの香りに包まれながら、久々に穏やかな昼下がりを過ごした。
看守:(N)法改正により、精神疾患を持っていようが、未成年であろうが、一定数の殺人を犯した者は、例外無く死刑となった。
少女:あ、おまわりさん!おかえりなさーい!
看守:…私はお巡りさんじゃない。看守だ。百回はこの話をしたぞ。
少女:ひゃっかいってなんかい?
看守:十回を十回数えると、百回になる。
少女:わー、いっぱい!
看守:(溜息)
少女:ねー、カンシュってなぁに?
看守:お巡りさんが捕まえた悪い奴を、逃がさないようにするのが看守だ。
少女:わー!カッコいい!
看守:…まぁ、そんな話はいいだろう。ほら、ご飯にするぞ。
少女:ほっけとーき?
看守:ほっけ…?
少女:ほっけとーきたべたい!
看守:…ホットケーキの事を言ってるのか?それはご飯じゃなくておやつだ。
少女:ほっとけーき!たべたーい!
看守:…分かった。休みの日になれば連れて行ってやる。
少女:つくって!
看守:…料理ならともかく、私はお菓子作りは苦手なんだ…。
少女:どーちがうの?
看守:(溜息)…少し静かにしてくれ。
少女:…うん。
看守:……。
看守:
看守:(N)この頭の弱い若干十歳の少女も、本来ならば絞首刑に処されるはずだった殺人鬼だ。
看守:(N)だが親から受けた虐待により知能指数が著(いちじる)しく低下し、血液と花の区別もつかなくなった彼女の身の上に同情した者達が、署名を募って少女の釈放を希望した。
看守:(N)政府はそれに応え、少女の死刑を取りやめとする代わりに、看守の内一人に彼女の保護観察をするように命じた。
少女:(ご飯を食べている)
看守:味はどうだ?
少女:(ニコニコしている)
看守:…静かにしてくれとは言ったが、私がきいた事には答えてくれないか?
少女:はーい!おいしいよ!
看守:こら、食べかすを飛ばすな!
少女:こたえてってカンシュさんがいったのに!
看守:口を大きく開けなくていい!
少女:あ、そっか!
看守:(長い溜息)
看守:
看守:(N)未だに自分でも分からない。何故この少女の保護観察を、私は自ら志願してしまったのか。
看守:(N)この娘は殺人鬼で、それもその頭の弱さから無罪となった、私が一番憎むべき罪人だと言うのに。
少女:ごちそーさまでした!あ!カンシュさんカンシュさん!
看守:…何だ、うるさいぞ。
少女:クロくておっきームシみつけた!カッコいい!
看守:!?ゴ、ゴキブリ!?
少女:ねー、これかっていい?
看守:ダメに決まってる!汚いから触るな!捨てろ!
少女:キタナイとダメなの?
看守:ダメだ!いいから窓に捨てなさい!
少女:はーい。
看守:窓に置いてどうする!外へ捨てろと言ったんだ!!
少女:おそとにつれてくの?わかったー!
看守:あーこら!汚いから掴むなと言っただろ!待ちなさい!!
少女:あ。
看守:うっ…。
少女:つぶれちゃった……。
看守:……。
少女:オテテがベトベトするぅ~…。
看守:タオルで拭くのはやめろ。ほら、このティッシュを使え。
少女:カンシュさん、ありがとー!
看守:(長い溜息)
少女:ねー、ほっけとーきたべたい!
看守:…だから、ホットケーキだと言ってるだろ。
少女:ジャムいっぱいつけるの!オハナバタケにするの!
看守:分かった。分かったから大人しくしてくれ。
少女:はーい!
0:数日が経ち
看守:…おい、いいかげん出てきてくれないか。
少女:……。
看守:(溜息)参ったな……。
看守:
看守:(N)少し目を離している隙に、彼女が包丁を手に取っていた。
看守:(N)慌てて取り上げたが、どうやら私を刺すつもりではなかったらしい。
看守:(N)彼女は料理をしようとしていたのだ。いつも疲れた顔で帰って来る私のために。
看守:(N)だがそれに気付いた時には、既に彼女はトイレに鍵をかけて引き籠ってしまっていた。
少女:……。
看守:…ホットケーキを焼いてやるから、機嫌を直してくれないか?
少女:!…ほっとけーき……。
看守:ジャムも新しい味のを買ってやる。違うお花を咲かせられるぞ。
少女:…かない?
看守:?
少女:カンシュさん、たたかない?
看守:…叩く訳、無いだろう…。
少女:……。(ドアを開ける)
看守:ただし、これからは包丁を持つ時は、先に私に言ってくれ。
少女:…ごめんなさい。
看守:!
少女:?
看守:……いや、ちゃんと謝れて偉いな。
少女:えへへー!
看守:さぁ、ホットケーキの準備をしよう。
少女:はーい!
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看守:…こら、まだひっくり返すには早いぞ。
少女:んー、まだやけないー?
看守:まだだ。
少女:むー…。
看守:…お前を見ると、何故か娘を思い出すよ。
少女:んー?
看守:お前は娘を、殺した側なのにな。
少女:コロシタガワ?どこのカワ?
看守:…ああ、そいつもお前みたいに頭のおかしい奴だった。責任能力が無いものとして、当時そいつは無罪にされた。
少女:んー…よくわかんない。
看守:その後であの法改正だ、納得できるか?ついこの前まで未来があったはずの子供の無念よりも、治るかも不明瞭な頭をした犯罪者の命を選んだくせに!
少女:カンシュさん?なんでおこってるの?
看守:おまけに法の不遡及(ふそきゅう)ときた。改正の施行日以前にキチガイ無罪になった奴等は裁けないとさ!ふざけるな!!
少女:わっ…。
看守:お前も、お前もそいつと同じなんだ…。人の命を奪う事の意味を、何も分かっていない…。そんな奴は生かしたところで、また人を殺すに決まっているのに…!
少女:カンシュさん…?
看守:何もかもが違うはずなんだ…お前と娘じゃ…何もかも…。なのに、何故私はっ……!!
少女:……。
看守:……。
少女:カンシュさん。
看守:…何だ。
少女:いたいのいたいの、とんでいけー。
看守:…?
少女:いたいのいたいの、とんでいけー!
看守:っ……。
少女:カンシュさん、なかないで。まだいたい?
看守:……。
少女:ほっとけーき、こげちゃうよ?
看守:…!今、ホットケーキって……。
少女:?ほっとけーきでしょ?
看守:……。
少女:あれ?ほっけとーき?どっち?
看守:…いや、ホットケーキであってる。ひっくり返そうか。
少女:わーい!
看守:ほらっ
少女:わー!できた!
看守:まだ半分焼けてないだろう。
少女:ねーねー、なんでキイロがチャイロになるの?
看守:焼けると茶色になるんだ。千回はこの説明したぞ。
少女:せんかいってなんかい?
看守:あー、百回を十回…十回を百回…いや、百回が分からないか…。
少女:わかるよ!いっぱい!
看守:!…そうだな、いっぱいだ。
少女:えへへー、はやくたべたーい!
看守:もう少しだけ、待ってなさい。
少女:はーい!
看守:……。
看守:
看守:(N)ある医師がこう言っていた。この子にはもう、何かを憶えられる程の知力は無いと。
看守:(N)なのに今は、こうして少しずつ何かを憶え始めている。いや、そもそも牢に居た時には、一言もホットケーキなんて言っていなかったはずだ。
看守:(N)変わってきているのだ、この少女も。少しずつだが、確実に。
看守:(N)なら、変わっていないのは…いつまでも止まったまま、前に進めていないのは……。
0:また数日が経ち
看守:朗報だ。お迎えが来たぞ。
少女:ろーほー?
看守:良いお知らせって意味だ。お前の大好きな「おねーちゃん」が来たぞ。
少女:おねーちゃん!?
看守:ほら、おいで。
少女:……。
看守:ん?どうした?
少女:カンシュさん。
看守:何だ、会いたかったんだろう?
少女:またあえる?
看守:……。
少女:またあそぼ!やくそく!
看守:…分かった、約束だ。
少女:うん!じゃーねー!
看守:ああ。
看守:……悟られた、訳が無いか。
看守:
看守:(N)鍵をかけていた部屋を開けて、予め天井に吊るしていた縄を手に取る。
看守:(N)罪人の言葉など聞く必要は無い。あんな事を言っていたが、どうせすぐに私の事など忘れるに決まっている。
看守:(N)台に乗り、縄を首にかける。あとどれだけ居るのかも分からない罪人を憎み続けるのは、もう疲れた。
看守:(N)どうせ何も変われはしない。何もかもを失った人間が、前に進むなんて出来はしない。
看守:(N)ならばもう、いっそ終わらせてしまおう。娘に会いに行こう。私は目を閉じて、踏み台を蹴り飛ばした。
少女:(回想)またあそぼ!やくそく!
看守:っ…!!
看守:
看守:(N)気が付けば、床に転がっていた。どうやらさっきの勢いに耐え切れず、縄が千切れてしまったらしい。
看守:
看守:…はは、ははははっ……!
看守:
看守:(N)馬鹿馬鹿しくなって、つい笑ってしまった。私は一体、何をやっているんだろう。
看守:(N)ひとしきり笑った後で、踏み台と縄を片付けた。娘に会いたい気持ちはまだあるが、もう少しだけ生きていられそうな気がした。
看守:(N)誰も居なくなったダイニングに戻り、冷蔵庫に入れていたホットケーキの残りを取り出して、電子レンジに入れる。
看守:(N)その間に淹れたコーヒーと、温まったホットケーキの香りに包まれながら、久々に穏やかな昼下がりを過ごした。