台本概要

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タイトル 終幕の残り香
作者名 不尽子(つきぬこ)  (@tsukinuko)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(女1、不問1)
時間 10 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 本作は「狂人達の円舞曲」の後日談になります。前作を読まなくてもお楽しみいただけます。
ご使用の際は聞きに行きたいのでご連絡いただけると幸いです。(強制ではありません)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
看守 不問 72 殺人を憎む刑務所の看守だが、一時的に少女の保護観察を任せられた。
少女 70 大量殺人の罪で逮捕されたが、未成年である事と虐待の影響でIQが低かったため無罪となった。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
看守:(N)法改正により、精神疾患を持っていようが、未成年であろうが、一定数の殺人を犯した者は、例外無く死刑となった。 少女:あ、おまわりさん!おかえりなさーい! 看守:…私はお巡りさんじゃない。看守だ。百回はこの話をしたぞ。 少女:ひゃっかいってなんかい? 看守:十回を十回数えると、百回になる。 少女:わー、いっぱい! 看守:(溜息) 少女:ねー、カンシュってなぁに? 看守:お巡りさんが捕まえた悪い奴を、逃がさないようにするのが看守だ。 少女:わー!カッコいい! 看守:…まぁ、そんな話はいいだろう。ほら、ご飯にするぞ。 少女:ほっけとーき? 看守:ほっけ…? 少女:ほっけとーきたべたい! 看守:…ホットケーキの事を言ってるのか?それはご飯じゃなくておやつだ。 少女:ほっとけーき!たべたーい! 看守:…分かった。休みの日になれば連れて行ってやる。 少女:つくって! 看守:…料理ならともかく、私はお菓子作りは苦手なんだ…。 少女:どーちがうの? 看守:(溜息)…少し静かにしてくれ。 少女:…うん。 看守:……。 看守: 看守:(N)この頭の弱い若干十歳の少女も、本来ならば絞首刑に処されるはずだった殺人鬼だ。 看守:(N)だが親から受けた虐待により知能指数が著(いちじる)しく低下し、血液と花の区別もつかなくなった彼女の身の上に同情した者達が、署名を募って少女の釈放を希望した。 看守:(N)政府はそれに応え、少女の死刑を取りやめとする代わりに、看守の内一人に彼女の保護観察をするように命じた。 少女:(ご飯を食べている) 看守:味はどうだ? 少女:(ニコニコしている) 看守:…静かにしてくれとは言ったが、私がきいた事には答えてくれないか? 少女:はーい!おいしいよ! 看守:こら、食べかすを飛ばすな! 少女:こたえてってカンシュさんがいったのに! 看守:口を大きく開けなくていい! 少女:あ、そっか! 看守:(長い溜息) 看守: 看守:(N)未だに自分でも分からない。何故この少女の保護観察を、私は自ら志願してしまったのか。 看守:(N)この娘は殺人鬼で、それもその頭の弱さから無罪となった、私が一番憎むべき罪人だと言うのに。 少女:ごちそーさまでした!あ!カンシュさんカンシュさん! 看守:…何だ、うるさいぞ。 少女:クロくておっきームシみつけた!カッコいい! 看守:!?ゴ、ゴキブリ!? 少女:ねー、これかっていい? 看守:ダメに決まってる!汚いから触るな!捨てろ! 少女:キタナイとダメなの? 看守:ダメだ!いいから窓に捨てなさい! 少女:はーい。 看守:窓に置いてどうする!外へ捨てろと言ったんだ!! 少女:おそとにつれてくの?わかったー! 看守:あーこら!汚いから掴むなと言っただろ!待ちなさい!! 少女:あ。 看守:うっ…。 少女:つぶれちゃった……。 看守:……。 少女:オテテがベトベトするぅ~…。 看守:タオルで拭くのはやめろ。ほら、このティッシュを使え。 少女:カンシュさん、ありがとー! 看守:(長い溜息) 少女:ねー、ほっけとーきたべたい! 看守:…だから、ホットケーキだと言ってるだろ。 少女:ジャムいっぱいつけるの!オハナバタケにするの! 看守:分かった。分かったから大人しくしてくれ。 少女:はーい! 0:数日が経ち 看守:…おい、いいかげん出てきてくれないか。 少女:……。 看守:(溜息)参ったな……。 看守: 看守:(N)少し目を離している隙に、彼女が包丁を手に取っていた。 看守:(N)慌てて取り上げたが、どうやら私を刺すつもりではなかったらしい。 看守:(N)彼女は料理をしようとしていたのだ。いつも疲れた顔で帰って来る私のために。 看守:(N)だがそれに気付いた時には、既に彼女はトイレに鍵をかけて引き籠ってしまっていた。 少女:……。 看守:…ホットケーキを焼いてやるから、機嫌を直してくれないか? 少女:!…ほっとけーき……。 看守:ジャムも新しい味のを買ってやる。違うお花を咲かせられるぞ。 少女:…かない? 看守:? 少女:カンシュさん、たたかない? 看守:…叩く訳、無いだろう…。 少女:……。(ドアを開ける) 看守:ただし、これからは包丁を持つ時は、先に私に言ってくれ。 少女:…ごめんなさい。 看守:! 少女:? 看守:……いや、ちゃんと謝れて偉いな。 少女:えへへー! 看守:さぁ、ホットケーキの準備をしよう。 少女:はーい! 0: 看守:…こら、まだひっくり返すには早いぞ。 少女:んー、まだやけないー? 看守:まだだ。 少女:むー…。 看守:…お前を見ると、何故か娘を思い出すよ。 少女:んー? 看守:お前は娘を、殺した側なのにな。 少女:コロシタガワ?どこのカワ? 看守:…ああ、そいつもお前みたいに頭のおかしい奴だった。責任能力が無いものとして、当時そいつは無罪にされた。 少女:んー…よくわかんない。 看守:その後であの法改正だ、納得できるか?ついこの前まで未来があったはずの子供の無念よりも、治るかも不明瞭な頭をした犯罪者の命を選んだくせに! 少女:カンシュさん?なんでおこってるの? 看守:おまけに法の不遡及(ふそきゅう)ときた。改正の施行日以前にキチガイ無罪になった奴等は裁けないとさ!ふざけるな!! 少女:わっ…。 看守:お前も、お前もそいつと同じなんだ…。人の命を奪う事の意味を、何も分かっていない…。そんな奴は生かしたところで、また人を殺すに決まっているのに…! 少女:カンシュさん…? 看守:何もかもが違うはずなんだ…お前と娘じゃ…何もかも…。なのに、何故私はっ……!! 少女:……。 看守:……。 少女:カンシュさん。 看守:…何だ。 少女:いたいのいたいの、とんでいけー。 看守:…? 少女:いたいのいたいの、とんでいけー! 看守:っ……。 少女:カンシュさん、なかないで。まだいたい? 看守:……。 少女:ほっとけーき、こげちゃうよ? 看守:…!今、ホットケーキって……。 少女:?ほっとけーきでしょ? 看守:……。 少女:あれ?ほっけとーき?どっち? 看守:…いや、ホットケーキであってる。ひっくり返そうか。 少女:わーい! 看守:ほらっ 少女:わー!できた! 看守:まだ半分焼けてないだろう。 少女:ねーねー、なんでキイロがチャイロになるの? 看守:焼けると茶色になるんだ。千回はこの説明したぞ。 少女:せんかいってなんかい? 看守:あー、百回を十回…十回を百回…いや、百回が分からないか…。 少女:わかるよ!いっぱい! 看守:!…そうだな、いっぱいだ。 少女:えへへー、はやくたべたーい! 看守:もう少しだけ、待ってなさい。 少女:はーい! 看守:……。 看守: 看守:(N)ある医師がこう言っていた。この子にはもう、何かを憶えられる程の知力は無いと。 看守:(N)なのに今は、こうして少しずつ何かを憶え始めている。いや、そもそも牢に居た時には、一言もホットケーキなんて言っていなかったはずだ。 看守:(N)変わってきているのだ、この少女も。少しずつだが、確実に。 看守:(N)なら、変わっていないのは…いつまでも止まったまま、前に進めていないのは……。 0:また数日が経ち 看守:朗報だ。お迎えが来たぞ。 少女:ろーほー? 看守:良いお知らせって意味だ。お前の大好きな「おねーちゃん」が来たぞ。 少女:おねーちゃん!? 看守:ほら、おいで。 少女:……。 看守:ん?どうした? 少女:カンシュさん。 看守:何だ、会いたかったんだろう? 少女:またあえる? 看守:……。 少女:またあそぼ!やくそく! 看守:…分かった、約束だ。 少女:うん!じゃーねー! 看守:ああ。 看守:……悟られた、訳が無いか。 看守: 看守:(N)鍵をかけていた部屋を開けて、予め天井に吊るしていた縄を手に取る。 看守:(N)罪人の言葉など聞く必要は無い。あんな事を言っていたが、どうせすぐに私の事など忘れるに決まっている。 看守:(N)台に乗り、縄を首にかける。あとどれだけ居るのかも分からない罪人を憎み続けるのは、もう疲れた。 看守:(N)どうせ何も変われはしない。何もかもを失った人間が、前に進むなんて出来はしない。 看守:(N)ならばもう、いっそ終わらせてしまおう。娘に会いに行こう。私は目を閉じて、踏み台を蹴り飛ばした。 少女:(回想)またあそぼ!やくそく! 看守:っ…!! 看守: 看守:(N)気が付けば、床に転がっていた。どうやらさっきの勢いに耐え切れず、縄が千切れてしまったらしい。 看守: 看守:…はは、ははははっ……! 看守: 看守:(N)馬鹿馬鹿しくなって、つい笑ってしまった。私は一体、何をやっているんだろう。 看守:(N)ひとしきり笑った後で、踏み台と縄を片付けた。娘に会いたい気持ちはまだあるが、もう少しだけ生きていられそうな気がした。 看守:(N)誰も居なくなったダイニングに戻り、冷蔵庫に入れていたホットケーキの残りを取り出して、電子レンジに入れる。 看守:(N)その間に淹れたコーヒーと、温まったホットケーキの香りに包まれながら、久々に穏やかな昼下がりを過ごした。

看守:(N)法改正により、精神疾患を持っていようが、未成年であろうが、一定数の殺人を犯した者は、例外無く死刑となった。 少女:あ、おまわりさん!おかえりなさーい! 看守:…私はお巡りさんじゃない。看守だ。百回はこの話をしたぞ。 少女:ひゃっかいってなんかい? 看守:十回を十回数えると、百回になる。 少女:わー、いっぱい! 看守:(溜息) 少女:ねー、カンシュってなぁに? 看守:お巡りさんが捕まえた悪い奴を、逃がさないようにするのが看守だ。 少女:わー!カッコいい! 看守:…まぁ、そんな話はいいだろう。ほら、ご飯にするぞ。 少女:ほっけとーき? 看守:ほっけ…? 少女:ほっけとーきたべたい! 看守:…ホットケーキの事を言ってるのか?それはご飯じゃなくておやつだ。 少女:ほっとけーき!たべたーい! 看守:…分かった。休みの日になれば連れて行ってやる。 少女:つくって! 看守:…料理ならともかく、私はお菓子作りは苦手なんだ…。 少女:どーちがうの? 看守:(溜息)…少し静かにしてくれ。 少女:…うん。 看守:……。 看守: 看守:(N)この頭の弱い若干十歳の少女も、本来ならば絞首刑に処されるはずだった殺人鬼だ。 看守:(N)だが親から受けた虐待により知能指数が著(いちじる)しく低下し、血液と花の区別もつかなくなった彼女の身の上に同情した者達が、署名を募って少女の釈放を希望した。 看守:(N)政府はそれに応え、少女の死刑を取りやめとする代わりに、看守の内一人に彼女の保護観察をするように命じた。 少女:(ご飯を食べている) 看守:味はどうだ? 少女:(ニコニコしている) 看守:…静かにしてくれとは言ったが、私がきいた事には答えてくれないか? 少女:はーい!おいしいよ! 看守:こら、食べかすを飛ばすな! 少女:こたえてってカンシュさんがいったのに! 看守:口を大きく開けなくていい! 少女:あ、そっか! 看守:(長い溜息) 看守: 看守:(N)未だに自分でも分からない。何故この少女の保護観察を、私は自ら志願してしまったのか。 看守:(N)この娘は殺人鬼で、それもその頭の弱さから無罪となった、私が一番憎むべき罪人だと言うのに。 少女:ごちそーさまでした!あ!カンシュさんカンシュさん! 看守:…何だ、うるさいぞ。 少女:クロくておっきームシみつけた!カッコいい! 看守:!?ゴ、ゴキブリ!? 少女:ねー、これかっていい? 看守:ダメに決まってる!汚いから触るな!捨てろ! 少女:キタナイとダメなの? 看守:ダメだ!いいから窓に捨てなさい! 少女:はーい。 看守:窓に置いてどうする!外へ捨てろと言ったんだ!! 少女:おそとにつれてくの?わかったー! 看守:あーこら!汚いから掴むなと言っただろ!待ちなさい!! 少女:あ。 看守:うっ…。 少女:つぶれちゃった……。 看守:……。 少女:オテテがベトベトするぅ~…。 看守:タオルで拭くのはやめろ。ほら、このティッシュを使え。 少女:カンシュさん、ありがとー! 看守:(長い溜息) 少女:ねー、ほっけとーきたべたい! 看守:…だから、ホットケーキだと言ってるだろ。 少女:ジャムいっぱいつけるの!オハナバタケにするの! 看守:分かった。分かったから大人しくしてくれ。 少女:はーい! 0:数日が経ち 看守:…おい、いいかげん出てきてくれないか。 少女:……。 看守:(溜息)参ったな……。 看守: 看守:(N)少し目を離している隙に、彼女が包丁を手に取っていた。 看守:(N)慌てて取り上げたが、どうやら私を刺すつもりではなかったらしい。 看守:(N)彼女は料理をしようとしていたのだ。いつも疲れた顔で帰って来る私のために。 看守:(N)だがそれに気付いた時には、既に彼女はトイレに鍵をかけて引き籠ってしまっていた。 少女:……。 看守:…ホットケーキを焼いてやるから、機嫌を直してくれないか? 少女:!…ほっとけーき……。 看守:ジャムも新しい味のを買ってやる。違うお花を咲かせられるぞ。 少女:…かない? 看守:? 少女:カンシュさん、たたかない? 看守:…叩く訳、無いだろう…。 少女:……。(ドアを開ける) 看守:ただし、これからは包丁を持つ時は、先に私に言ってくれ。 少女:…ごめんなさい。 看守:! 少女:? 看守:……いや、ちゃんと謝れて偉いな。 少女:えへへー! 看守:さぁ、ホットケーキの準備をしよう。 少女:はーい! 0: 看守:…こら、まだひっくり返すには早いぞ。 少女:んー、まだやけないー? 看守:まだだ。 少女:むー…。 看守:…お前を見ると、何故か娘を思い出すよ。 少女:んー? 看守:お前は娘を、殺した側なのにな。 少女:コロシタガワ?どこのカワ? 看守:…ああ、そいつもお前みたいに頭のおかしい奴だった。責任能力が無いものとして、当時そいつは無罪にされた。 少女:んー…よくわかんない。 看守:その後であの法改正だ、納得できるか?ついこの前まで未来があったはずの子供の無念よりも、治るかも不明瞭な頭をした犯罪者の命を選んだくせに! 少女:カンシュさん?なんでおこってるの? 看守:おまけに法の不遡及(ふそきゅう)ときた。改正の施行日以前にキチガイ無罪になった奴等は裁けないとさ!ふざけるな!! 少女:わっ…。 看守:お前も、お前もそいつと同じなんだ…。人の命を奪う事の意味を、何も分かっていない…。そんな奴は生かしたところで、また人を殺すに決まっているのに…! 少女:カンシュさん…? 看守:何もかもが違うはずなんだ…お前と娘じゃ…何もかも…。なのに、何故私はっ……!! 少女:……。 看守:……。 少女:カンシュさん。 看守:…何だ。 少女:いたいのいたいの、とんでいけー。 看守:…? 少女:いたいのいたいの、とんでいけー! 看守:っ……。 少女:カンシュさん、なかないで。まだいたい? 看守:……。 少女:ほっとけーき、こげちゃうよ? 看守:…!今、ホットケーキって……。 少女:?ほっとけーきでしょ? 看守:……。 少女:あれ?ほっけとーき?どっち? 看守:…いや、ホットケーキであってる。ひっくり返そうか。 少女:わーい! 看守:ほらっ 少女:わー!できた! 看守:まだ半分焼けてないだろう。 少女:ねーねー、なんでキイロがチャイロになるの? 看守:焼けると茶色になるんだ。千回はこの説明したぞ。 少女:せんかいってなんかい? 看守:あー、百回を十回…十回を百回…いや、百回が分からないか…。 少女:わかるよ!いっぱい! 看守:!…そうだな、いっぱいだ。 少女:えへへー、はやくたべたーい! 看守:もう少しだけ、待ってなさい。 少女:はーい! 看守:……。 看守: 看守:(N)ある医師がこう言っていた。この子にはもう、何かを憶えられる程の知力は無いと。 看守:(N)なのに今は、こうして少しずつ何かを憶え始めている。いや、そもそも牢に居た時には、一言もホットケーキなんて言っていなかったはずだ。 看守:(N)変わってきているのだ、この少女も。少しずつだが、確実に。 看守:(N)なら、変わっていないのは…いつまでも止まったまま、前に進めていないのは……。 0:また数日が経ち 看守:朗報だ。お迎えが来たぞ。 少女:ろーほー? 看守:良いお知らせって意味だ。お前の大好きな「おねーちゃん」が来たぞ。 少女:おねーちゃん!? 看守:ほら、おいで。 少女:……。 看守:ん?どうした? 少女:カンシュさん。 看守:何だ、会いたかったんだろう? 少女:またあえる? 看守:……。 少女:またあそぼ!やくそく! 看守:…分かった、約束だ。 少女:うん!じゃーねー! 看守:ああ。 看守:……悟られた、訳が無いか。 看守: 看守:(N)鍵をかけていた部屋を開けて、予め天井に吊るしていた縄を手に取る。 看守:(N)罪人の言葉など聞く必要は無い。あんな事を言っていたが、どうせすぐに私の事など忘れるに決まっている。 看守:(N)台に乗り、縄を首にかける。あとどれだけ居るのかも分からない罪人を憎み続けるのは、もう疲れた。 看守:(N)どうせ何も変われはしない。何もかもを失った人間が、前に進むなんて出来はしない。 看守:(N)ならばもう、いっそ終わらせてしまおう。娘に会いに行こう。私は目を閉じて、踏み台を蹴り飛ばした。 少女:(回想)またあそぼ!やくそく! 看守:っ…!! 看守: 看守:(N)気が付けば、床に転がっていた。どうやらさっきの勢いに耐え切れず、縄が千切れてしまったらしい。 看守: 看守:…はは、ははははっ……! 看守: 看守:(N)馬鹿馬鹿しくなって、つい笑ってしまった。私は一体、何をやっているんだろう。 看守:(N)ひとしきり笑った後で、踏み台と縄を片付けた。娘に会いたい気持ちはまだあるが、もう少しだけ生きていられそうな気がした。 看守:(N)誰も居なくなったダイニングに戻り、冷蔵庫に入れていたホットケーキの残りを取り出して、電子レンジに入れる。 看守:(N)その間に淹れたコーヒーと、温まったホットケーキの香りに包まれながら、久々に穏やかな昼下がりを過ごした。