台本概要

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タイトル 恋の七不思議
作者名 蒼(あおい)  (@aoi_m_o10)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 学校で噂されている、七不思議。その中の一つ、【謎の相談人】。
学生の掲示板に貼られているメールアドレスに、悩みや相談事を書き込むと、その相手から返信が来るらしい……。あなたは、一体何者なの……?


演者様の性別不問。
語尾等、言いやすいように変更していただいて構いません。
世界感が崩れてしまうような改変はご遠慮下さい。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
結斗 142 ◆天川 結斗(あまかわ ゆいと)…高2、男性。
翠沙 152 ◆葉月 翠沙(はづき みさ)…高1、女性。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
翠沙:聞いた事あるかな?よくある怪談話とかで出てくる、学校の七不思議。 翠沙:実は、私の通う高校にも、七不思議が存在しているらしい……。 翠沙:その中の一つ、【謎の相談人】。 翠沙:学生の掲示板に貼られている、メールアドレスに、自分の悩みや相談事を書き込むと、その相手から返信が来るんだって。 翠沙:……返って来る内容も、的確で、何気に人気になっているんだとか。 翠沙:姿の見えない謎の相談人…怖さはないが、不思議ではある。 翠沙:そして、その謎の相談人に、電話での相談も出来るらしいが、掲示板には、電話番号の記載はなく、誰もその人の声を聞いた事はない。 翠沙:一体、いつから掲示板に貼られているのか。男なのか、女なのか。謎に包まれた相談人。 翠沙:貴方は、何者なの……? 結斗:【謎の相談人】。……そんな学校の七不思議があるらしい。 結斗:こんな事になるなんて、思わなかった。 結斗:目立つことは好きじゃない。けど、誰かと関わりは持っていたい。……そんな俺個人の考えで、学生掲示板に貼り紙をした。 結斗:他の掲示物に少し重なるように…。 結斗:相談用のメールアドレスを記載して………気づく人は多分いないだろうが、実は、電話番号も載せている。 結斗:案の定、殆どがメールでの相談事が多かった。俺は、それに一つ一つ、真剣に答えていく。 結斗:時々、辛辣な返信になる事もあり、相手が怒ったり・泣いたりしていないかと、不安になることもあったが、後日改めて、感謝のメールが届くと、ほっと肩を撫でおろす。そんな日々が続いていた。 結斗:まさか、あれに気づく人がいるだなんて、思ってもいなかったんだ……。 翠沙:ここが、学生掲示板。……噂の貼り紙は、えーっと……あった!これだ! 翠沙:“貴方の悩み、相談してみませんか?悩みをぶつけて、楽になりましょう。” 翠沙:本当に貼ってあるんだ。…噂だけが広がったわけじゃないのね。 翠沙:聞いた七不思議だと、謎の相談人に電話での相談も出来るって言われていたけど……確かに、見た感じ電話番号は書かれてないなぁ。 翠沙:本当に、ここに番号なんて書いてあるのかな?この状態では、見えないとか?…あぶり出し?……まさかね。 翠沙:でも、それらしいものなんて……ん?ちょっと待って。 翠沙:この貼り紙の、枠の模様ってもしかして……。 翠沙:やっぱり!数字になってる!こんなの、よく見ない限り、分からないよね。面白い人だなぁ…いや、人なのかなぁ? 翠沙:とりあえず、この番号を忘れない様に、メモをして……。 結斗:…『こうしてみては、いかがでしょうか?』っと、送信。……ふぅ、今日来た相談メールは、これで最後かな? 結斗:まさか、ここまで続くだなんて思わなかったな。…何故か、今じゃ学校の七不思議にまでなっちゃってるし。 結斗:その影響もあって、止めるに止められなくなってるんだよなぁ。 結斗:相談メール自体も増えてきてるし。……いたって普通の高校生なんだけどねー。 結斗:まぁ、さすがに電話での相談はまだ一度もないけど。…分かりやすい場所に書いてるわけじゃないし、今の状況で電話相談来られたら、キャパオーバーしそうだ。 結斗:あれに気づく人は、よほどの変わり者だろうね。俺みたいに。 結斗:………ん?電話?誰からだ? 結斗:「……もしもし?」 翠沙:「あ…!本当に繋がった…。」 結斗:「え?」 翠沙:「あ、あの…!貴方が、【謎の相談人】ですか?」 結斗:「…もしかして、あの掲示板を見た人?よく分かったね。この番号。」 翠沙:「あの貼り紙の枠が、電話番号を繰り返し書いて、模様のようになっていたので。もしかしたら…ってかけてみたんですけど。」 結斗:「そうなんだ。」 翠沙:「じゃあ、貴方が…」 結斗:「あぁ、【謎の相談人】だっけ?何故か学校の七不思議にされてるっぽいし。…そうだよ。俺が、その謎の相談人の“正体”。」 翠沙:「そう、なんですね…。」 結斗:「…それで?」 翠沙:「…え?」 結斗:「何か悩みがあって、電話してきたんじゃないの?」 翠沙:「あ…ええっと……」 結斗:「…?」 翠沙:「実は、悩み事は……ないんです。」 結斗:「え?」 翠沙:「…わ、私!噂になってる七不思議の話を友達から聞いて、気になって…!」 翠沙:「メールアドレスも友達から教えてもらったんですけど、自分の目で確かめたい人だから、直接、学生掲示板を見に行ったんです!」 翠沙:「そしたら、それらしい番号見つけて、忘れない様にメモして、それで…!」 結斗:「実際にかけてみた…と?」 翠沙:「はい!…なので、悩み事とか困ってる事とか、そういうのないんです!ごめんなさい…!」 結斗:「………ふっ、あはははは!」 翠沙:「あの…」 結斗:「あはははは!…いやぁ、ごめんごめん。あんまりにも必死になって、訴えてくるもんだから、おかしくなっちゃって、つい。……そういう事ね。」 翠沙:「…怒ってませんか?」 結斗:「どうして?」 翠沙:「だって、悩み相談の為にメールや電話で、相手にアドバイスとかしていたんですよね?相談も何もない人から電話がかかって来たら、迷惑じゃありませんか?」 結斗:「んー…確かに、普通の人だったら怒る人もいるかもしれないね。でも、俺は怒らないよ。というか、怒る理由がない。」 翠沙:「どうしてですか?」 結斗:「俺的には、この番号にかけてくる人は、ほぼいないだろうと思っていたからね。実際にこうしてかかってきたのは、君が初めてだよ。」 結斗:「電話をかけた理由も、君が今、一生懸命になって説明してくれただろ?」 結斗:「俺としては、来ないだろうと思っていた電話がかかってきて、驚いているくらいなんだからさ。」 結斗:「あんなふざけたものに、気づいた人がいたんだーってさ。」 翠沙:「すみません。」 結斗:「どうして君が謝るの?…俺は、嬉しかったよ?」 翠沙:「え?」 結斗:「君に見つけてもらえたような気がして。……電話してくれてありがとうね。」 翠沙:「あ、いえ…私は……」 結斗:「あっ!そうだ!」 翠沙:「…?」 結斗:「この番号の事、誰にも言わないでくれる?」 翠沙:「どうしてですか?」 結斗:「最近、七不思議の影響なのか、悩み相談のメールが前より多くなってね。この番号まで知られちゃうと、さすがに対処しきれなくなっちゃいそうだから。」 結斗:「君みたいに、自力で見つけられた人から、かかってくるのは別だけど。」 翠沙:「分かりました。」 結斗:「ありがとう。…あ!本当に悩み事があった時は、君もまた電話していいからね?メールでも、もちろんいいけど。」 翠沙:「はい。その時は、お願いします。」 結斗:「うん。じゃあね。」 翠沙:そういって、【謎の相談人】との電話が終了した。興味本位でかけてしまったが、通話が終わると、案外あっけないものだった。 翠沙:最初は、本当に繋がるものなのか、本当に存在しているのかさえ、疑問に思っていた分、ちゃんと人間だった。 翠沙:…こんな風に言うのは失礼かもしれないが、人であるという安心感を、心のどこかで抱いていたのかもしれない。 翠沙:スマホから聞こえてきた声は、とても落ち着いた声で、その中に少し無邪気さがあるような…そんな感じの声だった。 翠沙:しばらく放心状態だったが、今更になって、慌てふためいた自分の声が恥ずかしくなってくる。 翠沙:……彼にどんな風に聞こえたのだろうか。 結斗:本当に電話がかかって来るなんて思ってなくて、最初は驚いたが、彼女も半信半疑でこの番号に電話をかけたとも言っていたし、お互いにとって予期せぬ出来事だった。 結斗:悩み事がないのに、電話をかけてしまった事を必死に伝えようとする声は、少し高くやんわりとした感じだが、はっきりとした声だった。 結斗:……俺の声は、彼女にどんな風に聞こえて届いていたのだろう。そんな不思議な事を、感じてしまっていた。 翠沙:次の日の学校。相変わらず、クラスでも七不思議の、謎の相談人についての話題が絶えなかった。 翠沙:個人的な悩みから、友達関係の相談、恋愛相談まで…。たまに辛辣だが、的確にその人にアドバイスをする所が良いのだと、みんな口を揃えて言っていた。 翠沙:中には、相談メールをしてから一週間後に返信メールが来るという事もあるという。 翠沙:彼一人で、この学校にいる悩みを抱えている生徒にアドバイスをしているのだから、そういう事もあるのだろうと、一人で勝手に納得していた。 翠沙:普通に考えて凄い事だ。……そんな彼自身の悩みというものはないのだろうか? 翠沙:そんな疑問が、私の脳裏に浮かんでいた。 結斗:『一人で抱え込みすぎ。もう少し、気持ちにゆとりを持たせる為にも、感じている事を言葉にするか、書き出してみては?』 結斗:『必要な事と不要な事が分かりやすくなるはずです。』…と、送信。 結斗:……ふぅ。結構かかっちゃったな。こんな俺の言葉で、本当に解決できてんのかな。たまに、お礼のメールは届いたりするけど。 結斗:…誰かの役に立ててるのかな、俺……。 結斗:あ、電話だ。………あれ?この番号って…。 翠沙:「…もしもし。」 結斗:「もしもし、今日はどうしたの?悩み事でも出来た?」 翠沙:「悩みというか、聞きたい事があって…。」 結斗:「聞きたい事?俺に?」 翠沙:「迷惑かな…?」 結斗:「いいや、そんな事ないよ。それで?俺に聞きたい事って?」 翠沙:「これを始めたキッカケとか…聞いても大丈夫?」 結斗:「キッカケかぁ…。別に大したことじゃないよ。俺の気まぐれから始めた事だから。」 翠沙:「気まぐれ?」 結斗:「そう。俺さ、極度の人見知りというか、誰かと話すのって結構苦手なんだよね。実は。」 翠沙:「そうなんだ…。」 結斗:「…そう見えない?」 翠沙:「声を聞く限りは、とても人見知りには感じない…かな?」 結斗:「じゃあ、これで培ってきた何かが、結果になってきてはいるのかな?」 結斗:「…まぁ、話を戻すと、人見知りではあるけれど、誰かとは関わりを持ちたいっていう、俺の変なプライド?みたいなもん。」 結斗:「それをどうにかして形にできないかなぁって出来たのが、このお悩み相談メールってわけ。」 翠沙:「へぇ…。そういうキッカケだったんだ。…いつから始めたの?」 結斗:「う~ん…入学してから、確か…2ヶ月後くらいだったかな?1ヶ月経っても、中々クラスに馴染めなくてさ。さすがにヤバいんじゃないかって、コミュニケーションの向上を目指しがてら、設立したかな。」 翠沙:「ふふ…設立って。面白いね。」 結斗:「でも、おかげで文章力は上がったよ?会話する時の言葉選びも、慎重になったかな?」 翠沙:「言葉選び?」 結斗:「誰かと会話する時ってさ、相手の顔が見えて、表情が分かって、声のトーンの違いがあって、言葉があるわけでしょ?」 結斗:「言葉より、相手の表情で話の内容が左右される。怒ってる顔されて、怒ってないよって言われても、説得力ないでしょ?」 翠沙:「確かに…そうだね。」 結斗:「でも、メールだとさ、言葉の全てに自分の考えてる事とか、気持ちとかを乗せて届けなきゃないだろ?」 結斗:「声も、顔も、見えないわけだから。その分、伝えるのにも時間がかかるんだ。」 翠沙:「だから、一週間後の返信メールとかがあるんだね…。」 結斗:「そうなんだよ……って、なんでそんな事知ってるの?」 翠沙:「えっ?!あ…クラスの友達にそういう子がいたみたいだったから…。それで…。」 結斗:「あぁ、そういう事か。…あー……他に何か言われてる事って、ある?」 翠沙:「…え?」 結斗:「あ、いや、その…俺に相談メール送った人達が、どう思ってんのかなーって、気になって……。」 翠沙:「…たまに言葉が辛辣だって。」 結斗:「あ、やっぱり…。」 翠沙:「でも、的確にその人に対してアドバイスしているし、その人を思ってこその辛辣さだから、それが良いんだとも言われてますよ。」 結斗:「…本当?」 翠沙:「嘘に聞こえます?」 結斗:「いいや。ただ、信じられなくて…。そっか…ちゃんと役に立ててるんだ。」 翠沙:「素直に誇っていい事だと思いますよ?ここまで続けられていることも。私だったら、途中で止めてるかも。」 結斗:「…周りの意見が聞けて良かったかも。ありがとう。」 翠沙:「いいえ。………あっ!そうだった!」 結斗:「えっ?!どうしたの、急に。」 翠沙:「キッカケもそうだけど、もう一つ聞きたい事があったの。」 結斗:「何?」 翠沙:「あなた自身の悩みはないのかな?…って思って。」 結斗:「………。」 翠沙:「………。」 結斗:「…考えた事もなかったな。」 翠沙:「…えっ?!そうなの?!」 結斗:「うん。…あ、でもたまに、さっきみたいな周りの意見は気になるかも。どう思われてるとか…。言葉のやりとりだけだけど、嫌われたくないし。」 翠沙:「…それって、貴方の不思議なプライド?」 結斗:「そう。…だからさ……。」 翠沙:「…?」 結斗:「また、電話してくれないかな?今日みたいに。君が、俺に聞きたい事とかがある時でいいからさ。」 翠沙:「えっ…?」 結斗:「だめ…かな?」 翠沙:「う、ううん!…わ、私でいいなら!」 結斗:「ありがとう。」 翠沙:「こ…こちらこそ。答えてくれてありがとうね。…じゃあ、また。」 結斗:「うん、またね…。」 翠沙:彼との二度目の電話は、思わぬ出来事で、スマホから伝わる声が切られた。 翠沙:声だけでの不思議な関係が、始まっていった…。 結斗:周りの意見が聞きたい…。それは、正直な気持ちではある。それと同時に、彼女の声をもっと聞いていたい…。そう思い始めている自分がいた。 結斗:お互いの顔も知らないくせに、彼女と話しているだけで、心地が良いとさえ感じてしまっている。 結斗:声に恋をした。………なんて言ったら、それこそ、おかしいと笑われてしまうんだろうな…。 翠沙:それから、私達は何度か電話でのやりとりを重ねていった。毎回、5分から10分程度のなんでもない会話。 翠沙:話の内容も、私が彼に対して思った事、聞いてみたい事がほとんどだけれど。 翠沙:そんな事に対しても、彼は真剣に答えてくれた。 翠沙:「今更かもしれないんだけど…貴方の名前、聞いてもいい?」 結斗:「そういえば、俺達、お互いに名前知らないね。俺は、天川結斗(あまかわゆいと)。」 翠沙:「葉月翠沙(はづきみさ)です。」 結斗:「改めて、よろしくね。翠沙さん。」 翠沙:「よろしくお願いします。結斗さん。」 結斗:「あはは…なんか気恥ずかしいな。こういうの。」 翠沙:「そうですね。」 結斗:「不思議な出会いから始まった事だけれど……こうやって、誰かと素の自分で話したいっていうのが、心の何処かにあったんだろうなぁ…。」 翠沙:「え…?」 結斗:「俺さ、小学生の頃は、今より性格がオープンっていうか、誰とでも仲良くなれる奴だったんだけどさ。ちょっとしたトラブルがあってね…。」 翠沙:「トラブル…ですか?」 結斗:「俺的には、冗談のつもりで話した事だったんだけどさ。相手的には、真面目に捉えちゃったみたいで…。」 結斗:「そこから、その子との関係がぎくしゃくしてさ…誤解を解決できないまま、お互い卒業して、違う中学に入ったんだ。」 結斗:「…それからかな?人と関わるのが、少し、怖くなった。」 翠沙:「…そのお友達は、今、どうされてるんですか?まだ、関係が…?」 結斗:「あぁ、いや、今はそいつとは誤解も解けてるし、たまに会って馬鹿話してるよ。その時の事を笑い話にするくらいに。」 翠沙:「そうなんですね。…良かった。」 結斗:「…優しいね。翠沙さんは。」(小声で) 翠沙:「え?今、何か言いました?」 結斗:「ううん、何でもない。まぁ、そういう過去があって…でも、何かで誰かと関わりたくて、今に至ってるんだよね。」 結斗:「七不思議の正体は、意外と臆病な男子高校生でした!…ってね。」 翠沙:「でも、ちゃんと向き合って悩み事のメールを返しているじゃないですか。少なからず、何人かは、結斗さんの言葉に救われていると思いますよ?」 結斗:「……そうだといいな。」 翠沙:「私も、微力ながら、結斗さんの支えになりたいです!」 結斗:「ありがとう。嬉しいよ。」 翠沙:過去の出来事を思い出し、どこか落ち込んだ声が、少しでも明るくなってくれたら…。 翠沙:私が出来る事なんて、本当に小さな事かもしれないけれど、今の彼を支えてあげたい。…そう思った。 翠沙:そんな事を知ってか、知らずか。学校に新たな噂が立ち始めた…。 結斗:「解決相談人?」 翠沙:「はい。最近、そんな噂があるみたいで。なんでも、その人も、メールでの悩み相談を解決すべく、相手に返信しているみたいです。」 結斗:「ふ~ん。内容的には、俺がやっている事と変わりはなさそうだけど。」 翠沙:「結斗さんの偉業に、感化された誰かですかね?」 結斗:「偉業って…俺はそんなに大それた事してないよ。それに、その…解決相談人…だっけ?俺にも出来る!みたいな感じで始めただけかもよ?」 翠沙:「そうでしょうか。でも、これで結斗さんに来るお悩み相談のメールも、その人とで振り分けられるようになるんじゃないですか?」 結斗:「…そういえば、最近は前より少しメールの数が少ないかも。」 翠沙:「良かったじゃないですか。心に少し、ゆとりが持てるようになりますね。」 結斗:「あはは。そうかもね。」 結斗:ただ、後々に悪い方向へと動き始めた…。 結斗:俺は、悩み相談のメールに対して、真剣に言葉を選び、相手に届けている。 結斗:だが、その解決相談人は、やっている事は俺と変わりないが、内容は、酷いものだった。 結斗:相談者の気持ちを考えない、自己中心的で、一方的な言葉で、無理矢理解決にねじ込む様な返信メールの数々…。 結斗:そんな相手の魔の手が、俺にまで及び始めていった…。 翠沙:「…え?!それって、どういう事ですか?!」 結斗:「言葉の通りだよ。解決相談人の不評が、俺にまで飛んでくるようになった。…最近は、悩み相談のメールより、罵詈雑言だらけのメールが増えた。」 翠沙:「そ、そんな……。」 結斗:「………そろそろ、潮時なのかもな。俺も。止める良い機会なのかもしれない。…これでいいんだよ。」 翠沙:「…結斗さんは、本当にそれで良いんですか?」 結斗:「…え?」 翠沙:「今までやってきた事は、そんな簡単に手放していいものなんですか?!」 結斗:「……。」 翠沙:「私なんかが、こんな事を言うのはおかしいかもしれませんが、結斗さんの言葉に助けられた人達もたくさんいるんです!」 翠沙:「相手の事を思ってこその辛辣な言葉も、結斗さんだから、皆も真剣に受け止めてくれたんです!」 翠沙:「結斗さんの言葉に助けられたいから、一週間も返信メールを待ってくれる人だっているんです!」 翠沙:「……そんな簡単に、諦めないでください…。」 結斗:「……翠沙さん。」 結斗:「翠沙さん…俺の悩み、聞いてくれる?」 翠沙:「…え?」 結斗:「罵詈雑言メールがほとんどだけど、何通かは今まで通り、相談メールも届いてるんだ。」 結斗:「…俺が、言葉の圧力に負けない様に、助けてくれないか…?君の……翠沙さんの声で。」 翠沙:「…!はい…!」 翠沙:人の噂は七十五日…大した事じゃない。気にしなくていい。…そうは言っても、少なからず、その間は言葉の影響を受ける事になる。 翠沙:ほぼ毎日、そんな言葉の暴力を受ければ、簡単に心が潰されてしまう。 翠沙:そうならない様に、私は、自分の声で、彼を励まし続けた。大丈夫、自分を信じて。私がずっと支えてあげるから、負けないで。 翠沙:……それから、しばらくして、結斗さんへの罵詈雑言メールは少なくなり、解決相談人の方への罵詈雑言メールが増えていった。 翠沙:言葉の圧力に耐えきれなくなった解決相談人は、次第に姿を消していった……。 結斗:「虎狼(とらおおかみ)より人の口恐ろし。」 翠沙:「…?何ですか?それ。」 結斗:「人の陰口や中傷は、防ぎようがない程に恐ろしいって事。今回の件で、それを思い知らされたかな。」 翠沙:「そうですね。…結斗さんも、何度も暗い声になってましたから。」 結斗:「言っただろ?俺は臆病でビビリな男子高校生だって。」 翠沙:「そこまでは言ってませんでしたけど…。」 結斗:「そう?」 翠沙:「でも、誤解もなくなって、本当に良かったです。お悩み相談も再開できますね。」 結斗:「う~ん……その事なんだけどさ。」 翠沙:「はい。」 結斗:「俺、止めようと思うんだ。悩み相談。」 翠沙:「…え?どうして…。」 結斗:「今までは、俺の個人的なプライドみたいな感じで、誰かと関わりを持っていたいからっていうので、始めた事だったけどさ。」 結斗:「…もう少し深く知りたいっていう、欲が出てきちゃったんだよね。」 翠沙:「…それって、つまり、どういう事ですか?」 結斗:「ある一人の人の事を、好きになったって事。」 翠沙:「……え?!」 結斗:「という事で!俺は、この七不思議から姿を消すよ。」 翠沙:「……。」 結斗:「だからさ………俺を見つけて欲しい。」 翠沙:「…え?!結斗さんを?!」 結斗:「そう。翠沙さんが、俺を見つけてくれた場所で待ってるから…。」 翠沙:「ゆ、結斗さん…?!」 翠沙:そういって、電話は切られてしまった。今までずっと声のやりとりだけで、直接会った事など一度もない。 翠沙:そんな状態で、一体どうやって彼を探せばいいのか。 翠沙:私が彼を見つけた場所……? 翠沙:この不思議な関係になったキッカケは………。 翠沙:「はぁ…はぁ…はぁ……。」 翠沙:学生掲示板の前―――そこに男子生徒が一人…立っていた。 結斗:「そんなに急がなくても良かったのに。」 翠沙:「だって…急に電話が切れるから…慌てちゃって……。」 結斗:「ごめんごめん。」 翠沙:「結斗さん…なんですよね?」 結斗:「そうだよ。俺が、学校の七不思議、その中の一つ、謎の相談人。その正体は…天川結斗という男子生徒でした!ってね。」 翠沙:「…先輩だったんですね。私時々、ため口聞いてた…。」 結斗:「いいよ。俺はそういうの気にしないから。今まで通りに話してよ。」 翠沙:「…うん。」 結斗:「声は知ってるのに、こうして会うのは初めましてなんて……何か、変な感じだね。」 翠沙:「そうですね。不思議な感覚です。」 結斗:「直接会ってみた感想は?」 翠沙:「声のイメージ通りな感じです。落ち着きの中に少し無邪気さがある…そんなイメージ。」 結斗:「翠沙さんも、俺が想像した通りかな。好奇心旺盛な所があるけど、優しくて、芯の強い子だなぁって。」 翠沙:「そんな…恥ずかしいです。」 結斗:「ふふっ…可愛い。」 翠沙:「…?!」 結斗:「出会いのキッカケは、本当に不思議な出来事だったけど、その日から段々と、君の声に惹かれていったんだ。」 結斗:「声に恋をしたって言ったら、おかしいって笑われるかもしれないけど、好きになっていったんだ。」 結斗:「何気ない会話をしてても、もっと、ずっとこの声を聞いていたいって、思うようにまでなっていた。」 結斗:「これは単純に、俺の我儘だ。嫌なら断ってくれ。」 結斗:「翠沙さん、君が好きだ。俺と付き合ってほしい。」 翠沙:「……最初は、私の好奇心からでした。本当に電話が繋がった時は、あたふたして…恥ずかしい声を聞かれてしまったなって思ってたんです。」 翠沙:「それからも、私の些細な質問にも、真剣に答えてくれて。とても優しい人だなぁって。」 翠沙:「過去の辛い経験や、例の事件の時の、貴方の落ち込んだような…暗い声を聞いた時、この人を支えてあげたいって、思うようになったんです。」 翠沙:「こんな私じゃ頼りないかもしれないですけど………よろしくお願いします。結斗さん。」 結斗:「……!!こちらこそ!…改めて、よろしくね。」 翠沙:学校の七不思議。その中の一つ、【謎の相談人】。 翠沙:その正体である彼と、こうして、付き合う事になった。 翠沙:ある意味、これも、七不思議なのかもしれない。 翠沙:そう、これは………【恋の七不思議】。 ― fin. ―

翠沙:聞いた事あるかな?よくある怪談話とかで出てくる、学校の七不思議。 翠沙:実は、私の通う高校にも、七不思議が存在しているらしい……。 翠沙:その中の一つ、【謎の相談人】。 翠沙:学生の掲示板に貼られている、メールアドレスに、自分の悩みや相談事を書き込むと、その相手から返信が来るんだって。 翠沙:……返って来る内容も、的確で、何気に人気になっているんだとか。 翠沙:姿の見えない謎の相談人…怖さはないが、不思議ではある。 翠沙:そして、その謎の相談人に、電話での相談も出来るらしいが、掲示板には、電話番号の記載はなく、誰もその人の声を聞いた事はない。 翠沙:一体、いつから掲示板に貼られているのか。男なのか、女なのか。謎に包まれた相談人。 翠沙:貴方は、何者なの……? 結斗:【謎の相談人】。……そんな学校の七不思議があるらしい。 結斗:こんな事になるなんて、思わなかった。 結斗:目立つことは好きじゃない。けど、誰かと関わりは持っていたい。……そんな俺個人の考えで、学生掲示板に貼り紙をした。 結斗:他の掲示物に少し重なるように…。 結斗:相談用のメールアドレスを記載して………気づく人は多分いないだろうが、実は、電話番号も載せている。 結斗:案の定、殆どがメールでの相談事が多かった。俺は、それに一つ一つ、真剣に答えていく。 結斗:時々、辛辣な返信になる事もあり、相手が怒ったり・泣いたりしていないかと、不安になることもあったが、後日改めて、感謝のメールが届くと、ほっと肩を撫でおろす。そんな日々が続いていた。 結斗:まさか、あれに気づく人がいるだなんて、思ってもいなかったんだ……。 翠沙:ここが、学生掲示板。……噂の貼り紙は、えーっと……あった!これだ! 翠沙:“貴方の悩み、相談してみませんか?悩みをぶつけて、楽になりましょう。” 翠沙:本当に貼ってあるんだ。…噂だけが広がったわけじゃないのね。 翠沙:聞いた七不思議だと、謎の相談人に電話での相談も出来るって言われていたけど……確かに、見た感じ電話番号は書かれてないなぁ。 翠沙:本当に、ここに番号なんて書いてあるのかな?この状態では、見えないとか?…あぶり出し?……まさかね。 翠沙:でも、それらしいものなんて……ん?ちょっと待って。 翠沙:この貼り紙の、枠の模様ってもしかして……。 翠沙:やっぱり!数字になってる!こんなの、よく見ない限り、分からないよね。面白い人だなぁ…いや、人なのかなぁ? 翠沙:とりあえず、この番号を忘れない様に、メモをして……。 結斗:…『こうしてみては、いかがでしょうか?』っと、送信。……ふぅ、今日来た相談メールは、これで最後かな? 結斗:まさか、ここまで続くだなんて思わなかったな。…何故か、今じゃ学校の七不思議にまでなっちゃってるし。 結斗:その影響もあって、止めるに止められなくなってるんだよなぁ。 結斗:相談メール自体も増えてきてるし。……いたって普通の高校生なんだけどねー。 結斗:まぁ、さすがに電話での相談はまだ一度もないけど。…分かりやすい場所に書いてるわけじゃないし、今の状況で電話相談来られたら、キャパオーバーしそうだ。 結斗:あれに気づく人は、よほどの変わり者だろうね。俺みたいに。 結斗:………ん?電話?誰からだ? 結斗:「……もしもし?」 翠沙:「あ…!本当に繋がった…。」 結斗:「え?」 翠沙:「あ、あの…!貴方が、【謎の相談人】ですか?」 結斗:「…もしかして、あの掲示板を見た人?よく分かったね。この番号。」 翠沙:「あの貼り紙の枠が、電話番号を繰り返し書いて、模様のようになっていたので。もしかしたら…ってかけてみたんですけど。」 結斗:「そうなんだ。」 翠沙:「じゃあ、貴方が…」 結斗:「あぁ、【謎の相談人】だっけ?何故か学校の七不思議にされてるっぽいし。…そうだよ。俺が、その謎の相談人の“正体”。」 翠沙:「そう、なんですね…。」 結斗:「…それで?」 翠沙:「…え?」 結斗:「何か悩みがあって、電話してきたんじゃないの?」 翠沙:「あ…ええっと……」 結斗:「…?」 翠沙:「実は、悩み事は……ないんです。」 結斗:「え?」 翠沙:「…わ、私!噂になってる七不思議の話を友達から聞いて、気になって…!」 翠沙:「メールアドレスも友達から教えてもらったんですけど、自分の目で確かめたい人だから、直接、学生掲示板を見に行ったんです!」 翠沙:「そしたら、それらしい番号見つけて、忘れない様にメモして、それで…!」 結斗:「実際にかけてみた…と?」 翠沙:「はい!…なので、悩み事とか困ってる事とか、そういうのないんです!ごめんなさい…!」 結斗:「………ふっ、あはははは!」 翠沙:「あの…」 結斗:「あはははは!…いやぁ、ごめんごめん。あんまりにも必死になって、訴えてくるもんだから、おかしくなっちゃって、つい。……そういう事ね。」 翠沙:「…怒ってませんか?」 結斗:「どうして?」 翠沙:「だって、悩み相談の為にメールや電話で、相手にアドバイスとかしていたんですよね?相談も何もない人から電話がかかって来たら、迷惑じゃありませんか?」 結斗:「んー…確かに、普通の人だったら怒る人もいるかもしれないね。でも、俺は怒らないよ。というか、怒る理由がない。」 翠沙:「どうしてですか?」 結斗:「俺的には、この番号にかけてくる人は、ほぼいないだろうと思っていたからね。実際にこうしてかかってきたのは、君が初めてだよ。」 結斗:「電話をかけた理由も、君が今、一生懸命になって説明してくれただろ?」 結斗:「俺としては、来ないだろうと思っていた電話がかかってきて、驚いているくらいなんだからさ。」 結斗:「あんなふざけたものに、気づいた人がいたんだーってさ。」 翠沙:「すみません。」 結斗:「どうして君が謝るの?…俺は、嬉しかったよ?」 翠沙:「え?」 結斗:「君に見つけてもらえたような気がして。……電話してくれてありがとうね。」 翠沙:「あ、いえ…私は……」 結斗:「あっ!そうだ!」 翠沙:「…?」 結斗:「この番号の事、誰にも言わないでくれる?」 翠沙:「どうしてですか?」 結斗:「最近、七不思議の影響なのか、悩み相談のメールが前より多くなってね。この番号まで知られちゃうと、さすがに対処しきれなくなっちゃいそうだから。」 結斗:「君みたいに、自力で見つけられた人から、かかってくるのは別だけど。」 翠沙:「分かりました。」 結斗:「ありがとう。…あ!本当に悩み事があった時は、君もまた電話していいからね?メールでも、もちろんいいけど。」 翠沙:「はい。その時は、お願いします。」 結斗:「うん。じゃあね。」 翠沙:そういって、【謎の相談人】との電話が終了した。興味本位でかけてしまったが、通話が終わると、案外あっけないものだった。 翠沙:最初は、本当に繋がるものなのか、本当に存在しているのかさえ、疑問に思っていた分、ちゃんと人間だった。 翠沙:…こんな風に言うのは失礼かもしれないが、人であるという安心感を、心のどこかで抱いていたのかもしれない。 翠沙:スマホから聞こえてきた声は、とても落ち着いた声で、その中に少し無邪気さがあるような…そんな感じの声だった。 翠沙:しばらく放心状態だったが、今更になって、慌てふためいた自分の声が恥ずかしくなってくる。 翠沙:……彼にどんな風に聞こえたのだろうか。 結斗:本当に電話がかかって来るなんて思ってなくて、最初は驚いたが、彼女も半信半疑でこの番号に電話をかけたとも言っていたし、お互いにとって予期せぬ出来事だった。 結斗:悩み事がないのに、電話をかけてしまった事を必死に伝えようとする声は、少し高くやんわりとした感じだが、はっきりとした声だった。 結斗:……俺の声は、彼女にどんな風に聞こえて届いていたのだろう。そんな不思議な事を、感じてしまっていた。 翠沙:次の日の学校。相変わらず、クラスでも七不思議の、謎の相談人についての話題が絶えなかった。 翠沙:個人的な悩みから、友達関係の相談、恋愛相談まで…。たまに辛辣だが、的確にその人にアドバイスをする所が良いのだと、みんな口を揃えて言っていた。 翠沙:中には、相談メールをしてから一週間後に返信メールが来るという事もあるという。 翠沙:彼一人で、この学校にいる悩みを抱えている生徒にアドバイスをしているのだから、そういう事もあるのだろうと、一人で勝手に納得していた。 翠沙:普通に考えて凄い事だ。……そんな彼自身の悩みというものはないのだろうか? 翠沙:そんな疑問が、私の脳裏に浮かんでいた。 結斗:『一人で抱え込みすぎ。もう少し、気持ちにゆとりを持たせる為にも、感じている事を言葉にするか、書き出してみては?』 結斗:『必要な事と不要な事が分かりやすくなるはずです。』…と、送信。 結斗:……ふぅ。結構かかっちゃったな。こんな俺の言葉で、本当に解決できてんのかな。たまに、お礼のメールは届いたりするけど。 結斗:…誰かの役に立ててるのかな、俺……。 結斗:あ、電話だ。………あれ?この番号って…。 翠沙:「…もしもし。」 結斗:「もしもし、今日はどうしたの?悩み事でも出来た?」 翠沙:「悩みというか、聞きたい事があって…。」 結斗:「聞きたい事?俺に?」 翠沙:「迷惑かな…?」 結斗:「いいや、そんな事ないよ。それで?俺に聞きたい事って?」 翠沙:「これを始めたキッカケとか…聞いても大丈夫?」 結斗:「キッカケかぁ…。別に大したことじゃないよ。俺の気まぐれから始めた事だから。」 翠沙:「気まぐれ?」 結斗:「そう。俺さ、極度の人見知りというか、誰かと話すのって結構苦手なんだよね。実は。」 翠沙:「そうなんだ…。」 結斗:「…そう見えない?」 翠沙:「声を聞く限りは、とても人見知りには感じない…かな?」 結斗:「じゃあ、これで培ってきた何かが、結果になってきてはいるのかな?」 結斗:「…まぁ、話を戻すと、人見知りではあるけれど、誰かとは関わりを持ちたいっていう、俺の変なプライド?みたいなもん。」 結斗:「それをどうにかして形にできないかなぁって出来たのが、このお悩み相談メールってわけ。」 翠沙:「へぇ…。そういうキッカケだったんだ。…いつから始めたの?」 結斗:「う~ん…入学してから、確か…2ヶ月後くらいだったかな?1ヶ月経っても、中々クラスに馴染めなくてさ。さすがにヤバいんじゃないかって、コミュニケーションの向上を目指しがてら、設立したかな。」 翠沙:「ふふ…設立って。面白いね。」 結斗:「でも、おかげで文章力は上がったよ?会話する時の言葉選びも、慎重になったかな?」 翠沙:「言葉選び?」 結斗:「誰かと会話する時ってさ、相手の顔が見えて、表情が分かって、声のトーンの違いがあって、言葉があるわけでしょ?」 結斗:「言葉より、相手の表情で話の内容が左右される。怒ってる顔されて、怒ってないよって言われても、説得力ないでしょ?」 翠沙:「確かに…そうだね。」 結斗:「でも、メールだとさ、言葉の全てに自分の考えてる事とか、気持ちとかを乗せて届けなきゃないだろ?」 結斗:「声も、顔も、見えないわけだから。その分、伝えるのにも時間がかかるんだ。」 翠沙:「だから、一週間後の返信メールとかがあるんだね…。」 結斗:「そうなんだよ……って、なんでそんな事知ってるの?」 翠沙:「えっ?!あ…クラスの友達にそういう子がいたみたいだったから…。それで…。」 結斗:「あぁ、そういう事か。…あー……他に何か言われてる事って、ある?」 翠沙:「…え?」 結斗:「あ、いや、その…俺に相談メール送った人達が、どう思ってんのかなーって、気になって……。」 翠沙:「…たまに言葉が辛辣だって。」 結斗:「あ、やっぱり…。」 翠沙:「でも、的確にその人に対してアドバイスしているし、その人を思ってこその辛辣さだから、それが良いんだとも言われてますよ。」 結斗:「…本当?」 翠沙:「嘘に聞こえます?」 結斗:「いいや。ただ、信じられなくて…。そっか…ちゃんと役に立ててるんだ。」 翠沙:「素直に誇っていい事だと思いますよ?ここまで続けられていることも。私だったら、途中で止めてるかも。」 結斗:「…周りの意見が聞けて良かったかも。ありがとう。」 翠沙:「いいえ。………あっ!そうだった!」 結斗:「えっ?!どうしたの、急に。」 翠沙:「キッカケもそうだけど、もう一つ聞きたい事があったの。」 結斗:「何?」 翠沙:「あなた自身の悩みはないのかな?…って思って。」 結斗:「………。」 翠沙:「………。」 結斗:「…考えた事もなかったな。」 翠沙:「…えっ?!そうなの?!」 結斗:「うん。…あ、でもたまに、さっきみたいな周りの意見は気になるかも。どう思われてるとか…。言葉のやりとりだけだけど、嫌われたくないし。」 翠沙:「…それって、貴方の不思議なプライド?」 結斗:「そう。…だからさ……。」 翠沙:「…?」 結斗:「また、電話してくれないかな?今日みたいに。君が、俺に聞きたい事とかがある時でいいからさ。」 翠沙:「えっ…?」 結斗:「だめ…かな?」 翠沙:「う、ううん!…わ、私でいいなら!」 結斗:「ありがとう。」 翠沙:「こ…こちらこそ。答えてくれてありがとうね。…じゃあ、また。」 結斗:「うん、またね…。」 翠沙:彼との二度目の電話は、思わぬ出来事で、スマホから伝わる声が切られた。 翠沙:声だけでの不思議な関係が、始まっていった…。 結斗:周りの意見が聞きたい…。それは、正直な気持ちではある。それと同時に、彼女の声をもっと聞いていたい…。そう思い始めている自分がいた。 結斗:お互いの顔も知らないくせに、彼女と話しているだけで、心地が良いとさえ感じてしまっている。 結斗:声に恋をした。………なんて言ったら、それこそ、おかしいと笑われてしまうんだろうな…。 翠沙:それから、私達は何度か電話でのやりとりを重ねていった。毎回、5分から10分程度のなんでもない会話。 翠沙:話の内容も、私が彼に対して思った事、聞いてみたい事がほとんどだけれど。 翠沙:そんな事に対しても、彼は真剣に答えてくれた。 翠沙:「今更かもしれないんだけど…貴方の名前、聞いてもいい?」 結斗:「そういえば、俺達、お互いに名前知らないね。俺は、天川結斗(あまかわゆいと)。」 翠沙:「葉月翠沙(はづきみさ)です。」 結斗:「改めて、よろしくね。翠沙さん。」 翠沙:「よろしくお願いします。結斗さん。」 結斗:「あはは…なんか気恥ずかしいな。こういうの。」 翠沙:「そうですね。」 結斗:「不思議な出会いから始まった事だけれど……こうやって、誰かと素の自分で話したいっていうのが、心の何処かにあったんだろうなぁ…。」 翠沙:「え…?」 結斗:「俺さ、小学生の頃は、今より性格がオープンっていうか、誰とでも仲良くなれる奴だったんだけどさ。ちょっとしたトラブルがあってね…。」 翠沙:「トラブル…ですか?」 結斗:「俺的には、冗談のつもりで話した事だったんだけどさ。相手的には、真面目に捉えちゃったみたいで…。」 結斗:「そこから、その子との関係がぎくしゃくしてさ…誤解を解決できないまま、お互い卒業して、違う中学に入ったんだ。」 結斗:「…それからかな?人と関わるのが、少し、怖くなった。」 翠沙:「…そのお友達は、今、どうされてるんですか?まだ、関係が…?」 結斗:「あぁ、いや、今はそいつとは誤解も解けてるし、たまに会って馬鹿話してるよ。その時の事を笑い話にするくらいに。」 翠沙:「そうなんですね。…良かった。」 結斗:「…優しいね。翠沙さんは。」(小声で) 翠沙:「え?今、何か言いました?」 結斗:「ううん、何でもない。まぁ、そういう過去があって…でも、何かで誰かと関わりたくて、今に至ってるんだよね。」 結斗:「七不思議の正体は、意外と臆病な男子高校生でした!…ってね。」 翠沙:「でも、ちゃんと向き合って悩み事のメールを返しているじゃないですか。少なからず、何人かは、結斗さんの言葉に救われていると思いますよ?」 結斗:「……そうだといいな。」 翠沙:「私も、微力ながら、結斗さんの支えになりたいです!」 結斗:「ありがとう。嬉しいよ。」 翠沙:過去の出来事を思い出し、どこか落ち込んだ声が、少しでも明るくなってくれたら…。 翠沙:私が出来る事なんて、本当に小さな事かもしれないけれど、今の彼を支えてあげたい。…そう思った。 翠沙:そんな事を知ってか、知らずか。学校に新たな噂が立ち始めた…。 結斗:「解決相談人?」 翠沙:「はい。最近、そんな噂があるみたいで。なんでも、その人も、メールでの悩み相談を解決すべく、相手に返信しているみたいです。」 結斗:「ふ~ん。内容的には、俺がやっている事と変わりはなさそうだけど。」 翠沙:「結斗さんの偉業に、感化された誰かですかね?」 結斗:「偉業って…俺はそんなに大それた事してないよ。それに、その…解決相談人…だっけ?俺にも出来る!みたいな感じで始めただけかもよ?」 翠沙:「そうでしょうか。でも、これで結斗さんに来るお悩み相談のメールも、その人とで振り分けられるようになるんじゃないですか?」 結斗:「…そういえば、最近は前より少しメールの数が少ないかも。」 翠沙:「良かったじゃないですか。心に少し、ゆとりが持てるようになりますね。」 結斗:「あはは。そうかもね。」 結斗:ただ、後々に悪い方向へと動き始めた…。 結斗:俺は、悩み相談のメールに対して、真剣に言葉を選び、相手に届けている。 結斗:だが、その解決相談人は、やっている事は俺と変わりないが、内容は、酷いものだった。 結斗:相談者の気持ちを考えない、自己中心的で、一方的な言葉で、無理矢理解決にねじ込む様な返信メールの数々…。 結斗:そんな相手の魔の手が、俺にまで及び始めていった…。 翠沙:「…え?!それって、どういう事ですか?!」 結斗:「言葉の通りだよ。解決相談人の不評が、俺にまで飛んでくるようになった。…最近は、悩み相談のメールより、罵詈雑言だらけのメールが増えた。」 翠沙:「そ、そんな……。」 結斗:「………そろそろ、潮時なのかもな。俺も。止める良い機会なのかもしれない。…これでいいんだよ。」 翠沙:「…結斗さんは、本当にそれで良いんですか?」 結斗:「…え?」 翠沙:「今までやってきた事は、そんな簡単に手放していいものなんですか?!」 結斗:「……。」 翠沙:「私なんかが、こんな事を言うのはおかしいかもしれませんが、結斗さんの言葉に助けられた人達もたくさんいるんです!」 翠沙:「相手の事を思ってこその辛辣な言葉も、結斗さんだから、皆も真剣に受け止めてくれたんです!」 翠沙:「結斗さんの言葉に助けられたいから、一週間も返信メールを待ってくれる人だっているんです!」 翠沙:「……そんな簡単に、諦めないでください…。」 結斗:「……翠沙さん。」 結斗:「翠沙さん…俺の悩み、聞いてくれる?」 翠沙:「…え?」 結斗:「罵詈雑言メールがほとんどだけど、何通かは今まで通り、相談メールも届いてるんだ。」 結斗:「…俺が、言葉の圧力に負けない様に、助けてくれないか…?君の……翠沙さんの声で。」 翠沙:「…!はい…!」 翠沙:人の噂は七十五日…大した事じゃない。気にしなくていい。…そうは言っても、少なからず、その間は言葉の影響を受ける事になる。 翠沙:ほぼ毎日、そんな言葉の暴力を受ければ、簡単に心が潰されてしまう。 翠沙:そうならない様に、私は、自分の声で、彼を励まし続けた。大丈夫、自分を信じて。私がずっと支えてあげるから、負けないで。 翠沙:……それから、しばらくして、結斗さんへの罵詈雑言メールは少なくなり、解決相談人の方への罵詈雑言メールが増えていった。 翠沙:言葉の圧力に耐えきれなくなった解決相談人は、次第に姿を消していった……。 結斗:「虎狼(とらおおかみ)より人の口恐ろし。」 翠沙:「…?何ですか?それ。」 結斗:「人の陰口や中傷は、防ぎようがない程に恐ろしいって事。今回の件で、それを思い知らされたかな。」 翠沙:「そうですね。…結斗さんも、何度も暗い声になってましたから。」 結斗:「言っただろ?俺は臆病でビビリな男子高校生だって。」 翠沙:「そこまでは言ってませんでしたけど…。」 結斗:「そう?」 翠沙:「でも、誤解もなくなって、本当に良かったです。お悩み相談も再開できますね。」 結斗:「う~ん……その事なんだけどさ。」 翠沙:「はい。」 結斗:「俺、止めようと思うんだ。悩み相談。」 翠沙:「…え?どうして…。」 結斗:「今までは、俺の個人的なプライドみたいな感じで、誰かと関わりを持っていたいからっていうので、始めた事だったけどさ。」 結斗:「…もう少し深く知りたいっていう、欲が出てきちゃったんだよね。」 翠沙:「…それって、つまり、どういう事ですか?」 結斗:「ある一人の人の事を、好きになったって事。」 翠沙:「……え?!」 結斗:「という事で!俺は、この七不思議から姿を消すよ。」 翠沙:「……。」 結斗:「だからさ………俺を見つけて欲しい。」 翠沙:「…え?!結斗さんを?!」 結斗:「そう。翠沙さんが、俺を見つけてくれた場所で待ってるから…。」 翠沙:「ゆ、結斗さん…?!」 翠沙:そういって、電話は切られてしまった。今までずっと声のやりとりだけで、直接会った事など一度もない。 翠沙:そんな状態で、一体どうやって彼を探せばいいのか。 翠沙:私が彼を見つけた場所……? 翠沙:この不思議な関係になったキッカケは………。 翠沙:「はぁ…はぁ…はぁ……。」 翠沙:学生掲示板の前―――そこに男子生徒が一人…立っていた。 結斗:「そんなに急がなくても良かったのに。」 翠沙:「だって…急に電話が切れるから…慌てちゃって……。」 結斗:「ごめんごめん。」 翠沙:「結斗さん…なんですよね?」 結斗:「そうだよ。俺が、学校の七不思議、その中の一つ、謎の相談人。その正体は…天川結斗という男子生徒でした!ってね。」 翠沙:「…先輩だったんですね。私時々、ため口聞いてた…。」 結斗:「いいよ。俺はそういうの気にしないから。今まで通りに話してよ。」 翠沙:「…うん。」 結斗:「声は知ってるのに、こうして会うのは初めましてなんて……何か、変な感じだね。」 翠沙:「そうですね。不思議な感覚です。」 結斗:「直接会ってみた感想は?」 翠沙:「声のイメージ通りな感じです。落ち着きの中に少し無邪気さがある…そんなイメージ。」 結斗:「翠沙さんも、俺が想像した通りかな。好奇心旺盛な所があるけど、優しくて、芯の強い子だなぁって。」 翠沙:「そんな…恥ずかしいです。」 結斗:「ふふっ…可愛い。」 翠沙:「…?!」 結斗:「出会いのキッカケは、本当に不思議な出来事だったけど、その日から段々と、君の声に惹かれていったんだ。」 結斗:「声に恋をしたって言ったら、おかしいって笑われるかもしれないけど、好きになっていったんだ。」 結斗:「何気ない会話をしてても、もっと、ずっとこの声を聞いていたいって、思うようにまでなっていた。」 結斗:「これは単純に、俺の我儘だ。嫌なら断ってくれ。」 結斗:「翠沙さん、君が好きだ。俺と付き合ってほしい。」 翠沙:「……最初は、私の好奇心からでした。本当に電話が繋がった時は、あたふたして…恥ずかしい声を聞かれてしまったなって思ってたんです。」 翠沙:「それからも、私の些細な質問にも、真剣に答えてくれて。とても優しい人だなぁって。」 翠沙:「過去の辛い経験や、例の事件の時の、貴方の落ち込んだような…暗い声を聞いた時、この人を支えてあげたいって、思うようになったんです。」 翠沙:「こんな私じゃ頼りないかもしれないですけど………よろしくお願いします。結斗さん。」 結斗:「……!!こちらこそ!…改めて、よろしくね。」 翠沙:学校の七不思議。その中の一つ、【謎の相談人】。 翠沙:その正体である彼と、こうして、付き合う事になった。 翠沙:ある意味、これも、七不思議なのかもしれない。 翠沙:そう、これは………【恋の七不思議】。 ― fin. ―