台本概要

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タイトル Sigh Drunkard
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 サイ・ドランカード。

五人がとあるホテルに集った日より四年ほど前のお話。
マフィア組織『クラウディウス』の暗殺者、シャンディ・ガフは、腐れ縁のデラスと共に多忙な一週間を切り抜け、帰路についていた。
もうすぐ陽が昇りそうな空の下、二人は何気ないやり取りを交わす。

「お前さんが前向きな気持ちを抱けば、この日の出もまた違って見えるだろうよ。」


『互悦導衆』シリーズ 外伝 その1。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
シャンディ 不問 42 シャンディ・ガフ。 二つ名は『告別の黄金酒』(こくべつのおうごんしゅ)。 組織では暗殺を生業としており、戦闘スキルも天才的だが、当の本人は悲観的で、自分に自信がない。 (女性がやっても男性がやっても構いません。)
デラス 42 組織の幹部チーム、『チーム・ブラック』に所属する男。 シャンディとは組織に入ったころからの腐れ縁。 少し強面だが、面倒見がよく、様々な人物に信頼を寄せられている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:もうじき陽が昇るころ。二人の男女?が建物から出てきて、灯りの少ない街を歩いていく。 : シャンディ:はあぁ……。 デラス:なんだシャンディ。今日はいつもよりため息が深いな。さては思い出しちゃったか?二か月前に恋人にフラれた時のこと。 シャンディ:細切れにするわよデラス。 デラス:ジョークだよ。悪かった。だからどうかその血まみれのナイフと背筋が凍るような殺気をしまってくれ。 シャンディ:…次はないわ。 デラス:肝に銘じておこう。それでどうしたんだ?本格的に予想するなら…、実はそれがお気に入りの服で、返り血がべっとりついてショック、とか? シャンディ:残念はずれ。というか馬鹿じゃあるまいし、仕事をするときは汚れてもいい服しか着ないわ…。 デラス:なるほど。まあそりゃそうか。「汚れ仕事」だもんな。 シャンディ:…仕事終わりの頭でよくそんなにすぐくだらないジョークを思いつけるわね。 デラス:そりゃ俺はほぼ毎日“リーダー”に鍛えられてるから。これくらいは「朝飯前」だ。もうじき日も昇るしな。 シャンディ:本当に癪なんだけど…。 デラス:すまんすまん。で、正解は? シャンディ:単純に疲労とストレス。…実は今日で七連勤なのよ、あたし。 デラス:マジか。するってぇとあれかい?この一週間、日月火水木金土、ずーっといろんなとこ飛び回って殺(き)りまくってたってことか? シャンディ:ええ。お金は弾んでもらったから文句は言えないし、もともと暗殺者としてスカウト方式で組織に入ってるから慣れてるつもりだったけれど…、七日間毎日人間を殺し続けたことはなかったから、肉体的にも精神的にもちょっと参っちゃってるのよ…。本気でノイローゼになりそうだったわ…。 デラス:なるほど。それで遂に疲れ果てた哀れな暗殺者シャンディ・ガフは、少しでも仕事量を減らすために、最近暇してた俺を呼び出し、仕事を手伝ってもらったってことか。 シャンディ:そういうこと。…本当にごめんなさいね、デラス。組織のゴミ処理なんて、面倒で汚くて作業みたいな仕事を手伝わせてしまって…。 デラス:これくらい楽勝だよ。困ったら助け合うのが友人ってやつだからな。で、この連勤はいつ終わるんだ?“リーダー”によればうちのチームはもう一週間くらい暇を持て余すらしいから、明日明後日もあるようなら喜んで手伝おう。 シャンディ:ありがとう。でも大丈夫よ、さっきの奴らでラストだったから。 デラス:そうだったか。そいつはよかった。一週間お疲れさん。これでゆっくり休めるな。 シャンディ:そうね。…ま、あなたの銃がピースメイカーだったことには未だに驚いてるけれど。 デラス:ん?ああ確かに、シャンディと一緒のフィールドでドンパチするのは初めてだったな。毎度お初の連中には驚かれるんだ。みんな「なにその銃?」って眼で俺に訴えかけてくる。 シャンディ:そりゃみんなそうなるでしょうね…。幹部チームの男がこの時代にヴィンテージのリボルバー使ってるんだもの。西部劇(ウエスタン)に憧れてるの…? デラス:もちろん。男ってのは幼いころの夢をいつまでも追い続ける生き物なのさ。 シャンディ:そのセリフがもうそのものね…。 デラス:ハハハ。まあしかし、理由はどうあれ、使ってみると普通に手に馴染んでな。下手なオートマチック使うよりこっちのが全然戦えるし、なによりどこか使ってて落ち着くんだよ、SAAは。 シャンディ:…さては生まれる時代間違えたんじゃない? デラス:いいや、これはきっと神託だぜ。便利で高性能なグロックやらベレッタやらを挙(こぞ)って使ってるやつらにも負けないリボルバー使いになれ、いつかのカウボーイやガンマンのように味があってバーボンが似合う男になれっていうような、な。 シャンディ:…後半リボルバー関係なくない? デラス:類似してるからセーフだ。 シャンディ:アバウトね…。でも、本当にピースメイカーを使ってる時のあなたは様になってたし、今日仕事を手伝ってくれて本当に助かったわ。…こんなあたしのために、ありがとうねデラス。 デラス:お安い御用だ。…しかし、妙だな。なんでそんないきなり暗殺の仕事が大量に降ってきたんだ?最近は特に組織に動きはなかったはずだ。それに、あいつらが持ってた紋章。あれは確実に俺たちの組織…、【クラウディウス】のものだった。 シャンディ:ええ。…今日に限らず、この一週間で殺してきた人たちはみんな【クラウディウス】の人たちだったわ。 デラス:…ってことはまさか、水面下で小さく内輪揉めが起きてるってことか? シャンディ:さあね。今回のヤマは組織の上層部が持ってきたのだけれど、情報は必要最低限しか開示されなかったし、あたしには知る由もないわ。ただ…、察しはつくわね。 デラス:ほぅ。それは? シャンディ:ボスが気に入らない奴らを消した。 デラス:おいおい流石にそんなことありえないだろ。―――と言いたいが、俺もその線が濃厚だと思ってた。あの暴君ならやりかねん。 シャンディ:…まったく。もし本当だったら暗殺者として胸糞悪いわ。…せめて邪魔者を退けるんなら自分でやってほしいものだけど。 デラス:仕方がないだろうよ。あいつは【クラウディウス】の皇帝。俺たちは王に仕える従者か道化かはたまた奴隷か…、は知らないが。ともあれ、今は嚙み殺すしかないさ。 シャンディ:そうね…。…ねえデラス。もしも“彼”があの独裁者を蹴落として王冠をかぶったら、面白いと思わない? デラス:ああ。最高の喜劇になるに決まってる。 シャンディ:…はぁ。 デラス:ん?なんだ、お前さんは協力してくれないのか? シャンディ:え…? デラス:…なるほど。今の問いはあれか。「こうだったらいいのに、それが叶うことはきっとないんだろうな」っていう意味だったか。 シャンディ:…ええ、そうだけど。 デラス:シャンディ。お前さんはそのマイナス思考を直した方がいいな。完全には無理にしろ、せめて酒の席だけに留めておいた方がいい。 シャンディ:…あたしのこれはいつものことじゃない。そう簡単に直らないし、きっと無理よ…。 デラス:そういうところを言ってるんだ。 シャンディ:……。 デラス:まったく、無自覚だったな。…自分に自信が持てないのは仕方のないことさ。それは優しいお前さんの性格の問題と、暗殺を生業としている仕事上な。だからそれはまだいい。が、それを抜きにしたってお前さんは悲観的過ぎる。ポジティブ・シンキングでいかないとマフィアなんてやってられないぜ。この世界は文字通り、激しい生存競争だからな。知ってるだろう? シャンディ:…そう、ね。 デラス:不安そうだな。 シャンディ:そりゃあね…。今あなたにそう言葉をかけられて、「でもきっと無理だろう」って心が変わらなかった時点で…、正直。 デラス:ハハハ。わかってはいたが、重症だな。だけど安心するといい。お前はそのうち、「変わらなきゃいけない場面」に直面する。そうなったら嫌でも変わるさ。 シャンディ:…変わらなきゃいけない場面? デラス:ああ。例えば…、何かの拍子でチームに入ることになって、連携を要求される、とか。 シャンディ:まさか、ないでしょ。組織に入ってから今の今までずっと暗殺しかしてこなかったのよ? デラス:わからないぞ。お前さんの暗殺の腕は業界最高峰と名高いからな。その能力を買って、誰かに誘われるかもしれない。あ、うちに来てくれても構わないぜ。なんなら“リーダー”に口利きしてやろうか? シャンディ:遠慮するわ。…今のあたしがチームになんて入ったら、きっと協力や連携が一切できなくて、足しか引っ張らないもの。 デラス:そうか、残念だな。だが、俺たちの『チーム・ブラック』はいつでもお前さんを歓迎するぞ、シャンディ。気が向いたらいつでも俺に連絡して来てくれよ。 シャンディ:…ええ。 デラス:フフ。というかあれだな。そういえばシャンディにはすべての行動を肯定してくれる大ファンがいたな。アイツがいればマイナス思考は嫌でも改善されるか。 シャンディ:あぁ…。いや、ないわよ。本当に全部肯定されると逆に自信持てなくなるから。本当に…。 デラス:そういうもんか。…あ、でも確かに思い出せば、最近うちのチームに入ってきた新入りも、“雷光”に気に入られて同じ状況に陥ってたか。 シャンディ:…は?あの“雷光”に気に入られたの…? デラス:ああ。ゾッコンだよ。最近はずっと新入りのこと見てるし、ずっとそばにいるし、ずっと護ってる。あれにはさすがの“リーダー”も驚いてたなあ。 シャンディ:そりゃそうでしょうね…。なにしたのよ、そいつ。 デラス:わからない。まあ“雷光”の性癖に刺さった可能性は否定しきれないな。聞いて驚け、なんとそいつ十四歳なんだ。 シャンディ:…若すぎない?そんな子がマフィアになるどころか、幹部チームに入ったの? デラス:“リーダー”からの推薦だったんだよ。 シャンディ:なら実力は間違いないのね…、———きゃっ、眩しっ…! 0:建物の隙間から朝日が射す。 デラス:おぉ。よかったなシャンディ。お天道様が一週間もお仕事ご苦労様、って労ってくれたぜ。こんなこと滅多にないんだ、きちんと空を見て感謝するといい。 シャンディ:…嫌よ、朝日好きじゃないもの。 デラス:知ってるよ。ま、お前さんがきちんと前を向けるようになりゃ、朝焼けの空もまた違って見えるだろうさ。 シャンディ:…ふふっ。あなたって本当、ロマンチストね。 デラス:極上の誉め言葉をありがとう。さてどうする、不眠症のシャンディ・ガフ。仕事終わりはいつも飲みに行く流れだが。 シャンディ:はぁ…。そんなの…、飲むに決まってるでしょ。お店は閉まってるだろうからあたしの家行くわよ…! デラス:ハハハ、了解。クランクアップ祝いとして、今日はとことん付き合ってやる。俺としても、話したい事が山ほどあるしな。 シャンディ:…ありがとう。…あ、あの…、デラス。 デラス:ん? シャンディ:…その、お酒の席なら、マイナスな感情を出してもいい、のよね? デラス:…フッ、ハハハハハ。ああ。勿論。愚痴も弱音も溜息も、好きなだけ聞いてやるさ。可憐で華奢な暗殺者、“告別の黄金酒”さん。 : 0:朝焼けの空の下、“黒”の男に絆されて、“悲恋酒”は自然と顔を上げた。 : 0:End Femme Fatale ファム・ファタル 互悦よりも四年前、仕事を終わらせた後のお話 シャンディ 『クラウディウス』、「ゴミ処理係もとい暗殺者」、“告別の黄金酒” 現在はマフィア組織『クラウディウス』、「チーム・ロータス」メンバー デラス   『クラウディウス』、「チーム・ブラック」メンバー、“黒の最優”(現時点では不明) 現在はマフィア組織『クラウディウス』幹部、「チーム・ブラック」リーダー

0:もうじき陽が昇るころ。二人の男女?が建物から出てきて、灯りの少ない街を歩いていく。 : シャンディ:はあぁ……。 デラス:なんだシャンディ。今日はいつもよりため息が深いな。さては思い出しちゃったか?二か月前に恋人にフラれた時のこと。 シャンディ:細切れにするわよデラス。 デラス:ジョークだよ。悪かった。だからどうかその血まみれのナイフと背筋が凍るような殺気をしまってくれ。 シャンディ:…次はないわ。 デラス:肝に銘じておこう。それでどうしたんだ?本格的に予想するなら…、実はそれがお気に入りの服で、返り血がべっとりついてショック、とか? シャンディ:残念はずれ。というか馬鹿じゃあるまいし、仕事をするときは汚れてもいい服しか着ないわ…。 デラス:なるほど。まあそりゃそうか。「汚れ仕事」だもんな。 シャンディ:…仕事終わりの頭でよくそんなにすぐくだらないジョークを思いつけるわね。 デラス:そりゃ俺はほぼ毎日“リーダー”に鍛えられてるから。これくらいは「朝飯前」だ。もうじき日も昇るしな。 シャンディ:本当に癪なんだけど…。 デラス:すまんすまん。で、正解は? シャンディ:単純に疲労とストレス。…実は今日で七連勤なのよ、あたし。 デラス:マジか。するってぇとあれかい?この一週間、日月火水木金土、ずーっといろんなとこ飛び回って殺(き)りまくってたってことか? シャンディ:ええ。お金は弾んでもらったから文句は言えないし、もともと暗殺者としてスカウト方式で組織に入ってるから慣れてるつもりだったけれど…、七日間毎日人間を殺し続けたことはなかったから、肉体的にも精神的にもちょっと参っちゃってるのよ…。本気でノイローゼになりそうだったわ…。 デラス:なるほど。それで遂に疲れ果てた哀れな暗殺者シャンディ・ガフは、少しでも仕事量を減らすために、最近暇してた俺を呼び出し、仕事を手伝ってもらったってことか。 シャンディ:そういうこと。…本当にごめんなさいね、デラス。組織のゴミ処理なんて、面倒で汚くて作業みたいな仕事を手伝わせてしまって…。 デラス:これくらい楽勝だよ。困ったら助け合うのが友人ってやつだからな。で、この連勤はいつ終わるんだ?“リーダー”によればうちのチームはもう一週間くらい暇を持て余すらしいから、明日明後日もあるようなら喜んで手伝おう。 シャンディ:ありがとう。でも大丈夫よ、さっきの奴らでラストだったから。 デラス:そうだったか。そいつはよかった。一週間お疲れさん。これでゆっくり休めるな。 シャンディ:そうね。…ま、あなたの銃がピースメイカーだったことには未だに驚いてるけれど。 デラス:ん?ああ確かに、シャンディと一緒のフィールドでドンパチするのは初めてだったな。毎度お初の連中には驚かれるんだ。みんな「なにその銃?」って眼で俺に訴えかけてくる。 シャンディ:そりゃみんなそうなるでしょうね…。幹部チームの男がこの時代にヴィンテージのリボルバー使ってるんだもの。西部劇(ウエスタン)に憧れてるの…? デラス:もちろん。男ってのは幼いころの夢をいつまでも追い続ける生き物なのさ。 シャンディ:そのセリフがもうそのものね…。 デラス:ハハハ。まあしかし、理由はどうあれ、使ってみると普通に手に馴染んでな。下手なオートマチック使うよりこっちのが全然戦えるし、なによりどこか使ってて落ち着くんだよ、SAAは。 シャンディ:…さては生まれる時代間違えたんじゃない? デラス:いいや、これはきっと神託だぜ。便利で高性能なグロックやらベレッタやらを挙(こぞ)って使ってるやつらにも負けないリボルバー使いになれ、いつかのカウボーイやガンマンのように味があってバーボンが似合う男になれっていうような、な。 シャンディ:…後半リボルバー関係なくない? デラス:類似してるからセーフだ。 シャンディ:アバウトね…。でも、本当にピースメイカーを使ってる時のあなたは様になってたし、今日仕事を手伝ってくれて本当に助かったわ。…こんなあたしのために、ありがとうねデラス。 デラス:お安い御用だ。…しかし、妙だな。なんでそんないきなり暗殺の仕事が大量に降ってきたんだ?最近は特に組織に動きはなかったはずだ。それに、あいつらが持ってた紋章。あれは確実に俺たちの組織…、【クラウディウス】のものだった。 シャンディ:ええ。…今日に限らず、この一週間で殺してきた人たちはみんな【クラウディウス】の人たちだったわ。 デラス:…ってことはまさか、水面下で小さく内輪揉めが起きてるってことか? シャンディ:さあね。今回のヤマは組織の上層部が持ってきたのだけれど、情報は必要最低限しか開示されなかったし、あたしには知る由もないわ。ただ…、察しはつくわね。 デラス:ほぅ。それは? シャンディ:ボスが気に入らない奴らを消した。 デラス:おいおい流石にそんなことありえないだろ。―――と言いたいが、俺もその線が濃厚だと思ってた。あの暴君ならやりかねん。 シャンディ:…まったく。もし本当だったら暗殺者として胸糞悪いわ。…せめて邪魔者を退けるんなら自分でやってほしいものだけど。 デラス:仕方がないだろうよ。あいつは【クラウディウス】の皇帝。俺たちは王に仕える従者か道化かはたまた奴隷か…、は知らないが。ともあれ、今は嚙み殺すしかないさ。 シャンディ:そうね…。…ねえデラス。もしも“彼”があの独裁者を蹴落として王冠をかぶったら、面白いと思わない? デラス:ああ。最高の喜劇になるに決まってる。 シャンディ:…はぁ。 デラス:ん?なんだ、お前さんは協力してくれないのか? シャンディ:え…? デラス:…なるほど。今の問いはあれか。「こうだったらいいのに、それが叶うことはきっとないんだろうな」っていう意味だったか。 シャンディ:…ええ、そうだけど。 デラス:シャンディ。お前さんはそのマイナス思考を直した方がいいな。完全には無理にしろ、せめて酒の席だけに留めておいた方がいい。 シャンディ:…あたしのこれはいつものことじゃない。そう簡単に直らないし、きっと無理よ…。 デラス:そういうところを言ってるんだ。 シャンディ:……。 デラス:まったく、無自覚だったな。…自分に自信が持てないのは仕方のないことさ。それは優しいお前さんの性格の問題と、暗殺を生業としている仕事上な。だからそれはまだいい。が、それを抜きにしたってお前さんは悲観的過ぎる。ポジティブ・シンキングでいかないとマフィアなんてやってられないぜ。この世界は文字通り、激しい生存競争だからな。知ってるだろう? シャンディ:…そう、ね。 デラス:不安そうだな。 シャンディ:そりゃあね…。今あなたにそう言葉をかけられて、「でもきっと無理だろう」って心が変わらなかった時点で…、正直。 デラス:ハハハ。わかってはいたが、重症だな。だけど安心するといい。お前はそのうち、「変わらなきゃいけない場面」に直面する。そうなったら嫌でも変わるさ。 シャンディ:…変わらなきゃいけない場面? デラス:ああ。例えば…、何かの拍子でチームに入ることになって、連携を要求される、とか。 シャンディ:まさか、ないでしょ。組織に入ってから今の今までずっと暗殺しかしてこなかったのよ? デラス:わからないぞ。お前さんの暗殺の腕は業界最高峰と名高いからな。その能力を買って、誰かに誘われるかもしれない。あ、うちに来てくれても構わないぜ。なんなら“リーダー”に口利きしてやろうか? シャンディ:遠慮するわ。…今のあたしがチームになんて入ったら、きっと協力や連携が一切できなくて、足しか引っ張らないもの。 デラス:そうか、残念だな。だが、俺たちの『チーム・ブラック』はいつでもお前さんを歓迎するぞ、シャンディ。気が向いたらいつでも俺に連絡して来てくれよ。 シャンディ:…ええ。 デラス:フフ。というかあれだな。そういえばシャンディにはすべての行動を肯定してくれる大ファンがいたな。アイツがいればマイナス思考は嫌でも改善されるか。 シャンディ:あぁ…。いや、ないわよ。本当に全部肯定されると逆に自信持てなくなるから。本当に…。 デラス:そういうもんか。…あ、でも確かに思い出せば、最近うちのチームに入ってきた新入りも、“雷光”に気に入られて同じ状況に陥ってたか。 シャンディ:…は?あの“雷光”に気に入られたの…? デラス:ああ。ゾッコンだよ。最近はずっと新入りのこと見てるし、ずっとそばにいるし、ずっと護ってる。あれにはさすがの“リーダー”も驚いてたなあ。 シャンディ:そりゃそうでしょうね…。なにしたのよ、そいつ。 デラス:わからない。まあ“雷光”の性癖に刺さった可能性は否定しきれないな。聞いて驚け、なんとそいつ十四歳なんだ。 シャンディ:…若すぎない?そんな子がマフィアになるどころか、幹部チームに入ったの? デラス:“リーダー”からの推薦だったんだよ。 シャンディ:なら実力は間違いないのね…、———きゃっ、眩しっ…! 0:建物の隙間から朝日が射す。 デラス:おぉ。よかったなシャンディ。お天道様が一週間もお仕事ご苦労様、って労ってくれたぜ。こんなこと滅多にないんだ、きちんと空を見て感謝するといい。 シャンディ:…嫌よ、朝日好きじゃないもの。 デラス:知ってるよ。ま、お前さんがきちんと前を向けるようになりゃ、朝焼けの空もまた違って見えるだろうさ。 シャンディ:…ふふっ。あなたって本当、ロマンチストね。 デラス:極上の誉め言葉をありがとう。さてどうする、不眠症のシャンディ・ガフ。仕事終わりはいつも飲みに行く流れだが。 シャンディ:はぁ…。そんなの…、飲むに決まってるでしょ。お店は閉まってるだろうからあたしの家行くわよ…! デラス:ハハハ、了解。クランクアップ祝いとして、今日はとことん付き合ってやる。俺としても、話したい事が山ほどあるしな。 シャンディ:…ありがとう。…あ、あの…、デラス。 デラス:ん? シャンディ:…その、お酒の席なら、マイナスな感情を出してもいい、のよね? デラス:…フッ、ハハハハハ。ああ。勿論。愚痴も弱音も溜息も、好きなだけ聞いてやるさ。可憐で華奢な暗殺者、“告別の黄金酒”さん。 : 0:朝焼けの空の下、“黒”の男に絆されて、“悲恋酒”は自然と顔を上げた。 : 0:End Femme Fatale ファム・ファタル 互悦よりも四年前、仕事を終わらせた後のお話 シャンディ 『クラウディウス』、「ゴミ処理係もとい暗殺者」、“告別の黄金酒” 現在はマフィア組織『クラウディウス』、「チーム・ロータス」メンバー デラス   『クラウディウス』、「チーム・ブラック」メンバー、“黒の最優”(現時点では不明) 現在はマフィア組織『クラウディウス』幹部、「チーム・ブラック」リーダー