台本概要
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タイトル | 番犬のケルベス |
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作者名 | あまくケイ (@amak0331) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男2、女2、不問1) ※兼役あり |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
「さて、剣と魔法に乾杯だァ!」 魔法や術が管理された近代世界 その中の一つの街「ピュラムシティ」で ケルベスは馬鹿馬鹿しい悪さをする野良スキルプレイヤー、いわゆるチンピラを退治しつつ、生活していた そんな中、スキルプレイヤー団体「ウェアズハード」の人間であるフェルナが、彼のもとを訪れる サイバー系のバトルファンタジーです 60分 展開を大きく崩さない程度のアドリブ、言い換え、語尾変更可 ケルベス、ハーディス役は演じる側の性別不問 ※機刑スキル ナンバー1→ワン …英語読みでお願いします 506 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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ケルベス | 男 | 147 | ピュラムシティに住む野良スキルプレイヤー。 「番犬のケルベス」と呼ばれている。 スケベ・荒っぽい・だらしない。しかしやる時はやる。 使用スキルウエポンは機刑剣棒「ケルベロス」。 兼ね役で「ソウイチ」役 |
フェルナ | 女 | 111 | スキルプレイヤー団体「ウェアズハード」を抜けたスキルプレイヤー。 ハーディスの企みを止めるために、ケルベスに協力を求める。 ストレートな物言いをする強気少女。 疑り深い一面もある。 使用スキルウエポンは機炎闘格「インフェルノ」 |
シヴァン | 不問 | 96 | コンピュラムシティでスキルチップの取引をしている業者。 他の闇社会団体とも繋がりをもち、その詳細は誰にもわからない。 紳士的な態度とは裏腹に底が見えない。 使用スキルウエポンは機弾銃砲「ヴィシュラード」。 兼ね役で「研究員」役 |
ユノア | 女 | 115 | 「ウェアズハード」のスキルプレイヤー。 フェルナとは孤児院時代からの縁で、一緒にウェアズハードに入った。 ハーディスを慕っており、ケルベスをきらっている。 引っ込み思案で大人しい。幼馴染のフェルナを溺愛している。 使用スキルウエポンは機閃雷刀「サヘラ」 |
ハーディス | 男 | 123 | 「ウェアズハード」のリーダー。 最強のスキルプレイヤーと名高い実力をもつ。 誠実な優男で、周りからの人望が厚い。 自分こそが最強であり絶対的な存在と信じている節がある。 使用スキルウエポンは機葬冥剣「デスタリア」。 兼ね役で「タクト」役 |
ソウイチ | 男 | 31 | ケルベス役が兼ね役 |
タクト | 男 | 30 | ハーディス役が兼ね役 |
研究員 | 不問 | 1 | シヴァン役が兼ね役 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:ネオンの明かりと、高いビルが連なる街「ピュラムシティ」
0:鉄パイプのような剣を持っている「番犬」はゆっくりと現れる
ケルベス:お? なんだなんだぁ、スキルウエポン片手によぉ?
ケルベス:ひーふーみぃ、ざっと10人か? 最近はどこで盗んできた? んん?
ケルベス:おーおーおー。皆揃って構えちまってよぉ……
ケルベス:へへ、はらわたがワクワクするぜ
0:ケルベスは自分のスキルウエポンを取り出す
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」、神経同調!
ケルベス:さて、「剣と魔法」に乾杯だァ!
0:
ケルベス:荒れに荒れた世の中、イカれたファンタジーは変わらねぇな。……ま、慣れたっちゃぁ慣れたが
フェルナ:野良犬生活になれたなら、ワンワン吠えてればいいのにね……!
ケルベス:っ?
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー2
フェルナ:「ファイアースピン」!
0:フェルナは、炎の足でケルベスに回し蹴りを放つ
ケルベス:おおっとぉ。誰かと思ったら、フェルナじゃねえか
フェルナ:減らず口なんか叩く暇があったら、受けてみなさいよ!
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー3
ケルベス:「ステイルガード」
フェルナ:ぐっ……
ケルベス:残念無念。もういっちょ、かますか?
フェルナ:……いっちょ前に止めるじゃない。腕は全然鈍ってないようね、番犬のケルベス!
ケルベス:……おっ
フェルナ:なによ?
ケルベス:白パンかぁ
フェルナ:っ! な!!
0:フェルナはすぐに後ずさる
ケルベス:スタイルの良い女になったと思ったらぁ……パンツはおこちゃまかぁ
フェルナ:死ね、変態、キモイ! 一周回って死ね!
ケルベス:落ち着けって
フェルナ:……あたしの炎拳(えんけん)が、その生意気な変態顔をぶち破る前に、ちゃーんと話を聞いてくれると嬉しいんだけど?
ケルベス:分ぁってるよ。用件は?
フェルナ:……明日、ハーディスが業者と会う
フェルナ:名前は「シヴァン」
フェルナ:色々な組織とコネクションがある奴で……そいつの扱っているチップは、良くない噂が流れてる
ケルベス:それで?
フェルナ:取引を止めるのに、協力してほしいの
ケルベス:身内で片付けな。ウェアズハードには……ハーディスを慕う愉快なスキルプレイヤー達がいるだろ?
フェルナ:慕っているから、巻き込みたくないのよ。大勢で行動したら、オズに目をつけられる可能性が高くなる
ケルベス:…なるほど。それで、単独行動ガールってわけか
フェルナ:あなたの実力は分かってる
ケルベス:もう昔のことだよ、そんなもん
フェルナ:ハーディスと肩を並べられるのは、ケルベス、あなた以外に思いつかない。
ケルベス:タダではできねえな
フェルナ:報酬は払う
ケルベス:断ったら?
0:フェルナはにやりと口角を上げる
フェルナ:それなら、意地でも連れていく
ケルベス:ぶっははは…! 変わんねぇな
フェルナ:人のこと言えないから
0:
0:ウェアズハード拠点 大広間にて
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー1
ユノア:「エレクトロ」…!
0:ユノアが刀を光らせ、ハーディスに斬りかかる
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー1
ハーディス:「スレイヤ」
0:ハーディスはそれを軽くいなし、反撃を加える。ユノアが体制を崩した
ユノア:っ……!
ハーディス:やるじゃないか。攻撃速度があがってる
ユノア:ありがとうございます
ハーディス:……ただ、斬る寸前。遅かったようにも見えた
ユノア:えっ?
ハーディス:いくら訓練でも、実践を想定しないと
ユノア:……思い浮かべてしまうんです
ハーディス:何を?
ユノア:手です。あなたの
ハーディス:どんな手だい?
ユノア:助けてくれた時の、です
ハーディス:それが理由?
ユノア:その……ハーディスの優しさに斬りかかっているようで……ごめんなさい。いいわけですよね
ハーディス:ケルベスと思ったらどうだ?
ユノア:辞めてください
ハーディス:その勢いがあれば、十分だと思うけどな
ユノア:ご冗談を
ハーディス:そういえば、フェルナは?
ユノア:いいえ。何度か連絡しているのですが……
ハーディス:シヴァンとの話が出てからだったね、消えたのは
ユノア:……まさか、裏切ったと?
ハーディス:既に感づかれたかもしれないな
0:ハーディスとユノアの耳元、通話音声が聞こえた。
シヴァン:可能性としては、十分にありうる
ユノア:っ、通話回線?
シヴァン:突然のご訪問、失礼する
ハーディス:シヴァンか
ユノア:今日じゃなかったはずでは
シヴァン:分かってるさ。少し、情報提供をしたくてね
ユノア:どういうことですか?
シヴァン:最近、私の周りをうろついているネズミさんの気配がしてな
ユノア:人気ですね
シヴァン:ああ。有名人さ。君たちのような人種に、知らないやつはいないだろう
ユノア:貴方の話は聞いてません。それで、ネズミとはなんです?
シヴァン:強気なお嬢さんだ。そうだな……あれは確か……ハーディス。君と取引の話をした翌日の、夜だったかな。アジトを襲撃されてね。調べたところ、眼鏡をかけた赤髪のお姉さんが、監視カメラに映っていた。まるでヒーローのごとく、炎のパンチをかましていたのさ
ユノア:っ!
シヴァン:そのような人間は、君たちの中にいなかったかね?
ハーディス:フェルナくらいしか、心当たりがないな
ユノア:そんな……
シヴァン:心配せずとも、アジトはフェイクだ。肝心な情報は、闇の中
ユノア:あなたの心配ではありません。フェルナです
シヴァン:おやおや……
ユノア:……取引の邪魔をするつもりでしょうか
ハーディス:その時は、しかるべき対処をとる
シヴァン:お気遣い助かる
ハーディス:約束は守るさ
シヴァン:明日の正午。場所は第4地区のビル街、その近くに大きな倉庫がある。分かっているな?
ハーディス:ああ
シヴァン:いいビジネスを期待している。ピュラムシティ最強のスキルプレイヤー殿。……では、また明日
0:シヴァンはそう言って通話を切った
ユノア:……フェルナ、嘘だよね?
ハーディス:不安かい?
0:ユノアは悲しそうに自分の服の裾をにぎる
ユノア:「平等な平和社会」という理想の元に、ずっと私たちは一緒でした
ユノア:そのフェルナが裏切るなんて、考えられません。……何かの間違いです
ハーディス:フェルナは、おそらく明日の取引現場に現れる。オズや、他の組織から目を引かれたくはない。予定通り、俺とユノアだけで行動するが、大丈夫か?
ユノア:はい。フェルナは、私が
0:
0:翌日
シヴァン:やはり、やはり
0:シヴァンは、ハーディスと約束した取引場所まで来ていたが、誰もいない
シヴァン:私のビジネスは、すんなり進んだことはない
シヴァン:取引は必ず、血を争う
シヴァン:だが、その血を流した先には……退屈な日常を覆す利益がまっている
シヴァン:そう思わないか? 番犬のケルベス
0:シヴァンは倉庫の入り口にいる人物に声をかけた
ケルベス:おお。分かってたのかよ、来るの
シヴァン:勘は優れていてね。太古の魔法や術が機械化された世界でも、人間に備わっている本能は失われないものさ
ケルベス:その割には色々武装してるじゃないかぁ? 目につけている機械は、オシャレのつもりか?
シヴァン:私のスキルウエポンと連動している。血のビジネスに必要さ
ケルベス:業者が自ら、スキルプレイヤーやってるたぁ……物騒な世の中だぜ
シヴァン:代り映えのない「当たり前」からは、三流のビジネスしか生まれない
シヴァン:自分から飛び込んでいくことで、大きなチャンスを得られる
0:シヴァンはそう言って、目元に手をあてると、起動音がなった
シヴァン:「ヴィシュラード」、神経連結
シヴァン:「サーチアイザー」、発動
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」。神経同調ぉ!
0:シヴァンは両腕が、銃口に変形する
シヴァン:機弾砲銃(きだんほうじゅう)「ヴィシュラード」。神経同調
ケルベス:へぇ! 機械義手か! マジのSFだなぁ、そのウエポン
シヴァン:スキルプレイヤーの強さは、「習熟度」で決まる。
シヴァン:ウエポンを使わず、チップ重視の戦い方も悪くはないが、対策を練られてしまえば打つ手が無くなる……。最後に残るのは、己の技術だ
ケルベス:業者がいう台詞かぁ?
シヴァン:私の人間観察によれば、三流は武器を使わず、チップばかり頼る
0:シヴァンは両腕をケルベスに向けた
ケルベス:っ!
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー4
シヴァン:「ブラッディホーミング」
ケルベス:いきなりミサイルたぁ、気合十分じゃねえか
シヴァン:避ければいいというスキルじゃないさ、これは
0:ミサイルがケルベスを追いかける。ケルベスが避けて、ミサイルは爆発を起こす
ケルベス:っ、なんだこれっ……爆風の中に、針が!?
シヴァン:まともに受けたら、ひとたまりもない痛みがお前を襲うだろう。ただ、何度も使えるスキルではないがね
ケルベス:痛みに鳴いちまう死に方はごめんだなぁ!
シヴァン:無様に鳴きわめく死に方も、悪くないと思うがね
ケルベス:こっちは2度目の人生なんだ。さっぱり生きるって決めてんだなぁ、これが!
シヴァン:……正面に立った? 避(よ)ける気がないのか?
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー4
ケルベス:「ビーストカウンター」
シヴァン:何……?
ケルベス:破るように、はじいておさらばァ!
0:ケルベスはミサイルと勢いよくはじき、シヴァンへ撃ち返す
シヴァン:こちらに返すか……まるで獣のような弾道だ。なれば撃ち落とすのみ
0:シヴァンはもう一度「ブラッディ・ホーミング」を放ち、相殺して爆発させる
シヴァン:煙がわんさか……さて、奴はどこに
ケルベス:見つけたいなら、こっちから牙を向いてやらぁ
シヴァン:何?
0:煙の隙間からケルベスは顔を出す
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー1
ケルベス:「ファングスティンガー」……!
シヴァン:接近が、想定以上に早い……!
ケルベス:おおおうらっしゃあああァァ!!
シヴァン:っ……! 機弾(きだん)スキル ナンバー2
シヴァン:「レーザーキル」!
ケルベス:どおっ!? あっぶねぇ……。今度はレーザーかい……多彩だなぁ!
シヴァン:(サーチアイザーの索敵より早いか……。あの攻撃、ウエポン搭載の基本スキルだと思ったが……少し違うようだ)
ケルベス:ちったぁ焦り顔になってきたじゃないの、業者さんよぉ
シヴァン:いいや。ゾクゾクしているの間違いだ
0:
0:一方、ケルベス達とは離れて、別の所で待機しているフェルナ
フェルナ:予想通り。シヴァンは先に来ていたものの……あいつ1人?
フェルナ:とりあえず、あの変態馬鹿がチップを奪ったらいいけど……
ユノア:誰かと待ち合わせしてるの?
フェルナ:っ……! ユノア……!
ユノア:ずっと帰ってこないから、心配したんだよ?
フェルナ:……あなた1人?
ユノア:ハーディスが、あとから
フェルナ:そう。妨害しに来たってことね?
ユノア:……私は、フェルナとは、戦いたくない
フェルナ:取引を辞めるなら、戻ってもいいわ
ユノア:シヴァンの事は聞いてるよ。でも、それで全部決めつけるのは……
フェルナ:決めつけじゃないわ。フェイクのアジトなんか構えている奴が、怪しくないと思う?
ユノア:だからってハーディスまで疑うの!?
フェルナ:私だって、こんなことしたくないわよ! ……でも、シヴァンの話が出てきた事をきっかけに、目につくようになったのよ……ハーディスの、顔が
ユノア:どんな顔?
フェルナ:何か、私達とは違うものを見ているような……得体のしれない顔
ユノア:それは、フェルナの勘違いで……!
フェルナ:ごめん、ユノア
ユノア:……そう
0:ユノアはスキルウエポンを構えた
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)「サヘラ」、神経同調……
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)「インフェルノ」、神経同調……!
ユノア:お願い……抵抗しないで
フェルナ:あんたは見えていないのよッ! ユノア!
0:フェルナは拳を燃やす
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー1
フェルナ:「エクスプロナックル」!
ユノア:突いた瞬間に、爆風が……やっぱりフェルナはすごいね。でも
フェルナ:っ、来る!
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー2
ユノア:「スピルドサンダー」
フェルナ:っ! がっ……!
ユノア:スピードではこっちが上だよ、フェルナ
フェルナ:全く、とんでもない速さね
ユノア:嫌なら、武器をおさめて…!
フェルナ:おことわりよッ!
0:フェルナはそのまま攻撃を続ける
ユノア:っ。……機閃(きせん)スキル ナンバー3
ユノア:「サイドエレクスラー」
フェルナ:右から……違う、左!?
ユノア:はぁぁっ!
0:ユノアがフェルナに斬りかかる瞬間、フェルナは飛び上がる
ユノア:っ、飛ばれたっ…!
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー3
フェルナ:「メテオバニンガー」
フェルナ:地面ごと、焼き爆(ば)ぜろッ!!
ユノア:っ……!
0:フェルナが地面に炎の拳をめり込ませたが、ユノアに避けられる
フェルナ:避けられる……か!
0:
ハーディス:ユノアはフェルナと。シヴァンも交戦状態。ここまでは想定内だな
シヴァン:聴こえるか、ハーディス
ハーディス:どうした? フェルナの雇ったスキルプレイヤーにでも、苦戦しているのかい?
シヴァン:そこまで読めているなら好都合だ。……今、番犬のケルベスと交戦している
ハーディス:……何?
シヴァン:どうにも思った以上に、お強いみたいでな。合流を提案する
ハーディス:……分かった。第3地区まで来てくれ。廃墟ビルの多い路地の中にひと際大きいタワーがある。それが目印だ
シヴァン:なら、番犬とはしばらく鬼ごっこか。噛まれないように気を付けないとな
0:シヴァンは通話をきる
ハーディス:よりによって、ケルベスと
ハーディス:……やっぱり君は、俺の前に出てくるのか
0:そこに、後ろから野良スキルプレイヤーたちが現れる
ハーディス:ああ、なんだ。モブキャラ君たちか
ハーディス:騒ぎを聞きつけた野次馬? それとも俺を狙いに来た?
ハーディス:悪いけどさ……雑魚は引っ込んでろよ
0:ハーディスはスキルウエポンを握りしめる
ハーディス:機葬冥剣(きそうめいけん)「デスタリア」、神経同調
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー2
ハーディス:「ダストデリート」
0:ハーディスは横に剣を振ると、一瞬で、目然の野良スキルプレイヤーを薙ぎ払った
ハーディス:モブキャラらしく、空気読んで死んどけよ
0:ハーディスは我に返ったと思えば、口角を上げて笑う
ハーディス:……おっと、俺としたことが。ついくだらないことに時間を使ってしまった
ハーディス:じゃあ、合流しようか
0:
フェルナ:はぁ……はぁ
ユノア:……息が荒くなってきたね
フェルナ:誰が…! …っ?
ハーディス:ご苦労だったね、ユノア
ユノア:ハーディス!
フェルナ:……来たわね
ハーディス:あいにく、俺だけじゃない
フェルナ:っ?
0:そこに、シヴァンがやってきて、後ろからケルベスも追ってくる
ケルベス:おい! 待ちやがれ! ……野郎、後ろに目でもついてんのか……? 逃げながらも、正確に撃ってきやがるぜ
シヴァン:ただ、鬼ごっこはここまでさ
ケルベス:って、あいつら……!
シヴァン:提案の受け入れ、助かった。ハーディス
フェルナ:ケルベス…!
ケルベス:成程……変な通話してんなぁと思ったら。みんなでお見合いパーティーか?
ユノア:なぜ、番犬が……?
ケルベス:おお~! 知らない間に、クールな顔つきになったなぁ、ユノア。ただ……おっぱいは、変わらずだが……それがいい
ユノア:ッ……!
ケルベス:ハーディスは……変わらねえな、なんにも
ハーディス:久しぶりだな
ユノア:……ちょっと待って……? フェルナ……どういうこと? なんでケルベスと組んでるの? ……もしかして、こいつに、何かたぶらかされたの?
フェルナ:…えっ?
ケルベス:いやいや、雇われの身だ、俺は
ユノア:違う……違う違う違う! フェルナが、フェルナがそんな事するはずがない……!こんな、ゴミ野郎の、気持ち悪いクソ犬なんかの……!!
フェルナ:ちょっと、ユノア!?
シヴァン:はは。なんだ、言われ放題だな、番犬。そういう立ち位置か?
ケルベス:余裕かましてんじゃねえよ、業者
ユノア:ああ……分かった。やっぱり……そうなのね……はは
ユノア:ハーディス
ハーディス:ん?
ユノア:こいつ、私が殺していい?
ケルベス:おいおい……
ハーディス:まぁ、ユノアに任せ……
ユノア:(かぶせる)あは……あはははははは! いいよ、ケルベス! ぶっ殺してあげる!
ユノア:その身体を割いて、ぐちゃぐちゃにして、生ごみにぶちこんでやるわ!
0:ユノアは笑いながらスキルウエポンを、ケルベスに向ける
ユノア:こんな淫(みだ)らなクソ番犬は、徹底的にしつけしなくちゃ! そして、フェルナを、フェルナをウェアズハードに戻すのよ……! あは、あはは……!
ケルベス:どういう解釈だ、バァカ! めちゃくちゃ過ぎるんだよ!
シヴァン:今度はお前が逃げる番のようだな。せいぜい生き抜けよ、番犬
ケルベス:くそったれが……! お胸とそのこわーい所は変わってねぇなぁ、ユノア!
ユノア:ほら! 黙ってお座りしなよ、ケルベス……!
ユノア:フェルナをたぶらかしたこと、たくさん後悔させてあげるから……!
0:ユノアとケルベスは交戦をはじめた
シヴァン:面白い女だな、あれは。エンタメ性がある
ハーディス:昔から変わらないさ、ケルベスに対しては
フェルナ:仲良く話しているけど……まだ何にも終わってないわよ?
ハーディス:戻る気はないのかい?
フェルナ:シヴァンと一緒にいる時点でありえない
シヴァン:これはこれは、嫌われたものだ
フェルナ:まともな業者じゃないのよ、そいつは!
ハーディス:いつもの業者ばかり選んでいても、仕方がない。そう思っただけだよ
フェルナ:それでも……やっぱり変よ
ハーディス:何が?
フェルナ:貴方の目よ
ハーディス:病気にかかったことはないな
フェルナ:違う。貴方は、何か違うものを……もっと恐ろしいものを見ているような気がして……
ハーディス:恐ろしいとは、君にとってかい?
フェルナ:お願い……シヴァンから手を引いて
ハーディス:……ユノアとまではいかないが、君の思い込みもたいがいだな、フェルナ
シヴァン:せっかくの可愛い部下だが……どうする? 始末するか?
フェルナ:やれるものなら、やってみなさいよ……!
0:フェルナは拳から炎を放出し、シヴァンに向ける
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー4
フェルナ:「フレイムストレート」!
シヴァン:炎の弾……か。撃ち合い合戦なら、立ち合おう
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー5
シヴァン:「ガトリングヘイト」
フェルナ:くっ……ガンガン弾を撃ってくるじゃないの……!
シヴァン:遠距離を舐めないほうがいい
フェルナ:なら……距離なんてどうでもよくなるくらい、でかい一発ブチこんでやるわよ
0:フェルナは右こぶしを強く握り、シヴァンに対して、ストレートをぶちかますような構えを取る
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)インフェルノ……神経拡張
シヴァン:これは……?
フェルナ:フレイムストレート レベルアップ!
フェルナ:……はぁぁぁっ!!
0:
シヴァン:神経拡張……スキルの底上げで、この大きさとは……
フェルナ:ありったけのブチ切れ炎……その身にしかと、受けやがれ……!
フェルナ:「フレイムストレーザー」!
フェルナ:うっらああああああああああああああああああ!
0:フェルナの炎が、巨大なレーザーのようにシヴァン達へと襲い掛かる
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー4
ハーディス:「ホロウ・デスサイカ」
フェルナ:まさか、吸われてる?!
ハーディス:では、こちらも
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー5
ハーディス:「ナイト・ヴォルケイノ」
フェルナ:ぐっ! ふざけた攻撃ね、全く……
ハーディス:ただ、君の炎は、少し熱かったよ
0:ハーディスはいつの間にか、フェルナの喉元に剣を突立てていた
フェルナ:っ……くそ
ハーディス:抵抗するかい?
フェルナ:動けば……喉元をかっきるって?
ハーディス:実力差が分からないほど、馬鹿じゃないだろう
フェルナ:分かってるわよ……。でも、理想の前なら馬鹿にもなるわ
フェルナ:「平等な平和社会」を築くのが、ウェアズハードの理想……あんたはそれを捻じ曲げようとしている
シヴァン:ご立派な理想だな
フェルナ:こいつの持っているチップは信用できない!
0:フェルナはハーディスをまっすぐ見据える
フェルナ:あなたは、境界線を超えようとしてるのよ、ハーディス! もう、戻れなくなってもいいの!?
ハーディス:とっくに超えているさ
フェルナ:……えっ?
ハーディス:機葬(きそう)の名において発動す
ハーディス:「キネシストッパー」
フェルナ:っ、……ハーディスのウエポン技じゃない……これは、チップ技……! 体が、動かない……!
ハーディス:一定時間、体を縛る拘束魔法がモデルになってる。しばらくそのままで居てくれ
シヴァン:取引を再開してもいいか?
ハーディス:ああ
シヴァン:邪魔者は抑えられている
シヴァン:あとはこの手で……チップを、ゆっくりと渡すだけだ
0:シヴァンはチップを取り出し、ハーディスへ差し出す
シヴァン:お代はもらっているから、気になさらず
フェルナ:……ぐっ…
シヴァン:無理に動くなよ、お嬢さん
ハーディス:これか……。……クク
0:
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー5
ユノア:「ライトブリンガー」……!
ケルベス:なんだなんだぁ。殺意満々じゃねえかい
ユノア:うるさい、うるさい!
ケルベス:久しぶりに会ったってのによぉ、今はどうだ? どんなパンツはいてんだ? んん?
ユノア:その汚い吠え面、黙らせてやるよ! ほら! 死ね、死ね、死ね!
ケルベス:ぐっ……えっぐい攻撃だなぁ
ユノア:またお前は……フェルナのことをいじめたんだ!!
ケルベス:……ったくよぉ
ユノア:私とフェルナの間に、いつも割り込んできて、「スキルの腕前はまだまだだな」って生意気そうに言ってくる。そのたびに、フェルナが嫌がっている顔を見たのよ……!
ケルベス:勝手な思い込みだろぉ! お前がフェルナをどう思ってるかくらい、わかってる! だから、聞く耳ってのをだなぁ……
ユノア:(さえぎる)お前みたいなクソ犬が……ウェアズハードに……私とフェルナの間にっ……勝手に入ってくるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ケルベス:いっちょ前に吠えてんじゃねえぞォ!
ユノア:っ!
ケルベス:フェルナが居なくなっちまうのが、そんな怖いかぁ!?
ユノア:お前になにがわかる!!
ケルベス:あれからちったぁ成長したんならよぉ……パンツの1つや2つ、堂々と見せてみろやァ!
ユノア:うるさいっ!
0:ユノアは、サヘラを力強く握って構える
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)サヘラ、神経拡張ッ……!
ユノア:サイドエレクスラー レベルアップ!
ケルベス:こいつは……?
ユノア:狂影(きょうえい)の電気。その身に刺されて、逝(ゆ)き詫びろ
ユノア:「シャドウ エレクスライザー」
ユノア:はぁぁぁぁぁっ!!!
ケルベス:電気の分身を絡めて、連続移動攻撃……っ!確かに、成長してやがる……!
ユノア:大人しく、きざまれろぉぉぉッッ!
ケルベス:だが! そんな嫉妬だらけの戦い方じゃ、番犬は黙らせられねえ……!
ケルベス:獣機変形(じゅうきへんけい)。ケルベロス、ロッドスタイル!
ユノア:……形をっ……変えた……っ!
0:ケルベスは、武器を剣からロッドへと変形させる
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー6
ケルベス:「クロウ・ロッディング」……!
ユノア:ッ……! 乱暴な振り方なのに……この正確さは何……ッ!?
ケルベス:おおおうらっしゃあああァァ!!
ユノア:ぐっ…ぁぁぁぁああっ!
0:ケルベスの攻撃で、ユノアは吹き飛ばされ、壁に激突する
ケルベス:ちったぁ体に応えたぜ、お前のビリビリ
ユノア:……
ケルベス:はぁ……。自分でも、分かってんだろ?
ユノア:……信じたくなかった……フェルナがハーディスを疑ってるのを……そのハーディスが、何か、悪いことをしようとしているかも、しれないのも……それを信じたくなくて……っ
ケルベス:フェルナやハーディスがいなくなれば、今まで大好きだったウェアズハードが崩れちまう。それを認めたくねぇ。ならいっそのこと、自分が嫌いな番犬のせいにしちまいたかった。その気持ちはよーく、お前の攻撃から伝わってきたぜ
ケルベス:でも、悪いが現実だ
0:その時、轟音が響いた
ユノア:ッ!………この音は?
ケルベス:ほれ……あいつ、やっぱりな
0:
ハーディス:……スキルチップ。認識完了
ハーディス:ウエポン、連動開始。
フェルナ:……やらせる、わけにはっ!
シヴァン:魔法がきれたかな? でも、動かない方がいい。自慢の胸に穴が開いてしまう
0:ハーディスの剣からおびただしい黒色のオーラが溢れ始める
ユノア:あれは…?
シヴァン:ほう……恐ろしいな……! ここまでの出力を叩きだすか…。やはり、最強のスキルプレイヤー。……楽しませてくれる!
ユノア:ハー、ディス?
ハーディス:この俺こそが……最強であり……全て
ハーディス:俺を妨げるものは、邪魔するものは、誰も居なくなる
ハーディス:はは、せっかくだ……この辺り一帯を飲みこむ力、見せてやろう
フェルナ:なっ…!?
0:
ハーディス:機葬(きそう)の名において発動す
ハーディス:「既製の死。闇の夜明け、光の滅び。その名は万物(ばんぶつ)の理(ことわり)に返されんことを」
ハーディス:「終焉の闇景色(やみげしき)」
ハーディス:『死転世界(してんせかい)オールデスコンフェクション』
0:
フェルナ:っ、なに、この音!? ハーディスの剣が、どんどん光って……??
ハーディス:不必要はものは、虚無ヘ去るのみ……
ケルベス:物騒極まりねぇなぁ、ハーディス
0:ハーディスの剣を、ケルベスが止めた
ハーディス:……ケルベス……ッ!
シヴァン:ほう、発動を止めたか
ケルベス:ユノアも、周りの見えないキュートガールだがよぉ。お前はもっと見えてねぇよ
ケルベス:……「タクト」
ハーディス:…っ!!
0:ハーディスは目を見開き、ケルベスに喰ってかかるように、剣を振った
0:互いの武器が競り合う
ハーディス:その名で俺を呼ぶな……!
ケルベス:なにやってんだ、お前はよぉ……
ハーディス:ピュラムシティは、俺にとっての世界だ
ハーディス:この体と、「与えられた設定」が、何よりの証拠なんだよ
ハーディス:それは君もわかるだろう……ケルベス!
ケルベス:……フェルナのバイトで来たつもりだったが、気が変わった
ケルベス:やっぱり放っておけねえよ
0:
0:
0:
0:別の世界
0:とある日本の高校。教室内にて
ソウイチ:また書いてんのか? それ
タクト:領域に入ってくるな
ソウイチ:いやいや、領域って
タクト:何の用だよ
ソウイチ:暇なんだよ
タクト:どうせ馬鹿にするんだろ?
ソウイチ:いやぁ? 意外と興味あってよ。これでもゲームするほうだぜ?
タクト:ゲームと一緒にするな。それに……あの不良連中と一緒にいるじゃないか、君は
ソウイチ:あいつらとは、もう絡んでねぇ
タクト:……何?
ソウイチ:やりすぎてる輩とは、ダチになれねえんだよ
ソウイチ:……でも、途端に虚しくなるもんだなぁ。ダチがいねえと
タクト:なら……せっかくだ
ソウイチ:ん?
タクト:俺の配下にしてあげよう
ソウイチ:おいおい……ダチじゃなくて配下かよ、すげぇな
タクト:友達なんか、いらないよ
0:タクトの悲しそうな表情が、ソウイチの目にうつる
ソウイチ:……
タクト:それで。なるのか? ならないのか?
ソウイチ:ほ、ほんとにガチなんだな……
タクト:ならないなら、領域から去れ
ソウイチ:はいはい、去らねぇよ。で……配下ってのは……誰の?
タクト:「ハーディス」だ
ソウイチ:いや誰だよ!?
タクト:俺だよ。俺の名前
ソウイチ:……お、おおう
タクト:お前はウェアズハードの一員だ
ソウイチ:う、うぇあ?
タクト:俺が作ったギルドだ
ソウイチ:は、はぁ……。やっべ、ついていけるか……これ?
タクト:お前の名前、自分でつけてみろよ
ソウイチ:え? …そうだな……。じゃ、ケルベスで
タクト:……へ、へぇ
ソウイチ:あ、ちょっと良いって思ったろ?
タクト:違う
ソウイチ:怒るなって、ハーディス様
タクト:んん……配下と言えど、様呼びは、あんまり好きじゃないな
ソウイチ:じゃあ、ハーディス……ぐ……うう、きっついぜこれよぉ!! 無理だ、無理
タクト:何が?
ソウイチ:いやいや、何歳だって話よ。もう高校生だぜ俺ら……? 顔から火が出て、焼け死ぬぜ、こんなの
タクト:……そうだよ
ソウイチ:あ……すまん。そうすねるなって
タクト:別にいいよ。慣れてるし
0:タクトはため息をつく
タクト:いくらこうやって、架空の設定で呼びあっても、超能力は無いし、魔法もない。ファンタジーの世界は存在しない。そんなこと分かってる
タクト:でも、それじゃあまりにもさ……嫌じゃないか
0:タクトは、学校の教室から、窓の外を眺める
タクト:もし行けるなら、自分の事を知らない世界がいい。そうしたら、そこでヒーローになって、仲間を作って……そうしたら、俺は……どうするんだろうな
ソウイチ:いや、どうするって……そりゃ、生きるんだろ、そこでも
0:
0:2週間後、放課後、学校の屋上
ソウイチ:タクト!!
0:ソウイチが屋上に来ると、不良たちがタクトに暴行を加えていた
ソウイチ:お前ら、ふざけやがって……! タクトは関係ねえだろうが!!
タクト:…っ、くそ……くそ……! こんな……こんな奴らに……
ソウイチ:この野郎おおお…っ!!
0:
0:夕方。帰り道
タクト:……っ
ソウイチ:大丈夫か…? あいつら、ボコスカやりやがって……
タクト:ほら……結局これだよ
ソウイチ:っ?
タクト:どんなに架空の設定であろうとしても、それに見合うように努力をしても……こんな虚弱体質だ。生まれ持った宿命には抗えない。だから、勝ち目なんてない。暴力で馬鹿にされるだけ
ソウイチ:……すまねえ。まさかあいつらが、腹いせに目ぇつけてると思ってなくてよ
ソウイチ:明日から、お前と話さない。じゃないと、またやられちまう
ソウイチ:……せっかく、ダチになれそうだったけど
タクト:こうやって邪魔されるんだよ、何かに、いつも……
ソウイチ:……ごめん
タクト:……あぁ、くそ
タクト:俺の邪魔をする全てを、全部、全部壊すことが……出来たらな……
0:しばらく、二人の間で沈黙が続く
ソウイチ:…っ、なんだ? 光?
タクト:…あれは、トラック?
ソウイチ:…おい待て、なんだあのスピード……! 駄目だ! 間にあわ……
0:
0:
研究員:試作型のスキルウエポンでこの性能とは、今までにないデータだ…
研究員:ケルベスも確かに優秀だが、ハーディスは凄まじい…
研究員:古代にあったゲートの跡地。その近くに居たという青年二人。スキルプレイヤーを気取ったガキが、立ち入り禁止区域に入っただけかと思っていたが……とんだ収穫だな
研究員:よし、テストはここまでだ。二人を開放してやれ
0:
ケルベス:終わったか?
ハーディス:ああ
ケルベス:……いいか、タクト。もっかい整理すっぞ?
ケルベス:俺達は、トラックに引かれたと思ったら、いつの間にか、この世界に来ていた。……ここまでは?
ハーディス:……ああ
ケルベス:で、次が……オズの警備部隊?ってやつらに見つかったあと、ここに連れていかれた。んで、武器を持たされて、なんか、よくわかんねぇ実験ばっかり……スキルがどうたらこうたらってさぁ……もう、頭割れそうだぜ
ハーディス:体の構造自体は、大きく変わってはいないな
ケルベス:なんて冷静な奴……
ハーディス:この世界に適応したのかもしれない。虚弱体質だったのに……まるで、別人のような体だ
ケルベス:これさぁ、いわゆる異世界転生ってやつだよな? ひぇー、ガチかよ。……でも、ファンタジー世界ってわけじゃねえよな? なんか、未来っていうか
ハーディス:ファンタジーの世界が土台にあるものの……それが衰退して、魔法や術が「スキル」として管理される世界……あの研究員の発言から察するに、そういう世界かな、と
ケルベス:お前、飲みこみ早いな……流石だぜ
ハーディス:ここでは、魔法や術を使う人間を、「スキルプレイヤー」と呼ぶらしい
ケルベス:プレイヤー、ねぇ……ゲームみてぇな話だ。……そういえば、あいつら俺達の事を「特殊適合体」とか言ってたな
ハーディス:それを管理しているのは、オズという団体……研究員の話を聞く限り、ここを管理している組織だろう
ケルベス:あー、わけわかんね……。でも、そう……名前だ、名前
ハーディス:被検体No1「ハーディス」、被検体No2「ケルベス」
ケルベス:こりゃ偶然か? それとも女神様が、第二の人生を与えてくれたか!?
ハーディス:あぁ……そうだな。第二の人生だ
ハーディス:……はは
ケルベス:……タクト?
ハーディス:じゃあ、本当に。俺である必要がない……タクトが居ない世界へ来たんだな
ケルベス:っ……?
ハーディス:……決めた。研究所から脱走する。みすみすこんな力を手に入れたんだ。奴らの実験に付き合っても、ロクなことはない。……そして、脱走した後は、俺達と同じ、スキルプレイヤーを集めた団体を作る……!
ハーディス:始めるんだ……第二の人生を……!
0:
0:数ヶ月後。ある孤児院にて
フェルナ:っ……
ハーディス:怪我はないかい?
ユノア:怖いよ、フェルナ
フェルナ:あんた、誰?
ハーディス:ハーディスだ。君たちを怖がらせていた悪者は、全員追い払ったよ
ケルベス:おーい!ハーディス! そっちはどうだ!? こっちは全員、無事だぜ~!
フェルナ:……
ハーディス:大丈夫だ。さぁ、手をとって、君も
ユノア:…ぁ
0:
フェルナ:はぁっ!
ハーディス:良い動きだ。二人とも
ユノア:っ……てやぁ!
ハーディス:成長が早いな。この調子なら、ウェアズハードを任せられるくらいには、大きくなりそうだ
ユノア:ハーディス、いなくなるの?
ハーディス:そういう意味じゃないさ。……期待してるってことだよ
ユノア:……良かった
ケルベス:おお~。早速やってるな、ハーディス
フェルナ:あ
ケルベス:ん?
フェルナ:近づくな変態
ケルベス:お……おいおい。ちょっとパンツの色をさぁ、知ったくらいじゃねえかよぉ
ハーディス:それは犯罪だな
ケルベス:いやいや! 俺はな? フェルナの落としたメガネをこっそり持っていこうとだな……
ユノア:フェルナ? ……ケルベスにひどいことをされたの?
フェルナ:風呂入ってる時、更衣室を覗きに来た
ケルベス:覗きに来たってなんだよ! ……まぁ確かに、気にはなったけどぉ……
フェルナ:ここで成敗!!
ユノア:許せない
ケルベス:おい、落ち着け!
ハーディス:はは
ケルベス:はぁ……。第二の人生っつっても、ハーレム補正くらい欲しかったなぁ……
ハーディス:残念だったな
ユノア:第二の、人生?
ケルベス:俺とこいつにしか分からない、ただのジョークだ。気にすんな
ハーディス:よし。もう少し続けよう。ケルベスは?
ケルベス:俺はいいよ。このまま観戦する
ユノア:変なところ見たら許さないから
ケルベス:しねぇよバァカ!
0:
0:それから1年後。
ハーディス:……アジトにいる雑魚共は……これで全員か……
ケルベス:……なぁ、ハーディス。やりすぎじゃねえか?
ハーディス:どこが?
ハーディス:こいつらはつい先週まで、ウェアズハードの前に押し入ってきた野良共だよ。害のある組織と、繋がっている可能性もある
ケルベス:でもここまでやるか…!? 最初の攻撃で十分だったろ!
ハーディス:せっかくの異世界ライフなんだからさ、楽しまないと
ケルベス:そういう問題じゃねえ! ……これじゃ、駄目だ
ケルベス:このやり方じゃ、きっと、人望をなくしちまう……
ハーディス:……なんだと?
ケルベス:今はまだ、フェルナ達も分かんねえだろうけどよ……あいつらも成長すりゃ……まぁユノアはちったぁ心配だが、フェルナは疑り深い
ハーディス:彼女たちには優しくするよ。ウェアズハードの皆も
ハーディス:でもウジ虫は、どこまでいってもウジ虫だ
ハーディス:邪魔な奴を消して、英雄になれる力があるのに……使わない神話があるか?
ケルベス:お前……
ハーディス:もういい。君は出ていってくれ
ケルベス:……っ。あぁ、分かったよ
ケルベス:……変わっちまったな、タクト
ハーディス:俺は「ハーディス」だ。その名前で呼ぶのは、辞めてくれないか?
ケルベス:……そうかよ
0:
0:現在
ケルベス:丸ごと壊しちまおうとするなんざ、やりすぎだぜ
ハーディス:大丈夫さ。ウェアズハードの皆は巻き込まないよ
ケルベス:だからな……違うぜ。あの頃から変わってねぇ。全部はき違えてる
ハーディス:何を間違えたっていうんだ? 君にわかるのか?
ケルベス:……まず、フェルナが離れようとした。ウェアズハードから
ケルベス:それとユノアだ。あいつは、フェルナが逃げたことで揺らいでいた。それはフェルナに対しての信頼だけじゃない。……お前にもだ。
ハーディス:それで?
ケルベス:ここから言えるのは、お前にはもういるんだよ。ダチ以上の……「平等な平和社会」を信じている仲間が
ハーディス:掲げた理想は本物だよ。だから消すんじゃないか
ケルベス:……お前な
ハーディス:虚弱体質の俺は死んだ。これからは、意のままに現実を変えられる
ケルベス:境界線を超えるな、ハーディス!
ハーディス:だから、とっくに超えてるんだよ!
0:ハーディスが叫び、一瞬しずまる
ハーディス:この世界に来た時から……俺の設定が現実になった時から、決まっていたんだ
ケルベス:いいか? お前が見ている世界はほんの一部だけだ。ピュラムシティはこの現実にある。フェルナやユノアは、お前の中に出てくる登場人物じゃねえ。生きている人間で、仲間だ
ケルベス:こんなに仲間がいるのによぉ、お前は破壊ばっかり望んでいやがる。もっと違うものに、目を向けていいんじゃないか?
ハーディス:邪魔なんだよ。どいつもこいつも
ハーディス:モブキャラ共は、いつも俺の世界で吠えて、噛みつこうとしてくる……
0:ハーディスはゆっくり、機葬冥剣「デスタリア」を構えた
ハーディス:ケルベス。君も、噛みついてくるのか?
ケルベス:……ハーディス
ハーディス:牙を向くつもりなら、ここで消えてくれよ。モブキャラ
0:ケルベスは機刑剣棒を構える
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」、神経同調ぉ……!
ハーディス:機葬冥剣(きそうめいけん)「デスタリア」、神経同調
0:
ユノア:ハーディスは……やっぱり、裏切ってたんだ
フェルナ:ユノア、しっかりしなさい!
ユノア:……ごめん。私、フェルナの事、信じてなかった
フェルナ:ううん。無理もないわ、気にしてないから大丈夫
ユノア:……今までハーディスが見せた笑顔は、全部嘘だったの……?
フェルナ:……分からないわ
フェルナ:でも、皆は本気で信じていた……その日々は本物よ
フェルナ:真意を確かめたかったら……あのイケすかないシヴァンを倒した後に、あいつの……ハーディスの顔をぶん殴って、直接問いただせばいいのよ。ふざけんな!ってさ
フェルナ:だから、そんなに泣きそう顔しないで、ユノア
ユノア:……ごめん、ごめんなさい
0:そこに、パチパチと拍手が聴こえた
シヴァン:お涙をありがとう。このお話はいくらかな?
フェルナ:っ、シヴァン……
シヴァン:でもあいにく、理解が出来なくてね。品物は願い下げだ
フェルナ:あんたに買わせるものなんてないわよ。犬の糞でも喰ってなさいな
シヴァン:使いようによれば、糞は肥料になる。君たちの感動シーンよりは、微々たるものだが、利益はでるだろう
ユノア:……ハーディスは、止める
シヴァン:おやおや。勇気を振り絞って、寝返ると
ユノア:元より、誰の味方でもないでしょ?
シヴァン:ああ、味方は要らない。利益が生じるか、それが全てだ
0:シヴァンは怪しくも楽しげに笑う
シヴァン:ビジネスの種になれば、仲良くなるだろうし、途中で意味がないと判断すれば、縁を切り、邪魔なら殺す
シヴァン:信用と信頼、信じるか裏切るか、その表面的な駆け引きが発生するのは、ビジネスならの醍醐味だ
フェルナ:あっそ。哀れな考え方ね
シヴァン:至極、楽しくて仕方がないよ
0:シヴァンは腕の銃口をフェルナたちに向ける
シヴァン:機弾銃砲(きだんじゅうほう)、「ヴィシュラード」神経同調
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)、「インフェルノ」神経同調ッ!
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)、「サヘラ」神経同調……!
シヴァン:彼はいい客だ。妨害はさせない……
シヴァン:機弾の名において発動す
シヴァン:「白き壁。浄化の気。その名は万物の理に返されんことを」
シヴァン:「ホワイトスクエア」
ユノア:っ、……これは? 白い壁?
フェルナ:閉じ込めるなんて、嫌でも行かせない気ね……!
シヴァン:いいや。プレゼントをしたいと思ってね
0:シヴァンは両腕を構えると、様々な銃口や砲口が連なった形に変形する
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー6
シヴァン:「ランページ・シューティング」
シヴァン:さぁ、ありったけの銃弾だ。死の口座へ振り込んでやろう
フェルナ:なんてっ、弾の数……!
シヴァン:そう。細工もされていない普通の弾やミサイルだ……跳ね返る事をのぞいてな……!
ユノア:……これは……弾が、壁に反射して!?
シヴァン:はははは……乱れたダンスの始まりだ
ユノア:フェルナ! 大丈夫!?
フェルナ:ええ! こんなもの、全部燃やし切ってやるわ!
シヴァン:ビジネスは尽きない
シヴァン:人は利用できる。どんな過去をおくろうが、どんな感情を持とうが。取引相手として成立すれば問題ない
フェルナ:都合が良すぎて反吐がでるね! それは!
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー7
フェルナ:「空炎 旋回蹴(くうえん せんかいしゅう)」!
フェルナ:たぁぁぁ!
シヴァン:っ……空中からの回し蹴り……乱暴なアクションだ
0:シヴァンは咄嗟に、フェルナの方向に手を向ける
シヴァン:機弾の名において発動す
シヴァン:「ホワイトフィールド」
フェルナ:防がれた……けど! っ今よ! ユノア!
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー8
ユノア:「雷花一閃(らいかいっせん)」!
シヴァン:っ……邪魔くさい……!
ユノア:閃光の中へ、突き穿(うが)つ!
シヴァン:お熱い展開など、金にもならんよ……!
0:シヴァンはホワイトフィールドで無理やり弾き飛ばし、二人に両腕を向ける
ユノア:っ、あいつの銃口に光が溜まっていく……?
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー7
シヴァン:「リアマジック・キャノン」
シヴァン:お前達の赤字ライフは、ここで幕締めだ……!
フェルナ:ユノア! やるわよ!
ユノア:ええ!
フェルナ:機炎(きえん)スキル コネクト!
ユノア:機閃(きせん)スキル コネクト…!
シヴァン:っ…? スキル連携だと?
フェルナ:炎(えん)の拳(こぶし)と、雷(らい)の刀(かたな)
ユノア:斬(ざん)を刻んで、撃(げき)を打つ!
フェルナ:「バニシング…
ユノア:サンダスター」!
シヴァン:くそ…がッ…!
0:
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー 2
ハーディス:「ダストデリート」!
ケルベス:ちっ……でっけぇ薙ぎ払い攻撃……やっぱり強いな…
ハーディス:あの時。オズの研究員は、君より俺のほうが上だと言っていた
ハーディス:つまり、この世界ではまごうことなく、俺が主人公なのさ……!
ケルベス:あぁ、そうだな……! 最強になれて、周りに女の子がたくさん居てチヤホヤされてんだ……。夢が叶ってんのによぉ……!
ハーディス:耳障りなウジ虫が、ずっと湧いてくるんだよ……だからやるのさ
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー8
ハーディス:「惨死滅殺(ざんしめっさつ)」
ハーディス:惨めな死を、体に殺し受けろ
ケルベス:くそ……っ。一つ一つが正確なうえに、武器で受けりゃとんでもねぇ圧力ときた……! 一発ミスったらあの世行きだぜ……!
ハーディス:頼むから、脇役は黙ってくれよ……!
ケルベス:いいや、まだ吠え足りねぇもんでなぁ……!
0:ケルベスが距離を取る
ケルベス:機刑(きけい)の名において発動す
ハーディス:…スキルチップ?
ケルベス:「遠吠えの殺(さつ)。噛み砕く愉悦(ゆえつ)。その名は、万物の理に返されんことを」
ケルベス:「バーサーク・ドッグス」……!
0:ケルベスの周りの空気がゆがんだと思えば、彼の周りに灰色のオーラが生まれる。やがて形を成し、牙の鋭い獣のような外観になり、彼を包む
ケルベス:……噛み合い上等……狂犬の牙と張り合ってみろやぁ……。タクトぉぉ!
ハーディス:……っ!
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー1
ケルベス:「ファングスティンガー」!
ハーディス:まともに撃ち合えない……なんだこの、激しい攻撃は……! 変形させながら、これが維持できるのか……!
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー7
ケルベス:「クロウ・ロッディング」!
ハーディス:……機葬(きそう)スキル ナンバー7
ハーディス:「ダーキングショック」!
ケルベス:く…っ……なんつー衝撃波だっ……! 近づけねぇ
ハーディス:そこで、大人しく見ていろ……
ハーディス:……機葬(きそう)の名において発動す
ケルベス:っ!
ハーディス:既製の死。闇の夜明け。光の滅び。その名は万物の理に返されんことを。
ハーディス:終焉の闇景色(やみげしき)。
ハーディス:死転世界(してんせかい)「オールデスコンフェクション」
0:ハーディスの剣からどんどんと闇があふれる
ハーディス:邪(よこしま)なる魔共を、全て喰らい、覆してやる……!
ケルベス:やっぱそう来るかい……だったら、最後まで吠えきってやらぁ
ハーディス:本気で噛みついてくるか? ケルベス!
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー8
ケルベス:「鋼破 爪鳴牙(こうは そうめいが)」
ケルベス:鋼(はがね)を裂いて、噛み吠える……!
ハーディス:舐めるなよ、番犬ごときがあああああああああああああああ!!
ケルベス:おおおうらっシャあああアアアアアアアアアアアア!!!
0:
シヴァン:……っ。流石、ハーディスの部下だ……一筋縄ではいかない
フェルナ:ここまでよ
シヴァン:退職する予定は無くてね……これでもまだ、若い方でな
フェルナ:っ!? 何をする気!?
シヴァン:また再会をしたときは、是非ともチップのご検討。宜しく
0:シヴァンが消えたと同時に、白い壁が崩れ去った
0:
ケルベス:っ、はぁ…はぁ
ハーディス:……そんなチップがあるとは
ケルベス:とっておきはぁ、最後に残しておくもんだぜ?
シヴァン:面白いチップを持っているな、番犬
0:突然、シヴァンはハーディスの後ろに現れる
ケルベス:シヴァン!? いつの間に!?
シヴァン:スキルチップの力さ。驚く事ではない
ハーディス:っ、なんのつもりだ?
シヴァン:別のプランだ
0:シヴァンは手をかざして、スキルを発動する
シヴァン:機弾(きだん)の名において発動す
シヴァン:「ディサーピア」
0:
ケルベス:消えた…か。瞬間移動系のスキルチップまで詰んでやがったとは、ここまで想定してたか?
フェルナ:逃がした、わね
ケルベス:よう
フェルナ:突然消えたと思ったら、いつの間にかハーディスの傍にいて……結局チップは奪えないままね
ケルベス:いや……おそらくチップは使い物にならなくなってる
フェルナ:えっ?
ケルベス:あいつと最後にぶつかった時……チップが割れるような音が聞こえた、その後、急に発動が収まってたから……おそらく壊れたんじゃねえかと思う。まぁ、それもシヴァンが分かっていたのかどうかまでは、憶測だけどな……
ユノア:……終わったのね
ケルベス:おぉ? 今度はさっぱりしてんな
ユノア:うるさい。黙らなかったら、その舌ちぎる
ユノア:……なんで、ケルベスと協力を? フェルナはこの変態に、不真面目なクソ番犬に、破廉恥なこと、されてるよね?
ケルベス:いやめちゃくちゃ言うな
フェルナ:別に、本気でヤバいことをしたわけじゃないわ
フェルナ:ただ変態なのは合ってるけど
ケルベス:そりゃ良かった
ユノア:だから黙って
フェルナ:ユノア。ケルベスの実力を、知らないわけじゃないでしょ
ユノア:……
フェルナ:もしもハーディスが一線を超えるような事態が起こった時、ケルベスの顔が浮かんだ、それだけのことよ。……本当は、ハーディスを説得したかったんだけどね
ユノア:……許せない。ハーディスは本当に裏切った
0:ユノアから嗚咽が漏れる
フェルナ:ユノア……
ユノア:……じゃあ……あの時の、助けてくれた笑顔は、なんだったの……
ケルベス:本物だと思うぜ
ユノア:っ?
ケルベス:孤児院でお前ら助けた時。ハーディスはマジだった
ケルベス:……ダチだから、分かる
ユノア:あなたなんかに…何が
ケルベス:はいはい残念、俺のほうが物理的に、付き合いが長いんだわ
ユノア:……む
ケルベス:……あいつもきっと欲しがってんだよ。自分の周りに、仲間を。ようは寂しがり屋だ
ケルベス:それに、もしあいつが「ただの道具」って思ってんなら、今頃みんな、ばっさり斬られてるぜ
ユノア:……そうなの、かな
ケルベス:俺はそう思うけどな。だから、ワンワン鳴いちまうのは早い
ユノア:……むかつく
ケルベス:ははっ、それでいいんだよ、お前は
フェルナ:ありがとう、ケルベス
ケルベス:なんだよ、急に
フェルナ:いえ、今はちゃんと、本音で
ケルベス:なら、報酬をもらおうか
フェルナ:いくら?
ケルベス:お前のパンツ一丁
フェルナ:殺す
ケルベス:だぁーっはっはっはっは!
ユノア:フェルナ。やっぱりこいつ、殺していい? 居てもたってもいられなくなってきた……ねぇ、どうせなら一緒にケルベス殺そ? ぐちゃぐちゃにしよ?
ケルベス:お、おい! ウエポン出すな! 馬鹿! 馬鹿チン! 改心したんじゃねえのかお前はぁ!
フェルナ:だ、大丈夫よ! ユノア!、あとであんたの分までぶっ飛ばしとくから!
ユノア:……フェルナがそういうなら
ケルベス:はぁ……。まいいや
ケルベス:報酬は、なしでいい
フェルナ:えっ?
ケルベス:そんかわり、フェルナ、ウェアズハードに残ってくれ
ケルベス:あとユノアも、今まで通り活動を続けてほしいんだ
ユノア:……どういうこと?
ケルベス:「平等な平和社会」って理想がある団体なんざ、ピュラムシティじゃ珍しい。だからその活動は、日の目を見るまで、続けてくれ
ケルベス:あと……ハーディスが帰ってこれる場所が、あったほうがいい
フェルナ:あんたはこれからどうするの?
ケルベス:俺? 俺はまぁ、あいつを説得するかなぁ。やることがねぇし
フェルナ:別に、協力してやってもいいわよ? その吠え面にめんじて
ケルベス:おー、いうねぇ、じゃあお胸とパンツを見してくれたら……
ユノア:あはははは……! やっぱり今ここで殺してあげる! ケルベス~!
ケルベス:嘘だって! 辞めろーー!!!
0:
0:
ハーディス:……助けてどうするつもりだよ?
シヴァン:言ったじゃないか、いいビジネス相手だって
ハーディス:……でも、取引は失敗。チップも粉々だ
シヴァン:自暴自棄になるなよ、最強のスキルプレイヤー
0:シヴァンはポンと、ハーディスの肩をたたいた
シヴァン:お前は才能がある。私の見立てでは、ケルベスよりも、ずっと遥かに
ハーディス:都合がいいだけだろ
シヴァン:はははは、まぁそれもある。ただ、お前が見せてくれたチップの高出力……模倣品だというのに、あのような結果が出るとは思わなくてな
ハーディス:……何?
シヴァン:「死転世界(してんせかい)オールデスコンフェクション」……オリジナル品は易々と手に入らないものだ。お前が使っていたのは、それを再現したチップだ。本物の威力は……比べ物にならないと聞く
ハーディス:俺で試していたのか。……なぜそんなことを?
シヴァン:分かっていると思うが、私が売っているスキルチップは、正規のものじゃない。今回のもそうだ。一般のスキルプレイヤーだとあまりに扱えず、スキルが発動しないか、発動をするがウエポンが壊れてしまうか……その人「自身」が壊れるか
シヴァン:しかし、お前にはそんなことが無かった
ハーディス:だから、何がいいたい?
シヴァン:もしお前が、正規じゃないスキルチップを極めた……最強のスキルプレイヤーになったとしたら……。そう考えると好奇心が湧いてしまってな
ハーディス:……
シヴァン:これは投資だ。……悪い話か?
ハーディス:……いいだろう。俺も諦めたわけじゃない
シヴァン:なら、交渉成立だ
ハーディス:……目的は?
シヴァン:街を牛耳ったオズが転覆するような事態を想像してみろ? ……行く末は、もうチップの売買じゃ収まらない快感になる……ククク
ハーディス:そんなことか……
シヴァン:でもそうだな……邪魔者がいる。それこそ、ケルベスが
ハーディス:……番犬のケルベス。必ず、ケリをつける
0:ネオンの明かりと、高いビルが連なる街「ピュラムシティ」
0:鉄パイプのような剣を持っている「番犬」はゆっくりと現れる
ケルベス:お? なんだなんだぁ、スキルウエポン片手によぉ?
ケルベス:ひーふーみぃ、ざっと10人か? 最近はどこで盗んできた? んん?
ケルベス:おーおーおー。皆揃って構えちまってよぉ……
ケルベス:へへ、はらわたがワクワクするぜ
0:ケルベスは自分のスキルウエポンを取り出す
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」、神経同調!
ケルベス:さて、「剣と魔法」に乾杯だァ!
0:
ケルベス:荒れに荒れた世の中、イカれたファンタジーは変わらねぇな。……ま、慣れたっちゃぁ慣れたが
フェルナ:野良犬生活になれたなら、ワンワン吠えてればいいのにね……!
ケルベス:っ?
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー2
フェルナ:「ファイアースピン」!
0:フェルナは、炎の足でケルベスに回し蹴りを放つ
ケルベス:おおっとぉ。誰かと思ったら、フェルナじゃねえか
フェルナ:減らず口なんか叩く暇があったら、受けてみなさいよ!
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー3
ケルベス:「ステイルガード」
フェルナ:ぐっ……
ケルベス:残念無念。もういっちょ、かますか?
フェルナ:……いっちょ前に止めるじゃない。腕は全然鈍ってないようね、番犬のケルベス!
ケルベス:……おっ
フェルナ:なによ?
ケルベス:白パンかぁ
フェルナ:っ! な!!
0:フェルナはすぐに後ずさる
ケルベス:スタイルの良い女になったと思ったらぁ……パンツはおこちゃまかぁ
フェルナ:死ね、変態、キモイ! 一周回って死ね!
ケルベス:落ち着けって
フェルナ:……あたしの炎拳(えんけん)が、その生意気な変態顔をぶち破る前に、ちゃーんと話を聞いてくれると嬉しいんだけど?
ケルベス:分ぁってるよ。用件は?
フェルナ:……明日、ハーディスが業者と会う
フェルナ:名前は「シヴァン」
フェルナ:色々な組織とコネクションがある奴で……そいつの扱っているチップは、良くない噂が流れてる
ケルベス:それで?
フェルナ:取引を止めるのに、協力してほしいの
ケルベス:身内で片付けな。ウェアズハードには……ハーディスを慕う愉快なスキルプレイヤー達がいるだろ?
フェルナ:慕っているから、巻き込みたくないのよ。大勢で行動したら、オズに目をつけられる可能性が高くなる
ケルベス:…なるほど。それで、単独行動ガールってわけか
フェルナ:あなたの実力は分かってる
ケルベス:もう昔のことだよ、そんなもん
フェルナ:ハーディスと肩を並べられるのは、ケルベス、あなた以外に思いつかない。
ケルベス:タダではできねえな
フェルナ:報酬は払う
ケルベス:断ったら?
0:フェルナはにやりと口角を上げる
フェルナ:それなら、意地でも連れていく
ケルベス:ぶっははは…! 変わんねぇな
フェルナ:人のこと言えないから
0:
0:ウェアズハード拠点 大広間にて
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー1
ユノア:「エレクトロ」…!
0:ユノアが刀を光らせ、ハーディスに斬りかかる
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー1
ハーディス:「スレイヤ」
0:ハーディスはそれを軽くいなし、反撃を加える。ユノアが体制を崩した
ユノア:っ……!
ハーディス:やるじゃないか。攻撃速度があがってる
ユノア:ありがとうございます
ハーディス:……ただ、斬る寸前。遅かったようにも見えた
ユノア:えっ?
ハーディス:いくら訓練でも、実践を想定しないと
ユノア:……思い浮かべてしまうんです
ハーディス:何を?
ユノア:手です。あなたの
ハーディス:どんな手だい?
ユノア:助けてくれた時の、です
ハーディス:それが理由?
ユノア:その……ハーディスの優しさに斬りかかっているようで……ごめんなさい。いいわけですよね
ハーディス:ケルベスと思ったらどうだ?
ユノア:辞めてください
ハーディス:その勢いがあれば、十分だと思うけどな
ユノア:ご冗談を
ハーディス:そういえば、フェルナは?
ユノア:いいえ。何度か連絡しているのですが……
ハーディス:シヴァンとの話が出てからだったね、消えたのは
ユノア:……まさか、裏切ったと?
ハーディス:既に感づかれたかもしれないな
0:ハーディスとユノアの耳元、通話音声が聞こえた。
シヴァン:可能性としては、十分にありうる
ユノア:っ、通話回線?
シヴァン:突然のご訪問、失礼する
ハーディス:シヴァンか
ユノア:今日じゃなかったはずでは
シヴァン:分かってるさ。少し、情報提供をしたくてね
ユノア:どういうことですか?
シヴァン:最近、私の周りをうろついているネズミさんの気配がしてな
ユノア:人気ですね
シヴァン:ああ。有名人さ。君たちのような人種に、知らないやつはいないだろう
ユノア:貴方の話は聞いてません。それで、ネズミとはなんです?
シヴァン:強気なお嬢さんだ。そうだな……あれは確か……ハーディス。君と取引の話をした翌日の、夜だったかな。アジトを襲撃されてね。調べたところ、眼鏡をかけた赤髪のお姉さんが、監視カメラに映っていた。まるでヒーローのごとく、炎のパンチをかましていたのさ
ユノア:っ!
シヴァン:そのような人間は、君たちの中にいなかったかね?
ハーディス:フェルナくらいしか、心当たりがないな
ユノア:そんな……
シヴァン:心配せずとも、アジトはフェイクだ。肝心な情報は、闇の中
ユノア:あなたの心配ではありません。フェルナです
シヴァン:おやおや……
ユノア:……取引の邪魔をするつもりでしょうか
ハーディス:その時は、しかるべき対処をとる
シヴァン:お気遣い助かる
ハーディス:約束は守るさ
シヴァン:明日の正午。場所は第4地区のビル街、その近くに大きな倉庫がある。分かっているな?
ハーディス:ああ
シヴァン:いいビジネスを期待している。ピュラムシティ最強のスキルプレイヤー殿。……では、また明日
0:シヴァンはそう言って通話を切った
ユノア:……フェルナ、嘘だよね?
ハーディス:不安かい?
0:ユノアは悲しそうに自分の服の裾をにぎる
ユノア:「平等な平和社会」という理想の元に、ずっと私たちは一緒でした
ユノア:そのフェルナが裏切るなんて、考えられません。……何かの間違いです
ハーディス:フェルナは、おそらく明日の取引現場に現れる。オズや、他の組織から目を引かれたくはない。予定通り、俺とユノアだけで行動するが、大丈夫か?
ユノア:はい。フェルナは、私が
0:
0:翌日
シヴァン:やはり、やはり
0:シヴァンは、ハーディスと約束した取引場所まで来ていたが、誰もいない
シヴァン:私のビジネスは、すんなり進んだことはない
シヴァン:取引は必ず、血を争う
シヴァン:だが、その血を流した先には……退屈な日常を覆す利益がまっている
シヴァン:そう思わないか? 番犬のケルベス
0:シヴァンは倉庫の入り口にいる人物に声をかけた
ケルベス:おお。分かってたのかよ、来るの
シヴァン:勘は優れていてね。太古の魔法や術が機械化された世界でも、人間に備わっている本能は失われないものさ
ケルベス:その割には色々武装してるじゃないかぁ? 目につけている機械は、オシャレのつもりか?
シヴァン:私のスキルウエポンと連動している。血のビジネスに必要さ
ケルベス:業者が自ら、スキルプレイヤーやってるたぁ……物騒な世の中だぜ
シヴァン:代り映えのない「当たり前」からは、三流のビジネスしか生まれない
シヴァン:自分から飛び込んでいくことで、大きなチャンスを得られる
0:シヴァンはそう言って、目元に手をあてると、起動音がなった
シヴァン:「ヴィシュラード」、神経連結
シヴァン:「サーチアイザー」、発動
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」。神経同調ぉ!
0:シヴァンは両腕が、銃口に変形する
シヴァン:機弾砲銃(きだんほうじゅう)「ヴィシュラード」。神経同調
ケルベス:へぇ! 機械義手か! マジのSFだなぁ、そのウエポン
シヴァン:スキルプレイヤーの強さは、「習熟度」で決まる。
シヴァン:ウエポンを使わず、チップ重視の戦い方も悪くはないが、対策を練られてしまえば打つ手が無くなる……。最後に残るのは、己の技術だ
ケルベス:業者がいう台詞かぁ?
シヴァン:私の人間観察によれば、三流は武器を使わず、チップばかり頼る
0:シヴァンは両腕をケルベスに向けた
ケルベス:っ!
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー4
シヴァン:「ブラッディホーミング」
ケルベス:いきなりミサイルたぁ、気合十分じゃねえか
シヴァン:避ければいいというスキルじゃないさ、これは
0:ミサイルがケルベスを追いかける。ケルベスが避けて、ミサイルは爆発を起こす
ケルベス:っ、なんだこれっ……爆風の中に、針が!?
シヴァン:まともに受けたら、ひとたまりもない痛みがお前を襲うだろう。ただ、何度も使えるスキルではないがね
ケルベス:痛みに鳴いちまう死に方はごめんだなぁ!
シヴァン:無様に鳴きわめく死に方も、悪くないと思うがね
ケルベス:こっちは2度目の人生なんだ。さっぱり生きるって決めてんだなぁ、これが!
シヴァン:……正面に立った? 避(よ)ける気がないのか?
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー4
ケルベス:「ビーストカウンター」
シヴァン:何……?
ケルベス:破るように、はじいておさらばァ!
0:ケルベスはミサイルと勢いよくはじき、シヴァンへ撃ち返す
シヴァン:こちらに返すか……まるで獣のような弾道だ。なれば撃ち落とすのみ
0:シヴァンはもう一度「ブラッディ・ホーミング」を放ち、相殺して爆発させる
シヴァン:煙がわんさか……さて、奴はどこに
ケルベス:見つけたいなら、こっちから牙を向いてやらぁ
シヴァン:何?
0:煙の隙間からケルベスは顔を出す
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー1
ケルベス:「ファングスティンガー」……!
シヴァン:接近が、想定以上に早い……!
ケルベス:おおおうらっしゃあああァァ!!
シヴァン:っ……! 機弾(きだん)スキル ナンバー2
シヴァン:「レーザーキル」!
ケルベス:どおっ!? あっぶねぇ……。今度はレーザーかい……多彩だなぁ!
シヴァン:(サーチアイザーの索敵より早いか……。あの攻撃、ウエポン搭載の基本スキルだと思ったが……少し違うようだ)
ケルベス:ちったぁ焦り顔になってきたじゃないの、業者さんよぉ
シヴァン:いいや。ゾクゾクしているの間違いだ
0:
0:一方、ケルベス達とは離れて、別の所で待機しているフェルナ
フェルナ:予想通り。シヴァンは先に来ていたものの……あいつ1人?
フェルナ:とりあえず、あの変態馬鹿がチップを奪ったらいいけど……
ユノア:誰かと待ち合わせしてるの?
フェルナ:っ……! ユノア……!
ユノア:ずっと帰ってこないから、心配したんだよ?
フェルナ:……あなた1人?
ユノア:ハーディスが、あとから
フェルナ:そう。妨害しに来たってことね?
ユノア:……私は、フェルナとは、戦いたくない
フェルナ:取引を辞めるなら、戻ってもいいわ
ユノア:シヴァンの事は聞いてるよ。でも、それで全部決めつけるのは……
フェルナ:決めつけじゃないわ。フェイクのアジトなんか構えている奴が、怪しくないと思う?
ユノア:だからってハーディスまで疑うの!?
フェルナ:私だって、こんなことしたくないわよ! ……でも、シヴァンの話が出てきた事をきっかけに、目につくようになったのよ……ハーディスの、顔が
ユノア:どんな顔?
フェルナ:何か、私達とは違うものを見ているような……得体のしれない顔
ユノア:それは、フェルナの勘違いで……!
フェルナ:ごめん、ユノア
ユノア:……そう
0:ユノアはスキルウエポンを構えた
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)「サヘラ」、神経同調……
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)「インフェルノ」、神経同調……!
ユノア:お願い……抵抗しないで
フェルナ:あんたは見えていないのよッ! ユノア!
0:フェルナは拳を燃やす
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー1
フェルナ:「エクスプロナックル」!
ユノア:突いた瞬間に、爆風が……やっぱりフェルナはすごいね。でも
フェルナ:っ、来る!
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー2
ユノア:「スピルドサンダー」
フェルナ:っ! がっ……!
ユノア:スピードではこっちが上だよ、フェルナ
フェルナ:全く、とんでもない速さね
ユノア:嫌なら、武器をおさめて…!
フェルナ:おことわりよッ!
0:フェルナはそのまま攻撃を続ける
ユノア:っ。……機閃(きせん)スキル ナンバー3
ユノア:「サイドエレクスラー」
フェルナ:右から……違う、左!?
ユノア:はぁぁっ!
0:ユノアがフェルナに斬りかかる瞬間、フェルナは飛び上がる
ユノア:っ、飛ばれたっ…!
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー3
フェルナ:「メテオバニンガー」
フェルナ:地面ごと、焼き爆(ば)ぜろッ!!
ユノア:っ……!
0:フェルナが地面に炎の拳をめり込ませたが、ユノアに避けられる
フェルナ:避けられる……か!
0:
ハーディス:ユノアはフェルナと。シヴァンも交戦状態。ここまでは想定内だな
シヴァン:聴こえるか、ハーディス
ハーディス:どうした? フェルナの雇ったスキルプレイヤーにでも、苦戦しているのかい?
シヴァン:そこまで読めているなら好都合だ。……今、番犬のケルベスと交戦している
ハーディス:……何?
シヴァン:どうにも思った以上に、お強いみたいでな。合流を提案する
ハーディス:……分かった。第3地区まで来てくれ。廃墟ビルの多い路地の中にひと際大きいタワーがある。それが目印だ
シヴァン:なら、番犬とはしばらく鬼ごっこか。噛まれないように気を付けないとな
0:シヴァンは通話をきる
ハーディス:よりによって、ケルベスと
ハーディス:……やっぱり君は、俺の前に出てくるのか
0:そこに、後ろから野良スキルプレイヤーたちが現れる
ハーディス:ああ、なんだ。モブキャラ君たちか
ハーディス:騒ぎを聞きつけた野次馬? それとも俺を狙いに来た?
ハーディス:悪いけどさ……雑魚は引っ込んでろよ
0:ハーディスはスキルウエポンを握りしめる
ハーディス:機葬冥剣(きそうめいけん)「デスタリア」、神経同調
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー2
ハーディス:「ダストデリート」
0:ハーディスは横に剣を振ると、一瞬で、目然の野良スキルプレイヤーを薙ぎ払った
ハーディス:モブキャラらしく、空気読んで死んどけよ
0:ハーディスは我に返ったと思えば、口角を上げて笑う
ハーディス:……おっと、俺としたことが。ついくだらないことに時間を使ってしまった
ハーディス:じゃあ、合流しようか
0:
フェルナ:はぁ……はぁ
ユノア:……息が荒くなってきたね
フェルナ:誰が…! …っ?
ハーディス:ご苦労だったね、ユノア
ユノア:ハーディス!
フェルナ:……来たわね
ハーディス:あいにく、俺だけじゃない
フェルナ:っ?
0:そこに、シヴァンがやってきて、後ろからケルベスも追ってくる
ケルベス:おい! 待ちやがれ! ……野郎、後ろに目でもついてんのか……? 逃げながらも、正確に撃ってきやがるぜ
シヴァン:ただ、鬼ごっこはここまでさ
ケルベス:って、あいつら……!
シヴァン:提案の受け入れ、助かった。ハーディス
フェルナ:ケルベス…!
ケルベス:成程……変な通話してんなぁと思ったら。みんなでお見合いパーティーか?
ユノア:なぜ、番犬が……?
ケルベス:おお~! 知らない間に、クールな顔つきになったなぁ、ユノア。ただ……おっぱいは、変わらずだが……それがいい
ユノア:ッ……!
ケルベス:ハーディスは……変わらねえな、なんにも
ハーディス:久しぶりだな
ユノア:……ちょっと待って……? フェルナ……どういうこと? なんでケルベスと組んでるの? ……もしかして、こいつに、何かたぶらかされたの?
フェルナ:…えっ?
ケルベス:いやいや、雇われの身だ、俺は
ユノア:違う……違う違う違う! フェルナが、フェルナがそんな事するはずがない……!こんな、ゴミ野郎の、気持ち悪いクソ犬なんかの……!!
フェルナ:ちょっと、ユノア!?
シヴァン:はは。なんだ、言われ放題だな、番犬。そういう立ち位置か?
ケルベス:余裕かましてんじゃねえよ、業者
ユノア:ああ……分かった。やっぱり……そうなのね……はは
ユノア:ハーディス
ハーディス:ん?
ユノア:こいつ、私が殺していい?
ケルベス:おいおい……
ハーディス:まぁ、ユノアに任せ……
ユノア:(かぶせる)あは……あはははははは! いいよ、ケルベス! ぶっ殺してあげる!
ユノア:その身体を割いて、ぐちゃぐちゃにして、生ごみにぶちこんでやるわ!
0:ユノアは笑いながらスキルウエポンを、ケルベスに向ける
ユノア:こんな淫(みだ)らなクソ番犬は、徹底的にしつけしなくちゃ! そして、フェルナを、フェルナをウェアズハードに戻すのよ……! あは、あはは……!
ケルベス:どういう解釈だ、バァカ! めちゃくちゃ過ぎるんだよ!
シヴァン:今度はお前が逃げる番のようだな。せいぜい生き抜けよ、番犬
ケルベス:くそったれが……! お胸とそのこわーい所は変わってねぇなぁ、ユノア!
ユノア:ほら! 黙ってお座りしなよ、ケルベス……!
ユノア:フェルナをたぶらかしたこと、たくさん後悔させてあげるから……!
0:ユノアとケルベスは交戦をはじめた
シヴァン:面白い女だな、あれは。エンタメ性がある
ハーディス:昔から変わらないさ、ケルベスに対しては
フェルナ:仲良く話しているけど……まだ何にも終わってないわよ?
ハーディス:戻る気はないのかい?
フェルナ:シヴァンと一緒にいる時点でありえない
シヴァン:これはこれは、嫌われたものだ
フェルナ:まともな業者じゃないのよ、そいつは!
ハーディス:いつもの業者ばかり選んでいても、仕方がない。そう思っただけだよ
フェルナ:それでも……やっぱり変よ
ハーディス:何が?
フェルナ:貴方の目よ
ハーディス:病気にかかったことはないな
フェルナ:違う。貴方は、何か違うものを……もっと恐ろしいものを見ているような気がして……
ハーディス:恐ろしいとは、君にとってかい?
フェルナ:お願い……シヴァンから手を引いて
ハーディス:……ユノアとまではいかないが、君の思い込みもたいがいだな、フェルナ
シヴァン:せっかくの可愛い部下だが……どうする? 始末するか?
フェルナ:やれるものなら、やってみなさいよ……!
0:フェルナは拳から炎を放出し、シヴァンに向ける
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー4
フェルナ:「フレイムストレート」!
シヴァン:炎の弾……か。撃ち合い合戦なら、立ち合おう
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー5
シヴァン:「ガトリングヘイト」
フェルナ:くっ……ガンガン弾を撃ってくるじゃないの……!
シヴァン:遠距離を舐めないほうがいい
フェルナ:なら……距離なんてどうでもよくなるくらい、でかい一発ブチこんでやるわよ
0:フェルナは右こぶしを強く握り、シヴァンに対して、ストレートをぶちかますような構えを取る
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)インフェルノ……神経拡張
シヴァン:これは……?
フェルナ:フレイムストレート レベルアップ!
フェルナ:……はぁぁぁっ!!
0:
シヴァン:神経拡張……スキルの底上げで、この大きさとは……
フェルナ:ありったけのブチ切れ炎……その身にしかと、受けやがれ……!
フェルナ:「フレイムストレーザー」!
フェルナ:うっらああああああああああああああああああ!
0:フェルナの炎が、巨大なレーザーのようにシヴァン達へと襲い掛かる
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー4
ハーディス:「ホロウ・デスサイカ」
フェルナ:まさか、吸われてる?!
ハーディス:では、こちらも
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー5
ハーディス:「ナイト・ヴォルケイノ」
フェルナ:ぐっ! ふざけた攻撃ね、全く……
ハーディス:ただ、君の炎は、少し熱かったよ
0:ハーディスはいつの間にか、フェルナの喉元に剣を突立てていた
フェルナ:っ……くそ
ハーディス:抵抗するかい?
フェルナ:動けば……喉元をかっきるって?
ハーディス:実力差が分からないほど、馬鹿じゃないだろう
フェルナ:分かってるわよ……。でも、理想の前なら馬鹿にもなるわ
フェルナ:「平等な平和社会」を築くのが、ウェアズハードの理想……あんたはそれを捻じ曲げようとしている
シヴァン:ご立派な理想だな
フェルナ:こいつの持っているチップは信用できない!
0:フェルナはハーディスをまっすぐ見据える
フェルナ:あなたは、境界線を超えようとしてるのよ、ハーディス! もう、戻れなくなってもいいの!?
ハーディス:とっくに超えているさ
フェルナ:……えっ?
ハーディス:機葬(きそう)の名において発動す
ハーディス:「キネシストッパー」
フェルナ:っ、……ハーディスのウエポン技じゃない……これは、チップ技……! 体が、動かない……!
ハーディス:一定時間、体を縛る拘束魔法がモデルになってる。しばらくそのままで居てくれ
シヴァン:取引を再開してもいいか?
ハーディス:ああ
シヴァン:邪魔者は抑えられている
シヴァン:あとはこの手で……チップを、ゆっくりと渡すだけだ
0:シヴァンはチップを取り出し、ハーディスへ差し出す
シヴァン:お代はもらっているから、気になさらず
フェルナ:……ぐっ…
シヴァン:無理に動くなよ、お嬢さん
ハーディス:これか……。……クク
0:
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー5
ユノア:「ライトブリンガー」……!
ケルベス:なんだなんだぁ。殺意満々じゃねえかい
ユノア:うるさい、うるさい!
ケルベス:久しぶりに会ったってのによぉ、今はどうだ? どんなパンツはいてんだ? んん?
ユノア:その汚い吠え面、黙らせてやるよ! ほら! 死ね、死ね、死ね!
ケルベス:ぐっ……えっぐい攻撃だなぁ
ユノア:またお前は……フェルナのことをいじめたんだ!!
ケルベス:……ったくよぉ
ユノア:私とフェルナの間に、いつも割り込んできて、「スキルの腕前はまだまだだな」って生意気そうに言ってくる。そのたびに、フェルナが嫌がっている顔を見たのよ……!
ケルベス:勝手な思い込みだろぉ! お前がフェルナをどう思ってるかくらい、わかってる! だから、聞く耳ってのをだなぁ……
ユノア:(さえぎる)お前みたいなクソ犬が……ウェアズハードに……私とフェルナの間にっ……勝手に入ってくるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ケルベス:いっちょ前に吠えてんじゃねえぞォ!
ユノア:っ!
ケルベス:フェルナが居なくなっちまうのが、そんな怖いかぁ!?
ユノア:お前になにがわかる!!
ケルベス:あれからちったぁ成長したんならよぉ……パンツの1つや2つ、堂々と見せてみろやァ!
ユノア:うるさいっ!
0:ユノアは、サヘラを力強く握って構える
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)サヘラ、神経拡張ッ……!
ユノア:サイドエレクスラー レベルアップ!
ケルベス:こいつは……?
ユノア:狂影(きょうえい)の電気。その身に刺されて、逝(ゆ)き詫びろ
ユノア:「シャドウ エレクスライザー」
ユノア:はぁぁぁぁぁっ!!!
ケルベス:電気の分身を絡めて、連続移動攻撃……っ!確かに、成長してやがる……!
ユノア:大人しく、きざまれろぉぉぉッッ!
ケルベス:だが! そんな嫉妬だらけの戦い方じゃ、番犬は黙らせられねえ……!
ケルベス:獣機変形(じゅうきへんけい)。ケルベロス、ロッドスタイル!
ユノア:……形をっ……変えた……っ!
0:ケルベスは、武器を剣からロッドへと変形させる
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー6
ケルベス:「クロウ・ロッディング」……!
ユノア:ッ……! 乱暴な振り方なのに……この正確さは何……ッ!?
ケルベス:おおおうらっしゃあああァァ!!
ユノア:ぐっ…ぁぁぁぁああっ!
0:ケルベスの攻撃で、ユノアは吹き飛ばされ、壁に激突する
ケルベス:ちったぁ体に応えたぜ、お前のビリビリ
ユノア:……
ケルベス:はぁ……。自分でも、分かってんだろ?
ユノア:……信じたくなかった……フェルナがハーディスを疑ってるのを……そのハーディスが、何か、悪いことをしようとしているかも、しれないのも……それを信じたくなくて……っ
ケルベス:フェルナやハーディスがいなくなれば、今まで大好きだったウェアズハードが崩れちまう。それを認めたくねぇ。ならいっそのこと、自分が嫌いな番犬のせいにしちまいたかった。その気持ちはよーく、お前の攻撃から伝わってきたぜ
ケルベス:でも、悪いが現実だ
0:その時、轟音が響いた
ユノア:ッ!………この音は?
ケルベス:ほれ……あいつ、やっぱりな
0:
ハーディス:……スキルチップ。認識完了
ハーディス:ウエポン、連動開始。
フェルナ:……やらせる、わけにはっ!
シヴァン:魔法がきれたかな? でも、動かない方がいい。自慢の胸に穴が開いてしまう
0:ハーディスの剣からおびただしい黒色のオーラが溢れ始める
ユノア:あれは…?
シヴァン:ほう……恐ろしいな……! ここまでの出力を叩きだすか…。やはり、最強のスキルプレイヤー。……楽しませてくれる!
ユノア:ハー、ディス?
ハーディス:この俺こそが……最強であり……全て
ハーディス:俺を妨げるものは、邪魔するものは、誰も居なくなる
ハーディス:はは、せっかくだ……この辺り一帯を飲みこむ力、見せてやろう
フェルナ:なっ…!?
0:
ハーディス:機葬(きそう)の名において発動す
ハーディス:「既製の死。闇の夜明け、光の滅び。その名は万物(ばんぶつ)の理(ことわり)に返されんことを」
ハーディス:「終焉の闇景色(やみげしき)」
ハーディス:『死転世界(してんせかい)オールデスコンフェクション』
0:
フェルナ:っ、なに、この音!? ハーディスの剣が、どんどん光って……??
ハーディス:不必要はものは、虚無ヘ去るのみ……
ケルベス:物騒極まりねぇなぁ、ハーディス
0:ハーディスの剣を、ケルベスが止めた
ハーディス:……ケルベス……ッ!
シヴァン:ほう、発動を止めたか
ケルベス:ユノアも、周りの見えないキュートガールだがよぉ。お前はもっと見えてねぇよ
ケルベス:……「タクト」
ハーディス:…っ!!
0:ハーディスは目を見開き、ケルベスに喰ってかかるように、剣を振った
0:互いの武器が競り合う
ハーディス:その名で俺を呼ぶな……!
ケルベス:なにやってんだ、お前はよぉ……
ハーディス:ピュラムシティは、俺にとっての世界だ
ハーディス:この体と、「与えられた設定」が、何よりの証拠なんだよ
ハーディス:それは君もわかるだろう……ケルベス!
ケルベス:……フェルナのバイトで来たつもりだったが、気が変わった
ケルベス:やっぱり放っておけねえよ
0:
0:
0:
0:別の世界
0:とある日本の高校。教室内にて
ソウイチ:また書いてんのか? それ
タクト:領域に入ってくるな
ソウイチ:いやいや、領域って
タクト:何の用だよ
ソウイチ:暇なんだよ
タクト:どうせ馬鹿にするんだろ?
ソウイチ:いやぁ? 意外と興味あってよ。これでもゲームするほうだぜ?
タクト:ゲームと一緒にするな。それに……あの不良連中と一緒にいるじゃないか、君は
ソウイチ:あいつらとは、もう絡んでねぇ
タクト:……何?
ソウイチ:やりすぎてる輩とは、ダチになれねえんだよ
ソウイチ:……でも、途端に虚しくなるもんだなぁ。ダチがいねえと
タクト:なら……せっかくだ
ソウイチ:ん?
タクト:俺の配下にしてあげよう
ソウイチ:おいおい……ダチじゃなくて配下かよ、すげぇな
タクト:友達なんか、いらないよ
0:タクトの悲しそうな表情が、ソウイチの目にうつる
ソウイチ:……
タクト:それで。なるのか? ならないのか?
ソウイチ:ほ、ほんとにガチなんだな……
タクト:ならないなら、領域から去れ
ソウイチ:はいはい、去らねぇよ。で……配下ってのは……誰の?
タクト:「ハーディス」だ
ソウイチ:いや誰だよ!?
タクト:俺だよ。俺の名前
ソウイチ:……お、おおう
タクト:お前はウェアズハードの一員だ
ソウイチ:う、うぇあ?
タクト:俺が作ったギルドだ
ソウイチ:は、はぁ……。やっべ、ついていけるか……これ?
タクト:お前の名前、自分でつけてみろよ
ソウイチ:え? …そうだな……。じゃ、ケルベスで
タクト:……へ、へぇ
ソウイチ:あ、ちょっと良いって思ったろ?
タクト:違う
ソウイチ:怒るなって、ハーディス様
タクト:んん……配下と言えど、様呼びは、あんまり好きじゃないな
ソウイチ:じゃあ、ハーディス……ぐ……うう、きっついぜこれよぉ!! 無理だ、無理
タクト:何が?
ソウイチ:いやいや、何歳だって話よ。もう高校生だぜ俺ら……? 顔から火が出て、焼け死ぬぜ、こんなの
タクト:……そうだよ
ソウイチ:あ……すまん。そうすねるなって
タクト:別にいいよ。慣れてるし
0:タクトはため息をつく
タクト:いくらこうやって、架空の設定で呼びあっても、超能力は無いし、魔法もない。ファンタジーの世界は存在しない。そんなこと分かってる
タクト:でも、それじゃあまりにもさ……嫌じゃないか
0:タクトは、学校の教室から、窓の外を眺める
タクト:もし行けるなら、自分の事を知らない世界がいい。そうしたら、そこでヒーローになって、仲間を作って……そうしたら、俺は……どうするんだろうな
ソウイチ:いや、どうするって……そりゃ、生きるんだろ、そこでも
0:
0:2週間後、放課後、学校の屋上
ソウイチ:タクト!!
0:ソウイチが屋上に来ると、不良たちがタクトに暴行を加えていた
ソウイチ:お前ら、ふざけやがって……! タクトは関係ねえだろうが!!
タクト:…っ、くそ……くそ……! こんな……こんな奴らに……
ソウイチ:この野郎おおお…っ!!
0:
0:夕方。帰り道
タクト:……っ
ソウイチ:大丈夫か…? あいつら、ボコスカやりやがって……
タクト:ほら……結局これだよ
ソウイチ:っ?
タクト:どんなに架空の設定であろうとしても、それに見合うように努力をしても……こんな虚弱体質だ。生まれ持った宿命には抗えない。だから、勝ち目なんてない。暴力で馬鹿にされるだけ
ソウイチ:……すまねえ。まさかあいつらが、腹いせに目ぇつけてると思ってなくてよ
ソウイチ:明日から、お前と話さない。じゃないと、またやられちまう
ソウイチ:……せっかく、ダチになれそうだったけど
タクト:こうやって邪魔されるんだよ、何かに、いつも……
ソウイチ:……ごめん
タクト:……あぁ、くそ
タクト:俺の邪魔をする全てを、全部、全部壊すことが……出来たらな……
0:しばらく、二人の間で沈黙が続く
ソウイチ:…っ、なんだ? 光?
タクト:…あれは、トラック?
ソウイチ:…おい待て、なんだあのスピード……! 駄目だ! 間にあわ……
0:
0:
研究員:試作型のスキルウエポンでこの性能とは、今までにないデータだ…
研究員:ケルベスも確かに優秀だが、ハーディスは凄まじい…
研究員:古代にあったゲートの跡地。その近くに居たという青年二人。スキルプレイヤーを気取ったガキが、立ち入り禁止区域に入っただけかと思っていたが……とんだ収穫だな
研究員:よし、テストはここまでだ。二人を開放してやれ
0:
ケルベス:終わったか?
ハーディス:ああ
ケルベス:……いいか、タクト。もっかい整理すっぞ?
ケルベス:俺達は、トラックに引かれたと思ったら、いつの間にか、この世界に来ていた。……ここまでは?
ハーディス:……ああ
ケルベス:で、次が……オズの警備部隊?ってやつらに見つかったあと、ここに連れていかれた。んで、武器を持たされて、なんか、よくわかんねぇ実験ばっかり……スキルがどうたらこうたらってさぁ……もう、頭割れそうだぜ
ハーディス:体の構造自体は、大きく変わってはいないな
ケルベス:なんて冷静な奴……
ハーディス:この世界に適応したのかもしれない。虚弱体質だったのに……まるで、別人のような体だ
ケルベス:これさぁ、いわゆる異世界転生ってやつだよな? ひぇー、ガチかよ。……でも、ファンタジー世界ってわけじゃねえよな? なんか、未来っていうか
ハーディス:ファンタジーの世界が土台にあるものの……それが衰退して、魔法や術が「スキル」として管理される世界……あの研究員の発言から察するに、そういう世界かな、と
ケルベス:お前、飲みこみ早いな……流石だぜ
ハーディス:ここでは、魔法や術を使う人間を、「スキルプレイヤー」と呼ぶらしい
ケルベス:プレイヤー、ねぇ……ゲームみてぇな話だ。……そういえば、あいつら俺達の事を「特殊適合体」とか言ってたな
ハーディス:それを管理しているのは、オズという団体……研究員の話を聞く限り、ここを管理している組織だろう
ケルベス:あー、わけわかんね……。でも、そう……名前だ、名前
ハーディス:被検体No1「ハーディス」、被検体No2「ケルベス」
ケルベス:こりゃ偶然か? それとも女神様が、第二の人生を与えてくれたか!?
ハーディス:あぁ……そうだな。第二の人生だ
ハーディス:……はは
ケルベス:……タクト?
ハーディス:じゃあ、本当に。俺である必要がない……タクトが居ない世界へ来たんだな
ケルベス:っ……?
ハーディス:……決めた。研究所から脱走する。みすみすこんな力を手に入れたんだ。奴らの実験に付き合っても、ロクなことはない。……そして、脱走した後は、俺達と同じ、スキルプレイヤーを集めた団体を作る……!
ハーディス:始めるんだ……第二の人生を……!
0:
0:数ヶ月後。ある孤児院にて
フェルナ:っ……
ハーディス:怪我はないかい?
ユノア:怖いよ、フェルナ
フェルナ:あんた、誰?
ハーディス:ハーディスだ。君たちを怖がらせていた悪者は、全員追い払ったよ
ケルベス:おーい!ハーディス! そっちはどうだ!? こっちは全員、無事だぜ~!
フェルナ:……
ハーディス:大丈夫だ。さぁ、手をとって、君も
ユノア:…ぁ
0:
フェルナ:はぁっ!
ハーディス:良い動きだ。二人とも
ユノア:っ……てやぁ!
ハーディス:成長が早いな。この調子なら、ウェアズハードを任せられるくらいには、大きくなりそうだ
ユノア:ハーディス、いなくなるの?
ハーディス:そういう意味じゃないさ。……期待してるってことだよ
ユノア:……良かった
ケルベス:おお~。早速やってるな、ハーディス
フェルナ:あ
ケルベス:ん?
フェルナ:近づくな変態
ケルベス:お……おいおい。ちょっとパンツの色をさぁ、知ったくらいじゃねえかよぉ
ハーディス:それは犯罪だな
ケルベス:いやいや! 俺はな? フェルナの落としたメガネをこっそり持っていこうとだな……
ユノア:フェルナ? ……ケルベスにひどいことをされたの?
フェルナ:風呂入ってる時、更衣室を覗きに来た
ケルベス:覗きに来たってなんだよ! ……まぁ確かに、気にはなったけどぉ……
フェルナ:ここで成敗!!
ユノア:許せない
ケルベス:おい、落ち着け!
ハーディス:はは
ケルベス:はぁ……。第二の人生っつっても、ハーレム補正くらい欲しかったなぁ……
ハーディス:残念だったな
ユノア:第二の、人生?
ケルベス:俺とこいつにしか分からない、ただのジョークだ。気にすんな
ハーディス:よし。もう少し続けよう。ケルベスは?
ケルベス:俺はいいよ。このまま観戦する
ユノア:変なところ見たら許さないから
ケルベス:しねぇよバァカ!
0:
0:それから1年後。
ハーディス:……アジトにいる雑魚共は……これで全員か……
ケルベス:……なぁ、ハーディス。やりすぎじゃねえか?
ハーディス:どこが?
ハーディス:こいつらはつい先週まで、ウェアズハードの前に押し入ってきた野良共だよ。害のある組織と、繋がっている可能性もある
ケルベス:でもここまでやるか…!? 最初の攻撃で十分だったろ!
ハーディス:せっかくの異世界ライフなんだからさ、楽しまないと
ケルベス:そういう問題じゃねえ! ……これじゃ、駄目だ
ケルベス:このやり方じゃ、きっと、人望をなくしちまう……
ハーディス:……なんだと?
ケルベス:今はまだ、フェルナ達も分かんねえだろうけどよ……あいつらも成長すりゃ……まぁユノアはちったぁ心配だが、フェルナは疑り深い
ハーディス:彼女たちには優しくするよ。ウェアズハードの皆も
ハーディス:でもウジ虫は、どこまでいってもウジ虫だ
ハーディス:邪魔な奴を消して、英雄になれる力があるのに……使わない神話があるか?
ケルベス:お前……
ハーディス:もういい。君は出ていってくれ
ケルベス:……っ。あぁ、分かったよ
ケルベス:……変わっちまったな、タクト
ハーディス:俺は「ハーディス」だ。その名前で呼ぶのは、辞めてくれないか?
ケルベス:……そうかよ
0:
0:現在
ケルベス:丸ごと壊しちまおうとするなんざ、やりすぎだぜ
ハーディス:大丈夫さ。ウェアズハードの皆は巻き込まないよ
ケルベス:だからな……違うぜ。あの頃から変わってねぇ。全部はき違えてる
ハーディス:何を間違えたっていうんだ? 君にわかるのか?
ケルベス:……まず、フェルナが離れようとした。ウェアズハードから
ケルベス:それとユノアだ。あいつは、フェルナが逃げたことで揺らいでいた。それはフェルナに対しての信頼だけじゃない。……お前にもだ。
ハーディス:それで?
ケルベス:ここから言えるのは、お前にはもういるんだよ。ダチ以上の……「平等な平和社会」を信じている仲間が
ハーディス:掲げた理想は本物だよ。だから消すんじゃないか
ケルベス:……お前な
ハーディス:虚弱体質の俺は死んだ。これからは、意のままに現実を変えられる
ケルベス:境界線を超えるな、ハーディス!
ハーディス:だから、とっくに超えてるんだよ!
0:ハーディスが叫び、一瞬しずまる
ハーディス:この世界に来た時から……俺の設定が現実になった時から、決まっていたんだ
ケルベス:いいか? お前が見ている世界はほんの一部だけだ。ピュラムシティはこの現実にある。フェルナやユノアは、お前の中に出てくる登場人物じゃねえ。生きている人間で、仲間だ
ケルベス:こんなに仲間がいるのによぉ、お前は破壊ばっかり望んでいやがる。もっと違うものに、目を向けていいんじゃないか?
ハーディス:邪魔なんだよ。どいつもこいつも
ハーディス:モブキャラ共は、いつも俺の世界で吠えて、噛みつこうとしてくる……
0:ハーディスはゆっくり、機葬冥剣「デスタリア」を構えた
ハーディス:ケルベス。君も、噛みついてくるのか?
ケルベス:……ハーディス
ハーディス:牙を向くつもりなら、ここで消えてくれよ。モブキャラ
0:ケルベスは機刑剣棒を構える
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」、神経同調ぉ……!
ハーディス:機葬冥剣(きそうめいけん)「デスタリア」、神経同調
0:
ユノア:ハーディスは……やっぱり、裏切ってたんだ
フェルナ:ユノア、しっかりしなさい!
ユノア:……ごめん。私、フェルナの事、信じてなかった
フェルナ:ううん。無理もないわ、気にしてないから大丈夫
ユノア:……今までハーディスが見せた笑顔は、全部嘘だったの……?
フェルナ:……分からないわ
フェルナ:でも、皆は本気で信じていた……その日々は本物よ
フェルナ:真意を確かめたかったら……あのイケすかないシヴァンを倒した後に、あいつの……ハーディスの顔をぶん殴って、直接問いただせばいいのよ。ふざけんな!ってさ
フェルナ:だから、そんなに泣きそう顔しないで、ユノア
ユノア:……ごめん、ごめんなさい
0:そこに、パチパチと拍手が聴こえた
シヴァン:お涙をありがとう。このお話はいくらかな?
フェルナ:っ、シヴァン……
シヴァン:でもあいにく、理解が出来なくてね。品物は願い下げだ
フェルナ:あんたに買わせるものなんてないわよ。犬の糞でも喰ってなさいな
シヴァン:使いようによれば、糞は肥料になる。君たちの感動シーンよりは、微々たるものだが、利益はでるだろう
ユノア:……ハーディスは、止める
シヴァン:おやおや。勇気を振り絞って、寝返ると
ユノア:元より、誰の味方でもないでしょ?
シヴァン:ああ、味方は要らない。利益が生じるか、それが全てだ
0:シヴァンは怪しくも楽しげに笑う
シヴァン:ビジネスの種になれば、仲良くなるだろうし、途中で意味がないと判断すれば、縁を切り、邪魔なら殺す
シヴァン:信用と信頼、信じるか裏切るか、その表面的な駆け引きが発生するのは、ビジネスならの醍醐味だ
フェルナ:あっそ。哀れな考え方ね
シヴァン:至極、楽しくて仕方がないよ
0:シヴァンは腕の銃口をフェルナたちに向ける
シヴァン:機弾銃砲(きだんじゅうほう)、「ヴィシュラード」神経同調
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)、「インフェルノ」神経同調ッ!
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)、「サヘラ」神経同調……!
シヴァン:彼はいい客だ。妨害はさせない……
シヴァン:機弾の名において発動す
シヴァン:「白き壁。浄化の気。その名は万物の理に返されんことを」
シヴァン:「ホワイトスクエア」
ユノア:っ、……これは? 白い壁?
フェルナ:閉じ込めるなんて、嫌でも行かせない気ね……!
シヴァン:いいや。プレゼントをしたいと思ってね
0:シヴァンは両腕を構えると、様々な銃口や砲口が連なった形に変形する
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー6
シヴァン:「ランページ・シューティング」
シヴァン:さぁ、ありったけの銃弾だ。死の口座へ振り込んでやろう
フェルナ:なんてっ、弾の数……!
シヴァン:そう。細工もされていない普通の弾やミサイルだ……跳ね返る事をのぞいてな……!
ユノア:……これは……弾が、壁に反射して!?
シヴァン:はははは……乱れたダンスの始まりだ
ユノア:フェルナ! 大丈夫!?
フェルナ:ええ! こんなもの、全部燃やし切ってやるわ!
シヴァン:ビジネスは尽きない
シヴァン:人は利用できる。どんな過去をおくろうが、どんな感情を持とうが。取引相手として成立すれば問題ない
フェルナ:都合が良すぎて反吐がでるね! それは!
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー7
フェルナ:「空炎 旋回蹴(くうえん せんかいしゅう)」!
フェルナ:たぁぁぁ!
シヴァン:っ……空中からの回し蹴り……乱暴なアクションだ
0:シヴァンは咄嗟に、フェルナの方向に手を向ける
シヴァン:機弾の名において発動す
シヴァン:「ホワイトフィールド」
フェルナ:防がれた……けど! っ今よ! ユノア!
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー8
ユノア:「雷花一閃(らいかいっせん)」!
シヴァン:っ……邪魔くさい……!
ユノア:閃光の中へ、突き穿(うが)つ!
シヴァン:お熱い展開など、金にもならんよ……!
0:シヴァンはホワイトフィールドで無理やり弾き飛ばし、二人に両腕を向ける
ユノア:っ、あいつの銃口に光が溜まっていく……?
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー7
シヴァン:「リアマジック・キャノン」
シヴァン:お前達の赤字ライフは、ここで幕締めだ……!
フェルナ:ユノア! やるわよ!
ユノア:ええ!
フェルナ:機炎(きえん)スキル コネクト!
ユノア:機閃(きせん)スキル コネクト…!
シヴァン:っ…? スキル連携だと?
フェルナ:炎(えん)の拳(こぶし)と、雷(らい)の刀(かたな)
ユノア:斬(ざん)を刻んで、撃(げき)を打つ!
フェルナ:「バニシング…
ユノア:サンダスター」!
シヴァン:くそ…がッ…!
0:
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー 2
ハーディス:「ダストデリート」!
ケルベス:ちっ……でっけぇ薙ぎ払い攻撃……やっぱり強いな…
ハーディス:あの時。オズの研究員は、君より俺のほうが上だと言っていた
ハーディス:つまり、この世界ではまごうことなく、俺が主人公なのさ……!
ケルベス:あぁ、そうだな……! 最強になれて、周りに女の子がたくさん居てチヤホヤされてんだ……。夢が叶ってんのによぉ……!
ハーディス:耳障りなウジ虫が、ずっと湧いてくるんだよ……だからやるのさ
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー8
ハーディス:「惨死滅殺(ざんしめっさつ)」
ハーディス:惨めな死を、体に殺し受けろ
ケルベス:くそ……っ。一つ一つが正確なうえに、武器で受けりゃとんでもねぇ圧力ときた……! 一発ミスったらあの世行きだぜ……!
ハーディス:頼むから、脇役は黙ってくれよ……!
ケルベス:いいや、まだ吠え足りねぇもんでなぁ……!
0:ケルベスが距離を取る
ケルベス:機刑(きけい)の名において発動す
ハーディス:…スキルチップ?
ケルベス:「遠吠えの殺(さつ)。噛み砕く愉悦(ゆえつ)。その名は、万物の理に返されんことを」
ケルベス:「バーサーク・ドッグス」……!
0:ケルベスの周りの空気がゆがんだと思えば、彼の周りに灰色のオーラが生まれる。やがて形を成し、牙の鋭い獣のような外観になり、彼を包む
ケルベス:……噛み合い上等……狂犬の牙と張り合ってみろやぁ……。タクトぉぉ!
ハーディス:……っ!
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー1
ケルベス:「ファングスティンガー」!
ハーディス:まともに撃ち合えない……なんだこの、激しい攻撃は……! 変形させながら、これが維持できるのか……!
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー7
ケルベス:「クロウ・ロッディング」!
ハーディス:……機葬(きそう)スキル ナンバー7
ハーディス:「ダーキングショック」!
ケルベス:く…っ……なんつー衝撃波だっ……! 近づけねぇ
ハーディス:そこで、大人しく見ていろ……
ハーディス:……機葬(きそう)の名において発動す
ケルベス:っ!
ハーディス:既製の死。闇の夜明け。光の滅び。その名は万物の理に返されんことを。
ハーディス:終焉の闇景色(やみげしき)。
ハーディス:死転世界(してんせかい)「オールデスコンフェクション」
0:ハーディスの剣からどんどんと闇があふれる
ハーディス:邪(よこしま)なる魔共を、全て喰らい、覆してやる……!
ケルベス:やっぱそう来るかい……だったら、最後まで吠えきってやらぁ
ハーディス:本気で噛みついてくるか? ケルベス!
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー8
ケルベス:「鋼破 爪鳴牙(こうは そうめいが)」
ケルベス:鋼(はがね)を裂いて、噛み吠える……!
ハーディス:舐めるなよ、番犬ごときがあああああああああああああああ!!
ケルベス:おおおうらっシャあああアアアアアアアアアアアア!!!
0:
シヴァン:……っ。流石、ハーディスの部下だ……一筋縄ではいかない
フェルナ:ここまでよ
シヴァン:退職する予定は無くてね……これでもまだ、若い方でな
フェルナ:っ!? 何をする気!?
シヴァン:また再会をしたときは、是非ともチップのご検討。宜しく
0:シヴァンが消えたと同時に、白い壁が崩れ去った
0:
ケルベス:っ、はぁ…はぁ
ハーディス:……そんなチップがあるとは
ケルベス:とっておきはぁ、最後に残しておくもんだぜ?
シヴァン:面白いチップを持っているな、番犬
0:突然、シヴァンはハーディスの後ろに現れる
ケルベス:シヴァン!? いつの間に!?
シヴァン:スキルチップの力さ。驚く事ではない
ハーディス:っ、なんのつもりだ?
シヴァン:別のプランだ
0:シヴァンは手をかざして、スキルを発動する
シヴァン:機弾(きだん)の名において発動す
シヴァン:「ディサーピア」
0:
ケルベス:消えた…か。瞬間移動系のスキルチップまで詰んでやがったとは、ここまで想定してたか?
フェルナ:逃がした、わね
ケルベス:よう
フェルナ:突然消えたと思ったら、いつの間にかハーディスの傍にいて……結局チップは奪えないままね
ケルベス:いや……おそらくチップは使い物にならなくなってる
フェルナ:えっ?
ケルベス:あいつと最後にぶつかった時……チップが割れるような音が聞こえた、その後、急に発動が収まってたから……おそらく壊れたんじゃねえかと思う。まぁ、それもシヴァンが分かっていたのかどうかまでは、憶測だけどな……
ユノア:……終わったのね
ケルベス:おぉ? 今度はさっぱりしてんな
ユノア:うるさい。黙らなかったら、その舌ちぎる
ユノア:……なんで、ケルベスと協力を? フェルナはこの変態に、不真面目なクソ番犬に、破廉恥なこと、されてるよね?
ケルベス:いやめちゃくちゃ言うな
フェルナ:別に、本気でヤバいことをしたわけじゃないわ
フェルナ:ただ変態なのは合ってるけど
ケルベス:そりゃ良かった
ユノア:だから黙って
フェルナ:ユノア。ケルベスの実力を、知らないわけじゃないでしょ
ユノア:……
フェルナ:もしもハーディスが一線を超えるような事態が起こった時、ケルベスの顔が浮かんだ、それだけのことよ。……本当は、ハーディスを説得したかったんだけどね
ユノア:……許せない。ハーディスは本当に裏切った
0:ユノアから嗚咽が漏れる
フェルナ:ユノア……
ユノア:……じゃあ……あの時の、助けてくれた笑顔は、なんだったの……
ケルベス:本物だと思うぜ
ユノア:っ?
ケルベス:孤児院でお前ら助けた時。ハーディスはマジだった
ケルベス:……ダチだから、分かる
ユノア:あなたなんかに…何が
ケルベス:はいはい残念、俺のほうが物理的に、付き合いが長いんだわ
ユノア:……む
ケルベス:……あいつもきっと欲しがってんだよ。自分の周りに、仲間を。ようは寂しがり屋だ
ケルベス:それに、もしあいつが「ただの道具」って思ってんなら、今頃みんな、ばっさり斬られてるぜ
ユノア:……そうなの、かな
ケルベス:俺はそう思うけどな。だから、ワンワン鳴いちまうのは早い
ユノア:……むかつく
ケルベス:ははっ、それでいいんだよ、お前は
フェルナ:ありがとう、ケルベス
ケルベス:なんだよ、急に
フェルナ:いえ、今はちゃんと、本音で
ケルベス:なら、報酬をもらおうか
フェルナ:いくら?
ケルベス:お前のパンツ一丁
フェルナ:殺す
ケルベス:だぁーっはっはっはっは!
ユノア:フェルナ。やっぱりこいつ、殺していい? 居てもたってもいられなくなってきた……ねぇ、どうせなら一緒にケルベス殺そ? ぐちゃぐちゃにしよ?
ケルベス:お、おい! ウエポン出すな! 馬鹿! 馬鹿チン! 改心したんじゃねえのかお前はぁ!
フェルナ:だ、大丈夫よ! ユノア!、あとであんたの分までぶっ飛ばしとくから!
ユノア:……フェルナがそういうなら
ケルベス:はぁ……。まいいや
ケルベス:報酬は、なしでいい
フェルナ:えっ?
ケルベス:そんかわり、フェルナ、ウェアズハードに残ってくれ
ケルベス:あとユノアも、今まで通り活動を続けてほしいんだ
ユノア:……どういうこと?
ケルベス:「平等な平和社会」って理想がある団体なんざ、ピュラムシティじゃ珍しい。だからその活動は、日の目を見るまで、続けてくれ
ケルベス:あと……ハーディスが帰ってこれる場所が、あったほうがいい
フェルナ:あんたはこれからどうするの?
ケルベス:俺? 俺はまぁ、あいつを説得するかなぁ。やることがねぇし
フェルナ:別に、協力してやってもいいわよ? その吠え面にめんじて
ケルベス:おー、いうねぇ、じゃあお胸とパンツを見してくれたら……
ユノア:あはははは……! やっぱり今ここで殺してあげる! ケルベス~!
ケルベス:嘘だって! 辞めろーー!!!
0:
0:
ハーディス:……助けてどうするつもりだよ?
シヴァン:言ったじゃないか、いいビジネス相手だって
ハーディス:……でも、取引は失敗。チップも粉々だ
シヴァン:自暴自棄になるなよ、最強のスキルプレイヤー
0:シヴァンはポンと、ハーディスの肩をたたいた
シヴァン:お前は才能がある。私の見立てでは、ケルベスよりも、ずっと遥かに
ハーディス:都合がいいだけだろ
シヴァン:はははは、まぁそれもある。ただ、お前が見せてくれたチップの高出力……模倣品だというのに、あのような結果が出るとは思わなくてな
ハーディス:……何?
シヴァン:「死転世界(してんせかい)オールデスコンフェクション」……オリジナル品は易々と手に入らないものだ。お前が使っていたのは、それを再現したチップだ。本物の威力は……比べ物にならないと聞く
ハーディス:俺で試していたのか。……なぜそんなことを?
シヴァン:分かっていると思うが、私が売っているスキルチップは、正規のものじゃない。今回のもそうだ。一般のスキルプレイヤーだとあまりに扱えず、スキルが発動しないか、発動をするがウエポンが壊れてしまうか……その人「自身」が壊れるか
シヴァン:しかし、お前にはそんなことが無かった
ハーディス:だから、何がいいたい?
シヴァン:もしお前が、正規じゃないスキルチップを極めた……最強のスキルプレイヤーになったとしたら……。そう考えると好奇心が湧いてしまってな
ハーディス:……
シヴァン:これは投資だ。……悪い話か?
ハーディス:……いいだろう。俺も諦めたわけじゃない
シヴァン:なら、交渉成立だ
ハーディス:……目的は?
シヴァン:街を牛耳ったオズが転覆するような事態を想像してみろ? ……行く末は、もうチップの売買じゃ収まらない快感になる……ククク
ハーディス:そんなことか……
シヴァン:でもそうだな……邪魔者がいる。それこそ、ケルベスが
ハーディス:……番犬のケルベス。必ず、ケリをつける