台本概要
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タイトル | 革命蒸気 |
---|---|
作者名 | 火演花-カエンバナ (@Flower_Actfire) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 6人用台本(男3、女2、不問1) ※兼役あり |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
帝国の治世が始まってから何年経っただろうか。想像を絶する悪政に人々は苦しんでいた。 そんな世の中で、ある者たちが声を上げる。現在の政権を打ち倒し、革命により真の自由を手に入れる。 そう謳う彼らは自らを「熱鉄の徒」と名乗った。 334 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ドリトン | 男 | 63 | ドリトン=クレンスター。男性。20歳。蒸器やオートマトンの技術者の家の出。政府に父親を殺されたのをきっかけに反乱組織、熱鉄の徒を立ち上げた。国内でも最高峰のエンジニアリングの技術の持ち主。 |
τ | 女 | 77 | 製造番号τ-12。読み方は「タウ」。女性型。製造から4年。ドリトンが何年も研究に研究を重ねて作り上げた最高傑作のオートマトン。「敵を最高効率で即座に殺すこと」をプログラミングされておりドリトンの命令があれば何のためらいもなく何者であろうと殺す。 |
ジャックリー | 男 | 27 | ジャックリー=ハイナー。男性。28歳。ドリトンに賛同して熱鉄の徒に入った優秀な医者であり小さなころのドリトンを知る人物。過去に自身の診ていた患者に治療を施さなかった政府の人間を恨んでいる。 |
羽虫 | 不問 | 29 | 正しい名前、年齢など全ての情報が不明。男性女性問わない。イールズにドリトンの殺害を依頼された殺し屋。人こそが戦場に最も相応しいと考えておりオートマトンであるτが大嫌い。 |
カリア | 女 | 27 | カリア=スフィア。女性。22歳。服屋を営んでおりある日τと店で出会い仲を深める。 |
イールズ | 男 | 14 | イールズ=コンドラ。男性。36歳。羽虫にドリトン殺害を依頼した。自分のことしか考えてない腐敗政治家の典型例。店員と兵士兼ね役をお願いします。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
ドリトン:カレスラ暦1724年、我が国カレスラ帝国に新たな政権が誕生した。
ドリトン:その指導者であるトルスタ=ヘクターには今までの閉鎖的な雰囲気が漂っていた帝国に新たな風を巻き起こしてくれるだろうと期待の声が多く寄せられていた。しかし、彼の政権はその期待を粉々に打ち砕き冷酷な独裁者として国民を苦しめ始めた。
ドリトン:今までの数倍の量の重税、強制的な過重労働、あまりに厳しすぎる法規制。何一つ国民のことなど考えてないような政策を押し通した。
ドリトン:勿論国民も何一つ行動を起こさなかったわけではない。ある者は政治家の家の前で抗議を行い、ある者は政府を非難する本を著し、ある者は政府の非道を暴こうと取材を行った。
ドリトン:だが、政府はその全てに厳しい制裁を下し情報を統制した。その影響もあってか、いつの間にか政府に異を唱える者すら減っていった。
ドリトン:…だが我々は違う。我々『熱鉄の徒』は閉ざされた口を開き、縛られた足を上げ、抗議するものを一人でも多く欲している。
ドリトン:冷めてしまった今の世を変えることができるのは熱し、深紅に染まった鉄のみだ。どうか一人でも良い。この国を変えるために君の力を貸してくれ。
ジャックリー:……んで、新たなメンバーは集まったのかい?
ドリトン:少しずつ集まってはいる。それだけ、この国に不満を持ってる人間は多いんだろう。
ジャックリー:昨日、また同胞が検挙された。今朝の新聞によれば明後日に死刑が決行されるそうだ。
ドリトン:国民の命を何だと思っているんだ…俺たちは声を上げることすら許されないのか…
ジャックリー:差し詰め私たちは政府のお人形さんだ。決められたことを行い、それに従わなかったら廃棄。人とすら思ってないらしい。
ドリトン:サレス王国の人民憲章を奴らは読んでいないのか!あれによれば俺たちはそれぞれが自由意思を持った人間と定められている。だがこの国では俺たちは人間なんて言える状況ではない!
ジャックリー:こういう状況だから周辺諸国に後れを取っているのだろう。そのサレスすら、10年前はまだ小国だったが今となっては帝国に肩を並べる大国に成長した。独裁は人を腐らせるというのがはっきりと分かるだろう。
ドリトン:っ…一刻も早くこの国を変えねば…くそっ…
τ:マスター、任務を完了し、只今帰還いたしました。
ドリトン:分かった。暫くは自由行動に移り、情報を収集しろ。任務が有ったら即連絡する。
τ:了解しました。
ジャックリー:誰を彼女に殺させたんだ?
ドリトン:中央財務省の財務官、ケデック=ヴィッシュとその部下7名だ。今日、宴会を開くと知らせが入ったため行かせた。以前から不穏な動きの有った政治家だ。殺しておいて損はない。それと何度も言ってるがτに性別は無い。女性型というだけで性的自任などあいつには無い。オートマトンを人間のように扱うのは辞めろ。
ジャックリー:それはそうだろうが…あそこまで人間そのものな見た目をしていると…やはり同じ人間に見えてしまうさ。
ドリトン:あいつらには感情はない。人間らしく怒ったり恋に落ちたり悲しみに暮れることすらないんだ。特にτは数あるオートマトンの中でもその傾向が強い。所詮は機械人形だ。文字通り血も涙もないんだよ。
ジャックリー:自分で作った物にそこまで言う必要無いんじゃないか?
ドリトン:…わかった。もうその話はいい。また動きが有ったら連絡する。くれぐれも政府の輩には気を付けろ。
ジャックリー:了解。そっちも気をつけろよ。
0:ドリトン退出
ジャックリー:はあ…昔は、あそこまで冷酷じゃなかったんだがな…
τ:ハム卵サンドを三つお願いします。
店員:三つ!?嬢ちゃん本当に食いしん坊だねえ。はいよ。良く食う子は育つからね。おっきくなるんだぞ。
τ:ありがとうございます。
0:τが食事をしていると向かいの席に誰かが座ってくる
カリア:君、めちゃくちゃ食べてるね。美味しい?
τ:美味しいかどうかはよく分かりません。
カリア:分からないのにそんなに食べてるんだ。面白いね。
τ:貴方は誰ですか?
カリア:カリアだよ。あなたは?
τ:τです。何か御用でもあるのでしょうか?
カリア:タウちゃんか~。変わった名前してるのね。
τ:変わってるかどうかは分かりません。それで何か御用ですか?
カリア:用が無いと話しかけちゃダメなの?
τ:???あなたの言ってることが理解できません。
カリア:ここらへんで見ない子が居るなーって思ったから話しかけただけで理由なんてないよ?迷惑だったかな?
τ:迷惑ではありませんが貴方こそ変わっていると思います。
カリア:よく言われる~。あ、そうだ。用ができたかも。
τ:何でしょう?
カリア:それ食べ終わったら私のお店においでよ。タウちゃんにとっても似合いそうなのが有るんだ。
τ:別に構いません。時間はあるので。
カリア:ようこそ、私のお店へー!
τ:服屋をやっているのですね。初めて来ました。
カリア:えー?その年なら一番おしゃれしたいんじゃないの?
τ:よく分かりません。
カリア:もしかして、ずっとその赤いプリーツスカートとブラウス着てるの?
τ:はい。赤は目立たないので。何か問題が?
カリア:いや、赤は目立つでしょ…もっとかわいい服いっぱい有るんだよー?勿体ないよー!だったらこれ着てみて?絶対似合うからさ。
τ:まあ、良いですが。
0:数分後
τ:あの、これ、とても動きづらいです。こんなののどこが良いのでしょうか?
カリア:そりゃ勿論可愛いからだよ!めちゃめちゃ似合ってる!
τ:似合ってる…どういうことなのでしょうか。
カリア:似合ってるってことも分からないの?タウちゃん分からないことだらけだね。普通可愛い服とか着たりそれこそさっきみたいに美味しいもの食べてたら嬉しくなったり楽しくなったりしない?
τ:嬉しい…楽しい…どういう、ことなんでしょうか。
カリア:え?嬉しいとか…感じたことないの?
τ:分から…ないです。
カリア:そっ…か。うーん…じゃあ、私が教えてあげよっか!
τ:え?
カリア:嬉しいことも、楽しいことも、時には悲しさも、怒りも。全部教えてあげる。分かんないことは知れば良いんだよ。ね?簡単でしょ?
τ:どうやって『嬉しい』を知ればいいんですか?
カリア:そうだなあ。ご飯もお洋服も感じなかったんなら…よっし!
0:カリア、τにハグをする
τ:?急に何故…抱き着いたんですか?
カリア:いやあ。やっぱり肌に触れるって幸せを感じることの一つだと思って。どうかな?
τ:嬉しいかどうかは分かりませんがなんだか、暖かいです。
カリア:そっか。まあそりゃああったかいよね。人肌って温もりの塊だし。
τ:不思議と…何故かは分かりませんが…安らぎます…
カリア:そっか…もうちょっとこうしてよっか?
τ:ええ、そうです…
0:τの通信システムに突然通知が入る。
τ:!すみません。
カリア:ん?どうしたの?
τ:急ですが、用ができました。そろそろ失礼します。
カリア:本当に急だね。いつでも来て良いからね?日曜日以外はやってるからさ。
τ:はい。ありがとうございました。カリアさん。
0:τ、退出。
カリア:…あの子…もしかして…
τ:帰還しました。マスター。
ドリトン:戻ったか、τ。
τ:はい、それで次殺す相手は誰でしょうか。
ドリトン:今度の任務は殺しじゃない。明日、中央官僚の宿邸に潜入して中央政府の裏取引の内容を掴む。お前にはその際の護衛をしてもらう。
τ:かしこまりました。お任せください。
ドリトン:ああ。
イールズ:本当なら帝国の正規兵を使うべきなんだが、軍務院は全く興味を示してくれなくてね。君に頼らざるおえないんだ。さあさ、そこに座りたまえよ。
羽虫:いやいやお気遣いなく。あんたのようないっぱしの政治家に雇ってもらえるのなんか実に十年ぶりくらいなんですから。こちらも気合を入れて仕事に取り掛からせてもらいますよ。
イールズ:頼もしいねえ。本来君のような裏の人間に政治家が依頼をするなんてのはご法度なんだが…まあばれなきゃ犯罪じゃないという奴だ。私とのことはくれぐれも内密に頼むよ。
羽虫:勿論ですとも閣下。私共のような殺し屋は、守秘義務というのが有りますので。して、閣下。その反乱組織のドンを潰すというのは分かったのですが、どこで仕掛けるとかは考えていらっしゃるのですか?
イールズ:無論だ。ある伝手によれば、奴は明日中央官僚の宿邸に潜り込むそうだ。どうやらたった一体護衛用のオートマトンを引き連れてのご来客だと。
羽虫:…!オートマトン…
イールズ:ん?どうした。機械人形は苦手かい?
羽虫:いえいえ…確かに大嫌いですが…だからこそ痛めつけてやりたいんですよ。ほうら、邪魔な虫ほど人は残酷に殺すものじゃないですか。
イールズ:そうか。そういうことなら良いさ。
羽虫:ともかく、この一件は任せてくださいよ。明後日には反逆者の首を四肢をもいだオートマトンを添えてお持ち致します。
イールズ:ああ、頼んだよ。羽虫君。
0:羽虫退出
羽虫:はは。政治屋さんも大変だねえ。
ジャックリー:τ、調子はどうだい?
τ:調子とは…どういった意味でですか?
ジャックリー:元気かどうか聞いているのさ。
τ:私に人間でいう体調というのは無い筈では?
ジャックリー:ま、まあそうだね。私が聞きたいのは気持ちの問題だ。最近心情の変化は無かったかい?
τ:特にありません。マスターの設計通り私には喜びも、怒りも、悲しみも、苦しみも無いようです。
ジャックリー:…そうか。………昔、こんな話を聞いたことが有るんだ。まだ君たちオートマトンの製造技術が不完全だった頃、ある研究者が作ったオートマトンが感情を持ち始めた。原因は分からなかったが、そのオートマトンはよく笑い、よく泣き、よく怒る非常に人間臭い奴だったらしい。
τ:そんなことも有るのですね。
ジャックリー:そして、自身を作った研究者と共に暮らしているうちに二人は恋に落ちた。オートマトンが人間に恋をしたんだ。そうして二人は惹かれ合い、愛をささやくようになった。しかし、そのオートマトンは知らなかった。人間の命が自分よりも遥かに短いということを。
τ:…
ジャックリー:自分の見た目には全く変化は見られないが、月日がたつほどに隣に居る者の肉体は老いていく。その内、オートマトンは理解した。自分の大切な人はもう直死ぬんだってね。
τ:寿命というのを…教えられなかった。
ジャックリー:あるいは、教えなかったのかもしれない。分からないけれど。そして、研究者は死んだ。長く研究に没頭していたせいで、家族はおらず、友人も少なかったから葬式に来たのはたった数人だった。その参列者たちも一人、また一人と帰っていく中、そのオートマトンだけは墓の前に立っていた。その後、オートマトンはどうしたと思う?
τ:分から…ないです。
ジャックリー:自害したんだ。
τ:…え?
ジャックリー:己のコアを破壊した。自らの胸部プロテクターを砕き、コアに強力な衝撃を与えた。数日経って、まだあそこに居るのだろうかと思い研究者の知人が墓地に来ると、オートマトンは動力を失い倒れていた。まるで墓に覆いかぶさるようにしてね。
τ:まるで見てきたように…語るんですね。
ジャックリー:……いや、人伝手に聞いただけだよ。まあ私が言いたいのはね、オートマトンだって感情のようなものを持つことはできるってことさ。君も例外じゃないだろう。
τ:…私のプログラムに、感情というのは有りません。
ジャックリー:エラーというのは、どんなものにも起こるものさ。
ドリトン:τ、時間だ。行くぞ。
τ:はい、只今。
ジャックリー:おっと、もうそんな時間か。ドリトン。
ドリトン:ん?
ジャックリー:死ぬんじゃないぞ。
ドリトン:ああ。
0:ドリトン、τ退出
ジャックリー:τ、君は…
ドリトン:そろそろ目的地だ。南門から侵入して、書庫の窓から邸内に入る。見張り番の殺害は任せるぞ。
τ:了解です。
兵士:どうしたお前たち、ここは一般人の立ち入りは禁じられている。早々に立ち去、ぐはあっ!
τ:一人…
ドリトン:入るぞ。
τ:はい。
ドリトン:このダクトを通って、資料保管室に向かう。俺についてこい。後ろを見ておけよ。
τ:了解です……マスター、少し聞きたいのですが。
ドリトン:手短に話せ。
τ:ありがとうございます。…その、私には感情はプログラミングされてないのでしょうか。
ドリトン:言ったはずだ。そんなものはお前に無い。それにコードを見れば分かるだろう。馬鹿なことを聞くな。
τ:申し訳ありません。無駄な質問を…失礼しました。
ドリトン:良い。よし、ここだ。入るぞ。
羽虫:おうおうおう、やっぱり来たか。
ドリトン:!誰だ。
羽虫:問答無用、死ね!
0:金属音
τ:やらせません。
羽虫:人形が!殺してやる!
τ:私があなたを殺します。
ドリトン:τ、俺がサポートする。そいつはかなり強い。
τ:はい。お願いします。
羽虫:ははっ、人の手が加わろうと所詮人形は人形だあ!
τ:っ…何ですかその蒸器は…
羽虫:鋼鉄さえも断ち切るブームブレードだ!君のその鉄の身体も、私の前では無力なのだよ!人間の手で、解体してやる。
ドリトン:起動。ドールコンソール。
羽虫:ほう、制御型の蒸器か!だが無駄だあ!EMP発動!
τ:っっっっがあああああああああああ!はっはっはっはっ…な、何が!
ドリトン:動力プログラムを妨害されたか。自己修復プログラムを開始。俺が時間を稼ぐしかないか。
羽虫:おいおい邪魔するなよドリトン。私は今この人形と遊んでいるんだから。
ドリトン:なっ…何故俺の名を知っている?
羽虫:そいつは…おっと、それは教えられない。
ドリトン:なら、吐かせるしかないな。
羽虫:君が?私を?馬鹿は休み休み言い給えよ!!!
ドリトン:くっ…
羽虫:ほう、瞬間的な斧型蒸器の展開…面白い。座って指示をするしか取り柄のない男だと思っていたよ。
ドリトン:己の身ぐらい守れるとも。はっ!
羽虫:おおっと、危ない。斬られるところだった…なっ!
ドリトン:くはっ…流石に…本職の奴には歯が立たんか…。
羽虫:そんじゃあ、そろそろ寝てもらうか。
ドリトン:まて、お前の名前は何だ。何の得が有って俺を殺す!
羽虫:名前?まあ、羽虫とでも名乗っておこう。何の得って…君を殺せばお金が手に入る。私は得をする。それだけだよ。
ドリトン:誰かに…依頼されたのか?お前は殺し屋なのか。誰に依頼された!
羽虫:殺し屋には守秘義務が発生するって知らないのかい?そんなこと君が知れるはずが無いだろう!大人しく死ぬんだなあ!
ドリトン:っ…
0:金属音
τ:お怪我は有りませんか。マスター。
ドリトン:問題ない。あいつの蒸器の弱点を掴んだ。立て直すぞ。
τ:かしこまりました。
羽虫:小賢しい!
τ:くっ…凄まじい力ですね。
羽虫:神聖な殺し合いを汚すな人形!お前のような人ならざる者はここに相応しくないのだ!
τ:殺し合いが神聖とは…何を言ってるのか分かりません。
ドリトン:コンソール、展開。あいつの蒸器の持ち手から刀身への黒い部分、あそこにコアが存在する。あのタイプのブレードなら、角度80度の高圧ブレードを叩き込むことで…いとも容易く折れる。τ、俺の指示する通りに動け!
τ:了解!
羽虫:コアを狙ってきたな!だがそう簡単には…ごはっ!これは…電気ショック…!?
τ:脇腹が開いていましたので。
羽虫:きっ…さっ…まああああ!
τ:終わりです!
0:武器破壊
羽虫:くっ…人形風情にこの私がっ…!
τ:ラストリゾート、解放。『ソーネチカ』を承認…これで終わりです。はあっ!
羽虫:ぐあああああああああああ!やめろおおおおおおお!
0:羽虫、倒れる
ドリトン:死んだか?
τ:…まだ、息が有るようです。しかしこれでとどめを…
ドリトン:待て。τ。そいつには聞きたいことが有る。おい、お前は結局誰から依頼を受けた。どうせ死ぬんだ。吐いておけ。
羽虫:確かに…私はもう助からないようだ…ふっ…分かった。教えてやろう。私に君の殺害を依頼したのは、イールズ=コンドラ。内務省の政治家の一人さ。
ドリトン:イールズ…なるほど奴が…
羽虫:随分恨みを買ってるみたいじゃないか。反逆者様。政府の連中は君らのやってることにカンカンだよ。近いうち、君らは確実に皆殺しにされるだろうね。
ドリトン:そうはさせん。俺はこの時代に炎を注ぐ鉄そのものだ。己の宿願をとげるまでは、絶対に折れはせん。
羽虫:なるほどねえ。どうあっても諦めないわけだ。まあせいぜい頑張ると良い。私は…地獄の淵で…君を見ているよ…
τ:…死にましたね。
ドリトン:ああ。さて、少し騒ぎになったが調査するぞ。早くしないといつまたこんなのが来るかわからん。
τ:了解です。
τ:…っ!これは…
ドリトン:どうした。
τ:マスター、これを。
ドリトン:なっ…これは…中央政府の違法麻薬取引の内容書類か!?しかも何だこの金は…こんな大規模な取引を政府は隠していたのか…
τ:その他の取引の内容もこちらに。
ドリトン:こっちは政治家同士の不当な裏金取引の記録だ…この腐れ政治家どもがあ!まさかここまで腐っているなんて!
兵士:おい!こっちで物音がしたぞ!こっちだ!
ドリトン:ちっ、だがこれだけ証拠が揃えば十分だ。逃げるぞτ!
τ:かしこまりました。マスター。
ドリトン:ふう…久々に戦ったな…
τ:お疲れ様です。念のため、ジャックリー様の所で治療を受けた方が良いかと思います。
ドリトン:いや、その前によるところがある。着いてこい。
τ:え…一体どこに…
ドリトン:くそったれ政治家を一人始末しに行くぞ。
イールズ:(鼻歌)さーてそろそろ羽虫の奴があいつを殺しているところだな。そしてやつが戻ってきて、あいつらの首を持ち帰ってきてくれれば晴れて私は反逆者殺しの英雄だ!いやあ、明日の新聞の紙面は『イールズ=コンドラ氏、お手柄!国家の英雄がここに爆誕!』なんつって!なんつってなあ!あはは!!いやあこれを機に民衆の支持も爆上がり、次の大統領候補入りも夢じゃない!いひひ!この勝利の夜を記念してあのシャンパンを開けようか!楽しみだなあ!へっへっへ!
ドリトン:そうだな。確かに明日の新聞はお前の話でもちきりになるだろう。
イールズ:ああ、勿論!って、何者だ貴様は!
ドリトン:ドリトン。ドリトン=クレンスターと言えば分かるかな。イールズ=コンドラさん。
イールズ:なっ、貴様が、貴様がか!反逆者めここに何をしに来た!いや待て、そもそも何故ここにいる!あいつは…羽虫は何をしているんだあの馬鹿者はあ!
ドリトン:おい、τ、くれてやれ。
τ:はい。
イールズ:は!?ちょっとまて。何だその包みは!
τ:開いてみてください。
イールズ:えっ…?………ひいいいいいいいいい!な、何なんだあ!やめてくれええええええ!何でだ!あいつは裏社会トップクラスの殺し屋だぞ!負けるはずがない!
0:羽虫の生首が入っている
ドリトン:うちのオートマトンの方が強かった。それだけのことさ。イールズサン。そして、今度はあんたの首をいただく。
イールズ:ふざけるなあ!私は高貴な血の持ち主なのだ!貴様らのような汚物とは住む世界が違うのだよ!こっちに来るんじゃあない!
ドリトン:ギャーギャーうるさいなあ。大の大人がみっともない。τ、殺ってやれ。
τ:かしこまりました。
イールズ:待ってくれ!分かった!金なら出す!いくらでも弾むさ!だから命だけは!お願いします!許してください!もうしませんからああああ!
ドリトン:あの世で虐げた民にでも同じことを言ってみろ。
イールズ:いやだああああああああ!助けっ…
ジャックリー:『腐敗政治家が惨殺、反逆者の仕業か。』だってさ。随分派手なことするじゃないか。
ドリトン:悪しきを罰した。ただそれだけだ。
ジャックリー:にしたって、首を落として門につるし上げって…流石にえぐすぎるだろう。
ドリトン:悪人にはふさわしい死に様だろう。
ジャックリー:…そうか。これで君の宿願へ一歩進んだってことか。
ドリトン:まだまだだ、ジャックリー。これは初めの一歩に過ぎん。革命の蒸気は、まだ上がったばかりなのだ。
ジャックリー:革命の蒸気、ねえ…そうだ。τはどうした?
ドリトン:今は自由行動中だ。
カリア:タウちゃん!いらっしゃい!
τ:カリアさん、こんにちは。
カリア:また来てくれるなんて嬉しいよ!今日はどんな用かな?
τ:人と会うのに用は必要ないと言ったのは、貴方ではないですか。
カリア:!そうだね。じゃあさじゃあさ!また別の服を着てみてよ!まだまだタウちゃんに似合いそうなのがいっぱいあるの!
τ:ま、待ってください。押さないでください…。
ドリトン:カレスラ暦1724年、我が国カレスラ帝国に新たな政権が誕生した。
ドリトン:その指導者であるトルスタ=ヘクターには今までの閉鎖的な雰囲気が漂っていた帝国に新たな風を巻き起こしてくれるだろうと期待の声が多く寄せられていた。しかし、彼の政権はその期待を粉々に打ち砕き冷酷な独裁者として国民を苦しめ始めた。
ドリトン:今までの数倍の量の重税、強制的な過重労働、あまりに厳しすぎる法規制。何一つ国民のことなど考えてないような政策を押し通した。
ドリトン:勿論国民も何一つ行動を起こさなかったわけではない。ある者は政治家の家の前で抗議を行い、ある者は政府を非難する本を著し、ある者は政府の非道を暴こうと取材を行った。
ドリトン:だが、政府はその全てに厳しい制裁を下し情報を統制した。その影響もあってか、いつの間にか政府に異を唱える者すら減っていった。
ドリトン:…だが我々は違う。我々『熱鉄の徒』は閉ざされた口を開き、縛られた足を上げ、抗議するものを一人でも多く欲している。
ドリトン:冷めてしまった今の世を変えることができるのは熱し、深紅に染まった鉄のみだ。どうか一人でも良い。この国を変えるために君の力を貸してくれ。
ジャックリー:……んで、新たなメンバーは集まったのかい?
ドリトン:少しずつ集まってはいる。それだけ、この国に不満を持ってる人間は多いんだろう。
ジャックリー:昨日、また同胞が検挙された。今朝の新聞によれば明後日に死刑が決行されるそうだ。
ドリトン:国民の命を何だと思っているんだ…俺たちは声を上げることすら許されないのか…
ジャックリー:差し詰め私たちは政府のお人形さんだ。決められたことを行い、それに従わなかったら廃棄。人とすら思ってないらしい。
ドリトン:サレス王国の人民憲章を奴らは読んでいないのか!あれによれば俺たちはそれぞれが自由意思を持った人間と定められている。だがこの国では俺たちは人間なんて言える状況ではない!
ジャックリー:こういう状況だから周辺諸国に後れを取っているのだろう。そのサレスすら、10年前はまだ小国だったが今となっては帝国に肩を並べる大国に成長した。独裁は人を腐らせるというのがはっきりと分かるだろう。
ドリトン:っ…一刻も早くこの国を変えねば…くそっ…
τ:マスター、任務を完了し、只今帰還いたしました。
ドリトン:分かった。暫くは自由行動に移り、情報を収集しろ。任務が有ったら即連絡する。
τ:了解しました。
ジャックリー:誰を彼女に殺させたんだ?
ドリトン:中央財務省の財務官、ケデック=ヴィッシュとその部下7名だ。今日、宴会を開くと知らせが入ったため行かせた。以前から不穏な動きの有った政治家だ。殺しておいて損はない。それと何度も言ってるがτに性別は無い。女性型というだけで性的自任などあいつには無い。オートマトンを人間のように扱うのは辞めろ。
ジャックリー:それはそうだろうが…あそこまで人間そのものな見た目をしていると…やはり同じ人間に見えてしまうさ。
ドリトン:あいつらには感情はない。人間らしく怒ったり恋に落ちたり悲しみに暮れることすらないんだ。特にτは数あるオートマトンの中でもその傾向が強い。所詮は機械人形だ。文字通り血も涙もないんだよ。
ジャックリー:自分で作った物にそこまで言う必要無いんじゃないか?
ドリトン:…わかった。もうその話はいい。また動きが有ったら連絡する。くれぐれも政府の輩には気を付けろ。
ジャックリー:了解。そっちも気をつけろよ。
0:ドリトン退出
ジャックリー:はあ…昔は、あそこまで冷酷じゃなかったんだがな…
τ:ハム卵サンドを三つお願いします。
店員:三つ!?嬢ちゃん本当に食いしん坊だねえ。はいよ。良く食う子は育つからね。おっきくなるんだぞ。
τ:ありがとうございます。
0:τが食事をしていると向かいの席に誰かが座ってくる
カリア:君、めちゃくちゃ食べてるね。美味しい?
τ:美味しいかどうかはよく分かりません。
カリア:分からないのにそんなに食べてるんだ。面白いね。
τ:貴方は誰ですか?
カリア:カリアだよ。あなたは?
τ:τです。何か御用でもあるのでしょうか?
カリア:タウちゃんか~。変わった名前してるのね。
τ:変わってるかどうかは分かりません。それで何か御用ですか?
カリア:用が無いと話しかけちゃダメなの?
τ:???あなたの言ってることが理解できません。
カリア:ここらへんで見ない子が居るなーって思ったから話しかけただけで理由なんてないよ?迷惑だったかな?
τ:迷惑ではありませんが貴方こそ変わっていると思います。
カリア:よく言われる~。あ、そうだ。用ができたかも。
τ:何でしょう?
カリア:それ食べ終わったら私のお店においでよ。タウちゃんにとっても似合いそうなのが有るんだ。
τ:別に構いません。時間はあるので。
カリア:ようこそ、私のお店へー!
τ:服屋をやっているのですね。初めて来ました。
カリア:えー?その年なら一番おしゃれしたいんじゃないの?
τ:よく分かりません。
カリア:もしかして、ずっとその赤いプリーツスカートとブラウス着てるの?
τ:はい。赤は目立たないので。何か問題が?
カリア:いや、赤は目立つでしょ…もっとかわいい服いっぱい有るんだよー?勿体ないよー!だったらこれ着てみて?絶対似合うからさ。
τ:まあ、良いですが。
0:数分後
τ:あの、これ、とても動きづらいです。こんなののどこが良いのでしょうか?
カリア:そりゃ勿論可愛いからだよ!めちゃめちゃ似合ってる!
τ:似合ってる…どういうことなのでしょうか。
カリア:似合ってるってことも分からないの?タウちゃん分からないことだらけだね。普通可愛い服とか着たりそれこそさっきみたいに美味しいもの食べてたら嬉しくなったり楽しくなったりしない?
τ:嬉しい…楽しい…どういう、ことなんでしょうか。
カリア:え?嬉しいとか…感じたことないの?
τ:分から…ないです。
カリア:そっ…か。うーん…じゃあ、私が教えてあげよっか!
τ:え?
カリア:嬉しいことも、楽しいことも、時には悲しさも、怒りも。全部教えてあげる。分かんないことは知れば良いんだよ。ね?簡単でしょ?
τ:どうやって『嬉しい』を知ればいいんですか?
カリア:そうだなあ。ご飯もお洋服も感じなかったんなら…よっし!
0:カリア、τにハグをする
τ:?急に何故…抱き着いたんですか?
カリア:いやあ。やっぱり肌に触れるって幸せを感じることの一つだと思って。どうかな?
τ:嬉しいかどうかは分かりませんがなんだか、暖かいです。
カリア:そっか。まあそりゃああったかいよね。人肌って温もりの塊だし。
τ:不思議と…何故かは分かりませんが…安らぎます…
カリア:そっか…もうちょっとこうしてよっか?
τ:ええ、そうです…
0:τの通信システムに突然通知が入る。
τ:!すみません。
カリア:ん?どうしたの?
τ:急ですが、用ができました。そろそろ失礼します。
カリア:本当に急だね。いつでも来て良いからね?日曜日以外はやってるからさ。
τ:はい。ありがとうございました。カリアさん。
0:τ、退出。
カリア:…あの子…もしかして…
τ:帰還しました。マスター。
ドリトン:戻ったか、τ。
τ:はい、それで次殺す相手は誰でしょうか。
ドリトン:今度の任務は殺しじゃない。明日、中央官僚の宿邸に潜入して中央政府の裏取引の内容を掴む。お前にはその際の護衛をしてもらう。
τ:かしこまりました。お任せください。
ドリトン:ああ。
イールズ:本当なら帝国の正規兵を使うべきなんだが、軍務院は全く興味を示してくれなくてね。君に頼らざるおえないんだ。さあさ、そこに座りたまえよ。
羽虫:いやいやお気遣いなく。あんたのようないっぱしの政治家に雇ってもらえるのなんか実に十年ぶりくらいなんですから。こちらも気合を入れて仕事に取り掛からせてもらいますよ。
イールズ:頼もしいねえ。本来君のような裏の人間に政治家が依頼をするなんてのはご法度なんだが…まあばれなきゃ犯罪じゃないという奴だ。私とのことはくれぐれも内密に頼むよ。
羽虫:勿論ですとも閣下。私共のような殺し屋は、守秘義務というのが有りますので。して、閣下。その反乱組織のドンを潰すというのは分かったのですが、どこで仕掛けるとかは考えていらっしゃるのですか?
イールズ:無論だ。ある伝手によれば、奴は明日中央官僚の宿邸に潜り込むそうだ。どうやらたった一体護衛用のオートマトンを引き連れてのご来客だと。
羽虫:…!オートマトン…
イールズ:ん?どうした。機械人形は苦手かい?
羽虫:いえいえ…確かに大嫌いですが…だからこそ痛めつけてやりたいんですよ。ほうら、邪魔な虫ほど人は残酷に殺すものじゃないですか。
イールズ:そうか。そういうことなら良いさ。
羽虫:ともかく、この一件は任せてくださいよ。明後日には反逆者の首を四肢をもいだオートマトンを添えてお持ち致します。
イールズ:ああ、頼んだよ。羽虫君。
0:羽虫退出
羽虫:はは。政治屋さんも大変だねえ。
ジャックリー:τ、調子はどうだい?
τ:調子とは…どういった意味でですか?
ジャックリー:元気かどうか聞いているのさ。
τ:私に人間でいう体調というのは無い筈では?
ジャックリー:ま、まあそうだね。私が聞きたいのは気持ちの問題だ。最近心情の変化は無かったかい?
τ:特にありません。マスターの設計通り私には喜びも、怒りも、悲しみも、苦しみも無いようです。
ジャックリー:…そうか。………昔、こんな話を聞いたことが有るんだ。まだ君たちオートマトンの製造技術が不完全だった頃、ある研究者が作ったオートマトンが感情を持ち始めた。原因は分からなかったが、そのオートマトンはよく笑い、よく泣き、よく怒る非常に人間臭い奴だったらしい。
τ:そんなことも有るのですね。
ジャックリー:そして、自身を作った研究者と共に暮らしているうちに二人は恋に落ちた。オートマトンが人間に恋をしたんだ。そうして二人は惹かれ合い、愛をささやくようになった。しかし、そのオートマトンは知らなかった。人間の命が自分よりも遥かに短いということを。
τ:…
ジャックリー:自分の見た目には全く変化は見られないが、月日がたつほどに隣に居る者の肉体は老いていく。その内、オートマトンは理解した。自分の大切な人はもう直死ぬんだってね。
τ:寿命というのを…教えられなかった。
ジャックリー:あるいは、教えなかったのかもしれない。分からないけれど。そして、研究者は死んだ。長く研究に没頭していたせいで、家族はおらず、友人も少なかったから葬式に来たのはたった数人だった。その参列者たちも一人、また一人と帰っていく中、そのオートマトンだけは墓の前に立っていた。その後、オートマトンはどうしたと思う?
τ:分から…ないです。
ジャックリー:自害したんだ。
τ:…え?
ジャックリー:己のコアを破壊した。自らの胸部プロテクターを砕き、コアに強力な衝撃を与えた。数日経って、まだあそこに居るのだろうかと思い研究者の知人が墓地に来ると、オートマトンは動力を失い倒れていた。まるで墓に覆いかぶさるようにしてね。
τ:まるで見てきたように…語るんですね。
ジャックリー:……いや、人伝手に聞いただけだよ。まあ私が言いたいのはね、オートマトンだって感情のようなものを持つことはできるってことさ。君も例外じゃないだろう。
τ:…私のプログラムに、感情というのは有りません。
ジャックリー:エラーというのは、どんなものにも起こるものさ。
ドリトン:τ、時間だ。行くぞ。
τ:はい、只今。
ジャックリー:おっと、もうそんな時間か。ドリトン。
ドリトン:ん?
ジャックリー:死ぬんじゃないぞ。
ドリトン:ああ。
0:ドリトン、τ退出
ジャックリー:τ、君は…
ドリトン:そろそろ目的地だ。南門から侵入して、書庫の窓から邸内に入る。見張り番の殺害は任せるぞ。
τ:了解です。
兵士:どうしたお前たち、ここは一般人の立ち入りは禁じられている。早々に立ち去、ぐはあっ!
τ:一人…
ドリトン:入るぞ。
τ:はい。
ドリトン:このダクトを通って、資料保管室に向かう。俺についてこい。後ろを見ておけよ。
τ:了解です……マスター、少し聞きたいのですが。
ドリトン:手短に話せ。
τ:ありがとうございます。…その、私には感情はプログラミングされてないのでしょうか。
ドリトン:言ったはずだ。そんなものはお前に無い。それにコードを見れば分かるだろう。馬鹿なことを聞くな。
τ:申し訳ありません。無駄な質問を…失礼しました。
ドリトン:良い。よし、ここだ。入るぞ。
羽虫:おうおうおう、やっぱり来たか。
ドリトン:!誰だ。
羽虫:問答無用、死ね!
0:金属音
τ:やらせません。
羽虫:人形が!殺してやる!
τ:私があなたを殺します。
ドリトン:τ、俺がサポートする。そいつはかなり強い。
τ:はい。お願いします。
羽虫:ははっ、人の手が加わろうと所詮人形は人形だあ!
τ:っ…何ですかその蒸器は…
羽虫:鋼鉄さえも断ち切るブームブレードだ!君のその鉄の身体も、私の前では無力なのだよ!人間の手で、解体してやる。
ドリトン:起動。ドールコンソール。
羽虫:ほう、制御型の蒸器か!だが無駄だあ!EMP発動!
τ:っっっっがあああああああああああ!はっはっはっはっ…な、何が!
ドリトン:動力プログラムを妨害されたか。自己修復プログラムを開始。俺が時間を稼ぐしかないか。
羽虫:おいおい邪魔するなよドリトン。私は今この人形と遊んでいるんだから。
ドリトン:なっ…何故俺の名を知っている?
羽虫:そいつは…おっと、それは教えられない。
ドリトン:なら、吐かせるしかないな。
羽虫:君が?私を?馬鹿は休み休み言い給えよ!!!
ドリトン:くっ…
羽虫:ほう、瞬間的な斧型蒸器の展開…面白い。座って指示をするしか取り柄のない男だと思っていたよ。
ドリトン:己の身ぐらい守れるとも。はっ!
羽虫:おおっと、危ない。斬られるところだった…なっ!
ドリトン:くはっ…流石に…本職の奴には歯が立たんか…。
羽虫:そんじゃあ、そろそろ寝てもらうか。
ドリトン:まて、お前の名前は何だ。何の得が有って俺を殺す!
羽虫:名前?まあ、羽虫とでも名乗っておこう。何の得って…君を殺せばお金が手に入る。私は得をする。それだけだよ。
ドリトン:誰かに…依頼されたのか?お前は殺し屋なのか。誰に依頼された!
羽虫:殺し屋には守秘義務が発生するって知らないのかい?そんなこと君が知れるはずが無いだろう!大人しく死ぬんだなあ!
ドリトン:っ…
0:金属音
τ:お怪我は有りませんか。マスター。
ドリトン:問題ない。あいつの蒸器の弱点を掴んだ。立て直すぞ。
τ:かしこまりました。
羽虫:小賢しい!
τ:くっ…凄まじい力ですね。
羽虫:神聖な殺し合いを汚すな人形!お前のような人ならざる者はここに相応しくないのだ!
τ:殺し合いが神聖とは…何を言ってるのか分かりません。
ドリトン:コンソール、展開。あいつの蒸器の持ち手から刀身への黒い部分、あそこにコアが存在する。あのタイプのブレードなら、角度80度の高圧ブレードを叩き込むことで…いとも容易く折れる。τ、俺の指示する通りに動け!
τ:了解!
羽虫:コアを狙ってきたな!だがそう簡単には…ごはっ!これは…電気ショック…!?
τ:脇腹が開いていましたので。
羽虫:きっ…さっ…まああああ!
τ:終わりです!
0:武器破壊
羽虫:くっ…人形風情にこの私がっ…!
τ:ラストリゾート、解放。『ソーネチカ』を承認…これで終わりです。はあっ!
羽虫:ぐあああああああああああ!やめろおおおおおおお!
0:羽虫、倒れる
ドリトン:死んだか?
τ:…まだ、息が有るようです。しかしこれでとどめを…
ドリトン:待て。τ。そいつには聞きたいことが有る。おい、お前は結局誰から依頼を受けた。どうせ死ぬんだ。吐いておけ。
羽虫:確かに…私はもう助からないようだ…ふっ…分かった。教えてやろう。私に君の殺害を依頼したのは、イールズ=コンドラ。内務省の政治家の一人さ。
ドリトン:イールズ…なるほど奴が…
羽虫:随分恨みを買ってるみたいじゃないか。反逆者様。政府の連中は君らのやってることにカンカンだよ。近いうち、君らは確実に皆殺しにされるだろうね。
ドリトン:そうはさせん。俺はこの時代に炎を注ぐ鉄そのものだ。己の宿願をとげるまでは、絶対に折れはせん。
羽虫:なるほどねえ。どうあっても諦めないわけだ。まあせいぜい頑張ると良い。私は…地獄の淵で…君を見ているよ…
τ:…死にましたね。
ドリトン:ああ。さて、少し騒ぎになったが調査するぞ。早くしないといつまたこんなのが来るかわからん。
τ:了解です。
τ:…っ!これは…
ドリトン:どうした。
τ:マスター、これを。
ドリトン:なっ…これは…中央政府の違法麻薬取引の内容書類か!?しかも何だこの金は…こんな大規模な取引を政府は隠していたのか…
τ:その他の取引の内容もこちらに。
ドリトン:こっちは政治家同士の不当な裏金取引の記録だ…この腐れ政治家どもがあ!まさかここまで腐っているなんて!
兵士:おい!こっちで物音がしたぞ!こっちだ!
ドリトン:ちっ、だがこれだけ証拠が揃えば十分だ。逃げるぞτ!
τ:かしこまりました。マスター。
ドリトン:ふう…久々に戦ったな…
τ:お疲れ様です。念のため、ジャックリー様の所で治療を受けた方が良いかと思います。
ドリトン:いや、その前によるところがある。着いてこい。
τ:え…一体どこに…
ドリトン:くそったれ政治家を一人始末しに行くぞ。
イールズ:(鼻歌)さーてそろそろ羽虫の奴があいつを殺しているところだな。そしてやつが戻ってきて、あいつらの首を持ち帰ってきてくれれば晴れて私は反逆者殺しの英雄だ!いやあ、明日の新聞の紙面は『イールズ=コンドラ氏、お手柄!国家の英雄がここに爆誕!』なんつって!なんつってなあ!あはは!!いやあこれを機に民衆の支持も爆上がり、次の大統領候補入りも夢じゃない!いひひ!この勝利の夜を記念してあのシャンパンを開けようか!楽しみだなあ!へっへっへ!
ドリトン:そうだな。確かに明日の新聞はお前の話でもちきりになるだろう。
イールズ:ああ、勿論!って、何者だ貴様は!
ドリトン:ドリトン。ドリトン=クレンスターと言えば分かるかな。イールズ=コンドラさん。
イールズ:なっ、貴様が、貴様がか!反逆者めここに何をしに来た!いや待て、そもそも何故ここにいる!あいつは…羽虫は何をしているんだあの馬鹿者はあ!
ドリトン:おい、τ、くれてやれ。
τ:はい。
イールズ:は!?ちょっとまて。何だその包みは!
τ:開いてみてください。
イールズ:えっ…?………ひいいいいいいいいい!な、何なんだあ!やめてくれええええええ!何でだ!あいつは裏社会トップクラスの殺し屋だぞ!負けるはずがない!
0:羽虫の生首が入っている
ドリトン:うちのオートマトンの方が強かった。それだけのことさ。イールズサン。そして、今度はあんたの首をいただく。
イールズ:ふざけるなあ!私は高貴な血の持ち主なのだ!貴様らのような汚物とは住む世界が違うのだよ!こっちに来るんじゃあない!
ドリトン:ギャーギャーうるさいなあ。大の大人がみっともない。τ、殺ってやれ。
τ:かしこまりました。
イールズ:待ってくれ!分かった!金なら出す!いくらでも弾むさ!だから命だけは!お願いします!許してください!もうしませんからああああ!
ドリトン:あの世で虐げた民にでも同じことを言ってみろ。
イールズ:いやだああああああああ!助けっ…
ジャックリー:『腐敗政治家が惨殺、反逆者の仕業か。』だってさ。随分派手なことするじゃないか。
ドリトン:悪しきを罰した。ただそれだけだ。
ジャックリー:にしたって、首を落として門につるし上げって…流石にえぐすぎるだろう。
ドリトン:悪人にはふさわしい死に様だろう。
ジャックリー:…そうか。これで君の宿願へ一歩進んだってことか。
ドリトン:まだまだだ、ジャックリー。これは初めの一歩に過ぎん。革命の蒸気は、まだ上がったばかりなのだ。
ジャックリー:革命の蒸気、ねえ…そうだ。τはどうした?
ドリトン:今は自由行動中だ。
カリア:タウちゃん!いらっしゃい!
τ:カリアさん、こんにちは。
カリア:また来てくれるなんて嬉しいよ!今日はどんな用かな?
τ:人と会うのに用は必要ないと言ったのは、貴方ではないですか。
カリア:!そうだね。じゃあさじゃあさ!また別の服を着てみてよ!まだまだタウちゃんに似合いそうなのがいっぱいあるの!
τ:ま、待ってください。押さないでください…。