台本概要
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タイトル | 夜光蟲 第2章、君だけのサプライズ☆ |
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作者名 | すばら (@kou0204hei) |
ジャンル | ホラー |
演者人数 | 9人用台本(男6、女3) ※兼役あり |
時間 | 70 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
沢山のご声援をありがとうございます!満を持して第2章の方を描かせて頂きました☆未だ、拙く読みづらいかと思われますが、精進して参ります!どうか、最後までご拝読の程をお願い致します。 改変等、自由にどうぞ。性別変更も基本的に自由です!BGM、SE等もお好きに使用して下さい。より多くの皆様に楽しんで頂ければと思います☆ ※8割方、ノンフィクションです※ ⚠️グロテスクな表現、性的描写等含まれています⚠️ 兼ね役等の情報はプロフィールを参照下さい。書き切れない為、モブをこちらに記入しておきます。ボーイ不問。ラーメン屋の店主不問。 122 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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流生 | 男 | 62 | 27歳。ブランディッシュのNo.1で社長。1000万prayer保持者。残忍で冷酷。 |
魅剣 | 男 | 24 | 27歳。ブランディッシュのNo.2。寡黙だが、面倒見が良く優しい。(店主と兼任推奨。) |
蘭丸 | 男 | 14 | 23歳。バイトとは思えない会話力。個性強め。見てる、アニメの影響からか、度々、口調が芝居かがる事が多い。(凍夜と兼任推奨。ボーイと兼任推奨。) |
黄泉 | 男 | 46 | 20歳。保証期間を終えた、三ヶ月目の駆け出しホスト。癒し系で、内向的。 |
真人 | 男 | 95 | 40歳。故人。4年前に客に刺され、即死。生前はブランディッシュの経営者。 |
凍夜 | 男 | 16 | 22歳。入店初日の、ど新人。根暗で、オドオドしている。酒を飲み過ぎると… |
サーシャ | 女 | 15 | 25歳。魅剣の客。見た目はギャル。性欲が強い。(まるるんと兼任推奨。) |
まるるん | 女 | 13 | 55歳。魅剣の客。若い男にチヤホヤされたいBBA。ブルガリの香水が鼻を刺す。 |
紗凪 | 女 | 119 | 38歳。キーパーソン。ひょんな事から、黄泉と出会った。何か訳有りの様だが。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
夜光蟲(やこうちゅう)
人数比、5/2
登場人物
流生(りゅーせい)♂27歳。ブランディッシュのNo.1で社長。1000万prayer保持者。残忍で冷酷。
魅剣(みつるぎ)♂27歳。ブランディッシュのNo.2。寡黙だが、面倒見が良く優しい。(店主と兼任推奨。)
蘭丸(らんまる)♂23歳。バイトとは思えない会話力。個性強め。見てる、アニメの影響からか、度々、口調が芝居かがる事が多い。(凍夜と兼任推奨。ボーイと兼任推奨。)
黄泉(よみ)♂20歳。保証期間を終えた、三ヶ月目の駆け出しホスト。癒し系で、内向的。
真人(まひと)♂40歳。故人。4年前に客に刺され、即死。生前はブランディッシュの経営者。
凍夜(とうや)♂22歳。入店初日の、ど新人。根暗で、オドオドしている。酒を飲み過ぎると…
サーシャ♀25歳。魅剣の客。見た目はギャル。性欲が強い。(まるるんと兼任推奨。)
まるるん♀55歳。魅剣の客。若い男にチヤホヤされたいBBA。ブルガリの香水が鼻を刺す。
紗凪(さなえ)♀38歳。キーパーソン。ひょんな事から、黄泉と出会った。何か訳有りの様だが。
ボーイ♂♀CLUBブランディッシュの黒服。低姿勢で、仕事は着実にこなすが、低身長と言う欠点がある。
店主♂♀ラーメン屋、風来神(ふうらいしん)の大将。気さくで、思い遣りがある。
⚠︎モブの店主、ボーイ。基本自由に演じて下さい。セリフ改変、性別変更も可です⚠︎
————以下本編————
凍夜:第二章、君だけのサプライズ。(蘭丸INサーシャIN)
蘭丸:いらっしゃいませー!ブランディッシュにようこそ!
サーシャ:んーうん?蘭丸くんじゃない!髪染めたのかおー?
蘭丸:はい、イメチェンってヤツでっす!…似合いますう?
サーシャ:うんうん、蘭丸くんの銀髪、とても良いお♪2次元の世界から飛び出してきたみたい!
蘭丸:ははは、大袈裟すよー!
サーシャ:蘭丸くん、あたし、もう喉がカラカラ〜早く案内をお願いだお。
蘭丸:はっ!この蘭丸めが責任を持って、エスコート致しましょう!
サーシャ:え!なぁに、そのキャラ?ウケる〜!きゃははは♪
0:焼肉屋を出た二人。(紗凪IN黄泉INサーシャOUT蘭丸OUT)
紗凪:…うぷ……ヴェエェェエ!
0:盛大に吐き散らかす。
黄泉:さ、サナエさん!?だ、大丈夫ですか?!
紗凪:…ええ、もう大丈夫よ。介抱してくれて、ありがとね♪
黄泉:いえいえ。あ、僕の卓では絶対に!お酒は飲まないで下さいね!
紗凪:あらあ?余計な気を回さなくてもいいのに。
黄泉:だ、駄目です!!その分、僕が責任持って、飲みます。サナエさんは大人しく水でも飲んでて下さい!
紗凪:うふふ、本当に黄泉くんは優男ねえ〜♪
黄泉:サナエさん!そろそろ、着きますよ!
紗凪:はぁ…はぁ……はぁ…もうヘトヘトぉーー。おぶってぇーー!!
黄泉:はぁ……し、仕方無いですね…しっかり、掴まってて下さいね。
紗凪:はぁ〜〜い♪えへへ♪
0:バックヤード。(流生IN魅剣IN黄泉OUT紗凪OUT)
流生:仮にヨミがバックれたら、俺はとある筋に持ち込む気でいる。
魅剣:リューセイ…お前、ここ、二ヶ月で変わっちまったな。…まるで別人に見える。
流生:ふん、何度も言うが俺がルールだ!従わぬ者には制裁を下す!
魅剣:…
魅剣:それで、まるるんは何を飲んでる?ミーティングの時に上げ無しとは言ったが、ボトルの一本くらいは空いたか?既に空いてしまってるのなら、最悪はカケにしようと思うんだが。
流生:いや、相変わらずの安酒だ。気になるなら、伝票を見てみろ。…無論、NEWボトルは入ってない。
魅剣:ふむ。元々キープしてる、焼酎と割り物のオレンジのみか。…やはり限界だな、あのババア。
流生:ウチの最低料金は、18000円。この劣悪な状況を抜け出さない限り、玉座から俺を叩き落とす事は到底、不可能だ。
魅剣:所詮は捨て駒だ。客のストックはある。余り、俺を見くびるなよ。
流生:ふん。俺のエースを呼んだら、お前は絶望するだろう。
魅剣:吐(ぬ)かせ。…そろそろ、まるるんの卓に向かう。
流生:まぁ精々、足掻(あが)けよ。
魅剣:ちっ…。
0:流生の携帯が鳴る。(魅剣OUT)
流生:もしもし。皐月(さつき)か?、店は何時に閉まる?
流生:ああ。今日が記念日だと言う事を忘れてないだろうな?
流生:分かっている。お前の望み通り、アフターには付き合ってやる。
流生:その代わり、エンジェル以上は卸(おろ)せ。これは、絶対条件だ。
流生:ああ、大丈夫だ。今宵のラストソングは貰ったも同然だ。
流生:終わり次第、連絡してくれ。下の子らのヘルプをしてくる。
流生:…(煙草を吸う)
0:A-1番テーブル、サーシャ卓。(蘭丸INサーシャIN流生OUT)
蘭丸:座席に埃(ほこり)が無いか、念入りにチェックするので、少々お待ちを。
サーシャ:きゃはは♪ほっんとーどうしちゃったのー?今日の蘭丸くん、何か変だお♪
蘭丸:はぁーあ!
サーシャ:なぁに、その構え〜♪マジうけるう♪
蘭丸:もう大丈夫!さあ、どうぞ!お掛け下さい。
サーシャ:ありがとん♪
蘭丸:どういたしまして。本日は何を飲みます?
サーシャ:うーん、鍛高譚(たんたかたん)が飲みたいかも〜!
蘭丸:了解でっす!……お願いしますー!!
0:注文を取りにボーイがやってくる。(ボーイIN)
ボーイ:ご注文をお伺い致します。
蘭丸:鍛高譚(たんたかたん)を宜しく!あ、チェイサーも忘れずにね。
ボーイ:畏まりました!少々、お待ち下さい。
サーシャ:お兄さんって、案外イケメンだお!
ボーイ:あ、ありがとございます。それでは、失礼します!
0:ボーイはその場を去る。(流生IN黄泉IN紗凪IN蘭丸OUTサーシャOUT)
ボーイ:あの、流生さん?A 1のお客様から鍛高譚(たんたかたん)を頼まれたのですが。
流生:ん?鍛高譚?(たんたかたん)ああ、その酒は右上のボトル棚にある。
ボーイ:…すみません、手が届きません…取って頂けませんか?
流生:はあ……使えねぇボーイだな。外から脚立(きゃたつ)を持って来い。
黄泉:大丈夫?僕が代わりに持って行くから、君は他の卓を回っておいで。
流生:お前は…!
黄泉:リューセイさん、遅くなってしまい、申し訳ありません。
流生:ふん……正直、尻尾を巻いて逃げ出したかと思っていたが、その華奢(きゃしゃ)な見た目に反して、肝が据(す)わってるな。……お前が戻って来たと言う事は約束通り、50人の客達を外で待たせているって事だな?
黄泉:それは…
紗凪:へぇ、貴方がリューセイくんね。
流生:な!?
流生:おい!お前ェー!お客様を裏に連れて来てんじゃねぇ!!
紗凪:待って!そう、頭ごなしに怒らないの。
流生:は?誰ですか、あんた。部外者は引っ込んでて、貰えますか。
黄泉:部外者じゃないですよ?この方は…
紗凪:ごめんなさい、すぐに出て行きますので。
流生:ふん…
黄泉:サナエさん!
流生:…(サナエだと!?)
紗凪:…ヨミくん、店の入り口で待機してるわね。
黄泉:はい。僕もすぐに向かいます!
流生:ぐぬ……ま、真人さんのエースを何故…お前が…!?
黄泉:えっと、、これには深い訳があると言うか……
流生:…
黄泉:りゅ、リューセイさん?
流生:あの客はVIPに通せ。俺の客、皐月(さつき)を迎えに行った後(のち)俺も着く。
黄泉:あの場所は正規の価格じゃ…
流生:安心しろ、あの女は太い。とっとと、行け!
黄泉:え?…あ!そ、それでは、失礼します!
流生:……っ。
流生:ヨミの奴、気付いて?!まさかな……一応、根回しをしておくか。
流生:くっ……誰であろうと、俺の邪魔はさせん!!
0:A -2番テーブル、まるるん卓。(凍夜IN魅剣INまるるんIN流生OUT黄泉OUTボーイOUT紗凪OUT)
まるるん:な、何なのよ!さっきから、あんたは!!
凍夜:まだ…不慣れで……
まるるん:はあ!?あんた、ホストを舐めてんの!?
凍夜:舐めてないです…
まるるん:じゃあ、何でさっきから一言も喋らないのよ!!イヤらしく、酒ばっかりチビチビ飲みやがって!!
まるるん:こちとら、高い金を払ってんのよ!!その意味が分かるー?!ええ!?
凍夜:謝る事しか出来ません…
まるるん:ミツルギーー!こいつ、NGーよ!NG!!早く、つまみ出して!!
凍夜:…
魅剣:おい!さっきからうるさいぞ、まるるん。他のお客様も居るんだから、静かにしろ。
まるるん:はあ?!あたしが悪い訳ぇ?!……ミツルギ、あんたもあんたよ!何時だと思ってんの?!もう……無理っ!チェックよ!!気分悪いわ!!
魅剣:いいから、バッグを置け!まるるん。
凍夜:ミツルギさん、私は…
魅剣:君は確か、トウヤくんだったか?有難う。ごちそうさまをして、抜けて大丈夫だ。
まるるん:…ちっ……(煙草に火を点ける)
凍夜:はい…分かりました…
凍夜:ゴクッゴクッゴクッ!……ごちそうさまです…
まるるん:…
まるるん:ミツルギ!今まで、何してたのよ?
魅剣:何って、目覚ましを掛け忘れて寝坊しただけだ。
まるるん:ふぅん?
魅剣:何だ、その疑いの目は。
まるるん:それなら、今後は遅刻しないよう、アタシが、モーニングコールをしてあげるわねえ?
魅剣:は?必要ない。
まるるん:それじゃあ、次はちゃんと起きれる訳ね?
魅剣:…(煙草を吸う)……善処しよう。
まるるん:必ずよ?
魅剣:ああ。……(煙草を吸う)
0:その頃、黄泉は。(蘭丸IN黄泉INサーシャIN魅剣OUT凍夜OUTまるるんOUT)
サーシャ:よ、ヨミくん!大丈夫なのかお??ミッタンから、それとなく話は聞いてたけど。
黄泉:サーシャさん、すみません。お騒がせしてしまい………あっ!こちら、鍛高譚(たんたかたん)です。大変、お待たせ致しました!
蘭丸:おお!ヨミくん、久しぶりぃ!戻ってきたんだね?待ってたよー!
サーシャ:ううん、気にしないしない!それより、後で着いてくれるのかおー?
黄泉:サーシャさん、蘭丸さん、本当に有難うございます!……はい、後で必ず着きますので!
サーシャ:ぇえー後で?今すぐじゃないのかお?
黄泉:あー、えっと……実は———素敵なお客様を待たせていて。
蘭丸:うぇ?!ヨミくん、暁美(あけみ)さんと連絡付いた感じ?
サーシャ:んーん?
黄泉:あ、いえ!僕の新しい………スペシャルなお客様です!
サーシャ:へぇー♪やるじゃあん♪
蘭丸:な、何だってー!?これは拙者もウカウカしてられないなー。……とにかく…おめでとさん!!
黄泉:あはは…有難うございます!…それでは、ごゆっくりどうぞ。
サーシャ:ふふーん♪まただお!
蘭丸:これからも精進(しょうじん)したまえよ♪
0:バックヤードに戻った凍夜。(流生IN凍夜IN蘭丸OUT黄泉OUTサーシャOUT)
凍夜:戻りました…
流生:トウヤか。まるるんがN Gを出したそうだな?まだ、初日とは言え、最低限のテーブルマナーも出来ないとは。……お前にはまだ接客は早かったか。ただでさえ、不協和音のまるるんの怒鳴り声がこちらまで聞こえてきた。
凍夜:あの、これでも私は…精一杯の気持ちで…対応したつもりなんですけど……
流生:あぁ?!
凍夜:な、なんでも無いです……
流生:…(煙草を吸う)
流生:言い訳すんなっ!
0:灰皿を投げつける。
凍夜:痛っ…!
流生:お前にやる気があるなら、講習の機会を設(もう)けてやる。明日空いてるか?知り合いのキャバクラに連れていってやる。
凍夜:キャバクラ?!…良いんですか?!
流生:は?勘違いしてるみたいだが、講習だと言ったよな?馬鹿高い金が動くんだ。店に一円も貢献出来てない、お前ごときの三流以下のホストに俺の善意で、女と戯れさせる訳がねえだろ。でも、安心しろ。お前を立派な、ホストに育ててやる。
流生:…地獄の社会勉強だ!
凍夜:いえ…ありがとうございます…!
流生:ふん…つくづく、変わってる奴だ。…(煙草を吸う)
流生:良いか?明日からみっちり、鍛えてやる!…生半可な覚悟なら、先に断った方が身の為だ。
凍夜:辞めません…!
流生:ほう、言い切ったな?…後で吠え面掻くなよ。
凍夜:だ、大丈夫です…
0:サナエの元に辿り着く、黄泉。(黄泉IN紗凪IN流生OUT凍夜OUT)
黄泉:サナエさん!すみません。長らく、お待たせてしまって…
紗凪:いいの。さ、行きましょ♪
黄泉:また、すぐに手を引っ張って…相変わらず、強引なんですから…あはは!
紗凪:うふふ、ヨミくんの可愛い反応が見たくてね♪
黄泉:何ですー、それ?
紗凪:ふふ、何でも無いわ♪さぁ、店の中に入りましょ。
黄泉:あ、いや!サナエさん、こっちです。僕に着いて来て下さい!
紗凪:あら…?ヨミくん、歩く度にお店がどんどん遠くなっていってる気がするのだけど……まさか、方向音痴発覚ー!?
黄泉:ち、違いますよ!…サナエさん、この先にあるエレベーターに乗って下さい。
紗凪:え?!エレベーターって…
黄泉:はい、最高級の一室です。
紗凪:ねぇ、ヨミくん…このエレベーターに続いてる場所って…
黄泉:はい。…思い出しました?
紗凪:ん、忘れもしないわ……
黄泉:…
紗凪:あ……!そんな暗い顔しないで?ごめんね、私はだいじょぶだから。
黄泉:それなら良いのですが……。あ、着いたようです!
紗凪:懐かしい……私は毎回、真人に此処へ連れて来られたわ。
黄泉:サナエさん…
紗凪:この通路を右に横切った先にある、黒い部屋よね?
黄泉:はい、通常の卓は赤で統一されていますが、このVIPルームは全面、黒です。何故、赤と黒に別れてるのかは…恐らく、マヒトさんの拘(こだわ)りなのかなと。
紗凪:なるほどね。…あーーそう言えば!…昔、喧嘩した時の穴は残っているかしら。
黄泉:穴ですか?
紗凪:そう、これは10年程前の話なんだけど、、真人と知り合って、間もない頃は喧嘩が絶えなかったの…。
黄泉:…
0:10年前の過去、VIPルームに座る二人。(真人IN黄泉OUT)
真人:サナエ。君は何故、僕の事を理解してくれないんだい?
紗凪:貴方がどうしようもない、分からずやだからよ!…毎回、毎回、高級な部屋ばかりに招待して!
真人:いや、僕は、君を想って……!
紗凪:知らないっ!どうせ、貴方も他店のホストみたいに私の事を財布として見てるんでしょ!
真人:ち、違う!僕は…誰にも邪魔をさせないように、君との二人っきりの空間を演出したく…
紗凪:何よ、それ。口を開く度に綺麗事ばかり並べて!…結局は貴方もそこら辺にいる、性悪のクズホストと一緒よ!…この部屋に入るだけで50000円よ?大金なのよ!?…私はただのOLなの!…手取り、たったの17万円なのよ?…私が何を言いたいのか分かる?ねえ?!
紗凪:それでも、貴方の為に自らの食費を削ったり、自分の欲しい物も極力、買わずに控えて!
真人:サナエ…っ!!
0:力を込めた平手打ち。
紗凪:さ、最低…よ。散々、お金を使わせて…挙げ句の果てに暴力…?!
真人:ご、ごめん…!サナエ、君に手を上げるつもりは無かったんだ……
紗凪:もういい!…終わりよ、何もかも。………もう連絡して来ないで!!
真人:…っ!
0:両手で頭を押さえ付けた後、俯く。
紗凪:さよなら。(VIPルームから目元を抑えて出ていく。)
真人:……うおああああ!!
0:色々な感情が入り混じり、錯乱する。
0:現代、VIPルームへ続く、通路。(黄泉IN真人OUT)
紗凪:…
0:目頭に混み上げてくる涙を手で拭う。
黄泉:もう良いです…止めましょう、これ以上、サナエさんの辛い顔を見たくない…
紗凪:ヨミくん……だいじょぶよ、ありがと。……続けても良いかしら?
黄泉:はい。
紗凪:ふふ。
紗凪:私から彼を非難してしまった手前、連絡は一切、取ろうとは思わなかったわ。…本当の自分の気持ちに嘘を吐(つ)き、錠(じょう)を掛けてね。そのまま時間だけが虚しく過ぎていき……気付けば一年程、経過してたの。
黄泉:…
紗凪:私ね、恋愛ドラマをよく観るの。今思えば、きっかけが欲しかったんだなって…その日も近所のDVDショップで何気なく借りて、観賞してたつもりだったんだけど…たまたま、出てきた登場人物が私と彼の状況に酷似(こくじ)していたの。
黄泉:なるほど…それで、どうしたんですか?
紗凪:うん、そのドラマのお陰で長年、内に秘めてた想いを揺り起こすスパイスとなり、勇気を振り絞って、彼にコールをしたわ。
黄泉:…
0:一年前のとある夜。(真人IN黄泉OUT)
真人:もしもしー。お電話、有難うございます!CLUB、ブランディッシュで御座います。本日はどういった御用件でしょうか?……はい、はい…その声は……!さ、サナエ!?…本当にサナエなのかい…?!
紗凪:ええ、私よ。
真人:でも、君は……
紗凪:ええ、真人の言いたい事は分かる。私の方から一方的に別れを告げたのに、今更戻ってきて、随分と傲慢な女だなと、貴方は私を軽蔑するでしょうね…ごめんなさい。
真人:そんな事ない…!僕はずっと君を…
紗凪:マヒト?
真人:僕は君に比べて、臆病者さ。例え、前向きになれるキッカケを与えられたとしても、行動に移す事は出来なかった。でも、君は本当に…強いね。
紗凪:…。私を許してくれるの?
真人:許すも何も、君を傷付けていたのは僕だよ。…謝るべきなのは…寧ろ、僕の方…
紗凪:それ以上、言わないで。…私から身勝手に離れた癖に図々しいかも知れないけど、もう一度やり直せないかな?
真人:うん、君がそう望むなら。
紗凪:真人…!…今から会える?
真人:勿論だよ!でも、5分だけ待って欲しい!一年ぶりに会うのに寝癖のままだと、格好付かないからね。
紗凪:ううん、カッコつけなくていいの。…私は自然な、等身大の貴方が大好きなの。
真人:サナエ…
紗凪:お店の下で、待ってるわ。
真人:うん、すぐ行く!
紗凪:うぅ……寒い…もう12月かあ…今年のクリスマスは何を贈ろうかなあ。
紗凪:遅いなあ…真人……身だしなみを整えてるのかな。そんなに気を遣わなくても良いのに…
真人:ご、ごめんよ!遅くなった!
紗凪:だいじょぶ、いこっ♪
真人:ちょ、そんなに強く手を引っ張ったら抜けちゃうよ?!…うわぁあーー!!
紗凪:ほらほらあ、早くー!私達の想い出の場所に向かいましょう♪
真人:サナエ、あの場所は君の事をまた傷付けて…
紗凪:だいじょぶ♪今度はいっぱい稼いで来たから。
真人:え?!確か、以前はOLだったよね?もしかして、役職でも付いたりした??
紗凪:ううん、OLは半年前に辞めてるわ。
真人:じゃあ…?
紗凪:私ね、現在は風俗で働いてるの。
真人:…!
紗凪:ふふ、驚いた?
真人:あ、いや……
紗凪:うん…正直、最初は怖かった。…でも、今はNo.に入るくらいには稼げてるのよ?えへん♪
真人:…
紗凪:ま、真人??
真人:あ、ごめん…!…取り敢えず、着いてから話そうか。
紗凪:うん?そうね!
紗凪:…
真人:…(僕が狂わせてしまった…彼女の人生を……)
真人:さ、着いたよ!
紗凪:んーん、本当に懐かしいなあ。
真人:うん。さぁ、行こう!
紗凪:ええ♪
真人:あーー!やばいっ!
紗凪:どうしたの?何か、忘れ物でもした?
真人:うーん、忘れ物って言うか…触れられたくないものがあると言うか…
紗凪:何よ?ハッキリ言って。
真人:まぁ、入ったら分かるさ。あはは…
紗凪:えーー?…変な真人ー!
真人:うーん、、何があっても、お、驚かないって約束してくれる?
紗凪:えーなになに?!
真人:開けるよ?
紗凪:うん。
0:カチャカチャ。
紗凪:あぇええええーーー!?(驚愕)
真人:あは…あはは…
紗凪:こ、この穴はどうしたのよー!?
真人:実はね…あの喧嘩の後、理性が保てなくなった僕は勢い余って、椅子をぶん投げてしまったんだ…それでこの有様。…あはは…
紗凪:なるほどね…だから妙に言い淀(よど)んでいたのね?…それにしてもー、すごく大きな穴ね。赤ん坊くらいの大きさなら、すっぽり埋まりそう。
真人:あは…恥ずかしいから!…余り、見ないでくれないかな。
紗凪:うーん、、気にしないでって言う方が無理あるわよ?だって、あからさまだもの。
真人:で、ですよねー?あはは…
紗凪:それでね、さっきの話の続きなんだけど———私、まったく後悔してないの。
真人:…
紗凪:ホストとお客って関係でも貴方の事をこれからも支えたいの。……当時は心に余裕が無かったせいか、割り切れなくて、臆病風に吹かされて、逃げちゃったけどね…
真人:サナエ……!
紗凪:…ま、真人!?
真人:ありがとう…ありがとう…ありがとう…!(涙目)
紗凪:もうー!相変わらず、泣き虫ね……ふふ。
0:現代、VIPルームの扉前。(黄泉IN真人OUT)
黄泉:マヒトさん、本当に心根(こころね)の良い方だったんですね!若干、不器用な所もありますけど。
紗凪:うん、その辺りがヨミくんに凄い似てるでしょ?
黄泉:はい。正直…最初は僕みたいな人がそんなに居てもプラスの要素にならないんじゃ?……とか思いましたけど……不思議ですね。今はもっと似てる部分を欲してしまうくらい、嬉しさが増してきてる、自分が居ます。
紗凪:ふふ。あ、着いたみたいよ。早く、中へ入りましょ!
黄泉:はい。
紗凪:わぁあーー!このソファーも、この大穴もあの時と全く変わらないわね。
黄泉:サナエさん、実は…僕この部屋の事について、詳しく知っているんです。
紗凪:へ?どういう事??
黄泉:僕がブランディッシュに来て一月(ひとつき)が経過した頃なんですけど…
黄泉:店の準備をしてる時に偶然、耳にしちゃったんです…
0:過去の待機室。(流生IN魅剣IN黄泉OUT紗凪OUT)
流生:なあ、ミツルギ!マヒトさんが作ったVIPルームの裏話って知ってるか?
魅剣:はあ?何だ、そりゃ。
流生:あのVIPルームってさー通常卓から、妙に離れてんだろ?
魅剣:ああ、言われてみればな。
流生:気になって、マヒトさんに聞いてみたんだよ。
魅剣:は?それは、いつ頃の話なんだ?
流生:丁度、6年くらい前の話だ。俺とお前が、初めて100万以上を売り上げた、記念すべき日って言えば分かりやすいか?
魅剣:ああ、覚えてるぜ!懐かしいな。お互い、一夜にして、100万の売り上げを叩き出して。マヒトさんに頭撫(な)でられたな。…今、思い返してみたら、、ありゃあ、奇跡だったんだろうな。
流生:想い出に浸(ひた)ってる中、すまんが。…その話は置いといてだな…
魅剣:あ、そうだったなー!今はマヒトさんの秘密の過去についてだったな。…悪い、脱線させるところだったぜ。
流生:気を付けてくれよ?お前の悪い癖だからな。
魅剣:へいへい。…それで、マヒトさんの裏話とは何だ?
流生:ミツルギ!少し、長くなるかも知れないが、飽きてくれるなよ?
魅剣:良いから、話せ。
流生:ああ。
0:6年前の社長室。(真人IN魅剣OUT)
流生:マヒトさん、ちょっと聞きたい事があるんですけど…今って、時間あります?
真人:ん?どうしたんだい?リューセイ。
流生:店の外にVIPルームがあるじゃないですか?何で、あんなに離れてるんです?
真人:ああ、その事かい。それはね、スペシャルなお客様へのプレゼントなんだよね。
流生:スペシャルなプレゼント??
真人:そうさ。その証拠に、他のお客様には一切、使わせた事が無いだろう?
流生:あーー言われてみれば。
真人:彼女はね、私が崖っぷち時代を支えてくれた救世主、いや、天使なんだよ。
流生:え?天使!?随分とスケールのデカい話ですね。
真人:当時、うだつが上がらなかった私の食事はパンの耳だったんだ。
流生:…
真人:いつものように道端でパンの耳を齧(かじ)り、途方に暮れていたら、目の前に全身、黒い衣服を身に纏(まと)った天使が現れたんだよ。
流生:マヒトさんにもそんな時代があったなんて。
真人:彼女は私に気付くなり、微笑み「足ります?」と言い放った後…
0:真人の秘密。(紗凪IN流生OUT)
紗凪:ふふ、足ります?
真人:足りません…
紗凪:私、まだバイトの身なので…高級焼肉店級の贅沢はさせてあげられませんけど……良かったら今から、ラーメン屋さんに行きませんか?
真人:え?
紗凪:栄養失調で倒れでもしたら大変ですよ?
真人:でも、僕は見ず知らずの赤の他人で…
紗凪:そんなの関係ないです!確かに、この世界は冷たい人ばかりです。困った人がいたとしても、手を差し延べる事は無く、見て見ぬ振りをする人が大半で———私も過去に貴方と同様、見知らぬ方に助けられたんです。
真人:え、貴女も??
紗凪:あ、私の名前はサナエっていいます!
真人:僕はマヒトです!
紗凪:それって本名?、、薄汚れたスーツ……お兄さん、さてはホストさんでしょ?
真人:えっ?!何で、分かったんですか?
紗凪:私を助けてくれた方も、お兄さんと同じでワックスでガチガチに固めた、ハリネズミみたいにトゲトゲ頭のホストさんだったから。
真人:は、ハリネズミって?!
紗凪:あはは。さあ、行きましょ♪ここから、2分も掛からない場所に私の行き付けの、美味しいラーメン屋さんがあるの。
真人:は、はい!お願いします。
紗凪:ふふ、お兄さん、本当にホストさん?その割には凄く、口下手なんですね。
真人:えぁ?!あ…すみません。
紗凪:お兄さんの事、マヒトさんって呼んでも良いですか?
真人:はい!お願いします!
紗凪:だから、硬いですって!あははっ!
真人:あは…あはは…
紗凪:マヒトさんって、まだ新人さん?
真人:あ、まぁ…バレちゃいました?
紗凪:バレバレですよ。…さっきから私と目線合わないし、挙動不審で、とってもぎこちないから…
真人:はは、サナエさんの方がよっぽど向いてそうですね。……僕、ホスト向いてないのかなあって…思う時があるんです。
紗凪:…
真人:親の反対を押し切って、田舎から上京しホストになったのですが、、まだ一本も指名が取れてなくて…
紗凪:そうだったんですね…
真人:あ、、ああー!!す、すみません!…退屈ですよね…こんな話。
紗凪:ううん、そんな事無い!…応援してあげたい。
真人:あ、いや、気持ちだけでも嬉しいです!
紗凪:あのー私がもし……マヒトさんを指名したら、いっぱい構ってくれます?
真人:えぇ?!でもまだ見たところ、若そうだし、アンダーですよね?
紗凪:はい、18歳です。でも…こう見えてバイトだって、ちゃんとしてますよ?
真人:さすがに…
紗凪:私、本気ですよ?…でも、その時はマヒトさんも本気で私の事を構って下さいね。…じゃないと…拗(す)ねちゃいますから。
真人:は、はい!
紗凪:あれぇー?これって、契約成立かな??あはは!
真人:契約って…
紗凪:あ、マヒトさん、見て下さい!このゆるい鶏(にわとり)のキャラが描かれた看板の横のお店が、私の行き付けの風来神(ふうらいしん)って言うラーメン屋さんです。
真人:なるほどーとても可愛いらしい鶏の絵ですね♪
紗凪:そうでしょ?中のお兄さんも気さくな人で、とても優しいんです!ちょっと額に傷があったりして、強面だけど……
真人:ぇえ!?や、ヤクザ!?
紗凪:ち、違います!そういった、偏見は良くないですよー?
真人:あぁー、す、すみません!チキンなもので…
紗凪:あはは、冗談です。さ、寒くて凍え死にそうだし、中に入りましょ♪
真人:はい!
0:ラーメン屋、風来神前(店主IN)
店主:いらっしゃいー!好きな席に座って!
紗凪:お兄さん、ひっさしぶりー!んーー♪美味しそうな匂い♪
店主:おお、サナエちゃん!いつも有難うな!んー?…隣にいる、色男はサナエちゃんの彼氏か?青春だなあ!!
紗凪:そ、そんなんじゃないです!
真人:え…そ、そこまで否定しなくても…
店主:はははー!お熱いねえ!
紗凪:もう、揶揄(からか)わないで下さい!
店主:ごめんよ!ま、お詫びにサービスしとくよ!ウチの自慢の味玉、二つをお兄さんからのプレゼントだ。
真人:え、良いんですか?ありがとうございます!
紗凪:お兄さん、ありがと♪
店主:はは、良いって事よ。…ゆっくり選びなー!注文する物が決まったら、大きな声で呼んでくれよ!
真人:はい!
紗凪:りょーかぁい!
紗凪:はい、メニュー。
真人:ありがとうございます。サナエさん。
紗凪:うーん、真人さん、何にします〜?個人的にオススメなのが、味噌バターチャーシュー麺、炙り醤油の鳥ラーメン、ねぎたっぷりあっさり塩ラーメンなんですけど。
真人:えっと、僕はこのメニューの一番下にある、半ラーメンで大丈夫です。
紗凪:えー?!絶対、足りないでしょ!?全然、遠慮しなくても大丈夫ですよ?好きなのを頼んで下さいね!
真人:じゃあーー……サナエさんと同じものをお願いします。
紗凪:はぁい!…じゃあ、私は味噌が好きだから、味噌バターチャーシュー麺にしようかなあ。
真人:味噌、良いですよね!
紗凪:お兄さーーーん!
店主:お待たせ、何が食べたいのかな?
紗凪:味噌バターチャーシュー麺を二人前、お願いします!
店主:味噌バターチャーシュー麺ね。了解!
店主:味噌バターチャーシュー麺、二丁!!
紗凪:真人さん、さっきからお腹鳴ってますよ?可愛い♪
真人:あ……お恥ずかしい…
紗凪:ふふ。
真人:あはは。
紗凪:ね、マヒトさん、そろそろ敬語やめませんか?
真人:はい!
紗凪:だから、それも敬語だってえ!
真人:あっ…そっか。(苦笑)
店主:はい、お待たせぇー!熱いから、気を付けてよー!それと、おまけの味玉二つね。
紗凪:ありがと、お兄さん!……わぁあ!!チャーシューが肉厚で大きい。
真人:じゅるる…うん、スープも濃厚でとても美味しい!何だか、全身が暖まるね♪
紗凪:うん、もう12月に差し掛かったし、寒むくなってきたよね。……あー、12月と言えば!クリスマスどうしよっかなあ…つるるる!
真人:うーん…僕はクリスマスも関係なく、仕事だろうなあ…
紗凪:じゃあ、ケーキを作って、お店に持っていってあげる!
真人:え?!悪いよ、無理しないで?
紗凪:無理なんかしてない!私がしたいから、するの。
真人:ありがとう!サナエさん。
紗凪:どういたしまして♪さ、冷めない内に食べないとね!
真人:そうだね♪
0:回想終わり。(流生IN紗凪OUT店主OUT)
真人:りゅ、リューセイ?!涙で、メイクが取れてるよ?はい、おしぼり。
流生:……あ、ありがとうございます。…ぅう……何て、いい話……
真人:はは、大袈裟だな。…その後(ご)彼女は約束通り、店に通ってくれて…ゆくゆくは私のエースになってくれたんだよ。
流生:へぇーー正に天使ですね。
真人:彼女との出逢った頃により、軌道(きどう)に乗って来た私は、色々なお客様から頂いた売上金をコツコツと貯めて、念願の彼女専用のVIPルームがついに完成したんだ。
流生:サナエさん専用のVIPルームですか。何つーか…とてもロマンチックですね!
真人:ははは!未だに、彼女には伝えられてないけどね。
流生:何で、伝えないんです?
真人:うーん…売上金って言っても、その殆(ほとん)どが彼女からの援助だからね。
流生:あ……
真人:でも、いつかは伝えようと思う。
流生:はい、きっと理解してくれますよ!
真人:はは、有難うね♪
真人:さ、今日も頑張ろう!
流生:はい!
0:黄泉の回想に戻る。(魅剣IN真人OUT)
魅剣:なるほどな。マヒトさんはやっぱり、偉大なお方だ。
流生:ああ。さ、そろそろオープンだ!
魅剣:おう。黄泉ー!トイレ掃除終わったか?
黄泉:はい、ミツルギさん!良かったら、確認して下さい!
黄泉M:ふぅ、ビックリしたぁ…急に話しかけて来ないでよ…
0:現代、VIPルームにて隣に座る、黄泉と紗凪。(黄泉IN紗凪IN流生OUT魅剣OUT)
紗凪:!!…だから、全ての物が当時のままなのね……何で、そんな大事な事……もっと早くに教えてくれなかったのよ……ま、真人。…ぅう……!(涙)
黄泉:サナエさん…
0:三章に続く。
夜光蟲(やこうちゅう)
人数比、5/2
登場人物
流生(りゅーせい)♂27歳。ブランディッシュのNo.1で社長。1000万prayer保持者。残忍で冷酷。
魅剣(みつるぎ)♂27歳。ブランディッシュのNo.2。寡黙だが、面倒見が良く優しい。(店主と兼任推奨。)
蘭丸(らんまる)♂23歳。バイトとは思えない会話力。個性強め。見てる、アニメの影響からか、度々、口調が芝居かがる事が多い。(凍夜と兼任推奨。ボーイと兼任推奨。)
黄泉(よみ)♂20歳。保証期間を終えた、三ヶ月目の駆け出しホスト。癒し系で、内向的。
真人(まひと)♂40歳。故人。4年前に客に刺され、即死。生前はブランディッシュの経営者。
凍夜(とうや)♂22歳。入店初日の、ど新人。根暗で、オドオドしている。酒を飲み過ぎると…
サーシャ♀25歳。魅剣の客。見た目はギャル。性欲が強い。(まるるんと兼任推奨。)
まるるん♀55歳。魅剣の客。若い男にチヤホヤされたいBBA。ブルガリの香水が鼻を刺す。
紗凪(さなえ)♀38歳。キーパーソン。ひょんな事から、黄泉と出会った。何か訳有りの様だが。
ボーイ♂♀CLUBブランディッシュの黒服。低姿勢で、仕事は着実にこなすが、低身長と言う欠点がある。
店主♂♀ラーメン屋、風来神(ふうらいしん)の大将。気さくで、思い遣りがある。
⚠︎モブの店主、ボーイ。基本自由に演じて下さい。セリフ改変、性別変更も可です⚠︎
————以下本編————
凍夜:第二章、君だけのサプライズ。(蘭丸INサーシャIN)
蘭丸:いらっしゃいませー!ブランディッシュにようこそ!
サーシャ:んーうん?蘭丸くんじゃない!髪染めたのかおー?
蘭丸:はい、イメチェンってヤツでっす!…似合いますう?
サーシャ:うんうん、蘭丸くんの銀髪、とても良いお♪2次元の世界から飛び出してきたみたい!
蘭丸:ははは、大袈裟すよー!
サーシャ:蘭丸くん、あたし、もう喉がカラカラ〜早く案内をお願いだお。
蘭丸:はっ!この蘭丸めが責任を持って、エスコート致しましょう!
サーシャ:え!なぁに、そのキャラ?ウケる〜!きゃははは♪
0:焼肉屋を出た二人。(紗凪IN黄泉INサーシャOUT蘭丸OUT)
紗凪:…うぷ……ヴェエェェエ!
0:盛大に吐き散らかす。
黄泉:さ、サナエさん!?だ、大丈夫ですか?!
紗凪:…ええ、もう大丈夫よ。介抱してくれて、ありがとね♪
黄泉:いえいえ。あ、僕の卓では絶対に!お酒は飲まないで下さいね!
紗凪:あらあ?余計な気を回さなくてもいいのに。
黄泉:だ、駄目です!!その分、僕が責任持って、飲みます。サナエさんは大人しく水でも飲んでて下さい!
紗凪:うふふ、本当に黄泉くんは優男ねえ〜♪
黄泉:サナエさん!そろそろ、着きますよ!
紗凪:はぁ…はぁ……はぁ…もうヘトヘトぉーー。おぶってぇーー!!
黄泉:はぁ……し、仕方無いですね…しっかり、掴まってて下さいね。
紗凪:はぁ〜〜い♪えへへ♪
0:バックヤード。(流生IN魅剣IN黄泉OUT紗凪OUT)
流生:仮にヨミがバックれたら、俺はとある筋に持ち込む気でいる。
魅剣:リューセイ…お前、ここ、二ヶ月で変わっちまったな。…まるで別人に見える。
流生:ふん、何度も言うが俺がルールだ!従わぬ者には制裁を下す!
魅剣:…
魅剣:それで、まるるんは何を飲んでる?ミーティングの時に上げ無しとは言ったが、ボトルの一本くらいは空いたか?既に空いてしまってるのなら、最悪はカケにしようと思うんだが。
流生:いや、相変わらずの安酒だ。気になるなら、伝票を見てみろ。…無論、NEWボトルは入ってない。
魅剣:ふむ。元々キープしてる、焼酎と割り物のオレンジのみか。…やはり限界だな、あのババア。
流生:ウチの最低料金は、18000円。この劣悪な状況を抜け出さない限り、玉座から俺を叩き落とす事は到底、不可能だ。
魅剣:所詮は捨て駒だ。客のストックはある。余り、俺を見くびるなよ。
流生:ふん。俺のエースを呼んだら、お前は絶望するだろう。
魅剣:吐(ぬ)かせ。…そろそろ、まるるんの卓に向かう。
流生:まぁ精々、足掻(あが)けよ。
魅剣:ちっ…。
0:流生の携帯が鳴る。(魅剣OUT)
流生:もしもし。皐月(さつき)か?、店は何時に閉まる?
流生:ああ。今日が記念日だと言う事を忘れてないだろうな?
流生:分かっている。お前の望み通り、アフターには付き合ってやる。
流生:その代わり、エンジェル以上は卸(おろ)せ。これは、絶対条件だ。
流生:ああ、大丈夫だ。今宵のラストソングは貰ったも同然だ。
流生:終わり次第、連絡してくれ。下の子らのヘルプをしてくる。
流生:…(煙草を吸う)
0:A-1番テーブル、サーシャ卓。(蘭丸INサーシャIN流生OUT)
蘭丸:座席に埃(ほこり)が無いか、念入りにチェックするので、少々お待ちを。
サーシャ:きゃはは♪ほっんとーどうしちゃったのー?今日の蘭丸くん、何か変だお♪
蘭丸:はぁーあ!
サーシャ:なぁに、その構え〜♪マジうけるう♪
蘭丸:もう大丈夫!さあ、どうぞ!お掛け下さい。
サーシャ:ありがとん♪
蘭丸:どういたしまして。本日は何を飲みます?
サーシャ:うーん、鍛高譚(たんたかたん)が飲みたいかも〜!
蘭丸:了解でっす!……お願いしますー!!
0:注文を取りにボーイがやってくる。(ボーイIN)
ボーイ:ご注文をお伺い致します。
蘭丸:鍛高譚(たんたかたん)を宜しく!あ、チェイサーも忘れずにね。
ボーイ:畏まりました!少々、お待ち下さい。
サーシャ:お兄さんって、案外イケメンだお!
ボーイ:あ、ありがとございます。それでは、失礼します!
0:ボーイはその場を去る。(流生IN黄泉IN紗凪IN蘭丸OUTサーシャOUT)
ボーイ:あの、流生さん?A 1のお客様から鍛高譚(たんたかたん)を頼まれたのですが。
流生:ん?鍛高譚?(たんたかたん)ああ、その酒は右上のボトル棚にある。
ボーイ:…すみません、手が届きません…取って頂けませんか?
流生:はあ……使えねぇボーイだな。外から脚立(きゃたつ)を持って来い。
黄泉:大丈夫?僕が代わりに持って行くから、君は他の卓を回っておいで。
流生:お前は…!
黄泉:リューセイさん、遅くなってしまい、申し訳ありません。
流生:ふん……正直、尻尾を巻いて逃げ出したかと思っていたが、その華奢(きゃしゃ)な見た目に反して、肝が据(す)わってるな。……お前が戻って来たと言う事は約束通り、50人の客達を外で待たせているって事だな?
黄泉:それは…
紗凪:へぇ、貴方がリューセイくんね。
流生:な!?
流生:おい!お前ェー!お客様を裏に連れて来てんじゃねぇ!!
紗凪:待って!そう、頭ごなしに怒らないの。
流生:は?誰ですか、あんた。部外者は引っ込んでて、貰えますか。
黄泉:部外者じゃないですよ?この方は…
紗凪:ごめんなさい、すぐに出て行きますので。
流生:ふん…
黄泉:サナエさん!
流生:…(サナエだと!?)
紗凪:…ヨミくん、店の入り口で待機してるわね。
黄泉:はい。僕もすぐに向かいます!
流生:ぐぬ……ま、真人さんのエースを何故…お前が…!?
黄泉:えっと、、これには深い訳があると言うか……
流生:…
黄泉:りゅ、リューセイさん?
流生:あの客はVIPに通せ。俺の客、皐月(さつき)を迎えに行った後(のち)俺も着く。
黄泉:あの場所は正規の価格じゃ…
流生:安心しろ、あの女は太い。とっとと、行け!
黄泉:え?…あ!そ、それでは、失礼します!
流生:……っ。
流生:ヨミの奴、気付いて?!まさかな……一応、根回しをしておくか。
流生:くっ……誰であろうと、俺の邪魔はさせん!!
0:A -2番テーブル、まるるん卓。(凍夜IN魅剣INまるるんIN流生OUT黄泉OUTボーイOUT紗凪OUT)
まるるん:な、何なのよ!さっきから、あんたは!!
凍夜:まだ…不慣れで……
まるるん:はあ!?あんた、ホストを舐めてんの!?
凍夜:舐めてないです…
まるるん:じゃあ、何でさっきから一言も喋らないのよ!!イヤらしく、酒ばっかりチビチビ飲みやがって!!
まるるん:こちとら、高い金を払ってんのよ!!その意味が分かるー?!ええ!?
凍夜:謝る事しか出来ません…
まるるん:ミツルギーー!こいつ、NGーよ!NG!!早く、つまみ出して!!
凍夜:…
魅剣:おい!さっきからうるさいぞ、まるるん。他のお客様も居るんだから、静かにしろ。
まるるん:はあ?!あたしが悪い訳ぇ?!……ミツルギ、あんたもあんたよ!何時だと思ってんの?!もう……無理っ!チェックよ!!気分悪いわ!!
魅剣:いいから、バッグを置け!まるるん。
凍夜:ミツルギさん、私は…
魅剣:君は確か、トウヤくんだったか?有難う。ごちそうさまをして、抜けて大丈夫だ。
まるるん:…ちっ……(煙草に火を点ける)
凍夜:はい…分かりました…
凍夜:ゴクッゴクッゴクッ!……ごちそうさまです…
まるるん:…
まるるん:ミツルギ!今まで、何してたのよ?
魅剣:何って、目覚ましを掛け忘れて寝坊しただけだ。
まるるん:ふぅん?
魅剣:何だ、その疑いの目は。
まるるん:それなら、今後は遅刻しないよう、アタシが、モーニングコールをしてあげるわねえ?
魅剣:は?必要ない。
まるるん:それじゃあ、次はちゃんと起きれる訳ね?
魅剣:…(煙草を吸う)……善処しよう。
まるるん:必ずよ?
魅剣:ああ。……(煙草を吸う)
0:その頃、黄泉は。(蘭丸IN黄泉INサーシャIN魅剣OUT凍夜OUTまるるんOUT)
サーシャ:よ、ヨミくん!大丈夫なのかお??ミッタンから、それとなく話は聞いてたけど。
黄泉:サーシャさん、すみません。お騒がせしてしまい………あっ!こちら、鍛高譚(たんたかたん)です。大変、お待たせ致しました!
蘭丸:おお!ヨミくん、久しぶりぃ!戻ってきたんだね?待ってたよー!
サーシャ:ううん、気にしないしない!それより、後で着いてくれるのかおー?
黄泉:サーシャさん、蘭丸さん、本当に有難うございます!……はい、後で必ず着きますので!
サーシャ:ぇえー後で?今すぐじゃないのかお?
黄泉:あー、えっと……実は———素敵なお客様を待たせていて。
蘭丸:うぇ?!ヨミくん、暁美(あけみ)さんと連絡付いた感じ?
サーシャ:んーん?
黄泉:あ、いえ!僕の新しい………スペシャルなお客様です!
サーシャ:へぇー♪やるじゃあん♪
蘭丸:な、何だってー!?これは拙者もウカウカしてられないなー。……とにかく…おめでとさん!!
黄泉:あはは…有難うございます!…それでは、ごゆっくりどうぞ。
サーシャ:ふふーん♪まただお!
蘭丸:これからも精進(しょうじん)したまえよ♪
0:バックヤードに戻った凍夜。(流生IN凍夜IN蘭丸OUT黄泉OUTサーシャOUT)
凍夜:戻りました…
流生:トウヤか。まるるんがN Gを出したそうだな?まだ、初日とは言え、最低限のテーブルマナーも出来ないとは。……お前にはまだ接客は早かったか。ただでさえ、不協和音のまるるんの怒鳴り声がこちらまで聞こえてきた。
凍夜:あの、これでも私は…精一杯の気持ちで…対応したつもりなんですけど……
流生:あぁ?!
凍夜:な、なんでも無いです……
流生:…(煙草を吸う)
流生:言い訳すんなっ!
0:灰皿を投げつける。
凍夜:痛っ…!
流生:お前にやる気があるなら、講習の機会を設(もう)けてやる。明日空いてるか?知り合いのキャバクラに連れていってやる。
凍夜:キャバクラ?!…良いんですか?!
流生:は?勘違いしてるみたいだが、講習だと言ったよな?馬鹿高い金が動くんだ。店に一円も貢献出来てない、お前ごときの三流以下のホストに俺の善意で、女と戯れさせる訳がねえだろ。でも、安心しろ。お前を立派な、ホストに育ててやる。
流生:…地獄の社会勉強だ!
凍夜:いえ…ありがとうございます…!
流生:ふん…つくづく、変わってる奴だ。…(煙草を吸う)
流生:良いか?明日からみっちり、鍛えてやる!…生半可な覚悟なら、先に断った方が身の為だ。
凍夜:辞めません…!
流生:ほう、言い切ったな?…後で吠え面掻くなよ。
凍夜:だ、大丈夫です…
0:サナエの元に辿り着く、黄泉。(黄泉IN紗凪IN流生OUT凍夜OUT)
黄泉:サナエさん!すみません。長らく、お待たせてしまって…
紗凪:いいの。さ、行きましょ♪
黄泉:また、すぐに手を引っ張って…相変わらず、強引なんですから…あはは!
紗凪:うふふ、ヨミくんの可愛い反応が見たくてね♪
黄泉:何ですー、それ?
紗凪:ふふ、何でも無いわ♪さぁ、店の中に入りましょ。
黄泉:あ、いや!サナエさん、こっちです。僕に着いて来て下さい!
紗凪:あら…?ヨミくん、歩く度にお店がどんどん遠くなっていってる気がするのだけど……まさか、方向音痴発覚ー!?
黄泉:ち、違いますよ!…サナエさん、この先にあるエレベーターに乗って下さい。
紗凪:え?!エレベーターって…
黄泉:はい、最高級の一室です。
紗凪:ねぇ、ヨミくん…このエレベーターに続いてる場所って…
黄泉:はい。…思い出しました?
紗凪:ん、忘れもしないわ……
黄泉:…
紗凪:あ……!そんな暗い顔しないで?ごめんね、私はだいじょぶだから。
黄泉:それなら良いのですが……。あ、着いたようです!
紗凪:懐かしい……私は毎回、真人に此処へ連れて来られたわ。
黄泉:サナエさん…
紗凪:この通路を右に横切った先にある、黒い部屋よね?
黄泉:はい、通常の卓は赤で統一されていますが、このVIPルームは全面、黒です。何故、赤と黒に別れてるのかは…恐らく、マヒトさんの拘(こだわ)りなのかなと。
紗凪:なるほどね。…あーーそう言えば!…昔、喧嘩した時の穴は残っているかしら。
黄泉:穴ですか?
紗凪:そう、これは10年程前の話なんだけど、、真人と知り合って、間もない頃は喧嘩が絶えなかったの…。
黄泉:…
0:10年前の過去、VIPルームに座る二人。(真人IN黄泉OUT)
真人:サナエ。君は何故、僕の事を理解してくれないんだい?
紗凪:貴方がどうしようもない、分からずやだからよ!…毎回、毎回、高級な部屋ばかりに招待して!
真人:いや、僕は、君を想って……!
紗凪:知らないっ!どうせ、貴方も他店のホストみたいに私の事を財布として見てるんでしょ!
真人:ち、違う!僕は…誰にも邪魔をさせないように、君との二人っきりの空間を演出したく…
紗凪:何よ、それ。口を開く度に綺麗事ばかり並べて!…結局は貴方もそこら辺にいる、性悪のクズホストと一緒よ!…この部屋に入るだけで50000円よ?大金なのよ!?…私はただのOLなの!…手取り、たったの17万円なのよ?…私が何を言いたいのか分かる?ねえ?!
紗凪:それでも、貴方の為に自らの食費を削ったり、自分の欲しい物も極力、買わずに控えて!
真人:サナエ…っ!!
0:力を込めた平手打ち。
紗凪:さ、最低…よ。散々、お金を使わせて…挙げ句の果てに暴力…?!
真人:ご、ごめん…!サナエ、君に手を上げるつもりは無かったんだ……
紗凪:もういい!…終わりよ、何もかも。………もう連絡して来ないで!!
真人:…っ!
0:両手で頭を押さえ付けた後、俯く。
紗凪:さよなら。(VIPルームから目元を抑えて出ていく。)
真人:……うおああああ!!
0:色々な感情が入り混じり、錯乱する。
0:現代、VIPルームへ続く、通路。(黄泉IN真人OUT)
紗凪:…
0:目頭に混み上げてくる涙を手で拭う。
黄泉:もう良いです…止めましょう、これ以上、サナエさんの辛い顔を見たくない…
紗凪:ヨミくん……だいじょぶよ、ありがと。……続けても良いかしら?
黄泉:はい。
紗凪:ふふ。
紗凪:私から彼を非難してしまった手前、連絡は一切、取ろうとは思わなかったわ。…本当の自分の気持ちに嘘を吐(つ)き、錠(じょう)を掛けてね。そのまま時間だけが虚しく過ぎていき……気付けば一年程、経過してたの。
黄泉:…
紗凪:私ね、恋愛ドラマをよく観るの。今思えば、きっかけが欲しかったんだなって…その日も近所のDVDショップで何気なく借りて、観賞してたつもりだったんだけど…たまたま、出てきた登場人物が私と彼の状況に酷似(こくじ)していたの。
黄泉:なるほど…それで、どうしたんですか?
紗凪:うん、そのドラマのお陰で長年、内に秘めてた想いを揺り起こすスパイスとなり、勇気を振り絞って、彼にコールをしたわ。
黄泉:…
0:一年前のとある夜。(真人IN黄泉OUT)
真人:もしもしー。お電話、有難うございます!CLUB、ブランディッシュで御座います。本日はどういった御用件でしょうか?……はい、はい…その声は……!さ、サナエ!?…本当にサナエなのかい…?!
紗凪:ええ、私よ。
真人:でも、君は……
紗凪:ええ、真人の言いたい事は分かる。私の方から一方的に別れを告げたのに、今更戻ってきて、随分と傲慢な女だなと、貴方は私を軽蔑するでしょうね…ごめんなさい。
真人:そんな事ない…!僕はずっと君を…
紗凪:マヒト?
真人:僕は君に比べて、臆病者さ。例え、前向きになれるキッカケを与えられたとしても、行動に移す事は出来なかった。でも、君は本当に…強いね。
紗凪:…。私を許してくれるの?
真人:許すも何も、君を傷付けていたのは僕だよ。…謝るべきなのは…寧ろ、僕の方…
紗凪:それ以上、言わないで。…私から身勝手に離れた癖に図々しいかも知れないけど、もう一度やり直せないかな?
真人:うん、君がそう望むなら。
紗凪:真人…!…今から会える?
真人:勿論だよ!でも、5分だけ待って欲しい!一年ぶりに会うのに寝癖のままだと、格好付かないからね。
紗凪:ううん、カッコつけなくていいの。…私は自然な、等身大の貴方が大好きなの。
真人:サナエ…
紗凪:お店の下で、待ってるわ。
真人:うん、すぐ行く!
紗凪:うぅ……寒い…もう12月かあ…今年のクリスマスは何を贈ろうかなあ。
紗凪:遅いなあ…真人……身だしなみを整えてるのかな。そんなに気を遣わなくても良いのに…
真人:ご、ごめんよ!遅くなった!
紗凪:だいじょぶ、いこっ♪
真人:ちょ、そんなに強く手を引っ張ったら抜けちゃうよ?!…うわぁあーー!!
紗凪:ほらほらあ、早くー!私達の想い出の場所に向かいましょう♪
真人:サナエ、あの場所は君の事をまた傷付けて…
紗凪:だいじょぶ♪今度はいっぱい稼いで来たから。
真人:え?!確か、以前はOLだったよね?もしかして、役職でも付いたりした??
紗凪:ううん、OLは半年前に辞めてるわ。
真人:じゃあ…?
紗凪:私ね、現在は風俗で働いてるの。
真人:…!
紗凪:ふふ、驚いた?
真人:あ、いや……
紗凪:うん…正直、最初は怖かった。…でも、今はNo.に入るくらいには稼げてるのよ?えへん♪
真人:…
紗凪:ま、真人??
真人:あ、ごめん…!…取り敢えず、着いてから話そうか。
紗凪:うん?そうね!
紗凪:…
真人:…(僕が狂わせてしまった…彼女の人生を……)
真人:さ、着いたよ!
紗凪:んーん、本当に懐かしいなあ。
真人:うん。さぁ、行こう!
紗凪:ええ♪
真人:あーー!やばいっ!
紗凪:どうしたの?何か、忘れ物でもした?
真人:うーん、忘れ物って言うか…触れられたくないものがあると言うか…
紗凪:何よ?ハッキリ言って。
真人:まぁ、入ったら分かるさ。あはは…
紗凪:えーー?…変な真人ー!
真人:うーん、、何があっても、お、驚かないって約束してくれる?
紗凪:えーなになに?!
真人:開けるよ?
紗凪:うん。
0:カチャカチャ。
紗凪:あぇええええーーー!?(驚愕)
真人:あは…あはは…
紗凪:こ、この穴はどうしたのよー!?
真人:実はね…あの喧嘩の後、理性が保てなくなった僕は勢い余って、椅子をぶん投げてしまったんだ…それでこの有様。…あはは…
紗凪:なるほどね…だから妙に言い淀(よど)んでいたのね?…それにしてもー、すごく大きな穴ね。赤ん坊くらいの大きさなら、すっぽり埋まりそう。
真人:あは…恥ずかしいから!…余り、見ないでくれないかな。
紗凪:うーん、、気にしないでって言う方が無理あるわよ?だって、あからさまだもの。
真人:で、ですよねー?あはは…
紗凪:それでね、さっきの話の続きなんだけど———私、まったく後悔してないの。
真人:…
紗凪:ホストとお客って関係でも貴方の事をこれからも支えたいの。……当時は心に余裕が無かったせいか、割り切れなくて、臆病風に吹かされて、逃げちゃったけどね…
真人:サナエ……!
紗凪:…ま、真人!?
真人:ありがとう…ありがとう…ありがとう…!(涙目)
紗凪:もうー!相変わらず、泣き虫ね……ふふ。
0:現代、VIPルームの扉前。(黄泉IN真人OUT)
黄泉:マヒトさん、本当に心根(こころね)の良い方だったんですね!若干、不器用な所もありますけど。
紗凪:うん、その辺りがヨミくんに凄い似てるでしょ?
黄泉:はい。正直…最初は僕みたいな人がそんなに居てもプラスの要素にならないんじゃ?……とか思いましたけど……不思議ですね。今はもっと似てる部分を欲してしまうくらい、嬉しさが増してきてる、自分が居ます。
紗凪:ふふ。あ、着いたみたいよ。早く、中へ入りましょ!
黄泉:はい。
紗凪:わぁあーー!このソファーも、この大穴もあの時と全く変わらないわね。
黄泉:サナエさん、実は…僕この部屋の事について、詳しく知っているんです。
紗凪:へ?どういう事??
黄泉:僕がブランディッシュに来て一月(ひとつき)が経過した頃なんですけど…
黄泉:店の準備をしてる時に偶然、耳にしちゃったんです…
0:過去の待機室。(流生IN魅剣IN黄泉OUT紗凪OUT)
流生:なあ、ミツルギ!マヒトさんが作ったVIPルームの裏話って知ってるか?
魅剣:はあ?何だ、そりゃ。
流生:あのVIPルームってさー通常卓から、妙に離れてんだろ?
魅剣:ああ、言われてみればな。
流生:気になって、マヒトさんに聞いてみたんだよ。
魅剣:は?それは、いつ頃の話なんだ?
流生:丁度、6年くらい前の話だ。俺とお前が、初めて100万以上を売り上げた、記念すべき日って言えば分かりやすいか?
魅剣:ああ、覚えてるぜ!懐かしいな。お互い、一夜にして、100万の売り上げを叩き出して。マヒトさんに頭撫(な)でられたな。…今、思い返してみたら、、ありゃあ、奇跡だったんだろうな。
流生:想い出に浸(ひた)ってる中、すまんが。…その話は置いといてだな…
魅剣:あ、そうだったなー!今はマヒトさんの秘密の過去についてだったな。…悪い、脱線させるところだったぜ。
流生:気を付けてくれよ?お前の悪い癖だからな。
魅剣:へいへい。…それで、マヒトさんの裏話とは何だ?
流生:ミツルギ!少し、長くなるかも知れないが、飽きてくれるなよ?
魅剣:良いから、話せ。
流生:ああ。
0:6年前の社長室。(真人IN魅剣OUT)
流生:マヒトさん、ちょっと聞きたい事があるんですけど…今って、時間あります?
真人:ん?どうしたんだい?リューセイ。
流生:店の外にVIPルームがあるじゃないですか?何で、あんなに離れてるんです?
真人:ああ、その事かい。それはね、スペシャルなお客様へのプレゼントなんだよね。
流生:スペシャルなプレゼント??
真人:そうさ。その証拠に、他のお客様には一切、使わせた事が無いだろう?
流生:あーー言われてみれば。
真人:彼女はね、私が崖っぷち時代を支えてくれた救世主、いや、天使なんだよ。
流生:え?天使!?随分とスケールのデカい話ですね。
真人:当時、うだつが上がらなかった私の食事はパンの耳だったんだ。
流生:…
真人:いつものように道端でパンの耳を齧(かじ)り、途方に暮れていたら、目の前に全身、黒い衣服を身に纏(まと)った天使が現れたんだよ。
流生:マヒトさんにもそんな時代があったなんて。
真人:彼女は私に気付くなり、微笑み「足ります?」と言い放った後…
0:真人の秘密。(紗凪IN流生OUT)
紗凪:ふふ、足ります?
真人:足りません…
紗凪:私、まだバイトの身なので…高級焼肉店級の贅沢はさせてあげられませんけど……良かったら今から、ラーメン屋さんに行きませんか?
真人:え?
紗凪:栄養失調で倒れでもしたら大変ですよ?
真人:でも、僕は見ず知らずの赤の他人で…
紗凪:そんなの関係ないです!確かに、この世界は冷たい人ばかりです。困った人がいたとしても、手を差し延べる事は無く、見て見ぬ振りをする人が大半で———私も過去に貴方と同様、見知らぬ方に助けられたんです。
真人:え、貴女も??
紗凪:あ、私の名前はサナエっていいます!
真人:僕はマヒトです!
紗凪:それって本名?、、薄汚れたスーツ……お兄さん、さてはホストさんでしょ?
真人:えっ?!何で、分かったんですか?
紗凪:私を助けてくれた方も、お兄さんと同じでワックスでガチガチに固めた、ハリネズミみたいにトゲトゲ頭のホストさんだったから。
真人:は、ハリネズミって?!
紗凪:あはは。さあ、行きましょ♪ここから、2分も掛からない場所に私の行き付けの、美味しいラーメン屋さんがあるの。
真人:は、はい!お願いします。
紗凪:ふふ、お兄さん、本当にホストさん?その割には凄く、口下手なんですね。
真人:えぁ?!あ…すみません。
紗凪:お兄さんの事、マヒトさんって呼んでも良いですか?
真人:はい!お願いします!
紗凪:だから、硬いですって!あははっ!
真人:あは…あはは…
紗凪:マヒトさんって、まだ新人さん?
真人:あ、まぁ…バレちゃいました?
紗凪:バレバレですよ。…さっきから私と目線合わないし、挙動不審で、とってもぎこちないから…
真人:はは、サナエさんの方がよっぽど向いてそうですね。……僕、ホスト向いてないのかなあって…思う時があるんです。
紗凪:…
真人:親の反対を押し切って、田舎から上京しホストになったのですが、、まだ一本も指名が取れてなくて…
紗凪:そうだったんですね…
真人:あ、、ああー!!す、すみません!…退屈ですよね…こんな話。
紗凪:ううん、そんな事無い!…応援してあげたい。
真人:あ、いや、気持ちだけでも嬉しいです!
紗凪:あのー私がもし……マヒトさんを指名したら、いっぱい構ってくれます?
真人:えぇ?!でもまだ見たところ、若そうだし、アンダーですよね?
紗凪:はい、18歳です。でも…こう見えてバイトだって、ちゃんとしてますよ?
真人:さすがに…
紗凪:私、本気ですよ?…でも、その時はマヒトさんも本気で私の事を構って下さいね。…じゃないと…拗(す)ねちゃいますから。
真人:は、はい!
紗凪:あれぇー?これって、契約成立かな??あはは!
真人:契約って…
紗凪:あ、マヒトさん、見て下さい!このゆるい鶏(にわとり)のキャラが描かれた看板の横のお店が、私の行き付けの風来神(ふうらいしん)って言うラーメン屋さんです。
真人:なるほどーとても可愛いらしい鶏の絵ですね♪
紗凪:そうでしょ?中のお兄さんも気さくな人で、とても優しいんです!ちょっと額に傷があったりして、強面だけど……
真人:ぇえ!?や、ヤクザ!?
紗凪:ち、違います!そういった、偏見は良くないですよー?
真人:あぁー、す、すみません!チキンなもので…
紗凪:あはは、冗談です。さ、寒くて凍え死にそうだし、中に入りましょ♪
真人:はい!
0:ラーメン屋、風来神前(店主IN)
店主:いらっしゃいー!好きな席に座って!
紗凪:お兄さん、ひっさしぶりー!んーー♪美味しそうな匂い♪
店主:おお、サナエちゃん!いつも有難うな!んー?…隣にいる、色男はサナエちゃんの彼氏か?青春だなあ!!
紗凪:そ、そんなんじゃないです!
真人:え…そ、そこまで否定しなくても…
店主:はははー!お熱いねえ!
紗凪:もう、揶揄(からか)わないで下さい!
店主:ごめんよ!ま、お詫びにサービスしとくよ!ウチの自慢の味玉、二つをお兄さんからのプレゼントだ。
真人:え、良いんですか?ありがとうございます!
紗凪:お兄さん、ありがと♪
店主:はは、良いって事よ。…ゆっくり選びなー!注文する物が決まったら、大きな声で呼んでくれよ!
真人:はい!
紗凪:りょーかぁい!
紗凪:はい、メニュー。
真人:ありがとうございます。サナエさん。
紗凪:うーん、真人さん、何にします〜?個人的にオススメなのが、味噌バターチャーシュー麺、炙り醤油の鳥ラーメン、ねぎたっぷりあっさり塩ラーメンなんですけど。
真人:えっと、僕はこのメニューの一番下にある、半ラーメンで大丈夫です。
紗凪:えー?!絶対、足りないでしょ!?全然、遠慮しなくても大丈夫ですよ?好きなのを頼んで下さいね!
真人:じゃあーー……サナエさんと同じものをお願いします。
紗凪:はぁい!…じゃあ、私は味噌が好きだから、味噌バターチャーシュー麺にしようかなあ。
真人:味噌、良いですよね!
紗凪:お兄さーーーん!
店主:お待たせ、何が食べたいのかな?
紗凪:味噌バターチャーシュー麺を二人前、お願いします!
店主:味噌バターチャーシュー麺ね。了解!
店主:味噌バターチャーシュー麺、二丁!!
紗凪:真人さん、さっきからお腹鳴ってますよ?可愛い♪
真人:あ……お恥ずかしい…
紗凪:ふふ。
真人:あはは。
紗凪:ね、マヒトさん、そろそろ敬語やめませんか?
真人:はい!
紗凪:だから、それも敬語だってえ!
真人:あっ…そっか。(苦笑)
店主:はい、お待たせぇー!熱いから、気を付けてよー!それと、おまけの味玉二つね。
紗凪:ありがと、お兄さん!……わぁあ!!チャーシューが肉厚で大きい。
真人:じゅるる…うん、スープも濃厚でとても美味しい!何だか、全身が暖まるね♪
紗凪:うん、もう12月に差し掛かったし、寒むくなってきたよね。……あー、12月と言えば!クリスマスどうしよっかなあ…つるるる!
真人:うーん…僕はクリスマスも関係なく、仕事だろうなあ…
紗凪:じゃあ、ケーキを作って、お店に持っていってあげる!
真人:え?!悪いよ、無理しないで?
紗凪:無理なんかしてない!私がしたいから、するの。
真人:ありがとう!サナエさん。
紗凪:どういたしまして♪さ、冷めない内に食べないとね!
真人:そうだね♪
0:回想終わり。(流生IN紗凪OUT店主OUT)
真人:りゅ、リューセイ?!涙で、メイクが取れてるよ?はい、おしぼり。
流生:……あ、ありがとうございます。…ぅう……何て、いい話……
真人:はは、大袈裟だな。…その後(ご)彼女は約束通り、店に通ってくれて…ゆくゆくは私のエースになってくれたんだよ。
流生:へぇーー正に天使ですね。
真人:彼女との出逢った頃により、軌道(きどう)に乗って来た私は、色々なお客様から頂いた売上金をコツコツと貯めて、念願の彼女専用のVIPルームがついに完成したんだ。
流生:サナエさん専用のVIPルームですか。何つーか…とてもロマンチックですね!
真人:ははは!未だに、彼女には伝えられてないけどね。
流生:何で、伝えないんです?
真人:うーん…売上金って言っても、その殆(ほとん)どが彼女からの援助だからね。
流生:あ……
真人:でも、いつかは伝えようと思う。
流生:はい、きっと理解してくれますよ!
真人:はは、有難うね♪
真人:さ、今日も頑張ろう!
流生:はい!
0:黄泉の回想に戻る。(魅剣IN真人OUT)
魅剣:なるほどな。マヒトさんはやっぱり、偉大なお方だ。
流生:ああ。さ、そろそろオープンだ!
魅剣:おう。黄泉ー!トイレ掃除終わったか?
黄泉:はい、ミツルギさん!良かったら、確認して下さい!
黄泉M:ふぅ、ビックリしたぁ…急に話しかけて来ないでよ…
0:現代、VIPルームにて隣に座る、黄泉と紗凪。(黄泉IN紗凪IN流生OUT魅剣OUT)
紗凪:!!…だから、全ての物が当時のままなのね……何で、そんな大事な事……もっと早くに教えてくれなかったのよ……ま、真人。…ぅう……!(涙)
黄泉:サナエさん…
0:三章に続く。