台本概要

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タイトル あなたに最初で最後の口づけを
作者名 そらいろ  (@sorairo_0801)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 ・一人称・語尾・アドリブ・性別変更◎
・世界観を壊すような過度なアドリブはご遠慮ください
・台本利用の際は、作者名・タイトル・URLの記載をお願いします

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https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21283716

紫色のヒヤシンス:「許してください」「ごめんなさい」
マリーゴールド:「変わらぬ愛」
黄色のデイジー:「ありのままのあなたが好き」

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
マリア 114 ロイスをとても愛している。ロイスと同い年だが、見た目は25歳で止まったまま
ロイス 80 マリアをとても愛している (回想シーンで25歳の頃のロイスが出てきます)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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ロイス:(M)森の奥にある小さな屋敷で私たち夫婦は静かに暮らしていた 0: マリア:「おはようロイス、よく眠れたかしら?」 ロイス:「おはようマリア。あぁ。久しぶりにゆっくり眠れたよ」 マリア:「ふふ。よかった」 0: ロイス:(M)彼女は優しく微笑むとベッドの横にある木の机にガラスの花瓶を静かに置いた。その花瓶には紫色のヒヤシンスが一輪生けられていた 0: マリア:「今日は少し冷えるわね。寒くはない?」 ロイス:「あぁ。大丈夫だ。この寒さだと…今夜は雪が降るかもしれないな」 マリア:「えぇ。そうかもしれないわね」 0: ロイス:(M)そしてマリアはベッドの横にある小さな木の椅子に座り、私の手を優しく握った 0: マリア:「ロイスの手…温かいわね。…ねぇ、ロイス」 ロイス:「なんだいマリア」 マリア:「私のこと、今でも愛してる?」 0: ロイス:(M)彼女はどこか不安そうにな表情を浮かべながら、その美しい瞳を私にじっと向けて言った 0: ロイス:「はは。当り前だろう」 マリア:「そんな答えは嫌。言葉でちゃんと言って。私を愛していると」 ロイス:「あぁ。愛しているよ、マリア。この世界のだれよりも」 マリア:「出会ったときよりも?」 ロイス:「あぁ、もちろん。どうやら君への思いは留まることを知らないようだ」 マリア:「ふふ。嬉しいわ」 ロイス:「マリアこそ。こんな年老いた姿になった私のことを…今でも愛してくれているのかい?」 マリア:「当たり前じゃない。私が愛しているのはあなたの体じゃない。魂よ。どんな姿のあなたでも私は愛しているわ。この先も…ずっと」 ロイス:「マリア…(咳き込む)」 マリア:「あっ無理に起き上がろうとしないで!」 ロイス:「(咳き込みながら)…はは。年はとりたくないものだな。この体じゃ、昔のように君とどこかに出かけることも、君を強く抱きしめることもできない。君に迷惑ばかりかけてしまう。本当にすまないな」 マリア:「謝らないで。私はこうしてあなたに手を握ってもらえるだけで、名前を呼んでもらえるだけでとても幸せだわ」 ロイス:「あぁ。私も毎日とても幸せだよ。でも、この生活が苦しくなったら私など置いていつでもこの家を出て行っていいんだ。君がこの先一人で暮らしていけるお金なら充分にある。君には誰よりも幸せになって欲しいんだ。…毎日私の介護をするのは大変だろう」 マリア:「ロイス…お願いだからそんな悲しいことを言わないで。私は最後まであなたの側にいるわ。教会でもそう誓ったでしょう」 ロイス:「はは…君は本当に天使のような女性だ…。君と出会った日のこと。今でもまるで昨日のことのように…鮮明に思い出せるよ」 マリア:「ふふ。またその話?」 ロイス:「あぁ。あれは私がまだ19歳だったころだ。友人が急用で行けなくなったからといってとある劇団のチケットをくれたんだ。私は劇などもともと興味がなかったが、その日は仕事も休みで予定もなかったから男一人寂しく見に行くことにした。そして見に行ったその舞台の上には、いくつものスポットライトに照られされながら白いドレスを着て儚げに歌う君がいた。風に舞う美しい銀色の髪、陶器のような白い肌。サファイアのような青い瞳に…透き通るような綺麗な歌声。私の心は一瞬にして君に奪われた。あの舞台には君以外にもたくさんの人が歌い踊っていたはずなのに、私には君しか見えなかった。舞台の終盤、君が涙を流したとき、気づけば私も客席でひとり涙をこぼしていたよ」 マリア:「ふふ。もう昔の話はよして。恥ずかしいわ」 ロイス:「君は手の届かない存在だと思っていた。そんな君がこうして私の隣で私の名前を呼び微笑んでくれるなんて本当に夢のようだ…。あの舞台の内容、今でも覚えているかい?」 マリア:「えぇ。もちろんよ。あれが私の初舞台だったんだもの。天使が人間に恋をするお話ね」 ロイス:「あぁ。そうだ。白い羽を生やした美しいドレスを着て舞い踊る君が私にはまるで本当の天使のように見えたよ」 マリア:「ふふ。でも私はあの天使とは違う。あの天使は人間に恋をしたけれど叶うことはなかった。そして彼女は最愛の彼を自らの手で殺してしまうんだもの。愚かだわ。天界からも追放され、美しい羽も奪われ、最後には醜い姿で涙を流しながらひとり寂しく死んでいく」 ロイス:「はは。確かにそうだな。君はそんな愚かなことをする女性ではない」 マリア:「ふふ」 ロイス:「あれからもう60年。君はずっと美しいままだ。出会ったあの頃と何一つ変わらない」 マリア:「そうね。だって私の時は、25歳のまま止まっているんですもの…」 ロイス:「…マリア」 マリア:「ふふ。そんな泣きそうな顔をしないで」 ロイス:「…」 マリア:「私ね、嬉しかったのよ。あなたが私を永遠の眠りから覚ましてくれたこと」 ロイス:「…」 0: マリア:(M)ロイスと付き合って5年が経とうとしてた12月7日。いつものように来週の舞台に向けて朝からリハーサルをしていたときのことだった。舞台照明機材の金具が破損し落下するという事故が起きた。私は不運にもその下敷きとなり、救急搬送されたが、25歳という若さで命を落とした 0: マリア:「死ぬ直前に私が願ったこと。それは「あなたにもう一度会いたい」だった。徐々に重くなる瞼を力尽きて閉じてしまったとき、もう二度と開くことはないと思っていたのに…私は古びた協会で再び目を覚ました。心臓が止まったままの状態で。そして目の前には涙で目を腫らしたあなたがいた」 ロイス:「…」 マリア:「すぐに分かった。あなたが私のせいで禁忌を犯してしまったことを」 ロイス:「…そうだ。あの日の夜。私は悪魔と契約を結び、死んだ人間を生き返らせるという禁忌を犯した」 マリア:「…」 ロイス:「君の死を受け入れることができず、もう一度会いたいという私の身勝手な願いのせいで、安らかに眠っていた君をよみがえらせてしまった。そして君は歳も取らない、死ぬこともできない、不老不死の体となってしまった。すまない…マリア…」 マリア:「ロイス。もう自分を責めないで。私は一度もあなたに腹を立てたことも、恨んだこともないわ」 ロイス:「でも私はもう長くない。私が死んだら君は一人ぼっちになってしまう」 0:マリア。ロイスの手をぎゅっと強く握る マリア:「…だから今のうちに、私にたくさん愛の言葉を囁いて。あなたがいない世界でも私が生きていけるように。あなたの声を、あなたの愛を、あなたの温もりをいつでも思い出せるように。今のようにずっと私の手を強く握って離さないで。その優しい声で私の名前をたくさん呼んで」 ロイス:「あぁマリア…愛しているよ」 マリア:「私も愛してる」 0: マリア:(M)この幸せがもう長く続かないことはお互い分かっていた。私はもう寿命によって死ぬことはない。でも彼は人間。彼だけが私の隣でどんどん歳を重ねていく。私はただ、徐々に弱っていく彼を、こうして側で支えることしかできなかった 0:夜 マリア:(M)今日は満月の綺麗な夜だった マリア:(M)0時45分。花瓶の割れる音とロイスの叫び声で私は目を覚ました 0: ロイス:「マリア!!」 マリア:「ロイス!どうしたの!?」 ロイス:「…どこにいるんだ…マリア…マリア!!」 マリア:「ロイス。安心して。私はここにいるわ」 ロイス:「マリア…お願いだ。もうどこにもいかないでくれ。私を置いていかないでくれ!」 マリア:「えぇ。私はもうどこにもいかないわ」 ロイス:「もう、私をひとりにしないでくれ!」 マリア:「ずっとそばに居るわ」 ロイス:「マリア…もう君のあんな姿は…見たくないんだ」 0: マリア:(M)私は子どものように怯え震えるロイスを優しく抱きしめた 0: マリア:「ロイス。大丈夫よ。あなたが眠るまでここにいるわ」 ロイス:「(泣く)」 マリア:「ずっと…ずっと」 0:翌朝 マリア:「おはようロイス。庭に咲いていたマリーゴールドを新しい花瓶に生けてみたの。どうかしら?」 ロイス:「あぁ。とても綺麗だ。それに君は花が良く似合う」 マリア:「ふふ。ありがとう。今日もいい天気ね。風が心地よいわ」 ロイス:「…マリア。昨夜はすまなかった…。怪我…してないか」 マリア:「えぇ、怪我してないわ。大丈夫よ」 ロイス:「マリア。私は、何十年かぶりにあの日の夢を見たんだ」 マリア:「…あの日?」 ロイス:「あぁ。君を失い…そして悪魔と契約を交わした…あの日の夢だ」 マリア:「…」 ロイス:「あの日は三日月がとても綺麗な夜だった。僕は冷たくなった君を毛布に包み、山の上にある教会に運んだ。そしてマリアを生き返らせるために儀式を始めた」 マリア:「ロイス…そんな辛い記憶、もう思い出さなくていいのよ」 ロイス:「私はその日のことを今でも鮮明に覚えているつもりだった…だが、昨夜の夢には、私の記憶には無い、赤い瞳をした少女が出てきたんだ」 マリア:「赤い…瞳の?」 ロイス:「あぁ。冷たくなった君を抱きしめて泣いている私のことを、黒い翼を生やした赤い瞳の少女が十字架の上からじっと見ていたんだ」 マリア:「…じゃあその少女が…悪魔…?」 ロイス:「恐らくそうだろう。なぜ彼女の記憶だけ抜け落ちていたのかは分からないが…。」 マリア:「…そう」 ロイス:「悪魔とはもっと恐ろしい姿をしているものだと想像していたが…夢の中のその少女は…とても美しく、そしてとても寂しそうな表情をしていたよ。そんな彼女の顔が…夢から覚めてもずっと頭から離れないんだ」 マリア:「寂しそう…ね」 ロイス:「彼女は…なぜそんな表情を浮かべていたんだろうか。悪魔は人間の不幸を喜ぶものだと思っていたのだが」 マリア:「それは…彼女しか分からないことだわ」 ロイス:「そうだな。でももしもう一度彼女に会うことができたら、私はまず感謝を伝えなければならない」 マリア:「…え?」 ロイス:「だって彼女が救ってくれたのだから」 マリア:「…そうね」 0:数日後 ロイス:「マリア…今朝から元気がないようだがどうしたんだ」 マリア:「ねぇ…ロイス」 ロイス:「なんだい?」 マリア:「私はあなたがいなくなってしまった世界で…生きていくことなんてできるのかしら」 ロイス:「あぁ…君なら大丈夫だ。君は…強い女性だからね」 マリア:「私は強くなんてないわ。私ね、朝あなたの部屋に行くときが…とても怖いの。あなたが息をしていなかったら…冷たくなっていたらどうしようって」 ロイス:「マリア…」 マリア:「あなたを失うことが、また一人になってしまうことが…とても怖い。耐えられる自信が…ないの」 ロイス:「…」 マリア:「弱いの…私は」 ロイス:「マリア…」 マリア:「前に私が孤児院で育ったという話をしたでしょう」 ロイス:「あぁ」 マリア:「今でもね、その頃を思い出して…まるで幼い子供のように泣いてしまう日があるの」 ロイス:「そうか…。マリアは本当に辛い幼少期を過ごしてきたんだな。前にも話してくれただろう。周りに信じられる人が誰もいなかったと」 マリア:「そう。孤独だった。あの頃の私は生きていくだけでも精一杯だった。いつも眠る時にはこのまま目を覚まさなければ良いのにと…そう思っていた」 ロイス:「…そうか」 マリア:「私の心はいつも空っぽだった。ずっと…ずっと愛に飢えていた。愛されている人がうらやましくて仕方がなかった。愛されるためならなんだってした。誰かの人生を奪ってでも…誰かに愛されたかった。あの頃の私は本当に醜かった」 ロイス:「そんなことはない。私たち人間が生きていくために愛は必要不可欠だ。それを望むのは当たり前のことなんだ。本当はそれを親が、周りの大人たちが与えてあげるべきだったのに…。マリアは何も悪くない」 マリア:「だからロイスが、私のことを一生愛してくれると言ってくれたとき…抱きしめてくれたとき、とても嬉しかった。こんな温もりがあることを今まで私は知らなかった。…幸せだった。…あのね、ロイス、私は」 ロイス:「(遮る)なぁマリア。私は君が空っぽだと言ったその心を満たしてあげることはできただろうか」 マリア:「…ええ」 ロイス:「君が安心出来る居場所になることは出来たのだろうか」 マリア:「えぇ…。ロイスのおかげで私の心は今、愛にあふれているわ。とても温かい。あなたの隣が…私の唯一の居場所よ」 ロイス:「そうか。それを聞けて私は安心したよ。あの日。私たちが出会ったのは運命…だったのかもしれないな」 マリア:「…チケットをくれた友人に感謝しなければいけないわね」 ロイス:「…」 マリア:「私ね、孤児院ではベルとみんなから呼ばれていたの」 ロイス:「…それは知らなかったな。素敵な名だ」 マリア:「ねぇロイス。一度だけでいいから、ベル、愛していると言ってくれないかしら。あなたがそう言ってくれれば、私の中にいる幼い頃の私が救われる気がするの」 ロイス:「あぁ。ベル、愛しているよ。君の笑顔も、泣き顔も、すこし強がりなところも、いつも楽しそうに話すその姿も美しい声も…私はありのままの君を愛しているよ」 マリア:「ふふ。私が…天使じゃなかったとしても?」 ロイス:「あぁ。たとえ君が天使ではなく悪魔だったとしても。私の愛は変わらない」 マリア:「(泣きながら)ロイス…愛しているわ。だから私を…置いて…いかないで」 ロイス:「…マリア…君にこれを」 マリア:「これは」 ロイス:「髪飾りだ。友人に頼んで作ってもらったんだ」 マリア:「この花は…黄色のデイジー…素敵ね」 ロイス:「あぁ。やっぱり君は…花が似合うな。マリア。例え肉体が滅んだとしても私の魂が消えたわけではない。私はずっと君の側にいるよ。愛してる。永遠に」 マリア:「(泣く)」 0:間 マリア:(M)それからしばらくして、ロイスは息を引き取った 0: マリア:「…ねぇロイス。見て、今日は綺麗な三日月よ。…まるで…あの日の夜のようね」 マリア:「ロイス…私の愛しのロイス…。愛しているわ。…教会であなたに出会ったあの日から…ずっと」 0:ロイスの冷たくなった頬を優しく撫でる マリア:「…あなたはいつも優しい笑顔で私にたくさんの愛を囁いてくれた。でも…。ねぇロイス。あなたは…真実を知っても尚…私に愛していると言ってくれたのかしら…」 0: マリア:(M)そのとき、ふと横を見ると鏡に映る自分の赤い瞳と目が合った 0: マリア:「っっ!!!!」 0: マリア:(M)思わず私は鏡に花瓶を投げつけた。床には粉々になったガラスの破片が飛び散った。 0: マリア:「はぁ…はぁ…違う…私が…マリアよ。偽物はとっとと消えて!…っ!!」 0: マリア:(M)しかし目の前の窓ガラスには、今度は青い瞳の女が私をじっと見つめていた 0: マリア:「いや…やめて。そんな目で…私を…見ないで!」 0: マリア:(M)私はその場にしゃがみこんだ。そしてギュッと目をつぶり両手で耳を塞いだ。すると目の前には静かな暗闇が拡がっており、その暗闇の先には…ロイスがいた。ロイスはいつものように私に優しく微笑みかけ私の名前を呼んだ。しかし私はもう、彼と目を合わせることが出来なかった。私の心は…もう限界だった 0: ロイス:『マリア』 マリア:「…お願い。もう…私を…マリアと呼ばないで…」 ロイス:『君は私の天使だ。私と出会ってくれてありがとう』 マリア:「いや…そんな優しい笑顔で私のことを見ないで…。私は天使なんかじゃない。私は人間の皮を被った…醜い悪魔なの」 ロイス:『ずっと愛しているよ』 マリア:「…ロイス…ロイス…。本当はあなたに全てを話して謝りたかった。でも言えなかった…。怖かったの…。あなたに嫌われることが。あなたに憎まれることが。この姿もあなたとの過去の記憶も全て偽りのものだけど…でも…これだけは嘘じゃない。私はロイスのことを愛してた。ずっと。だれよりも。だから…!…ロイス」 0: マリア:(M)顔を上げるとロイスは私のことなど見ていなかった。彼の目線の先には、美しく微笑むマリアがいた 0: マリア:「いや…ロイス…行かないで!!私を置いて…行かないで」 0: マリア:(M)私は必死に叫んだ。しかし、私の声は彼に届くことはなく、2人は暗闇の中に消えていった 0:マリア。そっと立ち上がり、冷たくなったロイスの手を握る マリア:「分かってた…今までの言葉は…全て私に向けられたものではないって。私はどんなに頑張っても…マリアにはなれない。あなたが心を奪われたのは…私ではなくマリアなんだから。でもね、あなたを想う気持ちだけは…、マリアにも負けていなかったと思うのよ。前にあなたが…出会った頃より今の私の方が好きだと言ってくれたとき、私ね、嬉しかったの。こんな私でも…マリアに少しだけ勝てたような気がして…」 ロイス:『君の笑顔も、泣き顔も、すこし強がりなところも、楽しそうに話すその姿も、その美しい声も。私はありのままの君を愛しているよ』 マリア:「ありのままの…私…っ。ふふ…。私はもう…自分の笑い方も…話し方も…全て忘れてしまったわ」 0: マリア:(M)先程青い瞳の女が映っていた窓ガラスには、今度は黒い翼を生やした赤い瞳の女が映っていた 0: マリア:「私の本当の名は…ベリアル」 0:ベリアル。ロイスにキスをする マリア:「ふふ…。やっとこの姿であなたに口づけをすることができた」 0:マリア。外を眺める マリア:「ねぇロイス。もう少しだけベリアルの姿で隣にいさせてもらってもいいかしら。…ふふ。本当に綺麗な三日月ね…。こうしていると、まるであの日に戻ったようだわ」 0: マリア:(M)55年前。私は人間に呼び出され、森の奥にある古びた協会にいた 0: ロイス:「マリア…お願いだ…もう一度…目を開けてくれ。マリア…マリアァァァ!!」 0: マリア:(M)そこには 0: ロイス:「…あぁ…マリア…。私が今…助けるからな…」 0: マリア:(M)冷たくなった女を抱きしめながら涙を流す男がいた。契約を結ぶかどうかはその悪魔が決めるものであり、私は人間と契約するつもりなんてなかった。だからすぐその場から立ち去るつもりだった。 0: マリア:「…!!」 0: マリア:(M)しかし私はその男に姿を見られてしまった 0: ロイス:「誰だ!!う…浮いてる…お前が…お前が…悪魔なのか!!お願いだ。私のマリアを…マリアをどうか生き返らせてくれ!」 0: マリア:(M)そう言い、男は私に向かって涙を流しながら土下座をした 0: ロイス:「死んだあと、私の魂を好きなようにしていい!!俺は…どうなってもいい!!!だから!」 0: マリア:(M)別にこの男の魂など、どうでもよかった。ただ…死んでもなお、こんなにも愛されているその女が…羨ましかった 0: ロイス:「…お願いだ。私には彼女が必要なんだ…」 0: マリア:(M)私もその温もりが欲しかった。彼女になりたいと願った 0: ロイス:「(泣く)」 0: マリア:(M)だから私はこの日、掟を破り彼女の体に入った。すると忽ち彼女の記憶が頭に流れ込んできた 0: マリア:「…。」 0: マリア:(M)記憶の中の彼女はどれも幸せに満ちた笑顔をしており、彼女も彼を本当に愛していたことが伝わってきた。男との記憶を思い出すだけで…心臓のあたりがポカポカと温かくなり…それは今までにない感覚だった。私は彼の膝の上で静かに目を覚ました 0: ロイス:「マリ…ア…。マリア!」 0: マリア:(M)すると私の顔を見て目を見開く男の姿が見えた。そして男は何度も私の名を呼んだ 0: マリア:「ロイス…?」 ロイス:「あぁ…マリア…良かった…本当に良かった…もっと声を聴かせてくれ。もっと私の名を呼んでくれ!もう…絶対に離さない」 0: マリア:(M)男は私をその場で強く抱きしめた 0: マリア:「ロイス、苦しいわ」 ロイス:「あ、す、すまない。でももうしばらくこのままでいさせてくれ。夢ではないと実感させてくれ。マリア」 マリア:「 …。(呟く)とても…あたた…かい」 0: マリア:(M)気づけば私の頬は濡れていた。悪魔を召喚した時点で男の魂は既に私の所有物となった。この男が死んだあと、その魂は地獄に永遠に囚われることとなる。しかし、私欲のために人間に成り代わるという罪を犯した私も、魂を回収した後地獄に落とされることになるだろう。それでも私はもう、この温もりを手放すことはできなかった 0: ロイス:「マリア…愛しているよ」 0:ロイス。マリアに優しくキスをする マリア:「…っ!」 0: マリア:(M)これが私に向けられた愛ではないことは分かっていた。それでも私は…幸せだった。私がいなくなればすぐに壊れてしまいそうなこの男のことがとても愛おしかった。私はそっと彼の背中に腕を回し強く抱きしめた。罪を犯した私たちはもう元には戻れない 0: マリア:「ロイス…私も…愛しているわ」 0: マリア:(M)そう。共に地獄に落ちるその日まで

ロイス:(M)森の奥にある小さな屋敷で私たち夫婦は静かに暮らしていた 0: マリア:「おはようロイス、よく眠れたかしら?」 ロイス:「おはようマリア。あぁ。久しぶりにゆっくり眠れたよ」 マリア:「ふふ。よかった」 0: ロイス:(M)彼女は優しく微笑むとベッドの横にある木の机にガラスの花瓶を静かに置いた。その花瓶には紫色のヒヤシンスが一輪生けられていた 0: マリア:「今日は少し冷えるわね。寒くはない?」 ロイス:「あぁ。大丈夫だ。この寒さだと…今夜は雪が降るかもしれないな」 マリア:「えぇ。そうかもしれないわね」 0: ロイス:(M)そしてマリアはベッドの横にある小さな木の椅子に座り、私の手を優しく握った 0: マリア:「ロイスの手…温かいわね。…ねぇ、ロイス」 ロイス:「なんだいマリア」 マリア:「私のこと、今でも愛してる?」 0: ロイス:(M)彼女はどこか不安そうにな表情を浮かべながら、その美しい瞳を私にじっと向けて言った 0: ロイス:「はは。当り前だろう」 マリア:「そんな答えは嫌。言葉でちゃんと言って。私を愛していると」 ロイス:「あぁ。愛しているよ、マリア。この世界のだれよりも」 マリア:「出会ったときよりも?」 ロイス:「あぁ、もちろん。どうやら君への思いは留まることを知らないようだ」 マリア:「ふふ。嬉しいわ」 ロイス:「マリアこそ。こんな年老いた姿になった私のことを…今でも愛してくれているのかい?」 マリア:「当たり前じゃない。私が愛しているのはあなたの体じゃない。魂よ。どんな姿のあなたでも私は愛しているわ。この先も…ずっと」 ロイス:「マリア…(咳き込む)」 マリア:「あっ無理に起き上がろうとしないで!」 ロイス:「(咳き込みながら)…はは。年はとりたくないものだな。この体じゃ、昔のように君とどこかに出かけることも、君を強く抱きしめることもできない。君に迷惑ばかりかけてしまう。本当にすまないな」 マリア:「謝らないで。私はこうしてあなたに手を握ってもらえるだけで、名前を呼んでもらえるだけでとても幸せだわ」 ロイス:「あぁ。私も毎日とても幸せだよ。でも、この生活が苦しくなったら私など置いていつでもこの家を出て行っていいんだ。君がこの先一人で暮らしていけるお金なら充分にある。君には誰よりも幸せになって欲しいんだ。…毎日私の介護をするのは大変だろう」 マリア:「ロイス…お願いだからそんな悲しいことを言わないで。私は最後まであなたの側にいるわ。教会でもそう誓ったでしょう」 ロイス:「はは…君は本当に天使のような女性だ…。君と出会った日のこと。今でもまるで昨日のことのように…鮮明に思い出せるよ」 マリア:「ふふ。またその話?」 ロイス:「あぁ。あれは私がまだ19歳だったころだ。友人が急用で行けなくなったからといってとある劇団のチケットをくれたんだ。私は劇などもともと興味がなかったが、その日は仕事も休みで予定もなかったから男一人寂しく見に行くことにした。そして見に行ったその舞台の上には、いくつものスポットライトに照られされながら白いドレスを着て儚げに歌う君がいた。風に舞う美しい銀色の髪、陶器のような白い肌。サファイアのような青い瞳に…透き通るような綺麗な歌声。私の心は一瞬にして君に奪われた。あの舞台には君以外にもたくさんの人が歌い踊っていたはずなのに、私には君しか見えなかった。舞台の終盤、君が涙を流したとき、気づけば私も客席でひとり涙をこぼしていたよ」 マリア:「ふふ。もう昔の話はよして。恥ずかしいわ」 ロイス:「君は手の届かない存在だと思っていた。そんな君がこうして私の隣で私の名前を呼び微笑んでくれるなんて本当に夢のようだ…。あの舞台の内容、今でも覚えているかい?」 マリア:「えぇ。もちろんよ。あれが私の初舞台だったんだもの。天使が人間に恋をするお話ね」 ロイス:「あぁ。そうだ。白い羽を生やした美しいドレスを着て舞い踊る君が私にはまるで本当の天使のように見えたよ」 マリア:「ふふ。でも私はあの天使とは違う。あの天使は人間に恋をしたけれど叶うことはなかった。そして彼女は最愛の彼を自らの手で殺してしまうんだもの。愚かだわ。天界からも追放され、美しい羽も奪われ、最後には醜い姿で涙を流しながらひとり寂しく死んでいく」 ロイス:「はは。確かにそうだな。君はそんな愚かなことをする女性ではない」 マリア:「ふふ」 ロイス:「あれからもう60年。君はずっと美しいままだ。出会ったあの頃と何一つ変わらない」 マリア:「そうね。だって私の時は、25歳のまま止まっているんですもの…」 ロイス:「…マリア」 マリア:「ふふ。そんな泣きそうな顔をしないで」 ロイス:「…」 マリア:「私ね、嬉しかったのよ。あなたが私を永遠の眠りから覚ましてくれたこと」 ロイス:「…」 0: マリア:(M)ロイスと付き合って5年が経とうとしてた12月7日。いつものように来週の舞台に向けて朝からリハーサルをしていたときのことだった。舞台照明機材の金具が破損し落下するという事故が起きた。私は不運にもその下敷きとなり、救急搬送されたが、25歳という若さで命を落とした 0: マリア:「死ぬ直前に私が願ったこと。それは「あなたにもう一度会いたい」だった。徐々に重くなる瞼を力尽きて閉じてしまったとき、もう二度と開くことはないと思っていたのに…私は古びた協会で再び目を覚ました。心臓が止まったままの状態で。そして目の前には涙で目を腫らしたあなたがいた」 ロイス:「…」 マリア:「すぐに分かった。あなたが私のせいで禁忌を犯してしまったことを」 ロイス:「…そうだ。あの日の夜。私は悪魔と契約を結び、死んだ人間を生き返らせるという禁忌を犯した」 マリア:「…」 ロイス:「君の死を受け入れることができず、もう一度会いたいという私の身勝手な願いのせいで、安らかに眠っていた君をよみがえらせてしまった。そして君は歳も取らない、死ぬこともできない、不老不死の体となってしまった。すまない…マリア…」 マリア:「ロイス。もう自分を責めないで。私は一度もあなたに腹を立てたことも、恨んだこともないわ」 ロイス:「でも私はもう長くない。私が死んだら君は一人ぼっちになってしまう」 0:マリア。ロイスの手をぎゅっと強く握る マリア:「…だから今のうちに、私にたくさん愛の言葉を囁いて。あなたがいない世界でも私が生きていけるように。あなたの声を、あなたの愛を、あなたの温もりをいつでも思い出せるように。今のようにずっと私の手を強く握って離さないで。その優しい声で私の名前をたくさん呼んで」 ロイス:「あぁマリア…愛しているよ」 マリア:「私も愛してる」 0: マリア:(M)この幸せがもう長く続かないことはお互い分かっていた。私はもう寿命によって死ぬことはない。でも彼は人間。彼だけが私の隣でどんどん歳を重ねていく。私はただ、徐々に弱っていく彼を、こうして側で支えることしかできなかった 0:夜 マリア:(M)今日は満月の綺麗な夜だった マリア:(M)0時45分。花瓶の割れる音とロイスの叫び声で私は目を覚ました 0: ロイス:「マリア!!」 マリア:「ロイス!どうしたの!?」 ロイス:「…どこにいるんだ…マリア…マリア!!」 マリア:「ロイス。安心して。私はここにいるわ」 ロイス:「マリア…お願いだ。もうどこにもいかないでくれ。私を置いていかないでくれ!」 マリア:「えぇ。私はもうどこにもいかないわ」 ロイス:「もう、私をひとりにしないでくれ!」 マリア:「ずっとそばに居るわ」 ロイス:「マリア…もう君のあんな姿は…見たくないんだ」 0: マリア:(M)私は子どものように怯え震えるロイスを優しく抱きしめた 0: マリア:「ロイス。大丈夫よ。あなたが眠るまでここにいるわ」 ロイス:「(泣く)」 マリア:「ずっと…ずっと」 0:翌朝 マリア:「おはようロイス。庭に咲いていたマリーゴールドを新しい花瓶に生けてみたの。どうかしら?」 ロイス:「あぁ。とても綺麗だ。それに君は花が良く似合う」 マリア:「ふふ。ありがとう。今日もいい天気ね。風が心地よいわ」 ロイス:「…マリア。昨夜はすまなかった…。怪我…してないか」 マリア:「えぇ、怪我してないわ。大丈夫よ」 ロイス:「マリア。私は、何十年かぶりにあの日の夢を見たんだ」 マリア:「…あの日?」 ロイス:「あぁ。君を失い…そして悪魔と契約を交わした…あの日の夢だ」 マリア:「…」 ロイス:「あの日は三日月がとても綺麗な夜だった。僕は冷たくなった君を毛布に包み、山の上にある教会に運んだ。そしてマリアを生き返らせるために儀式を始めた」 マリア:「ロイス…そんな辛い記憶、もう思い出さなくていいのよ」 ロイス:「私はその日のことを今でも鮮明に覚えているつもりだった…だが、昨夜の夢には、私の記憶には無い、赤い瞳をした少女が出てきたんだ」 マリア:「赤い…瞳の?」 ロイス:「あぁ。冷たくなった君を抱きしめて泣いている私のことを、黒い翼を生やした赤い瞳の少女が十字架の上からじっと見ていたんだ」 マリア:「…じゃあその少女が…悪魔…?」 ロイス:「恐らくそうだろう。なぜ彼女の記憶だけ抜け落ちていたのかは分からないが…。」 マリア:「…そう」 ロイス:「悪魔とはもっと恐ろしい姿をしているものだと想像していたが…夢の中のその少女は…とても美しく、そしてとても寂しそうな表情をしていたよ。そんな彼女の顔が…夢から覚めてもずっと頭から離れないんだ」 マリア:「寂しそう…ね」 ロイス:「彼女は…なぜそんな表情を浮かべていたんだろうか。悪魔は人間の不幸を喜ぶものだと思っていたのだが」 マリア:「それは…彼女しか分からないことだわ」 ロイス:「そうだな。でももしもう一度彼女に会うことができたら、私はまず感謝を伝えなければならない」 マリア:「…え?」 ロイス:「だって彼女が救ってくれたのだから」 マリア:「…そうね」 0:数日後 ロイス:「マリア…今朝から元気がないようだがどうしたんだ」 マリア:「ねぇ…ロイス」 ロイス:「なんだい?」 マリア:「私はあなたがいなくなってしまった世界で…生きていくことなんてできるのかしら」 ロイス:「あぁ…君なら大丈夫だ。君は…強い女性だからね」 マリア:「私は強くなんてないわ。私ね、朝あなたの部屋に行くときが…とても怖いの。あなたが息をしていなかったら…冷たくなっていたらどうしようって」 ロイス:「マリア…」 マリア:「あなたを失うことが、また一人になってしまうことが…とても怖い。耐えられる自信が…ないの」 ロイス:「…」 マリア:「弱いの…私は」 ロイス:「マリア…」 マリア:「前に私が孤児院で育ったという話をしたでしょう」 ロイス:「あぁ」 マリア:「今でもね、その頃を思い出して…まるで幼い子供のように泣いてしまう日があるの」 ロイス:「そうか…。マリアは本当に辛い幼少期を過ごしてきたんだな。前にも話してくれただろう。周りに信じられる人が誰もいなかったと」 マリア:「そう。孤独だった。あの頃の私は生きていくだけでも精一杯だった。いつも眠る時にはこのまま目を覚まさなければ良いのにと…そう思っていた」 ロイス:「…そうか」 マリア:「私の心はいつも空っぽだった。ずっと…ずっと愛に飢えていた。愛されている人がうらやましくて仕方がなかった。愛されるためならなんだってした。誰かの人生を奪ってでも…誰かに愛されたかった。あの頃の私は本当に醜かった」 ロイス:「そんなことはない。私たち人間が生きていくために愛は必要不可欠だ。それを望むのは当たり前のことなんだ。本当はそれを親が、周りの大人たちが与えてあげるべきだったのに…。マリアは何も悪くない」 マリア:「だからロイスが、私のことを一生愛してくれると言ってくれたとき…抱きしめてくれたとき、とても嬉しかった。こんな温もりがあることを今まで私は知らなかった。…幸せだった。…あのね、ロイス、私は」 ロイス:「(遮る)なぁマリア。私は君が空っぽだと言ったその心を満たしてあげることはできただろうか」 マリア:「…ええ」 ロイス:「君が安心出来る居場所になることは出来たのだろうか」 マリア:「えぇ…。ロイスのおかげで私の心は今、愛にあふれているわ。とても温かい。あなたの隣が…私の唯一の居場所よ」 ロイス:「そうか。それを聞けて私は安心したよ。あの日。私たちが出会ったのは運命…だったのかもしれないな」 マリア:「…チケットをくれた友人に感謝しなければいけないわね」 ロイス:「…」 マリア:「私ね、孤児院ではベルとみんなから呼ばれていたの」 ロイス:「…それは知らなかったな。素敵な名だ」 マリア:「ねぇロイス。一度だけでいいから、ベル、愛していると言ってくれないかしら。あなたがそう言ってくれれば、私の中にいる幼い頃の私が救われる気がするの」 ロイス:「あぁ。ベル、愛しているよ。君の笑顔も、泣き顔も、すこし強がりなところも、いつも楽しそうに話すその姿も美しい声も…私はありのままの君を愛しているよ」 マリア:「ふふ。私が…天使じゃなかったとしても?」 ロイス:「あぁ。たとえ君が天使ではなく悪魔だったとしても。私の愛は変わらない」 マリア:「(泣きながら)ロイス…愛しているわ。だから私を…置いて…いかないで」 ロイス:「…マリア…君にこれを」 マリア:「これは」 ロイス:「髪飾りだ。友人に頼んで作ってもらったんだ」 マリア:「この花は…黄色のデイジー…素敵ね」 ロイス:「あぁ。やっぱり君は…花が似合うな。マリア。例え肉体が滅んだとしても私の魂が消えたわけではない。私はずっと君の側にいるよ。愛してる。永遠に」 マリア:「(泣く)」 0:間 マリア:(M)それからしばらくして、ロイスは息を引き取った 0: マリア:「…ねぇロイス。見て、今日は綺麗な三日月よ。…まるで…あの日の夜のようね」 マリア:「ロイス…私の愛しのロイス…。愛しているわ。…教会であなたに出会ったあの日から…ずっと」 0:ロイスの冷たくなった頬を優しく撫でる マリア:「…あなたはいつも優しい笑顔で私にたくさんの愛を囁いてくれた。でも…。ねぇロイス。あなたは…真実を知っても尚…私に愛していると言ってくれたのかしら…」 0: マリア:(M)そのとき、ふと横を見ると鏡に映る自分の赤い瞳と目が合った 0: マリア:「っっ!!!!」 0: マリア:(M)思わず私は鏡に花瓶を投げつけた。床には粉々になったガラスの破片が飛び散った。 0: マリア:「はぁ…はぁ…違う…私が…マリアよ。偽物はとっとと消えて!…っ!!」 0: マリア:(M)しかし目の前の窓ガラスには、今度は青い瞳の女が私をじっと見つめていた 0: マリア:「いや…やめて。そんな目で…私を…見ないで!」 0: マリア:(M)私はその場にしゃがみこんだ。そしてギュッと目をつぶり両手で耳を塞いだ。すると目の前には静かな暗闇が拡がっており、その暗闇の先には…ロイスがいた。ロイスはいつものように私に優しく微笑みかけ私の名前を呼んだ。しかし私はもう、彼と目を合わせることが出来なかった。私の心は…もう限界だった 0: ロイス:『マリア』 マリア:「…お願い。もう…私を…マリアと呼ばないで…」 ロイス:『君は私の天使だ。私と出会ってくれてありがとう』 マリア:「いや…そんな優しい笑顔で私のことを見ないで…。私は天使なんかじゃない。私は人間の皮を被った…醜い悪魔なの」 ロイス:『ずっと愛しているよ』 マリア:「…ロイス…ロイス…。本当はあなたに全てを話して謝りたかった。でも言えなかった…。怖かったの…。あなたに嫌われることが。あなたに憎まれることが。この姿もあなたとの過去の記憶も全て偽りのものだけど…でも…これだけは嘘じゃない。私はロイスのことを愛してた。ずっと。だれよりも。だから…!…ロイス」 0: マリア:(M)顔を上げるとロイスは私のことなど見ていなかった。彼の目線の先には、美しく微笑むマリアがいた 0: マリア:「いや…ロイス…行かないで!!私を置いて…行かないで」 0: マリア:(M)私は必死に叫んだ。しかし、私の声は彼に届くことはなく、2人は暗闇の中に消えていった 0:マリア。そっと立ち上がり、冷たくなったロイスの手を握る マリア:「分かってた…今までの言葉は…全て私に向けられたものではないって。私はどんなに頑張っても…マリアにはなれない。あなたが心を奪われたのは…私ではなくマリアなんだから。でもね、あなたを想う気持ちだけは…、マリアにも負けていなかったと思うのよ。前にあなたが…出会った頃より今の私の方が好きだと言ってくれたとき、私ね、嬉しかったの。こんな私でも…マリアに少しだけ勝てたような気がして…」 ロイス:『君の笑顔も、泣き顔も、すこし強がりなところも、楽しそうに話すその姿も、その美しい声も。私はありのままの君を愛しているよ』 マリア:「ありのままの…私…っ。ふふ…。私はもう…自分の笑い方も…話し方も…全て忘れてしまったわ」 0: マリア:(M)先程青い瞳の女が映っていた窓ガラスには、今度は黒い翼を生やした赤い瞳の女が映っていた 0: マリア:「私の本当の名は…ベリアル」 0:ベリアル。ロイスにキスをする マリア:「ふふ…。やっとこの姿であなたに口づけをすることができた」 0:マリア。外を眺める マリア:「ねぇロイス。もう少しだけベリアルの姿で隣にいさせてもらってもいいかしら。…ふふ。本当に綺麗な三日月ね…。こうしていると、まるであの日に戻ったようだわ」 0: マリア:(M)55年前。私は人間に呼び出され、森の奥にある古びた協会にいた 0: ロイス:「マリア…お願いだ…もう一度…目を開けてくれ。マリア…マリアァァァ!!」 0: マリア:(M)そこには 0: ロイス:「…あぁ…マリア…。私が今…助けるからな…」 0: マリア:(M)冷たくなった女を抱きしめながら涙を流す男がいた。契約を結ぶかどうかはその悪魔が決めるものであり、私は人間と契約するつもりなんてなかった。だからすぐその場から立ち去るつもりだった。 0: マリア:「…!!」 0: マリア:(M)しかし私はその男に姿を見られてしまった 0: ロイス:「誰だ!!う…浮いてる…お前が…お前が…悪魔なのか!!お願いだ。私のマリアを…マリアをどうか生き返らせてくれ!」 0: マリア:(M)そう言い、男は私に向かって涙を流しながら土下座をした 0: ロイス:「死んだあと、私の魂を好きなようにしていい!!俺は…どうなってもいい!!!だから!」 0: マリア:(M)別にこの男の魂など、どうでもよかった。ただ…死んでもなお、こんなにも愛されているその女が…羨ましかった 0: ロイス:「…お願いだ。私には彼女が必要なんだ…」 0: マリア:(M)私もその温もりが欲しかった。彼女になりたいと願った 0: ロイス:「(泣く)」 0: マリア:(M)だから私はこの日、掟を破り彼女の体に入った。すると忽ち彼女の記憶が頭に流れ込んできた 0: マリア:「…。」 0: マリア:(M)記憶の中の彼女はどれも幸せに満ちた笑顔をしており、彼女も彼を本当に愛していたことが伝わってきた。男との記憶を思い出すだけで…心臓のあたりがポカポカと温かくなり…それは今までにない感覚だった。私は彼の膝の上で静かに目を覚ました 0: ロイス:「マリ…ア…。マリア!」 0: マリア:(M)すると私の顔を見て目を見開く男の姿が見えた。そして男は何度も私の名を呼んだ 0: マリア:「ロイス…?」 ロイス:「あぁ…マリア…良かった…本当に良かった…もっと声を聴かせてくれ。もっと私の名を呼んでくれ!もう…絶対に離さない」 0: マリア:(M)男は私をその場で強く抱きしめた 0: マリア:「ロイス、苦しいわ」 ロイス:「あ、す、すまない。でももうしばらくこのままでいさせてくれ。夢ではないと実感させてくれ。マリア」 マリア:「 …。(呟く)とても…あたた…かい」 0: マリア:(M)気づけば私の頬は濡れていた。悪魔を召喚した時点で男の魂は既に私の所有物となった。この男が死んだあと、その魂は地獄に永遠に囚われることとなる。しかし、私欲のために人間に成り代わるという罪を犯した私も、魂を回収した後地獄に落とされることになるだろう。それでも私はもう、この温もりを手放すことはできなかった 0: ロイス:「マリア…愛しているよ」 0:ロイス。マリアに優しくキスをする マリア:「…っ!」 0: マリア:(M)これが私に向けられた愛ではないことは分かっていた。それでも私は…幸せだった。私がいなくなればすぐに壊れてしまいそうなこの男のことがとても愛おしかった。私はそっと彼の背中に腕を回し強く抱きしめた。罪を犯した私たちはもう元には戻れない 0: マリア:「ロイス…私も…愛しているわ」 0: マリア:(M)そう。共に地獄に落ちるその日まで