台本概要
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タイトル | 戦場のオリーブ |
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作者名 | ある (@aru_seigeki) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(不問4) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
魔法や異種族などは登場しませんが、中世ヨーロッパ風の架空の世界を舞台とした、国家間の戦いの台本です。 それぞれの登場人物に、あえて1つずつ、演説や口上の長めのセリフを入れてあります。(というか作者が単に、そんな台本を聞きたいがため、演じたいがために、この台本を書き始めたという…) 基本的にどのキャラも男女どちらで演じても問題無いよう書いたつもりですが、一人称や口調、語尾の変更等は、演じやすいように自由に行っていただいて問題ありません。 アドリブ等に関しても、ジャンルがコメディになってしまうような大幅なものでなければ、演者さん同士での合意の上、自由に行っていただいて問題ありません。前読みするかしないかも、演者さん同士での合意の上、個々人で決めてもらっても大丈夫です。 投げ銭に関しては、少額であれば非商用利用扱いとしますので、報告の必要はありません。ただ、予期せず多額の投げ銭が発生した際には事後でも構いませんので報告をお願いします。 最後に、必須ではありませんが、キャストやアーカイブ等に残した際にはリンクだけでも良いのでご連絡下さると幸いです。クオリティ、セリフ噛み、漢字間違い、世界観がどうこう…等々は全く気にしませんのでご安心ください。あくまで、今後の台本作りの参考にしたり、作った台本を聞きたい、という作者の望みです♪ ※初心者さんでも読めるように、少しでも難しそうな漢字にはふりがなを付けてありますが、以下の漢字に関しては、あまりに頻繁に出てくるのでふりがなは付けてないのでご了承ください。 陛下:へいか 王城:おうじょう 近衛:このえ 近衛兵:このえへい 仰る:おっしゃる 1161 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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アレクシス | 不問 | 34 | 滅亡を迎えるかもしれない王国の王or女王。基本的に冷静。考えて指示を出すが自らはあまり表に出ないタイプ。民衆に向けての長めの演説をするかも。ただ、本人は演説は苦手らしい。 |
レオマール | 不問 | 35 | アレクシスの臣下の騎士。基本的にアレクシスに忠実で正義感が強い。王国騎士団の団長。モノローグのある唯一のキャラ。長めの口上やモノローグあり。 |
ガレウス | 不問 | 31 | 世界を自身の帝国のみにする事で世界平和を実現しようとしているらしい皇帝。自信家でわりと傲慢。男性としての方が演じやすいかも。軍に向けての長めの演説あり。 |
ゼビノア | 不問 | 33 | アレクシスの臣下だったり、ガレウスの臣下だったり。最初は王国騎士団の副団長。わりと感情的。この中では女性として演じやすい方かも。長ゼリフはこの中では短いが、回数は多いかも。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
レオマール:(この書が読まれる時には、書の中の国々はもう存在していないかもしれない。しかし、これは物語などではなく、全て実話である。これらの出来事が後世の教訓となる事を願って、私はこの書を記すこととする。)
0:【間】
レオマール:アレクシス陛下!
レオマール:我が王国と敵国たるガレウス帝国との国境線に、皇帝ガレウス自ら率いる帝国軍が、迫りつつあるとの報(ほう)が届きました!
レオマール:我が王国騎士団は国境沿いにて待機をしておりますが、いかがいたしましょうか?
アレクシス:ふむ、やはり敵軍は侵攻を開始したか…。レオマールよ、王国騎士団の団長たるそなたが指揮をとり、速やかに密集陣形を構築し、防戦の構えを整えよ。
レオマール:しかし陛下、敵軍の数は我が軍を明らかに上回っております。
レオマール:密集陣形での守備は、敵に我が軍を包囲する機会を容易に与えるようなもの。
レオマール:ここは王国騎士団の中でも随一(ずいいち)の武勇を誇るゼビノア副団長を先頭とした、突撃陣形にて正面突破の攻撃を仕掛けるのが得策かと。
ゼビノア:その通りです陛下、ご命令くださればこのゼビノア、命(いのち)を賭(と)して先陣を切り、敵軍を蹴散らして見せましょう!
アレクシス:いや、密集陣形で良い。
アレクシス:敵軍は所詮、侵略した国の士気の低い兵の寄せ集めである。
アレクシス:その敵軍に、我が王国騎士団の重厚(じゅうこう)な装備と統率力を見せつけ、戦意をそぐ事がここでの目的だ。
アレクシス:ゆえに敵軍が進軍を開始した際には、軍を王城まで撤退させる。
ゼビノア:しかし陛下!
ゼビノア:この国境線と王城までの道中(どうちゅう)には、私の故郷の村があります!
ゼビノア:陛下はその村を見捨てると仰るのですか?
アレクシス:王城は渓谷(けいこく)の合間(あいま)に作られた言わば天然の要塞。
アレクシス:敵国もそこを通らねばそれ以上の侵攻は行えぬ。
アレクシス:形勢が不利な状況で我が王国に勝機をもたらすには、致し方のない事であろう。
ゼビノア:陛下!日頃より温厚(おんこう)で民のことを第一に考える、アレクシス陛下のお言葉とは到底思えません。
ゼビノア:どうかご再考を!
アレクシス:ゼビノアよ、それは平時(へいじ)の話だ。今は戦時である。
アレクシス:私は国の主(あるじ)として、一つの村と王国全体を、秤(はかり)にかける判断も下さねばならぬ。
ゼビノア:しかし陛下!
レオマール:もうよせゼビノア!陛下も十分お考えなさった上での、苦渋(くじゅう)の決断かと。
レオマール:それにまだ敵軍が進軍を開始すると決まったわけでもないだろう?
アレクシス:レオマール、そなたの理解に感謝する。
アレクシス:ゼビノア、では敵へ撤退を促(うなが)す発言をする任(にん)は、そなたに任(まか)せよう。
アレクシス:それが私にできる最大限の譲歩だ。
ゼビノア:……。
アレクシス:撤退となった際に指揮をとるため、私は軍の後方にて待機する。
アレクシス:レオマール団長、ゼビノア副団長、速やかに前線へ赴(おもむ)き、私の命(めい)を遂行(すいこう)せよ。
レオマール:はっ!アレクシス陛下の命(めい)、謹(つつし)んでお受けいたします!
ゼビノア:……、はい、かしこまりました。
0:【間】
ガレウス:長い道のりであったが、ようやくアレクシスとやらの治める王国の国境まで辿り着いたか…。
ガレウス:ほう、国境の向こう側に軍を展開しているようだが、密集陣形を組みながら守備の構えをとっているか。
ガレウス:アレクシスとやらは臆病な上に、戦いの定石(じょうせき)も知らぬと見える。
ガレウス:まぁ、数多(あまた)の戦いで勝利を収(おさ)めてきた、このガレウスとは場数が違うゆえ、無理からぬことか。
0:
:ガレウスが自軍へ向けて指示を出す
ガレウス:敵軍は臆病な上に無能な軍である!
ガレウス:我を守備する近衛兵は現状を維持しつつ、軍を左右に広げ、敵軍を包囲する構えとせよ!
0:【間】
レオマール:ゼビノア、心配は不要かもしれんが、安全に戻れるよう、敵に近づきすぎるなよ。
ゼビノア:では、行って参ります。
0:
:ゼビノアが敵軍へ向かって警告を発する
ゼビノア:私は誉(ほま)れ高き王国騎士団の副団長ゼビノア!
ゼビノア:それ以上の進軍は我が王国への侵略行為とみなす!
ゼビノア:これは最後通告である!我々は貴軍(きぐん)の早々の撤退を要求する!
ガレウス:ほぅ、敵軍も腰抜けばかりではないようだな。では、我もこちらの軍を鼓舞(こぶ)せねばなるまいか…。
0:
:ガレウスが自軍と敵軍へ向けて演説を始める
ガレウス:我はガレウス帝国が初代皇帝、ガレウス一世である!
ガレウス:我の即位から、当初は小国であった帝国は、領土の拡大を続け、今や帝国は大陸の半分以上を手中(しゅちゅう)に収めるに至(いた)った。
ガレウス:これを帝国の横暴(おうぼう)であるなどと批判する者も少なからずいるが、果たしてそうだろうか?否(いな)!断じて否(いな)である!
ガレウス:諸君らはなぜ世界から争いが無くならないかを考えたことはあるか?答えは明白である、この世界に国家が複数存在するからに他ならない。
ガレウス:この世界を一つの国家、すなわち、我が帝国が統(す)べれば、この世界から争いは無くなり、全ての民に恒久(こうきゅう)の平和がもたらされるであろう!
ガレウス:この戦いは侵略などでは決して無い、世界に平和をもたらすための、言わば聖戦である!
ガレウス:勇敢なる我らが帝国の兵士達よ、いざ進軍を開始せよ!!
レオマール:敵軍が進軍を開始した、ゼビノア、戻れ!
ゼビノア:……。
レオマール:ゼビノア?どこへ行く?単騎で突撃する気か?
レオマール:危険すぎる、今すぐ戻れ!
ゼビノア:レオマール団長、アレクシス陛下、すまない…
ガレウス:ゼビノアと言ったな。単騎で突撃とは、勇敢なのか無謀なのか…。
ガレウス:いずれにせよ、我を守る近衛兵は、帝国の精鋭中の精鋭。
ガレウス:お前がどれだけの手練(てだ)れであろうと、ただの無駄死にであるぞ。
ゼビノア:私は…、貴軍(きぐん)への投降を申し出に参りました。
ガレウス:ほぅ。理由を申してみよ。
ゼビノア:我が王国の主(あるじ)、アレクシス陛下は、この先にある私の故郷(こきょう)の村を見捨てると仰いました。
ゼビノア:一方で、ガレウス皇帝陛下は、敵味方問わず、全ての民の恒久(こうきゅう)の平和を願っておいでです。私はその崇高(すうこう)なる理想に感銘(かんめい)を受けました。
ゼビノア:私はあなた様の理想の為なら、王国の兵に剣を向ける事も厭(いと)いません。
ゼビノア:しかしながら、王国の民はこの戦いとは無関係です。
ゼビノア:投降を願い出る身で不躾(ぶしつけ)である事は重々承知ですが、村の民を殺(あや)める事は、決してしないとお約束いただけないでしょうか?
ガレウス:ふむ、よかろう。我とて無益な殺生(せっしょう)は望まぬ。
ガレウス:してゼビノアよ、お前がこれから我が軍へ就(つ)く事を、両軍に対して宣言することはできるのか?
ゼビノア:はっ!喜んで承(うけたまわ)ります!
0:
:ゼビノアが両軍に向けて宣言する
ゼビノア:王国騎士団の副団長ゼビノアは、今この時をもってその名を捨てる事を、王国軍、帝国軍の両軍に対して宣言する!
ゼビノア:そして今後は、ガレウス皇帝陛下のもと、帝国のためにこの身を捧げる事をここに誓う!
レオマール:まさか!ゼビノアが…!
ガレウス:ほうほう、敵軍に動揺が走っているのが、ここからでも見て取れる。
ガレウス:お前が王国騎士団の副団長で、相当の手練(てだ)れである事に偽りは無かったようだな。
ガレウス:しかし、我はお前をまだ信用した訳ではない。必要な時以外は武器を持つことは認めぬし、少しでも不穏(ふおん)な動きをしたら、その命(いのち)は無いと心得(こころえ)よ。
ゼビノア:はっ!皇帝陛下の信頼を得られるよう、全力を尽くします!
0:【間】
レオマール:アレクシス陛下!緊急事態です!
アレクシス:我が軍に動揺が走っているようだが、レオマール、何事か?
レオマール:敵軍が進軍を開始した上、ゼビノアが敵軍へ寝返りました!
アレクシス:撤退だ。
レオマール:しかし、ゼビノアがまだ…
アレクシス:寝返ったのであれば、ゼビノアは既(すで)に我が軍の騎士ではない。
アレクシス:幸(さいわ)い敵軍は陣を左右に広げている上に、歩兵が大多数だ。
アレクシス:我が軍への追撃を始めるには、時間を要するであろう。
アレクシス:速やかに撤退を始めれば、敵が王城に着くまでに軍を立て直す時間も、十分に稼げるはずだ。
レオマール:はっ、承知しました!
0:【間】
レオマール:(その後の我が軍の動きは早かった。
レオマール:アレクシス陛下を先頭に王城へ向かう中、私には、兵士が取り残されないよう、最後尾を補助する任(にん)が与えられた。
レオマール:騎兵の王国騎士団が、帝国軍に後(おく)れを取るはずもなく、一人残らず王城へ撤退する事はできたが、私の心は晴れなかった。
レオマール:あの時ゼビノアにもっと話しかけていれば、説得できていれば、ゼビノアが寝返る事は無かったかもしれないと、私の後悔の念は、むしろ増していった。)
0:【間】
レオマール:アレクシス陛下、陛下のご指示通り、敵を迎え撃つための兵の配備を完了しました。
アレクシス:うむ、ご苦労。兵の様子はいかようか?
レオマール:おおむね平常心を取り戻しておりますが、ゼビノアの裏切りを割り切れない兵も少なくありません。
アレクシス:やはりそうか…。
レオマール:それより陛下、こんな所に居ては危険です。早く城の中へお入りください。
アレクシス:いや、私はここに残る。
アレクシス:ゼビノアの裏切りは私の責(せき)だ。可能ならば、私がここでけじめをつける。
レオマール:それであれば私も同じ事です。何があろうと陛下にお供いたします。
アレクシス:好きにするがよい。そうだ、これをそなたに渡しておく。
レオマール:はい、…封書…ですか?
アレクシス:私の印(いん)にて封をしておいた。
アレクシス:もし私が討(う)たれるか、敵軍に捕らえられるような事があれば、直(ただ)ちに王城の中へ逃げ込み、それを兵の前で開封し、内容に従え。
レオマール:そんな!縁起でもない事を仰らないでください!
アレクシス:もしもの話だ、そうならないように善処する。ただ、この命(めい)は絶対だ。ゆめゆめ忘れるな。
レオマール:……、はい、承知いたしました。
0:【間】
ガレウス:あれがアレクシスの城か…、奴の軍を城まで逃がしてしまったのは悔(く)やまれるが、城での決戦は元より想定していた事。
ガレウス:それに城攻めとなれば、奴等の騎兵も役には立つまいし、我が軍の優位に変わりは無い…。
ゼビノア:ガレウス様、道中(どうちゅう)で私の故郷(こきょう)の村を襲撃せず、進軍いただけました事、心より感謝申し上げます。
ガレウス:お前の為ではない、敵軍に軍を立て直す時間を、極力(きょくりょく)与えないため、最短経路を通ったまでだ。
ガレウス:それにゼビノア、我はまだお前を信用した訳ではない。お前が我が軍に就(つ)いている事で、敵軍の戦意をそぐ事ができるから生かしているだけだ。
ガレウス:お前の言動次第で、我が軍はお前の命(いのち)もその村も、どうとでもできる事を忘れるな。
ゼビノア:はい、承知しております。
ガレウス:ん?城門の外に孤立した二人の騎士がいるな…。一人は先(さき)の国境線で指揮をとっていた騎士団長か。もう一人は…、さてはあやつがアレクシスか?
ゼビノア:はい、王国の主(あるじ)アレクシスと、騎士団長レオマールの二人で相違(そうい)ございません。
ガレウス:ゼビノア、それが虚言(きょげん)であったなら…、わかっているな?
ゼビノア:はっ!重々承知しております!
ガレウス:ならよい…。して、その二人の強さはいかほどか?
ゼビノア:レオマールは騎士団長ゆえ、軍の統率力は王国随一(ずいいち)で、武勇もかなりのものです。しかし、一対一での戦闘であれば、私には及ばないかと。
ゼビノア:アレクシスにおいては、自ら戦場で剣を振るう姿をほぼ目にした事が無き故(ゆえ)、ガレウス様でも互角に渡り合えるかと存じます。
ガレウス:ゼビノア、口の利き方がなっていないようだな…。
ガレウス:お前は今、我のことを、部下に指示を出す事しかできぬ臆病者と同等だとぬかし、我のことを侮辱(ぶじょく)したのだぞ!
ゼビノア:も、申し訳ございません!そのような意図(いと)で発言したのではありませんので、どうかお許し下さい!
ガレウス:(溜め息をつく)はぁ…皇帝とはいえ、自(みずか)ら戦わねば、我を見くびる者が現れるのは考え物だな…。
ガレウス:ゼビノア!許しを請(こ)うなら、行動をもって示して見せよ。
ガレウス:かつての団長と副団長ともあれば、浅からぬ仲であろうが、奴の事を殺(や)れるな?
ゼビノア:はっ!ガレウス様の命(めい)とあらば、このゼビノア、団長レオマールを手にかける程度の事、何のためらいもございません!
ガレウス:よかろう、では向かうぞ。念のためだが、近衛も我の後に付き従え。
0:【間】
レオマール:アレクシス陛下!敵軍がこちらに向かってきます!
レオマール:先頭は…、ガレウスとゼビノアです!
アレクシス:皇帝自ら登場とは、こちらとしては好都合だが…。近衛兵も引き連れているのは、さすが抜かりないといったところか…。
ガレウス:アレクシスよ、この皇帝ガレウスが、おぬしに慈悲を与えよう!
ガレウス:まずおぬしは可能な限りの民を集めよ。その上で、王国が我が帝国に屈する旨(むね)の演説を行えば、貴様と民の命(いのち)は奪わない事を保障しよう。
アレクシス:ほう、私と民の命(いのち)の保障か…。王国騎士団はどうするつもりだ?
ガレウス:ゼビノアの我への忠誠を試すため、現団長のレオマールには、ここで死んでもらう。
ガレウス:その後は、ゼビノアを団長に任命し、帝国騎士団として、我のもとで今後の帝国領拡大に尽力(じんりょく)させる。
アレクシス:何一つ受け入れられない要求だな。
アレクシス:大勢の民の前での演説など、私の性(しょう)に合わんし、レオマールはかけがえのない私の騎士だ。
アレクシス:そしてなにより、王国騎士団を侵略の道具に使うなどもっての他だ!
ガレウス:おぬしが我が慈悲を受け入れることは、はなから期待などしていなかったが残念だ。
ガレウス:二人にはここで死んでもらう。全ての指揮官を失った城は、容易に落ちるであろう。
ガレウス:ゼビノア、殺(や)れ。
ゼビノア:はっ!
レオマール:もう一度だけでいいから私の話を聞いてくれ!
レオマール:ゼビノアは民を見捨てる事などあってはならないと言ったが、王国が帝国に屈すれば、奴らの圧政でより多くの民が貧困や病気で命(いのち)を落とすのではないか?
レオマール:そもそも民とは何だ?兵にだって家族や恋人、愛する人はいるはずだ!兵も等しく王国の民なのではないか?
レオマール:それに「王国を守る盾」、の誓いを忘れたはずは無いだろう?
レオマール:王国騎士団は、王国を守るためには命(いのち)を賭(と)して戦えど、決して他国の侵略のために戦うことは無いと、あの日、誓ったはずだ!
レオマール:ガレウスの軍門に下(くだ)れば、王国騎士団は、帝国騎士団となり果てて、他国への侵略を繰り返す事になる。それは決して許される事ではない!
レオマール:目を覚ますんだ!王国騎士団の副団長ゼビノア!
ゼビノア:その名は国境線のあの地で捨てた!私はガレウス様に忠誠を誓った、ただのゼビノアだ!行くぞ、はぁぁあ!
0:【少しの間】
ガレウス:向こうの二人の戦いは始まったようだな。おぬしも知っての通り、戦いではゼビノアが一枚上手だ。時を待たずして決着はつくだろう。こちらもそろそろ始めようか。
アレクシス:近衛兵を背(せ)に従えてか?
アレクシス:そうか、皇帝は一人で戦うこともできない臆病者であったか。
ガレウス:ええい!どいつもこいつも私を見くびりおって、忌々(いまいま)しい!
ガレウス:近衛は下がっていろ!実力をもって皇帝にまで昇りつめた我が武勇、その目にしかと焼き付けるがよい!
0:【少しの間】
レオマール:はぁ、はぁ…。ゼビノア!こんな無益な戦いをして何になる?剣を収めてくれ、ゼビノア!
ゼビノア:私はもう後には引けんのだ、せやっ!
0:【少しの間】
ガレウス:ふんっ!はぁっ!予想以上にやるかと思ったが、先程から防戦一方な上に、息も上がっておるではないか、そろそろとどめと行こうか!
アレクシス:はぁ、はぁ。私とて、戦場に出ずとも鍛錬(たんれん)は怠(おこた)っていないのでね、そうそう簡単にやられはせんよ。
0:【少しの間】
レオマール:くっ、ここまでか…。
レオマール:ん?!ゼビノア!どこへ行く?まさかアレクシス陛下を?待て!ゼビノア!
0:
:ゼビノアがガレウスを背後から切りつけにやってくる
ガレウス:アレクシスよ、さぁ、とどめだ!ん?ぐあぁぁ!
ガレウス:
ガレウス:ゼビノア?!…だと?ゼビノア?なぜ私を刺した?
ゼビノア:帝国軍は全軍止まれ!
ゼビノア:今の一撃は、あえて急所を外したが、今、私の剣はガレウスの喉元にある。そこを一歩でも動けば、そのまま突き刺すぞ!
ガレウス:全軍止まれ!一歩も動くでない!
ガレウス:なぜ?なぜだ?ゼビノア?
ゼビノア:なぜ?笑わせるな。私は初めから裏切ってなどいない。
ゼビノア:全てはアレクシス陛下の命(めい)で、敵軍へ寝返ったふりを続けていたまでだ。
ゼビノア:陛下はこの場所で、貴様が近衛を離し、孤立する状況を作れると仰っていた。
ゼビノア:もちろんそうならなかった場合の指示も、事細(ことこま)かに受けていたが、結果として、貴様は冷静さを欠いて孤立し、その上、私からの注意もそらして、完全に無防備な背を私に向けたのだ。
ガレウス:んなっ!では「故郷(こきょう)の村」、というのも全て作り話だったのか?
ゼビノア:いや、私の故郷(こきょう)の村は確かに道中(どうちゅう)に存在していた。
ゼビノア:だが、陛下は初めから村人を一人残らず避難させていた。
ゼビノア:ただ、私としては村人が居なくても、村を焼かれたり、略奪されたりするのは避けたかったから、その点は本心だ。
ゼビノア:これも陛下の、「嘘の中にも真実を混ぜた方がいい」、という策の一つだったわけだ。
アレクシス:そういうことだ、ガレウス。
アレクシス:これから、帝国軍には王国騎士団の監視の下(もと)、国境線の外まで撤退してもらう。
アレクシス:何事もなく撤退された事が確認され次第、ガレウスを帝国へ返すつもりだ。
アレクシス:急所を外したとはいえ、そろそろ手当てをしないと手遅れになる、あまり考える時間は無いが、どうするかね?
ガレウス:くっ…。全軍速(すみ)やかに撤退せよ!撤退せず戦おうなどとは、決して考えるな!
ガレウス:これは皇帝陛下の絶対の命令である!
アレクシス:決断が早くて助かる。帝国軍の撤退が終わるまで、気は抜けないが、ひとまず王国の危機は去ったと考えてよかろう。
レオマール:アレクシス陛下、なぜ私には作戦の内容を教えてくださらなかったのですか?
アレクシス:それも含めての作戦だったのだ。レオマールが、本心からゼビノアの裏切りに動揺したり、ゼビノアを説得しようとしたりしてくれたお陰で、この作戦が成功したとも言える。
レオマール:確かに、陛下の仰る通りですが、本当に生きた心地がしませんでした…。
アレクシス:はっはっは、そなたの功績は大きい、許せ、レオマール。
レオマール:はっ!アレクシス陛下!
0:【間】
レオマール:(その後、王国騎士団の監視の下(もと)、何事もなく帝国軍は国境線の外へと撤退した。
レオマール:念のためと、団長の私と副団長のゼビノアも同行する事を提案したが、陛下は必要ないと仰った。
レオマール:ガレウスが皇帝であると同時に、軍の指揮官でもあったため、その命令は絶対であり、逆らえる兵は一人もいなかったのだ。)
0:【間】
ゼビノア:アレクシス陛下!
ゼビノア:帝国軍が、国境線の外へと撤退したとの報(ほう)が届きました。
アレクシス:うむ、ご苦労。
ガレウス:こんな所に我をずっと縛り付けおって…。
ガレウス:我は帝国の皇帝であり、いずれこの世界を統(す)べる者であるぞ!このような無礼が許されると思っておるのか?
ガレウス:我が軍が国境線の外へと撤退したのなら、我を今すぐに解放せよ!
アレクシス:レオマール、剣はあるか?
レオマール:はっ!こちらに!
アレクシス:ガレウス、私は貴様を「帝国へ返す」、とは言ったが、「生きて返す」、とは一言も言っておらんぞ。
アレクシス:むしろ私はこの世界のため、貴様をここで処断(しょだん)する方が良いとすら考えておる。
ガレウス:ひいっ!剣を向けるな!
ガレウス:要求は何だ?我が国の領土か?賠償金(ばいしょうきん)か?
アレクシス:どちらも要(い)らぬ。ただ貴様にはこの後、国境線へ向かい、帝国軍の前で、帝国の敗北と、占領した国の解放を宣言してもらう。
アレクシス:それが貴様を、「生きて返す」、条件だ。
ガレウス:ぐぬぬ…、我が命(いのち)のためだ…、しかたあるまい…。
ゼビノア:アレクシス陛下、本当にガレウスを、生きて返してよろしいのでしょうか?
アレクシス:なに、心配には及ばぬ。
レオマール:ところで陛下、この度(たび)の王国の勝利に、最も貢献(こうけん)したのはゼビノアです。
レオマール:それに、剣の腕も私よりゼビノアが上です。
レオマール:私は、王国騎士団の団長は、ゼビノアが相応(ふさわ)しいと考えております。
アレクシス:いや団長はレオマールのままだ。それよりゼビノア、今回は王国の為とはいえ、危険な任(にん)を与えてすまなかった。
アレクシス:だが大義(たいぎ)であったぞ。
ゼビノア:勿体(もったい)なきお言葉、感謝します!
ゼビノア:このゼビノア、陛下の命(めい)とあらば、今後もどれだけ危険な任(にん)であろうと、命(いのち)を賭(と)して全(まっと)うする所存(しょぞん)です!
アレクシス:ゼビノア、そういうところだ。指揮をとる者が、自身の身の安全を考えずしてどうする?その様子では当分、ゼビノアは副団長のままであるな。
ゼビノア:お言葉ですが陛下。今回の件では、陛下も危険な場に、自ら身を投じたのではありませんか?
アレクシス:はっはっは、これは痛いところを突かれたな。まぁ今回は例外だ。以後気を付ける。
レオマール:陛下、そろそろお時間です。
レオマール:陛下のお言葉を聞こうと、王国中から城の周りに民が集まっております。
アレクシス:大勢の民の前での演説など、私の性(しょう)に合わないのだがな…。レオマール、ゼビノア、共に来てくれるな?
レオマール:はっ!
ゼビノア:はっ!
0:
:アレクシスが大勢の民に向けて演説を始める
アレクシス:親愛なる王国の民の皆に告げる!ガレウスの脅威はこの国から去った!
アレクシス:私は他国とは関わらず、国の守りを固める事が、平和を維持する道だと考えていたが、それは過(あやま)ちであった。
アレクシス:それにより、今回のガレウスの侵攻で、民を危険にさらしたことを、心から申し訳なく思う。
アレクシス:ガレウスは、世界を一つの国が治(おさ)めれば、争いは無くなると考えていたようだが、それもまた過(あやま)ちであった!
アレクシス:個々人(ここじん)にそれぞれの思想や信念があるように、国も多種多様である。
アレクシス:大事なのは、それぞれの思想や信念を尊重し、互いに手を取り合うことであると私は考えるに至った。
アレクシス:平和とは、一国のみで実現できるものではなく、国と国とが手を取り合って、初めて実現できるものであったのだ!
アレクシス:ここにかけがえのない二人の友がいる。皆も私の友として、次の世代への平和を、共に築(きず)き上げようではないか!!
0:【間】
レオマール:(陛下の演説を聞いた民の大歓声が、いつまでも鳴りやまなかった事は、言うまでもない。
レオマール:時を同じくして、大陸の各地で、帝国に占領されていた国々は、独立を宣言した。
レオマール:聞けばアレクシス陛下は、ガレウスが王国に侵攻した時こそ、独立の好機(こうき)であると、事前に各国に根回(ねまわ)しをしていたらしい。
レオマール:各国の独立の知らせを受けて、国境線に居た帝国軍のほとんどの兵士は離反(りはん)した。
レオマール:後日、ガレウスは、国境線にてその様(さま)を目(ま)の当たりにして、愕然(がくぜん)としたという。)
0:【少しの間】
レオマール:(かくして、当初は双方に多大な犠牲が出ると予測されていた、帝国軍の王国侵攻は、一人の犠牲も出さずして幕を閉じた。
レオマール:犠牲の出なかった戦いは、いずれ歴史の中で風化(ふうか)し、忘れさられる事だろう。
レオマール:しかし私は、この戦いが教訓となって、後世の争いが少しでも避けられることを願う。
レオマール:その言葉をもって、この書、「戦場のオリーブ」、の結末とする。)
0:了
:
:
:――――――――
:以降は前読みでも、劇後でも特に読む必要はありません。興味のある方のみどうぞ。
:――――――――
:
:
:~~~~~~~~~
:本文に入れたかったけれど、長さの都合上省略した小ネタ集
:~~~~~~~~~
:
0:
:【「戦場のオリーブ」の題名の意味】
:レオマールはオリーブの花言葉、「知恵」「勝利」「平和」にちなんで書の題名を「戦場のオリーブ」とした。アレクシスが「知恵」を使って「勝利」を掴み、世界に「平和」をもたらした、という意味合いが大きいが、戦場の「平和」という題名が犠牲が一人も出なかった戦いを象徴しているという意味合いも含んでいる。
0:
:【序盤の国境線での陣形について】
:専門用語をなるべく使わないため、詳細な説明はある程度省略した。アレクシスは撤退に備えて魚鱗の陣(突撃陣形)ではなくあえて方陣(密集陣形)を命じた。方陣を命じた理由は他にもあり、敵軍にこちらから攻撃する計画が無い事を印象付ける狙いもあった。軍の数で勝るガレウスはそれに対して横陣か鶴翼の陣を命じた。結果としてゼビノアは単騎でもガレウスに容易に近づく事ができた。また、追撃の際にガレウスの軍は陣を方陣か長蛇の陣に変える必要が生じ、多くの時間を要する事となった。
0:
:【道中の村を襲撃された時の対策】
:アレクシスは今までの帝国軍の侵攻等の情報を可能な限り収集し、ガレウスの性格や、とるであろう戦略を十分予測していたため、村の襲撃はまず無いという自信があった。この事に限らず、その事前の情報収集を元にガレウスの行動予測を緻密に行っていた事が、作戦の予定通りの成功をもたらした。ただ、アレクシスは万が一、道中の村を襲撃された時の為に少数の王国騎士団の兵を村の入り口に配備していた。その兵は戦闘目的ではなく、あくまでガレウスに村を襲撃するメリットが無いと思わせるための兵で、ガレウスが襲撃をする気配を見せた場合には早馬で王城へ合流するよう命令を下していた。また、ゼビノアにも身の危険が及ぶような流れになった際には隙を見て逃げ出し、王城へ合流するよう命令を下していた。
0:
:【王城での兵の配備について】
:基本的には籠城で数の不利を覆す配備を行っていたが、ガレウスが一切前方に出ず、後方に居座る状態で城攻めを始めた場合には城の正門以外の隠された扉から精鋭の兵を出し、背後からガレウスを急襲できる準備を整えていた。
0:
:【レオマールに渡した封書について】
:封書には、レオマールが全指揮をとる事、アレクシスが捕虜となった際には戦死したと考え行動をとる事、ゼビノアは作戦で裏切ったふりをしているだけである事、その他、王城での戦闘を有利に進める指示や、王国の後継者に誰を指名するか、などが事細かに記されていた。また、封書の内容がアレクシスの命である事を確実に兵に認識させるため、封書には王印で封をし、レオマールには開封する際には必ず多くの兵の前で開封する事を命じていた。
0:
:【王城の外に二騎のみで孤立した理由】
:もちろん第一の理由は作戦の最終段階を成功させるためであった。アレクシスは、ガレウスが味方の弓兵の狙撃による暗殺を恐れて、侵略の際には弓兵をほぼ同行させない事を調べ上げていたので、城外に孤立しても問題ないという自信があった。また、作戦が予定通り進まず、ガレウスが近衛と共に突撃してきた際等には、速やかに城内へ向かいガレウスの軍を城門近くまでおびき出し、城壁の上に隠していた精鋭の弓兵の射程に入った時点で追撃してきた兵に矢を浴びせ、アレクシスとレオマールのみ城内へ入れて城門を閉じる、という作戦も立てていた。
レオマール:(この書が読まれる時には、書の中の国々はもう存在していないかもしれない。しかし、これは物語などではなく、全て実話である。これらの出来事が後世の教訓となる事を願って、私はこの書を記すこととする。)
0:【間】
レオマール:アレクシス陛下!
レオマール:我が王国と敵国たるガレウス帝国との国境線に、皇帝ガレウス自ら率いる帝国軍が、迫りつつあるとの報(ほう)が届きました!
レオマール:我が王国騎士団は国境沿いにて待機をしておりますが、いかがいたしましょうか?
アレクシス:ふむ、やはり敵軍は侵攻を開始したか…。レオマールよ、王国騎士団の団長たるそなたが指揮をとり、速やかに密集陣形を構築し、防戦の構えを整えよ。
レオマール:しかし陛下、敵軍の数は我が軍を明らかに上回っております。
レオマール:密集陣形での守備は、敵に我が軍を包囲する機会を容易に与えるようなもの。
レオマール:ここは王国騎士団の中でも随一(ずいいち)の武勇を誇るゼビノア副団長を先頭とした、突撃陣形にて正面突破の攻撃を仕掛けるのが得策かと。
ゼビノア:その通りです陛下、ご命令くださればこのゼビノア、命(いのち)を賭(と)して先陣を切り、敵軍を蹴散らして見せましょう!
アレクシス:いや、密集陣形で良い。
アレクシス:敵軍は所詮、侵略した国の士気の低い兵の寄せ集めである。
アレクシス:その敵軍に、我が王国騎士団の重厚(じゅうこう)な装備と統率力を見せつけ、戦意をそぐ事がここでの目的だ。
アレクシス:ゆえに敵軍が進軍を開始した際には、軍を王城まで撤退させる。
ゼビノア:しかし陛下!
ゼビノア:この国境線と王城までの道中(どうちゅう)には、私の故郷の村があります!
ゼビノア:陛下はその村を見捨てると仰るのですか?
アレクシス:王城は渓谷(けいこく)の合間(あいま)に作られた言わば天然の要塞。
アレクシス:敵国もそこを通らねばそれ以上の侵攻は行えぬ。
アレクシス:形勢が不利な状況で我が王国に勝機をもたらすには、致し方のない事であろう。
ゼビノア:陛下!日頃より温厚(おんこう)で民のことを第一に考える、アレクシス陛下のお言葉とは到底思えません。
ゼビノア:どうかご再考を!
アレクシス:ゼビノアよ、それは平時(へいじ)の話だ。今は戦時である。
アレクシス:私は国の主(あるじ)として、一つの村と王国全体を、秤(はかり)にかける判断も下さねばならぬ。
ゼビノア:しかし陛下!
レオマール:もうよせゼビノア!陛下も十分お考えなさった上での、苦渋(くじゅう)の決断かと。
レオマール:それにまだ敵軍が進軍を開始すると決まったわけでもないだろう?
アレクシス:レオマール、そなたの理解に感謝する。
アレクシス:ゼビノア、では敵へ撤退を促(うなが)す発言をする任(にん)は、そなたに任(まか)せよう。
アレクシス:それが私にできる最大限の譲歩だ。
ゼビノア:……。
アレクシス:撤退となった際に指揮をとるため、私は軍の後方にて待機する。
アレクシス:レオマール団長、ゼビノア副団長、速やかに前線へ赴(おもむ)き、私の命(めい)を遂行(すいこう)せよ。
レオマール:はっ!アレクシス陛下の命(めい)、謹(つつし)んでお受けいたします!
ゼビノア:……、はい、かしこまりました。
0:【間】
ガレウス:長い道のりであったが、ようやくアレクシスとやらの治める王国の国境まで辿り着いたか…。
ガレウス:ほう、国境の向こう側に軍を展開しているようだが、密集陣形を組みながら守備の構えをとっているか。
ガレウス:アレクシスとやらは臆病な上に、戦いの定石(じょうせき)も知らぬと見える。
ガレウス:まぁ、数多(あまた)の戦いで勝利を収(おさ)めてきた、このガレウスとは場数が違うゆえ、無理からぬことか。
0:
:ガレウスが自軍へ向けて指示を出す
ガレウス:敵軍は臆病な上に無能な軍である!
ガレウス:我を守備する近衛兵は現状を維持しつつ、軍を左右に広げ、敵軍を包囲する構えとせよ!
0:【間】
レオマール:ゼビノア、心配は不要かもしれんが、安全に戻れるよう、敵に近づきすぎるなよ。
ゼビノア:では、行って参ります。
0:
:ゼビノアが敵軍へ向かって警告を発する
ゼビノア:私は誉(ほま)れ高き王国騎士団の副団長ゼビノア!
ゼビノア:それ以上の進軍は我が王国への侵略行為とみなす!
ゼビノア:これは最後通告である!我々は貴軍(きぐん)の早々の撤退を要求する!
ガレウス:ほぅ、敵軍も腰抜けばかりではないようだな。では、我もこちらの軍を鼓舞(こぶ)せねばなるまいか…。
0:
:ガレウスが自軍と敵軍へ向けて演説を始める
ガレウス:我はガレウス帝国が初代皇帝、ガレウス一世である!
ガレウス:我の即位から、当初は小国であった帝国は、領土の拡大を続け、今や帝国は大陸の半分以上を手中(しゅちゅう)に収めるに至(いた)った。
ガレウス:これを帝国の横暴(おうぼう)であるなどと批判する者も少なからずいるが、果たしてそうだろうか?否(いな)!断じて否(いな)である!
ガレウス:諸君らはなぜ世界から争いが無くならないかを考えたことはあるか?答えは明白である、この世界に国家が複数存在するからに他ならない。
ガレウス:この世界を一つの国家、すなわち、我が帝国が統(す)べれば、この世界から争いは無くなり、全ての民に恒久(こうきゅう)の平和がもたらされるであろう!
ガレウス:この戦いは侵略などでは決して無い、世界に平和をもたらすための、言わば聖戦である!
ガレウス:勇敢なる我らが帝国の兵士達よ、いざ進軍を開始せよ!!
レオマール:敵軍が進軍を開始した、ゼビノア、戻れ!
ゼビノア:……。
レオマール:ゼビノア?どこへ行く?単騎で突撃する気か?
レオマール:危険すぎる、今すぐ戻れ!
ゼビノア:レオマール団長、アレクシス陛下、すまない…
ガレウス:ゼビノアと言ったな。単騎で突撃とは、勇敢なのか無謀なのか…。
ガレウス:いずれにせよ、我を守る近衛兵は、帝国の精鋭中の精鋭。
ガレウス:お前がどれだけの手練(てだ)れであろうと、ただの無駄死にであるぞ。
ゼビノア:私は…、貴軍(きぐん)への投降を申し出に参りました。
ガレウス:ほぅ。理由を申してみよ。
ゼビノア:我が王国の主(あるじ)、アレクシス陛下は、この先にある私の故郷(こきょう)の村を見捨てると仰いました。
ゼビノア:一方で、ガレウス皇帝陛下は、敵味方問わず、全ての民の恒久(こうきゅう)の平和を願っておいでです。私はその崇高(すうこう)なる理想に感銘(かんめい)を受けました。
ゼビノア:私はあなた様の理想の為なら、王国の兵に剣を向ける事も厭(いと)いません。
ゼビノア:しかしながら、王国の民はこの戦いとは無関係です。
ゼビノア:投降を願い出る身で不躾(ぶしつけ)である事は重々承知ですが、村の民を殺(あや)める事は、決してしないとお約束いただけないでしょうか?
ガレウス:ふむ、よかろう。我とて無益な殺生(せっしょう)は望まぬ。
ガレウス:してゼビノアよ、お前がこれから我が軍へ就(つ)く事を、両軍に対して宣言することはできるのか?
ゼビノア:はっ!喜んで承(うけたまわ)ります!
0:
:ゼビノアが両軍に向けて宣言する
ゼビノア:王国騎士団の副団長ゼビノアは、今この時をもってその名を捨てる事を、王国軍、帝国軍の両軍に対して宣言する!
ゼビノア:そして今後は、ガレウス皇帝陛下のもと、帝国のためにこの身を捧げる事をここに誓う!
レオマール:まさか!ゼビノアが…!
ガレウス:ほうほう、敵軍に動揺が走っているのが、ここからでも見て取れる。
ガレウス:お前が王国騎士団の副団長で、相当の手練(てだ)れである事に偽りは無かったようだな。
ガレウス:しかし、我はお前をまだ信用した訳ではない。必要な時以外は武器を持つことは認めぬし、少しでも不穏(ふおん)な動きをしたら、その命(いのち)は無いと心得(こころえ)よ。
ゼビノア:はっ!皇帝陛下の信頼を得られるよう、全力を尽くします!
0:【間】
レオマール:アレクシス陛下!緊急事態です!
アレクシス:我が軍に動揺が走っているようだが、レオマール、何事か?
レオマール:敵軍が進軍を開始した上、ゼビノアが敵軍へ寝返りました!
アレクシス:撤退だ。
レオマール:しかし、ゼビノアがまだ…
アレクシス:寝返ったのであれば、ゼビノアは既(すで)に我が軍の騎士ではない。
アレクシス:幸(さいわ)い敵軍は陣を左右に広げている上に、歩兵が大多数だ。
アレクシス:我が軍への追撃を始めるには、時間を要するであろう。
アレクシス:速やかに撤退を始めれば、敵が王城に着くまでに軍を立て直す時間も、十分に稼げるはずだ。
レオマール:はっ、承知しました!
0:【間】
レオマール:(その後の我が軍の動きは早かった。
レオマール:アレクシス陛下を先頭に王城へ向かう中、私には、兵士が取り残されないよう、最後尾を補助する任(にん)が与えられた。
レオマール:騎兵の王国騎士団が、帝国軍に後(おく)れを取るはずもなく、一人残らず王城へ撤退する事はできたが、私の心は晴れなかった。
レオマール:あの時ゼビノアにもっと話しかけていれば、説得できていれば、ゼビノアが寝返る事は無かったかもしれないと、私の後悔の念は、むしろ増していった。)
0:【間】
レオマール:アレクシス陛下、陛下のご指示通り、敵を迎え撃つための兵の配備を完了しました。
アレクシス:うむ、ご苦労。兵の様子はいかようか?
レオマール:おおむね平常心を取り戻しておりますが、ゼビノアの裏切りを割り切れない兵も少なくありません。
アレクシス:やはりそうか…。
レオマール:それより陛下、こんな所に居ては危険です。早く城の中へお入りください。
アレクシス:いや、私はここに残る。
アレクシス:ゼビノアの裏切りは私の責(せき)だ。可能ならば、私がここでけじめをつける。
レオマール:それであれば私も同じ事です。何があろうと陛下にお供いたします。
アレクシス:好きにするがよい。そうだ、これをそなたに渡しておく。
レオマール:はい、…封書…ですか?
アレクシス:私の印(いん)にて封をしておいた。
アレクシス:もし私が討(う)たれるか、敵軍に捕らえられるような事があれば、直(ただ)ちに王城の中へ逃げ込み、それを兵の前で開封し、内容に従え。
レオマール:そんな!縁起でもない事を仰らないでください!
アレクシス:もしもの話だ、そうならないように善処する。ただ、この命(めい)は絶対だ。ゆめゆめ忘れるな。
レオマール:……、はい、承知いたしました。
0:【間】
ガレウス:あれがアレクシスの城か…、奴の軍を城まで逃がしてしまったのは悔(く)やまれるが、城での決戦は元より想定していた事。
ガレウス:それに城攻めとなれば、奴等の騎兵も役には立つまいし、我が軍の優位に変わりは無い…。
ゼビノア:ガレウス様、道中(どうちゅう)で私の故郷(こきょう)の村を襲撃せず、進軍いただけました事、心より感謝申し上げます。
ガレウス:お前の為ではない、敵軍に軍を立て直す時間を、極力(きょくりょく)与えないため、最短経路を通ったまでだ。
ガレウス:それにゼビノア、我はまだお前を信用した訳ではない。お前が我が軍に就(つ)いている事で、敵軍の戦意をそぐ事ができるから生かしているだけだ。
ガレウス:お前の言動次第で、我が軍はお前の命(いのち)もその村も、どうとでもできる事を忘れるな。
ゼビノア:はい、承知しております。
ガレウス:ん?城門の外に孤立した二人の騎士がいるな…。一人は先(さき)の国境線で指揮をとっていた騎士団長か。もう一人は…、さてはあやつがアレクシスか?
ゼビノア:はい、王国の主(あるじ)アレクシスと、騎士団長レオマールの二人で相違(そうい)ございません。
ガレウス:ゼビノア、それが虚言(きょげん)であったなら…、わかっているな?
ゼビノア:はっ!重々承知しております!
ガレウス:ならよい…。して、その二人の強さはいかほどか?
ゼビノア:レオマールは騎士団長ゆえ、軍の統率力は王国随一(ずいいち)で、武勇もかなりのものです。しかし、一対一での戦闘であれば、私には及ばないかと。
ゼビノア:アレクシスにおいては、自ら戦場で剣を振るう姿をほぼ目にした事が無き故(ゆえ)、ガレウス様でも互角に渡り合えるかと存じます。
ガレウス:ゼビノア、口の利き方がなっていないようだな…。
ガレウス:お前は今、我のことを、部下に指示を出す事しかできぬ臆病者と同等だとぬかし、我のことを侮辱(ぶじょく)したのだぞ!
ゼビノア:も、申し訳ございません!そのような意図(いと)で発言したのではありませんので、どうかお許し下さい!
ガレウス:(溜め息をつく)はぁ…皇帝とはいえ、自(みずか)ら戦わねば、我を見くびる者が現れるのは考え物だな…。
ガレウス:ゼビノア!許しを請(こ)うなら、行動をもって示して見せよ。
ガレウス:かつての団長と副団長ともあれば、浅からぬ仲であろうが、奴の事を殺(や)れるな?
ゼビノア:はっ!ガレウス様の命(めい)とあらば、このゼビノア、団長レオマールを手にかける程度の事、何のためらいもございません!
ガレウス:よかろう、では向かうぞ。念のためだが、近衛も我の後に付き従え。
0:【間】
レオマール:アレクシス陛下!敵軍がこちらに向かってきます!
レオマール:先頭は…、ガレウスとゼビノアです!
アレクシス:皇帝自ら登場とは、こちらとしては好都合だが…。近衛兵も引き連れているのは、さすが抜かりないといったところか…。
ガレウス:アレクシスよ、この皇帝ガレウスが、おぬしに慈悲を与えよう!
ガレウス:まずおぬしは可能な限りの民を集めよ。その上で、王国が我が帝国に屈する旨(むね)の演説を行えば、貴様と民の命(いのち)は奪わない事を保障しよう。
アレクシス:ほう、私と民の命(いのち)の保障か…。王国騎士団はどうするつもりだ?
ガレウス:ゼビノアの我への忠誠を試すため、現団長のレオマールには、ここで死んでもらう。
ガレウス:その後は、ゼビノアを団長に任命し、帝国騎士団として、我のもとで今後の帝国領拡大に尽力(じんりょく)させる。
アレクシス:何一つ受け入れられない要求だな。
アレクシス:大勢の民の前での演説など、私の性(しょう)に合わんし、レオマールはかけがえのない私の騎士だ。
アレクシス:そしてなにより、王国騎士団を侵略の道具に使うなどもっての他だ!
ガレウス:おぬしが我が慈悲を受け入れることは、はなから期待などしていなかったが残念だ。
ガレウス:二人にはここで死んでもらう。全ての指揮官を失った城は、容易に落ちるであろう。
ガレウス:ゼビノア、殺(や)れ。
ゼビノア:はっ!
レオマール:もう一度だけでいいから私の話を聞いてくれ!
レオマール:ゼビノアは民を見捨てる事などあってはならないと言ったが、王国が帝国に屈すれば、奴らの圧政でより多くの民が貧困や病気で命(いのち)を落とすのではないか?
レオマール:そもそも民とは何だ?兵にだって家族や恋人、愛する人はいるはずだ!兵も等しく王国の民なのではないか?
レオマール:それに「王国を守る盾」、の誓いを忘れたはずは無いだろう?
レオマール:王国騎士団は、王国を守るためには命(いのち)を賭(と)して戦えど、決して他国の侵略のために戦うことは無いと、あの日、誓ったはずだ!
レオマール:ガレウスの軍門に下(くだ)れば、王国騎士団は、帝国騎士団となり果てて、他国への侵略を繰り返す事になる。それは決して許される事ではない!
レオマール:目を覚ますんだ!王国騎士団の副団長ゼビノア!
ゼビノア:その名は国境線のあの地で捨てた!私はガレウス様に忠誠を誓った、ただのゼビノアだ!行くぞ、はぁぁあ!
0:【少しの間】
ガレウス:向こうの二人の戦いは始まったようだな。おぬしも知っての通り、戦いではゼビノアが一枚上手だ。時を待たずして決着はつくだろう。こちらもそろそろ始めようか。
アレクシス:近衛兵を背(せ)に従えてか?
アレクシス:そうか、皇帝は一人で戦うこともできない臆病者であったか。
ガレウス:ええい!どいつもこいつも私を見くびりおって、忌々(いまいま)しい!
ガレウス:近衛は下がっていろ!実力をもって皇帝にまで昇りつめた我が武勇、その目にしかと焼き付けるがよい!
0:【少しの間】
レオマール:はぁ、はぁ…。ゼビノア!こんな無益な戦いをして何になる?剣を収めてくれ、ゼビノア!
ゼビノア:私はもう後には引けんのだ、せやっ!
0:【少しの間】
ガレウス:ふんっ!はぁっ!予想以上にやるかと思ったが、先程から防戦一方な上に、息も上がっておるではないか、そろそろとどめと行こうか!
アレクシス:はぁ、はぁ。私とて、戦場に出ずとも鍛錬(たんれん)は怠(おこた)っていないのでね、そうそう簡単にやられはせんよ。
0:【少しの間】
レオマール:くっ、ここまでか…。
レオマール:ん?!ゼビノア!どこへ行く?まさかアレクシス陛下を?待て!ゼビノア!
0:
:ゼビノアがガレウスを背後から切りつけにやってくる
ガレウス:アレクシスよ、さぁ、とどめだ!ん?ぐあぁぁ!
ガレウス:
ガレウス:ゼビノア?!…だと?ゼビノア?なぜ私を刺した?
ゼビノア:帝国軍は全軍止まれ!
ゼビノア:今の一撃は、あえて急所を外したが、今、私の剣はガレウスの喉元にある。そこを一歩でも動けば、そのまま突き刺すぞ!
ガレウス:全軍止まれ!一歩も動くでない!
ガレウス:なぜ?なぜだ?ゼビノア?
ゼビノア:なぜ?笑わせるな。私は初めから裏切ってなどいない。
ゼビノア:全てはアレクシス陛下の命(めい)で、敵軍へ寝返ったふりを続けていたまでだ。
ゼビノア:陛下はこの場所で、貴様が近衛を離し、孤立する状況を作れると仰っていた。
ゼビノア:もちろんそうならなかった場合の指示も、事細(ことこま)かに受けていたが、結果として、貴様は冷静さを欠いて孤立し、その上、私からの注意もそらして、完全に無防備な背を私に向けたのだ。
ガレウス:んなっ!では「故郷(こきょう)の村」、というのも全て作り話だったのか?
ゼビノア:いや、私の故郷(こきょう)の村は確かに道中(どうちゅう)に存在していた。
ゼビノア:だが、陛下は初めから村人を一人残らず避難させていた。
ゼビノア:ただ、私としては村人が居なくても、村を焼かれたり、略奪されたりするのは避けたかったから、その点は本心だ。
ゼビノア:これも陛下の、「嘘の中にも真実を混ぜた方がいい」、という策の一つだったわけだ。
アレクシス:そういうことだ、ガレウス。
アレクシス:これから、帝国軍には王国騎士団の監視の下(もと)、国境線の外まで撤退してもらう。
アレクシス:何事もなく撤退された事が確認され次第、ガレウスを帝国へ返すつもりだ。
アレクシス:急所を外したとはいえ、そろそろ手当てをしないと手遅れになる、あまり考える時間は無いが、どうするかね?
ガレウス:くっ…。全軍速(すみ)やかに撤退せよ!撤退せず戦おうなどとは、決して考えるな!
ガレウス:これは皇帝陛下の絶対の命令である!
アレクシス:決断が早くて助かる。帝国軍の撤退が終わるまで、気は抜けないが、ひとまず王国の危機は去ったと考えてよかろう。
レオマール:アレクシス陛下、なぜ私には作戦の内容を教えてくださらなかったのですか?
アレクシス:それも含めての作戦だったのだ。レオマールが、本心からゼビノアの裏切りに動揺したり、ゼビノアを説得しようとしたりしてくれたお陰で、この作戦が成功したとも言える。
レオマール:確かに、陛下の仰る通りですが、本当に生きた心地がしませんでした…。
アレクシス:はっはっは、そなたの功績は大きい、許せ、レオマール。
レオマール:はっ!アレクシス陛下!
0:【間】
レオマール:(その後、王国騎士団の監視の下(もと)、何事もなく帝国軍は国境線の外へと撤退した。
レオマール:念のためと、団長の私と副団長のゼビノアも同行する事を提案したが、陛下は必要ないと仰った。
レオマール:ガレウスが皇帝であると同時に、軍の指揮官でもあったため、その命令は絶対であり、逆らえる兵は一人もいなかったのだ。)
0:【間】
ゼビノア:アレクシス陛下!
ゼビノア:帝国軍が、国境線の外へと撤退したとの報(ほう)が届きました。
アレクシス:うむ、ご苦労。
ガレウス:こんな所に我をずっと縛り付けおって…。
ガレウス:我は帝国の皇帝であり、いずれこの世界を統(す)べる者であるぞ!このような無礼が許されると思っておるのか?
ガレウス:我が軍が国境線の外へと撤退したのなら、我を今すぐに解放せよ!
アレクシス:レオマール、剣はあるか?
レオマール:はっ!こちらに!
アレクシス:ガレウス、私は貴様を「帝国へ返す」、とは言ったが、「生きて返す」、とは一言も言っておらんぞ。
アレクシス:むしろ私はこの世界のため、貴様をここで処断(しょだん)する方が良いとすら考えておる。
ガレウス:ひいっ!剣を向けるな!
ガレウス:要求は何だ?我が国の領土か?賠償金(ばいしょうきん)か?
アレクシス:どちらも要(い)らぬ。ただ貴様にはこの後、国境線へ向かい、帝国軍の前で、帝国の敗北と、占領した国の解放を宣言してもらう。
アレクシス:それが貴様を、「生きて返す」、条件だ。
ガレウス:ぐぬぬ…、我が命(いのち)のためだ…、しかたあるまい…。
ゼビノア:アレクシス陛下、本当にガレウスを、生きて返してよろしいのでしょうか?
アレクシス:なに、心配には及ばぬ。
レオマール:ところで陛下、この度(たび)の王国の勝利に、最も貢献(こうけん)したのはゼビノアです。
レオマール:それに、剣の腕も私よりゼビノアが上です。
レオマール:私は、王国騎士団の団長は、ゼビノアが相応(ふさわ)しいと考えております。
アレクシス:いや団長はレオマールのままだ。それよりゼビノア、今回は王国の為とはいえ、危険な任(にん)を与えてすまなかった。
アレクシス:だが大義(たいぎ)であったぞ。
ゼビノア:勿体(もったい)なきお言葉、感謝します!
ゼビノア:このゼビノア、陛下の命(めい)とあらば、今後もどれだけ危険な任(にん)であろうと、命(いのち)を賭(と)して全(まっと)うする所存(しょぞん)です!
アレクシス:ゼビノア、そういうところだ。指揮をとる者が、自身の身の安全を考えずしてどうする?その様子では当分、ゼビノアは副団長のままであるな。
ゼビノア:お言葉ですが陛下。今回の件では、陛下も危険な場に、自ら身を投じたのではありませんか?
アレクシス:はっはっは、これは痛いところを突かれたな。まぁ今回は例外だ。以後気を付ける。
レオマール:陛下、そろそろお時間です。
レオマール:陛下のお言葉を聞こうと、王国中から城の周りに民が集まっております。
アレクシス:大勢の民の前での演説など、私の性(しょう)に合わないのだがな…。レオマール、ゼビノア、共に来てくれるな?
レオマール:はっ!
ゼビノア:はっ!
0:
:アレクシスが大勢の民に向けて演説を始める
アレクシス:親愛なる王国の民の皆に告げる!ガレウスの脅威はこの国から去った!
アレクシス:私は他国とは関わらず、国の守りを固める事が、平和を維持する道だと考えていたが、それは過(あやま)ちであった。
アレクシス:それにより、今回のガレウスの侵攻で、民を危険にさらしたことを、心から申し訳なく思う。
アレクシス:ガレウスは、世界を一つの国が治(おさ)めれば、争いは無くなると考えていたようだが、それもまた過(あやま)ちであった!
アレクシス:個々人(ここじん)にそれぞれの思想や信念があるように、国も多種多様である。
アレクシス:大事なのは、それぞれの思想や信念を尊重し、互いに手を取り合うことであると私は考えるに至った。
アレクシス:平和とは、一国のみで実現できるものではなく、国と国とが手を取り合って、初めて実現できるものであったのだ!
アレクシス:ここにかけがえのない二人の友がいる。皆も私の友として、次の世代への平和を、共に築(きず)き上げようではないか!!
0:【間】
レオマール:(陛下の演説を聞いた民の大歓声が、いつまでも鳴りやまなかった事は、言うまでもない。
レオマール:時を同じくして、大陸の各地で、帝国に占領されていた国々は、独立を宣言した。
レオマール:聞けばアレクシス陛下は、ガレウスが王国に侵攻した時こそ、独立の好機(こうき)であると、事前に各国に根回(ねまわ)しをしていたらしい。
レオマール:各国の独立の知らせを受けて、国境線に居た帝国軍のほとんどの兵士は離反(りはん)した。
レオマール:後日、ガレウスは、国境線にてその様(さま)を目(ま)の当たりにして、愕然(がくぜん)としたという。)
0:【少しの間】
レオマール:(かくして、当初は双方に多大な犠牲が出ると予測されていた、帝国軍の王国侵攻は、一人の犠牲も出さずして幕を閉じた。
レオマール:犠牲の出なかった戦いは、いずれ歴史の中で風化(ふうか)し、忘れさられる事だろう。
レオマール:しかし私は、この戦いが教訓となって、後世の争いが少しでも避けられることを願う。
レオマール:その言葉をもって、この書、「戦場のオリーブ」、の結末とする。)
0:了
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:以降は前読みでも、劇後でも特に読む必要はありません。興味のある方のみどうぞ。
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:本文に入れたかったけれど、長さの都合上省略した小ネタ集
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0:
:【「戦場のオリーブ」の題名の意味】
:レオマールはオリーブの花言葉、「知恵」「勝利」「平和」にちなんで書の題名を「戦場のオリーブ」とした。アレクシスが「知恵」を使って「勝利」を掴み、世界に「平和」をもたらした、という意味合いが大きいが、戦場の「平和」という題名が犠牲が一人も出なかった戦いを象徴しているという意味合いも含んでいる。
0:
:【序盤の国境線での陣形について】
:専門用語をなるべく使わないため、詳細な説明はある程度省略した。アレクシスは撤退に備えて魚鱗の陣(突撃陣形)ではなくあえて方陣(密集陣形)を命じた。方陣を命じた理由は他にもあり、敵軍にこちらから攻撃する計画が無い事を印象付ける狙いもあった。軍の数で勝るガレウスはそれに対して横陣か鶴翼の陣を命じた。結果としてゼビノアは単騎でもガレウスに容易に近づく事ができた。また、追撃の際にガレウスの軍は陣を方陣か長蛇の陣に変える必要が生じ、多くの時間を要する事となった。
0:
:【道中の村を襲撃された時の対策】
:アレクシスは今までの帝国軍の侵攻等の情報を可能な限り収集し、ガレウスの性格や、とるであろう戦略を十分予測していたため、村の襲撃はまず無いという自信があった。この事に限らず、その事前の情報収集を元にガレウスの行動予測を緻密に行っていた事が、作戦の予定通りの成功をもたらした。ただ、アレクシスは万が一、道中の村を襲撃された時の為に少数の王国騎士団の兵を村の入り口に配備していた。その兵は戦闘目的ではなく、あくまでガレウスに村を襲撃するメリットが無いと思わせるための兵で、ガレウスが襲撃をする気配を見せた場合には早馬で王城へ合流するよう命令を下していた。また、ゼビノアにも身の危険が及ぶような流れになった際には隙を見て逃げ出し、王城へ合流するよう命令を下していた。
0:
:【王城での兵の配備について】
:基本的には籠城で数の不利を覆す配備を行っていたが、ガレウスが一切前方に出ず、後方に居座る状態で城攻めを始めた場合には城の正門以外の隠された扉から精鋭の兵を出し、背後からガレウスを急襲できる準備を整えていた。
0:
:【レオマールに渡した封書について】
:封書には、レオマールが全指揮をとる事、アレクシスが捕虜となった際には戦死したと考え行動をとる事、ゼビノアは作戦で裏切ったふりをしているだけである事、その他、王城での戦闘を有利に進める指示や、王国の後継者に誰を指名するか、などが事細かに記されていた。また、封書の内容がアレクシスの命である事を確実に兵に認識させるため、封書には王印で封をし、レオマールには開封する際には必ず多くの兵の前で開封する事を命じていた。
0:
:【王城の外に二騎のみで孤立した理由】
:もちろん第一の理由は作戦の最終段階を成功させるためであった。アレクシスは、ガレウスが味方の弓兵の狙撃による暗殺を恐れて、侵略の際には弓兵をほぼ同行させない事を調べ上げていたので、城外に孤立しても問題ないという自信があった。また、作戦が予定通り進まず、ガレウスが近衛と共に突撃してきた際等には、速やかに城内へ向かいガレウスの軍を城門近くまでおびき出し、城壁の上に隠していた精鋭の弓兵の射程に入った時点で追撃してきた兵に矢を浴びせ、アレクシスとレオマールのみ城内へ入れて城門を閉じる、という作戦も立てていた。