台本概要

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タイトル 力の先に求めるものは
作者名 ふらん☆くりん  (@Frank_lin01)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男3、女1) ※兼役あり
時間 60 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【あらすじ】
私は戦う!愛する祖国の民のために!

【著作権について】
本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。
また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。

【禁止事項】
●商業目的での利用
●台本の無断使用、無断転載、自作発言等
●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等

【ご利用に際してのお願い】
●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。
●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。
●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
セレナーデ 112 中立国家アルス王国の第一王女。見た目の美貌とは裏腹に、口は悪く男勝りな性格だが、国を愛する気持ちは誰よりも強い。
ジクード 52 吸血鬼独立国家カリム王国の国王。一見すると紳士だが、性格は狡猾で目的のためには手段を選ばない非情さを持つ。
千影 48 「ちかげ」。幻魔帝国バルムードの隠密担当。飄々(ひょうひょう)としているが、仕事はきっちりこなす。謎の男と兼役。
阿魔利 82 「あまり」。幻魔帝国バルムードの皇帝。一見すると冷徹な印象を受けるが、部下思いで情に厚い性格。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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タイトル:力の先に求めるものは : 登場人物: セレナーデ:中立国家アルス王国の第一王女。見た目の美貌とは裏腹に、口は悪く男勝りな性格だが、国を愛する気持ちは誰よりも強い。 ジクード:吸血鬼独立国家カリム王国の国王。一見すると紳士だが、性格は狡猾で目的のためには手段を選ばない非情さを持つ。 千影:「ちかげ」。幻魔帝国バルムードの隠密担当。*飄々《ひょうひょう》としているが、仕事はきっちりこなす。謎の男と兼役。 阿魔利:「あまり」。幻魔帝国バルムードの皇帝。一見すると冷徹な印象を受けるが、部下思いで情に厚い性格。 :(M)はモノローグ(独白)、()は心の声、〈〉はト書きです : 本編: :【 中立国家アルス王国にて 】 : セレナーデ:くっ…。 ジクード:あなた方アルス王国は我が国との戦争に敗れました。さあ王女様、大人しく私の元へ来てはくれませんか? セレナーデ:嫌よ!誰が愛する祖国を壊滅に追い込んだアンタなんかの元に下るもんですか! ジクード:ふむ…あなたは何か誤解されているようだ。先に攻めて来たのはあなた達ですよ。これは国と国との戦争なのです。我々、*吸血鬼独立国家《きゅうけつきどくりつこっか》カリム王国の民はひっそり穏やかに暮らしていただけなのに…。 セレナーデ:何が「ひっそり穏やかに暮らしていた」よ!人間の血を吸わなきゃ生きていけない化け物のくせに!そもそもアンタ達が血液欲しさに人々をさらって殺したりしなければこんなことにはならなかったのよ。そのせいで…国民だけじゃなく、私の大切な家族や親友までもが戦争の犠牲になって…うぅ…。〈すすり泣く〉 ジクード:何の話ですか?確かに我々吸血鬼はあなた方人間の血をいただかないと生けてはいけない存在です。しかし、*一昔《ひとむかし》前ならいざ知らず、人間との和平協定が結ばれた今の時代に人間の命を奪ってまでその血を得ようとするなどありえないことです。 セレナーデ:嘘よ!アンタたち吸血鬼が毎晩のように街に現れては、人々をさらって行くのをたくさんの人が目撃してるんだから! ジクード:…それはおかしいですね。我々の戒律には「人間の血を得ることを目的とした*殺生《せっしょう》は*厳《げん》に禁ずるものとし、これを犯した者は極刑に処する」と定められております。人間の血液は我々にとってかけがえのない食料。欲しければ金品や物資といったそれ相応の対価を支払って直接人間から買っているのです。従って我々の国民が*禁忌《きんき》を犯してまで他国の民の命を奪っているなど考えられません。 セレナーデ:じゃあ毎晩のように犠牲者が出た一連の事件は誰がやったって言うのよ! ジクード:さあ、それは私にも分かりません。ただハッキリしていることは、あなた方は我々の国に攻め込んで来た。そして我々はそれに対し反撃した。それだけの事です。 セレナーデ:それだけって…たくさんの人がアンタ達の手によって殺されたのよ!少しは心が痛まないの? ジクード:もちろん痛みますとも。しかしそれが戦争というものです。我々も*此度《こたび》の戦争で多くの民の命が失われました。従って、こちらとしても自国の民を守るため、やむを得ずやったことなのです。 セレナーデ:くっ…それはそうかもしれないけど。じゃあ私がアンタの元に行かなきゃいけない理由は何なのよ。 ジクード:あなたをお守りするためです。 セレナーデ:は?何言ってるの?アンタなんかに守られるなんてまっぴらごめんよ! ジクード:そう言うと思ってました。ですがあなたに拒否権などないのですよ。 セレナーデ:どういうこと? ジクード:数年前に人間と吸血鬼との間に結ばれた*不可侵条約《ふかしんじょうやく》に関する*罰則規定《ばっそくきてい》第7条「仮に戦争を仕掛けた側が敗北した場合、敗戦国は戦勝国のいかなる要求にも従う」という条文があるのをご存知ですか? セレナーデ:そ、それはもちろん知ってるけど。それと私と何の関係があるのよ。 ジクード:実は私はずっと前からあなたをお*慕《した》い申し上げておりました。しかし人間の命はとても*脆《もろ》く*儚《はかな》い。今回のような戦争がなくてもいつ消えてしまうか分からない存在だ。だからこそ私の手で愛しいあなたを守って差し上げたかったのです。 ジクード:本当はこんな手段を使わずとも直接あなたに想いを告げて快く妻として私の元に来て欲しかった。ですが私とあなたは*相容《あいい》れない種族同士。だからこうして戦勝国の要求としてあなたを正式に私の妻として迎え入れようと思っているのです。 セレナーデ:え…ちょっと待って。それってつまり、アンタは私欲しさに我が国が戦争を起こすようけしかけて、攻めてきた所を返り討ちにすることで、*不可侵条約《ふかしんじょうやく》の*罰則規定《ばっそくきてい》を利用して無理矢理にでも自分の妻にしようとしてるってこと? ジクード:まさか!たまたま私の望みと今回の状況が一致しただけですよ。まあ、この状況を利用させてもらったのは間違いありませんがね。 セレナーデ:絶対嘘よ!あまりにも話が出来過ぎているもの!…さてはアンタが黒幕ね! ジクード:だから違うと言っているでしょう。本当に私は何も知らないのです。どうか信じてください。 セレナーデ:そんなの信じられるわけないでしょ!とにかく私は嫌だって言ってるの!アンタなんかと一緒になるくらいなら今ここで舌を噛み切って死んでやるわ! ジクード:はぁ…どこまでも聞き分けのないお方だ。仕方ありませんね。できればこれは使いたくなかったのですが。 セレナーデ:な、なによ…私は何をされても屈しないんだから… ジクード:〈セリフに被せて〉セレナーデ様、私の目を見てください。 ジクード:〈ジクードの目が赤く光る〉 セレナーデ:え?(あぁ…アイツの赤く光る目を見てたら…だんだん…意識が…) ジクード:さぁ…愛しのセレナーデ。私の元に来るのです。 セレナーデ:はい…。〈ふらふらとジクードの元へ歩いていく〉 ジクード:〈セレナーデを抱き寄せ〉 ジクード:ふふふ…では共に参りましょうか。 セレナーデ:はい…ジクード様。 謎の男:待ちな!その娘は俺様がいただくぜ!〈ジクードから王女を奪う〉 ジクード:なっ!何者だ! 謎の男:誰がお前なんかに名乗るもんか!べーだ!じゃあな!〈セレナーデを担いで飛び去る〉 ジクード:待て!…くっ、あと一歩の所で邪魔が入るとは。おのれ…私は諦めぬぞ! : :【 アルス王国上空 】 セレナーデ:〈正気に戻る〉えっ!何?私どうなってんの?って、きゃあ!! 謎の男:おい!暴れるなって!空飛んでんだからじっとしてろ! セレナーデ:そんなこと言われても…ひー!!落ちる~!! 謎の男:ちっ…これ以上騒がれるのも面倒だ。とりあえず寝てろ。 謎の男:*幻魔妖術壱式《げんまようじゅついちしき》「*夢幻廻廊《むげんかいろう》」 謎の男:〈手の平をセレナーデの額に当てる〉 セレナーデ:え!ちょっと何を…はにゃ…〈意識を失う〉 謎の男:ふぅ…ようやく大人しくなったか。さて、こんな所さっさとおさらばして、*御館様《おやかたさま》の元に帰らねぇとな!〈飛び去る〉 : :【 幻魔帝国バルムードにて 】 謎の男:*御館様《おやかたさま》、ただ今戻りました。 阿魔利:うむ。*千影《ちかげ》、ご苦労だった。それで、状況は? 千影:はい。*御館様《おやかたさま》の読み通り、*吸血鬼独立国家《きゅうけつきどくりつこっか》カリム王国の国王ジクードって奴はとんでもねぇ野郎でして、中立国家のアルス王国内で自分の配下に誘拐殺人を繰り返させては吸血鬼への不安を*煽《あお》り、結果的に戦争を起こしたアルス王国を壊滅させただけじゃなく、人間と吸血鬼の間で結ばれた*不可侵条約《ふかしんじょうやく》の罰則規定《ばっそくきてい》を逆手に取って、王女のセレナーデ様を無理矢理自分の妻として自国に引き込むつもりだったんです。あと少し到着が遅れていたら手遅れになる所でした。 阿魔利:そうか…やはりな。あの男の考えそうな事だ。何にせよ間に合って良かった。千影、礼を言う。 千影:礼だなんて…へへっ、当然の働きをしたまでですよ。 阿魔利:うむ。それから千影、すまぬがそろそろ彼女を起こしてやってくれないか。 千影:おっと、すっかり忘れてました。それでは… 千影:「*解《かい》!」 セレナーデ:う…うーん、私は一体…あれ?ここはどこなの? 阿魔利:起きたか。 セレナーデ:え?えーーー!!だ、だ、誰だアンタは? 千影:コラ!*御館様《おやかたさま》に向かって何て口を聞くんだ! 阿魔利:驚くのも無理はない。俺は*幻魔帝国《げんまていこく》バルムードの皇帝、*阿魔利《あまり》だ。お前の名は? セレナーデ:わ、わ、私は中立国家アルス王国の第一王女、せ、セレナーデですわ! 阿魔利:ほう、あの小さかったお嬢ちゃんが少し見ぬ間に立派になったものだな。 セレナーデ:え?私を知っているのですか? 阿魔利:ああ。俺は昔、お前の父デルスミス国王に助けられた事があってな、しばらくの間城に*匿《かくま》ってもらっていたのだ。お前はまだ小さかったから覚えてないかもしれないがな。 セレナーデ:そうだったんですね。それは初耳ですわ。それでなぜ私はここにいるのですか?確か、*吸血鬼独立国家《きゅうけつきどくりつこっか》カリム王国のジクードって国王と話をしていた気がするんですが…。 千影:その通りだ。あの時はお前、本当にやばかったんだからな。 セレナーデ:え?どういうことですか? 千影:危うくあのジクードって国王の妻にされるところだったんだぞ。 セレナーデ:妻…はっ!思い出した!私の祖国が、アイツらに壊滅させられて私まで連れ去られそうになって…うぅ〈泣き出す〉。 阿魔利:安心しろ、もう大丈夫だ。お前は俺が守ってやる。 セレナーデ:でも私、祖国を置いて逃げて来てしまった…。今頃生き残った民たちがどんな目に遭ってるかと思うと…ううう。〈激しく泣く〉 阿魔利:もう良い。お前は民を守るために十分頑張った。命があるだけでも良しと思え。 セレナーデ:そんなこと思えません!壊滅させられたとはいえ私はアルス王国第一王女です!このままおめおめと逃げ恥を*晒《さら》す訳にはいきません!アイツに*一矢《いっし》報いなければ死んでいった者達に何と詫びれば良いか…。だからお願いします!私をもう一度アイツの元に送ってください! 阿魔利:このままお前をあの男の元に送ってどうする?今度こそ連れ去られるだけだぞ。 セレナーデ:じゃあ、このまま祖国の民を見捨てろって言うんですか! 阿魔利:そうではない。機が熟すまで待てと言っているのだ。 セレナーデ:今更何を待てと言うのですか!待ったところで何も変わらないのに…うう〈泣く〉 阿魔利:要はお前の祖国を壊滅に追いやったあの男を討つことが出来れば良いのだろう? セレナーデ:はい!アイツだけは絶対に許さない! 阿魔利:分かった。我々も協力しよう。 セレナーデ:え?本当ですか!ありがとうございます!では具体的にどうすれば… 阿魔利:〈セリフに被せて〉その前にセレナーデ、お前についての秘密を話しておく必要がある。 セレナーデ:え?私についての…秘密? 阿魔利:そうだ。なぜあの男があれほどまでにお前を自分の妻にしようとするのか、不思議に思ったことはあるか? セレナーデ:いえ…でも確かに言われてみれば妙ですわね。 阿魔利:実はお前はデルスミス国王の直系一族ではない。 セレナーデ:え!?嘘よ!私は*紛《まぎ》れもなくお父様の娘よ! 阿魔利:良いからよく聞け。実はお前は捨て子だったんだ。いや…厳密に言うと託されたと言った方が正しいか。 セレナーデ:え…?私が捨て子? 阿魔利:お前は俺と太陽の女神ラミラスとの間に生まれた子供だったんだ。 セレナーデ:そんな…。 阿魔利:さっき俺が昔、デルスミス国王に助けられたことがあると話したよな。俺とラミラスは魔族と神、つまりお互い*相容《あいい》れない者同士、決して許されない禁断の恋だったんだ。それでも俺達は愛し合っていた。だが、俺達がきっかけとなって天界と魔界が和平協定を結ぶことを恐れた当時の魔界の幹部連中によって俺達は命を狙われることになった。そこで俺は*身重《みおも》のラミラスを連れてアルス王国に助けを求めたんだ。 セレナーデ:そんなことがあったなんて…。 千影:俺も初めて聞きました。 阿魔利:デルスミス国王は俺達の事情を聞き、快く受け入れてくれた。*程《ほど》なくしてセレナーデ、お前が生まれたんだ。だが、ラミラスはお前を産んで2年が経った頃、散歩に行くと言ったっきり俺達の前から姿を消してしまった。俺は必死の思いで彼女を探したが見つけることは出来なかった。そして1年後のクリスマス。ラミラスは国境付近の川で変わり果てた姿で発見された。遺体からは明らかに魔族の手の者による爪痕がいくつも残されていた。 セレナーデ:ああ…なんてこと! 千影:許せねぇぜ! 阿魔利:俺は心底自分の弱さを恨んだよ。それと同時に、お前を魔族の危険から遠ざけるため、表向きにはお前をデルスミス国王の直系の子孫として育てるよう国王に託し、俺はアルス王国を後にして復讐のために*密《ひそ》かに国を*興《おこ》したんだ。 セレナーデ:じゃあ、あなたが私の本当のお父様なのですか? 阿魔利:ああ。そうだ。だからお前には魔族である俺の血と、太陽の女神であるラミラスの血が流れている。そして、ジクードはお前を妻として迎えることで、吸血鬼の最大の弱点である太陽を克服しようと*目論《もくろ》んでいるんだ。 セレナーデ:それで私を無理矢理にでも妻にしようと…。今全てが繋がったわ。ジクード!アイツだけは絶対に許さない! 阿魔利:ああ。俺も同じ気持ちだ。今回お前を救い出したことで、あの男の企みも阻止できた。あとはジクードを討つことが出来れば、デルスミス国王の無念を晴らせる。 千影:私も全力でサポートしますぜ! セレナーデ:お父様、私も力になりたいですわ! 阿魔利:助かる。しかし本当に*逞《たくま》しくなったな。セレナーデ。 セレナーデ:う…うう…私、全然*逞《たくま》しくなんかない!祖国があんなことになってどうして良いか分からなくて…でも王女として一人で立ち向かわなきゃって、気丈に振る舞わなきゃってずっと我慢して…うわあああん!!〈号泣する〉 千影:苦労したんだなぁ…うぅ…泣けるぜ。 阿魔利:セレナーデ、よく一人で頑張ったな。 セレナーデ:うん…うぅ…。 阿魔利:あとは任せろ。 : :【 吸血鬼独立国家カリム王国にて 】 ジクード:私の妻、セレナーデを奪った者の正体は目星が付いた。まさかとは思ったがな…ふふふ…これは面白くなりそうだ。 : セレナーデ:(M)そして私達はジクード討伐に向け、作戦を練ることになった。決行は3ヶ月後の*罰則規定履行期限最終日《ばっそくきていりこうきげんさいしゅうび》の夜。もしこの時までに要求が*履行《りこう》されなければ、*強制報復措置《きょうせいほうふくそち》としてアルス王国はカリム王国に併合され、そこに住む全ての国民はカリム王国の奴隷として引き渡されることになる。つまりこの日ジクードは必ずアルス王国との会談の場に姿を見せ、私がその場で要求に応じることも承知の上で会談に臨むはずだ。そして、要求が*履行《りこう》される瞬間、そこには必ず*隙《すき》が生まれる。それこそがアイツを討つ絶好の機会なのだ。私はその日が来るのを*一日千秋《いちにちせんしゅう》の想いで待った。そして…。 : :-------------------3ヶ月後 : 阿魔利:よし、機は熟した。これより作戦を開始する。お前達、準備は良いか? 千影:もちろんバッチリですぜ。いつでも行けます。 セレナーデ:私も大丈夫よ。じゃあ行って来ます。 阿魔利:くれぐれも油断するなよ。 セレナーデ:ええ。分かってるわ、お父様。 : :【 アルス王国とカリム王国の会談の場にて 】 セレナーデ:ご機嫌よう、ジクード国王。 ジクード:おや?セレナーデ王女ではありませんか。てっきり逃げ出したのかとばかり思っていましたが、さすがは国民想いの王女様。必ず来て下さると思っていましたよ。 セレナーデ:もちろんですわ。王女である私が国民を見捨てる訳がないでしょう。さあ、会談を始めましょうか。 ジクード:ええ、喜んで。それで、ここにあなたがいらしたということは、ようやく決心が付いたということでよろしいですかな? セレナーデ:そうね。あの時は動揺して取り乱してしまい申し訳ありませんでした。冷静になって考えてみると、根も葉もない噂で戦争を仕掛けたのはこちら側です。私がジクード国王の妻になることで国民の安全が保証されるのであれば安いものですわ。 ジクード:ほほう。それはありがたい!お互いこれ以上無駄な血を流さなくて済みます。心から感謝致しますぞ。それでは今回の会談は終了ということでよろしいですかな? セレナーデ:ええ。(ここまでは作戦通りね。) ジクード:それでは改めて。セレナーデ様、参りましょうか。〈席を立つ〉 セレナーデ:はい。ジクード様。(あとはアイツが油断した*隙《すき》にお父様と千影が飛び込んで…) ジクード:あ、そうそう。一つ大事なことを忘れておりました。 セレナーデ:え…な、何ですの? ジクード:我々の国のしきたりでは、婚約が成立した相手にはこちらの指輪をはめていただくことになっておりまして。 ジクード:〈指輪を渡す〉 セレナーデ:ゆ、指輪ですか? ジクード:ええ。良かったら私がはめて差し上げましょうか? セレナーデ:い、いえ、結構ですわ。指輪くらい自分ではめられますし。(ま、まあ指輪をはめるだけなら問題ないわよね) ジクード:そうですか、では左手の薬指にはめてください。 セレナーデ:分かりました。〈指輪をはめる〉 ジクード:ふふふ…はめましたね。 セレナーデ:えっ?〈指輪が光り出す〉 セレナーデ:…あぁ!指輪が熱い!!きゃああああ!!!〈意識を失う〉 :-------------------千影と阿魔利が飛び込んで来る 千影:王女様!!大丈夫か! 阿魔利:セレナーデ!何があった! ジクード:おや?これはこれは。誰かと思えばやはりあなたでしたか。*幻魔帝国《げんまていこく》バルムード、*阿魔利皇帝陛下《あまりこうていへいか》。 阿魔利:ジクード!貴様、セレナーデに何をした! ジクード:何を?ふふふ…これはおかしなことを言いますね。私はただ、婚約者に指輪を差し上げただけですよ。あなた方こそ、重要な会談の場に部外者が土足で上がり込むとはどういうつもりですか? 阿魔利:くっ…。 ジクード:まあ良いでしょう。*大方《おおかた》、私を暗殺しにでも来たのでしょうから。 阿魔利:千影、セレナーデを頼む。 千影:分かりました。〈セレナーデの介抱に向かう〉 ジクード:それで?ここからどうしますか?あなた方の計画が明るみになった今、もう暗殺はできませんよ。私としては、ここであなたと直接やり合っても構いませんが。 阿魔利:一つ貴様に聞きたいことがある。 ジクード:どうぞ。 阿魔利:12年前、ラミラスを殺害したのは貴様か? ジクード:…。 阿魔利:どうなんだ? ジクード:ふふふ…はははは! 阿魔利:な、何がおかしい? ジクード:さすがにバレましたか!まあ*敢《あ》えて私だと分かる証拠を残しておいたんですがね。それにしてもあの夜は最高の気分でしたよ。何せ、忌むべき太陽の女神をこの手で引き裂くことができたんですからね!はははは!! 阿魔利:ジクードぉぉぉぉ!!!〈ジクードに切り掛かる〉 ジクード:おっと!〈阿魔利の攻撃を受け流す〉 ジクード:そうカリカリしないでください。むしろ感謝して欲しいくらいですね。セレナーデ王女だけは殺さずに生かしてあげたのですから! 阿魔利:なっ!!ジクード…貴様だけは、貴様だけは絶対に許さん!! 阿魔利:*幻魔妖術参式《げんまようじゅつさんしき》「*刺突龍撃《しとつりゅうげき》!」 ジクード:ほう。龍の*如《ごと》き巨大な*槍《やり》を使った突進攻撃ですか…ぬるいですね。 ジクード:*血掌展開《けっしょうてんかい》「*朧月夜《おぼろづきよ》」 阿魔利:なっ!霧になって*躱《かわ》しただと! ジクード:ふふ…よくもまあそんな腕で私の命を奪えると思いましたね。 阿魔利:黙れ!! ジクード:今度はこちらから参りますよ! ジクード:*血掌展開《けっしょうてんかい》「*五月雨《さみだれ》」 阿魔利:くっ…無数の血の弾丸か!それなら! 阿魔利:*幻魔妖術伍式《げんまようじゅつごしき》「*四方展甲《しほうてんこう》!」 ジクード:ふっ…防御の術ですか、器用ですね。だが! 阿魔利:ぐっ!防ぎ切れない!!ぐぁぁ! ジクード:ほほう。右肩1箇所のみの被弾で済んだとは…意外とやるものですね。 阿魔利:はぁ…はぁ…。 ジクード:(さて、そろそろですかな?) : 千影:王女様!しっかりしろ! セレナーデ:…。 千影:(一体どうしちまったって言うんだ。指輪をはめただけであんなに苦しみ出すなんて。) セレナーデ:う…うぅ…。 千影:おい!大丈夫か? セレナーデ:…ここは?ぐっ!〈起き上がろうとする〉 千影:無理すんな。まだ寝てろって。 セレナーデ:ねぇ…千影。 千影:な、何だ? セレナーデ:お願いがあるの…。 千影:お願い?おう、何でも言ってみろ。 セレナーデ:体が寒くてたまらないの…だから私を抱き締めて。 千影:え!?だ、抱き締めてって…こんな所でそんな真似できるかよ。何か*羽織《はお》るものでも探して来るからちょっと待ってろ。 セレナーデ:嫌!一人にしないで…。 千影:はぁ…ほんとワガママな王女様だな。分かったよ。ちょっとだけだぞ。 セレナーデ:嬉しい…ありがとう…。 千影:〈セレナーデを優しく抱き締める〉こ、こんな感じで良いか? セレナーデ:うん…あったかい。ねぇ、千影。 千影:ん?今度は何だ? セレナーデ:私ね、あなたが欲しいの。 千影:え!?ちょ!急に何言い出すんだ! セレナーデ:はぁ…もう私、我慢出来ないの!〈千影の首筋に噛み付く〉 千影:ぐ、ぐぁ!なに首に噛み付いてんだ…や、やめろセレナーデ!一体どうしちまったんだ! セレナーデ:〈無心に千影の血を吸う〉んっ…んんっ… 千影:ま、まさか…お前吸血鬼に! セレナーデ:んっ…んふふふ… 千影:やめ…ろ。(だ、ダメだ。力が抜けて意識まで消え…) セレナーデ:んんっ…ぷはぁ♡〈千影の首から口を離す〉 セレナーデ:うふふ…千影の血、最高に美味しかったわ。 セレナーデ:さてと…千影、起きなさい。 千影:〈ゆらりと体を起こす〉はい…セレナーデ様。 セレナーデ:いい子ね。これからあなたは私の可愛い*眷属《けんぞく》として*未来永劫《みらいえいごう》仕えるの。分かったかしら? 千影:はい…私はセレナーデ様に永遠の忠誠を誓います。 セレナーデ:うふふ…それじゃあ千影、早速だけどやってもらいたいことがあるの。 千影:はい…何なりとお申し付けください。 セレナーデ:あのね…。〈耳元で囁く〉 千影:承知しました。お任せください。 : ジクード:ぐっ…少しはやるじゃないですか。さすがは*幻魔帝国《げんまていこく》を束ねる皇帝だけのことはありますね。 阿魔利:はぁ…はぁ…当たり前だ。ラミラスを失ってから俺はずっと貴様に復讐することだけを考えて生きてきたんだ。 ジクード:それは光栄なことですね。ですが全ては無駄な*足掻《あが》きなのですよ。 阿魔利:ふざけるな!貴様を倒し必ずラミラスの仇を取る! 千影:*御館様《おやかたさま》、大丈夫ですか? 阿魔利:千影?どうしてお前がここにいるんだ。セレナーデは無事なのか? 千影:はい。王女様は先程目を覚ましました。 阿魔利:そうか、それは良かった。なら引き続きセレナーデの*傍《そば》にいてやってくれ。ここにいたら巻き込まれるぞ! 千影:実はそういう訳にもいかなくなりまして。 阿魔利:ん?どういうことだ? 千影:なぜなら、今私がお仕えしているのはセレナーデ様ですから! 千影:*幻魔妖術弐式《げんまようじゅつにしき》「*全天糸縛《ぜんてんしばく》!」 阿魔利:何っ!ぐっ…「*解《かい》!」〈千影の攻撃を解除する〉 千影:*阿魔利《あまり》様ぁ~、大人しく縛られたままでいてくれないとダメじゃないですか。 阿魔利:お前、何を言って…。 セレナーデ:あらあら、失敗しちゃったのね。 千影:セレナーデ様!も、申し訳ありません! セレナーデ:良いのよ、最初から上手くいくなんて思ってないし。 阿魔利:セレナーデ…お前どうして? セレナーデ:うふふ…。 ジクード:おお!我が愛しのセレナーデよ!ついに覚醒したのですね! 阿魔利:覚醒…? ジクード:ふふふ。先程セレナーデがはめた指輪は、我が吸血鬼一族に代々伝わる秘宝「血盟の指輪」と言いましてね、はめた者は例外なく吸血鬼へと変貌を遂げるのですよ。 阿魔利:な、何だと!それじゃあセレナーデは…。 セレナーデ:うふふ…もう立派な吸血鬼の仲間よ♡ 阿魔利:そ、そんな…。 セレナーデ:ついでに言うとね、そこの千影も私に血を吸われたことで、今や私の従順な*眷属《けんぞく》よ。 千影:セレナーデ様、*阿魔利《あまり》様もあなたの力で*眷属《けんぞく》にして差し上げてはいかがでしょう? セレナーデ:そうねぇ…でもその前に。 セレナーデ:〈ジクードの所に歩いて行って抱きつく〉 セレナーデ:うふふ…♡ ジクード:おいおい…セレナーデ、新婚だからってこんな所で抱きつかないでください。 セレナーデ:ねぇあなた…♡ ジクード:ん?何だい?セレナーデ。 セレナーデ:実はね…〈首筋に噛み付く〉 ジクード:ぐぁぁ!な、何故(なぜ)お前が私の首に噛み付くんだ! セレナーデ:んんっ!…んふぅ…! セレナーデ:〈ジクードの血を*貪《むさぼ》るように吸う〉 ジクード:や、やめるんだ!お前!吸血鬼が同族に血を吸われたらどうなるか分かって!ぎゃあああ!!! ジクード:〈ジクード灰になって消滅する〉 セレナーデ:ペロリ…♡〈舌なめずり〉 セレナーデ:うふふふ…*流石《さすが》は*真祖《しんそ》の血ね。とーっても美味しかったわ♡ 阿魔利:セレナーデ…。 セレナーデ:はぁ♡最高の気分だわ!体の芯から力が湧き出してくるの!あははは! セレナーデ:これで私は究極の存在にまた一歩近付くことができた! 阿魔利:究極の存在…。 セレナーデ:うふふ…全てはお父様のおかげよ。3ヶ月前にお父様から聞いた私の*出生《しゅっせい》の秘密。実はね、あの話を聞いた瞬間、ある計画を思い付いたの。私の中に流れる魔族と太陽の女神の血、そこに吸血鬼の*真祖《しんそ》の血が加われば私はこの世界で最強の存在になれるんじゃないかってね。 阿魔利:お前…。 セレナーデ:でもね、今のままじゃまだ不完全なの。 阿魔利:不完全?どういう意味だ? セレナーデ:それはね…お父様、あなたに原因があるのよ。 阿魔利:俺に原因が…? セレナーデ:そうよ。私の中にはお父様から受け継いだ魔族の血が流れているはずだった。でも違った…本当の所はほとんど受け継がれていなかったのよ。 セレナーデ:それこそ魔法もロクに使えない程度にしかね。 阿魔利:そんなはずはない!確かにお前には魔族の血が… セレナーデ:〈セリフに被せて〉だから私は決めたの。ジクードの血を吸った後にお父様の血を取り込んで究極の生命体になるってね! 阿魔利:セレナーデ…お前はその究極の体を手に入れて一体何がしたいんだ? セレナーデ:私はもう強大な力の前に*怯《おび》えて生きるのは*懲り懲り《こりごり》なの!何の力もないのにアルス王国の第一王女に*担《かつ》ぎ上げられて、私がどれだけ辛く*惨《みじ》めな思いをしたか…。だから今度は私がこの世界を力で支配するの!そうすればもう誰もあんな辛い想いをしなくても済むのよ! 阿魔利:なるほどな…お前が力に固執する理由は分かった。だが、そんな独りよがりの力では世界中の人々を幸せに導くことなんて決して出来はしない。ましてや力で人を支配するなど、やっていることはジクードと変わらないぞ! セレナーデ:うるさい!!あと少しで私は究極の存在になれるんだ!お父様、最後にあなたの血を取り込んでね!千影、命令よ!お父様を痛めつけて行動不能にしなさい! 千影:かしこまりましたセレナーデ様。 千影:*幻魔妖術陸式《げんまようじゅつろくしき》「*火炎乱舞《かえんらんぶ》!」 阿魔利:仕方ない…許せ、千影。 阿魔利:*幻魔妖術漆式《げんまようじゅつななしき>「*雷光刹火《らいこうせっか》!」 千影:ぐああああ!!! 千影:〈阿魔利の術により気を失う〉 セレナーデ:なっ!千影!何をしているの!立ちなさい! 阿魔利:俺の*雷光刹火《らいこうせっか》をまともに受けたんだ。いくら吸血鬼の*眷属《けんぞく》とはいえ、雷撃のショックでしばらくは身動き一つ取れんさ。 セレナーデ:くっ…。 阿魔利:それで、まだやるのか? セレナーデ:た、たかが*眷属《けんぞく》一人倒したくらいで良い気にならないでよね!ジクード相手に苦戦していたお父様なんかにこの私が負けるはずがないのよ!はああああ!! 阿魔利:確かにお前は*真祖《しんそ》の血を取り込んで強くなったかもしれない。でもそんなのはただの付け焼き刃に過ぎないんだ。本当の強さとは何かってことを俺がお前に教えてやる! 阿魔利:*幻魔妖術零式《げんまようじゅつぜろしき》「*真天回帰《しんてんかいき》!」 セレナーデ:ぐっ…*眩《まばゆ》い光に包まれて吸血鬼としての力が!私の中の*真祖《しんそ》の血が浄化されていく! セレナーデ:嫌だ…もう弱い自分になんて戻りたくないの!きゃあああ!! セレナーデ:〈気を失う〉 : :-------------------30分後 阿魔利:二人とも、大丈夫か? 千影:うう…こ、ここは…?ぐあぁ!何だ…この全身を突き抜ける痛みは! 阿魔利:千影、正気に戻ったんだな。 千影:お…*御館様《おやかたさま》!お願いです。俺の身に何があったか教えてください! 阿魔利:お前は俺の*雷光刹火《らいこうせっか》を食らって失神していたんだ。 千影:な、何ですって!!(どおりで体が死ぬほど痛いわけだ…) 千影:…って何で生きてるんですか、俺? 阿魔利:まあ、知らない方がお前のためだ。 千影:ええっ!そんなこと言わないで教えてくださいよぉ! セレナーデ:う…うーん…あれ? 阿魔利:お、ようやく王女様のお目覚めか。気分はどうだ? セレナーデ:私、一体何して…はっ!指輪は?*真祖《しんそ》の力は? 阿魔利:お前にはめられていた血盟の指輪は俺が*真天回帰≪しんてんかいき》で破壊した。それと同時にお前が取り込んだ*真祖《しんそ》の血も浄化されたんだ。 セレナーデ:そ、そんな…せっかく手に入れた力だったのに…。 セレナーデ:はぁ…また弱い自分に逆戻りかぁ…。 阿魔利:そんなことはない。両手を出してみろ。 セレナーデ:え?何これ!右手が赤く、左手が青く光ってる! 阿魔利:そうだ。さっき俺の*真天回帰《しんてんかいき》を受けたことで、お前の中に封印されていた魔族の力と太陽の女神の力が解放されたんだ。 セレナーデ:じゃ、じゃあ!私にも力が使えるってこと? 阿魔利:理論上はな。だが、今はまだ使えるわけじゃない。 セレナーデ:そっか…。なぁーんだ、残念…。 阿魔利:アルス王国の復興には相当な時間を要するだろう。それに、国王を失ったとはいえ、いつカリム王国が再び力を盛り返して侵攻してくるかも分からない。いずれにせよ、有事に備え王国を守る存在が必要なのは事実だ。 セレナーデ:…それってどういうこと? 千影:つまり、これからは俺たちがアルス王国を守るってことでしょ?*御館様《おやかたさま》? 阿魔利:ああ、その通りだ。復興が完了するまでの間、アルス王国は*幻魔帝国《げんまていこく》バルムードの保護下に置くこととする。これでアルス王国の民の安全も保証される。 セレナーデ:で、でも*不可侵条約《ふかしんじょうやく》の*罰則規定《ばっそくきてい》の件はどうなるの?私、立場的にはまだジクードの妻なわけだし…。 阿魔利:その事なら心配することはない。アルス王国は一時的とはいえカリム王国の要求に従った。その時点で*罰則規定《ばっそくきてい》の*履行《りこう》は成立している。その後、国王は会談中に何者かの手によって暗殺。また、お前は花嫁の証である「血盟の指輪」を破壊されたことで吸血鬼としての力を失い事実上の破局扱いとなるだろう。従ってアルス王国もお前も晴れて自由の身というわけだ。 セレナーデ:そうなんだ…なら良かった。 千影:じゃあとりあえず、めでたしめでたしってことで帰りますか。 阿魔利:ああ。そうだな。 セレナーデ:ねぇ、お父様…これからはちょくちょく会いに行ってもいい? 阿魔利:何を言う。 セレナーデ:そう…だよね。やっぱりダメだよね…。 阿魔利:ちょくちょくどころかお前はアルス王国が復興するまで俺の元で修行することになる。お前には力の制御や術の*会得《えとく》も含め、まだまだ教えなければならないことが山ほどあるからな。覚悟しておけ。 セレナーデ:え?…えーー!! 千影:ってことで改めてよろしくな!セレナーデ王女様! : セレナーデ:(M)こうして、国と国とを巻き込んだ一連の騒動は終結した。私はお父様の元で日々修行に明け暮れている。また、カリム王国は国王を失ったことで勢力が衰え、これまでのような表立った行動に出ることはなくなった。 セレナーデ:アルス王国が復興するまでどれくらい掛かるか分からないけど、この国を支える王女として、頑張っていこうと思う。 : セレナーデ:よーし!今日もいっちょ頑張るかー! : :~完~

タイトル:力の先に求めるものは : 登場人物: セレナーデ:中立国家アルス王国の第一王女。見た目の美貌とは裏腹に、口は悪く男勝りな性格だが、国を愛する気持ちは誰よりも強い。 ジクード:吸血鬼独立国家カリム王国の国王。一見すると紳士だが、性格は狡猾で目的のためには手段を選ばない非情さを持つ。 千影:「ちかげ」。幻魔帝国バルムードの隠密担当。*飄々《ひょうひょう》としているが、仕事はきっちりこなす。謎の男と兼役。 阿魔利:「あまり」。幻魔帝国バルムードの皇帝。一見すると冷徹な印象を受けるが、部下思いで情に厚い性格。 :(M)はモノローグ(独白)、()は心の声、〈〉はト書きです : 本編: :【 中立国家アルス王国にて 】 : セレナーデ:くっ…。 ジクード:あなた方アルス王国は我が国との戦争に敗れました。さあ王女様、大人しく私の元へ来てはくれませんか? セレナーデ:嫌よ!誰が愛する祖国を壊滅に追い込んだアンタなんかの元に下るもんですか! ジクード:ふむ…あなたは何か誤解されているようだ。先に攻めて来たのはあなた達ですよ。これは国と国との戦争なのです。我々、*吸血鬼独立国家《きゅうけつきどくりつこっか》カリム王国の民はひっそり穏やかに暮らしていただけなのに…。 セレナーデ:何が「ひっそり穏やかに暮らしていた」よ!人間の血を吸わなきゃ生きていけない化け物のくせに!そもそもアンタ達が血液欲しさに人々をさらって殺したりしなければこんなことにはならなかったのよ。そのせいで…国民だけじゃなく、私の大切な家族や親友までもが戦争の犠牲になって…うぅ…。〈すすり泣く〉 ジクード:何の話ですか?確かに我々吸血鬼はあなた方人間の血をいただかないと生けてはいけない存在です。しかし、*一昔《ひとむかし》前ならいざ知らず、人間との和平協定が結ばれた今の時代に人間の命を奪ってまでその血を得ようとするなどありえないことです。 セレナーデ:嘘よ!アンタたち吸血鬼が毎晩のように街に現れては、人々をさらって行くのをたくさんの人が目撃してるんだから! ジクード:…それはおかしいですね。我々の戒律には「人間の血を得ることを目的とした*殺生《せっしょう》は*厳《げん》に禁ずるものとし、これを犯した者は極刑に処する」と定められております。人間の血液は我々にとってかけがえのない食料。欲しければ金品や物資といったそれ相応の対価を支払って直接人間から買っているのです。従って我々の国民が*禁忌《きんき》を犯してまで他国の民の命を奪っているなど考えられません。 セレナーデ:じゃあ毎晩のように犠牲者が出た一連の事件は誰がやったって言うのよ! ジクード:さあ、それは私にも分かりません。ただハッキリしていることは、あなた方は我々の国に攻め込んで来た。そして我々はそれに対し反撃した。それだけの事です。 セレナーデ:それだけって…たくさんの人がアンタ達の手によって殺されたのよ!少しは心が痛まないの? ジクード:もちろん痛みますとも。しかしそれが戦争というものです。我々も*此度《こたび》の戦争で多くの民の命が失われました。従って、こちらとしても自国の民を守るため、やむを得ずやったことなのです。 セレナーデ:くっ…それはそうかもしれないけど。じゃあ私がアンタの元に行かなきゃいけない理由は何なのよ。 ジクード:あなたをお守りするためです。 セレナーデ:は?何言ってるの?アンタなんかに守られるなんてまっぴらごめんよ! ジクード:そう言うと思ってました。ですがあなたに拒否権などないのですよ。 セレナーデ:どういうこと? ジクード:数年前に人間と吸血鬼との間に結ばれた*不可侵条約《ふかしんじょうやく》に関する*罰則規定《ばっそくきてい》第7条「仮に戦争を仕掛けた側が敗北した場合、敗戦国は戦勝国のいかなる要求にも従う」という条文があるのをご存知ですか? セレナーデ:そ、それはもちろん知ってるけど。それと私と何の関係があるのよ。 ジクード:実は私はずっと前からあなたをお*慕《した》い申し上げておりました。しかし人間の命はとても*脆《もろ》く*儚《はかな》い。今回のような戦争がなくてもいつ消えてしまうか分からない存在だ。だからこそ私の手で愛しいあなたを守って差し上げたかったのです。 ジクード:本当はこんな手段を使わずとも直接あなたに想いを告げて快く妻として私の元に来て欲しかった。ですが私とあなたは*相容《あいい》れない種族同士。だからこうして戦勝国の要求としてあなたを正式に私の妻として迎え入れようと思っているのです。 セレナーデ:え…ちょっと待って。それってつまり、アンタは私欲しさに我が国が戦争を起こすようけしかけて、攻めてきた所を返り討ちにすることで、*不可侵条約《ふかしんじょうやく》の*罰則規定《ばっそくきてい》を利用して無理矢理にでも自分の妻にしようとしてるってこと? ジクード:まさか!たまたま私の望みと今回の状況が一致しただけですよ。まあ、この状況を利用させてもらったのは間違いありませんがね。 セレナーデ:絶対嘘よ!あまりにも話が出来過ぎているもの!…さてはアンタが黒幕ね! ジクード:だから違うと言っているでしょう。本当に私は何も知らないのです。どうか信じてください。 セレナーデ:そんなの信じられるわけないでしょ!とにかく私は嫌だって言ってるの!アンタなんかと一緒になるくらいなら今ここで舌を噛み切って死んでやるわ! ジクード:はぁ…どこまでも聞き分けのないお方だ。仕方ありませんね。できればこれは使いたくなかったのですが。 セレナーデ:な、なによ…私は何をされても屈しないんだから… ジクード:〈セリフに被せて〉セレナーデ様、私の目を見てください。 ジクード:〈ジクードの目が赤く光る〉 セレナーデ:え?(あぁ…アイツの赤く光る目を見てたら…だんだん…意識が…) ジクード:さぁ…愛しのセレナーデ。私の元に来るのです。 セレナーデ:はい…。〈ふらふらとジクードの元へ歩いていく〉 ジクード:〈セレナーデを抱き寄せ〉 ジクード:ふふふ…では共に参りましょうか。 セレナーデ:はい…ジクード様。 謎の男:待ちな!その娘は俺様がいただくぜ!〈ジクードから王女を奪う〉 ジクード:なっ!何者だ! 謎の男:誰がお前なんかに名乗るもんか!べーだ!じゃあな!〈セレナーデを担いで飛び去る〉 ジクード:待て!…くっ、あと一歩の所で邪魔が入るとは。おのれ…私は諦めぬぞ! : :【 アルス王国上空 】 セレナーデ:〈正気に戻る〉えっ!何?私どうなってんの?って、きゃあ!! 謎の男:おい!暴れるなって!空飛んでんだからじっとしてろ! セレナーデ:そんなこと言われても…ひー!!落ちる~!! 謎の男:ちっ…これ以上騒がれるのも面倒だ。とりあえず寝てろ。 謎の男:*幻魔妖術壱式《げんまようじゅついちしき》「*夢幻廻廊《むげんかいろう》」 謎の男:〈手の平をセレナーデの額に当てる〉 セレナーデ:え!ちょっと何を…はにゃ…〈意識を失う〉 謎の男:ふぅ…ようやく大人しくなったか。さて、こんな所さっさとおさらばして、*御館様《おやかたさま》の元に帰らねぇとな!〈飛び去る〉 : :【 幻魔帝国バルムードにて 】 謎の男:*御館様《おやかたさま》、ただ今戻りました。 阿魔利:うむ。*千影《ちかげ》、ご苦労だった。それで、状況は? 千影:はい。*御館様《おやかたさま》の読み通り、*吸血鬼独立国家《きゅうけつきどくりつこっか》カリム王国の国王ジクードって奴はとんでもねぇ野郎でして、中立国家のアルス王国内で自分の配下に誘拐殺人を繰り返させては吸血鬼への不安を*煽《あお》り、結果的に戦争を起こしたアルス王国を壊滅させただけじゃなく、人間と吸血鬼の間で結ばれた*不可侵条約《ふかしんじょうやく》の罰則規定《ばっそくきてい》を逆手に取って、王女のセレナーデ様を無理矢理自分の妻として自国に引き込むつもりだったんです。あと少し到着が遅れていたら手遅れになる所でした。 阿魔利:そうか…やはりな。あの男の考えそうな事だ。何にせよ間に合って良かった。千影、礼を言う。 千影:礼だなんて…へへっ、当然の働きをしたまでですよ。 阿魔利:うむ。それから千影、すまぬがそろそろ彼女を起こしてやってくれないか。 千影:おっと、すっかり忘れてました。それでは… 千影:「*解《かい》!」 セレナーデ:う…うーん、私は一体…あれ?ここはどこなの? 阿魔利:起きたか。 セレナーデ:え?えーーー!!だ、だ、誰だアンタは? 千影:コラ!*御館様《おやかたさま》に向かって何て口を聞くんだ! 阿魔利:驚くのも無理はない。俺は*幻魔帝国《げんまていこく》バルムードの皇帝、*阿魔利《あまり》だ。お前の名は? セレナーデ:わ、わ、私は中立国家アルス王国の第一王女、せ、セレナーデですわ! 阿魔利:ほう、あの小さかったお嬢ちゃんが少し見ぬ間に立派になったものだな。 セレナーデ:え?私を知っているのですか? 阿魔利:ああ。俺は昔、お前の父デルスミス国王に助けられた事があってな、しばらくの間城に*匿《かくま》ってもらっていたのだ。お前はまだ小さかったから覚えてないかもしれないがな。 セレナーデ:そうだったんですね。それは初耳ですわ。それでなぜ私はここにいるのですか?確か、*吸血鬼独立国家《きゅうけつきどくりつこっか》カリム王国のジクードって国王と話をしていた気がするんですが…。 千影:その通りだ。あの時はお前、本当にやばかったんだからな。 セレナーデ:え?どういうことですか? 千影:危うくあのジクードって国王の妻にされるところだったんだぞ。 セレナーデ:妻…はっ!思い出した!私の祖国が、アイツらに壊滅させられて私まで連れ去られそうになって…うぅ〈泣き出す〉。 阿魔利:安心しろ、もう大丈夫だ。お前は俺が守ってやる。 セレナーデ:でも私、祖国を置いて逃げて来てしまった…。今頃生き残った民たちがどんな目に遭ってるかと思うと…ううう。〈激しく泣く〉 阿魔利:もう良い。お前は民を守るために十分頑張った。命があるだけでも良しと思え。 セレナーデ:そんなこと思えません!壊滅させられたとはいえ私はアルス王国第一王女です!このままおめおめと逃げ恥を*晒《さら》す訳にはいきません!アイツに*一矢《いっし》報いなければ死んでいった者達に何と詫びれば良いか…。だからお願いします!私をもう一度アイツの元に送ってください! 阿魔利:このままお前をあの男の元に送ってどうする?今度こそ連れ去られるだけだぞ。 セレナーデ:じゃあ、このまま祖国の民を見捨てろって言うんですか! 阿魔利:そうではない。機が熟すまで待てと言っているのだ。 セレナーデ:今更何を待てと言うのですか!待ったところで何も変わらないのに…うう〈泣く〉 阿魔利:要はお前の祖国を壊滅に追いやったあの男を討つことが出来れば良いのだろう? セレナーデ:はい!アイツだけは絶対に許さない! 阿魔利:分かった。我々も協力しよう。 セレナーデ:え?本当ですか!ありがとうございます!では具体的にどうすれば… 阿魔利:〈セリフに被せて〉その前にセレナーデ、お前についての秘密を話しておく必要がある。 セレナーデ:え?私についての…秘密? 阿魔利:そうだ。なぜあの男があれほどまでにお前を自分の妻にしようとするのか、不思議に思ったことはあるか? セレナーデ:いえ…でも確かに言われてみれば妙ですわね。 阿魔利:実はお前はデルスミス国王の直系一族ではない。 セレナーデ:え!?嘘よ!私は*紛《まぎ》れもなくお父様の娘よ! 阿魔利:良いからよく聞け。実はお前は捨て子だったんだ。いや…厳密に言うと託されたと言った方が正しいか。 セレナーデ:え…?私が捨て子? 阿魔利:お前は俺と太陽の女神ラミラスとの間に生まれた子供だったんだ。 セレナーデ:そんな…。 阿魔利:さっき俺が昔、デルスミス国王に助けられたことがあると話したよな。俺とラミラスは魔族と神、つまりお互い*相容《あいい》れない者同士、決して許されない禁断の恋だったんだ。それでも俺達は愛し合っていた。だが、俺達がきっかけとなって天界と魔界が和平協定を結ぶことを恐れた当時の魔界の幹部連中によって俺達は命を狙われることになった。そこで俺は*身重《みおも》のラミラスを連れてアルス王国に助けを求めたんだ。 セレナーデ:そんなことがあったなんて…。 千影:俺も初めて聞きました。 阿魔利:デルスミス国王は俺達の事情を聞き、快く受け入れてくれた。*程《ほど》なくしてセレナーデ、お前が生まれたんだ。だが、ラミラスはお前を産んで2年が経った頃、散歩に行くと言ったっきり俺達の前から姿を消してしまった。俺は必死の思いで彼女を探したが見つけることは出来なかった。そして1年後のクリスマス。ラミラスは国境付近の川で変わり果てた姿で発見された。遺体からは明らかに魔族の手の者による爪痕がいくつも残されていた。 セレナーデ:ああ…なんてこと! 千影:許せねぇぜ! 阿魔利:俺は心底自分の弱さを恨んだよ。それと同時に、お前を魔族の危険から遠ざけるため、表向きにはお前をデルスミス国王の直系の子孫として育てるよう国王に託し、俺はアルス王国を後にして復讐のために*密《ひそ》かに国を*興《おこ》したんだ。 セレナーデ:じゃあ、あなたが私の本当のお父様なのですか? 阿魔利:ああ。そうだ。だからお前には魔族である俺の血と、太陽の女神であるラミラスの血が流れている。そして、ジクードはお前を妻として迎えることで、吸血鬼の最大の弱点である太陽を克服しようと*目論《もくろ》んでいるんだ。 セレナーデ:それで私を無理矢理にでも妻にしようと…。今全てが繋がったわ。ジクード!アイツだけは絶対に許さない! 阿魔利:ああ。俺も同じ気持ちだ。今回お前を救い出したことで、あの男の企みも阻止できた。あとはジクードを討つことが出来れば、デルスミス国王の無念を晴らせる。 千影:私も全力でサポートしますぜ! セレナーデ:お父様、私も力になりたいですわ! 阿魔利:助かる。しかし本当に*逞《たくま》しくなったな。セレナーデ。 セレナーデ:う…うう…私、全然*逞《たくま》しくなんかない!祖国があんなことになってどうして良いか分からなくて…でも王女として一人で立ち向かわなきゃって、気丈に振る舞わなきゃってずっと我慢して…うわあああん!!〈号泣する〉 千影:苦労したんだなぁ…うぅ…泣けるぜ。 阿魔利:セレナーデ、よく一人で頑張ったな。 セレナーデ:うん…うぅ…。 阿魔利:あとは任せろ。 : :【 吸血鬼独立国家カリム王国にて 】 ジクード:私の妻、セレナーデを奪った者の正体は目星が付いた。まさかとは思ったがな…ふふふ…これは面白くなりそうだ。 : セレナーデ:(M)そして私達はジクード討伐に向け、作戦を練ることになった。決行は3ヶ月後の*罰則規定履行期限最終日《ばっそくきていりこうきげんさいしゅうび》の夜。もしこの時までに要求が*履行《りこう》されなければ、*強制報復措置《きょうせいほうふくそち》としてアルス王国はカリム王国に併合され、そこに住む全ての国民はカリム王国の奴隷として引き渡されることになる。つまりこの日ジクードは必ずアルス王国との会談の場に姿を見せ、私がその場で要求に応じることも承知の上で会談に臨むはずだ。そして、要求が*履行《りこう》される瞬間、そこには必ず*隙《すき》が生まれる。それこそがアイツを討つ絶好の機会なのだ。私はその日が来るのを*一日千秋《いちにちせんしゅう》の想いで待った。そして…。 : :-------------------3ヶ月後 : 阿魔利:よし、機は熟した。これより作戦を開始する。お前達、準備は良いか? 千影:もちろんバッチリですぜ。いつでも行けます。 セレナーデ:私も大丈夫よ。じゃあ行って来ます。 阿魔利:くれぐれも油断するなよ。 セレナーデ:ええ。分かってるわ、お父様。 : :【 アルス王国とカリム王国の会談の場にて 】 セレナーデ:ご機嫌よう、ジクード国王。 ジクード:おや?セレナーデ王女ではありませんか。てっきり逃げ出したのかとばかり思っていましたが、さすがは国民想いの王女様。必ず来て下さると思っていましたよ。 セレナーデ:もちろんですわ。王女である私が国民を見捨てる訳がないでしょう。さあ、会談を始めましょうか。 ジクード:ええ、喜んで。それで、ここにあなたがいらしたということは、ようやく決心が付いたということでよろしいですかな? セレナーデ:そうね。あの時は動揺して取り乱してしまい申し訳ありませんでした。冷静になって考えてみると、根も葉もない噂で戦争を仕掛けたのはこちら側です。私がジクード国王の妻になることで国民の安全が保証されるのであれば安いものですわ。 ジクード:ほほう。それはありがたい!お互いこれ以上無駄な血を流さなくて済みます。心から感謝致しますぞ。それでは今回の会談は終了ということでよろしいですかな? セレナーデ:ええ。(ここまでは作戦通りね。) ジクード:それでは改めて。セレナーデ様、参りましょうか。〈席を立つ〉 セレナーデ:はい。ジクード様。(あとはアイツが油断した*隙《すき》にお父様と千影が飛び込んで…) ジクード:あ、そうそう。一つ大事なことを忘れておりました。 セレナーデ:え…な、何ですの? ジクード:我々の国のしきたりでは、婚約が成立した相手にはこちらの指輪をはめていただくことになっておりまして。 ジクード:〈指輪を渡す〉 セレナーデ:ゆ、指輪ですか? ジクード:ええ。良かったら私がはめて差し上げましょうか? セレナーデ:い、いえ、結構ですわ。指輪くらい自分ではめられますし。(ま、まあ指輪をはめるだけなら問題ないわよね) ジクード:そうですか、では左手の薬指にはめてください。 セレナーデ:分かりました。〈指輪をはめる〉 ジクード:ふふふ…はめましたね。 セレナーデ:えっ?〈指輪が光り出す〉 セレナーデ:…あぁ!指輪が熱い!!きゃああああ!!!〈意識を失う〉 :-------------------千影と阿魔利が飛び込んで来る 千影:王女様!!大丈夫か! 阿魔利:セレナーデ!何があった! ジクード:おや?これはこれは。誰かと思えばやはりあなたでしたか。*幻魔帝国《げんまていこく》バルムード、*阿魔利皇帝陛下《あまりこうていへいか》。 阿魔利:ジクード!貴様、セレナーデに何をした! ジクード:何を?ふふふ…これはおかしなことを言いますね。私はただ、婚約者に指輪を差し上げただけですよ。あなた方こそ、重要な会談の場に部外者が土足で上がり込むとはどういうつもりですか? 阿魔利:くっ…。 ジクード:まあ良いでしょう。*大方《おおかた》、私を暗殺しにでも来たのでしょうから。 阿魔利:千影、セレナーデを頼む。 千影:分かりました。〈セレナーデの介抱に向かう〉 ジクード:それで?ここからどうしますか?あなた方の計画が明るみになった今、もう暗殺はできませんよ。私としては、ここであなたと直接やり合っても構いませんが。 阿魔利:一つ貴様に聞きたいことがある。 ジクード:どうぞ。 阿魔利:12年前、ラミラスを殺害したのは貴様か? ジクード:…。 阿魔利:どうなんだ? ジクード:ふふふ…はははは! 阿魔利:な、何がおかしい? ジクード:さすがにバレましたか!まあ*敢《あ》えて私だと分かる証拠を残しておいたんですがね。それにしてもあの夜は最高の気分でしたよ。何せ、忌むべき太陽の女神をこの手で引き裂くことができたんですからね!はははは!! 阿魔利:ジクードぉぉぉぉ!!!〈ジクードに切り掛かる〉 ジクード:おっと!〈阿魔利の攻撃を受け流す〉 ジクード:そうカリカリしないでください。むしろ感謝して欲しいくらいですね。セレナーデ王女だけは殺さずに生かしてあげたのですから! 阿魔利:なっ!!ジクード…貴様だけは、貴様だけは絶対に許さん!! 阿魔利:*幻魔妖術参式《げんまようじゅつさんしき》「*刺突龍撃《しとつりゅうげき》!」 ジクード:ほう。龍の*如《ごと》き巨大な*槍《やり》を使った突進攻撃ですか…ぬるいですね。 ジクード:*血掌展開《けっしょうてんかい》「*朧月夜《おぼろづきよ》」 阿魔利:なっ!霧になって*躱《かわ》しただと! ジクード:ふふ…よくもまあそんな腕で私の命を奪えると思いましたね。 阿魔利:黙れ!! ジクード:今度はこちらから参りますよ! ジクード:*血掌展開《けっしょうてんかい》「*五月雨《さみだれ》」 阿魔利:くっ…無数の血の弾丸か!それなら! 阿魔利:*幻魔妖術伍式《げんまようじゅつごしき》「*四方展甲《しほうてんこう》!」 ジクード:ふっ…防御の術ですか、器用ですね。だが! 阿魔利:ぐっ!防ぎ切れない!!ぐぁぁ! ジクード:ほほう。右肩1箇所のみの被弾で済んだとは…意外とやるものですね。 阿魔利:はぁ…はぁ…。 ジクード:(さて、そろそろですかな?) : 千影:王女様!しっかりしろ! セレナーデ:…。 千影:(一体どうしちまったって言うんだ。指輪をはめただけであんなに苦しみ出すなんて。) セレナーデ:う…うぅ…。 千影:おい!大丈夫か? セレナーデ:…ここは?ぐっ!〈起き上がろうとする〉 千影:無理すんな。まだ寝てろって。 セレナーデ:ねぇ…千影。 千影:な、何だ? セレナーデ:お願いがあるの…。 千影:お願い?おう、何でも言ってみろ。 セレナーデ:体が寒くてたまらないの…だから私を抱き締めて。 千影:え!?だ、抱き締めてって…こんな所でそんな真似できるかよ。何か*羽織《はお》るものでも探して来るからちょっと待ってろ。 セレナーデ:嫌!一人にしないで…。 千影:はぁ…ほんとワガママな王女様だな。分かったよ。ちょっとだけだぞ。 セレナーデ:嬉しい…ありがとう…。 千影:〈セレナーデを優しく抱き締める〉こ、こんな感じで良いか? セレナーデ:うん…あったかい。ねぇ、千影。 千影:ん?今度は何だ? セレナーデ:私ね、あなたが欲しいの。 千影:え!?ちょ!急に何言い出すんだ! セレナーデ:はぁ…もう私、我慢出来ないの!〈千影の首筋に噛み付く〉 千影:ぐ、ぐぁ!なに首に噛み付いてんだ…や、やめろセレナーデ!一体どうしちまったんだ! セレナーデ:〈無心に千影の血を吸う〉んっ…んんっ… 千影:ま、まさか…お前吸血鬼に! セレナーデ:んっ…んふふふ… 千影:やめ…ろ。(だ、ダメだ。力が抜けて意識まで消え…) セレナーデ:んんっ…ぷはぁ♡〈千影の首から口を離す〉 セレナーデ:うふふ…千影の血、最高に美味しかったわ。 セレナーデ:さてと…千影、起きなさい。 千影:〈ゆらりと体を起こす〉はい…セレナーデ様。 セレナーデ:いい子ね。これからあなたは私の可愛い*眷属《けんぞく》として*未来永劫《みらいえいごう》仕えるの。分かったかしら? 千影:はい…私はセレナーデ様に永遠の忠誠を誓います。 セレナーデ:うふふ…それじゃあ千影、早速だけどやってもらいたいことがあるの。 千影:はい…何なりとお申し付けください。 セレナーデ:あのね…。〈耳元で囁く〉 千影:承知しました。お任せください。 : ジクード:ぐっ…少しはやるじゃないですか。さすがは*幻魔帝国《げんまていこく》を束ねる皇帝だけのことはありますね。 阿魔利:はぁ…はぁ…当たり前だ。ラミラスを失ってから俺はずっと貴様に復讐することだけを考えて生きてきたんだ。 ジクード:それは光栄なことですね。ですが全ては無駄な*足掻《あが》きなのですよ。 阿魔利:ふざけるな!貴様を倒し必ずラミラスの仇を取る! 千影:*御館様《おやかたさま》、大丈夫ですか? 阿魔利:千影?どうしてお前がここにいるんだ。セレナーデは無事なのか? 千影:はい。王女様は先程目を覚ましました。 阿魔利:そうか、それは良かった。なら引き続きセレナーデの*傍《そば》にいてやってくれ。ここにいたら巻き込まれるぞ! 千影:実はそういう訳にもいかなくなりまして。 阿魔利:ん?どういうことだ? 千影:なぜなら、今私がお仕えしているのはセレナーデ様ですから! 千影:*幻魔妖術弐式《げんまようじゅつにしき》「*全天糸縛《ぜんてんしばく》!」 阿魔利:何っ!ぐっ…「*解《かい》!」〈千影の攻撃を解除する〉 千影:*阿魔利《あまり》様ぁ~、大人しく縛られたままでいてくれないとダメじゃないですか。 阿魔利:お前、何を言って…。 セレナーデ:あらあら、失敗しちゃったのね。 千影:セレナーデ様!も、申し訳ありません! セレナーデ:良いのよ、最初から上手くいくなんて思ってないし。 阿魔利:セレナーデ…お前どうして? セレナーデ:うふふ…。 ジクード:おお!我が愛しのセレナーデよ!ついに覚醒したのですね! 阿魔利:覚醒…? ジクード:ふふふ。先程セレナーデがはめた指輪は、我が吸血鬼一族に代々伝わる秘宝「血盟の指輪」と言いましてね、はめた者は例外なく吸血鬼へと変貌を遂げるのですよ。 阿魔利:な、何だと!それじゃあセレナーデは…。 セレナーデ:うふふ…もう立派な吸血鬼の仲間よ♡ 阿魔利:そ、そんな…。 セレナーデ:ついでに言うとね、そこの千影も私に血を吸われたことで、今や私の従順な*眷属《けんぞく》よ。 千影:セレナーデ様、*阿魔利《あまり》様もあなたの力で*眷属《けんぞく》にして差し上げてはいかがでしょう? セレナーデ:そうねぇ…でもその前に。 セレナーデ:〈ジクードの所に歩いて行って抱きつく〉 セレナーデ:うふふ…♡ ジクード:おいおい…セレナーデ、新婚だからってこんな所で抱きつかないでください。 セレナーデ:ねぇあなた…♡ ジクード:ん?何だい?セレナーデ。 セレナーデ:実はね…〈首筋に噛み付く〉 ジクード:ぐぁぁ!な、何故(なぜ)お前が私の首に噛み付くんだ! セレナーデ:んんっ!…んふぅ…! セレナーデ:〈ジクードの血を*貪《むさぼ》るように吸う〉 ジクード:や、やめるんだ!お前!吸血鬼が同族に血を吸われたらどうなるか分かって!ぎゃあああ!!! ジクード:〈ジクード灰になって消滅する〉 セレナーデ:ペロリ…♡〈舌なめずり〉 セレナーデ:うふふふ…*流石《さすが》は*真祖《しんそ》の血ね。とーっても美味しかったわ♡ 阿魔利:セレナーデ…。 セレナーデ:はぁ♡最高の気分だわ!体の芯から力が湧き出してくるの!あははは! セレナーデ:これで私は究極の存在にまた一歩近付くことができた! 阿魔利:究極の存在…。 セレナーデ:うふふ…全てはお父様のおかげよ。3ヶ月前にお父様から聞いた私の*出生《しゅっせい》の秘密。実はね、あの話を聞いた瞬間、ある計画を思い付いたの。私の中に流れる魔族と太陽の女神の血、そこに吸血鬼の*真祖《しんそ》の血が加われば私はこの世界で最強の存在になれるんじゃないかってね。 阿魔利:お前…。 セレナーデ:でもね、今のままじゃまだ不完全なの。 阿魔利:不完全?どういう意味だ? セレナーデ:それはね…お父様、あなたに原因があるのよ。 阿魔利:俺に原因が…? セレナーデ:そうよ。私の中にはお父様から受け継いだ魔族の血が流れているはずだった。でも違った…本当の所はほとんど受け継がれていなかったのよ。 セレナーデ:それこそ魔法もロクに使えない程度にしかね。 阿魔利:そんなはずはない!確かにお前には魔族の血が… セレナーデ:〈セリフに被せて〉だから私は決めたの。ジクードの血を吸った後にお父様の血を取り込んで究極の生命体になるってね! 阿魔利:セレナーデ…お前はその究極の体を手に入れて一体何がしたいんだ? セレナーデ:私はもう強大な力の前に*怯《おび》えて生きるのは*懲り懲り《こりごり》なの!何の力もないのにアルス王国の第一王女に*担《かつ》ぎ上げられて、私がどれだけ辛く*惨《みじ》めな思いをしたか…。だから今度は私がこの世界を力で支配するの!そうすればもう誰もあんな辛い想いをしなくても済むのよ! 阿魔利:なるほどな…お前が力に固執する理由は分かった。だが、そんな独りよがりの力では世界中の人々を幸せに導くことなんて決して出来はしない。ましてや力で人を支配するなど、やっていることはジクードと変わらないぞ! セレナーデ:うるさい!!あと少しで私は究極の存在になれるんだ!お父様、最後にあなたの血を取り込んでね!千影、命令よ!お父様を痛めつけて行動不能にしなさい! 千影:かしこまりましたセレナーデ様。 千影:*幻魔妖術陸式《げんまようじゅつろくしき》「*火炎乱舞《かえんらんぶ》!」 阿魔利:仕方ない…許せ、千影。 阿魔利:*幻魔妖術漆式《げんまようじゅつななしき>「*雷光刹火《らいこうせっか》!」 千影:ぐああああ!!! 千影:〈阿魔利の術により気を失う〉 セレナーデ:なっ!千影!何をしているの!立ちなさい! 阿魔利:俺の*雷光刹火《らいこうせっか》をまともに受けたんだ。いくら吸血鬼の*眷属《けんぞく》とはいえ、雷撃のショックでしばらくは身動き一つ取れんさ。 セレナーデ:くっ…。 阿魔利:それで、まだやるのか? セレナーデ:た、たかが*眷属《けんぞく》一人倒したくらいで良い気にならないでよね!ジクード相手に苦戦していたお父様なんかにこの私が負けるはずがないのよ!はああああ!! 阿魔利:確かにお前は*真祖《しんそ》の血を取り込んで強くなったかもしれない。でもそんなのはただの付け焼き刃に過ぎないんだ。本当の強さとは何かってことを俺がお前に教えてやる! 阿魔利:*幻魔妖術零式《げんまようじゅつぜろしき》「*真天回帰《しんてんかいき》!」 セレナーデ:ぐっ…*眩《まばゆ》い光に包まれて吸血鬼としての力が!私の中の*真祖《しんそ》の血が浄化されていく! セレナーデ:嫌だ…もう弱い自分になんて戻りたくないの!きゃあああ!! セレナーデ:〈気を失う〉 : :-------------------30分後 阿魔利:二人とも、大丈夫か? 千影:うう…こ、ここは…?ぐあぁ!何だ…この全身を突き抜ける痛みは! 阿魔利:千影、正気に戻ったんだな。 千影:お…*御館様《おやかたさま》!お願いです。俺の身に何があったか教えてください! 阿魔利:お前は俺の*雷光刹火《らいこうせっか》を食らって失神していたんだ。 千影:な、何ですって!!(どおりで体が死ぬほど痛いわけだ…) 千影:…って何で生きてるんですか、俺? 阿魔利:まあ、知らない方がお前のためだ。 千影:ええっ!そんなこと言わないで教えてくださいよぉ! セレナーデ:う…うーん…あれ? 阿魔利:お、ようやく王女様のお目覚めか。気分はどうだ? セレナーデ:私、一体何して…はっ!指輪は?*真祖《しんそ》の力は? 阿魔利:お前にはめられていた血盟の指輪は俺が*真天回帰≪しんてんかいき》で破壊した。それと同時にお前が取り込んだ*真祖《しんそ》の血も浄化されたんだ。 セレナーデ:そ、そんな…せっかく手に入れた力だったのに…。 セレナーデ:はぁ…また弱い自分に逆戻りかぁ…。 阿魔利:そんなことはない。両手を出してみろ。 セレナーデ:え?何これ!右手が赤く、左手が青く光ってる! 阿魔利:そうだ。さっき俺の*真天回帰《しんてんかいき》を受けたことで、お前の中に封印されていた魔族の力と太陽の女神の力が解放されたんだ。 セレナーデ:じゃ、じゃあ!私にも力が使えるってこと? 阿魔利:理論上はな。だが、今はまだ使えるわけじゃない。 セレナーデ:そっか…。なぁーんだ、残念…。 阿魔利:アルス王国の復興には相当な時間を要するだろう。それに、国王を失ったとはいえ、いつカリム王国が再び力を盛り返して侵攻してくるかも分からない。いずれにせよ、有事に備え王国を守る存在が必要なのは事実だ。 セレナーデ:…それってどういうこと? 千影:つまり、これからは俺たちがアルス王国を守るってことでしょ?*御館様《おやかたさま》? 阿魔利:ああ、その通りだ。復興が完了するまでの間、アルス王国は*幻魔帝国《げんまていこく》バルムードの保護下に置くこととする。これでアルス王国の民の安全も保証される。 セレナーデ:で、でも*不可侵条約《ふかしんじょうやく》の*罰則規定《ばっそくきてい》の件はどうなるの?私、立場的にはまだジクードの妻なわけだし…。 阿魔利:その事なら心配することはない。アルス王国は一時的とはいえカリム王国の要求に従った。その時点で*罰則規定《ばっそくきてい》の*履行《りこう》は成立している。その後、国王は会談中に何者かの手によって暗殺。また、お前は花嫁の証である「血盟の指輪」を破壊されたことで吸血鬼としての力を失い事実上の破局扱いとなるだろう。従ってアルス王国もお前も晴れて自由の身というわけだ。 セレナーデ:そうなんだ…なら良かった。 千影:じゃあとりあえず、めでたしめでたしってことで帰りますか。 阿魔利:ああ。そうだな。 セレナーデ:ねぇ、お父様…これからはちょくちょく会いに行ってもいい? 阿魔利:何を言う。 セレナーデ:そう…だよね。やっぱりダメだよね…。 阿魔利:ちょくちょくどころかお前はアルス王国が復興するまで俺の元で修行することになる。お前には力の制御や術の*会得《えとく》も含め、まだまだ教えなければならないことが山ほどあるからな。覚悟しておけ。 セレナーデ:え?…えーー!! 千影:ってことで改めてよろしくな!セレナーデ王女様! : セレナーデ:(M)こうして、国と国とを巻き込んだ一連の騒動は終結した。私はお父様の元で日々修行に明け暮れている。また、カリム王国は国王を失ったことで勢力が衰え、これまでのような表立った行動に出ることはなくなった。 セレナーデ:アルス王国が復興するまでどれくらい掛かるか分からないけど、この国を支える王女として、頑張っていこうと思う。 : セレナーデ:よーし!今日もいっちょ頑張るかー! : :~完~