台本概要
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タイトル | 今日の桜があまりにも綺麗で |
---|---|
作者名 | 野菜 (@irodlinatuyasai) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 2人用台本(不問2) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
寒い地域、都市部に比べれば1か月遅れて桜が咲くような場所。 大きな霊園のど真ん中で、大きく迫力ある桜の下で、話す影が2つ。 「この桜の下で告白したら、叶いそうな気がしませんか?」 「霊園のど真ん中に生えてる点をのぞけば……たしかに。いや、致命的にその点がダメなんじゃ?」 「じゃあせめて、この桜の美しさに免じて、懺悔でもできそうじゃないですか?」 役者の性別は問いません。カナタ回想シーンの独白と会話のちがい、とつぜんの長めのツッコミなどありますので前読みした方が楽しいと思います。 きゅうりパーティーは遠慮したい作者より。 393 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ナツキ | 不問 | 97 | 霊感が強く、生者より死者や妖怪などと居ることを好む。そして面倒ごとに自ら突き進んでいく。 |
かなた | 不問 | 100 | 面倒見のいい優等生タイプ。孤立していたナツキを世話しているうちにナツキの親友に。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
かなた:目の前を、突き飛ばした園児が転がっていく。
かなた:間に合った。
かなた:園児を撫でる赤黒い幽霊が親指を立てる。
かなた:…………無事なのは分かりやすいが、もっと他になかったのか。
:
:
:
0:霊園の中央。大きな桜の木の下。桜は満開で、ナツキは口を開く。
ナツキ:私ね、生きてる人間嫌いなんです。
かなた:ほお。
ナツキ:自分に見えないからって。関係ないからって。
かなた:……そんなもんだって。
ナツキ:だから私はいろんな、人じゃない方々に会いに行きました。
かなた:うん?
ナツキ:座敷童。女子トイレの地縛霊。踊るハニワ。お地蔵さまと融合した生贄様。
かなた:なんか変なの混じってなかった?
ナツキ:そんなこんなするうちに。
かなた:またざっくりと端折ったね(はしょったね)。
ナツキ:私は気が付いたのです。私が触っている方には、私と同じ世界が見えることに。
かなた:あーうん、少しだけ現状に近づいてきたかな。
ナツキ:私としては、いついかなるときもかなたさんと手を握っていたい。しかし現実問題、それは不可能。
かなた:ものすごくスマートな流れで私の名前が。
ナツキ:そこで私はありもしない頭脳をひねり出し。
かなた:ひねり出すものだっけ頭脳って。
ナツキ:ぷれぜんと、という古より伝わる愛の証明を思い出しました。
かなた:…………おいまさか。
ナツキ:先日お渡しした、私の体の一部をいれたお守りが、それです。
かなた:やっぱりアレの仕業かああああああ!!
ナツキ:いえ、かなたさんが見えるようになっただけで、以前からかなたさんは大変モテモテでしたよ。ねー、みなさん。
かなた:数えるのも困難な人数の、お化け・妖怪・神様ご一行はご遠慮願いたいんですけど!!
ナツキ:お守りがあれば襲ってきませんって、おそらく。
かなた:そこは確実性欲しかったなあ!?っていうかこのお守りの中なに入ってるの!?髪の毛?爪??
ナツキ:あ。
かなた:ナツキの「あ。」ほど怖い物ないんだけど!?
ナツキ:あ、いえ。なるほどその手があったか、と。
かなた:血、とか?
ナツキ:左手をご覧ください。
かなた:左手・物理ーーー!!
ナツキ:まあもっといえば小指なのですが。
かなた:ねえ!!ねえどうしてあなたは好奇心で小指を捨てられるの!?どこかの組の方なの?何かしでかしちゃった際の再利用!?
ナツキ:(照れ)ごめんなさい……私も、結婚というものには興味がまだ捨てられぬ年でして、薬指はちょっと……
かなた:照れて言うことでも、どの指なら良いということでもないから!こっわ!!怖いのは知ってたけどこっわ!!てか友情の重さじゃない!今時の限界オタクでも指をささげるなんて発想しないよ!?
ナツキ:怖いのは知ってた……ということは、見えるようになった以外に、なにか?
かなた:…………いや、その、贈ってくれた本人を前に言うことじゃないんだけど。もらってから幽霊みえまくるし、日に日にお守りから異臭がするし…………のろいかなにか、かなって。普通、思うじゃん?だから、捨てたくなって。
ナツキ:捨てるとしたら燃えるゴミ、生ごみ指定の水曜日ですね。
かなた:あ、捨てるの良しとしちゃうんだ……自分の小指…………
ナツキ:それで?
かなた:何度捨てても燃やしても帰ってくるんだな、これがまた!!
ナツキ:さすが私の指、しぶといですね。お人形とか食べ物に混入させていたらと考えるとわくわくします。
かなた:人形だったらガチで都市伝説ってか怖い話じゃん……
ナツキ:日ごろのお礼に、特別なものを贈りたかったんです。人生で初めての心友、こころのともですもの!
かなた:壮絶な人生に心中お察ししますが、こころのともになんてもの贈り付けてんの??
ナツキ:さて我が心友改めオカルトホイホイさん。
かなた:勝手な改名も原因の忘却も許せないんだけど。
ナツキ:今日はいいお天気ですね。
かなた:それはね、こんにちはの次に出すセリフだね。冒頭のあの話の代わりにすべきだったね。
ナツキ:雲一つない澄んだ空。髪を揺らす程度のそよ風とクソ花粉。
かなた:あー花粉症だったっけ。
ナツキ:私家に帰ってから症状出るタイプなんですよー。今夜も地獄です。
かなた:ご愁傷様です。
ナツキ:ええ、ご愁傷様です。…………うーん、不謹慎ですかね。
かなた:まあ私の後ろにゃ百鬼夜行だからな。
ナツキ:私がここに来たの、この桜があまりにも綺麗だったからなんですよ。
かなた:これだけの大きさの桜が満開だと、すごいよね。都市部じゃ先月には咲いたんだっけ。ここは標高高いし、朝晩冷えるからなあ。
ナツキ:この桜の下で告白したら、叶いそうな気がしませんか?
かなた:霊園のど真ん中に生えてる点をのぞけば……たしかに。いや、致命的にその点がダメなんじゃ?
ナツキ:じゃあせめて、この桜の美しさに免じて、懺悔でもできそうじゃないですか?
かなた:…………だから、お守りの話を?
ナツキ:ええ、実は。
かなた:ほんと、馬鹿だなあ。
ナツキ:懺悔と言いつつ、確認というか、言い訳です。
かなた:はいはいこの際全部しゃべっちゃいなよ。
ナツキ:いいのですか。
かなた:ダメって言って止まったことありましたか暴走機関車さん。
ナツキ:一時停止してました。
かなた:それたぶん何かしらの被害出した後ですわ。
ナツキ:それは置いておいて。
かなた:置かれてしまった…………
ナツキ:かなたさんは、見えこそすれ、触られたり、肩に乗られたり、喧嘩を売られたりはしてないのですね?
かなた:うん。めちゃくちゃ見られるけど。
ナツキ:お守りの中身ですが、私の小指と、私の友愛と、清めたお塩がぱんっぱんに詰まってます。
かなた:こわいよー友達の愛がとてつもなく恐ろしいよー。
ナツキ:布が破れんばかりに詰まってます。
かなた:確かにもらった時はすごい形をして……た…………そういや、お守り、しぼんでいたような?
ナツキ:お守り、今ありますか?
かなた:…………はい。
ナツキ:ふふ、なんだかんだ言いつつ持ち歩いてくれているんですね!
かなた:気が付くとぽっけとかカバンに入ってるの!!呪いの装備品なの!!
ナツキ:開封しますね。
かなた:…………砂鉄?
ナツキ:かなたさんの代わりに呪われた、塩だった粉になります。
かなた:いやこっち向けないで可能であるなら小指もちょっとご遠慮したい。
ナツキ:かなたさん、セミの抜け殻とか触れないタイプでしたっけ?
かなた:むしろナツキ基準でそのおぞましい粉と指は虫と同じ分類でいいの?
ナツキ:まあつまりです。…………ほら、しまいましたから。こっち見て大丈夫ですから。
かなた:なんですかナツキさん。
ナツキ:私のお守りがなければあなたがあの真っ黒な塩のようになっていたかもしれません。一応はお守りだったみたいです。
かなた:…………小指切って送ってきた件は許さないけど、守ってくれてありがとう。小指切ったのは許さないけど。
ナツキ:許されませんか。
かなた:許されません。
ナツキ:ごめんなさい。
:
:
0:かなたの回想
かなた:ナツキさん……ですよね?
ナツキ:あんた誰。
かなた:初めてナツキに関わった時のことだ。初対面にする対応ではない。
かなた:どうやら、ナツキは、私物を他の人たちに捨てられたり、罵詈雑言を浴びせられたりしたらしい。
かなた:今もなお、私を無視して、壁と会話している。
かなた:……あの、ゴミ箱の片づけ、手伝いましょうか?
ナツキ:平気だからあっちいって…………あら?
かなた:私の後ろを見る。つられて振り向くも、誰もいない。
かなた:虫でもいましたか?
ナツキ:まあ虫といえば虫に見えなくも…………あ!!
かなた:今度はなんですか。
ナツキ:ちょっとお向かいのビルの屋上に侵入してくるから!!これよろしく!!
かなた:ナツキは小学生のような駆け足で走り去った。残されるナツキの私物、散らかったゴミ、私。
かなた:これは、うん、アレを放置したら…………いつかとんでもないことになるよね。
かなた:私は次の日から、ナツキの世話係、もとい。ナツキの調教師になった。
:
:
:
0:桜の木の下
ナツキ:今日が一番の桜の見ごろらしいですよ。
かなた:ふぅん。
ナツキ:つまりそれなりには、長袖の冬用喪服が暑く感じる程度には暖かい訳です。
かなた:それは自業自得じゃあ……
ナツキ:なんでこんな服着てると思います?
かなた:ナツキが馬鹿だからじゃ……
ナツキ:答えはそれも含め三つあります。
かなた:多いな。
ナツキ:ヒント、冬用しか持ってない。
かなた:答えその二、冬用しか持ってない。
ナツキ:わーなんでわかったんですかー(棒)
かなた:え、じゃあ……桜が咲くほどあったかいって、家を出てから知ったとか?
ナツキ:答えが四つに増えました。おめでとうございます。
かなた:ナツキ様の頭もおめでとうございます。
ナツキ:これ以上続けると答えが増え続けそうなのでタイムアップです。
かなた:理不尽。
ナツキ:今日はですね、かなたさんのお葬式だったんですよ。
かなた:…………うん?
:
:
0:かなたの回想
ナツキ:私、お墓参りが好きです。
かなた:それは、だいぶ敬語も使えるようになってきたころのこと。
ナツキ:生きてる人は、私が変な子だから、だぁれも私に笑いかけてくれません。
ナツキ:でも、死んだおばあちゃんや人じゃない方々は違います。話しかけると喜んでくれて、ありのままの私を受け入れてくれる。
ナツキ:もちろん人間だって、いい人も悪い人もいるって知ってます。でもそれは人間じゃなくても一緒です。
かなた:それなら、と。
ナツキ:私はみんなと一緒にいたいんです。
かなた:私は無言で、でも強く、ナツキの腕を握った。ナツキは、機会さえあれば簡単に命を捨てる気がして。
ナツキ:かなたさん?
かなた:私はナツキの親友だ。
ナツキ:シン……ユウ………?
かなた:文明が違う星の生き物みたいな反応するな。
ナツキ:あの、心の友と書いてシンユウと読む、アレですか!
かなた:お、おう…………そう書くことも、あるな?
ナツキ:心友ですか!!
かなた:だからナツキ。
ナツキ:はい?
かなた:私を一人にはするなよ。
:
:
0:桜の木の下
ナツキ:めちゃくちゃ怒られて私はお葬式会場から叩き出されました。
かなた:ストップ。
ナツキ:まだ話題のクラウチングスタートすら始まっていませんよ。
かなた:私の葬式で何をしでかした。
ナツキ:私を普段止めているかなたさんがご不在なのをいいことに、心の赴くままに行動しました。
かなた:そこまで己の愚かさを理解していてなぜ毎度毎度…………具体的には?
ナツキ:かなたさんの棺桶を担いで愛の逃避行に出かけようかと。棺桶をかかげました。
かなた:は?
ナツキ:皆様も同じお顔をしていました。ご家族ですね。
かなた:万人がこの反応かと。
ナツキ:逃亡中の私は裏口に向かい、棺桶が裏口につかえて、あえなくお縄に。
かなた:あなたが馬鹿なのは今に始まったことではないけれど。
ナツキ:そこで気が付いたのです。
かなた:何に?
ナツキ:棺桶が、あまりに軽すぎると。棺桶にかなたさんがいない。つまり、棺桶に入れることのできる状態の死にざまではなかったのだと。
かなた:…………。
ナツキ:私があげたお守りのせいだと。巻き込んだのだと。
かなた:………そんな、こと。
ナツキ:謝らなければ気が済まない。いや、謝るなど生ぬるい。そう思った私はかなたさんを探しました。幸い今の私は霊と会話し、妖怪と遊び、神様とギャンブルをする間柄です。見つけられると信じ、走りました。
かなた:しれっととんでもないこと言わなかった?
ナツキ:しかしふと、足が止まったのです。桜でした。満開の、この桜でした。見とれていると風が吹いて、かなたさんの髪が揺れるのが見えました。私は踵(きびす)を返し、近くのスーパーに走りました。
かなた:どうして!!?本日の会話の中で最も理解に苦しむ!ねえ!?苦しい!てか頭が痛い!!
ナツキ:ソース、しょうゆ、チョコレートソース、めんつゆ、そばつゆ、ソイソース、せうゆ、焼き肉のたれ…………
かなた:何をふるまおうとしているの!?しかも全部似たような色の液体だし!!醤油三個あるし!!何故か全部ラベルがはがされてるし!!
ナツキ:私を召し上がってください。
かなた:…………は?
ナツキ:今までかなたさんには多大なるご迷惑をかけつつも、毎日のようにお世話していただきました。
かなた:ナツキはどうしてそこまで理解できてるのに改めるということをしないの…………?
ナツキ:もう、死んでしまったあなたに恩を返せる方法はただひとつ。恨み、無念、成仏の妨げ筆頭である私を食い殺して、来世こそ幸せになってください。
かなた:…………なんで食べなきゃいけないの。
ナツキ:美味しい方がよくないですか?
かなた:…………で、本心は?
ナツキ:私も幽霊になれるし心友も一緒、最強の一石二鳥!
かなた:ばかたれ。
ナツキ:…………現に、かなたさんは成仏していないじゃないですか。
かなた:ナツキは生きてる友達を作らない。
ナツキ:え?
かなた:ちゃんと私のほかに友達ができるまで、気がかりで気がかりで仕方ない。
ナツキ:私は……別に、幽霊とか妖怪とかみんながいれば、別に…………
かなた:決めた。
ナツキ:何をですか?
かなた:ナツキに友達…………というか、第二の保護者ができるまで、成仏しない。
ナツキ:(歓喜)ええ!?
かなた:喜ぶな!!友達ができるよう全力で横でサポートするから。
ナツキ:…………あんまり長いこととどまると、悪霊とかになってしまうのでは。
かなた:そんなに長いこと、友達を作らないと?
ナツキ:なんてこと言うんですか。かなたさんがいるのに他の方に目移りなんてしませんよ!
かなた:これめっちゃ長いやつだ…………あ、この百鬼夜行どうしよう。
ナツキ:ああ、それなら問題ありません。私に考えが。
かなた:さすがナツキ。慣れてるんだね。
ナツキ:みなさーん、本日のかなたさん鑑賞会はここまでになりますー
かなた:…………ざわざわしてるけど帰らないじゃないか。
ナツキ:明日の鑑賞会は十時からになりまーす。
かなた:…………うわあぞろぞろと帰る。っておい、これじゃ明日また来るんじゃ?
ナツキ:私がかなたさんに会った時からあのファンの皆さんいましたけど……?
かなた:知りたくなかった!!
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かなた:もとより、ナツキは顔はそこまで悪くない。
かなた:頭も悪くは……悪いな。理解力・分析力はあるみたいだけど。
かなた:姿勢はだいぶ直ったが………敬語はもう少し。私が鍛えた。
かなた:椅子に縛り付けてガムテープを口に貼っておけば完璧だと思うが、これだと誘拐された人質になってしまう。
かなた:そうなると、彼女の性格を知りつつ奇行を予測し、押さえつけられる人物が友人・恋人にふさわしいだろう。
かなた:目の前で河童と川の神と、きゅうりにはどのソースが合うか論議しているナツキを見やる。
かなた:…………もういっそ、輪廻転生でもして自分がもう一度面倒見た方が早い気がしてきた。
かなた:だがそれまでナツキを野放しにするのは恐ろしい。
かなた:ナツキの周りの幽霊神様魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもは、自分たちと遊んでくれるナツキを甘やかしてばかりで頼りにならない。
かなた:はあ、と大きくため息一つ。
ナツキ:かなたさーん!!チョコソースきゅうり、いかがですかー!
かなた:こんな緑のチョコバナナ、見たことないんだけど!?
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かなた:考え事をしている間に、背後のきゅうりパーティーは恐ろしいことになっていた。
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かなた:目の前を、突き飛ばした園児が転がっていく。
かなた:間に合った。
かなた:園児を撫でる赤黒い幽霊が親指を立てる。
かなた:…………無事なのは分かりやすいが、もっと他になかったのか。
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0:霊園の中央。大きな桜の木の下。桜は満開で、ナツキは口を開く。
ナツキ:私ね、生きてる人間嫌いなんです。
かなた:ほお。
ナツキ:自分に見えないからって。関係ないからって。
かなた:……そんなもんだって。
ナツキ:だから私はいろんな、人じゃない方々に会いに行きました。
かなた:うん?
ナツキ:座敷童。女子トイレの地縛霊。踊るハニワ。お地蔵さまと融合した生贄様。
かなた:なんか変なの混じってなかった?
ナツキ:そんなこんなするうちに。
かなた:またざっくりと端折ったね(はしょったね)。
ナツキ:私は気が付いたのです。私が触っている方には、私と同じ世界が見えることに。
かなた:あーうん、少しだけ現状に近づいてきたかな。
ナツキ:私としては、いついかなるときもかなたさんと手を握っていたい。しかし現実問題、それは不可能。
かなた:ものすごくスマートな流れで私の名前が。
ナツキ:そこで私はありもしない頭脳をひねり出し。
かなた:ひねり出すものだっけ頭脳って。
ナツキ:ぷれぜんと、という古より伝わる愛の証明を思い出しました。
かなた:…………おいまさか。
ナツキ:先日お渡しした、私の体の一部をいれたお守りが、それです。
かなた:やっぱりアレの仕業かああああああ!!
ナツキ:いえ、かなたさんが見えるようになっただけで、以前からかなたさんは大変モテモテでしたよ。ねー、みなさん。
かなた:数えるのも困難な人数の、お化け・妖怪・神様ご一行はご遠慮願いたいんですけど!!
ナツキ:お守りがあれば襲ってきませんって、おそらく。
かなた:そこは確実性欲しかったなあ!?っていうかこのお守りの中なに入ってるの!?髪の毛?爪??
ナツキ:あ。
かなた:ナツキの「あ。」ほど怖い物ないんだけど!?
ナツキ:あ、いえ。なるほどその手があったか、と。
かなた:血、とか?
ナツキ:左手をご覧ください。
かなた:左手・物理ーーー!!
ナツキ:まあもっといえば小指なのですが。
かなた:ねえ!!ねえどうしてあなたは好奇心で小指を捨てられるの!?どこかの組の方なの?何かしでかしちゃった際の再利用!?
ナツキ:(照れ)ごめんなさい……私も、結婚というものには興味がまだ捨てられぬ年でして、薬指はちょっと……
かなた:照れて言うことでも、どの指なら良いということでもないから!こっわ!!怖いのは知ってたけどこっわ!!てか友情の重さじゃない!今時の限界オタクでも指をささげるなんて発想しないよ!?
ナツキ:怖いのは知ってた……ということは、見えるようになった以外に、なにか?
かなた:…………いや、その、贈ってくれた本人を前に言うことじゃないんだけど。もらってから幽霊みえまくるし、日に日にお守りから異臭がするし…………のろいかなにか、かなって。普通、思うじゃん?だから、捨てたくなって。
ナツキ:捨てるとしたら燃えるゴミ、生ごみ指定の水曜日ですね。
かなた:あ、捨てるの良しとしちゃうんだ……自分の小指…………
ナツキ:それで?
かなた:何度捨てても燃やしても帰ってくるんだな、これがまた!!
ナツキ:さすが私の指、しぶといですね。お人形とか食べ物に混入させていたらと考えるとわくわくします。
かなた:人形だったらガチで都市伝説ってか怖い話じゃん……
ナツキ:日ごろのお礼に、特別なものを贈りたかったんです。人生で初めての心友、こころのともですもの!
かなた:壮絶な人生に心中お察ししますが、こころのともになんてもの贈り付けてんの??
ナツキ:さて我が心友改めオカルトホイホイさん。
かなた:勝手な改名も原因の忘却も許せないんだけど。
ナツキ:今日はいいお天気ですね。
かなた:それはね、こんにちはの次に出すセリフだね。冒頭のあの話の代わりにすべきだったね。
ナツキ:雲一つない澄んだ空。髪を揺らす程度のそよ風とクソ花粉。
かなた:あー花粉症だったっけ。
ナツキ:私家に帰ってから症状出るタイプなんですよー。今夜も地獄です。
かなた:ご愁傷様です。
ナツキ:ええ、ご愁傷様です。…………うーん、不謹慎ですかね。
かなた:まあ私の後ろにゃ百鬼夜行だからな。
ナツキ:私がここに来たの、この桜があまりにも綺麗だったからなんですよ。
かなた:これだけの大きさの桜が満開だと、すごいよね。都市部じゃ先月には咲いたんだっけ。ここは標高高いし、朝晩冷えるからなあ。
ナツキ:この桜の下で告白したら、叶いそうな気がしませんか?
かなた:霊園のど真ん中に生えてる点をのぞけば……たしかに。いや、致命的にその点がダメなんじゃ?
ナツキ:じゃあせめて、この桜の美しさに免じて、懺悔でもできそうじゃないですか?
かなた:…………だから、お守りの話を?
ナツキ:ええ、実は。
かなた:ほんと、馬鹿だなあ。
ナツキ:懺悔と言いつつ、確認というか、言い訳です。
かなた:はいはいこの際全部しゃべっちゃいなよ。
ナツキ:いいのですか。
かなた:ダメって言って止まったことありましたか暴走機関車さん。
ナツキ:一時停止してました。
かなた:それたぶん何かしらの被害出した後ですわ。
ナツキ:それは置いておいて。
かなた:置かれてしまった…………
ナツキ:かなたさんは、見えこそすれ、触られたり、肩に乗られたり、喧嘩を売られたりはしてないのですね?
かなた:うん。めちゃくちゃ見られるけど。
ナツキ:お守りの中身ですが、私の小指と、私の友愛と、清めたお塩がぱんっぱんに詰まってます。
かなた:こわいよー友達の愛がとてつもなく恐ろしいよー。
ナツキ:布が破れんばかりに詰まってます。
かなた:確かにもらった時はすごい形をして……た…………そういや、お守り、しぼんでいたような?
ナツキ:お守り、今ありますか?
かなた:…………はい。
ナツキ:ふふ、なんだかんだ言いつつ持ち歩いてくれているんですね!
かなた:気が付くとぽっけとかカバンに入ってるの!!呪いの装備品なの!!
ナツキ:開封しますね。
かなた:…………砂鉄?
ナツキ:かなたさんの代わりに呪われた、塩だった粉になります。
かなた:いやこっち向けないで可能であるなら小指もちょっとご遠慮したい。
ナツキ:かなたさん、セミの抜け殻とか触れないタイプでしたっけ?
かなた:むしろナツキ基準でそのおぞましい粉と指は虫と同じ分類でいいの?
ナツキ:まあつまりです。…………ほら、しまいましたから。こっち見て大丈夫ですから。
かなた:なんですかナツキさん。
ナツキ:私のお守りがなければあなたがあの真っ黒な塩のようになっていたかもしれません。一応はお守りだったみたいです。
かなた:…………小指切って送ってきた件は許さないけど、守ってくれてありがとう。小指切ったのは許さないけど。
ナツキ:許されませんか。
かなた:許されません。
ナツキ:ごめんなさい。
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0:かなたの回想
かなた:ナツキさん……ですよね?
ナツキ:あんた誰。
かなた:初めてナツキに関わった時のことだ。初対面にする対応ではない。
かなた:どうやら、ナツキは、私物を他の人たちに捨てられたり、罵詈雑言を浴びせられたりしたらしい。
かなた:今もなお、私を無視して、壁と会話している。
かなた:……あの、ゴミ箱の片づけ、手伝いましょうか?
ナツキ:平気だからあっちいって…………あら?
かなた:私の後ろを見る。つられて振り向くも、誰もいない。
かなた:虫でもいましたか?
ナツキ:まあ虫といえば虫に見えなくも…………あ!!
かなた:今度はなんですか。
ナツキ:ちょっとお向かいのビルの屋上に侵入してくるから!!これよろしく!!
かなた:ナツキは小学生のような駆け足で走り去った。残されるナツキの私物、散らかったゴミ、私。
かなた:これは、うん、アレを放置したら…………いつかとんでもないことになるよね。
かなた:私は次の日から、ナツキの世話係、もとい。ナツキの調教師になった。
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0:桜の木の下
ナツキ:今日が一番の桜の見ごろらしいですよ。
かなた:ふぅん。
ナツキ:つまりそれなりには、長袖の冬用喪服が暑く感じる程度には暖かい訳です。
かなた:それは自業自得じゃあ……
ナツキ:なんでこんな服着てると思います?
かなた:ナツキが馬鹿だからじゃ……
ナツキ:答えはそれも含め三つあります。
かなた:多いな。
ナツキ:ヒント、冬用しか持ってない。
かなた:答えその二、冬用しか持ってない。
ナツキ:わーなんでわかったんですかー(棒)
かなた:え、じゃあ……桜が咲くほどあったかいって、家を出てから知ったとか?
ナツキ:答えが四つに増えました。おめでとうございます。
かなた:ナツキ様の頭もおめでとうございます。
ナツキ:これ以上続けると答えが増え続けそうなのでタイムアップです。
かなた:理不尽。
ナツキ:今日はですね、かなたさんのお葬式だったんですよ。
かなた:…………うん?
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0:かなたの回想
ナツキ:私、お墓参りが好きです。
かなた:それは、だいぶ敬語も使えるようになってきたころのこと。
ナツキ:生きてる人は、私が変な子だから、だぁれも私に笑いかけてくれません。
ナツキ:でも、死んだおばあちゃんや人じゃない方々は違います。話しかけると喜んでくれて、ありのままの私を受け入れてくれる。
ナツキ:もちろん人間だって、いい人も悪い人もいるって知ってます。でもそれは人間じゃなくても一緒です。
かなた:それなら、と。
ナツキ:私はみんなと一緒にいたいんです。
かなた:私は無言で、でも強く、ナツキの腕を握った。ナツキは、機会さえあれば簡単に命を捨てる気がして。
ナツキ:かなたさん?
かなた:私はナツキの親友だ。
ナツキ:シン……ユウ………?
かなた:文明が違う星の生き物みたいな反応するな。
ナツキ:あの、心の友と書いてシンユウと読む、アレですか!
かなた:お、おう…………そう書くことも、あるな?
ナツキ:心友ですか!!
かなた:だからナツキ。
ナツキ:はい?
かなた:私を一人にはするなよ。
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0:桜の木の下
ナツキ:めちゃくちゃ怒られて私はお葬式会場から叩き出されました。
かなた:ストップ。
ナツキ:まだ話題のクラウチングスタートすら始まっていませんよ。
かなた:私の葬式で何をしでかした。
ナツキ:私を普段止めているかなたさんがご不在なのをいいことに、心の赴くままに行動しました。
かなた:そこまで己の愚かさを理解していてなぜ毎度毎度…………具体的には?
ナツキ:かなたさんの棺桶を担いで愛の逃避行に出かけようかと。棺桶をかかげました。
かなた:は?
ナツキ:皆様も同じお顔をしていました。ご家族ですね。
かなた:万人がこの反応かと。
ナツキ:逃亡中の私は裏口に向かい、棺桶が裏口につかえて、あえなくお縄に。
かなた:あなたが馬鹿なのは今に始まったことではないけれど。
ナツキ:そこで気が付いたのです。
かなた:何に?
ナツキ:棺桶が、あまりに軽すぎると。棺桶にかなたさんがいない。つまり、棺桶に入れることのできる状態の死にざまではなかったのだと。
かなた:…………。
ナツキ:私があげたお守りのせいだと。巻き込んだのだと。
かなた:………そんな、こと。
ナツキ:謝らなければ気が済まない。いや、謝るなど生ぬるい。そう思った私はかなたさんを探しました。幸い今の私は霊と会話し、妖怪と遊び、神様とギャンブルをする間柄です。見つけられると信じ、走りました。
かなた:しれっととんでもないこと言わなかった?
ナツキ:しかしふと、足が止まったのです。桜でした。満開の、この桜でした。見とれていると風が吹いて、かなたさんの髪が揺れるのが見えました。私は踵(きびす)を返し、近くのスーパーに走りました。
かなた:どうして!!?本日の会話の中で最も理解に苦しむ!ねえ!?苦しい!てか頭が痛い!!
ナツキ:ソース、しょうゆ、チョコレートソース、めんつゆ、そばつゆ、ソイソース、せうゆ、焼き肉のたれ…………
かなた:何をふるまおうとしているの!?しかも全部似たような色の液体だし!!醤油三個あるし!!何故か全部ラベルがはがされてるし!!
ナツキ:私を召し上がってください。
かなた:…………は?
ナツキ:今までかなたさんには多大なるご迷惑をかけつつも、毎日のようにお世話していただきました。
かなた:ナツキはどうしてそこまで理解できてるのに改めるということをしないの…………?
ナツキ:もう、死んでしまったあなたに恩を返せる方法はただひとつ。恨み、無念、成仏の妨げ筆頭である私を食い殺して、来世こそ幸せになってください。
かなた:…………なんで食べなきゃいけないの。
ナツキ:美味しい方がよくないですか?
かなた:…………で、本心は?
ナツキ:私も幽霊になれるし心友も一緒、最強の一石二鳥!
かなた:ばかたれ。
ナツキ:…………現に、かなたさんは成仏していないじゃないですか。
かなた:ナツキは生きてる友達を作らない。
ナツキ:え?
かなた:ちゃんと私のほかに友達ができるまで、気がかりで気がかりで仕方ない。
ナツキ:私は……別に、幽霊とか妖怪とかみんながいれば、別に…………
かなた:決めた。
ナツキ:何をですか?
かなた:ナツキに友達…………というか、第二の保護者ができるまで、成仏しない。
ナツキ:(歓喜)ええ!?
かなた:喜ぶな!!友達ができるよう全力で横でサポートするから。
ナツキ:…………あんまり長いこととどまると、悪霊とかになってしまうのでは。
かなた:そんなに長いこと、友達を作らないと?
ナツキ:なんてこと言うんですか。かなたさんがいるのに他の方に目移りなんてしませんよ!
かなた:これめっちゃ長いやつだ…………あ、この百鬼夜行どうしよう。
ナツキ:ああ、それなら問題ありません。私に考えが。
かなた:さすがナツキ。慣れてるんだね。
ナツキ:みなさーん、本日のかなたさん鑑賞会はここまでになりますー
かなた:…………ざわざわしてるけど帰らないじゃないか。
ナツキ:明日の鑑賞会は十時からになりまーす。
かなた:…………うわあぞろぞろと帰る。っておい、これじゃ明日また来るんじゃ?
ナツキ:私がかなたさんに会った時からあのファンの皆さんいましたけど……?
かなた:知りたくなかった!!
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かなた:もとより、ナツキは顔はそこまで悪くない。
かなた:頭も悪くは……悪いな。理解力・分析力はあるみたいだけど。
かなた:姿勢はだいぶ直ったが………敬語はもう少し。私が鍛えた。
かなた:椅子に縛り付けてガムテープを口に貼っておけば完璧だと思うが、これだと誘拐された人質になってしまう。
かなた:そうなると、彼女の性格を知りつつ奇行を予測し、押さえつけられる人物が友人・恋人にふさわしいだろう。
かなた:目の前で河童と川の神と、きゅうりにはどのソースが合うか論議しているナツキを見やる。
かなた:…………もういっそ、輪廻転生でもして自分がもう一度面倒見た方が早い気がしてきた。
かなた:だがそれまでナツキを野放しにするのは恐ろしい。
かなた:ナツキの周りの幽霊神様魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもは、自分たちと遊んでくれるナツキを甘やかしてばかりで頼りにならない。
かなた:はあ、と大きくため息一つ。
ナツキ:かなたさーん!!チョコソースきゅうり、いかがですかー!
かなた:こんな緑のチョコバナナ、見たことないんだけど!?
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かなた:考え事をしている間に、背後のきゅうりパーティーは恐ろしいことになっていた。
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