台本概要

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タイトル 三毒三巴
作者名 吉谷しな  (@shinayoshitani)
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男2、女3) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 横浜で情報屋を営む鷹司の元に現れた一人の少女。セーラー服を纏い、高慢な態度でキンキンとがなりたてる彼女の通学鞄の中には縄とゴム手袋、その他諸々。そう、彼女は裏社会で有名な殺し屋JKー!?蛇vs豚vs鶏、三つ巴の戦い、三毒三巴。いさ、上演。
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給仕・鷹司が警官役を兼ねる必要があります
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noteかホームページ是非登録してネ

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
96 (伊藤)クールで大人な殺し屋。地味ともいう。
鷹司 64 胡散臭い話し方。伊藤とは旧い仲。
34 今をときめく殺し屋JK、否、大量殺人鬼?! 少年法?何それ美味しいの?
64 コケコッコー この世は金が全て。金がなきゃ何もできないし、金さえあればなんでもできる。がめつい?失礼ね。費用便益分析ってやつよ。
給仕 20 ひようべんえきぶんせきってなんですか? 今日も元気に〜!へっぽこ〜!ふわふわ〜!メイド〜!
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:ホテルのスイートルーム、男性の死体がひとつ、そして一人の男が立っている。 0:照明暗いまま 豚:あぁ、頭が重い。 豚:足先に迫った血を避けた。 豚:虚な瞳がこちらを、いや、後ろの壁、そのさらに奥を見つめている。 豚:「見つめている」 0:明転 豚:いや、彼女ならこんな言い方はしないだろう。 豚:ただ瞳孔がこちら側に向いているだけ、かもしれない。 0:ベッドに腰掛ける 豚:「罪人は死ぬべきだ」 豚:「恨まれるに値する人間は、死ぬべきだ」 豚:どうして、殺されなければならなかった? 豚:不細工なツラをしたやつだった。 豚:下らない動機だった。 豚:あの豚みたいな顔が尚更憎たらしかった。 豚:人と呼ぶことすら烏滸がましいような… 0:風が窓を揺らす 豚:「ホテルの一室には鼻を削がれた肢体がゴロリと転がっている。喰い荒らされたソレは微動だにせずじっと聳え立つ。 豚:『ヒュルリ。』 豚:不気味な風音が耳を掠めた。」 0:場転 0:オフィスの一室。机を挟んで鷹司と蛇。 蛇:だーかーらー!そんなことはどーでもいーの! 蛇:豚の正体を教えろっつってんの!情報屋でしょ? 鷹司:駄目だ 蛇:どーして!! 鷹司:さっきも言ったけれど!彼は僕の顧客でもあるんだ。親を殺されて憎いのは分かるけど、殺してもらっちゃあ困るんだよ。 蛇:あんたの客なのは知ってんのよ、鷹司。だから聞いてんの! 鷹司:彼は情報の仕入先でもあるんだ。しかも彼は殺し屋だよ。君と同じね 蛇:だったら何 鷹司:もし君が失敗して、情報を渡したのが僕だなんてバレたら 蛇:私が失敗するとでも思ってんの? 鷹司:…君の腕の良さは知ってるよ。もうあちこちで『蛇の仕業だ』『蛇にやられた』って聞くし 蛇:ならいいじゃない!あたし、失敗しないから 鷹司:あのね。君が失敗しなくても、豚が上手くやるかもしれないだろ、嫌だよ。情報屋はリスクを負わない。 蛇:あんた詐欺師でしょ?リスク負いまくりじゃない頑張りなさいよ 鷹司:詐欺師だけどギャンブラーじゃない。リスクは微塵も負いたくない。 蛇:ふん、警察に追われるようなことしてる奴がよく言うわ。 鷹司:追われてないよ。 蛇:はぁ? 鷹司:だって僕、警察にも情報プレゼントしてるから。 蛇:……私の情報流したりしてないでしょうね? 鷹司:はははははは!まさかぁ〜 0:鷹司の首根っこを掴む蛇 蛇:そのキショい喋り方やめなさいよ 鷹司:ぐっ…暴力はよくないと思うなぁ、苦しい。首、離してくれないかな 蛇:私が人殺す人間だってこと忘れてない? 鷹司:僕を殺したら、いよいよ蛇さんは警察に捕まってお終いだ。 蛇:あんたやっぱり… 給仕:キャーーーーーーーーーー!!! 蛇:っ?! 鷹司:痛っ…急に離すの止めてくれな… 給仕:鷹司さん! 鷹司:なんだい 給仕:一体何したんですか! 鷹司:へ? 給仕:こ、高校生?中学生?に首絞められるなんてやばいじゃないですか! 蛇:は? 給仕:よっぽどなにか怒らせるようなことしたんでしょう?未成年はダメだってあれほど…ごめんなさい、鷹司さん悪い人じゃないの… 蛇:………… 蛇:(猫なで声)ごめんなさい。私もムキになっちゃって。 蛇:鷹司さんも、ごめんなさい… 鷹司:(鼻で笑う) 給仕:なにか失礼なことされてません?大丈夫? 蛇:えぇ、大丈夫です、お気遣いなく。 給仕:ならよかったぁ。 給仕:(小声)鷹司さん、この子は? 鷹司:客だ 給仕:あらお客さま?!こんな小さなお客さまは珍しいですね 鷹司:はは…そうだね。お茶をお願いしていいかな。 給仕:はいはーい!ただいま〜 0:給仕退室 蛇:……あの女、私の事小さいって言った? 鷹司:言ってない言ってない 蛇:言ったよね? 鷹司:…ま、格好からして仕方がないんじゃないか、制服だし小さくも見えるだろ。若く見えるってことだ、喜びなよ。 蛇:実際若いから喜ぶもクソも無いんだけど。 蛇:しかもオッサン、未成年はダメってあんた何してんの? 鷹司:いやまぁ、僕ってハンサムなほうだし。そりゃホットな話題の一つや二つ… 蛇:きしょ 鷹司:最近の子って上下関係とか習わないのー?僕、年上なんだけど 蛇:歳とってんのにきしょいことしてたら尚更きしょいだけでしょ 鷹司:(無視して席を立ちソファーに移動する鷹司) 蛇:それで、豚の情報は何がなんでも渡さないわけね。 0:タバコに火をつける鷹司 鷹司:そうだね、どうしても渡せない。親の仇なのは分かるけれど、ダメだ。すまないね。 蛇:すまない…ね、頭と口が別のところにあんのね。 鷹司:ごめんごめん。代わりにサツに流す君の情報、少なくしとくから、さ。 蛇:絞め殺すわよ 鷹司:殺し屋が言うと洒落にならないね 蛇:ふん、お代は無しね 鷹司:ここ時間制なんだけど? 蛇:情報よこさなかったくせに何生意気いってんの? 鷹司:はぁ、君と揉めるのは嫌だな。今回だけタダでいいよ。学生割引ってことで… 蛇:当たり前よ。 0:しばらく睨み合う二人 蛇:じゃね。 0:蛇、下手はけ。同時に給仕下手入り。 給仕:…あれ?お、お茶は…もうお帰りですか? 鷹司:あぁ、見送ってやってくれ 給仕:かしこまりました! 0:給仕、下手はけ。 0:扉閉まる音 鷹司:これだから業界ルールがわかってないクソガキは… 鷹司:…はぁ。 鷹司:…何にイラついてる? 0:机に反射する自分の顔に目をやる鷹司 鷹司:オッサン…かなぁ。 0:長めの間 0:給仕、下手入り。 給仕:ただいまもどりましたぁ〜 鷹司:どうだった?彼女 給仕:どうって…可愛らしいお嬢さんですね。あの子はどうしてここへ? 鷹司:なんか悪態つかれたりしてないかい? 給仕:悪態…?いいえ、ちっとも。 鷹司:(小声)…すごい徹底ぶりだな 給仕:てってい…? 鷹司:いや何も。猫かぶるのも大変そうだなって思って。 給仕:??へぇ〜 鷹司:でも、ま、あんな聞き方なら豚…伊藤も勘づいてるだろうな。 給仕:ぶ、豚?伊藤さん?晩ご飯のお話ですか? 鷹司:はは。なんでもないよ。…夕飯は〜(陽気に)しゃぶしゃぶにしようか〜! 給仕:おお〜いいですねぇ!じゃぁ私買い物してきますね〜! 鷹司:いってらっしゃ〜い! 鷹司:……さて、どうなることやら。 0:長めの間 0:場転 鶏:どうしても殺されてくれないの? 豚:はは、申し訳ない。美人のお願いはききたいところですけれど。 鶏:アナタそんな反吐が出るようなセリフ言えたのね 豚:まぁ。気分はどうです?褒められてなかなか好いのでは 鶏:最悪ね。依頼失敗だなんて、涙が出ちゃいそう。女の涙なんて見たくないでしょう? 鶏:死んでちょうだいっ(ナイフで切りかかる) 豚:断る(避ける) 鶏:(再度切りかかるが豚に手首を掴まれる)ぐっ…あなたどうせ生き延びてもすぐ噛み殺されちゃうでしょうし、蛇ちゃんに 豚:蛇ちゃん? 鶏:知らないのォ?蛇ちゃんよ。最近ちょっとした有名人なの 豚:存じ上げませんね。何者で? 鶏:これから死ぬのに知る必要あるかしら? 豚:はは、意地が悪い。 0:鶏の手首を捻ってナイフを落とす豚 豚:知って死ぬか、知らずに死ぬか、前者の方が遥かにいいでしょう? 鶏:そうかしら、どうせ死ぬなら同じでしょ。 豚:そうか? 鶏:えぇ。これから殺す相手に、微塵の興味も情もない。 豚:へぇ、の割に口数が多… 0:肘で豚の腹をつく鶏 豚:がっ… 0:手で動きを制す伊藤 豚:…貴女はなんのために殺しを? 鶏:ふん、答える必要ある? 豚:…はは、人生最後の会話になるかもしれませんから。 鶏:大金が手に入るからよ。私、毎日会社に行ってブッサイクな上司から叱られるのとか嫌いなの。 豚:逆にそれが好きな人っていますかね 0:片眉をつりげる鶏。間を保つ二人。 鶏:あなた本当によく喋るわね。殺し屋なのに、もう少し寡黙になれないの? 豚:はは、これでも焦ってるんですよ。予想外の手練れで… 鶏:そう? 鶏:たまたま殺しの才能があった。努力せずとも大金が手に入る仕事が目の前に転がってきたら…やるでしょ?人殺すだけで何の苦もない生活ができんのよ? 鶏:あなたもそんなものでしょう、どうせ 豚:そんな浅い理由で人を殺せてたまるかよ 鶏:怖い顔。あなたそんな正義感だとか罪悪感だとかある人間だったの? 豚:私は不誠実な人間が本当に嫌いなんですよ。 鶏:不誠実、ね。確かあなたのターゲットって犯罪者…だったかしら?小耳にはさんだわ、警察の手に負えない犯罪者を始末してくれるから人を殺しても罪にならないだのなんだの… 豚:へぇ、知らないところでそんな聖人になっていたんですか。 鶏:あら違うの? 豚:私はただ、依頼を選んでいるだけです。あまりにも理不尽、或いは勝手な依頼を受けてないだけだ。 豚:『この世に必要ない』と思った人間を殺している。 鶏:ふっ、あなたは神様か何かなのかしら?あなたの裁定一つで生死がきまるなんて…殺しの依頼なんて大抵が理不尽なものじゃない?逆恨みとか… 豚:はは、おっしゃる通り。それでも私は選ばざるを得ない。 豚:金のために殺しを生業にしてるんでしたっけ? 鶏:ええそうね 豚:じゃあ私を殺すよう依頼した人よりも金を払ったら、退いてくれます? 鶏:そんなのでいちいちやめてたら殺しなんて仕事にできないわ、知ってるでしょ 豚:えぇ、貴女が依頼放棄なんてしても結局別の人が殺しにくる。そして失敗した貴女も殺される 鶏:なんだ、知ってるじゃない。 豚:でも貴女は大事なことを忘れてる。 豚:俺が凄腕の殺し屋だってことを。 0:足先を動かす伊藤、トラップが発動し針が飛ぶ 鶏:! 豚:(舌打ち) 鶏:麻酔針?舐められたものね。それで”凄腕の殺し屋”? 豚:俺が依頼主より金を払って、依頼主を殺せば、解決しないか?君も疲れただろ 鶏:『聖人』のあなたにできるかしら。そしてさっき言ったでしょ、この場を切り抜けても蛇ちゃんが殺しにくるって 豚:金はどうとでもなるし依頼主も必ず殺す。お前は今、私を殺すメリットが皆無に等しい。 鶏:ええそうね 豚:じゃあなぜ誘いを受けない? 鶏:悔しいからよ 豚:素直に負けを認めろよ。 鶏:……… 豚:……… 鶏:ええそうね…… 鶏:私の負け…だわっ(側にあった食器を投げる) 豚:っっ!! 0:反応し、避ける伊藤 鶏:……はぁ。 鶏:ダメね。やっぱり無理。強すぎるわあなた。慣れてる。 豚:はは、…照れ”ますね” 鶏:…はっ 鶏:で、何、話してあげるわよ。金くれんならね。 豚:誘いをさんざん引き延ばしておいてその口ぶり…貴女を殺さないという確信はどこから来ているんですかね。 鶏:何、やる気? 豚:… 鶏:今までので全部わかるわよ。殺す気ゼロだもの。大方あれでしょ、女子供は殺せないとかそういうの。 豚:悲しいかな、正解だ。 鶏:時々いんのよね~…なんなのそれ?なんかトラウマあり? 豚:… 鶏:図星? 豚:いえ……単純に死体処理がめんどくさい。女ものの服は捨てるのに骨が折れ…ま、ほかにもいろいろ事情が。 鶏:ふぅん。うちのとこだと死体処理専属の人間がいるけど、一人だとそうもいかないのねぇ、不便。 0:顔色を伺う鶏 鶏:ま、それだけが理由とも思えないけれど…一番の理由は別でしょ、ちがう? 豚:さぁ?さて、話を戻しましょうか。金は払う、依頼主も殺す。手早い解決で助かります。依頼主はどなたで? 鶏:(目をじっと見て)良かったわね、依頼主が女じゃなくて。高橋。 豚:高橋…あぁ、この前依頼してきた、あの高橋か。情報はどこにも漏らさないって言ったのに、信用できなくなってしまったか… 豚:約束を守れない人間は殺すにふさわしい。 鶏:駒を信用出来ない人間て、本人が信用の足りない胡散臭いやつなことが大抵よねぇ…ホント、迷惑しちゃう。 鶏:この職業をやってて良かったと思えるところ、今気づいたわ。人を見る目が養える。 豚:ははは、でも貴女も救われたのでは?そんな依頼主ならいずれ… 鶏:別に、よくあることだし対処できるわ。それに殺し屋は殺し屋を殺さない。ネットワークがあるから 豚:…では、私はネットワークがないからこんな面倒なことに…金銭のいざこざを嫌ったのが仇になったとは、我ながら惨めだ。 鶏:蛇ちゃんについては聞かないのね 豚:随分と親切で。 鶏:えぇ、金…と言いたいところだけれど、依頼人殺す前にあなたが殺されたら困るし。 鶏:蛇、本名は新戸うさ(しんどうさ)。16歳の女の子。 豚:うさ?可愛らしい名前だ。それなのに通り名は兎じゃないときた。 鶏:絞め跡が蛇みたいだからというのと…あなた三毒って知ってる? 豚:貪・瞋・癡(とん・じん・ち)でしょう? 鶏:へぇ。インテリなのは見た目だけじゃないのね。その瞋が彼女なのよ。 鶏:彼女は怒り狂ってる、憎しみまくってる。彼女はお金とか依頼とかそういうのはどうでもいい。ただ憎い相手を殺してる 豚:ふぅん。殺し屋というより大量殺人犯か。 鶏:そうね。そして貪瞋癡(とんじんち)の瞋を司る生き物が蛇なの。だから蛇。殺し屋の通り名にしては由来が随分と洒落てる。 鶏:加えて、彼女が一番恨んでるのはあなたよ、豚。 豚:その『豚』っていうの、やめませんか。 鶏:しょうがないでしょ。あなたが殺した死体の鼻、全部削がれてて豚みたいな鼻になってるんだもの。 鶏:それ以外に特に噂も殺しの共通点もないんだから 豚:いや本当に気分が悪い。 豚:伊藤です。私は。 鶏:あっさり教えるのね? 豚:盟友になりたくて(適当に返す) 鶏:犯罪者が盟友…?笑える 豚:(ただ情報を引き出すことしか考えていないように) 豚:で、私は何故そんなに蛇ちゃんに嫌われているんですかね。 鶏:蛇ちゃんの親をあなたが殺したからってきいてるけど? 豚:親…新戸(しんど)…新戸…… 0:手帳をめくる 豚:あぁ! 鶏:あなたまさか、今までの依頼全部書き留めてるの? 豚:今の世の中情報戦。金を払わずとも手元の携帯で何もかも得られるがために勘違いする人が多いが、情報は形が決まってないからこそ客観と主観の棲み分けが大事です。 豚:経験は自身の言葉で綴っておかなければ。現代で勝つか負けるかの分かれ道と言っても過言ではない。 鶏:めんどくさーぃ…。で、思い出した? 豚:えぇ。新戸。地元の少年達とドラッグの売買をしていた、けれど裏切って少年達は院に、収益は独り占め。出所した少年達からの依頼でしたね。みんなで依頼金を出し合って…いや、涙ぐましい。 豚:少年達がでてくるころにはもう新戸も足を洗っていましたが…焼印は消えませんからね、改心していたところ申し訳ないが、処分しました。 鶏:…でも彼女からしたら、あなたはたった一人の父親を殺した殺人鬼でしかないのよ? 豚:だからなんだ?おま…貴女は人を殺す時、逐一相手の生き様を考えて仕事をこなすんですか? 鶏:いいえ? 豚:でしょう?家族の話になった途端、人は急に甘くなる…結局人は人なのに 鶏:女子供は殺せないとかいうあなたが言うことかしら? 豚:…考えてみたらおかしな話だ。ちょっと知り合いに電話させてください 鶏:私にも聞こえるようになら、どうぞ 豚:もしもし? 鷹司:…伊藤。なにかな、今夕食中なんだけど 豚:少し聞きたいことが。蛇って知ってるか? 鷹司:、いや知らない 豚:嘘だな絶対に知っている。「へび」を知らないって、そんなわけないだろ 鷹司:おっと、しくじったな 豚:知らないふりをするってことは”蛇ちゃん”も鷹司の客か… 鷹司:…はぁ、……そうだよ。君についての情報を求めてきた 豚:やっぱり?珍しいな。鷹司がそんなにあっさり客の情報を… 鷹司:いや、なかなか腹立つガキでさぁ 鶏:ぷっ 鷹司:ん?今そばに誰かいる? 豚:あぁ、えー、…名前は? 鶏:あんま言いたくないのよねー。ニワトリ 豚:ニワトリ? 鷹司:鶏って、あの? 鶏:さすが情報屋。知ってるのね。 豚:やはり名の知れたやつか。 鷹司:なんであの鶏と一緒にいるんだい? 豚:少し、殺されそうになった 鷹司:へぇ、君も大変だね 豚:おまけに”蛇ちゃん”にも殺されそうと来た。そこで頼みがある 鷹司:聞くだけ聞こう 豚:蛇ちゃんに嘘の情報を流してくれないか 鷹司:嘘の情報? 豚:あぁ、詐欺師だろ?なにかでっち上げて、彼女の恨みの矛先をずらしてくれ 鷹司:詐欺師だけど、作家じゃないんだ。でっち上げなんて無理だよ、できない 豚:じゃあ俺の情報を流してくれ 鷹司:君の? 豚:あぁ、明日、午後三時に横浜のベイシェラトンにいるって伝えてほしい 鷹司:それなら……わかった。 豚:頼んだ。じゃあ、また 鶏:あなた、高校生の女の子の呼び出し先がシェラトン? 豚:いえ、私は行きません。 鶏:え? 豚:言ったでしょう。女子供は殺せない。しかも”蛇ちゃん”は女で子供、最悪です。 鶏:じゃあどうするのよ。 豚:貴女に依頼です。 豚:蛇の処分を。 鶏:………私にガキを殺せって? 豚:できませんか。 鶏:いくら 豚:五百 鶏:…いいわよ。やってあげる。盟友だからね。 豚:まさかワンコインでやってもらえるとは。ありがたい誤算だ。代金、今手渡していいですかね。 鶏:…クソみたいなジョークね 豚:にしても、あっさりで助かります。蛇は腕が立つのでは? 鶏:ふん、突然若い女が業界に入ってきてチヤホヤされてるだけでしょう。 鶏:どの世界でもそう、大抵初めは『若い』『女』のキーワードで売り出してしばらくしたら廃れんのよ 豚:なんだか知ったような口ぶりで、もしかして昔のあな… 鶏:それ以上口開いたら破棄するわよ 豚:いやいや、ただの妄想です。 豚:では、明日の三時、横浜へ。頼みました。盟友の鶏さん。 0:場転 給仕:お久しぶりですね伊藤さん 豚:お久しぶりです 給仕:緑茶でいいですか? 豚:ええ。 鷹司:それで?結局伊藤は約束の場所には行かないわけか 鷹司:…ふざけるなよ…僕に嘘の情報流させやがって 豚:鷹司は悪くないだろ?嘘をついた僕が悪い。 鷹司:相手がそんな事情いちいち知るわけないだろ、俺が嘘をついたのと同じだよ 豚:どうせ死ぬんだ。嘘つかれようがつかれまいが関係ない。 鷹司:えっ、死ぬ? 豚:あぁ、がめついニワトリさんに蛇の駆除をお願いしたんだ 鷹司:駆除ねぇ…蛇と鶏ならぁ、蛇が勝ちそうだけれど 豚:動物ならな 鷹司:どうだか… 0:電話の音 鷹司:電話、蛇からだよ。駆除失敗かな。 豚:ストップ。 鷹司:ん? 豚:いいんだよそれで。放置。 鷹司:これででなかったらいよいよ僕の命が危ないんだけど 豚:出ないでくれ。命は俺が保証する。 0:電話の音止む 鷹司:またなにか策でもあるのかな 豚:策なんて大したものじゃない 0:電話番号を自分の携帯に打ち込む伊藤 0:携帯電話の音 豚:もしもし… 0:場転 蛇:っざけんな、ふざけんなふざけんなふざけんな鷹司!!! 蛇:嘘じゃねぇか!!誰よこの女……ふざけんじゃないわよ…また……また余計なの殺しちゃったじゃない…早く豚が死んでくれないと、アタシは、…『コレ』をやめられない……くそっ 0:鷹司に何度も電話をかける蛇 蛇:なんで出ないのよ…鷹司……許さない…許さない………豚にばっかり贔屓して…『客は平等』だなんてどの口が… 警官1:(鷹司兼役)動くな! 蛇:っ?! 警官2:(給仕兼役)警察です。新戸うささんですね? 蛇:な、なにこれ… 警官2:拘束して 蛇:うっ……!はなせ!!なんで、なんで…なんで私が捕まるのよ?! 蛇:ちょっと…きいてる?普段ちんたらして殺人犯一匹もろくに捕まえられない奴らが! 蛇:どうして私なのよ…豚を捕まえなさいよ!!豚を!!彼を捕まえられず、死刑にもできなかったヤツらが、なんで私を捕まえようとするのよ!仇をうとうとしただけじゃない…なんでこっちの問題に介入してくんのよ!!! 0:長めの間 0:場転 鷹司:ずるいね伊藤は。 豚:どうして?飴と鞭は使いよう…だろ。警察の動かし方くらい…鷹司、君にできることは俺にもできる。 豚:警察なんて正義の集団じゃないんだ。ただの職業団体に過ぎない。 豚:みな人間だし、みな一様に恨みとか、怒りとか、憎しみとか、嫉妬とかを抱き、簡単に殺意を抱く。今生き残ってる殺し屋は大体、警察との付き合い方を心得ている。 鷹司:はっ。知ったような口を。意外だな、知ったかぶりは嫌いじゃなかったか 豚:はは、失敬。親しき中でもなんとやらだね。 鷹司:そうだそうだ、礼儀が欠けてる。引き際はわきまえてるけど。君は。 豚:ただ、蛇ちゃんは残念だったね。子供だからまだ社会のことなんて分からなかったみたいだ。いいお勉強になったんじゃないか。 豚:憎しみや怒りは斬り捨てて理性的に生きないと、相手を間違えると酷い目にあうってことを。 豚:哀しくても、辛くても、憎くても、飲み込まないと進めない。 豚:怒りを原動力に生きるのは不幸だからね。僕には無理でも、君ならできるだろ。 豚:せっかく、若いんだし。 0:終

0:ホテルのスイートルーム、男性の死体がひとつ、そして一人の男が立っている。 0:照明暗いまま 豚:あぁ、頭が重い。 豚:足先に迫った血を避けた。 豚:虚な瞳がこちらを、いや、後ろの壁、そのさらに奥を見つめている。 豚:「見つめている」 0:明転 豚:いや、彼女ならこんな言い方はしないだろう。 豚:ただ瞳孔がこちら側に向いているだけ、かもしれない。 0:ベッドに腰掛ける 豚:「罪人は死ぬべきだ」 豚:「恨まれるに値する人間は、死ぬべきだ」 豚:どうして、殺されなければならなかった? 豚:不細工なツラをしたやつだった。 豚:下らない動機だった。 豚:あの豚みたいな顔が尚更憎たらしかった。 豚:人と呼ぶことすら烏滸がましいような… 0:風が窓を揺らす 豚:「ホテルの一室には鼻を削がれた肢体がゴロリと転がっている。喰い荒らされたソレは微動だにせずじっと聳え立つ。 豚:『ヒュルリ。』 豚:不気味な風音が耳を掠めた。」 0:場転 0:オフィスの一室。机を挟んで鷹司と蛇。 蛇:だーかーらー!そんなことはどーでもいーの! 蛇:豚の正体を教えろっつってんの!情報屋でしょ? 鷹司:駄目だ 蛇:どーして!! 鷹司:さっきも言ったけれど!彼は僕の顧客でもあるんだ。親を殺されて憎いのは分かるけど、殺してもらっちゃあ困るんだよ。 蛇:あんたの客なのは知ってんのよ、鷹司。だから聞いてんの! 鷹司:彼は情報の仕入先でもあるんだ。しかも彼は殺し屋だよ。君と同じね 蛇:だったら何 鷹司:もし君が失敗して、情報を渡したのが僕だなんてバレたら 蛇:私が失敗するとでも思ってんの? 鷹司:…君の腕の良さは知ってるよ。もうあちこちで『蛇の仕業だ』『蛇にやられた』って聞くし 蛇:ならいいじゃない!あたし、失敗しないから 鷹司:あのね。君が失敗しなくても、豚が上手くやるかもしれないだろ、嫌だよ。情報屋はリスクを負わない。 蛇:あんた詐欺師でしょ?リスク負いまくりじゃない頑張りなさいよ 鷹司:詐欺師だけどギャンブラーじゃない。リスクは微塵も負いたくない。 蛇:ふん、警察に追われるようなことしてる奴がよく言うわ。 鷹司:追われてないよ。 蛇:はぁ? 鷹司:だって僕、警察にも情報プレゼントしてるから。 蛇:……私の情報流したりしてないでしょうね? 鷹司:はははははは!まさかぁ〜 0:鷹司の首根っこを掴む蛇 蛇:そのキショい喋り方やめなさいよ 鷹司:ぐっ…暴力はよくないと思うなぁ、苦しい。首、離してくれないかな 蛇:私が人殺す人間だってこと忘れてない? 鷹司:僕を殺したら、いよいよ蛇さんは警察に捕まってお終いだ。 蛇:あんたやっぱり… 給仕:キャーーーーーーーーーー!!! 蛇:っ?! 鷹司:痛っ…急に離すの止めてくれな… 給仕:鷹司さん! 鷹司:なんだい 給仕:一体何したんですか! 鷹司:へ? 給仕:こ、高校生?中学生?に首絞められるなんてやばいじゃないですか! 蛇:は? 給仕:よっぽどなにか怒らせるようなことしたんでしょう?未成年はダメだってあれほど…ごめんなさい、鷹司さん悪い人じゃないの… 蛇:………… 蛇:(猫なで声)ごめんなさい。私もムキになっちゃって。 蛇:鷹司さんも、ごめんなさい… 鷹司:(鼻で笑う) 給仕:なにか失礼なことされてません?大丈夫? 蛇:えぇ、大丈夫です、お気遣いなく。 給仕:ならよかったぁ。 給仕:(小声)鷹司さん、この子は? 鷹司:客だ 給仕:あらお客さま?!こんな小さなお客さまは珍しいですね 鷹司:はは…そうだね。お茶をお願いしていいかな。 給仕:はいはーい!ただいま〜 0:給仕退室 蛇:……あの女、私の事小さいって言った? 鷹司:言ってない言ってない 蛇:言ったよね? 鷹司:…ま、格好からして仕方がないんじゃないか、制服だし小さくも見えるだろ。若く見えるってことだ、喜びなよ。 蛇:実際若いから喜ぶもクソも無いんだけど。 蛇:しかもオッサン、未成年はダメってあんた何してんの? 鷹司:いやまぁ、僕ってハンサムなほうだし。そりゃホットな話題の一つや二つ… 蛇:きしょ 鷹司:最近の子って上下関係とか習わないのー?僕、年上なんだけど 蛇:歳とってんのにきしょいことしてたら尚更きしょいだけでしょ 鷹司:(無視して席を立ちソファーに移動する鷹司) 蛇:それで、豚の情報は何がなんでも渡さないわけね。 0:タバコに火をつける鷹司 鷹司:そうだね、どうしても渡せない。親の仇なのは分かるけれど、ダメだ。すまないね。 蛇:すまない…ね、頭と口が別のところにあんのね。 鷹司:ごめんごめん。代わりにサツに流す君の情報、少なくしとくから、さ。 蛇:絞め殺すわよ 鷹司:殺し屋が言うと洒落にならないね 蛇:ふん、お代は無しね 鷹司:ここ時間制なんだけど? 蛇:情報よこさなかったくせに何生意気いってんの? 鷹司:はぁ、君と揉めるのは嫌だな。今回だけタダでいいよ。学生割引ってことで… 蛇:当たり前よ。 0:しばらく睨み合う二人 蛇:じゃね。 0:蛇、下手はけ。同時に給仕下手入り。 給仕:…あれ?お、お茶は…もうお帰りですか? 鷹司:あぁ、見送ってやってくれ 給仕:かしこまりました! 0:給仕、下手はけ。 0:扉閉まる音 鷹司:これだから業界ルールがわかってないクソガキは… 鷹司:…はぁ。 鷹司:…何にイラついてる? 0:机に反射する自分の顔に目をやる鷹司 鷹司:オッサン…かなぁ。 0:長めの間 0:給仕、下手入り。 給仕:ただいまもどりましたぁ〜 鷹司:どうだった?彼女 給仕:どうって…可愛らしいお嬢さんですね。あの子はどうしてここへ? 鷹司:なんか悪態つかれたりしてないかい? 給仕:悪態…?いいえ、ちっとも。 鷹司:(小声)…すごい徹底ぶりだな 給仕:てってい…? 鷹司:いや何も。猫かぶるのも大変そうだなって思って。 給仕:??へぇ〜 鷹司:でも、ま、あんな聞き方なら豚…伊藤も勘づいてるだろうな。 給仕:ぶ、豚?伊藤さん?晩ご飯のお話ですか? 鷹司:はは。なんでもないよ。…夕飯は〜(陽気に)しゃぶしゃぶにしようか〜! 給仕:おお〜いいですねぇ!じゃぁ私買い物してきますね〜! 鷹司:いってらっしゃ〜い! 鷹司:……さて、どうなることやら。 0:長めの間 0:場転 鶏:どうしても殺されてくれないの? 豚:はは、申し訳ない。美人のお願いはききたいところですけれど。 鶏:アナタそんな反吐が出るようなセリフ言えたのね 豚:まぁ。気分はどうです?褒められてなかなか好いのでは 鶏:最悪ね。依頼失敗だなんて、涙が出ちゃいそう。女の涙なんて見たくないでしょう? 鶏:死んでちょうだいっ(ナイフで切りかかる) 豚:断る(避ける) 鶏:(再度切りかかるが豚に手首を掴まれる)ぐっ…あなたどうせ生き延びてもすぐ噛み殺されちゃうでしょうし、蛇ちゃんに 豚:蛇ちゃん? 鶏:知らないのォ?蛇ちゃんよ。最近ちょっとした有名人なの 豚:存じ上げませんね。何者で? 鶏:これから死ぬのに知る必要あるかしら? 豚:はは、意地が悪い。 0:鶏の手首を捻ってナイフを落とす豚 豚:知って死ぬか、知らずに死ぬか、前者の方が遥かにいいでしょう? 鶏:そうかしら、どうせ死ぬなら同じでしょ。 豚:そうか? 鶏:えぇ。これから殺す相手に、微塵の興味も情もない。 豚:へぇ、の割に口数が多… 0:肘で豚の腹をつく鶏 豚:がっ… 0:手で動きを制す伊藤 豚:…貴女はなんのために殺しを? 鶏:ふん、答える必要ある? 豚:…はは、人生最後の会話になるかもしれませんから。 鶏:大金が手に入るからよ。私、毎日会社に行ってブッサイクな上司から叱られるのとか嫌いなの。 豚:逆にそれが好きな人っていますかね 0:片眉をつりげる鶏。間を保つ二人。 鶏:あなた本当によく喋るわね。殺し屋なのに、もう少し寡黙になれないの? 豚:はは、これでも焦ってるんですよ。予想外の手練れで… 鶏:そう? 鶏:たまたま殺しの才能があった。努力せずとも大金が手に入る仕事が目の前に転がってきたら…やるでしょ?人殺すだけで何の苦もない生活ができんのよ? 鶏:あなたもそんなものでしょう、どうせ 豚:そんな浅い理由で人を殺せてたまるかよ 鶏:怖い顔。あなたそんな正義感だとか罪悪感だとかある人間だったの? 豚:私は不誠実な人間が本当に嫌いなんですよ。 鶏:不誠実、ね。確かあなたのターゲットって犯罪者…だったかしら?小耳にはさんだわ、警察の手に負えない犯罪者を始末してくれるから人を殺しても罪にならないだのなんだの… 豚:へぇ、知らないところでそんな聖人になっていたんですか。 鶏:あら違うの? 豚:私はただ、依頼を選んでいるだけです。あまりにも理不尽、或いは勝手な依頼を受けてないだけだ。 豚:『この世に必要ない』と思った人間を殺している。 鶏:ふっ、あなたは神様か何かなのかしら?あなたの裁定一つで生死がきまるなんて…殺しの依頼なんて大抵が理不尽なものじゃない?逆恨みとか… 豚:はは、おっしゃる通り。それでも私は選ばざるを得ない。 豚:金のために殺しを生業にしてるんでしたっけ? 鶏:ええそうね 豚:じゃあ私を殺すよう依頼した人よりも金を払ったら、退いてくれます? 鶏:そんなのでいちいちやめてたら殺しなんて仕事にできないわ、知ってるでしょ 豚:えぇ、貴女が依頼放棄なんてしても結局別の人が殺しにくる。そして失敗した貴女も殺される 鶏:なんだ、知ってるじゃない。 豚:でも貴女は大事なことを忘れてる。 豚:俺が凄腕の殺し屋だってことを。 0:足先を動かす伊藤、トラップが発動し針が飛ぶ 鶏:! 豚:(舌打ち) 鶏:麻酔針?舐められたものね。それで”凄腕の殺し屋”? 豚:俺が依頼主より金を払って、依頼主を殺せば、解決しないか?君も疲れただろ 鶏:『聖人』のあなたにできるかしら。そしてさっき言ったでしょ、この場を切り抜けても蛇ちゃんが殺しにくるって 豚:金はどうとでもなるし依頼主も必ず殺す。お前は今、私を殺すメリットが皆無に等しい。 鶏:ええそうね 豚:じゃあなぜ誘いを受けない? 鶏:悔しいからよ 豚:素直に負けを認めろよ。 鶏:……… 豚:……… 鶏:ええそうね…… 鶏:私の負け…だわっ(側にあった食器を投げる) 豚:っっ!! 0:反応し、避ける伊藤 鶏:……はぁ。 鶏:ダメね。やっぱり無理。強すぎるわあなた。慣れてる。 豚:はは、…照れ”ますね” 鶏:…はっ 鶏:で、何、話してあげるわよ。金くれんならね。 豚:誘いをさんざん引き延ばしておいてその口ぶり…貴女を殺さないという確信はどこから来ているんですかね。 鶏:何、やる気? 豚:… 鶏:今までので全部わかるわよ。殺す気ゼロだもの。大方あれでしょ、女子供は殺せないとかそういうの。 豚:悲しいかな、正解だ。 鶏:時々いんのよね~…なんなのそれ?なんかトラウマあり? 豚:… 鶏:図星? 豚:いえ……単純に死体処理がめんどくさい。女ものの服は捨てるのに骨が折れ…ま、ほかにもいろいろ事情が。 鶏:ふぅん。うちのとこだと死体処理専属の人間がいるけど、一人だとそうもいかないのねぇ、不便。 0:顔色を伺う鶏 鶏:ま、それだけが理由とも思えないけれど…一番の理由は別でしょ、ちがう? 豚:さぁ?さて、話を戻しましょうか。金は払う、依頼主も殺す。手早い解決で助かります。依頼主はどなたで? 鶏:(目をじっと見て)良かったわね、依頼主が女じゃなくて。高橋。 豚:高橋…あぁ、この前依頼してきた、あの高橋か。情報はどこにも漏らさないって言ったのに、信用できなくなってしまったか… 豚:約束を守れない人間は殺すにふさわしい。 鶏:駒を信用出来ない人間て、本人が信用の足りない胡散臭いやつなことが大抵よねぇ…ホント、迷惑しちゃう。 鶏:この職業をやってて良かったと思えるところ、今気づいたわ。人を見る目が養える。 豚:ははは、でも貴女も救われたのでは?そんな依頼主ならいずれ… 鶏:別に、よくあることだし対処できるわ。それに殺し屋は殺し屋を殺さない。ネットワークがあるから 豚:…では、私はネットワークがないからこんな面倒なことに…金銭のいざこざを嫌ったのが仇になったとは、我ながら惨めだ。 鶏:蛇ちゃんについては聞かないのね 豚:随分と親切で。 鶏:えぇ、金…と言いたいところだけれど、依頼人殺す前にあなたが殺されたら困るし。 鶏:蛇、本名は新戸うさ(しんどうさ)。16歳の女の子。 豚:うさ?可愛らしい名前だ。それなのに通り名は兎じゃないときた。 鶏:絞め跡が蛇みたいだからというのと…あなた三毒って知ってる? 豚:貪・瞋・癡(とん・じん・ち)でしょう? 鶏:へぇ。インテリなのは見た目だけじゃないのね。その瞋が彼女なのよ。 鶏:彼女は怒り狂ってる、憎しみまくってる。彼女はお金とか依頼とかそういうのはどうでもいい。ただ憎い相手を殺してる 豚:ふぅん。殺し屋というより大量殺人犯か。 鶏:そうね。そして貪瞋癡(とんじんち)の瞋を司る生き物が蛇なの。だから蛇。殺し屋の通り名にしては由来が随分と洒落てる。 鶏:加えて、彼女が一番恨んでるのはあなたよ、豚。 豚:その『豚』っていうの、やめませんか。 鶏:しょうがないでしょ。あなたが殺した死体の鼻、全部削がれてて豚みたいな鼻になってるんだもの。 鶏:それ以外に特に噂も殺しの共通点もないんだから 豚:いや本当に気分が悪い。 豚:伊藤です。私は。 鶏:あっさり教えるのね? 豚:盟友になりたくて(適当に返す) 鶏:犯罪者が盟友…?笑える 豚:(ただ情報を引き出すことしか考えていないように) 豚:で、私は何故そんなに蛇ちゃんに嫌われているんですかね。 鶏:蛇ちゃんの親をあなたが殺したからってきいてるけど? 豚:親…新戸(しんど)…新戸…… 0:手帳をめくる 豚:あぁ! 鶏:あなたまさか、今までの依頼全部書き留めてるの? 豚:今の世の中情報戦。金を払わずとも手元の携帯で何もかも得られるがために勘違いする人が多いが、情報は形が決まってないからこそ客観と主観の棲み分けが大事です。 豚:経験は自身の言葉で綴っておかなければ。現代で勝つか負けるかの分かれ道と言っても過言ではない。 鶏:めんどくさーぃ…。で、思い出した? 豚:えぇ。新戸。地元の少年達とドラッグの売買をしていた、けれど裏切って少年達は院に、収益は独り占め。出所した少年達からの依頼でしたね。みんなで依頼金を出し合って…いや、涙ぐましい。 豚:少年達がでてくるころにはもう新戸も足を洗っていましたが…焼印は消えませんからね、改心していたところ申し訳ないが、処分しました。 鶏:…でも彼女からしたら、あなたはたった一人の父親を殺した殺人鬼でしかないのよ? 豚:だからなんだ?おま…貴女は人を殺す時、逐一相手の生き様を考えて仕事をこなすんですか? 鶏:いいえ? 豚:でしょう?家族の話になった途端、人は急に甘くなる…結局人は人なのに 鶏:女子供は殺せないとかいうあなたが言うことかしら? 豚:…考えてみたらおかしな話だ。ちょっと知り合いに電話させてください 鶏:私にも聞こえるようになら、どうぞ 豚:もしもし? 鷹司:…伊藤。なにかな、今夕食中なんだけど 豚:少し聞きたいことが。蛇って知ってるか? 鷹司:、いや知らない 豚:嘘だな絶対に知っている。「へび」を知らないって、そんなわけないだろ 鷹司:おっと、しくじったな 豚:知らないふりをするってことは”蛇ちゃん”も鷹司の客か… 鷹司:…はぁ、……そうだよ。君についての情報を求めてきた 豚:やっぱり?珍しいな。鷹司がそんなにあっさり客の情報を… 鷹司:いや、なかなか腹立つガキでさぁ 鶏:ぷっ 鷹司:ん?今そばに誰かいる? 豚:あぁ、えー、…名前は? 鶏:あんま言いたくないのよねー。ニワトリ 豚:ニワトリ? 鷹司:鶏って、あの? 鶏:さすが情報屋。知ってるのね。 豚:やはり名の知れたやつか。 鷹司:なんであの鶏と一緒にいるんだい? 豚:少し、殺されそうになった 鷹司:へぇ、君も大変だね 豚:おまけに”蛇ちゃん”にも殺されそうと来た。そこで頼みがある 鷹司:聞くだけ聞こう 豚:蛇ちゃんに嘘の情報を流してくれないか 鷹司:嘘の情報? 豚:あぁ、詐欺師だろ?なにかでっち上げて、彼女の恨みの矛先をずらしてくれ 鷹司:詐欺師だけど、作家じゃないんだ。でっち上げなんて無理だよ、できない 豚:じゃあ俺の情報を流してくれ 鷹司:君の? 豚:あぁ、明日、午後三時に横浜のベイシェラトンにいるって伝えてほしい 鷹司:それなら……わかった。 豚:頼んだ。じゃあ、また 鶏:あなた、高校生の女の子の呼び出し先がシェラトン? 豚:いえ、私は行きません。 鶏:え? 豚:言ったでしょう。女子供は殺せない。しかも”蛇ちゃん”は女で子供、最悪です。 鶏:じゃあどうするのよ。 豚:貴女に依頼です。 豚:蛇の処分を。 鶏:………私にガキを殺せって? 豚:できませんか。 鶏:いくら 豚:五百 鶏:…いいわよ。やってあげる。盟友だからね。 豚:まさかワンコインでやってもらえるとは。ありがたい誤算だ。代金、今手渡していいですかね。 鶏:…クソみたいなジョークね 豚:にしても、あっさりで助かります。蛇は腕が立つのでは? 鶏:ふん、突然若い女が業界に入ってきてチヤホヤされてるだけでしょう。 鶏:どの世界でもそう、大抵初めは『若い』『女』のキーワードで売り出してしばらくしたら廃れんのよ 豚:なんだか知ったような口ぶりで、もしかして昔のあな… 鶏:それ以上口開いたら破棄するわよ 豚:いやいや、ただの妄想です。 豚:では、明日の三時、横浜へ。頼みました。盟友の鶏さん。 0:場転 給仕:お久しぶりですね伊藤さん 豚:お久しぶりです 給仕:緑茶でいいですか? 豚:ええ。 鷹司:それで?結局伊藤は約束の場所には行かないわけか 鷹司:…ふざけるなよ…僕に嘘の情報流させやがって 豚:鷹司は悪くないだろ?嘘をついた僕が悪い。 鷹司:相手がそんな事情いちいち知るわけないだろ、俺が嘘をついたのと同じだよ 豚:どうせ死ぬんだ。嘘つかれようがつかれまいが関係ない。 鷹司:えっ、死ぬ? 豚:あぁ、がめついニワトリさんに蛇の駆除をお願いしたんだ 鷹司:駆除ねぇ…蛇と鶏ならぁ、蛇が勝ちそうだけれど 豚:動物ならな 鷹司:どうだか… 0:電話の音 鷹司:電話、蛇からだよ。駆除失敗かな。 豚:ストップ。 鷹司:ん? 豚:いいんだよそれで。放置。 鷹司:これででなかったらいよいよ僕の命が危ないんだけど 豚:出ないでくれ。命は俺が保証する。 0:電話の音止む 鷹司:またなにか策でもあるのかな 豚:策なんて大したものじゃない 0:電話番号を自分の携帯に打ち込む伊藤 0:携帯電話の音 豚:もしもし… 0:場転 蛇:っざけんな、ふざけんなふざけんなふざけんな鷹司!!! 蛇:嘘じゃねぇか!!誰よこの女……ふざけんじゃないわよ…また……また余計なの殺しちゃったじゃない…早く豚が死んでくれないと、アタシは、…『コレ』をやめられない……くそっ 0:鷹司に何度も電話をかける蛇 蛇:なんで出ないのよ…鷹司……許さない…許さない………豚にばっかり贔屓して…『客は平等』だなんてどの口が… 警官1:(鷹司兼役)動くな! 蛇:っ?! 警官2:(給仕兼役)警察です。新戸うささんですね? 蛇:な、なにこれ… 警官2:拘束して 蛇:うっ……!はなせ!!なんで、なんで…なんで私が捕まるのよ?! 蛇:ちょっと…きいてる?普段ちんたらして殺人犯一匹もろくに捕まえられない奴らが! 蛇:どうして私なのよ…豚を捕まえなさいよ!!豚を!!彼を捕まえられず、死刑にもできなかったヤツらが、なんで私を捕まえようとするのよ!仇をうとうとしただけじゃない…なんでこっちの問題に介入してくんのよ!!! 0:長めの間 0:場転 鷹司:ずるいね伊藤は。 豚:どうして?飴と鞭は使いよう…だろ。警察の動かし方くらい…鷹司、君にできることは俺にもできる。 豚:警察なんて正義の集団じゃないんだ。ただの職業団体に過ぎない。 豚:みな人間だし、みな一様に恨みとか、怒りとか、憎しみとか、嫉妬とかを抱き、簡単に殺意を抱く。今生き残ってる殺し屋は大体、警察との付き合い方を心得ている。 鷹司:はっ。知ったような口を。意外だな、知ったかぶりは嫌いじゃなかったか 豚:はは、失敬。親しき中でもなんとやらだね。 鷹司:そうだそうだ、礼儀が欠けてる。引き際はわきまえてるけど。君は。 豚:ただ、蛇ちゃんは残念だったね。子供だからまだ社会のことなんて分からなかったみたいだ。いいお勉強になったんじゃないか。 豚:憎しみや怒りは斬り捨てて理性的に生きないと、相手を間違えると酷い目にあうってことを。 豚:哀しくても、辛くても、憎くても、飲み込まないと進めない。 豚:怒りを原動力に生きるのは不幸だからね。僕には無理でも、君ならできるだろ。 豚:せっかく、若いんだし。 0:終