台本概要

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タイトル されど変化にも愛はある。
作者名 ニンジャ。
ジャンル ラブストーリー
演者人数 3人用台本(男1、女1、不問1)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【声劇配信時の規約】
・配信時に作者名および作品名を記載
※上記一点のみ必ずご対応くだされば、作者への連絡は不要です。
(投げ銭の有無、有償無償に関わらず) 
可能なら連絡してくれると喜びます。(無理はしないで大丈夫です)

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
90 川村 陸。(かわむら りく)男性。 幼いころ、容姿のことでよくいじめられていた。 それが悩みで、学校や仕事、恋愛もうまくいかなかった。 高校生のころに、両親が離婚し名字もかわる。
72 伊藤 空。(いとう そら)女性。 陸の幼馴染。 性格はとても優しい。 既婚者であったが、現在は離婚している。
不問 45 中林 要 (なかばやし かなめ) 陸が務める会社の後輩。 非常に陽気な性格のムードメーカー。 馬鹿っぽいけど、よく気が回る。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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陸:小さなころから、「ブサイク」と呼ばれ、いじめられてきた。 空:見ているだけで、何もできなかった。 要:傷ついた体と心は、少年の心を決意させるには十分だった。 陸:大人になったら、絶対にこの容姿を変えてみせる、と。 0:15年の歳月が流れた、現代。とある会社のオフィスにて。 陸:・・・はい、この案件は以前お話しした方向性で進めてください。それから、来週の打ち合わせについてですが・・・はい、それでお願いします。では、また連絡します。・・・はあ。 要:せーんぱい、おつかれさまです!けっこう長めの電話でしたね! 陸:ああ、中林。おつかれ。・・・そうだな。やっとプロジェクトが動き出しそうだ。 陸:彼は中林 要。(なかばやし かなめ)四つ離れた、俺の後輩だ。 要:いやあ、長かったですねえ、もう半年くらい膠着していたプロジェクトを、先輩が着手してからあっという間に動かしちゃうんですもん!さすが陸先輩!仕事ができる~ 陸:ほめてもなにもでないぞ。 要:いやいや、・・・しかし、そのできる仕事の腕をもーすこし恋愛に活かしてくれたらいいんですけどねえ~ 陸:こら、仕事には関係ない話だろう。 要:固いですね~、だって、この前紹介したさとみちゃんとだって、デートすらろくにできず、終わっちゃったんでしょう?ほんと、奥手だなあ先輩は! 陸:う、うるさい!・・・あれは、どうやってデートに誘えばいいかわからなくて・・・ 要:なにか言いましたか?先輩 陸:なんでもない!・・・それより、今日入ってくるって話の中途採用の子、遅いな。 要:露骨に話題を変えますね~、ん~そろそろ来るんじゃないですか? 空:失礼します・・・お、おはようございます。 陸:お、来たか。・・・え? 空:今日からこちらでお世話になります、伊藤 空(いとう そら)と申します。よろしくお願いします。 陸:(その姿、その名前。聞き覚えがないはずがなかった。) 陸:(彼女は、間違いなく・・・) 要:お、新人さんですね!よろしくお願いします!自分は中林って言います!で、こちらが・・・って、あれ?なに固まってるんですか、先輩。 陸:(彼女は、俺の幼馴染だった。) 0:間 空:あの、すみません。何か、失礼のある恰好をしてますでしょうか? 陸:え、あ、いや! 空:すみません、会社勤めをすることがかなり久しぶりなもので、ご無礼などございましたらおっしゃってください。 陸:いや!そ、そういうわけじゃないんだ! 陸:(どうしよう・・・言えない。もしかしたら人違いの可能性もあるが、おそらく彼女はあの空ちゃんだ。) 陸:(なにが気まずいって、そりゃ・・・がっつり整形して顔変えてるんだもん俺!気まずいって!) 空:・・・えーと? 要:もう、陸先輩ったら、あまりにもシャイすぎますよ!正直に言えばいいじゃないですか!すっごい美人さんが入ってきたから、ドキドキしてるって! 陸:え、あ、そ、そうだな。う、うん。その通りだ。 空:美人だなんて、そんな・・・そんなことは、ないです。 要:だめですよ~先輩。そういうのは。最近、セクハラとかに世の中厳しいんですからね。 陸:お前が言い出したんだろ! 空:あはは、なんだか、とても楽しそうなお二人ですね。営業の経験はございませんが、どうか今日からよろしくお願いします。 要:よろしくです!ほら、先輩も。 陸:あ、ああ。主任の川村です。よろしくお願いします。 空:川村さん、中林さん、改めてよろしくお願いします。 0:それから数日後。オフィスにて。 陸:伊藤さん。 空:はい。 陸:この資料を、PDFにしといて。 空:はい、やってみます。 陸:(・・・なんとか普通に業務の会話ぐらいはできるようになってきたけど・・・気まずい!だって、俺、整形しちゃったもんな~。顔が誰お前ってくらいイケメンになっちゃったし。・・・おまけに、高校に上がる前に親が離婚したから、名字も違う!・・・どうしよう。正直に言うべきなんだろうか。) 空:川村さん。 陸:っ!はい! 空:できました。これでよろしいでしょうか? 陸:お、おお!早いね・・・じゃあ、次は・・・ 要:ただいまっーす!中林、今帰りました~っと。お、陸先輩!相変わらずきょどってるんですか? 陸:きょ、きょどってないわ! 要:またまた~どう見ても動揺してますよ?せっかく伊藤さんという美人さんが入ってきたんだから、慣れだと思いましょ? 空:まあ、中林さんは、やっぱりお上手ですね。 要:あはは!・・・陸先輩、シャキッとしないとだめですよ?合コンならその場限りの関係でもいいですけど、職場なんですから。伊藤さんもやりづらいっすよ、このままじゃ。 陸:わかってるよ、だ、大丈夫だ。 要:まあ、それはいいや。というわけで、親睦会を兼ねて今日の夜、飲みにいきましょ!! 陸:え゛ 空:え 要:まあ、あんまり大人数はお二人も緊張すると思うので、ここはこの場の3人で行きましょうか!もちろん、陸先輩のおごりで! 陸:俺かよ?! 空:・・・わ、わたしも参加して大丈夫なんですか? 要:もっちろん!そりゃあ、伊藤さんの親睦会なんだから!主役が参加しなくてどうするんですか? 空:いえ、こ、こういう機会が初めてでして・・・ 要:あっはは、大丈夫ですよ!気軽に楽しんでください!ね、陸せんぱーい! 陸:あ、ああ、もちろんだ!「3人」で行こうな! 要:はい! 空:は、はい! 陸:(こうして、俺だけが気まずいまま、親睦会が行われることになった。・・・どうすればいいんだ・・・) 0:会社近くの居酒屋にて 要:それじゃ、新しい出会いと、伊藤さんにカンパーイ! 陸:か、乾杯。 空:かんぱい。 陸:(飲むことにはなってしまったけど、・・・できればすぐに帰りたい・・・) 要:・・・ぷはー!美味い!・・・おっと、すみません。ちょっと電話が。始まったばかりで申し訳ないですが、ちょっと外しますね! 陸:え゛ 空:いってらっしゃい。 陸:・・・・ 空:・・・・ 陸:(いかん、どうしよう。ただでさえ女性と話すことは慣れていないのに。何を話していいものか・・・) 空:あの、川村さん。 陸:はい! 空:いきなりぶしつけなことを申してしまうかもしれないのですが・・・どこかでお会いしたことはありませんか? 陸:(ギ、ギク!)い、いやあ、どうなんでしょうか。ちょっとわかりませんね・・・ 空:そう、ですか。・・・いえ、実は私の昔の友達に、雰囲気がとても似ておられて。 陸:(ギクギク!)へえ~そうなんですか。・・・ちなみに、その友達はなんてお名前なんですか? 空:陸です。川村様の下の名前と一緒で、もしかしたらと思ったんですが・・・でも、顔が明らかに違うので、人違いなのかなあと。 陸:(あ~そうだよね。俺整形しちゃったもんね。ごめん、本当にごめんよ空ちゃん。・・・)へえ、偶然ってあるもんですね。その人とは、仲が良かったんですか? 空:仲がよかったです。幼馴染で。幼稚園からの付き合いだったのですが、彼が中学卒業の際に、引っ越してしまって。・・・両親の離婚が原因と、聞きました。 陸:な、なるほど・・・そうだったんですね!いやあ、偶然とはすごいですねえ。 空:川村様。・・・あの。 陸:は、はい。 空:・・・本当に、「りっくん」じゃない? 陸:・・・え、えっと・・・ 要:戻りました~~ひっく。 陸:お、おお!要。おかえり! 空:あ、おかえりなさい。 要:たらいまです~いやあ、ちょっと酔っちゃいましたあ。 陸:そんなに飲んでたか?一杯だけしか飲んでないような・・・ 要:いや、実は。ほかの席のお客さんと意気投合しちゃって。おごりだ!って少しいただいていたんですよお。 空:中林さんは、すごく社交的なんですね。 要:またまたあ、伊藤さんだって社交的じゃないですかあ。モテるんじゃないですか? 空:いえ、わたしは・・・その。実は、一度離婚しておりまして。 陸:え? 要:あ、そ、そうなんですね~ 空:そんなに長い結婚生活でもなかったのですが、いろいろありまして・・・あ、ご、ごめんなさい!せっかくの楽しい機会に、こんな暗い話を。 陸:あ、ああいやいや。そんなに気を遣わなくても。人生、いろいろあるだろうし。 要:そうっすよ~むしろ、伊藤さんのことが知れてうれしいですよ~・・・さて、俺ちょっと店員さんに追加で注文してくるんで、外しますね~ 陸:あ、ああ。悪いな。頼む。 空:・・・あの。ごめんなさい。さっきは。ぶしつけなことを聞きました。 陸:いやいや。大丈夫だよ。・・・結婚されてたんですね。 空:はい・・・ 陸:なにがあったのか、お聞きしても? 空:・・・元夫から。嫌がらせを受けてて。 陸:嫌がらせ? 空:出会いは、お見合いだったんですけど。・・・はじめは、ちょっと怖いなってくらいで。いわゆる、「モラハラ」というやつなんでしょうか。結婚してから、私は専業主婦になって。家事もやってたんです。けど、ことあるごとに「掃除がなってない」「料理がまずい」など、いろいろ言われて・・・時には、殴られることも。私も、私なりに努力はしていたんですけど・・・すみません。つまらない話を。 陸:あ、いえこちらこそ!すみません。言いづらいことを聞いてしまって。 空:いえ、大丈夫です。・・・ごめんなさい。 陸:・・・つらいですよね。罵声を浴びるのも、殴られるのも。 空:え? 陸:状況はぜんぜん違いますし、僕は結婚しているわけではないのですが・・・幼少期、似たような経験をしまして。だから、気持ちはわかります。・・・つらかったですよね。 空:・・・そういうところ。 陸:はい。 空:そういう、優しいところ。ますます、りっくんに似てます。 陸:あ・・・(どうしよう。正直に打ち明けてしまおうか。いや、しかし。整形しただなんて。もしかすると驚かれるかもしれない。もしかすると・・・軽蔑されるかも) 要:たらいま~~~・・・ってあれ、伊藤さん!泣いてる!!! 空:あ、 陸:要、おかえり。えっと、これはだな。 要:ちょっと陸先輩!なに女の子泣かしているんですか! 空:違うんです、中林さん!これは・・・私が話を聞いてもらってただけで。 要:話って? 空:離婚したきっかけとか、いろいろと・・・ 陸:そうなんだ。けど、俺も無神経に聞いてしまった。ごめんなさい、空ちゃん。・・・あ。 空:!? 要:空ちゃん?・・・なーんだ、もうそんなに仲良くなったんですか。ならよかったです~~・・・ふああ、ちょっと眠くなってきたんで寝ますね。・・・陸先輩。 陸:どうした? 要:男なら、まどろっこしいことせずに、バシッと決めてくださいよ・・・むにゃむにゃ。 空:・・・寝ちゃいましたね。 陸:ああ、要はあんまり酒が強いほうじゃないからな・・・今日はちょっとつぶれるのも早いと思うけど・・・ 空:りっくん。 陸:!? 空:りっくん、なんでしょ。さっき、とっさに私のこと空ちゃんって。 陸:・・・・その、ごめん。・・・そうなんだ。 空:なんで謝るの。・・・ずっと。ずっと会いたかった。私のほうこそ、謝りたかった。 陸:謝りたい?なんで? 空:りっくんが学校でいじめられてるの知ってたから。 陸:あれはぜんぜん、空ちゃんとは無関係で。 空:関係ないわけない。私の大切な幼馴染が。いじめられてるのに、私、何もできなかった。・・・上級生の男子、体も大きくて。すっごく怖くて。・・・りっくんのこと、守ってあげられなかった。・・・ずっと好きだったのに。ごめんね。りっくん。 陸:・・・いや、いいんだ。・・・昔から、そうだったよね。空ちゃんは。歳は俺のほうが上なのに。俺がぶさいくだっていじめられたりからかわれたら、絶対守ってくれた。 空:そりゃそうだよ。だって。りっくんは何も悪くないのに。ねえ、聞いてもいい?どうして、整形したの? 陸:逃げたかったんだ。元の顔から。自分の醜い容姿から。 空:逃げたかった? 陸:そうなんだ。俺はずっと、顔のせいで嫌な思いばかりしてきた。勉強や仕事でいくら成果を出そうと、結局顔のいいやつには勝てなかった。だから・・・4年前に、こつこつためた金で思い切って顔を全部整形したんだ。・・・職場も変えてな。 空:・・・そうだったの。 陸:けど、顔を変えてもあんまり意味はないもんだな。たしかに、少しばかりはモテるようになった。けど・・・根本はなにも変わっちゃいない。結局、弱い自分を見つめることを逃げて、変化ばかりしても、ダメだったな。 空:・・・ごめんね。ずっと、ずっと好きだったのに。何もできなくて。私。 陸:・・・好きだったよ。俺も。空ちゃんのこと。けど・・・今の俺じゃ、ぜんぜんダメだな。・・・ださいな。俺。最低だ。 空:そんなこと 要:そんなことないすよ!陸先輩! 陸:要!お前、聞いてたのか! 要:先輩は、自分にとってはとっても優しい先輩です!いつも自分がへらへらしてても、笑って許してくれるし、ミスだってかばってくれる!あこがれの先輩です!そんな先輩が・・・自分のことを最低だなんて、言わないでください! 陸:要・・・ 空:中林さん・・ 要:それに、整形したって言いますけど・・・そんなの生き物の脱皮と一緒ですよ!変わりたかったから変わっただけです。決して、逃げなんかじゃないです!さっき先輩も言いましたけど・・・根本は何も変わっていないのなら、あなたは自分にとって最高の先輩であることに変わりはありません!・・・あ、やべ、ちょっとふらふらしてきた~ 陸:?!おい、要!大丈夫か? 空:中林さん! 要:すみません。酒飲んで気分悪いんで、また寝ます・・・ 陸:・・・・ 空:・・・・ 陸・空:ぷ、あはははっ! 空:とても、いい後輩さんを持ったんだね、りっくん。 陸:ああ、自慢の後輩だよ。 空:そうね。・・・ねえ、りっくん。 陸:なに? 空:さっき中林さんも言ったけど、あなたはとても優しい人。私にとっても、それは変わらないわ。 陸:・・・ありがとう。 空:やり直さない? 陸:何を? 空:私たちの、関係。・・・もう一度。二人で。 陸:・・・そうだな、まずはデートからかな。 空:でも私、デートなんてほとんどしたことないからできるかな… 陸:俺だってないよ。大丈夫だよ。・・・空ちゃん。 空:どうしたの? 陸:好きだよ。 空:・・・その目。 陸:え?目? 空:その、きれいな目。ずっと変わってないよ。りっくん。私の大好きな、優しい目。 陸:・・・ありがとう。 0:デート当日。待ち合わせ場所にて。 要:それで、デートすることにはなったけど、一人で待つ勇気がないからって、なんで自分まで連れてこられるんですか?完全にじゃまでしょ、自分! 陸:悪い、要。服まで選んでもらっちゃって。 要:まったくですよ~この恩は、いつか必ず返してもらいますからね。 陸:そうする。必ずな。 要:あ、伊藤さん、来たんじゃないですか。 空:りっくん、お待たせ!ごめんね、電車混んでて。 陸:あ・・・ 要:ほら、行ってきてください!シャキッとしてくださいよ!がんばってリードすること! 陸:わ、わかった。・・・要。 要:?なんですか、先輩 陸:ありがとう。 要:・・・はい!いいからさっさと行ってください! 0:要、二人を見守る 空:服、おしゃれだね 陸:ありがとう!・・・要に選んでもらってな。 空:私は、変じゃないかな・・・ 陸:ぜんぜん!・・・むしろ、その・・・ 空:? 陸:きれいだよ、すごく。 要:(どこかぎこちなく並んで歩く2人。やがて手をつないで歩いている様子を、自分はずっと見ていた。いつしか、一筋の涙が頬をつたった。) 要:応援してますよ、陸先輩。 要:(だからこれはきっと、嬉し涙だ。)

陸:小さなころから、「ブサイク」と呼ばれ、いじめられてきた。 空:見ているだけで、何もできなかった。 要:傷ついた体と心は、少年の心を決意させるには十分だった。 陸:大人になったら、絶対にこの容姿を変えてみせる、と。 0:15年の歳月が流れた、現代。とある会社のオフィスにて。 陸:・・・はい、この案件は以前お話しした方向性で進めてください。それから、来週の打ち合わせについてですが・・・はい、それでお願いします。では、また連絡します。・・・はあ。 要:せーんぱい、おつかれさまです!けっこう長めの電話でしたね! 陸:ああ、中林。おつかれ。・・・そうだな。やっとプロジェクトが動き出しそうだ。 陸:彼は中林 要。(なかばやし かなめ)四つ離れた、俺の後輩だ。 要:いやあ、長かったですねえ、もう半年くらい膠着していたプロジェクトを、先輩が着手してからあっという間に動かしちゃうんですもん!さすが陸先輩!仕事ができる~ 陸:ほめてもなにもでないぞ。 要:いやいや、・・・しかし、そのできる仕事の腕をもーすこし恋愛に活かしてくれたらいいんですけどねえ~ 陸:こら、仕事には関係ない話だろう。 要:固いですね~、だって、この前紹介したさとみちゃんとだって、デートすらろくにできず、終わっちゃったんでしょう?ほんと、奥手だなあ先輩は! 陸:う、うるさい!・・・あれは、どうやってデートに誘えばいいかわからなくて・・・ 要:なにか言いましたか?先輩 陸:なんでもない!・・・それより、今日入ってくるって話の中途採用の子、遅いな。 要:露骨に話題を変えますね~、ん~そろそろ来るんじゃないですか? 空:失礼します・・・お、おはようございます。 陸:お、来たか。・・・え? 空:今日からこちらでお世話になります、伊藤 空(いとう そら)と申します。よろしくお願いします。 陸:(その姿、その名前。聞き覚えがないはずがなかった。) 陸:(彼女は、間違いなく・・・) 要:お、新人さんですね!よろしくお願いします!自分は中林って言います!で、こちらが・・・って、あれ?なに固まってるんですか、先輩。 陸:(彼女は、俺の幼馴染だった。) 0:間 空:あの、すみません。何か、失礼のある恰好をしてますでしょうか? 陸:え、あ、いや! 空:すみません、会社勤めをすることがかなり久しぶりなもので、ご無礼などございましたらおっしゃってください。 陸:いや!そ、そういうわけじゃないんだ! 陸:(どうしよう・・・言えない。もしかしたら人違いの可能性もあるが、おそらく彼女はあの空ちゃんだ。) 陸:(なにが気まずいって、そりゃ・・・がっつり整形して顔変えてるんだもん俺!気まずいって!) 空:・・・えーと? 要:もう、陸先輩ったら、あまりにもシャイすぎますよ!正直に言えばいいじゃないですか!すっごい美人さんが入ってきたから、ドキドキしてるって! 陸:え、あ、そ、そうだな。う、うん。その通りだ。 空:美人だなんて、そんな・・・そんなことは、ないです。 要:だめですよ~先輩。そういうのは。最近、セクハラとかに世の中厳しいんですからね。 陸:お前が言い出したんだろ! 空:あはは、なんだか、とても楽しそうなお二人ですね。営業の経験はございませんが、どうか今日からよろしくお願いします。 要:よろしくです!ほら、先輩も。 陸:あ、ああ。主任の川村です。よろしくお願いします。 空:川村さん、中林さん、改めてよろしくお願いします。 0:それから数日後。オフィスにて。 陸:伊藤さん。 空:はい。 陸:この資料を、PDFにしといて。 空:はい、やってみます。 陸:(・・・なんとか普通に業務の会話ぐらいはできるようになってきたけど・・・気まずい!だって、俺、整形しちゃったもんな~。顔が誰お前ってくらいイケメンになっちゃったし。・・・おまけに、高校に上がる前に親が離婚したから、名字も違う!・・・どうしよう。正直に言うべきなんだろうか。) 空:川村さん。 陸:っ!はい! 空:できました。これでよろしいでしょうか? 陸:お、おお!早いね・・・じゃあ、次は・・・ 要:ただいまっーす!中林、今帰りました~っと。お、陸先輩!相変わらずきょどってるんですか? 陸:きょ、きょどってないわ! 要:またまた~どう見ても動揺してますよ?せっかく伊藤さんという美人さんが入ってきたんだから、慣れだと思いましょ? 空:まあ、中林さんは、やっぱりお上手ですね。 要:あはは!・・・陸先輩、シャキッとしないとだめですよ?合コンならその場限りの関係でもいいですけど、職場なんですから。伊藤さんもやりづらいっすよ、このままじゃ。 陸:わかってるよ、だ、大丈夫だ。 要:まあ、それはいいや。というわけで、親睦会を兼ねて今日の夜、飲みにいきましょ!! 陸:え゛ 空:え 要:まあ、あんまり大人数はお二人も緊張すると思うので、ここはこの場の3人で行きましょうか!もちろん、陸先輩のおごりで! 陸:俺かよ?! 空:・・・わ、わたしも参加して大丈夫なんですか? 要:もっちろん!そりゃあ、伊藤さんの親睦会なんだから!主役が参加しなくてどうするんですか? 空:いえ、こ、こういう機会が初めてでして・・・ 要:あっはは、大丈夫ですよ!気軽に楽しんでください!ね、陸せんぱーい! 陸:あ、ああ、もちろんだ!「3人」で行こうな! 要:はい! 空:は、はい! 陸:(こうして、俺だけが気まずいまま、親睦会が行われることになった。・・・どうすればいいんだ・・・) 0:会社近くの居酒屋にて 要:それじゃ、新しい出会いと、伊藤さんにカンパーイ! 陸:か、乾杯。 空:かんぱい。 陸:(飲むことにはなってしまったけど、・・・できればすぐに帰りたい・・・) 要:・・・ぷはー!美味い!・・・おっと、すみません。ちょっと電話が。始まったばかりで申し訳ないですが、ちょっと外しますね! 陸:え゛ 空:いってらっしゃい。 陸:・・・・ 空:・・・・ 陸:(いかん、どうしよう。ただでさえ女性と話すことは慣れていないのに。何を話していいものか・・・) 空:あの、川村さん。 陸:はい! 空:いきなりぶしつけなことを申してしまうかもしれないのですが・・・どこかでお会いしたことはありませんか? 陸:(ギ、ギク!)い、いやあ、どうなんでしょうか。ちょっとわかりませんね・・・ 空:そう、ですか。・・・いえ、実は私の昔の友達に、雰囲気がとても似ておられて。 陸:(ギクギク!)へえ~そうなんですか。・・・ちなみに、その友達はなんてお名前なんですか? 空:陸です。川村様の下の名前と一緒で、もしかしたらと思ったんですが・・・でも、顔が明らかに違うので、人違いなのかなあと。 陸:(あ~そうだよね。俺整形しちゃったもんね。ごめん、本当にごめんよ空ちゃん。・・・)へえ、偶然ってあるもんですね。その人とは、仲が良かったんですか? 空:仲がよかったです。幼馴染で。幼稚園からの付き合いだったのですが、彼が中学卒業の際に、引っ越してしまって。・・・両親の離婚が原因と、聞きました。 陸:な、なるほど・・・そうだったんですね!いやあ、偶然とはすごいですねえ。 空:川村様。・・・あの。 陸:は、はい。 空:・・・本当に、「りっくん」じゃない? 陸:・・・え、えっと・・・ 要:戻りました~~ひっく。 陸:お、おお!要。おかえり! 空:あ、おかえりなさい。 要:たらいまです~いやあ、ちょっと酔っちゃいましたあ。 陸:そんなに飲んでたか?一杯だけしか飲んでないような・・・ 要:いや、実は。ほかの席のお客さんと意気投合しちゃって。おごりだ!って少しいただいていたんですよお。 空:中林さんは、すごく社交的なんですね。 要:またまたあ、伊藤さんだって社交的じゃないですかあ。モテるんじゃないですか? 空:いえ、わたしは・・・その。実は、一度離婚しておりまして。 陸:え? 要:あ、そ、そうなんですね~ 空:そんなに長い結婚生活でもなかったのですが、いろいろありまして・・・あ、ご、ごめんなさい!せっかくの楽しい機会に、こんな暗い話を。 陸:あ、ああいやいや。そんなに気を遣わなくても。人生、いろいろあるだろうし。 要:そうっすよ~むしろ、伊藤さんのことが知れてうれしいですよ~・・・さて、俺ちょっと店員さんに追加で注文してくるんで、外しますね~ 陸:あ、ああ。悪いな。頼む。 空:・・・あの。ごめんなさい。さっきは。ぶしつけなことを聞きました。 陸:いやいや。大丈夫だよ。・・・結婚されてたんですね。 空:はい・・・ 陸:なにがあったのか、お聞きしても? 空:・・・元夫から。嫌がらせを受けてて。 陸:嫌がらせ? 空:出会いは、お見合いだったんですけど。・・・はじめは、ちょっと怖いなってくらいで。いわゆる、「モラハラ」というやつなんでしょうか。結婚してから、私は専業主婦になって。家事もやってたんです。けど、ことあるごとに「掃除がなってない」「料理がまずい」など、いろいろ言われて・・・時には、殴られることも。私も、私なりに努力はしていたんですけど・・・すみません。つまらない話を。 陸:あ、いえこちらこそ!すみません。言いづらいことを聞いてしまって。 空:いえ、大丈夫です。・・・ごめんなさい。 陸:・・・つらいですよね。罵声を浴びるのも、殴られるのも。 空:え? 陸:状況はぜんぜん違いますし、僕は結婚しているわけではないのですが・・・幼少期、似たような経験をしまして。だから、気持ちはわかります。・・・つらかったですよね。 空:・・・そういうところ。 陸:はい。 空:そういう、優しいところ。ますます、りっくんに似てます。 陸:あ・・・(どうしよう。正直に打ち明けてしまおうか。いや、しかし。整形しただなんて。もしかすると驚かれるかもしれない。もしかすると・・・軽蔑されるかも) 要:たらいま~~~・・・ってあれ、伊藤さん!泣いてる!!! 空:あ、 陸:要、おかえり。えっと、これはだな。 要:ちょっと陸先輩!なに女の子泣かしているんですか! 空:違うんです、中林さん!これは・・・私が話を聞いてもらってただけで。 要:話って? 空:離婚したきっかけとか、いろいろと・・・ 陸:そうなんだ。けど、俺も無神経に聞いてしまった。ごめんなさい、空ちゃん。・・・あ。 空:!? 要:空ちゃん?・・・なーんだ、もうそんなに仲良くなったんですか。ならよかったです~~・・・ふああ、ちょっと眠くなってきたんで寝ますね。・・・陸先輩。 陸:どうした? 要:男なら、まどろっこしいことせずに、バシッと決めてくださいよ・・・むにゃむにゃ。 空:・・・寝ちゃいましたね。 陸:ああ、要はあんまり酒が強いほうじゃないからな・・・今日はちょっとつぶれるのも早いと思うけど・・・ 空:りっくん。 陸:!? 空:りっくん、なんでしょ。さっき、とっさに私のこと空ちゃんって。 陸:・・・・その、ごめん。・・・そうなんだ。 空:なんで謝るの。・・・ずっと。ずっと会いたかった。私のほうこそ、謝りたかった。 陸:謝りたい?なんで? 空:りっくんが学校でいじめられてるの知ってたから。 陸:あれはぜんぜん、空ちゃんとは無関係で。 空:関係ないわけない。私の大切な幼馴染が。いじめられてるのに、私、何もできなかった。・・・上級生の男子、体も大きくて。すっごく怖くて。・・・りっくんのこと、守ってあげられなかった。・・・ずっと好きだったのに。ごめんね。りっくん。 陸:・・・いや、いいんだ。・・・昔から、そうだったよね。空ちゃんは。歳は俺のほうが上なのに。俺がぶさいくだっていじめられたりからかわれたら、絶対守ってくれた。 空:そりゃそうだよ。だって。りっくんは何も悪くないのに。ねえ、聞いてもいい?どうして、整形したの? 陸:逃げたかったんだ。元の顔から。自分の醜い容姿から。 空:逃げたかった? 陸:そうなんだ。俺はずっと、顔のせいで嫌な思いばかりしてきた。勉強や仕事でいくら成果を出そうと、結局顔のいいやつには勝てなかった。だから・・・4年前に、こつこつためた金で思い切って顔を全部整形したんだ。・・・職場も変えてな。 空:・・・そうだったの。 陸:けど、顔を変えてもあんまり意味はないもんだな。たしかに、少しばかりはモテるようになった。けど・・・根本はなにも変わっちゃいない。結局、弱い自分を見つめることを逃げて、変化ばかりしても、ダメだったな。 空:・・・ごめんね。ずっと、ずっと好きだったのに。何もできなくて。私。 陸:・・・好きだったよ。俺も。空ちゃんのこと。けど・・・今の俺じゃ、ぜんぜんダメだな。・・・ださいな。俺。最低だ。 空:そんなこと 要:そんなことないすよ!陸先輩! 陸:要!お前、聞いてたのか! 要:先輩は、自分にとってはとっても優しい先輩です!いつも自分がへらへらしてても、笑って許してくれるし、ミスだってかばってくれる!あこがれの先輩です!そんな先輩が・・・自分のことを最低だなんて、言わないでください! 陸:要・・・ 空:中林さん・・ 要:それに、整形したって言いますけど・・・そんなの生き物の脱皮と一緒ですよ!変わりたかったから変わっただけです。決して、逃げなんかじゃないです!さっき先輩も言いましたけど・・・根本は何も変わっていないのなら、あなたは自分にとって最高の先輩であることに変わりはありません!・・・あ、やべ、ちょっとふらふらしてきた~ 陸:?!おい、要!大丈夫か? 空:中林さん! 要:すみません。酒飲んで気分悪いんで、また寝ます・・・ 陸:・・・・ 空:・・・・ 陸・空:ぷ、あはははっ! 空:とても、いい後輩さんを持ったんだね、りっくん。 陸:ああ、自慢の後輩だよ。 空:そうね。・・・ねえ、りっくん。 陸:なに? 空:さっき中林さんも言ったけど、あなたはとても優しい人。私にとっても、それは変わらないわ。 陸:・・・ありがとう。 空:やり直さない? 陸:何を? 空:私たちの、関係。・・・もう一度。二人で。 陸:・・・そうだな、まずはデートからかな。 空:でも私、デートなんてほとんどしたことないからできるかな… 陸:俺だってないよ。大丈夫だよ。・・・空ちゃん。 空:どうしたの? 陸:好きだよ。 空:・・・その目。 陸:え?目? 空:その、きれいな目。ずっと変わってないよ。りっくん。私の大好きな、優しい目。 陸:・・・ありがとう。 0:デート当日。待ち合わせ場所にて。 要:それで、デートすることにはなったけど、一人で待つ勇気がないからって、なんで自分まで連れてこられるんですか?完全にじゃまでしょ、自分! 陸:悪い、要。服まで選んでもらっちゃって。 要:まったくですよ~この恩は、いつか必ず返してもらいますからね。 陸:そうする。必ずな。 要:あ、伊藤さん、来たんじゃないですか。 空:りっくん、お待たせ!ごめんね、電車混んでて。 陸:あ・・・ 要:ほら、行ってきてください!シャキッとしてくださいよ!がんばってリードすること! 陸:わ、わかった。・・・要。 要:?なんですか、先輩 陸:ありがとう。 要:・・・はい!いいからさっさと行ってください! 0:要、二人を見守る 空:服、おしゃれだね 陸:ありがとう!・・・要に選んでもらってな。 空:私は、変じゃないかな・・・ 陸:ぜんぜん!・・・むしろ、その・・・ 空:? 陸:きれいだよ、すごく。 要:(どこかぎこちなく並んで歩く2人。やがて手をつないで歩いている様子を、自分はずっと見ていた。いつしか、一筋の涙が頬をつたった。) 要:応援してますよ、陸先輩。 要:(だからこれはきっと、嬉し涙だ。)