台本概要

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タイトル 勿忘草を君に ~誠~
作者名 伊露葉  (@irodorusekai12)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 過去作の勿忘草を君にを少し時代設定を意識して作った改訂版です。
廓言葉の知識が甘めなので間違っている部分があるかもしれません。

本当は12月中に出したかった…!

漢字ここ読めないとかあればフリガナふるので教えてください。
時間はだいたい2,30分だと思います。
男二人台本ですが、年齢が低いので女性でも可。
やってくれたら喜びます。
アーカイブとか残してくださったら聞きに行きます。
アドリブは世界観、物語の流れを崩さなければOK

2024/1/6 台本微修正しました。

時は元禄。1702年。最年少赤穂義士のあったかもしれない恋のお話。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
主税 72 主税(ちから)。本名大石良金(おおいしよしかね) 大柄。15歳。
75 幸(さち)。本名相山幸之助(そうやまこうのすけ) 小柄。17歳。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
主税:なんて…綺麗な人なんだ… 主税M:雪が降った寒い日。 主税M:奥平さんにいいものを見せてやると連れてこられた舞台。 主税M:そこで私は恋をした。 0:勿忘草を君に~誠~ 主税M:舞台が終わった後は近くの部屋で酒の席になった。 主税M:奥平さんにさっきの舞台で気に入った子がいるか聞かれたので 主税M:見惚れた人の特徴を伝える 主税:あの…端の方で踊っていた小柄で綺麗な人… 主税M:ちょっと待ってろとにやにやしながら奥平さんがお酌しているお姉さんに耳打ちをする 主税M:お姉さんが席を立ち、数分後。再び襖が開く。 主税M:そこには 幸:お初にお目にかかりんす。わっち、幸と申しんす。 主税M:さっきの綺麗な人がいた 幸:主様がわっちを好ましく思っていると聞きんした。 幸:お隣よろしいですかえ? 主税:え、ええ。どうぞ 幸:お猪口を持ってくださいな。お酌しますえ 主税:いえ、私は酒は苦手でして 幸:そう言わずに、さ、さ 主税M:促されるままに一杯呑む。 主税M:緊張で味なんてわからない 主税M:何杯か呑んだ後 主税M:奥平さんに促されるままに隣の部屋へ 主税M:綺麗な人と二人っきりになってしまった 幸:さあ、わっちの身体、好きにしておくんなまし 主税:は!? 幸:そのつもりでいらしたのでしょう? 主税:違います!!ただ私はいいものを見せてやると連れてこられただけで!! 幸:我慢はよくありんせん。さ、どうぞ 主税:こういうのは夫婦になってからでしょう!? 幸:はあ・・・ 主税:互いを思いやって、婚約して、祝言。そして初夜でしょう!? 幸:っうふふ。とても面白う殿方でありんすな 主税:変なこと言いました!? 幸:いえ、至極全うだと思いんす。 幸:でも…いいでありんすか?わっちを一晩買うのは安くないでありんす 幸:おなごよりは安いかもしれぬでありんすが 主税:おなごより…? 幸:この見世にはおのこしかおりんせん。知らなかったでありんすか? 主税:では、さっき奥平さんにお酌していた方も!? 幸:おのこにございます 幸:主様はおのこは嫌いかえ…? 主税:嫌いとかではなく!そもそも人とそういう関係になったことがないので! 幸:経験、してみりゃんせ 主税:だからそれは!心に決めた人と!! 幸:頑なでありんすな。今まで見たことありんせん 主税:だいたい嫌じゃないんですか…?こんなことしてて 幸:こんなこと、でありんすか… 幸:それでもわっちの、生き残るための唯一の手段でありんす 主税:そう、ですよね。好きでしてるわけ、ないですよね 幸:こんなことをしなくても生きてこられた主様には理解しかねるかもしれんせん 主税:すみません。無神経で 主税:でも、無理してほしくないんです 幸:同情はやめてほしいんす 幸:どうせどうにもできないのでありんしょう? 幸:そんなことより、ここはお客様を楽しませるところでありんす 幸:楽しんでおくんなまし 主税:やっぱり私には無理だ。あなたの状況を知って楽しめないよ 幸:色子に同情するなんて…変わった主様でありんすな 主税:あの、よければ友人になりませんか?あなたを放っておけないよ 幸:見て見ぬふりでいいのに…やはり変わったお人でありんす 主税:あなたの名前を教えてほしい 幸:幸と呼ばれておりんす 主税:幸だね。私のことは主税と呼んでほしい。 主税:また来てもいい? 幸:来れるものなら来ればいいでありんす 主税M:呼び名だけ交換して 主税M:その時は別れた 主税M:この後の自分を考えたらどうにもできないのに 主税M:そばに居たいと、思ってしまったんだ 主税M:その後、奥平さんに頼んで毎日…というわけにはいかないので 主税M:月に一回、幸の見世へ通わせてもらうことになった 主税M:奥平さんがニヤニヤしながら「血は争えないな」と言っていたのは 主税M:聞こえないふりをしておく 主税M:会える時間は少ない。自分の今後を考えたら期間も無い 主税M:本当は他に考えなくてはいけないことがたくさんあるけれど 主税M:どうしても、あの寂しそうな瞳を 忘れられなかった 0:一月後 幸:ご指名有難く頂戴しんす。主税さま 主税:堅苦しいのやめようよ。友人の顔見に来たんだから 幸:そうはいきんせん。お仕事でありんすから 主税:せっかく幸の顔見に来たのに 主税:よそよそしくされたら悲しいでしょ? 幸:まだ会うの二度目なのに何言ってんだよ 主税:え!? 幸:お前が堅苦しいのやめろって言ったんだろ。本来の俺はこうだ 主税:急に男らしくなるからびっくりしちゃった 幸:男だって言ってんだろうが。幻滅したか? 主税:ううん。しない。幸がいい 幸:熱烈だな。主税はいいとこの坊ちゃんみたいだし 幸:女なんか選り取り見取りだろ 主税:いや、結婚は考えてなくて… 幸:は?ああ、次男だから家督継がなくていいってか? 主税:ううん。長男。でも家を継ぐのは私じゃない 幸:どういうことだよ。なんかやらかしたのか? 主税:やらかしたというかこれからやるというか…私の話はいいから幸のこと教えてほしい 幸:俺の話ぃ?それこそどうでもいいだろ 主税:そんなことない。聞きたい 幸:変わったやつ。とは言っても坊ちゃんに聞かせられるような話のネタは無い 主税:ここに来る前は何をしていたの? 幸:忘れた。物心ついた時からずっとここにいるしな 幸:男も女も相手にしてきたけど俺は見目がいいから男の相手が多かったかな 幸:女形の修行と称して男の相手させられまくったよ 幸:舞台に上がるようになったのは最近だな 主税:そう、なんだ… 幸:ほら、聞かせる話じゃなかっただろ 主税:ごめん 幸:なんでお前が謝るんだよ 幸:…もうずっとここにいるから、お前が言ってたやつみたいな発想はなかった 主税:え? 幸:心に決めた人とってやつ 主税:私の両親は仲が良くて…父上は昼行燈って呼ばれるくらいどうしようもない人だけれど 主税:それでも母上を想っているのが伝わってきて… 主税:素敵だなと感じていた。だから、添い遂げるなら決めた一人とと昔から思っていたんだ 幸:幸せなところで育ったんだな 主税:うん。幸せだった。とても 幸:だった…? 主税:なんでもない!また一月後に来るよ! 幸:よくわかんねーけど、気負いすぎんなよ! 幸M:主税は本当に変わったやつだ 幸M:俺の時間を買っているのに手を出してこない 幸M:友人になろうとか言いだす 幸M:騙されてここに来たはずなのに俺に絆されている 幸M:いや、絆されているのは俺か 幸M:俺より年下だと思うけど、時折覚悟を決めた武人みたいな目をしやがる 幸M:主税と出会うまでは代り映えのない毎日をただ消化しているだけだったのに 幸M:月に一度の逢瀬を重ねる度に 幸M:俺はいつしか、あいつが来る時間を心待ちにしていた 幸M:見目だけではなく俺がいいと言ってくれる 幸M:素の口調を聞いても顔をしかめないどころか態度が変わらなかった 幸M:そんな主税を…俺は… 0:数か月後 幸:いらっしゃいまし。お待ちしておりんした 主税:初めはいつも女口調だよね 幸:様式美だ様式美 幸:お前との時間は休憩時間みたいなもんだからな 幸:最初だけでもやっておかないとな 主税:幸ってばまじめだね 幸:まじめじゃねーよ。逃げ出したいって思ったこと、何回もある 主税:それはそうなんじゃない?誰でもあると思うよ 幸:俺を連れて逃げてくれねーの? 主税:…意外。幸がそんなこと言うなんて 主税:そうやって口説き落とすの? 幸:誰にでも言うわけないだろ 幸:お前だからだよ 主税:そう言ってもらえるなんて嬉しいな 幸:で?どうなんだよ 主税:…ごめんね 幸:…はぁ。まさかこの俺が袖にされるなんてな 主税:本当は私も一緒に逃げたいと思ったこと、あるよ 主税:でも 私にしかできないことがあるんだ 幸:そうかよ 主税:次に来るのが最後になると思う 幸:なんでだよ。もう飽きたのか 主税:違うよ。幸に飽きるなんて絶対にない 幸:なら、なんで… 主税:やるべきことをやりに行く支度をするんだ 幸:毎回わけのわからないこと言いやがって 主税:これだけは覚えていて。私が幸を嫌いになることなんて絶対にありえない 幸:絶対に? 主税:もちろん 幸:…信じるからな 主税M:もうすぐ私は京を離れることになる 主税M:きっと仇討を果たしたら 私だけではなく、仲間全員命はないだろう 主税M:幸に逢うのは次が最後になる 主税M:きちんとお別れをしよう 主税M:大事に思い出を作ろう 主税M:思い残しの無いように 主税M:私の言葉を 幸に伝えよう 0:一月後 幸:待ち焦がれておりんした 主税:お待たせ。ちゃんと来たよ 幸:今日が最後なのかよ 主税:…うん。そうなると思う 幸:どこに行くんだ? 主税:それは…言えない。 主税:これからすることは誰にも言えないんだ 幸:俺でも? 主税:ごめんね 幸:最後まで袖にされるとは思わなかったぜ 主税:違う!袖になんかしない。ちゃんとお別れを言いに来たんだ 主税:悔いの無いように。でも、幸の顔を見たら… 幸:まあ頑張って来いよ…大石様 主税:!?私の苗字…なぜ…? 幸:お前のことが気になって、頭がいっぱいで…調べたんだ 幸:だから、なんで京を離れるかも知ってる 主税:そこまで知ってるんだ…幸に隠し事はできないね 主税:幸を置いていかなくてはいけないのは心残りだけど…私は江戸へ向かう 主税:主君の仇、吉良を討つために 幸:死ぬ気なんだな。主君のために 主税:泣きそうな顔しないでよ 主税:もしかしたら、生き残れるかもしれない 幸:幕府に逆らって生き残れるわけがない…なあ 主税:なに? 幸:どうせ死ぬなら…思いだけ、俺にくれないか 主税:幸を縛ることになるよ? 幸:心だけでもずっと一緒にいたいんだ 主税:わかった。私の諱を教える。 主税:私は良金というんだ 幸:良金… 主税:呼んでいいのは主君と家族…あと幸だけだ 幸:俺の、もう誰も呼んでない名前、もらってくれるか? 主税:もちろん 幸:相山幸之助。元々俺は相山幸之助なんだ 主税:幸之助。ありがとう。大切に呼ぶよ 幸:良金と契りたい。脇差持ってたよな?貸せ 主税:せっかちだなー。はい 幸:これで死んでも一緒だからな 小指出せ 主税:はい。ん(小指を少し切って盃に血を入れる)ほら、幸之助も 幸:っ(小指を少し切って盃に血を入れる)飲め 主税:うん(飲む)幸之助も 幸:おう(飲む) 主税:これで幸之助は私のものだね 幸:良金も俺のものな。じゃあお楽しみといくか 主税:待って。一つ約束してくれる? 幸:なんだよ 主税:幸之助は死なないでほしい 主税:私の後を追ってきてはいけない 幸:残酷だな。これから地獄に向かうのを黙って見送れってか 主税:幸之助には天国にいてほしい。だからこちらに来ては駄目だ 幸:わかった。ただし、生きる場所は自分で決めるからな 主税:ああ。私のものになってくれてありがとう 主税:幸之助、愛してる 0:朝 幸M:目が覚めたら良金はいなかった 幸M:旅立ったのだろう。江戸へ 幸M:俺も見世から抜け出して江戸へ行く作戦を考える 幸M:持てるだけの金を盗んで良金の後を追いかけたい 幸M:もう一度会いたい 幸M:時間はかかったが見世の金のありかと鍵を探し出して 幸M:人のいない時間帯に決行 幸M:仕事は体調不良で押し切って客をとれないようにした 幸M:仲の良い兄さんに頼んで俺は逃げて身を投げたということにしてもらった 幸M:位牌まで作ってもらったので本当に死んだと思うだろう 幸M:俺の脱出は成功した 幸M:江戸につく頃には良金との別れから半年が経っていた 幸M:風のうわさで赤穂義士は討ち入りを果たし… 幸M:泉岳寺で全員切腹をしたと聞いた 主税:もしかしたら 生き残れるかもしれない(回想) 幸M:なんだよ…やっぱり死んだんじゃないか 幸M:もうこの世にはいないとわかっていてもそばに行きたくて 幸M:俺は泉岳寺を目指した 幸M:泉岳寺は荒れ果てていて墓参りは出来そうにない状態だった 幸M:住職は赤穂義士たちの持ち物を売って金儲けをしていた 幸M:売り物の中に…あった 幸M:あの時の脇差が 幸:これ…ください 幸M:盗んだ有り金全部はたいて脇差を手にする 幸M:これさえあれば何もいらない。 幸M:何も… 主税:愛してる。幸之助(回想) 幸:俺も愛してる…良金 0:勿忘草を君に ~誠~ 完

主税:なんて…綺麗な人なんだ… 主税M:雪が降った寒い日。 主税M:奥平さんにいいものを見せてやると連れてこられた舞台。 主税M:そこで私は恋をした。 0:勿忘草を君に~誠~ 主税M:舞台が終わった後は近くの部屋で酒の席になった。 主税M:奥平さんにさっきの舞台で気に入った子がいるか聞かれたので 主税M:見惚れた人の特徴を伝える 主税:あの…端の方で踊っていた小柄で綺麗な人… 主税M:ちょっと待ってろとにやにやしながら奥平さんがお酌しているお姉さんに耳打ちをする 主税M:お姉さんが席を立ち、数分後。再び襖が開く。 主税M:そこには 幸:お初にお目にかかりんす。わっち、幸と申しんす。 主税M:さっきの綺麗な人がいた 幸:主様がわっちを好ましく思っていると聞きんした。 幸:お隣よろしいですかえ? 主税:え、ええ。どうぞ 幸:お猪口を持ってくださいな。お酌しますえ 主税:いえ、私は酒は苦手でして 幸:そう言わずに、さ、さ 主税M:促されるままに一杯呑む。 主税M:緊張で味なんてわからない 主税M:何杯か呑んだ後 主税M:奥平さんに促されるままに隣の部屋へ 主税M:綺麗な人と二人っきりになってしまった 幸:さあ、わっちの身体、好きにしておくんなまし 主税:は!? 幸:そのつもりでいらしたのでしょう? 主税:違います!!ただ私はいいものを見せてやると連れてこられただけで!! 幸:我慢はよくありんせん。さ、どうぞ 主税:こういうのは夫婦になってからでしょう!? 幸:はあ・・・ 主税:互いを思いやって、婚約して、祝言。そして初夜でしょう!? 幸:っうふふ。とても面白う殿方でありんすな 主税:変なこと言いました!? 幸:いえ、至極全うだと思いんす。 幸:でも…いいでありんすか?わっちを一晩買うのは安くないでありんす 幸:おなごよりは安いかもしれぬでありんすが 主税:おなごより…? 幸:この見世にはおのこしかおりんせん。知らなかったでありんすか? 主税:では、さっき奥平さんにお酌していた方も!? 幸:おのこにございます 幸:主様はおのこは嫌いかえ…? 主税:嫌いとかではなく!そもそも人とそういう関係になったことがないので! 幸:経験、してみりゃんせ 主税:だからそれは!心に決めた人と!! 幸:頑なでありんすな。今まで見たことありんせん 主税:だいたい嫌じゃないんですか…?こんなことしてて 幸:こんなこと、でありんすか… 幸:それでもわっちの、生き残るための唯一の手段でありんす 主税:そう、ですよね。好きでしてるわけ、ないですよね 幸:こんなことをしなくても生きてこられた主様には理解しかねるかもしれんせん 主税:すみません。無神経で 主税:でも、無理してほしくないんです 幸:同情はやめてほしいんす 幸:どうせどうにもできないのでありんしょう? 幸:そんなことより、ここはお客様を楽しませるところでありんす 幸:楽しんでおくんなまし 主税:やっぱり私には無理だ。あなたの状況を知って楽しめないよ 幸:色子に同情するなんて…変わった主様でありんすな 主税:あの、よければ友人になりませんか?あなたを放っておけないよ 幸:見て見ぬふりでいいのに…やはり変わったお人でありんす 主税:あなたの名前を教えてほしい 幸:幸と呼ばれておりんす 主税:幸だね。私のことは主税と呼んでほしい。 主税:また来てもいい? 幸:来れるものなら来ればいいでありんす 主税M:呼び名だけ交換して 主税M:その時は別れた 主税M:この後の自分を考えたらどうにもできないのに 主税M:そばに居たいと、思ってしまったんだ 主税M:その後、奥平さんに頼んで毎日…というわけにはいかないので 主税M:月に一回、幸の見世へ通わせてもらうことになった 主税M:奥平さんがニヤニヤしながら「血は争えないな」と言っていたのは 主税M:聞こえないふりをしておく 主税M:会える時間は少ない。自分の今後を考えたら期間も無い 主税M:本当は他に考えなくてはいけないことがたくさんあるけれど 主税M:どうしても、あの寂しそうな瞳を 忘れられなかった 0:一月後 幸:ご指名有難く頂戴しんす。主税さま 主税:堅苦しいのやめようよ。友人の顔見に来たんだから 幸:そうはいきんせん。お仕事でありんすから 主税:せっかく幸の顔見に来たのに 主税:よそよそしくされたら悲しいでしょ? 幸:まだ会うの二度目なのに何言ってんだよ 主税:え!? 幸:お前が堅苦しいのやめろって言ったんだろ。本来の俺はこうだ 主税:急に男らしくなるからびっくりしちゃった 幸:男だって言ってんだろうが。幻滅したか? 主税:ううん。しない。幸がいい 幸:熱烈だな。主税はいいとこの坊ちゃんみたいだし 幸:女なんか選り取り見取りだろ 主税:いや、結婚は考えてなくて… 幸:は?ああ、次男だから家督継がなくていいってか? 主税:ううん。長男。でも家を継ぐのは私じゃない 幸:どういうことだよ。なんかやらかしたのか? 主税:やらかしたというかこれからやるというか…私の話はいいから幸のこと教えてほしい 幸:俺の話ぃ?それこそどうでもいいだろ 主税:そんなことない。聞きたい 幸:変わったやつ。とは言っても坊ちゃんに聞かせられるような話のネタは無い 主税:ここに来る前は何をしていたの? 幸:忘れた。物心ついた時からずっとここにいるしな 幸:男も女も相手にしてきたけど俺は見目がいいから男の相手が多かったかな 幸:女形の修行と称して男の相手させられまくったよ 幸:舞台に上がるようになったのは最近だな 主税:そう、なんだ… 幸:ほら、聞かせる話じゃなかっただろ 主税:ごめん 幸:なんでお前が謝るんだよ 幸:…もうずっとここにいるから、お前が言ってたやつみたいな発想はなかった 主税:え? 幸:心に決めた人とってやつ 主税:私の両親は仲が良くて…父上は昼行燈って呼ばれるくらいどうしようもない人だけれど 主税:それでも母上を想っているのが伝わってきて… 主税:素敵だなと感じていた。だから、添い遂げるなら決めた一人とと昔から思っていたんだ 幸:幸せなところで育ったんだな 主税:うん。幸せだった。とても 幸:だった…? 主税:なんでもない!また一月後に来るよ! 幸:よくわかんねーけど、気負いすぎんなよ! 幸M:主税は本当に変わったやつだ 幸M:俺の時間を買っているのに手を出してこない 幸M:友人になろうとか言いだす 幸M:騙されてここに来たはずなのに俺に絆されている 幸M:いや、絆されているのは俺か 幸M:俺より年下だと思うけど、時折覚悟を決めた武人みたいな目をしやがる 幸M:主税と出会うまでは代り映えのない毎日をただ消化しているだけだったのに 幸M:月に一度の逢瀬を重ねる度に 幸M:俺はいつしか、あいつが来る時間を心待ちにしていた 幸M:見目だけではなく俺がいいと言ってくれる 幸M:素の口調を聞いても顔をしかめないどころか態度が変わらなかった 幸M:そんな主税を…俺は… 0:数か月後 幸:いらっしゃいまし。お待ちしておりんした 主税:初めはいつも女口調だよね 幸:様式美だ様式美 幸:お前との時間は休憩時間みたいなもんだからな 幸:最初だけでもやっておかないとな 主税:幸ってばまじめだね 幸:まじめじゃねーよ。逃げ出したいって思ったこと、何回もある 主税:それはそうなんじゃない?誰でもあると思うよ 幸:俺を連れて逃げてくれねーの? 主税:…意外。幸がそんなこと言うなんて 主税:そうやって口説き落とすの? 幸:誰にでも言うわけないだろ 幸:お前だからだよ 主税:そう言ってもらえるなんて嬉しいな 幸:で?どうなんだよ 主税:…ごめんね 幸:…はぁ。まさかこの俺が袖にされるなんてな 主税:本当は私も一緒に逃げたいと思ったこと、あるよ 主税:でも 私にしかできないことがあるんだ 幸:そうかよ 主税:次に来るのが最後になると思う 幸:なんでだよ。もう飽きたのか 主税:違うよ。幸に飽きるなんて絶対にない 幸:なら、なんで… 主税:やるべきことをやりに行く支度をするんだ 幸:毎回わけのわからないこと言いやがって 主税:これだけは覚えていて。私が幸を嫌いになることなんて絶対にありえない 幸:絶対に? 主税:もちろん 幸:…信じるからな 主税M:もうすぐ私は京を離れることになる 主税M:きっと仇討を果たしたら 私だけではなく、仲間全員命はないだろう 主税M:幸に逢うのは次が最後になる 主税M:きちんとお別れをしよう 主税M:大事に思い出を作ろう 主税M:思い残しの無いように 主税M:私の言葉を 幸に伝えよう 0:一月後 幸:待ち焦がれておりんした 主税:お待たせ。ちゃんと来たよ 幸:今日が最後なのかよ 主税:…うん。そうなると思う 幸:どこに行くんだ? 主税:それは…言えない。 主税:これからすることは誰にも言えないんだ 幸:俺でも? 主税:ごめんね 幸:最後まで袖にされるとは思わなかったぜ 主税:違う!袖になんかしない。ちゃんとお別れを言いに来たんだ 主税:悔いの無いように。でも、幸の顔を見たら… 幸:まあ頑張って来いよ…大石様 主税:!?私の苗字…なぜ…? 幸:お前のことが気になって、頭がいっぱいで…調べたんだ 幸:だから、なんで京を離れるかも知ってる 主税:そこまで知ってるんだ…幸に隠し事はできないね 主税:幸を置いていかなくてはいけないのは心残りだけど…私は江戸へ向かう 主税:主君の仇、吉良を討つために 幸:死ぬ気なんだな。主君のために 主税:泣きそうな顔しないでよ 主税:もしかしたら、生き残れるかもしれない 幸:幕府に逆らって生き残れるわけがない…なあ 主税:なに? 幸:どうせ死ぬなら…思いだけ、俺にくれないか 主税:幸を縛ることになるよ? 幸:心だけでもずっと一緒にいたいんだ 主税:わかった。私の諱を教える。 主税:私は良金というんだ 幸:良金… 主税:呼んでいいのは主君と家族…あと幸だけだ 幸:俺の、もう誰も呼んでない名前、もらってくれるか? 主税:もちろん 幸:相山幸之助。元々俺は相山幸之助なんだ 主税:幸之助。ありがとう。大切に呼ぶよ 幸:良金と契りたい。脇差持ってたよな?貸せ 主税:せっかちだなー。はい 幸:これで死んでも一緒だからな 小指出せ 主税:はい。ん(小指を少し切って盃に血を入れる)ほら、幸之助も 幸:っ(小指を少し切って盃に血を入れる)飲め 主税:うん(飲む)幸之助も 幸:おう(飲む) 主税:これで幸之助は私のものだね 幸:良金も俺のものな。じゃあお楽しみといくか 主税:待って。一つ約束してくれる? 幸:なんだよ 主税:幸之助は死なないでほしい 主税:私の後を追ってきてはいけない 幸:残酷だな。これから地獄に向かうのを黙って見送れってか 主税:幸之助には天国にいてほしい。だからこちらに来ては駄目だ 幸:わかった。ただし、生きる場所は自分で決めるからな 主税:ああ。私のものになってくれてありがとう 主税:幸之助、愛してる 0:朝 幸M:目が覚めたら良金はいなかった 幸M:旅立ったのだろう。江戸へ 幸M:俺も見世から抜け出して江戸へ行く作戦を考える 幸M:持てるだけの金を盗んで良金の後を追いかけたい 幸M:もう一度会いたい 幸M:時間はかかったが見世の金のありかと鍵を探し出して 幸M:人のいない時間帯に決行 幸M:仕事は体調不良で押し切って客をとれないようにした 幸M:仲の良い兄さんに頼んで俺は逃げて身を投げたということにしてもらった 幸M:位牌まで作ってもらったので本当に死んだと思うだろう 幸M:俺の脱出は成功した 幸M:江戸につく頃には良金との別れから半年が経っていた 幸M:風のうわさで赤穂義士は討ち入りを果たし… 幸M:泉岳寺で全員切腹をしたと聞いた 主税:もしかしたら 生き残れるかもしれない(回想) 幸M:なんだよ…やっぱり死んだんじゃないか 幸M:もうこの世にはいないとわかっていてもそばに行きたくて 幸M:俺は泉岳寺を目指した 幸M:泉岳寺は荒れ果てていて墓参りは出来そうにない状態だった 幸M:住職は赤穂義士たちの持ち物を売って金儲けをしていた 幸M:売り物の中に…あった 幸M:あの時の脇差が 幸:これ…ください 幸M:盗んだ有り金全部はたいて脇差を手にする 幸M:これさえあれば何もいらない。 幸M:何も… 主税:愛してる。幸之助(回想) 幸:俺も愛してる…良金 0:勿忘草を君に ~誠~ 完