台本概要

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タイトル 「手のひら返し」のその先に
作者名 ふらん☆くりん  (@Frank_lin01)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男1、女1) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【あらすじ】
「ああ嘆かわしい!」…声劇サークル部長、影山は今日もまた悩んでいた。
※本作は、前作『「全部乗せ」のその先に』の続編になります。基本1話完結のため本作のみでもお楽しみいただけますが、前作と併せて演じていただけるとより世界観が分かって楽しめるかと思います。

【著作権について】
本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。
また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。

【禁止事項】
●商業目的での利用
●台本の無断使用、無断転載、自作発言等
●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等

【ご利用に際してのお願い】
●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。
●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。
●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
影山 35 声劇サークルの部長。演技のことに対しては妥協を許さない熱血タイプ。
山田 32 影山の声劇サークルに所属する部員。いつも影山の暴走に振り回され飽き飽きしている。基本ツッコミ役。
幸雄 53 薄井幸雄(うすい さちお)。影山が書いた台本に出てくる登場人物。山田役の方が演じてください。
留美 50 竹井留美(たけい るみ)。影山が書いた台本に出てくる登場人物。影山役の方が演じてください。
アカギ 不問 7 影山が書いた台本に出てくる登場人物。影山役の方が演じてください。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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タイトル:「手のひら返し」のその先に : 登場人物: 影山:声劇サークルの部長。演技のことに対しては妥協を許さない熱血タイプ。 山田:影山の声劇サークルに所属する部員。いつも影山の暴走に振り回され飽き飽きしている。基本ツッコミ役。 幸雄:*薄井幸雄《うすい さちお》。影山が書いた台本に出てくる登場人物。山田役の方が演じてください。 留美:*竹井留美《たけい るみ》。影山が書いた台本に出てくる登場人物。影山役の方が演じてください。 アカギ:影山が書いた台本に出てくる登場人物。影山役の方が演じてください。 :()は心の声。〈〉はト書きです。 : 本編: 影山:あ~嘆かわしい!何と嘆かわしいことだ! 山田:何ですか…朝っぱらから鬱陶しい。せっかくの朝練だっていうのに雰囲気台なしじゃないすか。 影山:おやぁ?山田君さぁ、君もずいぶんとエラくなったものだねぇ。この声劇サークルの名物イベント、影山部長の「嘆かわしやタイム」を前にして「鬱陶しい」の一言で片付けるとは。 山田:だって部長の嘆かわしやタイムに付き合ったらロクなことないんですもの。 影山:なっ!何を申すか!この嘆かわしやタイムがあるからこそ、君の演技力は知らず知らずのうちに磨かれて… 山田:〈セリフに被せて〉はいはい…そーですね。で、一応聞きますが、今回はどうしたんですか? 影山:おお!よくぞ聞いてくれた!さすがは頼れる後輩君だ。実はね、今私は究極の「手のひら返し」について真剣に悩んでいるのだ。 山田:究極の「手のひら返し」…ですか? 影山:そう…「裏切り」、「ハシゴ外し」…言い方は様々だが、基本的には信じていた者がある時急に寝返るといった感じの物だな。だが、私が求めている究極の「手のひら返し」とは、なんかこう…もっと天地がひっくり返るようなインパクトを持った物なのだ!でも、それをどう言葉で表現したら良いのか私には*皆目《かいもく》見当も付かないのだよ、 山田:はぁ…〈深いため息〉 影山:ん?どうした?あまりにも話が壮大過ぎてため息しか出ないか? 山田:何かつまんなそうだなぁって。 影山:つ、つまんなそうだと!ほう…そこまで言うなら付き合ってもらおうじゃないか! 山田:え…?嫌ですよ。何言ってんすか。 影山:ふふふ…甘いわね。よもや君に拒否権があるとでも思って? 山田:ぼ、僕にだって選択の自由くらいあります! 影山:〈セリフに被せて〉ないのだよ!この声劇サークルにおいて部長である私の命令は絶対なのだ! 山田:うぅ…理不尽すぎる。 影山:はいはい、文句言わないの。 影山:〈耳元で囁く〉ほんとは芝居、やりたいんだろ? 山田:ぐっ!それはそう…ですけど。 影山:てことで、持ってきました!どーん!〈台本の冊子を机に置く〉 山田:これは…? 影山:ふふふ…これはね、今の私が悩みながらも何とか完成させた究極の「手のひら返し」台本なのだ! 山田:相変わらず用意周到なことで…。 影山:でしょ?ってことで、ぜひ一緒に演じてくれないか!そして、君の*忌憚《きたん》のない意見を聞かせてくれたまえ! 山田:はぁ…仕方ないですね。そこまで言われたらさすがの僕でも断われないですよ。 影山:おお!それでこそ山田君だ!私は嬉しいぞ…うぅ〈泣く〉。それでは早速やろうじゃないか! 山田:分かりました。それで、僕は何の役をやれば良いのですか? 影山:じゃあ…山田君には*薄井幸雄《うすい さちお》役をお願いするわ。 山田:薄井幸雄って…またベタなネーミングですね…。 影山:えへへ、もっと褒めてくれても良いのだぞ。 山田:あの、褒めてませんけど…。 山田:で、部長は何の役をやるんです? 影山:私?他の役全部。 山田:は?それ、大丈夫なんですか? 影山:大丈夫、大丈夫!何とかなるって。 山田:それなら良いですけど…知りませんよ、どうなっても。 影山:まっかせなさーい!じゃあ、準備は良いかしら? 山田:いつでもどうぞ。 影山:それじゃ行くわよ!タイトル『*所詮《しょせん》この世は手のひら返し』、スタートまで3・2・1…アクト! : :-------------------9月20日(金)深夜2時30分 留美:はぁ…はぁ…もう…ダメ。これ以上走れない… 幸雄:あの、大丈夫ですか? 留美:はっ!お願いします…助けてください! 幸雄:ど、どうされたんですか? 留美:私、追われているんです! 幸雄:追われている?誰にですか? 留美:組織の人間が…私の命を狙って… 幸雄:組織の人間…ですか。事情はよく分かりませんが、とにかく危ない目に遭ってらっしゃるんですよね? 留美:はい! 幸雄:分かりました。*私《わたくし》、*薄井幸雄《うすい さちお》、困っている人は放っておけません。私に出来ることがあれば力になりましょう!さ、こっちです! 留美:はい! : :-------------------路地裏にて 幸雄:はぁ…はぁ…ここまで来ればもう安心です。 留美:はぁ…はぁ…ありがとうございます。何とお礼を言ったら良いか。 幸雄:いえいえ、お役に立てて何よりです。そう言えばお名前聞いていませんでしたね。 留美:*竹井留美《たけい るみ》です。 幸雄:留美さんですか、素敵なお名前ですね。 留美:あ、ありがとうございます。 幸雄:留美さん、これからどうされるのですか? 留美:逃げるのに必死で特に考えていません…。 幸雄:もし良かったら私の家に来ませんか?セキュリティもしっかりしてますから安心ですよ。 留美:でも…これ以上ご迷惑をかけるわけには…。 幸雄:良いんですよ。それよりも留美さんの命の方が大切です。 留美:幸雄さん…それじゃあお言葉に甘えて。 幸雄:どうぞどうぞ。 : :-------------------幸雄の家にて 幸雄:さあ着きましたよ。ここが私の家です。 留美:え?…ええ!?だ、大豪邸じゃないですか! 幸雄:そんなことありませんよ。ささ、どうぞ。 留美:お邪魔します…。 : :-------------------リビングにて 留美:うわぁ…なんて広いリビングなの! 幸雄:褒めていただきありがとうございます。私、ちょっと部屋の準備をしてきますのでそこのソファで*寛《くつろ》いでいてください。 留美:何から何までありがとうございます。 幸雄:それでは。 : :-------------------30分後 幸雄:留美さん、お部屋の準備が出来ましたのでこちらへどうぞ。 留美:ありがとうございます。 幸雄:今日は疲れたでしょう?お風呂も沸いているのでゆっくり入って来てください。 留美:あの。幸雄さん…。 幸雄:はい、何でしょう? 留美:私、明日からどうすれば良いのでしょうか… 幸雄:留美さんさえよろしければ、ほとぼりが冷めるまでしばらくここに泊まっていかれてはいかがでしょう? 留美:い、いえ、さすがにそれは申し訳なさ過ぎて… 幸雄:では、どこか行くあてはあるのですか? 留美:それは…ありませんけど…。 幸雄:それでしたら遠慮なさらないでください。必要な物があれば言っていただければ用意いたします。 留美:うぅ…行きずりの私にこんなに優しくしてくださるなんて…〈泣き出す〉 幸雄:安心してください。あなたの安全は私が守りますから。 留美:ううう…はい。このご恩は一生忘れません。 幸雄:今日はもうお休みなさいませ。事情は明日ゆっくりお聞きしますので。 留美:はい。おやすみなさい。 幸雄:あ、そうそう。寝る前にこちらをどうぞ。 留美:これは? 幸雄:軽い睡眠導入剤です。色々考えてしまうと眠れないでしょうから。 留美:お気遣いいただき助かります。んっ…。〈錠剤を飲む〉 幸雄:それではおやすみなさい。 留美:おやすみなさい。幸雄さんも良い夢を。 : :-------------------次の日 幸雄:留美さんおはようございます。朝ですよ。 留美:ふぁ~あ…〈大きくあくびをする〉おはようございます幸雄さん…もう朝ですか。 幸雄:ええ。昨日は良く眠れましたか? 留美:はい。おかげ様でぐっすり眠れました。 幸雄:それは良かった。朝食の準備が出来ていますからリビングへどうぞ。 留美:ありがとうございます。 : :-------------------リビングにて 留美:ん〜!!このパンケーキめちゃめちゃ美味しいです! 幸雄:まだまだありますから好きなだけ召し上がってください。 留美:じゃあ遠慮なく!はむ…モグモグ…んふふ~!幸せ~♡ 幸雄:留美さん、昨日のことですが、組織に追われていると仰っていましたが、よろしければ事情をお聞かせいただけますか? 留美:はい。実は、私は先日までとある秘密結社に所属しておりました。元々は*極秘裏《ごくひり》に人々の生活を監視し、秩序を乱す危険分子を発見次第、人知れず闇に葬る…まあ言ってみれば影の掃除屋みたいなことをやっていたのですが、トップの交代と共に活動内容がどんどん過激になり、ついには無関係な人まで手にかけるようになってしまったんです。それで私、怖くなってこっそり組織を抜け出して来たんです。そうしたら案の定、始末屋に命を狙われることになって…。 幸雄:そうでしたか。それは大変でしたね。よろしければその組織の名前を教えていただけませんか? 留美:え…でも…。 幸雄:大丈夫です。ここで聞いたことは誰にも喋りませんから。 留美:組織の名は…ジェノムと言います。 幸雄:ほう…ジェノムですか。分かりました。 留美:わ、私…本当に大丈夫なんでしょうね? 幸雄:大丈夫ですよ。ご安心ください。ここにいる以上、追手が来ることも誰かに命を狙われることもありませんから。 留美:そう…ですか。それなら良かったです。 幸雄:さて、私はこれから仕事に行ってきますので、留美さんはゆっくりしていてください。あと、この家にある物は自由に使っていただいて結構ですから。ただし、決して外には出ないでくださいね。 留美:はい。分かりました。幸雄さんも気をつけて。 幸雄:ええ、それでは行って参ります。 留美:行ってらっしゃい。 : 留美:ふぅ…ようやく邪魔者がいなくなったわね。さてと、そろそろ調査を開始しますか。 留美:(*薄井幸雄《うすい さちお》…表向きには資産家を装っているけど、その*実《じつ》は秘密防衛組織タイラントの総帥だってことは既に調査済なのよね。) 留美:あ、忘れないうちに本部に報告しなきゃ。 留美:〈メール内容〉『定時連絡、9月20日、*0230《ぜろにーさんぜろ》時において、ターゲットへの接触に成功。*0310《ぜろさんいちぜろ》時、ターゲット宅内部に潜入。ふかふかのソファと広々とした部屋、そして体の芯まで温まるお風呂をいただきベッドにインする。9月21日、*0700《ぜろななぜろぜろ》時、ターゲットの爽やかなイケボで起床。*0730《ぜろななさんぜろ》時、モッチモチのパンケーキをいただく。絶品だっため2回おかわりをする。*0800《ぜろはちぜろぜろ》時、ターゲットの質問に対し組織の名を明かす。以上。』っと。さーて、どこから調査しようかしら。あ…あれ?急に眠気が…うぅ。〈ソファに倒れ込む〉 : :-------------------秘密結社ジェノム本部にて アカギ:な、何だこの報告は!!子供の日記じゃないんだぞ!それに留美のやつ、パンケーキごときで我が組織の機密事項をあっさりバラしおって!おい!即刻やつを始末しろ! 幸雄:始末だなんて物騒なマネやめましょうよ~。 アカギ:なっ!貴様は薄井幸雄!なぜ貴様がここにいる! 幸雄:やだなぁ、ウチの組織の情報収集能力を舐めないで貰いたいなぁ。それに、留美さんは私が責任持って面倒見ますからご心配なく。 アカギ:誰か!こいつを殺せ!生かして帰すな! 幸雄:無駄ですよ。ここの職員の皆さんには全員死んでいただきましたから。 アカギ:そ、そんなバカな! 幸雄:あとは、総帥である貴方だけです。 アカギ:や、やめてくれ!頼む、命だけは助けてくれ! 幸雄:ダメですよ。貴方は多くの罪もない人々の命を奪った。それは*万死《ばんし》に値することです。おや、もうこんな時間だ。早く済ませて夕飯の準備をしなければ。それじゃあ、さようなら~。 幸雄:〈アカギに向けて銃の引き金を引く〉 アカギ:や、やめ…ぐぁ!〈絶命する〉 : :-------------------幸雄の自宅にて 幸雄:ただいま帰りました。 留美:幸雄さん、おかえりなさい。 幸雄:留美さん、大人しくしてましたか? 留美:はい。私、相当疲れていたみたいで気付いたらソファで眠ってました。 幸雄:そうですか。あ、そうそう。留美さんにお伝えしたいことがありまして。 留美:何ですか? 幸雄:ちょっと耳を貸してください。 留美:は、はい。 幸雄:〈耳元で囁く〉「*汝《なんじ》の記憶は忘却の彼方へと消え去り、新たな*主《あるじ》の元、その命を*以《もっ》てこれに仕えよ…*魔界操術《まかいそうじゅつ》『*心転従魂《しんてんじゅうこん》』!」 留美:(あぁ…頭の中から記憶が抜けて…どんどん真っ白になっていく…) : 幸雄:…お前は何者だ? 留美:私は…誰? 幸雄:(ふふふ…完全に記憶が消え去ったようだな。)お前の名は「マユリ」。 留美:私は…マユリ。 幸雄:そうだ。さぁ、マユリ。お前の使命を言ってみろ。 留美:私の使命は…我が主に身も心も捧げてお仕えすることです…。 幸雄:よろしい。では共に参ろうか。我らが主、魔界皇帝『ゲドム』様の*御許《みもと》へ! 留美:はい…喜んで。 : :-------------------劇終了 影山:お疲れ様~。で、どうだった? 山田:えーっと… 影山:えーっと? 山田:これ…ちょっと壮大過ぎません?予想の斜め45度行ってましたけど…。 影山:そうかなぁ?これでもまだ足りないと思うんだけど。 山田:どんだけひっくり返したら気が済むんですか!手のひら返しってもうちょっとスケールが小さい物じゃないんですか?そもそも秘密防衛組織じゃなかったでしたっけ?最後のアレ何ですか。魔界皇帝『ゲドム』って!秘密防衛組織が地球売り渡して天界とドンパチでもやるつもりですか! 影山:まあまあ、落ち着きたまえよ。これくらいじゃないと「究極」には程遠いでしょ? 山田:ふぅ…影山部長の描くイメージには正直ついて行けません。 影山:お?お?山田君もついに私に対して手のひら返しするのかな? 山田:しませんよ。部長じゃあるまいし。ていうか、さっきの台本やった後じゃ何やってもちっぽけに思えて、そんな気すら起きませんって。 影山:うしし。じゃあ作戦成功だな。 山田:え?どういうことですか? 影山:山田君、サークル辞めようとしてたよね? 山田:え…どうしてそれを? 影山:ふふふ…部長の私には何でもお見通しなのだよ。 山田:はぁ…まったく、影山部長には敵わないなぁ。その通りです。僕、ここの所成績が下がりっぱなしで、その事を親にはずっと隠していたんです。それなのになぜか全部バレてて、この前めちゃめちゃ叱られてサークル辞めろとまで言われました。それで僕、どうして良いか分からなくて…。 影山:ほほう…それでそれで? 山田:僕、このサークルが大好きです!だから絶対に辞めたくないんです! 影山:じゃあ辞めなくて良いんじゃない? 山田:え…? 影山:一度しかない人生だ。やりたいと思える時にやっとかないと後で後悔することになるぞ。 山田:ううう…先輩…!!ありがとうございます!! 影山:おーよしよし、可愛い奴よ。その代わり、勉強もしっかり頑張るんだぞ! 山田:はい!頑張ります!それじゃあ授業行って来ます! 影山:おう!行ってらっしゃい! :-------------------山田が退室する。 影山:さてと…スマホ、スマホっと。 影山:〈メール内容〉『おはようございます。先日ご依頼いただいた件について、本日*0800《ぜろはちぜろぜろ》時に作戦を決行しました。結果は、ターゲットに予想以上の心理的効果を与えることに成功。なお、今後についても逐次データを送信いたします。以上、定時報告でした。それではご機嫌よう……お母様。』 : :~完~

タイトル:「手のひら返し」のその先に : 登場人物: 影山:声劇サークルの部長。演技のことに対しては妥協を許さない熱血タイプ。 山田:影山の声劇サークルに所属する部員。いつも影山の暴走に振り回され飽き飽きしている。基本ツッコミ役。 幸雄:*薄井幸雄《うすい さちお》。影山が書いた台本に出てくる登場人物。山田役の方が演じてください。 留美:*竹井留美《たけい るみ》。影山が書いた台本に出てくる登場人物。影山役の方が演じてください。 アカギ:影山が書いた台本に出てくる登場人物。影山役の方が演じてください。 :()は心の声。〈〉はト書きです。 : 本編: 影山:あ~嘆かわしい!何と嘆かわしいことだ! 山田:何ですか…朝っぱらから鬱陶しい。せっかくの朝練だっていうのに雰囲気台なしじゃないすか。 影山:おやぁ?山田君さぁ、君もずいぶんとエラくなったものだねぇ。この声劇サークルの名物イベント、影山部長の「嘆かわしやタイム」を前にして「鬱陶しい」の一言で片付けるとは。 山田:だって部長の嘆かわしやタイムに付き合ったらロクなことないんですもの。 影山:なっ!何を申すか!この嘆かわしやタイムがあるからこそ、君の演技力は知らず知らずのうちに磨かれて… 山田:〈セリフに被せて〉はいはい…そーですね。で、一応聞きますが、今回はどうしたんですか? 影山:おお!よくぞ聞いてくれた!さすがは頼れる後輩君だ。実はね、今私は究極の「手のひら返し」について真剣に悩んでいるのだ。 山田:究極の「手のひら返し」…ですか? 影山:そう…「裏切り」、「ハシゴ外し」…言い方は様々だが、基本的には信じていた者がある時急に寝返るといった感じの物だな。だが、私が求めている究極の「手のひら返し」とは、なんかこう…もっと天地がひっくり返るようなインパクトを持った物なのだ!でも、それをどう言葉で表現したら良いのか私には*皆目《かいもく》見当も付かないのだよ、 山田:はぁ…〈深いため息〉 影山:ん?どうした?あまりにも話が壮大過ぎてため息しか出ないか? 山田:何かつまんなそうだなぁって。 影山:つ、つまんなそうだと!ほう…そこまで言うなら付き合ってもらおうじゃないか! 山田:え…?嫌ですよ。何言ってんすか。 影山:ふふふ…甘いわね。よもや君に拒否権があるとでも思って? 山田:ぼ、僕にだって選択の自由くらいあります! 影山:〈セリフに被せて〉ないのだよ!この声劇サークルにおいて部長である私の命令は絶対なのだ! 山田:うぅ…理不尽すぎる。 影山:はいはい、文句言わないの。 影山:〈耳元で囁く〉ほんとは芝居、やりたいんだろ? 山田:ぐっ!それはそう…ですけど。 影山:てことで、持ってきました!どーん!〈台本の冊子を机に置く〉 山田:これは…? 影山:ふふふ…これはね、今の私が悩みながらも何とか完成させた究極の「手のひら返し」台本なのだ! 山田:相変わらず用意周到なことで…。 影山:でしょ?ってことで、ぜひ一緒に演じてくれないか!そして、君の*忌憚《きたん》のない意見を聞かせてくれたまえ! 山田:はぁ…仕方ないですね。そこまで言われたらさすがの僕でも断われないですよ。 影山:おお!それでこそ山田君だ!私は嬉しいぞ…うぅ〈泣く〉。それでは早速やろうじゃないか! 山田:分かりました。それで、僕は何の役をやれば良いのですか? 影山:じゃあ…山田君には*薄井幸雄《うすい さちお》役をお願いするわ。 山田:薄井幸雄って…またベタなネーミングですね…。 影山:えへへ、もっと褒めてくれても良いのだぞ。 山田:あの、褒めてませんけど…。 山田:で、部長は何の役をやるんです? 影山:私?他の役全部。 山田:は?それ、大丈夫なんですか? 影山:大丈夫、大丈夫!何とかなるって。 山田:それなら良いですけど…知りませんよ、どうなっても。 影山:まっかせなさーい!じゃあ、準備は良いかしら? 山田:いつでもどうぞ。 影山:それじゃ行くわよ!タイトル『*所詮《しょせん》この世は手のひら返し』、スタートまで3・2・1…アクト! : :-------------------9月20日(金)深夜2時30分 留美:はぁ…はぁ…もう…ダメ。これ以上走れない… 幸雄:あの、大丈夫ですか? 留美:はっ!お願いします…助けてください! 幸雄:ど、どうされたんですか? 留美:私、追われているんです! 幸雄:追われている?誰にですか? 留美:組織の人間が…私の命を狙って… 幸雄:組織の人間…ですか。事情はよく分かりませんが、とにかく危ない目に遭ってらっしゃるんですよね? 留美:はい! 幸雄:分かりました。*私《わたくし》、*薄井幸雄《うすい さちお》、困っている人は放っておけません。私に出来ることがあれば力になりましょう!さ、こっちです! 留美:はい! : :-------------------路地裏にて 幸雄:はぁ…はぁ…ここまで来ればもう安心です。 留美:はぁ…はぁ…ありがとうございます。何とお礼を言ったら良いか。 幸雄:いえいえ、お役に立てて何よりです。そう言えばお名前聞いていませんでしたね。 留美:*竹井留美《たけい るみ》です。 幸雄:留美さんですか、素敵なお名前ですね。 留美:あ、ありがとうございます。 幸雄:留美さん、これからどうされるのですか? 留美:逃げるのに必死で特に考えていません…。 幸雄:もし良かったら私の家に来ませんか?セキュリティもしっかりしてますから安心ですよ。 留美:でも…これ以上ご迷惑をかけるわけには…。 幸雄:良いんですよ。それよりも留美さんの命の方が大切です。 留美:幸雄さん…それじゃあお言葉に甘えて。 幸雄:どうぞどうぞ。 : :-------------------幸雄の家にて 幸雄:さあ着きましたよ。ここが私の家です。 留美:え?…ええ!?だ、大豪邸じゃないですか! 幸雄:そんなことありませんよ。ささ、どうぞ。 留美:お邪魔します…。 : :-------------------リビングにて 留美:うわぁ…なんて広いリビングなの! 幸雄:褒めていただきありがとうございます。私、ちょっと部屋の準備をしてきますのでそこのソファで*寛《くつろ》いでいてください。 留美:何から何までありがとうございます。 幸雄:それでは。 : :-------------------30分後 幸雄:留美さん、お部屋の準備が出来ましたのでこちらへどうぞ。 留美:ありがとうございます。 幸雄:今日は疲れたでしょう?お風呂も沸いているのでゆっくり入って来てください。 留美:あの。幸雄さん…。 幸雄:はい、何でしょう? 留美:私、明日からどうすれば良いのでしょうか… 幸雄:留美さんさえよろしければ、ほとぼりが冷めるまでしばらくここに泊まっていかれてはいかがでしょう? 留美:い、いえ、さすがにそれは申し訳なさ過ぎて… 幸雄:では、どこか行くあてはあるのですか? 留美:それは…ありませんけど…。 幸雄:それでしたら遠慮なさらないでください。必要な物があれば言っていただければ用意いたします。 留美:うぅ…行きずりの私にこんなに優しくしてくださるなんて…〈泣き出す〉 幸雄:安心してください。あなたの安全は私が守りますから。 留美:ううう…はい。このご恩は一生忘れません。 幸雄:今日はもうお休みなさいませ。事情は明日ゆっくりお聞きしますので。 留美:はい。おやすみなさい。 幸雄:あ、そうそう。寝る前にこちらをどうぞ。 留美:これは? 幸雄:軽い睡眠導入剤です。色々考えてしまうと眠れないでしょうから。 留美:お気遣いいただき助かります。んっ…。〈錠剤を飲む〉 幸雄:それではおやすみなさい。 留美:おやすみなさい。幸雄さんも良い夢を。 : :-------------------次の日 幸雄:留美さんおはようございます。朝ですよ。 留美:ふぁ~あ…〈大きくあくびをする〉おはようございます幸雄さん…もう朝ですか。 幸雄:ええ。昨日は良く眠れましたか? 留美:はい。おかげ様でぐっすり眠れました。 幸雄:それは良かった。朝食の準備が出来ていますからリビングへどうぞ。 留美:ありがとうございます。 : :-------------------リビングにて 留美:ん〜!!このパンケーキめちゃめちゃ美味しいです! 幸雄:まだまだありますから好きなだけ召し上がってください。 留美:じゃあ遠慮なく!はむ…モグモグ…んふふ~!幸せ~♡ 幸雄:留美さん、昨日のことですが、組織に追われていると仰っていましたが、よろしければ事情をお聞かせいただけますか? 留美:はい。実は、私は先日までとある秘密結社に所属しておりました。元々は*極秘裏《ごくひり》に人々の生活を監視し、秩序を乱す危険分子を発見次第、人知れず闇に葬る…まあ言ってみれば影の掃除屋みたいなことをやっていたのですが、トップの交代と共に活動内容がどんどん過激になり、ついには無関係な人まで手にかけるようになってしまったんです。それで私、怖くなってこっそり組織を抜け出して来たんです。そうしたら案の定、始末屋に命を狙われることになって…。 幸雄:そうでしたか。それは大変でしたね。よろしければその組織の名前を教えていただけませんか? 留美:え…でも…。 幸雄:大丈夫です。ここで聞いたことは誰にも喋りませんから。 留美:組織の名は…ジェノムと言います。 幸雄:ほう…ジェノムですか。分かりました。 留美:わ、私…本当に大丈夫なんでしょうね? 幸雄:大丈夫ですよ。ご安心ください。ここにいる以上、追手が来ることも誰かに命を狙われることもありませんから。 留美:そう…ですか。それなら良かったです。 幸雄:さて、私はこれから仕事に行ってきますので、留美さんはゆっくりしていてください。あと、この家にある物は自由に使っていただいて結構ですから。ただし、決して外には出ないでくださいね。 留美:はい。分かりました。幸雄さんも気をつけて。 幸雄:ええ、それでは行って参ります。 留美:行ってらっしゃい。 : 留美:ふぅ…ようやく邪魔者がいなくなったわね。さてと、そろそろ調査を開始しますか。 留美:(*薄井幸雄《うすい さちお》…表向きには資産家を装っているけど、その*実《じつ》は秘密防衛組織タイラントの総帥だってことは既に調査済なのよね。) 留美:あ、忘れないうちに本部に報告しなきゃ。 留美:〈メール内容〉『定時連絡、9月20日、*0230《ぜろにーさんぜろ》時において、ターゲットへの接触に成功。*0310《ぜろさんいちぜろ》時、ターゲット宅内部に潜入。ふかふかのソファと広々とした部屋、そして体の芯まで温まるお風呂をいただきベッドにインする。9月21日、*0700《ぜろななぜろぜろ》時、ターゲットの爽やかなイケボで起床。*0730《ぜろななさんぜろ》時、モッチモチのパンケーキをいただく。絶品だっため2回おかわりをする。*0800《ぜろはちぜろぜろ》時、ターゲットの質問に対し組織の名を明かす。以上。』っと。さーて、どこから調査しようかしら。あ…あれ?急に眠気が…うぅ。〈ソファに倒れ込む〉 : :-------------------秘密結社ジェノム本部にて アカギ:な、何だこの報告は!!子供の日記じゃないんだぞ!それに留美のやつ、パンケーキごときで我が組織の機密事項をあっさりバラしおって!おい!即刻やつを始末しろ! 幸雄:始末だなんて物騒なマネやめましょうよ~。 アカギ:なっ!貴様は薄井幸雄!なぜ貴様がここにいる! 幸雄:やだなぁ、ウチの組織の情報収集能力を舐めないで貰いたいなぁ。それに、留美さんは私が責任持って面倒見ますからご心配なく。 アカギ:誰か!こいつを殺せ!生かして帰すな! 幸雄:無駄ですよ。ここの職員の皆さんには全員死んでいただきましたから。 アカギ:そ、そんなバカな! 幸雄:あとは、総帥である貴方だけです。 アカギ:や、やめてくれ!頼む、命だけは助けてくれ! 幸雄:ダメですよ。貴方は多くの罪もない人々の命を奪った。それは*万死《ばんし》に値することです。おや、もうこんな時間だ。早く済ませて夕飯の準備をしなければ。それじゃあ、さようなら~。 幸雄:〈アカギに向けて銃の引き金を引く〉 アカギ:や、やめ…ぐぁ!〈絶命する〉 : :-------------------幸雄の自宅にて 幸雄:ただいま帰りました。 留美:幸雄さん、おかえりなさい。 幸雄:留美さん、大人しくしてましたか? 留美:はい。私、相当疲れていたみたいで気付いたらソファで眠ってました。 幸雄:そうですか。あ、そうそう。留美さんにお伝えしたいことがありまして。 留美:何ですか? 幸雄:ちょっと耳を貸してください。 留美:は、はい。 幸雄:〈耳元で囁く〉「*汝《なんじ》の記憶は忘却の彼方へと消え去り、新たな*主《あるじ》の元、その命を*以《もっ》てこれに仕えよ…*魔界操術《まかいそうじゅつ》『*心転従魂《しんてんじゅうこん》』!」 留美:(あぁ…頭の中から記憶が抜けて…どんどん真っ白になっていく…) : 幸雄:…お前は何者だ? 留美:私は…誰? 幸雄:(ふふふ…完全に記憶が消え去ったようだな。)お前の名は「マユリ」。 留美:私は…マユリ。 幸雄:そうだ。さぁ、マユリ。お前の使命を言ってみろ。 留美:私の使命は…我が主に身も心も捧げてお仕えすることです…。 幸雄:よろしい。では共に参ろうか。我らが主、魔界皇帝『ゲドム』様の*御許《みもと》へ! 留美:はい…喜んで。 : :-------------------劇終了 影山:お疲れ様~。で、どうだった? 山田:えーっと… 影山:えーっと? 山田:これ…ちょっと壮大過ぎません?予想の斜め45度行ってましたけど…。 影山:そうかなぁ?これでもまだ足りないと思うんだけど。 山田:どんだけひっくり返したら気が済むんですか!手のひら返しってもうちょっとスケールが小さい物じゃないんですか?そもそも秘密防衛組織じゃなかったでしたっけ?最後のアレ何ですか。魔界皇帝『ゲドム』って!秘密防衛組織が地球売り渡して天界とドンパチでもやるつもりですか! 影山:まあまあ、落ち着きたまえよ。これくらいじゃないと「究極」には程遠いでしょ? 山田:ふぅ…影山部長の描くイメージには正直ついて行けません。 影山:お?お?山田君もついに私に対して手のひら返しするのかな? 山田:しませんよ。部長じゃあるまいし。ていうか、さっきの台本やった後じゃ何やってもちっぽけに思えて、そんな気すら起きませんって。 影山:うしし。じゃあ作戦成功だな。 山田:え?どういうことですか? 影山:山田君、サークル辞めようとしてたよね? 山田:え…どうしてそれを? 影山:ふふふ…部長の私には何でもお見通しなのだよ。 山田:はぁ…まったく、影山部長には敵わないなぁ。その通りです。僕、ここの所成績が下がりっぱなしで、その事を親にはずっと隠していたんです。それなのになぜか全部バレてて、この前めちゃめちゃ叱られてサークル辞めろとまで言われました。それで僕、どうして良いか分からなくて…。 影山:ほほう…それでそれで? 山田:僕、このサークルが大好きです!だから絶対に辞めたくないんです! 影山:じゃあ辞めなくて良いんじゃない? 山田:え…? 影山:一度しかない人生だ。やりたいと思える時にやっとかないと後で後悔することになるぞ。 山田:ううう…先輩…!!ありがとうございます!! 影山:おーよしよし、可愛い奴よ。その代わり、勉強もしっかり頑張るんだぞ! 山田:はい!頑張ります!それじゃあ授業行って来ます! 影山:おう!行ってらっしゃい! :-------------------山田が退室する。 影山:さてと…スマホ、スマホっと。 影山:〈メール内容〉『おはようございます。先日ご依頼いただいた件について、本日*0800《ぜろはちぜろぜろ》時に作戦を決行しました。結果は、ターゲットに予想以上の心理的効果を与えることに成功。なお、今後についても逐次データを送信いたします。以上、定時報告でした。それではご機嫌よう……お母様。』 : :~完~