台本概要

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タイトル STRAYSHEEP
作者名 紫音  (@Sion_kyo2)
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『選んだのは、贖罪。』
かつて、殺し屋「デュアルバレット」として名を馳せたアデルとチェルシー。現在は何でも屋として平穏な日々を送っている二人だったが、ある日の突然の銃声と共に、その平穏は崩れ去ろうとしていた——。
――――――――――――――――――――――――――――――――
時間は20分~30分を想定しています。人数は5人としていますが、冒頭に少しだけ兼ね役ありです(兼ね役はどなたでも大丈夫です)。
上演の際、お手数でなければお知らせいただけると嬉しいです。※必須ではないです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アデル 45 何でも屋。かつては殺し屋“デュアルバレット”として知られていた。
チェルシー 56 何でも屋。かつては殺し屋“デュアルバレット”として知られていた。
ジェイド 27 アデルとチェルシーの友人。街の教会で暮らしている青年。
ルシア 57 殺し屋。ロイドの相棒(バディ)。
ロイド 56 殺し屋。ルシアの相棒(バディ)。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:深夜、真っ暗な路地裏にて。 0:一人の男が、壁際へと追い詰められていた。 0:男の逃げ道を塞ぐように立ちはだかる二人。その手には拳銃が握られている。 男:お、お前ら……一体なんなんだ、何者なんだよ……!? ルシア:これから死ぬ人間に、名乗ったところで意味がないでしょう。 男:し、死ぬって……俺が何したって言うんだ……!? ロイド:さあねぇ、俺たちにそんなの聞かれたって知らないけど。 ロイド:どっかで恨まれるようなことでもしちゃったんじゃないかい?まあ、運の尽きだと思って大人しく死にな。 男:い、嫌だ……頼む、助けてくれ……ッ! ロイド:残念だけど、そのお願いは聞けないねぇ。こっちも仕事だからさ。 ロイド:ああ、抵抗してくれる分には構わないよ?その方が面白いからね。 ルシア:……ロイド、仕事中におふざけはやめてください。 ルシア:さっさと済ませましょう。時間の無駄です。 ロイド:……だってさ、お兄さん。 ロイド:ということで、お喋りはここまでだ。 0:二人は男に銃口を向ける。 男:やめろ……やめてくれ、死にたくない……! ルシア:それでは……さようなら。 0:銃声が響く。 0:そして、静寂が訪れた。 0:  0:  0:  0:  0:  0:翌日。 0:街を歩くアデルとチェルシー。 アデル:……思ったより早く片付いたな、家の片付け代行の依頼。 チェルシー:そうねぇ、夕方頃までかかるんじゃないかと思ったけど、まだお昼だものね。 チェルシー:この後って、何か依頼入ってたかしら? アデル:いや、今日はもう入ってないな。 チェルシー:そっか。じゃあ久しぶりに家でゆっくり休めるかしらね。 アデル:最近依頼が多くて大忙しだったからな。 チェルシー:たくさん仕事が来るのは、何でも屋としては嬉しいことなんだけどね。 0:そのとき、誰かが息を切らして駆けてきた。 ジェイド:おーい、アデル、チェルシー! チェルシー:……あら、ジェイド! アデル:お前どうしたんだよ、そんなに慌てて。 ジェイド:あのさ、お前らこの辺で子猫を見かけなかったか? チェルシー:子猫? アデル:なんでまた子猫なんて探してんだ。 ジェイド:実は……教会で面倒見てる子猫がさ、今朝から見つからなくなっちまって…… チェルシー:どこに行ったか心当たりないの? ジェイド:探せるところは全部探したんだよ、でもどこにもいなくて…… ジェイド:朝からずーっと探してるんだけど……ほんとに、どこ行っちまったのか…… アデル:そりゃあ大変だな…… アデル:……良ければ、俺たちも探すのを手伝おうか。 チェルシー:そうね。今日はもう仕事も片付いちゃったし、私たちも協力する! ジェイド:本当か!?あ、ありがとう、助かるぜ……! アデル:よし、そうと決まればぐずぐずしてられないな。暗くなる前になんとか見つけよう。 チェルシー:手分けしましょ、私は西側、アデルは東側、ジェイドは南側。 ジェイド:了解だ!それじゃあ、あとで合流な! 0:  0:  0:  0:同じ頃、とある酒場にて。 0:スマートフォンを確認しているルシアと、隣でタバコをふかしているロイド。 ロイド:なあルシア。 ルシア:なんですか。 ロイド:まだなのかい、ボスからの連絡。 ルシア:ええ、まだ何も。 ロイド:ったく……『次の指示を送るまでここで待て』っていうから待ってるのに。 ロイド:いつまでほったらかすつもりなんだか……もうだいぶ長い時間待ってるんだけど。 ルシア:何言ってるんですか、まだ1時間も経っていませんよ。 ロイド:……は?マジで? ロイド:お前の腕時計止まってないかい? ルシア:いいえ、正常です。貴方が子どもみたいなこと言ってるだけでしょう。 ロイド:悪かったねぇ、俺は待つのが嫌いなんだよ 0:そのとき、スマートフォンの通知音が鳴る。 0:ルシアが画面を確認すると、一件のメールが届いていた。 ルシア:……ああ、ほら。 ルシア:来ましたよ、ボスからのメール。 ロイド:お、やっとかい、待ちくたびれたよ。 ロイド:で?次はどこのどいつを殺れって? 0:ルシアはメールに一通り目を通し、文面を読み上げた。 ルシア:次のターゲットは…… ルシア:……“デュアルバレット”、だそうです。 ロイド:……は?なに、ソレ。 ロイド:バレット……弾丸? ロイド:俺たちに弾丸仕留めろって? ルシア:そういう呼び名、なんでしょう。 ルシア:年齢や現職などの記載は抜けていますが……資料によれば、男女二人組の“元”殺し屋だそうですよ。 ロイド:へぇ……そうきたか。 ロイド:同業殺しとは面白いじゃないか、どんな相手か楽しみだね。 ルシア:正確に言えば、“元”同業ですね。 ルシア:現役だったときには、腕の良い殺し屋として恐れられていたようですが……正直、時間はかからないかと。 ロイド:そうだねぇ、どうせ足腰やられて感覚が鈍った隠居だろ。 ロイド:さくっと終わらせよう。 ルシア:そうですね。『必ず仕留めろ』、とのことですので。……行きましょう。 0:  0:  0:  0:数時間後。 0:西側の捜索を続けているチェルシー。 チェルシー:……うーん、ここにもいないかぁ……どこに行っちゃったのかしら。 チェルシー:迷子の子猫ちゃーん、出ておいでー! チェルシー:……って言って出てきてくれたら苦労しないんだけど…… チェルシー:別の場所も探してみようかしら…… ロイド:……何か探し物かい? チェルシー:……ッ……!? 0:突然背後から声をかけられ、驚いて振り返るチェルシー。 ロイド:やあ、どうも。 チェルシー:あんた、誰……っていうか、いつからそこに…… ロイド:さっきからずっと後ろにいたけど?気付かなかったかい? チェルシー:は?……なにそれ怖……ストーカー? ロイド:ストーカーだなんて失礼だなぁ。ただの通りすがりだよ。 チェルシー:……。 0:チェルシー、静かにロイドから離れる。 チェルシー:ただの通りすがりから……こんなに血の匂いがするなんておかしいんじゃない? ロイド:……ククッ……やっぱり分かるもんなんだねぇ?さすがは同業者。 チェルシー:……同業者? ロイド:ああ、“元”同業者って言った方が適切かな? チェルシー:何の話よ。 ロイド:“デュアルバレット”。 チェルシー:……ッ……!? ロイド:随分かっこいい呼び名じゃないか。誰につけてもらったんだい? チェルシー:……そんな名前知らないけど。他所の誰かと間違えてないかしら。 ロイド:隠す必要ないだろ、俺もあんたと同じだよ。 0:ロイドが銃を抜き、チェルシーに銃口を向ける。 チェルシー:……人違いよ、勘弁して。 ロイド:本当に人違いかどうか、撃って確かめようか? チェルシー:……。 0:そのまま数秒睨み合う。 チェルシー:……(ため息)。 チェルシーがゆっくりと銃を構える。 チェルシー:……とりあえず、敵ってことでいいのよね? ロイド:ああそうだよ、俺はあんたを始末しにきた殺し屋さ。 ロイド:でもただ殺るんじゃつまらないから……せっかくなら楽しまなきゃだろ? チェルシー:なにそれ、意味わかんない……ていうか、あんたに付き合ってる暇なんかないのよ。 ロイド:そりゃあご愁傷様。悪いけど、そっちの都合なんて知ったこっちゃないね。 ロイド:……さあ、始めようか。 0:  0:  0:  0:同じ頃、東側のアデルも捜索を続けていた。 アデル:……見つからねぇな……ここにはいねぇか。 アデル:なら場所を変えて…… 0:アデルが何かに気付いたように動きを止めた。 アデル:……。 アデル:そこに誰かいるのか。 0:暫し沈黙。 0:その後、物陰からルシアが現れる。 ルシア:……気付かれていましたか。 アデル:妙な気配を感じたんでな。 アデル:……それと、血の匂いも。 ルシア:……なるほど、勘が鋭いのですね。 アデル:お前、何者だ。 ルシア:これから死ぬ人間に、名乗ったところで意味がないでしょう。 0:ルシアが銃を構える。 アデル:……俺はお前に恨まれるようなことをした覚えはねぇが。 ルシア:貴方に恨みなどありません。もとより興味もありませんから。 ルシア:ただ、仕事ですので。 アデル:だから、どうして俺を…… ルシア:“デュアルバレット”。 アデル:……ッ……! ルシア:貴方の始末が私の仕事です。大人しく、死んでください。 アデル:……。 アデル:そう言われて、はい分かりましたって頷く奴がいると思うか? ルシア:頷いて頂く必要などありません。問答無用で引き金を引けばいいだけですので。 0:ルシアが引き金に指をかける。 アデル:……勘弁してくれよ。 0:アデルも銃を構える。 アデル:俺たちは……デュアルバレットじゃない。 ルシア:いいえ、貴方はデュアルバレットです。人違いだとは言わせませんよ。 アデル:そうじゃない。……デュアルバレットは死んだ。もう、いないんだよ。 ルシア:意味が理解できません。 ルシア:ではここにいる貴方は、何者だと? アデル:……何者……なんだろうな。……多分、ただの亡霊だ。 ルシア:……。 アデル:……俺はもう、デュアルバレットじゃない。今ここにいる俺は、ただの何でも屋だ。 アデル:今の俺は……死ぬわけにいかない。 ルシア:……(ため息)。 ルシア:面倒なことになりましたね、なるべく時間をかけたくなかったのですが……まあいいでしょう。 ルシア:貴方がここで死ぬ事実は変わりません。……お覚悟を。 0:  0:  0:  0:同じ頃、南側のジェイドは、汗だくになって街を駆け回っていた。 ジェイド:おーい、レオー!!どこ行ったんだよー!!おーい!! ジェイド:頼むよ……出てきてくれよぉ……。 ジェイド:怪我してたりしねぇかな……今頃お腹空かしてるかも……。 ジェイド:うう……レオ……。 ジェイド:……あれ……? 0:ジェイドは公園の前で立ち止まる。 0:よく見てみると、公園のベンチで毛繕いをしている子猫が一匹。 ジェイド:あれって……あれってもしかして……!? 0:駆けていくジェイド。子猫を抱き上げてみると、それは確かに探していた子猫だった。 ジェイド:れ、レオ……お前、こんなとこにいたのかよぉ……!! ジェイド:ったく、このやんちゃ坊主め、みんなに心配かけて……! ジェイド:……でも無事で良かったぜ、レオ……。 0:子猫を抱きかかえ、公園を後にするジェイド。 ジェイド:アデルとチェルシーに知らせねぇと……よし、探しに行くか! 0:  0:  0:  0:西側、チェルシーとロイドの撃ち合いが繰り広げられている。 ロイド:……ハ、なんだよあんた、やっぱりまだまだ現役でいけそうじゃないか。 チェルシー:あーもう、しつこいわねあんた……! ロイド:勿体ないねぇ。名前も実力もあって、この世界で十分生きていけそうなのに……なんで殺し屋をやめたんだい? チェルシー:そんなの、あんたに関係ないでしょ。 ロイド:教えてくれたっていいだろ?どうせ死んだら話せなくなるんだからさ。 チェルシー:死ぬつもりなんてこっちにはないわよ。 チェルシー:私は……私たちはもう、殺し屋じゃない。“デュアルバレット”の名前は捨てたの。 ロイド:ふーん……捨てた、ねぇ。 ロイド:それで過去を清算しようとでも思ってるのかい? チェルシー:……それは…… ロイド:どんな事情があったかは知らないし興味もないけど……一度『こっち側』に足を踏み入れた人間が、光の当たる世界に戻りたいだなんて烏滸がましいよ。 ロイド:まあ……俺の持論だけどね。 チェルシー:……あんたが、分かったようなこと言わないでよ。 ロイド:分かっちゃいないさ。言ったろ、知らないし興味もないって。 チェルシー:……過去を清算だなんて、そんなのできると思ってないわよ。 チェルシー:でも私は……もうあの世界に戻りたくないの。 ロイド:口で綺麗事言うのは簡単だろうね。 チェルシー:うるさいわね。 チェルシー:綺麗事だろうがなんだろうが……これが私とアデルの、二人で選んだ道なの。 0:  0:  0:  0:東側、こちらでもアデルとルシアが撃ち合いになっていた。 ルシア:なるほど、腕利きだとは聞いていましたが、ここまでとは。 アデル:お前も、その華奢な体でよくそこまでできるもんだな。 ルシア:余裕ですね。まだ本気を出してはいないのでしょう? アデル:本気を出す理由もない。 ルシア:……舐められたものですね。 ルシア:貴方も、貴方のバディも、すぐにあの世へ送って差し上げますよ。 アデル:……お前、まさかチェルシーを…… ルシア:あちらには私のバディが向かいました。すぐに片付いてしまうと思いますが。 アデル:……ふざけんなよ。 ルシア:彼女より、ご自分の心配をした方が良いのでは?……行きますよ。 0:  0:  0:  0:アデルとチェルシーを探して、子猫を抱え街を走るジェイド。 ジェイド:どこまで行ったんだろうな、あの二人。電話かけても繋がらねぇし…… ジェイド:うーん、こっちか……? 0:ジェイドは狭い路地に入っていく。 ジェイド:……おーい、アデルー、チェルシー…… ジェイド:いるなら返事を……あ! 0:路地を進んでいくと、そこにチェルシーの姿を見つけた。 ジェイド:おーい!チェル…… 0:声をかけようとしたとき、銃声が響いた。 ジェイド:……ッ……!? ジェイド:銃声……!? 0:咄嗟に壁際へと身を寄せるジェイド。 ジェイド:チェルシー……大丈夫か……!? 0:チェルシーの無事を確認しようと様子を窺うジェイドの耳に、チェルシーとロイドの会話が聞こえてくる。 ロイド:……あんた、いい加減本気出したらどうだい?手加減なんざしてくれなくて結構だ。 チェルシー:別に手加減なんかしてないわよ!悪かったわね、物足りなくて! ロイド:殺す気で来いよ。そうじゃなきゃ面白くないだろ。 チェルシー:私は殺し合いなんてしたくないってさっきから言ってるでしょ! ロイド:ハハッ、つれないなぁ。 ジェイド:(……チェルシー……と、誰だ……?) ジェイド:(なんで、チェルシーが……銃なんて握って……) ロイド:なあ、そろそろ教えてくれよ。なんで殺し屋をやめたのか。 ジェイド:(殺し、屋……?) ジェイド:(……あいつ、何の話を……) ロイド:なんで足を洗ったりしたんだい?よっぽどの理由がなきゃこんな勿体ないことしないだろ。 チェルシー:……それ、は…… ジェイド:(どういうことだよ……チェルシーが、殺し屋……って……) ジェイド:(噓、だよな……?) チェルシー:……嫌になったからよ。 ロイド:へえ、何が? チェルシー:……人の命を奪うっていう、この仕事が。 ジェイド:(……チェル、シー……?) チェルシー:決めたのよ。……もう二度と、この弾丸で誰かの命を奪ったりしないって。 ロイド:正しい世界で真っ当に生きるって?……もうとっくにあんたの手は、どす黒く汚れてるのに? ロイド:……それとも、過去なんて全部なかったことにして、新しい自分で塗り替えていくつもりかい? チェルシー:……なかったことになんて、できるわけない……自分の手が汚れてるのも、分かってる。 チェルシー:私がやってきたことが、簡単に赦されるわけないってことも……あんたに言われなくたって分かってる。 チェルシー:でも……それでも私は、もう誰の命も奪いたくない。 チェルシー:この弾丸は、奪うためじゃなくて、守るために在りたいの。 ロイド:……理解できないねぇ。 ロイド:あんたに纏わりついてる『血の匂い』は、何をどうしたって離れやしないよ。 ロイド:汚れた手で、一体何を守ろうって? チェルシー:……たしかに、私の手は、汚れきってる。こんな私が守りたいなんて、身の程知らずなのかもしれない。 チェルシー:だけど私は、たった一人……たった一人の、大切な人を、そばで守りたいだけ。 ロイド:……へぇ? チェルシー:あいつが、決めた道だから。 チェルシー:もう殺さない、もう奪わないって……もう、あの世界に戻らないって。 チェルシー:そう、あいつが決めたから、だから私は……あいつと一緒に、あいつが決めた贖罪の道を進むの。 チェルシー:たった一人の、味方でいるために……あいつを二度と、悲しませないために。 ロイド:……贖罪、ねぇ。 ロイド:じゃあ、一つ聞く。 ロイド:誰が赦すんだい、その罪は。……あんたのいう、その『たった一人』の罪は、誰が。 チェルシー:……それは…… チェルシー:いつか、それが叶うときに……私が、赦す。 チェルシー:人の罪を赦せるのは、人だけだから。 ロイド:……へえ、そうかい ロイド:……。 チェルシー:……。 0:暫く沈黙。 0:やがてロイドは銃を懐にしまう。 ロイド:あーあ……飽きた。 チェルシー:……は、……? ロイド:なんだ、期待外れだ。 ロイド:もう少し楽しめるかと思ったのに……とんだ腑抜けだったよ。 チェルシー:……ちょ…… ロイド:贖罪だろうがなんだろうが知らないけど、やりたきゃ勝手にやれよ。 ロイド:俺は面倒くさいのは嫌いだからさ。そういうの聞いてると眠くなる。 チェルシー:ど、どこ行くのよあんた……。 ロイド:帰るよ。 ロイド:あんたの話聞いてたら、なんか……疲れたからさ。 0:  0:  0:  0:同じ頃、東側、アデルとルシア。 ルシア:……なぜ、手加減するのですか。 アデル:……あ? ルシア:先ほどから、わざと急所を外していますよね。……なぜですか。 アデル:なぜって、お前を殺したって俺にはなんのメリットもないだろ。 アデル:それに……俺はもう、殺さないって決めてんだよ。 ルシア:可笑しいですね ルシア:“デュアルバレット”と呼ばれていた頃の貴方は、冷酷で無慈悲で、狙った獲物は決して逃さない男だったと聞きました。 ルシア:でも今の貴方は、まるでか弱い子犬のよう……引き金にかける指すら、震えているのが見えますよ。 ルシア:何が貴方を、それほどまでに変えたのでしょうか。 アデル:……お前は、その銃で。 アデル:大切な人の命を、奪ったことがあるか。 ルシア:……大切な、人?……いいえ、ありません。 ルシア:貴方には、あるのですか。 アデル:……ああ。 アデル:それから、銃を握るのが怖くなった。今だって、手が震えてんだ。 アデル:後悔したって遅いし、簡単に赦されることじゃない。俺が今までやってきたのはそういうことだ。 アデル:でも、たとえ一生かけたって償えないかもしれなくても……この選択が間違ってたとは思わない。 アデル:俺は、自分の罪を償いたい。 ルシア:……贖罪を、選んだのですか。 ルシア:神の前に跪いて、赦しを請いたいと? アデル:……神はいねぇよ。 アデル:そんなものに赦してもらうんじゃない。人の罪を裁けるのは、人だけだ。 ルシア:ならば……誰に赦してもらおうというのですか。 アデル:俺に、赦しを与えてくれるとしたら……それは、ただ一人だけだ。 アデル:でもそのただ一人は、もうこの世にいない。……俺がその命を奪ったんだから。 ルシア:だからその分を、同じように生涯を捧げて、償っていくと? アデル:それしか、今の俺にはできないからな。 ルシア:……私には、理解できません。 ルシア:貴方の言う『大切な人』とは……貴方が貴方の全てをかけたいと思うほどの、優れた人間だったのでしょうか。 アデル:……どういうことだ。 ルシア:人間という生き物は、醜くて身勝手で、汚くて……綺麗な人間なんていませんよ。 ルシア:そういう世界で、私は生きてきましたから。 ルシア:だから、貴方の言っていることがとても、私には馬鹿馬鹿しく感じる。 アデル:綺麗事だけで生きていける世界じゃない……そういうことだろう。 ルシア:……よく、お分かりで。 アデル:分かるさ、お前の言いたいことは。……俺だってそういう世界で生きてたんだから。 アデル:それでも……“あいつ”は、腐りきってた俺の、全てを変えてくれたんだ。 アデル:綺麗とか汚いとか、優れてるとかそうじゃないとか……そういうもんだけで測れるもんじゃない。 ルシア:感情論は最終的に身を滅ぼします。……貴方が落ちぶれた理由はそこにあるのでしょうか。 ルシア:私にはやはり、理解はできません。 アデル:そうかもな。……別に理解してもらおうとは思っちゃいねぇよ。 アデル:ただ、俺はここで死ぬつもりはないし、お前と決着つけるつもりもない。……退いてくれないか。 ルシア:それは出来ません。貴方をここで始末しなければ。 ルシア:私は、この弾丸に誇りを込めていますから。 0:引き金に指をかけるルシア。それをじっと睨み付けるアデル。 0:その両者の間に飛び込んできたのは、チェルシーだった。 チェルシー:……アデルから離れて!! ルシア:……!! アデル:チェルシー!?無事だったのか……! チェルシー:当たり前でしょ、私を誰だと思ってるのよ。 ルシア:な、なぜ……まさかロイドを…… チェルシー:ああ、あいつロイドっていうの? チェルシー:なんかよく分かんないけど、飽きたって言って帰ってったわよ。 ルシア:な…… アデル:おいおい、なんだそれ。 チェルシー:さあ?私にも分かんないけど。 ルシア:……。 ルシア:(さすがに、一人で二人を相手にするのは無理があるでしょうか……) ルシア:(であれば、ここはもう……) ルシア:……(ため息)。 ルシア:……私の負けです。ここは退きましょう。 チェルシー:もう、二度と来ないでくれると嬉しいけどね。 アデル:……ああ。 ルシア:それはお約束できませんが……私も出来る事なら、貴方たちにはもう……会いたくないような気がします。 アデル:……そうか。 ルシア:ええ。……失礼します。 0:ルシア、去っていく。 0:  0:  0:  0:ジェイドは公園のベンチに座り、俯いて子猫の頭を撫でていた。 ジェイド:……なあ、レオ……。 ジェイド:俺さ、チェルシーのこと、何も知らなかったのかな……。 ジェイド:大事な友達だって思ってたのに……あいつがどうしてあんな、泣きそうな顔してたのか……その理由が全然分かんねぇ。 ジェイド:結局俺、怖くなっちまってさ、あの場から逃げてきちゃったけど……大丈夫かな、チェルシー……。 ジェイド:……俺……どうしたらいいんだろ…… 0:そこへ、アデルとチェルシーがやってくる。 チェルシー:……あ、いたいた!ジェイド! ジェイド:……あ、アデル、チェルシー……。 アデル:あれ、お前、その子猫…… ジェイド:あ……そ、そうなんだよ!見つかったんだ! ジェイド:こいつ、公園で吞気に日向ぼっこしててよ……すぐに伝えたかったんだけど、電話しても繋がらなかったからさ…… チェルシー:……ああ、ごめんね、多分探すのに夢中になってて、気付かなかったんだと思う……ね、アデル。 アデル:そう、だな。 ジェイド:そ、そっか。いや、全然いいんだ。大丈夫だよ。 ジェイド:……。 ジェイド:(聞くべき、なのか?さっきのこと……) ジェイド:(でも……) アデル:ジェイド?どうした、暗い顔して。 チェルシー:……具合でも悪いの? ジェイド:え?あ、いや……その……なんていうか…… ジェイド:(聞くなら……今しか……) ジェイド:えーっと……あのさ…… チェルシー:……ジェイド? ジェイド:……ゆ、夕焼けが綺麗すぎてなんか、寂しくなってきたなぁって…… アデル:おいおい、なんだよそれ…… チェルシー:……ふふっ、なんかジェイドらしいわね。 ジェイド:あはは、だよなぁ…… ジェイド:……あー、えっと…… ジェイド:よし!頑張ってあちこち動いたら腹減ったし、これから晩飯食いに行こうぜ! アデル:そうだな。そうするか。 チェルシー:私もお腹ペコペコ…… ジェイド:アデルの奢りで肉食いに行こうぜ! アデル:……なんでそうなるんだよ、割り勘だからな。 チェルシー:あはは、そうね、行きましょ! 0:  0:  0:  街中、某所にて。 ルシア:……(ため息) ロイド:どうしたんだい、ため息なんてついて。 ルシア:……どうして他人事のように言うんですか、貴方のせいでしょう。 ロイド:はぁ? ルシア:まさか仕事を途中で放棄してくるなんて……しかも『飽きた』だなんて理由で。 ルシア:ボスにどう説明するんですか。 ロイド:お前だって逃げ帰ってきたじゃないか。 ルシア:貴方がチェルシー・ブラウンを仕留めてくれていたら、私は仕事を完遂できていたはずなんです。貴方と一緒にしないでください。 ロイド:そう怒るなよ、悪かったって。 ロイド:……でもあの女、贖罪だの赦しだのって、難しい話をつらつらとさ。聞いててつまんなくなったんだよ。 ロイド:あと純粋に……くだらない。 ロイド:綺麗事並べ立てたって、過去は消せやしないのに……バカみたいだなぁって思ってさ。 ロイド:赦しなんてもらえない覚悟で、綺麗な世界になんてもう戻れない覚悟で、汚れきった自分を憎みながらも受け入れて生きてる人間がいるってのにさ……甘えたもんだろ? ルシア:……私も、同じような感じでした ルシア:“デュアルバレット”……彼の言う通り、もはや亡霊なのでしょうね。 ロイド:亡霊? ルシア:迷いで引き金を引けなくなったときが、殺し屋の最期なのかもしれない、ということです。 ロイド:お前も難しい話が好きだねぇ。 ルシア:……ロイド。 ロイド:なんだい、ルシア。 ルシア:私は、人間という生き物が嫌いです。……自分自身や、貴方も含めて。 ルシア:……貴方は? ロイド:奇遇だねぇ。……俺も嫌い。 ルシア:……ふ、そうですか。……少し、安心しました。 ロイド:ああそうかい。 ロイド:……あーあ、ボスへの言い訳考えないとねぇ。 ルシア:言い訳などせずに、素直に謝罪すべきでしょう。 ロイド:じゃあお前、俺の分も謝っといてくれるかい?俺怒られるの嫌いだからさぁ。 ルシア:ふざけないでください。子どもですか、全く……。 0: 

0:深夜、真っ暗な路地裏にて。 0:一人の男が、壁際へと追い詰められていた。 0:男の逃げ道を塞ぐように立ちはだかる二人。その手には拳銃が握られている。 男:お、お前ら……一体なんなんだ、何者なんだよ……!? ルシア:これから死ぬ人間に、名乗ったところで意味がないでしょう。 男:し、死ぬって……俺が何したって言うんだ……!? ロイド:さあねぇ、俺たちにそんなの聞かれたって知らないけど。 ロイド:どっかで恨まれるようなことでもしちゃったんじゃないかい?まあ、運の尽きだと思って大人しく死にな。 男:い、嫌だ……頼む、助けてくれ……ッ! ロイド:残念だけど、そのお願いは聞けないねぇ。こっちも仕事だからさ。 ロイド:ああ、抵抗してくれる分には構わないよ?その方が面白いからね。 ルシア:……ロイド、仕事中におふざけはやめてください。 ルシア:さっさと済ませましょう。時間の無駄です。 ロイド:……だってさ、お兄さん。 ロイド:ということで、お喋りはここまでだ。 0:二人は男に銃口を向ける。 男:やめろ……やめてくれ、死にたくない……! ルシア:それでは……さようなら。 0:銃声が響く。 0:そして、静寂が訪れた。 0:  0:  0:  0:  0:  0:翌日。 0:街を歩くアデルとチェルシー。 アデル:……思ったより早く片付いたな、家の片付け代行の依頼。 チェルシー:そうねぇ、夕方頃までかかるんじゃないかと思ったけど、まだお昼だものね。 チェルシー:この後って、何か依頼入ってたかしら? アデル:いや、今日はもう入ってないな。 チェルシー:そっか。じゃあ久しぶりに家でゆっくり休めるかしらね。 アデル:最近依頼が多くて大忙しだったからな。 チェルシー:たくさん仕事が来るのは、何でも屋としては嬉しいことなんだけどね。 0:そのとき、誰かが息を切らして駆けてきた。 ジェイド:おーい、アデル、チェルシー! チェルシー:……あら、ジェイド! アデル:お前どうしたんだよ、そんなに慌てて。 ジェイド:あのさ、お前らこの辺で子猫を見かけなかったか? チェルシー:子猫? アデル:なんでまた子猫なんて探してんだ。 ジェイド:実は……教会で面倒見てる子猫がさ、今朝から見つからなくなっちまって…… チェルシー:どこに行ったか心当たりないの? ジェイド:探せるところは全部探したんだよ、でもどこにもいなくて…… ジェイド:朝からずーっと探してるんだけど……ほんとに、どこ行っちまったのか…… アデル:そりゃあ大変だな…… アデル:……良ければ、俺たちも探すのを手伝おうか。 チェルシー:そうね。今日はもう仕事も片付いちゃったし、私たちも協力する! ジェイド:本当か!?あ、ありがとう、助かるぜ……! アデル:よし、そうと決まればぐずぐずしてられないな。暗くなる前になんとか見つけよう。 チェルシー:手分けしましょ、私は西側、アデルは東側、ジェイドは南側。 ジェイド:了解だ!それじゃあ、あとで合流な! 0:  0:  0:  0:同じ頃、とある酒場にて。 0:スマートフォンを確認しているルシアと、隣でタバコをふかしているロイド。 ロイド:なあルシア。 ルシア:なんですか。 ロイド:まだなのかい、ボスからの連絡。 ルシア:ええ、まだ何も。 ロイド:ったく……『次の指示を送るまでここで待て』っていうから待ってるのに。 ロイド:いつまでほったらかすつもりなんだか……もうだいぶ長い時間待ってるんだけど。 ルシア:何言ってるんですか、まだ1時間も経っていませんよ。 ロイド:……は?マジで? ロイド:お前の腕時計止まってないかい? ルシア:いいえ、正常です。貴方が子どもみたいなこと言ってるだけでしょう。 ロイド:悪かったねぇ、俺は待つのが嫌いなんだよ 0:そのとき、スマートフォンの通知音が鳴る。 0:ルシアが画面を確認すると、一件のメールが届いていた。 ルシア:……ああ、ほら。 ルシア:来ましたよ、ボスからのメール。 ロイド:お、やっとかい、待ちくたびれたよ。 ロイド:で?次はどこのどいつを殺れって? 0:ルシアはメールに一通り目を通し、文面を読み上げた。 ルシア:次のターゲットは…… ルシア:……“デュアルバレット”、だそうです。 ロイド:……は?なに、ソレ。 ロイド:バレット……弾丸? ロイド:俺たちに弾丸仕留めろって? ルシア:そういう呼び名、なんでしょう。 ルシア:年齢や現職などの記載は抜けていますが……資料によれば、男女二人組の“元”殺し屋だそうですよ。 ロイド:へぇ……そうきたか。 ロイド:同業殺しとは面白いじゃないか、どんな相手か楽しみだね。 ルシア:正確に言えば、“元”同業ですね。 ルシア:現役だったときには、腕の良い殺し屋として恐れられていたようですが……正直、時間はかからないかと。 ロイド:そうだねぇ、どうせ足腰やられて感覚が鈍った隠居だろ。 ロイド:さくっと終わらせよう。 ルシア:そうですね。『必ず仕留めろ』、とのことですので。……行きましょう。 0:  0:  0:  0:数時間後。 0:西側の捜索を続けているチェルシー。 チェルシー:……うーん、ここにもいないかぁ……どこに行っちゃったのかしら。 チェルシー:迷子の子猫ちゃーん、出ておいでー! チェルシー:……って言って出てきてくれたら苦労しないんだけど…… チェルシー:別の場所も探してみようかしら…… ロイド:……何か探し物かい? チェルシー:……ッ……!? 0:突然背後から声をかけられ、驚いて振り返るチェルシー。 ロイド:やあ、どうも。 チェルシー:あんた、誰……っていうか、いつからそこに…… ロイド:さっきからずっと後ろにいたけど?気付かなかったかい? チェルシー:は?……なにそれ怖……ストーカー? ロイド:ストーカーだなんて失礼だなぁ。ただの通りすがりだよ。 チェルシー:……。 0:チェルシー、静かにロイドから離れる。 チェルシー:ただの通りすがりから……こんなに血の匂いがするなんておかしいんじゃない? ロイド:……ククッ……やっぱり分かるもんなんだねぇ?さすがは同業者。 チェルシー:……同業者? ロイド:ああ、“元”同業者って言った方が適切かな? チェルシー:何の話よ。 ロイド:“デュアルバレット”。 チェルシー:……ッ……!? ロイド:随分かっこいい呼び名じゃないか。誰につけてもらったんだい? チェルシー:……そんな名前知らないけど。他所の誰かと間違えてないかしら。 ロイド:隠す必要ないだろ、俺もあんたと同じだよ。 0:ロイドが銃を抜き、チェルシーに銃口を向ける。 チェルシー:……人違いよ、勘弁して。 ロイド:本当に人違いかどうか、撃って確かめようか? チェルシー:……。 0:そのまま数秒睨み合う。 チェルシー:……(ため息)。 チェルシーがゆっくりと銃を構える。 チェルシー:……とりあえず、敵ってことでいいのよね? ロイド:ああそうだよ、俺はあんたを始末しにきた殺し屋さ。 ロイド:でもただ殺るんじゃつまらないから……せっかくなら楽しまなきゃだろ? チェルシー:なにそれ、意味わかんない……ていうか、あんたに付き合ってる暇なんかないのよ。 ロイド:そりゃあご愁傷様。悪いけど、そっちの都合なんて知ったこっちゃないね。 ロイド:……さあ、始めようか。 0:  0:  0:  0:同じ頃、東側のアデルも捜索を続けていた。 アデル:……見つからねぇな……ここにはいねぇか。 アデル:なら場所を変えて…… 0:アデルが何かに気付いたように動きを止めた。 アデル:……。 アデル:そこに誰かいるのか。 0:暫し沈黙。 0:その後、物陰からルシアが現れる。 ルシア:……気付かれていましたか。 アデル:妙な気配を感じたんでな。 アデル:……それと、血の匂いも。 ルシア:……なるほど、勘が鋭いのですね。 アデル:お前、何者だ。 ルシア:これから死ぬ人間に、名乗ったところで意味がないでしょう。 0:ルシアが銃を構える。 アデル:……俺はお前に恨まれるようなことをした覚えはねぇが。 ルシア:貴方に恨みなどありません。もとより興味もありませんから。 ルシア:ただ、仕事ですので。 アデル:だから、どうして俺を…… ルシア:“デュアルバレット”。 アデル:……ッ……! ルシア:貴方の始末が私の仕事です。大人しく、死んでください。 アデル:……。 アデル:そう言われて、はい分かりましたって頷く奴がいると思うか? ルシア:頷いて頂く必要などありません。問答無用で引き金を引けばいいだけですので。 0:ルシアが引き金に指をかける。 アデル:……勘弁してくれよ。 0:アデルも銃を構える。 アデル:俺たちは……デュアルバレットじゃない。 ルシア:いいえ、貴方はデュアルバレットです。人違いだとは言わせませんよ。 アデル:そうじゃない。……デュアルバレットは死んだ。もう、いないんだよ。 ルシア:意味が理解できません。 ルシア:ではここにいる貴方は、何者だと? アデル:……何者……なんだろうな。……多分、ただの亡霊だ。 ルシア:……。 アデル:……俺はもう、デュアルバレットじゃない。今ここにいる俺は、ただの何でも屋だ。 アデル:今の俺は……死ぬわけにいかない。 ルシア:……(ため息)。 ルシア:面倒なことになりましたね、なるべく時間をかけたくなかったのですが……まあいいでしょう。 ルシア:貴方がここで死ぬ事実は変わりません。……お覚悟を。 0:  0:  0:  0:同じ頃、南側のジェイドは、汗だくになって街を駆け回っていた。 ジェイド:おーい、レオー!!どこ行ったんだよー!!おーい!! ジェイド:頼むよ……出てきてくれよぉ……。 ジェイド:怪我してたりしねぇかな……今頃お腹空かしてるかも……。 ジェイド:うう……レオ……。 ジェイド:……あれ……? 0:ジェイドは公園の前で立ち止まる。 0:よく見てみると、公園のベンチで毛繕いをしている子猫が一匹。 ジェイド:あれって……あれってもしかして……!? 0:駆けていくジェイド。子猫を抱き上げてみると、それは確かに探していた子猫だった。 ジェイド:れ、レオ……お前、こんなとこにいたのかよぉ……!! ジェイド:ったく、このやんちゃ坊主め、みんなに心配かけて……! ジェイド:……でも無事で良かったぜ、レオ……。 0:子猫を抱きかかえ、公園を後にするジェイド。 ジェイド:アデルとチェルシーに知らせねぇと……よし、探しに行くか! 0:  0:  0:  0:西側、チェルシーとロイドの撃ち合いが繰り広げられている。 ロイド:……ハ、なんだよあんた、やっぱりまだまだ現役でいけそうじゃないか。 チェルシー:あーもう、しつこいわねあんた……! ロイド:勿体ないねぇ。名前も実力もあって、この世界で十分生きていけそうなのに……なんで殺し屋をやめたんだい? チェルシー:そんなの、あんたに関係ないでしょ。 ロイド:教えてくれたっていいだろ?どうせ死んだら話せなくなるんだからさ。 チェルシー:死ぬつもりなんてこっちにはないわよ。 チェルシー:私は……私たちはもう、殺し屋じゃない。“デュアルバレット”の名前は捨てたの。 ロイド:ふーん……捨てた、ねぇ。 ロイド:それで過去を清算しようとでも思ってるのかい? チェルシー:……それは…… ロイド:どんな事情があったかは知らないし興味もないけど……一度『こっち側』に足を踏み入れた人間が、光の当たる世界に戻りたいだなんて烏滸がましいよ。 ロイド:まあ……俺の持論だけどね。 チェルシー:……あんたが、分かったようなこと言わないでよ。 ロイド:分かっちゃいないさ。言ったろ、知らないし興味もないって。 チェルシー:……過去を清算だなんて、そんなのできると思ってないわよ。 チェルシー:でも私は……もうあの世界に戻りたくないの。 ロイド:口で綺麗事言うのは簡単だろうね。 チェルシー:うるさいわね。 チェルシー:綺麗事だろうがなんだろうが……これが私とアデルの、二人で選んだ道なの。 0:  0:  0:  0:東側、こちらでもアデルとルシアが撃ち合いになっていた。 ルシア:なるほど、腕利きだとは聞いていましたが、ここまでとは。 アデル:お前も、その華奢な体でよくそこまでできるもんだな。 ルシア:余裕ですね。まだ本気を出してはいないのでしょう? アデル:本気を出す理由もない。 ルシア:……舐められたものですね。 ルシア:貴方も、貴方のバディも、すぐにあの世へ送って差し上げますよ。 アデル:……お前、まさかチェルシーを…… ルシア:あちらには私のバディが向かいました。すぐに片付いてしまうと思いますが。 アデル:……ふざけんなよ。 ルシア:彼女より、ご自分の心配をした方が良いのでは?……行きますよ。 0:  0:  0:  0:アデルとチェルシーを探して、子猫を抱え街を走るジェイド。 ジェイド:どこまで行ったんだろうな、あの二人。電話かけても繋がらねぇし…… ジェイド:うーん、こっちか……? 0:ジェイドは狭い路地に入っていく。 ジェイド:……おーい、アデルー、チェルシー…… ジェイド:いるなら返事を……あ! 0:路地を進んでいくと、そこにチェルシーの姿を見つけた。 ジェイド:おーい!チェル…… 0:声をかけようとしたとき、銃声が響いた。 ジェイド:……ッ……!? ジェイド:銃声……!? 0:咄嗟に壁際へと身を寄せるジェイド。 ジェイド:チェルシー……大丈夫か……!? 0:チェルシーの無事を確認しようと様子を窺うジェイドの耳に、チェルシーとロイドの会話が聞こえてくる。 ロイド:……あんた、いい加減本気出したらどうだい?手加減なんざしてくれなくて結構だ。 チェルシー:別に手加減なんかしてないわよ!悪かったわね、物足りなくて! ロイド:殺す気で来いよ。そうじゃなきゃ面白くないだろ。 チェルシー:私は殺し合いなんてしたくないってさっきから言ってるでしょ! ロイド:ハハッ、つれないなぁ。 ジェイド:(……チェルシー……と、誰だ……?) ジェイド:(なんで、チェルシーが……銃なんて握って……) ロイド:なあ、そろそろ教えてくれよ。なんで殺し屋をやめたのか。 ジェイド:(殺し、屋……?) ジェイド:(……あいつ、何の話を……) ロイド:なんで足を洗ったりしたんだい?よっぽどの理由がなきゃこんな勿体ないことしないだろ。 チェルシー:……それ、は…… ジェイド:(どういうことだよ……チェルシーが、殺し屋……って……) ジェイド:(噓、だよな……?) チェルシー:……嫌になったからよ。 ロイド:へえ、何が? チェルシー:……人の命を奪うっていう、この仕事が。 ジェイド:(……チェル、シー……?) チェルシー:決めたのよ。……もう二度と、この弾丸で誰かの命を奪ったりしないって。 ロイド:正しい世界で真っ当に生きるって?……もうとっくにあんたの手は、どす黒く汚れてるのに? ロイド:……それとも、過去なんて全部なかったことにして、新しい自分で塗り替えていくつもりかい? チェルシー:……なかったことになんて、できるわけない……自分の手が汚れてるのも、分かってる。 チェルシー:私がやってきたことが、簡単に赦されるわけないってことも……あんたに言われなくたって分かってる。 チェルシー:でも……それでも私は、もう誰の命も奪いたくない。 チェルシー:この弾丸は、奪うためじゃなくて、守るために在りたいの。 ロイド:……理解できないねぇ。 ロイド:あんたに纏わりついてる『血の匂い』は、何をどうしたって離れやしないよ。 ロイド:汚れた手で、一体何を守ろうって? チェルシー:……たしかに、私の手は、汚れきってる。こんな私が守りたいなんて、身の程知らずなのかもしれない。 チェルシー:だけど私は、たった一人……たった一人の、大切な人を、そばで守りたいだけ。 ロイド:……へぇ? チェルシー:あいつが、決めた道だから。 チェルシー:もう殺さない、もう奪わないって……もう、あの世界に戻らないって。 チェルシー:そう、あいつが決めたから、だから私は……あいつと一緒に、あいつが決めた贖罪の道を進むの。 チェルシー:たった一人の、味方でいるために……あいつを二度と、悲しませないために。 ロイド:……贖罪、ねぇ。 ロイド:じゃあ、一つ聞く。 ロイド:誰が赦すんだい、その罪は。……あんたのいう、その『たった一人』の罪は、誰が。 チェルシー:……それは…… チェルシー:いつか、それが叶うときに……私が、赦す。 チェルシー:人の罪を赦せるのは、人だけだから。 ロイド:……へえ、そうかい ロイド:……。 チェルシー:……。 0:暫く沈黙。 0:やがてロイドは銃を懐にしまう。 ロイド:あーあ……飽きた。 チェルシー:……は、……? ロイド:なんだ、期待外れだ。 ロイド:もう少し楽しめるかと思ったのに……とんだ腑抜けだったよ。 チェルシー:……ちょ…… ロイド:贖罪だろうがなんだろうが知らないけど、やりたきゃ勝手にやれよ。 ロイド:俺は面倒くさいのは嫌いだからさ。そういうの聞いてると眠くなる。 チェルシー:ど、どこ行くのよあんた……。 ロイド:帰るよ。 ロイド:あんたの話聞いてたら、なんか……疲れたからさ。 0:  0:  0:  0:同じ頃、東側、アデルとルシア。 ルシア:……なぜ、手加減するのですか。 アデル:……あ? ルシア:先ほどから、わざと急所を外していますよね。……なぜですか。 アデル:なぜって、お前を殺したって俺にはなんのメリットもないだろ。 アデル:それに……俺はもう、殺さないって決めてんだよ。 ルシア:可笑しいですね ルシア:“デュアルバレット”と呼ばれていた頃の貴方は、冷酷で無慈悲で、狙った獲物は決して逃さない男だったと聞きました。 ルシア:でも今の貴方は、まるでか弱い子犬のよう……引き金にかける指すら、震えているのが見えますよ。 ルシア:何が貴方を、それほどまでに変えたのでしょうか。 アデル:……お前は、その銃で。 アデル:大切な人の命を、奪ったことがあるか。 ルシア:……大切な、人?……いいえ、ありません。 ルシア:貴方には、あるのですか。 アデル:……ああ。 アデル:それから、銃を握るのが怖くなった。今だって、手が震えてんだ。 アデル:後悔したって遅いし、簡単に赦されることじゃない。俺が今までやってきたのはそういうことだ。 アデル:でも、たとえ一生かけたって償えないかもしれなくても……この選択が間違ってたとは思わない。 アデル:俺は、自分の罪を償いたい。 ルシア:……贖罪を、選んだのですか。 ルシア:神の前に跪いて、赦しを請いたいと? アデル:……神はいねぇよ。 アデル:そんなものに赦してもらうんじゃない。人の罪を裁けるのは、人だけだ。 ルシア:ならば……誰に赦してもらおうというのですか。 アデル:俺に、赦しを与えてくれるとしたら……それは、ただ一人だけだ。 アデル:でもそのただ一人は、もうこの世にいない。……俺がその命を奪ったんだから。 ルシア:だからその分を、同じように生涯を捧げて、償っていくと? アデル:それしか、今の俺にはできないからな。 ルシア:……私には、理解できません。 ルシア:貴方の言う『大切な人』とは……貴方が貴方の全てをかけたいと思うほどの、優れた人間だったのでしょうか。 アデル:……どういうことだ。 ルシア:人間という生き物は、醜くて身勝手で、汚くて……綺麗な人間なんていませんよ。 ルシア:そういう世界で、私は生きてきましたから。 ルシア:だから、貴方の言っていることがとても、私には馬鹿馬鹿しく感じる。 アデル:綺麗事だけで生きていける世界じゃない……そういうことだろう。 ルシア:……よく、お分かりで。 アデル:分かるさ、お前の言いたいことは。……俺だってそういう世界で生きてたんだから。 アデル:それでも……“あいつ”は、腐りきってた俺の、全てを変えてくれたんだ。 アデル:綺麗とか汚いとか、優れてるとかそうじゃないとか……そういうもんだけで測れるもんじゃない。 ルシア:感情論は最終的に身を滅ぼします。……貴方が落ちぶれた理由はそこにあるのでしょうか。 ルシア:私にはやはり、理解はできません。 アデル:そうかもな。……別に理解してもらおうとは思っちゃいねぇよ。 アデル:ただ、俺はここで死ぬつもりはないし、お前と決着つけるつもりもない。……退いてくれないか。 ルシア:それは出来ません。貴方をここで始末しなければ。 ルシア:私は、この弾丸に誇りを込めていますから。 0:引き金に指をかけるルシア。それをじっと睨み付けるアデル。 0:その両者の間に飛び込んできたのは、チェルシーだった。 チェルシー:……アデルから離れて!! ルシア:……!! アデル:チェルシー!?無事だったのか……! チェルシー:当たり前でしょ、私を誰だと思ってるのよ。 ルシア:な、なぜ……まさかロイドを…… チェルシー:ああ、あいつロイドっていうの? チェルシー:なんかよく分かんないけど、飽きたって言って帰ってったわよ。 ルシア:な…… アデル:おいおい、なんだそれ。 チェルシー:さあ?私にも分かんないけど。 ルシア:……。 ルシア:(さすがに、一人で二人を相手にするのは無理があるでしょうか……) ルシア:(であれば、ここはもう……) ルシア:……(ため息)。 ルシア:……私の負けです。ここは退きましょう。 チェルシー:もう、二度と来ないでくれると嬉しいけどね。 アデル:……ああ。 ルシア:それはお約束できませんが……私も出来る事なら、貴方たちにはもう……会いたくないような気がします。 アデル:……そうか。 ルシア:ええ。……失礼します。 0:ルシア、去っていく。 0:  0:  0:  0:ジェイドは公園のベンチに座り、俯いて子猫の頭を撫でていた。 ジェイド:……なあ、レオ……。 ジェイド:俺さ、チェルシーのこと、何も知らなかったのかな……。 ジェイド:大事な友達だって思ってたのに……あいつがどうしてあんな、泣きそうな顔してたのか……その理由が全然分かんねぇ。 ジェイド:結局俺、怖くなっちまってさ、あの場から逃げてきちゃったけど……大丈夫かな、チェルシー……。 ジェイド:……俺……どうしたらいいんだろ…… 0:そこへ、アデルとチェルシーがやってくる。 チェルシー:……あ、いたいた!ジェイド! ジェイド:……あ、アデル、チェルシー……。 アデル:あれ、お前、その子猫…… ジェイド:あ……そ、そうなんだよ!見つかったんだ! ジェイド:こいつ、公園で吞気に日向ぼっこしててよ……すぐに伝えたかったんだけど、電話しても繋がらなかったからさ…… チェルシー:……ああ、ごめんね、多分探すのに夢中になってて、気付かなかったんだと思う……ね、アデル。 アデル:そう、だな。 ジェイド:そ、そっか。いや、全然いいんだ。大丈夫だよ。 ジェイド:……。 ジェイド:(聞くべき、なのか?さっきのこと……) ジェイド:(でも……) アデル:ジェイド?どうした、暗い顔して。 チェルシー:……具合でも悪いの? ジェイド:え?あ、いや……その……なんていうか…… ジェイド:(聞くなら……今しか……) ジェイド:えーっと……あのさ…… チェルシー:……ジェイド? ジェイド:……ゆ、夕焼けが綺麗すぎてなんか、寂しくなってきたなぁって…… アデル:おいおい、なんだよそれ…… チェルシー:……ふふっ、なんかジェイドらしいわね。 ジェイド:あはは、だよなぁ…… ジェイド:……あー、えっと…… ジェイド:よし!頑張ってあちこち動いたら腹減ったし、これから晩飯食いに行こうぜ! アデル:そうだな。そうするか。 チェルシー:私もお腹ペコペコ…… ジェイド:アデルの奢りで肉食いに行こうぜ! アデル:……なんでそうなるんだよ、割り勘だからな。 チェルシー:あはは、そうね、行きましょ! 0:  0:  0:  街中、某所にて。 ルシア:……(ため息) ロイド:どうしたんだい、ため息なんてついて。 ルシア:……どうして他人事のように言うんですか、貴方のせいでしょう。 ロイド:はぁ? ルシア:まさか仕事を途中で放棄してくるなんて……しかも『飽きた』だなんて理由で。 ルシア:ボスにどう説明するんですか。 ロイド:お前だって逃げ帰ってきたじゃないか。 ルシア:貴方がチェルシー・ブラウンを仕留めてくれていたら、私は仕事を完遂できていたはずなんです。貴方と一緒にしないでください。 ロイド:そう怒るなよ、悪かったって。 ロイド:……でもあの女、贖罪だの赦しだのって、難しい話をつらつらとさ。聞いててつまんなくなったんだよ。 ロイド:あと純粋に……くだらない。 ロイド:綺麗事並べ立てたって、過去は消せやしないのに……バカみたいだなぁって思ってさ。 ロイド:赦しなんてもらえない覚悟で、綺麗な世界になんてもう戻れない覚悟で、汚れきった自分を憎みながらも受け入れて生きてる人間がいるってのにさ……甘えたもんだろ? ルシア:……私も、同じような感じでした ルシア:“デュアルバレット”……彼の言う通り、もはや亡霊なのでしょうね。 ロイド:亡霊? ルシア:迷いで引き金を引けなくなったときが、殺し屋の最期なのかもしれない、ということです。 ロイド:お前も難しい話が好きだねぇ。 ルシア:……ロイド。 ロイド:なんだい、ルシア。 ルシア:私は、人間という生き物が嫌いです。……自分自身や、貴方も含めて。 ルシア:……貴方は? ロイド:奇遇だねぇ。……俺も嫌い。 ルシア:……ふ、そうですか。……少し、安心しました。 ロイド:ああそうかい。 ロイド:……あーあ、ボスへの言い訳考えないとねぇ。 ルシア:言い訳などせずに、素直に謝罪すべきでしょう。 ロイド:じゃあお前、俺の分も謝っといてくれるかい?俺怒られるの嫌いだからさぁ。 ルシア:ふざけないでください。子どもですか、全く……。 0: