台本概要
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タイトル | ホーリーナイト |
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作者名 | 藍色鳩羽(あいいろはとば) (@aiirohatoba0707) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) ※兼役あり |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
演者の人数・性別、役の性別、一人称・文言・アドリブ等、使いやすいように変更してお使いください。 作中歌唱部があります。 「きよしこの夜」は、曲と英語歌詞の版権が切れている為、商用利用化のなっておりますので、英語歌詞か鼻歌で歌っていただけるとよいと思います。 歌わない場合は、歌の後の台詞に飛んでください。 183 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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立花(りっか) | 女 | 176 | 柊立花(ひいらぎりっか)[過去]中学生~[現在]21歳。女の子 |
律(りつ) | 男 | 59 | 聖川律(ひじりかわりつ)[現在]18歳。男の子 |
律(子供) | 男 | 109 | [過去]小学生。律役の兼ね役推奨 |
寿里(じゅり) | 女 | 42 | 聖川寿里(ひじりかわじゅり)律の母親、シングルマザーで若い |
樹(たつき) | 男 | 51 | 里見樹(さとみたつき) 弁護士 |
暁生(あきお) | 男 | 45 | 柊暁生(ひいらぎあきお)、立花の父親。斎役の兼ね役推奨 |
斎(いつき) | 男 | 57 | 橘斎(たちばないつき) 寿里の交際相手、若いチャラ男。暁生役の方が兼役推奨 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
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立花(りっか):私達、どんな時も一緒だよ?
立花(りっか):私は、あなたを守る。
立花(りっか):あなたは、私を守って?
立花(りっか):私には、あなたしかいない。
立花(りっか):あなたには、私しかいない。
立花(りっか):お互いに、唯一無二の存在。
立花(りっか):…どんな時も、一緒だよ?
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0:現在[面会室]
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樹(たつき):それで、あなたは何故、火炎瓶を持ってショッピングモールに行ったのですか?
律(りつ):…
樹(たつき):…。
樹(たつき):(ため息)ずっと黙っていますが、黙っていても貴方が有利になることは、ありませんよ?
律(りつ):…
樹(たつき):柊立花さん。彼女とは、どのような関係なんですか?
律(りつ):…ない
樹(たつき):はい?
0:律、机の脚を蹴りつける。
律(りつ):知らない、知らない!そんな女知らない!あんな女知るわけがない!アイツさえいなければ!あんな奴!あんな奴!
樹(たつき):っ…
:
樹(たつき):(M)柊立花(ひいらぎりっか)。
樹(たつき):(M)彼女の名前を聞いた途端、聖川律(ひじりかわりつ)は、感情をあらわにした。
樹(たつき):(M)刑務官の制止を物ともせず、射るような眼差しで、彼は吼え続けた。
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0:現在[]
:
樹(たつき):柊立花さん。今日は聖川律(ひじりかわりつ)さんについて、おうかがいしたい事がありまして
立花(りっか):律は?
樹(たつき):え?
立花(りっか):律は、今どうしていますか?
樹(たつき):(困惑)あぁ?
立花(りっか):律は、私の為に来てくれたんです!
樹(たつき):…どういう事ですか?
立花(りっか):だって…約束したんです
立花(りっか):私達、どんな時も一緒だよって
:
0:過去[アパート]
:
立花(りっか):いってきます
暁生(あきお):あぁ、気をつけてな
立花(りっか):うん
0:上の階からケンカする声が聞こえる。
暁生(あきお):っ、また上の階のか
立花(りっか):…
暁生(あきお):毎日、毎日、一体なにをやってるんだか
立花(りっか):…
暁生(あきお):おい、早く行かないと遅刻するぞ
立花(りっか):あ、うん。いってきます
0:立花が家を出ると、上の階から降りてきた律と会う
立花(りっか):あっ…おはよう
律(子供):…
立花(りっか):…学校行くの?
律(子供):…
立花(りっか):よかったら途中まで一緒に行こう?
0:律の部屋のドアが開き、寿里が出てくる
寿里(じゅり):あっ、律!あんた何ちんたらやってんの?早く学校行きな!
律(子供):…
0:律、そのまま無言で歩き出す
寿里(じゅり):律!いってきますは?
律(子供):(小声)…ってきます
寿里(じゅり):ん?聞こえないよ!
律(子供):…いってきます
寿里(じゅり):んっ!
0:律の部屋のドアが再び開き、斎が出てくる
斎(いつき):おい!寿里!俺が仕事から帰ってくるまでにちゃんとやっとけよ!
寿里(じゅり):だから、急に言われてもアタシ(には)
斎(いつき):ウルセー!とりあえず、俺は仕事行くから
寿里(じゅり):ちょっと!斎!
0:斎、階段を降り、律の近く来る
斎(いつき):おい、律!(軽く頭を叩く)
律(子供):っ
斎(いつき):帰りにコンビニで牛乳買って来い
0:斎、ポケットから小銭を取り出し、律に五百円玉を渡す
斎(いつき):ほら、金
寿里(じゅり):斎!勝手なことしないで!
斎(いつき):おっと、じゃーな
0:斎、アパート前の駐車場の車に乗って出て行く
立花(りっか):(小声)…なにあれ、カンジ悪
律(子供):…
立花(りっか):大丈夫だった?頭、痛くない?
0:立花、律の頭に触れようとする
律(子供):っ
立花(りっか):あっ、ごめん、痛かった?
律(子供):…
立花(りっか):学校、いこっか?
0:立花、歩き出す
立花(りっか):ほら、いくよ?
0:律、歩き出す
立花(りっか):ねぇ、君、名前は
律(子供):…
立花(りっか):私は、立花。柊立花(ひいらぎりっか)。君の名前は?
律(子供):…りつ。聖川律(ひじりかわりつ)。
立花(りっか):りつ…律くんか。ふふ(笑い)、私達、名前似てるね?
律(子供):え?
立花(りっか):律と立花、二人とも「リツ」って
0:十字路にさしかかる
立花(りっか):あ、私、学校こっちだから
立花(りっか):律くんも学校がんばってね!いってらっしゃい!
律(子供):…いってきます
立花(りっか):ふふふ(笑い)
0:立花、律に手を振り学校へ向かう
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0:現在[]
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樹(たつき):(M)柊立花(ひいらぎりっか)は、聖川律(ひじりかわりつ)との出会いについて語りだした。
樹(たつき):(M)とても楽しそうに。とても…幸せそうに。
:
立花(りっか):律は、夏休みが終わった二学期の中頃にアパートに引っ越してきたの。
立花(りっか):ちょうど私の家の上の階に越してきたから覚えてる。
立花(りっか):お父さんがね「最近の若い奴は、あいさつにも来ないのか?だから片親になるんだろ」って何度も文句言ってるから…
立花(りっか):律は学校でも浮いていたんだろうなって、
立花(りっか):休みの日になっても友達が遊びに来ることも、
立花(りっか):遊びに行くこともしない子だったから…
立花(りっか):二学期も終わりに近い時期に転校してきても、友達なんかなかなかできないなんて、誰だってわかる事だろうに…
立花(りっか):…律は可哀想だなって。
立花(りっか):いつも私が学校から帰ってくると一人でアパートの外で遊んでいたんです。
立花(りっか):だから私がよく遊んであげたんです
樹(たつき):…
立花(りっか):律の母親は、若い男と付き合ってたみたい。
立花(りっか):朝も夜も関係なく、よく大きな声がウチにまで聞こえてた
立花(りっか):ある日、学校の用事で遅くなった時。律は一人で外で遊んでいたわ。
立花(りっか):その時も、律の母親と男の声はアパートの外にまで聞こえていた
:
0:過去[アパート]
:
斎(いつき):だから言ってんだろ!何回言ったらわかんだよ!
寿里(じゅり):ごめんって!でも私には無理なの!私も何度も言ってんじゃん!
斎(いつき):話を聞けよ!結局お前は、毎回俺の話を聞いてないんだよ!
寿里(じゅり):ごめん!っごめんって!
0:二人のケンカする声がアパートの外にまで聞こえている
0:立花、アパートの階段に座っている律を見つける。
0:律はオイルライターのキャップを開け閉めして遊んでいる
立花(りっか):律っ、どうしたの?もう暗いし、寒いよ?
律(子供):…
0:立花、律の手を握る
立花(りっか):っ!ライターで遊んでたら危ないよ!
立花(りっか):それに上着も着ないで外にいたら冷えちゃうよ?
0:立花、自分の手袋とマフラーを律につけてあげる
立花(りっか):手、だして。手袋と、マフラー。これで少しは寒くないでしょ?
律(子供):…ありがとう
立花(りっか):ふふ(笑い)どういたしまして
0:二人のケンカする声が聞こえる
斎(いつき):なんでだよ!そんなに難しいこと言ってないだろ!
寿里(じゅり):ごめん!それでもできない!
斎(いつき):はぁ?っお前!
0:立花、聞いていられなくなって律の手を引いて歩き出す
立花(りっか):行こ
律(子供):え?
立花(りっか):いい所つれてってあげる
律(子供):いい所?
立花(りっか):うん、行ってからのお楽しみ
律(子供):っ
:
0:過去[廃屋]
:
立花(りっか):ほら、こっち
律(子供):っ
立花(りっか):足元、気をつけてね
律(子供):っうん
立花(りっか):ここね、前はラーメン屋さんだったの。でも潰れちゃって。
立花(りっか):…小さい頃にね、お母さんと…おじさんに連れてきてもらった事があるんだ。
律(子供):…
立花(りっか):ラーメン屋さんなのに二階があってね、天窓がついてるの。
立花(りっか):空が見えてね、お母さんとお父さんと一緒に行ったピクニックを思い出したんだ…
律(子供):…
0:天窓から月明かりが差し込んで、暗い室内に光の柱が立っている
立花(りっか):ほら、ここに立ってみて
律(子供):…
立花(りっか):でね、上、見てみて
律(子供):…。
律(子供):(上を見上げる)っわぁ
立花(りっか):ね?綺麗でしょ?今日は月が綺麗だね
立花(りっか):ほら、周りも見てみて
律(子供):…真っ暗
立花(りっか):うん、真っ暗。
立花(りっか):でもね、天窓からの明かりがスポットライトみたいで、自分が世界の主人公みたいじゃない?
律(子供):…
0:すると、律のお腹の鳴る音が響く
立花(りっか):あっ(二人反応する)
律(子供):あっ(二人反応する)
立花(りっか):ふふふ(笑い)、お腹空いたの?
律(子供):っ
立花(りっか):あっ、よかったら、これ
律(子供):っ?
立花(りっか):今日ね、調理実習で焼いたの
0:カバンからビニールの袋を取り出す
立花(りっか):はい、どうぞ
律(子供):…食べていいの?
立花(りっか):いいよ
0:律、袋を受け取り。中から人型のクッキーをとりだす
律(子供):…いただきます
立花(りっか):どうぞ
律(子供):(齧りつき咀嚼する)っ
立花(りっか):どう?
律(子供):っ…変な味がする
立花(りっか):ははは(笑い)ジンジャークッキーって言うんだよ。
立花(りっか):そっちの星型のは普通のクッキーだから大丈夫だと思うよ?
律(子供):ジンジャークッキー?
立花(りっか):そう。クリスマスに食べる生姜やスパイスの入ったクッキーだよ
律(子供):クリスマス…
立花(りっか):…律、どうかした?
律(子供):…
立花(りっか):ん?
律(子供):…誕生日
立花(りっか):え?
律(子供):十二月二十四日…誕生日
立花(りっか):え?イブ、誕生日なの?
律(子供):…うん
立花(りっか):…
立花(りっか):ねぇ?ここでお誕生日会しようか?
律(子供):え?
立花(りっか):二十四日の0時に、ここでお誕生日会しようよ?
立花(りっか):ケーキとお菓子を持ってくるから、一緒にパーティーしよ?ね?
律(子供):…うん
立花(りっか):やったー!約束だよ?
0:立花、小指を差し出す
立花(りっか):ほら?
0:律、おずおずと小指を差し出す
立花(りっか):指きり、げんまん、嘘ついたら針千本の~ます、指切った!
律(子供):…
立花(りっか):律、約束だよ?
律(子供):…うん
0:律、クッキーを食べ終わる。
律(子供):…あっ、そろそろ帰らないと
立花(りっか):え?
律(子供):遅くなる
立花(りっか):あぁ
0:律、ジンジャークッキーの残った袋を立花に渡す
律(子供):っん。…クッキーありがと、…帰る
0:律、走って帰っていく
0:立花、律の走っていく後ろ姿を眺める
立花(りっか):…
0:立花、律に渡された袋を見る
0:律の齧りかけのジンジャークッキーを手に取り
立花(りっか):…ジンジャークッキー。
立花(りっか):(一口齧る)っ、ふふ(笑う)…変な味
0:ふと、足元を見るとオイルライターが落ちている事に気づく
立花(りっか):ん?あっ、ライター
立花(りっか):これ…さっき律が持ってたのだ
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0:過去[アパート(律)]
:
0:律、家の扉を開ける
律(子供):…
寿里(じゅり):律、あんた、どこ行ってたの?
律(子供):…
寿里(じゅり):こら!律!
斎(いつき):おい、律!お前、俺のライター持ってったか?
律(子供):あっ
斎(いつき):やっぱり、お前か…ったく、お前
律(子供):…
:
0:過去[アパート(立花)]
:
0:立花、そっと扉を開ける
0:暁生がテーブルを叩きつける音と酒瓶の倒れる音が聞こえる
暁生(あきお):ちっ(舌打ち)毎日、毎日!上の奴らは!
立花(りっか):…
0:立花、そっと自分の部屋に行こうとする
暁生(あきお):(立花に気付く)っ!
暁生(あきお):立花!こんな夜遅くまで何やってたんだ!
立花(りっか):…学校の…用事で
暁生(あきお):学校の用事?一体なんの用事だったんだ?
立花(りっか):…
暁生(あきお):説明できないのか?
立花(りっか):っ
暁生(あきお):こっちへ来い!
0:暁生、立花の腕を掴んで、引き倒す
立花(りっか):(倒れる)っ!
暁生(あきお):言ってみろ!なんで遅くなった!
立花(りっか):っ!…ごめんなさい
暁生(あきお):ごめんなさい?何かやましい事でもあったってことか!
立花(りっか):違う!違うの!
暁生(あきお):何が違う!
暁生(あきお):お前といい、お前の母親といい、上の女といい!
暁生(あきお):ふしだらな奴ばっかりだ!
立花(りっか):(泣きながら)違うの!ごめんなさい!
暁生(あきお):じゃあ!何をしていたのか言ってみろ!
立花(りっか):(泣きながら)うっ…っ…律と話してただけなの
暁生(あきお):話してた?こんな時間に男と二人でか?
立花(りっか):(泣きながら)うっ…話してただけなのっ
暁生(あきお):上の奴の息子だろ!ふしだらなガキに決まってるだろ
0:暁生、立花の服に手をかける
立花(りっか):っ!いやだ!お父さん!やめて!
暁生(あきお):うるさい!
0:暁生、立花を叩く
立花(りっか):っ!
暁生(あきお):汚いことをしていないか調べてやる…
立花(りっか):(泣きながら)いやだ!やめて…やめて!お父さん!
:
0:現在[]
:
樹(たつき):っ…
:
樹(たつき):(M)柊立花(ひいらぎりっか)。
樹(たつき):(M)彼女の話す内容は酷く凄惨だった。
樹(たつき):(M)だが、彼女は終始、穏やかに話す。
樹(たつき):(M)とても、いたましい話をしているようには聞こえない。
:
樹(たつき):それで何があったのですか?
立花(りっか):なに?
立花(りっか):…。
立花(りっか):燃やしたんです。全部。
立花(りっか):私にとっても、律にとっても…邪魔だから、燃やしたの
樹(たつき):っ…燃やした
立花(りっか):そう、ぜーんぶ燃やしたの、なにもかも
:
0:過去[アパート(立花)]
:
暁生(あきお):じゃあ…仕事にいってくる
立花(りっか):…。
暁生(あきお):…。
0:暁生、部屋を出て行く
立花(りっか):…。
立花(りっか):(ため息)。
0:立花、立ち上がる。
立花(りっか):っ、いたっ…。(泣きだす)…っ、ふっ…うっ
:
0:間
:
0:律、アパートの階段下を懸命に見てまわる
律(子供):っ。…ない
0:律の家の扉が開く
斎(いつき):じゃあ、いってきます
寿里(じゅり):ん、いってらっしゃ~い
0:斎、アパートの階段を下りていく
斎(いつき):あん?おい、律、どうした?
律(子供):っ…
0:律、もじもじしている
斎(いつき):ん?なんだよ?
律(子供):…たー
斎(いつき):あん?
律(子供):ライター…ない
斎(いつき):はあ?なくしたのか?
律(子供):…うん
斎(いつき):はぁ(ため息)、大事にしろっていったよな?
律(子供):っ…
斎(いつき):…。あぁ~!もういい、オレ仕事いくから
律(子供):っ、でも
斎(いつき):いいから!どけって言ってんだろ!
律(子供):っ
0:斎、車に乗り、出て行く
律(子供):っ!待って!ごめんなさい!
0:律、車を追って走る、がつまずいて転んでしまう。
律(子供):(走る)はぁ、はぁっ。
律(子供):(つまずく)あっ!(転んでしまう)うっ!
0:立花、部屋から出てくる
立花(りっか):なんの音?
0:立花、律に気付く
立花(りっか):あっ!律!どうしたの?
0:立花、走り出す車を見て
立花(りっか):っ!(小声)…あいつ
立花(りっか):律、大丈夫?
律(子供):っ
0:立花、律の擦りむいた手足を見る
立花(りっか):あ~、大変!とりあえずウチで手当てしてあげるから、おいで
律(子供):っ
立花(りっか):ほら、立てる?
0:立花、律に手を貸して立たせてあげる
律(子供):っ
立花(りっか):歩ける?
律(子供):…うん
:
0:過去[アパート(立花)]
:
立花(りっか):よしよし、頑張ったね。
立花(りっか):お風呂場で傷も洗ったし、あとは消毒してガーゼと包帯で大丈夫かな?
立花(りっか):じゃあ、ここに座って。消毒するよ?
0:立花、消毒液をかける
律(子供):っ!いたっ
立花(りっか):よしよし、もう少しだから我慢してね?
律(子供):っ、うっ
立花(りっか):っ、よし!こんなもんかな?
立花(りっか):あとは、ガーゼを、とめて、包帯を、巻けば、終わりかな?
律(子供):っ
立花(りっか):っ、これで大丈夫かな?
立花(りっか):腕のケガは、バンドエイドで大丈夫そうだね?
律(子供):…ありがとう
立花(りっか):っ!ふふ(笑い)どういたしまして。
0:立花、律と目を合わせながら
立花(りっか):…律、大丈夫?
立花(りっか):辛い事があったら、いつでも私のところにおいでね?
0:立花、律をそっと抱きしめる
律(子供):っ
立花(りっか):私は、どんな時でも律の味方だよ?
立花(りっか):ね?
律(子供):…
:
0:間
:
立花(りっか):それじゃ、気を付けてね、律。
立花(りっか):あっ、二十四日!0時!忘れないでね?
律(子供):…うん
:
0:間
:
0:酒を飲んだ暁生が帰ってくる。
暁生(あきお):おい、立花!帰ったぞ!
立花(りっか):…お帰り
暁生(あきお):おい!立花!暗いぞ!
暁生(あきお):ほら、ケーキもチキンも買ってきてやったんだ!喜べ!
立花(りっか):っ、お父さんお酒臭い
暁生(あきお):おう!会社の奴らと飲んできたんだ。
暁生(あきお):あっ!立花にクリスマスプレゼントも買ってきたんだぞ!
立花(りっか):もお、わかったから
暁生(あきお):ほら
0:暁生、くまのぬいぐるみを渡す
立花(りっか):くまのぬいぐるみって…子供じゃないんだから
暁生(あきお):…なんだ、嬉しくないのか?
立花(りっか):…そんな事ない、嬉しいよ。ありがとう。
暁生(あきお):ははは(笑い)
立花(りっか):でも、気が早いよ。今日は二十三日だよ?
暁生(あきお):当日だとどこも混んでるだろうし、仕事の帰りだと売ってないかもしれないだろ?
立花(りっか):まあ、確かに
暁生(あきお):おい、立花。ケーキ切るのと、皿を持って来てくれ
立花(りっか):うん、わかった
0:立花、立ち上がる。っとオイルライターが床に落ちる
立花(りっか):あっ
暁生(あきお):ん?
0:暁生、落ちたオイルライターを拾う
暁生(あきお):…なんだ?
立花(りっか):あっ
暁生(あきお):…なんだ、これは?
立花(りっか):っ
暁生(あきお):なんだ、これはと聞いているだろう
0:暁生、椅子を蹴飛ばす
暁生(あきお):おい!立花!これは何だ?
0:立花、その場から離れようとする
立花(りっか):あっ
0:暁生、逃げようとする立花を捕まえる
暁生(あきお):っ!おい!これはなんだ!
立花(りっか):それは、律の忘れ物っ
暁生(あきお):っ!
0:暁生、立花を叩く
立花(りっか):っ!
0:立花、その場に倒れる
暁生(あきお):ガキがライターなんか持ってるわけないだろうが!誰のだ?
立花(りっか):違うの!本当に律がっ
暁生(あきお):っ!
0:暁生、再び立花を叩く
立花(りっか):あっ!
0:暁生、立花を攻めたてながら叩き続ける
暁生(あきお):正直に言え!
立花(りっか):っ!
暁生(あきお):誰のだ!誰のライターだ?
立花(りっか):うっ!
暁生(あきお):男か?この家に男を上げたのか?
立花(りっか):っ!
暁生(あきお):お前の母親みたいに!この家に知らない男を上げたのか?
立花(りっか):あっ!
暁生(あきお):(肩で息をしながら)なんでお前は!父さん一生懸命働いてるだろ!
立花(りっか):(泣きながら)うっ…っ
暁生(あきお):なんでなんだ!お前もお前の母親も!なんで俺の事を大事にしてくれないんだ!
立花(りっか):(泣きながら)ひっ…ごめんなさい
暁生(あきお):なんでだよ!ちゃんと愛してる!俺はお前たちを、ちゃんと、大事にしてる!
立花(りっか):(泣きながら)っ…やめて、お父さん
暁生(あきお):なんでお前らは、俺を裏切るんだ!
立花(りっか):(泣きながら)ひっ…ぅっ…ごめんっ…ごめんなさい
:
0:間
:
0:真っ暗な部屋に暁生のイビキが響いている
暁生(あきお):(イビキ)
立花(りっか):(目を覚ます)…。
立花(りっか):あっ…行かなきゃ…約束…
0:立花、辺りを見回す
立花(りっか):ケーキと…チキンと…ぬいぐるっ
0:立花、くまのぬいぐるみをみつけ、ぎゅっと抱きしめる
立花(りっか):っ…うっ…っ…(嗚咽)
0:ライターが立花の足先に当たる
0:立花、床に落ちているライターを拾う
立花(りっか):っ、ライター…
0:静かな部屋に立花の呼吸音が響く
0:立花は台所から、サラダ油を手にする
立花(りっか):っ
0:持っていたぬいぐるみを床に投げ、サラダ油をかける
立花(りっか):はぁ、はぁ、はぁ
0:サラダ油にまみれたぬいぐるみを見つめる
立花(りっか):…。
0:ライターのキャップを開け、炎を見つめる
立花(りっか):はぁ、はぁ、はぁ…さようなら…お父さん
0:ライターをぬいぐるみに落とす
立花(りっか):っ!
0:立花、そのまま、振り返らずに部屋を出て行く
立花(りっか):(泣きながら)っ…うっ…っ…
0:立花、泣いていたはずが、いつしか笑いはじめる
立花(りっか):っ、ふっふふ…ふふ、ははは
:
0:過去[廃屋]
:
律(子供):あっ
立花(りっか):律、ごめんね、遅くなっちゃった
立花(りっか):ほら、ケーキとチキン持ってきたよ。食べよ?
:
0:間
:
0:律、チキンにかぶりついている
律(子供):(チキンを食べる)
立花(りっか):…おいしい?
律(子供):うん
立花(りっか):ケーキもあるから、いっぱい食べな
律(子供):(チキンを食べる)うん
立花(りっか):…
律(子供):っ…食べないの?
立花(りっか):え?
律(子供):全然食べてないから
立花(りっか):あ~、うん、食べる
0:立花、チキンにかぶりつく、かぶりつきながら泣き出す
立花(りっか):(泣く)っ…ふぅ…
律(子供):え?お姉ちゃん?
0:立花、食べていたチキンを床に捨て律に抱きつく
立花(りっか):っ…
律(子供):っ!お姉ちゃん?
0:立花、すすり泣きから、徐々に大きな声で泣き出す
立花(りっか):(泣く)っ…ふぅ…ひっ…うぅっ、うぅっ
0:立花、ひとしきり泣いて落ち着いてきた頃、サイレンの音が近づいてきてすぐ近くで止まる。
0:大きなサイレンの音が鳴っている。
律(子供):っ、サイレン?
0:律、近くで鳴っているサイレンが気になり外へ出てく
0:一階から建物の外に出ると、暗闇の中、ある一点だけが煌々と赤く輝いている
律(子供):え?…燃えてる?
立花(りっか):…
律(子供):お姉ちゃん!あれ!火事だよね!
立花(りっか):…
律(子供):あれ、ウチの方だよ!
立花(りっか):…
律(子供):早く帰らなくちゃ!
0:走りだそうとした律を立夏が掴んで止める
律(子供):っ、お姉ちゃん?離して!早く帰らないと!
立花(りっか):私達、どんな時も一緒だよ?
律(子供):え?
立花(りっか):私は、あなたを守る。
律(子供):っ
立花(りっか):あなたは、私を守って?
律(子供):…
立花(りっか):私には、あなたしかいない。
律(子供):…
立花(りっか):あなたには、私しかいない。
律(子供):…
立花(りっか):お互いに、唯一無二の存在。
律(子供):…
立花(りっか):…どんな時も、一緒だよ?
律(子供):っ
0:立夏、律を更に強く掴む
律(子供):痛い!離して!
0:律、立花を振りほどいて走り出す。
律(子供):っ!
:
0:過去[アパート]
:
0:肩で息をする律
律(子供):はぁ、はぁ、はぁ
律(子供):…うそ
律(子供):…お母さん…イツキ
律(子供):っ!お母さん!イツキ!
0:炎に向かって走り出した律を周りの大人が止める
律(子供):いやだ!離して!お母さん!イツキ!
律(子供):はなして!はなして!
:
0:ある日の回想[アパート(律)]
:
斎(いつき):いい加減、籍入れようぜ!
寿里(じゅり):無理だよ
斎(いつき):俺、仕事行くから!帰ってくるまでに書いとけよ!
寿里(じゅり):だから無理だって
斎(いつき):なにが無理なんだよ!紙に名前書いて、印鑑押すだけだろ!
寿里(じゅり):私、一回失敗してんだよ?子供だっているし
斎(いつき):いいじゃん!結婚したら、もう可愛い子がいんだろ?ラッキー!
寿里(じゅり):そんな軽い話じゃないでしょ!
斎(いつき):そんな重い話でもないだろ!
斎(いつき):とりあえず、帰ってくるまでに書いとけよ!保証人のところは弟が書いてくれるって言うし!
寿里(じゅり):そういうことじゃっ、あっ、律!もう出てってる!
:
0:またある日の回想[アパート(律)]
:
斎(いつき):結婚しようって!
斎(いつき):だから言ってんだろ!何回言ったらわかんだよ!
寿里(じゅり):ごめんって!でも私には無理なの!私も何度も言ってんじゃん!
斎(いつき):話を聞けよ!結局お前は、毎回俺の話を聞いてないんだよ!
寿里(じゅり):ごめん!っごめんって!
斎(いつき):100%なんてないんだよ!失敗するも成功するもやってみなくちゃわかんねぇだろ!
寿里(じゅり):でもっ
斎(いつき):なんでだよ!そんなに難しいこと言ってないだろ!
寿里(じゅり):ごめん!それでもできない!
斎(いつき):はぁ?っお前!なんでだよ!
斎(いつき):毎回毎回言ってんじゃん!この手のはお互いの努力なんだよ!二人で続けたいって努力しあわないと幸せになんてなれねぇんだよ!俺も努力する!お前も努力しろ!以上!
寿里(じゅり):でも
斎(いつき):でももだってもない!お互いに好きで、お互いに幸せになりたい!一緒になったらいいじゃんか!
:
0:回想[アパート(律)]
:
0:律、家の扉を開ける
律(子供):…
寿里(じゅり):律、あんた、どこ行ってたの?
律(子供):…
寿里(じゅり):こら!律!
斎(いつき):おい、律!お前、俺のライター持ってったか?
律(子供):っ
斎(いつき):やっぱり、お前か…ったく。
斎(いつき):お前、あのライター好きだよな(笑い)。気に入ったか?
律(子供):(うなずく)っ
0:斎、律の背中を軽く叩きながら笑う
斎(いつき):ははは(笑い)、律も男だな!
斎(いつき):あっ、そういや、お前もうすぐ誕生日だろ?
0:斎、キッチンの寿里へ問いかける
斎(いつき):クリスマスが誕生日だって確かそう言ってたよな?寿里。
寿里(じゅり):そうよ、もうすぐ十歳になるの
0:斎、再び律の背中を軽く叩きながら炬燵の自分の横に座らせる
斎(いつき):お~!めでたいじゃん!
律(子供):(座る)…
斎(いつき):あっ!じゃー、あのライターお前にやるわ
律(子供):(嬉しそうな顔をする)えっ
寿里(じゅり):え~?プレゼントがお下がりのライターなの?
斎(いつき):うっせーな!
斎(いつき):アレ、俺が持ってるモンでは、なかなかイイモンなんだぞ!
寿里(じゅり):え~?
斎(いつき):十八の誕生日に弟がバイト代貯めてくれたんだよ
寿里(じゅり):え~?大事なら自分で持ってなよ
斎(いつき):いーんだよ!どうせ、…タバコも当分吸えねぇわけだしぃ?
寿里(じゅり):っ!…バカ
0:斎、律の髪をぐしゃぐしゃにして撫で回す
斎(いつき):ははは(笑う)な~?だから、律…大事にしてくれよ?
律(子供):っ、うん
斎(いつき):ははは(笑う)
寿里(じゅり):も~。ご飯にするから、机の上片付けて~
斎(いつき):へーい。今日のご飯は~?
寿里(じゅり):きつねうどんと天ぷらそばとカレーうどん
斎(いつき):お~!豪勢だな!
斎(いつき):律、どれがいい?
律(子供):…カレーうどん
斎(いつき):んっ、寿里は?
寿里(じゅり):ふふ(笑い)どっちでもいいよ
斎(いつき):じゃあ、きつねうどん、も~らい!
斎(いつき):あっ!律、一口カレーうどん食わして
律(子供):え~
斎(いつき):いいじゃん、一口だけ!
律(子供):イツキ…一口大きい
斎(いつき):なぁ~律~お願い!
律(子供):ふふ(笑い)、いいよ
斎(いつき):いえ~い!律、優しい!
寿里(じゅり):も~、どっちが子供なのよ
斎(いつき):大丈夫!律にもお揚げ半分やっから!
律(子供):ふふふ(笑い)
寿里(じゅり):あっ、斎は年末年始どうすんの?
斎(いつき):(すすりながら)、ん?どうするって?
寿里(じゅり):実家、帰るの?
斎(いつき):あ~…いや、今年は帰らないでおくわ
寿里(じゅり):ん?なんで?
斎(いつき):いや~、弟…年明けに試験あっから、
斎(いつき):帰って騒がしくすんのどーなのかなって
寿里(じゅり):あ~、そうなんだ
斎(いつき):弟、俺と違ってめちゃくちゃお勉強できちゃう系でさ…
斎(いつき):あ~でも、年始…初詣がてら顔だけ出してこようかな
斎(いつき):…寿里も一緒に来るか?
寿里(じゅり):え?
斎(いつき):律も一緒でいいし
寿里(じゅり):…いや、だから
斎(いつき):うん。わかってっけど…そんな深刻に考えなくていいし、
斎(いつき):顔出すだけ、挨拶するだけで別にいいし
寿里(じゅり):…
斎(いつき):まあ…とりあえず考えといて
寿里(じゅり):うん
律(子供):…
:
0:現在[面会室]
:
律(りつ):仲の良い…両親だったよ。
律(りつ):実の父親なんか、顔も名前も何にも知らないけど…
律(りつ):イツキは明るくて優しい…いい、俺の父親だった
樹(たつき):…。
樹(たつき):柊立花さんの件について
律(りつ):聞きたくねぇ!
樹(たつき):柊立花さんの件について
律(りつ):聞きたくねえっつってんだろ!
樹(たつき):亡くなりましたよ
律(りつ):っ…は?
樹(たつき):…
0:律は、笑っていたが徐々に泣き出す。
律(りつ):(笑う)はは、ははは!ざまぁねぇ!
律(りつ):はは…ははは…っ、ふっ…うっ
律(りつ):(泣く)なんだよ…っ…なんなんだよ
樹(たつき):…。
樹(たつき):亡くなる前に、柊立花さんにお話をうかがいました。
樹(たつき):当時、アパートに火をつけたのは彼女だそうです。
律(りつ):…。
樹(たつき):事件当時、事件は橘斎(たちばないつき)がアパートに火を付けた事による無理心中とされていました。
樹(たつき):それは、「近隣住民からの二人の日常的な口論の証言」
樹(たつき):「火元とされる場所」
樹(たつき):「橘斎(たちばないつき)の持ち物であったオイルライターが出火原因」だったからです。
律(りつ):事件当時、イツキはライターを持っていなかった…俺が、誕生祝いにもらったから
樹(たつき):貴方の証言から、二人の日常的な口論が否定的な口論でなかったこと。
樹(たつき):柊立花さんの証言から、
樹(たつき):当時あなたが落としたライターを拾った柊立花さんが、
樹(たつき):自分の部屋でそのライターを使い、出火させたこと。
樹(たつき):そして…
0:樹、ポケットから黒焦げのライターを取り出す。
律(りつ):っ!それ
樹(たつき):事件当時…
樹(たつき):ライターが、橘斎(たちばないつき)の持ち物であったと証言したのは、
樹(たつき):私です。
律(りつ):っ
樹(たつき):私が、兄にプレゼントした物ですから…
律(りつ):でも、あんた苗字が
樹(たつき):里見樹(さとみたつき)。里美は、母方の旧姓です。
律(りつ):…
樹(たつき):放火による、無理心中でアパートの住民は死亡…
樹(たつき):世間の目は冷たいんですよ。
律(りつ):…
樹(たつき):では、貴方の事件について話を戻しましょう。
律(りつ):…死んだんだろ?もう、事件は終わったろ
樹(たつき):まだです。八年前の事件だって真相が変わったんですよ?
律(りつ):…
樹(たつき):貴方の話が聞きたい
:
0:間
:
律(りつ):…。
律(りつ):俺は、十八で児童養護施設を出た。
律(りつ):何もやりたい事もなく、バイトでとりあえず食いつないでいた…。
律(りつ):そんなある日、あの女から手紙がきた
:
0:立花からの手紙
立花(りっか):「お久しぶりです。お元気でしょうか?
立花(りっか):私は三年前に児童養護施設を退所後、ショッピングモールの受付で働いています。
立花(りっか):別々の児童養護施設へ預けられ、律とは会えなくなってしまいましたが、
立花(りっか):今でも律の事を思っています。
立花(りっか):あのアパートでの日々は、私にとっても律にとっても辛い毎日だったと思います。
立花(りっか):毎日のように律の家から聞こえる怒鳴り声、
立花(りっか):寒空の下に追い出される律。
立花(りっか):ある日、男に引き倒されて手足に怪我をさせられた律を見て、
立花(りっか):私が律を助けてあげなきゃって思ったの。
立花(りっか):だから、あの日、アパートに火をつけたの。」
:
律(りつ):ははっ(嘲笑)。
律(りつ):手紙読んで、ゾッとしたよ。
律(りつ):全部…全部!俺のせいだったんだ!
律(りつ):母さんもイツキも…アパートの人、全員、死んだのは俺のせいだった!
律(りつ):しかも、あの女…最後にこう書きやがった!
:
0:立花からの手紙
立花(りっか):「私たちは、同じ傷を持ち、同じ罪を持つ。
立花(りっか):私達、どんな時も一緒だよ?
立花(りっか):私は、あなたを守る。
立花(りっか):あなたは、私を守って?
立花(りっか):私には、あなたしかいない。
立花(りっか):あなたには、私しかいない。
立花(りっか):お互いに、唯一無二の存在。
立花(りっか):…どんな時も、一緒だよ?」
:
律(りつ):あったまオカシイだろ!
律(りつ):しかも、ご丁寧に、住所も勤務先も書いてあんだよ!
樹(たつき):…
樹(たつき):それで、なんでショッピングモールへ?
律(りつ):…
樹(たつき):どうしてなんですか?
律(りつ):脅すつもりだったんだ…
律(りつ):謝罪でも弁明でも、なんであんな事したのか…
律(りつ):俺の両親にも…俺にも…ただ謝ってほしかった、
律(りつ):泣いて叫んで後悔してほしかったんだ
樹(たつき):…
律(りつ):でも
樹(たつき):でも?
律(りつ):アイツ…笑ってたんだよ
:
0:回想[ショッピングモール(受付)]
:
律(りつ):柊立花(ひいらぎりっか)は、どこにいる?
律(りつ):聖川律(ひじりかわりつ)が用があるって伝えろ!
0:受付嬢は、目をパチパチとする、そして
立花(りっか):っ…律?
律(りつ):っ
立花(りっか):会いにきてくれたの?
:
律(りつ):(M)ガキの頃ぶりだったから、一目ではわからなかった。
律(りつ):(M)だが、目元や口元には昔の面影があったし、声は昔と変わっていなかった。
:
立花(りっか):ごめんね、ちょっと休憩入ってもいい?
:
律(りつ):(M)隣に座っていた同僚に一声かけて、
律(りつ):(M)あいつは俺の手を引いてバックヤードに連れて行った。
:
立花(りっか):っ…律、久しぶりだね!元気だった?
:
律(りつ):(M)俺への第一声が、元気だったかだと!
律(りつ):(M)その一言で俺は耐え切れなくなった。
:
律(りつ):ふざけるな!
立花(りっか):っ
律(りつ):元気だったかだと?
律(りつ):元気な訳ねえだろ!
律(りつ):お前のせいで!お前のせいで俺がどんなに辛かったか!
律(りつ):全部、全部お前のせいじゃねぇか!
立花(りっか):私の?
律(りつ):そうだろうが!お前がアパートに火をつけたんだろうが!
立花(りっか):うん
律(りつ):っ!…うん…はは(笑い)やっぱりお前だよな!
立花(りっか):うん
律(りつ):なんで火をつけた!
立花(りっか):律を守るためだよ?
律(りつ):ふざけるな!俺がいつそんな事言ったよ!
立花(りっか):だって、律も私も可哀想だった
律(りつ):なんの話してんだよ!
立花(りっか):私達二人とも可哀想だったから
律(りつ):俺を一緒にするな!俺はお前とは違う!
:
律(りつ):(M)俺は持っていた、火炎瓶に火をつけた。
:
律(りつ):謝れ!謝れよ!俺に、両親に…謝れよ!
立花(りっか):っ、律
律(りつ):謝れ!
立花(りっか):律…危ないよ?
律(りつ):うるせー!謝れ!
立花(りっか):…投げて
律(りつ):は?何いって
立花(りっか):早く、投げて!
:
律(りつ):(M)そう言って、あの女は、俺の手から火炎瓶を取り上げた
:
律(りつ):っ!おい
:
律(りつ):(M)そして
:
立花(りっか):ほら、これで一緒。
:
律(りつ):(M)そう言って、笑った。
:
0:現在[面会室]
:
樹(たつき):そうして、自ら火炎瓶を頭に…
律(りつ):な?信じらんないだろ?
樹(たつき):…いえ、信じますよ。
律(りつ):は?
樹(たつき):柊立花の証言と同じです。
:
0:現在[病室]
:
樹(たつき):柊立花さん…今回の事件について、おうかがいしたいのですが
立花(りっか):私です
樹(たつき):は?
立花(りっか):私が自分で火炎瓶を当てたんです。
樹(たつき):…意味がわかりません。何故、自分で?
立花(りっか):律が会いにきてくれた。
立花(りっか):私と同じになろうとしてくれた…それでいいんです。
樹(たつき):…。
立花(りっか):それで私の気持ちは満たされました。
立花(りっか):それでいいんです。
樹(たつき):っ
:
0:現在[面会室]
:
律(りつ):はっ(嘲笑)なんだよそれ…訳わかんねえ
樹(たつき):そうですね。
:
0:間
:
樹(たつき):ねぇ、貴方、知ってました?
律(りつ):あ?
樹(たつき):火炎瓶て、火をつけたら三十秒以内に投げないといけないんですよ?
律(りつ):は?なんだ、それ?
樹(たつき):…。
樹(たつき):柊立花さんの証言。
樹(たつき):貴方の証言。
樹(たつき):…それに、防犯カメラの映像があります。
律(りつ):え?
樹(たつき):だから、防犯カメラの映像があるんですよ。
樹(たつき):柊立花さんが自分で自分に火炎瓶を当てている映像が
律(りつ):な!
樹(たつき):でも、映像が不鮮明なのため、これだけでは100%の証拠にならない。
樹(たつき):だから、柊立花さんの証言と貴方の証言が必要だったのです。
律(りつ):…。
:
0:間
:
律(りつ):…。
律(りつ):なあ、あの女、いつ死んだんだ?
樹(たつき):…十二月二十三日から二十四日の未明だそうですよ。
樹(たつき):心電図の心肺停止のアラートが鳴らなかったそうです。
樹(たつき):一人で、ひっそりと亡くなったようです。
律(りつ):…はっ(嘲笑)、絶対に十二月二十四日のイブだよ。
樹(たつき):…なんでですか?
律(りつ):俺の誕生日だから。あの女なら、絶対にそうだろ。
樹(たつき):…なるほど…愛されていますね?
律(りつ):やめろ、気色悪い。
:
0:回想[病室]
:
0:「きよしこの夜」は、曲と英語歌詞の版権が切れている為、商用利用化のなっておりますので、英語歌詞か鼻歌で歌っていただけるとよいと思います。
0:歌わない場合は、歌の後の台詞に飛んでください。
:
立花(りっか):Silent night、Holy night(サイレントナイト ホーリーナイト)
立花(りっか):All is calm、all is bright(オールイズカーム オールイズブライト)
立花(りっか):Round yon Virgin Mother and Child(ラウンドヨンバージン マーザアンドチャイルド)
立花(りっか):Holy Infant so tender and mild(ホーリー イーンファント ソー テンダーアンドマイルド)
立花(りっか):Sleep in heavenly peace (スリーピン ヘーヴンリーピース)
立花(りっか):Sleep in heavenly peace(スリーピン ヘーヴンリーピース)
:
立花(りっか):律…お誕生日…おめ…で…
:
:
0:柊立花はひっそりと息をを引きとった
:
:
0:~終~
:
立花(りっか):私達、どんな時も一緒だよ?
立花(りっか):私は、あなたを守る。
立花(りっか):あなたは、私を守って?
立花(りっか):私には、あなたしかいない。
立花(りっか):あなたには、私しかいない。
立花(りっか):お互いに、唯一無二の存在。
立花(りっか):…どんな時も、一緒だよ?
:
0:現在[面会室]
:
樹(たつき):それで、あなたは何故、火炎瓶を持ってショッピングモールに行ったのですか?
律(りつ):…
樹(たつき):…。
樹(たつき):(ため息)ずっと黙っていますが、黙っていても貴方が有利になることは、ありませんよ?
律(りつ):…
樹(たつき):柊立花さん。彼女とは、どのような関係なんですか?
律(りつ):…ない
樹(たつき):はい?
0:律、机の脚を蹴りつける。
律(りつ):知らない、知らない!そんな女知らない!あんな女知るわけがない!アイツさえいなければ!あんな奴!あんな奴!
樹(たつき):っ…
:
樹(たつき):(M)柊立花(ひいらぎりっか)。
樹(たつき):(M)彼女の名前を聞いた途端、聖川律(ひじりかわりつ)は、感情をあらわにした。
樹(たつき):(M)刑務官の制止を物ともせず、射るような眼差しで、彼は吼え続けた。
:
0:現在[]
:
樹(たつき):柊立花さん。今日は聖川律(ひじりかわりつ)さんについて、おうかがいしたい事がありまして
立花(りっか):律は?
樹(たつき):え?
立花(りっか):律は、今どうしていますか?
樹(たつき):(困惑)あぁ?
立花(りっか):律は、私の為に来てくれたんです!
樹(たつき):…どういう事ですか?
立花(りっか):だって…約束したんです
立花(りっか):私達、どんな時も一緒だよって
:
0:過去[アパート]
:
立花(りっか):いってきます
暁生(あきお):あぁ、気をつけてな
立花(りっか):うん
0:上の階からケンカする声が聞こえる。
暁生(あきお):っ、また上の階のか
立花(りっか):…
暁生(あきお):毎日、毎日、一体なにをやってるんだか
立花(りっか):…
暁生(あきお):おい、早く行かないと遅刻するぞ
立花(りっか):あ、うん。いってきます
0:立花が家を出ると、上の階から降りてきた律と会う
立花(りっか):あっ…おはよう
律(子供):…
立花(りっか):…学校行くの?
律(子供):…
立花(りっか):よかったら途中まで一緒に行こう?
0:律の部屋のドアが開き、寿里が出てくる
寿里(じゅり):あっ、律!あんた何ちんたらやってんの?早く学校行きな!
律(子供):…
0:律、そのまま無言で歩き出す
寿里(じゅり):律!いってきますは?
律(子供):(小声)…ってきます
寿里(じゅり):ん?聞こえないよ!
律(子供):…いってきます
寿里(じゅり):んっ!
0:律の部屋のドアが再び開き、斎が出てくる
斎(いつき):おい!寿里!俺が仕事から帰ってくるまでにちゃんとやっとけよ!
寿里(じゅり):だから、急に言われてもアタシ(には)
斎(いつき):ウルセー!とりあえず、俺は仕事行くから
寿里(じゅり):ちょっと!斎!
0:斎、階段を降り、律の近く来る
斎(いつき):おい、律!(軽く頭を叩く)
律(子供):っ
斎(いつき):帰りにコンビニで牛乳買って来い
0:斎、ポケットから小銭を取り出し、律に五百円玉を渡す
斎(いつき):ほら、金
寿里(じゅり):斎!勝手なことしないで!
斎(いつき):おっと、じゃーな
0:斎、アパート前の駐車場の車に乗って出て行く
立花(りっか):(小声)…なにあれ、カンジ悪
律(子供):…
立花(りっか):大丈夫だった?頭、痛くない?
0:立花、律の頭に触れようとする
律(子供):っ
立花(りっか):あっ、ごめん、痛かった?
律(子供):…
立花(りっか):学校、いこっか?
0:立花、歩き出す
立花(りっか):ほら、いくよ?
0:律、歩き出す
立花(りっか):ねぇ、君、名前は
律(子供):…
立花(りっか):私は、立花。柊立花(ひいらぎりっか)。君の名前は?
律(子供):…りつ。聖川律(ひじりかわりつ)。
立花(りっか):りつ…律くんか。ふふ(笑い)、私達、名前似てるね?
律(子供):え?
立花(りっか):律と立花、二人とも「リツ」って
0:十字路にさしかかる
立花(りっか):あ、私、学校こっちだから
立花(りっか):律くんも学校がんばってね!いってらっしゃい!
律(子供):…いってきます
立花(りっか):ふふふ(笑い)
0:立花、律に手を振り学校へ向かう
:
0:現在[]
:
樹(たつき):(M)柊立花(ひいらぎりっか)は、聖川律(ひじりかわりつ)との出会いについて語りだした。
樹(たつき):(M)とても楽しそうに。とても…幸せそうに。
:
立花(りっか):律は、夏休みが終わった二学期の中頃にアパートに引っ越してきたの。
立花(りっか):ちょうど私の家の上の階に越してきたから覚えてる。
立花(りっか):お父さんがね「最近の若い奴は、あいさつにも来ないのか?だから片親になるんだろ」って何度も文句言ってるから…
立花(りっか):律は学校でも浮いていたんだろうなって、
立花(りっか):休みの日になっても友達が遊びに来ることも、
立花(りっか):遊びに行くこともしない子だったから…
立花(りっか):二学期も終わりに近い時期に転校してきても、友達なんかなかなかできないなんて、誰だってわかる事だろうに…
立花(りっか):…律は可哀想だなって。
立花(りっか):いつも私が学校から帰ってくると一人でアパートの外で遊んでいたんです。
立花(りっか):だから私がよく遊んであげたんです
樹(たつき):…
立花(りっか):律の母親は、若い男と付き合ってたみたい。
立花(りっか):朝も夜も関係なく、よく大きな声がウチにまで聞こえてた
立花(りっか):ある日、学校の用事で遅くなった時。律は一人で外で遊んでいたわ。
立花(りっか):その時も、律の母親と男の声はアパートの外にまで聞こえていた
:
0:過去[アパート]
:
斎(いつき):だから言ってんだろ!何回言ったらわかんだよ!
寿里(じゅり):ごめんって!でも私には無理なの!私も何度も言ってんじゃん!
斎(いつき):話を聞けよ!結局お前は、毎回俺の話を聞いてないんだよ!
寿里(じゅり):ごめん!っごめんって!
0:二人のケンカする声がアパートの外にまで聞こえている
0:立花、アパートの階段に座っている律を見つける。
0:律はオイルライターのキャップを開け閉めして遊んでいる
立花(りっか):律っ、どうしたの?もう暗いし、寒いよ?
律(子供):…
0:立花、律の手を握る
立花(りっか):っ!ライターで遊んでたら危ないよ!
立花(りっか):それに上着も着ないで外にいたら冷えちゃうよ?
0:立花、自分の手袋とマフラーを律につけてあげる
立花(りっか):手、だして。手袋と、マフラー。これで少しは寒くないでしょ?
律(子供):…ありがとう
立花(りっか):ふふ(笑い)どういたしまして
0:二人のケンカする声が聞こえる
斎(いつき):なんでだよ!そんなに難しいこと言ってないだろ!
寿里(じゅり):ごめん!それでもできない!
斎(いつき):はぁ?っお前!
0:立花、聞いていられなくなって律の手を引いて歩き出す
立花(りっか):行こ
律(子供):え?
立花(りっか):いい所つれてってあげる
律(子供):いい所?
立花(りっか):うん、行ってからのお楽しみ
律(子供):っ
:
0:過去[廃屋]
:
立花(りっか):ほら、こっち
律(子供):っ
立花(りっか):足元、気をつけてね
律(子供):っうん
立花(りっか):ここね、前はラーメン屋さんだったの。でも潰れちゃって。
立花(りっか):…小さい頃にね、お母さんと…おじさんに連れてきてもらった事があるんだ。
律(子供):…
立花(りっか):ラーメン屋さんなのに二階があってね、天窓がついてるの。
立花(りっか):空が見えてね、お母さんとお父さんと一緒に行ったピクニックを思い出したんだ…
律(子供):…
0:天窓から月明かりが差し込んで、暗い室内に光の柱が立っている
立花(りっか):ほら、ここに立ってみて
律(子供):…
立花(りっか):でね、上、見てみて
律(子供):…。
律(子供):(上を見上げる)っわぁ
立花(りっか):ね?綺麗でしょ?今日は月が綺麗だね
立花(りっか):ほら、周りも見てみて
律(子供):…真っ暗
立花(りっか):うん、真っ暗。
立花(りっか):でもね、天窓からの明かりがスポットライトみたいで、自分が世界の主人公みたいじゃない?
律(子供):…
0:すると、律のお腹の鳴る音が響く
立花(りっか):あっ(二人反応する)
律(子供):あっ(二人反応する)
立花(りっか):ふふふ(笑い)、お腹空いたの?
律(子供):っ
立花(りっか):あっ、よかったら、これ
律(子供):っ?
立花(りっか):今日ね、調理実習で焼いたの
0:カバンからビニールの袋を取り出す
立花(りっか):はい、どうぞ
律(子供):…食べていいの?
立花(りっか):いいよ
0:律、袋を受け取り。中から人型のクッキーをとりだす
律(子供):…いただきます
立花(りっか):どうぞ
律(子供):(齧りつき咀嚼する)っ
立花(りっか):どう?
律(子供):っ…変な味がする
立花(りっか):ははは(笑い)ジンジャークッキーって言うんだよ。
立花(りっか):そっちの星型のは普通のクッキーだから大丈夫だと思うよ?
律(子供):ジンジャークッキー?
立花(りっか):そう。クリスマスに食べる生姜やスパイスの入ったクッキーだよ
律(子供):クリスマス…
立花(りっか):…律、どうかした?
律(子供):…
立花(りっか):ん?
律(子供):…誕生日
立花(りっか):え?
律(子供):十二月二十四日…誕生日
立花(りっか):え?イブ、誕生日なの?
律(子供):…うん
立花(りっか):…
立花(りっか):ねぇ?ここでお誕生日会しようか?
律(子供):え?
立花(りっか):二十四日の0時に、ここでお誕生日会しようよ?
立花(りっか):ケーキとお菓子を持ってくるから、一緒にパーティーしよ?ね?
律(子供):…うん
立花(りっか):やったー!約束だよ?
0:立花、小指を差し出す
立花(りっか):ほら?
0:律、おずおずと小指を差し出す
立花(りっか):指きり、げんまん、嘘ついたら針千本の~ます、指切った!
律(子供):…
立花(りっか):律、約束だよ?
律(子供):…うん
0:律、クッキーを食べ終わる。
律(子供):…あっ、そろそろ帰らないと
立花(りっか):え?
律(子供):遅くなる
立花(りっか):あぁ
0:律、ジンジャークッキーの残った袋を立花に渡す
律(子供):っん。…クッキーありがと、…帰る
0:律、走って帰っていく
0:立花、律の走っていく後ろ姿を眺める
立花(りっか):…
0:立花、律に渡された袋を見る
0:律の齧りかけのジンジャークッキーを手に取り
立花(りっか):…ジンジャークッキー。
立花(りっか):(一口齧る)っ、ふふ(笑う)…変な味
0:ふと、足元を見るとオイルライターが落ちている事に気づく
立花(りっか):ん?あっ、ライター
立花(りっか):これ…さっき律が持ってたのだ
:
0:過去[アパート(律)]
:
0:律、家の扉を開ける
律(子供):…
寿里(じゅり):律、あんた、どこ行ってたの?
律(子供):…
寿里(じゅり):こら!律!
斎(いつき):おい、律!お前、俺のライター持ってったか?
律(子供):あっ
斎(いつき):やっぱり、お前か…ったく、お前
律(子供):…
:
0:過去[アパート(立花)]
:
0:立花、そっと扉を開ける
0:暁生がテーブルを叩きつける音と酒瓶の倒れる音が聞こえる
暁生(あきお):ちっ(舌打ち)毎日、毎日!上の奴らは!
立花(りっか):…
0:立花、そっと自分の部屋に行こうとする
暁生(あきお):(立花に気付く)っ!
暁生(あきお):立花!こんな夜遅くまで何やってたんだ!
立花(りっか):…学校の…用事で
暁生(あきお):学校の用事?一体なんの用事だったんだ?
立花(りっか):…
暁生(あきお):説明できないのか?
立花(りっか):っ
暁生(あきお):こっちへ来い!
0:暁生、立花の腕を掴んで、引き倒す
立花(りっか):(倒れる)っ!
暁生(あきお):言ってみろ!なんで遅くなった!
立花(りっか):っ!…ごめんなさい
暁生(あきお):ごめんなさい?何かやましい事でもあったってことか!
立花(りっか):違う!違うの!
暁生(あきお):何が違う!
暁生(あきお):お前といい、お前の母親といい、上の女といい!
暁生(あきお):ふしだらな奴ばっかりだ!
立花(りっか):(泣きながら)違うの!ごめんなさい!
暁生(あきお):じゃあ!何をしていたのか言ってみろ!
立花(りっか):(泣きながら)うっ…っ…律と話してただけなの
暁生(あきお):話してた?こんな時間に男と二人でか?
立花(りっか):(泣きながら)うっ…話してただけなのっ
暁生(あきお):上の奴の息子だろ!ふしだらなガキに決まってるだろ
0:暁生、立花の服に手をかける
立花(りっか):っ!いやだ!お父さん!やめて!
暁生(あきお):うるさい!
0:暁生、立花を叩く
立花(りっか):っ!
暁生(あきお):汚いことをしていないか調べてやる…
立花(りっか):(泣きながら)いやだ!やめて…やめて!お父さん!
:
0:現在[]
:
樹(たつき):っ…
:
樹(たつき):(M)柊立花(ひいらぎりっか)。
樹(たつき):(M)彼女の話す内容は酷く凄惨だった。
樹(たつき):(M)だが、彼女は終始、穏やかに話す。
樹(たつき):(M)とても、いたましい話をしているようには聞こえない。
:
樹(たつき):それで何があったのですか?
立花(りっか):なに?
立花(りっか):…。
立花(りっか):燃やしたんです。全部。
立花(りっか):私にとっても、律にとっても…邪魔だから、燃やしたの
樹(たつき):っ…燃やした
立花(りっか):そう、ぜーんぶ燃やしたの、なにもかも
:
0:過去[アパート(立花)]
:
暁生(あきお):じゃあ…仕事にいってくる
立花(りっか):…。
暁生(あきお):…。
0:暁生、部屋を出て行く
立花(りっか):…。
立花(りっか):(ため息)。
0:立花、立ち上がる。
立花(りっか):っ、いたっ…。(泣きだす)…っ、ふっ…うっ
:
0:間
:
0:律、アパートの階段下を懸命に見てまわる
律(子供):っ。…ない
0:律の家の扉が開く
斎(いつき):じゃあ、いってきます
寿里(じゅり):ん、いってらっしゃ~い
0:斎、アパートの階段を下りていく
斎(いつき):あん?おい、律、どうした?
律(子供):っ…
0:律、もじもじしている
斎(いつき):ん?なんだよ?
律(子供):…たー
斎(いつき):あん?
律(子供):ライター…ない
斎(いつき):はあ?なくしたのか?
律(子供):…うん
斎(いつき):はぁ(ため息)、大事にしろっていったよな?
律(子供):っ…
斎(いつき):…。あぁ~!もういい、オレ仕事いくから
律(子供):っ、でも
斎(いつき):いいから!どけって言ってんだろ!
律(子供):っ
0:斎、車に乗り、出て行く
律(子供):っ!待って!ごめんなさい!
0:律、車を追って走る、がつまずいて転んでしまう。
律(子供):(走る)はぁ、はぁっ。
律(子供):(つまずく)あっ!(転んでしまう)うっ!
0:立花、部屋から出てくる
立花(りっか):なんの音?
0:立花、律に気付く
立花(りっか):あっ!律!どうしたの?
0:立花、走り出す車を見て
立花(りっか):っ!(小声)…あいつ
立花(りっか):律、大丈夫?
律(子供):っ
0:立花、律の擦りむいた手足を見る
立花(りっか):あ~、大変!とりあえずウチで手当てしてあげるから、おいで
律(子供):っ
立花(りっか):ほら、立てる?
0:立花、律に手を貸して立たせてあげる
律(子供):っ
立花(りっか):歩ける?
律(子供):…うん
:
0:過去[アパート(立花)]
:
立花(りっか):よしよし、頑張ったね。
立花(りっか):お風呂場で傷も洗ったし、あとは消毒してガーゼと包帯で大丈夫かな?
立花(りっか):じゃあ、ここに座って。消毒するよ?
0:立花、消毒液をかける
律(子供):っ!いたっ
立花(りっか):よしよし、もう少しだから我慢してね?
律(子供):っ、うっ
立花(りっか):っ、よし!こんなもんかな?
立花(りっか):あとは、ガーゼを、とめて、包帯を、巻けば、終わりかな?
律(子供):っ
立花(りっか):っ、これで大丈夫かな?
立花(りっか):腕のケガは、バンドエイドで大丈夫そうだね?
律(子供):…ありがとう
立花(りっか):っ!ふふ(笑い)どういたしまして。
0:立花、律と目を合わせながら
立花(りっか):…律、大丈夫?
立花(りっか):辛い事があったら、いつでも私のところにおいでね?
0:立花、律をそっと抱きしめる
律(子供):っ
立花(りっか):私は、どんな時でも律の味方だよ?
立花(りっか):ね?
律(子供):…
:
0:間
:
立花(りっか):それじゃ、気を付けてね、律。
立花(りっか):あっ、二十四日!0時!忘れないでね?
律(子供):…うん
:
0:間
:
0:酒を飲んだ暁生が帰ってくる。
暁生(あきお):おい、立花!帰ったぞ!
立花(りっか):…お帰り
暁生(あきお):おい!立花!暗いぞ!
暁生(あきお):ほら、ケーキもチキンも買ってきてやったんだ!喜べ!
立花(りっか):っ、お父さんお酒臭い
暁生(あきお):おう!会社の奴らと飲んできたんだ。
暁生(あきお):あっ!立花にクリスマスプレゼントも買ってきたんだぞ!
立花(りっか):もお、わかったから
暁生(あきお):ほら
0:暁生、くまのぬいぐるみを渡す
立花(りっか):くまのぬいぐるみって…子供じゃないんだから
暁生(あきお):…なんだ、嬉しくないのか?
立花(りっか):…そんな事ない、嬉しいよ。ありがとう。
暁生(あきお):ははは(笑い)
立花(りっか):でも、気が早いよ。今日は二十三日だよ?
暁生(あきお):当日だとどこも混んでるだろうし、仕事の帰りだと売ってないかもしれないだろ?
立花(りっか):まあ、確かに
暁生(あきお):おい、立花。ケーキ切るのと、皿を持って来てくれ
立花(りっか):うん、わかった
0:立花、立ち上がる。っとオイルライターが床に落ちる
立花(りっか):あっ
暁生(あきお):ん?
0:暁生、落ちたオイルライターを拾う
暁生(あきお):…なんだ?
立花(りっか):あっ
暁生(あきお):…なんだ、これは?
立花(りっか):っ
暁生(あきお):なんだ、これはと聞いているだろう
0:暁生、椅子を蹴飛ばす
暁生(あきお):おい!立花!これは何だ?
0:立花、その場から離れようとする
立花(りっか):あっ
0:暁生、逃げようとする立花を捕まえる
暁生(あきお):っ!おい!これはなんだ!
立花(りっか):それは、律の忘れ物っ
暁生(あきお):っ!
0:暁生、立花を叩く
立花(りっか):っ!
0:立花、その場に倒れる
暁生(あきお):ガキがライターなんか持ってるわけないだろうが!誰のだ?
立花(りっか):違うの!本当に律がっ
暁生(あきお):っ!
0:暁生、再び立花を叩く
立花(りっか):あっ!
0:暁生、立花を攻めたてながら叩き続ける
暁生(あきお):正直に言え!
立花(りっか):っ!
暁生(あきお):誰のだ!誰のライターだ?
立花(りっか):うっ!
暁生(あきお):男か?この家に男を上げたのか?
立花(りっか):っ!
暁生(あきお):お前の母親みたいに!この家に知らない男を上げたのか?
立花(りっか):あっ!
暁生(あきお):(肩で息をしながら)なんでお前は!父さん一生懸命働いてるだろ!
立花(りっか):(泣きながら)うっ…っ
暁生(あきお):なんでなんだ!お前もお前の母親も!なんで俺の事を大事にしてくれないんだ!
立花(りっか):(泣きながら)ひっ…ごめんなさい
暁生(あきお):なんでだよ!ちゃんと愛してる!俺はお前たちを、ちゃんと、大事にしてる!
立花(りっか):(泣きながら)っ…やめて、お父さん
暁生(あきお):なんでお前らは、俺を裏切るんだ!
立花(りっか):(泣きながら)ひっ…ぅっ…ごめんっ…ごめんなさい
:
0:間
:
0:真っ暗な部屋に暁生のイビキが響いている
暁生(あきお):(イビキ)
立花(りっか):(目を覚ます)…。
立花(りっか):あっ…行かなきゃ…約束…
0:立花、辺りを見回す
立花(りっか):ケーキと…チキンと…ぬいぐるっ
0:立花、くまのぬいぐるみをみつけ、ぎゅっと抱きしめる
立花(りっか):っ…うっ…っ…(嗚咽)
0:ライターが立花の足先に当たる
0:立花、床に落ちているライターを拾う
立花(りっか):っ、ライター…
0:静かな部屋に立花の呼吸音が響く
0:立花は台所から、サラダ油を手にする
立花(りっか):っ
0:持っていたぬいぐるみを床に投げ、サラダ油をかける
立花(りっか):はぁ、はぁ、はぁ
0:サラダ油にまみれたぬいぐるみを見つめる
立花(りっか):…。
0:ライターのキャップを開け、炎を見つめる
立花(りっか):はぁ、はぁ、はぁ…さようなら…お父さん
0:ライターをぬいぐるみに落とす
立花(りっか):っ!
0:立花、そのまま、振り返らずに部屋を出て行く
立花(りっか):(泣きながら)っ…うっ…っ…
0:立花、泣いていたはずが、いつしか笑いはじめる
立花(りっか):っ、ふっふふ…ふふ、ははは
:
0:過去[廃屋]
:
律(子供):あっ
立花(りっか):律、ごめんね、遅くなっちゃった
立花(りっか):ほら、ケーキとチキン持ってきたよ。食べよ?
:
0:間
:
0:律、チキンにかぶりついている
律(子供):(チキンを食べる)
立花(りっか):…おいしい?
律(子供):うん
立花(りっか):ケーキもあるから、いっぱい食べな
律(子供):(チキンを食べる)うん
立花(りっか):…
律(子供):っ…食べないの?
立花(りっか):え?
律(子供):全然食べてないから
立花(りっか):あ~、うん、食べる
0:立花、チキンにかぶりつく、かぶりつきながら泣き出す
立花(りっか):(泣く)っ…ふぅ…
律(子供):え?お姉ちゃん?
0:立花、食べていたチキンを床に捨て律に抱きつく
立花(りっか):っ…
律(子供):っ!お姉ちゃん?
0:立花、すすり泣きから、徐々に大きな声で泣き出す
立花(りっか):(泣く)っ…ふぅ…ひっ…うぅっ、うぅっ
0:立花、ひとしきり泣いて落ち着いてきた頃、サイレンの音が近づいてきてすぐ近くで止まる。
0:大きなサイレンの音が鳴っている。
律(子供):っ、サイレン?
0:律、近くで鳴っているサイレンが気になり外へ出てく
0:一階から建物の外に出ると、暗闇の中、ある一点だけが煌々と赤く輝いている
律(子供):え?…燃えてる?
立花(りっか):…
律(子供):お姉ちゃん!あれ!火事だよね!
立花(りっか):…
律(子供):あれ、ウチの方だよ!
立花(りっか):…
律(子供):早く帰らなくちゃ!
0:走りだそうとした律を立夏が掴んで止める
律(子供):っ、お姉ちゃん?離して!早く帰らないと!
立花(りっか):私達、どんな時も一緒だよ?
律(子供):え?
立花(りっか):私は、あなたを守る。
律(子供):っ
立花(りっか):あなたは、私を守って?
律(子供):…
立花(りっか):私には、あなたしかいない。
律(子供):…
立花(りっか):あなたには、私しかいない。
律(子供):…
立花(りっか):お互いに、唯一無二の存在。
律(子供):…
立花(りっか):…どんな時も、一緒だよ?
律(子供):っ
0:立夏、律を更に強く掴む
律(子供):痛い!離して!
0:律、立花を振りほどいて走り出す。
律(子供):っ!
:
0:過去[アパート]
:
0:肩で息をする律
律(子供):はぁ、はぁ、はぁ
律(子供):…うそ
律(子供):…お母さん…イツキ
律(子供):っ!お母さん!イツキ!
0:炎に向かって走り出した律を周りの大人が止める
律(子供):いやだ!離して!お母さん!イツキ!
律(子供):はなして!はなして!
:
0:ある日の回想[アパート(律)]
:
斎(いつき):いい加減、籍入れようぜ!
寿里(じゅり):無理だよ
斎(いつき):俺、仕事行くから!帰ってくるまでに書いとけよ!
寿里(じゅり):だから無理だって
斎(いつき):なにが無理なんだよ!紙に名前書いて、印鑑押すだけだろ!
寿里(じゅり):私、一回失敗してんだよ?子供だっているし
斎(いつき):いいじゃん!結婚したら、もう可愛い子がいんだろ?ラッキー!
寿里(じゅり):そんな軽い話じゃないでしょ!
斎(いつき):そんな重い話でもないだろ!
斎(いつき):とりあえず、帰ってくるまでに書いとけよ!保証人のところは弟が書いてくれるって言うし!
寿里(じゅり):そういうことじゃっ、あっ、律!もう出てってる!
:
0:またある日の回想[アパート(律)]
:
斎(いつき):結婚しようって!
斎(いつき):だから言ってんだろ!何回言ったらわかんだよ!
寿里(じゅり):ごめんって!でも私には無理なの!私も何度も言ってんじゃん!
斎(いつき):話を聞けよ!結局お前は、毎回俺の話を聞いてないんだよ!
寿里(じゅり):ごめん!っごめんって!
斎(いつき):100%なんてないんだよ!失敗するも成功するもやってみなくちゃわかんねぇだろ!
寿里(じゅり):でもっ
斎(いつき):なんでだよ!そんなに難しいこと言ってないだろ!
寿里(じゅり):ごめん!それでもできない!
斎(いつき):はぁ?っお前!なんでだよ!
斎(いつき):毎回毎回言ってんじゃん!この手のはお互いの努力なんだよ!二人で続けたいって努力しあわないと幸せになんてなれねぇんだよ!俺も努力する!お前も努力しろ!以上!
寿里(じゅり):でも
斎(いつき):でももだってもない!お互いに好きで、お互いに幸せになりたい!一緒になったらいいじゃんか!
:
0:回想[アパート(律)]
:
0:律、家の扉を開ける
律(子供):…
寿里(じゅり):律、あんた、どこ行ってたの?
律(子供):…
寿里(じゅり):こら!律!
斎(いつき):おい、律!お前、俺のライター持ってったか?
律(子供):っ
斎(いつき):やっぱり、お前か…ったく。
斎(いつき):お前、あのライター好きだよな(笑い)。気に入ったか?
律(子供):(うなずく)っ
0:斎、律の背中を軽く叩きながら笑う
斎(いつき):ははは(笑い)、律も男だな!
斎(いつき):あっ、そういや、お前もうすぐ誕生日だろ?
0:斎、キッチンの寿里へ問いかける
斎(いつき):クリスマスが誕生日だって確かそう言ってたよな?寿里。
寿里(じゅり):そうよ、もうすぐ十歳になるの
0:斎、再び律の背中を軽く叩きながら炬燵の自分の横に座らせる
斎(いつき):お~!めでたいじゃん!
律(子供):(座る)…
斎(いつき):あっ!じゃー、あのライターお前にやるわ
律(子供):(嬉しそうな顔をする)えっ
寿里(じゅり):え~?プレゼントがお下がりのライターなの?
斎(いつき):うっせーな!
斎(いつき):アレ、俺が持ってるモンでは、なかなかイイモンなんだぞ!
寿里(じゅり):え~?
斎(いつき):十八の誕生日に弟がバイト代貯めてくれたんだよ
寿里(じゅり):え~?大事なら自分で持ってなよ
斎(いつき):いーんだよ!どうせ、…タバコも当分吸えねぇわけだしぃ?
寿里(じゅり):っ!…バカ
0:斎、律の髪をぐしゃぐしゃにして撫で回す
斎(いつき):ははは(笑う)な~?だから、律…大事にしてくれよ?
律(子供):っ、うん
斎(いつき):ははは(笑う)
寿里(じゅり):も~。ご飯にするから、机の上片付けて~
斎(いつき):へーい。今日のご飯は~?
寿里(じゅり):きつねうどんと天ぷらそばとカレーうどん
斎(いつき):お~!豪勢だな!
斎(いつき):律、どれがいい?
律(子供):…カレーうどん
斎(いつき):んっ、寿里は?
寿里(じゅり):ふふ(笑い)どっちでもいいよ
斎(いつき):じゃあ、きつねうどん、も~らい!
斎(いつき):あっ!律、一口カレーうどん食わして
律(子供):え~
斎(いつき):いいじゃん、一口だけ!
律(子供):イツキ…一口大きい
斎(いつき):なぁ~律~お願い!
律(子供):ふふ(笑い)、いいよ
斎(いつき):いえ~い!律、優しい!
寿里(じゅり):も~、どっちが子供なのよ
斎(いつき):大丈夫!律にもお揚げ半分やっから!
律(子供):ふふふ(笑い)
寿里(じゅり):あっ、斎は年末年始どうすんの?
斎(いつき):(すすりながら)、ん?どうするって?
寿里(じゅり):実家、帰るの?
斎(いつき):あ~…いや、今年は帰らないでおくわ
寿里(じゅり):ん?なんで?
斎(いつき):いや~、弟…年明けに試験あっから、
斎(いつき):帰って騒がしくすんのどーなのかなって
寿里(じゅり):あ~、そうなんだ
斎(いつき):弟、俺と違ってめちゃくちゃお勉強できちゃう系でさ…
斎(いつき):あ~でも、年始…初詣がてら顔だけ出してこようかな
斎(いつき):…寿里も一緒に来るか?
寿里(じゅり):え?
斎(いつき):律も一緒でいいし
寿里(じゅり):…いや、だから
斎(いつき):うん。わかってっけど…そんな深刻に考えなくていいし、
斎(いつき):顔出すだけ、挨拶するだけで別にいいし
寿里(じゅり):…
斎(いつき):まあ…とりあえず考えといて
寿里(じゅり):うん
律(子供):…
:
0:現在[面会室]
:
律(りつ):仲の良い…両親だったよ。
律(りつ):実の父親なんか、顔も名前も何にも知らないけど…
律(りつ):イツキは明るくて優しい…いい、俺の父親だった
樹(たつき):…。
樹(たつき):柊立花さんの件について
律(りつ):聞きたくねぇ!
樹(たつき):柊立花さんの件について
律(りつ):聞きたくねえっつってんだろ!
樹(たつき):亡くなりましたよ
律(りつ):っ…は?
樹(たつき):…
0:律は、笑っていたが徐々に泣き出す。
律(りつ):(笑う)はは、ははは!ざまぁねぇ!
律(りつ):はは…ははは…っ、ふっ…うっ
律(りつ):(泣く)なんだよ…っ…なんなんだよ
樹(たつき):…。
樹(たつき):亡くなる前に、柊立花さんにお話をうかがいました。
樹(たつき):当時、アパートに火をつけたのは彼女だそうです。
律(りつ):…。
樹(たつき):事件当時、事件は橘斎(たちばないつき)がアパートに火を付けた事による無理心中とされていました。
樹(たつき):それは、「近隣住民からの二人の日常的な口論の証言」
樹(たつき):「火元とされる場所」
樹(たつき):「橘斎(たちばないつき)の持ち物であったオイルライターが出火原因」だったからです。
律(りつ):事件当時、イツキはライターを持っていなかった…俺が、誕生祝いにもらったから
樹(たつき):貴方の証言から、二人の日常的な口論が否定的な口論でなかったこと。
樹(たつき):柊立花さんの証言から、
樹(たつき):当時あなたが落としたライターを拾った柊立花さんが、
樹(たつき):自分の部屋でそのライターを使い、出火させたこと。
樹(たつき):そして…
0:樹、ポケットから黒焦げのライターを取り出す。
律(りつ):っ!それ
樹(たつき):事件当時…
樹(たつき):ライターが、橘斎(たちばないつき)の持ち物であったと証言したのは、
樹(たつき):私です。
律(りつ):っ
樹(たつき):私が、兄にプレゼントした物ですから…
律(りつ):でも、あんた苗字が
樹(たつき):里見樹(さとみたつき)。里美は、母方の旧姓です。
律(りつ):…
樹(たつき):放火による、無理心中でアパートの住民は死亡…
樹(たつき):世間の目は冷たいんですよ。
律(りつ):…
樹(たつき):では、貴方の事件について話を戻しましょう。
律(りつ):…死んだんだろ?もう、事件は終わったろ
樹(たつき):まだです。八年前の事件だって真相が変わったんですよ?
律(りつ):…
樹(たつき):貴方の話が聞きたい
:
0:間
:
律(りつ):…。
律(りつ):俺は、十八で児童養護施設を出た。
律(りつ):何もやりたい事もなく、バイトでとりあえず食いつないでいた…。
律(りつ):そんなある日、あの女から手紙がきた
:
0:立花からの手紙
立花(りっか):「お久しぶりです。お元気でしょうか?
立花(りっか):私は三年前に児童養護施設を退所後、ショッピングモールの受付で働いています。
立花(りっか):別々の児童養護施設へ預けられ、律とは会えなくなってしまいましたが、
立花(りっか):今でも律の事を思っています。
立花(りっか):あのアパートでの日々は、私にとっても律にとっても辛い毎日だったと思います。
立花(りっか):毎日のように律の家から聞こえる怒鳴り声、
立花(りっか):寒空の下に追い出される律。
立花(りっか):ある日、男に引き倒されて手足に怪我をさせられた律を見て、
立花(りっか):私が律を助けてあげなきゃって思ったの。
立花(りっか):だから、あの日、アパートに火をつけたの。」
:
律(りつ):ははっ(嘲笑)。
律(りつ):手紙読んで、ゾッとしたよ。
律(りつ):全部…全部!俺のせいだったんだ!
律(りつ):母さんもイツキも…アパートの人、全員、死んだのは俺のせいだった!
律(りつ):しかも、あの女…最後にこう書きやがった!
:
0:立花からの手紙
立花(りっか):「私たちは、同じ傷を持ち、同じ罪を持つ。
立花(りっか):私達、どんな時も一緒だよ?
立花(りっか):私は、あなたを守る。
立花(りっか):あなたは、私を守って?
立花(りっか):私には、あなたしかいない。
立花(りっか):あなたには、私しかいない。
立花(りっか):お互いに、唯一無二の存在。
立花(りっか):…どんな時も、一緒だよ?」
:
律(りつ):あったまオカシイだろ!
律(りつ):しかも、ご丁寧に、住所も勤務先も書いてあんだよ!
樹(たつき):…
樹(たつき):それで、なんでショッピングモールへ?
律(りつ):…
樹(たつき):どうしてなんですか?
律(りつ):脅すつもりだったんだ…
律(りつ):謝罪でも弁明でも、なんであんな事したのか…
律(りつ):俺の両親にも…俺にも…ただ謝ってほしかった、
律(りつ):泣いて叫んで後悔してほしかったんだ
樹(たつき):…
律(りつ):でも
樹(たつき):でも?
律(りつ):アイツ…笑ってたんだよ
:
0:回想[ショッピングモール(受付)]
:
律(りつ):柊立花(ひいらぎりっか)は、どこにいる?
律(りつ):聖川律(ひじりかわりつ)が用があるって伝えろ!
0:受付嬢は、目をパチパチとする、そして
立花(りっか):っ…律?
律(りつ):っ
立花(りっか):会いにきてくれたの?
:
律(りつ):(M)ガキの頃ぶりだったから、一目ではわからなかった。
律(りつ):(M)だが、目元や口元には昔の面影があったし、声は昔と変わっていなかった。
:
立花(りっか):ごめんね、ちょっと休憩入ってもいい?
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律(りつ):(M)隣に座っていた同僚に一声かけて、
律(りつ):(M)あいつは俺の手を引いてバックヤードに連れて行った。
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立花(りっか):っ…律、久しぶりだね!元気だった?
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律(りつ):(M)俺への第一声が、元気だったかだと!
律(りつ):(M)その一言で俺は耐え切れなくなった。
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律(りつ):ふざけるな!
立花(りっか):っ
律(りつ):元気だったかだと?
律(りつ):元気な訳ねえだろ!
律(りつ):お前のせいで!お前のせいで俺がどんなに辛かったか!
律(りつ):全部、全部お前のせいじゃねぇか!
立花(りっか):私の?
律(りつ):そうだろうが!お前がアパートに火をつけたんだろうが!
立花(りっか):うん
律(りつ):っ!…うん…はは(笑い)やっぱりお前だよな!
立花(りっか):うん
律(りつ):なんで火をつけた!
立花(りっか):律を守るためだよ?
律(りつ):ふざけるな!俺がいつそんな事言ったよ!
立花(りっか):だって、律も私も可哀想だった
律(りつ):なんの話してんだよ!
立花(りっか):私達二人とも可哀想だったから
律(りつ):俺を一緒にするな!俺はお前とは違う!
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律(りつ):(M)俺は持っていた、火炎瓶に火をつけた。
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律(りつ):謝れ!謝れよ!俺に、両親に…謝れよ!
立花(りっか):っ、律
律(りつ):謝れ!
立花(りっか):律…危ないよ?
律(りつ):うるせー!謝れ!
立花(りっか):…投げて
律(りつ):は?何いって
立花(りっか):早く、投げて!
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律(りつ):(M)そう言って、あの女は、俺の手から火炎瓶を取り上げた
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律(りつ):っ!おい
:
律(りつ):(M)そして
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立花(りっか):ほら、これで一緒。
:
律(りつ):(M)そう言って、笑った。
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0:現在[面会室]
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樹(たつき):そうして、自ら火炎瓶を頭に…
律(りつ):な?信じらんないだろ?
樹(たつき):…いえ、信じますよ。
律(りつ):は?
樹(たつき):柊立花の証言と同じです。
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0:現在[病室]
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樹(たつき):柊立花さん…今回の事件について、おうかがいしたいのですが
立花(りっか):私です
樹(たつき):は?
立花(りっか):私が自分で火炎瓶を当てたんです。
樹(たつき):…意味がわかりません。何故、自分で?
立花(りっか):律が会いにきてくれた。
立花(りっか):私と同じになろうとしてくれた…それでいいんです。
樹(たつき):…。
立花(りっか):それで私の気持ちは満たされました。
立花(りっか):それでいいんです。
樹(たつき):っ
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0:現在[面会室]
:
律(りつ):はっ(嘲笑)なんだよそれ…訳わかんねえ
樹(たつき):そうですね。
:
0:間
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樹(たつき):ねぇ、貴方、知ってました?
律(りつ):あ?
樹(たつき):火炎瓶て、火をつけたら三十秒以内に投げないといけないんですよ?
律(りつ):は?なんだ、それ?
樹(たつき):…。
樹(たつき):柊立花さんの証言。
樹(たつき):貴方の証言。
樹(たつき):…それに、防犯カメラの映像があります。
律(りつ):え?
樹(たつき):だから、防犯カメラの映像があるんですよ。
樹(たつき):柊立花さんが自分で自分に火炎瓶を当てている映像が
律(りつ):な!
樹(たつき):でも、映像が不鮮明なのため、これだけでは100%の証拠にならない。
樹(たつき):だから、柊立花さんの証言と貴方の証言が必要だったのです。
律(りつ):…。
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0:間
:
律(りつ):…。
律(りつ):なあ、あの女、いつ死んだんだ?
樹(たつき):…十二月二十三日から二十四日の未明だそうですよ。
樹(たつき):心電図の心肺停止のアラートが鳴らなかったそうです。
樹(たつき):一人で、ひっそりと亡くなったようです。
律(りつ):…はっ(嘲笑)、絶対に十二月二十四日のイブだよ。
樹(たつき):…なんでですか?
律(りつ):俺の誕生日だから。あの女なら、絶対にそうだろ。
樹(たつき):…なるほど…愛されていますね?
律(りつ):やめろ、気色悪い。
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0:回想[病室]
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0:「きよしこの夜」は、曲と英語歌詞の版権が切れている為、商用利用化のなっておりますので、英語歌詞か鼻歌で歌っていただけるとよいと思います。
0:歌わない場合は、歌の後の台詞に飛んでください。
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立花(りっか):Silent night、Holy night(サイレントナイト ホーリーナイト)
立花(りっか):All is calm、all is bright(オールイズカーム オールイズブライト)
立花(りっか):Round yon Virgin Mother and Child(ラウンドヨンバージン マーザアンドチャイルド)
立花(りっか):Holy Infant so tender and mild(ホーリー イーンファント ソー テンダーアンドマイルド)
立花(りっか):Sleep in heavenly peace (スリーピン ヘーヴンリーピース)
立花(りっか):Sleep in heavenly peace(スリーピン ヘーヴンリーピース)
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立花(りっか):律…お誕生日…おめ…で…
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0:柊立花はひっそりと息をを引きとった
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0:~終~