台本概要

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タイトル 夜、蝶に紅BL版
作者名 橘りょう  (@tachibana390)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男2)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 バーで出会った二人の男性
年上の明に惹かれる洸平と、誰かを重ねて見る視線と感情
寂しさを抱えた大人のラブストーリー

読み手の性別は不問、登場人物の性別変更不可
告知などでメンションしてお知らせいただくと作者が小躍りして喜びます。
作者名と作品名の明記はよろしくお願いします

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
洸平 144 二十代半ばの青年。一人で飲んでいるところを明に声を掛けられる
123 三十代後半から四十代頭の男性。一人で飲んでいる洸平に声をかけた
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
洸平:(M)隣の温もりが動く気配に目が覚め、半分覚醒したようなしていないような意識は、聴き心地の良い金属音で引き起こされた 明:起きたか? 洸平:(M)甘い香りの煙草を揺らしながら、彼は柔らかく微笑んだ 洸平:(M)一糸まとわぬ彼のその姿は、薄明りの下でまるで彫刻の様だった。全体についた薄い筋肉が淡い影を作り、吐き出された煙がその上を滑る。 明:おはよう。良く寝てたみたいだ 洸平:あー…そうっすね : 洸平:(M)自分のタバコを取り出してライターに火をつけようとしたが、音が虚しく鳴るだけで一向に火がつかない。 : 洸平:火、貸してくれません?夕方でガス欠したっぽくて 明:いいよ、どうぞ? 洸平:…ライター 明:どうして。ここに…火はあるぞ 洸平:(M)いたずらっぽく、煙草の先端を揺らす彼。ライターは貸してもらえそうにない。立ち上がって彼に顔を寄せ、赤い先端から火を移す 洸平:(M)見たことのない黒っぽい紙巻き煙草の甘い香りが、フィルターを通って自分の中にも流れ込んできた 洸平:(M)途端に顔面に煙を吹きかけられて、思い切り咳き込んだ。彼は楽しそうに、声を殺して笑っていた。 : 洸平:ゲホッ…いきなり煙ふきかけてくるとか、ひどい… 明:油断大敵、だな 洸平:こわ…ゲホッ 明:大人でもいたずらってしたくなるもんさ。たまには子供心に戻りたくなる 洸平:年下にやることじゃないでしょ 明:仕方ない。ここに居るのはお前だけだから 洸平:それもそうですね…はーぁ、本気じゃないお子様をからかうのはさぞかし楽しいでしょうね 明:ん?拗ねたのか 洸平:…拗ねてない 明:可愛い奴だ 洸平:子供扱いしないでよ 明:本当の子供には、子供扱いなんてしないもんさ 洸平:(M)どちらからともなく、唇を引き寄せる。煙草の香りがするキスは、苦くてほんの少し甘い 洸平:(M)擦れ合う舌先だけが冷たくて、それを貪欲に求めてさらに深く。吐息の熱が上がりきった頃に、ようやく離れて荒くなった呼吸を交換した : 洸平:前言撤回…してくれます? 明:…ふふっ、降参。お手上げだ 洸平:あなたに見合った男になりたいんだけど…少しは届きそう? 明:追い越されそうで怖いよ 洸平:(M)軽く触れ合うだけのキスをかわすと、視線が絡み合い、それを逃がすまいと強く力を込めて抱きしめた 洸平:(M)かすれた声と共に吐き出された呼吸が耳にかかってゾクゾクする 洸平:(M)一晩中、あんなに触れて、撫でて、噛み付いて、繰り返したキスの数は数え切れなくて。漏らした吐息も、絡ませた指も、愛おしくてたまらない 洸平:(M)約束した言葉は紡げず、ただ想いを腕の力に込めて刻印を残すほどに抱きしめていた : 洸平:…明さん 明:…なんだ? 洸平:もう一回…したい 明:若者は…元気だな 洸平:でも… 明:……っ 洸平:したいって思ってくれてるでしょ 明:…手を…は、なせって… 洸平:離していいの? 明:…ふっ…はぁ 洸平:したくないですか?…気持ちよさそうなのに 明:…さっきの事…根に持ってるのか 洸平:…ええ、実は 明:…っ… 洸平:駄目ですか、明さん… 明:(噛みつくように洸平にキスをする)…駄目じゃ、ない… 洸平:(M)少し熱でうるんだ瞳はトリガーだった。さらに深く口づけて、ベッドの上に身体を投げる 洸平:(M)上がる体温。少し低めの声が甘く鳴いて、浮かんだ汗が髪を濡らした 明:……て、くれ 洸平:(M)繋がる熱が冷めきらぬ前、乱れた呼吸の合間に言葉が漏れた 明:…締めてくれ 洸平:な、に…? 明:首を…絞めてくれ 洸平:(M)薄く微笑んで言う彼は、自分ではない誰かをみている 明:強く、息ができない、位に… 洸平:…どうして…? 明:絞めて、欲しいからさ 洸平:…あぶ、ないよ 明:大丈夫、だから… 洸平:…誰を見てるの? 明:……お前だ 洸平:違う。明さんは…僕に重ねて違う人を見てる : : 明:坊主、ひとりか? 洸平:(M)グラスに落としていた視線を上げた先に、彼はいた。 : 洸平:坊主って…僕のことですか? 明:他に誰かいるか? 洸平:…居ない、ですね 明:ひとりか?良かったらおじさんと飲まないか?奢るぞ 洸平:(M)綺麗に整った髪と高そうなスーツ姿の彼は、片手のグラスを少し持ち上げて見せた。ひとつ空いたスツールを詰めて隣に座ると、少し甘い香りが鼻腔をくすぐる : 洸平:坊主は酷いな… 明:お?見た感じ、まだ二十代だろ?私からしたら、その位の奴はみんな坊主さ 洸平:そういうお兄さんはいくつなんですか? 明:いくつに見える? 洸平:合コンの決まり台詞にしてもちょい古いっすよ 明:そうか、もう古いか。こうやって時代に取り残されていくんだなぁ 洸平:辞めてくださいよ、僕ももうおっさんの仲間入りするんですから 明:最近の若い奴って、早くからそう言うけどもったいないと思うぞ。今この瞬間が一番若いんだから 洸平:…お兄さん、名前は? 明:明。明るいの一文字で明。君は? 洸平:…洸平 明:若い奴が一人でここで飲んでるのは初めて見た。だから思わず、な 洸平:…振られたんスよ、付き合ってると思ってた相手に 明:思ってた? 洸平:二股。で、僕は要らない方なんだそうで 明:そいつは、人を見る目がなかったんだな 洸平:僕もそう思います 明:言うね 洸平:明さん、奥さんは? 明:どう思う? 洸平:バツイチ 明:面白いこと言うな 洸平:違った? 明:ハズレ 洸平:残念 明:独身だよ。一人でフラフラ、ゲイバーで飲んでる自由人 洸平:なんにも縛られてなくていいじゃないですか 明:…物は言いよう、だな 洸平:じゃあ、恋人は? 明:恋人は居ない 洸平:…じゃあ愛人とか 明:ぷっ…君、本当に面白いな 洸平:そう?つまんないからって振られたばっかりなんだけど 明:面白いよ 洸平:じゃあその面白さが伝わらなかったんだろうなぁ 明:伝わる人間は限られそうだな 洸平:大人って、難しい 明:…そうかもな 洸平:じゃあ…明さんが大人ってどんなのか教えてよ 明:お、誘ってくれるのか。こんなおじさんを 洸平:おじさんって程じゃないでしょ 明:もういい歳さ 洸平:…年上、好きって言ったら笑う? 明:…半信半疑、かな 洸平:こういう誘い方って…いやらしい? 明:うーん、及第点ってとこかな 洸平:ギリ合格? 明:初めてなら、な 洸平:(M)その夜、初対面だった彼を薄暗いホテルの部屋で抱いた。貪るように求める僕と、それを薄い笑みを浮かべて受け止める彼。どこか冷めた表情に気付かないふりをして、僕は朝まで何度も彼を抱いた 洸平:(M)その夜知ったのは、彼の均衡のとれた体つきと、甘い香りのする煙草の香り。そして彼が違う誰かを見ているということだった。 : : 洸平:あなたに 明:…なんだ? 洸平:明さんに好きになってもらいたい 洸平:(M)何度目かの夜、隣に寝転がる彼の髪を指で弄びながら呟いた 明:好きだよ 洸平:嘘くさ 明:嘘じゃない、嫌いじゃない 洸平:…嫌いじゃないって、ずるいですよね 明:…そうだな 洸平:……あなたの心を、占めてるのは誰? 明:知りたいか 洸平:知りたい…けど、知りたくない。嫉妬でおかしくなりそう 明:…そういう素直なところは、好きなんだがな 洸平:本当? 明:あぁ、素直で…可愛い奴だなって 洸平:…やっぱり、本気じゃないじゃん 明:火遊びは、夢中になった方が負けなんだよ 洸平:僕とのことは、火遊び? 明:お前にとってな 洸平:そのつもり、ないんだけど 明:…セックスなんてもんはスポーツと一緒だ 洸平:好きな人としか、したくない 明:経験を積めば、分かるさ 洸平:…明さん 明:なに? 洸平:名前を、呼んで欲しい… 明:…呼んでなかったか? 洸平:呼ばれてない。いつもお前、しか。…呼んで 明:…… 洸平:…呼んで、ください 明:…こーへー 洸平:不合格 明:厳しいな… 洸平:好きな人には、ちゃんと名前呼んでもらいたいんだけど 明:…そう、かもな 洸平:(M)少し寂しそうに笑った明さんを、強く抱きしめた : 洸平:明さんは、どんな人が好き? : 洸平:(M)答えはなかった。小さく零れたため息が妙に艶っぽくて、腕に力を込める。痛い、という彼の声は聞こえないふりをした : 洸平:教えて、どんな人が好き? 明:…私の愚かさを、許してくれる奴 洸平:じゃあ、僕ですね 明:言うじゃないか 洸平:で?どんな人? 明:さっき答えた 洸平:もっとちゃんと教えてください 明:…しつこい男は嫌われるぞ 洸平:明さんに好かれてたら、それでいいです : : 明:私を、殺してくれる奴…かな 洸平:(M)長い間が空いて、彼はそう呟いた。薄い笑みを浮かべているのにその目は真剣だった : 洸平:この間、首絞めてって言ったのは、それ? 明:さぁ、どうかな 洸平:もしあの時、僕が絞めてたら…好きになってくれてました? 明:そうかもな 洸平:死にたい…とか? 明:そうじゃない 洸平:じゃあ…なんですか 明:…いつの間にか、きかん坊になったな 洸平:どうせ僕はいつまでも坊主、ですから : 洸平:(M)彼はするりと腕の中から抜けると、床に脱ぎ散らかされた服を身につけ始めた : 洸平:もう帰るんですか? 明:言っただろ?火遊びは、夢中になった方が負けなんだ。これ以上のめり込むなら…辞めておいた方が良い 洸平:火遊びじゃない、本気で…! 明:だからダメなんだ 洸平:(M)まっすぐな視線が、これ以上言うなと語っていた : 洸平:…また、会ってくれますか? : 洸平:(M)ようやく絞り出した声は、少し掠れて震えていた。身支度を整えた彼は、ネクタイを締めると社交的な笑みを見せた 明:…会えたらな 洸平:(M)そう言い残して彼は部屋を出ていった。煙草の残り香が甘く、灰皿に残された吸殻を恨めしく見つめた 洸平:(M)元々、連絡先の交換すらしていない関係で、最初に会った店で遭遇した時だけ共に過ごす 洸平:(M)彼はもうあの店には来ないかも知れない。始まってすらない僕達の関係。急激な喪失感に襲われて、力なくベッドに座り込んだ 洸平:(M)その後、何度かあの店に足を運んだが彼とは遭遇しなかった。時折、空を舞う蝶の様にチラつく彼の幻影を、目で追うだけだった : : 洸平:お兄さん、ひとりです? : 洸平:(M)目の前の彼はグラスに落としていた視線を上げ、とても驚いた顔をした 明:…なんで…? 洸平:ひとりですか? 明:…あぁ 洸平:隣、座らせて貰っても? 明:どうぞ 洸平:じゃ、失礼します 明:…びっくりした。もうこの店には来てないと思ってたのに 洸平:(M)最後の夜から、一年が経過していた : 洸平:しばらく来てなかったんです。久しぶりに来たら…明さんが居て思わず声掛けちゃいました 明:もうこんなおじさんのことは忘れてると思ってた 洸平:なんで年寄りになりたがるんです? 明:本当の事だからな 洸平:…年上ってずるいなぁ 明:特権と言って欲しいね 洸平:…恋人は? 明:居ない 洸平:じゃあ、愛人は? 明:はっ…そういうのは、もう終わった 洸平:…年下の燕を飼う気は無い? 明:…面白い言い方をするな 洸平:…本気になって欲しいけど、明さんは蝶々だから 明:蝶々? 洸平:ひらひら舞って、捕まえられない。でも魅力的で…目が離せなくなる 明:…私には、そんな価値はない 洸平:僕にはあります 明:…随分、熱っぽい目をするようになったな。いい恋をしたのか? 洸平:…ずっと明さんに恋してました 明:…… 洸平:火遊びなんかじゃなくて、本気でずっと好きだったんです : 洸平:(M)グラスの中で氷がからり、と音を立てた 明:…すまない 洸平:どうして謝るんですか 明:お前の大切な時間を、無駄にさせた 洸平:あなたは、僕に恋を教えてくれました 明:違う… 洸平:僕は間違いなく恋をしてたし、無駄だなんて一度も思ってません 明:…後になってやめときゃ良かったってなるさ 洸平:構わないです、その時はその時だし…高い勉強代だったなんて思わないから 明:…まだ、坊主だな 洸平:坊主でいいです。これから先の伸び代があるって事だから 明:言うように、なったじゃないか 洸平:ねぇ明さん、今度は僕を見てくれません? 明:どういう事だ 洸平:ずっと、僕に重ねて違う誰かを見てたでしょ?今度は…僕を見てくれませんか? 明:…どう、だろうな 洸平:断らないってことは、期待できるってことですね 明:…随分と前向きだな 洸平:若さゆえ、かな 明:若さ故の過ち、になるぞ 洸平:なりません。…ねぇ、明さん。僕の名前、覚えてます? 明:もちろん 洸平:じゃあ、名前を呼んで下さい。ちゃんと僕を見て、名前を呼んで 明:…洸平 洸平:もう一回 明:洸平 洸平:…ずっと呼んで欲しかった 明:…馬鹿な奴だな 洸平:馬鹿でいいです。恋したら…みんな馬鹿になるんだから 明:沢山…色んなことを無駄にするかも知れないぞ? 洸平:それも経験でしょ。転ばなきゃ痛みは知らないまんまだから 明:起き上がるのが、怖くなるかもな… 洸平:…明さんは、起き上がれなくなった? 明:起き上がって、何とか立ち上がっても…前に進めなくなる。進んでも、良いことは無いんだって… 洸平:そっか…じゃあ、隣歩いていいですか 明:なにを… 洸平:隣で、手を繋いで歩かせて下さい 明:…いつか、私じゃない誰かを愛するようになる。その時になったら私は… 洸平:ありがとうございます 明:え? 洸平:今、一緒に居てくれるって事ですよね 明:…… 洸平:…きっと思ってるよりずっと、僕はあなたの事が好きなんだと思うんです。似た人を見かけたら目で追いかけて…あなたの煙草の香りを探してました。…ここにだって何回も来てたんです。あなたに逢いたくて… 明:…私は、 洸平:色々ごちゃごちゃ考えないでさ、今一瞬素直になってください。…僕のこと、嫌いですかですか? 明:…嫌いじゃない 洸平:…ずるいなぁ。でも、今はそれでいいです 明:…… 洸平:今でも…好きな人の好みは変わらない? 明:…私を…愛してくれる人が良い 洸平:ならやっぱり、僕ですね 明:…そう、かもな : 洸平:(M)以前の寂しそうな微笑みでは無く、優しい目をして彼は微笑む 洸平:(M)夜を舞う蝶がひらひらと、肩に止まった気がした。 : : :「夜、蝶に紅BL版」、終

洸平:(M)隣の温もりが動く気配に目が覚め、半分覚醒したようなしていないような意識は、聴き心地の良い金属音で引き起こされた 明:起きたか? 洸平:(M)甘い香りの煙草を揺らしながら、彼は柔らかく微笑んだ 洸平:(M)一糸まとわぬ彼のその姿は、薄明りの下でまるで彫刻の様だった。全体についた薄い筋肉が淡い影を作り、吐き出された煙がその上を滑る。 明:おはよう。良く寝てたみたいだ 洸平:あー…そうっすね : 洸平:(M)自分のタバコを取り出してライターに火をつけようとしたが、音が虚しく鳴るだけで一向に火がつかない。 : 洸平:火、貸してくれません?夕方でガス欠したっぽくて 明:いいよ、どうぞ? 洸平:…ライター 明:どうして。ここに…火はあるぞ 洸平:(M)いたずらっぽく、煙草の先端を揺らす彼。ライターは貸してもらえそうにない。立ち上がって彼に顔を寄せ、赤い先端から火を移す 洸平:(M)見たことのない黒っぽい紙巻き煙草の甘い香りが、フィルターを通って自分の中にも流れ込んできた 洸平:(M)途端に顔面に煙を吹きかけられて、思い切り咳き込んだ。彼は楽しそうに、声を殺して笑っていた。 : 洸平:ゲホッ…いきなり煙ふきかけてくるとか、ひどい… 明:油断大敵、だな 洸平:こわ…ゲホッ 明:大人でもいたずらってしたくなるもんさ。たまには子供心に戻りたくなる 洸平:年下にやることじゃないでしょ 明:仕方ない。ここに居るのはお前だけだから 洸平:それもそうですね…はーぁ、本気じゃないお子様をからかうのはさぞかし楽しいでしょうね 明:ん?拗ねたのか 洸平:…拗ねてない 明:可愛い奴だ 洸平:子供扱いしないでよ 明:本当の子供には、子供扱いなんてしないもんさ 洸平:(M)どちらからともなく、唇を引き寄せる。煙草の香りがするキスは、苦くてほんの少し甘い 洸平:(M)擦れ合う舌先だけが冷たくて、それを貪欲に求めてさらに深く。吐息の熱が上がりきった頃に、ようやく離れて荒くなった呼吸を交換した : 洸平:前言撤回…してくれます? 明:…ふふっ、降参。お手上げだ 洸平:あなたに見合った男になりたいんだけど…少しは届きそう? 明:追い越されそうで怖いよ 洸平:(M)軽く触れ合うだけのキスをかわすと、視線が絡み合い、それを逃がすまいと強く力を込めて抱きしめた 洸平:(M)かすれた声と共に吐き出された呼吸が耳にかかってゾクゾクする 洸平:(M)一晩中、あんなに触れて、撫でて、噛み付いて、繰り返したキスの数は数え切れなくて。漏らした吐息も、絡ませた指も、愛おしくてたまらない 洸平:(M)約束した言葉は紡げず、ただ想いを腕の力に込めて刻印を残すほどに抱きしめていた : 洸平:…明さん 明:…なんだ? 洸平:もう一回…したい 明:若者は…元気だな 洸平:でも… 明:……っ 洸平:したいって思ってくれてるでしょ 明:…手を…は、なせって… 洸平:離していいの? 明:…ふっ…はぁ 洸平:したくないですか?…気持ちよさそうなのに 明:…さっきの事…根に持ってるのか 洸平:…ええ、実は 明:…っ… 洸平:駄目ですか、明さん… 明:(噛みつくように洸平にキスをする)…駄目じゃ、ない… 洸平:(M)少し熱でうるんだ瞳はトリガーだった。さらに深く口づけて、ベッドの上に身体を投げる 洸平:(M)上がる体温。少し低めの声が甘く鳴いて、浮かんだ汗が髪を濡らした 明:……て、くれ 洸平:(M)繋がる熱が冷めきらぬ前、乱れた呼吸の合間に言葉が漏れた 明:…締めてくれ 洸平:な、に…? 明:首を…絞めてくれ 洸平:(M)薄く微笑んで言う彼は、自分ではない誰かをみている 明:強く、息ができない、位に… 洸平:…どうして…? 明:絞めて、欲しいからさ 洸平:…あぶ、ないよ 明:大丈夫、だから… 洸平:…誰を見てるの? 明:……お前だ 洸平:違う。明さんは…僕に重ねて違う人を見てる : : 明:坊主、ひとりか? 洸平:(M)グラスに落としていた視線を上げた先に、彼はいた。 : 洸平:坊主って…僕のことですか? 明:他に誰かいるか? 洸平:…居ない、ですね 明:ひとりか?良かったらおじさんと飲まないか?奢るぞ 洸平:(M)綺麗に整った髪と高そうなスーツ姿の彼は、片手のグラスを少し持ち上げて見せた。ひとつ空いたスツールを詰めて隣に座ると、少し甘い香りが鼻腔をくすぐる : 洸平:坊主は酷いな… 明:お?見た感じ、まだ二十代だろ?私からしたら、その位の奴はみんな坊主さ 洸平:そういうお兄さんはいくつなんですか? 明:いくつに見える? 洸平:合コンの決まり台詞にしてもちょい古いっすよ 明:そうか、もう古いか。こうやって時代に取り残されていくんだなぁ 洸平:辞めてくださいよ、僕ももうおっさんの仲間入りするんですから 明:最近の若い奴って、早くからそう言うけどもったいないと思うぞ。今この瞬間が一番若いんだから 洸平:…お兄さん、名前は? 明:明。明るいの一文字で明。君は? 洸平:…洸平 明:若い奴が一人でここで飲んでるのは初めて見た。だから思わず、な 洸平:…振られたんスよ、付き合ってると思ってた相手に 明:思ってた? 洸平:二股。で、僕は要らない方なんだそうで 明:そいつは、人を見る目がなかったんだな 洸平:僕もそう思います 明:言うね 洸平:明さん、奥さんは? 明:どう思う? 洸平:バツイチ 明:面白いこと言うな 洸平:違った? 明:ハズレ 洸平:残念 明:独身だよ。一人でフラフラ、ゲイバーで飲んでる自由人 洸平:なんにも縛られてなくていいじゃないですか 明:…物は言いよう、だな 洸平:じゃあ、恋人は? 明:恋人は居ない 洸平:…じゃあ愛人とか 明:ぷっ…君、本当に面白いな 洸平:そう?つまんないからって振られたばっかりなんだけど 明:面白いよ 洸平:じゃあその面白さが伝わらなかったんだろうなぁ 明:伝わる人間は限られそうだな 洸平:大人って、難しい 明:…そうかもな 洸平:じゃあ…明さんが大人ってどんなのか教えてよ 明:お、誘ってくれるのか。こんなおじさんを 洸平:おじさんって程じゃないでしょ 明:もういい歳さ 洸平:…年上、好きって言ったら笑う? 明:…半信半疑、かな 洸平:こういう誘い方って…いやらしい? 明:うーん、及第点ってとこかな 洸平:ギリ合格? 明:初めてなら、な 洸平:(M)その夜、初対面だった彼を薄暗いホテルの部屋で抱いた。貪るように求める僕と、それを薄い笑みを浮かべて受け止める彼。どこか冷めた表情に気付かないふりをして、僕は朝まで何度も彼を抱いた 洸平:(M)その夜知ったのは、彼の均衡のとれた体つきと、甘い香りのする煙草の香り。そして彼が違う誰かを見ているということだった。 : : 洸平:あなたに 明:…なんだ? 洸平:明さんに好きになってもらいたい 洸平:(M)何度目かの夜、隣に寝転がる彼の髪を指で弄びながら呟いた 明:好きだよ 洸平:嘘くさ 明:嘘じゃない、嫌いじゃない 洸平:…嫌いじゃないって、ずるいですよね 明:…そうだな 洸平:……あなたの心を、占めてるのは誰? 明:知りたいか 洸平:知りたい…けど、知りたくない。嫉妬でおかしくなりそう 明:…そういう素直なところは、好きなんだがな 洸平:本当? 明:あぁ、素直で…可愛い奴だなって 洸平:…やっぱり、本気じゃないじゃん 明:火遊びは、夢中になった方が負けなんだよ 洸平:僕とのことは、火遊び? 明:お前にとってな 洸平:そのつもり、ないんだけど 明:…セックスなんてもんはスポーツと一緒だ 洸平:好きな人としか、したくない 明:経験を積めば、分かるさ 洸平:…明さん 明:なに? 洸平:名前を、呼んで欲しい… 明:…呼んでなかったか? 洸平:呼ばれてない。いつもお前、しか。…呼んで 明:…… 洸平:…呼んで、ください 明:…こーへー 洸平:不合格 明:厳しいな… 洸平:好きな人には、ちゃんと名前呼んでもらいたいんだけど 明:…そう、かもな 洸平:(M)少し寂しそうに笑った明さんを、強く抱きしめた : 洸平:明さんは、どんな人が好き? : 洸平:(M)答えはなかった。小さく零れたため息が妙に艶っぽくて、腕に力を込める。痛い、という彼の声は聞こえないふりをした : 洸平:教えて、どんな人が好き? 明:…私の愚かさを、許してくれる奴 洸平:じゃあ、僕ですね 明:言うじゃないか 洸平:で?どんな人? 明:さっき答えた 洸平:もっとちゃんと教えてください 明:…しつこい男は嫌われるぞ 洸平:明さんに好かれてたら、それでいいです : : 明:私を、殺してくれる奴…かな 洸平:(M)長い間が空いて、彼はそう呟いた。薄い笑みを浮かべているのにその目は真剣だった : 洸平:この間、首絞めてって言ったのは、それ? 明:さぁ、どうかな 洸平:もしあの時、僕が絞めてたら…好きになってくれてました? 明:そうかもな 洸平:死にたい…とか? 明:そうじゃない 洸平:じゃあ…なんですか 明:…いつの間にか、きかん坊になったな 洸平:どうせ僕はいつまでも坊主、ですから : 洸平:(M)彼はするりと腕の中から抜けると、床に脱ぎ散らかされた服を身につけ始めた : 洸平:もう帰るんですか? 明:言っただろ?火遊びは、夢中になった方が負けなんだ。これ以上のめり込むなら…辞めておいた方が良い 洸平:火遊びじゃない、本気で…! 明:だからダメなんだ 洸平:(M)まっすぐな視線が、これ以上言うなと語っていた : 洸平:…また、会ってくれますか? : 洸平:(M)ようやく絞り出した声は、少し掠れて震えていた。身支度を整えた彼は、ネクタイを締めると社交的な笑みを見せた 明:…会えたらな 洸平:(M)そう言い残して彼は部屋を出ていった。煙草の残り香が甘く、灰皿に残された吸殻を恨めしく見つめた 洸平:(M)元々、連絡先の交換すらしていない関係で、最初に会った店で遭遇した時だけ共に過ごす 洸平:(M)彼はもうあの店には来ないかも知れない。始まってすらない僕達の関係。急激な喪失感に襲われて、力なくベッドに座り込んだ 洸平:(M)その後、何度かあの店に足を運んだが彼とは遭遇しなかった。時折、空を舞う蝶の様にチラつく彼の幻影を、目で追うだけだった : : 洸平:お兄さん、ひとりです? : 洸平:(M)目の前の彼はグラスに落としていた視線を上げ、とても驚いた顔をした 明:…なんで…? 洸平:ひとりですか? 明:…あぁ 洸平:隣、座らせて貰っても? 明:どうぞ 洸平:じゃ、失礼します 明:…びっくりした。もうこの店には来てないと思ってたのに 洸平:(M)最後の夜から、一年が経過していた : 洸平:しばらく来てなかったんです。久しぶりに来たら…明さんが居て思わず声掛けちゃいました 明:もうこんなおじさんのことは忘れてると思ってた 洸平:なんで年寄りになりたがるんです? 明:本当の事だからな 洸平:…年上ってずるいなぁ 明:特権と言って欲しいね 洸平:…恋人は? 明:居ない 洸平:じゃあ、愛人は? 明:はっ…そういうのは、もう終わった 洸平:…年下の燕を飼う気は無い? 明:…面白い言い方をするな 洸平:…本気になって欲しいけど、明さんは蝶々だから 明:蝶々? 洸平:ひらひら舞って、捕まえられない。でも魅力的で…目が離せなくなる 明:…私には、そんな価値はない 洸平:僕にはあります 明:…随分、熱っぽい目をするようになったな。いい恋をしたのか? 洸平:…ずっと明さんに恋してました 明:…… 洸平:火遊びなんかじゃなくて、本気でずっと好きだったんです : 洸平:(M)グラスの中で氷がからり、と音を立てた 明:…すまない 洸平:どうして謝るんですか 明:お前の大切な時間を、無駄にさせた 洸平:あなたは、僕に恋を教えてくれました 明:違う… 洸平:僕は間違いなく恋をしてたし、無駄だなんて一度も思ってません 明:…後になってやめときゃ良かったってなるさ 洸平:構わないです、その時はその時だし…高い勉強代だったなんて思わないから 明:…まだ、坊主だな 洸平:坊主でいいです。これから先の伸び代があるって事だから 明:言うように、なったじゃないか 洸平:ねぇ明さん、今度は僕を見てくれません? 明:どういう事だ 洸平:ずっと、僕に重ねて違う誰かを見てたでしょ?今度は…僕を見てくれませんか? 明:…どう、だろうな 洸平:断らないってことは、期待できるってことですね 明:…随分と前向きだな 洸平:若さゆえ、かな 明:若さ故の過ち、になるぞ 洸平:なりません。…ねぇ、明さん。僕の名前、覚えてます? 明:もちろん 洸平:じゃあ、名前を呼んで下さい。ちゃんと僕を見て、名前を呼んで 明:…洸平 洸平:もう一回 明:洸平 洸平:…ずっと呼んで欲しかった 明:…馬鹿な奴だな 洸平:馬鹿でいいです。恋したら…みんな馬鹿になるんだから 明:沢山…色んなことを無駄にするかも知れないぞ? 洸平:それも経験でしょ。転ばなきゃ痛みは知らないまんまだから 明:起き上がるのが、怖くなるかもな… 洸平:…明さんは、起き上がれなくなった? 明:起き上がって、何とか立ち上がっても…前に進めなくなる。進んでも、良いことは無いんだって… 洸平:そっか…じゃあ、隣歩いていいですか 明:なにを… 洸平:隣で、手を繋いで歩かせて下さい 明:…いつか、私じゃない誰かを愛するようになる。その時になったら私は… 洸平:ありがとうございます 明:え? 洸平:今、一緒に居てくれるって事ですよね 明:…… 洸平:…きっと思ってるよりずっと、僕はあなたの事が好きなんだと思うんです。似た人を見かけたら目で追いかけて…あなたの煙草の香りを探してました。…ここにだって何回も来てたんです。あなたに逢いたくて… 明:…私は、 洸平:色々ごちゃごちゃ考えないでさ、今一瞬素直になってください。…僕のこと、嫌いですかですか? 明:…嫌いじゃない 洸平:…ずるいなぁ。でも、今はそれでいいです 明:…… 洸平:今でも…好きな人の好みは変わらない? 明:…私を…愛してくれる人が良い 洸平:ならやっぱり、僕ですね 明:…そう、かもな : 洸平:(M)以前の寂しそうな微笑みでは無く、優しい目をして彼は微笑む 洸平:(M)夜を舞う蝶がひらひらと、肩に止まった気がした。 : : :「夜、蝶に紅BL版」、終