台本概要
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タイトル | スナックみさと〜アルバイターはリストラリーマン〜 |
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作者名 | 大輝宇宙@ひろきうちゅう (@hiro55308671) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男2、女3) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
土方町のスナックみさと。 扉を開ければ、おいしいご飯と美味しいお酒、楽しい仲間が待っている。 シリーズ予定作品第一弾です。 リストラされて同僚に愚痴りながら飲んでいた多田イクミ。 彼が目を覚ますと、そこは薄暗いカウンター付きの喫茶店のようだった。 美しい3人の女店員は、てきぱきと介抱してくれ 朝ごはんを振る舞ってくれる。 そして、ママと呼ばれる経営者から 「次の仕事が見つかるまで働かないか?」と言われ 未知の「スナック」で働くことにする。 利用規約は、Xの固定ポストを必ずご確認下さい。 また、今作は共作者がいます。 予告や上演の案内で用いる作者表記は必ず下記で お願い致します。 大輝宇宙・濁花ネオン 211 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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イクミ | 男 | 76 | 多田生(ただ いくみ) リストラされスナックみさとでバイトをすることになる。記憶力がとてもいい。明るく、真っ直ぐな「いい奴」。20代後半〜30代半ばを想定。 |
ママ | 女 | 47 | スナックみさとの経営者。料理がうまく人当たりがいい。どっしり構えた年長者。40代後半〜を想定 |
詩織 | 女 | 44 | スナックみさと従業員。おしとやか。しっかりもののお姉さん。色白、黒髪ロングのイメージ。20代半ば〜30代半ばを想定。奈々子より年上、ママより年下であればOK |
奈々子 | 女 | 58 | スナックみさと従業員。思ったことと口が直結している。明るく元気な毒舌娘。自由に生きている感じ。茶系ショート〜ボブヘア想定。20代前半〜30代前半。詩織以下であればOK |
虎次 | 男 | 35 | 細谷虎次(ほそやとらじ)スナック授業員。仕入れや店の雑務を任されている。口数は多くなく、威圧的な印象を与えがちだが、冷静に物事を見ており仲間想いのいいヤツ。詩織に想いを寄せている。20代半ば〜30代後半想定。イクミより上、ママより下であればOK |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:スナックみさと店内。時刻は午前6時14分。ソファ席に仰向けで寝ているイクミ。詩織が覗き込む。
詩織:あら・・気が付かれました?ナナちゃん、ママ呼んで。
奈々子:うん!(店のカウンターの奥に向かって叫ぶ)ママーっ!お客さん目ぇ覚めたってぇー!
詩織:はい、お水・・少し起き上がれます?零れてしまいます。
イクミ:は・・い。(頭がものすごく痛い)
0:起き上がり水を飲むイクミ。飲む度に頭の奥がガンガンと痛む。
奈々子:大丈夫ですー?
イクミ:はい・・(痛みを堪えながら。吐き気もある)
0:見渡すと、薄暗い照明に照らされるカウンター付きの喫茶店のような様相。
奈々子:始発はもう動き出してるけど、お客さん今日仕事だったりします?そんなんで大丈夫そ?
イクミ:俺・・。ここは?
奈々子:(大きな声で笑いながら)もぅ!そんな異世界転生じゃあるまいし!
イクミ:(奈々子の声が頭に響く)うぅっ・・。
詩織:ナナちゃん
奈々子:あっやば!ごめんなさい。
詩織:ここは、土方町(ひじかたちょう)の裏通りにある「スナックみさと」ですよ。
イクミ:スナック・・?
奈々子:ママがいて、カウンターがあるお店?みんなご飯食べたり、カラオケしたり、とっても楽しいお店だよ!
イクミ:ああ、キャバクラ?
詩織:違います。
イクミ:違うんですか・・?
詩織:キャバクラは風俗営業ですが、スナックは飲食営業に分類されます。また、キャバクラは女性スタッフが席の隣に就いて接客をしますが、スナックはカウンター越しにお喋りをするのがほとんどです。
イクミ:そうなんですか・・
ママ:(奥から出てくる)昨晩はお店に入ってきた時から随分と酔っ払ってらっしゃいましたからねぇ。まさかキャバクラと間違えて入ってきていたとは(苦笑い)
イクミ:俺、ここに来た記憶が・・。
ママ:お連れ様もなく、おひとりで元気よく扉を開けて入ってらっしゃいましたよ。
奈々子:そんで、そのまま入口でバターン!
詩織:飲み直そうとされてたんでしょうかね。
奈々子:それか、置いてかれちゃったとか?
ママ:ナナちゃん!(たしなめる)
イクミ:いいんすよ、本当にその子の言う通りなんです。俺は、同期に置いてかれたんです。
詩織:そうでしたか・・
奈々子:まぁ、酔っぱらいのお世話は面倒だもんねぇ。
ママ:ナナちゃん!(さっきより強めにたしなめる)
イクミ:酔ったから置いていかれるんじゃなくて・・俺、解雇されたんです。仕事、クビに・・なったんです。社会的に置いてかれちゃったんすよ・・。
奈々子:うわ!重めな話だなぁ
ママ:ナナちゃん!!(さらに強く注意して)
イクミ:いいんす、いいんす。俺、そんな俺を笑い飛ばしてほしくて、キャバクラにでも行こうかとここへ来て…みなさんに迷惑かけて…ます。
0:落ち込むイクミに重い空気になり、全員黙り込む。
ママ:(空気を変えるように)朝ごはんにしましょ。
奈々子:そだね!
詩織:昨日漬けた、ぬか漬けも食べましょう。
0:立ち上がりカウンターへ向かう3人。ソファ席に取り残されるイクミ。所在なげに3人を見る。
イクミ:えっ・・と、俺、それじゃ・・。(ヨロヨロと立ち上がる)
ママ:大丈夫ですか?カウンターで食べられそう?
イクミ:え?
詩織:そちらにお持ちしましょうか?
イクミ:俺も・・・?
奈々子:あー、まだ頭働いてない感じだね。あっちで食べよ?
詩織:そうね。あっ、ナナちゃん、無理して運ばないで。お味噌汁は私が持っていくから。
奈々子:はーい。
0:
0:ソファ席のテーブルに4人分の朝食が並べられる。ご飯、味噌汁、厚焼き玉子、鶏の西京焼き、キュウリと大根のぬか漬け。
ママ:ちょっと狭いけど、まぁいいでしょ。
奈々子:いただきまぁすっ!
詩織:いただきます。
ママ:召し上がれ。・・いただきます。
イクミ:すごく…美味そう(うまそう)・・!
奈々子:実際美味しいから。
詩織:無理しなくて大丈夫ですからね、お味噌汁だけでも飲めるといいんですけど…。
奈々子:お客さんが残すなら、私が食べるから大丈夫だよ?
イクミ:あっ…いや。なんか…頭痛いの治りました。…(両手をパンッと大きな音で合わせる)いただきます!
0:その様子を見て、目を合わせて微笑むママと詩織。気にせず食事を続ける奈々子。
イクミ:ご馳走様・・でした。
ママ:はい、お粗末さま。
奈々子:詩織さん、私あっついお茶がいいです!
詩織:はいはい。お客さんも緑茶でいいですか?
イクミ:は、はい。
0:カウンターにお茶を淹れに行く詩織。
ママ:気分はどうです?
イクミ:はい、もうかなり大丈夫っす。土方町(ひじかたちょう)なら歩いて30分くらいなので、酔い覚ましに歩いて帰ります。
奈々子:リストラされた身で通勤ラッシュはキツいもんねぇ。
イクミ:・・・うん。そうっすね・・。
ママ:(考える鼻息)次の仕事が見つかるまで・・
奈々子:ん?
ママ:次の仕事が見つかるまで、あなた、うちで働く?
イクミ:えっ・・。
ママ:いや、蓄えがあるなら別にいいのよ。でも、もし困ってるなら、こんな店で良ければってね。
奈々子:そうしなよ!昼夜逆転しちゃうけど、朝ごはんはママの手作り、こーんなおいしい賄いが付くよ?
イクミ:俺・・飲食の接客なんて出来るか・・
詩織:カウンターでの接客は私達の仕事ですから。お客さんはお片付けやお掃除になるんじゃないかしら。
ママ:そうね。虎次(とらじ)が手伝いが欲しいって嘆いていたから、そんな感じになると思うわ。
イクミ:皿洗いとかでいいなら・・是非、やらせてください。
0:
0:
0:同日。午後3時30分。スナックみさと。店の裏口を開けて声をかけるイクミ。
イクミ:すみませーん・・
虎次:あん?・・おい、そこは裏口だ。
詩織:虎次(とらじ)さん、その方です。さっきお話したお手伝いの。
虎次:あー・・俺の下に就くっていう。おい、ボサっとしてねぇで中入れ。
イクミ:は、はい・・!俺、今日からここでお世話になります、多田(タダ)イクミと申します。
虎次:細谷虎次(ほそやとらじ)だ。
詩織:詩織です。源氏名ですけど(微笑む)
イクミ:よろしくお願いいたします。
ママ:あら、来たわね。明日からでも全然良かったのに。
イクミ:いえ、今朝のお礼もしたかったですし。あと、これ履歴書作ってきました。(手土産と履歴書を差し出す)
詩織:あら、満天堂(まんてんどう)のきんつば!みんなこれ大好きなんですよ!ねぇ(虎次とママに微笑む)
虎次:あー・・うす。(照れて)
ママ:へぇーイクミって、漢字で「生(なま)」って書くのね!
イクミ:あ、はい。変わってるってよく言われるんすけど・・(笑う)
ママ:苗字と合わせたら、「ただいきる」「ただ生まれたままに」って感じが素敵ねぇ。
イクミ:ありがとうございます!めっちゃ嬉しいです。
奈々子:(裏口を開けて)おはよーございまぁす。
イクミ:おはようございます!ナナさん。
奈々子:お!来たねぇ!リストラリーマン!今日からよろしくぅっ!
イクミ:多田イクミです!
奈々子:はいはーい。よろしく、いっくん。
ママ:じゃあ、仕事は虎次から習ってちょうだい。無愛想だけどとってもいい子なのよ。
虎次:ママさん、子供みたいに言わないでくださいよ。
ママ:うふふ。ごめんごめん。イックンをよろしくね。
0:カウンターの裏のキッチンに移動する、イクミと虎次。
虎次:飲み物は基本的にカウンターでママさん達が作ってお出しする。
イクミ:はい。
虎次:ここでは、少し手間がかかる飲み物…フルーツの生搾り系とか生クリームがトッピングされた派手なヤツを作る。
イクミ:はい。
虎次:あとは、ママさんが仕込んだ煮込みの盛り付けや、デザートを作ったり、揚げもんしたりする。
イクミ:はい。
虎次:メモ・・・取るほどのことじゃねぇ。お前の仕事はしばらくは下げられた食器を洗うことと、開店前の店の清掃とかだ。あ、トイレはピカピカに磨けよ?
イクミ:分かりました!
虎次:接客はカウンター越しのみ。ソファ席で隣についたりはしない。配膳はソファ席が埋まったら手伝え。基本はカウンターだけで回していく。
イクミ:席につかない…ほんとにキャバクラとは違うんですね。
虎次:ここは、飲食店だ。スナックだバカ。
イクミ:わ、分かりました!
虎次:それから・・詩織さ・・店の女性に手を出すな。
イクミ:え?
虎次:あの人達は、この店の要(かなめ)だ。さっきも言ったが、ここはいかがわしい店じゃない。ここで働くのに下心があるんなら、今のうちに辞め・・
イクミ:(遮って)とんでもないです!下心なんてありません。リストラされて酔って眠りこけた俺を拾ってくれて、働かせてくれて、感謝しかないです!
虎次:ならいいんだけどよ。ここは常連さん達で和気あいあいとしたいい店だが、たまーに詩織さんや奈々子に手を出そうとする変なヤツが来る。ママさんが大抵追い返すが、いざとなったら俺が出る。
イクミ:それはきっと・・そのお客さん逃げ出しますね。
虎次:ああ。・・お前も脅かされたくなかったら、真面目に働け。
0:
0:
0:
0:1ヶ月後
イクミ:お待たせしました!生ビールとチーズとフライの盛り合わせです!あ、倉橋様!いらっしゃいませ!いつものでよろしいですか?ママさん!枝豆と味玉おひとつ!虎次さん!ハイボールレモンたっぷり搾り、ジョッキで一杯お願いします!
0:店内に元気なイクミの声が響く。狭い店内は満席で、詩織、奈々子がそれぞれカウンターでの接客にあたっている。
虎次:あいよっ
ママ:(カウンターの客へ)もう常連さんの名前も「いつもの」も覚えてるのよ、すごいでしょウチの新人くん。
奈々子:いっくんマジですごすぎ。
詩織:接客は私たちがするなんて言ったけど、立場がないくらいの活躍ね。
イクミ:とんでもないです!俺は、詩織さんや奈々子ちゃんみたいにお客様の癒しにはなれませんから。
奈々子:分かってんじゃん。
詩織:ナナちゃん!ふふ
イクミ:いらっしゃいませ!・・あ。すいません、知り合いです。ちょっと抜けますね。
奈々子:リーマン仲間かな?
詩織:そんな感じね。イクミさんに会いに来たってことね。
奈々子:うちで飲むつもりないのに、来んなっつーの。
ママ:こら、ナナちゃん!
奈々子:ごめんなさーい。
0:
0:今日の最後の客を見送る奈々子と詩織。店内に戻ってくる。
虎次:ママさん、お疲れ様でした。
ママ:お疲れ様。仕込みはお昼ごろ私がやっておくから、洗い物終わったら上がっていいわよ。
虎次:うす。
奈々子:おつかれおつかれー。
イクミ:・・・。
奈々子:どうしたの?いっくん。ぼーっとして。知り合いって人が来てから何かおかしいよ?
イクミ:あ、ああ・・すみません。
詩織:前にいた会社で何かあったんですか?
イクミ:あ、いや。えっと・・。
虎次:何だ。ハッキリしないなぁ。
イクミ:・・戻ってくる気はないかって言われたんス・・。
ママ:あら!
奈々子:自分たちでリストラしておきながら?
虎次:確かに。どういうことだ?
イクミ:俺、人の名前とか顔とか、好きな手土産覚えたりするのだけは得意なんすけど
奈々子:うんうん。そうだよね。
ママ:恩恵受けてるわ。
イクミ:何か、今になってその能力がすげー取引先とのコミュニケーションに役立ってたって分かったとか言われて。
虎次:何だそりゃ。都合良すぎるだろ。
詩織:そうねぇ・・。
奈々子:バカらしいよ!そんな会社、こっちが今度は振ってやったらいい!
ママ:およしなさい!アンタたち。イックンにとっては大切な決断なんだから、外野がとやかく言うことじゃないわ。
詩織:そうですね・・。ごめんなさい。
奈々子:でもぉ・・!リストラしてきたのはあっちじゃんか!
ママ:(さらに嗜めるようきっぱりと)ナナちゃん。
奈々子:・・・。
ママ:イックン、何を迷っているか知らないけれど、自分の生活がかかっていることよ。焦らず慎重にお決めなさい。
イクミ:はい・・!ありがとうございます!
0:
0:夕方。イクミ以外は出勤している。裏厨房にて。
奈々子:ママぁ・・。いっくん辞めちゃうのかなぁー。
詩織:ナナちゃん、もうその質問5回目。ママも困ってしまうわよ。
奈々子:だってぇ・・。
ママ:イックンの決めることよ。ナナちゃんは随分気に入ったのね。
奈々子:だってアイツ、素直でいい奴じゃん。
虎次:まぁな。面倒な雑用も自分からやるし、吐いた客の世話や掃除も嫌な顔せずやってるな。
奈々子:うん。やっと仲間って感じになってきたのに・・。
詩織:淋しい気持ちはよく分かるけれど、どちらがイクミさんにとって良いかは、彼にしか分からないことだわ。
虎次:うちは健全な飲食店だが、夜の店だからな・・。普通の生活とはやっぱり違ってくる。
奈々子:新しいところに就職するならまだしも、何も自分をリストラしたところに戻らなくったって・・。そんなの泣きつかれて許すってことでしょ!?いっくんお人好しすぎるよ。
詩織:そうねぇ・・それは、そうかも。
ママ:もうおよしなさい。そろそろイックンも来る頃だし、この話はおしまい。
ママ:ナナちゃん、仲間だって思うなら、その門出を喜んで背中を押してあげるのも仲間の役目じゃないかしら?
奈々子:・・うう・・分かったよぉ・・。
詩織:偉いわナナちゃん!
虎次:ははっいい子じゃねぇか。
0:
0:
0:
0:
0:数日後、スナックみさと営業中。
奈々子:厨房!特盛バナナパフェお願いしまーす!
虎次:あいよー
イクミ:虎次さん!俺やりますよ!
虎次:あ?・・ああ、いい。俺がやる。
詩織:おでんの鍋が空いたわ〜。
イクミ:はいっ!洗います!
詩織:あ・・・えっと、私やっちゃいますね(そそくさと流しに向かう)
ママ:イックン、手ぇ空いてる?あなたの覚えたてのマジック、お客様見たいって。
イクミ:え?マジっすか!わぁ〜うまくできるかなぁ〜(デレデレする)
奈々子:あっ!はいはいはーいっ!それ!私がやるっ!(横からお客様の目の前へ移動する)
イクミ:ええ?・・・ママさん・・皆さん何か、おかしくないっすか・・?
ママ:・・・みんな、極端なのよ・・・。ナナちゃんだけじゃなかったのは盲点だったわ・・。
イクミ:え?
ママ:・・みんなね、イックンと離れるのが寂しいんだって。
イクミ:離れるって?
ママ:ほら、前の会社からの呼び戻しがあったでしょう?みんな、あなたの仕事を奪ってるんじゃないのよ。あれでも、あなたにここを離れやすくしてるつもりなの。笑っちゃうわよね。
イクミ:そう・・だったんですか・・。
ママ:ここが大好きだし、ここでイックンも働けたらってみんな思ってるわ。でも、あなたがお日様の下で普通に働けるんなら、その方がいいとも思ってるのよ。
イクミ:ここは、別に恥ずかしい場所じゃありません、俺・・!
詩織:イクミさん・・。表に、会社の元上司って方がいらっしゃっています。
イクミ:あ・・はい。ちょっと抜けます。すみません。
詩織:返事、するんでしょうか?
ママ:初めて呼び戻しがあってから2周間くらい?まぁ、戻ってくるつもりがあるなら、そろそろ返事のリミットかもね。
奈々子:じゃーんっ!お客さんの一万円札はぁ千円札になっちゃいました〜!返せってったって返さないよ〜(笑う)
詩織:さみしくなりますね・・。
ママ:そうねぇ・・。
詩織:ママだって、そう思ってるのに。
ママ:私は、みんなの幸せを願ってるの。詩織もナナちゃんも、他にいい道ができたなら、いつだって離れたっていいのよ。
詩織:ママ・・。
0:
0:閉店後。明け方。
虎次:お疲れ様でした。
ママ:うん、厨房の片付けもありがとうね。
虎次:うす。
イクミ:あの・・・
奈々子:今日もご飯食べていかないの?とらちゃん。
虎次:今日はこのまま市場に仕入れに行く。
詩織:気をつけて行ってきてくださいね。
虎次:・・・うっす。
ママ:じゃあ、私達は朝ごはんにしましょうか。
奈々子:おつかれさま〜!また夜に!
イクミ:あの・・
詩織:ナナちゃん、ぬか床取って。
奈々子:うげーあれ臭いんだよぉ・・。
イクミ:あの・・みなさん・・
詩織:文句言わないの。おいしいおいしいって食べてるでしょう?
イクミ:俺、話が・・・ありまして
奈々子:でも臭いのは・・
イクミ:(大きな声で)あのっ!!!
0:全員黙る間
イクミ:あの、お話が、あります。
奈々子:・・・あ、あー・・ぬか床出すんだよね、えっと・・
イクミ:奈々子ちゃん!聞いてくれませんか?俺、どうするか決めたんで。
奈々子:・・・やだ。私、聞きたくない。
ママ:ナナちゃん・・。
奈々子:だって!私やだもん!いっくんが辞めちゃうなんて・・。とらちゃんや、詩織さんだってそうでしょう?
詩織:それは・・そうですけど・・。
虎次:俺は何も言えねぇよ。
奈々子:だって、イックン・・この店が好きでしょう!?私達のことだって好きでしょう!?ママのご飯だって、お客さんたちとのやり取りだって・・いつも嬉しそうに楽しそうにしてたじゃない!なのに・・・。
イクミ:ありがとうございます。みんな、本当にあったかくて・・俺、ここが大好きです。前の会社に突然リストラされて、でもやっぱり俺を必要としてくれてたって分かって、嬉しかったのも事実です。・・俺、ちょっと優柔不断なところがあるから、戻ることを考えたりして・・迷ってました。
虎次:ふん・・。
イクミ:俺、将来は普通の仕事をしてたいなって思ったんです。ここの仕事は大好きですけど、将来結婚したり、子供がいたりしたら、ここの仕事は現実的ではないって思って・・。
ママ:そうね。
イクミ:だから、だから・・・。
奈々子:・・・・。
イクミ:もう少しだけ、ここに置いて下さい。
0:(以下の驚愕は同時でも可)
ママ:え?
奈々子:は?
虎次:あ?
詩織:ん?
イクミ:・・・前の会社には戻らないです。でも、ちゃんと新しい就職先探して頑張ろうと思います。ここは居心地が良くて・・このままでもいいかもしれないとも思ったけど、最初にママさんが言ってたのを思い出して。
詩織:新しい仕事が見つかるまで・・でしたもんね。
イクミ:はい。探すのを正直最近諦めてました。でも、ちゃんとやろうって思いました。
ママ:今回の呼び戻しがいいきっかけになったのね。
イクミ:はい!だから、新しい仕事が見つかるまで、一生懸命恩返しさせてください!
ママ:ええ、よろしくねイックン・・!
詩織:良かった・・まだ一緒に働けるんですね!
虎次:ふぅ、やっと入った手伝いだ。早々に辞められたら困る。
奈々子:・・・・。
詩織:ナナちゃん?
奈々子:・・人騒がせ!!
イクミ:ええ?
奈々子:私がどれだけ・・・!!ああっもう!・・・(小声で)良かった・・。
ママ:・・ふふ。さぁ、朝ごはんにしましょ!虎次、おにぎり握ったから、車で食べて行ってね。
虎次:ありがとうございます。
0:
0:
イクミ:(ナレーション)ここは、土方町(ひじかたちょう)の「スナックみさと」おいしいご飯と美味しいお酒、楽しい仲間が、皆様のお越しをお待ちしています。
奈々子:いっらっしゃいませ!
詩織:いらっしゃいませ!
ママ:いらっしゃいませ!こちらのカウンターへどうぞ。
0:
0:
0:Fin
0:スナックみさと店内。時刻は午前6時14分。ソファ席に仰向けで寝ているイクミ。詩織が覗き込む。
詩織:あら・・気が付かれました?ナナちゃん、ママ呼んで。
奈々子:うん!(店のカウンターの奥に向かって叫ぶ)ママーっ!お客さん目ぇ覚めたってぇー!
詩織:はい、お水・・少し起き上がれます?零れてしまいます。
イクミ:は・・い。(頭がものすごく痛い)
0:起き上がり水を飲むイクミ。飲む度に頭の奥がガンガンと痛む。
奈々子:大丈夫ですー?
イクミ:はい・・(痛みを堪えながら。吐き気もある)
0:見渡すと、薄暗い照明に照らされるカウンター付きの喫茶店のような様相。
奈々子:始発はもう動き出してるけど、お客さん今日仕事だったりします?そんなんで大丈夫そ?
イクミ:俺・・。ここは?
奈々子:(大きな声で笑いながら)もぅ!そんな異世界転生じゃあるまいし!
イクミ:(奈々子の声が頭に響く)うぅっ・・。
詩織:ナナちゃん
奈々子:あっやば!ごめんなさい。
詩織:ここは、土方町(ひじかたちょう)の裏通りにある「スナックみさと」ですよ。
イクミ:スナック・・?
奈々子:ママがいて、カウンターがあるお店?みんなご飯食べたり、カラオケしたり、とっても楽しいお店だよ!
イクミ:ああ、キャバクラ?
詩織:違います。
イクミ:違うんですか・・?
詩織:キャバクラは風俗営業ですが、スナックは飲食営業に分類されます。また、キャバクラは女性スタッフが席の隣に就いて接客をしますが、スナックはカウンター越しにお喋りをするのがほとんどです。
イクミ:そうなんですか・・
ママ:(奥から出てくる)昨晩はお店に入ってきた時から随分と酔っ払ってらっしゃいましたからねぇ。まさかキャバクラと間違えて入ってきていたとは(苦笑い)
イクミ:俺、ここに来た記憶が・・。
ママ:お連れ様もなく、おひとりで元気よく扉を開けて入ってらっしゃいましたよ。
奈々子:そんで、そのまま入口でバターン!
詩織:飲み直そうとされてたんでしょうかね。
奈々子:それか、置いてかれちゃったとか?
ママ:ナナちゃん!(たしなめる)
イクミ:いいんすよ、本当にその子の言う通りなんです。俺は、同期に置いてかれたんです。
詩織:そうでしたか・・
奈々子:まぁ、酔っぱらいのお世話は面倒だもんねぇ。
ママ:ナナちゃん!(さっきより強めにたしなめる)
イクミ:酔ったから置いていかれるんじゃなくて・・俺、解雇されたんです。仕事、クビに・・なったんです。社会的に置いてかれちゃったんすよ・・。
奈々子:うわ!重めな話だなぁ
ママ:ナナちゃん!!(さらに強く注意して)
イクミ:いいんす、いいんす。俺、そんな俺を笑い飛ばしてほしくて、キャバクラにでも行こうかとここへ来て…みなさんに迷惑かけて…ます。
0:落ち込むイクミに重い空気になり、全員黙り込む。
ママ:(空気を変えるように)朝ごはんにしましょ。
奈々子:そだね!
詩織:昨日漬けた、ぬか漬けも食べましょう。
0:立ち上がりカウンターへ向かう3人。ソファ席に取り残されるイクミ。所在なげに3人を見る。
イクミ:えっ・・と、俺、それじゃ・・。(ヨロヨロと立ち上がる)
ママ:大丈夫ですか?カウンターで食べられそう?
イクミ:え?
詩織:そちらにお持ちしましょうか?
イクミ:俺も・・・?
奈々子:あー、まだ頭働いてない感じだね。あっちで食べよ?
詩織:そうね。あっ、ナナちゃん、無理して運ばないで。お味噌汁は私が持っていくから。
奈々子:はーい。
0:
0:ソファ席のテーブルに4人分の朝食が並べられる。ご飯、味噌汁、厚焼き玉子、鶏の西京焼き、キュウリと大根のぬか漬け。
ママ:ちょっと狭いけど、まぁいいでしょ。
奈々子:いただきまぁすっ!
詩織:いただきます。
ママ:召し上がれ。・・いただきます。
イクミ:すごく…美味そう(うまそう)・・!
奈々子:実際美味しいから。
詩織:無理しなくて大丈夫ですからね、お味噌汁だけでも飲めるといいんですけど…。
奈々子:お客さんが残すなら、私が食べるから大丈夫だよ?
イクミ:あっ…いや。なんか…頭痛いの治りました。…(両手をパンッと大きな音で合わせる)いただきます!
0:その様子を見て、目を合わせて微笑むママと詩織。気にせず食事を続ける奈々子。
イクミ:ご馳走様・・でした。
ママ:はい、お粗末さま。
奈々子:詩織さん、私あっついお茶がいいです!
詩織:はいはい。お客さんも緑茶でいいですか?
イクミ:は、はい。
0:カウンターにお茶を淹れに行く詩織。
ママ:気分はどうです?
イクミ:はい、もうかなり大丈夫っす。土方町(ひじかたちょう)なら歩いて30分くらいなので、酔い覚ましに歩いて帰ります。
奈々子:リストラされた身で通勤ラッシュはキツいもんねぇ。
イクミ:・・・うん。そうっすね・・。
ママ:(考える鼻息)次の仕事が見つかるまで・・
奈々子:ん?
ママ:次の仕事が見つかるまで、あなた、うちで働く?
イクミ:えっ・・。
ママ:いや、蓄えがあるなら別にいいのよ。でも、もし困ってるなら、こんな店で良ければってね。
奈々子:そうしなよ!昼夜逆転しちゃうけど、朝ごはんはママの手作り、こーんなおいしい賄いが付くよ?
イクミ:俺・・飲食の接客なんて出来るか・・
詩織:カウンターでの接客は私達の仕事ですから。お客さんはお片付けやお掃除になるんじゃないかしら。
ママ:そうね。虎次(とらじ)が手伝いが欲しいって嘆いていたから、そんな感じになると思うわ。
イクミ:皿洗いとかでいいなら・・是非、やらせてください。
0:
0:
0:同日。午後3時30分。スナックみさと。店の裏口を開けて声をかけるイクミ。
イクミ:すみませーん・・
虎次:あん?・・おい、そこは裏口だ。
詩織:虎次(とらじ)さん、その方です。さっきお話したお手伝いの。
虎次:あー・・俺の下に就くっていう。おい、ボサっとしてねぇで中入れ。
イクミ:は、はい・・!俺、今日からここでお世話になります、多田(タダ)イクミと申します。
虎次:細谷虎次(ほそやとらじ)だ。
詩織:詩織です。源氏名ですけど(微笑む)
イクミ:よろしくお願いいたします。
ママ:あら、来たわね。明日からでも全然良かったのに。
イクミ:いえ、今朝のお礼もしたかったですし。あと、これ履歴書作ってきました。(手土産と履歴書を差し出す)
詩織:あら、満天堂(まんてんどう)のきんつば!みんなこれ大好きなんですよ!ねぇ(虎次とママに微笑む)
虎次:あー・・うす。(照れて)
ママ:へぇーイクミって、漢字で「生(なま)」って書くのね!
イクミ:あ、はい。変わってるってよく言われるんすけど・・(笑う)
ママ:苗字と合わせたら、「ただいきる」「ただ生まれたままに」って感じが素敵ねぇ。
イクミ:ありがとうございます!めっちゃ嬉しいです。
奈々子:(裏口を開けて)おはよーございまぁす。
イクミ:おはようございます!ナナさん。
奈々子:お!来たねぇ!リストラリーマン!今日からよろしくぅっ!
イクミ:多田イクミです!
奈々子:はいはーい。よろしく、いっくん。
ママ:じゃあ、仕事は虎次から習ってちょうだい。無愛想だけどとってもいい子なのよ。
虎次:ママさん、子供みたいに言わないでくださいよ。
ママ:うふふ。ごめんごめん。イックンをよろしくね。
0:カウンターの裏のキッチンに移動する、イクミと虎次。
虎次:飲み物は基本的にカウンターでママさん達が作ってお出しする。
イクミ:はい。
虎次:ここでは、少し手間がかかる飲み物…フルーツの生搾り系とか生クリームがトッピングされた派手なヤツを作る。
イクミ:はい。
虎次:あとは、ママさんが仕込んだ煮込みの盛り付けや、デザートを作ったり、揚げもんしたりする。
イクミ:はい。
虎次:メモ・・・取るほどのことじゃねぇ。お前の仕事はしばらくは下げられた食器を洗うことと、開店前の店の清掃とかだ。あ、トイレはピカピカに磨けよ?
イクミ:分かりました!
虎次:接客はカウンター越しのみ。ソファ席で隣についたりはしない。配膳はソファ席が埋まったら手伝え。基本はカウンターだけで回していく。
イクミ:席につかない…ほんとにキャバクラとは違うんですね。
虎次:ここは、飲食店だ。スナックだバカ。
イクミ:わ、分かりました!
虎次:それから・・詩織さ・・店の女性に手を出すな。
イクミ:え?
虎次:あの人達は、この店の要(かなめ)だ。さっきも言ったが、ここはいかがわしい店じゃない。ここで働くのに下心があるんなら、今のうちに辞め・・
イクミ:(遮って)とんでもないです!下心なんてありません。リストラされて酔って眠りこけた俺を拾ってくれて、働かせてくれて、感謝しかないです!
虎次:ならいいんだけどよ。ここは常連さん達で和気あいあいとしたいい店だが、たまーに詩織さんや奈々子に手を出そうとする変なヤツが来る。ママさんが大抵追い返すが、いざとなったら俺が出る。
イクミ:それはきっと・・そのお客さん逃げ出しますね。
虎次:ああ。・・お前も脅かされたくなかったら、真面目に働け。
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0:1ヶ月後
イクミ:お待たせしました!生ビールとチーズとフライの盛り合わせです!あ、倉橋様!いらっしゃいませ!いつものでよろしいですか?ママさん!枝豆と味玉おひとつ!虎次さん!ハイボールレモンたっぷり搾り、ジョッキで一杯お願いします!
0:店内に元気なイクミの声が響く。狭い店内は満席で、詩織、奈々子がそれぞれカウンターでの接客にあたっている。
虎次:あいよっ
ママ:(カウンターの客へ)もう常連さんの名前も「いつもの」も覚えてるのよ、すごいでしょウチの新人くん。
奈々子:いっくんマジですごすぎ。
詩織:接客は私たちがするなんて言ったけど、立場がないくらいの活躍ね。
イクミ:とんでもないです!俺は、詩織さんや奈々子ちゃんみたいにお客様の癒しにはなれませんから。
奈々子:分かってんじゃん。
詩織:ナナちゃん!ふふ
イクミ:いらっしゃいませ!・・あ。すいません、知り合いです。ちょっと抜けますね。
奈々子:リーマン仲間かな?
詩織:そんな感じね。イクミさんに会いに来たってことね。
奈々子:うちで飲むつもりないのに、来んなっつーの。
ママ:こら、ナナちゃん!
奈々子:ごめんなさーい。
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0:今日の最後の客を見送る奈々子と詩織。店内に戻ってくる。
虎次:ママさん、お疲れ様でした。
ママ:お疲れ様。仕込みはお昼ごろ私がやっておくから、洗い物終わったら上がっていいわよ。
虎次:うす。
奈々子:おつかれおつかれー。
イクミ:・・・。
奈々子:どうしたの?いっくん。ぼーっとして。知り合いって人が来てから何かおかしいよ?
イクミ:あ、ああ・・すみません。
詩織:前にいた会社で何かあったんですか?
イクミ:あ、いや。えっと・・。
虎次:何だ。ハッキリしないなぁ。
イクミ:・・戻ってくる気はないかって言われたんス・・。
ママ:あら!
奈々子:自分たちでリストラしておきながら?
虎次:確かに。どういうことだ?
イクミ:俺、人の名前とか顔とか、好きな手土産覚えたりするのだけは得意なんすけど
奈々子:うんうん。そうだよね。
ママ:恩恵受けてるわ。
イクミ:何か、今になってその能力がすげー取引先とのコミュニケーションに役立ってたって分かったとか言われて。
虎次:何だそりゃ。都合良すぎるだろ。
詩織:そうねぇ・・。
奈々子:バカらしいよ!そんな会社、こっちが今度は振ってやったらいい!
ママ:およしなさい!アンタたち。イックンにとっては大切な決断なんだから、外野がとやかく言うことじゃないわ。
詩織:そうですね・・。ごめんなさい。
奈々子:でもぉ・・!リストラしてきたのはあっちじゃんか!
ママ:(さらに嗜めるようきっぱりと)ナナちゃん。
奈々子:・・・。
ママ:イックン、何を迷っているか知らないけれど、自分の生活がかかっていることよ。焦らず慎重にお決めなさい。
イクミ:はい・・!ありがとうございます!
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0:夕方。イクミ以外は出勤している。裏厨房にて。
奈々子:ママぁ・・。いっくん辞めちゃうのかなぁー。
詩織:ナナちゃん、もうその質問5回目。ママも困ってしまうわよ。
奈々子:だってぇ・・。
ママ:イックンの決めることよ。ナナちゃんは随分気に入ったのね。
奈々子:だってアイツ、素直でいい奴じゃん。
虎次:まぁな。面倒な雑用も自分からやるし、吐いた客の世話や掃除も嫌な顔せずやってるな。
奈々子:うん。やっと仲間って感じになってきたのに・・。
詩織:淋しい気持ちはよく分かるけれど、どちらがイクミさんにとって良いかは、彼にしか分からないことだわ。
虎次:うちは健全な飲食店だが、夜の店だからな・・。普通の生活とはやっぱり違ってくる。
奈々子:新しいところに就職するならまだしも、何も自分をリストラしたところに戻らなくったって・・。そんなの泣きつかれて許すってことでしょ!?いっくんお人好しすぎるよ。
詩織:そうねぇ・・それは、そうかも。
ママ:もうおよしなさい。そろそろイックンも来る頃だし、この話はおしまい。
ママ:ナナちゃん、仲間だって思うなら、その門出を喜んで背中を押してあげるのも仲間の役目じゃないかしら?
奈々子:・・うう・・分かったよぉ・・。
詩織:偉いわナナちゃん!
虎次:ははっいい子じゃねぇか。
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0:数日後、スナックみさと営業中。
奈々子:厨房!特盛バナナパフェお願いしまーす!
虎次:あいよー
イクミ:虎次さん!俺やりますよ!
虎次:あ?・・ああ、いい。俺がやる。
詩織:おでんの鍋が空いたわ〜。
イクミ:はいっ!洗います!
詩織:あ・・・えっと、私やっちゃいますね(そそくさと流しに向かう)
ママ:イックン、手ぇ空いてる?あなたの覚えたてのマジック、お客様見たいって。
イクミ:え?マジっすか!わぁ〜うまくできるかなぁ〜(デレデレする)
奈々子:あっ!はいはいはーいっ!それ!私がやるっ!(横からお客様の目の前へ移動する)
イクミ:ええ?・・・ママさん・・皆さん何か、おかしくないっすか・・?
ママ:・・・みんな、極端なのよ・・・。ナナちゃんだけじゃなかったのは盲点だったわ・・。
イクミ:え?
ママ:・・みんなね、イックンと離れるのが寂しいんだって。
イクミ:離れるって?
ママ:ほら、前の会社からの呼び戻しがあったでしょう?みんな、あなたの仕事を奪ってるんじゃないのよ。あれでも、あなたにここを離れやすくしてるつもりなの。笑っちゃうわよね。
イクミ:そう・・だったんですか・・。
ママ:ここが大好きだし、ここでイックンも働けたらってみんな思ってるわ。でも、あなたがお日様の下で普通に働けるんなら、その方がいいとも思ってるのよ。
イクミ:ここは、別に恥ずかしい場所じゃありません、俺・・!
詩織:イクミさん・・。表に、会社の元上司って方がいらっしゃっています。
イクミ:あ・・はい。ちょっと抜けます。すみません。
詩織:返事、するんでしょうか?
ママ:初めて呼び戻しがあってから2周間くらい?まぁ、戻ってくるつもりがあるなら、そろそろ返事のリミットかもね。
奈々子:じゃーんっ!お客さんの一万円札はぁ千円札になっちゃいました〜!返せってったって返さないよ〜(笑う)
詩織:さみしくなりますね・・。
ママ:そうねぇ・・。
詩織:ママだって、そう思ってるのに。
ママ:私は、みんなの幸せを願ってるの。詩織もナナちゃんも、他にいい道ができたなら、いつだって離れたっていいのよ。
詩織:ママ・・。
0:
0:閉店後。明け方。
虎次:お疲れ様でした。
ママ:うん、厨房の片付けもありがとうね。
虎次:うす。
イクミ:あの・・・
奈々子:今日もご飯食べていかないの?とらちゃん。
虎次:今日はこのまま市場に仕入れに行く。
詩織:気をつけて行ってきてくださいね。
虎次:・・・うっす。
ママ:じゃあ、私達は朝ごはんにしましょうか。
奈々子:おつかれさま〜!また夜に!
イクミ:あの・・
詩織:ナナちゃん、ぬか床取って。
奈々子:うげーあれ臭いんだよぉ・・。
イクミ:あの・・みなさん・・
詩織:文句言わないの。おいしいおいしいって食べてるでしょう?
イクミ:俺、話が・・・ありまして
奈々子:でも臭いのは・・
イクミ:(大きな声で)あのっ!!!
0:全員黙る間
イクミ:あの、お話が、あります。
奈々子:・・・あ、あー・・ぬか床出すんだよね、えっと・・
イクミ:奈々子ちゃん!聞いてくれませんか?俺、どうするか決めたんで。
奈々子:・・・やだ。私、聞きたくない。
ママ:ナナちゃん・・。
奈々子:だって!私やだもん!いっくんが辞めちゃうなんて・・。とらちゃんや、詩織さんだってそうでしょう?
詩織:それは・・そうですけど・・。
虎次:俺は何も言えねぇよ。
奈々子:だって、イックン・・この店が好きでしょう!?私達のことだって好きでしょう!?ママのご飯だって、お客さんたちとのやり取りだって・・いつも嬉しそうに楽しそうにしてたじゃない!なのに・・・。
イクミ:ありがとうございます。みんな、本当にあったかくて・・俺、ここが大好きです。前の会社に突然リストラされて、でもやっぱり俺を必要としてくれてたって分かって、嬉しかったのも事実です。・・俺、ちょっと優柔不断なところがあるから、戻ることを考えたりして・・迷ってました。
虎次:ふん・・。
イクミ:俺、将来は普通の仕事をしてたいなって思ったんです。ここの仕事は大好きですけど、将来結婚したり、子供がいたりしたら、ここの仕事は現実的ではないって思って・・。
ママ:そうね。
イクミ:だから、だから・・・。
奈々子:・・・・。
イクミ:もう少しだけ、ここに置いて下さい。
0:(以下の驚愕は同時でも可)
ママ:え?
奈々子:は?
虎次:あ?
詩織:ん?
イクミ:・・・前の会社には戻らないです。でも、ちゃんと新しい就職先探して頑張ろうと思います。ここは居心地が良くて・・このままでもいいかもしれないとも思ったけど、最初にママさんが言ってたのを思い出して。
詩織:新しい仕事が見つかるまで・・でしたもんね。
イクミ:はい。探すのを正直最近諦めてました。でも、ちゃんとやろうって思いました。
ママ:今回の呼び戻しがいいきっかけになったのね。
イクミ:はい!だから、新しい仕事が見つかるまで、一生懸命恩返しさせてください!
ママ:ええ、よろしくねイックン・・!
詩織:良かった・・まだ一緒に働けるんですね!
虎次:ふぅ、やっと入った手伝いだ。早々に辞められたら困る。
奈々子:・・・・。
詩織:ナナちゃん?
奈々子:・・人騒がせ!!
イクミ:ええ?
奈々子:私がどれだけ・・・!!ああっもう!・・・(小声で)良かった・・。
ママ:・・ふふ。さぁ、朝ごはんにしましょ!虎次、おにぎり握ったから、車で食べて行ってね。
虎次:ありがとうございます。
0:
0:
イクミ:(ナレーション)ここは、土方町(ひじかたちょう)の「スナックみさと」おいしいご飯と美味しいお酒、楽しい仲間が、皆様のお越しをお待ちしています。
奈々子:いっらっしゃいませ!
詩織:いらっしゃいませ!
ママ:いらっしゃいませ!こちらのカウンターへどうぞ。
0:
0:
0:Fin