台本概要
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タイトル | キルズハント |
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作者名 | あまくケイ (@amak0331) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
キルズハントは、今日も殺しを狩っている 欲にまみれた殺し屋が蔓延る、とある街「カサドラ」で、殺し屋を狩っているバレットは ある日、カフェ「サンクス」にて、一人の少年と出会う ファンタジーな架空の街を舞台にした 殺し屋系のバトルアクションもの …ですが割とSFとかファンタジーとか入ってます、そんな内容です 性転換可 物語の展開が崩れない軽微なアドリブは可 「迅雷の最適解」外伝 良ければ、 迅雷の最適解 迅雷の最適解Ⅱ~カサドラの雷鳴~ こちらも良ければどうぞ 715 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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バレット | 女 | 168 | 「殺し狩りのバレット」と呼ばれている女性 赤いロングヘアに、肌が露出した黒ドレス カサドラの街で、殺し屋を狩っている 口が悪い、男勝りな性格 コーヒーが苦手で、りんごジュースが好き |
ダルケス | 女 | 155 | カフェ「サンクス」の店主 ピンクの髪に、スタイルのいい体に、魅惑を誘う服装 余裕感のある、物腰が柔らかい性格 元殺し屋で、バレットに殺しを教えた師匠でもある 罠で相手をしとめることが多く、罠師のダルケスとも呼ばれている (性転換可。その場合、綺麗なオカマとして演じていただければと思います) |
ジャック | 男 | 87 | カサドラの殺し屋 黒いスーツに黒いハットをかぶった背の高い男 バレット達の住む地域とは別の場所で殺しをしていた 表面は紳士的な性格だが、怪しい物言いをするなど、裏が読めない |
リッパー | 男 | 76 | カサドラの殺し屋 青いジャケットにオールバックの髪型をした、鋭い目つきの男 ギャンブルと女が好き。戦闘欲も旺盛 考えるより先に手を出したがる性格 兄のジャックに対して、名前呼びすれば、アニキと呼ぶときもある |
トレイア | 男 | 76 | カフェ「サンクス」へ息をきらしながらやってきた少年 グレーの髪に、幼い表情。年齢はバレットよりも下 ジャックとリッパーに標的にされている 毒舌を吐いたり、生意気な態度をとる お金に関してケチな一面も |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
バレット:朝日は清らかに顔を見せ
バレット:キルズハントは、今日もどこかで狩っている
0:
バレット:逃がしはしねえよ
0:1人の殺し屋を狙い撃つバレット
バレット:そこまでだよ、殺し屋さん。聴けば、つい最近も手にかけたらしいじゃないか
0:相手は苦渋の表情を浮かべ、すぐさま拳銃を構える
バレット:遅いよ
0:銃声が響き、ゆっくりと殺し屋は倒れた
バレット:……女にしちゃ、良い動きだったよ
0:
0:
0:2週間後
0:カフェ「サンクス」で楽しそうにコーヒーを淹れているダルケス
ダルケス:ふんふんふふん
ダルケス:ふんふんふふん
ダルケス:最後にひょいっと
ダルケス:…あ、しまった
ダルケス:…まぁ、これもありかしらね
バレット:何やってんの?
ダルケス:いらっしゃいの一言も言わせてくれないのね?
バレット:よう、って挨拶したろ
ダルケス:聞こえなかったわ
バレット:聞こえなかったんじゃなくて、聞かなかったんだろ
バレット:何そんなしかめた顔してんのさ
ダルケス:これ
バレット:?
ダルケス:? って…分からない?
ダルケス:コーヒーアートよ
バレット:それは分かるけど
ダルケス:じゃ、これ分かる?
0:ダルケスはそう言って、バレットに覗かせた
バレット:カエル?
ダルケス:猫よ
バレット:嘘だろ?
ダルケス:ひっどい反応!
バレット:元師匠とは思えないくらいの腕前
ダルケス:そう、殺しとアートは別世界
ダルケス:奥が深いわね、こういうの…面白いわ
ダルケス:それで、最近どう?
バレット:さらりとごまかすし…
バレット:…二週間前に、1人狩った
バレット:そんなに棘のある腕じゃなかったけど
ダルケス:下っ端(ぱ)じゃ、大元(おおもと)の連中は分からなそうね
ダルケス:根っこの浅い草で残念
ダルケス:報酬は?
バレット:今日、金ができるって聞いたから。これから向かおうかと
ダルケス:そう
バレット:…あんたが無理に協力する事ないんだぜ?
バレット:カサドラで、殺し屋を狩るって決めたのは、あたし自身だし
ダルケス:その決意を現実にするためにお手伝いしたのは、誰かしらねぇ?
バレット:それは感謝してるよ
バレット:でも、そこまで突っ込むことじゃない
バレット:足、洗ったんだろ?
ダルケス:…え、バレットちゃん、足フェチなの?
ダルケス:いやぁねぇもう~!急に性癖さらしちゃってぇ!
バレット:殺し狩りに向かってよく言えるね、その冗談
ダルケス:どんな冗談でも受け止めなさいって教えなかったかしら?
バレット:全く、これっぽっちも教わってねえから
ダルケス:そうだったかしらね
ダルケス:…色々、飽きちゃったのよ、私は
ダルケス:金と、男と、ベッドと、銃
ダルケス:毎日見てたら、退屈だわ
バレット:それで、経営に目覚めたと
ダルケス:自分から動かなくて楽じゃない
ダルケス:待ってるだけで人が来るんだもの
バレット:それ、あんたのお得意技じゃねえか。罠師のダルケス
ダルケス:さらっと異名出さないでくれるかしら
バレット:一応、これでも元師匠を尊敬している、もと愛(まな)弟子のつもりなんで
ダルケス:もうー、そういうこというんだからぁ
ダルケス:…バレットちゃんはもう立派な狩り人よ
ダルケス:教えたての頃から、随分と成長したわ
ダルケス:だから、そろそろコーヒーくらい飲めてもいいんじゃない?
バレット:うっ…
バレット:それは苦手なんだって言ってるじゃん…
ダルケス:りんごジュースじゃ、私のコーヒースキルが上がらないのよ
バレット:悪かったな飲めなくて!
ダルケス:うふふ
ダルケス:その調子なら、カサドラの平和を夢見ても、良さそうね
バレット:ご期待ありがとう、元師匠
バレット:…ほんとは、政府のアンドロイドにでも来てもらえば、一番いいんだろうけど
ダルケス:はるばる東の彼方から? それはそれは長い旅になるわねぇ
ダルケス:確かにこの街も、政府の管理下にすっぽり収まればいいのだろうけど
ダルケス:それはそれで、この街も荒れそうな気がするわ
ダルケス:表が政府でも、裏の世界はそう簡単に潰れない
ダルケス:それがこのカサドラ
ダルケス:ここの治安部隊なんて眉唾(まゆつば)ものだし
バレット:どうにもならないから、あたしが狩る
バレット:カサドラを平穏の地にするためにな
ダルケス:今、絶妙に主人公してるわよ、バレットちゃん
ダルケス:はい、りんごジュース
バレット:……飲み物で台無しにしてくれないかね
ダルケス:あたしも嫌いじゃないけどねぇ、これ
バレット:嫌味かよ
ダルケス:その甘さも、あなたの魅力よ
バレット:はいはい…
0:すると、突然ドアベルがなる
トレイア:…っ!
ダルケス:いらっしゃ…
トレイア:か、匿(かく)まってくれ!
ダルケス:えっ?
バレット:なんだ、このガキ
トレイア:ガキじゃない、トレイアだ
バレット:あ?
トレイア:追われてる!
バレット:っ?
ダルケス:客人はおもてなししないとね
ダルケス:後ろへ隠れなさい、坊や
0:ダルケスがそう伝えると、トレイアはすぐさま、カウンターの後ろへ隠れた
0:それに続くかのように、店の入り口から、二人の男がやってくる
ジャック:…
リッパー:…シケた店だな
ダルケス:あなた、バーと勘違いしてない?
ジャック:申し訳ない
ジャック:彼はあまり、こういう場所は苦手なようで
バレット:苦手ならなんで来たんだよ
ジャック:なに。夜の時間に慣れすぎているから
ジャック:少しは陽の光を浴びてもらおうとね
リッパー:おいジャック。それはてめえもだろ
リッパー:最近も夜中に、はべらせたばっかだろうに
ジャック:そうだったか?
リッパー:楽しそうに息はいてたじゃねえか
リッパー:腕がアンドロイドみてぇに綺麗だったとか
ジャック:あぁ。それか
ジャック:綺麗な体は格別さ
ダルケス:……
ジャック:そんな体つきの良さを思い出していたら、おっと目の前に
ジャック:浸りたい過去の思い出が
ダルケス:スリル満点な夜だったかしらね
ダルケス:残念ながら、ゆったりした夜伽(よとぎ)が好みなのよ、私
リッパー:お前、こいつと交わしてんのかよ
ジャック:いや。寸前で断られたさ
リッパー:ハメまわしには最適な体つきなのに、もったいねえ
ジャック:残念ながら
ジャック:互いの化けの皮が、はがれてしまってね
バレット:ダルケス、知り合いか?
ダルケス:昔の男
ダルケス:騙しあいの夜を過ごしたマトでもあるけど
リッパー:あーあー、魅惑の再会を邪魔しちまったな
リッパー:ごめんなぁ、アニキ
ジャック:謝る気がないくせに
ジャック:楽しそうだぞ、リッパー
リッパー:はっははは!!
リッパー:そりゃそうだ。…見た目で分かるぜ、そこの赤髪
リッパー:…お前、殺し狩りのバレットだろ
バレット:夜遊びしたいってこと? そりゃどうも
バレット:でも興味ねえからあたしは
リッパー:肝も良い感じですわってらぁ(舌なめずりをする)
バレット:何処の勢力だ、あんたら
バレット:あんまりこの辺じゃ見ない顔だね
リッパー:…酒はねえのかよ、ここ
ダルケス:ちょっと、看板みてるかしら?
リッパー:俺たちのシマなら、もう少し酔える店が多いもんだぜ
バレット:気に入らなくて残念。それなら、そのまま回れ右しちまったら?
ジャック:仕事をしにきたんだ
ダルケス:何の?
リッパー:子供、見かけなかったか?
トレイア:っ!
バレット:…さぁ、どうだろうね
ダルケス:知ってたらどうするの?
ジャック:おやおや
ジャック:いつかの夜を思い出すな、ダルケス
ジャック:君のその言いよう、変な匂いがする
ジャック:夜遊びが下手になったかな?
0:ジャックはゆっくりと手をポケットに伸ばそうとする
ダルケス:動かないで
リッパー:お互い様だろ
バレット:…っ!
0:4人、一斉に構え始める
ジャック:…
ダルケス:撃つなら弁償してよ、もう
リッパー:負けたばっかだっていってんだろ、金なんかねえよ
バレット:その前に狩らせてもらうぜ
ジャック:一勝負の前に、ダルケスの珈琲でも味わいたかったが
ダルケス:嬉しいじゃないのよぉ
バレット:そんなもん飲んでたら集中できないよ
ダルケス:そんなもんって…ちょっと酷くなぁい、それ
リッパー:興味ねえな
ダルケス:だから、あなたは来るところ間違えてるのよ
ジャック:これからお酒でも出したらどうだ?
ダルケス:まぁ……売れ行きが悪くなったら考えなくはないけど、来ないでよ? あなたたち、危ないから
バレット:同感
ジャック:手厳しい
リッパー:…あ
リッパー:やべぇ
リッパー:この感じ、これよな、これ
バレット:こんな時に興奮かよ
ダルケス:1人でやってきたら?
リッパー:目の前に居るのに、1人でやるわけねぇだろうが
ジャック:今日はいつにもまして荒いな、リッパー
リッパー:いや、これが湧いてきちまった
リッパー:もう撃っていいだろ、な? アニキ
リッパー:止めらんねぇ
ダルケス:お盛んだことで
ダルケス:あまりそういうので、店を汚してほしくないんだけどねぇ
リッパー:俺はとっとと汚したくて仕方がねぇ
ジャック:なら、お前の好きなギャンブルで決めよう
0:ジャックは拳銃を構えながらゆっくりとコインを出す
ジャック:どっちにする?
リッパー:今の気分は
リッパー:表だ
ジャック:分かった
ダルケス:それ、冗談?
ジャック:さぁ、どっちだろうね
バレット:……裏が出ることを祈りたいね
ジャック:神(かみ)の帝(みかど)にでも祈るかい?殺し狩り
バレット:昔の偉人は信じないタチでね
ジャック:それは……
0:ジャックはコインをはじいた
ジャック:…残念だ
0:バレットは一瞬、コインを見やった
0:しかし、すぐに目を戻すと
バレット:っ!
0:ジャックとリッパーは、引き金に指をかけていた
0:銃声が一気に鳴り響く
リッパー:ヒャッハハハハハハハ!!
ダルケス:もう! 結果が出てから撃ちなさいよ!
ジャック:残念、これはギャンブルじゃなくて、殺しだ
バレット:カフェは殺しをする場じゃないっての!
リッパー:知らねえな!
0:リッパーは隙を見て、すかさずバレットに近づく
バレット:っ……早い!
リッパー:こちとらくだらねえ負け金(がね)使っちまったばっかりなんだ
リッパー:だから代わりにてめえの股で満たしてくれや、殺し狩りィ!!
0:リッパーはすかさずナイフを取り出す
バレット:くっ!
リッパー:おらよォッ!!
バレット:乱射野郎かと思ったら、器用にナイフを回しやがる……
バレット:何人殺(と)ってきたんだか
リッパー:少なくとも、女に飽きねぇくらいはな!
0:ジャックはカウンターに向かって拳銃を撃ちこむ
ジャック:さてと。仕事仕事
トレイア:っ!…あ!
0:トレイアはふと、カウンターから顔を出してしまう
ジャック:おっと、発見
バレット:マセガキ!顔を出すな!
トレイア:うるさいっ!…っ。ひぃ!
ジャック:外れたか
ジャック:オーケーオーケー、気楽にいこう
ジャック:次は君に、銃弾をちゃんとプレゼントしなくちゃ
ダルケス:なら、代わりにあげるわ
ダルケス:私からのプレゼント
ジャック:君からは、より欲しいものがあるんだけどな
ジャック:例えば、キスとか
ジャック:その、体とか
ダルケス:あらそう、プレゼントの中身、間違えたかしらね!
0:ダルケスはそう言って撃ち返す
トレイア:ダルケス…ど、どうするのさ
ダルケス:隙を見て、裏口から逃げるしかないわ
ダルケス:…バレットちゃん!
バレット:分かってる!
ジャック:ふむ、なら先に殺し狩りを殺(と)るか
0:ジャックが標的をバレットに向けた
リッパー:おい!ジャック!俺の女だぜ!
ジャック:マトを潰すより、こっちのほうが厄介だ
リッパー:…オイオイ。2対1なら、殺(と)ったようなもんだろ
リッパー:あーあ、興(きょう)ざめだ
バレット:2対1…か
バレット:だったら、こっちも2つ
0:バレットはとっさにワンピースの中から拳銃を取り出す
リッパー:…まさか
リッパー:2匹狩るってか?
バレット:あたしなら、あんたら二人まとめて、狩れる
リッパー:はは……おもしれえ! せいぜいあがいてみろや!
リッパー:鉛だらけにして、ハメまわしてやんよ!!
ジャック:お疲れさま、ハンターさん
トレイア:っ!
ダルケス:こら、出ちゃだめよ
トレイア:あれじゃ、殺されて…
ダルケス:殺されないのがあの子なのよ
トレイア:…っ!
0:リッパーとジャックは、バレットに銃口を構える
バレット:……
ジャック:…?
リッパー:なんだ…この感覚?
バレット:…踊(おど)り狂(くる)え
バレット:「マカブリットダンサー」
0:バレットは目の色を変え、二人にめがけて撃ち放った
ジャック:っ! リッパー!
リッパー:チィッ!!
0:
トレイア:…すごい
ダルケス:それは、私の弟子だもの
ダルケス:ただ、……改装費どれだけかかることやら
ダルケス:バレットちゃ~ん! そろそろずらかるわよ!
バレット:ああ!
ジャック:逃がすか…!
ダルケス:残念ながら、最後にトラップを1つ、ぽちっとな
リッパー:!?
リッパー:派手にしびれるなァこいつは
ジャック:電気が流れる……ピアノ線? 変わった芸当だ
ダルケス:かかっちゃってもいいのよ? そういうのがお好みなら
バレット:とっとと逃げるぞ!
ジャック:……引こう
リッパー:なんだよ、つまんね
リッパー:こっからがメインディッシュなのによ
ジャック:もう少しお腹を空かせておけ
ジャック:どちらにしよ、仕留めるのだから
0:
0:
バレット:…撒(ま)いたか?
ダルケス:そりゃ、ビリビリ仕掛けたからね
バレット:事前に言っておいてくれよ、あんな罠があるなんて
バレット:あやまってかかっちまったら、どうするんだい?
ダルケス:欺(あざむ)く時はまず味方からよ、うふふ
ダルケス:それに、バレットちゃんなら私の罠くらい、ちょちょいのちょいでかわせるでしょ
バレット:買い被りすぎだぜ
トレイア:…
バレット:とっとと逃げな
バレット:用心棒じゃないんだ、あたしは
トレイア:なら、金を払う
バレット:あ?
トレイア:僕を守れ
トレイア:それで、あいつらを殺してくれよ
トレイア:あんたら強そうだし
バレット:ほう、いい態度してんじゃないのさ
トレイア:いや、雇ったほうが偉(えら)いから
ダルケス:あらぁー。ずいぶん腰の据わった坊やね
バレット:ざけんなマセガキ
バレット:あたしを昔のナイトとでも勘違いしてんのかい?
バレット:そんなヒーローみたいな連中、幻想だよ
ダルケス:バレットちゃんの子供嫌い、相変わらずね
バレット:うるさい
トレイア:ぶっ…。あんたみたいな野蛮な人が、昔のナイト? それ、ウケ狙ってる? 笑えないんだけど
バレット:んだと……!
ダルケス:毒舌は一人前ねぇ坊や。嫌いじゃないわ
ダルケス:…狩りの依頼じゃないけど、とりあえずこの子の用心棒として受けたら? バレットちゃん
ダルケス:さっきの二人の殺し屋も、放っておいたら大きくなりそうだし
バレット:…で
バレット:なんで追われてたんだよ?
トレイア:さぁ? 知らないよ、そんなこと
トレイア:この街じゃ、誰だって狙われる危険性はある
トレイア:それに選ばれただけじゃない?
バレット:お前、カタギ?
トレイア:ごく一般人だよ
バレット:全然信用できねえんだけど、それ
トレイア:……ま、それもそうか
トレイア:流石に何も言わないのもあれだし
トレイア:せっかくだから、その男勝りなところに敬意を評して言ってあげるよ
バレット:このマセガキ……!
トレイア:……母が殺された
バレット:……
トレイア:おそらく、あの二人組
トレイア:母さんは、ヤクの取引にかかわってたから
トレイア:依頼主は、母さんが横流ししてたのを知って、マトに選ばれ、あいつらに殺された
トレイア:でも、息子の僕も、ヤクの情報知ってると思って、狙ってきてるんだと思う
ダルケス:…トレイアちゃんは、関わってないと?
トレイア:母さんがヤクに関わってたなんて話、最近聞いたばかりだから
バレット:それで
トレイア:?
バレット:あたしは、何をすればいいのさ
ダルケス:やる気ねぇ
バレット:ただ。こっちにもキッチリした対価がないとな
トレイア:対価? 体とか? 死んでもごめんだね、あんたとは
バレット:……口を開けばイラつくことばっかり……
バレット:ほら、とっととだせ、マセガキ
トレイア:はい
バレット:……
トレイア:どうしたの?
バレット:……舐めてんの、あんた?
トレイア:コイン一枚に価値がないと?
バレット:ああ……こいつ本気で撃っていい?!
ダルケス:落ち着きなさいって
バレット:ダルケス!いくら何でも冷静すぎたっての!
ダルケス:でもほら、バレットちゃんはキルのほうじゃなくて
ダルケス:キルズ達をハントするほうだからさ
バレット:だからなんだよ!!!
バレット:「殺し屋」じゃなくて「殺し狩り」はタダでやれってか!?
ダルケス:まぁまぁ。それに、さっきも言ったけど。あの二人をここで仕留めれば、後々ラクになるかも。私は受けてもいいと思うけどねぇ
バレット:……
トレイア:…だめ?
バレット:……っ。はぁ
バレット:分かった。やるよ。やればいいんだろ
トレイア:よし
バレット:ガキ、お前ちょっと笑ったろ
トレイア:被害妄想じゃない?
バレット:殺す!!
ダルケス:うふふ、にぎやかねぇホント
バレット:悪い意味でな!
0:
0:
0:カフェ「サンクス」
0:カウンターの木材に無数の穴があき、窓も割れ、粉々にグラスがあちこちへと飛散している
ジャック:損ねてしまったね
リッパー:これからが山場だってのに
ジャック:勝手に君が撃つからだろう
ジャック:どっちだったか分からない
リッパー:嘘つけ。心の中でヨダレたらすなよ、ジャック
リッパー:…お。
リッパー:表だぜ
0:リッパーは落ちていたコインを拾った
ジャック:景品は逃げてしまったがね
リッパー:どこ行きやがったんだか
ジャック:心当たりはある
リッパー:なんだよ。夜遊び相手の行き先は、手に取るようにわかるってか?
ジャック:直接交わさなくても、ある程度、人の考えは分かってしまうもの
ジャック:その人のクセ、思考、殺し方
リッパー:だりぃ
リッパー:とっとと見つけて殺しちまったほうが早い
リッパー:つまらなすぎで同業者に殺(と)られちまいそうだ
ジャック:マイペースも悪くないものだよ、リッパー
リッパー:虫唾が走るぜ
リッパー:口より手を出す
リッパー:ピロートークより先にハメる
リッパー:価値観の違いは尊重しようぜ、アニキ
ジャック:昔からそうだ、お前は
ジャック:俺が玩具の人形を綺麗に切り取っている隣で、お前はすぐに壊してしまう
ジャック:獲物を追い詰めるほうが最もラクで、最も快楽を得られるというのに
リッパー:前座はいらねえ
リッパー:早めに裂いちまったほうが美味いだろ
ジャック:匂いから楽しむのも一興(いっきょう)ではあると思うけどね
リッパー:ケッ。…それにしても、あの殺し狩り
リッパー:…強いなぁ、はは
リッパー:一回だけじゃ物足りねぇ快感だ、ありゃ
リッパー:あいつの股、しっぽりハメた後に裂いてみてぇな
ジャック:強者は常に犯し、弱者は犯される
ジャック:欲にまみれた強者が、ここでは生き残る
ジャック:カサドラの殺し屋は、魔物のようなものさ
リッパー:金と、暴力と、女と、あー、なんだ
ジャック:音楽
リッパー:アンドロイドは?
ジャック:この街にはまだ「無い」
ジャック:…無いといえば、連絡も
リッパー:詰め込みすぎて死んだか?
ジャック:誰かに殺(と)られていてもおかしくない…か
ジャック:一旦、戻るとしよう
0:
0:
リッパー:はっ。言った傍から
リッパー:見てみろよ
リッパー:いい顔して死んでるじゃねえか
ジャック:…今日は冴えているかもしれない
ジャック:リッパー。今日はお前と賭け事をしても、勝てそうだ
リッパー:それは賭博場(とばくじょう)で言うんだな
リッパー:一度も俺に勝ったことねぇくせによ
リッパー:にしても、…依頼主もご愁傷様だぜ、こいつは
ジャック:酷い顔をしている
ジャック:生前は優しさにあふれた顔をしていたのに
ジャック:恨みつらみも、ここまで来ると圧巻だ
リッパー:俺たちが変なものでも、ひきつれちまったか?
ジャック:面白いね、リッパー
ジャック:ナイトの幽霊に刺されたと
ジャック:まるでおとぎ話ようで、ロマンがある、それは
リッパー:ただ残念ながら、やったのは生きてる人間だし、刃物じゃねえ
リッパー:足跡がかすかに残ってる。リアルって怖いよなァ
ジャック:…この様子だと今日の出来事、かな。俺たちと入れ違いか、はたまた狙っていたか
リッパー:アンドロイドが来ちまったか?
リッパー:それとも噂のサイボーグか
ジャック:前者だと良かったのに
ジャック:完璧なほうが好きだ
ジャック:会って、その四肢を……
リッパー:穴に挿(い)れたほうが、楽しそうだけどな
リッパー:人間と違って、100%鉄のカタマリ女ってのはどんな感触やら、はは
リッパー:…んで、カマしたあとは……外に出て
ジャック:…この方角へ、と
ジャック:…はは
ジャック:なるほど、なるほど
ジャック:命を運ぶと書いて運命
ジャック:基本的に人間は、人間をうらみ続ける、ということか
リッパー:…だから、まとめて殺しちまったほうが早いってのに
リッパー:ゴタゴタした絡みは好きじゃねえんだよ
リッパー:ギャンブルだってそうだ
リッパー:一発ハジいて、儲けたほうが快感
リッパー:ちまちま頭使うより、ガッポリ得(え)ちまったほうが好きだ
リッパー:それが金にしろ、女の穴にしてもな
ジャック:お前とは一緒に、女をモノには出来なさそうだ
ジャック:…依頼人は死んだが、殺し狩りは後々脅威となる。ここからはボランティアだ
リッパー:ボランティア精神で殺すってな、はは!
ジャック:…さて、ぼちぼち行こうか
ジャック:神(かみ)の帝(みかど)は、俺達の命を運んでくれるやら
リッパー:ジャックも変わってるよな
リッパー:カサドラじゃその神(かみ)の帝(みかど)は、汚物(おぶつ)のシンボルなのによ
ジャック:なに
ジャック:言葉の響きが好きなだけさ
0:
0:
トレイア:ねぇ、まだ行くの?
バレット:追われてる奴が言うセリフじゃねえんだけど、それ
トレイア:どうせあんたら、強いし
トレイア:勝てるでしょ
バレット:今見捨てちまってもいいんだぜ、マセガキ?
ダルケス:トレイアちゃん、勿体ないわね
ダルケス:バレットちゃんに対して…。怖いもの知らずというか
ダルケス:控えめに言って殺し、向いてるわよ
トレイア:……向いてないよ
トレイア:母だって、そう思ってただろうし
トレイア:トレイアに殺し屋は向かないって
トレイア:そんな扱いだよ、僕なんて
バレット:あー辛気臭い
バレット:そういう話がしたいならよそでやれ
トレイア:…
ダルケス:バレットちゃん
ダルケス:殺し屋の息子でも、一般人なのよ
バレット:はぁ。…つか、ここからどうする?
バレット:このままじゃ確実に狙われるぜ、あたしたち
ダルケス:やれやれ
ダルケス:いい場所があるわ
バレット:なんだよ?
ダルケス:とっておきの隠れ家
ダルケス:ただ、すこーし道がそれるけど
0:
トレイア:く、くらい……
ダルケス:それもそうよ。使われてない地下通路だったわけだし
バレット:こんな抜け道があるとはね
ダルケス:秘密基地ってわくわくするじゃない?
ダルケス:私も小さいころは茂みにわざと秘密基地つくったりで
バレット:んなことしてたらやられるぞ
ダルケス:その頃から、罠のセンスあったみたい、私
バレット:…あー。返り討ちってか
トレイア:小さいころから、住んでるの?
ダルケス:生まれ故郷だし
トレイア:殺しの街が故郷って、外の人たちから見たらどう思うんだろうね
バレット:それなら出ていけばいいじゃねえか
バレット:狙われなくて済む
トレイア:…東の都市まで、すごい距離あるし
トレイア:途中の集落や村だって、僕を受け入れてくれるか分からない
トレイア:あとは廃墟とか砂漠とか、そんなのばっかだし
トレイア:それに、殺し屋の母を、置いていきたくなかった
バレット:…
ダルケス:政府が中心になってる東の都市、噂には聞くけど、ここより随分と発達しているみたいね
バレット:アンドロイド、サイボーグ……耳にするくらいで、実際どんなのか見たことない
ダルケス:政府が介入すれば、カサドラは変わっちゃうでしょうね
トレイア:サイボーグ…か
トレイア:…機械になれば
トレイア:痛みなんて、持たなくてすむのかな
バレット:バーン
0:バレットが指でトレイアを撃つフリをした
トレイア:……っ?
バレット:……はぁ
バレット:ったく
バレット:イチイチ振り返ってんじゃねえよ、バーカ
トレイア:っ
バレット:今を見ろよ、今を
バレット:あんたは今、生きてるだろ
トレイア:…何の話?
バレット:あたしも、殺されたのさ
バレット:…母親
トレイア:…え?
バレット:強くなれって、言われてた
バレット:この街で生まれたからには
バレット:強くなれって
バレット:そんだけ
トレイア:……
トレイア:……そう、なんだ
ダルケス:カサドラにとどまるのよね、バレットちゃんは
バレット:別に、嫌いじゃないし
バレット:意外と、景色良かったり、街並みも嫌いじゃない
バレット:それに、あんたみたいなくだらねえマセガキもいる
トレイア:…ぶっ。慰めてるつもり、それ?
バレット:なっ…! せっかくあたしの言葉を!
ダルケス:バレットちゃん、そういうところ可愛いわよねえ
ダルケス:今度りんごジュース、タダにしてあげるわ
トレイア:りんごジュース?
ダルケス:好きなのよ、甘いもの
バレット:ダルケス!あんたなぁ!
トレイア:ぶっ、はは!
バレット:ほら、予想通りの反応
トレイア:…っ…!
トレイア:いや、別に
トレイア:面白いとか、思ってないし
ダルケス:顔が笑ってるわよ、トレイアちゃん
トレイア:笑ってない
トレイア:笑って、ないから
ダルケス:…
ダルケス:さ、そろそろつくわよ
0:地下通路を出ると、ひっそりとした館へたどり着いた
バレット:へぇ
バレット:使われいてない館、か
バレット:家主(やぬし)は?
ダルケス:そりゃ私よ
バレット:買い取ってんのかここ?!
ダルケス:報酬という名の、貯まった退職金でね
ダルケス:本当はカフェ経営のお金で買いたかったんだけどねぇ
バレット:どっちでもいいだろ
ダルケス:後者の方がオーナーっぽいじゃない
ダルケス:私の夢だったんだけどねぇ、そういう金で買い取るって
ダルケス:現実は厳しいわ
トレイア:ここに隠れるの?
ダルケス:今は、カフェに戻るよりはマシよ
トレイア:でもここ、誰にも入られてない?
トレイア:一回もここに住み込んだことない、なんてわけじゃないでしょ?
ダルケス:知ってても入れないわけがあるのよ、ここは
ダルケス:さ、行きましょ
0:
0:
バレット:うわ、きったな。掃除しろよ
ダルケス:文句いわないでよぉ、しばらくほったらかしだったんだから
トレイア:誰かに「使われた」可能性は?
ダルケス:答えはノー
ダルケス:傷跡がないもの
トレイア:傷跡?
ダルケス:あ、そこ危ないわよ
トレイア:えっ
ダルケス:踏んだらビリっと一発。ゲームオーバー
トレイア:っ!
バレット:そういうことかい
ダルケス:私にあとについてきて
ダルケス:少しでも乱れたら、死後の世界で冥王様とご対面よ、うふふ
バレット:敵じゃなくて良かったぜ…
ダルケス:誉め言葉、ありがとう
0:
ダルケス:この部屋なら、罠はないわ
バレット:綱渡りってこんな気分なんかね
ダルケス:修羅場を潜り抜けてきたレディが何を言うんだか
バレット:厳しい師匠は健在と
バレット:…まぁここなら、遠くから狙われることはないし
トレイア:殺し屋って、罠とか張ったりするんだね
トレイア:てっきり、撃ち合いの達人くらいに思ってた
ダルケス:撃ち合いだけが殺しじゃないわよ
ダルケス:物事って、一部だけ取り上げられやすいけど、もっと複雑
ダルケス:この館だって、人間だって、そう
ダルケス:コーヒーアートだって、複雑さが必要なんだから
バレット:ここじゃ出来ないけどな
ダルケス:それが残念ねぇ
バレット:トラップだらけのカフェなんて潰れちまうぜ
ダルケス:スリルあるカフェタイムをご提供するって宣伝したら、意外といけそうだったり?
バレット:しない
ダルケス:もう、辛辣(しんらつ)ねぇ!
トレイア:っ…足音!
バレット:…来たな
バレット:トレイア、隠れてろ
トレイア:……うん
ダルケス:さぁ、喋ってたらもう客人が
バレット:何の客だよ
ダルケス:トラップの体験客
ジャック:…いい匂いだ
リッパー:ああ、変な匂いだ
ジャック:気配がする
リッパー:居るってか?
ジャック:なに
ジャック:進めばわかるさ
ダルケス:進む前に落ちちゃうかもねぇ
ジャック:…ダルケス
リッパー:大当たり
リッパー:居場所まで分かっちまうのかよ、アニキ
ジャック:さぁ、どうだろうね
ジャック:運ばれただけさ
ダルケス:あら、恐ろしい
ダルケス:その洞察力、大したものよねぇ
ダルケス:心も裸にされているようで、あの夜は大変だったわ
リッパー:おい
リッパー:殺し狩りはどこだよ?
ダルケス:もちろんいるわよ
リッパー:とっとと会わせろ
リッパー:退屈してきた
ダルケス:なら、こちらへ来て見なさいな
リッパー:クソアマが!!
0:リッパーはライフルを構えて、ダルケスの方向へ撃つ
ダルケス:おっと
ダルケス:そんなに撃ってちゃ作動しちゃうわよ
ジャック:…?
ジャック:辺りに光…? いや、なんだ?
ダルケス:さてさて、電気の花火といこうかしら
ダルケス:「ライトニング・マイト」。なんちゃって
ジャック:っ!
ダルケス:……ってまぁ、名前つけても雰囲気だけなんだけどねぇ
ダルケス:きっと大昔はこんな魔法だったんでしょうって
リッパー:オイオイ…
ジャック:この広間一帯に、電気を放出するような仕掛け。それも大量に
リッパー:はっ! 電気攻め大好きってか!
ダルケス:他にもあるわよ?
ダルケス:ポチっとな
リッパー:!?
リッパー:なんだ、あれ?
ダルケス:壁が開いて、ジャジャジャジャーン♪
ダルケス:必殺。名付けて「マシンスター」
ダルケス:派手にガンガン、イっちゃうわよぉ!
0:壁から出た設置型ガトリング砲から弾が発射される
リッパー:馬鹿でけぇトラップだぜ、まったく
ジャック:リッパー
リッパー:なんだよ
ジャック:俺が「罠」を壊す
ジャック:彼女の事は、よく「わかる」
0:
ダルケス:!?
0:ジャックはダルケスをけん制射撃しながら、罠の位置を予測して銃弾を当てる
0:すると、当たった箇所に機械のようなものが次々と飛び出て、ガラクタのように崩れ落ちる
ダルケス:怖いわねぇ、男って
ジャック:楽しいオモチャが満載だね、ダルケス
リッパー:だが、しゃらくせえ攻撃も終いだ
ダルケス:っ! バレットちゃん!
バレット:分かってるつーのっ!!!
0:バレットが奥のほうから飛び出て、リッパーに対して足で攻撃する
リッパー:はは…なんだ…
リッパー:居るじゃねえかよ…殺し狩りィ!!!
0:リッパーもすかさず腕で防ぎ、蹴りを放つ
バレット:っと!
バレット:いちいちうるさいのよ、あんたは!
リッパー:(舌なめずり)…たまらねぇぜ
リッパー:こういう展開だよ、俺が欲しかったのは
ジャック:同感
ジャック:俺も、魅惑の過去に再会できた
ダルケス:まったく、嬉しくないわね
バレット:このまま仕留める……!
バレット:踊り狂え……! マカブリット……!
リッパー:二度もやらせねえよ
バレット:なっ?!
リッパー:黒(くろ)に裂かれろや
リッパー:黒魔 死錬突(こくま しれんとつ)!
バレット:がっ……あ
リッパー:…かすったか
バレット:…なんだよさっきの
バレット:ファンタジーじゃないっての本当に
リッパー:ハハハ! てめえも同類だろうよ、殺し狩り
ダルケス:バレットちゃん!
バレット:問題ねえ! 絶対に仕留めるさ
バレット:殺し狩りのバレットを舐めすぎだぜ、師匠
ダルケス:……
ジャック:よそ見なんて傷つくじゃないか、ダルケス
ジャック:淋しくなるだろ
ダルケス:だいじょうぶよ
ジャック:! 後ろ!?
0:後ろの壁から刃物をしばりつけたトラップが回転し、ジャックに迫る
ジャック:抱擁(ほうよう)にしては、少し厳しいかな
ダルケス:残念、貴方の首がちょんぎれてたのに
ジャック:君だけ責めるなんて不公平だ
ダルケス:…? 構え方が変わった?
ジャック:冥(みょう)へと朽(く)ちよ
ジャック:「冥禍 楼苑葬(めいか ろうえんそう)」
ダルケス:っ! …っ…あ…!
ダルケス:み、見えなかった……?
ダルケス:というか、さっきの……ほんとに銃撃、なの?
ジャック:いかがだったかい、殺しのマジックは?
ダルケス:…最悪ね……
ジャック:足は撃った……これで動けない
ジャック:……はは
ジャック:いいね、いい
ジャック:動けない物に対しての、この高揚感
ジャック:これだから殺しはやめられない
ダルケス:……でも、残念
ジャック:…?
ダルケス:足元、踏んでるわよ
ダルケス:最後は甘いのね
ジャック:っ!
ダルケス:「ショットゼロ」
ダルケス:床から散弾ばらまくってね
ジャック:……あ……っ
リッパー:アニキ!!
リッパー:くそ、くそっ…クソッタレ!
バレット:乱れたね
リッパー:っ!
バレット:命取りだよ、それ
0:バレットはリッパーの隙をつき、銃弾を放つ
リッパー:がっ……あ
リッパー:…っ
バレット:ここまでだよ
ジャック:っ…は…はは
ダルケス:まだ生きてるのね…しつこい人
ジャック:……しつこいのは、果たして、俺だけ…かな?
ダルケス:……? 何の話?
ジャック:まぁ…いいさ
ジャック:しかし…残念だ。もう少しで、手が届きそうだったのに
ダルケス:出会いから間違ってたわね、ごめんなさいな
リッパー:あ……アニ、キ……
ジャック:……そう、だな
ジャック:まだ…ここで終わりたくはない
ジャック:じゃあ、僕からのプレゼントを
ジャック:親愛なるダルケスへ
0:ジャックはスーツ中から丸い玉のような「物」を目の前へ投げる
ダルケス:!? 爆弾…!?
ジャック:マジックさ
トレイア:っ!
0:辺り一帯は、大きな炎に包まれる
バレット:くそっ!
ジャック:ジャック&リッパーは、そう易々と死なないさ
ジャック:そうだろ? 弟?
リッパー:…ハハ、流石アニキ
リッパー:…殺し狩り
リッパー:また、ヤろうぜ
バレット:っ!
0:ジャックたちは噴煙の中に消えていく
ダルケス:地下通路へ逃げるわよ!
0:
0:地下道
ダルケス:はぁ、燃えちゃったじゃないの
バレット:改装には、一苦労だな
ダルケス:そうね
ダルケス:…ただジャックの言い残した言葉が気になるけど
ダルケス:っ、痛っ
ダルケス:情けないわね、私も
トレイア:…機械だったら、良かったのに
ダルケス:言われてみれば。痛みも感じずにすむかしら
バレット:改造はごめんだよ
トレイア:でも
トレイア:痛みを感じない方が、楽なのかもね
トレイア:そのほうが、やりやすい
バレット:…? っ!!
0:バレットは後ろを振り向く
0:トレイアがダルケスの首に刃物をつきたて、もう片方の手で銃を持ち、バレットに向けていた
0:バレットもすかさず銃を抜く
バレット:ダルケス!
ダルケス:ぐ……っ
ダルケス:油断……したわ
トレイア:動いたらその首、斬るよ
バレット:…あんた
トレイア:…ここで死んでくれよ、殺し狩り
バレット:…殺しの目、してるね
バレット:…全く殺気を感じなかった
バレット:一体、どういうことだい?
トレイア:…母さんは
トレイア:お前に狩られたってことだよ
バレット:っ。まさか…2週間前の…あの女の殺し屋…?
バレット:…そういうことかい
バレット:…そんな話、あるんだね、実際
トレイア:お前は殺し屋を狩って、依頼主は邪魔者が潰せて、お互いに得をしてる
トレイア:でも、それで終わらせるわけにはいかない
トレイア:だから僕はまず、依頼主を殺した
トレイア:ただ、依頼主は僕を消すつもりでジャック達を差し向けていたから、彼らも排除する必要があった
トレイア:…事前に、「サンクス」のことも調べていたさ
ダルケス:用意…周到ね
トレイア:だから店に入って、ジャック達を狩ってもらい、最後に僕がお前を殺す、そういう算段だった…少しくるったけど
トレイア:目的が果たせればどうでもいい
バレット:…どうすんだよ?
トレイア:カサドラなんて、腐った街だ
トレイア:全員、クソッタレだ
トレイア:機械のほうが、よっぽどましだよ
トレイア:こんな……醜い気持ち、覚えなくていいんだからさ
トレイア:…だから
トレイア:…引く…引いてやるっ!
トレイア:母さんの……仇を!
バレット:…引けよ
バレット:…殺されるぜ?
トレイア:…っ…あ…
0:トレイアの手が、震える
トレイア:……なんで。……なんでだ、ちくしょう
トレイア:…指に、力が…入らない
トレイア:なんで、お前なんかに
トレイア:お前なんかに……重ねているんだ、僕は
トレイア:…母さんは、僕を見下してた
トレイア:…ぶっきらぼうなその目で、僕を見て。殺しの出来ないガキだって
トレイア:でも、そんな母さんも、僕は好きだった
トレイア:だから、殺した奴は、必ず僕が殺すって決めてた
トレイア:…なのに…なのに!
トレイア:何で、お前さ…
トレイア:こんなに、母さんに似てるんだよ
バレット:…
ダルケス:…トレイア…ちゃん
トレイア:…僕も、サイボーグだったら良かった
トレイア:簡単に……引き金を引けるから
トレイア:そしたら、こんな心の痛みも、苦しみも
トレイア:何も感じなくて、すんだのかもしれない
バレット:…サイボーグがどういう存在かなんて、知らないけど
バレット:人間らしくて、魅力的だよ、あんた
トレイア:…っ!
トレイア:…ぁぁぁああああっ!
0:両者は銃を引いた
トレイア:…が……あ
ダルケス:…っ
0:トレイアはゆっくりと倒れる
バレット:…でも
バレット:銃の扱いは、半人前だね
トレイア:…くそ…ちく…しょう
トレイア:…お前に
トレイア:会わなきゃ……良かった
バレット:あたしも、嫌いだったよ
バレット:その生意気なところ
トレイア:…僕も、お前なんか…嫌いだ
0:トレイアはそう言って、息を引き取った
バレット:あばよ、マセガキ
0:数日後、カフェ「サンクス」にて
バレット:…
ダルケス:今日は、何にするかしら?
バレット:…コーヒーで
ダルケス:…本気?
バレット:いいから
ダルケス:……オチは見えてそうだけど
ダルケス:はぁ、にしても、またこの店も整理しなきゃ
0:
ダルケス:とりあえず、はい
バレット:…にっが
ダルケス:背伸びしなくてもいいのに
ダルケス:それとも、発育のいいからだが欲しくなったかしら? こんな胸とか?
0:そういってダルケスが服を開いて、胸を見せる
バレット:胸をさらすな、胸を
ダルケス:バレットちゃんも、まぁ、平らではないし、伸びしろはあるわよ
バレット:うるせえ、撃つぞ
バレット:……
バレット:こういうのは、引きずったら負けだろ
バレット:殺し屋を狩ってるんだ
バレット:苦いもの飲み込んで流さなきゃ、やられちまうよ
ダルケス:敵を欺(あざむ)く時はまず味方から
ダルケス:あの子も素質はあったわね
バレット:甘いさ、全然
バレット:甘かったよ
ダルケス:…
ダルケス:はぁ、隠れ家もしばらく入れずかぁ
バレット:あの後、どうなったんだよ
ダルケス:治安部隊に、隠れ家も通路も入られた
ダルケス:ただ、知り合いがいるもので
ダルケス:私の店までは立ち入らないようにしてもらったわ
バレット:顔が広いやつ
バレット:間違えてトラップかけちまうなよ? 罠師のダルケスさん
ダルケス:ふふ。私、味方には罠じゃなくて、蜜をあげちゃうほうなのよ
ダルケス:特にクールなイケメンとかねぇ…ふふ
バレット:蜜以上に違うものが混ざってる気がするけどな…
バレット:サイボーグなら、そういうイケメン、いるんじゃないの?
ダルケス:でもそれは、顔を見ないと
ダルケス:性格だけで人は判断できないわ
バレット:顔だけの間違いじゃないのかよ
ダルケス:見た目が9割っていうからねぇ
バレット:サイボーグの見た目は、ほぼ9割機械だろ
ダルケス:どうなのかしらねぇ
バレット:まぁ、確かに。どうなんだろうなぁ。見たことないしな。サイボーグにしろ、アンドロイドにしろ…
ダルケス:まぁ、どっちでもいいわ
バレット:じゃあ、いつぞやの殺し屋は?
ダルケス:あれはイカれてたもの
ダルケス:ベッドの上でも、キルオーラむんむんだったから
バレット:分かったのかよ?
ダルケス:香水というか、匂いというか
ダルケス:まぁそこは、彼も同じだと思うけど
バレット:でも、取り逃がしたのはミスったな…
ダルケス:もう少しだったのにね
バレット:変な技は使うし、うるさいし…
バレット:次会った時は、更に狂暴になってそう
ダルケス:あぁ、弟のほう
バレット:どうにも変な奴にモテるのかね、あたしは
ダルケス:バレットちゃんには、それこそクールなサイボーグキャラが彼氏さんだとお似合いよね
バレット:何の話してんだよ
ダルケス:殺し狩りにも、色恋沙汰はあったほうがいいと思って
バレット:いらねーから、そのクールキャラはお前の好みだろ
ダルケス:真面目でいい子が好きだけなのよ。バレットちゃんとかね
バレット:あっそ
バレット:……なんかしらけちまった
バレット:やっぱ、りんごジュースで
ダルケス:はいはい
ダルケス:今日も甘い朝のようで
0:
0:
0:
バレット:狩りの銃弾は放たれる
ダルケス:罠は密かに、愛を誘う
ジャック:冥(みょう)は魅惑を追い詰めて
リッパー:黒(くろ)は快楽を抉(えぐ)りとる
トレイア:やがて心の隠者(いんじゃ)は、命を奪われた
0:
バレット:朝日は清らかに顔を見せ
バレット:キルズハントは、今日もどこかで狩っている
バレット:朝日は清らかに顔を見せ
バレット:キルズハントは、今日もどこかで狩っている
0:
バレット:逃がしはしねえよ
0:1人の殺し屋を狙い撃つバレット
バレット:そこまでだよ、殺し屋さん。聴けば、つい最近も手にかけたらしいじゃないか
0:相手は苦渋の表情を浮かべ、すぐさま拳銃を構える
バレット:遅いよ
0:銃声が響き、ゆっくりと殺し屋は倒れた
バレット:……女にしちゃ、良い動きだったよ
0:
0:
0:2週間後
0:カフェ「サンクス」で楽しそうにコーヒーを淹れているダルケス
ダルケス:ふんふんふふん
ダルケス:ふんふんふふん
ダルケス:最後にひょいっと
ダルケス:…あ、しまった
ダルケス:…まぁ、これもありかしらね
バレット:何やってんの?
ダルケス:いらっしゃいの一言も言わせてくれないのね?
バレット:よう、って挨拶したろ
ダルケス:聞こえなかったわ
バレット:聞こえなかったんじゃなくて、聞かなかったんだろ
バレット:何そんなしかめた顔してんのさ
ダルケス:これ
バレット:?
ダルケス:? って…分からない?
ダルケス:コーヒーアートよ
バレット:それは分かるけど
ダルケス:じゃ、これ分かる?
0:ダルケスはそう言って、バレットに覗かせた
バレット:カエル?
ダルケス:猫よ
バレット:嘘だろ?
ダルケス:ひっどい反応!
バレット:元師匠とは思えないくらいの腕前
ダルケス:そう、殺しとアートは別世界
ダルケス:奥が深いわね、こういうの…面白いわ
ダルケス:それで、最近どう?
バレット:さらりとごまかすし…
バレット:…二週間前に、1人狩った
バレット:そんなに棘のある腕じゃなかったけど
ダルケス:下っ端(ぱ)じゃ、大元(おおもと)の連中は分からなそうね
ダルケス:根っこの浅い草で残念
ダルケス:報酬は?
バレット:今日、金ができるって聞いたから。これから向かおうかと
ダルケス:そう
バレット:…あんたが無理に協力する事ないんだぜ?
バレット:カサドラで、殺し屋を狩るって決めたのは、あたし自身だし
ダルケス:その決意を現実にするためにお手伝いしたのは、誰かしらねぇ?
バレット:それは感謝してるよ
バレット:でも、そこまで突っ込むことじゃない
バレット:足、洗ったんだろ?
ダルケス:…え、バレットちゃん、足フェチなの?
ダルケス:いやぁねぇもう~!急に性癖さらしちゃってぇ!
バレット:殺し狩りに向かってよく言えるね、その冗談
ダルケス:どんな冗談でも受け止めなさいって教えなかったかしら?
バレット:全く、これっぽっちも教わってねえから
ダルケス:そうだったかしらね
ダルケス:…色々、飽きちゃったのよ、私は
ダルケス:金と、男と、ベッドと、銃
ダルケス:毎日見てたら、退屈だわ
バレット:それで、経営に目覚めたと
ダルケス:自分から動かなくて楽じゃない
ダルケス:待ってるだけで人が来るんだもの
バレット:それ、あんたのお得意技じゃねえか。罠師のダルケス
ダルケス:さらっと異名出さないでくれるかしら
バレット:一応、これでも元師匠を尊敬している、もと愛(まな)弟子のつもりなんで
ダルケス:もうー、そういうこというんだからぁ
ダルケス:…バレットちゃんはもう立派な狩り人よ
ダルケス:教えたての頃から、随分と成長したわ
ダルケス:だから、そろそろコーヒーくらい飲めてもいいんじゃない?
バレット:うっ…
バレット:それは苦手なんだって言ってるじゃん…
ダルケス:りんごジュースじゃ、私のコーヒースキルが上がらないのよ
バレット:悪かったな飲めなくて!
ダルケス:うふふ
ダルケス:その調子なら、カサドラの平和を夢見ても、良さそうね
バレット:ご期待ありがとう、元師匠
バレット:…ほんとは、政府のアンドロイドにでも来てもらえば、一番いいんだろうけど
ダルケス:はるばる東の彼方から? それはそれは長い旅になるわねぇ
ダルケス:確かにこの街も、政府の管理下にすっぽり収まればいいのだろうけど
ダルケス:それはそれで、この街も荒れそうな気がするわ
ダルケス:表が政府でも、裏の世界はそう簡単に潰れない
ダルケス:それがこのカサドラ
ダルケス:ここの治安部隊なんて眉唾(まゆつば)ものだし
バレット:どうにもならないから、あたしが狩る
バレット:カサドラを平穏の地にするためにな
ダルケス:今、絶妙に主人公してるわよ、バレットちゃん
ダルケス:はい、りんごジュース
バレット:……飲み物で台無しにしてくれないかね
ダルケス:あたしも嫌いじゃないけどねぇ、これ
バレット:嫌味かよ
ダルケス:その甘さも、あなたの魅力よ
バレット:はいはい…
0:すると、突然ドアベルがなる
トレイア:…っ!
ダルケス:いらっしゃ…
トレイア:か、匿(かく)まってくれ!
ダルケス:えっ?
バレット:なんだ、このガキ
トレイア:ガキじゃない、トレイアだ
バレット:あ?
トレイア:追われてる!
バレット:っ?
ダルケス:客人はおもてなししないとね
ダルケス:後ろへ隠れなさい、坊や
0:ダルケスがそう伝えると、トレイアはすぐさま、カウンターの後ろへ隠れた
0:それに続くかのように、店の入り口から、二人の男がやってくる
ジャック:…
リッパー:…シケた店だな
ダルケス:あなた、バーと勘違いしてない?
ジャック:申し訳ない
ジャック:彼はあまり、こういう場所は苦手なようで
バレット:苦手ならなんで来たんだよ
ジャック:なに。夜の時間に慣れすぎているから
ジャック:少しは陽の光を浴びてもらおうとね
リッパー:おいジャック。それはてめえもだろ
リッパー:最近も夜中に、はべらせたばっかだろうに
ジャック:そうだったか?
リッパー:楽しそうに息はいてたじゃねえか
リッパー:腕がアンドロイドみてぇに綺麗だったとか
ジャック:あぁ。それか
ジャック:綺麗な体は格別さ
ダルケス:……
ジャック:そんな体つきの良さを思い出していたら、おっと目の前に
ジャック:浸りたい過去の思い出が
ダルケス:スリル満点な夜だったかしらね
ダルケス:残念ながら、ゆったりした夜伽(よとぎ)が好みなのよ、私
リッパー:お前、こいつと交わしてんのかよ
ジャック:いや。寸前で断られたさ
リッパー:ハメまわしには最適な体つきなのに、もったいねえ
ジャック:残念ながら
ジャック:互いの化けの皮が、はがれてしまってね
バレット:ダルケス、知り合いか?
ダルケス:昔の男
ダルケス:騙しあいの夜を過ごしたマトでもあるけど
リッパー:あーあー、魅惑の再会を邪魔しちまったな
リッパー:ごめんなぁ、アニキ
ジャック:謝る気がないくせに
ジャック:楽しそうだぞ、リッパー
リッパー:はっははは!!
リッパー:そりゃそうだ。…見た目で分かるぜ、そこの赤髪
リッパー:…お前、殺し狩りのバレットだろ
バレット:夜遊びしたいってこと? そりゃどうも
バレット:でも興味ねえからあたしは
リッパー:肝も良い感じですわってらぁ(舌なめずりをする)
バレット:何処の勢力だ、あんたら
バレット:あんまりこの辺じゃ見ない顔だね
リッパー:…酒はねえのかよ、ここ
ダルケス:ちょっと、看板みてるかしら?
リッパー:俺たちのシマなら、もう少し酔える店が多いもんだぜ
バレット:気に入らなくて残念。それなら、そのまま回れ右しちまったら?
ジャック:仕事をしにきたんだ
ダルケス:何の?
リッパー:子供、見かけなかったか?
トレイア:っ!
バレット:…さぁ、どうだろうね
ダルケス:知ってたらどうするの?
ジャック:おやおや
ジャック:いつかの夜を思い出すな、ダルケス
ジャック:君のその言いよう、変な匂いがする
ジャック:夜遊びが下手になったかな?
0:ジャックはゆっくりと手をポケットに伸ばそうとする
ダルケス:動かないで
リッパー:お互い様だろ
バレット:…っ!
0:4人、一斉に構え始める
ジャック:…
ダルケス:撃つなら弁償してよ、もう
リッパー:負けたばっかだっていってんだろ、金なんかねえよ
バレット:その前に狩らせてもらうぜ
ジャック:一勝負の前に、ダルケスの珈琲でも味わいたかったが
ダルケス:嬉しいじゃないのよぉ
バレット:そんなもん飲んでたら集中できないよ
ダルケス:そんなもんって…ちょっと酷くなぁい、それ
リッパー:興味ねえな
ダルケス:だから、あなたは来るところ間違えてるのよ
ジャック:これからお酒でも出したらどうだ?
ダルケス:まぁ……売れ行きが悪くなったら考えなくはないけど、来ないでよ? あなたたち、危ないから
バレット:同感
ジャック:手厳しい
リッパー:…あ
リッパー:やべぇ
リッパー:この感じ、これよな、これ
バレット:こんな時に興奮かよ
ダルケス:1人でやってきたら?
リッパー:目の前に居るのに、1人でやるわけねぇだろうが
ジャック:今日はいつにもまして荒いな、リッパー
リッパー:いや、これが湧いてきちまった
リッパー:もう撃っていいだろ、な? アニキ
リッパー:止めらんねぇ
ダルケス:お盛んだことで
ダルケス:あまりそういうので、店を汚してほしくないんだけどねぇ
リッパー:俺はとっとと汚したくて仕方がねぇ
ジャック:なら、お前の好きなギャンブルで決めよう
0:ジャックは拳銃を構えながらゆっくりとコインを出す
ジャック:どっちにする?
リッパー:今の気分は
リッパー:表だ
ジャック:分かった
ダルケス:それ、冗談?
ジャック:さぁ、どっちだろうね
バレット:……裏が出ることを祈りたいね
ジャック:神(かみ)の帝(みかど)にでも祈るかい?殺し狩り
バレット:昔の偉人は信じないタチでね
ジャック:それは……
0:ジャックはコインをはじいた
ジャック:…残念だ
0:バレットは一瞬、コインを見やった
0:しかし、すぐに目を戻すと
バレット:っ!
0:ジャックとリッパーは、引き金に指をかけていた
0:銃声が一気に鳴り響く
リッパー:ヒャッハハハハハハハ!!
ダルケス:もう! 結果が出てから撃ちなさいよ!
ジャック:残念、これはギャンブルじゃなくて、殺しだ
バレット:カフェは殺しをする場じゃないっての!
リッパー:知らねえな!
0:リッパーは隙を見て、すかさずバレットに近づく
バレット:っ……早い!
リッパー:こちとらくだらねえ負け金(がね)使っちまったばっかりなんだ
リッパー:だから代わりにてめえの股で満たしてくれや、殺し狩りィ!!
0:リッパーはすかさずナイフを取り出す
バレット:くっ!
リッパー:おらよォッ!!
バレット:乱射野郎かと思ったら、器用にナイフを回しやがる……
バレット:何人殺(と)ってきたんだか
リッパー:少なくとも、女に飽きねぇくらいはな!
0:ジャックはカウンターに向かって拳銃を撃ちこむ
ジャック:さてと。仕事仕事
トレイア:っ!…あ!
0:トレイアはふと、カウンターから顔を出してしまう
ジャック:おっと、発見
バレット:マセガキ!顔を出すな!
トレイア:うるさいっ!…っ。ひぃ!
ジャック:外れたか
ジャック:オーケーオーケー、気楽にいこう
ジャック:次は君に、銃弾をちゃんとプレゼントしなくちゃ
ダルケス:なら、代わりにあげるわ
ダルケス:私からのプレゼント
ジャック:君からは、より欲しいものがあるんだけどな
ジャック:例えば、キスとか
ジャック:その、体とか
ダルケス:あらそう、プレゼントの中身、間違えたかしらね!
0:ダルケスはそう言って撃ち返す
トレイア:ダルケス…ど、どうするのさ
ダルケス:隙を見て、裏口から逃げるしかないわ
ダルケス:…バレットちゃん!
バレット:分かってる!
ジャック:ふむ、なら先に殺し狩りを殺(と)るか
0:ジャックが標的をバレットに向けた
リッパー:おい!ジャック!俺の女だぜ!
ジャック:マトを潰すより、こっちのほうが厄介だ
リッパー:…オイオイ。2対1なら、殺(と)ったようなもんだろ
リッパー:あーあ、興(きょう)ざめだ
バレット:2対1…か
バレット:だったら、こっちも2つ
0:バレットはとっさにワンピースの中から拳銃を取り出す
リッパー:…まさか
リッパー:2匹狩るってか?
バレット:あたしなら、あんたら二人まとめて、狩れる
リッパー:はは……おもしれえ! せいぜいあがいてみろや!
リッパー:鉛だらけにして、ハメまわしてやんよ!!
ジャック:お疲れさま、ハンターさん
トレイア:っ!
ダルケス:こら、出ちゃだめよ
トレイア:あれじゃ、殺されて…
ダルケス:殺されないのがあの子なのよ
トレイア:…っ!
0:リッパーとジャックは、バレットに銃口を構える
バレット:……
ジャック:…?
リッパー:なんだ…この感覚?
バレット:…踊(おど)り狂(くる)え
バレット:「マカブリットダンサー」
0:バレットは目の色を変え、二人にめがけて撃ち放った
ジャック:っ! リッパー!
リッパー:チィッ!!
0:
トレイア:…すごい
ダルケス:それは、私の弟子だもの
ダルケス:ただ、……改装費どれだけかかることやら
ダルケス:バレットちゃ~ん! そろそろずらかるわよ!
バレット:ああ!
ジャック:逃がすか…!
ダルケス:残念ながら、最後にトラップを1つ、ぽちっとな
リッパー:!?
リッパー:派手にしびれるなァこいつは
ジャック:電気が流れる……ピアノ線? 変わった芸当だ
ダルケス:かかっちゃってもいいのよ? そういうのがお好みなら
バレット:とっとと逃げるぞ!
ジャック:……引こう
リッパー:なんだよ、つまんね
リッパー:こっからがメインディッシュなのによ
ジャック:もう少しお腹を空かせておけ
ジャック:どちらにしよ、仕留めるのだから
0:
0:
バレット:…撒(ま)いたか?
ダルケス:そりゃ、ビリビリ仕掛けたからね
バレット:事前に言っておいてくれよ、あんな罠があるなんて
バレット:あやまってかかっちまったら、どうするんだい?
ダルケス:欺(あざむ)く時はまず味方からよ、うふふ
ダルケス:それに、バレットちゃんなら私の罠くらい、ちょちょいのちょいでかわせるでしょ
バレット:買い被りすぎだぜ
トレイア:…
バレット:とっとと逃げな
バレット:用心棒じゃないんだ、あたしは
トレイア:なら、金を払う
バレット:あ?
トレイア:僕を守れ
トレイア:それで、あいつらを殺してくれよ
トレイア:あんたら強そうだし
バレット:ほう、いい態度してんじゃないのさ
トレイア:いや、雇ったほうが偉(えら)いから
ダルケス:あらぁー。ずいぶん腰の据わった坊やね
バレット:ざけんなマセガキ
バレット:あたしを昔のナイトとでも勘違いしてんのかい?
バレット:そんなヒーローみたいな連中、幻想だよ
ダルケス:バレットちゃんの子供嫌い、相変わらずね
バレット:うるさい
トレイア:ぶっ…。あんたみたいな野蛮な人が、昔のナイト? それ、ウケ狙ってる? 笑えないんだけど
バレット:んだと……!
ダルケス:毒舌は一人前ねぇ坊や。嫌いじゃないわ
ダルケス:…狩りの依頼じゃないけど、とりあえずこの子の用心棒として受けたら? バレットちゃん
ダルケス:さっきの二人の殺し屋も、放っておいたら大きくなりそうだし
バレット:…で
バレット:なんで追われてたんだよ?
トレイア:さぁ? 知らないよ、そんなこと
トレイア:この街じゃ、誰だって狙われる危険性はある
トレイア:それに選ばれただけじゃない?
バレット:お前、カタギ?
トレイア:ごく一般人だよ
バレット:全然信用できねえんだけど、それ
トレイア:……ま、それもそうか
トレイア:流石に何も言わないのもあれだし
トレイア:せっかくだから、その男勝りなところに敬意を評して言ってあげるよ
バレット:このマセガキ……!
トレイア:……母が殺された
バレット:……
トレイア:おそらく、あの二人組
トレイア:母さんは、ヤクの取引にかかわってたから
トレイア:依頼主は、母さんが横流ししてたのを知って、マトに選ばれ、あいつらに殺された
トレイア:でも、息子の僕も、ヤクの情報知ってると思って、狙ってきてるんだと思う
ダルケス:…トレイアちゃんは、関わってないと?
トレイア:母さんがヤクに関わってたなんて話、最近聞いたばかりだから
バレット:それで
トレイア:?
バレット:あたしは、何をすればいいのさ
ダルケス:やる気ねぇ
バレット:ただ。こっちにもキッチリした対価がないとな
トレイア:対価? 体とか? 死んでもごめんだね、あんたとは
バレット:……口を開けばイラつくことばっかり……
バレット:ほら、とっととだせ、マセガキ
トレイア:はい
バレット:……
トレイア:どうしたの?
バレット:……舐めてんの、あんた?
トレイア:コイン一枚に価値がないと?
バレット:ああ……こいつ本気で撃っていい?!
ダルケス:落ち着きなさいって
バレット:ダルケス!いくら何でも冷静すぎたっての!
ダルケス:でもほら、バレットちゃんはキルのほうじゃなくて
ダルケス:キルズ達をハントするほうだからさ
バレット:だからなんだよ!!!
バレット:「殺し屋」じゃなくて「殺し狩り」はタダでやれってか!?
ダルケス:まぁまぁ。それに、さっきも言ったけど。あの二人をここで仕留めれば、後々ラクになるかも。私は受けてもいいと思うけどねぇ
バレット:……
トレイア:…だめ?
バレット:……っ。はぁ
バレット:分かった。やるよ。やればいいんだろ
トレイア:よし
バレット:ガキ、お前ちょっと笑ったろ
トレイア:被害妄想じゃない?
バレット:殺す!!
ダルケス:うふふ、にぎやかねぇホント
バレット:悪い意味でな!
0:
0:
0:カフェ「サンクス」
0:カウンターの木材に無数の穴があき、窓も割れ、粉々にグラスがあちこちへと飛散している
ジャック:損ねてしまったね
リッパー:これからが山場だってのに
ジャック:勝手に君が撃つからだろう
ジャック:どっちだったか分からない
リッパー:嘘つけ。心の中でヨダレたらすなよ、ジャック
リッパー:…お。
リッパー:表だぜ
0:リッパーは落ちていたコインを拾った
ジャック:景品は逃げてしまったがね
リッパー:どこ行きやがったんだか
ジャック:心当たりはある
リッパー:なんだよ。夜遊び相手の行き先は、手に取るようにわかるってか?
ジャック:直接交わさなくても、ある程度、人の考えは分かってしまうもの
ジャック:その人のクセ、思考、殺し方
リッパー:だりぃ
リッパー:とっとと見つけて殺しちまったほうが早い
リッパー:つまらなすぎで同業者に殺(と)られちまいそうだ
ジャック:マイペースも悪くないものだよ、リッパー
リッパー:虫唾が走るぜ
リッパー:口より手を出す
リッパー:ピロートークより先にハメる
リッパー:価値観の違いは尊重しようぜ、アニキ
ジャック:昔からそうだ、お前は
ジャック:俺が玩具の人形を綺麗に切り取っている隣で、お前はすぐに壊してしまう
ジャック:獲物を追い詰めるほうが最もラクで、最も快楽を得られるというのに
リッパー:前座はいらねえ
リッパー:早めに裂いちまったほうが美味いだろ
ジャック:匂いから楽しむのも一興(いっきょう)ではあると思うけどね
リッパー:ケッ。…それにしても、あの殺し狩り
リッパー:…強いなぁ、はは
リッパー:一回だけじゃ物足りねぇ快感だ、ありゃ
リッパー:あいつの股、しっぽりハメた後に裂いてみてぇな
ジャック:強者は常に犯し、弱者は犯される
ジャック:欲にまみれた強者が、ここでは生き残る
ジャック:カサドラの殺し屋は、魔物のようなものさ
リッパー:金と、暴力と、女と、あー、なんだ
ジャック:音楽
リッパー:アンドロイドは?
ジャック:この街にはまだ「無い」
ジャック:…無いといえば、連絡も
リッパー:詰め込みすぎて死んだか?
ジャック:誰かに殺(と)られていてもおかしくない…か
ジャック:一旦、戻るとしよう
0:
0:
リッパー:はっ。言った傍から
リッパー:見てみろよ
リッパー:いい顔して死んでるじゃねえか
ジャック:…今日は冴えているかもしれない
ジャック:リッパー。今日はお前と賭け事をしても、勝てそうだ
リッパー:それは賭博場(とばくじょう)で言うんだな
リッパー:一度も俺に勝ったことねぇくせによ
リッパー:にしても、…依頼主もご愁傷様だぜ、こいつは
ジャック:酷い顔をしている
ジャック:生前は優しさにあふれた顔をしていたのに
ジャック:恨みつらみも、ここまで来ると圧巻だ
リッパー:俺たちが変なものでも、ひきつれちまったか?
ジャック:面白いね、リッパー
ジャック:ナイトの幽霊に刺されたと
ジャック:まるでおとぎ話ようで、ロマンがある、それは
リッパー:ただ残念ながら、やったのは生きてる人間だし、刃物じゃねえ
リッパー:足跡がかすかに残ってる。リアルって怖いよなァ
ジャック:…この様子だと今日の出来事、かな。俺たちと入れ違いか、はたまた狙っていたか
リッパー:アンドロイドが来ちまったか?
リッパー:それとも噂のサイボーグか
ジャック:前者だと良かったのに
ジャック:完璧なほうが好きだ
ジャック:会って、その四肢を……
リッパー:穴に挿(い)れたほうが、楽しそうだけどな
リッパー:人間と違って、100%鉄のカタマリ女ってのはどんな感触やら、はは
リッパー:…んで、カマしたあとは……外に出て
ジャック:…この方角へ、と
ジャック:…はは
ジャック:なるほど、なるほど
ジャック:命を運ぶと書いて運命
ジャック:基本的に人間は、人間をうらみ続ける、ということか
リッパー:…だから、まとめて殺しちまったほうが早いってのに
リッパー:ゴタゴタした絡みは好きじゃねえんだよ
リッパー:ギャンブルだってそうだ
リッパー:一発ハジいて、儲けたほうが快感
リッパー:ちまちま頭使うより、ガッポリ得(え)ちまったほうが好きだ
リッパー:それが金にしろ、女の穴にしてもな
ジャック:お前とは一緒に、女をモノには出来なさそうだ
ジャック:…依頼人は死んだが、殺し狩りは後々脅威となる。ここからはボランティアだ
リッパー:ボランティア精神で殺すってな、はは!
ジャック:…さて、ぼちぼち行こうか
ジャック:神(かみ)の帝(みかど)は、俺達の命を運んでくれるやら
リッパー:ジャックも変わってるよな
リッパー:カサドラじゃその神(かみ)の帝(みかど)は、汚物(おぶつ)のシンボルなのによ
ジャック:なに
ジャック:言葉の響きが好きなだけさ
0:
0:
トレイア:ねぇ、まだ行くの?
バレット:追われてる奴が言うセリフじゃねえんだけど、それ
トレイア:どうせあんたら、強いし
トレイア:勝てるでしょ
バレット:今見捨てちまってもいいんだぜ、マセガキ?
ダルケス:トレイアちゃん、勿体ないわね
ダルケス:バレットちゃんに対して…。怖いもの知らずというか
ダルケス:控えめに言って殺し、向いてるわよ
トレイア:……向いてないよ
トレイア:母だって、そう思ってただろうし
トレイア:トレイアに殺し屋は向かないって
トレイア:そんな扱いだよ、僕なんて
バレット:あー辛気臭い
バレット:そういう話がしたいならよそでやれ
トレイア:…
ダルケス:バレットちゃん
ダルケス:殺し屋の息子でも、一般人なのよ
バレット:はぁ。…つか、ここからどうする?
バレット:このままじゃ確実に狙われるぜ、あたしたち
ダルケス:やれやれ
ダルケス:いい場所があるわ
バレット:なんだよ?
ダルケス:とっておきの隠れ家
ダルケス:ただ、すこーし道がそれるけど
0:
トレイア:く、くらい……
ダルケス:それもそうよ。使われてない地下通路だったわけだし
バレット:こんな抜け道があるとはね
ダルケス:秘密基地ってわくわくするじゃない?
ダルケス:私も小さいころは茂みにわざと秘密基地つくったりで
バレット:んなことしてたらやられるぞ
ダルケス:その頃から、罠のセンスあったみたい、私
バレット:…あー。返り討ちってか
トレイア:小さいころから、住んでるの?
ダルケス:生まれ故郷だし
トレイア:殺しの街が故郷って、外の人たちから見たらどう思うんだろうね
バレット:それなら出ていけばいいじゃねえか
バレット:狙われなくて済む
トレイア:…東の都市まで、すごい距離あるし
トレイア:途中の集落や村だって、僕を受け入れてくれるか分からない
トレイア:あとは廃墟とか砂漠とか、そんなのばっかだし
トレイア:それに、殺し屋の母を、置いていきたくなかった
バレット:…
ダルケス:政府が中心になってる東の都市、噂には聞くけど、ここより随分と発達しているみたいね
バレット:アンドロイド、サイボーグ……耳にするくらいで、実際どんなのか見たことない
ダルケス:政府が介入すれば、カサドラは変わっちゃうでしょうね
トレイア:サイボーグ…か
トレイア:…機械になれば
トレイア:痛みなんて、持たなくてすむのかな
バレット:バーン
0:バレットが指でトレイアを撃つフリをした
トレイア:……っ?
バレット:……はぁ
バレット:ったく
バレット:イチイチ振り返ってんじゃねえよ、バーカ
トレイア:っ
バレット:今を見ろよ、今を
バレット:あんたは今、生きてるだろ
トレイア:…何の話?
バレット:あたしも、殺されたのさ
バレット:…母親
トレイア:…え?
バレット:強くなれって、言われてた
バレット:この街で生まれたからには
バレット:強くなれって
バレット:そんだけ
トレイア:……
トレイア:……そう、なんだ
ダルケス:カサドラにとどまるのよね、バレットちゃんは
バレット:別に、嫌いじゃないし
バレット:意外と、景色良かったり、街並みも嫌いじゃない
バレット:それに、あんたみたいなくだらねえマセガキもいる
トレイア:…ぶっ。慰めてるつもり、それ?
バレット:なっ…! せっかくあたしの言葉を!
ダルケス:バレットちゃん、そういうところ可愛いわよねえ
ダルケス:今度りんごジュース、タダにしてあげるわ
トレイア:りんごジュース?
ダルケス:好きなのよ、甘いもの
バレット:ダルケス!あんたなぁ!
トレイア:ぶっ、はは!
バレット:ほら、予想通りの反応
トレイア:…っ…!
トレイア:いや、別に
トレイア:面白いとか、思ってないし
ダルケス:顔が笑ってるわよ、トレイアちゃん
トレイア:笑ってない
トレイア:笑って、ないから
ダルケス:…
ダルケス:さ、そろそろつくわよ
0:地下通路を出ると、ひっそりとした館へたどり着いた
バレット:へぇ
バレット:使われいてない館、か
バレット:家主(やぬし)は?
ダルケス:そりゃ私よ
バレット:買い取ってんのかここ?!
ダルケス:報酬という名の、貯まった退職金でね
ダルケス:本当はカフェ経営のお金で買いたかったんだけどねぇ
バレット:どっちでもいいだろ
ダルケス:後者の方がオーナーっぽいじゃない
ダルケス:私の夢だったんだけどねぇ、そういう金で買い取るって
ダルケス:現実は厳しいわ
トレイア:ここに隠れるの?
ダルケス:今は、カフェに戻るよりはマシよ
トレイア:でもここ、誰にも入られてない?
トレイア:一回もここに住み込んだことない、なんてわけじゃないでしょ?
ダルケス:知ってても入れないわけがあるのよ、ここは
ダルケス:さ、行きましょ
0:
0:
バレット:うわ、きったな。掃除しろよ
ダルケス:文句いわないでよぉ、しばらくほったらかしだったんだから
トレイア:誰かに「使われた」可能性は?
ダルケス:答えはノー
ダルケス:傷跡がないもの
トレイア:傷跡?
ダルケス:あ、そこ危ないわよ
トレイア:えっ
ダルケス:踏んだらビリっと一発。ゲームオーバー
トレイア:っ!
バレット:そういうことかい
ダルケス:私にあとについてきて
ダルケス:少しでも乱れたら、死後の世界で冥王様とご対面よ、うふふ
バレット:敵じゃなくて良かったぜ…
ダルケス:誉め言葉、ありがとう
0:
ダルケス:この部屋なら、罠はないわ
バレット:綱渡りってこんな気分なんかね
ダルケス:修羅場を潜り抜けてきたレディが何を言うんだか
バレット:厳しい師匠は健在と
バレット:…まぁここなら、遠くから狙われることはないし
トレイア:殺し屋って、罠とか張ったりするんだね
トレイア:てっきり、撃ち合いの達人くらいに思ってた
ダルケス:撃ち合いだけが殺しじゃないわよ
ダルケス:物事って、一部だけ取り上げられやすいけど、もっと複雑
ダルケス:この館だって、人間だって、そう
ダルケス:コーヒーアートだって、複雑さが必要なんだから
バレット:ここじゃ出来ないけどな
ダルケス:それが残念ねぇ
バレット:トラップだらけのカフェなんて潰れちまうぜ
ダルケス:スリルあるカフェタイムをご提供するって宣伝したら、意外といけそうだったり?
バレット:しない
ダルケス:もう、辛辣(しんらつ)ねぇ!
トレイア:っ…足音!
バレット:…来たな
バレット:トレイア、隠れてろ
トレイア:……うん
ダルケス:さぁ、喋ってたらもう客人が
バレット:何の客だよ
ダルケス:トラップの体験客
ジャック:…いい匂いだ
リッパー:ああ、変な匂いだ
ジャック:気配がする
リッパー:居るってか?
ジャック:なに
ジャック:進めばわかるさ
ダルケス:進む前に落ちちゃうかもねぇ
ジャック:…ダルケス
リッパー:大当たり
リッパー:居場所まで分かっちまうのかよ、アニキ
ジャック:さぁ、どうだろうね
ジャック:運ばれただけさ
ダルケス:あら、恐ろしい
ダルケス:その洞察力、大したものよねぇ
ダルケス:心も裸にされているようで、あの夜は大変だったわ
リッパー:おい
リッパー:殺し狩りはどこだよ?
ダルケス:もちろんいるわよ
リッパー:とっとと会わせろ
リッパー:退屈してきた
ダルケス:なら、こちらへ来て見なさいな
リッパー:クソアマが!!
0:リッパーはライフルを構えて、ダルケスの方向へ撃つ
ダルケス:おっと
ダルケス:そんなに撃ってちゃ作動しちゃうわよ
ジャック:…?
ジャック:辺りに光…? いや、なんだ?
ダルケス:さてさて、電気の花火といこうかしら
ダルケス:「ライトニング・マイト」。なんちゃって
ジャック:っ!
ダルケス:……ってまぁ、名前つけても雰囲気だけなんだけどねぇ
ダルケス:きっと大昔はこんな魔法だったんでしょうって
リッパー:オイオイ…
ジャック:この広間一帯に、電気を放出するような仕掛け。それも大量に
リッパー:はっ! 電気攻め大好きってか!
ダルケス:他にもあるわよ?
ダルケス:ポチっとな
リッパー:!?
リッパー:なんだ、あれ?
ダルケス:壁が開いて、ジャジャジャジャーン♪
ダルケス:必殺。名付けて「マシンスター」
ダルケス:派手にガンガン、イっちゃうわよぉ!
0:壁から出た設置型ガトリング砲から弾が発射される
リッパー:馬鹿でけぇトラップだぜ、まったく
ジャック:リッパー
リッパー:なんだよ
ジャック:俺が「罠」を壊す
ジャック:彼女の事は、よく「わかる」
0:
ダルケス:!?
0:ジャックはダルケスをけん制射撃しながら、罠の位置を予測して銃弾を当てる
0:すると、当たった箇所に機械のようなものが次々と飛び出て、ガラクタのように崩れ落ちる
ダルケス:怖いわねぇ、男って
ジャック:楽しいオモチャが満載だね、ダルケス
リッパー:だが、しゃらくせえ攻撃も終いだ
ダルケス:っ! バレットちゃん!
バレット:分かってるつーのっ!!!
0:バレットが奥のほうから飛び出て、リッパーに対して足で攻撃する
リッパー:はは…なんだ…
リッパー:居るじゃねえかよ…殺し狩りィ!!!
0:リッパーもすかさず腕で防ぎ、蹴りを放つ
バレット:っと!
バレット:いちいちうるさいのよ、あんたは!
リッパー:(舌なめずり)…たまらねぇぜ
リッパー:こういう展開だよ、俺が欲しかったのは
ジャック:同感
ジャック:俺も、魅惑の過去に再会できた
ダルケス:まったく、嬉しくないわね
バレット:このまま仕留める……!
バレット:踊り狂え……! マカブリット……!
リッパー:二度もやらせねえよ
バレット:なっ?!
リッパー:黒(くろ)に裂かれろや
リッパー:黒魔 死錬突(こくま しれんとつ)!
バレット:がっ……あ
リッパー:…かすったか
バレット:…なんだよさっきの
バレット:ファンタジーじゃないっての本当に
リッパー:ハハハ! てめえも同類だろうよ、殺し狩り
ダルケス:バレットちゃん!
バレット:問題ねえ! 絶対に仕留めるさ
バレット:殺し狩りのバレットを舐めすぎだぜ、師匠
ダルケス:……
ジャック:よそ見なんて傷つくじゃないか、ダルケス
ジャック:淋しくなるだろ
ダルケス:だいじょうぶよ
ジャック:! 後ろ!?
0:後ろの壁から刃物をしばりつけたトラップが回転し、ジャックに迫る
ジャック:抱擁(ほうよう)にしては、少し厳しいかな
ダルケス:残念、貴方の首がちょんぎれてたのに
ジャック:君だけ責めるなんて不公平だ
ダルケス:…? 構え方が変わった?
ジャック:冥(みょう)へと朽(く)ちよ
ジャック:「冥禍 楼苑葬(めいか ろうえんそう)」
ダルケス:っ! …っ…あ…!
ダルケス:み、見えなかった……?
ダルケス:というか、さっきの……ほんとに銃撃、なの?
ジャック:いかがだったかい、殺しのマジックは?
ダルケス:…最悪ね……
ジャック:足は撃った……これで動けない
ジャック:……はは
ジャック:いいね、いい
ジャック:動けない物に対しての、この高揚感
ジャック:これだから殺しはやめられない
ダルケス:……でも、残念
ジャック:…?
ダルケス:足元、踏んでるわよ
ダルケス:最後は甘いのね
ジャック:っ!
ダルケス:「ショットゼロ」
ダルケス:床から散弾ばらまくってね
ジャック:……あ……っ
リッパー:アニキ!!
リッパー:くそ、くそっ…クソッタレ!
バレット:乱れたね
リッパー:っ!
バレット:命取りだよ、それ
0:バレットはリッパーの隙をつき、銃弾を放つ
リッパー:がっ……あ
リッパー:…っ
バレット:ここまでだよ
ジャック:っ…は…はは
ダルケス:まだ生きてるのね…しつこい人
ジャック:……しつこいのは、果たして、俺だけ…かな?
ダルケス:……? 何の話?
ジャック:まぁ…いいさ
ジャック:しかし…残念だ。もう少しで、手が届きそうだったのに
ダルケス:出会いから間違ってたわね、ごめんなさいな
リッパー:あ……アニ、キ……
ジャック:……そう、だな
ジャック:まだ…ここで終わりたくはない
ジャック:じゃあ、僕からのプレゼントを
ジャック:親愛なるダルケスへ
0:ジャックはスーツ中から丸い玉のような「物」を目の前へ投げる
ダルケス:!? 爆弾…!?
ジャック:マジックさ
トレイア:っ!
0:辺り一帯は、大きな炎に包まれる
バレット:くそっ!
ジャック:ジャック&リッパーは、そう易々と死なないさ
ジャック:そうだろ? 弟?
リッパー:…ハハ、流石アニキ
リッパー:…殺し狩り
リッパー:また、ヤろうぜ
バレット:っ!
0:ジャックたちは噴煙の中に消えていく
ダルケス:地下通路へ逃げるわよ!
0:
0:地下道
ダルケス:はぁ、燃えちゃったじゃないの
バレット:改装には、一苦労だな
ダルケス:そうね
ダルケス:…ただジャックの言い残した言葉が気になるけど
ダルケス:っ、痛っ
ダルケス:情けないわね、私も
トレイア:…機械だったら、良かったのに
ダルケス:言われてみれば。痛みも感じずにすむかしら
バレット:改造はごめんだよ
トレイア:でも
トレイア:痛みを感じない方が、楽なのかもね
トレイア:そのほうが、やりやすい
バレット:…? っ!!
0:バレットは後ろを振り向く
0:トレイアがダルケスの首に刃物をつきたて、もう片方の手で銃を持ち、バレットに向けていた
0:バレットもすかさず銃を抜く
バレット:ダルケス!
ダルケス:ぐ……っ
ダルケス:油断……したわ
トレイア:動いたらその首、斬るよ
バレット:…あんた
トレイア:…ここで死んでくれよ、殺し狩り
バレット:…殺しの目、してるね
バレット:…全く殺気を感じなかった
バレット:一体、どういうことだい?
トレイア:…母さんは
トレイア:お前に狩られたってことだよ
バレット:っ。まさか…2週間前の…あの女の殺し屋…?
バレット:…そういうことかい
バレット:…そんな話、あるんだね、実際
トレイア:お前は殺し屋を狩って、依頼主は邪魔者が潰せて、お互いに得をしてる
トレイア:でも、それで終わらせるわけにはいかない
トレイア:だから僕はまず、依頼主を殺した
トレイア:ただ、依頼主は僕を消すつもりでジャック達を差し向けていたから、彼らも排除する必要があった
トレイア:…事前に、「サンクス」のことも調べていたさ
ダルケス:用意…周到ね
トレイア:だから店に入って、ジャック達を狩ってもらい、最後に僕がお前を殺す、そういう算段だった…少しくるったけど
トレイア:目的が果たせればどうでもいい
バレット:…どうすんだよ?
トレイア:カサドラなんて、腐った街だ
トレイア:全員、クソッタレだ
トレイア:機械のほうが、よっぽどましだよ
トレイア:こんな……醜い気持ち、覚えなくていいんだからさ
トレイア:…だから
トレイア:…引く…引いてやるっ!
トレイア:母さんの……仇を!
バレット:…引けよ
バレット:…殺されるぜ?
トレイア:…っ…あ…
0:トレイアの手が、震える
トレイア:……なんで。……なんでだ、ちくしょう
トレイア:…指に、力が…入らない
トレイア:なんで、お前なんかに
トレイア:お前なんかに……重ねているんだ、僕は
トレイア:…母さんは、僕を見下してた
トレイア:…ぶっきらぼうなその目で、僕を見て。殺しの出来ないガキだって
トレイア:でも、そんな母さんも、僕は好きだった
トレイア:だから、殺した奴は、必ず僕が殺すって決めてた
トレイア:…なのに…なのに!
トレイア:何で、お前さ…
トレイア:こんなに、母さんに似てるんだよ
バレット:…
ダルケス:…トレイア…ちゃん
トレイア:…僕も、サイボーグだったら良かった
トレイア:簡単に……引き金を引けるから
トレイア:そしたら、こんな心の痛みも、苦しみも
トレイア:何も感じなくて、すんだのかもしれない
バレット:…サイボーグがどういう存在かなんて、知らないけど
バレット:人間らしくて、魅力的だよ、あんた
トレイア:…っ!
トレイア:…ぁぁぁああああっ!
0:両者は銃を引いた
トレイア:…が……あ
ダルケス:…っ
0:トレイアはゆっくりと倒れる
バレット:…でも
バレット:銃の扱いは、半人前だね
トレイア:…くそ…ちく…しょう
トレイア:…お前に
トレイア:会わなきゃ……良かった
バレット:あたしも、嫌いだったよ
バレット:その生意気なところ
トレイア:…僕も、お前なんか…嫌いだ
0:トレイアはそう言って、息を引き取った
バレット:あばよ、マセガキ
0:数日後、カフェ「サンクス」にて
バレット:…
ダルケス:今日は、何にするかしら?
バレット:…コーヒーで
ダルケス:…本気?
バレット:いいから
ダルケス:……オチは見えてそうだけど
ダルケス:はぁ、にしても、またこの店も整理しなきゃ
0:
ダルケス:とりあえず、はい
バレット:…にっが
ダルケス:背伸びしなくてもいいのに
ダルケス:それとも、発育のいいからだが欲しくなったかしら? こんな胸とか?
0:そういってダルケスが服を開いて、胸を見せる
バレット:胸をさらすな、胸を
ダルケス:バレットちゃんも、まぁ、平らではないし、伸びしろはあるわよ
バレット:うるせえ、撃つぞ
バレット:……
バレット:こういうのは、引きずったら負けだろ
バレット:殺し屋を狩ってるんだ
バレット:苦いもの飲み込んで流さなきゃ、やられちまうよ
ダルケス:敵を欺(あざむ)く時はまず味方から
ダルケス:あの子も素質はあったわね
バレット:甘いさ、全然
バレット:甘かったよ
ダルケス:…
ダルケス:はぁ、隠れ家もしばらく入れずかぁ
バレット:あの後、どうなったんだよ
ダルケス:治安部隊に、隠れ家も通路も入られた
ダルケス:ただ、知り合いがいるもので
ダルケス:私の店までは立ち入らないようにしてもらったわ
バレット:顔が広いやつ
バレット:間違えてトラップかけちまうなよ? 罠師のダルケスさん
ダルケス:ふふ。私、味方には罠じゃなくて、蜜をあげちゃうほうなのよ
ダルケス:特にクールなイケメンとかねぇ…ふふ
バレット:蜜以上に違うものが混ざってる気がするけどな…
バレット:サイボーグなら、そういうイケメン、いるんじゃないの?
ダルケス:でもそれは、顔を見ないと
ダルケス:性格だけで人は判断できないわ
バレット:顔だけの間違いじゃないのかよ
ダルケス:見た目が9割っていうからねぇ
バレット:サイボーグの見た目は、ほぼ9割機械だろ
ダルケス:どうなのかしらねぇ
バレット:まぁ、確かに。どうなんだろうなぁ。見たことないしな。サイボーグにしろ、アンドロイドにしろ…
ダルケス:まぁ、どっちでもいいわ
バレット:じゃあ、いつぞやの殺し屋は?
ダルケス:あれはイカれてたもの
ダルケス:ベッドの上でも、キルオーラむんむんだったから
バレット:分かったのかよ?
ダルケス:香水というか、匂いというか
ダルケス:まぁそこは、彼も同じだと思うけど
バレット:でも、取り逃がしたのはミスったな…
ダルケス:もう少しだったのにね
バレット:変な技は使うし、うるさいし…
バレット:次会った時は、更に狂暴になってそう
ダルケス:あぁ、弟のほう
バレット:どうにも変な奴にモテるのかね、あたしは
ダルケス:バレットちゃんには、それこそクールなサイボーグキャラが彼氏さんだとお似合いよね
バレット:何の話してんだよ
ダルケス:殺し狩りにも、色恋沙汰はあったほうがいいと思って
バレット:いらねーから、そのクールキャラはお前の好みだろ
ダルケス:真面目でいい子が好きだけなのよ。バレットちゃんとかね
バレット:あっそ
バレット:……なんかしらけちまった
バレット:やっぱ、りんごジュースで
ダルケス:はいはい
ダルケス:今日も甘い朝のようで
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バレット:狩りの銃弾は放たれる
ダルケス:罠は密かに、愛を誘う
ジャック:冥(みょう)は魅惑を追い詰めて
リッパー:黒(くろ)は快楽を抉(えぐ)りとる
トレイア:やがて心の隠者(いんじゃ)は、命を奪われた
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バレット:朝日は清らかに顔を見せ
バレット:キルズハントは、今日もどこかで狩っている