台本概要
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タイトル | 鳥と少女 |
---|---|
作者名 | 瑠璃花 (@called_makki) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ウッチェロ(鳥)と呼ばれた画家と、彼を愛した少女の悲話です。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
画家 | 男 | 42 | ウッチェロ(鳥)のあだ名を持つ。遠近法を得意とする。 |
少女 | 女 | 43 | セルヴァッジャ。家出少女。ウッチェロの家に居候をする。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:イタリアの街。噴水のある公園ちかくの道。
画家:知らないな。なんだって僕に付きまとうんだ?
少女:覚えていらっしゃらないんですね。
画家:......。
少女:助けてくださったじゃないですか!
画家:人を助けた覚えはないな。
少女:先週のことです。
画家:友人に余った画材を渡しに行った以外、出た覚えはないが。
少女:その日です!
画家:?
少女:行く前に、向こうの裏路地を通ったでしょう?
画家:ああ。
少女:そこでですよ。そこで! 門についていたガーゴイルの像が動いて、それが私に飛びかからんとしたとき、あなたが通りすがってくれたんじゃないですか! そして、あなたがガーゴイルを一睨みすると、それは帰っていって......。そしたら、像は元の通りに! 覚えていらっしゃらない?
画家:ふぅん。
少女:だから、ありがとうございます。
画家:おかしな娘だ......君、名前は?
少女:セルヴァッジャ。
画家:帰るところは?
少女:あるけど......。
画家:その顔は、帰りたくないんだな。まあいいだろう。来たかったらくればいいさ。
0:ふたりはアトリエに着いた。上着を脱いだりしつつ話す。
少女:ねー! なんて呼べばいい?
画家:ん? パオロ。
少女:でも、皆はあなたのことをウッチェロって呼んでるわよ?
画家:まあな。ウッチェロでもいいよ。
少女:ウッチェロ。鳥って意味よね?
画家:ああ。
少女:どうして? どうしてウッチェロなの?
画家:鳥を描くのが、好きだから。
少女:他には何を描くの?
画家:おいまてよ、あだ名だけ知ってて、その他には何にも知らずに声をかけたのか?
少女:えぇ。助けてくれた感謝を伝えに来ただけだし。
画家:そうか。まぁいいだろう。だが、うちに来たって、そんなに面倒を見てやれないぞ。俺一人でさえ、食うのに困っているんだ。
少女:そうなんだ。
画家:(M)話を聞くと、セルヴァッジャと名乗る少女は、母をなくし継母(けいぼ)と住んでいるそうだった。しかし、扱いがひどく逃げてきたそうだ。
0:ウッチェロのアトリエにて。
少女:ウッチェロ。
画家:どうした。
少女:ちゃんと食べてる?
画家:いや、形をとるのに忙しいから。
少女:駄目よ食べなきゃ。
画家:君の分はそこに置いてあったろう。
少女:ウッチェロの分は?
画家:買ってないだけさ
少女:......うそつき。
0:別日。
画家:(M)彼女は住み着いた。ここの何を気に入ってかは知らないが、掃除をしたり、近所の家の手伝いをして小遣いを貰ったりしているらしい。
少女:ウッチェロの描く絵はよく分からないわ。変な線ばっかり。
画家:......。
少女:ねぇ、私を描いてよ。
画家:ん? セルヴァッジャ、君を?
少女:自分では、そんなに変な顔はしていないと思うんだけど......。
画家:人間か。興味ないね。
少女:どうして?
画家:肖像画は、あまり面白くない。細分化した上で遠近法を用いて切り抜くのがいいんだ。
少女:だから最近は帽子ばっかり描いてるの?
画家:なんだってこの技法を使えば同じように抜き取れるんだ。な。見てくれ。面白くないか? この帽子の丸い形。
少女:そんなの......。寄木細工の職人にしか意味をなさないわ。
画家:それくらい精密なモデルを写し取れてるってことだろう?
少女:......。こっちの馬の絵だって、前足が両方同じように上がってちゃ歩けないじゃない。馬らしくない馬。
画家:けど馬だろう。
少女:私、変な噂も聞いたのよ?
画家:なんだい、風の噂か?
少女:そう。風の......。って、ウッチェロ分かっててやったの?
画家:四つの原素に応じた動物を描く依頼の話だろ。水には魚、炎にはサラマンダー、土にはモグラ。風に......。なんて聞いてきた?
少女:ラクダ。なんでラクダなのよ。
画家:ははっ、本来ならカメレオンだがね。キャメルとキャメレオン、なんか似てないか? こんなの俺にとっちゃ一緒さ。誰か偉い人がカメレオンは風を食べて生きる動物だって言ったんだろ。それくらい知ってるさ。
少女:変な人。
画家:変で結構。
少女:でも、ウッチェロ......。
画家:なんだ?
少女:どうしても私を描いてくれないの?
画家:肖像画はきらいなんだ。
少女:そう。けど、私を描けば他の肖像画の依頼だって来るはずよ。それに、肖像画だって、生きている人間の一部分を細分化して切り抜いたようなものでしょ? 違う?
画家:ははっ。確かにそれも一理あるか。その瞬間だもんな。......でも書かない。
少女:どうして?
画家:さあな。しらん。ん。ん? いや、君、改めて見ると面白い顔をしているな。
少女:え?
画家:君の顔を見せてくれ。
少女:まあ! やっと描く気になった?
画家:面白いな。丸くカーブのかかったマツ毛、乾燥した唇。顔の中でもこんなに分けられるなんて。これは描くに値する!
少女:(N)ウッチェロは肖像画を描かずに、顔のパーツを遠近法を用いたりして描いてみるのでした。次第に食べるものも底を尽きてきて、着る服にも困り果てていきました。そして、セルヴァッジャはある日、亡くなりました。
0:間。
少女:ウッチェロに、描いてほしかった。
画家:セルヴァッジャ? おい。起きろ。セルヴァッジャ。......。まさか。せ......。
少女:(N)死んだ少女を残して、アトリエから出ていきました。しばらくして、硬い少しのパンを買って戻ってきました。
画家:パ、パンだ。買ってきた。ほら。
少女:(N)口元に何度も押し付けますが、既に少女の口もパンと同じく、硬くなっていました。
画家:セルヴァッジャ......。
少女:(N)人に興味のなかった彼でも、人の死の存在を知らないわけはありません。そして、嘆きつつ、初めて彼は彼女の顔をそっくりすべて描いたのでした。
0:イタリアの街。噴水のある公園ちかくの道。
画家:知らないな。なんだって僕に付きまとうんだ?
少女:覚えていらっしゃらないんですね。
画家:......。
少女:助けてくださったじゃないですか!
画家:人を助けた覚えはないな。
少女:先週のことです。
画家:友人に余った画材を渡しに行った以外、出た覚えはないが。
少女:その日です!
画家:?
少女:行く前に、向こうの裏路地を通ったでしょう?
画家:ああ。
少女:そこでですよ。そこで! 門についていたガーゴイルの像が動いて、それが私に飛びかからんとしたとき、あなたが通りすがってくれたんじゃないですか! そして、あなたがガーゴイルを一睨みすると、それは帰っていって......。そしたら、像は元の通りに! 覚えていらっしゃらない?
画家:ふぅん。
少女:だから、ありがとうございます。
画家:おかしな娘だ......君、名前は?
少女:セルヴァッジャ。
画家:帰るところは?
少女:あるけど......。
画家:その顔は、帰りたくないんだな。まあいいだろう。来たかったらくればいいさ。
0:ふたりはアトリエに着いた。上着を脱いだりしつつ話す。
少女:ねー! なんて呼べばいい?
画家:ん? パオロ。
少女:でも、皆はあなたのことをウッチェロって呼んでるわよ?
画家:まあな。ウッチェロでもいいよ。
少女:ウッチェロ。鳥って意味よね?
画家:ああ。
少女:どうして? どうしてウッチェロなの?
画家:鳥を描くのが、好きだから。
少女:他には何を描くの?
画家:おいまてよ、あだ名だけ知ってて、その他には何にも知らずに声をかけたのか?
少女:えぇ。助けてくれた感謝を伝えに来ただけだし。
画家:そうか。まぁいいだろう。だが、うちに来たって、そんなに面倒を見てやれないぞ。俺一人でさえ、食うのに困っているんだ。
少女:そうなんだ。
画家:(M)話を聞くと、セルヴァッジャと名乗る少女は、母をなくし継母(けいぼ)と住んでいるそうだった。しかし、扱いがひどく逃げてきたそうだ。
0:ウッチェロのアトリエにて。
少女:ウッチェロ。
画家:どうした。
少女:ちゃんと食べてる?
画家:いや、形をとるのに忙しいから。
少女:駄目よ食べなきゃ。
画家:君の分はそこに置いてあったろう。
少女:ウッチェロの分は?
画家:買ってないだけさ
少女:......うそつき。
0:別日。
画家:(M)彼女は住み着いた。ここの何を気に入ってかは知らないが、掃除をしたり、近所の家の手伝いをして小遣いを貰ったりしているらしい。
少女:ウッチェロの描く絵はよく分からないわ。変な線ばっかり。
画家:......。
少女:ねぇ、私を描いてよ。
画家:ん? セルヴァッジャ、君を?
少女:自分では、そんなに変な顔はしていないと思うんだけど......。
画家:人間か。興味ないね。
少女:どうして?
画家:肖像画は、あまり面白くない。細分化した上で遠近法を用いて切り抜くのがいいんだ。
少女:だから最近は帽子ばっかり描いてるの?
画家:なんだってこの技法を使えば同じように抜き取れるんだ。な。見てくれ。面白くないか? この帽子の丸い形。
少女:そんなの......。寄木細工の職人にしか意味をなさないわ。
画家:それくらい精密なモデルを写し取れてるってことだろう?
少女:......。こっちの馬の絵だって、前足が両方同じように上がってちゃ歩けないじゃない。馬らしくない馬。
画家:けど馬だろう。
少女:私、変な噂も聞いたのよ?
画家:なんだい、風の噂か?
少女:そう。風の......。って、ウッチェロ分かっててやったの?
画家:四つの原素に応じた動物を描く依頼の話だろ。水には魚、炎にはサラマンダー、土にはモグラ。風に......。なんて聞いてきた?
少女:ラクダ。なんでラクダなのよ。
画家:ははっ、本来ならカメレオンだがね。キャメルとキャメレオン、なんか似てないか? こんなの俺にとっちゃ一緒さ。誰か偉い人がカメレオンは風を食べて生きる動物だって言ったんだろ。それくらい知ってるさ。
少女:変な人。
画家:変で結構。
少女:でも、ウッチェロ......。
画家:なんだ?
少女:どうしても私を描いてくれないの?
画家:肖像画はきらいなんだ。
少女:そう。けど、私を描けば他の肖像画の依頼だって来るはずよ。それに、肖像画だって、生きている人間の一部分を細分化して切り抜いたようなものでしょ? 違う?
画家:ははっ。確かにそれも一理あるか。その瞬間だもんな。......でも書かない。
少女:どうして?
画家:さあな。しらん。ん。ん? いや、君、改めて見ると面白い顔をしているな。
少女:え?
画家:君の顔を見せてくれ。
少女:まあ! やっと描く気になった?
画家:面白いな。丸くカーブのかかったマツ毛、乾燥した唇。顔の中でもこんなに分けられるなんて。これは描くに値する!
少女:(N)ウッチェロは肖像画を描かずに、顔のパーツを遠近法を用いたりして描いてみるのでした。次第に食べるものも底を尽きてきて、着る服にも困り果てていきました。そして、セルヴァッジャはある日、亡くなりました。
0:間。
少女:ウッチェロに、描いてほしかった。
画家:セルヴァッジャ? おい。起きろ。セルヴァッジャ。......。まさか。せ......。
少女:(N)死んだ少女を残して、アトリエから出ていきました。しばらくして、硬い少しのパンを買って戻ってきました。
画家:パ、パンだ。買ってきた。ほら。
少女:(N)口元に何度も押し付けますが、既に少女の口もパンと同じく、硬くなっていました。
画家:セルヴァッジャ......。
少女:(N)人に興味のなかった彼でも、人の死の存在を知らないわけはありません。そして、嘆きつつ、初めて彼は彼女の顔をそっくりすべて描いたのでした。