台本概要
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タイトル | 魔法使いの出会った宝石箱 |
---|---|
作者名 | 天道司 |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
お城という宝石箱に閉じ込められたお姫様のお話です。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ネイム | 女 | 92 | 美しいお姫様 |
ライト | 男 | 83 | 旅芸人で、魔法使いで、怪盗 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
ネイム:(M)私は、籠(かご)の中の鳥。
ネイム:(M)産まれてから今まで、着るものにも、食べるものにも、寝る場所にも困ったことがない。
ネイム:(M)難しいことは、全て従者(じゅうしゃ)がやってくれる。私は、ただ、お父様の指示を受けたメイド長から言われたことを言われたようにするだけ。
ネイム:(M)決められた時間に起きて、決められた時間に食事を摂(と)って、決められた時間に寝る。
ネイム:(M)決められた曜日には、バイオリンやダンスのレッスン、マナーのお勉強があるけれど、私はそれを好きでやっているわけではない。
ネイム:(M)面白くないことの繰り返しの中で、私の唯一の楽しみが、本を読むこと・・・。
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ネイム:(M)本の中には、私の知らない世界が広がっている。
ネイム:(M)繰り返される、抗(あらが)うことのできない世界から、想像の翼を広げて飛び立てる。
ネイム:(M)だから、私は、本を読むことが好き。
ライト:「本を読むことが好きなんだね」
ネイム:「えっ?」
ネイム:(M)声のした方に視線を移すと、窓の外から、奇妙な恰好(かっこう)をした男が、こちらに向かって手を振っていた。
ネイム:(M)本来であれば、大声を上げて従者を呼ぶべきなんだろうけど、私は、部屋の中に彼を招き入れた。
ライト:「やぁ、初めまして、お姫様」
ネイム:「は、初めまして」
ライト:「ふん?ふんふんふん?」
ネイム:「なんですか?そんなにジロジロ見ないで下さい。人を呼びますよ?」
ライト:「いやぁ、なるほど・・・。噂通りの美しさだ」
ネイム:「えっ?」
ライト:「君、綺麗だね!」
ネイム:「綺麗?」
ライト:「僕が今まで出会った、どの女性よりも綺麗だ」
ネイム:「・・・あ、ありがとう、ございます?じゃなくて!あなた、一体何者ですか?」
ライト:「あぁ、申し遅れました。(咳払い)・・・僕はライト。旅芸人をしています」
ネイム:「旅芸人?」
ライト:「そう、旅芸人。西へ東へ、風が向くまま気が向くまま、旅をしながら・・・よっと!」
ネイム:(M)ライトは、ポケットからトランプを取り出し、微笑みながらそれを操(あやつ)り始めた。彼の指先でカードが優雅に舞い踊り、空中に動物や建物、様々な形を描いていく。
ライト:「ふふっ。どうかな?僕は、旅先で出会った人たちの前で、こんな芸を披露して、お金をもらって生活をしているんだ」
ネイム:「すごいです・・・。まるで、魔法みたい」
ライト:「“魔法みたい”じゃなくて、魔法さ。本物の魔法」
ネイム:「本物の魔法?」
ライト:「そう、つまり、僕は、旅芸人をしている魔法使いなのさ」
ネイム:「魔法使いって、本当にいたんですね」
ライト:「魔法使いの存在を信じていなかったのかい?」
ネイム:「本の中だけの、お話かと思っていたから」
ライト:「君は、外の世界を知らないんだね」
ネイム:「はい・・・。私は、産まれてからずっと、このお城から出たことがなくて・・・」
ライト:「出ようと思ったことは?」
ネイム:「ないです。どうせ出してもらえないから」
ライト:「どうして?」
ネイム:「どうしてって・・・。お父様が、私を外に出そうとしないから」
ライト:「つまり、このお城は、君の父君(ちちぎみ)の宝石箱ってことだね?」
ネイム:「宝石箱?」
ライト:「“ネイム姫”という美しい宝物を保管している宝石箱」
ネイム:「・・・」
ライト:「君は、宝石箱の中から出てみたいとは思わないのかい?」
ネイム:「え?そんなの無理です」
ライト:「どうして無理だって思うの?」
ネイム:「私は、お父様から、すごく大事にされてるから・・・」
ライト:「すごく大事にされているのならば、君の気持ちも尊重されていいはずなんだけどな」
ネイム:「・・・」
ライト:「一度、訊いてみなよ?外の世界が見てみたいって!」
ネイム:「・・・」
ライト:「最初から、無理だと決め付けて、諦めるんじゃなくてさ」
ネイム:「・・・」
ライト:「本当に大事に思われているのならば、君の行きたい場所に行かせてもらえるし、やりたいこともやらせてもらえるはずだよ?」
ネイム:「そう、ですか?」
ライト:「そうだよ!そうじゃなければ、君は、人ではなく、物として扱われているってことだよ?」
ネイム:「物・・・」
ライト:「君は、物じゃない」
ネイム:「私は、物じゃない」
ライト:「そう。じゃあ、そろそろ時間だから、今日は、この辺で・・・」
ネイム:「えっ?」
ネイム:(M)彼は突然、窓辺から軽やかに飛び降りた。私は驚きと共に急いで窓の外に身を乗り出して覗き込むが、彼の姿はどこにもなかった。そこには、黒い静寂(せいじゃく)だけが広がっていた。
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0:
ネイム:(M)翌日、お父様との夕食の席で、勇気を振り絞り、「お城の外に出てみたい」と伝えてみた。しかし、予想通りの返答しか返ってこなかった。
ネイム:(M)私は、自室に帰ると、ベッドの上で枕を抱え、また彼に、ライトに会えないかと、じっと窓の外を見つめていた。すると・・・。
ライト:「今、僕に会いたいって思ってくれてた?」
ネイム:「あっ!」
ライト:「ふふ~ん。今日は、窓を開けてるんだね。もしかして、僕のために?」
ネイム:「それは・・・」
ライト:「ありがと。僕に会いたいと思ってくれて・・・。君が会いたいと思ってくれたから、こうして、また会いに来れた」
ネイム:「・・・ライト・・・」
ライト:「あぁ・・・。その悲しそうな顔を見たら分かってしまったよ。父君は、君を外に出す気はないみたいだね」
ネイム:「はい・・・」
ライト:「もう一度問わせてもらう。君は、外の世界が見てみたい?」
ネイム:「どうせ無理です」
ライト:「無理じゃないさ!昨晩、僕が何者か教えなかったかな?」
ネイム:「旅芸人?」
ライト:「旅芸人であり?」
ネイム:「魔法使い?」
ライト:「そう、魔法使い!魔法を使って、君をどこにでも連れて行ってあげるよ」
ネイム:「・・・」
ライト:「どうしたの?どこか行きたい場所はないのかい?」
ネイム:「・・・本当に連れて行ってくれるんですか?嘘じゃないですか?」
ライト:「嘘じゃないさ。何故なら、僕は、魔法使いだからね」
ネイム:「・・・じゃあ、海。私、海に行ってみたいです」
ライト:「お安い御用さ。・・・ネイム姫、目を閉じて」
ネイム:「はっ、はい」
ライト:「・・・ネイム姫が浜辺に立つと、潮風が濃厚に香り立つ。歩みを進めると、足の裏に柔らかな砂粒が、まるで音譜を奏でているかのように、心地よく寄り添う」
ネイム:「えっ?」
ライト:「海の波が、星のような輝きを放ちながら、岸辺をそっと撫でる」
ネイム:「見えます・・・。私、今、海に・・・」
ライト:「あぁ・・・。ここは、海さ。・・・遠くの船の灯りが、穏やかな光を海面に映し、幻想的に揺らめいている」
ネイム:「素敵です・・・」
ライト:「君と海に来れて、嬉しいよ」
ネイム:「ありがとうございます。私に海を見せてくれて・・・。でも、これは、本物の海じゃない。ただのお話です。結局、私は、このお城から出ることはできません」
ライト:「今はね・・・。でも、約束するよ。いつか必ず君に、本物の海を見せてあげると・・・」
ネイム:「はい・・・」
ライト:「では、次は、何が見たい?どこにでも連れて行ってあげるよ」
ネイム:「じゃあ、次は・・・」
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ネイム:(M)それから、毎晩のように、ライトは私の部屋にやってきて、外の世界のお話をしてくれた。
ネイム:(M)本の文字だけでは分からなかった形や色、匂いが、彼の口から紡(つむ)がれていった。
ネイム:(M)そして、そんな彼に、私は次第に心を開くようになっていった。
ライト:「百獣の王、ライオン。そのたてがみは、黄金色(こがねいろ)の陽光を受けてまばゆく輝き、風に揺れるその姿はまるで風を纏(まと)った王者のようだ」
ネイム:「とっても強そう・・・」
ライト:「あぁ。とっても強い。その瞳には、獰猛(どうもう)ながらも知恵と力強さが宿り、一歩踏み出すたびに地面は揺れ動き、他の動物たちは静まり返る」
ネイム:「私、いつかライオンも、この目で見てみたいわ」
ライト:「うん。いつか必ず一緒に見ようね。僕が見せてあげるよ」
ネイム:「・・・」
ライト:「どうしたの?」
ネイム:「・・・ライトは、外の世界のことをたくさん話してくれるけど、いつか本物を見せてくれるって言うけど、その、いつかって、いつなの?」
ライト:「いつかは、いつかさ」
ネイム:「そんなのはいい。具体的な日にちが知りたいの。明日?」
ライト:「明日は、無理かな」
ネイム:「じゃあ、明後日(あさって)?」
ライト:「明後日も、ちょっと・・・」
ネイム:「じゃあ、何日後?何週間後?何年後なの?」
ライト:「それは・・・」
ネイム:「ライトは、嘘つきなの?」
ライト:「嘘つき?それは、酷くないかい?」
ネイム:「だって、いつも、『いつかいつか』って、具体的な日時をはぐらかして・・・。確かにライトのお話を聞くのは楽しいよ。楽しいけど、私は、本物が見てみたいの」
ライト:「いつか本物を見せてあげるよ。約束する」
ネイム:「嘘よ・・・。あなたは、魔法使いでも何でもない。ただの嘘つきよ」
ライト:「・・・」
ネイム:「夢や希望を持たせてくれたことには、感謝してる。でも、結局叶わないって気づいてしまったら、何もかも冷めてしまう」
ライト:「叶わないことはないさ。叶えるためには、時間が必要で」
ネイム:「出ていって・・・」
ライト:「え?」
ネイム:「この部屋から、今すぐ出ていって・・・」
ライト:「・・・」
ネイム:「出ていってって言ってるのが聞こえないの!」
ライト:「あっ!」
ネイム:(M)その時、部屋の扉が開き、外に待機していた衛兵(えいへい)たちが雪崩(なだれ)のように押し寄せてきて、あっという間に彼は取り囲まれてしまった。
ライト:「これはこれは・・・」
ネイム:「嘘・・・。違うの・・・。私じゃない」
ライト:「わかってる。ネイム姫は、何も悪くない。ぐふぁっ!」
ネイム:(M)彼は、衛兵に槍(やり)で殴られ、拘束(こうそく)されてしまった。
ネイム:「ちょっと、あなたたち!彼を放しなさい!放しなさいって言ってるのが聞こえないの!」
ネイム:(M)『王様の命令ですから』衛兵のその言葉に、お父様の命令の前に、私の言葉は無力だ。そんなことは、わかってる。わかりきってる。それでも・・・。
ネイム:「やめて!やめてよ!」
ネイム:(M)彼を助けるために、産まれて初めて人を殴った。死に物狂いで暴れた。このままだと彼は、きっと処刑(しょけい)されてしまうから・・・。
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ネイム:(M)死んでほしくない・・・。私は、彼を、ライトを・・・。
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ネイム:(M)数日後、彼が処刑されたことをメイド長から聞かされた。
ネイム:(M)涙がとめどなく私の頬を流れた。本の中にしか存在しないと思っていた感情、誰かを愛するという感情に気づいた。
ネイム:(M)この感情を、言葉にして伝えたいのに、その彼は、もう、この世にはいない。それが、寂しくて、悲しくて、仕方がなかった。
ネイム:(M)私のせいだ・・・。私なんかと関わったせいで、彼は死んだんだ・・・。ライトに、もう一度会いたい・・・。会いたいよ・・・。
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ネイム:(M)もう二度と、誰かが私の部屋に入り込まないように、窓には鉄格子(てつごうし)が取り付けられた。
ネイム:(M)そして、一人になる時間も完全に奪われた。寝ている間も、従者が私のそばに付き添った。
ネイム:(M)鉄格子の中の鳥・・・。私に、自由は許されない。
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ネイム:(M)気づいたら、ライトのことを思い出して、泣いている。
ネイム:(M)そんな私の様子を見兼ねたお父様が突然、お城で舞踏会(ぶとうかい)を開くと言い出した。舞踏会には、近隣(きんりん)の国の王子たちも来るらしい。
ネイム:(M)今まで、男たちの目に触れさせることも嫌がっていたお父様が、本当に私のことを心配しているのだろう。当然、私に拒否権はない。
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ネイム:(M)舞踏会の前日、お城に、手紙が届いた。怪盗からの予告状。
ライト:『明日、お城で一番美しい宝石を盗みに行きます。怪盗アカツキより』
ネイム:(M)お父様は、「貧乏人からの嫌がらせだろう」と一蹴(いっしゅう)し、舞踏会は予定通りに開催されることになった。
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ネイム:(M)私は、ただ、泣かないように、ただ、それだけに気持ちを集中させていた。
ライト:(N)各国の王子たちが、ネイム姫の美しさにハートを射抜かれ、次々に愛を囁き、ダンスに誘うが、彼女は、首を縦に振ることはなかった。
ライト:(N)王様は、「それなら、致し方ない」と立ち上がり、ネイム姫にダンスを申し込む。お父様のお誘いならば、断るわけにはいかないと、彼女は渋々手を取る。
ライト:(N)その瞬間、舞踏会が始まってから、ずっと我慢していた涙が堰(せき)を切ったかのように溢れ出した。でも、その涙は、悲しみの涙ではなかった。
ネイム:「嘘・・・」
ライト:「(小声で)あなたを盗みにきました」
ネイム:(M)お父様の手を握った瞬間、お父様の姿がライトの姿に変わった。でも、周りの目には、お父様にしか見えていない様子だった。
ネイム:「嘘・・・。どういうこと?」
ライト:「どういうことって?魔法だよ?」
ネイム:「魔法?」
ライト:「そう、言ったろ?僕は、魔法使いだって。この魔法を完成させるのに、少しばかり、時間がかかってしまったけどね」
ネイム:「もう・・・」
ライト:「待たせて、ごめんよ」
ネイム:「死んじゃったと思ってた・・・」
ライト:「死ぬわけないだろ?あのまま死んでしまったら、僕は、本当にただの嘘つきになってしまう。約束したろ?君に外の世界を見せてあげるって・・・。今度こそ、本物を見せてあげるよ!さぁ、行こう!」
ネイム:「・・・うん!」
ネイム:(M)ライトは、私をお姫様だっこすると、赤いマントを翻(ひるがえ)し、颯爽(さっそう)とお城の出口に向かって走り抜けて行った。彼の姿がお父様にしか見えていない周りの人たちは、あっけにとられている。
ライト:「ふふっ。まだ知らない素敵な世界へ!」
ネイム:「うん!私を連れて行って!」
ネイム:(M)産まれて初めてお城の外に出た。産まれて初めて馬に乗った。産まれて初めて嗅ぐ外の空気。触れる風。全てが新鮮で、キラキラしていて、胸の高鳴りが抑えられない。
ネイム:「ねぇ、どこに向かってるの?」
ライト:「どこにでも!君に行きたい場所があるのならば、どこにでも連れて行ってあげるよ」
ネイム:「ほんとに?」
ライト:「あぁ・・・。僕が約束を破ったことがあるかい?」
ネイム:「ない!」
ライト:「ふふっ」
ネイム:「・・・ねぇ、お父様は?」
ライト:「父君のことが心配かい?」
ネイム:「それは・・・」
ライト:「父君には、寝室でお休みになってもらっているよ?」
ネイム:「そうなの?」
ライト:「あぁ」
ネイム:「ライトは?どうして生きてるの?」
ライト:「衛兵に捕まったあと、上手く魔法を使って逃げたのさ」
ネイム:「でも、処刑されたって・・・」
ライト:「あぁ。そう思わせたかったんだろうね。窓に鉄格子を取り付けたら、もう、僕は君に会いに行けない。会いに行けなくなれば、死んだも同然だろ?」
ネイム:「たしかに・・・」
ライト:「周りから言われたことが全て真実とは限らないのさ。真実は、自分の目で確かめに行かなきゃね!」
ネイム:「うん!」
ライト:「それで、決まったかい?最初に行きたい場所」
ネイム:「・・・私、私ね。海が見たいわ!」
ライト:「海!いいねぇ!では、今から海に向かわせて頂きます。しっかり僕に捕まっていてね!」
ネイム:「うん。離さない。ずっと離さないから」
ライト:「あぁ!」
ネイム:「私ね、ライトにもう一度会えたら、伝えたいって思っていた言葉があるの」
ライト:「言葉?」
ネイム:「うん。本の中だけの感情だと思ってた。だから、私が言う日がくるなんて、想像もしていなかったんだけどね」
ライト:「それは、なんだい?」
ネイム:「・・・ライト、愛しているわ!」
ライト:「僕も!愛してるよ!」
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ネイム:(M)私は、籠(かご)の中の鳥。
ネイム:(M)産まれてから今まで、着るものにも、食べるものにも、寝る場所にも困ったことがない。
ネイム:(M)難しいことは、全て従者(じゅうしゃ)がやってくれる。私は、ただ、お父様の指示を受けたメイド長から言われたことを言われたようにするだけ。
ネイム:(M)決められた時間に起きて、決められた時間に食事を摂(と)って、決められた時間に寝る。
ネイム:(M)決められた曜日には、バイオリンやダンスのレッスン、マナーのお勉強があるけれど、私はそれを好きでやっているわけではない。
ネイム:(M)面白くないことの繰り返しの中で、私の唯一の楽しみが、本を読むこと・・・。
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ネイム:(M)本の中には、私の知らない世界が広がっている。
ネイム:(M)繰り返される、抗(あらが)うことのできない世界から、想像の翼を広げて飛び立てる。
ネイム:(M)だから、私は、本を読むことが好き。
ライト:「本を読むことが好きなんだね」
ネイム:「えっ?」
ネイム:(M)声のした方に視線を移すと、窓の外から、奇妙な恰好(かっこう)をした男が、こちらに向かって手を振っていた。
ネイム:(M)本来であれば、大声を上げて従者を呼ぶべきなんだろうけど、私は、部屋の中に彼を招き入れた。
ライト:「やぁ、初めまして、お姫様」
ネイム:「は、初めまして」
ライト:「ふん?ふんふんふん?」
ネイム:「なんですか?そんなにジロジロ見ないで下さい。人を呼びますよ?」
ライト:「いやぁ、なるほど・・・。噂通りの美しさだ」
ネイム:「えっ?」
ライト:「君、綺麗だね!」
ネイム:「綺麗?」
ライト:「僕が今まで出会った、どの女性よりも綺麗だ」
ネイム:「・・・あ、ありがとう、ございます?じゃなくて!あなた、一体何者ですか?」
ライト:「あぁ、申し遅れました。(咳払い)・・・僕はライト。旅芸人をしています」
ネイム:「旅芸人?」
ライト:「そう、旅芸人。西へ東へ、風が向くまま気が向くまま、旅をしながら・・・よっと!」
ネイム:(M)ライトは、ポケットからトランプを取り出し、微笑みながらそれを操(あやつ)り始めた。彼の指先でカードが優雅に舞い踊り、空中に動物や建物、様々な形を描いていく。
ライト:「ふふっ。どうかな?僕は、旅先で出会った人たちの前で、こんな芸を披露して、お金をもらって生活をしているんだ」
ネイム:「すごいです・・・。まるで、魔法みたい」
ライト:「“魔法みたい”じゃなくて、魔法さ。本物の魔法」
ネイム:「本物の魔法?」
ライト:「そう、つまり、僕は、旅芸人をしている魔法使いなのさ」
ネイム:「魔法使いって、本当にいたんですね」
ライト:「魔法使いの存在を信じていなかったのかい?」
ネイム:「本の中だけの、お話かと思っていたから」
ライト:「君は、外の世界を知らないんだね」
ネイム:「はい・・・。私は、産まれてからずっと、このお城から出たことがなくて・・・」
ライト:「出ようと思ったことは?」
ネイム:「ないです。どうせ出してもらえないから」
ライト:「どうして?」
ネイム:「どうしてって・・・。お父様が、私を外に出そうとしないから」
ライト:「つまり、このお城は、君の父君(ちちぎみ)の宝石箱ってことだね?」
ネイム:「宝石箱?」
ライト:「“ネイム姫”という美しい宝物を保管している宝石箱」
ネイム:「・・・」
ライト:「君は、宝石箱の中から出てみたいとは思わないのかい?」
ネイム:「え?そんなの無理です」
ライト:「どうして無理だって思うの?」
ネイム:「私は、お父様から、すごく大事にされてるから・・・」
ライト:「すごく大事にされているのならば、君の気持ちも尊重されていいはずなんだけどな」
ネイム:「・・・」
ライト:「一度、訊いてみなよ?外の世界が見てみたいって!」
ネイム:「・・・」
ライト:「最初から、無理だと決め付けて、諦めるんじゃなくてさ」
ネイム:「・・・」
ライト:「本当に大事に思われているのならば、君の行きたい場所に行かせてもらえるし、やりたいこともやらせてもらえるはずだよ?」
ネイム:「そう、ですか?」
ライト:「そうだよ!そうじゃなければ、君は、人ではなく、物として扱われているってことだよ?」
ネイム:「物・・・」
ライト:「君は、物じゃない」
ネイム:「私は、物じゃない」
ライト:「そう。じゃあ、そろそろ時間だから、今日は、この辺で・・・」
ネイム:「えっ?」
ネイム:(M)彼は突然、窓辺から軽やかに飛び降りた。私は驚きと共に急いで窓の外に身を乗り出して覗き込むが、彼の姿はどこにもなかった。そこには、黒い静寂(せいじゃく)だけが広がっていた。
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ネイム:(M)翌日、お父様との夕食の席で、勇気を振り絞り、「お城の外に出てみたい」と伝えてみた。しかし、予想通りの返答しか返ってこなかった。
ネイム:(M)私は、自室に帰ると、ベッドの上で枕を抱え、また彼に、ライトに会えないかと、じっと窓の外を見つめていた。すると・・・。
ライト:「今、僕に会いたいって思ってくれてた?」
ネイム:「あっ!」
ライト:「ふふ~ん。今日は、窓を開けてるんだね。もしかして、僕のために?」
ネイム:「それは・・・」
ライト:「ありがと。僕に会いたいと思ってくれて・・・。君が会いたいと思ってくれたから、こうして、また会いに来れた」
ネイム:「・・・ライト・・・」
ライト:「あぁ・・・。その悲しそうな顔を見たら分かってしまったよ。父君は、君を外に出す気はないみたいだね」
ネイム:「はい・・・」
ライト:「もう一度問わせてもらう。君は、外の世界が見てみたい?」
ネイム:「どうせ無理です」
ライト:「無理じゃないさ!昨晩、僕が何者か教えなかったかな?」
ネイム:「旅芸人?」
ライト:「旅芸人であり?」
ネイム:「魔法使い?」
ライト:「そう、魔法使い!魔法を使って、君をどこにでも連れて行ってあげるよ」
ネイム:「・・・」
ライト:「どうしたの?どこか行きたい場所はないのかい?」
ネイム:「・・・本当に連れて行ってくれるんですか?嘘じゃないですか?」
ライト:「嘘じゃないさ。何故なら、僕は、魔法使いだからね」
ネイム:「・・・じゃあ、海。私、海に行ってみたいです」
ライト:「お安い御用さ。・・・ネイム姫、目を閉じて」
ネイム:「はっ、はい」
ライト:「・・・ネイム姫が浜辺に立つと、潮風が濃厚に香り立つ。歩みを進めると、足の裏に柔らかな砂粒が、まるで音譜を奏でているかのように、心地よく寄り添う」
ネイム:「えっ?」
ライト:「海の波が、星のような輝きを放ちながら、岸辺をそっと撫でる」
ネイム:「見えます・・・。私、今、海に・・・」
ライト:「あぁ・・・。ここは、海さ。・・・遠くの船の灯りが、穏やかな光を海面に映し、幻想的に揺らめいている」
ネイム:「素敵です・・・」
ライト:「君と海に来れて、嬉しいよ」
ネイム:「ありがとうございます。私に海を見せてくれて・・・。でも、これは、本物の海じゃない。ただのお話です。結局、私は、このお城から出ることはできません」
ライト:「今はね・・・。でも、約束するよ。いつか必ず君に、本物の海を見せてあげると・・・」
ネイム:「はい・・・」
ライト:「では、次は、何が見たい?どこにでも連れて行ってあげるよ」
ネイム:「じゃあ、次は・・・」
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ネイム:(M)それから、毎晩のように、ライトは私の部屋にやってきて、外の世界のお話をしてくれた。
ネイム:(M)本の文字だけでは分からなかった形や色、匂いが、彼の口から紡(つむ)がれていった。
ネイム:(M)そして、そんな彼に、私は次第に心を開くようになっていった。
ライト:「百獣の王、ライオン。そのたてがみは、黄金色(こがねいろ)の陽光を受けてまばゆく輝き、風に揺れるその姿はまるで風を纏(まと)った王者のようだ」
ネイム:「とっても強そう・・・」
ライト:「あぁ。とっても強い。その瞳には、獰猛(どうもう)ながらも知恵と力強さが宿り、一歩踏み出すたびに地面は揺れ動き、他の動物たちは静まり返る」
ネイム:「私、いつかライオンも、この目で見てみたいわ」
ライト:「うん。いつか必ず一緒に見ようね。僕が見せてあげるよ」
ネイム:「・・・」
ライト:「どうしたの?」
ネイム:「・・・ライトは、外の世界のことをたくさん話してくれるけど、いつか本物を見せてくれるって言うけど、その、いつかって、いつなの?」
ライト:「いつかは、いつかさ」
ネイム:「そんなのはいい。具体的な日にちが知りたいの。明日?」
ライト:「明日は、無理かな」
ネイム:「じゃあ、明後日(あさって)?」
ライト:「明後日も、ちょっと・・・」
ネイム:「じゃあ、何日後?何週間後?何年後なの?」
ライト:「それは・・・」
ネイム:「ライトは、嘘つきなの?」
ライト:「嘘つき?それは、酷くないかい?」
ネイム:「だって、いつも、『いつかいつか』って、具体的な日時をはぐらかして・・・。確かにライトのお話を聞くのは楽しいよ。楽しいけど、私は、本物が見てみたいの」
ライト:「いつか本物を見せてあげるよ。約束する」
ネイム:「嘘よ・・・。あなたは、魔法使いでも何でもない。ただの嘘つきよ」
ライト:「・・・」
ネイム:「夢や希望を持たせてくれたことには、感謝してる。でも、結局叶わないって気づいてしまったら、何もかも冷めてしまう」
ライト:「叶わないことはないさ。叶えるためには、時間が必要で」
ネイム:「出ていって・・・」
ライト:「え?」
ネイム:「この部屋から、今すぐ出ていって・・・」
ライト:「・・・」
ネイム:「出ていってって言ってるのが聞こえないの!」
ライト:「あっ!」
ネイム:(M)その時、部屋の扉が開き、外に待機していた衛兵(えいへい)たちが雪崩(なだれ)のように押し寄せてきて、あっという間に彼は取り囲まれてしまった。
ライト:「これはこれは・・・」
ネイム:「嘘・・・。違うの・・・。私じゃない」
ライト:「わかってる。ネイム姫は、何も悪くない。ぐふぁっ!」
ネイム:(M)彼は、衛兵に槍(やり)で殴られ、拘束(こうそく)されてしまった。
ネイム:「ちょっと、あなたたち!彼を放しなさい!放しなさいって言ってるのが聞こえないの!」
ネイム:(M)『王様の命令ですから』衛兵のその言葉に、お父様の命令の前に、私の言葉は無力だ。そんなことは、わかってる。わかりきってる。それでも・・・。
ネイム:「やめて!やめてよ!」
ネイム:(M)彼を助けるために、産まれて初めて人を殴った。死に物狂いで暴れた。このままだと彼は、きっと処刑(しょけい)されてしまうから・・・。
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ネイム:(M)死んでほしくない・・・。私は、彼を、ライトを・・・。
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ネイム:(M)数日後、彼が処刑されたことをメイド長から聞かされた。
ネイム:(M)涙がとめどなく私の頬を流れた。本の中にしか存在しないと思っていた感情、誰かを愛するという感情に気づいた。
ネイム:(M)この感情を、言葉にして伝えたいのに、その彼は、もう、この世にはいない。それが、寂しくて、悲しくて、仕方がなかった。
ネイム:(M)私のせいだ・・・。私なんかと関わったせいで、彼は死んだんだ・・・。ライトに、もう一度会いたい・・・。会いたいよ・・・。
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ネイム:(M)もう二度と、誰かが私の部屋に入り込まないように、窓には鉄格子(てつごうし)が取り付けられた。
ネイム:(M)そして、一人になる時間も完全に奪われた。寝ている間も、従者が私のそばに付き添った。
ネイム:(M)鉄格子の中の鳥・・・。私に、自由は許されない。
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ネイム:(M)気づいたら、ライトのことを思い出して、泣いている。
ネイム:(M)そんな私の様子を見兼ねたお父様が突然、お城で舞踏会(ぶとうかい)を開くと言い出した。舞踏会には、近隣(きんりん)の国の王子たちも来るらしい。
ネイム:(M)今まで、男たちの目に触れさせることも嫌がっていたお父様が、本当に私のことを心配しているのだろう。当然、私に拒否権はない。
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ネイム:(M)舞踏会の前日、お城に、手紙が届いた。怪盗からの予告状。
ライト:『明日、お城で一番美しい宝石を盗みに行きます。怪盗アカツキより』
ネイム:(M)お父様は、「貧乏人からの嫌がらせだろう」と一蹴(いっしゅう)し、舞踏会は予定通りに開催されることになった。
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ネイム:(M)私は、ただ、泣かないように、ただ、それだけに気持ちを集中させていた。
ライト:(N)各国の王子たちが、ネイム姫の美しさにハートを射抜かれ、次々に愛を囁き、ダンスに誘うが、彼女は、首を縦に振ることはなかった。
ライト:(N)王様は、「それなら、致し方ない」と立ち上がり、ネイム姫にダンスを申し込む。お父様のお誘いならば、断るわけにはいかないと、彼女は渋々手を取る。
ライト:(N)その瞬間、舞踏会が始まってから、ずっと我慢していた涙が堰(せき)を切ったかのように溢れ出した。でも、その涙は、悲しみの涙ではなかった。
ネイム:「嘘・・・」
ライト:「(小声で)あなたを盗みにきました」
ネイム:(M)お父様の手を握った瞬間、お父様の姿がライトの姿に変わった。でも、周りの目には、お父様にしか見えていない様子だった。
ネイム:「嘘・・・。どういうこと?」
ライト:「どういうことって?魔法だよ?」
ネイム:「魔法?」
ライト:「そう、言ったろ?僕は、魔法使いだって。この魔法を完成させるのに、少しばかり、時間がかかってしまったけどね」
ネイム:「もう・・・」
ライト:「待たせて、ごめんよ」
ネイム:「死んじゃったと思ってた・・・」
ライト:「死ぬわけないだろ?あのまま死んでしまったら、僕は、本当にただの嘘つきになってしまう。約束したろ?君に外の世界を見せてあげるって・・・。今度こそ、本物を見せてあげるよ!さぁ、行こう!」
ネイム:「・・・うん!」
ネイム:(M)ライトは、私をお姫様だっこすると、赤いマントを翻(ひるがえ)し、颯爽(さっそう)とお城の出口に向かって走り抜けて行った。彼の姿がお父様にしか見えていない周りの人たちは、あっけにとられている。
ライト:「ふふっ。まだ知らない素敵な世界へ!」
ネイム:「うん!私を連れて行って!」
ネイム:(M)産まれて初めてお城の外に出た。産まれて初めて馬に乗った。産まれて初めて嗅ぐ外の空気。触れる風。全てが新鮮で、キラキラしていて、胸の高鳴りが抑えられない。
ネイム:「ねぇ、どこに向かってるの?」
ライト:「どこにでも!君に行きたい場所があるのならば、どこにでも連れて行ってあげるよ」
ネイム:「ほんとに?」
ライト:「あぁ・・・。僕が約束を破ったことがあるかい?」
ネイム:「ない!」
ライト:「ふふっ」
ネイム:「・・・ねぇ、お父様は?」
ライト:「父君のことが心配かい?」
ネイム:「それは・・・」
ライト:「父君には、寝室でお休みになってもらっているよ?」
ネイム:「そうなの?」
ライト:「あぁ」
ネイム:「ライトは?どうして生きてるの?」
ライト:「衛兵に捕まったあと、上手く魔法を使って逃げたのさ」
ネイム:「でも、処刑されたって・・・」
ライト:「あぁ。そう思わせたかったんだろうね。窓に鉄格子を取り付けたら、もう、僕は君に会いに行けない。会いに行けなくなれば、死んだも同然だろ?」
ネイム:「たしかに・・・」
ライト:「周りから言われたことが全て真実とは限らないのさ。真実は、自分の目で確かめに行かなきゃね!」
ネイム:「うん!」
ライト:「それで、決まったかい?最初に行きたい場所」
ネイム:「・・・私、私ね。海が見たいわ!」
ライト:「海!いいねぇ!では、今から海に向かわせて頂きます。しっかり僕に捕まっていてね!」
ネイム:「うん。離さない。ずっと離さないから」
ライト:「あぁ!」
ネイム:「私ね、ライトにもう一度会えたら、伝えたいって思っていた言葉があるの」
ライト:「言葉?」
ネイム:「うん。本の中だけの感情だと思ってた。だから、私が言う日がくるなんて、想像もしていなかったんだけどね」
ライト:「それは、なんだい?」
ネイム:「・・・ライト、愛しているわ!」
ライト:「僕も!愛してるよ!」
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0:-了-