台本概要
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タイトル | 一番の宝物 |
---|---|
作者名 | 天道司 |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 3人用台本(男1、女2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
自由に演じて下さい
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
雨音 | 女 | 94 | 雨音(あまね) |
司 | 男 | 33 | 司(つかさ) ※兼ね役…ロボット |
妖精 | 女 | 69 | 妖精(ようせい) ※兼ね役…雪乃(ゆきの) |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
雨音:「天道先生、これからは、司って呼んでもいい?」
司:「ん?いいけど?」
雨音:「司、私ね。次に眠ったら、きっと二度と目覚めない」
司:「大丈夫だよって言葉、今の君には、気休めにしかならないと思う。だから…。一緒にがんばろう」
雨音:「私は、眠っているだけだよ。何をがんばれって言うの?」
司:「生きたいと願う。楽しい未来を想像する。できるだけ、たくさん」
雨音:「無理だよ。ただ、怖い。死ぬのが怖い」
司:「…」
雨音:「ねぇ、司」
司:「なに?」
雨音:「受け取ってほしいモノがあるの。最期のお願い」
司:「最期なら、受け取らないよ?」
雨音:「じゃあ、最期じゃなくてもいいから、受け取ってよ」
司:「はいはい。なんですか?」
雨音:「私の、指輪」
司:「指輪?」
雨音:「小さい頃に、ママにおねだりして露天(ろてん)で買ってもらった指輪。棚(たな)の一番上の引き出しに入ってるから」
司:「棚の一番上?」
雨音:「うん。開けたら、すぐに見つかると思う」
司:「うーん…。これかな?」
雨音:「そう、それ。司が持っていて」
司:「わかった」
雨音:「(小さな声で)それ、婚約指輪だから…」
司:「ん?なにか言った?」
雨音:「なにも…(笑)」
司:「そっか…。でも、確かに受け取ったよ」
雨音:「ありがとう」
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司:タイトルコール―『一番の宝物』―
0:【間】
雨音:罹(かか)る確率も、手術の成功確率も、とっても低い難病(なんびょう)。
雨音:手術の最中に命を落とした人も少なくはないんだって…。
雨音:だから、楽しい未来を想像することなんて、私にはできなかった。
雨音:そう、司に会うまでは…。
雨音:司は、私のために、物語を書いて、それを読み聞かせしてくれた。
雨音:妖精やロボットが出てくる夢がいっぱいの物語。
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雨音:医者の仕事って、すごく忙しいはずなのに、どうせもうすぐ死んでしまう私なんかのために、いつも…。
雨音:いつも、楽しい世界を見せてくれた。
雨音:私は、そんな司を王子様のように想うようになった。
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雨音:麻酔(ますい)が効いてゆく…。
雨音:毒りんごを食べてしまった白雪姫のように、私は眠る。
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雨音:妖精の国、フェアルナ。
雨音:ここは、妖精たちが楽しく暮らすフェアル、ナ?
雨音:違う…。どうして?どうして、こんなっ!
雨音:空は、どんよりと曇っていて、花は枯れ果てているし、妖精たちの住む積み木の家が壊されてる。
雨音:「誰が…誰がこんな酷いことをしたの?」
妖精:「悪い奴に家が壊されたのさ」
雨音:「悪い奴に家を壊された?」
妖精:「そういうこと!」
雨音:「壊れた家は、立て直さないの?」
妖精:「僕らの体を見てごらんよ!とっても小さい!小さい僕らに積み木を持ち上げる力はないさ」
雨音:「でも、あなたたちは、たくさんいるじゃない?」
妖精:「確かに、僕らは、たくさんいる。パックに、フレイに、シルフに、ノームに、アクアに、ゲイルに、(ウィスプに、シャドウに…)」
雨音:「(さえぎって)もう、大丈夫!そう、友達がたくさんいるでしょ!」
妖精:「友達?」
雨音:「そう、友達よ。みんな、友達じゃないの?」
妖精:「友達って、なに?」
雨音:「友達っていうのは、困った時に一緒に協力して、困難に立ち向かうものだよ」
妖精:「困った時に、一緒に協力する。それだけで、友達なの?」
雨音:「うーん…。楽しいことを一緒に楽しむのも友達」
妖精:「楽しいことを一緒に楽しむか…。それをすることに意味はあるの?」
雨音:「一緒に楽しむと、楽しいことも二倍になるの」
妖精:「楽しいことが二倍?そりゃあ、良いや!」
雨音:「でしょ!友達って、とっても良いものなのよ!」
妖精:「ほかには?ほかにはないの?友達って、どんなものなの?」
雨音:「ほかにかぁ…。うーん…。あっ!」
妖精:「なんだい?なんだい?」
雨音:「友達が悪いことをしている時に、それは悪いことだって、はっきり言ってあげる」
妖精:「友達が、それを悪いことだと思っていなければ、友達に嫌われちゃうかも知れないよ?友達じゃなくなってしまうかも知れないよ?」
雨音:「それでも言うの。友達のためにね」
妖精:「なんか、かっこいいね!友達!」
雨音:「うん!…って、あれ?…このやりとり…前に、どこかで…?」
妖精:「どうしたの?」
雨音:「ううん。なんでもない」
妖精:「そっか…。あのさ。僕は、みんなと友達になりたいな。君とも、友達になりたい」
雨音:「私とも?」
妖精:「そう、君とも!僕、ポンタって名前なの。君は、何て名前なの?」
雨音:「私?私は、雨音だよ」
妖精:「雨音!雨音!僕の友達、雨音!みんなにも教えておくね!雨音は、僕らの友達!」
雨音:「ふふっ(笑)。ありがとう」
妖精:「あのさ。僕ら、家を元に戻そうと思うんだ。そしてね。僕らは友達だから、みんなで力を合わせれば、積み木を持ち上げられるってことにも気づいたんだ」
雨音:「あぁ!それは、いいね!だったら、私も協力するよ。だって、私もポンタの友達でしょ?」
妖精:「ほんとかい?」
雨音:「ほんと!」
妖精:「わぁーい!やったーっ!」
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雨音:私は、ポンタたちと協力して、積み木の家を建て直した。
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妖精:「やった!やったーっ!僕たちの家が、元に戻った!みんなで協力して、元に戻った!前より、ずっとステキな家だ!みんなで協力して建て直したから、前よりずっとステキな家だ!」
雨音:「うん。そうだね」
妖精:「あのさ」
雨音:「なに?」
妖精:「君は、これからどうするの?」
雨音:「うーん…。とりあえず、ポンタたちの家を壊したっていう悪い奴に話しをしにいくかな」
妖精:「悪い奴に、話しを?」
雨音:「そう。もう、ポンタたちの家を壊しに来ないで!って話しをしにいくの」
妖精:「それをして、どうなるの?僕たちの家をまた壊しにくるかも知れないよ?」
雨音:「そんなことにならないように、話しをするの」
妖精:「そんなに上手くいくかなぁ」
雨音:「みんなが困ることをすると、みんなから嫌われて、ひとりぼっちになって困ることになる。それを上手く伝えられたら、きっとわかってくれるはず」
妖精:「それでも、わからないかもよ?だって、悪い奴だもの。ひとりぼっちでも困らないかも知れないし、ひとりぼっちになるために悪いことをしているのかも知れない」
雨音:「そこまで言われると…。自信がなくなってきたなぁ」
妖精:「だったら、僕らも一緒にいくよ」
雨音:「えっ?」
妖精:「僕らも雨音と一緒に悪い奴のところに話しをしにいくよ。雨音一人で話しをするよりも、みんなで話しをしにいった方が、きっと上手くいく気がするんだ」
雨音:「たしかに、そうだね」
妖精:「それじゃあ、さっそく、しゅっぱーつ!」
雨音:「うん。あっ!そういえば、悪い奴って、どこに住んでるの?」
妖精:「大丈夫。僕らが悪い奴の家を知ってる」
雨音:「そうなんだ。じゃあ、案内してくれる?」
妖精:「もちろん!だって、僕らは、もう、友達だからね!」
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雨音:ポンタたちと森の中を歩いてゆくと、大きな楠(くす)の木に、壊れたロボットがもたれかかり、動かなくなっていた。
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妖精:「壊れたロボットだ!」
雨音:「壊れたロボット?このロボット、前に、どこかで…?」
妖精:「ん?どうしたの?」
雨音:「あぁ、そうだね。壊れたロボットだ」
ロボット:「ワタシハ、マダ、コワレテマセン」
雨音:「(同時に)わっ!」
妖精:「(同時に)わっ!」
雨音:「壊れたロボットが、しゃべった?」
ロボット:「ダカラ、カッテニ、キメツケナイデ。ワタシハ、マダ、コワレテマセン」
雨音:「壊れてない?」
妖精:「そうだね!壊れていないみたいだよ!本人がそう言ってる」
ロボット:「ソウデス。ワタシハ、マダ、コワレテマセン」
雨音:「じゃあ、動ける?」
ロボット:「ウゴケマセン」
妖精:「動けないなら、壊れてるってことだろ?」
ロボット:「マダ、シャベレマス。ダカラ、コワレテマセン」
雨音:「そうだね。まだ、会話ができる。会話ができるだけでも、すごいことだよ」
ロボット:「ソウデス。ダレカト、カイワガ、デキルダケデ、ワタシハ、シアワセデス」
妖精:「へぇ…。動けなくて、体中サビと泥にまみれていて、汚いのに、幸せなんだ」
ロボット:「ソウデス。ダレニ、ナニヲイワレテモ、ワタシハ、シアワセデス」
雨音:「あのさ。ポンタさんたち、このロボットを直してあげられないかな?」
妖精:「ロボットを直すだって!?」
雨音:「うん」
妖精:「そんなのできるわけないよ!」
雨音:「できないかも知れない。それでも、ロボットの体を綺麗にしてあげるくらいは、できるでしょ?」
妖精:「たしかに、みんなで協力すれば、それができるかも知れない」
雨音:「できるよ!きっとできる!」
ロボット:「ハジメテ、アッタ、ワタシナンカノ、タメニ、ドウシテ?」
雨音:「そんなの決まってるでしょ!あなたと友達になりたいからよ!」
ロボット:「ワタシト、トモダチニ?」
妖精:「雨音がそう言うなら、僕たちもロボットと友達になってもいいよ。僕は、ポンタ。君、名前は?」
ロボット:「ワタシハ、RAMC―IPC―ANN―2022(アールエーエムシー、アイピーシー、エーエヌエヌ、2022)デス」
妖精:「長いなぁ。しかも、言いにくい」
雨音:「お腹のディスプレイに、名前が表示されてるね。うーん…。この英単語を略して、『ライアン』っていうのは、どうかな?」
妖精:「ライアン!いいねぇ!それなら、覚えられるし、言いやすい!」
ロボット:「ライアン…。それが、私の名前。良い名前だ」
妖精:「あれ?しゃべり方が変わった?」
雨音:「うん。ライアン。私は、雨音。これからよろしくね!」
ロボット:「はい。よろしく」
雨音:「じゃあ、さっそくライアンを綺麗にするね」
妖精:「あいおっ!ライアンは、もう僕らの友達だ!しっかりピカピカにしてやるからな!」
ロボット:「ありがとうございます。嬉しいです」
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雨音:私は、ポンタたちと協力して、ライアンの体のサビと泥をとり、ピッカピカに磨き上げた。
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妖精:「すごい!新品みたいにピッカピカだ!」
雨音:「そうだね!ライアン、綺麗になって、よかったね!」
ロボット:「嬉しいです。すごく嬉しいです。そして、なぜだか、目からオイルが出てきます」
雨音:「あれ?ライアン、いま、手で目からこぼれたオイルをふいた?手を動かせた?」
ロボット:「ほんとだ。手を動かせます。足も、動かせます」
妖精:「それって…。もう、完全に、直ってるってことじゃない?」
雨音:「そうだね!ライアン、直ってるよ!」
ロボット:「いえ。元々、私は壊れてなんかいません」
雨音:「ふふっ(笑)。そうだね。ライアンは、最初から壊れてなんかいない」
ロボット:「私が私であると認識できているうちは、私は正常に機能しています」
ロボット:「でも、綺麗にしてもらえて、体を自由に動かせるようになって、とても嬉しいです。ありがとうございます」
妖精:「あぁ。なんだか、嬉しいね!」
ロボット:「嬉しい?」
妖精:「そうさ。友達が綺麗になって、動けるようになって、感謝されるのは、なんだか、とっても心がぽかぽかするよ」
雨音:「ふふっ(笑)。ほんとにそうだね!」
ロボット:「私も嬉しいです。みなさんの喜ぶ姿を見ていると、嬉しくて、嬉しいのに、目からオイルが…。私は、やっぱり壊れているのでしょうか?」
雨音:「壊れてなんかいないよ。嬉しくても、涙は出るもんなんだよ」
ロボット:「嬉しくても涙は出る?でも、涙を流すことができるのは、人間だけだとメモリに記憶されています」
妖精:「じゃあ、そのメモリに新しく加えたらいいさ。そのっ、嬉しい時には、ロボットも涙を流せるっていう情報をさ!」
ロボット:「そうですね。メモリに追加しておきます」
雨音:「それじゃあ、ライアン。私たちは、もう、いくね」
ロボット:「どこにいくのですか?」
妖精:「悪い奴のところさ」
ロボット:「悪い奴…。そうです。私の体も悪い奴に汚されたんです」
雨音:「そうなの?」
ロボット:「そうです」
妖精:「うはっ!やっぱり、悪い奴は、悪い奴だ。許せないなぁ」
雨音:「ライアンのことも悪い奴に話してくる」
ロボット:「なにを話してくるのですか?」
雨音:「ライアンをもう、汚したりしないでねって話してくるんだよ」
ロボット:「私は、汚れても構いませんよ」
雨音:「私が嫌なの。悪い奴にライアンを汚されるのが!」
妖精:「僕も嫌だな。だって、ライアンは友達だからさ」
ロボット:「あっ!でも…。あなたたちは私の友達なので、悪い奴のところに行けば、悪い奴に悪いことをされるかも知れないので…」
ロボット:「それが、とても、心配です。だから、そのっ、私もついていっても良いでしょうか?」
雨音:「えっ?ライアンもついてくるの?」
ロボット:「はい。このように、歩けるようにしてもらえましたし」
妖精:「僕は別に構わないけど、雨音は?」
雨音:「じゃあ、一緒にいこうか!」
ロボット:「はい」
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雨音:森を抜けると、すぐに悪い奴の家があった。
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妖精:「これが、悪い奴の家だよ」
雨音:「どこにでもありそうな、ごく普通の家だね」
ロボット:「そうですね。普通の家に見えますね」
妖精:「おーい!悪い奴ーっ!いるかー?」
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ロボット:「お返事は、ないようですね」
雨音:「悪い奴さーん!中にいますかー?」
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ロボット:「やっぱり、お返事は、ないようですね。お留守、なのでしょうか?」
雨音:「どうだろう?」
妖精:「おっ!カギがかかっていない!中に入れるぞ!」
雨音:「えっ?勝手に中に入ったら、怒られるよ!」
妖精:「大丈夫だって!」
ロボット:「これは…。不法侵入というやつですね」
妖精:「うはっ!ゴホンッ!ゴホンッ!なんだこりゃ!ホコリだらけだ!きったねぇ家だなぁ!」
雨音:「外から見たら、普通の家だったのに、中は荒れ放題だね」
ロボット:「これは、ヒドイ。めちゃくちゃですね」
雨音:「これじゃ、誰も住んでいないんじゃないのかな?」
妖精:「いや。ここが、悪い奴の家だ。悪い奴は、ここに住んでる」
雨音:「じゃあ、もう、勝手に入ってしまったついでに、みんなで、ここを掃除しない?」
妖精:「でも、悪い奴にとっては、この汚い状態が、居心地の良い状態かも知れないよ?」
ロボット:「そうですね。勝手に掃除なんてしたら、怒られる確率が極めて高いです」
雨音:「悪い奴にとっては、汚い方が居心地が良いのかも知れないけど、勝手に掃除をしたら怒られるかも知れないけど」
雨音:「私は、この部屋の状態を放っておけないの」
妖精:「わかった。雨音がそこまで言うなら、僕たちも協力する!」
ロボット:「私も、協力させてください」
雨音:「じゃあ、そうと決まれば、大掃除よ!」
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雨音:悪い奴の家は、ポンタをはじめとする妖精たちとライアンの協力を得て、美しく掃除された。
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妖精:「わーい!ホコリひとつ、塵(ちり)ひとつ落ちてない。綺麗だーっ!」
ロボット:「スッキリしましたね」
雨音:「みんな、協力してくれて、ありがとう」
妖精:「だって、ここは、もともと雨音の家だろ?」
ロボット:「そうですね。ここは、雨音の家です」
雨音:「私の…家?」
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妖精:「僕たちの積み木の家は、突風が吹いて、壊れたんだ。でも、壊れたのを何かのせいにしないと、落ち着かなくて、悪い奴のせいにした…」
ロボット:「私の体は、私がメンテナンスを怠(おこた)っていただけです」
ロボット:「めんどくさいから、サビても、汚れても、あとで綺麗にすれば良いと、悪い奴のせいだから仕方ないと、そのままにしていました…」
妖精:「僕たちは、雨音だよ」
ロボット:「私は、雨音自身です」
妖精:「この家もそうさ」
ロボット:「だけど、美しく生まれ変わりました」
妖精:「だから、もう…」
ロボット:「大丈夫です」
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雨音:私は、生きたい。
雨音:生きて、元気になった姿を司に見せたい。
雨音:そして、伝えるの。
雨音:司のことが大好きだって伝えるの。
雨音:年の差?フラレるかも?
雨音:だから、なに?
雨音:私は、司がいいの。
雨音:私に物語を書いてくれたのは、
雨音:私と一緒に戦ってくれたのは、
雨音:私を『生きたい』という気持ちにさせてくれたは、司なの。
雨音:私が想像する楽しい未来には、いつも司がいるの。
雨音:司…司…。
雨音:司に、もう一度会いたい!
雨音:私、がんばるから…!
雨音:司との楽しい未来を、いっぱい、いーっぱい想像するから…!
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司:「おはよう。雨音。よくがんばったね。手術は、成功だよ」
雨音:「つっ、かさ…」
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司:あれから、十年の時が流れた…。
0:【間】
雪乃:「ねぇ、パパ。パパは、どうしてママと結婚したの?」
司:「あぁ、どうしてママと結婚したかって?」
雪乃:「うん。知りたいの。教えて」
司:「ママはね。とっても、がんばり屋さんだったんだ」
雪乃:「ママ、がんばり屋さんだったの?」
司:「そうだよ。すっごく難しい病気に罹(かか)っていたんだけど、手術を頑張って、その病気を治したんだよ」
雪乃:「でも、私を産んですぐに、死んじゃったよ」
司:「死んじゃったけど、いるんだよ」
雪乃:「死んじゃったけど、いる?」
司:「そうだよ。パパの中に、頑張ってた時のママが、ずっといるんだよ」
雪乃:「頑張ってたママが?」
司:「そうだよ。そして、雪乃の中にもいる」
雪乃:「私の中にも?」
司:「うん」
雪乃:「どういうこと?」
司:「ママはね。雪乃が産まれたことを、とても喜んでいた。雪乃が幸せになることを、すごく願っていた」
雪乃:「そうなの?でも、雪乃はママのこと、全然覚えてない」
司:「覚えてなくても、ママのこと、好きだろ?」
雪乃:「うん…。全然覚えてないけど、ママのことは、大好きだよ」
司:「ほら、いるじゃないか。雪乃の中に、ママがさ。『大好き』って気持ちが、雪乃の中にママがいるって証拠だよ」
雪乃:「そうなの?」
司:「そうだよ。だから、雪乃が悲しい気持ちになってたら、ママも悲しい気持ちになってる」
司:「雪乃が楽しい気持ちになってたら、ママも楽しい気持ちになってる」
雪乃:「じゃあ、いっぱい楽しい気持ちにならないとだ!」
司:「そうだね。雪乃がいっぱい楽しい気持ちになれるように、パパも協力するよ」
雪乃:「ふふっ。ありがとう。あとさ、パパ、宝物ってある?」
司:「宝物?」
雪乃:「そう、宝物」
司:「宝物なら、たくさんあるよ」
雪乃:「私、パパの一番の宝物が知りたいな」
司:「そりゃあ、一番の宝物は、雪乃だよ?」
雪乃:「私は、物じゃないよ!」
司:「あはは(笑)。そうだね。じゃあ、ちょっと待ってて」
0:【長い間】
司:「お待たせ。パパの一番の宝物。これかな?」
雪乃:「あれれ?オモチャの、指輪?」
0:
0:―了―
雨音:「天道先生、これからは、司って呼んでもいい?」
司:「ん?いいけど?」
雨音:「司、私ね。次に眠ったら、きっと二度と目覚めない」
司:「大丈夫だよって言葉、今の君には、気休めにしかならないと思う。だから…。一緒にがんばろう」
雨音:「私は、眠っているだけだよ。何をがんばれって言うの?」
司:「生きたいと願う。楽しい未来を想像する。できるだけ、たくさん」
雨音:「無理だよ。ただ、怖い。死ぬのが怖い」
司:「…」
雨音:「ねぇ、司」
司:「なに?」
雨音:「受け取ってほしいモノがあるの。最期のお願い」
司:「最期なら、受け取らないよ?」
雨音:「じゃあ、最期じゃなくてもいいから、受け取ってよ」
司:「はいはい。なんですか?」
雨音:「私の、指輪」
司:「指輪?」
雨音:「小さい頃に、ママにおねだりして露天(ろてん)で買ってもらった指輪。棚(たな)の一番上の引き出しに入ってるから」
司:「棚の一番上?」
雨音:「うん。開けたら、すぐに見つかると思う」
司:「うーん…。これかな?」
雨音:「そう、それ。司が持っていて」
司:「わかった」
雨音:「(小さな声で)それ、婚約指輪だから…」
司:「ん?なにか言った?」
雨音:「なにも…(笑)」
司:「そっか…。でも、確かに受け取ったよ」
雨音:「ありがとう」
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0:【間】
司:タイトルコール―『一番の宝物』―
0:【間】
雨音:罹(かか)る確率も、手術の成功確率も、とっても低い難病(なんびょう)。
雨音:手術の最中に命を落とした人も少なくはないんだって…。
雨音:だから、楽しい未来を想像することなんて、私にはできなかった。
雨音:そう、司に会うまでは…。
雨音:司は、私のために、物語を書いて、それを読み聞かせしてくれた。
雨音:妖精やロボットが出てくる夢がいっぱいの物語。
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雨音:医者の仕事って、すごく忙しいはずなのに、どうせもうすぐ死んでしまう私なんかのために、いつも…。
雨音:いつも、楽しい世界を見せてくれた。
雨音:私は、そんな司を王子様のように想うようになった。
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雨音:麻酔(ますい)が効いてゆく…。
雨音:毒りんごを食べてしまった白雪姫のように、私は眠る。
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0:【間】
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雨音:妖精の国、フェアルナ。
雨音:ここは、妖精たちが楽しく暮らすフェアル、ナ?
雨音:違う…。どうして?どうして、こんなっ!
雨音:空は、どんよりと曇っていて、花は枯れ果てているし、妖精たちの住む積み木の家が壊されてる。
雨音:「誰が…誰がこんな酷いことをしたの?」
妖精:「悪い奴に家が壊されたのさ」
雨音:「悪い奴に家を壊された?」
妖精:「そういうこと!」
雨音:「壊れた家は、立て直さないの?」
妖精:「僕らの体を見てごらんよ!とっても小さい!小さい僕らに積み木を持ち上げる力はないさ」
雨音:「でも、あなたたちは、たくさんいるじゃない?」
妖精:「確かに、僕らは、たくさんいる。パックに、フレイに、シルフに、ノームに、アクアに、ゲイルに、(ウィスプに、シャドウに…)」
雨音:「(さえぎって)もう、大丈夫!そう、友達がたくさんいるでしょ!」
妖精:「友達?」
雨音:「そう、友達よ。みんな、友達じゃないの?」
妖精:「友達って、なに?」
雨音:「友達っていうのは、困った時に一緒に協力して、困難に立ち向かうものだよ」
妖精:「困った時に、一緒に協力する。それだけで、友達なの?」
雨音:「うーん…。楽しいことを一緒に楽しむのも友達」
妖精:「楽しいことを一緒に楽しむか…。それをすることに意味はあるの?」
雨音:「一緒に楽しむと、楽しいことも二倍になるの」
妖精:「楽しいことが二倍?そりゃあ、良いや!」
雨音:「でしょ!友達って、とっても良いものなのよ!」
妖精:「ほかには?ほかにはないの?友達って、どんなものなの?」
雨音:「ほかにかぁ…。うーん…。あっ!」
妖精:「なんだい?なんだい?」
雨音:「友達が悪いことをしている時に、それは悪いことだって、はっきり言ってあげる」
妖精:「友達が、それを悪いことだと思っていなければ、友達に嫌われちゃうかも知れないよ?友達じゃなくなってしまうかも知れないよ?」
雨音:「それでも言うの。友達のためにね」
妖精:「なんか、かっこいいね!友達!」
雨音:「うん!…って、あれ?…このやりとり…前に、どこかで…?」
妖精:「どうしたの?」
雨音:「ううん。なんでもない」
妖精:「そっか…。あのさ。僕は、みんなと友達になりたいな。君とも、友達になりたい」
雨音:「私とも?」
妖精:「そう、君とも!僕、ポンタって名前なの。君は、何て名前なの?」
雨音:「私?私は、雨音だよ」
妖精:「雨音!雨音!僕の友達、雨音!みんなにも教えておくね!雨音は、僕らの友達!」
雨音:「ふふっ(笑)。ありがとう」
妖精:「あのさ。僕ら、家を元に戻そうと思うんだ。そしてね。僕らは友達だから、みんなで力を合わせれば、積み木を持ち上げられるってことにも気づいたんだ」
雨音:「あぁ!それは、いいね!だったら、私も協力するよ。だって、私もポンタの友達でしょ?」
妖精:「ほんとかい?」
雨音:「ほんと!」
妖精:「わぁーい!やったーっ!」
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雨音:私は、ポンタたちと協力して、積み木の家を建て直した。
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妖精:「やった!やったーっ!僕たちの家が、元に戻った!みんなで協力して、元に戻った!前より、ずっとステキな家だ!みんなで協力して建て直したから、前よりずっとステキな家だ!」
雨音:「うん。そうだね」
妖精:「あのさ」
雨音:「なに?」
妖精:「君は、これからどうするの?」
雨音:「うーん…。とりあえず、ポンタたちの家を壊したっていう悪い奴に話しをしにいくかな」
妖精:「悪い奴に、話しを?」
雨音:「そう。もう、ポンタたちの家を壊しに来ないで!って話しをしにいくの」
妖精:「それをして、どうなるの?僕たちの家をまた壊しにくるかも知れないよ?」
雨音:「そんなことにならないように、話しをするの」
妖精:「そんなに上手くいくかなぁ」
雨音:「みんなが困ることをすると、みんなから嫌われて、ひとりぼっちになって困ることになる。それを上手く伝えられたら、きっとわかってくれるはず」
妖精:「それでも、わからないかもよ?だって、悪い奴だもの。ひとりぼっちでも困らないかも知れないし、ひとりぼっちになるために悪いことをしているのかも知れない」
雨音:「そこまで言われると…。自信がなくなってきたなぁ」
妖精:「だったら、僕らも一緒にいくよ」
雨音:「えっ?」
妖精:「僕らも雨音と一緒に悪い奴のところに話しをしにいくよ。雨音一人で話しをするよりも、みんなで話しをしにいった方が、きっと上手くいく気がするんだ」
雨音:「たしかに、そうだね」
妖精:「それじゃあ、さっそく、しゅっぱーつ!」
雨音:「うん。あっ!そういえば、悪い奴って、どこに住んでるの?」
妖精:「大丈夫。僕らが悪い奴の家を知ってる」
雨音:「そうなんだ。じゃあ、案内してくれる?」
妖精:「もちろん!だって、僕らは、もう、友達だからね!」
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雨音:ポンタたちと森の中を歩いてゆくと、大きな楠(くす)の木に、壊れたロボットがもたれかかり、動かなくなっていた。
0:【間】
妖精:「壊れたロボットだ!」
雨音:「壊れたロボット?このロボット、前に、どこかで…?」
妖精:「ん?どうしたの?」
雨音:「あぁ、そうだね。壊れたロボットだ」
ロボット:「ワタシハ、マダ、コワレテマセン」
雨音:「(同時に)わっ!」
妖精:「(同時に)わっ!」
雨音:「壊れたロボットが、しゃべった?」
ロボット:「ダカラ、カッテニ、キメツケナイデ。ワタシハ、マダ、コワレテマセン」
雨音:「壊れてない?」
妖精:「そうだね!壊れていないみたいだよ!本人がそう言ってる」
ロボット:「ソウデス。ワタシハ、マダ、コワレテマセン」
雨音:「じゃあ、動ける?」
ロボット:「ウゴケマセン」
妖精:「動けないなら、壊れてるってことだろ?」
ロボット:「マダ、シャベレマス。ダカラ、コワレテマセン」
雨音:「そうだね。まだ、会話ができる。会話ができるだけでも、すごいことだよ」
ロボット:「ソウデス。ダレカト、カイワガ、デキルダケデ、ワタシハ、シアワセデス」
妖精:「へぇ…。動けなくて、体中サビと泥にまみれていて、汚いのに、幸せなんだ」
ロボット:「ソウデス。ダレニ、ナニヲイワレテモ、ワタシハ、シアワセデス」
雨音:「あのさ。ポンタさんたち、このロボットを直してあげられないかな?」
妖精:「ロボットを直すだって!?」
雨音:「うん」
妖精:「そんなのできるわけないよ!」
雨音:「できないかも知れない。それでも、ロボットの体を綺麗にしてあげるくらいは、できるでしょ?」
妖精:「たしかに、みんなで協力すれば、それができるかも知れない」
雨音:「できるよ!きっとできる!」
ロボット:「ハジメテ、アッタ、ワタシナンカノ、タメニ、ドウシテ?」
雨音:「そんなの決まってるでしょ!あなたと友達になりたいからよ!」
ロボット:「ワタシト、トモダチニ?」
妖精:「雨音がそう言うなら、僕たちもロボットと友達になってもいいよ。僕は、ポンタ。君、名前は?」
ロボット:「ワタシハ、RAMC―IPC―ANN―2022(アールエーエムシー、アイピーシー、エーエヌエヌ、2022)デス」
妖精:「長いなぁ。しかも、言いにくい」
雨音:「お腹のディスプレイに、名前が表示されてるね。うーん…。この英単語を略して、『ライアン』っていうのは、どうかな?」
妖精:「ライアン!いいねぇ!それなら、覚えられるし、言いやすい!」
ロボット:「ライアン…。それが、私の名前。良い名前だ」
妖精:「あれ?しゃべり方が変わった?」
雨音:「うん。ライアン。私は、雨音。これからよろしくね!」
ロボット:「はい。よろしく」
雨音:「じゃあ、さっそくライアンを綺麗にするね」
妖精:「あいおっ!ライアンは、もう僕らの友達だ!しっかりピカピカにしてやるからな!」
ロボット:「ありがとうございます。嬉しいです」
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雨音:私は、ポンタたちと協力して、ライアンの体のサビと泥をとり、ピッカピカに磨き上げた。
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妖精:「すごい!新品みたいにピッカピカだ!」
雨音:「そうだね!ライアン、綺麗になって、よかったね!」
ロボット:「嬉しいです。すごく嬉しいです。そして、なぜだか、目からオイルが出てきます」
雨音:「あれ?ライアン、いま、手で目からこぼれたオイルをふいた?手を動かせた?」
ロボット:「ほんとだ。手を動かせます。足も、動かせます」
妖精:「それって…。もう、完全に、直ってるってことじゃない?」
雨音:「そうだね!ライアン、直ってるよ!」
ロボット:「いえ。元々、私は壊れてなんかいません」
雨音:「ふふっ(笑)。そうだね。ライアンは、最初から壊れてなんかいない」
ロボット:「私が私であると認識できているうちは、私は正常に機能しています」
ロボット:「でも、綺麗にしてもらえて、体を自由に動かせるようになって、とても嬉しいです。ありがとうございます」
妖精:「あぁ。なんだか、嬉しいね!」
ロボット:「嬉しい?」
妖精:「そうさ。友達が綺麗になって、動けるようになって、感謝されるのは、なんだか、とっても心がぽかぽかするよ」
雨音:「ふふっ(笑)。ほんとにそうだね!」
ロボット:「私も嬉しいです。みなさんの喜ぶ姿を見ていると、嬉しくて、嬉しいのに、目からオイルが…。私は、やっぱり壊れているのでしょうか?」
雨音:「壊れてなんかいないよ。嬉しくても、涙は出るもんなんだよ」
ロボット:「嬉しくても涙は出る?でも、涙を流すことができるのは、人間だけだとメモリに記憶されています」
妖精:「じゃあ、そのメモリに新しく加えたらいいさ。そのっ、嬉しい時には、ロボットも涙を流せるっていう情報をさ!」
ロボット:「そうですね。メモリに追加しておきます」
雨音:「それじゃあ、ライアン。私たちは、もう、いくね」
ロボット:「どこにいくのですか?」
妖精:「悪い奴のところさ」
ロボット:「悪い奴…。そうです。私の体も悪い奴に汚されたんです」
雨音:「そうなの?」
ロボット:「そうです」
妖精:「うはっ!やっぱり、悪い奴は、悪い奴だ。許せないなぁ」
雨音:「ライアンのことも悪い奴に話してくる」
ロボット:「なにを話してくるのですか?」
雨音:「ライアンをもう、汚したりしないでねって話してくるんだよ」
ロボット:「私は、汚れても構いませんよ」
雨音:「私が嫌なの。悪い奴にライアンを汚されるのが!」
妖精:「僕も嫌だな。だって、ライアンは友達だからさ」
ロボット:「あっ!でも…。あなたたちは私の友達なので、悪い奴のところに行けば、悪い奴に悪いことをされるかも知れないので…」
ロボット:「それが、とても、心配です。だから、そのっ、私もついていっても良いでしょうか?」
雨音:「えっ?ライアンもついてくるの?」
ロボット:「はい。このように、歩けるようにしてもらえましたし」
妖精:「僕は別に構わないけど、雨音は?」
雨音:「じゃあ、一緒にいこうか!」
ロボット:「はい」
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雨音:森を抜けると、すぐに悪い奴の家があった。
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妖精:「これが、悪い奴の家だよ」
雨音:「どこにでもありそうな、ごく普通の家だね」
ロボット:「そうですね。普通の家に見えますね」
妖精:「おーい!悪い奴ーっ!いるかー?」
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ロボット:「お返事は、ないようですね」
雨音:「悪い奴さーん!中にいますかー?」
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ロボット:「やっぱり、お返事は、ないようですね。お留守、なのでしょうか?」
雨音:「どうだろう?」
妖精:「おっ!カギがかかっていない!中に入れるぞ!」
雨音:「えっ?勝手に中に入ったら、怒られるよ!」
妖精:「大丈夫だって!」
ロボット:「これは…。不法侵入というやつですね」
妖精:「うはっ!ゴホンッ!ゴホンッ!なんだこりゃ!ホコリだらけだ!きったねぇ家だなぁ!」
雨音:「外から見たら、普通の家だったのに、中は荒れ放題だね」
ロボット:「これは、ヒドイ。めちゃくちゃですね」
雨音:「これじゃ、誰も住んでいないんじゃないのかな?」
妖精:「いや。ここが、悪い奴の家だ。悪い奴は、ここに住んでる」
雨音:「じゃあ、もう、勝手に入ってしまったついでに、みんなで、ここを掃除しない?」
妖精:「でも、悪い奴にとっては、この汚い状態が、居心地の良い状態かも知れないよ?」
ロボット:「そうですね。勝手に掃除なんてしたら、怒られる確率が極めて高いです」
雨音:「悪い奴にとっては、汚い方が居心地が良いのかも知れないけど、勝手に掃除をしたら怒られるかも知れないけど」
雨音:「私は、この部屋の状態を放っておけないの」
妖精:「わかった。雨音がそこまで言うなら、僕たちも協力する!」
ロボット:「私も、協力させてください」
雨音:「じゃあ、そうと決まれば、大掃除よ!」
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雨音:悪い奴の家は、ポンタをはじめとする妖精たちとライアンの協力を得て、美しく掃除された。
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妖精:「わーい!ホコリひとつ、塵(ちり)ひとつ落ちてない。綺麗だーっ!」
ロボット:「スッキリしましたね」
雨音:「みんな、協力してくれて、ありがとう」
妖精:「だって、ここは、もともと雨音の家だろ?」
ロボット:「そうですね。ここは、雨音の家です」
雨音:「私の…家?」
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妖精:「僕たちの積み木の家は、突風が吹いて、壊れたんだ。でも、壊れたのを何かのせいにしないと、落ち着かなくて、悪い奴のせいにした…」
ロボット:「私の体は、私がメンテナンスを怠(おこた)っていただけです」
ロボット:「めんどくさいから、サビても、汚れても、あとで綺麗にすれば良いと、悪い奴のせいだから仕方ないと、そのままにしていました…」
妖精:「僕たちは、雨音だよ」
ロボット:「私は、雨音自身です」
妖精:「この家もそうさ」
ロボット:「だけど、美しく生まれ変わりました」
妖精:「だから、もう…」
ロボット:「大丈夫です」
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雨音:私は、生きたい。
雨音:生きて、元気になった姿を司に見せたい。
雨音:そして、伝えるの。
雨音:司のことが大好きだって伝えるの。
雨音:年の差?フラレるかも?
雨音:だから、なに?
雨音:私は、司がいいの。
雨音:私に物語を書いてくれたのは、
雨音:私と一緒に戦ってくれたのは、
雨音:私を『生きたい』という気持ちにさせてくれたは、司なの。
雨音:私が想像する楽しい未来には、いつも司がいるの。
雨音:司…司…。
雨音:司に、もう一度会いたい!
雨音:私、がんばるから…!
雨音:司との楽しい未来を、いっぱい、いーっぱい想像するから…!
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司:「おはよう。雨音。よくがんばったね。手術は、成功だよ」
雨音:「つっ、かさ…」
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司:あれから、十年の時が流れた…。
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雪乃:「ねぇ、パパ。パパは、どうしてママと結婚したの?」
司:「あぁ、どうしてママと結婚したかって?」
雪乃:「うん。知りたいの。教えて」
司:「ママはね。とっても、がんばり屋さんだったんだ」
雪乃:「ママ、がんばり屋さんだったの?」
司:「そうだよ。すっごく難しい病気に罹(かか)っていたんだけど、手術を頑張って、その病気を治したんだよ」
雪乃:「でも、私を産んですぐに、死んじゃったよ」
司:「死んじゃったけど、いるんだよ」
雪乃:「死んじゃったけど、いる?」
司:「そうだよ。パパの中に、頑張ってた時のママが、ずっといるんだよ」
雪乃:「頑張ってたママが?」
司:「そうだよ。そして、雪乃の中にもいる」
雪乃:「私の中にも?」
司:「うん」
雪乃:「どういうこと?」
司:「ママはね。雪乃が産まれたことを、とても喜んでいた。雪乃が幸せになることを、すごく願っていた」
雪乃:「そうなの?でも、雪乃はママのこと、全然覚えてない」
司:「覚えてなくても、ママのこと、好きだろ?」
雪乃:「うん…。全然覚えてないけど、ママのことは、大好きだよ」
司:「ほら、いるじゃないか。雪乃の中に、ママがさ。『大好き』って気持ちが、雪乃の中にママがいるって証拠だよ」
雪乃:「そうなの?」
司:「そうだよ。だから、雪乃が悲しい気持ちになってたら、ママも悲しい気持ちになってる」
司:「雪乃が楽しい気持ちになってたら、ママも楽しい気持ちになってる」
雪乃:「じゃあ、いっぱい楽しい気持ちにならないとだ!」
司:「そうだね。雪乃がいっぱい楽しい気持ちになれるように、パパも協力するよ」
雪乃:「ふふっ。ありがとう。あとさ、パパ、宝物ってある?」
司:「宝物?」
雪乃:「そう、宝物」
司:「宝物なら、たくさんあるよ」
雪乃:「私、パパの一番の宝物が知りたいな」
司:「そりゃあ、一番の宝物は、雪乃だよ?」
雪乃:「私は、物じゃないよ!」
司:「あはは(笑)。そうだね。じゃあ、ちょっと待ってて」
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司:「お待たせ。パパの一番の宝物。これかな?」
雪乃:「あれれ?オモチャの、指輪?」
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0:―了―