台本概要
346 views
タイトル | 盲目の彼女と余命半年の僕 |
---|---|
作者名 | そらいろ (@sorairo_0801) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 1人用台本(男1) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
『君が僕の世界に色を付けてくれたんだ』 盲目の少女と余命半年と宣告された青年の切ない物語 ・台本をご利用の際は、作品名、作者名、URLを記載して頂けると嬉しいです 346 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
僕 | 男 | 58 | 余命半年と宣告される。生まれつき体が弱い |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
僕:一人の少女は浜辺で
僕:
僕:目の前に広がる綺麗な海を眺めながら
僕:
僕:手に持っていたスケッチブックをそっと抱きしめ
僕:
僕:「綺麗だね」とつぶやいた
僕:
僕:僕はそんな君の隣に立ち
僕:
僕:同じ景色を眺めながら
僕:
僕:「そうだね」と
僕:
僕:もう声が届かない君に向かって
僕:
僕:そうこたえた
0:
僕:【盲目の彼女と余命半年の僕】
0:
僕:十七歳の春
僕:
僕:僕は今日医師から残り半年の命だと告げられた
僕:
僕:そう言われて悲しむのが普通なのかもしれない
僕:
僕:でも僕は、むしろ少し嬉しかったんだ
僕:
僕:やっとこの色褪せた世界から解放されるのだから
0:
僕:小さい頃からずっとここで過ごしてきた
僕:
僕:僕にとって病院という狭い箱庭が
僕:
僕:僕の全てだった
僕:
僕:死んだら今よりももっと
僕:
僕:広い世界を見ることが出来るのだろうか
0:自分がスケッチブックに描いた海の絵を眺める
僕:空の絵を描くのですら
僕:
僕:一色の色鉛筆では表現なんてできない
僕:
僕:この空もこんなに沢山の色が混ざり合っているのだから
僕:
僕:きっと実際に目で見る海は
僕:
僕:僕が描いたこの絵のような青じゃないんだろう
僕:
僕:でも僕はきっとこのまま
僕:
僕:その「青」を知らないまま死ぬ
0:
僕:「……。」
0:
僕:僕はこの病院で沢山の絵を描いた
僕:
僕:でもその絵は全てどこか薄っぺらく色褪せていたんだ
僕:
僕:だって僕の絵は
僕:
僕:僕の作り出した「偽物の世界」に過ぎないのだから
0:スケッチブックを手に持ち病院の庭に向かう
僕:今日はいつもより暖かく風が心地よい日だった
僕:
僕:僕はスケッチブックを手に持ち
僕:
僕:病院の庭を一人で散歩していた
僕:
僕:すると病院の裏庭に綺麗な桜が咲いているのを見つけた
0:
僕:「こんなところに桜の木なんてあったんだ…」
0:
僕:桜の木の前には古びた青いベンチがあり
僕:
僕:そこには一人の先客がいた
僕:
僕:腰まである長い黒髪がとても綺麗な
僕:
僕:すらっと背の高い少女
僕:
僕:彼女はじっと桜を見つめていた
僕:
僕:僕は桜の絵を描こうと隣に静かに座ると
僕:
僕:彼女はいきなり僕に声をかけてきた
0:
僕:「すみません。この桜はどんな色をしているのでしょうか」と
0:
僕:よく見ると
僕:
僕:彼女の手には白い杖が握られていた
0:
僕:これが僕と沙織の出会いだった
0:
僕:沙織は産まれてすぐに病気で視力を失っていた
僕:
僕:沙織は今日まで
僕:
僕:ずっと色のない暗闇の世界で生きてきたのだ
僕:
僕:それは僕にはとても想像ができない世界だった
僕:
僕:でも沙織はそんな生い立ちをまるで感じさせなかった
僕:
僕:僕とは正反対で
僕:
僕:明るくとてもよく笑う子だった
0:
僕:沙織は見えないはずの空を眺めながら
僕:
僕:「私は青が好きなの」と
僕:
僕:僕に楽しそうに話した
僕:
僕:沙織は実際に青という色を知らない
僕:
僕:でも沙織にとって「青」は
僕:
僕:海や空の色
僕:
僕:きっと一番美しい色なんだろう
0:
僕:沙織は僕に聞いてきた
0:
僕:「ねえ。海の青ってどんな色をしているの?」と
0:
僕:僕は一度も本物の海を見たことがない
僕:
僕:でも僕が知っている海を
僕:
僕:出来る限りの言葉で沙織に説明した
僕:
僕:すると沙織はこんな色褪せた僕の知る偽りの世界を
僕:
僕:綺麗だねと言って
僕:
僕:笑ってくれたのだ
0:
僕:沙織の中ではどんな風に見えているのだろうか
僕:
僕:きっと沙織の見ている世界は
僕:
僕:誰よりも美しいものなのだろう
僕:
僕:こんな僕には見ることが出来ないような
僕:
僕:美しく輝いている世界
0:
僕:そして沙織は僕に言ったんだ
僕:
僕:いつか僕の描いた絵を持って
僕:
僕:その場所に二人で行ってみたいと
僕:
僕:僕はそのとき彼女に何もいうことが出来なかった
0:
僕:沙織は二週間に一度この病院を訪れる
僕:
僕:その時には裏庭に来て
僕:
僕:こうやって色々な景色の話をするんだ
0:
僕:紅葉の話。夕暮れ時の空の話
僕:
僕:雪で真っ白になった富士山や
僕:
僕:透き通った湖の話
0:
僕:全部僕が本や写真で見ただけの景色を沙織に話す
僕:
僕:これがいつの間にか僕たちの当たり前になっていた
0:
僕:沙織はまるで子供みたいに質問攻めをしてくるもんだから
僕:
僕:僕は沙織が来る少し前の日は
僕:
僕:一生懸命その景色やその土地について調べた
僕:
僕:どうすればより沙織にその美しい景色を伝えられるのか
僕:
僕:どう表現すれば沙織に分かりやすいのか
0:
僕:僕は一生懸命メモをしながら
僕:
僕:この話を聞いてはしゃぐ沙織の姿を想像して
僕:
僕:笑っていた
0:
僕:この時は自分でも気づいていなかったんだ
僕:
僕:自分がよく笑うようになっていたことに
0:
僕:僕はいつから
僕:
僕:こうして良く笑うようになったんだろうか
僕:
僕:毎日毎日死にたいと思っていたのに
僕:
僕:いつの間にそう考えなくなっていたんだろうか
僕:
僕:僕はいつから
僕:
僕:こうして明日を
僕:
僕:楽しみにするようになっていたんだろうか
0:
僕:しかし僕の体は徐々に弱っていった
僕:
僕:最近は少し歩いただけで息切れするようになった
僕:
僕:たまに僕を襲う鋭い体の痛み
僕:
僕:時には点滴を打たないと耐えられない時もあった
0:
僕:僕はきっともうすぐこの場所には来れなくなる
僕:
僕:しかし沙織は
僕:
僕:僕が余命宣告を受けていることを知らない
僕:
僕:沙織には伝えるべきなんだろうか
僕:
僕:でもこのことを知ったら優しい沙織は
僕:
僕:きっと悲しむだろう
僕:
僕:そう考えると
僕:
僕:伝えることができなかった
僕:
僕:沙織の悲しむ姿は見たくなかったんだ
0:
僕:今日もいつものように沙織が先に来てベンチに座っていた
僕:
僕:でもその姿はいつもと違ってどこか元気がなかった
0:
僕:「何かあったの?」
0:
僕:すると沙織は僕に言った
僕:
僕:二週間後に手術を受けることになった
僕:
僕:その手術が成功すれば
僕:
僕:目が見えるようになるかもしれないと
僕:
僕:しかしリスクも大きい手術で
僕:
僕:受けるのが怖いのだと
0:
僕:そして沙織は
僕:
僕:声を震わせて言った
僕:
僕:「これ以上辛い思いはしたくない」
僕:
僕:「もう…このまま…見えないままでいい」と
僕:
僕:そう話す沙織の顔は
僕:
僕:涙でぐちゃぐちゃだった
0:
僕:僕は震える沙織の手を握り言った
0:
僕:「なぁ沙織。もし沙織の目が見えるようになったらさ」
僕:
僕:「一緒に海に行こうか」
0:
僕:すると沙織は「え?」と
僕:
僕:泣きはらした目で僕の方を見た
0:
僕:「沙織が今まで見ることが出来なかった分、二人でたっくさんの景色を見に行こう」
僕:
僕:「沙織なんてきっと感動してさ、鼻を垂らしながら僕の隣でわんわん泣いちゃうんじゃないか?」
僕:
僕:「沙織はきっと子供みたいにはしゃぎ出すだろうから、おもりするの大変だろうなぁ」
0:
僕:そう笑いながらいうと
僕:
僕:沙織は「そんなことない」って
僕:
僕:頬を膨らませながら拗ねた
僕:
僕:そして最後は二人でそんな未来のことを話して
僕:
僕:二人で笑った
0:
僕:僕も病気と頑張って闘うから
僕:
僕:一か月後。またここで会おう
僕:
僕:お互い頑張ろう
僕:
僕:そう言い僕達は指切りをした
0:
僕:沙織は帰るとき
僕:
僕:くるっと僕の方に振り返り
僕:
僕:ありがとうと言った
0:
僕:「がんばれよ。沙織!!」
0:
僕:そう言うと彼女は笑って頷いた
0:
僕:僕は沙織がいなくなったベンチで一人
僕:
僕:ピンクから緑に変わった桜の木を眺めていた
僕:
僕:もうこの桜の木が花を咲かす頃には
僕:
僕:僕はこの世にいない
僕:
僕:気が付くと僕はスケッチブックを強く握りしめていた
僕:
僕:そのスケッチブックは
僕:
僕:涙でびしょびしょだった
0:
僕:本当は沙織の初めての瞬間を
僕:
僕:僕も隣で一緒に迎えたかった
僕:
僕:僕も沙織と同じ景色をこの目で見たかった
僕:
僕:二人で色々なところに行って
僕:
僕:「ほら、僕の言ってた通りの色をしているだろっ」なんて
僕:
僕:僕だって初めて見る癖にちょっと知ったかぶりをして
僕:
僕:二人でまたここに行きたいねって計画立てて
僕:
僕:一緒に馬鹿みたいにはしゃいで…
0:
僕:普通の人にとっては特別なことじゃないかもしれないけど
僕:
僕:僕にはそれを望むことすらできない
僕:
僕:僕にはもう明日が来ることが
僕:
僕:当たり前ではないのだから
0:
僕:この時僕は
僕:
僕:自分の本当の気持ちに気づいたんだ
僕:
僕:もしかしたら本当は
僕:
僕:気づかないふりをしていただけなのもかもしれない
0:
僕:僕が望むことを許されなかったこと
僕:
僕:この僕が一番望んではいけないこと
0:
僕:「僕はまだ…生きていたいんだ」
0:
僕:あと一年でもいいから
僕:
僕:いや
僕:
僕:沙織が手術が終わるその日まででもいいから
僕:
僕:君と同じ世界をこの目で見たかった
0:
僕:神様がもし本当に存在するのなら
僕:
僕:あと少しだけでいいから
僕:
僕:僕を…生かしてくれ
0:
僕:しかしその願いは叶わなかった
僕:
僕:あれから一週間後
僕:
僕:僕の体は徐々に自由を失い
僕:
僕:ベッドから動くことが出来なくなった
0:
僕:でも僕は今日もベッドで鉛筆を手にとった
僕:
僕:最後の力を振り絞って
僕:
僕:丁寧に丁寧に線を描いていく
僕:
僕:どうしても完成させたい絵があったんだ
0:
僕:きっと僕が描く最初で最後の
僕:
僕:色褪せていない
僕:
僕:綺麗な色のついた作品になるだろう
0:
僕:それは沙織が
僕:
僕:沢山のカラフルな優しい光に包まれながら
僕:
僕:嬉しそうに桜を見ている絵
0:
僕:僕は看護師さんに頼んだんだ
僕:
僕:もし僕を訪ねてくる女の子がいたら
僕:
僕:このスケッチブックを渡してほしいと
0:
僕:どうかこのスケッチブックが
僕:
僕:僕の代わりに沙織と
僕:
僕:沢山の景色を見ることが出来ますように
0:
僕:僕はそのスケッチブックを静かに机に置いた
0:
僕:「沙織。こんな僕に生きたいと思わせてくれて」
僕:
僕:「僕の世界に沢山の色を付けてくれて」
僕:
僕:「ありがとう」
僕:一人の少女は浜辺で
僕:
僕:目の前に広がる綺麗な海を眺めながら
僕:
僕:手に持っていたスケッチブックをそっと抱きしめ
僕:
僕:「綺麗だね」とつぶやいた
僕:
僕:僕はそんな君の隣に立ち
僕:
僕:同じ景色を眺めながら
僕:
僕:「そうだね」と
僕:
僕:もう声が届かない君に向かって
僕:
僕:そうこたえた
0:
僕:【盲目の彼女と余命半年の僕】
0:
僕:十七歳の春
僕:
僕:僕は今日医師から残り半年の命だと告げられた
僕:
僕:そう言われて悲しむのが普通なのかもしれない
僕:
僕:でも僕は、むしろ少し嬉しかったんだ
僕:
僕:やっとこの色褪せた世界から解放されるのだから
0:
僕:小さい頃からずっとここで過ごしてきた
僕:
僕:僕にとって病院という狭い箱庭が
僕:
僕:僕の全てだった
僕:
僕:死んだら今よりももっと
僕:
僕:広い世界を見ることが出来るのだろうか
0:自分がスケッチブックに描いた海の絵を眺める
僕:空の絵を描くのですら
僕:
僕:一色の色鉛筆では表現なんてできない
僕:
僕:この空もこんなに沢山の色が混ざり合っているのだから
僕:
僕:きっと実際に目で見る海は
僕:
僕:僕が描いたこの絵のような青じゃないんだろう
僕:
僕:でも僕はきっとこのまま
僕:
僕:その「青」を知らないまま死ぬ
0:
僕:「……。」
0:
僕:僕はこの病院で沢山の絵を描いた
僕:
僕:でもその絵は全てどこか薄っぺらく色褪せていたんだ
僕:
僕:だって僕の絵は
僕:
僕:僕の作り出した「偽物の世界」に過ぎないのだから
0:スケッチブックを手に持ち病院の庭に向かう
僕:今日はいつもより暖かく風が心地よい日だった
僕:
僕:僕はスケッチブックを手に持ち
僕:
僕:病院の庭を一人で散歩していた
僕:
僕:すると病院の裏庭に綺麗な桜が咲いているのを見つけた
0:
僕:「こんなところに桜の木なんてあったんだ…」
0:
僕:桜の木の前には古びた青いベンチがあり
僕:
僕:そこには一人の先客がいた
僕:
僕:腰まである長い黒髪がとても綺麗な
僕:
僕:すらっと背の高い少女
僕:
僕:彼女はじっと桜を見つめていた
僕:
僕:僕は桜の絵を描こうと隣に静かに座ると
僕:
僕:彼女はいきなり僕に声をかけてきた
0:
僕:「すみません。この桜はどんな色をしているのでしょうか」と
0:
僕:よく見ると
僕:
僕:彼女の手には白い杖が握られていた
0:
僕:これが僕と沙織の出会いだった
0:
僕:沙織は産まれてすぐに病気で視力を失っていた
僕:
僕:沙織は今日まで
僕:
僕:ずっと色のない暗闇の世界で生きてきたのだ
僕:
僕:それは僕にはとても想像ができない世界だった
僕:
僕:でも沙織はそんな生い立ちをまるで感じさせなかった
僕:
僕:僕とは正反対で
僕:
僕:明るくとてもよく笑う子だった
0:
僕:沙織は見えないはずの空を眺めながら
僕:
僕:「私は青が好きなの」と
僕:
僕:僕に楽しそうに話した
僕:
僕:沙織は実際に青という色を知らない
僕:
僕:でも沙織にとって「青」は
僕:
僕:海や空の色
僕:
僕:きっと一番美しい色なんだろう
0:
僕:沙織は僕に聞いてきた
0:
僕:「ねえ。海の青ってどんな色をしているの?」と
0:
僕:僕は一度も本物の海を見たことがない
僕:
僕:でも僕が知っている海を
僕:
僕:出来る限りの言葉で沙織に説明した
僕:
僕:すると沙織はこんな色褪せた僕の知る偽りの世界を
僕:
僕:綺麗だねと言って
僕:
僕:笑ってくれたのだ
0:
僕:沙織の中ではどんな風に見えているのだろうか
僕:
僕:きっと沙織の見ている世界は
僕:
僕:誰よりも美しいものなのだろう
僕:
僕:こんな僕には見ることが出来ないような
僕:
僕:美しく輝いている世界
0:
僕:そして沙織は僕に言ったんだ
僕:
僕:いつか僕の描いた絵を持って
僕:
僕:その場所に二人で行ってみたいと
僕:
僕:僕はそのとき彼女に何もいうことが出来なかった
0:
僕:沙織は二週間に一度この病院を訪れる
僕:
僕:その時には裏庭に来て
僕:
僕:こうやって色々な景色の話をするんだ
0:
僕:紅葉の話。夕暮れ時の空の話
僕:
僕:雪で真っ白になった富士山や
僕:
僕:透き通った湖の話
0:
僕:全部僕が本や写真で見ただけの景色を沙織に話す
僕:
僕:これがいつの間にか僕たちの当たり前になっていた
0:
僕:沙織はまるで子供みたいに質問攻めをしてくるもんだから
僕:
僕:僕は沙織が来る少し前の日は
僕:
僕:一生懸命その景色やその土地について調べた
僕:
僕:どうすればより沙織にその美しい景色を伝えられるのか
僕:
僕:どう表現すれば沙織に分かりやすいのか
0:
僕:僕は一生懸命メモをしながら
僕:
僕:この話を聞いてはしゃぐ沙織の姿を想像して
僕:
僕:笑っていた
0:
僕:この時は自分でも気づいていなかったんだ
僕:
僕:自分がよく笑うようになっていたことに
0:
僕:僕はいつから
僕:
僕:こうして良く笑うようになったんだろうか
僕:
僕:毎日毎日死にたいと思っていたのに
僕:
僕:いつの間にそう考えなくなっていたんだろうか
僕:
僕:僕はいつから
僕:
僕:こうして明日を
僕:
僕:楽しみにするようになっていたんだろうか
0:
僕:しかし僕の体は徐々に弱っていった
僕:
僕:最近は少し歩いただけで息切れするようになった
僕:
僕:たまに僕を襲う鋭い体の痛み
僕:
僕:時には点滴を打たないと耐えられない時もあった
0:
僕:僕はきっともうすぐこの場所には来れなくなる
僕:
僕:しかし沙織は
僕:
僕:僕が余命宣告を受けていることを知らない
僕:
僕:沙織には伝えるべきなんだろうか
僕:
僕:でもこのことを知ったら優しい沙織は
僕:
僕:きっと悲しむだろう
僕:
僕:そう考えると
僕:
僕:伝えることができなかった
僕:
僕:沙織の悲しむ姿は見たくなかったんだ
0:
僕:今日もいつものように沙織が先に来てベンチに座っていた
僕:
僕:でもその姿はいつもと違ってどこか元気がなかった
0:
僕:「何かあったの?」
0:
僕:すると沙織は僕に言った
僕:
僕:二週間後に手術を受けることになった
僕:
僕:その手術が成功すれば
僕:
僕:目が見えるようになるかもしれないと
僕:
僕:しかしリスクも大きい手術で
僕:
僕:受けるのが怖いのだと
0:
僕:そして沙織は
僕:
僕:声を震わせて言った
僕:
僕:「これ以上辛い思いはしたくない」
僕:
僕:「もう…このまま…見えないままでいい」と
僕:
僕:そう話す沙織の顔は
僕:
僕:涙でぐちゃぐちゃだった
0:
僕:僕は震える沙織の手を握り言った
0:
僕:「なぁ沙織。もし沙織の目が見えるようになったらさ」
僕:
僕:「一緒に海に行こうか」
0:
僕:すると沙織は「え?」と
僕:
僕:泣きはらした目で僕の方を見た
0:
僕:「沙織が今まで見ることが出来なかった分、二人でたっくさんの景色を見に行こう」
僕:
僕:「沙織なんてきっと感動してさ、鼻を垂らしながら僕の隣でわんわん泣いちゃうんじゃないか?」
僕:
僕:「沙織はきっと子供みたいにはしゃぎ出すだろうから、おもりするの大変だろうなぁ」
0:
僕:そう笑いながらいうと
僕:
僕:沙織は「そんなことない」って
僕:
僕:頬を膨らませながら拗ねた
僕:
僕:そして最後は二人でそんな未来のことを話して
僕:
僕:二人で笑った
0:
僕:僕も病気と頑張って闘うから
僕:
僕:一か月後。またここで会おう
僕:
僕:お互い頑張ろう
僕:
僕:そう言い僕達は指切りをした
0:
僕:沙織は帰るとき
僕:
僕:くるっと僕の方に振り返り
僕:
僕:ありがとうと言った
0:
僕:「がんばれよ。沙織!!」
0:
僕:そう言うと彼女は笑って頷いた
0:
僕:僕は沙織がいなくなったベンチで一人
僕:
僕:ピンクから緑に変わった桜の木を眺めていた
僕:
僕:もうこの桜の木が花を咲かす頃には
僕:
僕:僕はこの世にいない
僕:
僕:気が付くと僕はスケッチブックを強く握りしめていた
僕:
僕:そのスケッチブックは
僕:
僕:涙でびしょびしょだった
0:
僕:本当は沙織の初めての瞬間を
僕:
僕:僕も隣で一緒に迎えたかった
僕:
僕:僕も沙織と同じ景色をこの目で見たかった
僕:
僕:二人で色々なところに行って
僕:
僕:「ほら、僕の言ってた通りの色をしているだろっ」なんて
僕:
僕:僕だって初めて見る癖にちょっと知ったかぶりをして
僕:
僕:二人でまたここに行きたいねって計画立てて
僕:
僕:一緒に馬鹿みたいにはしゃいで…
0:
僕:普通の人にとっては特別なことじゃないかもしれないけど
僕:
僕:僕にはそれを望むことすらできない
僕:
僕:僕にはもう明日が来ることが
僕:
僕:当たり前ではないのだから
0:
僕:この時僕は
僕:
僕:自分の本当の気持ちに気づいたんだ
僕:
僕:もしかしたら本当は
僕:
僕:気づかないふりをしていただけなのもかもしれない
0:
僕:僕が望むことを許されなかったこと
僕:
僕:この僕が一番望んではいけないこと
0:
僕:「僕はまだ…生きていたいんだ」
0:
僕:あと一年でもいいから
僕:
僕:いや
僕:
僕:沙織が手術が終わるその日まででもいいから
僕:
僕:君と同じ世界をこの目で見たかった
0:
僕:神様がもし本当に存在するのなら
僕:
僕:あと少しだけでいいから
僕:
僕:僕を…生かしてくれ
0:
僕:しかしその願いは叶わなかった
僕:
僕:あれから一週間後
僕:
僕:僕の体は徐々に自由を失い
僕:
僕:ベッドから動くことが出来なくなった
0:
僕:でも僕は今日もベッドで鉛筆を手にとった
僕:
僕:最後の力を振り絞って
僕:
僕:丁寧に丁寧に線を描いていく
僕:
僕:どうしても完成させたい絵があったんだ
0:
僕:きっと僕が描く最初で最後の
僕:
僕:色褪せていない
僕:
僕:綺麗な色のついた作品になるだろう
0:
僕:それは沙織が
僕:
僕:沢山のカラフルな優しい光に包まれながら
僕:
僕:嬉しそうに桜を見ている絵
0:
僕:僕は看護師さんに頼んだんだ
僕:
僕:もし僕を訪ねてくる女の子がいたら
僕:
僕:このスケッチブックを渡してほしいと
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僕:どうかこのスケッチブックが
僕:
僕:僕の代わりに沙織と
僕:
僕:沢山の景色を見ることが出来ますように
0:
僕:僕はそのスケッチブックを静かに机に置いた
0:
僕:「沙織。こんな僕に生きたいと思わせてくれて」
僕:
僕:「僕の世界に沢山の色を付けてくれて」
僕:
僕:「ありがとう」