台本概要

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タイトル 盲目の彼女と余命半年の僕
作者名 そらいろ  (@sorairo_0801)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 1人用台本(男1) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 『君が僕の世界に色を付けてくれたんだ』

盲目の少女と余命半年と宣告された青年の切ない物語

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
58 余命半年と宣告される。生まれつき体が弱い
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
僕:一人の少女は浜辺で 僕: 僕:目の前に広がる綺麗な海を眺めながら 僕: 僕:手に持っていたスケッチブックをそっと抱きしめ 僕: 僕:「綺麗だね」とつぶやいた 僕: 僕:僕はそんな君の隣に立ち 僕: 僕:同じ景色を眺めながら 僕: 僕:「そうだね」と 僕: 僕:もう声が届かない君に向かって 僕: 僕:そうこたえた 0: 僕:【盲目の彼女と余命半年の僕】 0:   僕:十七歳の春 僕: 僕:僕は今日医師から残り半年の命だと告げられた 僕: 僕:そう言われて悲しむのが普通なのかもしれない 僕: 僕:でも僕は、むしろ少し嬉しかったんだ 僕: 僕:やっとこの色褪せた世界から解放されるのだから 0: 僕:小さい頃からずっとここで過ごしてきた 僕: 僕:僕にとって病院という狭い箱庭が 僕: 僕:僕の全てだった 僕:  僕:死んだら今よりももっと 僕: 僕:広い世界を見ることが出来るのだろうか 0:自分がスケッチブックに描いた海の絵を眺める 僕:空の絵を描くのですら 僕: 僕:一色の色鉛筆では表現なんてできない 僕: 僕:この空もこんなに沢山の色が混ざり合っているのだから 僕: 僕:きっと実際に目で見る海は 僕: 僕:僕が描いたこの絵のような青じゃないんだろう 僕: 僕:でも僕はきっとこのまま 僕: 僕:その「青」を知らないまま死ぬ 0: 僕:「……。」 0: 僕:僕はこの病院で沢山の絵を描いた 僕: 僕:でもその絵は全てどこか薄っぺらく色褪せていたんだ 僕: 僕:だって僕の絵は 僕: 僕:僕の作り出した「偽物の世界」に過ぎないのだから   0:スケッチブックを手に持ち病院の庭に向かう   僕:今日はいつもより暖かく風が心地よい日だった 僕: 僕:僕はスケッチブックを手に持ち 僕: 僕:病院の庭を一人で散歩していた 僕: 僕:すると病院の裏庭に綺麗な桜が咲いているのを見つけた 0: 僕:「こんなところに桜の木なんてあったんだ…」 0: 僕:桜の木の前には古びた青いベンチがあり 僕: 僕:そこには一人の先客がいた 僕: 僕:腰まである長い黒髪がとても綺麗な 僕: 僕:すらっと背の高い少女 僕: 僕:彼女はじっと桜を見つめていた 僕: 僕:僕は桜の絵を描こうと隣に静かに座ると 僕: 僕:彼女はいきなり僕に声をかけてきた 0: 僕:「すみません。この桜はどんな色をしているのでしょうか」と 0: 僕:よく見ると 僕:  僕:彼女の手には白い杖が握られていた 0: 僕:これが僕と沙織の出会いだった 0: 僕:沙織は産まれてすぐに病気で視力を失っていた 僕: 僕:沙織は今日まで 僕: 僕:ずっと色のない暗闇の世界で生きてきたのだ 僕: 僕:それは僕にはとても想像ができない世界だった 僕: 僕:でも沙織はそんな生い立ちをまるで感じさせなかった 僕: 僕:僕とは正反対で 僕: 僕:明るくとてもよく笑う子だった 0: 僕:沙織は見えないはずの空を眺めながら 僕: 僕:「私は青が好きなの」と 僕: 僕:僕に楽しそうに話した 僕: 僕:沙織は実際に青という色を知らない 僕: 僕:でも沙織にとって「青」は 僕: 僕:海や空の色 僕: 僕:きっと一番美しい色なんだろう 0: 僕:沙織は僕に聞いてきた 0: 僕:「ねえ。海の青ってどんな色をしているの?」と 0: 僕:僕は一度も本物の海を見たことがない 僕: 僕:でも僕が知っている海を 僕: 僕:出来る限りの言葉で沙織に説明した 僕: 僕:すると沙織はこんな色褪せた僕の知る偽りの世界を 僕: 僕:綺麗だねと言って 僕: 僕:笑ってくれたのだ 0: 僕:沙織の中ではどんな風に見えているのだろうか 僕: 僕:きっと沙織の見ている世界は 僕: 僕:誰よりも美しいものなのだろう 僕: 僕:こんな僕には見ることが出来ないような 僕: 僕:美しく輝いている世界 0: 僕:そして沙織は僕に言ったんだ 僕: 僕:いつか僕の描いた絵を持って 僕: 僕:その場所に二人で行ってみたいと 僕: 僕:僕はそのとき彼女に何もいうことが出来なかった 0: 僕:沙織は二週間に一度この病院を訪れる 僕: 僕:その時には裏庭に来て 僕: 僕:こうやって色々な景色の話をするんだ 0: 僕:紅葉の話。夕暮れ時の空の話 僕: 僕:雪で真っ白になった富士山や 僕: 僕:透き通った湖の話 0: 僕:全部僕が本や写真で見ただけの景色を沙織に話す 僕: 僕:これがいつの間にか僕たちの当たり前になっていた 0: 僕:沙織はまるで子供みたいに質問攻めをしてくるもんだから 僕: 僕:僕は沙織が来る少し前の日は 僕: 僕:一生懸命その景色やその土地について調べた 僕: 僕:どうすればより沙織にその美しい景色を伝えられるのか 僕: 僕:どう表現すれば沙織に分かりやすいのか 0: 僕:僕は一生懸命メモをしながら 僕: 僕:この話を聞いてはしゃぐ沙織の姿を想像して 僕: 僕:笑っていた 0: 僕:この時は自分でも気づいていなかったんだ 僕: 僕:自分がよく笑うようになっていたことに 0: 僕:僕はいつから 僕: 僕:こうして良く笑うようになったんだろうか 僕: 僕:毎日毎日死にたいと思っていたのに 僕: 僕:いつの間にそう考えなくなっていたんだろうか 僕: 僕:僕はいつから 僕: 僕:こうして明日を 僕: 僕:楽しみにするようになっていたんだろうか 0: 僕:しかし僕の体は徐々に弱っていった 僕: 僕:最近は少し歩いただけで息切れするようになった 僕: 僕:たまに僕を襲う鋭い体の痛み 僕: 僕:時には点滴を打たないと耐えられない時もあった 0: 僕:僕はきっともうすぐこの場所には来れなくなる 僕: 僕:しかし沙織は 僕: 僕:僕が余命宣告を受けていることを知らない 僕: 僕:沙織には伝えるべきなんだろうか 僕: 僕:でもこのことを知ったら優しい沙織は 僕: 僕:きっと悲しむだろう 僕: 僕:そう考えると 僕: 僕:伝えることができなかった 僕: 僕:沙織の悲しむ姿は見たくなかったんだ 0: 僕:今日もいつものように沙織が先に来てベンチに座っていた 僕: 僕:でもその姿はいつもと違ってどこか元気がなかった 0: 僕:「何かあったの?」 0: 僕:すると沙織は僕に言った 僕: 僕:二週間後に手術を受けることになった 僕: 僕:その手術が成功すれば 僕: 僕:目が見えるようになるかもしれないと 僕: 僕:しかしリスクも大きい手術で 僕: 僕:受けるのが怖いのだと 0: 僕:そして沙織は 僕: 僕:声を震わせて言った 僕: 僕:「これ以上辛い思いはしたくない」 僕: 僕:「もう…このまま…見えないままでいい」と 僕: 僕:そう話す沙織の顔は 僕: 僕:涙でぐちゃぐちゃだった 0: 僕:僕は震える沙織の手を握り言った 0: 僕:「なぁ沙織。もし沙織の目が見えるようになったらさ」 僕:  僕:「一緒に海に行こうか」 0: 僕:すると沙織は「え?」と 僕: 僕:泣きはらした目で僕の方を見た 0:   僕:「沙織が今まで見ることが出来なかった分、二人でたっくさんの景色を見に行こう」 僕: 僕:「沙織なんてきっと感動してさ、鼻を垂らしながら僕の隣でわんわん泣いちゃうんじゃないか?」 僕:   僕:「沙織はきっと子供みたいにはしゃぎ出すだろうから、おもりするの大変だろうなぁ」 0: 僕:そう笑いながらいうと 僕: 僕:沙織は「そんなことない」って 僕: 僕:頬を膨らませながら拗ねた 僕: 僕:そして最後は二人でそんな未来のことを話して 僕: 僕:二人で笑った 0: 僕:僕も病気と頑張って闘うから 僕: 僕:一か月後。またここで会おう 僕: 僕:お互い頑張ろう 僕: 僕:そう言い僕達は指切りをした 0: 僕:沙織は帰るとき 僕: 僕:くるっと僕の方に振り返り 僕: 僕:ありがとうと言った 0: 僕:「がんばれよ。沙織!!」 0: 僕:そう言うと彼女は笑って頷いた 0: 僕:僕は沙織がいなくなったベンチで一人 僕: 僕:ピンクから緑に変わった桜の木を眺めていた 僕: 僕:もうこの桜の木が花を咲かす頃には 僕: 僕:僕はこの世にいない 僕: 僕:気が付くと僕はスケッチブックを強く握りしめていた 僕: 僕:そのスケッチブックは 僕: 僕:涙でびしょびしょだった 0: 僕:本当は沙織の初めての瞬間を 僕: 僕:僕も隣で一緒に迎えたかった 僕: 僕:僕も沙織と同じ景色をこの目で見たかった 僕: 僕:二人で色々なところに行って 僕: 僕:「ほら、僕の言ってた通りの色をしているだろっ」なんて 僕: 僕:僕だって初めて見る癖にちょっと知ったかぶりをして 僕: 僕:二人でまたここに行きたいねって計画立てて 僕: 僕:一緒に馬鹿みたいにはしゃいで… 0: 僕:普通の人にとっては特別なことじゃないかもしれないけど 僕: 僕:僕にはそれを望むことすらできない 僕:  僕:僕にはもう明日が来ることが 僕:  僕:当たり前ではないのだから 0: 僕:この時僕は 僕: 僕:自分の本当の気持ちに気づいたんだ 僕:  僕:もしかしたら本当は 僕: 僕:気づかないふりをしていただけなのもかもしれない 0: 僕:僕が望むことを許されなかったこと 僕:  僕:この僕が一番望んではいけないこと 0: 僕:「僕はまだ…生きていたいんだ」 0: 僕:あと一年でもいいから 僕:  僕:いや 僕:  僕:沙織が手術が終わるその日まででもいいから 僕: 僕:君と同じ世界をこの目で見たかった 0: 僕:神様がもし本当に存在するのなら 僕: 僕:あと少しだけでいいから 僕: 僕:僕を…生かしてくれ 0: 僕:しかしその願いは叶わなかった 僕: 僕:あれから一週間後 僕: 僕:僕の体は徐々に自由を失い 僕: 僕:ベッドから動くことが出来なくなった 0: 僕:でも僕は今日もベッドで鉛筆を手にとった 僕: 僕:最後の力を振り絞って 僕: 僕:丁寧に丁寧に線を描いていく 僕: 僕:どうしても完成させたい絵があったんだ 0: 僕:きっと僕が描く最初で最後の 僕: 僕:色褪せていない 僕: 僕:綺麗な色のついた作品になるだろう 0: 僕:それは沙織が 僕: 僕:沢山のカラフルな優しい光に包まれながら 僕: 僕:嬉しそうに桜を見ている絵 0: 僕:僕は看護師さんに頼んだんだ 僕: 僕:もし僕を訪ねてくる女の子がいたら 僕: 僕:このスケッチブックを渡してほしいと 0: 僕:どうかこのスケッチブックが 僕: 僕:僕の代わりに沙織と 僕: 僕:沢山の景色を見ることが出来ますように 0: 僕:僕はそのスケッチブックを静かに机に置いた 0: 僕:「沙織。こんな僕に生きたいと思わせてくれて」 僕: 僕:「僕の世界に沢山の色を付けてくれて」 僕: 僕:「ありがとう」

僕:一人の少女は浜辺で 僕: 僕:目の前に広がる綺麗な海を眺めながら 僕: 僕:手に持っていたスケッチブックをそっと抱きしめ 僕: 僕:「綺麗だね」とつぶやいた 僕: 僕:僕はそんな君の隣に立ち 僕: 僕:同じ景色を眺めながら 僕: 僕:「そうだね」と 僕: 僕:もう声が届かない君に向かって 僕: 僕:そうこたえた 0: 僕:【盲目の彼女と余命半年の僕】 0:   僕:十七歳の春 僕: 僕:僕は今日医師から残り半年の命だと告げられた 僕: 僕:そう言われて悲しむのが普通なのかもしれない 僕: 僕:でも僕は、むしろ少し嬉しかったんだ 僕: 僕:やっとこの色褪せた世界から解放されるのだから 0: 僕:小さい頃からずっとここで過ごしてきた 僕: 僕:僕にとって病院という狭い箱庭が 僕: 僕:僕の全てだった 僕:  僕:死んだら今よりももっと 僕: 僕:広い世界を見ることが出来るのだろうか 0:自分がスケッチブックに描いた海の絵を眺める 僕:空の絵を描くのですら 僕: 僕:一色の色鉛筆では表現なんてできない 僕: 僕:この空もこんなに沢山の色が混ざり合っているのだから 僕: 僕:きっと実際に目で見る海は 僕: 僕:僕が描いたこの絵のような青じゃないんだろう 僕: 僕:でも僕はきっとこのまま 僕: 僕:その「青」を知らないまま死ぬ 0: 僕:「……。」 0: 僕:僕はこの病院で沢山の絵を描いた 僕: 僕:でもその絵は全てどこか薄っぺらく色褪せていたんだ 僕: 僕:だって僕の絵は 僕: 僕:僕の作り出した「偽物の世界」に過ぎないのだから   0:スケッチブックを手に持ち病院の庭に向かう   僕:今日はいつもより暖かく風が心地よい日だった 僕: 僕:僕はスケッチブックを手に持ち 僕: 僕:病院の庭を一人で散歩していた 僕: 僕:すると病院の裏庭に綺麗な桜が咲いているのを見つけた 0: 僕:「こんなところに桜の木なんてあったんだ…」 0: 僕:桜の木の前には古びた青いベンチがあり 僕: 僕:そこには一人の先客がいた 僕: 僕:腰まである長い黒髪がとても綺麗な 僕: 僕:すらっと背の高い少女 僕: 僕:彼女はじっと桜を見つめていた 僕: 僕:僕は桜の絵を描こうと隣に静かに座ると 僕: 僕:彼女はいきなり僕に声をかけてきた 0: 僕:「すみません。この桜はどんな色をしているのでしょうか」と 0: 僕:よく見ると 僕:  僕:彼女の手には白い杖が握られていた 0: 僕:これが僕と沙織の出会いだった 0: 僕:沙織は産まれてすぐに病気で視力を失っていた 僕: 僕:沙織は今日まで 僕: 僕:ずっと色のない暗闇の世界で生きてきたのだ 僕: 僕:それは僕にはとても想像ができない世界だった 僕: 僕:でも沙織はそんな生い立ちをまるで感じさせなかった 僕: 僕:僕とは正反対で 僕: 僕:明るくとてもよく笑う子だった 0: 僕:沙織は見えないはずの空を眺めながら 僕: 僕:「私は青が好きなの」と 僕: 僕:僕に楽しそうに話した 僕: 僕:沙織は実際に青という色を知らない 僕: 僕:でも沙織にとって「青」は 僕: 僕:海や空の色 僕: 僕:きっと一番美しい色なんだろう 0: 僕:沙織は僕に聞いてきた 0: 僕:「ねえ。海の青ってどんな色をしているの?」と 0: 僕:僕は一度も本物の海を見たことがない 僕: 僕:でも僕が知っている海を 僕: 僕:出来る限りの言葉で沙織に説明した 僕: 僕:すると沙織はこんな色褪せた僕の知る偽りの世界を 僕: 僕:綺麗だねと言って 僕: 僕:笑ってくれたのだ 0: 僕:沙織の中ではどんな風に見えているのだろうか 僕: 僕:きっと沙織の見ている世界は 僕: 僕:誰よりも美しいものなのだろう 僕: 僕:こんな僕には見ることが出来ないような 僕: 僕:美しく輝いている世界 0: 僕:そして沙織は僕に言ったんだ 僕: 僕:いつか僕の描いた絵を持って 僕: 僕:その場所に二人で行ってみたいと 僕: 僕:僕はそのとき彼女に何もいうことが出来なかった 0: 僕:沙織は二週間に一度この病院を訪れる 僕: 僕:その時には裏庭に来て 僕: 僕:こうやって色々な景色の話をするんだ 0: 僕:紅葉の話。夕暮れ時の空の話 僕: 僕:雪で真っ白になった富士山や 僕: 僕:透き通った湖の話 0: 僕:全部僕が本や写真で見ただけの景色を沙織に話す 僕: 僕:これがいつの間にか僕たちの当たり前になっていた 0: 僕:沙織はまるで子供みたいに質問攻めをしてくるもんだから 僕: 僕:僕は沙織が来る少し前の日は 僕: 僕:一生懸命その景色やその土地について調べた 僕: 僕:どうすればより沙織にその美しい景色を伝えられるのか 僕: 僕:どう表現すれば沙織に分かりやすいのか 0: 僕:僕は一生懸命メモをしながら 僕: 僕:この話を聞いてはしゃぐ沙織の姿を想像して 僕: 僕:笑っていた 0: 僕:この時は自分でも気づいていなかったんだ 僕: 僕:自分がよく笑うようになっていたことに 0: 僕:僕はいつから 僕: 僕:こうして良く笑うようになったんだろうか 僕: 僕:毎日毎日死にたいと思っていたのに 僕: 僕:いつの間にそう考えなくなっていたんだろうか 僕: 僕:僕はいつから 僕: 僕:こうして明日を 僕: 僕:楽しみにするようになっていたんだろうか 0: 僕:しかし僕の体は徐々に弱っていった 僕: 僕:最近は少し歩いただけで息切れするようになった 僕: 僕:たまに僕を襲う鋭い体の痛み 僕: 僕:時には点滴を打たないと耐えられない時もあった 0: 僕:僕はきっともうすぐこの場所には来れなくなる 僕: 僕:しかし沙織は 僕: 僕:僕が余命宣告を受けていることを知らない 僕: 僕:沙織には伝えるべきなんだろうか 僕: 僕:でもこのことを知ったら優しい沙織は 僕: 僕:きっと悲しむだろう 僕: 僕:そう考えると 僕: 僕:伝えることができなかった 僕: 僕:沙織の悲しむ姿は見たくなかったんだ 0: 僕:今日もいつものように沙織が先に来てベンチに座っていた 僕: 僕:でもその姿はいつもと違ってどこか元気がなかった 0: 僕:「何かあったの?」 0: 僕:すると沙織は僕に言った 僕: 僕:二週間後に手術を受けることになった 僕: 僕:その手術が成功すれば 僕: 僕:目が見えるようになるかもしれないと 僕: 僕:しかしリスクも大きい手術で 僕: 僕:受けるのが怖いのだと 0: 僕:そして沙織は 僕: 僕:声を震わせて言った 僕: 僕:「これ以上辛い思いはしたくない」 僕: 僕:「もう…このまま…見えないままでいい」と 僕: 僕:そう話す沙織の顔は 僕: 僕:涙でぐちゃぐちゃだった 0: 僕:僕は震える沙織の手を握り言った 0: 僕:「なぁ沙織。もし沙織の目が見えるようになったらさ」 僕:  僕:「一緒に海に行こうか」 0: 僕:すると沙織は「え?」と 僕: 僕:泣きはらした目で僕の方を見た 0:   僕:「沙織が今まで見ることが出来なかった分、二人でたっくさんの景色を見に行こう」 僕: 僕:「沙織なんてきっと感動してさ、鼻を垂らしながら僕の隣でわんわん泣いちゃうんじゃないか?」 僕:   僕:「沙織はきっと子供みたいにはしゃぎ出すだろうから、おもりするの大変だろうなぁ」 0: 僕:そう笑いながらいうと 僕: 僕:沙織は「そんなことない」って 僕: 僕:頬を膨らませながら拗ねた 僕: 僕:そして最後は二人でそんな未来のことを話して 僕: 僕:二人で笑った 0: 僕:僕も病気と頑張って闘うから 僕: 僕:一か月後。またここで会おう 僕: 僕:お互い頑張ろう 僕: 僕:そう言い僕達は指切りをした 0: 僕:沙織は帰るとき 僕: 僕:くるっと僕の方に振り返り 僕: 僕:ありがとうと言った 0: 僕:「がんばれよ。沙織!!」 0: 僕:そう言うと彼女は笑って頷いた 0: 僕:僕は沙織がいなくなったベンチで一人 僕: 僕:ピンクから緑に変わった桜の木を眺めていた 僕: 僕:もうこの桜の木が花を咲かす頃には 僕: 僕:僕はこの世にいない 僕: 僕:気が付くと僕はスケッチブックを強く握りしめていた 僕: 僕:そのスケッチブックは 僕: 僕:涙でびしょびしょだった 0: 僕:本当は沙織の初めての瞬間を 僕: 僕:僕も隣で一緒に迎えたかった 僕: 僕:僕も沙織と同じ景色をこの目で見たかった 僕: 僕:二人で色々なところに行って 僕: 僕:「ほら、僕の言ってた通りの色をしているだろっ」なんて 僕: 僕:僕だって初めて見る癖にちょっと知ったかぶりをして 僕: 僕:二人でまたここに行きたいねって計画立てて 僕: 僕:一緒に馬鹿みたいにはしゃいで… 0: 僕:普通の人にとっては特別なことじゃないかもしれないけど 僕: 僕:僕にはそれを望むことすらできない 僕:  僕:僕にはもう明日が来ることが 僕:  僕:当たり前ではないのだから 0: 僕:この時僕は 僕: 僕:自分の本当の気持ちに気づいたんだ 僕:  僕:もしかしたら本当は 僕: 僕:気づかないふりをしていただけなのもかもしれない 0: 僕:僕が望むことを許されなかったこと 僕:  僕:この僕が一番望んではいけないこと 0: 僕:「僕はまだ…生きていたいんだ」 0: 僕:あと一年でもいいから 僕:  僕:いや 僕:  僕:沙織が手術が終わるその日まででもいいから 僕: 僕:君と同じ世界をこの目で見たかった 0: 僕:神様がもし本当に存在するのなら 僕: 僕:あと少しだけでいいから 僕: 僕:僕を…生かしてくれ 0: 僕:しかしその願いは叶わなかった 僕: 僕:あれから一週間後 僕: 僕:僕の体は徐々に自由を失い 僕: 僕:ベッドから動くことが出来なくなった 0: 僕:でも僕は今日もベッドで鉛筆を手にとった 僕: 僕:最後の力を振り絞って 僕: 僕:丁寧に丁寧に線を描いていく 僕: 僕:どうしても完成させたい絵があったんだ 0: 僕:きっと僕が描く最初で最後の 僕: 僕:色褪せていない 僕: 僕:綺麗な色のついた作品になるだろう 0: 僕:それは沙織が 僕: 僕:沢山のカラフルな優しい光に包まれながら 僕: 僕:嬉しそうに桜を見ている絵 0: 僕:僕は看護師さんに頼んだんだ 僕: 僕:もし僕を訪ねてくる女の子がいたら 僕: 僕:このスケッチブックを渡してほしいと 0: 僕:どうかこのスケッチブックが 僕: 僕:僕の代わりに沙織と 僕: 僕:沢山の景色を見ることが出来ますように 0: 僕:僕はそのスケッチブックを静かに机に置いた 0: 僕:「沙織。こんな僕に生きたいと思わせてくれて」 僕: 僕:「僕の世界に沢山の色を付けてくれて」 僕: 僕:「ありがとう」